(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088890
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】切削工具とそのボディ
(51)【国際特許分類】
B23C 5/28 20060101AFI20240626BHJP
B23C 5/08 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
B23C5/28
B23C5/08 A
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203907
(22)【出願日】2022-12-21
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】亀田 修司
(72)【発明者】
【氏名】吉田 悟
【テーマコード(参考)】
3C022
【Fターム(参考)】
3C022JJ01
(57)【要約】
【課題】サイズが大きいインサートを用いて切込みをより小さくした加工あるいはより大きくした加工をするといった場合にも加工中の切れ刃またはその付近にクーラントを安定して供給することができるようにする。
【解決手段】複数のインサート20のそれぞれを保持する複数のインサートポケット1Pと、クーラントを供給する複数の流路と、を備える切削工具100のボディ1であって、流路は、当該ボディ1の基端部から先端部に向けて延びる第1流路11と、該第1流路11に連通し、複数のインサート20のうちの一のインサートの切れ刃21に向けて延びる第2流路12と、該第2流路12に連通し、該一のインサートに隣り合う位置に保持された他のインサートの切れ刃21に向けて延びる第3流路13と、を有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のインサートのそれぞれを保持する複数のインサートポケットと、クーラントを供給する複数の流路と、を備える切削工具のボディであって、
前記流路は、当該ボディの基端部から先端部に向けて延びる第1流路と、該第1流路に連通し、前記複数のインサートのうちの一のインサートの切れ刃に向けて延びる第2流路と、該第2流路に連通し、該一のインサートに隣り合う位置に保持された他のインサートの切れ刃に向けて延びる第3流路と、を有している、切削工具のボディ。
【請求項2】
前記第2流路と前記第3流路の一方または両方に、前記クーラントの流量を調節可能な流量調節機構が設けられている、請求項1に記載の切削工具のボディ。
【請求項3】
前記流量調節機構は、前記第2流路または前記第3流路の少なくとも一部を塞ぐシール部材を含む、請求項2に記載の切削工具のボディ。
【請求項4】
前記シール部材は、前記第2流路または前記第3流路に着脱可能である、請求項3に記載の切削工具のボディ。
【請求項5】
前記シール部材は、前記第2流路の開口部または前記第3流路の開口部に着脱可能なプラグである、請求項4に記載の切削工具のボディ。
【請求項6】
前記プラグは、前記第2流路の開口部または前記第3流路の開口部に螺合するためのねじ部を備えている、請求項5に記載の切削工具のボディ。
【請求項7】
前記プラグに、前記クーラントの一部を通過させる吐出口が設けられている、請求項5に記載の切削工具のボディ。
【請求項8】
前記吐出口は、前記一のインサートの切れ刃あるいは前記他のインサートの切れ刃に向けて前記クーラントを吐出する位置に配置されている、請求項7に記載の切削工具のボディ。
【請求項9】
前記第1流路、前記第2流路および前記第3流路を複数組有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の切削工具のボディ。
【請求項10】
前記第1流路、前記第2流路および前記第3流路がそれぞれ、前記インサートポケットと同数設けられている、請求項9に記載の切削工具のボディ。
【請求項11】
当該切削工具の回転軸を中心として、複数の前記第1流路、前記第2流路および前記第3流路がそれぞれ所定角度ごとに周方向等間隔に配置されている、請求項10に記載の切削工具のボディ。
【請求項12】
複数の前記第1流路、前記第2流路および前記第3流路のそれぞれが、隣接する他の第1流路、第2流路および第3流路のそれぞれと干渉しない位置に配置されている、請求項10に記載の切削工具のボディ。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載のボディを備えた切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具とそのボディに関する。
