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特開2024-88968モータ駆動制御装置、ファンシステム、および特徴量記録方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088968
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】モータ駆動制御装置、ファンシステム、および特徴量記録方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/024 20160101AFI20240626BHJP
【FI】
H02P29/024
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204037
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】青木 政人
(72)【発明者】
【氏名】海津 浩之
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 進
(72)【発明者】
【氏名】田端 剛
【テーマコード(参考)】
5H501
【Fターム(参考)】
5H501AA08
5H501BB08
5H501CC01
5H501DD04
5H501GG03
5H501HB07
5H501HB16
5H501JJ03
5H501JJ12
5H501JJ16
5H501JJ17
5H501JJ18
5H501LL07
5H501LL10
5H501LL16
5H501LL22
5H501LL23
5H501LL35
5H501LL51
5H501MM01
(57)【要約】
【課題】従来よりも少ない記憶容量であるにもかかわらず、ファンモータの異常推定のための十分な回転数に関するデータを保存することが可能なモータ駆動制御装置を提供すること。
【解決手段】モータ駆動制御装置(1)は、制御回路(3)と、モータを駆動するモータ駆動回路(2)と、を備え、前回制御回路は、特徴量として前記モータの回転数のふらつき状態を示す特徴量を記録する特徴量記録部(38)とを有し、前記特徴量記録部は、位置検出信号の周期を順次測定する周期測定部(382)と、各ビットが「0」または「1」の値を有するビット列を格納するビット列記録部(381)と、前回と今回の位置検出信号の周期を比較して、所定の条件を満たす場合に、前記ビット列に「1」を記録する記録制御部(383)とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1相のコイルを有するモータを駆動するための駆動制御信号を生成する制御回路と、
前記駆動制御信号に基づいて前記モータを駆動するモータ駆動回路と、を備えるモータ駆動制御装置であって、
前記制御回路は、
前記モータ駆動制御装置における特徴量として前記モータの回転数のふらつき状態を示す特徴量を記録する特徴量記録部とを有し、
前記特徴量記録部は、
前記モータのロータの回転位置に対応する位置検出信号を順次取得して、該位置検出信号の周期を順次測定する周期測定部と、
各ビットが「0」または「1」の値を有するビット列を前記モータの回転数のふらつき状態を示す特徴量として格納するビット列記録部と、
前回取得した位置検出信号の周期と今回取得した位置検出信号の周期とを比較して、所定の条件を満たす場合に、前記ビット列記録部のビット列の今回の記録ビットに「1」を記録する記録制御部と、を有する、
モータ駆動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ駆動制御装置であって、
前記記録制御部は、
前回取得した位置検出信号の周期と今回取得した位置検出信号の周期とを比較して、前記モータが減速していると判定できた場合に、所定の条件を満たすと判断するか、または
前回取得した位置検出信号の周期と今回取得した位置検出信号の周期とを比較して、前記モータが加速していると判定できた場合に、所定の条件を満たすと判断する、
モータ駆動制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のモータ駆動制御装置であって、
前記記録制御部は、上位の指令装置からの速度指令が一定になったときに、前記比較を開始する、
モータ駆動制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載のモータ駆動制御装置であって、
前記記録制御部は、所定の条件を満たさない場合は、今回の記録ビットとして「0」を記録する、
モータ駆動制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載のモータ駆動制御装置であって、
前記記録制御部は、最初の記録ビットが「1」になるまで、次の記録ビットに移動しない、
モータ駆動制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載のモータ駆動制御装置であって、
前記モータの回転数のふらつき状態を示す特徴量に基づいて異常推定処理を実行する推定処理部をさらに有し、
前記推定処理部は、前記異常推定処理において、前記ビット列記録部に記録されたビット列を取得し、該ビット列に含まれる「1」の数が当該ビット列全体に対して所定割合以上である場合に、前記モータの回転がふらついていることを推定する、
モータ駆動制御装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のモータ駆動制御装置と、
前記モータと、
前記モータの回転力によって回転可能に構成されたインペラと、
前記モータのロータの回転位置に対応する位置検出信号を出力する位置検出器と、を備える
ファンシステム。
【請求項8】
少なくとも1相のコイルを有するモータを駆動するための駆動制御信号を生成するとともに、各ビットが「0」または「1」の値を有するビット列を前記モータの回転数のふらつき状態を示す特徴量として格納するビット列記録部に記録する特徴量記録部を有する制御回路と、
