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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088829
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】半導体装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/872 20060101AFI20240626BHJP
   C30B 29/16 20060101ALI20240626BHJP
   H01L 21/329 20060101ALI20240626BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20240626BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20240626BHJP
   H01L 29/24 20060101ALI20240626BHJP
   H01L 29/47 20060101ALI20240626BHJP
   H01L 21/302 20060101ALI20240626BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
H01L29/86 301F
C30B29/16
H01L29/86 301D
H01L29/86 301P
H01L29/78 654C
H01L29/78 652T
H01L29/24
H01L29/48 F
H01L29/48 P
H01L29/48 D
H01L21/302 201A
H01L29/78 658G
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203816
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】大島 孝仁
(72)【発明者】
【氏名】大島 祐一
【テーマコード(参考)】
4G077
4M104
5F004
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB02
4G077AB10
4G077BB10
4G077DB01
4G077FG03
4G077HA06
4M104AA10
4M104BB04
4M104BB05
4M104BB06
4M104BB07
4M104BB08
4M104BB09
4M104BB16
4M104BB17
4M104BB18
4M104CC03
4M104DD08
4M104DD24
4M104DD34
4M104DD37
4M104DD43
4M104EE02
4M104FF09
4M104GG03
5F004BA19
5F004BB26
5F004BD04
5F004DA29
5F004DB19
5F004EA06
5F004EA34
(57)【要約】
【課題】
本発明の課題は、加工ダメージが少なく、結晶表面や接合界面での界面準位の発生が抑制されて良好なデバイス特性が得られる半導体装置を提供することである。
【解決手段】
溝状の開口部を有する半導体層を備え、半導体層はβ-Ga結晶からなり、半導体層の第1主表面の結晶の面方位は(001)であり、溝の長手方向は前記第1主表面の面方位と(100)面の交線に平行な方向であり、溝の長手方向の側壁は(100)ファセット面であり、溝の底部は溝の幅が0μmを超えて2.0μm以下の場所では単一の(-101)面方位を有する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝を有する半導体層を備え、
前記半導体層はβ-Ga結晶からなり、
前記半導体層の第1主表面の結晶の面方位は(001)であり、
前記溝の長手方向は、前記第1主表面の面方位と(100)面の交線に平行な方向であり、
前記溝の長手方向の側壁は、(100)ファセット面であり、
前記溝の底部は、前記溝の幅が0μmを超えて2.0μm以下の場所では(-101)の面方位を有する、半導体装置。
【請求項2】
前記溝の底部は、前記溝の幅が2.0μm以上の場所では(-101)および(001)の面方位を有する、請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
前記溝の長手方向の側壁は、前記第1主表面の垂直面に対して13.7°傾いている、請求項1または2記載の半導体装置。
【請求項4】
溝を有する半導体層を備え、
前記半導体層はβ-Ga結晶からなり、
前記半導体層の第1主表面の結晶の面方位は(-102)であり、
前記溝の長手方向は、前記第1主表面の面方位と(100)面の交線に平行な方向であり、
前記溝の長手方向の側壁の少なくとも1面は、(100)ファセット面であり、かつ、前記第1主表面に対して垂直である、半導体装置。
【請求項5】
溝を有する半導体層を備え、
前記半導体層はβ-Ga結晶からなり、
前記半導体層の第1主表面の結晶の面方位は(001)であり、
前記溝の長手方向は、前記第1主表面の面方位と{310}面の交線に平行な方向であり、
前記溝の長手方向の側壁は、{310}ファセット面であり、
前記溝の底部は、(001)の面方位を有し、
前記溝の長手方向の側壁は、前記第1主表面の垂直面に対して8.4°傾いている、半導体装置。
【請求項6】
前記溝の少なくとも一方の側面の少なくとも一部はチャネルである、請求項1から5の何れか1記載の半導体装置。
【請求項7】
複数の前記溝で形成された線状突起状の半導体層を有するFin型MOSFET構造を備える、請求項1から6の何れか1記載の半導体装置。
【請求項8】
前記溝の側面の少なくとも一部と前記溝の底面に配置された絶縁膜を介して、アノード電極が前記側面と前記底部を有して構成される立体構造の少なくとも一部に形成されており、
