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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088947
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】消費電力量予測システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20240101AFI20240626BHJP
   G06Q 90/00 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
G06Q50/06
G06Q90/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204007
(22)【出願日】2022-12-21
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】520075971
【氏名又は名称】プライムライフテクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 輝幸
(72)【発明者】
【氏名】小島 昌幸
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC06
5L049DD01
5L050CC06
5L050DD01
(57)【要約】
【課題】夏の暑さや冬の寒さの程度に応じた長期間の消費電力量を予測できるようにする。
【解決手段】基準温度と外気温度データとの差を月当たりで積算した過去の月積算冷房又は暖房デグリーアワーを算出し、建物Hにおける冷房又は暖房の月積算消費電力量の実測値と過去の月積算冷房又は暖房デグリーアワーとの相関を表す予測式を導き出し、月積算冷房又は暖房デグリーアワーにおける各年同月の平均を取って当該月の平年値データを算出するとともに、月積算冷房又は暖房デグリーアワーにおける各年同月の分布データを導き出し、建設地Sの最寄り気象観測地点における長期間の気温の予報に係るデータが含まれている長期気象予報データを取得し、予測したい月の冷房又は暖房に係る月積算消費電力量を、当該月の平年値データと長期気象予報データとを照合し、予測式を用いて各年同月の分布データをもとに予測する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の建物で行われる一年のうち所定期間分の冷房又は暖房の月積算消費電力量の実測値である第一実測値データを取得する第一実測値データ取得手段と、
前記建物の建設地の最寄り気象観測地点における過去の毎時の外気温度データを取得する外気温度データ取得手段と、
予め定められた基準温度と前記過去の毎時の外気温度データとの差を月当たりで積算した過去の月積算冷房又は暖房デグリーアワーを算出するデグリーアワー算出手段と、
前記第一実測値データと前記過去の月積算冷房又は暖房デグリーアワーとに基づいて、これら第一実測値データと過去の月積算冷房又は暖房デグリーアワーとの相関を表す予測式を導き出す予測式導出手段と、
前記過去の月積算冷房又は暖房デグリーアワーにおける各年同月の平均を取って当該月の平年値データを算出するとともに、前記過去の月積算冷房又は暖房デグリーアワーにおける各年同月の分布データを導き出す予測基準値取得手段と、
前記建物の建設地の最寄り気象観測地点における長期間の気温の予報に係るデータが含まれている長期気象予報データを取得する長期気象予報データ取得手段と、
予測したい月の冷房又は暖房に係る月積算消費電力量を、前記当該月の平年値データと前記長期気象予報データとを照合し、前記予測式を用いて前記各年同月の分布データをもとに予測する第一消費電力量予測手段と、を備えることを特徴とする消費電力量予測システム。
【請求項2】
前記長期気象予報データには、前記予測したい月を含む期間の気温の予報が平年並みであるか、平年より高いか、平年より低いか、を確率で表す情報が少なくとも含まれていることを特徴とする請求項1に記載の消費電力量予測システム。
【請求項3】
前記建物における冷房及び暖房を除く月積算消費電力量の実測値である第二実測値データを取得する第二実測値データ取得手段と、
複数年の前記第二実測値データを各年同月で平均化し、前記建物における冷房及び暖房を除く月積算消費電力量の平均値データを算出する平均値データ算出手段と、
予測したい月の冷房又は暖房を除く月積算消費電力量を、前記平均値データのうち該当する月の平均値データに基づいて導き出す第二消費電力量予測手段と、を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の消費電力量予測システム。
【請求項4】
前記第一消費電力量予測手段によって予測された冷房又は暖房に係る月積算消費電力量と、前記第二消費電力量予測手段によって導き出された冷房及び暖房を除く月積算消費電力量を合算する消費電力量合算手段を備えることを特徴とする請求項3に記載の消費電力量予測システム。
【請求項5】
前記予測式導出手段は、複数年の前記第一実測値データと、複数年の前記過去の月積算冷房又は暖房デグリーアワーとに基づいて前記予測式を導き出すことを特徴とする請求項1に記載の消費電力量予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消費電力量予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、消費電力量を予測する技術が多く知られており、例えば特許文献1に記載の電力制御システムおいては、消費電力量の予測値が、太陽光発電装置による発電量の予測値と共に、蓄電池の充放電を制御するのに利用されている。
特許文献1の電力制御システムでは、消費電力量を予測するにあたり、気温等の気象条件に影響を受け易い空調負荷及び給湯負荷の時間毎の消費電力量を、気象予報データに基づいて予測している。また、気温等の気象条件に影響を受け難いその他の負荷の時間毎の消費電力量については、過去の履歴データに基づいて予測している。そして、これらを合計して、住宅の時間毎の消費電力量を予測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-195752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の電力制御システムにおける消費電力量の予測は、直近の時刻単位や日単位で行われており、例えば数か月先の1か月単位での消費電力量を予測することは困難であった。
