(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088895
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】ガラス板の製造方法及びガラス板
(51)【国際特許分類】
C03C 1/02 20060101AFI20240626BHJP
C03C 3/155 20060101ALI20240626BHJP
C03C 3/068 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
C03C1/02
C03C3/155
C03C3/068
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203920
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】此下 聡子
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA04
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4G062NN29
(57)【要約】
【課題】高い屈折率と高い可視光透過率を両立可能なガラス板の製造方法及びガラス板を提供する。
【解決手段】ガラス板の製造方法であって、前記ガラス板は、質量%で、Ln2O3 30%~80%(LnはLa、Gd、Y及びYbから選択される少なくとも一種)を含有し、屈折率ndが2.1以上であり、Ln2O3原料の混合らいかいを行うことにより、混合らいかい後のLn2O3原料の平均粒子径D50が1μm~30μmとなるように調整する混合工程、及び混合らいかい後のLn2O3原料を含むガラス原料を1500℃以下で溶融する溶融工程を含む、ガラス板の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板の製造方法であって、
前記ガラス板は、質量%で、Ln2O3 30%~80%(LnはLa、Gd、Y及びYbから選択される少なくとも一種)を含有し、屈折率ndが2.1以上であり、
Ln2O3原料の混合らいかいを行うことにより、混合らいかい後のLn2O3原料の平均粒子径D50が1μm~30μmとなるように調整する混合工程、及び混合らいかい後のLn2O3原料を含むガラス原料を1500℃以下で溶融する溶融工程を含む、ガラス板の製造方法。
【請求項2】
前記Ln2O3原料は酸化物原料である、請求項1に記載のガラス板の製造方法。
【請求項3】
前記ガラス板は、質量%で、La2O3 15%~45%、Gd2O3 0%~15%、Y2O3 0.1%~10%、Yb2O3 0%~10%、TiO2 15%~50%、Nb2O5 0%~15%、WO3 0%~10%、SiO2 0%~12%、B2O3 0%~10%、BaO 0%~9%、ZnO 0%~5%、ZrO2 2%~10%を含有する、請求項1又は2に記載のガラス板の製造方法。
【請求項4】
前記ガラス板は、板厚10mmでの波長450nmにおける内部透過率τ450が88%以上である、請求項1又は2に記載のガラス板の製造方法。
【請求項5】
前記ガラス板は、液相粘度が100.1dPa・s~100.8dPa・sである、請求項1又は2に記載のガラス板の製造方法。
【請求項6】
前記ガラス板は、密度が5.5g/cm3以下である、請求項1又は2に記載のガラス板の製造方法。
【請求項7】
前記ガラス板は、主面の長径が100mm以上であり、肉厚が1mm以下の板状である、請求項1又は2に記載のガラス板の製造方法。
【請求項8】
前記ガラス板は、プロジェクター付きメガネ、眼鏡型又はゴーグル型ディスプレイ、仮想現実(VR)又は拡張現実(AR)表示装置、及び、虚像表示装置から選択されるウェアラブル画像表示機器に使用される、請求項1又は2に記載のガラス板の製造方法。
【請求項9】
質量%で、Ln2O3 30%~80%(LnはLa、Gd、Y及びYbから選択される少なくとも一種)を含有し、屈折率ndが2.1以上であり、厚み10mmにおける波長450nmの内部透過率τ450が88%以上である、ガラス板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラス板の製造方法及びガラス板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、AR/MR用ウェアラブル画像表示機器等のメガネ型デバイスが開発されている。当該デバイスは、外部の景色を見ながらメガネ部分の導光板に表示される映像を見ることができる、いわゆるシースルー型のデバイスである。
【0003】