かつ前記アノード電極が前記立体構造の一部で前記半導体層とショットキー接続をしたTench型MOSSBD構造を備える、請求項1から5の何れか1記載半導体装置。
【請求項9】
請求項1から8の何れか一記載の半導体装置を有する、パワーデバイス。
【請求項10】
第1主表面の面方位が(001)または(-102)であるβ-Ga結晶からなる半導体層を準備することと、
前記第1主表面と(100)および{310}からなる群から選ばれる1以上の結晶面の交線に平行な方向に長手方向を備えた溝状の開口部を有するエッチング用マスクを前記第1主表面上に形成することと、
還元性ガスを用い、大気圧下、300℃以上1200℃以下で、前記マスクの開口部に露出した前記β-Ga結晶を選択エッチングすること、を含む半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記還元性ガスは、ハロゲン化水素ガスおよび水素ガスからなる群から選ばれる1以上からなるガスである、請求項10記載の半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記還元性ガスは、塩化水素ガスである、請求項10記載の半導体装置の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
β-Gaは、SiCやGaNより広いバンドギャップ(約4.6eV)と、Siの約20倍という高い破壊電界強度を有するため、パワー半導体を中心にその活用が嘱望されている。
β-Ga単結晶基板は、FZ(floating zone)、CZ(Czochralaki)、VB(Vertical Bridgeman)、およびEFG(Edge-Defined Film-Fed Growth)などの方法で製造することが可能で、特にEFG法で品質の高い6インチ基板が商用化されている。
【0003】
このため、β-Ga材料を用いたショットキーバリアダイオード(SBD)や金属酸化物半導体トランジスタ(MOSFET)の研究開発が盛んに行われている。そこでは、それらデバイスの耐圧を原理的に向上させたり、ユニポーラ半導体であるβ-Gaであってもノーマリーオフ動作とすることが可能なトレンチやフィンなどの構造検討も進んでおり、非特許文献1、2にみられるように、多くの試作結果が報告されている。
【0004】
ここで、それらの構造は、現在は、異方性ドライエッチング(反応性イオンエッチング)による加工で形成されているが、β-Gaパワーデバイスで、トレンチやフィン形成に異方性ドライエッチングを用いると下記のようなダメージや欠陥に関する問題があることが指摘されている。
【0005】
(1)ドライエッチングを用いた場合、形成されるトレンチやフィンの側壁表面は、加工ダメージを受ける。そのため、ドライエッチング後に、アルカリや酸を用いたウェットプロセスでのダメージ除去が必要になる。
(2)ドライエッチング加工で形成された側壁は、結晶のファセットを反映していないため、未結合手密度が大きい。これは、結晶表面準位や接合界面準位密度の増大につながり、デバイス特性を低下させる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】F.Otsuka et al.,Appl.Phys.Express,15,016501(2022)https://doi.org/10.35848/1882-0786/ac4080
【非特許文献2】W.Li et al.,IEEE International Electron Devices Meeting(IEDM),(2019)https://doi.org/10.1109/IEDM19573.2019.8993526
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来のトレンチやフィン構造を有するβ―Ga半導体装置の問題を解決して、加工ダメージが少なく、結晶表面や接合界面での界面準位の発生が抑制されて良好なデバイス特性が得られ、微細加工に適したβ―Ga半導体を用いた半導体装置、特にβ―Ga半導体の特性を活かしたパワーデバイスおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の構成を下記に示す。
(構成1)
溝を有する半導体層を備え、
前記半導体層はβ-Ga結晶からなり、
前記半導体層の第1主表面の結晶の面方位は(001)であり、
前記溝の長手方向は、前記第1主表面の面方位と(100)面の交線に平行な方向であり、
前記溝の長手方向の側壁は、(100)ファセット面であり、
前記溝の底部は、前記溝の幅が0μmを超えて2.0μm以下の場所では(-101)の面方位を有する、半導体装置。
(構成2)
前記溝の底部は、前記溝の幅が2.0μm以上の場所では(-101)および(001)の面方位を有する、構成1記載の半導体装置。
(構成3)
前記溝の長手方向の側壁は、前記第1主表面の垂直面に対して13.7°傾いている、構成1または2記載の半導体装置。
(構成4)
溝を有する半導体層を備え、
前記半導体層はβ-Ga結晶からなり、
前記半導体層の第1主表面の結晶の面方位は(-102)であり、
前記溝の長手方向は、前記第1主表面の面方位と(100)面の交線に平行な方向であり、
前記溝の長手方向の側壁の少なくとも1面は、(100)ファセット面であり、かつ、前記第1主表面に対して垂直である、半導体装置。
(構成5)
溝を有する半導体層を備え、
前記半導体層はβ-Ga結晶からなり、
前記半導体層の第1主表面の結晶の面方位は(001)であり、
前記溝の長手方向は、前記第1主表面の面方位と{310}面の交線に平行な方向であり、
前記溝の長手方向の側壁は、{310}ファセット面であり、
前記溝の底部は、(001)の面方位を有し、
