IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サンスター株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088908
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】環境アレルゲン活性低減用組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20240626BHJP
   C08L 39/06 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
C09K3/00 S
C08L39/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203951
(22)【出願日】2022-12-21
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸田 聡美
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BJ001
4J002EJ016
4J002GB04
(57)【要約】
【課題】環境アレルゲンの活性を低減する組成物の提供。
【解決手段】ヨウ化ポリビニルピロリドンを含む、環境アレルゲン活性低減用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ化ポリビニルピロリドンを含む、環境アレルゲン活性低減用組成物。
【請求項2】
ヨウ化ポリビニルピロリドンを0.01質量%以上含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記環境アレルゲンが、ダニアレルゲン及び/又はスギ花粉アレルゲンである、請求項1又は2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、環境アレルゲン活性低減用組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎など多くのアレルギー疾患が問題となってきている。アレルギー疾患は、例えばアレルゲンを含有する食物を摂取することで生じるもの(食物アレルギー)の他、環境中(例えば大気中や住居)に存在するアレルゲンによって引き起こされる場合もある。より具体的には、例えば、大気中に存在するアレルゲンを吸入したり、あるいは住居空間に存在する物体(ドアや壁など)に存在するアレルゲンに触れるなどして、生じる場合もある。このため、環境中のアレルゲンの除去や活性低減化も重要であると考えられている。これまでに、環境中のアレルゲン活性を低減するために、例えば、ダニアレルゲンや花粉アレルゲンに対してその活性を低減する作用を有する製剤が開発されてきた(特許文献1~5)。しかしながら、これらの製剤には、アレルゲン活性を低減させる効果が十分とは言えない問題、界面活性剤を含有することにより皮膚や粘膜への刺激が懸念される問題、生活用品への使用歴が浅く安全性に関するデータが十分とはいえないといった問題があった。このため、アレルゲン活性低減効果と安全性に優れた製剤の開発が望まれていた。
【0003】
一方、ヨウ化ポリビニルピロリドンは消毒剤として使われているが、アレルゲン活性を低減することは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6533853号公報
【特許文献2】特許第5574409号公報
【特許文献3】特許第4157692号公報
【特許文献4】国際公開第2009/044648号
【特許文献5】特許第6721040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、環境アレルゲンの活性を低減する組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、ヨウ化ポリビニルピロリドンが環境アレルゲンの活性を低減し得ることを見出し、さらに改良を重ねた。
【0007】
本開示は、例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
ヨウ化ポリビニルピロリドンを含む、環境アレルゲン活性低減用組成物。
項2.
ヨウ化ポリビニルピロリドンを0.01質量%以上含有する、項1に記載の組成物。
項3.
前記環境アレルゲンが、ダニアレルゲン及び/又はスギ花粉アレルゲンである、項1又は2に記載の組成物。
【発明の効果】
【0008】
環境アレルゲンの活性を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。
【0010】
本開示に包含される組成物は、ヨウ化ポリビニルピロリドンを含む。本明細書において、当該組成物を「本開示の組成物」と表記することがある。
【0011】
ヨウ化ポリビニルピロリドン(povidone iodine;PVP-I)とは、1-ビニル-2-ピロリドンの重合物(ポリビニルピロリドン)とヨウ素の複合体であり、ポビドンヨードとも称される。ヨウ化ポリビニルピロリドンは、長年うがい薬や手指の殺菌、傷の消毒薬などに広く使われてきた、代表的な消毒剤である。したがって、ヨウ化ポリビニルピロリドン安全性に優れているといえる。