【背景技術】
【0002】
回転切削工具、特にサイドカッタといった、ボディが回転しながら金属などのワークを切削加工する切削工具として、従来、加工中の切れ刃またはその付近にクーラントを安定して供給するためのクーラント流路やその開口部である油穴を備えたものが利用されている(例えば特許文献1~3参照)。このような切削工具のなかには、安定して切れ刃付近にクーラントを供給するべく、油穴を理想の方向に向けるために油穴を枝分かれさせ、油穴として使用しない外周面につながる部分をシールできる機構にしているもの等がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-68172号公報
【特許文献2】特開平8-25111号公報
【特許文献3】特許第7010407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のごとき従来の切削工具では、例えばサイズが大きいインサートを用いて切込みをより小さくした加工あるいはより大きくした加工をするような場合、クーラントを安定して供給することが難しくなることがある。
【0005】
そこで、本発明は、サイズが大きいインサートを用いて切込みをより小さくした加工あるいはより大きくした加工をするといった場合にも加工中の切れ刃またはその付近にクーラントを安定して供給することができるようにした切削工具とそのボディを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、複数のインサートのそれぞれを保持する複数のインサートポケットと、クーラントを供給する複数の流路と、を備える切削工具のボディであって、
流路は、当該ボディの基端部から先端部に向けて延びる第1流路と、該第1流路に連通し、複数のインサートのうちの一のインサートの切れ刃に向けて延びる第2流路と、該第2流路に連通し、該一のインサートに隣り合う位置に保持された他のインサートの切れ刃に向けて延びる第3流路と、を有している、切削工具のボディである。
【0007】
かかる態様の切削工具のボディによれば、一のインサートの切れ刃に対し、複数ある流路のうちのいずれかの流路(例えば第2流路)からクーラントを供給するとともに、それとは別の流路(例えば、隣り合う別の流路に設けられた第3流路)からも当該一のインサートの切れ刃に対して違う位置からクーラントを供給することが可能な構造とすることができる。このような構造のボディによれば、サイズが大きいインサートを用いて切込みをより小さくした加工あるいはより大きくした加工をするといった場合にも、違う位置から、さらに場合によっては異なる角度で切れ刃やその付近にクーラントを安定して供給することができるようになる。
【0008】
上記のごとき切削工具のボディにおいて、第2流路と第3流路の一方または両方に、クーラントの流量を調節可能な流量調節機構が設けられていてもよい。
【0009】
上記のごとき切削工具のボディにおいて、流量調節機構は、第2流路または第3流路の少なくとも一部を塞ぐシール部材を含むものであってもよい。
【0010】
上記のごとき切削工具のボディにおいて、シール部材は、第2流路または第3流路に着脱可能であってもよい。
【0011】
上記のごとき切削工具のボディにおいて、シール部材は、第2流路の開口部または第3流路の開口部に着脱可能なプラグであってもよい。
【0012】
上記のごとき切削工具のボディにおいて、プラグは、第2流路の開口部または第3流路の開口部に螺合するためのねじ部を備えていてもよい。
【0013】
上記のごとき切削工具のボディにおいて、プラグに、クーラントの一部を通過させる吐出口が設けられていてもよい。
【0014】
上記のごとき切削工具のボディにおいて、吐出口は、一のインサートの切れ刃あるいは他のインサートの切れ刃に向けてクーラントを吐出する位置に配置されていてもよい。
【0015】
上記のごとき切削工具のボディは、第1流路、第2流路および第3流路を複数組有するものであってもよい。
【0016】
上記のごとき切削工具のボディにおいて、第1流路、第2流路および第3流路がそれぞれ、インサートポケットと同数設けられていてもよい。
【0017】
上記のごとき切削工具のボディにおいて、当該切削工具の回転軸を中心として、複数の第1流路、第2流路および第3流路がそれぞれ所定角度ごとに周方向等間隔に配置されていてもよい。
【0018】
上記のごとき切削工具のボディにおいて、複数の前記第1流路、第2流路および第3流路のそれぞれが、隣接する他の第1流路、第2流路および第3流路のそれぞれと干渉しない位置に配置されていてもよい。
【0019】
