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特開2024-88948二次電池用電極、及び二次電池用電極の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088948
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】二次電池用電極、及び二次電池用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20240626BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240626BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/139
H01M4/66 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204008
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】横井 裕磨
(72)【発明者】
【氏名】河口 優祐
【テーマコード(参考)】
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AS02
5H017BB08
5H017BB12
5H017BB14
5H017BB17
5H017CC01
5H017DD06
5H017EE06
5H017EE07
5H017HH01
5H017HH03
5H017HH05
5H050AA12
5H050AA14
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050DA04
5H050FA04
5H050FA16
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA22
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】電極の厚さ方向の抵抗の増大を抑制しつつ高い耐久性を備えた二次電池用電極、及び二次電池用電極の製造方法を提供すること。
【解決手段】二次電池用電極1は、集電箔10と、集電箔10の表面上に形成され、繊維状炭素材料31及び結着剤32を含む薄膜層21と、薄膜層21の表面上に形成され、活物質33を含む活物質層22と、を有し、薄膜層21に含まれる繊維状炭素材料31が集電箔10の表面に対して略垂直に配向する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電箔と、
前記集電箔の表面上に形成され、繊維状炭素材料及び結着剤を含む薄膜層と、
前記薄膜層の表面上に形成され、活物質を含む活物質層と、を有し、
前記薄膜層に含まれる繊維状炭素材料が前記集電箔の表面に対して略垂直に配向する二次電池用電極。
【請求項2】
前記薄膜層の厚さは、2μm~8μmである請求項1に記載の二次電池用電極。
【請求項3】
前記繊維状炭素材料と前記結着剤との質量比は、20:80~50:50である請求項1に記載の二次電池用電極。
【請求項4】
集電箔の表面上に繊維状炭素材料及び結着剤を含む薄膜層を形成する薄膜層形成工程と、
前記薄膜層の表面上に活物質を含む活物質層を形成する活物質層形成工程と、を有し、
前記薄膜層形成工程は、
前記繊維状炭素材料、前記結着剤、及び溶媒を含む薄膜層形成用ペーストを調製するペースト調製工程と、
前記薄膜層形成用ペーストを前記集電箔の表面に塗工して塗膜を形成する塗工工程と、
前記塗膜に前記集電箔の表面に対して略垂直方向となる磁場を前記集電箔の表面側から印加する磁場配向工程と、
前記磁場を印加した後の前記塗膜を乾燥する乾燥工程と、
を含む二次電池用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用電極、及び二次電池用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、パソコンや携帯端末等のいわゆるポータブル電源や車両駆動用電源として広く用いられている。二次電池の中でも、特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン二次電池は、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車等の車両の駆動用高出力電源として好適に用いられている。リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを吸蔵・放出する正極(正極板)及び負極(負極板)の電極間を、電解質中のリチウムイオンが移動することで充放電可能な二次電池である。
【0003】
特許文献1には、正負の電極と非水電解液とを備え、正極および負極の少なくとも一方は、電極活物質を含む電極合剤と、その電極合剤を保持する集電体と、集電体と電極合剤との間に介在された導電層とを有し、導電層は、導電材と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンとを含み、NMRに基づく上記PVDFのα晶とβ晶との質量比(α/β)が0.35~0.56である非水二次電池とその製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-104422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電極に含まれる結着剤は、活物質同士を結着したり、集電箔(集電体)と活物質とを結着したりする機能を有する。結着剤自体は電極の電気化学的性能にはほとんど寄与せず、集電箔と活物質との電子伝導性を阻害するため、電極の高エネルギー密度化や電池の内部抵抗を下げる観点から、結着剤の使用量を極力少なくすることが望ましい。