また、従来の電力制御システムにおいては、住宅に設置された空調装置及び給湯装置の様々な運転パターンが紐づけされた気象予報データに基づいて、空調負荷及び給湯負荷の時間毎の消費電力量を予測している。ところが、個人の体調や体質によって空調装置や給湯装置の設定温度が異なる場合もあるし、建物の断熱性能によって空調装置や給湯装置の設定温度が異なる場合もある。そのため、空調装置や給湯装置の運転パターンを、消費電力量を予測する際の判断基準にしてしまうと、実際の夏の暑さや冬の寒さの程度に応じた消費電力量の予測が困難であった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その課題は、夏の暑さや冬の寒さの程度に応じた長期間の消費電力量を予測できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、対象の建物で行われる一年のうち所定期間分の冷房又は暖房の月積算消費電力量の実測値である第一実測値データを取得する第一実測値データ取得手段と、
前記建物の建設地の最寄り気象観測地点における過去の毎時の外気温度データを取得する外気温度データ取得手段と、
予め定められた基準温度と前記過去の毎時の外気温度データとの差を月当たりで積算した過去の月積算冷房又は暖房デグリーアワーを算出するデグリーアワー算出手段と、
前記第一実測値データと前記過去の月積算冷房又は暖房デグリーアワーとに基づいて、これら第一実測値データと過去の月積算冷房又は暖房デグリーアワーとの相関を表す予測式を導き出す予測式導出手段と、
前記過去の月積算冷房又は暖房デグリーアワーにおける各年同月の平均を取って当該月の平年値データを算出するとともに、前記過去の月積算冷房又は暖房デグリーアワーにおける各年同月の分布データを導き出す予測基準値取得手段と、
前記建物の建設地の最寄り気象観測地点における長期間の気温の予報に係るデータが含まれている長期気象予報データを取得する長期気象予報データ取得手段と、
予測したい月の冷房又は暖房に係る月積算消費電力量を、前記当該月の平年値データと前記長期気象予報データとを照合し、前記予測式を用いて前記各年同月の分布データをもとに予測する第一消費電力量予測手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の消費電力量予測システムにおいて、
前記長期気象予報データには、前記予測したい月を含む期間の気温の予報が平年並みであるか、平年より高いか、平年より低いか、を確率で表す情報が少なくとも含まれていることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の消費電力量予測システムにおいて、
前記建物における冷房及び暖房を除く月積算消費電力量の実測値である第二実測値データを取得する第二実測値データ取得手段と、
複数年の前記第二実測値データを各年同月で平均化し、前記建物における冷房及び暖房を除く月積算消費電力量の平均値データを算出する平均値データ算出手段と、
予測したい月の冷房又は暖房を除く月積算消費電力量を、前記平均値データのうち該当する月の平均値データに基づいて導き出す第二消費電力量予測手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の消費電力量予測システムにおいて、
前記第一消費電力量予測手段によって予測された冷房又は暖房に係る月積算消費電力量と、前記第二消費電力量予測手段によって導き出された冷房及び暖房を除く月積算消費電力量を合算する消費電力量合算手段を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の消費電力量予測システムにおいて、
前記予測式導出手段は、複数年の前記第一実測値データと、複数年の前記過去の月積算冷房又は暖房デグリーアワーとに基づいて前記予測式を導き出すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、夏の暑さや冬の寒さの程度に応じた長期間の消費電力量を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】消費電力量予測システムの概要を説明するための図である。
図2】建物の建設地を説明するための図である。
図3】管理サーバーの構成を示すブロック図である。
図4】月積算冷房消費電力量の予測式について説明するためのグラフである。
図5】月積算暖房消費電力量の予測式について説明するためのグラフである。
図6】長期気象予報データの内容を説明するためのグラフである。
図7】月積算冷房消費電力量の予測アルゴリズムを説明するためのグラフである。
図8】月積算冷房消費電力量の予測アルゴリズムの具体例を示すグラフである。
図9】冷房又は暖房を除く月積算消費電力量の予測式について説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の技術的範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0014】
図1において符号H(H1,H2,H3…Hn)は建物を示す。本実施形態における建物Hは、全国の様々な地域に建設された戸建て住宅とされているが、マンション等の集合住宅における住戸やその他の施設等でもよい。
そして、全国の建物Hは、通信ネットワークNを介して外部の管理サーバー10と通信可能に接続されている。
また、各建物Hの住人は、管理サーバー10に対し、ユーザーとして登録されているものとする。
【0015】
これら全国の建物Hは、共通する基本構成を備える。
建物H1を例に挙げて説明すると、基本構成として、分電盤1と、空調機2と、通信機器3と、様々な情報を表示するための表示装置4と、を備えている。
なお、この建物H1の建設地Sは、例えば、図2に示すように、東日本の関東地方、より詳細には東京都とされている。
【0016】
分電盤1は、供給される電力を、建物H1で使用される各種家電や各種機器等の負荷に配電しており、電流値(配電先への電力の供給量)を計測する電力センサーを有する。この電力センサーは、空調機2に供給される電力と、空調機2以外に供給される電力を、別々に計測できるようになっている。
なお、分電盤1に対する電力の供給元としては、系統電源5や太陽光発電装置6、蓄電池7が挙げられる。
【0017】
空調機2は、設定温度に基づいて建物H1内の冷房又は暖房を行うものである。
空調機2としては、建物H1における各部屋の壁や天井等に取り付けられる個別空調方式の所謂ルームエアコンや、建物H1の少なくとも一か所に設置された本体装置から建物H1全体や各部屋に冷気や暖気を送るセントラル空調方式のセントラル空調装置が挙げられる。本実施形態においては、ルームエアコンが導入されているものとする。
なお、セントラル空調装置は、冷暖房が不要な部屋にも冷気や暖気を送るため、ルームエアコンに比して消費電力量が多くなる場合がある。
また、建物Hには、浴室に浴室乾燥機が設置される場合があるが、浴室乾燥機による消費電力量は、空調機2による消費電力量には含まれない。
【0018】
通信機器3は、ホームゲートウェイやルーター等であり、管理サーバー10との間でデータの送受信を行うために設けられている。
通信機器3は、分電盤1の電力センサーと通信可能に接続されており、当該電力センサーで検知された電流値のデータ(すなわち、消費電力量)を取得し、通信ネットワークNを介して管理サーバー10に送信できるように構成されている。
【0019】
表示装置4は、通信機器3と通信可能に接続されており、管理サーバー10から送信された消費電力量の予測結果のデータを表示することができる。