本発明の別の一態様に係る切削工具は、上記のごときボディを備えたものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態における刃先交換式フライス工具(切削工具の一例)をその中心軸に沿って先端部側から見た図である。
【
図2】刃先交換式フライス工具の先端部側から見た斜視図である。
【
図3】
図2に示した刃先交換式フライス工具において、複数の第1流路、第2流路および第3流路のうちの一部のみを表した斜視図である。
【
図4】
図3に示した刃先交換式フライス工具において、一のインサートの切れ刃に向けて第2流路の開口部および第3流路の開口部からクーラントが吐出される様子を示す斜視図である。
【
図5】中心軸を水平にした状態での刃先交換式フライス工具の先端部を示す側面図である。
【
図6】
図5中の矩形枠部分の拡大図であって、第2流路の開口部と第3流路の開口部の両方にプラグが設けられたときの状態を示す図である。
【
図7】
図5中の矩形枠部分の拡大図であって、第3流路の開口部のみにプラグが設けられたときの状態を示す図である。
【
図8】
図5中の矩形枠部分の拡大図であって、第2流路の開口部のみにプラグが設けられたときの状態を示す図である。
【
図9】
図5中の矩形枠部分の拡大図であって、第2流路の開口部のみに吐出口付きのプラグが設けられたときの状態を示す図である。
【
図10】刃先交換式フライス工具の先端部側から見た図であって、第2流路の開口部と第3流路の開口部に着脱可能な一組のプラグとともに示す分解斜視図である。
【
図11】第3流路の開口部のみにプラグが設けられたときの状態を説明するための、刃先交換式フライス工具の先端部側から見た斜視図である。
【
図12】第2流路の開口部のみにプラグが設けられたときの状態を説明するための、刃先交換式フライス工具の先端部側から見た斜視図である。
【
図13】第2流路の開口部のみに吐出口付きのプラグが設けられたときの状態を説明するための、刃先交換式フライス工具の先端部側から見た斜視図である。
【
図14】第2流路の開口部と第3流路の開口部の両方にプラグが設けられたときの状態を説明するための、刃先交換式フライス工具の先端部側から見た斜視図である。
【
図15】吐出口付きのプラグを3方向から見た形状をそれぞれ(A)~(C)として示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る切削工具とそのボディの好適な実施形態について詳細に説明する(
図1等参照)。
【0022】
本実施形態では、切削工具の一例として、刃先交換式フライス工具100に本発明を適用した場合について説明する(
図2等参照)。刃先交換式フライス工具100は、ボディ1と、該ボディ1に取り付けられる複数のインサート20とを有しており、ボディ1が回転して金属などを切削加工する工具である。
【0023】
ボディ1は、回転軸1Cを中心に回転する部材であり、回転駆動装置(図示省略)に着脱可能な基端部1bと、円盤状の先端部1tとを有する扁平形状となっている(
図5等参照)。先端部1tの周囲には、インサート20を取り付けるための複数のインサートポケット1Pが形成されている。本実施形態の刃先交換式フライス工具100においては、8つのインサートポケット1Pが周方向において等間隔となるように45度おきに配置されている(
図1等参照)。これらインサートポケット1Pのそれぞれには、切れ刃21を備えたインサート20が例えば止めねじにより着脱可能に取り付けられる(
図2等参照)。
【0024】
また、ボディ1には、インサート20にクーラント(
図4等において、クーラントの流れを示す矢印をもって当該クーラント(符号50)を模式的に示している)を供給するためのクーラント流路10と、流量調節機構30とが設けられている(
図1、
図10等参照)。本実施形態の刃先交換式フライス工具100におけるクーラント流路10は、第1流路11、第2流路12、第3流路13という3本の流路によって構成されている(
図3、
図4等参照)。
【0025】
第1流路11は、ボディ1の基端部1bから先端部1tに向けて直線状に延びる流路で構成されている(
図3、
図5等参照)。この第1流路11は、回転軸1Cと平行に設けられていてもよいし、回転軸1Cに対して傾斜して設けられていてもよい。
【0026】
第2流路12は、複数のインサート20のうちのいずれか一のインサート(図中では符号20Aで示している)の切れ刃21に向けて延びるように設けられた、第1流路11に連通する流路である。本実施形態における第2流路12は、第1流路11の端部において第1流路11とほぼ垂直に連通しており、回転軸1Cに垂直な方向に延びている。特に図示してはいないが、第2流路12は、回転軸1Cに垂直な方向に対し、ボディ1の先端部1t寄りあるいは基端部1b寄りに傾斜していてもよい。また、本実施形態では、このような第2流路12を、径方向に対して、ボディ1の回転方向(