【0006】
また、電極に含まれる導電材として、ごく少量で高い導電性を確保できることから、カーボンナノチューブ(CNT)等の繊維状炭素材料が好適に用いられる。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、導電層に含まれる導電材として繊維状炭素材料を用いると、導電層内における導電パスがランダムに形成されるため、電極の厚さ方向の電気抵抗が増大する可能性があるという問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、電極の厚さ方向の抵抗の増大を抑制しつつ高い耐久性を備えた二次電池用電極、及び二次電池用電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施の形態にかかる二次電池用電極は、集電箔と、集電箔の表面上に形成され、繊維状炭素材料及び結着剤を含む薄膜層と、薄膜層の表面上に形成され、活物質を含む活物質層と、を有し、薄膜層に含まれる繊維状炭素材料が集電箔の表面に対して略垂直に配向する。
【0009】
また、一実施の形態にかかる二次電池用電極の製造方法は、集電箔の表面上に繊維状炭素材料及び結着剤を含む薄膜層を形成する薄膜層形成工程と、薄膜層の表面上に活物質を含む活物質層を形成する活物質層形成工程と、を有し、薄膜層形成工程は、繊維状炭素材料、結着剤、及び溶媒を含む薄膜層形成用ペーストを調製するペースト調製工程と、薄膜層形成用ペーストを集電箔の表面に塗工して塗膜を形成する塗工工程と、塗膜に集電箔の表面に対して略垂直方向となる磁場を集電箔の表面側から印加する磁場配向工程と、磁場を印加した後の塗膜を乾燥する乾燥工程と、を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、電極の厚さ方向の抵抗の増大を抑制しつつ高い耐久性を備えた二次電池用電極、及び二次電池用電極の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1にかかる二次電池用電極を示す断面図である。
図2】実施の形態1にかかる二次電池用電極の製造方法を示すフローチャートである。
図3】磁場配向工程の前後の様子を説明する断面図である。
図4】実施例における磁場配向工程を説明する斜視図である。
図5】剥離強度の測定方法を説明する図である。
図6】正極板の剥離強度を比較したグラフである。
図7】貫通抵抗の測定方法を説明する図である。
図8】正極板の貫通抵抗を比較したグラフである。
図9】比較例の電極板を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。図中に示したものは、全体の一部であり、図示しないその他の構成が実際には多く含まれる。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。例えば、図中では、繊維状炭素材料31を模式的に線状に示し、結着剤32を模式的に三角形状に示し、活物質33を模式的に粒状に示しているが、それぞれ実際の形状を反映させたものではない。
【0013】
本実施形態にかかる二次電池用電極の好適な実施形態の一つとして、リチウムイオン二次電池の電極に具体化して説明する。リチウムイオン二次電池は、電気化学反応に際し、正極(正極板)と負極(負極板)との間で電荷担体であるリチウムイオンが電解液中を伝導することで、充放電が実現される二次電池である。このようなリチウムイオン二次電池は、例えば、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の車両の駆動用電源として好適に用いられる。
【0014】
図1を参照して本実施形態にかかる二次電池用電極(電極板1)の構成を説明する。図1に示すように、電極板1は、集電箔10と、集電箔10の表面上の少なくとも一部に形成される合材層20と、を有する。電極板1は、集電箔10の一方の表面上に合材層20を有していてもよく、集電箔10の一方の表面上及び他方の表面上にそれぞれ合材層20を有していてもよい。合材層20は、集電箔10の表面上に形成された薄膜層21と、薄膜層21の表面上に形成された活物質層22と、を有する。
【0015】
(集電箔10)
集電箔10は、導電性の良好な金属又はその合金等により構成される。集電箔10を構成する金属としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、鉄、ステンレス鋼等が挙げられる。正極の電極板1である場合、集電箔10を構成する金属は、アルミニウム又はアルミニウム合金であることが好ましい。負極の電極板1である場合、集電箔10を構成する金属は、銅又は銅合金であることが好ましい。
【0016】
集電箔10は、棒状、板状、シート状、箔状、又はメッシュ状等の種々の形態であり得る。本実施形態では、シート状の集電箔10が好適に用いられるが、集電箔10の形状は、二次電池の形状等に応じて適宜変更することができる。シート状の集電箔10は、正極の電極板1である場合、例えば10μ~15μmの厚さを有することが好ましく、負極の電極板1である場合、例えば5μm~10μmの厚さを有することが好ましい。
