(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088958
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】加工条件設定方法および加工条件設定装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 15/12 20060101AFI20240626BHJP
G05B 19/404 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
B23Q15/12 A
G05B19/404 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204023
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 詩織
(72)【発明者】
【氏名】棚瀬 良太
(72)【発明者】
【氏名】橋本 高明
【テーマコード(参考)】
3C001
3C269
【Fターム(参考)】
3C001KA07
3C001KB04
3C001TA03
3C001TA06
3C001TB06
3C001TB08
3C269AB01
3C269AB31
3C269BB03
3C269CC02
3C269EF02
3C269EF66
3C269MN24
3C269MN29
(57)【要約】
【課題】切削加工時のびびり振動を抑制する。
【解決手段】切削加工の加工条件を設定する加工条件設定方法は、推定振動を算出する振動推定工程と、推定振動周波数解析を行う推定振動周波数解析工程と、自励振動振幅パラメータを算出する自励振動振幅パラメータ算出工程と、自励振動予測マップを生成する自励振動予測マップ生成工程と、適正加工条件が得られるか否かの判定を行う判定工程と、適正加工条件が得られると判定された場合に、表示装置に自励振動予測マップを表示する自励振動予測マップ表示工程と、を備え、判定工程において判定の結果が否である場合、加工条件を変更して、振動推定工程と、推定振動周波数解析工程と、自励振動振幅パラメータ算出工程と、自励振動予測マップ生成工程と、判定工程とを行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削加工の加工条件を設定する加工条件設定方法であって、
予め特定されたモーダルパラメータを利用して、予め設定された加工条件による加工中における工作物の推定振動を算出する振動推定工程と、
前記推定振動を対象とする推定振動周波数解析を行う推定振動周波数解析工程と、
前記推定振動周波数解析の結果における自励振動成分の大きさを示す自励振動振幅パラメータを算出する自励振動振幅パラメータ算出工程と、
算出された前記自励振動振幅パラメータを加工条件ごとにマッピングしたマップであって、自励振動を予測するマップである自励振動予測マップを生成する自励振動予測マップ生成工程と、
生成された前記自励振動予測マップを利用して予め設定された加工範囲全体において前記自励振動振幅パラメータが予め設定された数値範囲以内となる適正加工条件が得られるか否かの判定を行う判定工程と、
前記適正加工条件が得られると判定された場合に、表示装置に前記自励振動予測マップを表示する自励振動予測マップ表示工程と、
を備え、
前記判定工程において前記判定の結果が否である場合、加工条件を変更して、前記振動推定工程と、前記推定振動周波数解析工程と、前記自励振動振幅パラメータ算出工程と、前記自励振動予測マップ生成工程と、前記判定工程とを行う、
加工条件設定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の加工条件設定方法であって、
前記自励振動振幅パラメータ算出工程において、前記自励振動振幅パラメータとして、前記自励振動成分の最大振幅を、前記推定振動周波数解析の結果における強制振動成分の最大振幅で除した値である振幅比を算出し、
前記判定工程において、生成された前記自励振動予測マップを利用して予め設定された加工範囲全体において前記振幅比が予め設定された閾値未満となる前記適正加工条件が得られるか否かの判定を行う、
加工条件設定方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の加工条件設定方法であって、
試し加工を行い、加工中の切削力と前記工作物の実振動とを測定する実振動測定工程と、
測定された前記切削力と前記実振動とを対象とする実振動周波数解析を行う実振動周波数解析工程と、
前記実振動周波数解析の結果を利用して、加工位置ごとの機械的コンプライアンスを演算する第1演算工程と、
前記機械的コンプライアンスを利用して、前記工作物の前記モーダルパラメータを同定する第2演算工程と、をさらに備え、
前記振動推定工程において、前記第2演算工程において得られた前記モーダルパラメータを利用して、予め設定された加工条件による加工中における前記工作物の振動を推定する、
加工条件設定方法。
【請求項4】
切削加工の加工条件を設定する加工条件設定装置であって、
前記切削加工の加工条件を設定する加工条件設定部を備え、
前記加工条件設定部は、
予め特定されたモーダルパラメータを利用して、予め設定された加工条件による加工中における工作物の推定振動を算出し、
前記推定振動を対象とする推定振動周波数解析を行い、
前記推定振動周波数解析の結果における自励振動成分の大きさを示す自励振動振幅パラメータを算出し、
算出された前記自励振動振幅パラメータを加工条件ごとにマッピングしたマップであって、自励振動を予測するマップである自励振動予測マップを生成し、
生成された前記自励振動予測マップを利用して予め設定された加工範囲全体において前記自励振動振幅パラメータが予め設定された数値範囲以内となる適正加工条件が得られるか否かの判定を行い、