また、この表示装置4は、管理サーバー10に対して消費電力量の予測を要求する信号を送出するのに必要な入力手段(操作部)等を適宜有しているものとする。入力手段の操作はユーザーによって行われる。
なお、表示装置4は、建物H1内での消費電力量を表示するための専用の表示装置であるが、これに限られるものではなく、PCやスマートフォン、タブレット端末等の情報端末が表示装置4として用いられてもよい。
【0020】
管理サーバー10は、PC、専用の装置・端末等のコンピューター装置で構成されており、図3に示すように、制御部11と、記憶部12と、通信部13と、を備えている。各部11~13は、バス等で電気的に接続されている。
このような管理サーバー10は、通信ネットワークNを介して、全国の建物H(H1,H2,H3…Hn)における通信機器3と通信可能に接続されており、通信機器3との間でデータの送受信を行うことができる。
【0021】
制御部11は、CPU、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等により構成されている。
ROMは、CPUが実行する各種プログラム等を記憶している。
そして、制御部11のCPUは、記憶部12に記憶されている各種プログラムを読出してRAM内に展開し、展開されたプログラムに従って各種処理を実行し、本システムにおける各手段の動作を集中制御するようになっている。
【0022】
記憶部12は、不揮発性のメモリーやハードディスク等により構成されている。
記憶部12には、制御部11が実行する各種プログラムや、プログラムの実行に必要な各種データ等が記憶されている。各種プログラムは、制御部11や記憶部12、通信部13との協働により、本システムの一手段として機能することになる。
【0023】
各種プログラムには、第一実測値データ取得プログラムと、外気温度データ取得プログラムと、デグリーアワー算出プログラムと、予測式導出プログラムと、予測基準値取得プログラムと、長期気象予報データ取得プログラムと、第一消費電力量予測プログラムと、第二実測値データ取得プログラムと、平均値データ算出プログラムと、第二消費電力量予測プログラムと、消費電力量合算プログラムと、予測結果出力プログラムと、が少なくとも含まれている。
【0024】
その他、各種プログラムには、例えば、ユーザーによって、表示装置4の入力手段等になされた操作に従って各種画面のウェブページを生成する画面生成プログラム等、本システムの動作に必要なプログラムが適宜含まれているものとする。
【0025】
各種データには、例えば、画面生成に必要とされる各種データや、その他、本システムの動作に必要なデータやパラメーターが適宜含まれているものとする。
なお、このような各種データには、ユーザー情報が含まれている。ユーザーは、本実施形態の消費電力量予測システムによる消費電力量予測サービスの利用者であり、事前にユーザー情報が登録されている。
ユーザー情報には、ユーザー自身の個人情報だけでなく、ユーザーが居住する建物Hの建設地Sに係る情報(住所)や、設置されている空調機2の種類(ルームエアコン、セントラル空調装置)に係る情報が含まれている。なお、ユーザーが居住する建物Hの建設地Sに係る情報は、個人情報に含まれるものとしてもよい。
さらに、各種データには、全国の建物Hから受信した電流値(消費電力量)のデータが建物Hごとにデータベース化されて記憶されている。
【0026】
通信部13は、通信モジュール等で構成されている。
そして、通信部13は、通信ネットワークNを介して通信可能に接続された建物H1の通信機器3との間で各種信号や各種データを送受信するようになっている。
【0027】
また、管理サーバー10は、外部に気象予報を送信する気象予報サーバー20と、通信ネットワークNを介して通信可能に接続されており、気象予報サーバー20から気象予報を取得することができる。
【0028】
気象予報サーバー20は、気象情報を扱う機関(例えば、気象庁、気象情報会社等)によって管理されるサーバー装置であり、PC、専用の装置等で構成されている。
気象情報を扱う機関は、風向風速、気温、日較差、湿度、日射量、放射収支量、雨量等の気象情報を、全国のエリアごと(例えば250mメッシュ単位)、時間帯ごと(例えば分単位、時間単位、一日単位、週単位など)に収集している。
【0029】
そして、気象予報サーバー20は、全国の地域ごとにおける過去の毎時の外気温度データを外部に送信している。本実施形態においては、当該外気温度データは、管理サーバー10に送信されている。
【0030】
さらに、気象予報サーバー20は、過去の気象情報に基づく全国の地域ごとの長期天気予報データを外部に送信している。本実施形態においては、当該長期天気予報データは、管理サーバー10に送信されている。
【0031】
長期天気予報には、向こう1か月までの気温や降水量等の予報情報、向こう3か月までの気温や降水量等の予報情報の他に、暖候期における気温や降水量等の予報情報、又は寒候期における気温や降水量等の予報情報が含まれる。
なお、暖候期の長期天気予報情報は、1年を夏半年と冬半年に分けたうちの夏半年における数か月分(例えば7月~9月までの3か月間)の長期天気予報情報を指し、寒候期の長期天気予報情報は、冬半年における数か月分(例えば12月~2月までの3か月間)の長期天気予報情報を指す。
【0032】
なお、本実施形態における通信ネットワークNは、電話回線網、ISDN回線網、光ファイバー、移動体通信網、通信衛星回線、CATV回線網、その他の専用線等の各種通信回線網と、それらを接続するインターネットサービスプロバイダ(すなわち、インターネット)等を含んでいてもよい。また、LAN(Local Area Network)やWAN(Wide Area Network)、WiFi(Wireless Fidelity)、Bluetooth(登録商標)、NFC(Near Field Communication)等の様々な通信網が互いに通信可能に接続された集合的な通信網であってもよい。また、接続の形態について、有線、無線及び有線と無線の混在を問わない。
【0033】
次に、管理サーバー10における上記の各種プログラムの機能について説明する。
【0034】
(第一実測値データ取得プログラム)
まず、第一実測値データ取得プログラムは、消費電力量の予測対象である建物H(ここでは建物H1)で行われる一年のうち所定期間分の冷房又は暖房の月積算消費電力量の実測値である第一実測値データを取得するためのプログラムである。
より具体的に説明すると、第一実測値データ取得プログラムは、建物H1側から送信されて、通信部13が受信した建物H1における電流値のデータ(すなわち、建物H1で分電盤1から建物H1内の機器等に供給される電力:消費電力量)のうち、冷房又は暖房を行うために空調機2に供給された電流値のデータを記憶部12に記憶するためのプログラムである。第一実測値データ取得プログラムを実行することによって取得できる第一実測値データは、複数年にわたって記憶部12に蓄積される。これにより、後述する予測式の精度向上に貢献できるようになっている。
ここで、冷房と暖房について定義する。