【0017】
(薄膜層21)
薄膜層21は、集電箔10の表面上の少なくとも一部に形成されている。薄膜層21は、集電箔10と活物質層22との間に介在している。そして、薄膜層21は、繊維状炭素材料31及び結着剤32を含んでいる。
【0018】
薄膜層21に含まれる繊維状炭素材料31は、導電材として機能する。繊維状炭素材料31は、結晶構造に炭素網面を有し、磁場の印加により配向される磁場配向性を有している。このような繊維状炭素材料31は、炭素網面が広がる長軸方向に磁化容易方向を有する。繊維状炭素材料31としては、例えばカーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等を用いることができる。本実施形態では、高い電子伝導性を示すことから、繊維状炭素材料31としてCNTを好適に用いることができる。
【0019】
繊維状炭素材料31の平均的な外径やアスペクト比は、二次電池に要求される仕様等に応じて適宜変更することができる。柔軟性及び分散性の観点から、繊維状炭素材料31の平均的な外径は、例えば10nm~30nmが好ましく、特に10nm~15nmとすることが好ましい。良好な導電パスを形成する観点から、繊維状炭素材料31のアスペクト比は、例えば80以上が好ましく、特に100以上とすることが好ましい。また、繊維状炭素材料31は、分散性を向上させることを目的とした親水化処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0020】
繊維状炭素材料31がCNTである場合、例えば、単層カーボンナノチューブ(Single-Walled Carbon Nanotube;SWCNT)、多層カーボンナノチューブ(Multi-Walled Carbon Nanotube;MWCNT)等を単独又は組み合わせて用いることができる。CNTは、アーク放電法、レーザアブレーション法、化学気相成長法等により製造されたものであり得る。これらを単独又は組み合わせて用いることができる。
【0021】
薄膜層21に含まれる繊維状炭素材料31の少なくとも一部は、集電箔10の表面に対して略垂直に配向する。具体的には、繊維状炭素材料31の長軸方向と集電箔10の表面とのなす角度の平均的な値である配向度θが45°~90°であり、特に70°~90°であることが好ましい。集電箔10の表面に対して略垂直に配向した繊維状炭素材料31は、集電箔10の表面と活物質層22の集電箔10側の主面とを電気的に接続する導電パスを形成する。これにより、集電箔10と活物質33との電子伝導性が向上し、電極の厚さ方向の電気抵抗が低減されるため、二次電池の出力特性が向上し得る。
【0022】
薄膜層21に含まれる複数の繊維状炭素材料31のうち、配向度θが70°~90°である繊維状炭素材料31の占める割合は、50%以上であることが好ましく、70%以上とすることがより好ましい。上記した割合であると、集電箔10の表面と活物質層22の集電箔10側の主面との間の導電パスをより良好に形成することができる。
【0023】
配向度θは、例えばFIB-SEM測定により得られた電極板1の断面画像に対する画像解析から、薄膜層21中の任意に選ばれる複数の繊維状炭素材料31のそれぞれについて、繊維状炭素材料31の長軸方向に沿った軸線と集電箔10の表面とのなす角度を計測した平均値を採用することができる。
【0024】
なお、FIB-SEMとは、集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)にて試料を加工し、当該試料の露出した断面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)にて観察することを意味する。試料を加工する方法としては、例えば、適当な樹脂で固めた試料を、所望の断面で切断し、その切断面を少しずつ削りながらSEM観察を行うとよい。
【0025】
薄膜層21に含まれる結着剤32は、リチウムイオン二次電池の電極に用いられる結着剤32を特に制限なく用いることができる。溶剤系のペーストを用いて薄膜層21を形成する場合には、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)等のハロゲン化ビニル樹脂、ポリエチレンオキサイド(PEO)等の有機溶剤に分散又は溶解可能なポリマー材料を結着剤32として用いることができる。
【0026】
水系のペーストを用いて薄膜層21を形成する場合には、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース系ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム類、酢酸ビニル共重合体等の水に分散又は溶解可能なポリマー材料を結着剤32として用いることができる。
【0027】
このようなポリマー材料は、一種を単独で、あるいは二種以上を適宜組み合わせて用いることができる。正極の電極板1である場合、PVDFが好適に用いられる。負極の電極板1である場合、SBRが好適に用いられる。なお、上記したポリマー材料は、結着剤32として用いられる他に、ペーストの流動性調整剤(例えば増粘剤)として機能する場合がある。
【0028】
薄膜層21の厚さは特に限定されないが、例えば1μm~10μmであり、2μm~8μmであることが好ましい。薄膜層21の厚さが薄すぎると、集電箔10と活物質層22との結着力が不足する可能性がある。一方、薄膜層21の厚さが厚すぎると、電極板1の厚さ方向の電気抵抗等の抵抗が増大する可能性がある。
