(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088899
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】非ヒト哺乳類の生産方法、非ヒト哺乳類の新生仔用乳組成物およびその生産方法、並びにこれらの応用
(51)【国際特許分類】
A01K 67/00 20060101AFI20240626BHJP
A23K 20/153 20160101ALI20240626BHJP
【FI】
A01K67/00 Z
A23K20/153
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203934
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113398
【弁理士】
【氏名又は名称】寺崎 直
(72)【発明者】
【氏名】橋本 唯史
(72)【発明者】
【氏名】藤原 一弘
(72)【発明者】
【氏名】杉山 慎治
【テーマコード(参考)】
2B150
【Fターム(参考)】
2B150AA01
2B150AB02
2B150AB10
2B150CC15
(57)【要約】
【課題】非ヒト哺乳類の新生仔の生育を良好にする、非ヒト哺乳類の生産方法、並びに新生仔用乳組成物およびその生産方法などを提供することを課題とする。
【解決手段】酵母細胞壁成分および分子量5,000~100,000の核酸を含む飼料組成物を、非ヒト哺乳類の雌の妊娠期またはその前後の時期に摂取させ、当該雌に出産させ、当該雌の母乳を新生仔に授乳させる。前記飼料組成物には、更に、リグニンスルホン酸を配合しても良い。非ヒト哺乳類として好適な対象には、例えば、ウシ、ヒツジ、ヤギ、およびブタなどの家畜類が含まれる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母細胞壁成分および分子量5,000~100,000の核酸を含む飼料組成物を、非ヒト哺乳類の雌の妊娠期に摂取させ、当該雌に出産させ、当該雌の母乳を新生仔に授乳させることを含む、非ヒト哺乳類の生産方法。
【請求項2】
前記飼料組成物が、更に、リグニンスルホン酸を含む、請求項1に記載の非ヒト哺乳類の生産方法。
【請求項3】
前記新生仔が、前記雌が出産した仔である、請求項1に記載の非ヒト哺乳類の生産方法。
【請求項4】
前記飼料組成物を前記雌に摂取させる期間が、前記雌に対する交配処理の7日前から妊娠期を含む、請求項1に記載の非ヒト哺乳類の生産方法。
【請求項5】
前記飼料組成物を、前記雌に摂取させる期間が、前記雌の妊娠期から新生仔が離乳するまでの期間を含む、請求項1に記載の非ヒト哺乳類の生産方法。
【請求項6】
前記飼料組成物を、前記雌に摂取させる期間が、前記雌に対する交配処理の7日前から、妊娠期、および前記新生仔が離乳するまでの期間を含む、請求項1に記載の非ヒト哺乳類の生産方法。
【請求項7】
前記非ヒト哺乳類が、家畜類に属する哺乳類である、請求項1~6のいずれか一項に記載の非ヒト哺乳類の生産方法。
【請求項8】
前記非ヒト哺乳類が、ウシ、ヒツジ、ヤギ、およびブタからなる群より選ばれる、請求項1~6のいずれか一項に記載の非ヒト哺乳類の生産方法。
【請求項9】
前記核酸が、酵母由来のリボ核酸である、請求項1~6のいずれか一項に記載の非ヒト哺乳類の生産方法。
【請求項10】
前記飼料組成物中の前記リボ核酸の含有量が、3.0~20.0重量%である、請求項9に記載の非ヒト哺乳類の生産方法。
【請求項11】
酵母細胞壁成分および分子量5,000~100,000の核酸を含む飼料組成物を、非ヒト哺乳類の雌の妊娠期に摂取させ、当該雌が出産した後、当該雌から搾乳することを含む、非ヒト哺乳類の新生仔用乳組成物の生産方法。
【請求項12】
前記飼料組成物が、更に、リグニンスルホン酸を含む、請求項11に記載の新生仔用乳組成物の生産方法。
【請求項13】
前記飼料組成物を、前記雌に摂取させる期間が、前記雌に対する交配処理の7日前から妊娠期を含む、請求項11に記載の新生仔用乳組成物の生産方法。
【請求項14】
前記飼料組成物を、前記雌に摂取させる期間が、前記雌の妊娠期から新生仔の離乳期までを含む、請求項11に記載の新生仔用乳組成物の生産方法。
【請求項15】
酵母細胞壁成分および分子量5,000~100,000の核酸を含む飼料組成物を、妊娠期に摂取した雌からから泌乳される、非ヒト哺乳類の新生仔用乳組成物。
【請求項16】
前記飼料組成物が、更に、リグニンスルホン酸を含む、請求項15に記載の新生仔用乳組成物。
【請求項17】
前記飼料組成物を、前記雌が摂取する期間が、前記雌に対する交配処理の7日前から妊娠期を含む、請求項15に記載の新生仔用乳組成物。
【請求項18】
前記飼料組成物を、前記雌が摂取する期間が、前記雌の妊娠期から新生仔の離乳期までを含む、請求項15に記載の新生仔用乳組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非ヒト哺乳類の生産方法、非ヒト哺乳類の新生仔用乳組成物およびその生産方法、並びにこれらの応用に関する。