空調機2は、上記のように冷房又は暖房を行う機器であるが、除湿(ドライ)の機能も有している。空調機2の除湿運転は、機器の運転としては冷房運転と大差ないため、本実施形態においては冷房として取り扱われるものとする。すなわち、冷房の月積算消費電力量の実測値には、除湿運転をした場合の分も含まれているものとする。
また、建物Hにおいては、空調機2以外の空調機器として、上記のように浴室乾燥機が設けられているが、この浴室乾燥機は、浴室の乾燥(衣類の乾燥)に使用され、例えば居室の冷房や暖房とは異なり、季節性を有するものではない。そのため、浴室乾燥機の稼働に消費される電力は、本実施形態においては、暖房の月積算消費電力量の実測値には含まれないものとする。ただし、浴室乾燥機が、浴室暖房乾燥機である場合に、冬場のヒートショックを防ぐ目的で暖房利用されるときには、暖房の月積算消費電力量の実測値に含まれてもよい。
さらに、特に冬場は、空調機2以外にも、ガスや灯油などの各種燃料による暖房が行われる場合がある。そのような場合は、これら各種燃料の使用量をエネルギー換算して暖房の月積算消費電力量の実測値に含むようにしてもよい。すなわち、電気は、1kWh=3.6MJ(メガジュール)=860.4kcalとされており、都市ガスは、1立方メートル=46MJ=10,986kcal(東京ガス13Aとして)とされており、プロパンガスは、1立方メートル=104MJ=24,856kcalとされており、灯油は、1L=37MJ=8,843kcalとされている。したがって、ガスや灯油も、熱量で換算することによって、暖房の月積算消費電力量の実測値に含むことができる。なお、このようにガスや灯油も含めて消費電力量を予測する場合、本発明は、消費電力量だけに限定されず、エネルギー消費量の予測を行うものとしてもよい。
【0035】
建物H1における通信機器3からの電流値データの送信は、定期的に行われるものとしてもよいし、契機となるアクション(例えば消費電力量の予測を要求する信号の送信)が起きたときに行われてもよい。
なお、一年のうち所定期間分とは、一年のうち空調機2を冷房運転させている期間、一年のうち空調機2を暖房運転させている期間を指す。本実施形態においては、所定期間を3か月間(冷房運転3か月、暖房運転3か月)とする。ただし、温暖地では冷房を行う期間が長い場合もあるし、寒冷地では暖房を行う期間が長い場合もあるため、所定期間は3か月間に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0036】
(外気温度データ取得プログラム)
続いて、外気温度データ取得プログラムは、建物H1の建設地Sの最寄り気象観測地点における過去の毎時の外気温度データを取得するためのプログラムである。
ここで、建物H1の建設地Sの最寄り気象観測地点とは、全国に分布する気象予報の気象観測地点のうち、建物H1の建設地Sに最も近い位置にある気象観測地点(地域気象観測所)を指す。全国の気象観測地点では、降水量、気温(すなわち、外気温度データ)、日照時間、風向・風速などの種類の観測を行っている。
【0037】
気象観測地点(地域気象観測所)の観測データは、気象予報サーバー20を管理する気象庁等の気象情報を扱う機関に集約されて、気象予報サーバー20を通じて外部(管理サーバー10)に提供される。外部に提供される場合は、全種類の観測データが提供されてもよいし、必要な種類の観測データのみ提供されてもよい。
【0038】
外気温度データ取得プログラムは、このような気象予報サーバー20から送信された建物H1の建設地Sの最寄り気象観測地点における過去の毎時の外気温度データを記憶部12に記憶するためのプログラムである。外気温度データ取得プログラムを実行することによって取得できる外気温度データは、複数年にわたって記憶部12に蓄積される。これにより、後述する予測式の精度向上に貢献できるようになっている。
【0039】
気象予報サーバー20からの外気温度データの送信は、定期的に行われるものとしてもよいし、契機となるアクション(例えば表示装置4から送信された消費電力量の予測を要求する信号を通信部13が受信)が起きたときに行われてもよい。
【0040】
(デグリーアワー算出プログラム)
続いて、デグリーアワー算出プログラムは、予め定められた基準温度と過去の毎時の外気温度データとの差を月当たりで積算した過去の月積算冷房又は暖房デグリーアワーを算出するためのプログラムである。また、このデグリーアワー算出プログラムは、算出した月積算冷房又は暖房デグリーアワーを記憶部12に記憶するように設定されている。
月積算冷房又は暖房デグリーアワーとは、月積算冷房デグリーアワーと、月積算暖房デグリーアワーであり、いずれも過去の外気温度データを集約して適宜積算した過去データである。
【0041】
より詳細に説明すると、月積算冷房デグリーアワーとは、ある地点で観測された時刻ごとの外気温度θ(t)℃DBが冷房需要の見込まれる最低の基準外気温度24℃DBを上回る全ての時間帯において、この差(θ-24)>0を月積算したものを指す。なお、予め定められた基準温度である基準外気温度24℃DB(℃DBは乾球温度の単位)は、これに限られるものではなく、適宜変更可能である。
すなわち、月積算冷房デグリーアワーとは、暑さの程度を表す指標とも言えるものであり、次式(1)により求められる。
【0042】
【数1】
【0043】
一方で、月積算暖房デグリーアワーとは、ある地点で観測された時刻ごとの外気温度θ(t)℃DBが暖房需要の見込まれる最高の基準外気温度12℃DBを下回る全ての時間帯において、この差(12-θ)>0を月積算したものを指す。なお、予め定められた基準温度である基準外気温度12℃DB(℃DBは乾球温度の単位)は、これに限られるものではなく、適宜変更可能である。
すなわち、月積算暖房デグリーアワーとは、寒さの程度を表す指標とも言えるものであり、次式(2)により求められる。
【0044】
【数2】
【0045】
デグリーアワー算出プログラムは、月ごとに、時刻ごとの外気温度と基準温度との差を積算している。そのため、複数年にわたって外気温度データの蓄積が行われれば、月積算冷房デグリーアワー及び月積算暖房デグリーアワーの、月ごとの平均値を算出することができる。また、月積算冷房デグリーアワー及び月積算暖房デグリーアワーは、複数年にわたって記憶部12に蓄積される。これにより、後述する予測式の精度向上に貢献できるようになっている。
【0046】
(予測式導出プログラム)
続いて、予測式導出プログラムは、第一実測値データと過去の月積算冷房又は暖房デグリーアワーとに基づいて、これら第一実測値データと過去の月積算冷房又は暖房デグリーアワーとの相関を表す予測式を導き出すためのプログラムである。すなわち、制御部11に実行されることによって、記憶部12に記憶されている第一実測値データと月積算冷房又は暖房デグリーアワーとに基づいて、これら第一実測値データと過去の月積算冷房又は暖房デグリーアワーとの相関を表す回帰式を導き出すことができる。
【0047】
