(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088940
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】連梯子
(51)【国際特許分類】
E06C 7/06 20060101AFI20240626BHJP
E06C 1/12 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
E06C7/06
E06C1/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203994
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000101662
【氏名又は名称】アルインコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077791
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 収二
(72)【発明者】
【氏名】和久田 美奈
【テーマコード(参考)】
2E044
【Fターム(参考)】
2E044AA01
2E044BA01
2E044CA04
2E044CB03
2E044CC01
2E044DA01
2E044DB01
(57)【要約】
【課題】下梯子に上梯子を上下移動自在に並設した連梯子を提供する。
【解決手段】下梯子の上端近傍部に固定されて上梯子の左右柱脚を摺動自在に保持する固定側ガイド(3K)と、上梯子の下端近傍部に固定されて下梯子の左右柱脚を摺動自在に保持する移動側ガイド(3M)を設け、上梯子(2)の左右柱脚の下端近傍部に踏桟が設けられていない非連結部(2X)を形成し、該非連結部に上梯子の下動を阻止する係止機構(5)の係止体(8)を設けた連梯子において、下梯子及び上梯子は、少なくとも左右柱脚の表面に着色膜を有しており、前記固定側ガイド及び移動側ガイドは、左右柱脚を摺動自在に保持する保持部に合成樹脂製の保持材(13)を設けており、前記移動側ガイド(3M)は、前記上梯子の左右柱脚の非連結部(2X)において最下位の踏桟(2a1)と前記係止体(8)の間の位置に設けられている。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に間隔をあけて配置された踏桟により左右一対の柱脚を連結した下梯子と上梯子が構成され、上梯子が下梯子の背面側にガイド機構を介して上下移動自在に連結状態で並設され、上下移動により両梯子の踏桟が相互に上下方向に整列状態とされたとき上梯子の下動を阻止する係止機構が設けられており、
前記ガイド機構(3)は、下梯子の上端近傍部に固定されて上梯子の左右柱脚を摺動自在に保持する固定側ガイド(3K)と、上梯子の下端近傍部に固定されて下梯子の左右柱脚を摺動自在に保持する移動側ガイド(3M)により構成され、
前記係止機構(5)は、上梯子の左右柱脚の内側に回動自在に枢結された係止体(8)と、該係止体を下梯子の踏桟に交差姿勢とするように保持するスプリングを備え、前記係止体は、上梯子が上下動するときは下梯子の踏桟の摺擦を受けて上下回動することにより該踏桟を乗り越えると共に、上梯子が上動するとき下梯子の踏桟の踏面と背面に係止するほぼL形の切欠き部(12)を備え、該切欠き部を係止した状態で上梯子の上動は許すが下動は阻止するように構成されて成る連梯子において、
前記上梯子(2)は、上下方向に所定ピッチで間隔をあけて踏桟(2a)を配置する一方において、最下位の踏桟(2a1)と該踏桟の上に配置される次の踏桟(2a2)の間隔を2倍のピッチとすることにより、両踏桟の間において相互に踏桟で連結されていない左右柱脚の非連結部(2X)を形成し、該非連結部に前記係止体(8)を設けており、
前記下梯子及び上梯子は、少なくとも左右柱脚の表面に着色膜を有しており、前記固定側ガイド及び移動側ガイドは、左右柱脚を摺動自在に保持する保持部に合成樹脂製の保持材(13)を設けており、
前記移動側ガイド(3M)は、前記上梯子の左右柱脚の非連結部(2X)において、最下位の踏桟(2a1)と前記係止体(8)の間の位置に設けられて成ることを特徴とする連梯子。
【請求項2】
前記係止体(8)は、上側爪部(10)と下側爪部(11)を備え、両爪部の間に前記切欠き部(12)を形成すると共に、該切欠き部の反対側における上側爪部と下側爪部の外側縁部に傾斜カム部を形成しており、