前記溝の長手方向の側壁は、前記第1主表面の垂直面に対して8.4°傾いている、半導体装置。
(構成6)
前記溝の少なくとも一方の側面の少なくとも一部はチャネルである、構成1から5の何れか1記載の半導体装置。
(構成7)
複数の前記溝で形成された線状突起状の半導体層を有するFin型MOSFET構造を備える、構成1から6の何れか1記載の半導体装置。
(構成8)
前記溝の側面の少なくとも一部と前記溝の底面に配置された絶縁膜を介して、アノード電極が前記側面と前記底部を有して構成される立体構造の少なくとも一部に形成されており、
かつ前記アノード電極が前記立体構造の一部で前記半導体層とショットキー接続をしたTench型MOSSBD構造を備える、構成1から5の何れか1記載半導体装置。
(構成9)
構成1から8の何れか一記載の半導体装置を有する、パワーデバイス。
(構成10)
第1主表面の面方位が(001)または(-102)であるβ-Ga結晶からなる半導体層を準備することと、
前記第1主表面と(100)および{310}からなる群から選ばれる1以上の結晶面の交線に平行な方向に長手方向を備えた溝状の開口部を有するエッチング用マスクを前記第1主表面上に形成することと、
還元性ガスを用い、大気圧下、300℃以上1200℃以下で、前記マスクの開口部に露出した前記β-Ga結晶を選択エッチングすること、を含む半導体装置の製造方法。
(構成11)
前記還元性ガスは、ハロゲン化水素ガスおよび水素ガスからなる群から選ばれる1以上からなるガスである、構成10記載の半導体装置の製造方法。
(構成12)
前記還元性ガスは、塩化水素ガスである、構成10記載の半導体装置の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加工ダメージが少なく、結晶表面や接合界面での界面準位の発生が抑制されて良好なデバイス特性が得られ、微細加工に適したβ―Ga半導体を用いたトレンチあるいはフィン構造を有する半導体装置、特にβ―Ga半導体の特性を活かしたパワーデバイスおよびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明によるβ―Ga構造体の構造を説明する断面図である。
図2】本発明のβ―Gaフィン構造体の製造工程を示すフローチャート図である。
図3】本発明のβ―Ga構造体の製造工程を断面図で示した工程図である。
図4】本発明によるTrench MOSSBDの製造工程を断面図で示した工程図である。
図5】本発明によるTrench MOSSBDの製造工程を断面図で示した工程図である。
図6】本発明によるTrench MOSSBDの製造工程を断面図で示した工程図である。
図7】本発明によるTrench MOSSBDの製造工程を断面図で示した工程図である。
図8】縦型FinFETの素子構造を説明する断面図である。
図9】円形窓に対して選択エッチングを施したときのエッチングの様子を示した表面SEM写真である。
図10】放射状の線状窓に対して選択エッチングを施したときのエッチングの様子を示した表面SEM写真で、線状窓の方位が(a)は10°刻み、(b)は主要な面内方位を向いているときである。
図11】アンダーエッチング量の面内異方性を極座標系で示した選択エッチング特性図である。
図12】[010]方位の窓幅とマスク幅が異なる線状の窓マスクパターンに対する選択エッチング後のSEM写真である。
図13】[010]方位の線状窓に対する選択エッチング後の断面加工形状を示す(a)、(b)SEM写真、およびその写真を基に作成した(c)断面模式図である。(a)は窓幅が1.2μm、マスク幅が2.8μm、(b)は窓幅が5.5μm、マスク幅が1.0μmの場合を示す。なお、集束イオンビーム加工による表面変形を防止する目的でカーボンが堆積されている。
図14】[-130]方位の線状窓に対する選択エッチング後の断面加工形状を示す(a)SEM写真、およびその写真を基に作成した(b)断面模式図である。
図15】(-102)面基板を用いたときの選択エッチングの様子を観察したSEM写真である。パターンは放射状の線状窓で、その方位は10°刻みである。
図16】(-102)面基板を用いたときの[010]方位の窓幅とマスク幅が異なる線状窓に対する選択エッチングの様子を観察したSEM写真である。
図17】(-102)面基板を用いたときの[010]方位の窓幅が1.4μm、マスク幅が2.6μmの線状窓に対する選択エッチング後の断面加工形状を示す(a)SEM写真、およびその写真を基に作成した(b)断面模式図である。
図18】(-102)面基板を用いたときの[010]方位の窓幅が0.5μm、マスク幅が5.7μmの線状窓に対する選択エッチング後の断面加工形状を示すSEM写真である。
図19】実施例で還元熱処理装置として用いたHVPE装置の構成を示す装置構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施の形態1)
実施の形態1では、β型Ga(β-Ga)パワー半導体デバイスを作製する際に用いられる溝(トレンチ)を有するトレンチ構造体101(図1参照)について説明する。ここで、トレンチ構造体101は、マスク12の開口部13下に形成されるトレンチを有するβ-Ga半導体層11からなり、後述するように、トレンチの側面11α、11β、底面11γ、側面の垂直面に対する角度θで特徴付けられる構造体である。
【0012】
実施の形態1で説明する本発明のトレンチ構造体101は、溝を有する半導体層11を備え、半導体層11はβ-Ga結晶からなり、半導体層11の第1主表面の結晶の面方位は(001)であり、前記溝の長手方向は前記第1主表面の面方位と(100)面の交線に平行な方向であり、前記溝の底部11γは前記溝の幅が0μmを超えて2.0μm以下の場所では(-101)の面方位を有する構造体である。
【0013】