前記適正加工条件が得られると判定された場合に、前記自励振動予測マップを表示し、
前記判定の結果が否である場合、加工条件を変更して、前記推定振動の算出と、前記推定振動周波数解析と、前記自励振動振幅パラメータの算出と、前記自励振動予測マップの生成と、前記判定とを行う、
加工条件設定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加工条件設定方法および加工条件設定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
切削加工時にびびり振動が発生すると、加工精度が低下する。そのため、切削加工時のびびり振動を抑制することが求められている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
切削加工を実施するには加工条件を設定する必要がある。びびり振動の発生を抑制できる加工条件を設定するための方法として、安定性解析によって得られる安定限界線図を援用する方法がある。安定性解析を実行するためには、加工条件のほかに工具-工作物間の振動特性が必要である。そして工具-工作物間の振動特性は、主に工具側の振動特性が支配的であり工作物側の振動特性は無視できる場合と、主に工作物側の振動特性が支配的であり工具側の振動特性は無視できる場合の、2つの場合に大別される。このうちの、主に工作物側の振動特性が支配的である場合の加工条件の設定については、工作物の振動特性は切削位置ごとに変化する場合があることから、切削位置ごとにそれぞれ安定限界線図を求め、それらすべての安定限界線図をもとに、工作物全体を安定に加工できる加工条件を設定するという複雑な作業が必要であり、加工条件を設定する作業者に熟練度が必要となっている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、切削加工の加工条件を設定する加工条件設定方法が提供される。この加工条件設定方法は、予め特定されたモーダルパラメータを利用して、予め設定された加工条件による加工中における工作物の推定振動を算出する振動推定工程と、前記推定振動を対象とする推定振動周波数解析を行う推定振動周波数解析工程と、前記推定振動周波数解析の結果における自励振動成分の大きさを示す自励振動振幅パラメータを算出する自励振動振幅パラメータ算出工程と、算出された前記自励振動振幅パラメータを加工条件ごとにマッピングしたマップであって、自励振動を予測するマップである自励振動予測マップを生成する自励振動予測マップ生成工程と、生成された前記自励振動予測マップを利用して予め設定された加工範囲全体において前記自励振動振幅パラメータが予め設定された数値範囲以内となる適正加工条件が得られるか否かの判定を行う判定工程と、前記適正加工条件が得られると判定された場合に、表示装置に前記自励振動予測マップを表示する自励振動予測マップ表示工程と、を備え、前記判定工程において前記判定の結果が否である場合、加工条件を変更して、前記振動推定工程と、前記推定振動周波数解析工程と、前記自励振動振幅パラメータ算出工程と、前記自励振動予測マップ生成工程と、前記判定工程とを行う。
この形態の加工条件設定方法によれば、モーダルパラメータを利用して算出された推定振動に基づいて自励振動予測マップを生成し、自励振動予測マップを利用して適正加工条件が得られる場合に表示装置に自励振動予測マップを表示するので、表示された自励振動予測マップを参照してびびり振動を抑制可能な加工条件を選定でき、確認用加工の回数を抑制できる。
(2)上記形態の加工条件設定方法において、前記自励振動振幅パラメータ算出工程において、前記自励振動振幅パラメータとして、前記自励振動成分の最大振幅を、前記推定振動周波数解析の結果における強制振動成分の最大振幅で除した値である振幅比を算出し、前記判定工程において、生成された前記自励振動予測マップを利用して予め設定された加工範囲全体において前記振幅比が予め設定された閾値未満となる前記適正加工条件が得られるか否かの判定を行ってもよい。
この形態の加工条件設定方法によれば、自励振動振幅パラメータとして振幅比を算出し、振幅比を利用して判定工程を行うので、自励振動成分の最大振幅の大きさによらずに判定でき、判定工程が煩雑になることを抑制できる。
(3)上記形態の加工条件設定方法において、試し加工を行い、加工中の切削力と前記工作物の実振動とを測定する実振動測定工程と、測定された前記切削力と前記実振動とを対象とする実振動周波数解析を行う実振動周波数解析工程と、前記実振動周波数解析の結果を利用して、加工位置ごとの機械的コンプライアンスを演算する第1演算工程と、前記機械的コンプライアンスを利用して、前記工作物の前記モーダルパラメータを同定する第2演算工程と、をさらに備え、前記振動推定工程において、前記第2演算工程において得られた前記モーダルパラメータを利用して、予め設定された加工条件による加工中における前記工作物の振動を推定してもよい。
この形態の加工条件設定方法によれば、実際の切削加工時の工作物の振動に基づいたモーダルパラメータを利用して自励振動予測マップを生成するので、より効果的にびびり振動を抑制可能な加工条件を選定できる。
(4)本開示の第2の形態によれば、切削加工の加工条件を設定する加工条件設定装置が提供される。この加工条件設定装置は、前記切削加工の加工条件を設定する加工条件設定部を備え、前記加工条件設定部は、予め特定されたモーダルパラメータを利用して、予め設定された加工条件による加工中における工作物の推定振動を算出し、前記推定振動を対象とする推定振動周波数解析を行い、前記推定振動周波数解析の結果における自励振動成分の大きさを示す自励振動振幅パラメータを算出し、算出された前記自励振動振幅パラメータを加工条件ごとにマッピングしたマップであって、自励振動を予測するマップである自励振動予測マップを生成し、生成された前記自励振動予測マップを利用して予め設定された加工範囲全体において前記自励振動振幅パラメータが予め設定された数値範囲以内となる適正加工条件が得られるか否かの判定を行い、前記適正加工条件が得られると判定された場合に、前記自励振動予測マップを表示し、前記判定の結果が否である場合、加工条件を変更して、前記推定振動の算出と、前記推定振動周波数解析と、前記自励振動振幅パラメータの算出と、前記自励振動予測マップの生成と、前記判定とを行う。
