IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立オートモティブシステムズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-車載電子制御装置 図1A
  • 特開-車載電子制御装置 図1B
  • 特開-車載電子制御装置 図1C
  • 特開-車載電子制御装置 図2
  • 特開-車載電子制御装置 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088942
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】車載電子制御装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/373 20060101AFI20240626BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20240626BHJP
   C08L 83/14 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
H01L23/36 M
H01L23/36 D
C08L83/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203996
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】露木 康博
(72)【発明者】
【氏名】河合 義夫
(72)【発明者】
【氏名】上之 恵子
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 諒
(72)【発明者】
【氏名】難波 明博
【テーマコード(参考)】
4J002
5F136
【Fターム(参考)】
4J002CP04W
4J002CP14X
4J002CP171
4J002GQ00
5F136BC04
5F136FA53
5F136FA84
(57)【要約】
【課題】15℃における硬化時間が40時間以内となる常温硬化性の放熱材料を用いた車載電子制御装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る車載電子制御装置は、電子部品と放熱部材との間に所定の放熱材料が介在しており、前記所定の放熱材料はシリコーン樹脂をマトリックスとする材料であり、前記シリコーン樹脂の中のビニル基構造のモル濃度[-Si-CH=CH2]と主鎖構造のモル濃度[-Si-CH2CH2-Si-]とを核磁気共鳴装置を用いて定量分析した場合に、「[-Si-CH=CH2]/[-Si-CH2CH2-Si-]≦0.85」の関係を満たすことを特徴とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品と放熱部材との間に所定の放熱材料を介在させた車載電子制御装置であって、
前記所定の放熱材料はシリコーン樹脂をマトリックスとする材料であり、
前記シリコーン樹脂の中のビニル基構造のモル濃度[-Si-CH=CH2]と主鎖構造のモル濃度[-Si-CH2CH2-Si-]とを核磁気共鳴装置を用いて定量分析した場合に、「[-Si-CH=CH2]/[-Si-CH2CH2-Si-]≦0.85」の関係を満たすことを特徴とする車載電子制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車載電子制御装置において、
前記シリコーン樹脂の中の前記ビニル基構造[-Si-CH=CH2]のモル濃度と主骨格構造のモル濃度[-O-Si-(CH3)2-]とを核磁気共鳴装置を用いて定量分析した場合に、「[-Si-CH=CH2]/[-O-Si-(CH3)2-]≦0.95」の関係を満たすことを特徴とする車載電子制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車載電子制御装置において、
前記シリコーン樹脂は、前記ビニル基構造のモル濃度[-Si-CH=CH2]と前記主鎖構造のモル濃度[-Si-CH2CH2-Si-]とが「[-Si-CH=CH2]/[-Si-CH2CH2-Si-]≦0.60」の関係を満たすことを特徴とする車載電子制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載の車載電子制御装置において、
前記シリコーン樹脂は、前記ビニル基構造のモル濃度[-Si-CH=CH2]と前記主骨格構造のモル濃度[-O-Si-(CH3)2-]とが「[-Si-CH=CH2]/[-O-Si-(CH3)2-]≦0.65」の関係を満たすことを特徴とする車載電子制御装置。