上記デバイス用の導光板として、例えば、ガラス板の表面に樹脂製の回折格子が形成された構造が検討されている。また、当該ガラス板には、画像の広角化、高輝度・高コントラスト化、導光特性向上性等の面から、屈折率の高いガラス板の使用が検討されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-008599号公報
【特許文献2】特開2021-031378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、屈折率の高いガラス板は可視域の光透過率(可視光透過率)が低くなりやすい。そうすると、当該ガラス板を上記デバイスに用いた場合、使用者が見る像の明るさが低下してしまう。
【0006】
以上に鑑み、本発明は高い屈折率と高い可視光透過率を両立可能なガラス板の製造方法及びガラス板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するガラス板の製造方法及びガラス板の各態様について説明する。
【0008】
態様1のガラス板の製造方法は、ガラス板の製造方法であって、ガラス板は、質量%で、Ln2O3 30%~80%(LnはLa、Gd、Y及びYbから選択される少なくとも一種)を含有し、屈折率ndが2.1以上であり、Ln2O3原料の混合らいかいを行うことにより、混合らいかい後のLn2O3原料の平均粒子径D50が1μm~30μmとなるように調整する混合工程、及び混合らいかい後のLn2O3原料を含むガラス原料を1500℃以下で溶融する溶融工程を含むことを特徴とする。なお、「平均粒子径D50」とは、レーザ回折装置で測定した値を指し、レーザ回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して50%である粒子径を表す。
【0009】
態様2のガラス板の製造方法では、態様1において、Ln2O3原料は酸化物原料であることが好ましい。
【0010】
態様3のガラス板の製造方法では、態様1又は態様2において、ガラス板は、質量%で、La2O3 15%~45%、Gd2O3 0%~15%、Y2O3 0.1%~10%、Yb2O3 0%~10%、TiO2 15%~50%、Nb2O5 0%~15%、WO3 0%~10%、SiO2 0%~12%、B2O3 0%~10%、BaO 0%~9%、ZnO 0%~5%、ZrO2 2%~10%を含有することが好ましい。
【0011】
態様4のガラス板の製造方法では、態様1から態様3のいずれか一つの態様において、ガラス板は、板厚10mmでの波長450nmにおける内部透過率τ450が88%以上であることが好ましい。
【0012】
態様5のガラス板の製造方法では、態様1から態様4のいずれか一つの態様において、ガラス板は、液相粘度が100.1dPa・s~100.8dPa・sであることが好ましい。
【0013】
態様6のガラス板の製造方法では、態様1から態様5のいずれか一つの態様において、ガラス板は、密度が5.5g/cm3以下であることが好ましい。
【0014】
態様7のガラス板の製造方法は、態様1から態様6のいずれか一つの態様において、ガラス板は、主面の長径が100mm以上であり、肉厚が1mm以下の板状であることが好ましい。
【0015】
態様8のガラス板の製造方法では、態様1から態様7のいずれか一つの態様において、ガラス板は、プロジェクター付きメガネ、眼鏡型又はゴーグル型ディスプレイ、仮想現実(VR)又は拡張現実(AR)表示装置、及び、虚像表示装置から選択されるウェアラブル画像表示機器に使用されることが好ましい。
【0016】
態様9のガラス板は、質量%で、Ln2O3 30%~80%(LnはLa、Gd、Y及びYbから選択される少なくとも一種)を含有し、屈折率ndが2.1以上であり、厚み10mmにおける波長450nmの内部透過率τ450が88%以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高い屈折率と高い可視光透過率を両立可能なガラス板の製造方法及びガラス板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のガラス板の製造方法は、ガラス板は、質量%で、Ln2O3 30%~80%(LnはLa、Gd、Y及びYbから選択される少なくとも一種)を含有し、屈折率ndが2.1以上であり、Ln2O3原料の混合らいかいを行うことにより、混合らいかい後のLn2O3原料の平均粒子径D50が1μm~30μmとなるように調整する混合工程、及び混合らいかい後のLn2O3原料を含むガラス原料を1500℃以下で溶融する溶融工程を含むことを特徴とする。また、本発明のガラス板は、質量%で、Ln2O3 30%~80%(LnはLa、Gd、Y及びYbから選択される少なくとも一種)を含有し、屈折率ndが2.1以上であり、厚み10mmにおける波長450nmの内部透過率τ450が88%以上であることを特徴とする。
