(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088969
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】誘導加熱装置
(51)【国際特許分類】
H05B 6/10 20060101AFI20240626BHJP
C21D 9/32 20060101ALI20240626BHJP
C21D 1/42 20060101ALI20240626BHJP
C21D 9/40 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
H05B6/10 331
C21D9/32 B
C21D1/42 L
C21D9/40 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204038
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000167200
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトサーモシステム
(74)【代理人】
【識別番号】100128912
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 徹
(72)【発明者】
【氏名】中田 綾香
(72)【発明者】
【氏名】幸田 尚久
(72)【発明者】
【氏名】山本 亮介
【テーマコード(参考)】
3K059
4K042
【Fターム(参考)】
3K059AA09
3K059AB25
3K059AD03
3K059CD80
4K042AA18
4K042AA22
4K042BA13
4K042DA01
4K042DA03
4K042DA06
4K042DB01
4K042DC04
4K042DF01
4K042EA01
4K042EA02
(57)【要約】
【課題】加熱室の保護と被処理物の加熱効率の低下の抑制とを両立することができる、誘導加熱装置を提供する。
【解決手段】誘導加熱装置1は、対向して配置された被処理物100を誘導加熱するための誘導加熱コイル12と、誘導加熱によって加熱される導電体で構成された壁を有して誘導加熱コイル12および被処理物100を取り囲む加熱室11と、を備える。誘導加熱装置1は、誘導加熱コイル12と加熱室11の壁である天井壁26との間に配置され、誘導加熱コイル12からの磁束を吸収する磁束吸収部材13と、天井壁26と被処理物100との間に配置され、誘導加熱コイル12によって誘導加熱されて発熱した被処理物100から天井壁26側へ放熱される輻射熱を被処理物100側へ反射する反射部材14と、を更に備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向して配置された被処理物を誘導加熱するための誘導加熱コイルと、誘導加熱によって加熱される導電体で構成された壁を有して前記誘導加熱コイルおよび前記被処理物を取り囲む加熱室と、を備えた誘導加熱装置であって、
前記誘導加熱コイルと前記壁との間に配置され、前記誘導加熱コイルからの磁束を吸収する磁束吸収部材と、
前記壁と前記被処理物との間に配置され、前記誘導加熱コイルによって誘導加熱されて発熱した前記被処理物から前記壁側へ放熱される輻射熱を前記被処理物側へ反射する反射部材と、
を更に備えている、誘導加熱装置。
【請求項2】
請求項1に記載の誘導加熱装置であって、
前記加熱室は、前記壁として設けられて、前記被処理物と前記誘導加熱コイルとが対向する方向と垂直な方向で前記被処理物および前記誘導加熱コイルと対向する第1の壁を有し、
前記磁束吸収部材は、前記誘導加熱コイルと前記第1の壁との間に配置され、
前記反射部材は、前記第1の壁と前記被処理物との間に配置される、誘導加熱装置。
【請求項3】
請求項1に記載の誘導加熱装置であって、
前記誘導加熱コイルは、螺旋状であり、
前記被処理物は、前記誘導加熱コイルの内側に配置され、
前記加熱室は、前記壁として設けられて、前記被処理物が内側に配置される前記誘導加熱コイルの径方向の外側で前記誘導加熱コイルと対向する第2の壁を有し、