前記上側爪部の傾斜カム部は、上梯子が上動するとき、下梯子の踏桟の摺擦を受けて係止体を下回動させるように構成され、前記下側爪部の傾斜カム部は、上梯子が下動するとき、下梯子の踏桟の摺擦を受けて係止体を上回動させるように構成されており、
前記下梯子及び上梯子は、踏桟(1a)(2a)の表面に着色膜を有しており、前記上側爪部と下側爪部の傾斜カム部(15a)(15b)を合成樹脂製のカバー材(15)により形成して成ることを特徴とする請求項1に記載の連梯子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の梯子を相互に上下移動自在に並設した連梯子に関する。
【背景技術】
【0002】
連梯子は、下梯子に対して上梯子を上下移動自在に連結状態で並設している。そこで、上梯子を上動させた状態で使用することにより、高所作業のための高さ範囲を拡張可能とする反面、上梯子を下動させて下梯子の背面に重なるように格納することにより、コンパクトな状態で持ち運びや保管を可能にする利点がある。
【0003】
下梯子及び上梯子は、それぞれ、上下に間隔をあけて配置された踏桟により左右一対の柱脚を連結することにより構成され、上梯子が下梯子の背面側にガイド機構を介して上下移動自在に連結状態で並設され、上下移動により両梯子の踏桟が相互に上下方向に整列状態とされたとき上梯子の下動を阻止する係止体を備えた係止機構が設けられている。
【0004】
前記梯子を構成する柱脚及び踏桟は、アルミニウム等の金属により押出成形された型材により構成され、型材を切断した所定長さのものが使用されている。
【0005】
前記ガイド機構は、下梯子の上端近傍部に固定されて上梯子の左右柱脚を摺動自在に保持する固定側ガイドと、上梯子の下端近傍部に固定されて下梯子の左右柱脚を摺動自在に保持する移動側ガイドにより構成されている。この際、これらのガイドも、アルミニウム等の金属により押出成形された型材により構成され、型材を切断した所定長さのものが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、梯子を構成するアルミニウム等の金属製の柱脚及び踏桟は、表面処理を施されているが、一般的に、外観の全体が金属色とされた製品として提供されている。このため、工事用ないし作業用としての製品イメージが定着しており、趣味感に乏しく、しかも、競合製品の間において、外観による差別化が困難である。
【0008】
そこで、梯子を構成する柱脚と踏桟のうち、少なくとも柱脚、好ましくは柱脚及び踏桟の両方を塗装することにより、梯子の外観を金属色とは異なる色彩により表すことが望ましい。
【0009】
ところが、連梯子の場合、下梯子と上梯子は、相互に固定側ガイドや移動側ガイドにより連結され、上下動の際に、金属製のガイドにより柱脚が摺動自在に保持されているので、塗装表面が摺擦されることより、塗装の損傷や剥離を生じるという問題がある。
【0010】
この点の問題を解決するため、本発明者は、固定側ガイドや移動側ガイドに合成樹脂製の保持材を設け、これを塗装表面に摺擦させれば、塗装の損傷や剥離を防止できることを知得した。
【0011】
しかしながら、その場合は、後述するように、上梯子が所定の下向き荷重に耐えることが困難となり、係止体が脱落のおそれとなる原因を生成する等、更に解決すべき問題があることを知見した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記問題を解決した連梯子を提供するものであり、その手段として構成したところは、上下に間隔をあけて配置された踏桟により左右一対の柱脚を連結した下梯子と上梯子が構成され、上梯子が下梯子の背面側にガイド機構を介して上下移動自在に連結状態で並設され、上下移動により両梯子の踏桟が相互に上下方向に整列状態とされたとき上梯子の下動を阻止する係止機構が設けられており、前記ガイド機構は、下梯子の上端近傍部に固定されて上梯子の左右柱脚を摺動自在に保持する固定側ガイドと、上梯子の下端近傍部に固定されて下梯子の左右柱脚を摺動自在に保持する移動側ガイドにより構成され、前記係止機構は、上梯子の左右柱脚の内側に回動自在に枢結された係止体と、該係止体を下梯子の踏桟に交差姿勢とするように保持するスプリングを備え、前記係止体は、上梯子が上下動するときは下梯子の踏桟の摺擦を受けて上下回動することにより該踏桟を乗り越えると共に、上