【請求項5】
請求項3に記載の車載電子制御装置において、
前記シリコーン樹脂は、前記ビニル基構造のモル濃度[-Si-CH=CH2]と前記主鎖構造のモル濃度[-Si-CH2CH2-Si-]とが「[-Si-CH=CH2]/[-Si-CH2CH2-Si-]≦0.40」の関係を満たすことを特徴とする車載電子制御装置。
【請求項6】
請求項4に記載の車載電子制御装置において、
前記シリコーン樹脂は、前記ビニル基構造のモル濃度[-Si-CH=CH2]と前記主骨格構造のモル濃度[-O-Si-(CH3)2-]とが「[-Si-CH=CH2]/[-O-Si-(CH3)2-]≦0.45」の関係を満たすことを特徴とする車載電子制御装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の車載電子制御装置において、
前記シリコーン樹脂は、貯蔵弾性率が0.1 MPa超であることを特徴とする車載電子制御装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の車載電子制御装置において、
前記シリコーン樹脂は、貯蔵弾性率が0.15 MPa以上であることを特徴とする車載電子制御装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の車載電子制御装置において、
前記シリコーン樹脂は、貯蔵弾性率が0.2 MPa以上であることを特徴とする車載電子制御装置。
【請求項10】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の車載電子制御装置において、
前記シリコーン樹脂は、引張剪断接着強さが0.015 MPa以上あることを特徴とする車載電子制御装置。
【請求項11】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の車載電子制御装置において、
前記シリコーン樹脂は、引張剪断接着強さが0.020 MPa以上あることを特徴とする車載電子制御装置。
【請求項12】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の車載電子制御装置において、
前記シリコーン樹脂は、引張剪断接着強さが0.025 MPa以上あることを特徴とする車載電子制御装置。
【請求項13】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の車載電子制御装置において、
前記シリコーン樹脂は、二液混合付加反応型の常温硬化性シリコーン樹脂であることを特徴とする車載電子制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品と放熱部材との間に放熱材料を介在させた車載電子制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の運転における先進運転支援システム(ADAS)や自動運転(AD)の技術が近年大きく進展しており、今後更なる発展が期待されている。ADASやADにおいては、電子制御装置(ECU)が非常に重要な役割を果たし、各種用途/目的に応じて数多くのECUが搭載されている。本明細書では、自動車等に搭載される各種のECUを車載ECUと総称する。
【0003】
車載ECUでは複雑・高度な演算が行われ、集積回路(IC)等の電子部品からの発熱が大きいことから、熱暴走を防ぐためヒートシンクやヒートスプレッダ等の放熱部材による放熱が必要である。このとき、放熱効率を高めるため、電子部品と放熱部材との間に放熱材料(TIM、熱伝導材料や熱界面材料と称する場合もある)をしばしば介在させる。
【0004】
例えば、特許文献1(特開2018-198335)には、2つの構成部材が接合されてなる筐体と、電子部品が実装され、前記筐体に収容される回路基板と、前記各構成部材の接合部位をシールする防水シール材と、前記電子部品と前記筐体とを熱的に接続する熱伝導材と、を備えた電子制御装置の製造方法において、
前記防水シール材は、熱硬化性の材料が使用され、前記熱伝導材は、加熱されることによって粘度が増加する特性を有する材料が使用され、前記回路基板と前記熱伝導材が筐体内に収容され、かつ、前記各構成部材の接合部位に硬化前の前記防水シール材が配置された状態で前記筐体を加熱する加熱工程を有し、前記加熱工程によって、前記防水シール材の硬化と熱伝導材の粘度の増加が行われることを特徴とする電子制御装置の製造方法、が教示されている。
【0005】