前記磁束吸収部材は、前記誘導加熱コイルと前記第2の壁との間に配置され、
前記反射部材は、前記第2の壁と前記被処理物との間に配置される、誘導加熱装置。
【請求項4】
請求項1に記載の誘導加熱装置であって、
前記加熱室は、前記壁として設けられて、前記被処理物と前記誘導加熱コイルとが対向する方向と平行な方向で前記被処理物に対して前記誘導加熱コイル側と反対側で対向する第3の壁を有し、
前記磁束吸収部材は、前記被処理物と前記第3の壁との間に配置され、
前記反射部材は、前記第3の壁と前記被処理物との間に配置される、誘導加熱装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の誘導加熱装置であって、
前記誘導加熱コイルは、螺旋状であり、
前記被処理物は、前記誘導加熱コイルの内側に配置され、
前記磁束吸収部材は、前記誘導加熱コイルに対して当該誘導加熱コイルが螺旋状に延びる軸方向の両端側の少なくとも一方に設けられ、螺旋状の前記誘導加熱コイルの周方向に沿った形状に設けられている、誘導加熱装置。
【請求項6】
請求項5に記載の誘導加熱装置であって、
前記反射部材は、前記磁束吸収部材の径方向の内側を覆うように設けられている、誘導加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物を誘導加熱するための誘導加熱コイルを備えた誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被処理物を誘導加熱するための誘導加熱コイルを備えた誘導加熱装置が知られている(例えば、特許文献1、2を参照)。特許文献1では、歯車3として設けられる被処理物を誘導加熱するための誘導加熱コイル4を備えた誘導加熱装置が開示されている。特許文献2では、角柱部材のワーク2として設けられる被処理物を誘導加熱するための誘導加熱コイル3を備えた誘導加熱装置が開示されている。
【0003】
特許文献1の誘導加熱装置では、誘導加熱される歯車3のエッジ部5が部分的に過加熱されるエッジ効果の影響を抑制するために歯車3の周辺に電磁波吸収部材6が配置されている。特許文献2の誘導加熱装置では、角柱部材のワーク2においてエッジ効果が生じることを抑制するために、ワーク2におけるエッジ効果の影響を受ける部分の近傍に磁気遮蔽部材4が配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-295925号公報
【特許文献2】実用新案登録第3168403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
誘導加熱コイルによる被処理物の誘導加熱は、加熱室内で行われる。このため、誘導加熱装置においては、誘導加熱コイルを取り囲むように加熱室が設けられる。誘導加熱装置の全体の大きさは、加熱室の大きさによって大きく影響を受けるため、装置全体の小型化を図るためには、加熱室を小型化することが考えられる。
【0006】
加熱室の小型化を図るためには、加熱室を構成する壁を誘導加熱コイルに接近させて配置することがある。一方、加熱室は、耐熱性が要求されるとともに構造上の強度の確保も必要となる。このため、加熱室の壁を構成する素材として、鉄鋼材料等のような金属材料が全体的に或いは部分的に用いられる。金属材料は、誘導加熱によって加熱される導電体であるため、加熱室の壁を誘導加熱コイルに接近させた構成の場合、加熱室の壁が誘導加熱によって繰り返し加熱されることになり、加熱室の耐久性に影響を与えることになる。
【0007】