前記駆動制御信号に基づいて前記モータを駆動するモータ駆動回路と、を備えるモータ駆動制御装置において実行される特徴量記録方法であって、
前記特徴量記録部は、
前記モータのロータの回転位置に対応する位置検出信号を順次取得して、該位置検出信号の周期を順次測定する測定ステップと、
前記測定ステップにおいて測定した、前回取得した位置検出信号の周期と今回取得した位置検出信号の周期とを比較して、所定の条件を満たす場合に、前記ビット列記録部のビット列の今回の記録ビットに「1」を記録する記録ステップと、を実行する、
特徴量記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動制御装置、ファンシステム、および特徴量記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ファンモータの運転状況に係る情報を記憶、読み出し自在として、異常事態の即時発見や、寿命予測によるメンテナンス管理の徹底等による信頼性の向上をはかることが記載されている。このファンモータでは、ファンモータの寿命に関わる動作量として、回転数の累積として取得される回転数情報が記憶される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-58280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、機械学習アルゴリズムによる推定処理を用いて、回転数データ情報に基づいてモータの異常推定処理をすることが検討されている。しかしながら、機械学習アルゴリズムによる異常推定処理に用いる回転数データとして、特許文献1のように回転数の累積として取得される回転数情報を記録したものを用いる場合、特徴量として記録される回転数データの数が膨大となり、それを記録するために必要な記録データサイズが大きくなるという問題がある。
【0005】
この問題を単純に解決するためには、よりサイズの大きい組み込みマイコンを選定すればよいが、コストが増大するため、この解決策の選択は望ましくない。
【0006】
そこで本発明者らが検討したところ、ファンモータにおいては、動作中に回転数が変動することあまりないため、通常は回転数が一定となる。回転数が一定の時に異常推定処理を実行すれば、回転数の累積として取得される回転数データは必要はなく、回転数データの変動によって特定されるモータの回転数のふらつき状態によってもモータの異常推定をすることができることを見出し、本発明に至った。
【0007】
本発明は、上述した問題に鑑みなされたものであり、従来よりも少ない記憶容量であるにもかかわらず、ファンモータの異常推定のための十分な回転数に関するデータを保存することが可能なモータ駆動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動制御装置は、少なくとも1相のコイルを有するモータを駆動するための駆動制御信号を生成する制御回路と、前記駆動制御信号に基づいて前記モータを駆動するモータ駆動回路と、を備え、前記制御回路は、前記モータ駆動制御装置における特徴量として前記モータの回転数のふらつき状態を示す特徴量を記録する特徴量記録部とを有し、前記特徴量記録部は、前記モータのロータの回転位置に対応する位置検出信号を順次取得して、該位置検出信号の周期を順次測定する周期測定部と、各ビットが「0」または「1」の値を有するビット列を前記モータの回転数のふらつき状態を示す特徴量として格納するビット列記録部と、前回取得した位置検出信号の周期と今回取得した位置検出信号の周期とを比較して、所定の条件を満たす場合に、前記ビット列記録部のビット列の今回の記録ビットに「1」を記録する記録制御部と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、従来よりも少ない記憶容量であるにもかかわらず、ファンモータの異常推定のための十分な回転数に関するデータを保存することが可能なモータ駆動制御装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施の形態に係るモータ駆動制御装置1を備えたファンシステム100の構成の概要を示すブロック図である。
図2】特徴量記録部38の機能部を示した機能ブロック図である。
図3】位置検出信号Shuの波形と、各記録周期において、記録ビット制御部383によって記録部381に記録される記録パターンの例を示す図である。
図4】低速回転時(60Hz)において、従来の回転数データの記録手法について説明する図である。
図5】高速回転時(600Hz)において、従来の回転数データの記録手法について説明する図である。
図6】本実施の形態のモータ駆動制御装置の特徴量の記録処理の動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.実施の形態の概要
先ず、本願において開示される発明の代表的な実施の形態について概要を説明する。なお、以下の説明では、一例として、発明の構成要素に対応する図面上の参照符号を、括弧を付して記載している。
【0012】
〔1〕本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動制御装置(1)は、少なくとも1相のコイルを有するモータ(5)を駆動するための駆動制御信号を生成する制御回路(3)と、前記駆動制御信号に基づいて前記モータを駆動するモータ駆動回路(2)と、を備えるモータ駆動制御装置であって、前記制御回路は、前記モータ駆動制御装置における特徴量として前記モータの回転数のふらつき状態を示す特徴量を記録する特徴量記録部(38)とを有し、前記特徴量記録部は、前記モータのロータの回転位置に対応する位置検出信号を順次取得して、該位置検出信号の周期を順次測定する周期測定部(382)と、各ビットが「0」または「1」の値を有するビット列を前記モータの回転数のふらつき状態を示す特徴量として格納するビット列記録部(381)と、前回取得した位置検出信号の周期と今回取得した位置検出信号の周期とを比較して、所定の条件を満たす場合に、前記ビット列記録部のビット列の今回の記録ビットに「1」を記録する記録制御部(383)とを有することを特徴とする。