特許文献1によると、放熱材料として熱硬化性の放熱グリスを利用することにより塗布作業性を向上させることができ、その後、該放熱グリスを熱硬化させることにより熱変形や振動による型崩れ・流出を抑制できる電子制御装置を提供することができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-198335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、昨今では地球環境保護の観点から温室効果ガス(例えばCO2ガス)の排出量削減が強く求められており、機械や装置の製造業者にとってカーボンニュートラルを目指す取り組みは喫緊の課題である。特許文献1の技術は、加熱処理を必須とすることから加熱処理に起因するCO2ガスの排出がカーボンニュートラルを目指す上で障害となる。なお、カーボンニュートラル化では、加熱処理自体を電力で行う場合であっても、その電力を発電する際に発生するCO2ガスを考慮する必要がある。
【0008】
本発明者等は、カーボンニュートラルを目指す取り組みの一環として、車載ECUの製造において加熱処理を行わなくて済むように、従来の熱硬化性TIMから常温硬化性TIMへの代替えを検討した。
【0009】
ここで、常温硬化性TIMは、加熱処理を行わないことから、硬化時間が作業環境温度の影響を強く受ける。そして、作業環境温度は、季節や地域によって変動するが、最低温度として15℃程度まで低下することが想定される。
【0010】
本発明者等は、常温硬化性TIMの15℃における硬化時間を調査した。その結果、従来の二液混合常温硬化性TIMは、15℃における硬化時間が約72時間も掛かり、車載ECU製造におけるワークタイム増大/スループット減少(結果としてのコスト増大)という別の問題が生じることが判った。
【0011】
カーボンニュートラル化の観点およびワークタイム/スループットの観点の双方を勘案すると、15℃における硬化時間としては40時間が許容上限と考えられる。したがって、本発明の目的は、15℃における硬化時間が40時間以内となる常温硬化性TIMを用いた車載ECUを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、電子部品と放熱部材との間に所定の放熱材料を介在させた車載電子制御装置であって、
前記所定の放熱材料はシリコーン樹脂をマトリックスとする材料であり、
前記シリコーン樹脂の中のビニル基構造のモル濃度[-Si-CH=CH2]と主鎖構造のモル濃度[-Si-CH2CH2-Si-]とを核磁気共鳴装置(NMR)を用いて定量分析した場合に、「[-Si-CH=CH2]/[-Si-CH2CH2-Si-]≦0.85」の関係を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、作業環境温度が15℃であっても硬化時間が40時間以内となる常温硬化性TIMを用いることによって、生産性(例えばスループット)を大きく犠牲にすることなくカーボンニュートラル化に貢献する車載ECUを提供することができる。なお、上記以外の課題、構成および効果については、後述する実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】本発明に係る車載電子制御装置(車載ECU)の一例を示す分解斜視概略図である。
図1B図1Aに示した分解斜視図を上下反対側から見た分解斜視概略図である。
図1C図1Bに示した車載ECUの部分断面概略図である。
図2】二液混合付加反応型のシリコーン樹脂における貯蔵弾性率と時間との関係を示すグラフの一例である。
図3】硬化したシリコーン樹脂中の主鎖構造のモル濃度[-Si-CH2CH2-Si-]に対するビニル基構造のモル濃度[-Si-CH=CH2]の比「[-Si-CH=CH2]/[-Si-CH2CH2-Si-]」と「15℃における硬化時間」との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[本発明の基本思想]
前述したように、本発明者等は、15℃における常温硬化性TIMの硬化時間を調査した。常温硬化性TIMとしては、二液混合付加反応型の常温硬化性シリコーン樹脂を選定し、該シリコーン樹脂を構成する化学的構造に着目して、該化学的構造と硬化時間との関係を鋭意調査・研究した。
【0016】
その結果、常温硬化性シリコーン樹脂中のビニル基構造のモル濃度[-Si-CH=CH2]、主鎖構造のモル濃度[-Si-CH2CH2-Si-]および主骨格構造のモル濃度[-O-Si-(CH3)2-]が所定の関係になるように制御することにより、15℃における硬化時間を40時間以内に制御できることを見出した。本発明は、当該知見に基づいて完成されたものである。
【0017】