図1において反時計回り)に所定の角度ぶん傾いた方向に延びるように形成している(
図1参照)。こうした場合には、第2流路12の中を流れるクーラント50に対し、ボディ1の回転時の遠心力といった、回転時に生じる力をも作用させることでインサート20(20A)の切れ刃21に向けてクーラント50をより効率的に吐出させることが可能となる(
図11等参照)。
【0027】
ボディ1の側面1Sには、第2流路12の開口部となる第2流路油穴12dが設けられている(
図2等参照)。切削加工時、給油圧の作用やボディ1の回転時の遠心力の作用により、この第2流路油穴12dからインサート20(一のインサート20A)の切れ刃21に向けてクーラント50が吐出される(
図11等参照)。第2流路油穴12dの具体的な位置(ボディ1の周方向における位置、軸方向における位置)は特に限定されない。一例として、本実施形態では、ボディ1の軸方向において、インサート20のほぼ中央に相当する位置に第2流路油穴12dを配置している(
図5参照)。
【0028】
第3流路13は、第2流路12の途中で分岐し、一のインサート20Aに隣り合う位置に保持された他のインサート20Bの切れ刃21に向けて延びるように設けられている流路である(
図1等参照)。例えば本実施形態では、一のインサート20Aに向けて延びる第2流路12の途中で分岐した第3流路13は、当該一のインサート20Aから見てボディ1の回転方向(
図1において反時計回り)の後段に位置する他のインサート20Bに向けて延びている(
図1等参照)。また、本実施形態では、このような第3流路13を、ボディ1の回転方向(
図1において反時計回り)とは逆の方向(時計回りの方向)に延びるように形成している(
図1参照)。こうした場合には、第3流路13の中を流れるクーラント50に対し、ボディ1の回転時の遠心力ないしは慣性力といった、回転時に生じる力をも作用させることでインサート20(本例の場合であれば他のインサート20B)の切れ刃21に向けてクーラント50をより効率的に吐出させることが可能となる(
図8、
図12等参照)。
【0029】
ボディ1の側面1Sには、第3流路13の開口部となる第3流路油穴13dが設けられている(
図2等参照)。切削加工時、給油圧の作用やボディ1の回転時の遠心力ないしは慣性力の作用により、この第3流路油穴13dからインサート20(本例の場合であれば他のインサート20B)の切れ刃21に向けてクーラント50が吐出される(
図8、
図12等参照)。第3流路油穴13dの具体的な位置(ボディ1の周方向における位置、軸方向における位置)は特に限定されない。一例として、本実施形態では、ボディ1の軸方向において、インサート20のほぼ中央に相当する位置よりも先端部1t寄りに第3流路油穴13dを配置している(
図5参照)。
【0030】
上記のごとく第1流路11、第2流路12、第3流路13によって構成されるクーラント流路10は、複数設けられている。例えば本実施形態の刃先交換式フライス工具100においては、インサートポケット1Pの個数(本実施形態の場合、8個)に合わせ、同形状のクーラント流路10が8個(あるいは8組ないしは8系統と表現してもよい)、回転軸1Cを中心にして周方向において等間隔となるように45度おきに設けられている(
図1、
図2等参照)。これら8個のクーラント流路10を構成する8本の第1流路11、8本の第2流路12、8本の第3流路13のそれぞれ、隣接する他の第1流路11、第2流路12および第3流路13と干渉しない位置に配置されており、それぞれが、互いに途中で連通することのない独立した系統のクーラント流路10を構成している(
図1等参照)。なお、本実施形態における8個のクーラント流路10はどれも同じなので各構成要素に付すべき符号もまたすべて同じなのだが、図中では煩雑になりすぎるのを避けるため、すべての構成要素に符号を付すことはしていない(
図1等参照)。また、
図3と
図4では、8個のクーラント流路10のうち隣接する2個のみをわかりやすく示している(
図3、
図4参照)。
【0031】
流量調節機構30は、クーラント50の流量を調節するべく、第2流路12と第3流路13のいずれか一方または両方に設けられている機構である。かかる流量調節機構30は、第2流路12と第3流路13のそれぞれにおけるクーラント50の流量、あるいは第2流路12と第3流路13のクーラント50の流量比を調節できるものである限りその具体的な構成が特に限定されることはない。例えば、第2流路12または第3流路13の少なくとも一部を塞いで流量を調節する機能を有するシール部材や、回動角度に応じて流路の開度が変化する回転式の弁部材等を流量調節機構30として用いることができる。