【0013】
〔2〕上記〔1〕に記載のモータ駆動制装置において、前記記録制御部は、前回取得した位置検出信号の周期と今回取得した位置検出信号の周期とを比較して、前記モータが減速していると判定できた場合に、所定の条件を満たすと判断するか、または前回取得した位置検出信号の周期と今回取得した位置検出信号の周期とを比較して、前記モータが加速していると判定できた場合に、所定の条件を満たすと判断することとしてもよい。
【0014】
〔3〕上記〔1〕または〔2〕に記載のモータ駆動制装置において、前記記録制御部は、上位の指令装置からの速度指令が一定になったときに、前記比較を開始することとしてもよい。
【0015】
〔4〕上記〔1〕から〔3〕までのいずれか1項に記載のモータ駆動制装置において、前記記録制御部は、所定の条件を満たさない場合は、今回の記録ビットとして「0」を記録することとしてもよい。
【0016】
〔5〕上記〔1〕から〔4〕までのいずれか1項に記載のモータ駆動制装置において、前記記録制御部は、最初の記録ビットが「1」になるまで、次の記録ビットに移動しないこととしてもよい。
【0017】
〔6〕上記〔1〕から〔5〕までのいずれか1項に記載のモータ駆動制装置において、前記モータの回転数のふらつき状態を示す特徴量に基づいて異常推定処理を実行する推定処理部(39)をさらに有し、前記推定処理部は、前記異常推定処理において、前記ビット列記録部に記録されたビット列を取得し、該ビット列に含まれる「1」の数が当該ビット列全体に対して所定割合以上である場合に、前記モータの回転がふらついていることを推定することとしてもよい。
【0018】
〔7〕本発明の代表的な実施の形態に係るファンシステムは、上記〔1〕から〔6〕までのいずれか1項に記載のモータ駆動制御装置と、前記モータと、前記モータの回転力によって回転可能に構成されたインペラと、前記モータのロータの回転位置に対応する位置検出信号を出力する位置検出器と、を備えることを特徴とする。
【0019】
〔8〕本発明の代表的な実施の形態に係る特徴量記録方法は、少なくとも1相のコイルを有するモータを駆動するための駆動制御信号を生成するとともに、各ビットが「0」または「1」の値を有するビット列を前記モータの回転数のふらつき状態を示す特徴量として格納するビット列記録部に記録する特徴量記録部を有する制御回路と、前記駆動制御信号に基づいて前記モータを駆動するモータ駆動回路と、を備えるモータ駆動制御装置において実行される特徴量記録方法であって、前記特徴量記録部は、前記モータのロータの回転位置に対応する位置検出信号を順次取得して、該位置検出信号の周期を順次測定する測定ステップと、前記測定ステップにおいて測定した、前回取得した位置検出信号の周期と今回取得した位置検出信号の周期とを比較して、所定の条件を満たす場合に、前記ビット列記録部のビット列の今回の記録ビットに「1」を記録する記録ステップと、実行することを特徴とする。
【0020】
2.実施の形態の具体例
以下、本発明の実施の形態の具体例について図を参照して説明する。なお、以下の説明において、各実施の形態において共通する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する。
【0021】
≪実施の形態≫
本実施の形態に係るファンシステム100の構成の概要について説明する。
図1は、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置1を備えたファンシステム100の構成の概要を示すブロック図である。
図1に示されるように、ファンシステム100は、インペラ4およびこれを回転させるモータ5と、モータ5の回転位置を検出する位置検出器6と、モータ5を駆動するモータ駆動制御装置1とを備えた送風装置として構成されている。
【0022】
ファンシステム100は、上位の指令装置の一例である制御装置800に接続されている。本実施の形態において、制御装置800は、ファンシステム100に、モータ5の回転速度(回転数)に対応する速度指令信号Scを出力する。速度指令信号Scは、モータ駆動制御装置1に入力される。モータ駆動制御装置1は、速度指令信号Scに対応する回転数でモータ5を駆動することができる。なお、モータ駆動制御装置1は、モータ5に対応する回転数信号S(例えば、FG信号など)を制御装置800に出力する。制御装置800は、回転数信号Sに基づいて、ファンシステム100の駆動状態を検知し、それに応じて、出力する速度指令信号Scの制御などを行うことができる。
【0023】
モータ5は、少なくとも1つのコイルを有するモータである。本実施の形態では、例えば、モータ5は、3相(U相、V相、およびW相)のコイル(巻線)Lu,Lv,Lwを有するブラシレスモータである。モータ駆動制御装置1は、モータ5のコイルに周期的に駆動電流を流すことで、モータ5を回転させる。モータ5は、例えば、モータ5の出力軸にインペラ4が連結されることにより、一つのファンモータとして機能する。
【0024】
位置検出器6は、モータ5の回転子(ロータ)の回転に応じた位置検出信号Shuを生成する装置である。位置検出器6は、例えば、ホールICである。本実施の形態に係るファンシステム100においては、モータ5のU相のコイルLuに対応する位置にホールICが設けられている。ホールICは、ロータの磁極を検出し、ロータの回転に応じて電圧が変化する信号を周期的にハイ、ローとなる信号に変換してホール信号として出力する。位置検出器6から出力されるホール信号は、位置検出信号Shuとしてモータ駆動制御装置1に入力される。
【0025】
モータ駆動制御装置1は、モータ5の駆動を制御する装置である。モータ駆動制御装置1は、例えば、モータ5の回転速度が目標回転速度に一致し、且つモータ5の各相のコイルLu,Lv,Lwに矩形波状または正弦波状の電流が流れるように駆動信号を生成する制御を行うことにより、モータ5を駆動する。
【0026】