本発明は、前述の本発明に係る車載電子制御装置において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(i)前記シリコーン樹脂の中の前記ビニル基構造[-Si-CH=CH2]のモル濃度と主骨格構造のモル濃度[-O-Si-(CH3)2-]とを核磁気共鳴装置を用いて定量分析した場合に、「[-Si-CH=CH2]/[-O-Si-(CH3)2-]≦0.95」の関係を満たす。
(ii)前記シリコーン樹脂は、前記ビニル基構造のモル濃度[-Si-CH=CH2]と前記主鎖構造のモル濃度[-Si-CH2CH2-Si-]とが「[-Si-CH=CH2]/[-Si-CH2CH2-Si-]≦0.60」の関係を満たす。
(iii)前記シリコーン樹脂は、前記ビニル基構造のモル濃度[-Si-CH=CH2]と前記主骨格構造のモル濃度[-O-Si-(CH3)2-]とが「[-Si-CH=CH2]/[-O-Si-(CH3)2-]≦0.65」の関係を満たす。
(iv)前記シリコーン樹脂は、前記ビニル基構造のモル濃度[-Si-CH=CH2]と前記主鎖構造のモル濃度[-Si-CH2CH2-Si-]とが「[-Si-CH=CH2]/[-Si-CH2CH2-Si-]≦0.40」の関係を満たす。
(v)前記シリコーン樹脂は、前記ビニル基構造のモル濃度[-Si-CH=CH2]と前記主骨格構造のモル濃度[-O-Si-(CH3)2-]とが「[-Si-CH=CH2]/[-O-Si-(CH3)2-]≦0.45」の関係を満たす。
(vi)前記シリコーン樹脂は、貯蔵弾性率が0.1 MPa超である。
(vii)前記シリコーン樹脂は、貯蔵弾性率が0.15 MPa以上である。
(viii)前記シリコーン樹脂は、貯蔵弾性率が0.2 MPa以上である。
(ix)前記シリコーン樹脂は、引張剪断接着強さが0.015 MPa以上ある。
(x)前記シリコーン樹脂は、引張剪断接着強さが0.020 MPa以上ある。
(xi)前記シリコーン樹脂は、引張剪断接着強さが0.025 MPa以上ある。
(xii)前記シリコーン樹脂は、二液混合付加反応型の常温硬化性シリコーン樹脂である。
【0018】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。ただし、同義の機構や構成(差異が小さい場合を含む)については、同じ符号を付して重複する説明を省略することがある。また、本発明はここで取り上げた実施形態に限定されることはなく、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、公知技術と適宜組み合わせたり公知技術に基づいて改良したりすることが可能である。
【0019】
[実施形態1]
図1Aは、本発明に係る車載電子制御装置(車載ECU)の一例を示す分解斜視概略図であり、図1Bは、図1Aに示した分解斜視図を上下反対側から見た分解斜視概略図であり、図1Cは、図1Bに示した車載ECUの部分断面概略図である。
【0020】
前述したように、車載ECUは、自動車等の運転における各種用途/目的(例えば、エンジン、トランスミッション、ステアリング、エアバッグ等)を電子制御するコンピュータの一種であり、内部に電子回路を有する。図1A図1Cに示すように、車載ECU 100は、筐体(ハウジング)を構成するカバー40、ベース50および締結具60のうち、カバー40が放熱部材を兼ねる例であり、電子部品10とコネクタ20とが回路基板30に搭載(電気的に接続)されて電子回路が形成され、電子部品10とカバー40との間に放熱材料15を介在させながら、それらがハウジング(カバー40、ベース50)内に収容される。
【0021】
各パーツについてより具体的に説明する。
【0022】
電子部品10は、車載用のものであれば特段の限定はなく、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、SoC(System on a Chip)、DDR SDRAM(Double-Data-Rate Synchronous Dynamic Random Access Memory)などの半導体素子が利用される。図1Cにおいては、電子部品10は、ICチップ11がインターポーザ12上に接続されバンプ13を介して回路基板30に接続されたBGA(Boll Grid Array)パッケージを意図して描いている。当然のことながら、BGAパッケージに限定されるものではなく、リードフレーム型のパッケージであってもよい。
【0023】
コネクタ20は、回路基板30に搭載された電子部品10と外部の機器とを電気的に接続するパーツである。コネクタ20に特段の限定はなく、従前の車載用のものを適宜利用できる。
【0024】