【0029】
薄膜層21の目付量は特に限定されないが、例えば0.3g/cm~2.0g/cmであり、0.8g/cm~1.4g/cmであることが好ましい。薄膜層21の目付量とは、薄膜層21の単位面積当たりの質量を意味する。薄膜層21の目付量が小さすぎると、集電箔10と活物質層22との結着力が低下するとともに、電極板1の厚さ方向の電気抵抗が増大する可能性がある。薄膜層21の目付量が2.0g/cmを超えると、体積効率が悪くなる可能性がある。
【0030】
繊維状炭素材料31と結着剤32との質量比は、例えば20:80~50:50であり、35:65~40:60であることが好ましい。繊維状炭素材料31と結着剤32との質量比が上記範囲であると、集電箔10と活物質層22との間の良好な結着力が得られるとともに、薄膜層21内の導電パスが良好に形成されて電極板1の厚さ方向の電気抵抗の増大が好適に抑制される。
【0031】
なお、薄膜層21は、必要に応じて繊維状炭素材料31及び結着剤32以外の他の任意の成分(例えば、後述する活物質層22に用いることができる各種の導電材等)を含んでいてもよい。
【0032】
(活物質層22)
活物質層22は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な活物質33を含み、必要に応じて、導電材、及び結着剤32を含む。
【0033】
正極の電極板1である場合、活物質33として、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(NCA)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(NCM)が挙げられる。これらを単独又はこれらを組み合わせて用いることができる。
【0034】
負極の電極板1である場合、活物質33として、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料、スズ(Sn)、ケイ素(Si)等のリチウムと合金化する金属又はその合金、及びチタン酸リチウム(LiTi12)等の複合酸化物が挙げられる。これらを単独又はこれらを組み合わせて用いることができる。
【0035】
活物質層22に含まれる導電材は、活物質33の粒子間の導電パス及び活物質33-薄膜層21間の導電パスを形成する。導電材としては、例えば薄膜層21に用いることができる繊維状炭素材料31を好ましく用いることができる。活物質層22に含まれる導電材は、繊維状炭素材料31に限らず、例えばカーボンブラック(例えばアセチレンブラック)、黒鉛(例えば天然黒鉛、人造黒鉛)等の粒状炭素材料、ニッケル粉末等の導電性金属粉末等を用いてもよい。これらの繊維状炭素材料31、粒状炭素材料、及び導電性金属粉末等を単独又は組み合わせて用いることができる。
【0036】
活物質層22に含まれる結着剤32は、例えば薄膜層21に用いることができる各種の結着剤32を好ましく用いることができる。なお、活物質層22は、必要に応じて導電材及び結着剤32以外の他の任意の成分(例えば、分散剤等)を含んでいてもよい。
【0037】
活物質層22全体に占める活物質33の割合は、正極の電極板1である場合、例えば60質量%~99質量%が好ましく、70質量%~99質量%がより好ましく、特に90質量%~99質量%とすることが好ましい。負極の電極板1である場合、例えば60質量%~99質量%が好ましく、70質量%~99質量%がより好ましく、特に90質量%~99質量%とすることが好ましい。
【0038】
活物質層22全体に占める導電材の割合は、正極の電極板1である場合、例えば0.3質量%~10.0質量%が好ましく、0.5質量%~5.0質量%がより好ましく、特に0.7質量%~1.5質量%とすることが好ましい。負極の電極板1である場合、例えば0.3質量%~10.0質量%が好ましく、0.5質量%~5.0質量%がより好ましく、特に0.7質量%~1.5質量%とすることが好ましい。導電材として繊維状炭素材料31を用いることにより、活物質層22全体に占める導電材の割合を少なくすることができる。これにより、相対的に活物質33の割合を増やすことができる。
【0039】
活物質層22全体に占める結着剤32の割合は、正極の電極板1である場合、例えば0.5質量%~5.0質量%が好ましく、0.5質量%~3.0質量%がより好ましく、特に0.7質量%~1.2質量%とすることが好ましい。負極の電極板1である場合、例えば0.5質量%~5.0質量%が好ましく、0.5質量%~3.0質量%がより好ましく、特に0.6質量%~1.0質量%とすることが好ましい。本実施形態では、集電箔10と活物質層22との間に薄膜層21が介在することにより、集電箔10と活物質層22との結着力が向上するため、活物質層22全体に占める結着剤32の割合を少なくすることができる。これにより、相対的に活物質33の割合を増やすことができる。
【0040】
活物質層22の目付量及び厚さは、特に限定されないが、活物質層22の目付量及び厚さが小さすぎると、二次電池を構成した場合に十分なエネルギー密度が得られない可能性がある。一方、活物質層22の目付量及び厚さを大きくしすぎると、二次電池を構成した場合に十分な出力特性が得られない可能性がある。
【0041】