【背景技術】
【0002】
生後間もない非ヒト哺乳類の新生仔は、体力的に虚弱であったり、細菌感染などの感染症にかかりやすかったりする。新生仔が感染症に罹患すると、しばしば体重減少を伴う下痢を発症する可能性があり、重篤な場合、新生仔の死に至ることがある。そのため、新生仔、特に生後間もない新生仔を健全に育成するためには手厚く繊細な対応が求められる。また、健全な新生仔の育成は、例えば家畜類などの農業分野においては、生産効率にも関わる重要なプロセスである。
【0003】
新生仔の育成にあたっては、感染症の予防として抗菌剤などの薬剤を用いることもありうる。しかしながら、薬剤耐性菌の出現などの理由により、抗菌剤など薬剤の使用は、最小限度に留めることが望ましい。そのため、抗菌剤などの薬剤の使用に代わる代替手段の開発が探求されて続けている。例えば、そのような代替手段の1つとして、所定の乳酸菌を含む組成物が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、酵母を原料とし、摂食促進作用及び免疫増強作用を有する酵母エキス組成物を飼料添加剤が提案されている(例えば、特許文献2)。更に、酵母由来成分に加え、リグニンスルホン酸を混合することにより、酵母由来成分のメリットに加え、腐敗しにくい飼料用組成物を得られることが開示されている(例えば、特許文献3)。
【0005】
更に、幼畜類の飼育の合理化や育成率の向上、母体の負担軽減や生後間もない子牛の発育促進などを目的として、母乳に代わる代替乳組成物も開発されている。例えば、小麦グルテン酵素分解物のうち、溶解性、分散性に優れた子牛用代替乳組成物を得ることが提案されている(例えば、特許文献4)。また、離乳ロスと言われる子牛の発育鈍化現象を抑制するための代替乳組成物が提案されている(例えば、特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2015-530401号公報
【特許文献2】特開平4-184595号公報
【特許文献3】国際公開第2021/193907号
【特許文献4】特開2010-110303号公報
【特許文献5】特開2022-92216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、生後間もない新生仔の飼育に関しては様々な研究、開発がなされている。しかしながら、家畜類など非ヒト哺乳類の新生仔の飼育または生産という視座において、母体へ給与する飼料についてはこれまで注目されておらず、母体へ給与する飼料による、母体、母乳、および母体の産仔へと及ぼす作用及び効果については、十分な検討がなされていなかった。
【0008】
以上のような観点から、解決しようとする課題の1つは、非ヒト哺乳類の新生仔の生育を良好にする、非ヒト哺乳類の生産方法を提供することにある。
また、他の局面において、解決しようとする更なる課題の1つは、非ヒト哺乳類の新生仔の生育を良好にする、新生仔用乳組成物およびその生産方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、所定の飼料を母体へ給与することによる、母体、母乳、および母体の産仔などへの影響に関する新たな知見を得て、上記の課題を解決する手段を構築するに至った。
【0010】
本開示により提示される発明は、多面的に複数の態様にて把握することができ、課題を解決するための手段として、例えば、下記のように具現化される態様を含みうる。なお、本開示においては、本開示中に提示される発明のことを、包括概念的に又は個々の態様に応じて、簡潔に「本発明」ともいう。
【0011】
〔1〕 酵母細胞壁成分および分子量5,000~100,000の核酸を含む飼料組成物を、非ヒト哺乳類の雌の妊娠期に摂取させ、当該雌に出産させ、当該雌の母乳を新生仔に授乳させることを含む、非ヒト哺乳類の生産方法。
〔2〕 前記飼料組成物が、更に、リグニンスルホン酸を含む、上記〔1〕に記載の非ヒト哺乳類の生産方法。
〔3〕 前記新生仔が、前記雌が出産した仔である、上記〔1〕または〔2〕に記載の非ヒト哺乳類の生産方法。
〔4〕 前記飼料組成物を前記雌に摂取させる期間が、前記雌に対する交配処理の7日前から妊娠期を含む、上記〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の非ヒト哺乳類の生産方法。
〔5〕 前記飼料組成物を、前記雌に摂取させる期間が、前記雌の妊娠期から新生仔が離乳するまでの期間を含む、上記〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の非ヒト哺乳類の生産方法。
〔6〕 前記飼料組成物を、前記雌に摂取させる期間が、前記雌に対する交配処理の7日前から、妊娠期、および前記新生仔が離乳するまでの期間を含む、上記〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の非ヒト哺乳類の生産方法。
〔7〕 前記非ヒト哺乳類が、家畜類に属する哺乳類である、上記〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の非ヒト哺乳類の生産方法。