梯子が上動するとき下梯子の踏桟の踏面と背面に係止するほぼL形の切欠き部を備え、該切欠き部を係止した状態で上梯子の上動は許すが下動は阻止するように構成されて成る連梯子において、前記上梯子は、上下方向に所定ピッチで間隔をあけて踏桟を配置する一方において、最下位の踏桟と該踏桟の上に配置される次の踏桟の間隔を2倍のピッチとすることにより、両踏桟の間において相互に踏桟で連結されていない左右柱脚の非連結部を形成し、該非連結部に前記係止体を設けており、前記下梯子及び上梯子は、少なくとも左右柱脚の表面に着色膜を有しており、前記固定側ガイド及び移動側ガイドは、左右柱脚を摺動自在に保持する保持部に合成樹脂製の保持材を設けており、前記移動側ガイドは、前記上梯子の左右柱脚の非連結部において、最下位の踏桟と前記係止板の間の位置に設けられて成る点にある。
【0013】
本発明の実施形態において、前記係止体は、上側爪部と下側爪部を備え、両爪部の間に前記切欠き部を形成すると共に、該切欠き部の反対側における上側爪部と下側爪部の外側縁部に傾斜カム部を形成しており、前記上側爪部の傾斜カム部は、上梯子が上動するとき、下梯子の踏桟の摺擦を受けて係止体を下回動させるように構成され、前記下側爪部の傾斜カム部は、上梯子が下動するとき、下梯子の踏桟の摺擦を受けて係止体を上回動させるように構成されており、前記下梯子及び上梯子は、踏桟の表面に着色膜を有しており、前記上側爪部と下側爪部の傾斜カム部は、合成樹脂製のカバー材により形成されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、柱脚や踏桟の表面に着色膜を有するので趣味感に優れた連梯子を提供することができ、しかも、下梯子1に対して上梯子2を上下移動する際に、ガイド機構3の保持部に合成樹脂製の保持材13を設けているので、着色膜の損傷や剥離を生じることはない。
【0015】
この点に関して、合成樹脂製の保持材13を設けた移動側ガイド3Mを先行技術と同様に上梯子2の柱脚の非連結部2Xよりも下方位置に取付固定する場合は、垂直荷重Fにより、移動側ガイド3Mに設けられた合成樹脂製の保持材13が柱脚1L、1Rの表面で位置ずれを生じ、係止体8の回転を発生させるため、保持力を低下する問題がある。これに対して、本発明は、移動側ガイド3Mを非連結部2Xに取付固定した「ガイドの位置的特徴」を備えているので、移動側ガイド3Mそれ自体により非連結部2Xの変形が抑制され、係止体8が回転せず係止するため、保持力を持続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本出願人が先に開発した連梯子の先行技術に関して、下梯子と上梯子を分離した状態を示す斜視図である。
【
図2】先行技術に関して、(A)は下梯子に上梯子を組み合わせて並設した状態を示す斜視図、(B)は縦断面図である。
【
図3】先行技術のガイド機構に関して、(A)は固定側ガイドを示す平面図、(B)は移動側ガイドを示す平面図である。
【
図4】先行技術の係止機構に関して、(A)は分解状態の斜視図、(B)は係止体の作用を示す側面図である。
【
図5】先行技術の係止機構に関して、(A)は上梯子の係止体と下梯子の踏桟の関係を示す縦断面図、(B)は部分拡大図である。
【
図6】先行技術の係止機構の作用に関して、(A)は係止体が下梯子の踏桟の下側に位置させられた状態を示す縦断面図、(B)は上梯子を上動することにより係止体が下回動された状態を示す縦断面図、(C)は係止体が下梯子の踏桟に係止した状態を示す縦断面図、(D)は上梯子を更に上動することにより係止体が下梯子の踏桟の上方に位置させられた状態を示す縦断面図、(E)は上梯子を下動することにより係止体が上回動して踏桟を乗り越えた状態を示す縦断面図である。
【
図7】本発明に係る連梯子の実施形態に関して、ガイド機構を示しており、(A)はガイドと保持材を分解した状態を示す斜視図、(B)保持部材を装着した左側のガイドを示す斜視図、(C)は保持部材を装着した右側のガイドを示す斜視図である。
【
図8】本発明の実施形態に関して、ガイド機構を示しており(A)は固定側ガイドを示す平面図、(B)は移動側ガイドを示す平面図である。
【
図9】本発明の実施形態に関して、係止機構を示しており、(A)は分解状態の斜視図、(B)は係止体の作用を示す側面図である。
【
図10】本発明の実施形態に関して、上梯子の柱脚における踏桟のない非連結部に対して移動側ガイドが取付固定されている「ガイドの位置的特徴」を示す縦断面図である。