回路基板30は、電気絶縁体の基材に金属配線が形成された基板であり、電子部品10やコネクタ20と同様に従前の車載用のものを適宜利用できる。図1A図1Bに示した例では、外周領域に固定孔が設けられており、締結具60(例えば、固定ねじ)によりカバー40に固定される構造になっている。
【0025】
カバー40およびベース50は、締結具60によって組み合わされることにより防水・防塵の密閉したハウジングを構成する。図1A図1Cに示した例では、前述したようにカバー40が放熱部材を兼ねている。放熱材料(TIM)15は、カバー40と電子部品10との間に挟持・当接するように配設され、電子部品10の熱を効率よくカバー40に伝えられるようになっている。TIM 15の詳細は後述する。
【0026】
カバー40に形成された放熱台座45は、本発明で必須の構成ではないが、放熱効率の観点や組立効率の観点からは形成されることが好ましい。また、図1A図1Bにおいては、二つの電子部品10のそれぞれに対応するように二つの放熱台座45が形成されている例を描いているが、一つの放熱台座45で二つの電子部品10に対応する形態でもよい。
【0027】
カバー40およびベース50は、車載用に対応した耐熱性、防水性、防塵性、および熱伝導性を確保できれば、その材料に特段の限定はなく、金属材料(例えば、アルミニウム合金、マグネシウム合金、鉄鋼材料)や高熱伝導樹脂材料(例えば、熱伝導フィラーを含むポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)やポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)やポリアミド樹脂(PA6))を適宜利用できる。放熱部材は、カバー40に限定されるものではなく、ベース50が放熱部材を兼ねてもよいし、カバー40およびベース50の両方が放熱部材を兼ねてもよい。
【0028】
TIM 15は、熱伝導材料としての機能に加えて、接着剤/粘着剤としての機能も要求される。硬化前は、施工性の観点から流動性を有することが好ましく、例えば、粘度:100 Pa・s以上600 Pa・s以下が好ましい。一方、硬化後は、車両走行時の振動や応力に対して位置ずれや流出を生じさせないことが好ましく、例えば、貯蔵弾性率G’:0.1 MPa超および/または引張剪断接着強さ:0.015 MPa以上が好ましい。より具体的には、TIM 15としては、シリコーン樹脂をマトリックスとする材料を用いることが好ましく、特に二液混合付加反応型の常温硬化性シリコーン樹脂が好ましい。
【0029】
シリコーン樹脂は、シロキサン結合(Si-O-Si結合)による主骨格を有する合成高分子材料である。シリコーン樹脂は、優れた耐熱性(200℃超)と化学的安定性を有すると共に、弾性体の性質も有することから振動や衝撃を吸収・緩和できる利点もある。
【0030】
二液混合付加反応型のシリコーン樹脂は、主剤のビニル基「-Si-CH=CH2」と硬化剤の-Si-H基とが触媒環境下(通常、白金触媒)で付加反応して硬化する。本発明では、この付加反応が終了する時間を硬化時間と定義する。この硬化時間は、当該樹脂の貯蔵弾性率G’の時間変化から求めることができる。
【0031】
図2は、二液混合付加反応型のシリコーン樹脂における貯蔵弾性率と時間との関係を示すグラフの一例である。二液混合付加反応型のシリコーン樹脂は、主剤と硬化剤とを混合すると、図2に示すように、貯蔵弾性率が急激に増加するゲル化開始領域(硬化が開始・進行する領域)が発現した後に、貯蔵弾性率がほぼ飽和するゲル化終了領域(硬化が終了する領域)に到達する。シリコーン樹脂の付加反応では、ゲル化終了領域で基本骨格が形成されることが報告されており、硬化時間は、ゲル化開始領域の接線とゲル化終了領域の接線との交点の時間と定義されている。本発明もこの定義を採用する。
【0032】
硬化したシリコーン樹脂の中には、化学的構造として、主骨格構造「-O-Si-(CH3)2-」と、主鎖構造「-Si-CH2CH2-Si-」と、ビニル基構造「-Si-CH=CH2」とが存在する。本発明者等は、これらの化学的構造と硬化時間との関係を鋭意調査・研究した結果、これらの化学的構造のモル濃度が所定の関係になるように制御することにより、15℃における硬化時間を40時間以内に制御できることを見出した。各化学的構造のモル濃度は、核磁気共鳴装置(NMR)を用いた定量分析により測定することができる。
【0033】
硬化したシリコーン樹脂中の主鎖構造のモル濃度[-Si-CH2CH2-Si-]に対するビニル基構造のモル濃度[-Si-CH=CH2]の比は、「[-Si-CH=CH2]/[-Si-CH2CH2-Si-]≦0.85」に制御することが好ましく、それにより15℃における硬化時間を40時間以内とすることができる。「[-Si-CH=CH2]/[-Si-CH2CH2-Si-]≦0.60」に制御することがより好ましく、15℃における硬化時間を30時間以内とすることができる。「[-Si-CH=CH2]/[-Si-CH2CH2-Si-]≦0.40」に制御することが更に好ましく、15℃における硬化時間を24時間以内とすることができる。