【0019】
屈折率の高いガラス板は、Nb2O5やTiO2、WO3など高屈折率に寄与する成分を多く含む。これらの成分は還元されやすく、着色原因となりやすい(還元着色)。また、このような還元着色はガラスの溶融温度が高いほど進行しやすい。これらの課題に対し、本発明者らが鋭意検討を行った結果、ガラスの屈折率を高める成分であるLn2O3の原料(Ln2O3原料)の溶融性に原因があることを突き止めた。すなわち、Ln2O3原料の平均粒子径D50と溶融温度を調整することで、上記還元着色を低減することができることを見出した。
【0020】
以下、本発明のガラス板の製造方法及びガラス板について説明する。なお、以下の説明において、特に断りのない限り「%」は「質量%」を意味する。
【0021】
<ガラス板の製造方法>
<ガラス原料の準備>
はじめに、得られるガラス板が、質量%で、Ln2O3 30%~80%(LnはLa、Gd、Y及びYbから選択される少なくとも一種を表す)を含有し、かつ屈折率ndが2.1以上となるようガラス原料を準備する。ガラス原料は、少なくともLn2O3成分の原料(Ln2O3原料)を含む。より詳細には、ガラス原料は、Ln2O3原料と、その他成分の原料(その他原料)の混合物である。その他成分については後述する。
【0022】
Ln2O3(LnはLa、Gd、Y及びYbから選択される少なくとも一種を表す)は、ガラスの屈折率を高める成分である。Ln2O3の含有量(すなわち、La2O3、Gd2O3、Y2O3及びYb2O3の合量)の下限は、30%以上、35%以上、特に40%以上であることが好ましく、上限は80%以下、70%以下、60%以下、特に50%以下であることが好ましい。Ln2O3の含有量が少なすぎると、ガラスの屈折率が低下しやすい。また、ガラス化の安定性が低下しやすい。Ln2O3の含有量が多すぎると、ガラスの溶融温度が高くなり、ガラスが着色しやすい。
【0023】
なお、Ln2O3の各成分の好ましい範囲は以下の通りである。
【0024】
La2O3は屈折率を顕著に高め、かつガラス化の安定性を向上させる成分である。La2O3の含有量の下限は0%以上、15%以上、25%以上、30%以上、特に35%以上であることが好ましく、上限は45%以下、特に43%以下であることが好ましい。La2O3の含有量が多すぎると、耐失透性が低下して量産性に劣る傾向がある。また、ガラスの溶融温度が高くなりやすい。
【0025】
Gd2O3は屈折率を高め、かつガラス化の安定性を向上させる成分である。Gd2O3の含有量の下限は0%以上、1%以上、特に2%以上であることが好ましく、上限は15%以下、13%以下、10%以下、7%以下、特に6%以下であることが好ましい。Gd2O3の含有量が多すぎると、耐失透性が低下して量産性に劣る傾向がある。また、ガラスの密度が大きくなりやすい。さらに、ガラスの溶融温度が高くなりやすい。
【0026】
Y2O3は屈折率を高めやすい成分である。Y2O3の含有量の下限は0%以上、0.1%以上、1%以上、2%以上、2.5%以上、特に3%以上であることが好ましく、上限は10%以下、7%以下、特に6%以下であることが好ましい。Y2O3の含有量が多すぎると、ガラスの溶融温度が顕著に高くなりやすい。
【0027】
Yb2O3は屈折率を高めやすい成分である。Yb2O3の含有量の下限は0%以上、0.1%以上、特に0.5%以上であることが好ましく、上限は10%以下、8%以下、5%以下、3%以下、特に1%以下であることが好ましい。Yb2O3の含有量が多すぎると、失透や脈理が生じやすい。
【0028】
Ln2O3原料及びその他原料の形態は特に限定されないが、取り扱いを容易にする観点から、粉末原料であることが好ましい。また、Ln2O3原料及びその他原料は、天然原料又は化成原料であることが好ましい。
【0029】
Ln2O3原料は、取り扱いの容易さという観点から、酸化物原料を用いることが好ましい。より詳細には、酸化物粉末原料であることが好ましい。具体的には、酸化物原料として、酸化ランタン、酸化ガドリニウム、酸化イットリウム、酸化イッテルビウムを用いることが好ましい。これらの酸化物は、融点が2000℃以上と高いため、本発明による効果を特に享受することができる。なお、後述するその他成分についても同様に、酸化物原料を用いることが好ましい。
【0030】
<混合工程>