【
図11】本発明の実施品について耐荷重性能に関する実験を実施したときの状態を示す説明図である。
【
図12】本発明に対する比較例を示しており、耐荷重性能に関する実験の方法を説明する縦断面図である。
【
図13】比較例について耐荷重性能に関する実験を実施したときの状態を示しており、(A)及び(B)は荷重が作用している状態を示す説明図、(C)は荷重を受けたときの係止体並びに固定側ガイド及び移動側ガイドの状態を示す斜視図である。
【
図14】比較例の実験結果に関して、(A)は係止体並びに固定側ガイド及び移動側ガイドに生じる反力を示す斜視図、(B)及び(C)は係止体の作用を示す説明図である。
【
図15】比較例の実験結果に関して、(A)は上梯子の柱脚が弓形に湾曲した状態を示す説明図、(B)は移動側ガイドの作用を示す説明図である。
【
図16】比較例と本発明の実施品を対比しており、(A)は比較例を示し、(B)は本発明の実施品を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下図面に基づいて本発明の好ましい実施形態を詳述する。
【0018】
(先行技術)
図1ないし
図6は、本出願人が本発明に先立ち開発した連梯子(以下、「先行技術」という。)を示している。
【0019】
図1及び
図2に示すように、2連梯子を構成する連梯子は、下梯子1の背面側に上梯子2を並設しており、それぞれの梯子は、左右一対の柱脚を上下方向に間隔をあけて配置した踏桟により連結している。即ち、下梯子1は、左右一対の柱脚1L、1Rを踏桟1aにより連結し、上梯子2は、左右一対の柱脚2L、2Rを踏桟2aにより連結している。
【0020】
上梯子2は、下梯子1に対して、ガイド機構3を介して、上下移動自在に連結状態で並設されており、上下移動により両梯子1、2の踏桟1a、2aが相互に上下方向に整列状態とされたとき上梯子2の下動を阻止する係止機構5が設けられている。
【0021】
図2(B)に示すように、下梯子1及び上梯子2は、踏桟1a、2aを上下方向に等間隔をあけて同一ピッチPで配置しているが、上梯子2は、最下位の踏桟2a1と、その上の踏桟2a2の間隔を2倍のピッチ2Pとしている。これにより、上梯子2の柱脚2L、2Rには、両踏桟2a1、2a2の間において相互に踏桟で連結されていない非連結部2Xが形成されており、該非連結部2Xに前記係止機構5が設けられている。
【0022】
下梯子1の柱脚1L、1R及び踏桟1a並びに上梯子2の柱脚2L、2R及び踏桟2aは、アルミニウム等の金属により押出成形された型材により構成されており、型材を切断した所定長さのものが使用されている。
【0023】
前記ガイド機構3は、固定側ガイド3Kと移動側ガイド3Mにより構成されている。固定側ガイド3Kは、下梯子1の柱脚1L、1Rの上端近傍部に固定された状態で、上梯子2の柱脚2L、2Rを摺動自在に保持する。これと反対に、移動側ガイド3Mは、上梯子2の柱脚2L、2Rの下端近傍部に固定された状態で、下梯子1の柱脚1L、1Rを摺動自在に保持する。
【0024】
図3(A)(B)に示すように、固定側ガイド3Kと移動側ガイド3Mは、同一部材とされたガイド金具4を反転させた状態で取付けている。
【0025】
ガイド金具4は、アルミニウム等の金属により押出成形された型材を切断したものが使用されており、平板状の取付部4aと溝形の保持部4bを隣接状態で連設している。
【0026】
固定側ガイド3Kは、
図3(A)に示すように、下梯子1の上端近傍部において柱脚1L、1Rの外側面にリベット等でガイド金具4の取付部4aを固着させ、保持部4bにより上梯子2の柱脚2L、2Rの外側面を含んで抱持した状態で摺動自在に保持している。
【0027】
移動側ガイド3Mは、
図3(B)に示すように、上梯子2の下端近傍部において柱脚2L、2Rの外側面にリベット等でガイド金具4の取付部4aを固着させ、保持部4bにより下梯子1の柱脚1L、1Rの外側面を含んで抱持した状態で摺動自在に保持している。
【0028】
図4ないし
図6に示すように、前記係止機構5は、上梯子2の左右柱脚2L、2Rにおける非連結部2Xの内側に取付けられる搭載金具6と、該金具6のU形折曲部6aの空間に挿入されると共に、枢軸7を介して回動自在に枢結された係止体8と、該係止体8を下梯子1の踏桟1aに交差姿勢とするように保持するスプリング9を備えている。
【0029】