加熱室の壁を保護し、加熱室の耐久性への影響を抑制するために、誘導加熱コイルからの磁束を吸収する部材を配置することが考えられる。しかし、誘導加熱コイルからの磁束を吸収する部材を配置して加熱室の壁を保護すると、磁束吸収部材で磁束が吸収されるため、誘導加熱による被処理物の加熱効率が低下することになる。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、加熱室の保護と被処理物の加熱効率の低下の抑制とを両立することができる、誘導加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記課題を解決するための本発明のある局面に係わる誘導加熱装置は、対向して配置された被処理物を誘導加熱するための誘導加熱コイルと、誘導加熱によって加熱される導電体で構成された壁を有して前記誘導加熱コイルおよび前記被処理物を取り囲む加熱室と、を備えた誘導加熱装置であって、前記誘導加熱コイルと前記壁との間に配置され、前記誘導加熱コイルからの磁束を吸収する磁束吸収部材と、前記壁と前記被処理物との間に配置され、前記誘導加熱コイルによって誘導加熱されて発熱した前記被処理物から前記壁側へ放熱される輻射熱を前記被処理物側へ反射する反射部材と、を更に備えている。
【0010】
(2)前記加熱室は、前記壁として設けられて、前記被処理物と前記誘導加熱コイルとが対向する方向と垂直な方向で前記被処理物および前記誘導加熱コイルと対向する第1の壁を有し、前記磁束吸収部材は、前記誘導加熱コイルと前記第1の壁との間に配置され、前記反射部材は、前記第1の壁と前記被処理物との間に配置される。
【0011】
(3)前記誘導加熱コイルは、螺旋状であり、前記被処理物は、前記誘導加熱コイルの内側に配置され、前記加熱室は、前記壁として設けられて、前記被処理物が内側に配置される前記誘導加熱コイルの径方向の外側で前記誘導加熱コイルと対向する第2の壁を有し、前記磁束吸収部材は、前記誘導加熱コイルと前記第2の壁との間に配置され、前記反射部材は、前記第2の壁と前記被処理物との間に配置される。
【0012】
(4)前記加熱室は、前記壁として設けられて、前記被処理物と前記誘導加熱コイルとが対向する方向と平行な方向で前記被処理物に対して前記誘導加熱コイル側と反対側で対向する第3の壁を有し、前記磁束吸収部材は、前記被処理物と前記第3の壁との間に配置され、前記反射部材は、前記第3の壁と前記被処理物との間に配置される。
【0013】
(5)前記誘導加熱コイルは、螺旋状であり、前記被処理物は、前記誘導加熱コイルの内側に配置され、前記磁束吸収部材は、前記誘導加熱コイルに対して当該誘導加熱コイルが螺旋状に延びる軸方向の両端側の少なくとも一方に設けられ、螺旋状の前記誘導加熱コイルの周方向に沿った形状に設けられている。
【0014】
(6)前記反射部材は、前記磁束吸収部材の径方向の内側を覆うように設けられている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、加熱室の保護と被処理物の加熱効率の低下の抑制とを両立することができる、誘導加熱装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態に係る誘導加熱装置を備えた熱処理システム全体を示す図である。
【
図3】磁束吸収部材および反射部材の斜視図である。
【
図4】加熱室内における磁束の分布状態を解析した図である。
【
図5】第1実施形態における磁束吸収部材の配置に関する変形例である。
【
図6】第1実施形態における反射部材の配置に関する変形例である。
【
図7】第2実施形態に係る誘導加熱装置を示す図である。
【
図9】
図8に示す誘導加熱装置を
図8(A)のC-C線矢視位置から見た状態で示す図である。
【
図10】第2実施形態における磁束吸収部材および反射部材の形状に関する変形例である。
【
図11】第3実施形態に係る誘導加熱装置を示す図である。
【
図12】
図11に示す誘導加熱装置を
図11(A)のE-E線矢視位置から見た状態で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、被処理物を誘導加熱するための誘導加熱コイルを備えた誘導加熱装置である。以下の説明では、本発明の実施形態として、第1乃至第3実施形態を例にとって説明する。
【0018】
なお、以下の説明では、後述の
図1、
図2、
図5乃至
図12において両端矢印X1、両端矢印X2、および両端矢印X3で示すように、熱処理システムおよび誘導加熱装置における上下方向X1、左右方向X2、および前後方向X3を定義する。上下方向X1は鉛直方向を基準として定義される。左右方向X2は、上下方向X1に垂直な方向である水平方向に延びる方向であり、例えば、熱処理システムおよび誘導加熱装置において被処理物が搬送される方向として定義される。前後方向X3は、上下方向X1および左右方向X2の両方に垂直な方向として定義される。