次に、Ln2O3原料の混合らいかいを行うことにより、混合らいかい後のLn2O3原料の平均粒子径D50が1μm~30μmとなるように調整する(混合工程)。言い換えると、少なくとも混合らいかい後のLn2O3原料の平均粒子径D50が1μm~30μmとなるように、Ln2O3原料の混合らいかいを行う。これにより、混合らいかい後のLn2O3原料の粒子径を比較的小さく、かつ均一にすることができる。そのため、溶融性を向上させることができる。なお、その他原料は、混合らいかい後のLn2O3原料に後から混合してもよく、Ln2O3原料と同時に混合らいかいを行ってもよい。工程の簡略化及びガラス原料全体を均一に混合するという観点では、Ln2O3原料とその他原料の混合らいかいを同時に行うことが好ましい。この場合は、Ln2O3原料及びその他原料の混合物(すなわち、ガラス原料)の平均粒子径D50が1μm~30μmとなるように混合らいかいを行うことが好ましい。
【0031】
より詳細には、混合らいかい後のLn2O3原料の平均粒子径D50が1μm~30μm、2μm~20μm、特に3μm~15μmとなるように、Ln2O3原料の混合らいかいを行うことが好ましい。平均粒子径D50が小さすぎると、凝集が生じやすくなり、取り扱いが困難になりやすい。平均粒子径D50が大きすぎると、ガラス溶融温度が高くなりやすい。なお、Ln2O3原料及びその他原料の混合物についても、平均粒子径D50が上記値となるように混合らいかいを行うことが好ましい。
【0032】
混合らいかい前のLn2O3原料の平均粒子径D50は、特に限定されないが、例えば、40μm以上、特に50μm以上であることが好ましく、500μm以下、特に400μm以下であることが好ましい。混合らいかい前の平均粒子径D50が小さすぎると、凝集が生じやすくなり、取り扱いが困難になりやすい。平均粒子径D50が大きすぎると、混合らいかいに要する時間が長くなり、製造効率が低下する。また、粉砕機に起因する不純物が混入しやすくなる。なお、混合らいかい前のその他原料の平均粒子径D50も、上記値であることが好ましい。
【0033】
混合らいかいは、一般的な粉砕機を用いて行うことができる。具体的には、乳鉢、らいかい機、ボールミル、アトライター、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、ビーズミル等の一般的な粉砕機を用いることができる。
【0034】
<溶融工程>
次に、混合らいかい後のLn2O3原料を含むガラス原料を1500℃以下で溶融する(溶融工程)。ここでは、上述した平均粒子径D50が1μm~30μmとなるように混合らいかいを行ったLn2O3原料を用いるため、1500℃以下という比較的低温であっても、効果的にガラス原料を溶融することができる。
【0035】
より詳細には、溶融温度が、1500℃以下、1490℃以下、1480℃以下、特に1450℃以下であることが好ましい。溶融温度が高すぎると、還元着色しやすくなる。溶融温度の下限は特に限定されないが、ガラス原料を均一に溶融する観点では、例えば、800℃以上、特に1000℃以上であることが好ましい。
【0036】
溶融雰囲気は、大気雰囲気、真空雰囲気、不活性雰囲気又は還元性雰囲気であることが好ましく、大気雰囲気であることがより好ましい。これにより、製造コストを低減しやすい。
【0037】
溶融時間は1時間以上、2時間以上、特に4時間以上であることが好ましく、24時間以下、18時間以下、特に12時間以下であることが好ましい。溶融時間が短すぎると、均質なガラスが得づらい。溶融時間が長すぎると、溶融るつぼに起因する不純物の混入を抑制しやすい。
【0038】
溶融には、白金るつぼ、アルミナるつぼ、石英るつぼ、窒化アルミるつぼ、窒化ホウ素るつぼ、ジルコニアるつぼ、炭化ケイ素るつぼ、モリブデンるつぼ、タングステンるつぼなどを使用できる。
【0039】
溶融後、溶融ガラスを冷却することにより所望のガラス板を得ることができる。
【0040】
このように、本発明のガラス板の製造方法によれば、Ln2O3成分を質量%で30%~80%含有し、屈折率ndが2.1以上であるようなガラス板であっても、高い屈折率と高い可視光透過率を両立することができる。具体的には、屈折率ndが2.1以上であり、厚み10mmにおける波長450nmの内部透過率τ450が88%以上である、ガラス板を得ることができる。
【0041】
<ガラス板>
本発明のガラス板は、質量%で、Ln2O3 30%~80%(LnはLa、Gd、Y及びYbから選択される少なくとも一種)を含有する。より詳細には、上記成分に加えて、さらに質量%で、TiO2+Nb2O5+WO3 1%~50%を含有することが好ましい。さらにより詳細には、質量%で、La2O3 15%~45%、Gd2O3 0%~15%、Y2O3 0.1%~10%、Yb2O3 0%~10%、TiO2 15%~50%、Nb2O5 0%~15%、WO3 0%~10%、SiO2 0%~12%、B2O3 0%~10%、BaO 0%~9%、ZnO 0%~5%、ZrO2 2%~10%を含有することが好ましい。このようにガラス組成を限定した理由を以下に説明する。なお以下の各成分の含有量に関する説明において、特に断りのない限り「%」は「質量%」を意味する。なお、Ln2O3の好ましい含有量については上述した通りであり、ここでは説明を割愛する。以下では、Ln2O3成分以外の成分(その他成分)について説明する。なお、本発明において、「x+y」はxとyの合量を意味する。