前記係止体8は、金属板を打ち抜くことにより、上側爪部10と下側爪部11の間にほぼL形の切欠き部12を形成しており、下梯子1の踏桟1aの踏面(上面)と背面(上梯子に対向する面)に切欠き部12を係止した状態で、上梯子2の上動は許すが下動は阻止するように構成されている。
【0030】
図4及び
図5に示すように、係止体8は、常時、スプリング9により、下梯子1の踏桟1aに交差する姿勢(常態姿勢N)に保持されている。この常態姿勢Nから、係止体8は、外力を与えることにより、スプリング9に抗して、上回動及び下回動が可能である。尚、上側爪部10の外側縁部(切欠き部12の反対側の上縁)により下動用の傾斜カム部10aが形成され、下側爪部11の外側縁部(切欠き部12の反対側の下縁)により上動用の傾斜カム部11aが形成されている。
【0031】
図6(A)に示すように、係止体8が常態姿勢Nとされた状態で上梯子2を上方に向けて移動すると、上側爪部10の傾斜カム部10aが下梯子1の踏桟1aの下面に当接し、
図6(B)に示すように、係止体8をスプリング9に抗して下向き回動させる。上梯子2の上動により、上側爪部10が前記踏桟1aの上面に臨むと、係止体8は、スプリング9により常態姿勢Nに向けて付勢されているので、
図6(C)に示すように、切欠き部12を前記踏桟1aの踏面と背面に合致させ係止する。そこで、上梯子2は、停止させると、下動が阻止された状態とされる。つまり、作業者は、上梯子2の踏桟2aに足を掛けて、昇り降りすることができる。
【0032】
図6(C)に示す状態から、上梯子2を上動すると、切欠き部12が前記踏桟1aから外れるので、
図6(D)に示すように、係止体8がスプリング9により常態姿勢Nに戻された状態で、上梯子2を上方に移動することができる。
図6(D)に示す状態から、上梯子2を下方に移動したときは、
図6(E)に示すように、係止体8は、下側爪部11の傾斜カム部11aが踏桟1aに当接することにより、スプリング9に抗して上向き回動され、踏桟1aを乗り越えることにより、上梯子2を下動させることができる。
【0033】
(先行技術の課題)
連梯子は、下梯子1の柱脚1L、1R及び踏桟1a並びに上梯子2の柱脚2L、2R及び踏桟2aをアルミニウム等の金属により押出成形された型材により構成しており、外観の全体が金属色とされている。
【0034】
このため、製品の趣味感を向上させ、他社製品との差別化を図るためには、柱脚と踏桟のうち、少なくとも柱脚、好ましくは柱脚及び踏桟の両方を塗装することにより、梯子の外観を金属色とは異なる色彩により表すことが望ましい。
【0035】
ところが、下梯子1の柱脚1L、1R及び上梯子2の柱脚2L、2Rを塗装した場合、上述のように、固定側ガイド3K及び移動側ガイド3Mは、ガイド金具4がアルミニウム等の金属により押出成形された型材により構成されているので、上梯子2を上下移動する際、ガイド金具4の保持部4bが柱脚の塗装表面を摺擦することより、塗装の損傷や剥離を生じるという問題がある。
【0036】
更に、下梯子1の踏桟1a及び上梯子2の踏桟2aを塗装した場合、上述のように、係止機構5の係止体8は、金属板により形成されているので、上梯子2を上下移動する際、傾斜カム部10a、11aが下梯子1の踏桟1aの塗装表面を摺擦することより、塗装の損傷や剥離を生じるという問題がある。
【0037】
(本発明の実施形態)
図7ないし
図10は、本発明の好ましい実施形態を示しており、連梯子の基本的構成は、上述した先行技術の構成とほぼ同様であるから、同一構成部分は同一符号で示し、上述の説明を援用する。
【0038】
先行技術と相違する構成として、本発明の連梯子は、下梯子1の柱脚1L、1R及び踏桟1a並びに上梯子2の柱脚2L、2R及び踏桟2aの表面に着色膜を形成している。着色膜は、塗装による塗膜により形成することができる他、アルマイト処理による酸化膜等によっても形成することができる。これにより、連梯子の外観は、全体として、金属色とは異なる色彩により表されている。色彩は、型材の地色と異なる色であれば自由に選択可能であり、黒や白等の無彩色としても良く、青や赤等の有彩色としても良い。しかしながら、全体に着色膜を形成する他に、柱脚と踏桟のうち、柱脚の表面だけに形成し、踏桟は着色膜を形成していないものとしても良い。
【0039】
塗装等の着色膜に関する上述の問題、つまり、柱脚1L、1R及び柱脚2L、2Rにおける着色膜の損傷や剥離の問題を解決するため、本発明の連梯子は、ガイド機構3を構成するガイド金具4の保持部4bに合成樹脂製の保持材13を設けている。