〔8〕 前記非ヒト哺乳類が、ウシ、ヒツジ、ヤギ、およびブタからなる群より選ばれる、上記〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載の非ヒト哺乳類の生産方法。
〔9〕 前記核酸が、酵母由来のリボ核酸である、上記〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の非ヒト哺乳類の生産方法。
〔10〕 前記飼料組成物中の前記リボ核酸の含有量が、3.0~20.0重量%である、上記〔9〕に記載の非ヒト哺乳類の生産方法。
〔11〕 酵母細胞壁成分および分子量5,000~100,000の核酸を含む飼料組成物を、非ヒト哺乳類の雌の妊娠期に摂取させ、当該雌が出産した後、当該雌から搾乳することを含む、非ヒト哺乳類の新生仔用乳組成物の生産方法。
〔12〕 前記飼料組成物が、更に、リグニンスルホン酸を含む、上記〔11〕に記載の新生仔用乳組成物の生産方法。
〔13〕 前記飼料組成物を、前記雌に摂取させる期間が、前記雌に対する交配処理の7日前から妊娠期を含む、上記〔11〕または〔12〕に記載の新生仔用乳組成物の生産方法。
〔14〕 前記飼料組成物を、前記雌に摂取させる期間が、前記雌の妊娠期から新生仔の離乳期までを含む、上記〔11〕~〔13〕のいずれか一項に記載の新生仔用乳組成物の生産方法。
〔15〕 酵母細胞壁成分および分子量5,000~100,000の核酸を含む飼料組成物を、妊娠期に摂取した雌からから泌乳される、非ヒト哺乳類の新生仔用乳組成物。
〔16〕 前記飼料組成物が、更に、リグニンスルホン酸を含む、上記〔15〕に記載の新生仔用乳組成物。
〔17〕 前記飼料組成物を、前記雌が摂取する期間が、前記雌に対する交配処理の7日前から妊娠期を含む、上記〔15〕または〔16〕に記載の新生仔用乳組成物。
〔18〕 前記飼料組成物を、前記雌が摂取する期間が、前記雌の妊娠期から新生仔の離乳期までを含む、上記〔15〕~〔17〕に記載の新生仔用乳組成物。
【発明の効果】
【0012】
本開示中に提示される発明の一又は複数の態様において、非ヒト哺乳類の新生仔の生育を良好にする、非ヒト哺乳類の生産方法を提供することができる。
また、本開示中に提示される発明の他の一又は複数の態様において、非ヒト哺乳類の新生仔の生育を良好にする、非ヒト哺乳類の新生仔用乳組成物およびその生産方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、仔マウスの離乳5日後の増体重を示す図である。
【
図2】
図2は、仔マウスのTNF濃度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本開示において、本発明に関し「一実施形態」との用語は、特に断らない限り、本発明を詳細に説明する上での任意の一実施形態のことであり、他の又は複数の実施形態の存在を否定または制限するものではない。以下に示すように、本発明には、その範疇に含まれる複数の実施形態がありうる。そして、複数の実施形態は、例えば、本開示中に示される構成要素(又は技術的特徴)の様々な組み合わせになどよる改変形態としても提供されうる。また、本開示において、単に「実施形態」と記載している場合は、特に断らない限り、一又は複数の実施形態を含む。
【0015】
本開示において、特に断らない限り、数値範囲に関し、「AA~BB」という記載は、「AA以上BB以下」を示すこととする(ここで、「AA」および「BB」は任意の数値を示す)。また、下限および上限の単位は、特に断りない限り、双方共に後者(すなわち、ここでは「BB」)の直後に付された単位と同じである。また、本開示において、数値範囲の下限値および上限値の組み合わせは、好ましい数値等として例示的に記載された下限値または上限値の数値群から任意に数値の組み合わせを選択することができる。また、「Xおよび/またはY」との表現は、XおよびYの双方、またはこれらのうちのいずれか一方のことを意味する。
【0016】
1.非ヒト哺乳類の生産方法
本発明の一実施形態として、(a)所定の核酸・酵母細胞壁成分を含む組成物、または、(b)所定の核酸・酵母細胞壁成分およびリグニンスルホン酸を含む組成物を、非ヒト哺乳類の雌の妊娠期に摂取させ、当該雌に出産させ、当該雌の母乳を新生仔に授乳させることを含む、非ヒト哺乳類の生産方法が提供される。以下、便宜上、酵母細胞壁成分および所定分子量の核酸のことを「核酸・酵母細胞壁成分」とも略称する。
【0017】
(a)所定の核酸・酵母細胞壁成分を含む組成物、または、(b)所定の核酸・酵母細胞壁成分およびリグニンスルホン酸を含む組成物を、非ヒト哺乳類の雌の妊娠期に摂取させ、当該雌に出産させ、当該雌の母乳を新生仔に授乳させることにより、新生仔の体重増加率を向上させることができる。また、産仔のTNF濃度を向上させることができる。このような作用または効果を通じて、生後間もない新生仔の育成を良好に進めることができる。様々な要因が複合的に関わっていることが推測されるが、新生仔のTNF濃度向上は、早発性大腸菌症などの感染症予防に資する一要因でありうる。