この形態の加工条件設定装置によれば、モーダルパラメータを利用して算出された推定振動に基づいて自励振動予測マップを生成し、自励振動予測マップを利用して適正加工条件が得られる場合に表示装置に自励振動予測マップを表示するので、表示された自励振動予測マップを参照してびびり振動を抑制可能な加工条件を選定でき、確認用加工の回数を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図4】加工条件設定処理の内容を示す第1のフローチャート。
【
図5】加工条件設定処理の内容を示す第2のフローチャート。
【
図6】コンプライアンスマップの一例を示す説明図。
【
図7】自励振動予測マップ生成処理の内容を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.実施形態:
A-1.装置構成:
図1は、本実施形態における工作機械11の概略構成を示す斜視図である。本実施形態では、工作機械11は、立型マシニングセンタとして構成されている。工作機械11は、互いに直交する3つの座標軸であるX、Y、Z軸を有している。本実施形態では、X軸は工作機械11の左右方向に沿った座標軸であり、Y軸は工作機械11の前後方向に沿った座標軸であり、Z軸は工作機械11の上下方向に沿った座標軸である。
【0009】
工作機械11は、ベッド20と、サドル30と、テーブル40と、コラム50と、主軸装置60と、切削力センサ70と、複数の振動センサ80A~80Cと、制御装置100とを備えている。本実施形態では、振動センサ80の数は3つである。
【0010】
サドル30は、ベッド20に支持されている。サドル30は、ベッド20にガイドされながらY軸に沿って移動する。テーブル40は、サドル30に支持されている。テーブル40は、サドル30にガイドされながらX軸に沿って移動する。テーブル40には、工作物WKが固定される。本実施形態では、テーブル40に固定されたクランプ45に工作物WKの下端部が挟持されることによって、工作物WKがテーブル40に固定される。コラム50は、ベッド20に固定されている。主軸装置60は、コラム50に支持されている。主軸装置60は、コラム50にガイドされながらZ軸に沿って移動する。
【0011】
主軸装置60は、主軸65と、主軸モータ67と、回転角センサ69とを備えている。主軸65には、工作物WKに切削加工を施すための切削工具TLが装着される。主軸モータ67は、Z軸に平行な回転軸を中心にして主軸65および切削工具TLを回転させる。主軸モータ67には、例えば、サーボモータを用いることができる。切削工具TLは、略円柱形状を有しており、側面部に少なくとも1つの切れ刃を有している。本実施形態では、切削工具TLは、エンドミルであり、切削工具TLの中心軸を中心とする円周方向に沿って等間隔で配置された2つの切れ刃を有している。切削工具TLの切れ刃の数は、1つでもよいし、3つ以上でもよい。切削工具TLは、例えば、平フライスなどのエンドミル以外のフライス工具でもよい。回転角センサ69は、主軸65の回転角、換言すれば、切削工具TLの回転角を検出する。回転角センサ69によって検出された回転角に関する情報は、制御装置100に送信される。回転角センサ69には、例えば、ロータリーエンコーダを用いることができる。
【0012】
切削力センサ70は、主軸65に設けられている。切削力センサ70は、切削工具TLから工作物WKに加えられる切削力を検出する。切削力センサ70によって検出された切削力に関する情報は、制御装置100に送信される。切削力センサ70には、例えば、切削動力計を用いることができる。
【0013】
各振動センサ80A~80Cは、工作物WKに設置されている。各振動センサ80A~80Cは、工作物WKの振動状態を表す物理量を検出する。各振動センサ80A~80Cによって検出された振動状態を表す物理量に関する情報は、制御装置100に送信される。振動状態を表す物理量には、加速度、速度、および、変位が含まれる。本実施形態では、各振動センサ80A~80Cは、工作物WKの加速度を検出する加速度センサである。以下の説明では、振動センサ80A~80Cが設置されている工作物WK上の点のことを計測点MP1~MP3と呼ぶことがある。なお、振動センサ80A~80Cの数は、切削加工中における切削位置での工作物WKの振動を推定するために最低限必要な数であればよい。他の実施形態では、各振動センサ80A~80Cは、加速度センサではなく、工作物WKの変位を検出する変位センサ、あるいは、工作物WKの速度を検出する速度センサでもよい。また、本実施形態では、各振動センサ80A~80Cには、接触式の振動センサが用いられているが、他の実施形態では、非接触式の振動センサが用いられてもよい。
【0014】
制御装置100は、CPU101と、メモリ102と、入出力インターフェース103と、内部バス104とを備えたコンピュータとして構成されている。CPU101、メモリ102、および、入出力インターフェース103は、内部バス104を介して、双方向に通信可能に接続されている。CPU101は、メモリ102に格納されているコンピュータプログラムを実行することによって、NC制御部110および加工条件設定部120として機能する。
【0015】