正極の電極板1である場合、活物質層22の目付量は、例えば5.40g/cm~5.80g/cmが好ましく、5.45g/cm~5.65g/cmがより好ましく、特に5.50g/cm~5.60g/cmとすることが好ましい。負極の電極板1である場合、活物質層22の目付量は、例えば3.60g/cm~4.00g/cmが好ましく、3.70g/cm~3.90g/cmがより好ましく、特に3.75g/cm~3.85g/cmとすることが好ましい。活物質層22の目付量とは、活物質層22にそれぞれ含まれる活物質33、導電材、及び結着剤32を合計した質量の、単位面積あたりの質量を意味する。
【0042】
活物質層22の目付量が大きくなるほど、活物質層22の厚さも厚くなる。正極の電極板1である場合、活物質層22の厚さは、例えば40μm~80μmが好ましく、45μm~70μmがより好ましく、特に50μm~60μmとすることが好ましい。負極の電極板1である場合、活物質層22の厚さは、例えば、30μm~60μmが好ましく、35μm~55μmがより好ましく、特に38μm~50μmとすることが好ましい。
【0043】
ここで、正極に好適に用いられる活物質33は導電性が低い傾向があるため、薄膜層21を設けることによる抵抗低減の効果が高い。そのため、本実施形態にかかる電極板1の構造は、正極板に好適である。
【0044】
さらに、上記の構成を有する電極板1は、リチウムイオンを含む電解質と、必要に応じてリチウムイオンが通過可能な絶縁性のセパレータと組み合わせることにより、二次電池を構成することができる。
【0045】
電解質としては、例えば非水電解液を用いることができる。非水電解液は、リチウム塩を有機溶媒に溶解した組成物である。リチウム塩としては、LiClO、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSOCF等を用いることができる。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、テトラヒドロフラン、2‐メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、又はリン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等が挙げられる。有機溶媒として、これらを単独又は複数混合して用いることができる。
【0046】
セパレータは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の多孔質な絶縁性樹脂シートで構成される。このような多孔質の樹脂シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造であってもよい。また、樹脂シートの表面の一部に多孔質の耐熱層を備える構成であってもよい。
【0047】
次に、図2を参照して上記の電極板1の製造方法について説明する。図2は、実施の形態1にかかる二次電池用電極の製造方法を示すフローチャートである。本実施形態にかかる電極板1の製造方法は、正極及び負極の双方の電極板1を製造する際に適用可能である。
【0048】
図2に示すように、本実施形態にかかる二次電池用電極の製造方法は、集電箔10の表面上に繊維状炭素材料31及び結着剤32を含む薄膜層21を形成する薄膜層形成工程(ステップS1~S4)と、薄膜層21の表面上に活物質33を含む活物質層22を形成する活物質層形成工程(ステップS5)と、を有する。
【0049】
まず、薄膜層形成工程の詳細を説明する。薄膜層形成工程は、ペースト調製工程(ステップS1)、塗工工程(ステップS2)、磁場配向工程(ステップS3)、及び乾燥工程(ステップS4)を含む。
【0050】
ステップS1のペースト調製工程は、繊維状炭素材料31、結着剤32、及び溶媒を含む薄膜層形成用ペーストを調製する工程である。薄膜層形成用ペーストは、例えば繊維状炭素材料31及び結着剤32に溶媒を添加して混練することにより調製することができる。混練には、例えばプラネタリミキサ等の混錬機を用いることができる。
【0051】
薄膜層形成用ペーストの粘度は、例えば3000mPa・s~5000mPa・sであることが好ましい。薄膜層形成用ペーストの粘度がこの範囲にあることにより、繊維状炭素材料31が磁場配向しやすくなり、所望の配向度を実現できる。粘度は、B型粘度計を用いて測定した値を採用することができる。
【0052】
溶媒は、用いる結着剤32と繊維状炭素材料31の分散性とを考慮して適宜選択されるものである。溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、メチルエチルケトン(MEK)、ジメチルホルムアミド(DMF)、トルエン等の非水系溶媒、非水系溶媒を組み合わせた混合溶媒、水、水を主体とする混合溶媒等の水系溶媒を用いることができる。
【0053】
ステップS2の塗工工程は、ペースト調製工程で調製した薄膜層形成用ペーストを集電箔10の表面に塗工して塗膜21aを形成する工程である。薄膜層形成用ペーストを塗工する手段としては、例えばダイコータ、スリットコータ、コンマコータ、グラビアコータ、ブレードコータ等の各種コータを用いることができる。
【0054】
ステップS3の磁場配向工程は、集電箔10の表面上に形成された塗膜21aに、集電箔10の表面に対して略垂直方向となる磁場を集電箔10の表面側から印加する工程である。磁場配向工程において、塗膜21aに作用させる磁場の磁束密度は、例えば0.20T~0.45Tであり、典型的には0.25T~0.45Tである。磁場の磁束密度が大きいほど、繊維状炭素材料31を容易に配向させることができる。
【0055】