【0019】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る誘導加熱装置1を備えた熱処理システム10を示す図である。
【0020】
(熱処理システム)
熱処理システム10において熱処理が施される被処理物100は、機械部品等の構造部材の素材であり、例えば、歯車或いは軸受けなどの素材である。また、被処理物100は、誘導加熱の作用を受ける金属製の部材であり、例えば、鉄鋼材料で構成された部材である。
【0021】
熱処理システム10は、被処理物100に対して加熱処理を行う誘導加熱装置1と、誘導加熱装置1にて加熱処理が施された被処理物100に対して冷却処理を行う冷却装置50とを備えて構成されている。
【0022】
搬送トレイ101に載せられた被処理物100は、まず、誘導加熱装置1に搬送される。そして、誘導加熱装置1においては、搬送された被処理物100に対して、誘導加熱による加熱処理が施される。誘導加熱装置1での加熱処理が終了すると、次いで、被処理物100は、搬送トレイ101に載せられた状態で冷却装置50へと搬送される。冷却装置50においては、搬送された被処理物100に対して、例えば、冷却処理としての焼入れ処理が施される。
【0023】
誘導加熱装置1は、被処理物100を誘導加熱するための誘導加熱コイル12、誘導加熱コイル12および被処理物100を取り囲む加熱室11、などを備えて構成されている。加熱室11に搬入された被処理物100は、加熱室11内で誘導加熱コイル12に対向して配置される位置まで持ち上げられる。そして、誘導加熱コイル12に対向して配置された被処理物100に対して、誘導加熱コイル12による誘導加熱が施され、被処理物100の加熱処理が行われる。
【0024】
誘導加熱装置1での加熱処理が終了すると、被処理物100は、搬送トレイ101に載せられて冷却装置50へと搬送される。
【0025】
(誘導加熱装置)
次に、本発明の第1実施形態に係る誘導加熱装置1について詳細に説明する。
図2は、誘導加熱装置1を模式的に示す図であって、
図2(A)は、前方から見た誘導加熱装置1について一部断面を含む状態で示す図であり、
図2(B)は、
図2(A)のA-A線矢視位置から見た状態を示す図である。
図1および
図2を参照して、誘導加熱装置1は、被処理物100に対して誘導加熱による加熱処理を施すための装置として設けられている。誘導加熱装置1において実施される加熱処理としては、例えば、浸炭処理、或いは焼鈍処理などを挙げることができる。本実施形態では、誘導加熱装置1においては、被処理物100に対して浸炭処理としての加熱処理が行われる。
【0026】
誘導加熱装置1は、対向して配置された被処理物100を誘導加熱するための誘導加熱コイル12、誘導加熱コイル12および被処理物100を取り囲む加熱室11を備えている。さらに、誘導加熱装置1は、磁束吸収部材13および反射部材14を備えている。また、誘導加熱装置1には、コントローラ15、搬送機構16、上下駆動部17、炭化水素系ガス供給系統18、不活性ガス供給系統19、ガス排出系統20、温度検出部21、等も備えられている。
【0027】
(加熱室)
図1および
図2を参照して、加熱室11は、被処理物100が内部に配置されて被処理物100の加熱処理が行われる処理室として構成されている。加熱室11の内部には、被処理物100を誘導加熱する誘導加熱コイル12が配置され、それに対向して被処理物100を配置する。即ち、加熱室11は、誘導加熱コイル12と被処理物100とを取り囲むように設けられている。
【0028】
加熱室11は、略直方体状の処理室として設けられており、前方壁22、後方壁23、右側壁24、左側壁25、天井壁26、および底壁27を有している。前方壁22および後方壁23は、前後方向X1に並んで互いに平行に配置され、上下方向X1および左右方向X2に亘って広がる壁として設けられている。右側壁24および左側壁25は、左右方向X2に並んで互いに平行に配置され、上下方向X1および前後方向X3に亘って広がる壁として設けられている。天井壁26および底壁27は、上下方向X1に並んで互いに平行に配置され、左右方向X2および前後方向X3に亘って広がる壁として設けられている。