【0018】
非ヒト哺乳類とは、ヒトを除く哺乳類のことを意味する。非ヒト哺乳類としては、例えば、ウシ科、イノシシ科、ウマ科、ラクダ科、クマ科、シカ科、ネコ科、イヌ科、ヒトを除く霊長目、ネズミ目、ウサギ目、および海洋哺乳類などが挙げられる。本発明の実施形態において、非ヒト哺乳類の対象として好ましくは、例えば、非ヒト哺乳類の家畜類が挙げられ、より好ましくは、ウシ、ヒツジ、ヤギ、およびブタなどが挙げられる。特に、ウシ、ブタなどの畜産業において、生後間もない新生仔の良好な生育は、それらの家畜自体およびそれらに基づく生産物の生産性に大きく関わるため、有益な実施形態でありうる。
【0019】
対象となる新生仔は、所定の核酸・酵母細胞壁成分を摂取した雌(母体)から出生した実子に限らず、他の母体から出生した新生仔であってもよいが、所定の核酸・酵母細胞壁成分を摂取した雌自身が出産した仔(実子)がより好適である。
【0020】
核酸・酵母細胞壁成分は、対象となる雌に飼料組成物として給与し、摂食させることにより摂取させることができる。給与の方法は、対象となる非ヒト哺乳類の生物学的種類、または家畜類、実験動物、または動物園の動物などのように用途または飼育環境などに応じて、適宜調整しうる。例えば、動物の飼育において一般的に行われる、自由摂取、飽食給与、定量的な給与、または定期的な給与などの方法が挙げられる。
【0021】
核酸・酵母細胞壁成分を、母体となる雌に摂取させる期間は、妊娠期を含めることが好適である。妊娠の始期は、生物学的に正確には受精が成立した瞬間である。しかし、畜産業など動物を個体のまま育成する現場においては、受精の瞬間を正確に把握するのは容易ではなく、通常は事後的に判明することになる。本開示において、妊娠期の始期は、交配させるための処理(交配処理)を開始した時を、便宜的に、妊娠期の始期と設定してよい。交配処理は、哺乳類の種類や生産体系などによって表現や実施方法が異なりうるが、各種の動物において交配させる処理または交配を誘導する処理などが含まれる。例えば、成熟した雌と雄を同室内で同居させて自然交配させる方法、予め採取した精子を人工的に雌に注入する方法などがありうる。
【0022】
核酸・酵母細胞壁成分を雌に摂取させる期間に関し、本発明の好ましい一実施形態としては、雌に対する交配処理の7日前から妊娠期の間でありうる。交配処理の7日前程度から、核酸・酵母細胞壁成分を摂取することにより、当該成分による作用を早期に開始し、雌を順化させることができる。
【0023】
核酸・酵母細胞壁成分を雌に摂取させる期間に関し、本発明の好ましい他の一実施形態としては、雌の妊娠期から新生仔が離乳するまでの期間でありうる。出産後新生児の離乳期まで摂取させることにより、母体からの泌乳に対する核酸・酵母細胞壁成分の作用効果を継続させやすい。
【0024】
核酸・酵母細胞壁成分を雌に摂取させる期間に関し、本発明の更なる好ましい一実施形態としては、雌に対する交配処理の7日前から、妊娠期、および新生仔が離乳するまでの期間でありうる。このような期間で核酸・酵母細胞壁成分を雌に摂取させることにより、妊娠期における胎仔に対する好影響、および出産後の泌乳における好影響を得やすい。
【0025】
核酸は、高分子としての核酸だけではなく、核酸の構成単位であるヌクレオチドであってもよいが、ある程度大きい分子が好適である。好ましい一実施形態としては、例えば、重量分子量(Mw)5,000~100,000の範囲内である核酸分子でありうる。より具体的には、次の通りである。
核酸の重量平均分子量の下限は、好ましくは5,000以上、より好ましくは6,000、7,000、8,000、または9,000以上、更に好ましくは10,000、15,000または20,000以上でありうる。
核酸の重量平均分子量の上限は、好ましくは100,000以下、より好ましくは80,000以下、更に好ましくは、70,000、60,0000、または50,000以下でありうる。
なお、核酸の分子量分布は、例えばGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により求めることができる。
【0026】
核酸を構成する糖の種類は、デオキシリボースおよびリボースのいずれでもよい。すなわち、核酸はデオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)のいずれでもよい。核酸を構成する塩基の種類としては、主にアデニン、グアニン、チミン、シトシン、ウラシルが挙げられ、すなわち核酸を構成するヌクレオシドの種類としては、アデノシン、グアノシン、シチジン、ウリジン、チミジンが挙げられる。ヌクレオチドを構成するリン酸は、一リン酸であっても、複数のリン酸で構成されていてもよい。核酸として、市販品を用いてもよい。核酸は、1種を単独で配合してもよいし、複数種を混合して配合してもよい。核酸として好ましくは、リボ核酸およびヌクレオチドが挙げられ、より好ましくはリボ核酸が挙げられる。
【0027】