夏の暑さや冬の寒さの程度は、全国の気象観測地点で大きく異なるため、対前年比同月の直接的な冷房消費電力量比較は困難である。そこで、全国の建物Hを対象にし、世帯ごとに複数年分の夏季(7月、8月、9月)の月積算冷房デグリーアワー(℃・時/月)と月積算冷房消費電力量(kWh/月)を集計すると、月積算冷房デグリーアワーと月積算冷房消費電力量には強い相関が見られた。
すなわち、建物H(H1,H2,H3…Hn)別に非常に高い相関を確認することができるため、次式(3)に示すような、建物H別に固有の回帰式(予測式:予測アルゴリズム)を得ることができる。
【0048】
[数3]
y=ax+b ・・・(3)
【0049】
このような式(3)によって、例えば図4図5の表で示すような回帰直線データを得ることができる。
【0050】
図4は、月積算冷房消費電力量(kWh/月)を予測するためのものであり、y軸は月積算冷房消費電力量であり、x軸は月積算冷房デグリーアワーである。
そして、本実施形態においては、2017年、2018年、2019年、2020年における7月、8月、9月の分の第一実測値データと月積算冷房デグリーアワーに基づいて回帰式(予測式)を導き出している。
【0051】
図4(a)は、全国の建物Hのうち、空調機2としてルームエアコンを導入している建物Hの全世帯分の回帰直線データを示している。
図4(b)は、全国の建物Hのうち、空調機2としてセントラル空調装置を導入している建物Hの全世帯分の回帰直線データを示している。
なお、ルームエアコンとセントラル空調装置では、平均的な消費電力量に差はあるものの、いずれも第一実測値データと過去の月積算冷房又は暖房デグリーアワーとに強い相関を確認することができた。
図4(c)は、空調機2としてルームエアコンを導入している建物H1の回帰直線データを示している。この建物H1における予測式は、決定係数が0.99であるため、100%に近い消費電力量の予測ができるようになっている。
【0052】
図5は、月積算暖房消費電力量(kWh/月)を予測するためのものであり、y軸は月積算暖房消費電力量であり、x軸は月積算暖房デグリーアワーである。
そして、本実施形態においては、2017~2018年、2018~2019年、2019~2020年、2020~2021年における12月、1月、2月の分の第一実測値データと月積算暖房デグリーアワーに基づいて回帰式(予測式)を導き出している。
【0053】
図5は、空調機2としてルームエアコンを導入している建物H1の回帰直線データを示している。この建物H1における予測式は、決定係数が0.99であるため、100%に近い消費電力量の予測ができるようになっている。
【0054】
(予測基準値取得プログラム)
続いて、予測基準値取得プログラムは、過去の月積算冷房又は暖房デグリーアワーにおける各年同月の平均を取って当該月の平年値データを算出するとともに、過去の月積算冷房又は暖房デグリーアワーにおける各年同月の分布データを導き出すためのプログラムである。
すなわち、予測基準値取得プログラムは、制御部11に実行されることによって、記憶部12に記憶されている過去の月積算冷房又は暖房デグリーアワーから各年同月の平均値を割り出す。さらに、過去の月積算冷房又は暖房デグリーアワーから各年同月の分布データを導き出す。
【0055】
より詳細に説明すると、予測基準値取得プログラムは、まず、記憶部12に記憶されている過去の月積算冷房デグリーアワーにおける各年同月の平均を取って、月積算冷房消費電力量を導き出すために必要な当該月の平年値データを算出する。すなわち、2017~2020年の各年における7月ごとの平均と、8月ごとの平均と、9月ごとの平均を取って、それぞれ7月の平年値データ、8月の平年値データ、9月の平年値データとする。
【0056】
また、予測基準値取得プログラムは、記憶部12に記憶されている過去の月積算暖房デグリーアワーにおける各年同月の平均を取って、月積算暖房消費電力量を導き出すために必要な当該月の平年値データを算出する。すなわち、2017~2020(2021)年の各年における12月ごとの平均と、1月ごとの平均と、2月ごとの平均を取って、それぞれ12月の平年値データ、1月の平年値データ、2月の平年値データとする。
【0057】
仮に8月を例に挙げて具体的に説明すると、記憶部12に記憶されている過去の月積算冷房デグリーアワーのうち、2017年の8月における月積算冷房デグリーアワーの値が2500、2018年の8月における月積算冷房デグリーアワーの値が3200、2019年の8月における月積算冷房デグリーアワーの値が2700、2020年の8月における月積算冷房デグリーアワーの値が4000だとすると、8月の平均は3100となる。
そのため、予測基準値取得プログラムを実行することによって算出される月積算冷房デグリーアワーの平年値データは、3100となる。
【0058】
さらに、予測基準値取得プログラムは、記憶部12に記憶されている過去の月積算冷房デグリーアワー及び過去の月積算暖房デグリーアワーにおける各年同月の分布データを導き出す。8月を例に挙げて説明すると、記憶部12に記憶されている過去の月積算冷房デグリーアワーのうち、各年の8月で最も低い月積算冷房デグリーアワーの値が2500、最も高い月積算冷房デグリーアワーの値が4000だとすると、予測基準値取得プログラムを実行することによって導き出せる分布データは、2500~4000となる。
【0059】
なお、平年値データ及び分布データである予測基準値は、このように複数年の実績に基づいて導き出されるが、システムを導入した直後や日が浅い段階では、建物H1の近隣に建設されている他の建物Hでの実績を用いて予測基準値を導き出してもよい。また、2年目以降は、前年の実績を用いて予測基準値を導き出してもよい。
【0060】
(長期気象予報データ取得プログラム)
続いて、長期気象予報データ取得プログラムは、建物H1の建設地Sの最寄り気象観測地点における長期間の気温の予報に係るデータが含まれている長期気象予報データを取得するためのプログラムである。
長期間の気温の予報に係るデータが含まれている長期気象予報データは、気象情報を扱う機関が、最寄り気象観測地点で観測された外気温度データを分析した結果として導き出されたものである。したがって、長期気象予報データは、気象予報サーバー20を管理する気象庁等の気象情報を扱う機関に集約されて、気象予報サーバー20を通じて外部(管理サーバー10)に提供される。
【0061】
すなわち、長期気象予報データ取得プログラムは、気象予報サーバー20から送信された建物H1の建設地Sの最寄り気象観測地点における長期気象予報データを記憶部12に記憶するためのプログラムである。
気象予報サーバー20からの長期気象予報データの送信は、契機となるアクション(例えば表示装置4から送信された消費電力量の予測を要求する信号を通信部13が受信)が起きたときに行われてもよいし、定期的に行われるものとしてもよい。
【0062】
長期気象予報データは、例えば図6に示すように、向こう1か月の気温の予報と、向こう3か月の気温の予報と、次の夏(暖候期予報を指す。寒候期予報でもよく、その場合は次の冬と表記)の気温の予報が、地域ごとに分けて構成されている。予報の内容は、気温が今後どうなるかを確率(%:百分率)で表したものとなっている。