【0042】
TiO2、Nb2O5、WO3は屈折率を高める成分であり、特に還元着色しやすい成分である。そのため、これらの成分を含有するガラスは、本発明のガラス板の製造方法を用いることで効果的に製造することができる。よって、TiO2+Nb2O5+WO3の含有量(TiO2、Nb2O5及びWO3の合量)の下限は1%以上、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、特に30%以上であることが好ましく、上限は50%以下、45%以下、特に40%以下であることが好ましい。TiO2+Nb2O5+WO3の含有量が多すぎると、可視光透過率が低下しやすくなる。
【0043】
なお、TiO2、Nb2O5、WO3の各成分の好ましい範囲は以下の通りである。
【0044】
TiO2はガラスの屈折率を顕著に高める成分である。TiO2の含有量の下限は0%以上、1%以上、5%以上、10%以上、15%以上、18%以上、20%以上、21%以上、22%以上、特に23%以上であることが好ましく、上限は50%以下、40%以下、35%以下、30%以下、29%以下、特に28%以下であることが好ましい。TiO2の含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。また、可視光透過率が低下しやすい。
【0045】
Nb2O5は顕著に屈折率を高める成分である。Nb2O5の含有量の下限は0%以上、3%以上、特に5%以上であることが好ましく、上限は15%以下、12%以下、10%以下、特に8%以下であることが好ましい。Nb2O5の含有量が多すぎると、ガラス化が不安定になる。また、可視光透過率が低下しやすい。
【0046】
WO3は屈折率を高める成分である。WO3の含有量の下限は0%以上、0.1%以上、特に1%以上であることが好ましく、上限は10%以下、9%以下、8%以下、6%以下、5%以下、3%以下、特に2%以下であることが好ましい。なお、ガラスの密度を低下させる観点からは、WO3の含有量は1%以下、特に0.5%以下であることが好ましく、含有しないことが最も好ましい。
【0047】
ガラスの可視光透過率を高める観点からは、TiO2+WO3の含有量(TiO2及びWO3の合量)の上限は60%以下、50%以下、40%以下、35%以下、30%以下、29%以下、28%以下、特に25%以下であることが好ましく、下限は15%以上、18%以上、特に20%以上であることが好ましい。
【0048】
SiO2はガラス骨格成分であり、ガラス化の安定性及び化学耐久性を向上させる成分である。SiO2の含有量の下限は0%以上、3%以上、5%以上、5.5%以上、特に6%以上であることが好ましく、上限は12%以下、11%以下、10%以下、9.5%以下、特に9%以下であることが好ましい。SiO2の含有量が多すぎると、溶融温度が高くなりやすい。また、かえってガラス化が特に不安定になりやすい。
【0049】
B2O3はガラス化の安定性に寄与する成分である。B2O3の含有量の下限は0%以上、0.01%以上、特に0.02%以上であることが好ましく、上限は10%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、特に2%以下であることが好ましい。B2O3の含有量が多すぎると、屈折率が低下しやすい。
【0050】
なお、ガラス化の安定性を高めて量産性を向上させるためには、SiO2とB2O3の割合を適切に調節することが好ましい。具体的には、質量比でB2O3/SiO2は0.003以上、0.005以上、0.02以上、0.04以上、0.05以上、0.1以上、0.3以上、特に0.4以上であることが好ましく、3以下、2以下、1.5以下、1.2以下、1以下、0.8以下、0.6以下、特に0.5以下であることが好ましい。なお、本発明において、「x/y」はxの含有量をyの含有量で除した値を意味する。
【0051】
BaOは屈折率を高める成分でもある。BaOの含有量の下限は0%以上、0.1%以上、0.3%以上、特に1%以上であることが好ましく、上限は10%以下、9%以下、8%以下、5%以下、特に3%以下であることが好ましい。なお、ガラスの軽量化を優先する場合は、BaOの含有量は1%以下、0.5%以下であることが好ましく、特に含有しないことが好ましい。
【0052】