【0029】
加熱室11は、誘導加熱によって加熱される導電体で構成された壁を有している。加熱室11の壁を構成する導電体としては、鉄系金属材料と、非鉄金属材料とが挙げられる。導電体としての鉄系金属材料としては、鉄、炭素鋼、およびステンレス鋼等の合金鋼、などが挙げられる。非鉄金属材料としては、アルミニウム、銅、などが挙げられる。本実施形態では、導電体で構成された壁(前方壁22、後方壁23、右側壁24、左側壁25、天井壁26、底壁27)は、鉄鋼材料で構成されている。
【0030】
なお、本実施形態では、加熱室11を構成する壁のいずれもが導電体で構成された形態を例示しているが、加熱室11を構成する壁の少なくともいずれかが導電体で構成されていればよい。即ち、前方壁22、後方壁23、右側壁24、左側壁25、天井壁26、および底壁27のいずれもが導電体で構成された形態でなくてもよい。例えば、前方壁22、後方壁23、右側壁24、左側壁25、天井壁26、および底壁27のうちのいずれかの壁が導電体以外の材料で構成されていてもよく、例えば、セラミック材料あるいはガラス材料で構成されていてもよい。
【0031】
また、加熱室11を構成するいずれかの壁において、全部が導電体で構成された形態に限らず、壁の一部において導電体以外の材料が用いられている形態が実施されてもよい。例えば、加熱室11を構成するいずれかの壁において、導電体で構成された部分に対して、セラミック材料あるいはガラス材料などの導電体以外の材料で構成された部分が組み込まれている形態が実施されてもよい。
【0032】
また、加熱室11には、被処理物100が搬送トレイ101に載せられた状態で搬入される搬入口24aと、加熱処理が終了した被処理物100が搬送トレイ101に載せられた状態で搬出される搬出口25aとが設けられている。搬入口24aは、右側壁24に形成された開口として設けられている。搬入口24aは、扉24bによって開閉される。搬出口25aは、左側壁25に形成された開口として設けられている。搬出口25aは、扉25bによって開閉される。また、加熱室11には、右側壁24において、窓28が設けられている。窓28は、サファイアガラス等の赤外線透過性を有する材料で形成されており、加熱室11の外部に配置された温度検出部21が加熱室11内で加熱される被処理物100の温度を赤外線検知によって非接触で検出できるように構成されている。
【0033】
(誘導加熱コイル)
図1および
図2を参照して、誘導加熱コイル12は、それと対向して配置された被処理物100を誘導加熱するための金属製のコイル部材である。
【0034】
誘導加熱コイル12は、螺旋状のコイルとして設けられている。さらに、誘導加熱コイル12が螺旋状に延びる軸方向は、上下方向Xである。誘導加熱コイル12による被処理物100に対する誘導加熱が行われる際には、被処理物100は、上下駆動部17によって上下方向X1に駆動されて、誘導加熱コイル12の内側に配置される。即ち、被処理物100の誘導加熱の際には、被処理物100は、誘導加熱コイル12における螺旋状の部分の内側の領域に配置される。被処理物100が誘導加熱コイル12の内側に配置された状態では、被処理物100は、誘導加熱コイル12に対して誘導加熱コイル12の内周において対向して配置される。さらに、被処理物100は、誘導加熱コイル12の内周の全周に亘って対向した状態で、誘導加熱コイル12に対向して配置される。
【0035】
被処理物100が誘導加熱コイル12の内側で誘導加熱コイル12の内周と対向して配置されると、誘導加熱コイル12に対して電源29から高周波電流が供給されることで、被処理物100に対して誘導加熱による加熱処理が施される。なお、電源29は、コントローラ15と電気的に接続されており、誘導加熱コイル12への供給電力は、コントローラ15によって制御されるように構成されている。
【0036】
(ガス系統)