モータ駆動制御装置1は、制御回路部3(制御回路の一例)とモータ駆動部2(モータ駆動回路の一例)とを備えている。モータ駆動制御装置1は、外部の直流電源(不図示)から直流電圧の供給を受ける。直流電圧は、例えば、保護回路等を介してモータ駆動制御装置1内の電源ライン(不図示)に供給され、電源ラインを介して制御回路部3とモータ駆動部2に電源電圧としてそれぞれ入力される。
【0027】
モータ駆動部2は、制御回路部3から出力される駆動制御信号Sdに基づいて、モータ5を駆動する回路である。駆動制御信号Sdは、モータ5の駆動を制御するための信号であって、例えば、PWM信号である。
【0028】
モータ駆動部2は、例えば、スイッチ素子としてのトランジスタを複数有するインバータ回路を有する。モータ駆動部2は、駆動制御信号SdとしてのPWM信号に応じて、モータ5に駆動信号を出力し、モータ5を駆動させる。
【0029】
モータ駆動部2は、上述したインバータ回路を構成する各トランジスタを駆動制御信号Sdに基づいて駆動するためのプリドライブ回路を有していてもよい。プリドライブ回路は、制御回路部3による制御に基づいて、インバータ回路を駆動するための出力信号を生成し、インバータ回路に出力する。インバータ回路は、プリドライブ回路から出力された出力信号に基づいてモータ5に駆動信号を出力し、モータ5が備えるコイルに通電してモータ5を駆動する。
【0030】
制御回路部3には、制御装置800から出力された速度指令信号Scが入力される。また、制御回路部3は、制御装置800に回転数信号Sを出力する。
【0031】
速度指令信号Scは、モータ5の回転速度に関する信号である。例えば、速度指令信号Scは、モータ5の目標回転速度に対応するPWM(パルス幅変調)信号である。換言すると、速度指令信号Scは、モータ5の回転速度の目標値に対応する速度指令情報である。なお、速度指令信号Scとして、クロック信号が入力されてもよい。
【0032】
また、本実施の形態において、制御回路部3には、モータ5に対応して設けられたホール(HALL)素子(位置検出器)6から、ホール信号(位置検出信号)Shuが入力される。ホール信号Shuは、例えば、モータ5に配置されたホール素子6の出力信号である。
【0033】
ホール信号Shuは、モータ5のロータの回転に対応する信号である。制御回路部3は、ホール信号Shuを用いてモータ5の回転状態を検出し、モータ5の駆動を制御する。すなわち、制御回路部3は、ホール信号Shuを用いてモータ5のロータの回転位置を検出するとともに、ホール信号Shuを用いてモータ5のロータの実際の回転数に関する実回転数情報を得て、モータ5の駆動を制御することができる。また、制御回路部3は、ホール信号Shuを用いてモータ5の回転数のふらつき状態を記録し、ファンシステム100の異常推定をすることができる。
【0034】
制御回路部3は、モータ駆動制御装置1の動作を統括的に制御するための回路である。制御回路部3は、モータ駆動制御処理部30と、特徴量記録部38、推定処理部39とを機能部として有している。モータ駆動制御処理部30は、さらに、回転数算出部31と、速度指令解析部32と、PWM指令部33と、PWM信号生成部34とを機能部として有している。制御回路部3は、これらの機能部により、モータ駆動制御機能や推定処理機能を実現している。推定処理機能とは、ファンシステム100の異常を推定する処理を含む。詳細は、後述する。
【0035】
これらの制御回路部3における機能部は、例えば、プログラム処理装置によって実現されている。本実施の形態において、制御回路部3は、例えば、CPU等のプロセッサと、RAM,ROM、およびフラッシュメモリ等の各種記憶装置と、カウンタ(タイマ)、A/D変換回路、D/A変換回路、クロック発生回路、および入出力インターフェース回路等の周辺回路とが、バスや専用線を介して互いに接続された構成を有するプログラム処理装置である。例えば、制御回路部3は、マイクロコントローラ(MCU:Micro Controller Unit)である。
【0036】
なお、制御回路部3とモータ駆動部2とは、一つの半導体集積回路(IC:Integrated Circuit)としてパッケージ化された構成であってもよいし、個別の集積回路として夫々パッケージ化されて回路基板に実装され、回路基板上で互いに電気的に接続された構成であってもよい。
【0037】
制御回路部3は、入力される信号に基づいて、モータ5を駆動させるための駆動制御信号Sdを出力する。具体的には、制御回路部3は、速度指令信号Scおよびホール信号Shuに基づいて、駆動制御信号Sdをモータ駆動部2に出力する。
【0038】
制御回路部3は、モータ5を駆動させるための駆動制御信号Sdをモータ駆動部2に出力し、モータ5の回転制御を行う。モータ駆動部2は、上述したように、駆動制御信号Sdに基づいて、モータ5に駆動信号を出力してモータ5を駆動させる。
【0039】
回転数算出部31には、ホール素子6から出力されたホール信号Shuが入力される。回転数算出部31は、入力されたホール信号Shuに基づいて、各相とモータ5のロータとの位置関係を示す位置信号を出力する。また、回転数算出部31は、ホール信号Shuに基づいて、位置信号の周期に対応する実回転数情報を生成して出力する。すなわち、回転数算出部31は、モータ5のロータの実際の回転数に関する実回転数情報を出力する。図においては、位置信号と実回転数情報とを合わせて、実回転信号S2が示されている。実回転信号S2は、PWM指令部33に出力される。
【0040】
回転数算出部31は、生成した実回転数情報を回転数信号Sとして制御装置800に出力することができる。
【0041】
速度指令解析部32には、速度指令信号Scが入力される。速度指令解析部32は、速度指令信号Scに基づいて、モータ5の目標回転数を示す目標回転数信号S1を出力する。目標回転数信号S1は、速度指令信号Scに対応するデューティ比を示すPWM信号である。目標回転数信号S1は、PWM指令部33に出力される。
【0042】
PWM指令部33には、回転数算出部31から出力された実回転信号S2と、速度指令解析部32から出力された目標回転数信号S1とが入力される。PWM指令部33は、実回転信号S2と目標回転数信号S1とに基づいて、実回転信号S2が目標回転数信号S1に一致するように、いわゆるフィードバック制御処理により調整したPWM設定指示信号S3を生成して出力する。PWM設定指示信号S3は、PWM信号生成部34に出力される。PWM設定指示信号S3は、駆動制御信号Sdを出力するためのデューティ比を示す信号である。