【0040】
更に、図示実施形態の場合、下梯子1の踏桟1aにおける着色膜の損傷や剥離の問題を解決するため、係止機構5を構成する係止体8に合成樹脂製のカバー材15を設けている。
【0041】
ところで、ガイド機構3に合成樹脂製の保持材13を設けた場合、新たな問題を提起することが判明した。後述する実験結果のとおり、上梯子2に所定の下向き荷重を加えたとき、移動ガイド3Mが下梯子1の柱脚1L、1Rから滑落し、係止体8が下梯子1の踏桟1aから脱落するおそれとなる原因を生成することが確認されたが、この点は、後述する「ガイドの位置的特徴」を設けることにより、問題を解決できることが知得された。
【0042】
(保持材)
図7及び
図8に示すように、ガイド機構3の固定側ガイド3K及び移動側ガイド3Mを構成するガイド金具4は、溝形の保持部4bの内側面に合成樹脂製の保持材13を内嵌した状態で取付固定している。
【0043】
保持材13は、保持部4bの内面に沿う板状のものとされ、底壁13aと両側壁13bを備えた断面溝形に形成されており、保持部4bに対して固定手段14を介して取付固定される。図示実施形態の場合、固定手段14は、前記底壁13aの外側面に突設された頭付き突起14aと、保持部4bに貫設された孔14bにより構成され、突起14aを孔14bにスナップ状態として挿着することにより取付固定される。
【0044】
これにより、固定側ガイド3Kは、
図8(A)に示すように、下梯子1の上端近傍部において柱脚1L、1Rの外側面にリベット等でガイド金具4の取付部4aが固着され、この状態で、保持部4bの保持材13が上梯子2の柱脚2L、2Rの外側面を含んで抱持することにより、摺動自在に保持する。
【0045】
また、移動側ガイド3Mは、
図8(B)に示すように、上梯子2の下端近傍部において柱脚2L、2Rの外側面にリベット等でガイド金具4の取付部4aが固着され、この状態で、保持部4bの保持材13が下梯子1の柱脚1L、1Rの外側面を含んで抱持することにより、摺動自在に保持する。
【0046】
図示省略しているが、柱脚1L、1R及び柱脚2L、2Rの表面は塗装等による着色膜により被覆されている。上梯子2の上下移動により、柱脚に沿って移動するガイド金具4は、合成樹脂製の保持材13を着色膜の表面に沿って滑りながら摺擦するので、着色膜の損傷や剥離を生じることはない。
【0047】
(カバー材)
図9に示すように、係止機構5の係止体8は、合成樹脂製のカバー材15により被われている。カバー材15は、金属板から成る係止体8を挿入することにより、該係止体8を被覆した状態で、貫通するボルト16aにナット16bを締結することにより固定されている。
【0048】
この際、カバー材15は、上側爪部10の上縁を被う上側の傾斜カム部15aと、下側爪部11の下縁を被う下側の傾斜カム部15bを形成する。合成樹脂により射出成形する際の金型の離型の関係上、上側の傾斜カム部15aにスリットが開設されているが、スリットの両側の部分が上側爪部10の上縁よりも隆起している。下側の傾斜カム部15bは、下側爪部11の下縁を被覆している。
【0049】
これにより、上梯子2を上下移動することにより、係止体8が下梯子1の踏桟1aに当接して上下回動させられる際、当接しながら摺擦される係止体8の傾斜カム部15a、15bが合成樹脂製のカバー材15により形成されているので、踏桟1aの着色膜の損傷や剥離が防止される。
【0050】
ところで、図示実施形態の場合、カバー材15は、係止体8の切欠き部12に臨んで窓孔15cを開設し、切欠き部12に沿う係止体8のL形縁部を露出させている。従って、係止体8の切欠き部12が下梯子1の踏桟1aの踏面及び背面に係止したとき、係止体8の金属縁部が踏桟1aに当接することにより、下向き荷重に耐えることができる。つまり、合成樹脂製カバー材15が破損することはない。しかしながら、このような窓孔15cを設けず、係止体8の全体をカバー材15で被覆し、カバー材15に切欠き部12を形成するように構成しても良い。
【0051】
(移動側ガイド)
図10に示すように、保持材13を設けたガイド金具4により構成された移動側ガイド3Mは、上梯子2を構成する柱脚2L、2Rの非連結部2Xにおいて、最下位の踏桟2a1と係止体8の間の位置に設けられている。図示実施形態の場合、最下位の踏桟2a1から距離L1により示す上方位置で、かつ、係止体8から距離L2により示す下方位置に設けられている。