【0032】
本実施形態では、第2流路12の第2流路油穴12dに着脱可能なストッパーとして機能するプラグ32と、第3流路13の第3流路油穴13dに着脱可能なプラグ33とをシール部材として用い、これらで流量調節機構を構成している(
図6、
図10、
図14等参照)。プラグ32(33)は、第2流路油穴12d(第3流路油穴13d)に螺合するためのねじ部32s(33s)を備えた部材で構成されていてもよい。本実施形態では、着脱作業が比較的に容易な六角穴止めねじ(いわゆるイモネジ)をプラグ32(33)として用いている(
図15等参照)。プラグ32(33)には、クーラント50の一部を通過させる吐出口32h(33h)が設けられていてもよい(
図15参照)。吐出口32h(33h)は、一のインサート20A(他のインサート20B)の切れ刃21に向けてクーラント50を吐出する位置に配置されている。本実施形態では、吐出口32h(33h)を備えたプラグ32(33)と備えていないプラグ32(33)の両方をあらかじめ用意しておき、当該プラグ32(33)を入れ替えることで吐出口32h(33h)が有る状態と無い状態とを簡単に切り替えることができるようにしている。また、特に図示はしていないが、吐出口32h(33h)の位置や形状、大きさが異なる複数種類のプラグ32(33)をあらかじめ用意しておき、当該プラグ32(33)を入れ替えることで吐出口32h(33h)の位置や形状、大きさを切り替えることができるようにしてもよい。
【0033】
上記のごとき構成のボディ1を備えた刃先交換式フライス工具100によれば、例えば溝入れ加工を行うサイドカッタとして用いる場合には、第3流路13のクーラント流量を制限ないしは0(ゼロ)とし、第2流路12の第2流路油穴12dから吐出されるクーラント50の量を増大させることで、インサート20の切れ刃21のうち特に溝入れ加工に関与する部分に向けて集中的かつ効率的にクーラント50を供給することができる(
図7、
図11参照)。一方で、正面フライス加工を行う場合には、第2流路12のクーラント流量を制限ないしは0(ゼロ)とし、第3流路13の第3流路油穴13dから吐出されるクーラント50の量を増大させることで、インサート20の切れ刃21のうち特に正面フライス加工に関与する先端部1t側の部分に向けて集中的かつ効率的にクーラント50を供給することができる(
図8、
図12参照)。上述したように、ボディ1の軸方向に関して先端部1t寄りに第3流路油穴13dを配置した本実施形態のボディ1を備えた刃先交換式フライス工具100によれば(
図5参照)、特に、正面フライス加工に関与する切れ刃21の部分に集中的かつ効率的にクーラント50を供給しやすい。また、上記以外の場合、例えば溝入れ加工と正面フライス加工とを交互に行うといったような複数の加工用途で用いる場合には、第2流路油穴12dと第3流路油穴13dのそれぞれからプラグ32,33を外す、あるいは第2流路油穴12dと第3流路油穴13dのそれぞれに吐出口32h、33hを有するプラグ32,33を装着等により、第2流路12と第3流路13の両方から、流量のバランスをとりつつインサート20の切れ刃21に対して違う角度からクーラント50を供給することができる(
図4、
図9、
図13参照)。
【0034】
なお、上述の実施形態においては、一のインサート20A、他のインサート20Bという表現を使って説明したが、これらはある特定のインサートを指し示すものではなく、複数(本実施形態では8個)のインサート20のうちのいずれか一つのインサートと、それに隣り合うもう一つのインサートを便宜的に指し示したものであることはいうまでもない。
【0035】
ここまで説明したように、本実施形態の刃先交換式フライス工具100あるいはそのボディ1によれば、各インサート20の切れ刃21に対し、複数あるうちいずれかのクーラント流路10の第2流路12からクーラント50を供給するとともに、それとは別の流路(隣り合う別のクーラント流路10の第3流路13からも当該インサート20の切れ刃21に対して違う位置から互いに異なる角度でクーラント50を供給することが可能である。これによれば、サイズが大きいインサート20を用いて切込みをより小さくした加工あるいはより大きくした加工をするといった場合にも、違う位置から異なる角度で切れ刃21やその付近にクーラント50を安定して供給することができる。
【0036】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本実施形態では複数(一例として、8個)のクーラント流路10が周方向において等間隔(等ピッチ)に配置されたボディ1を示したが(