ここで、図3は、磁場配向工程の前後の様子を説明する断面図である。図3に示すように、磁場を印加する前の塗膜21a中では、繊維状炭素材料31の末端に絡んだ結着剤32が遍在し、集電箔10に対してまばらに付着している。そして、集電箔10の表面に対して略垂直方向に磁力線が向いた磁場を塗膜21aに印加すると、塗膜21aに含まれる繊維状炭素材料31の長軸方向が磁力線の向きである磁場印加方向に略平行となるように配向させることができる。
【0056】
このとき、集電箔10の表面側から塗膜21aに磁場を印加するため、磁場を印加した後の塗膜21a中では、繊維状炭素材料31の末端に絡んだ結着剤32が、繊維状炭素材料31の磁場配向に伴って薄膜層21の集電箔10側に移動して偏在する。薄膜層21に含まれる結着剤32がこのように分布することで、集電箔10との接着面が増加して集電箔10に対するアンカー効果が発現しやすくなる。このようなアンカー効果によって物理的吸着性が増すため、集電箔10に対する薄膜層21の結着力が向上する。その結果、集電箔10と活物質層22との間の剥離強度が高くなる。
【0057】
また、薄膜層21に含まれる繊維状炭素材料31が集電箔10の表面に対して略垂直に配向することで、薄膜層21の表面上に形成される活物質層22中の活物質33と集電箔10との接着点が増加し、集電箔10と活物質層22との密着性が向上する。その結果、集電箔10と活物質層22との結着力が一層向上して、集電箔10と活物質層22との間の剥離強度が高くなる。
【0058】
なお、合材層20中(特に薄膜層21中)の結着剤32の分布は、合材層20の断面(又は薄膜層21の断面)を電子線マイクロアナライザー(EPMA:Electron Probe Micro Analysis)等の元素分析を用いて分析することにより確認することができる。
【0059】
図2に示すように、ステップS4の乾燥工程は、上記の磁場を印加した後の塗膜21aを乾燥する工程である。乾燥工程では、塗膜21aから溶媒を除去することによって、集電箔10の表面上に薄膜層21を形成することができる。塗膜21aを乾燥するための手段としては、自然、熱風、低湿風、真空、赤外線、遠赤外線、電子線等による乾燥を単独又は組み合わせて用いることができる。
【0060】
以上の薄膜層形成工程の後に、活物質層形成工程を行なう。ステップS5の活物質層形成工程において、薄膜層21の表面上に活物質層22を形成する方法は特に限定されないが、例えば以下の方法を採用することができる。具体的には、活物質33、必要に応じて導電材及び結着剤32等を含む粉体に溶媒を添加して混練することにより調製した活物質形成用ペーストを薄膜層21の表面に塗工した後、乾燥することにより活物質層22を形成することができる。さらに、集電箔10の表面上に形成された薄膜層21及び活物質層22からなる合材層20をプレスして、合材層20の密度及び厚さを調整してもよい。
【0061】
活物質層形成工程で行なう混練には、薄膜層形成工程と同様の混錬機を用いることができる。活物質層成用ペーストを塗工する手段としては、薄膜層形成工程と同様の各種コータを用いることができる。活物質層形成用ペーストの粘度は特に限定されないが、塗工性の観点から、例えば4000mPa・s~10000mPa・sとすることが好ましい。活物質層成用ペーストを乾燥する手段としては、薄膜層形成工程と同様の乾燥を単独又は組み合わせて用いることができる。合材層20をプレスする手段としては、ロールプレス等を用いることができる。
【0062】
なお、薄膜層形成用ペースト及び活物質層形成用ペーストの調製に用いる繊維状炭素材料31、結着剤32、及び溶媒は、生産性の観点からそれぞれ同種の材料を用いることが好ましいが、異種の材料を用いてもよい。以上の工程により、電極板1を形成することができる。
【0063】
次に、実施例に基づいて本発明のさらに詳細を説明する。なお、実施例は、本発明を限定するものではない。
【0064】
(実施例)
[正極板の作製]
図2に示したフローにしたがって正極の電極板1である正極板を製造した。活物質33には、LiNi1/3Co1/3Mn1/3で表される平均組成を有するニッケルマンガンコバルト酸リチウム(NMC)を用いた。導電材としての繊維状炭素材料31には、CNT(外径12nm、アスペクト比150)を用いた。結着剤32には、PVDFを用いた。溶媒には、NMPを用いた。
【0065】
ペースト調製工程では、CNT及びPVDFをCNT:PVDF=40:60の質量比となるようにそれぞれ秤量し、必要量のNMPを加えて混練することにより粘度3500mPa・sの薄膜層形成用ペーストを調製した。
【0066】
塗工工程では、集電箔10としてのアルミニウム箔(厚さ12μm)の一方の表面に薄膜層形成用ペーストを塗工した。これにより、集電箔10の一方の表面上に塗膜21aを形成した。なお、薄膜層形成用ペーストは、片面あたりの目付量が0.51g/cmとなるように塗工量を調整した。
【0067】
磁場配向工程では、図4に示すように、磁場印加方向が集電箔10の一方の表面に対して略垂直となる磁場を印加することができる磁場発生手段を用いて、乾燥する前の塗膜21aに磁場を印加した。図4は、実施例における磁場配向工程を説明する斜視図である。図4には、磁場発生手段として、集電箔10の塗膜21aが設けられる表面側に配置された永久磁石40を示している。具体的には、永久磁石40の幅広面と集電箔10の幅広面とが平行となるように、集電箔10の長さ方向に沿って永久磁石40が配置されている。
【0068】