NC制御部110は、加工条件設定部120によって設定された加工条件に従って主軸モータ67等の工作機械11の各モータを制御することによって、回転している切削工具TLを工作物WKに接触させて、工作物WKに対する切削加工を実行する。以下の説明では、製品を製造するための切削加工を「本加工」、加工中の工作物WKの動特性を測定するための切削加工を「試し加工」、選定された本加工条件でびびり振動が発生しないかを確認するための切削加工を「確認用加工」と呼ぶ。
【0016】
加工条件設定部120は、NC制御部110によって実行される任意の切削加工の加工条件を設定する。加工条件には、切削工具TLの回転速度と、切削工具TLの1刃あたりの送り量と、工作物WKへの切削工具TLの半径方向および軸方向の切込み量とが含まれる。加工条件設定部120は、後述する加工条件設定処理を実行することによって、本加工用の加工条件を設定する。なお、本実施形態では、制御装置100が加工条件設定部120を有しているので、制御装置100のことを「加工条件設定装置」と呼ぶことがある。
【0017】
制御装置100には、入力装置105と、表示装置106とが接続されている。入力装置105は、例えば、複数の操作ボタンで構成されている。表示装置106は、例えば、液晶ディスプレイで構成されている。入力装置105と表示装置106とは、タッチパネルとして一体化されてもよい。
【0018】
図2は、支持部材48のレイアウトの一例を示す側面図である。
図3は、支持部材48のレイアウトの一例を示す背面図である。
図2に示すように、工作物WKをテーブル40に固定するためのクランプ45の他に、切削加工時の工作物WKのびびり振動を抑制するための支持部材48が用いられることがある。本実施形態では、支持部材48は、円形断面を有する棒状に形成されている。支持部材48の一端は、工作物WKのうちのクランプ45に挟持されている部分とは異なる部分に接触し、支持部材48の他端は、固定部材49を介してテーブル40に固定されている。
【0019】
図3に示すように、工作物WKは、例えば、1つの支持部材48によって支持される。工作物WKのうちの支持部材48によって支持されている面とは反対側の面に、切削工具TLによって切削加工が施される。工作物WKのうちの支持部材48によって支持されている面には、振動センサ80A~80Cが設置されている。なお、他の実施形態では、支持部材48は、棒状ではなく、例えば、板状や、ブロック状、あるいは、球面状に形成されてもよい。支持部材48の数は、1つに限られず、2つ以上でもよい。また、支持部材48は、切削加工が施される面にも設けられて、工作物WKを挟持してもよいし、支持部材48は、固定部材49のほか、ロボットアームなどの可動部材により保持されてもよい。工作物WKの剛性が十分に高い場合には、支持部材48が設けられなくてもよい。
【0020】
びびり振動は、発生メカニズムの違いにより、自励びびり振動と強制びびり振動とに区別される。自励びびり振動は、例えば、再生効果による切削抵抗の変化に起因して生じる。強制びびり振動は、例えば、切削工具TLから工作物WKに断続的に加えられる切削力の周波数と主軸65の固有振動数や工作物WKの固有振動数とが一致することで生じる。以下の説明では、自励びびり振動と強制びびり振動とを特に区別せずに説明する場合には、単にびびり振動と呼ぶ。
【0021】
A-2.加工条件設定処理:
図4および
図5は、加工条件設定処理の内容を示すフローチャートである。
図6は、加工条件設定処理において作成されるコンプライアンスマップの一例を示す説明図である。
図4および
図5に示す加工条件設定処理は、加工条件設定部120によって実行される。加工条件設定処理は、例えば、本加工に先立って、入力装置105に設けられた開始ボタンが押下されることにより開始される。なお、加工条件設定処理において実行される方法のことを「加工条件設定方法」と呼ぶことがある。
【0022】
ステップS110にて、加工条件設定部120は、NC制御部110に試し加工を実行させ、切削力センサ70を用いて試し加工中の各時刻に切削工具TLから工作物WKに加えられる切削力を計測し、振動センサ80A~80Cを用いて試し加工中の各時刻に工作物WK上の各計測点MP1~MP3にて生じる加速度を計測する。このときの加工条件は、ハンマリング試験と同様に、加振力,すなわち切削力がインパルス状になるように設定されることが好ましい。本実施形態では、NC制御部110は、
図3に示すように、各振動センサ80A~80Cが設置されている各計測点MP1~MP3の裏側を通る加工経路で、加工開始点SPから加工終了点EPまで工作物WKに試し加工を施す。なお、このように測定される切削力および加速度の時間変化を示すデータは、本開示における「実振動」に相当する。また、本ステップのことを「実振動測定工程」と呼ぶことがある。
【0023】
ステップS115にて、加工条件設定部120は、各計測点MP1~MP3での加速度の計測結果を用いて、試し加工中の各時刻における加工開始点SPと加工終了点EPとの間の振動を推定する。本実施形態では、加工条件設定部120は、加工開始点SPに最も近い計測点MP1の加速度と加工開始点SPに2番目に近い計測点MP2の加速度とを用いた線形補外によって、加工開始点SPと加工開始点SPに最も近い計測点MP1との間の加速度を推定する。加工条件設定部120は、隣り合う2つの計測点の加速度を用いた線形補間によって、隣り合う計測点間の加速度を推定する。加工条件設定部120は、加工終了点EPに最も近い計測点MP3の加速度と加工終了点EPに2番目に近い計測点MP2の加速度とを用いた線形補外によって、加工終了点EPと加工終了点EPに最も近い計測点MP3との間の加速度を推定する。なお、他の実施形態では、加工条件設定部120は、線形補間や線形補外ではなく、例えば、ラグランジュ法あるいはスプライン法によって、加工開始点SPと加工終了点EPとの間の振動を推定してもよい。
【0024】