【0034】
同様に、硬化したシリコーン樹脂中の主骨格構造のモル濃度[-O-Si-(CH3)2-]に対するビニル基構造のモル濃度[-Si-CH=CH2]の比は、「[-Si-CH=CH2]/[-O-Si-(CH3)2-]≦0.95」に制御することが好ましく、それにより15℃における硬化時間を40時間以内とすることができる。「[-Si-CH=CH2]/[-O-Si-(CH3)2-]≦0.65」に制御することがより好ましく、15℃における硬化時間を30時間以内とすることができる。「[-Si-CH=CH2]/[-O-Si-(CH3)2-]≦0.45」に制御することが更に好ましく、15℃における硬化時間を24時間以内とすることができる。
【0035】
なお、硬化したシリコーン樹脂中のビニル基構造のモル濃度[-Si-CH=CH2]は、0.3モル%以下が好ましく、0.25モル%以下がより好ましく、0.2モル%以下が更に好ましい。
【0036】
硬化したシリコーン樹脂中の上記の化学的構造のモル濃度の関係が最終的に達成できるかぎり、製造方法に特段の限定はないが、硬化後に残存するビニル基構造のモル濃度を制御する方法としては、例えば、混合前の主剤中の主鎖構造「-Si-CH2CH2-Si-」およびビニル基「-Si-CH=CH2」のモル濃度を制御したり、硬化剤の混合比を制御したり、白金触媒の量や化学活性度合を制御したりする方法が挙げられる。一例として、混合前の主剤中の主鎖構造「-Si-CH2CH2-Si-」のモル濃度を99.09モル%、ビニル基「-Si-CH=CH2」のモル濃度を0.58モル%とし、硬化剤中の-Si-H基のモル濃度が0.38モル%となるように混合すると、15℃における硬化時間が24時間となるシリコーン樹脂を得ることができる。
【0037】
TIMは、電子部品と放熱部材との間の放熱効率を高めるため、1.5 W/m・K以上の熱伝導率を有することが好ましく、2 W/m・K以上の熱伝導率を有することがより好ましい。そのような熱伝導性を確保するため、TIMは、シリコーン樹脂をマトリックスとして熱伝導性フィラーを分散混合させることが好ましい。熱伝導性フィラーとしては、電気絶縁材料で良好な熱伝導率(例えば、2 W/m・K以上)を有する材料であれば特段の限定はなく、例えば、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素を好適に利用できる。
【0038】
TIMの粘着力や保持力を増加させるためには、硬化したシリコーン樹脂の貯蔵弾性率G’が高い方が好ましい。ただし、高過ぎる貯蔵弾性率G’は、粘着性が低下したり、振動・応力の吸収性・緩和性が低下したりする。低過ぎる貯蔵弾性率G’は、十分な保持力を確保できない。本発明においては、硬化したシリコーン樹脂の貯蔵弾性率G’は、0.1 MPa超20 MPa以下が好ましく、0.15 MPa以上10 MPa以下がより好ましく、0.2 MPa以上5 MPa以下が更に好ましい。
【0039】
また、TIMの接着強さは、位置ずれ防止の観点から、硬化後に0.015 MPa以上の引張剪断接着強さを有することが好ましく、0.020 MPa以上の引張剪断接着強さを有することがより好ましく、0.025 MPa以上の引張剪断接着強さを有することが更に好ましい。
【実施例0040】
以下、種々の実験により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実験に記載された構成・構造に限定されるものではない。
【0041】
[実験1]
(比較例1および実施例1~4の用意)
市販の二液混合付加反応型の常温硬化性シリコーン樹脂(比較例1)を用意した。一方、混合前の主剤中の主鎖構造「-Si-CH2CH2-Si-」およびビニル基「-Si-CH=CH2」のモル濃度の制御や、硬化剤の混合比の制御を行って、硬化後においてシリコーン樹脂中に残存するビニル基構造のモル濃度が異なる二液混合付加反応型の常温硬化性シリコーン樹脂(実施例1~4)を用意した。
【0042】
[実験2]
(常温硬化性シリコーン樹脂の硬化時間の測定)
実験1で用意した二液混合付加反応型の常温硬化性シリコーン樹脂(比較例1および実施例1~4)を用いて、15℃における硬化時間の測定を行った。レオメータ(株式会社アントンパール・ジャパン、型式:MCR 502)を用いて、所定の測定条件(試料厚さ厚さ:3mm、ジグ径:25mm、温度:15℃、振動周波数:1Hz、ひずみ:0.01%)で貯蔵弾性率の時間変化を測定し、図2と同じ定義に基づいて硬化時間を求めた。また、併せて硬化時間の時の貯蔵弾性率G’も求めた。結果を後述する表1に記す。