核酸の由来は特に制限はなく、人工合成したものでもよいし、天然物由来のものであってもよい。例えば、酵母などの微生物から抽出または精製したものを用いてもよい。このように合成、抽出または精製した核酸は、飼料用組成物を与えられる動物などの対象生物が摂取した際に、吸収されやすい形態とすることができる。廃材とされた生物資源、例えば廃材とされた木材に含まれる木質糖分を用いて酵母などの微生物を増殖し、核酸を得て、飼料用組成物に配合して用いることにより、廃材とされていたものを有用物質に転換することができ、持続可能な循環型社会の形成に寄与することができる。
【0028】
対象とする雌に給与する飼料用組成物中における核酸の含有量は、適宜調整してよい。対象とする雌に給与する飼料組成物中の核酸の含有量は、好ましくは3~10重量%でありうる。より具体的には、次のとおりである。
飼料用組成物中における核酸の含有量の下限は、好ましくは3重量%以上であり、より好ましくは5、6、または7重量%以上であり、さらに好ましくは8、9、または10重量%以上でありうる。
飼料用組成物中における核酸の含有量の上限は、好ましくは50重量%以下であり、より好ましくは30重量%以下であり、さらに好ましくは20重量%以下でありうる。
【0029】
好ましい実施形態としては、上記にて示した好ましい分子量(例えば、5,000~100,000)を有する核酸を、ここに示す好ましい含有量含んでいる飼料組成物を例示しうる。この場合において、上記にて示した好ましい分子量以外の分子量を有する核酸分子が、飼料組成物中にまったく含まれていないということまでは要しないが、その含有量は少ないことが好ましく、具体的には、上記の好ましい分子量の核酸分子の含有量よりは少ないことが好ましく、より好ましくは1重量%以下でありうる。
【0030】
本発明の一実施形態において、飼料用組成物は酵母細胞壁成分を含有する。酵母細胞壁成分はカビ毒を吸着することができる。若干雑菌が繁殖した飼料用組成物を動物が摂食してしまったとしても、酵母細胞壁成分のカビ毒吸着作用により、雑菌から生じる毒素が動物に吸収されることを抑制し、動物から排出させることに寄与しうる。
【0031】
「酵母細胞壁成分」との用語は、酵母に由来する細胞壁の一部若しくは全体、または繊維質成分を意味する。酵母細胞壁成分は、酵母菌体から核酸を脱核処理して得られる脱核酵母であってもよいし、酵母の外殻形状を留めた細胞壁であってもよし、または外殻形状を留めない程度にまで細胞壁を粉砕したものであってもよい。本発明で用いられる細胞壁成分は、酵母細胞壁の一部でありうるが、少なくとも繊維質を残していることが望ましい。少なくとも繊維質を留めていることにより、カビ毒吸着性に優れる。他方、繊維質が残らないほど分解が進んでしまうと、カビ毒吸着性が低下する傾向が強まる。
【0032】
対象とする雌に給与する飼料用組成物中における酵母細胞壁成分の含有量は、適宜調整してよい。対象とする雌に給与する飼料組成物中の酵母細胞壁成分の含有量は、好ましくは3~30重量%でありうる。より具体的には、次のとおりである。
飼料用組成物中における酵母細胞壁成分の含有量の下限は、好ましくは3重量%以上であり、より好ましくは5重量%以上であり、さらに好ましくは10重量%以上でありうる。
飼料用組成物中における酵母細胞壁成分の含有量の上限は、好ましくは30重量%以下であり、より好ましくは25重量%以下であり、さらに好ましくは20重量%以下でありうる。
【0033】
飼料用組成物における、核酸および酵母細胞壁成分の原料として、酵母を用いうる。用いうる酵母の種類は、有胞子酵母類であっても無胞子酵母類であってもよい。酵母として、具体的には下記のような種類が例示される。
【0034】
有胞子酵母類としては、例えば、シゾサッカロミセス(Shizosaccharomyces)属、サッカロミセス(Saccharomyces)属、クリヴェロミセス(Kluyveromyces)属、ハンゼヌラ(Hansenula)属、ピヒア(Pichia)属、デバリオミセス(Debaryomyces)属、およびリポミセス(Lipomyces)属の酵母が挙げられ、より具体的には、シゾサッカロミセス・ポンビ(Shizosaccharomyces pombe)、シゾサッカロミセス・オクトスポルス(Shizosaccharomyces octosporus);サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・ウバルム(Saccharomyces uvarum)、サッカロミセス・ルーキシイ(Saccharomyces rouxii);クリヴェロミセス・フラギリス(Kluyveromyces fragilis)、クリヴェロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis);ハンゼヌラ・アノマラ(Hansenula anomala);ピヒア・メンブラネファシエンス(Pichia membranaefaciens);デバリオミセス・ハンセニ(Debaryomyces hansenii);およびリポミセス・スタルケイ(Lipomyces starkeyi)などが挙げられる。
【0035】