【0052】
上述の先行技術を含む従来技術に係る連梯子は、
図2(B)及び
図5(A)に示すように、移動側ガイド3Mが上梯子2の柱脚2L、2Rの非連結部2Xよりも下方の下端位置、即ち、最下位の踏桟2a1よりも下側の位置に設けられている。これに対して、本発明は、移動側ガイド3Mを非連結部2Xに設けることを特徴(以下、「ガイドの位置的特徴」という。)としている。その意義について、以下に説明する。
【0053】
(比較例)
ガイドの位置的特徴の意義を確認するため、本発明の実施品(図示実施形態のとおりのもの)と、
図12に示す比較例について、それぞれ実験を行い、相違を確認した。実験に供した比較例は、
図12に示すとおり、移動側ガイド3Mを上梯子2の柱脚2L、2Rの非連結部2Xよりも下方の下端位置に設けている。即ち、比較例は、移動側ガイド3Mを最下位の踏桟2a1から距離Kにより示す下方位置に取付固定しており、上述のようなガイドの位置的特徴を備えていない点だけが本発明の実施品と相違しており、それ以外の構成は、本発明の実施品と同一のものである。つまり、下梯子1の柱脚1L、1R及び踏桟1a並びに上梯子2の柱脚2L、2R及び踏桟2aは、塗装等による着色膜を有しており、ガイド機構3の固定側ガイド3K及び移動側ガイド3Mを構成するガイド金具4は、溝形の保持部4bの内側面に合成樹脂製の保持材13を内嵌した状態で取付固定しており、係止機構5の係止体8は、合成樹脂製のカバー材15により被われている。
【0054】
(実験)
実験は、本発明の実施品と比較例について、それぞれ、係止機構5の係止体8を下梯子1の下から2番目の踏桟1aに係止させた状態で実施した。梯子に実施される通常の実験方法に倣い、連梯子(下梯子1及び上梯子2)を床面から角度θ(75度)だけ傾斜させた傾斜姿勢として、下梯子1を床面上に設置した固定装置により固定し、その状態で、非連結部2Xの上側の踏桟2a2の上に木製の当て木を置き、当て木に2000Nの垂直荷重Fを徐々に加え、1分間以上保持して安定させ、その間の現象を目視及び触感により検査した。
【0055】
この際、上梯子2の柱脚2L、2Rは、角度θ(75度)を有して傾斜させられているので、踏桟2a2を介して柱脚2L、2Rに対して鉛直方向に作用する垂直荷重Fは、以下に説明するように、柱脚2L、2Rに対して、下向きに作用する力を発生する。
【0056】
本発明の実施品及び比較例の何れにおいても、下向きの力を受ける上梯子2の柱脚2L、2Rは、下梯子1の柱脚1L、1Rに対して、上下端の近傍部において固定側ガイド3Kと移動側ガイド3Mにより連結されており、これらのガイドの保持力が保たれ、上梯子2の柱脚2L、2Rに設けられた係止機構5の係止体8が下梯子1の踏桟1aに係止した状態を保持し、当該下向きの力を下梯子1に伝えている限り、耐えることが可能である。
【0057】
(比較例の実験結果)
図13ないし
図15は、比較例を示している。
図13(A)に示すように踏桟2a2に垂直荷重Fが加えられると、上梯子2が支持されている3個所に荷重が作用する。つまり、
図13(B)に示すように、係止体8が支持されている個所に荷重P1、移動側ガイド3Mが柱脚1Lに支持されている個所に荷重P2、柱脚2Lが固定側ガイド3Kに支持されている個所に荷重P3がそれぞれ鉛直方向に作用する。
【0058】
図13(C)に示すように、上梯子2における柱脚2Lの下端部は、移動側ガイド3Mと共に、姿勢が偏位させられる。即ち、移動側ガイド3Mの溝形の保持部は、鉛直方向の荷重P2を受けることにより、下梯子1の柱脚1Lの正面側上部に接触する回動起点Oを中心として矢印M2で示すように時計回り方向に回動し、反対側の位置において符号Tで示すように前記柱脚1Lの背面側下部に圧接される。
【0059】
これに対して、上梯子2における柱脚2Lの上端部は、固定側ガイド3Kに対して、姿勢が偏位させられる。即ち、柱脚2Lの上端部は、鉛直方向の荷重P3を受けることにより、該柱脚2Lの背面側下部が接触する回動起点Oを中心として矢印M3で示すように反時計回り方向に回動し、該柱脚2Lの正面側上部が符号Tで示すように固定側ガイド3Kの保持溝の内面に圧接される。
【0060】
このため、上梯子2の柱脚2Lは、
図13(C)に符号θ1及びθ2で示すように、下端部と上端部の間の中間部において、鎖線で示す直線状態から実線で示す曲線状態のように、背面方向に湾曲させられる。尚、このような背面方向の湾曲を係止体8の係止により阻止することができないことは、後述するとおりである。