ZnOはガラス原料の溶解を促進させる成分である。ZnOの含有量の下限は0%以上、0.3%以上、0.5%以上、特に1%以上であることが好ましく、上限は5%以下、4%以下、3%以下、2.8%以下、2.5%以下、特に2%以下であることが好ましい。ZnOの含有量が多すぎると、屈折率が低くなりやすい。また、耐失透性や耐酸性が低下する傾向がある。
【0053】
ZrO2は屈折率や化学的耐久性を高める成分である。ZrO2の含有量の下限は2%以上、3%以上、4%以上、特に5%以上であることが好ましく、上限は10%以下、9.5%以下、9%以下、特に8%以下であることが好ましい。ZrO2の含有量が多すぎると、溶融温度が極端に高くなったり、ガラス化が不安定になる傾向がある。
【0054】
MgO、CaO及びSrOはガラス化を安定化する成分である。これらの成分の含有量は各々5%以下、2%以下、1%以下、特に0.5%以下であることが好ましい。MgO、CaO及びSrOの含有量が多すぎると、屈折率が低下しやすい。また、液相温度が上昇する傾向がある。
【0055】
Li2O、Na2O、K2Oは軟化点を低下させる成分であるが、その含有量が多すぎると失透しやすい。よって、これらの成分の含有量は各々10%以下、各々5%以下、各々1%以下、特に実質的に含有しないことが好ましい。また、Li2O、Na2O、K2Oを2種以上含有する場合は、その合量は10%以下、5%以下、特に1%以下であることが好ましい。本発明において、「実質的に含有しない」とは、意図的に原料として含有させないことを意味し、不可避的不純物の混入を排除するものではない。客観的には、各成分の含有量が0.1%未満であることを意味する。
【0056】
清澄剤成分Cl、CeO2、SO2、Sb2O3又はSnO2を各々0.1%以下の割合で含有していてもよい。
【0057】
As成分(As2O3等)、Pb成分(PbO等)及びフッ素成分(F2等)は環境負荷が大きいため実質的に含有しないことが好ましい。また、Bi2O3及びTeO2は着色成分であり、可視透過率が低下しやすくなるため、実質的に含有しないことが好ましい。
【0058】
本発明のガラス板は以下の特性を有することが好ましい。
【0059】
本発明のガラス板は、屈折率ndが2.1以上であり、2.11以上、特に2.12以上であることが好ましい。上記屈折率ndを有するガラス板は、ウェアラブル画像表示機器の導光板として用いた場合に、視野角を広くすることができる。屈折率ndの上限は特に限定されないが、例えば、2.3以下、特に2.25以下としてもよい。
【0060】
本発明のガラス板は、厚み10mmにおける波長450nmの内部透過率τ450が88%以上であり、89%以上、90%以上、91%以上、特に92%以上であることが好ましい。内部透過率τ450を高めることにより、高い可視光透過率を得ることができる。その結果、ウェアラブル画像表示機器において、使用者が見る像を明るくすることができる。内部透過率τ450の上限は特に限定されないが、例えば、100%以下、特に99.99%以下である。
【0061】
本発明のガラス板は、ガラス化の安定性を考慮し、アッベ数(νd)が35以下、34以下、33以下、30以下、28以下、特に25以下であることが好ましい。一方、下限は15以上、18以上、特に20以上であることが好ましい。
【0062】
本発明のガラス板は、液相温度が1350℃以下、1330℃以下、特に1300℃以下であることが好ましい。また、液相粘度は100.1dPa・s以上、100.2dPa・s以上であることが好ましい。このようにすれば、溶融時や成形時に失透しにくいため、量産性が向上しやすくなる。液相粘度の上限は特に限定されないが、本発明のガラス板の製造方法で効果的に製造可能という観点では、100.8dPa・s以下、100.6dPa・s以下、特に100.5dPa・s以下であることが好ましい。ここで、「液相温度」は、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れて、1200~1500℃で再溶融して融液状態にしたのち温度勾配炉中に24時間保持した後、結晶が析出する温度を顕微鏡観察にて測定した値である。また、「液相粘度」は、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値である。
【0063】
本発明のガラス板は、100.2dPa・sの粘度における温度T(0.2)が、1200℃~1500℃、特に1250℃~1400℃であることが好ましい。T(0.2)が上記範囲であると、ガラス融液の粘度が低くなるため、本発明を効果的に享受することができる。ただし、ガラス板の成形性を高める観点からは、100.2dPa・sの粘度における温度T(0.2)が、1300℃以下、1250℃以下、特に1200℃以下であることが好ましい。
【0064】