図6に示す例においては、向こう1か月の各地域における気温の予報が示されている。建物H1の建設地Sは、上記のように東京都とされているため、建物H1の消費電力量の予測を行う場合は、東日本エリアの予報を参照する。
【0063】
東日本エリアにおける向こう1か月の気温の予報は、平年よりも低い確率が20%とされ、平年並みである確率が30%とされ、平年よりも高い確率が50%とされている。この場合、建設地Sを含む東日本エリアにおける向こう1か月の気温の予報は平年よりも高くなる、という内容の長期気象予報データが、記憶部12に記憶されることとなる。
なお、平年並みである確率と平年よりも高い確率が同じ場合、もしくは、平年並みである確率と平年よりも低い確率が同じ場合は、双方の情報を含んだ内容の長期気象予報データが、記憶部12に記憶されることとなる。
【0064】
なお、本実施形態においては、建物Hの消費電力量の予測を行う場合は、全国を大きく分けたエリアの長期気象予報データを参照しているが、建物Hの建設地Sの最寄り気象観測地点ごとの長期気象予報データを取得できれば、後述する予測式の精度向上に貢献できるので好ましい。
【0065】
(第一消費電力量予測プログラム)
続いて、第一消費電力量予測プログラムは、予測したい月の冷房又は暖房に係る月積算消費電力量を、当該月の平年値データと長期気象予報データとを照合し、予測式を用いて各年同月の分布データをもとに予測するためのプログラムである。
より詳細に説明すると、図6図7に示すように、第一消費電力量予測プログラムは、予測基準値として算出した当該月の平年値データを基準にして、予測したい月の冷房又は暖房に係る月積算消費電力量が、平年並みとなるか、平年より高いか、平年より低いかの判断を、長期気象予報データと照らし合わせて行う。
そして、長期気象予報データと照らし合わせた結果、予測したい月の冷房又は暖房に係る月積算消費電力量が、回帰式(予測式)を表す回帰直線データ上の分布データをもとに、どの位置に該当するかを判断する。
すなわち、予測式導出プログラムを実行することによって導き出された予測式と、予測基準値取得プログラムを実行することによって取得できる当該月の平年値データ及び各年同月の分布データと、が判明すると、その予測式(回帰式)によって、冷房又は暖房に係る月積算消費電力量の平年値データと、冷房又は暖房に係る月積算消費電力量の分布データが得られることとなる。
【0066】
図8を参照し、例えば2018年8月の場合を例に挙げて説明する。
上記のように、月積算冷房デグリーアワーの平年値データが3100とされ、月積算冷房デグリーアワーの分布データが2500~4000とされた場合には、月積算冷房消費電力量の平年値データは、3100との相関を示す値(y)となり、月積算冷房消費電力量の分布データは、最小値が2500との相関を示す値(min)となり、最大値が4000との相関を示す値(max)となる。
ここで、例えば長期気象予報データにおける長期間の気温の予報が平年並みである場合は、予測したい月(2018年8月)の月積算冷房消費電力量も平年並みとなるため、平年値データの場合と同様の月積算冷房消費電力量と同一であると予測されることとなる。すなわち、月積算冷房デグリーアワーの平年値3100との相関を示す値(y)を、予測したい月(2018年8月)の月積算冷房消費電力量の予測値(後述する第一予測値データ)とする。
【0067】
例えば長期間の気温の予報が平年より高い場合は、予測したい月(2018年8月)の月積算冷房消費電力量も平年より高くなるため、月積算冷房消費電力量が平年値データよりも高くなると予測されることとなる。すなわち、矢印A1側とされる。
ここで、予測したい月(2018年8月)の月積算冷房消費電力量の具体的な数値は、例えば、月積算冷房デグリーアワーの平年値3100と、月積算冷房デグリーアワーの最大値4000との中間値3550を算出し、その中間値との相関を示す値を、予測したい月(2018年8月)の月積算冷房消費電力量の予測値(後述する第一予測値データ)とする。
【0068】
例えば長期間の気温の予報が平年より低い場合は、予測したい月(2018年8月)の月積算冷房消費電力量も平年より低くなるため、月積算冷房消費電力量が平年値データよりも低くなると予測されることとなる。すなわち、矢印A2側とされる。
ここで、予測したい月(2018年8月)の月積算冷房消費電力量の具体的な数値は、例えば、月積算冷房デグリーアワーの平年値3100と、月積算冷房デグリーアワーの最小値2500との中間値2800を算出し、その中間値との相関を示す値を、予測したい月(2018年8月)の月積算冷房消費電力量の予測値(後述する第一予測値データ)とする。
【0069】
仮に長期気象予報データに、「昨年(2017年8月)と同等」という情報が含まれる場合、予測したい月(2018年8月)の月積算冷房消費電力量は、昨年(2017年8月)と同様の月積算冷房消費電力量(y2017)の予測が行われる。
また、仮に長期気象予報データに、「過去20年間で最も暑くなる」といった情報が含まれる場合、予測したい月(2018年8月)の月積算冷房消費電力量は、分布データの最大値との相関を示す値(max)となる。反対に、「過去20年間で最も寒くなる」といった情報が含まれる場合、予測したい月(2018年8月)の月積算冷房消費電力量は、分布データの最小値との相関を示す値(max)となる。
その他にも、予測したい月(2018年8月)が、平年値データと比較してどの程度暑くなるのか寒くなるのかの情報が長期気象予報データに含まれれば、月積算冷房消費電力量がどの程度増減するかを特定できる。
あるいは、建物H1の建設地Sにおける月積算冷房又は暖房デグリーアワーが、長期気象予報データから直接的に取得できれば、更に精度よく冷房又は暖房に係る月積算消費電力量を予測できるので好ましい。
【0070】
(第二実測値データ取得プログラム)
続いて、第二実測値データ取得プログラムは、建物H1における冷房及び暖房を除く月積算消費電力量の実測値である第二実測値データを取得するためのプログラムである。
より具体的に説明すると、第二実測値データ取得プログラムは、建物H(ここでは建物H1)から送信されて、通信部13が受信した建物H1における電流値のデータのうち、空調機2を除くその他の機器等に供給された電流値のデータを記憶部12に記憶するためのプログラムである。第二実測値データ取得プログラムを実行することによって取得できる第二実測値データは、複数年にわたって記憶部12に蓄積される。
なお、建物H1に浴室乾燥機が設けられている場合、浴室乾燥機の稼働に消費される電力は、冷房及び暖房を除く月積算消費電力量の実測値に含まれるものとする。
【0071】
建物H1における通信機器3からの電流値データの送信は、例えば月初や月末といった形で定期的に行われるものとしてもよいし、契機となるアクション(例えば消費電力量の予測を要求する信号の送信)が起きたときに行われてもよい。
第二実測値データ取得プログラムの実行は、第一実測値データ取得プログラムの場合とは異なり、毎月行われている。
【0072】
(平均値データ算出プログラム)
続いて、平均値データ算出プログラムは、複数年の第二実測値データを各年同月で平均化し、建物H1における冷房及び暖房を除く月積算消費電力量の平均値データを算出するためのプログラムである。