【0043】
[実験3]
(硬化したシリコーン樹脂中の化学的構造のモル濃度の測定)
硬化後の各シリコーン樹脂(比較例1および実施例1~4)に対して、樹脂中に残存している主骨格構造のモル濃度[-O-Si-(CH3)2-]、主鎖構造のモル濃度[-Si-CH2CH2-Si-]、およびビニル基構造のモル濃度[-Si-CH=CH2]の定量分析を行った。NMR装置(日本電子株式会社、型式:ECA-500FT-NMR)を用いて、所定の測定条件(測定核種:1H、磁場強度:11.7 T(1H核にて500 MHz)、観測周波数範囲:-2.5 ppm~12.5 ppm(45°パルス)、データ点数:16384 point、測定モード:13Cデカップリング、繰り返し時間:30 s、積算回数:256回、測定溶媒:重水素化クロロホルム、測定温度:室温)で、各化学的構造のモル濃度を測定し、各化学的構造のモル濃度の比を算出した。結果を表1に併記する。
【0044】
[実験4]
(硬化したシリコーン樹脂の引張剪断接着強さの測定)
実験1で用意した二液混合付加反応型の常温硬化性シリコーン樹脂(比較例1および実施例1~4)を用いて、JIS K6850に準拠して引張剪断接着強さを測定した。精密万能試験機(株式会社島津製作所、型式:AGS-H 500N)を用いて、引張速度5 mm/minの条件で最大荷重を測定し、剪断面積で除して引張剪断接着強さを求めた。結果を表1に併記する。
【0045】
【表1】
【0046】
「15℃における硬化時間」と「[-Si-CH=CH2]/[-Si-CH2CH2-Si-]」との関係を調査するために、表1に示した実験結果をグラフにプロットした。図3は、硬化したシリコーン樹脂中の主鎖構造のモル濃度[-Si-CH2CH2-Si-]に対するビニル基構造のモル濃度[-Si-CH=CH2]の比「[-Si-CH=CH2]/[-Si-CH2CH2-Si-]」と「15℃における硬化時間」との関係を示すグラフである。
【0047】
図3に示したように、「[-Si-CH=CH2]/[-Si-CH2CH2-Si-]」が小さくなると「15℃における硬化時間」が短くなることが判る。また、実施例1~4におけるプロットの傾きに対して、比較例1の「15℃における硬化時間」が突出して大きくなっている。そこで、5点のプロットに対して近似曲線を求め、比較例1に対して当該近似曲線の接線を求め、実施例1~4のプロットに対して近似直線/回帰直線を求めた。
【0048】
その結果、当該2直線の交点は「[-Si-CH=CH2]/[-Si-CH2CH2-Si-]=0.85」、「15℃における硬化時間:40 h」であることが判った。「[-Si-CH=CH2]/[-Si-CH2CH2-Si-]=0.85」を境にして、硬化時間に関連する付加反応のモードが何かしら変化していると考えられる。この結果から、「[-Si-CH=CH2]/[-Si-CH2CH2-Si-]≦0.85」に制御することにより、15℃における硬化時間を40時間以内に抑制できることが明らかになった。
【0049】
なお、図示は省略するが、「15℃における硬化時間」と「[-Si-CH=CH2]/[-O-Si-(CH3)2-]」との関係においても、図3と同様の結果が得られることを別途確認している。
【0050】
また、表1の結果から、硬化したシリコーン樹脂の貯蔵弾性率が増加するにつれて、引張剪断接着強さが増加していることが判る。硬化したシリコーン樹脂の貯蔵弾性率を0.1 MPa超に制御することにより、引張剪断接着強さを0.015 MPa以上とすることができる。
【0051】
上述した実施形態や実験は、本発明の理解を助けるために説明したものであり、本発明は、記載した具体的な構成のみに限定されるものではない。例えば、実施形態の構成の一部を当業者の技術常識の構成に置き換えることが可能であり、また、実施形態の構成に当業者の技術常識の構成を加えることも可能である。すなわち、本発明は、本明細書の実施形態や実験の構成の一部について、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。例えば、本発明で使用する放熱材料は、車載ECU用に限定されるものではなく、車載以外のインバータやコンバータ等に使用される放熱材料にも適用可能である。
【符号の説明】
【0052】
100…車載電子制御装置、
10…電子部品、11…チップ、12…インターポーザ、13…バンプ、15…放熱材料、
20…コネクタ、30…回路基板、
40…カバー、45…放熱台座、50…ベース、60…締結具。
図1A
図1B
図1C
図2
図3