この構造により、半導体層11の側面11αおよび11βは、最も表面エネルギーが小さく安定な(100)ファセット面になる。最も安定な(100)ファセットで形成されたβ-Ga結晶からなる半導体層11の側面11αおよび11βは、未結合手が少なく表面準位密度も小さい。このため、その側壁を利用した実施の形態1の半導体装置は、優れた電気特性を有し、例えば、リーク電流、モビリィティ、信頼性、および耐圧などが優れたものになる。特にこの(100)ファセット面からなる側面11αおよび11βをチャネル層やドリフト層として用いた半導体装置は、電気特性、信頼性および品質安定性に優れたものになる。
【0014】
また、トレンチ構造体101は、前記溝の幅が2.0μm以上の場所では溝の底部11γが(-101)だけでなく、第1主表面である(001)でも構成される。このように底部11γのファセット構成を、溝の幅で制御できる。
【0015】
実施の形態1で説明する本発明の第2のトレンチ構造体101は、溝を有する半導体層11を備え、半導体層11はβ-Ga結晶からなり、半導体層11の第1主表面の結晶の面方位は(-102)であり、前記溝の長手方向は前記第1主表面の面方位と(100)面の交線に平行な方向であり、かつ、溝の長手方向の側壁11αおよび11βは前記第1主表面に対して垂直、すなわちθが0である構造体である。
【0016】
この構造により、溝の長手方向の側壁11αおよび11βは安定して(100)ファセット面になり、β-Ga結晶からなる半導体層側壁11αおよび11βは未結合手密度の発生が大幅に抑えられる。その結果、結晶表面準位や接合界面準位密度の問題が生じない結晶面になり、この構造体を用いて作製された半導体装置、特にこの(100)ファセット面からなる側面11αおよび11βをチャネル層やドリフト層として用いた半導体装置は、電気特性、信頼性および品質安定性に優れたものになる。
また、第2のトレンチ構造体101は、溝の長手方向の側壁11αおよび11βが半導体層11の第1主表面に対して垂直、すなわちθが0であるため、加工を含め取り扱いが容易であるという特徴を有する。
【0017】
実施の形態1で説明する本発明の第3のトレンチ構造体101は、溝を有する半導体層11を備え、半導体層11はβ-Ga結晶からなり、前記半導体層の第1主表面の結晶の面方位は(001)であり、前記溝の長手方向は前記第1主表面の面方位と{310}面の交線に平行な方向であり、前記溝の長手方向の側壁は{310}ファセット面であり、前記溝の底部は(001)の面方位を有し、前記溝の長手方向の側壁は前記第主表面の垂直面に対して8.4°傾いている構造体である。
【0018】
この構造により、溝の長手方向の側壁11αおよび11βは安定して{310}ファセット面になり、β-Ga結晶からなる半導体層側壁11αおよび11βは未結合手密度の発生が大幅に抑えられる。その結果、結晶表面準位や接合界面準位密度の問題が生じない結晶面になり、この構造体を用いて作製された半導体装置、特にこの{310}ファセット面からなる側面11αおよび11βをチャネル層やドリフト層として用いた半導体装置は、電気特性、信頼性および品質安定性に優れたものになる。
【0019】
次に、トレンチ101の製造方法をフローチャート図である図2および断面表示による工程図である図3を参照しながら説明する。
【0020】
第1段階として、結晶面が(001)面または(-102)面であるβ-Ga結晶半導体からなる半導体層11aを準備する(図2の工程S11、図3(a))。半導体層11aとしては、FZ、CZ、VBおよびEFG法などによって製造されたβ-Ga結晶基板を用いてもよいし、β-Ga結晶基板上にHVPE(Halide Vapor Phase Epitaxy)法、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法などによって製膜されたβ-Gaエピタキシャル層、またはβ-Ga結晶基板とβ-Gaエピタキシャル層の両者を用いてもよい。
【0021】
第2段階として、基板面と(100)面および{310}からなる群から選ばれる1以上の結晶面の交線に平行な方向に長手方向を揃えた溝状の開口部を有するエッチング用マスク12を形成する(工程S12)。
具体的には、半導体層11a上にSiOなどのエッチング用ハードマスクからなる薄膜12aを形成し(図3(b))、その上に溝状の開口をもつレジストパターン15を形成する(図3(c))。ここで、薄膜12aはSiOの他、SiO、SiON、SiN、Siを用いてもよい。また、ここでは、エッチングマスク用のパターンを溝に着目して溝状開口としているが、図3(c)にも示されているように、溝に囲まれたマスクに着目すると線状の突起パターンであるフィン状のパターンと捉えることもできる。
次に、レジストパターン15をマスクにしてウェットエッチングまたはドライエッチングを施して薄膜12aに開口13を形成し(図3(d))、引き続き、酸素プラズマアッシング、オゾンアッシングあるいはレジスト剥離液などを用いて、レジストパターン15を剥離して溝状の開口13を有するエッチング用マスク12を形成する(図3(e))。ここで、マスク12の厚さは1nm以上1000nm以下とすることが好ましい。厚さが1nm未満の場合、欠陥が発生しやすい。マスク12は製造する半導体装置にとって必須なものではないダミー物であり、かつマスクへのクラック生成を抑制する観点から、その厚さは1000nm以下が好ましい。
【0022】
第3段階として、還元性ガスを用いてβ-Gaからなる半導体層11aをドライエッチングする。このエッチングは、大気圧下、300℃以上1200℃以下、好ましくは500℃以上1100℃以下の温度環境でエッチングすることが好ましい。大気圧とすることで扱いが容易になる上にエッチング速度が上がって生産性が向上する。また、上記の温度範囲にすることにより高いエッチング速度が得られ、生産性が向上する。結晶面選択性のエッチングであるため、エッチング速度の速い高温エッチングでも加工側面11αや11βは(100)や{310}面になり、安定で欠陥の少ない側面が得られる。また、プラズマを使用していないので、エッチング面のダメージも無視できるレベルに抑えられる。