図1等参照)、これは好適な一例にすぎない。特に図示はしていないものの、この他、例えば、インサート20の切れ刃21を周方向において不等ピッチで配置するために、これに対応して、これらクーラント流路10を周方向において等間隔ではなく不等ピッチで配置することもできる。
【0037】
また、上述の実施形態では、流量調節機構30を構成するプラグ(ストッパー)32,33として着脱作業が比較的に容易なねじ構造の六角穴止めねじ(イモネジ)を示したがこれもまた好適な一例にすぎない。特に図示はしていないものの、例えばラッチのような係止機構を備えた部材で第2流路油穴12dや第3流路油穴13dを塞ぐなど、ねじ構造以外の部材を採用することもできる。
【0038】
また、上述の実施形態では、直線状であってかつ太さ(流路径)や断面形状が変化しない第1流路11、第2流路12、第3流路13を示したがこれもまた一例にすぎない。特に図示はしないが、直線状でない、あるいは太さ(流路径)や断面形状が途中で変化する第1流路11、第2流路12、第3流路13を採用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、転削用の切削工具、特にサイドカッタといった、ボディが回転しながら金属などのワークを切削加工する刃先交換式フライス工具に適用して好適である。
【符号の説明】
【0040】
1…切削工具のボディ
1b…ボディの基端部
1C…回転軸
1P…インサートポケット
1S…側面
1t…ボディの先端部
10…クーラント流路(流路)
11…第1流路
12…第2流路
12d…第2流路油穴(第2流路の開口部)
13…第3流路
13d…第3流路油穴(第3流路の開口部)
20…インサート
21…切れ刃
20A…一のインサート
20B…他のインサート
30…流量調節機構
32…プラグ(シール部材)
33…プラグ(シール部材)
32h,33h…吐出口
32s,33s…ねじ部
50…クーラント
100…刃先交換式フライス工具(切削工具)
【手続補正書】
【提出日】2023-05-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のインサートのそれぞれを保持する複数のインサートポケットと、クーラントを供給する複数の流路と、を備える切削工具のボディであって、
前記流路は、当該ボディの基端部から先端部に向けて延びる第1流路と、該第1流路に連通し、前記複数のインサートのうちの一のインサートの切れ刃に向け、径方向に対して傾いた方向に延びる第2流路と、該第2流路に連通し、該一のインサートに隣り合う位置に保持された他のインサートの切れ刃に向けて延びる第3流路と、を有している、切削工具のボディ。
【請求項2】
前記第2流路と前記第3流路の一方または両方に、前記クーラントの流量を調節可能な流量調節機構が設けられている、請求項1に記載の切削工具のボディ。
【請求項3】
前記流量調節機構は、前記第2流路または前記第3流路の少なくとも一部を塞ぐシール部材を含む、請求項2に記載の切削工具のボディ。
【請求項4】
前記シール部材は、前記第2流路または前記第3流路に着脱可能である、請求項3に記載の切削工具のボディ。
【請求項5】
前記シール部材は、前記第2流路の開口部または前記第3流路の開口部に着脱可能なプラグである、請求項4に記載の切削工具のボディ。
【請求項6】
前記プラグは、前記第2流路の開口部または前記第3流路の開口部に螺合するためのねじ部を備えている、請求項5に記載の切削工具のボディ。
【請求項7】
前記プラグに、前記クーラントの一部を通過させる吐出口が設けられている、請求項5に記載の切削工具のボディ。
【請求項8】
前記吐出口は、前記一のインサートの切れ刃あるいは前記他のインサートの切れ刃に向けて前記クーラントを吐出する位置に配置されている、請求項7に記載の切削工具のボディ。
【請求項9】
前記第1流路、前記第2流路および前記第3流路を複数組有する、請求項1に記載の切削工具のボディ。
【請求項10】
前記第1流路、前記第2流路および前記第3流路がそれぞれ、前記インサートポケットと同数設けられている、請求項9に記載の切削工具のボディ。
【請求項11】
当該切削工具の回転軸を中心として、複数の前記第1流路、前記第2流路および前記第3流路がそれぞれ所定角度ごとに周方向等間隔に配置されている、請求項10に記載の切削工具のボディ。
【請求項12】
複数の前記第1流路、前記第2流路および前記第3流路のそれぞれが、隣接する他の第1流路、第2流路および第3流路のそれぞれと干渉しない位置に配置されている、請求項10に記載の切削工具のボディ。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載のボディを備えた切削工具。