【0012】
本開示の組成物に含まれるヨウ化ポリビニルピロリドンの含有量は、環境アレルゲンの活性を低減し得る限り特に限定されない。例えば、0.01質量%以上とすることができる。当該範囲の上限若しくは下限は、例えば、0.015、0.02、0.025、0.03、0.035、0.04、0.045、0.05、0.055、0.06、0.065、0.07、0.075、0.08、0.085、0.09、0.095、0.1、0.12、0.14、0.16、0.18、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、又は1質量%程度であってもよい。より具体的には、例えば、0.01~1質量%程度であってもよく、0.02~0.5質量%であることが好ましく、0.02~0.1質量%であることがより好ましい。
【0013】
本開示の組成物は、後述する実施例に示すとおり、環境アレルゲンの活性を低減することができる。環境アレルゲンとしては、例えば、ハウスダスト、動物性アレルゲン(ダニ類、ペット、家畜、昆虫等)、植物性アレルゲン(樹木花粉、イネ科植物花粉、雑草花粉等)、真菌アレルゲン、細菌アレルゲン等が挙げられる。ダニアレルゲンとしては、具体的にはDer f 1、Der f 2、Der p 1、Der p 2等が挙げられ、花粉アレルゲンとしては、具体的にはCry j 1、Cry j 2、Amb a 1、Phl p 5、Bet v 1等が挙げられる。対象とする環境アレルゲンは、1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0014】
本開示の組成物は、ヨウ化ポリビニルピロリドンを含み、さらに他の成分を含むことができる。当該他の成分としては、例えば、溶剤、担体、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、界面活性剤、抗酸化剤、保存剤、防腐剤、除菌剤、コーティング剤、着色料、香料、pH調整剤、その他の抗アレルゲン成分等が例示される。これらの成分は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
溶剤としては、例えば、水;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール、n-ヘキサノール等のアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリオキシエチレングリコール200、ポリオキシエチレングリコール400、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノn-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノn-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メトキシブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール等のグリコールエーテル類等が挙げられる。中でも、水、又はアルコール類が好ましい。これらの溶剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
本開示の組成物は、ヨウ化ポリビニルピロリドンと、必要に応じて他の成分とを組み合わせて常法により調製することができる。
【0017】
本発明の組成物の形状は、特に限定されない。例えば、液体状(例えば、溶液状、懸濁液状等)、ペースト状、ゲル状、クリーム状又は固体状(例えば、粉末状、顆粒状等)等であってもよい。中でも、液体状であることが好ましい。
【0018】
本発明の組成物は、例えば、環境アレルゲンが存在し得る対象物に、噴霧、塗布、浸漬等により付着させて使用することができる。
【0019】
環境アレルゲンが存在し得る対象物としては、特に限定されないが、例えば、衣料品、カーペット、ソファー、壁紙、カーテン等のインテリア類、布団側地、布団カバー、布団中綿、シーツ、枕カバー、マット等の寝具類、カーシート、カーマット、天井材及び床材等の自動車部品類、ぬいぐるみ、掃除用ウェットワイパー、マスク、フィルター材料、電気掃除機の集塵袋等の繊維や繊維製品等が挙げられる。
【0020】
また、本開示の組成物は、洗濯時に使用する洗剤や柔軟仕上げ剤等に添加することもできる。
【0021】
本開示の組成物による環境アレルゲンの活性低減効果は、後述する実施例に記載の評価方法(より具体的には、環境アレルゲンと、環境アレルゲンに反応する特異的抗体とを反応させる方法)により、初めて確認されたものである。
【0022】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件の任意の組み合わせを全て包含する。
【0023】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、数値、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0024】