平均値データ算出プログラムは、図9に示すように複数年にわたって収集した第二実測値データを月ごとに平均を取って、建物H1における冷房及び暖房を除く月積算消費電力量の平均値データを算出している。
【0073】
冷房及び暖房を除く月積算消費電力量は、建物H1の建設地Sではなく、建物H1での住人の暮らし方に依存するため、建設地Sを考慮せずにデータ収集される。
また、平均値データ算出プログラムを実行することによって取得できる第二実測値データの平均値データは、複数年にわたって記憶部12に蓄積される。
【0074】
なお、図9に示す表において、2017~2018年のシーズンと、2018~2019年のシーズンと、2019~2020年のシーズンにおける平均値データは近似しているが、2020~2021年のシーズンにおける平均値データは、前シーズンまでの平年値データと比較すると、やや高い状態となっている。これはパンデミックの影響を受けたものであり、通常であれば、2020~2021年のシーズンにおける平均値データも、前シーズンまでの平年値データと近似したものになっていたと推測される。
【0075】
(第二消費電力量予測プログラム)
続いて、第二消費電力量予測プログラムは、予測したい月の冷房又は暖房を除く月積算消費電力量を、平均値データのうち該当する月の平均値データに基づいて導き出すためのプログラムである。
第二実測値データは、図9に示すように、複数年にわたって形状が近似するグラフで表すことができ、周期定常性があると言える。そのため、第二消費電力量予測プログラムを実行し、予測したい月の冷房又は暖房を除く月積算消費電力量を導き出す際は、平均値データ算出プログラムによって算出された平均値データのうち、予測したい月と同月の平均値データを予測値とする。つまり、例えば8月の冷房及び暖房を除く月積算消費電力量を予測したい場合は、前年までの8月の平均値データを予測値(第二予測値データ)として導き出すようにする。
【0076】
なお、冷房又は暖房を除く月積算消費電力量の予測に用いられる平均値データは、上記のように複数年の実績に基づいて導き出されるが、システムを導入した直後や日が浅い段階では、建物H1の近隣に建設されている他の建物Hにおける平均値データを流用してもよい。
また、2年目は、前年の第二実測値データを用いて冷房又は暖房を除く月積算消費電力量の予測を行ってもよいものとする。平均値データは、複数年の実績に基づいて導き出された方が予測の精度が高くなる。そのため、3年目以降は、前年の第二実測値データではなく、平均値データ算出プログラムによって算出された平均値データを用いて予測を行うようにする。
【0077】
(消費電力量合算プログラム)
続いて、消費電力量合算プログラムは、第一消費電力量予測手段によって予測された冷房又は暖房に係る月積算消費電力量と、第二消費電力量予測手段によって導き出された冷房及び暖房を除く月積算消費電力量を合算するためのプログラムである。
つまり、消費電力量合算プログラムは、予測したい月の冷房又は暖房に係る消費電力量の予測値である第一予測値データと、予測したい月の冷房及び暖房を除く消費電力量の予測値である第二予測値データを合計し、予測したい月の総消費電力量(すなわち、月積算総消費電力量)を算出する。
【0078】
冷房又は暖房に係る消費電力量の予測値である第一予測値データが長期気象予報データに応じて変動するため、消費電力量合算プログラムによって算出される月積算総消費電力量も、長期気象予報データに応じて変動することになる。
【0079】
(予測結果出力プログラム)
続いて、予測結果出力プログラムは、第一消費電力量予測プログラムによって予測された冷房又は暖房に係る月積算消費電力量のデータ、第二消費電力量予測手段によって導き出された冷房及び暖房を除く月積算消費電力量のデータ、消費電力量合算プログラムによって算出された月積算総消費電力量のデータを出力するためのプログラムである。
出力先は、建物H1の表示装置4とされており、通信ネットワークNを介して通信機器3へとデータ送信される。建物H1の住人であるユーザーは、表示装置4に表示された自宅の消費電力量の予測結果を確認することができる。
表示装置4に表示される画面には、図4(c)や図5図7図9に示すようなグラフが表示されてもよい。
【0080】
各消費電力量の予測結果のデータを、管理サーバー10から表示装置4に送信するタイミングは、契機となるアクション(例えば表示装置4から送信された消費電力量の予測を要求する信号を通信部13が受信)が起きたときでもよいし、定期的に行われるものとしてもよい。
【0081】
なお、各消費電力量の予測結果のデータを出力する先は、表示装置4に限られるものではなく、管理サーバー10の記憶部12に記憶されてもよいし、管理サーバー10と通信可能に接続されたデータベース用の記憶装置(図示省略)等に送信されてもよい。
その他にも、各消費電力量の予測結果のデータは、当該データに含まれるユーザーの個人情報が秘匿された状態で、気象庁や気象情報会社等の気象情報を扱う機関に送信されてもよい。
【0082】
(月積算消費電力量の予測の流れ)
次に、以上のように構成された消費電力量予測システムによって、建物H1の月積算冷房消費電力量を予測する際の流れについて説明する。
なお、以下においては、建物H1で冷房が行われる場合の消費電力量の予測について説明するが、暖房が行われる場合の消費電力量(月積算暖房消費電力量)の予測も同様の流れで行われるものとする。
【0083】
建物H1の月積算冷房消費電力量を予測する際、管理サーバー10は、事前(予測を開始する前段階)に、建物H1側から、建物H1における電流値のデータのうち冷房又は暖房を行うために空調機2に供給された電流値のデータ(第一実測値データ)を取得しておくようにする。
【0084】
また、管理サーバー10は、事前に、気象予報サーバー20から、建物H1の建設地Sの最寄り気象観測地点における過去の毎時の外気温度データを取得しておくようにする。
【0085】
また、管理サーバー10は、事前に、予め定められた基準温度と過去の毎時の外気温度データとの差を月当たりで積算した過去の月積算冷房デグリーアワーを算出しておくようにする。
【0086】
また、管理サーバー10は、事前に、第一実測値データと過去の月積算冷房又は暖房デグリーアワーとに基づいて、これら第一実測値データと過去の月積算冷房又は暖房デグリーアワーとの相関を表す予測式を導き出しておくようにする。
【0087】
続いて、管理サーバー10は、事前に、過去の月積算冷房デグリーアワーにおける各年同月の平均を取って当該月の平年値データを算出するとともに、過去の月積算冷房デグリーアワーにおける各年同月の分布データを導き出しておくようにする。
【0088】
さらに、管理サーバー10は、事前に、建物H1の建設地Sの最寄り気象観測地点における長期間の気温の予報に係るデータが含まれている長期気象予報データを取得しておくようにする。
【0089】
そして、ユーザーが表示装置4を通じて管理サーバー10に対し、自宅である建物H1の月積算冷房消費電力量の予測を要求する信号を送信する。なお、当該信号には、建物H1を特定する情報と、月積算冷房消費電力量の予測を行う月を特定する情報が少なくとも含まれているものとする。