【0023】
還元性ガスとしては、ハロゲン化水素ガスおよび水素ガスからなる群より選ばれる1以上のガスを挙げることができる。その中でも、比較的取り扱いが容易で、充分なエッチング速度が実現できる塩化水素ガス(HClガス)を好んで使用することができる。
大気圧下でのエッチングであるため、還元性ガスに加えてキャリアガスも添加してエッチングするのが好ましい。キャリアガスとしては、窒素ガス、およびアルゴンガス、クリプトンガス、ネオンガスなどの貴ガスを挙げることができるが、この中でも窒素ガスは取り扱いが容易で比較的安価であるため、特に好んで用いることができる。
なお、実施例で触れるように、2μmレベルのエッチングにかかる時間は5分で、この還元性ガスを用いた選択エッチングは生産性が高い。
以上の方法により、β-Gaからなる半導体層11に所望のトレンチが形成されたトレンチ構造体101が製造される(工程S13、図3(f))。
【0024】
マスク12の開口部は、加工しやすいSiOなどの薄膜12aを用いることにより、微細加工可能で、したがって本方法では、微細なβ-Gaを用いたトレンチ構造体101をたやすく製造することが可能である。
【0025】
(実施の形態2)
実施の形態2では、パワー用途に好適な半導体装置の1つであるTrench MOSSBD(Trench Metal Oxide Semiconductor Schottky Barrier Diode)201について、その製造方法を含めて説明する。
【0026】
Trench MOSSBD(201)の製造方法を、図4から図7を参照して、説明する。
【0027】
最初に、β-Ga基板51上にβ-Gaエピタキシャル層53aが形成された試料を準備する(図4(a))。ここで、β-Ga基板51は、その第1主表面の面方位を(001)または(-102)とする。不純物に関しては、Si、Snなどが1018cm-3以上1020cm-3以下ドープされたものを好んで用いることができる。β-Ga基板51は、FZ、CZ、VBおよびEFGのどの方法で形成したものも使用可能であるが、量産コストと品質の面からEFG法によって製造されたものを好んで使用することができる。
β-Gaエピタキシャル層53aは、HVPE、MOCVDおよび低圧CVD法を用いて形成することができる。β-Gaエピタキシャル層53aの第1主表面の面方位は(001)または(-102)である。ここで、エピタキシャル成長による形成された凹凸はデバイス性能を劣化させるため、β-Gaエピタキシャル層53aを形成後にCMP等による研磨を施しておくことが好ましい。
β-Gaエピタキシャル層53aの不純物に関しては、Si、Sn、Geなどが1015cm-3以上1017cm-3以下ドープされたものを好んで用いることができる。
β-Gaエピタキシャル層53aの厚さは特に制約はないが、例えば1μm以上50μm以下を挙げることができる。
【0028】
なお、Trench MOSSBD(201)に関する以下の説明では、第1主表面の面方位を(001)とした場合について説明するが、(-102)面方位のβ-Ga基板51を用いた場合は、面方位(001)を(-102)に置き換えればよい。ここで、図面において、面方位(001)を用いた場合は、傾斜をもった溝(開口)パターンが形成されるが、面方位(-102)を用いた場合は、垂直な溝パターンになる。
【0029】
次に、β-Gaエピタキシャル層53aの上にエッチング用ハードマスクとなるマスク52を形成する(図4(b))。マスク52の材料としては、SiOを好んで用いることができるが、SiO、SiON、SiN、Siなどβ-Gaの還元性エッチングガスに対してエッチングレートが遅く、フッ素系ガスを用いたドライエッチングやフッ酸系水溶液などを用いたウェットエッチングにより容易に剥離できる材料を用いてもよい。
【0030】
その後、マスク52をエッチングマスクとして還元性ガスを用いてβ-Gaエピタキシャル層53aをエッチングして溝状パターンを有するβ-Ga半導体層53を形成する(図4(c))。ここで、還元性ガスとしては、前述のように、ハロゲン化水素ガスおよび水素ガスからなる群より選ばれる1以上のガスを好んで挙げることができ、塩化水素ガス(HClガス)を特に好んで用いることができる。圧力は扱いが容易な大気圧でよく、エッチング時の温度は300℃以上1200℃以下でよい。特に、500℃以上1100℃以下の温度にすると、平坦なファセット面を高いエッチングレートで得られ、Trench MOSSBD(201)の製造スループットが向上するため好ましい。
しかる後、マスク52をドライエッチング、ウェットエッチング、あるいはその両者を用いて除去する(図5(a))。
【0031】
次に、図5(b)に示すように、コンフォーマルに絶縁膜54aを形成する。絶縁膜54aは準位や欠陥が少なく、耐圧に優れたものが好ましく、例えば、HfO、Al、SiO、Ta、HfSiO、Si、SiONからなる群より選ばれる1以上を挙げることができる。これらの膜から選ばれる単層膜でも、積層膜でもよい。成膜方法は特に問わないが、例えばCVD法、スパッタリング法およびALD(Atomic Layer Deposition)法を挙げることができるが、特に欠陥の少なさとコンフォーマル性被着に優れるALD法を好んで用いることができる。
絶縁膜54aの厚さは、特に限定がないが10nm以上100nm以下を挙げることができる。
【0032】
引き続き、図5(c)に示すように、少なくともβ-Ga半導体層53の上面部分55(後にショットキー接続になる面)が露出するように、絶縁膜54aの上面部分が除去された第1の絶縁膜54に加工する。この加工法としては、CMP(Chemical Mechanical Polishing)法やエッチバック法およびそれらの組み合わせを挙げることができる。