【0043】
また後述のように、PWM指令部33は、特徴量記録部38に定速指令信号S8を出力するとともに、PWM指令部33には、推定処理部39から出力された推定結果を含む調整信号S9が入力される。定速指令信号S8は、制御装置800から速度指令解析部32に入力される速度指令信号Scの目標回転数が時間経過とともに増加あるいは減少していないことを示す信号である。すなわち、定速指令信号S8は、速度指令信号Scに含まれるモータ5の目標回転速度が一定値となったことを示す信号である。特徴量記録部38は、定速指令信号S8を受け取ると、特徴量の記録処理を新たに開始する。特徴量記録部38は、制御装置800から一定の目標回転速度が指示されている際に特徴量の記録処理を開始する。PWM指令部33は、推定処理部39から出力された調整信号S9が入力されると、入力された調整信号S9に含まれる推定結果の内容に応じてさらにPWM設定指示信号S3を調整して出力する。
【0044】
PWM信号生成部34には、PWM設定指示信号S3が入力される。PWM信号生成部34は、PWM設定指示信号S3に基づいて、モータ駆動部2を駆動させるためのPWM信号S4を生成する。PWM信号S4は、例えば、デューティ比がPWM設定指示信号S3と同一となる信号である。換言すると、PWM信号S4は、PWM設定指示信号S3に対応するデューティ比を有する信号である。
【0045】
PWM信号生成部34から出力されたPWM信号S4は、駆動制御信号Sdとして制御回路部3からモータ駆動部2に出力される。これにより、モータ駆動部2からモータ5に駆動信号が出力され、モータ5が駆動される。
【0046】
特徴量記録部38は、モータ駆動制御装置1における特徴量を記録する処理部である。特徴量記録部38には、速度指令信号Scにおける速度が一定になった旨を示す定速指令信号S8と位置検出信号Shuとが入力される。本実施の形態におけるモータ駆動制御装置1では、特徴量記録部38は、特徴量としてモータ5の回転数のふらつきを示す値を記録する。特徴量記録部38は、特徴量として、モータ5の回転数のふらつきを示す値以外にも、モータ駆動制御装置1によるモータ5の駆動中にモータ5またはモータ駆動制御装置1の動作状態に関する物理量をモータ駆動制御装置1における特徴量として取得して記録してもよい。例えば、推定処理部39において実行する推定処理に必要な特徴量を取得することができ、例えば、電圧、電流、温度、駆動制御信号のデューティ比などが挙げられるが特に限定されない。
【0047】
ここで特徴量記録部38についてさらに詳細に説明する。
【0048】
図2は、特徴量記録部38の機能部を示した機能ブロック図である。
【0049】
図2に示すように、特徴量記録部38は、記録部381(「ビット列記録部」の一例)と、周期測定部382(「周期測定部」の一例)と、記録ビット制御部383(「記録制御部」の一例)とを機能部として有している。
【0050】
記録部381は、複数ビットからなるビット列を有する記憶部であり、各ビットに「0」または「1」を記録する。
【0051】
周期測定部382は、位置検出信号Shuを受け取って、位置検出信号Shuの周期、すなわち、位置検出信号Shuの1周期に要する時間を測定する。測定した位置検出信号Shuの周期は記録ビット制御部383に渡す。位置検出信号Shuは、連続したパルス信号であるので、1パルスに要する時間が位置検出信号Shuの周期として測定される。本実施の形態では、位置検出信号Shuの1周期が記録周期となる。
【0052】
記録ビット制御部383は、PWM指令部33から定速指令信号S8を受け取ったときに、特徴量の記録処理を開始し、周期測定部382から受け取った位置検出信号Shuの周期に基づいて記録部381に対する記録を制御する。具体的には、記録部381に対する記録の制御は、記録ビット制御部383が周期測定部382から記録周期ごとに位置検出信号Shuの周期を受け取って、前回の記録周期において受け取った位置検出信号Shuの周期と今回の記録周期において受け取った位置検出信号Shuの周期とを比較して、所定の条件を満たす場合に、記録部381のビット列に「1」を記録する。所定の条件については、後述する。記録ビット制御部383は、記録周期ごとに、記録部381のビット列の先頭ビットから順次「0」または「1」を記録する。
【0053】
記録ビット制御部383は、推定処理部39における1回の推定処理(所定の推定処理周期)ごとに、記録部381に記録されたビット列を推定処理部39に渡す。記録ビット制御部383は、新たに記録部381における記録を開始する際に、記録部381のビット列をすべて「0」にリセットすることができる。
【0054】
ここで、記録ビット制御部383は、上述したように、前回の記録周期において受け取った位置検出信号Shuの周期と今回の記録周期において受け取った位置検出信号Shuの周期とを比較して、所定の条件を満たしているか否かを判定し、所定の条件を満たしている場合に、記録部381のビット列に「1」を記録する。この所定の条件は、比較の結果、モータ5が減速していると判定するか、モータ5が加速していると判定するかのうちのいずれか一方である。モータ5が減速していると判定することとモータ5が加速していると判定することとの両方を所定の条件としないのは、いずれか一方のみを条件として記録するのみでモータの回転数のふらつき状態を表すには十分であるからである。特に速度フィードバックを行う場合は、ファンシステムが正常に機能していれば、外乱により一時的に速度が変化して一時的にモータが加速または減速しても連続的に加速または連続的に減速することはないと考えられる。
【0055】
記録ビット制御部383は、前回の記録周期において受け取った位置検出信号Shuの周期(前回の周期)と今回の記録周期において受け取った位置検出信号Shuの周期(今回の周期)とを比較して、前回の周期が今回の周期よりも短い場合に、モータ5が減速していると判定でき、前回の周期が今回の周期よりも長い場合に、モータ5が加速していると判定できる。前回の周期と今回の周期は、一方の周期の値を100%以上にして比較してもよい。一方の周期の値を100%以上にして比較することによって、誤差を許容できる。