無胞子酵母類としては、例えば、トルロプシス(Torulopsis)属、カンジダ(Candida)属、およびロードトルラ(Rhodotorula)属の酵母が挙げられ、より具体的には、トルロプシス・ヴェルサテリス(Torulopsis versatilis);カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、カンジダ・リポリティカ(Candida lipolytica)、カンジダ・ユチリス(Candida utilis);ロードトルラ・グルチニス(Rhodotorula glutinis)などが挙げられる。
なお、カンジダ(Candida)属の酵母は、分類学上、トルラ酵母(torula yeast)とも言われ、サイバリンドネラ(Cyberlindnera)属の酵母として分類されることがある。
【0036】
用いうる酵母として好ましくは、例えば、ビール酵母、ワイン酵母、パン酵母、トルラ酵母等が挙げられ、より具体的にはサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・ウバルム(Saccharomyces uvarum)、サッカロミセス・ルーキシイ(Saccharomyces rouxii)、クリヴェロミセス・フラギリス(Kluyveromyces fragilis)、トルロプシス・ヴェルサテリス(Torulopsis versatilis)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、カンジダ・リポリティカ(Candida lipolytica)、カンジダ・ユチリス(Candida utilis)、ロードトルラ・グルチニス(Rhodotorula glutinis)などが挙げられる。
なお、カンジダ・ユチリス(Candida utilis)は、分類学上、トルラ酵母の1種として、(Cyberlindnera jadinii)に分類されることがある。
【0037】
本発明の好ましい一実施形態において、核酸・酵母細胞壁成分に加え、更にリグニンスルホン酸を飼料組成物に配合しうる。リグニンスルホン酸を配合することにより、酵母を原料とする飼料用組成物の腐敗を抑制することができる。
【0038】
リグニンスルホン酸は、リグニンのヒドロキシフェニルプロパン構造の側鎖α位の炭素が開裂してスルホ基が導入された骨格を有する化合物である。リグニンスルホン酸は、塩の形態でありうる。本開示では、特に断らない限り、「リグニンスルホン酸」という用語には、リグニンスルホン酸塩の形態を含みうる。飼料用組成物にリグニンスルホン酸を添加するために、リグニンスルホン酸塩を添加してもよい。リグニンスルホン酸塩としては、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、カルシウム・ナトリウム混合塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩などが挙げられる。リグニンスルホン酸は、例えば、製紙産業で生じる亜硫酸パルプ廃液などから得ることができる。また、本発明において用いられるリグニンスルホン酸は、スルホン基、カルボキシル基、およびフェノール性水酸基等の官能基を有する高分子電解質で変性されたリグニンスルホン酸であってもよい。
【0039】
対象とする雌に給与する飼料用組成物中におけるリグニンスルホン酸の含有量は、適宜調整してよい。対象とする雌に給与する飼料組成物中のリグニンスルホン酸の含有量は、好ましくは1~50重量%でありうる。より具体的には、次のとおりである。
飼料用組成物中におけるリグニンスルホン酸の含有量の下限は、好ましくは1重量%以上であり、より好ましくは3重量%以上であり、さらに好ましくは5重量%以上でありうる。
飼料用組成物中におけるリグニンスルホン酸の含有量の上限は、好ましくは50重量%以下であり、より好ましくは40重量%以下であり、さらに好ましくは30、20、または10重量%以下でありうる。
【0040】
飼料用組成物の他の好ましい一実施形態として、更に亜硫酸塩を配合してもよい。亜硫酸塩を配合することは、酸化抑制、または雑菌の繁殖抑制などに寄与しうる。
【0041】
更に、飼料用組成物には、必要に応じ他の任意成分として、水分、油分、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、色材、香料、賦形剤、ビタミン類、ホルモン類、アミノ酸類、抗生物質、抗菌剤などを配合してもよい。
【0042】
飼料用組成物は、一般に、飼料または飼料用添加物として採用される形状でありうる。飼料用組成物の形状としては、例えば、粉体、顆粒、マッシュ、ペレット、クランブル、およびフレークなどが挙げられる。飼料用組成物の形態は、単一形態であってもよいし、上記のような形態のうちの2つ以上の形態のものの混合形態、例えば、ペレットとフレークの混合物、マッシュとペレットの混合物などとしてもよい。
【0043】