本実施例では、卓上コータの塗工ガラス41上に集電箔10を設置し、永久磁石40により集電箔10の表面に対して略垂直方向に磁力線が向いた磁場を印加しながら、卓上コータの塗工治具42により薄膜層形成用ペーストを塗工方向(集電箔10の長さ方向)に沿って集電箔10に塗工した。塗膜21aに作用させる磁場の磁束密度は0.4Tであり、磁場の印加時間は120秒であった。
【0069】
そして、乾燥工程では、100℃、180秒の乾燥条件で塗膜21aを乾燥することにより、集電箔10の表面上に薄膜層21を形成した。同様に、集電箔10の他方の表面上に塗膜21aを形成し、集電箔10の他方の表面側から塗膜21aに磁場を印加した後、乾燥することにより、集電箔10の他方の表面上にも薄膜層21を形成した。
【0070】
次に、活物質層形成工程では、NCM、CNT、及びPVDFの質量比がNCM:CNT:PVDF=98.5:0.7:0.8となるようにそれぞれ秤量し、所要量のNMPを加えて混練することにより、粘度8600mPa・sの活物質層形成用ペーストを調製した。
【0071】
調製した活物質層形成用ペーストを集電箔10の一方の表面上に形成された薄膜層21の表面に塗工した。活物質層形成用ペーストは、片面あたりの目付量が5.05g/cmとなるように塗工量を調整した。そして、塗工された活物質層形成用ペーストを100℃、300秒の乾燥条件で乾燥することにより、集電箔10の一方の表面上に薄膜層21を介して活物質層22を形成した。同様に、集電箔10の他方の表面上に薄膜層21を介して活物質層22を形成した。乾燥後、片面あたりの合材層20(薄膜層21及び活物質層22)の厚さが55μm、密度が2.53g/cmとなるようにプレスを行なった。これにより、磁場配向された薄膜層21及び活物質層22からなる合材層20が集電箔10の両面に形成された実施例の正極板を得た。実施例の正極板の薄膜層21中では、繊維状炭素材料31が集電箔10に対して略垂直に配向し、繊維状炭素材料31の先端に絡んだ結着剤32が集電箔10側に偏在する。
【0072】
(比較例1)
図2に示すフローのうち薄膜層形成工程を省略し、活物質層形成用ペーストを用いて集電箔10としてのアルミニウム箔の両面に活物質層を形成した。活物質層形成用ペーストは、片面あたりの目付量が5.56g/cmとなるように塗工量を調整した。そして、片面あたりの活物質層の厚さは55μm、密度は2.56g/cmとした。これにより、活物質層からなる合材層が集電箔10の両面に形成された比較例1の正極板を得た。
【0073】
(比較例2)
図2に示すフローのうち磁場配向工程を省略したことを除いて、実施例1と同様の方法で、磁場配向されていない薄膜層及び活物質層からなる合材層が集電箔10としてのアルミニウム箔の両面に形成された比較例2の正極板を得た。比較例2の正極板の薄膜層中では、繊維状炭素材料31が集電箔10に対してランダムに配向し、繊維状炭素材料31の先端に絡んだ結着剤32が遍在する。
【0074】
[剥離強度の評価]
集電箔10の片面のみに合材層を形成した実施例及び比較例1、2の正極板を作製し、それぞれについて集電箔10と合材層との間の剥離強度を評価した。図5は、剥離強度の測定方法を説明する図である。剥離強度の測定方法は、JIS Z0237:2009に準拠し、引張試験機を用いた90度剥離試験法により評価した。
【0075】
具体的には、図5に示すように、所定サイズの両面テープを鋼板P上に貼り付け、幅10mm×長さ80mmに切り出した実施例1の正極板(電極板1)の合材層20側を両面テープの反対側の面に密着させ、チャックCに挟んだ集電箔10を40mm/分の速度で90°方向に引っ張りながら剥がした。このときの応力の平均値を剥離強度(N/m)とした。
【0076】
同様に、比較例1、2の正極板に対しても上記の測定を行い、剥離強度(N/m)をそれぞれ測定した。その結果を図6に示した。図6は、正極板の剥離強度を比較したグラフである。図6に示すように、比較例1の正極板の剥離強度は1.500(N/m)、比較例2の正極板の剥離強度は1.750(N/m)、実施例の正極板の剥離強度は2.035(N/m)であった。
【0077】
比較例1の正極板と比較例2の正極板とを比較すると、集電箔10と活物質層との間に繊維状炭素材料31及び結着剤32を含む薄膜層が介在することにより、剥離強度が向上することが確認された。そして、比較例2の正極板と実施例の正極板とを比較すると、集電箔10と活物質層22との間に薄膜層21が介在するだけでなく、薄膜層21に含まれる繊維状炭素材料31を磁場配向させることにより、剥離強度が一層向上することが確認された。
【0078】
[電気抵抗(貫通抵抗)の評価]
集電箔10の両面に合材層を形成した実施例及び比較例1、2の正極板のそれぞれについて、電気抵抗(貫通抵抗)を評価した。図7は、貫通抵抗の測定について説明する図である。
【0079】
貫通抵抗を測定するにあたっては、直径15mmに切り出した実施例1の正極板(電極板1)を金メッキしたディスクDに挟み、ディスクDの上下から0.002MPaで加圧し、一定の値で電流を流したときの抵抗値を、ディスクDに接続した電気抵抗測定器Tにより測定した。そして、下記の式(1)により正極板の厚さ方向の貫通抵抗を求めた。
貫通抵抗(mΩ・cm)=測定抵抗値(mΩ)×試料面積(cm)・・・式(1)
【0080】
同様に、比較例1、2の正極板に対しても上記の測定を行い、貫通抵抗(mΩ・cm)をそれぞれ求めた。その結果を図8に示した。図8は、正極板の貫通抵抗を比較したグラフである。図8に示すように、比較例1の正極板の貫通抵抗は0.447(mΩ・cm)、比較例2の正極板の貫通抵抗は0.500(mΩ・cm)、実施例の正極板の貫通抵抗は0.424(mΩ・cm)であった。この結果から、実施例の正極板は、比較例1、2の正極板に比べて、厚さ方向の電気抵抗の増加が抑制されていることが確認された。