【0056】
図3は、位置検出信号Shuの波形と、各記録周期において、記録ビット制御部383によって記録部381に記録される記録パターンの例を示す図である。
【0057】
図3において、(a)は、モータ5に加減速がない場合に、記録部381に記録されるビット列を示し、(b)は、モータ5が不連続に減速している場合に、記録部381に記録されるビット列を示し、(c)は、モータ5が連続して減速している場合に、記録部381に記録されるビット列を示している。この例では、記録ビット制御部383は、モータ5の回転状態が減速していると判断できる場合に記録部381に「1」を記録している。記録ビット制御部383は、モータ5の回転状態が減速していると判断できない場合は、記録部381に「0」を記録している。
【0058】
図3(a)に示すように、モータ5の回転状態に加減速がない場合は、位置検出信号Shuの波形は一定した周期となっているので、周期測定部382で測定される位置検出信号Shuの周期は一定である。したがって、記録部381のビット列には「1」が記録されず、ずっと「0」となっている。
【0059】
図3(b)に示すように、モータ5が不連続で減速する場合は、位置検出信号Shuの波形は長短不連続になっているので、周期測定部382で測定される位置検出信号Shuの周期は増加したり、減少したりしている。したがって、位置検出信号Shuの周期が増加するタイミングで、記録部381のビット列に「1」が記録され、位置検出信号Shuの周期が増加していないタイミングでは、「0」が記録されている。
【0060】
図3(c)に示すように、モータ5が連続して減速している場合は、位置検出信号Shuの波形は連続して長くなっているので、周期測定部382で測定される位置検出信号Shuの周期は順次増加する。したがって、記録部381のビット列には「1」が連続して記録されている。
【0061】
このように、記録ビット制御部383では、前回の記録周期において受け取った位置検出信号Shuの周期と今回の記録周期において受け取った位置検出信号Shuの周期とを比較して、減速した場合のみに記録部381に「1」を記録することとしても、十分にモータの回転数のふらつきを表すことができる。
【0062】
さらに、記録ビット制御部383は、記録部381のビット列の先頭のビットには必ず「1」を記録することとしてもよい。このようにすることにより、記録済のビット列を短くすることができるので、処理データを削減できる。
【0063】
図4および図5は、従来の回転数データの記録手法について説明する図である。
【0064】
図4は低速回転時(60Hz)において、回転数データを記録する手法を示し、図5は高速回転時(600Hz)において、回転数データを記録する手法を示している。この例では、4極モータの場合に、推定処理部39における1回の推定処理に要する時間を250msとしている。
【0065】
図4に示すように、例えば60Hzのような低速回転時(60Hz×60÷2=1800rpm)は、1周期が16.66msなので、推定処理部39の1回の推定処理に要する時間250msの間に、約15パルス分(250ms/16.66ms=15パルス)の位置検出信号が出力される。この位置検出信号の周期である16.66msを0.5μsのカウンタで記録する場合、33320カウントとなる。33320カウントは16ビット(2の16乗=65536)のカウンタがあれば記録できるので、1パルスの位置検出信号を記録するためには2バイト(=8ビット×2)の記憶容量が必要になる。したがって、従来の手法では、1パルス(1周期)ごとにその周期時間を記録するので、60Hzの場合、1回の推定処理に対して30バイト(=2バイト×15パルス)の記憶容量が必要になる。
【0066】
図5に示すように、例えば600Hzのような高速回転時(600Hz×60÷2=18000rpm)は、1周期が1.66msなので、推定処理部39の1回の推定処理に要する時間250msの間に、約150パルス分(250ms/1.66ms=150パルス)の位置検出信号が出力される。この位置検出信号の周期である1.66msを0.5μsのカウンタで記録する場合、3320カウントとなる。3320カウントは12ビット(2の12乗=4096)のカウンタで十分であるが、低速(1800rpm)の場合と整合をとると、1パルスの位置検出信号を記録するためには2バイト(=8ビット×2)の記憶容量が必要になる。したがって、従来の手法では、1パルス(1周期)ごとにその周期時間を記録するので、600Hzの場合、1回の推定処理に対して300バイト(=2バイト×150パルス)の記憶容量が必要になる。
【0067】
このように、モータの極数が4極のときに18000rpmまでの高速回転を記録可能とするためには、300バイトの記憶容量が必要になることが判る。従来の手法では、モータの極数と回転数に応じて、回転数に関するデータを記録するために必要となる容量は異なる。
【0068】
従来の手法に対して、本実施の形態のモータ駆動制御装置1では、図3に示すように、所定の条件を満たすときのみに、ビット列に「1」を記録する。本実施の形態の構成では、4極モータの場合、4バイト(=32ビット)のビット列で少なくとも16回転分の記録ができる。1回の推定処理に要する時間250msの間に150回転ほどの高速回転(18000rpm)した場合でも、このように、本実施の形態の構成で回転数データを記録するのに必要とする記憶容量は、40バイト(=320ビット)もあれば十分であり、従来の手法に比べて明らかに小さい。したがって、本実施の形態のモータ駆動制御装置1によれば、モータの回転数のふらつきを把握できるにもかかわらず、大幅に、記憶容量を削減することができることが判る。
【0069】