ステップS120にて、加工条件設定部120は、切削力の計測結果と加速度の推定結果とに対して周波数解析を実行する。本実施形態では、加工条件設定部120は、切削力の計測結果と加速度の推定結果とのそれぞれから1刃分の結果を抽出した後、時間領域で表された1刃分の各結果に高速フーリエ変換を施すことによって、周波数領域で表された1刃分の各結果に変換し、さらに加速度については(2π×周波数)2で除すことによって変位に変換する。なお、1刃分の結果とは、切削工具TLの刃が工作物WKに切り込んでから次に切削工具TLの刃が工作物WKに切り込むまでの期間の計測結果あるいは推定結果のことを意味する。切削工具TLの刃が工作物WKに接触してから次に切削工具TLの刃が工作物WKに接触するまでの時間のことを切れ刃通過周期と呼ぶことがある。等間隔で配置された複数の刃を有する切削工具TLが用いられる場合、切れ刃通過周期は、例えば、回転角センサ69を用いて計測される切削工具TLの回転周期を切削工具TLの刃数で除すことによって算出できる。なお、加工条件設定部120は、高速フーリエ変換に先立って、1刃分の各結果のデータ数が2のべき乗になるように、1刃分の各結果の端部に所定個数のゼロデータを付加してから高速フーリエ変換を実行してもよい。ゼロデータとは、切削力の値や加速度の値がゼロであることを表すデータである。1刃分の各結果にゼロデータを付加することによって、高速フーリエ変換後の各結果の周波数分解能を高めることができる。なお、本ステップにおいて実行される周波数解析は、本開示における「実振動周波数解析」に相当する。また、本ステップのことを「実振動周波数解析工程」と呼ぶことがある。
【0025】
ステップS125にて、加工条件設定部120は、ステップS120にて得られた切削位置における固有振動モードより、質量M、減衰係数C、および、ばね定数K等のモーダルパラメータを同定する。このときモーダルパラメータは、質量M、固有角振動数ωn、減衰比ζで同定してもよい。また、固有角振動数ωn、減衰比ζ、ばね定数Kで同定してもよい。加工条件設定部120は、ステップS120にて算出された周波数解析結果より、コンプライアンスのピークが所定の閾値を超える周波数を特定する。このときに特定される周波数は複数個であってもよい。特定された周波数ごとのピーク形状に適合する伝達関数をカーブフィッティング処理によって導出して、モーダルパラメータを特定することができる。なお、本ステップのことを「第2演算工程」と呼ぶことがある。
【0026】
ステップS130にて、加工条件設定部120は、ステップS125にて得られたモーダルパラメータより、工作物WK上の切削位置における周波数と工作物WKの機械的コンプライアンスの高さとの関係の分布を表すコンプライアンスマップを作成し、表示装置106に表示させる。
図6には、コンプライアンスマップの一例が表されている。
図6において、横軸は、工作物WK上の切削位置を表しており、縦軸は、周波数を表しており、色の濃淡は、工作物WKの機械的コンプライアンスの高さを表している。
図6では、色が薄いほど機械的コンプライアンスが高い。機械的コンプライアンスは剛性の逆数であるため、機械的コンプライアンスが高くなるほど剛性は低くなる。なお、以下の説明では、機械的コンプライアンスのことを単にコンプライアンスと呼ぶ。また、本ステップのことを「第1演算工程」と呼ぶことがある。
【0027】
加工条件設定部120は、各切削位置および各周波数でのコンプライアンスを算出し、コンプライアンスの算出結果を集約することで、コンプライアンスマップを作成する。
【0028】
図4のステップS135にて、加工条件設定部120は、コンプライアンスマップ中のコンプライアンスの最大値が所定の閾値を超えるか否かを判定する。本実施形態では、所定の閾値は、1.0×10
-6m/Nである。
【0029】
ステップS135にてコンプライアンスマップ中のコンプライアンスの最大値が所定の閾値を超えると判定された場合には、加工条件設定部120は、ステップS140にて、工作物WKの剛性を向上させるための工作物剛性向上対策の実行が可能であるか否かの判定結果を取得する。本実施形態では、加工条件設定部120は、工作物剛性向上対策が可能であるか否かの判定要求を表示装置106に表示させることによって、工作物剛性向上対策の実行が可能であるか否かの判定結果を作業員に入力させる。本実施形態における工作物剛性向上対策とは、工作物WKの剛性が不足している部分、あるいは、剛性が不足している部分の周辺部を支持する支持部材48を設置することなどである。作業員は、判定結果を入力装置105に入力し、加工条件設定部120は、入力装置105に入力された判定結果を取得する。
【0030】
ステップS140にて工作物剛性向上対策の実行が可能であるとの判定結果が取得された場合には、作業員は、表示装置106に表示されているコンプライアンスマップを参照して工作物剛性向上対策を実行し、工作物剛性向上対策が完了した後、加工条件設定部120は、ステップS110から加工条件設定処理をやり直す。
【0031】
ステップS135にてコンプライアンスマップ中のコンプライアンスの最大値が所定の閾値を超えないと判定された場合には、加工条件設定部120は、
図5のステップS150に処理を進める。ステップS140にて工作物剛性向上対策が可能でないとの判定結果が取得された場合にも、加工条件設定部120は、ステップS150に処理を進める。つまり、工作物WKが所望の剛性を確保できている場合や、剛性が可能な限り高められている場合に、加工条件設定部120は、ステップS150に処理を進める。
【0032】
ステップS150にて、加工条件設定部120は、自励振動予測マップ生成処理を行う。
図7は、自励振動予測マップ生成処理の内容を示すフローチャートである。
【0033】