【0081】
ここで、図9を参照して比較例の電極板100の問題点を説明する。図9は、比較例の電極板を示す断面図である。図9に示す電極板100は、集電箔10の表面上に活物質層220である合材層が形成された比較例1の正極板である。活物質層220は、活物質33、導電材として繊維状炭素材料31であるCNT、及び結着剤32としてPVDFを含んでいる。
【0082】
導電材としてCNT等の繊維状炭素材料31を用いた場合、繊維状炭素材料31自体の結着力により、集電箔10と活物質層220との結着力を向上し得る。そのため、繊維状炭素材料31の使用量を低減すると、相対的に活物質33の割合を増やすことができて高いエネルギー密度が得られる一方、集電箔10と活物質層220(活物質33)との結着力が低下してしまう虞がある。このように集電箔10と活物質層220との結着力が低下すると、例えば製造時のプレス処理で、集電箔10から活物質層220が剥がれ、不良品が発生する場合がある。
【0083】
そこで、結着剤32の使用量を増加することによって、集電箔10と活物質層220との結着力を確保することが考えられるが、結着剤32の使用量の増加に伴って抵抗が増大するという問題が生じる。
【0084】
これに対し、本実施形態にかかる電極板1は、集電箔10と、集電箔10の表面上に形成され繊維状炭素材料31及び結着剤32を含む薄膜層21と、薄膜層21の表面上に形成され活物質33を含む活物質層22と、を有している。本実施形態にかかる電極板1によれば、集電箔10と活物質層22との間に介在する薄膜層21が繊維状炭素材料31及び結着剤32を含んでいるため、集電箔10と活物質層22との結着力を確保することができる。
【0085】
そして、本実施形態にかかる電極板1の薄膜層21に含まれる繊維状炭素材料31は、集電箔10の表面に対して略垂直に配向している。薄膜層21は、繊維状炭素材料31及び結着剤32を含む塗膜21aに、集電箔10の表面に対して略垂直方向となる磁場を集電箔10の表面側から印加することにより形成される。これにより、繊維状炭素材料31が集電箔10の表面に対して略垂直に配向するとともに、繊維状炭素材料31の末端に絡んだ結着剤32が集電箔10側に偏在するように分布する。
【0086】
このように形成された薄膜層21が集電箔10と活物質層22との間に介在することにより、集電箔10と活物質層22に含まれる活物質33との接着点が増加し、集電箔10と活物質層22との密着性を向上することができる。その結果、集電箔10と活物質層22との結着力が一層向上して、集電箔10と活物質層22との間の剥離強度が高くなる。
【0087】
したがって、本実施形態にかかる電極板1では、結着剤32の使用量を低減しても高い剥離強度が得られるため、電極板1を含む二次電池では、結着剤32の使用量を低減することに伴う内部抵抗の抑制効果が得られ、その結果、高い出力特性を実現することができる。
【0088】
また、本実施形態にかかる電極板1の薄膜層21に含まれる繊維状炭素材料31は、上記した通り集電箔10の表面に対して略垂直に配向するため、繊維状炭素材料31がランダムに配向する場合と比べて集電箔10の表面と活物質層22の集電箔10側の主面とを接続する導電パスが良好に形成され得る。これにより、電極板1の厚さ方向の電気抵抗の増大を抑制することができる。
【0089】
また、電極板1の好ましい一態様では、薄膜層21の厚さは、2μm~8μmである。このような薄膜層21の厚さによると、集電箔10と活物質層22との間の剥離強度が高く、厚さ方向の電気抵抗の増大が好適に抑制された電極板1を得ることができる。
【0090】
また、電極板1の好ましい一態様では、繊維状炭素材料31と結着剤32との質量比は、20:80~50:50である。このような質量比によると、集電箔10と活物質層22との間の剥離強度を向上する効果と、厚さ方向の電気抵抗の増大を抑制する効果と、をより効率よく得ることができる。
【0091】
そして、本実施形態にかかる電極板1の製造方法によれば、上記の効果を奏する電極板1を製造することができる。本実施形態にかかる電極板1の製造方法は、集電箔10の表面上に繊維状炭素材料31及び結着剤32を含む薄膜層21を形成する薄膜層形成工程と、薄膜層21の表面上に活物質33を含む活物質層22を形成する活物質層形成工程と、を有する。薄膜層形成工程は、繊維状炭素材料31、結着剤32、及び溶媒を含む薄膜層形成用ペーストを調製するペースト調製工程と、薄膜層形成用ペーストを集電箔10の表面に塗工して塗膜21aを形成する塗工工程と、塗膜21aに集電箔10の表面に対して略垂直方向となる磁場を集電箔10の表面側から印加する磁場配向工程と、磁場を印加した後の塗膜21aを乾燥する乾燥工程と、を含む。
【0092】
したがって、本実施形態によれば、電極の厚さ方向の抵抗の増大を抑制しつつ高い耐久性を備えた電極板1、及び電極板1の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0093】
1、100 電極板
10 集電箔
20 合材層
21 薄膜層
21a 塗膜
22、220 活物質層
31 繊維状炭素材料
32 結着剤
33 活物質
40 永久磁石
41 塗工ガラス
42 塗工治具
C チャック
D ディスク
P 鋼板
T 電気抵抗測定器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9