推定処理部39は、モータ駆動制御装置の特徴量記録部38から取得したモータの回転数のふらつき状態を示す値である特徴量に基づいて、ファンシステム100に異常が発生しているか否かについて推定する。推定処理部39は、特徴量記録部38から取得した特徴量に基づいて、機械学習により生成された学習モデル(機械学習済みのAIアルゴリズム)を用いた異常推定処理を実行する。かかる推定を実行するAIアルゴリズムは、例えば、ホテリング理論、K近傍法、単純ベイズ法などの公知のAIアルゴリズムを用いることができる。推定処理部39は、特徴量記録部38から取得した他の特徴量に基づいて異常推定処理をしてもよいし、その他の推定処理を実行してもよい。推定処理部39は、ファンシステム100の推定結果を含む調整信号S9をPWM指令部33に渡す。
【0070】
推定処理部39は、例えば、異常推定処理において、記録部381に記録されたビット列を取得し、ビット列に含まれる「1」の数がビット列全体に対して所定割合以上である場合に、モータの回転がふらついていることを推定することができる。推定処理部39は、例えば、モータの回転がふらついている場合に、ファンシステム100に異常が発生したことを推定することができる。
【0071】
図1に戻って、モータ駆動制御装置1では、PWM指令部33は、推定処理部39から出力される調整信号S9を受け取ると、その推定結果に応じて生成するPWM設定指示信号S3を調整する。例えば、PWM指令部33は、異常推定処理の結果として、スコアを受け取り、受け取ったスコアが閾値を超えている場合に、ファンシステム100の異常であると判定し、モータ駆動制御装置1におけるモータの駆動を停止させるためのPWM設定指示信号S3を生成して出力する。すなわち、PWM指令部33は、受信した異常推定処理の推定結果を含む調整信号S9が、ファンシステム100の異常が推定される場合に、モータ5の駆動を停止させるためのPWM設定指示信号S3を生成する。モータ5の駆動を停止させるためのPWM設定指示信号S3は、駆動制御信号Sdにおける駆動量を「0」とする信号であってもよいし、駆動制御信号Sdの生成を中止させるための信号であってもよいし、その他、PWM設定指示信号S3の生成を中止してもよい。
【0072】
PWM信号生成部34は、このようにして異常推定処理の結果に応じて調整したPWM設定指示信号S3に基づいて、モータ駆動部2に異常推定処理の結果に応じた駆動をさせるためのPWM信号S4を生成する。PWM信号生成部34から出力されたPWM信号S4は、駆動制御信号Sdとして制御回路部3からモータ駆動部2に出力される。これにより、モータ駆動部2からモータ5に駆動信号が出力され、異常推定処理の結果に応じてモータ5が駆動される。
【0073】
図6は、本実施の形態のモータ駆動制御装置の特徴量の記録処理の動作の一例を示すフローチャートである。
【0074】
特徴量記録部38において、記録ビット制御部383は、PWM指令部33から、定速指令信号S8を受け取ったとき、または所定の推定処理周期が経過したときに、図6の処理を開始する。すなわち、まず、記録ビット制御部383は、記録部381のビット列の記録ビットを「0」にクリアする(ステップS101)。
【0075】
周期測定部382は、位置検出信号Shuが入力されると、1周期の時間である周期時間を測定する(ステップS102)。周期測定部382は、測定した周期時間を記録ビット制御部383に渡す。
【0076】
記録ビット制御部383は、周期測定部382から受け取った周期時間を前回の周期時間として更新する(ステップS103)。
【0077】
周期測定部382は、次のパルスの位置検出信号Shuが入力されると、1周期の時間である周期時間をさらに測定する(ステップS104)。周期測定部382は、さらに測定した周期時間を記録ビット制御部383に渡す。
【0078】
記録ビット制御部383は、周期測定部382から受け取った周期時間を今回の周期時間として更新する(ステップS105)。
【0079】
記録ビット制御部383は、ステップS103で更新した前回の周期時間とステップS105で更新した今回の周期時間を比較する(ステップS106)。具体的には、記録ビット制御部383は、今回の周期時間の110パーセントの時間が前回の周期時間よりも大きいか否かを判定する。なお、今回の周期時間の110パーセントの時間を前回の周期時間と比較しているのは、上述したように、誤差の影響をキャンセルするためである。
【0080】
今回の周期時間の110パーセントの時間が前回の周期時間よりも大きい場合(ステップS106:YES)に、減速していると判定できるので、記録ビット制御部383は、記録開始済みのフラグを立て(ステップS107)る。これにより、図6の処理が開始されてから、ステップ106がYESとなるまでビット列の記録ビットにデータが入力されないようにすることができる。すなわち、記録ビット制御部383は、記録部381のビット列の先頭のビットには必ず「1」を記録して、換言すると、所定の条件を満たすまで(減速していると判定されるまで)ビット列の記録ビットにデータが入力されないようにして記録済のビット列を短くすることができる。続いて、記録ビット制御部383は、記録部381のビット列の記録ビットに「1」を記録する(ステップS108)。記録ビット制御部383は、今回の周期時間の110パーセントの時間が前回の周期時間よりも大きい場合に、減速していると判定することができる。すなわち、この例では、減速している場合に、所定の条件を満たすと判定して、ビット列に「1」を記録する。
【0081】
記録ビット制御部383は、ステップS108において「1」を記録した後、記録部381のビット列における次のビットを制御対象の記録ビットとし(ステップS111)、周期時間を更新する(ステップS112)。ステップS112における周期時間の更新は、今回の周期時間に記録されていた値で前回の周期時間に記録されていた値を更新する処理である。
【0082】
記録ビット制御部383は、さらに、32ビット記録済みであるか否かと一定時間が経過したか否かとを判定する(ステップS113)。記録ビット制御部383は、32ビット記録済みではなく、一定時間が経過していないと判定すると(ステップS113:NO)、ステップS104の処理に戻る。
【0083】