【0033】
しかる後、絶縁膜56aを堆積させ(図6(a))、引き続き、溝(トレンチ)を形成しようとする所望の領域が露出するような開口を有するレジストパターン57を形成する(図6(b))。ここで、絶縁膜56aとしては、例えば、SiO、SiON、SOG(Spin on Glass)、ポリイミドを挙げることができる。その形成方法としては、例えばCVD法、スパッタリング法、塗布形成法を挙げることができる。
その後、絶縁膜56aをエッチングし(図6(c))、引き続いてレジストパターン57を酸素ガスアッシング、オゾン処理および剥離液などにより除去し、トレンチ領域以外のフィールド部分の少なくとも一部に第2の絶縁膜56を形成する(図7(a))。
【0034】
次に、β-Gaが露出したβ-Ga半導体層53の上面部分55および第1の絶縁膜54の露出表面を十分洗浄した後、アノードとなる導電性膜58aをβ-Ga半導体層53側の面(上面)に形成し、カソードとなる導電性膜59を裏面側に形成する(図7(b))。
ここで、導電性膜58aとしては、Pt、Au、Ni、Ag、Ru、Rh、Pd、W、Mo、Ta、およびCuを挙げることができる。導電性膜58aの形成方法としては、蒸着法、スパッタリング法、MOCVD法などを挙げることができる。
導電性膜59としては、Ti、Al、Au、Pt、およびITOからなる群から選択された少なくとも1つ、およびこれらの群から選択された少なくとも1つを含む合金を挙げることができる。導電性膜59の形成方法としては、蒸着法、スパッタリング法、MOCVD法などを挙げることができる。なお、導電性膜59は、β-Ga基板51とオーミック接触が取れていることが好ましい。このことを考慮して、β-Ga基板51のドーピングが制御され、また、導電性膜59を積層膜とすることも好ましい。
【0035】
最後に、導電性膜58aをリソグラフィとエッチングにより加工して、所望のアノード電極58とカソード電極(導電性膜)59を有するTrench MOSSBD(201)が製造される(図7(c))。なお、アノード電極58は、成膜、リソグラフィおよびエッチングによる形成方法に代えて、リフトオフ法で形成してもよい。
【0036】
製造されたTrench MOSSBD(201)は、β-Gaからなる半導体53がアノード電極58とショットキー接触し、溝部のβ-Ga半導体53の側面が結晶のファセットを反映していて未結合手密度が少ないことから結晶欠陥や結晶表面の界面準位密度が低いものとなる。このような高品質のβ-Ga半導体53と、高い耐圧特性を引き出せるTrench MOSSBD構造が相まって、製造されるTrench MOSSBD(201)は、パワーデバイスに特に好適なリーク電流特性に優れた高耐圧ダイオードとなる。
【0037】
(実施の形態3)
実施の形態3では、パワー用途に好適な半導体装置の1つである縦型FinFET(203)について述べる。
【0038】
縦型FinFET(203)は、図8に示すように、β-Gaからなる基板71、β-Ga半導体層(エピタキシャルβ-Ga層)72、β-Gaからなるフィン(β-Ga)73、ゲート絶縁膜として機能する絶縁膜75、ゲート電極76、ゲート電極とソース電極等を電気的に分離する役割を担う絶縁層77、フィン73とソース電極79をオーミック接触とし、かつその接触抵抗を下げる機能をもつn層78、およびドレイン電極80からなる。
【0039】
基板71は、電気抵抗の関係から、SiやSnなどが1018cm-3以上1020cm-3以下ドープされたものが好んで用いられる。β-Ga半導体層72は、HVPE法などによって形成されるドーパントの量が1015cm-3以上1017cm-3以下のβ-Ga結晶であり、その厚さは1μm以上50μm以下が好ましい。
フィン73は、エッチングハードマスク(図示なし)を用いてβ-Ga半導体層(エピタキシャル形成β-Ga層)を還元性ガスによりエッチング加工して、実施の形態1と同様にして形成される。ここで、フィン73のドーピングは1015cm-3以上1017cm-3以下としておくことが好ましい。フィン73の側面の表層付近はチャネル層として機能する。
絶縁膜(ゲート絶縁膜)75としては、SiOの他、HfO、HfSiO、AlおよびSiなどのいわゆるHigh-k膜を好んで用いることができる。その厚さは、10nm以上100nm以下が好ましい。
【0040】
ゲート電極76としては、Pt、Cr、Au、Ni、Ag、Ru、Rh、Pd、W、Mo、Ta、PolySiおよびCuを、ソース電極79およびドレイン電極80としては、Ti、Al、Au、Pt、およびITOからなる群から選択された少なくとも1つ、およびこれらの群から選択された少なくとも1つを含む合金を好んで用いることができる。微細加工において重要な密着性も考慮すると、例えば、ソース電極79としては、下層からTi、Al、Ptが順に積層された積層膜、ドレイン電極としては、下層からTi、Auが順に積層された二層膜を好んで用いることができる。
絶縁層77としては、例えば、SiO、SiON、SOG(Spin on Glass)、ポリイミドを挙げることができる。
層78は、イオン注入によって形成できる。ドーパントとしてはSiやSnを、そのドーパント量としては、1018cm-3以上1020cm-3以下を挙げることができる。その厚さは50nm以上500nm以下を挙げることができる。なお、このn層78は、作製が容易ではないため、フィン73のドーピング量によっては、省略してもよい。
【0041】