ステップS1510にて、加工条件設定部120は、切削位置ごとのモーダルパラメータと、任意に設定された加工条件パラメータとから、加工中の振動振幅の予測値(以下、「推定振動」とも呼ぶ)を算出する。加工条件設定部120は、例えば、橋本高明・河野大輔・古澤正崇・松原厚、「切削加工システムの動特性の異方性が振動安定性に与える影響」、精密工学会誌 Vol.87 No.2、2021年、p.238~244に示されているような加工中の振動振幅の求め方に倣って、推定振動を算出することができる。また、本実施形態では、加工条件パラメータとして、切削工具TLの外径、刃数、ねじれ角、回転速度、半径方向および軸方向の切込み量、接線方向の比切削抵抗、および、分力比(切削工具TLに作用する接線抵抗と法線抵抗の比)に任意の値を設定し、振動振幅の予測値の大きさが所定値以下になるように切削工具TLの1刃あたりの送り量を決定することができる。なお、本ステップのことを「振動推定工程」と呼ぶことがある。
【0034】
ステップS1520にて、加工条件設定部120は、算出された推定振動を対象として周波数解析を実行する。これにより、推定振動における周波数ごとの振動振幅が算出される。なお、本ステップにおいて実行される周波数解析は、本開示における「推定振動周波数解析」に相当する。また、本ステップのことを「推定振動周波数解析工程」と呼ぶことがある。
【0035】
ステップS1530にて、加工条件設定部120は、ステップS1520にて算出された振動振幅のうちの、自励振動成分の最大振幅を強制振動成分の最大振幅で除した値(以下、「振幅比」とも呼ぶ)を算出する。なお、振幅比は、本開示における「自励振動振幅パラメータ」に相当する。なお、本ステップのことを「自励振動振幅パラメータ算出工程」と呼ぶことがある。
【0036】
ステップS1540にて、加工条件設定部120は、自励振動予測マップを生成する。自励振動予測マップは、ステップS1530にて算出された振幅比を加工位置および加工条件ごとにマッピングしたマップである。
図8は、自励振動予測マップ生成処理において生成される自励振動予測マップの一例を示す説明図である。
図8において、横軸は、工作物WK上の加工開始点SPから加工終了点EPまでの間における切削位置を表しており、縦軸は、主軸回転速度を表しており、色の濃淡は、振幅比の大きさを表している。
図8では、色が薄いほど振幅比が大きい。なお、本ステップのことを「自励振動予測マップ生成工程」と呼ぶことがある。
【0037】
ステップS1550にて、加工条件設定部120は、自励振動予測マップを利用して、適正加工条件が得られるか否かを判定する。「適正加工条件」は、自励振動予測マップにおいて、予め設定された加工範囲全体で振幅比が予め設定された閾値未満となる加工条件を意味する。本実施形態では、閾値として「1」が設定されており、自励振動予測マップでは、振幅比が閾値以上である領域は白色で示されている。
図8に示す例においては、点線で囲って示す、加工開始点SPから加工終了点EPまでの間において白色の領域を含まない領域ARが存在するので、適正加工条件が得られると判定される。また、本ステップのことを「判定工程」と呼ぶことがある。
【0038】
適正加工条件が得られない場合、加工条件設定部120は、加工条件パラメータを新たに設定し(ステップS1555)、ステップS1510からステップS1550を再び行う。ステップS1555にて新たに設定される加工条件パラメータは、振幅比が上述した閾値未満となるように自励振動成分を抑制可能な対策が取られたパラメータであることが好ましい。自励振動成分を抑制する対策として、例えば半径方向と軸方向とのうちの少なくとも一方の切込み量を小さくする案が挙げられる。
【0039】
適正加工条件が得られる場合、加工条件設定部120は、表示装置106に自励振動予測マップを表示する(ステップS1560)。なお、本ステップのことを「自励振動予測マップ表示工程」と呼ぶことがある。本ステップの終了後、加工条件設定部120は、自励振動予測マップ生成処理を終了する。
【0040】
図5に示すステップS155にて、作業員は、表示装置106に表示された自励振動予測マップを参照して、上述のように得られる適正加工条件を本加工用の加工条件として入力装置105に入力する。例えば、
図8の例では、領域ARに相当する主軸回転速度が加工条件として入力される。加工条件設定部120は、入力装置105に入力された本加工用の加工条件を取得する。
【0041】
図5に示すステップS160にて、加工条件設定部120は、ステップS155にて取得された本加工用の加工条件を用いて、NC制御部110に確認用加工を実行させる。
【0042】
ステップS170にて、加工条件設定部120は、ステップS160の確認用加工中に工作物WKに強制びびり振動が発生したか否かの判定結果を取得する。本実施形態では、加工条件設定部120は、確認用加工中に工作物WKに強制びびり振動が発生したか否かの判定要求を表示装置106に表示させることによって、確認用加工中に工作物WKに強制びびり振動が発生したか否かの判定結果を作業員に入力させる。作業員は、強制びびり振動が発生したか否かの判定結果を入力装置105に入力し、加工条件設定部120は、入力装置105に入力された強制びびり振動が発生したか否かの判定結果を取得する。
【0043】
ステップS170にて確認用加工中に工作物WKに強制びびり振動が発生したとの判定結果が取得された場合、加工条件設定部120は、ステップS175にて、メモリ102に予め記憶されている強制びびり振動対策案KTを表示装置106に表示させながら、強制びびり振動対策の実行が完了するまで待機する。強制びびり振動対策案KTには、例えば、1刃あたりの送り量を小さくする案や、半径方向と軸方向とのうちの少なくとも一方の切込み量を小さくする案などが含まれる。作業員は、表示装置106に表示されている強制びびり振動対策案KTを参照して、強制びびり振動対策を実行することができる。そのため、熟練度の低い作業員であっても、予め用意されている強制びびり振動対策案KTを参照することで、容易に強制びびり振動対策を実行できる。強制びびり振動対策が完了した後、作業員は、強制びびり振動対策が完了したことを入力装置105に入力する。入力装置105に強制びびり振動対策が完了したことが入力されると、加工条件設定部120は、ステップS150から加工条件設定処理をやり直す。ステップS170にて確認用加工中に強制びびり振動が発生しなかったとの判定結果が取得された場合には、加工条件設定部120は、ステップS180に処理を進める。