今回の周期時間の110パーセントの時間が前回の周期時間よりも大きくない場合(ステップS106:NO)に、減速しているとは判定できないので、記録ビット制御部383は、記録開始済みのフラグが立っているかを確認して(ステップS109)、記録開始済みのフラグが立っている(記録開始済である)場合(ステップS109:YES)に、記録部381のビット列の記録ビットに「0」を記録する(ステップS110)。一方、記録ビット制御部383は、記録開始済みのフラグが立っていない(記録開始済でない)場合(ステップS109:NO)に、ステップS112の処理に移行する。
【0084】
記録ビット制御部383は、ステップS113において、32ビット記録済みであるか、一定時間が経過していると判定すると(ステップS113:YES)、記録処理を終了する。
【0085】
記録ビット制御部383は、記録部381に記録したビット列を適宜のタイミングで、推定処理部39に渡す。
【0086】
このように、本実施の形態のモータ駆動制御装置の特徴量記録部38においては、モータの回転数データをそのまま記憶せず、回転数データの変動によって特定されるモータの回転数のふらつき状態を記録する。さらに、推定処理部39は、モータの回転数のふらつき状態に基づいてファンモータの異常推定処理を実行する。このような構成により、本実施の形態のモータ駆動制御装置は、回転数に関するデータを記憶するための記憶領域は従来よりも少ない記憶容量であるにもかかわらず、回転数に関するデータに基づいてファンモータの異常推定処理を実行することができる。
【0087】
《実施形態の拡張》
【0088】
モータ駆動制御装置やモータ駆動制御装置を搭載したファンシステムの回路構成は、上述の実施の形態に示されるような回路構成に限定されない。本発明の目的に適合するように構成された、様々な回路構成が適用できる。上記の実施の形態の特徴点が部分的に組み合わされてファンシステムやそのモータ駆動制御装置が構成されていてもよい。上記の実施の形態において、いくつかの構成要素が設けられていなくてもよく、あるいは、いくつかの構成要素が他の態様で構成されていてもよい。
【0089】
ファンシステムは、複数のファンモータを有するものであってもよい。モータ駆動制御装置を適用したファンシステムは、各ファンモータに対応したモータ駆動制御装置を備えたものを用いることができる。その場合、モータ駆動制御装置に、通信部を設けて、互いに通信可能な構成とすることもできる。
【0090】
推定処理部39において実行されるアルゴリズムは、異常推定処理以外にも、他の推定処理のアルゴリズムであってもよい。また、推定処理を実行するためのアルゴリズムは、機械学習済みのAIアルゴリズムに限られず、他の異常推定アルゴリズムであってもよい。
【0091】
本実施の形態のモータ駆動制御装置により駆動されるモータは、3相のブラシレスモータに限られず、他の相数のモータや、他の種類のモータであってもよい。ホール素子の数は、1個に限られない。本実施の形態のファンシステム100では、1つのホール素子6が設けられていたので、1つのホール信号Shuが出力されている場合を例に挙げて説明したが、モータ5の周囲に、複数のホール素子を等間隔に設けることによって、複数のホール信号を出力させることができる。また、ホール素子とは異なる検出器を用いて、モータの位置検出信号が得られるようにしてもよい。例えば、ホールIC等を用いてもよい。
【0092】
ホール素子やホールIC等の位置検出器が設けられていなくてもよい。位置検出器が設けられていない場合、ホール信号Shuに代えて、モータ5の回転状態に関する他の情報を位置検出信号として入力されるように構成されていてもよい。例えば、モータ5の回転子の回転に対応するFG信号として、回転子の側にある基板に設けたコイルパターンを用いて生成される信号(FG信号)が入力されるようにしてもよい。また、モータ5の各相(U、V、W相)に誘起する逆起電圧を検出する回転位置検出回路の検出結果に基づいてモータ5の回転状態が検知されるように構成されていてもよい。エンコーダやレゾルバなどを設け、それによりモータ5の回転速度等の情報が検出されるようにしてもよい。
【0093】
上記の実施の形態では、記録ビット制御部383は、PWM指令部33から定速指令信号S8を受け取ったときに、特徴量の記録処理を開始する場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。記録ビット制御部383は、起動してから所定時間以上経過したときに、回転数が一定となったことを推定して、特徴量の記録処理を開始することとしてもよい。
【0094】
上述のフローチャートなどは、動作を説明するための一例を示すものであって、これに限定されない。フローチャートの各図に示したステップは具体例であって、このフローに限定されるものではなく、例えば、各ステップの順番が変更されたり各ステップ間に他の処理が挿入されたりしてもよいし、処理を並列化してもよい。
【0095】
上述の実施の形態における処理の一部又は全部が、ソフトウエアによって行われるようにしても、ハードウエア回路を用いて行われるようにしてもよい。例えば、制御回路部は、マイコンに限定されない。制御回路部の内部の構成は、少なくとも一部がソフトウエアで処理されるようにしてもよい。
【0096】
上記実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0097】
100 ファンシステム、1 モータ駆動制御装置、2 モータ駆動部(モータ駆動回路の一例)、3 制御回路部(制御回路の一例)、4 インペラ、5 モータ、6 ホール素子(位置検出器)、31 回転数算出部、32 速度指令解析部、33 PWM指令部、34 PWM信号生成部、38 特徴量記録部、39 推定処理部、381 記録部、382 周期測定部、383 記録ビット制御部、800 制御装置、S 回転数信号、Sc 速度指令信号、S1 目標回転数信号、S2 実回転信号、S3 PWM設定指示信号、S4 PWM信号、S8 定速指令信号、S9 調整信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6