縦型FinFET(203)は、実施の形態1で説明した方法により、エピタキシャルβ-Ga層を大気圧下で還元性ガスによりドライエッチングしてフィン73をもつフィン構造体を準備し、CVD法やスパッタリング法などによって絶縁膜(ゲート絶縁膜)75を形成し、フィン73の少なくとも側面の一部を含む領域に、蒸着法、スパッタリング法、CVD法、あるいはMOCVD法などでゲート電極76を形成し、絶縁体層77をスパッタリング法、CVD法あるいは塗布形成法により形成し、その上でソース電極79およびドレイン電極80を形成して、製造される。
【0042】
縦型FinFET(203)は、実施の形態1で述べたトレンチ構造体101を有する半導体装置で、複数の前記溝によって形成された線状突起であるフィンの少なくとも両側面(2面および4面)を覆うようにゲート電極が配置された半導体装置である。
そして、縦型FinFET(203)は、チャネル層となるβ-Ga半導体からなるフィン73の側面が、結晶のファセットを反映していて未結合手密度が少ないことから、結晶欠陥や結晶表面の界面準位密度が低いものとなる。このような高品質のβ-Ga半導体からなるフィン73と、優れた電気特性を引き出せる縦型FinFET構造が相まって、優れた電流特性を有するFETになる。
【0043】
縦型FinFET(203)におけるチャネル層は、なるべく面積が広いほうが電流が稼げるので望ましい。縦型FinFET構造は、フィンを微細加工で単位面積あたりに多数形成することによりその表面積を広くすることが可能である。本発明によれば、パッキングデンシティが高く、微細で、かつアスペクト比の高いフィン73を形成することができる。このため、実施の形態4による縦型FinFET(203)は、特にパワーデバイスに好適な、電気特性の優れたものとなる。
【実施例0044】
(実施例1)
<試料の作製>
最初に、EFG法によるβ-Ga基板11aを準備し(図3(a))、その基板11a上にアモルファス状のSiO(12a)を形成した(図3(b))。
ここで、β-Ga基板は、ノベルクリスタルテクノロジーが製造した(001)、(-102)面の基板を用いた。
アモルファスSiO(12a)は、前駆体としてテトラエトキシシラン(TEOS)を用いたプラズマ化学気相堆積法により形成し、その膜厚は100nmとした。
【0045】
その後、溝状の開口パターンを有するレジストパターン15を形成した(図3(c))。しかる後、フッ化水素酸緩衝液を用いたウェットエッチングを行い(図3(d))、引き続きレジストパターン15を剥離して溝状の開口13を有するSiOからなるマスク12を形成した(図3(e))。ここで、レジストの剥離は、アセトンおよび酸素プラズマアッシングにより行い、β-Ga基板露出部の脱脂を行った。
【0046】
その後、ハライド気相成長(HVPE:Halide Vapor Phase Epitaxy)用装置を還元熱処理装置として用いて試料を1038℃に加熱し、HClガスを導入して選択エッチングを5分間行って評価用試料であるトレンチ構造体101を作製した(図3(f))。HClガスの導入量は5sccmで、キャリアガスとして精製されたNガス(露点<-110℃)もHClガスと同時に導入して大気圧下でエッチング処理を行った。このときのHClガスの分圧は63Paである。
【0047】
HVPE装置2001は内製の装置で、その装置の概要を図19に示す。
HVPE装置2001は、ヒーター1012によって所望の温度に加熱可能な反応炉1001を有する。
反応炉1001は、ガリウム原料供給源1002(未使用)、酸素原料供給源供給管1006(未使用)、エッチング性ガス供給管1008および基板ホルダー1010を備え、石英で作製された反応炉1001に供給されたガスは排気管1011によって排出される。
エッチング性ガス供給管1008は、基板ホルダー1010上に載置された試料に、エッチング性ガス1009を所定の量に制御して供給する。
エッチング性ガス1009として還元性ガスのガスを用いるが、実施例では、石英との反応性が低く、取り扱いも容易であるHClガスを使用した。
【0048】
<評価>
エッチング後の試料をSEM(Scanning Electron Microscope)観察により評価した。使用したSEMはSU8230(日立ハイテク製)である。
【0049】
最初に、円形の窓パターンに対して表面からSEMで調べた。その結果を図9に示すが、マスク部はエッチングされず、窓部がエッチングされていることがわかる。表層のみならず数ミクロン程度の深さ方向のエッチング状況が濃淡状況から観察できる。さらに、加速電圧10kVでの観察により、マスク下にもエッチング領域があり、アンダーエッチングされていることがわかる。そのアンダーエッチングにより形成される形状は扁平な6角形であり、アンダーエッチングレートに面内異方性があることがわかる。
【0050】
面内異方性を詳細に評価するため、放射状の窓パターンに対して上面から観察した結果を図10に示す。なお、窓方位は、同図に示すように、(a)10°刻み、(b)主要な面内方位の2種である。
観察により得られた表面のアンダーエッチング量の面内異方性を図11に示す。ここでn[hkl]は、面直軸を回転軸として面内[hkl]方位を反時計回りに90°回転した方向を表す。図11からわかるように、アンダーエッチング量は特定の方位で小さくなっている。最もアンダーエッチング量が小さい方位は[-100]と[100]であり、2番目に小さいのはn[130]、n[-130]、n[1-30]、n[-1-30]である。この結果は、図10に示した扁平な6角形の構成に符合する。ここで、いずれの場合も[100]側と[-100]側でエッチング量にわずかに差が認められる(極点図の上側と下側)。
【0051】
アンダーエッチング量が小さい方位はプロセス上有用であるため、[010]方向に伸びた溝状開口(ストライプ窓)に関し、より詳細に評価した。
図12は、マスクと窓の幅が制御された選択エッチングで作製されたトレンチ(窓幅が1.2μm、マスク幅が2.8μm)とフィン(窓幅が5.5μm、マスク幅が1.0μm)のSEM像である。サブミクロンのフィンも形成可能であることがわかる。