本開示の内容を以下の実施例を用いて具体的に説明する。しかし、本開示はこれらに何ら限定されるものではない。下記において、特に言及する場合を除いて、実験は大気圧及び常温(20~30℃程度)条件下で行っている。また特に言及する場合を除いて、「%」は「質量%」を意味する。また、各表に記載される各成分の配合量値も特に断らない限り「質量%」を示す。
試験例1.ダニアレルゲン(Der f 1)不活化試験
本発明者は、ヨウ化ポリビニルピロリドン(PVP-I)がダニアレルゲン不活化効果を有するかを検討した。なお、試験例1はITEA株式会社に委託して実施した。
【0025】
ダニアレルゲンとしては、代表的なダニアレルゲンの1種であるDer f 1を用いた。具体的には、サンドウィッチELISA法により、ダニアレルゲン不活化(低減)率を測定した。アレルゲンであるDer f 1を含むダニ培地抽出物(ITEA社製)を、薬剤との反応時に反応液中のアレルゲン量が150ngとなるアレルゲン溶液に調製した。薬剤と前記アレルゲン溶液を9:1の割合で混合し、4℃で16時間反応させた。薬剤の代わりに精製水を用いたものをコントロールとした。反応後、薬剤混合液及びコントロール中のDer f 1濃度を、ITEAダニアレルゲン(Der f 1)ELISAキット(ITEA社製)を用いて、サンドウィッチELISA法(酵素免疫測定法)により測定した。なお、プレートの固相化は当該測定の前日に行った。
【0026】
なお、薬剤としては、ヨウ化ポリビニルピロリドン(PVP-I)0.02%水溶液、PVP-I 0.1%水溶液、タンニン酸 0.02%水溶液、及びタンニン酸 0.1%水溶液を用いた。
【0027】
得られた薬剤混合液及びコントロール中のDer f 1濃度から、アレルゲン低減率を以下の式を用いて算出した。
アレルゲン不活化率(%)=(Y-X)/Y×100
X:薬剤混合液のアレルゲン濃度
Y:コントロールのアレルゲン濃度
結果を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
タンニン酸は、ダニアレルゲンやスギ花粉アレルゲン等に対するアレルゲン活性低減作用を有することがこれまでに知られている。表1に示すように、ヨウ化ポリビニルピロリドンは、タンニン酸よりも優れたダニアレルゲンに対する活性低減作用を有することが確認された。
試験例2.環境アレルゲン不活化試験
次に本発明者は、ヨウ化ポリビニルピロリドン(PVP-I)がDer f 1以外の環境アレルゲンに対しても不活化効果を有するかを検討した。なお、試験例2は株式会社ビオスタに委託して実施した。
【0030】
環境アレルゲンとしては、試験例1で用いたDer f 1に加えて、主要なダニアレルゲンの1種であるDer f 2、及び、主要なスギ花粉アレルゲンの1種であるCry J 1を用いた。具体的には、サンドウィッチELISA法により、ダニアレルゲン及びスギ花粉アレルゲンの不活化(低減)率を測定した。アレルゲンであるDer f 1、Der f 2、Cry j 1それぞれについて、10μg/mL濃度のアレルゲン溶液を調製した。より詳細には、コナヒョウヒダニ虫体由来精製抗原(Der f 1 Indoor社製、Der f 2 アサヒビール社製)、スギ花粉由来精製抗原Cry j 1(バイオダイナミクス社製)それぞれについて、0.1%BSAと0.05%Tween20を含むPBSと混合し、10μg/mL濃度のアレルゲン溶液とした。薬剤990μL中にアレルゲン溶液を10μL添加し、4℃で24時間反応させた。薬剤の代わりに精製水を用いたものをコントロールとした。
【0031】
薬剤混合液及びコントロール中のDer f 1、Der f 2、Cry j 1濃度をサンドウィッチELISA法(酵素免疫測定法)を用いて測定した。なお測定は、Der f 1についてはDer f 1 ELISA測定キット(ニチニチ製薬社製)を、Der f 2についてはAnti Der f 2Ab 108、Biotinylated anti mite Group 1 mAb 7A1(Indoor社製)を、Cry j 1についてはAnti-Cry j 1 mAb013、Peroxidase conjugated anti-Cry j 1 mAb 053(バイオダイナミクス社製)を用いて行った。
【0032】
なお、薬剤としては、ヨウ化ポリビニルピロリドン(PVP-I)0.02%水溶液、及びPVP-I 0.1%水溶液を用いた。
【0033】
得られた薬剤混合液及びコントロール中のアレルゲン濃度から、アレルゲン不活化率を以下の式を用いて算出した
アレルゲン不活化率(%)=(Y-X)/Y×100
X:薬剤混合液のアレルゲン濃度
Y:コントロールのアレルゲン濃度
結果を表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
表2に示すように、ヨウ化ポリビニルピロリドンは、ダニアレルゲンDer f 1のみならず、他のダニアレルゲンDer f 2、及び、スギ花粉アレルゲンCry J 1に対しても、優れたアレルゲン活性低減作用を有することが確認された。
【0036】
以上の結果から、ヨウ化ポリビニルピロリドンが、様々な環境アレルゲンに対して優れたアレルゲン活性低減作用を有することが判明した。