飼料用組成物には、上述の核酸、酵母細胞壁成分、リグニンスルホン酸、および上記の任意成分の他、一般的な飼料として主たる栄養成分(以下、主飼料成分または基礎飼料ともいう。)を配合することができる。主飼料成分としては、植物性飼料および/または動物性飼料などが挙げられる。植物性飼料は、植物由来の飼料であり、例えば、トウモロコシ、マイロ、大麦、小麦、キャッサバ、米ぬか、ふすま、大豆かす、菜種かす、米、米ぬか、およびビート、並びにこれらの加工品などが挙げられる。また、動物性飼料は、動物由来の飼料であり、例えば、魚粉、ポークミール、チキンミール、脱脂粉乳、および濃縮ホエーなどが挙げられる。これらは一種を単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
【0044】
2.非ヒト哺乳類の新生仔用乳組成物およびその生産方法
本発明の他の局面における一実施形態として、酵母細胞壁成分および分子量5,000~100,000の核酸を含む飼料組成物を、妊娠期に摂取した雌からから泌乳される、非ヒト哺乳類の新生仔用乳組成物が提供される。
【0045】
酵母細胞壁成分および分子量5,000~100,000の核酸を含む飼料組成物を妊娠期に摂取した雌からから泌乳される母乳を、生後間もない新生仔が摂取することにより、新生仔の増体重効率が向上する。また、新生仔体内においてTNF濃度が向上するため、新生仔の感染症予防に資すると考えられる。
【0046】
酵母細胞壁成分および分子量5,000~100,000の核酸を含む飼料組成物を、妊娠期に摂取した雌からから泌乳される乳組成物は、例えば、当該雌が出産した後、当該雌から搾乳することにより得ることができる。すなわち、本発明の他の局面における一実施形態として、酵母細胞壁成分および分子量5,000~100,000の核酸を含む飼料組成物を、非ヒト哺乳類の雌の妊娠期に摂取させ、当該雌が出産した後、当該雌から搾乳することを含む、非ヒト哺乳類の新生仔用乳組成物の生産方法が提供される。
【0047】
上記新生児用乳組成物およびその生産方法における好ましい実施形態は、既に詳述した上記非ヒト哺乳類の生産方法における各該当項目と同様である。
【0048】
3.本発明のその他の応用形態
本発明の更なる応用実施形態として、例えば、酵母細胞壁成分および分子量5,000~100,000の核酸を含む飼料組成物を早発性大腸菌症予防剤として、母体に摂取させることなどもありうる。早発性大腸菌症予防剤の好ましい実施形態は、上述の(a)所定の核酸・酵母細胞壁成分を含む組成物、または、(b)所定の核酸・酵母細胞壁成分およびリグニンスルホン酸を含む組成物に係る各該当項目とほぼ同様である。
【実施例0049】
以下に実施例を挙げて本発明について更に具体的に説明するが、本開示により提示される発明の技術的範囲(または技術的な射程)は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0050】
1.繁殖母豚への供与に伴う仔豚生育の改善
農場にて、リボ核酸と酵母細胞壁成分などを含む飼料組成物を繁殖母豚に給与したところ、生後間もない仔豚で発生しがちな諸問題が生じにくく、生育状態が全般的に良好であることが確認された。特に、生後間もない仔豚の育成において大きな問題である、早発性大腸菌症の発症が大幅に低減した。
【0051】
2.マウスモデルによる試験
繁殖母豚へのリボ核酸と酵母細胞壁成分を含む飼料組成物の給与が、仔豚の成長に及ぼす影響などをより詳細に解明するため、マウスモデルを用いて以下のように実験を行った。
【0052】
<被験物質>
リボ核酸および酵母細胞壁成分を含む飼料組成物として、「トルラプラス」(日本製紙社製の製品の名称)を配合した飼料組成物を用いた。トルラプラスは、重量平均分子量(Mw)が約20,000のリボ核酸と、脱核酵母と、リグニンスルホン酸とを含有する組成物である。トルラプラスにおける各成分の含有量は、リボ核酸が約8%、脱核酵母由来の細胞壁製品が約10%、リグニンスルホン酸またはその塩が約15%程度である。
【0053】
<供試動物>
BALB/c系雌マウス(導入時6週齢)12匹(追試分の2匹を含む。)
成雄マウス(導入時9週齢)10匹
【0054】
<供試した飼料>
基礎飼料として「AIN-93G」(オリエンタル酵母社製)を用いた。この基本飼料に、上記「トルラプラス」(日本製紙社製の製品の名称)を添加して試験供試用の添加剤配合飼料とした。添加剤配合飼料中のトルラプラスの添加濃度は0.5重量%となるように調合した。以下、トルラプラスを無添加の飼料、すなわち上記基礎飼料のことを「無添加飼料」と、トルラプラスを添加した飼料のことを「添加剤配合飼料」とも称する。飼料は、試験期間中を通して自由摂取させた。
【0055】
<母マウス試験>
(1)試験群
無添加飼料供与(C)群、添加剤配合飼料(T)群の計2群を設定した。各群、雌マウス5匹を用意した。なお、C群の1匹については、2回不受胎が続いたため、予備購入した雌マウス2匹をC群へ編入した。そのうち1匹が受胎したため、こちらの雌マウスをC群に繰り上げ、不受胎であった2匹(C4:本試験採用1匹、C6:予備マウス1匹)は除外対象とした。
【0056】
(2)馴化
添加剤配合飼料による試験開始前に、基礎飼料で7日間施設及び飼料馴化した。
【0057】
(3)飼育