【0044】
ステップS180にて、加工条件設定部120は、ステップS160の確認用加工中に工作物WKに自励びびり振動が発生したか否かの判定結果を取得する。本実施形態では、加工条件設定部120は、確認用加工中に工作物WKに自励びびり振動が発生したか否かの判定要求を表示装置106に表示させることによって、確認用加工中に工作物WKに自励びびり振動が発生したか否かの判定結果を作業員に入力させる。作業員は、自励びびり振動が発生したか否かの判定結果を入力装置105に入力し、加工条件設定部120は、入力装置105に入力された自励びびり振動が発生したか否かの判定結果を取得する。
【0045】
ステップS180にて確認用加工中に工作物WKに自励びびり振動が発生したとの判定結果が取得された場合、加工条件設定部120は、ステップS185にて、メモリ102に予め記憶されている自励びびり振動対策案JTを表示装置106に表示させながら、自励びびり振動対策の実行が完了するまで待機する。自励びびり振動対策案JTには、例えば、主軸回転速度を変更する案や、半径方向と軸方向とのうちの少なくとも一方の切込み量を小さくする案などが含まれる。作業員は、表示装置106に表示されている自励びびり振動対策案JTを参照して、自励びびり振動対策を実行することができる。そのため、熟練度の低い作業員であっても、予め用意されている自励びびり振動対策案JTを参照することで、容易に自励びびり振動対策を実行できる。自励びびり振動対策が完了した後、作業員は、自励びびり振動対策が完了したことを入力装置105に入力する。入力装置105に自励びびり振動対策が完了したことが入力されると、加工条件設定部120は、ステップS150から加工条件設定処理をやり直す。
【0046】
強制びびり振動と自励びびり振動との一方のびびり振動の発生を抑制するための対策を実行することで、他方のびびり振動が生じる可能性がある。しかしながら、本実施形態では、ステップS175で強制びびり振動対策が実行された場合には、ステップS150から加工条件設定処理をやり直すので、強制びびり振動および自励びびり振動の両方が生じないことを確認することができる。また、ステップS185で自励びびり振動対策が実行された場合にも、ステップS150から加工条件設定処理をやり直すので、強制びびり振動および自励びびり振動の両方が生じないことを確認することができる。
【0047】
ステップS180にて確認用加工中に自励びびり振動が発生しなかったとの判定結果が取得された場合や、確認用加工中に強制びびり振動と自励びびり振動とのいずれかが発生し、びびり振動の対策後に実行される再度の確認用加工でいずれのびびり振動も発生しなかったとの判定結果が取得された場合には、加工条件設定部120は、加工条件設定処理を終了する。その後、加工条件設定処理のステップS155にて設定された加工条件に従って本加工が実行される。なお、本加工時には、工作物WKから振動センサ80A~80Cが取り外されていてもよい。
【0048】
以上説明した実施形態の工作機械11では、モーダルパラメータを利用して算出された推定振動に基づいて自励振動予測マップを生成し、自励振動予測マップを利用して適正加工条件が得られる場合に表示装置106に自励振動予測マップを表示するので、表示された自励振動予測マップを参照してびびり振動を抑制可能な加工条件を選定でき、確認用加工の回数を抑制できる。また、試し加工により得られた振動データから求めたモーダルパラメータを用いて推定振動を算出するため、ハンマリング試験により工作物WKの振動特性を特定する構成と比べて、びびり振動を抑制できる。
【0049】
また、本実施形態では、振幅比を算出し、振幅比を利用して判定工程を行うので、自励振動成分の最大振幅の大きさによらずに判定でき、自励振動成分の振幅の分布によって閾値を変更する等、判定が煩雑になることを抑制できる。
【0050】
また、本実施形態では、実際の切削加工時の工作物WKの振動に基づいたモーダルパラメータを利用して自励振動予測マップを生成するので、より効果的にびびり振動を抑制可能な加工条件を選定できる。
【0051】
B.他の実施形態:
(B1)上述した実施形態の工作機械11では、加工条件設定部120は、実振動測定工程において測定された実振動を利用して算出されたモーダルパラメータを利用して推定振動を算出する。これに対して、加工条件設定部120は、予め解析により算出された工作物WKのモーダルパラメータを利用して推定振動を算出してもよい。
【0052】
(B2)上述した実施形態の工作機械11では、加工条件設定部120は、予め設定された比切削抵抗を加工条件パラメータとして用いる。これに対して、加工条件設定部120は、切削工具TLの摩耗状況に応じて算出された比切削抵抗を加工条件パラメータとして用いてもよい。例えば、切削工具TLを撮像するカメラが工作機械11に設けられ、加工条件設定部120は、カメラを用いて取得された画像を解析することによって切削工具TLの摩耗状況を取得することができる。かかる形態の工作機械11によれば、切削工具TLの摩耗状況に応じて変化する比切削抵抗に即してより精度よく推定振動を算出できるので、より効果的にびびり振動を抑制可能な加工条件を選定できる。
【0053】