信号は、通信ネットワークNを介して管理サーバー10に送信され、管理サーバー10は、通信部13によって当該信号を受信する。
【0090】
管理サーバー10は、月積算冷房消費電力量の予測を要求する信号を受けて、第一消費電力量予測プログラムを実行する。
すなわち、予測したい月の月積算冷房消費電力量を、当該月の平年値データと長期気象予報データとを照合し、予測式を用いて各年同月の分布データをもとに予測する。
【0091】
第一消費電力量予測プログラムが実行されて、予測したい月の月積算冷房消費電力量が予測されたら、管理サーバー10は、予測結果出力プログラムを実行し、予測結果のデータを、建物H1側の表示装置4へと送信する。これにより、建物H1の住人であるユーザーは、表示装置4に表示された自宅の、予測したい月の月積算冷房消費電力量の予測結果を確認することができる。
【0092】
次に、冷房又は暖房を除く月積算消費電力量の予測を行う際の流れについて説明する。
【0093】
建物H1における冷房又は暖房を除く月積算消費電力量を予測する際、管理サーバー10は、事前(予測を開始する前段階)に、建物H1側から、建物H1における電流値のデータのうち空調機2を除くその他の機器等に供給された電流値のデータ(第二実測値データ)を取得しておくようにする。
【0094】
また、管理サーバー10は、事前に、複数年の第二実測値データを各年同月で平均化し、建物H1における冷房及び暖房を除く月積算消費電力量の平均値データを算出しておくようにする。
【0095】
そして、ユーザーが表示装置4を通じて管理サーバー10に対し、自宅である建物H1の冷房又は暖房を除く月積算消費電力量の予測を要求する信号を送信する。なお、当該信号には、建物H1を特定する情報と、冷房又は暖房を除く月積算消費電力量の予測を行う月を特定する情報が少なくとも含まれているものとする。
信号は、通信ネットワークNを介して管理サーバー10に送信され、管理サーバー10は、通信部13によって当該信号を受信する。
【0096】
管理サーバー10は、冷房又は暖房を除く月積算消費電力量の予測を要求する信号を受けて、第二消費電力量予測プログラムを実行する。
すなわち、予測したい月の冷房又は暖房を除く月積算消費電力量を、事前に算出しておいた平均値データのうち該当する月の平均値データに基づいて導き出す。
【0097】
第二消費電力量予測プログラムが実行されて、予測したい月の冷房又は暖房を除く月積算消費電力量が予測されたら、管理サーバー10は、予測結果出力プログラムを実行し、予測結果のデータを、建物H1側の表示装置4へと送信する。これにより、建物H1の住人であるユーザーは、表示装置4に表示された自宅の、予測したい月の冷房又は暖房を除く月積算消費電力量の予測結果を確認することができる。
【0098】
なお、ユーザーから、予測したい月の総消費電力量(月積算総消費電力量)を確認したいとの要望がある場合は、建物H1側からの月積算総消費電力量の算出を要求する信号を受けてから、消費電力量合算プログラムを実行する。
すなわち、第一消費電力量予測手段によって予測された冷房又は暖房に係る月積算消費電力量と、第二消費電力量予測手段によって導き出された冷房及び暖房を除く月積算消費電力量を合算する。
【0099】
消費電力量合算プログラムが実行されて、予測したい月の月積算総消費電力量が算出されたら、管理サーバー10は、予測結果出力プログラムを実行し、月積算総消費電力量のデータを、建物H1側の表示装置4へと送信する。これにより、建物H1の住人であるユーザーは、表示装置4に表示された自宅の、予測したい月の月積算総消費電力量を確認することができる。
【0100】
なお、以上のようにして導き出された予測結果のデータや、当該予測結果を導き出すために取得した種々のデータは複数年にわたって全て蓄積される。これにより、予測精度の向上に貢献できる。
【0101】
また、導き出された予測結果のデータは、住宅の居住者向けサービスだけにとどまらずに、他のサービス等に利用されてもよい。
例えば図4(a),(b)に示すような多数の世帯の予測式(予測結果のデータ)を、マイクログリッドの運営支援情報として利用してもよい。なお、マイクログリッドとは、エネルギー供給源と消費施設を一定の範囲でまとめて、エネルギーを地産地消する仕組みを指す。より広域に、街単位で予測結果のデータを利用してもよい。さらに、いくつかのタイプの電力源を統合し、信頼性ある全体の電力供給を行うための仮想発電所(VPP:virtual power plant)に、予測結果のデータを利用してもよい。
【0102】
本実施形態によれば、以下のような優れた効果を奏する。
すなわち、冷房又は暖房の月積算消費電力量の実測値である第一実測値データと、夏の暑さや冬の寒さの程度を表す指標である過去の月積算冷房又は暖房デグリーアワーと、に基づいて予測式を導き出し、当該月の平年値データと長期気象予報データとを照合しつつ、当該予測式を用いて各年同月の分布データをもとに、予測したい月の冷房又は暖房に係る月積算消費電力量を予測するので、対象の建物H1での、夏の暑さや冬の寒さの程度に応じた長期間の月積算消費電力量を予測できる。
【0103】
また、長期気象予報データには、予測したい月を含む期間の気温の予報が平年並みであるか、平年より高いか、平年より低いか、を確率で表す情報が少なくとも含まれているので、確率に準拠したシンプルな長期間の月積算消費電力量の予測が可能となる。これにより、長期間の月積算消費電力量が平年と比較してどうなるのか、ユーザーにとって理解しやすくなる。
【0104】
また、対象の建物H1における冷房及び暖房を除く月積算消費電力量の実測値である第二実測値データの複数年分を各年同月で平均化し、対象の建物H1における冷房及び暖房を除く月積算消費電力量の平均値データを算出し、予測したい月の冷房又は暖房を除く月積算消費電力量を、当該平均値データのうち該当する月の平均値データに基づいて導き出すので、対象の建物H1における長期間の冷房及び暖房を除く月積算消費電力量を予測できる。
【0105】
また、予測された冷房又は暖房に係る月積算消費電力量と、導き出された冷房及び暖房を除く月積算消費電力量を合算するので、対象の建物H1での、予測したい月の総消費電力量を予測できる。これにより、ユーザーの節電意識を高めたり、対象の建物H1で使われる電力に係るコストを低減したりすることができる。
【0106】
また、複数年の第一実測値データと、複数年の過去の月積算冷房又は暖房デグリーアワーとに基づいて予測式を導き出すので、複数年にわたってデータが蓄積され、予測式の精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0107】
1 分電盤
2 空調機
3 通信機器
4 表示装置
5 系統電源
6 太陽光発電装置
7 蓄電池
10 管理サーバー
11 制御部
12 記憶部
13 通信部
20 気象予報サーバー
H 建物
H1 対象の建物
S 建設地
N 通信ネットワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9