本発明のガラス板は、密度が5.5g/cm3以下、5.4g/cm3以下、特に5.3g/cm3以下であることが好ましい。密度が低いことにより、ウェアラブル画像表示機器を軽量化でき、快適な装着感を提供することができる。密度の下限は特に限定されないが、例えば3g/cm3以上である。
【0065】
本発明のガラス板は、肉厚が1mm以下の板状であることが好ましい。より詳細には、主面の長径が100mm以上であり、肉厚が1mm以下の板状であることが好ましい。例えば、平面形状が円形、楕円形または矩形等の多角形等のガラス板であることが好ましい。ガラス板の長径(円形の場合は直径)は、100mm以上、120mm以上、150mm以上、160mm以上、170mm以上、180mm以上、190mm以上、特に200mm以上であることが好ましい。ガラス板の長径が小さすぎると、ウェアラブル画像表示機器等の用途に使用することが困難になる。また、量産性に劣る傾向がある。ガラス板の長径の上限は特に限定されないが、現実的には1000mm以下である。
【0066】
このように、本発明のガラス板の製造方法では、高い屈折率と高い可視光透過率を両立可能なガラス板を製造することができる。得られたガラス板は、プロジェクター付きメガネ、眼鏡型又はゴーグル型ディスプレイ、仮想現実(VR)又は拡張現実(AR)表示装置、及び、虚像表示装置から選択されるウェアラブル画像表示機器に好適に使用することができる。具体的には、ウェアラブル画像表示機器等のデバイスに使用可能な導光板等の光学素子として特に好適である。導光板は、複数枚積層させて積層体として使用してもよい。積層体の積層枚数は特に限定されないが、ウェアラブル画像表示機器等を軽量化する観点から、6枚以下、3枚以下、特に2枚以下であることが好ましい。
【実施例0067】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、以下の実施例は単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0068】
表1、2は、本発明の実施例1、2及び比較例1、2を示している。
【0069】
【0070】
【0071】
はじめに、表1のガラス組成となるようガラス原料を調合し、ガラスバッチを作製した。ガラスバッチをアルミナ乳鉢に入れて混合らいかいを行い、ガラスバッチの平均粒子径D50が表2に記載の値となるように調整した。なお、ガラスバッチの平均粒子径D50は、レーザ回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して50%である粒子径とした。その後、表2に示す溶融温度、溶融時間で溶融し、板状のガラスを得た。得られたガラスについて、屈折率nd、アッベ数νd、液相温度、液相粘度、密度、内部透過率τ450を測定した。結果を表2に示す。
【0072】
屈折率ndは、周知のVブロック法を用いて測定した。具体的には、得られた試料を30×30×5mmに切り出し、一端を直角研磨した後に、研磨面を鏡面仕上げした。当該試料に対して、精密屈折系KPR-2000(島津製作所社製)を用いて、Heランプのd線の屈折率を測定した。また、得られたd線、C線、F線の各波長の屈折率からアッベ数νdを算出した。
【0073】
液相温度は、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れて、1200~1500℃に30分保持して融液状態にして温度勾配炉中に24時間保持した後、結晶が析出する温度を顕微鏡観察にて測定した。
【0074】
液相粘度は、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した。
【0075】
密度はアルキメデス法によって測定した。
【0076】
内部透過率τ450は、以下のようにして測定した。はじめに、光学研磨された厚さ10mm±0.1mmと厚さ3mm±0.1の試料を準備し、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光社製)を用いて表面損失を含む光透過率(直線透過率)を1nm間隔で測定した。厚さ10mmと3mmの光透過率データから、厚さ10mmの内部透過率を求め、450nmにおける内部透過率を読み取った。
【0077】
表2に示すように、実施例1、2のガラスは内部透過率τ450が90%以上と高くなった。一方、比較例1のガラスは黄色に着色しており、内部透過率τ450が78%となった。比較例2のガラスは黄色に着色しており、内部透過率τ450が70%となった。また、外観の一部に失透ブツが見られた。
本発明のガラス板の製造方法で製造されたガラス板は、プロジェクター付きメガネ、眼鏡型又はゴーグル型ディスプレイ、仮想現実(VR)又は拡張現実(AR)表示装置、及び、虚像表示装置から選択されるウェアラブル画像表示機器用のガラス板として特に好適である。