(B3)上述した実施形態の工作機械11では、加工条件設定部120は、自励振動振幅パラメータとして振幅比を算出する。これに対して、加工条件設定部120は、自励振動振幅パラメータとして、推定振動周波数解析の結果における自励振動成分の大きさを示す任意の値を設定してよい。例えば、加工条件設定部120は、自励振動振幅パラメータとして、推定振動周波数解析の結果における自励振動成分の最大振幅を算出してもよい。
【0054】
(B4)上述した実施形態の工作機械11では、加工条件設定部120は、判定工程において、閾値を「1」として判定を行う。これに対して、加工条件設定部120は、判定工程において、任意の閾値を設定して判定を行ってもよい。また、加工条件設定部120は、判定工程における判定の結果が否である場合であって、加工条件パラメータを変更して再度生成された自励振動予測マップを対象として再び判定工程を行う場合、当該判定工程にて用いられる閾値として、前回の判定工程における閾値よりも小さい値を設定してもよい。かかる形態の工作機械11によれば、再度行われる判定工程においては前回の判定工程よりも振幅比が小さくなるような適正加工条件が選定されるので、より効果的にびびり振動を抑制可能な加工条件を選定できる。
【0055】
(B5)上述した実施形態の工作機械11では、加工条件設定部120は、工作物WK上の切削位置と主軸回転速度と振幅比との関係を表す自励振動予測マップを作成する。これに対して、加工条件設定部120は、例えば、工作物WK上の切削位置と切削工具TLの1刃あたりの送り量と振幅比との関係を表す自励振動予測マップを作成してもよいし、工作物WK上の切削位置とZ軸方向における切込み量と振幅比との関係を表す自励振動予測マップを作成してもよいし、工作物WK上の切削位置と切削工具TLの半径方向における切込み量と振幅比との関係を表す自励振動予測マップを作成してもよい。また、加工条件設定部120は、工作物WK上の切削位置等と振幅比との関係ではなく、工作物WK上の切削位置等と自励振動成分の最大振幅との関係を表す自励振動予測マップを作成してもよい。
【0056】
(B6)上述した実施形態の工作機械11では、加工条件設定部120は、ステップS160の確認用加工において強制びびり振動が発生したか否かの判定結果を取得し、確認用加工において強制びびり振動が発生したとの判定結果を取得した場合には、強制びびり振動対策案KTを表示装置106に表示させる。さらに、加工条件設定部120は、ステップS160の確認用加工において自励びびり振動が発生したか否かの判定結果を取得し、確認用加工において自励びびり振動が発生したとの判定結果を取得した場合には、自励びびり振動対策案JTを表示装置106に表示させる。これに対して、加工条件設定部120は、ステップS160の確認用加工において強制びびり振動が発生したか否かの判定結果と、ステップS160の確認用加工において自励びびり振動が発生したか否かの判定結果とのうちの少なくとも一方の判定結果を取得しなくてもよい。また、強制びびり振動対策案KTや自励びびり振動対策案JTが予め用意されていなくてもよい。この場合、加工条件設定部120は、確認用加工において強制びびり振動、あるいは、自励びびり振動が発生したとの判定結果を取得した場合に、判定結果を表示装置106に表示させ、作業員は、例えば、自身のノウハウに基づいて強制びびり振動対策、あるいは、自励びびり振動対策を実行してもよい。
【0057】
(B7)上述した実施形態の工作機械11において、加工条件設定部120が工作物剛性向上対策の実行が可能であるか否かを判定してもよい。例えば、工作物WKやテーブル40を撮像するカメラが工作機械11に設けられ、加工条件設定部120は、カメラを用いて取得された画像を解析することによって、工作物剛性向上対策の実行が可能であるか否かを判定してもよい。この場合、工作物剛性向上対策の実行が可能であるか否かの判定を自動化できるので、作業員の負担を軽減できる。
【0058】
(B8)上述した実施形態の工作機械11において、加工条件設定部120がステップS160の確認用加工中に強制びびり振動や自励びびり振動が発生したか否かを判定してもよい。例えば、加工面を撮像するカメラ、あるいは、加工面の表面粗さを計測するためのプローブが工作機械11に設けられ、加工条件設定部120は、カメラを用いて取得される画像を解析することや、プローブによる表面粗さの計測結果に基づいて、確認用加工中に強制びびり振動や自励びびり振動が発生したか否かを判定してもよい。
【0059】
(B9)上述した実施形態では、工作機械11は、立型のマシニングセンタである。これに対して、工作機械11は、立型のマシニングセンタでなくてもよい。工作機械11は、例えば、横型のマシニングセンタや、NCフライス盤でもよい。
【0060】
(B10)上述した実施形態では、加工条件設定部120は、工作機械11の制御装置100に設けられている。これに対して、加工条件設定部120は、例えば、有線通信あるいは無線通信によって制御装置100に接続されているコンピュータ上に設けられてもよい。この場合、加工条件設定部120が設けられたコンピュータのことを「加工条件設定装置」と呼ぶことがある。
【0061】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した形態中の技術的特徴に対応する各実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0062】
11…工作機械、20…ベッド、30…サドル、40…テーブル、45…クランプ、48…支持部材、49…固定部材、50…コラム、60…主軸装置、65…主軸、67…主軸モータ、69…回転角センサ、70…切削力センサ、80A~80C…振動センサ、100…制御装置、101…CPU、102…メモリ、103…入出力インターフェース、104…内部バス、105…入力装置、106…表示装置、110…NC制御部、120…加工条件設定部、EP…加工終了点、MP1~MP3…計測点、SP…加工開始点、TL…切削工具、WK…工作物