【0052】
さらに図13に示すように、それら構造の断面をFIB(Focused Ion Beam System)で削り出し、SEMで観察した。同図の(a)は窓幅が小さな場合であり、トレンチ構造が形成できていることがわかる。(b)はマスク幅が小さい場合であり、サブミクロンのフィンが形成できていることがわかる。いずれの場合も側壁面は、表面エネルギー密度が最も小さい(100)ファセットで構成されている(トレースして加工状況を表示した図13(c)参照)。
【0053】
なお、結晶構造から必然的に(100)ファセットは垂直ではなく13.7°傾斜する。また、トレンチの底部に注目すれば、窓幅が小さくトレンチ幅が小さいときは、すべて(-102)面で底部が構成されているが、窓幅が大きくトレンチ幅が広くなれば、(-102)面だけでなく基板面である(001)面でも底部が構成されていることがわかる。
【0054】
2番目にアンダーエッチングが小さな方位においても、断面観察を行った。窓方向が[-130]の溝状開口のエッチング断面を図14に示す。底部は(001)面だけで構成されており、側壁は(310)ファセット面が現れ、8.4°傾斜した。この場合は、窓幅によらず底部は全て(001)面だけで構成され、垂直に近い側壁となるため、フィンの形成に有用であると考えられる。ただし、アンダーエッチング量は大きい。このため、トレンチの微細パターン形成という観点からは、アンダーエッチング量の少ない窓方向が[010]の溝状開口の活用性が高いと考える。
【0055】
(-102)基板は、(-102)と側壁の(100)とが垂直の関係にあるため、デバイス応用上有用性が高いトレンチであると考える。さらに(-102)基板を用いることで、すべてのマスク幅で(100)ファセット側壁が垂直で底部が(-102)だけで構成されるトレンチ構造が得られると考えられる。
そこで、(-102)面のβ-Ga基板11を準備して評価を行った。なお、その基板が(-102)面の基板であることは、X線回折測定により確認してある。
【0056】
最初に、前述の(001)基板を用いたときの評価と同様に、放射状の窓パターンに対して上面からSEM観察して、アンダーエッチングの面内異方性を評価した。その結果を図15に示す。その結果、窓(溝状開口)が[010]方位でアンダーエッチング量が最小になっていることがわかる。これは溝の側面が(100)ファセットになっているためと考えられる。
【0057】
次に、作製されたトレンチ(窓幅が1.4μm、マスク幅が2.6μm)とフィン(窓幅が0.5μm、マスク幅が5.7μm)の状況をSEM観察した。その結果を図16に示すが、整然と並んだファセット形状で構造が形成されていることがわかる。
【0058】
さらに、それら構造の断面をFIB(Focused Ion Beam System)で削り出し、その断面をSEMで観察した。傾斜角は54°であり、表面変形等を防止する目的で、表面にはカーボンからなる保護膜が形成されている。
図17(a)は窓幅が小さな場合のSEM写真であり、同図(b)はその写真を基にトレース表示した図である。溝側壁は(100)ファセット面のトレンチ構造が形成できていることがわかる。なお、溝底部は(-102)面と(-101)面の間にあり、確定できない。
図18は窓幅の広い、いわゆるフィンを形成した場合のSEM写真であるが、窓幅が小さな場合と同様にフィン側壁は(100)ファセット面になっている。なお、溝底部の面は比較的荒れており、図17と同様に特定のファセットで構成されていない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明により、界面準位等の発生が抑制されて良好なデバイス特性が得られ、微細加工に適したβ―Ga半導体を用いた半導体装置が提供される。ここで、この半導体装置は、トレンチあるいはフィン構造を有していて、耐圧が高く、ワイドバンドギャップを有するβ―Ga半導体の特性を引き出すものであり、特に、高性能パワーデバイスとして好適なものである。
パワーデバイスは、EVやハイブリッド車のパワートレイン、サーバー用電源、再エネ機器、産業機器、鉄道車両など様々な分野で使用され、スマート社会実現に欠かせないデバイスに位置付けられている。このため、本発明は、社会的に大きなインパクトを有し、産業に与える影響は大きいと考える。
【符号の説明】
【0060】
11 β-Ga半導体層((溝を有する)半導体層)
11a β-Ga半導体層(半導体層)
12 マスク(SiO
12a 薄膜(SiO
13 開口
15 レジストパターン
51 基板(β-Ga基板)
52 マスク(SiO
53 β-Ga半導体層
53a β-Gaエピタキシャル層
54 第1の絶縁膜
54a 絶縁膜
55 β-Ga露出部(ショットキー接続部)
56 第2の絶縁膜
56a 絶縁膜
57 レジストパターン
58 電極(アノード電極)
58a 導電性膜
59 導電性膜(カソード電極)
71 基板(β-Ga
72 β-Ga半導体層(エピタキシャルβ-Ga層)
73 フィン(β-Ga
75 絶縁膜(ゲート絶縁膜)
76 ゲート電極
77 絶縁層
78 n
79 ソース電極
80 ドレイン電極
101 トレンチ構造体(評価用試料)
201 Trench SBDMOS
203 縦型FinFET
301 半導体装置、フィン構造体、トレンチ構造体
1001 反応炉
1002 ガリウム原料供給源
1003 ガリウム金属
1004 ガリウム化合物化ガス(ハロゲンガス)
1005 ガリウム原料ガス供給管
1006 酸素原料供給源供給管
1007 酸素原料ガス
1008 エッチング性ガス供給管
1009 エッチング性ガス(還元性ガス)
1010 基板ホルダー
1011 排気管
1012 ヒーター
2001 HVPE装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19