【0061】
ところで、
図14(A)に示すように、上梯子2の柱脚2Lに前記荷重P1~P3が加わると、それぞれ反力R1~R3が発生する。このとき、反力R1は、係止体8と下梯子1の踏桟1aの接触部分に生じる。また、反力R2は、移動側ガイド3Mと下梯子1の柱脚1Lの接触部分に生じる。
【0062】
上述のとおり、係止体8は、前記係止状態において回動不能に固定されているものではなく、回動自在に枢支されている。そこで、
図14(B)に示すように、反力R1を受けることにより、符号Mで示す方向に回動可能である。このため、
図14(C)に示すように、係止体8が切欠き部を踏桟1aの上面と背面に接しながら時計回り方向に回動させられると、上梯子2の柱脚2Lを背面方向で斜め下向きに移動させる力Zが発生する。そして、発生した力Zは、柱脚2Lを弓形に湾曲させる「撓曲力Y」と、柱脚2Lと共に移動側ガイド3Mを柱脚1Lに沿って下動させる「下動力X」として作用する。
【0063】
その結果、
図15(A)に示すように、上梯子2の柱脚2Lが背面方向に大きく弓形に湾曲する。この際、「撓曲力Y」は、回動する係止体8の近傍において作用するため、特に、踏桟2aを有しない非連結部2Xを湾曲させやすい傾向が確認された。
【0064】
更に、柱脚2Lの下端部において、移動側ガイド3Mに作用する「下動力X」は、
図15(B)に示すように、該ガイドの溝形の保持部13が下梯子1の柱脚1Lに圧接することによる摩擦力、つまり、柱脚1Lの正面側上部に接触する接点x1と、反対側に位置して柱脚1Lの背面側下部に接触する接点x2の摩擦力により、該摩擦力が「下動力X」に勝っている限り、移動側ガイド3Mの滑落を防止することができる。しかしながら、上述のように、移動側ガイド3Mの保持材13は、合成樹脂製とされており、比較的柔軟であると共に、角のない丸みのある形状とされているため、所謂「噛みつき」がなく、必要十分な摩擦力を作用しないので、容易に滑落してしまい、係止体8が回転しながら踏桟1aから脱落してしまうことが確認された。
【0065】
(本発明の実施品の実験結果)
図11は、本発明の実施品の実験中に確認された現象を図示しており、垂直荷重Fを加える前の状態を鎖線で示し、垂直荷重Fを加えた後に進行した状態を実線で示している。
【0066】
本発明の実施品の場合、垂直荷重Fが加えられたとき、上梯子2の柱脚2L、2Rは、矢印Q方向に向けて徐々に移動するが、移動量は僅かであり、特に、比較例のように弓形に湾曲することはなく、下梯子1の柱脚1L、1Rと平行姿勢を維持したままの状態でQ方向に微動することが確認された。
【0067】
図16(A)は前記比較例を示し、
図16(B)は本発明の実施品を示しており、両者を対比している。上述のように、係止体8が回動する場合、柱脚2Lに対して生じる背面方向で斜め下向きの力Z、つまり、撓曲力Yと下動力Xがどちらも発生する。この点に関して、係止体8から移動側ガイド3Mまでの距離を比較すると、比較例の距離Laに対し、本発明の実施品の距離Lbは、Lb<Laに形成されている。実験結果によれば、本発明の実施品の移動側ガイド3Mは係止体8に近接しているので、垂直荷重Fを加えたとき、係止体8の近傍における両柱脚1L、2Lの離間距離、つまり、隙間は、比較例の場合の隙間S1に対して、本発明の実施品の隙間S2は、S2<S1とされていた。この結果によれば、前記力Zにより作用する撓曲力Yは、小さい隙間S2で示されるように抑止されており、このことは、所要の荷重を満たすまで係止体8の回動が抑止され、荷重P1を係止体8から下梯子1の踏桟1aに伝えていることがわかる。
【符号の説明】
【0068】
1 下梯子
1L、1R 柱脚
1a 踏桟
2 上梯子
2L、2R 柱脚
2X 非連結部
2a 踏桟
2a1 最下位の踏桟
2a2 最下位の踏桟の上に位置する踏桟
3 ガイド機構
3K 固定側ガイド
3M 移動側ガイド
4 ガイド金具
4a 取付部
4b 保持部
5 係止機構
6 搭載金具
6a U形折曲部
7 枢軸
8 係止体
9 スプリング
10 上側爪部
10a 傾斜カム部
11 下側爪部
11a 傾斜カム部
12 切欠き部
13 保持材
13a 底壁
13b 側壁
14 固定手段
14a 突起
14b 孔
15 カバー材
15a、15b 傾斜カム部
15c 窓孔
16a ボルト
16b ナット