馴化終了後、体重測定を実施し、体重が均一になるように雌マウスを2群分けし、一方には添加剤配合飼料を、他方には無添加飼料を給与した(試験開始時7週齢、予備編入マウス9週齢)。1週間の給与後、雄マウスとペアリングさせて、順次妊娠させた(妊娠8週齢、予備編入マウス10週齢)。ペアの組み合わせは1日ごとにローテーションで変更した。なお、離乳時まで添加剤配合飼料の給与を継続した。試験期間を通して飼料および飲水は自由摂取とした。
【0058】
試験開始から分娩まで飼料摂取量を測定した。体重測定は、試験開始時、ペアリング開始時、分娩日からさかのぼって1日前、7日前、14日前、分娩後16日に行った(計6回)。
【0059】
分娩時産仔数、離乳時産仔数および離乳時産仔体重を記録した。分娩後16日で全産仔を離乳させた。
【0060】
<仔マウス試験>
(1)試験群
16日齢で離乳した産仔の中で、体重が平均に近い4匹を1母マウス当たり選抜し、試験を開始した。4匹をさらに2区に分けた。即ちC群由来の仔に無添加飼料を給与する(Cc)群、離乳直後に剖検する(Cd)群、T群由来の仔に無添加飼料を給与する(Tc)群、離乳直後に剖検する(Td)群の計4群を設定した(各群n=6)。なお、上記4群で雌雄差および体重に偏りがないように配慮した。
【0061】
(2)飼育
Cc群及びTc群については、16日齢から21日齢まで各群所定の飼料を飽食で給与し、21日齢で剖検した。16及び21日齢で体重を測定した。また、飼育期間中の飼料摂取量を測定した。
【0062】
(3)剖検
Cd群、Td群は16日齢で、Cc群及びTc群は21日齢で、それぞれ剖検を行った。メデトミジン、ミタゾラム及びブトルファノール3種混合麻酔後、開腹し、脾臓を摘出した。
【0063】
(4)脾細胞の培養
脾臓から脾細胞を単離し、96穴プレートに1個体4ウェル、各ウェル1×105個ずつ播種した。抗原としてトルラプラスを2ウェルに8μg/ウェルとなるように添加した。残り2ウェルには同量の培地を添加した。37℃で48時間CO2インキュベータ内で培養後、培養上清を採取し、凍結保存した。培養上清中のTNFなどのサイトカイン類の濃度をサイトカインビーズアレイで測定した。
【0064】
<統計学的解析>
C群とT群間の差について、F検定による等分散性確認後、スチューデントもしくはウェルチのt検定で判定した。P<0.05を有意差ありと判断した。
【0065】
<試験結果>
(1)母マウスの体重、分娩及び離乳時仔腹総体重
試験開始時における母マウスの平均体重は、無添加飼料給与(C)群で18.7g、添加剤配合飼料給与(T)群で18.3gとT群がC群よりも低値を示したが、統計学的な差は認められなかった。
【0066】
ペアリング開始時における平均体重は、C群及びT群ともに、18.7gであった。分娩前14日における平均体重は、C群で20.6g、T群で20.8gと、T群がC群よりも高値を示したが、群間に有意差は認められなかった。
【0067】
表1に示すように、分娩前7日における平均体重は、C群で24.7g、T群で26.0gと、T群がC群よりも高値を示したが、群間に有意差が認められる程ではなかった。分娩前1日における平均体重は、C群で34.2g、T群で36.2gと、T群がC群よりも高値を示したが、群間に有意差が認められる程ではなかった。ペアリング開始時から分娩前1日までの体重増減は、C群で15.6g、T群で17.7gと、T群がC群よりも高値を示したが、群間に有意差が認められる程ではなかった。
【0068】
離乳時平均産仔数は、C群で7.0匹、T群で6.8匹と、T群がC群よりも若干低値を示したが、群間に有意差が認められる程ではなかった。分娩率は、C群で71%、T群で100%と、T群がC群よりも高値を示したが、群間に有意差が認められる程ではなかった。離乳時産仔平均腹体重は、C群で60.6g、T群で64.0gと、T群がC群よりも高値を示したが、群間に有意差が認められる程ではなかった。
【0069】
<離乳後の仔マウスの体重測定>
離乳直後剖検仔マウスの剖検時平均体重は、C群で9.4g、T群で9.2gと、T群がC群よりも若干低値を示したが、群間に有意差は認められなかった。離乳後5日剖検仔マウスの、離乳時平均体重は、C群で9.6g、T群で9.2gと、T群がC群よりも低値を示したが、群間に有意差が認められる程ではなかった。離乳後5日平均体重は、C群が11.3g、T群が11.8gと、T群がC群よりも高値を示したが、群間に有意差が認められる程ではなかった。しかしながら、離乳後5日増体は、C群で1.6g、T群で2.6gと、T群がC群よりも高値を示し、群間に有意差も認められた(
図1)。
【0070】
<仔マウスの脾細胞培養上清中のTNF濃度>
仔マウスの脾臓を採取し、培養後の培養上清サイトカイン濃度を測定した。Cd群(トルラプラス添加なし)の培養後上清中では、サイトカイン濃度はすべて検出限界以下であった。Td群(トルラプラス添加後)の培養上清中では、TNFのみが検出された。離乳時剖検マウスでの平均TNF濃度は、Cd群で602.29pg/mL、Td群で983.12pg/mLと、Td群がCd群よりも高値を示し、群間に有意差も認められた(
図2)。
【0071】