誘導加熱装置1は、加熱処理としての浸炭処理を行う装置として構成されており、炭化水素系ガス供給系統18、不活性ガス供給系統19、ガス排出系統20が設けられている。炭化水素系ガス供給系統18は、炭化水素系ガスの供給源(図示省略)と加熱室11とを接続し、加熱室11に対して炭化水素系ガスを供給する系統として設けられている。
【0037】
(磁束吸収部材)
図3は、誘導加熱装置1の磁束吸収部材13および反射部材14の斜視図であって、
図3(A)は、磁束吸収部材13および反射部材14が組み合わされた状態を示す図であり、
図3(B)は、磁束吸収部材13および反射部材14が分解された状態を示す図である。
図1乃至
図3を参照して、磁束吸収部材13は、加熱室11内において、導電体で構成された加熱室11の壁である天井壁26と誘導加熱コイル12との間に配置され、誘導加熱コイル12からの磁束を吸収する部材として設けられている。
【0038】
磁束吸収部材13は、誘導加熱コイル12による誘導加熱によって天井壁26が加熱されることから天井壁26を保護するために、磁束を吸収する材料で形成されており、電流が流れる導電体である金属材料で形成されている。磁束吸収部材13は、例えば、銅で形成されるが、銅以外の金属材料で形成されてもよく、アルミニウム或いは鉄鋼材料で形成されてもよい。なお、磁束吸収部材13が、被処理物100と同水準で磁束を吸収する材料で構成されている場合、磁束吸収部材13の大きさ或いは誘導加熱コイル12との位置関係によっては、磁束吸収部材13が被処理物100と同程度に加熱されて磁束吸収部材13の損傷につながる虞がある。よって、磁束吸収部材13は、保護対象である天井壁26への磁束の影響を抑制できる範囲で磁束を吸収しつつ、被処理物100よりも磁束を吸収し難い材料を用いることが好ましい。例えば、被処理物100が鉄鋼材料であれば、磁束吸収部材13は、銅で形成されていてもよい。
【0039】
磁束吸収部材13は、天井壁26と誘導加熱コイル12との間に配置されており、加熱室11内において、誘導加熱コイル12の上方で、誘導加熱コイル12と対向して配置されている。また、磁束吸収部材13は、誘導加熱コイル12の内側で誘導加熱コイル12と水平方向で対向して配置される被処理物100に対して、水平方向と垂直な方向である上下方向X1において対向している。なお、天井壁26は、第1の壁を構成している。天井壁26は、上下方向X1で被処理物100および誘導加熱コイル12と対向している。そして、磁束吸収部材13は、誘導加熱コイル12と本実施形態における第1の壁である天井壁26との間に配置されている。また、磁束吸収部材13は、誘導加熱コイル12の上端側に設けられ、誘導加熱コイル12の軸方向の両端側の一方に設けられている。なお、磁束吸収部材13は、誘導加熱コイル12の上側で誘導加熱コイルの端部に対して隙間を介して対向して配置されている。
【0040】
また、磁束吸収部材13は、外形が円形のリング状に形成されており、誘導加熱コイル12の周方向に沿った形状に設けられている。誘導加熱コイル12および磁束吸収部材13は、いずれも、誘導加熱コイル12の軸方向である上下方向X1から見た状態で円形のリング状となるように配置されている。そして、誘導加熱コイル12および磁束吸収部材13は、上下方向X1から見て周方向に亘って重なった状態で配置されている。
【0041】
また、磁束吸収部材13は、内部に冷却液が流動する通路を有する中空の矩形断面でリング状に延びる管状の部材である。磁束吸収部材13は、内部に冷却液を通過させることで、吸収した磁束によって加熱されることを抑制する。
【0042】
また、磁束吸収部材13には、冷却液通路30aおよび冷却液通路30bが接続している。冷却液通路30aは、冷却液を磁束吸収部材13に供給するためのポンプ31と接続されており、ポンプ31は、冷却液を熱交換によって冷却するための熱交換器32と通路34aを介して接続されている。また、冷却液通路30bは、磁束吸収部材13から排出された冷却液が貯留されるタンク33と接続されており、タンク33は、熱交換器32と通路34bを介して接続されている。ポンプ31が作動することで、タンク33内の冷却液が吸引されて熱交換器32を経てポンプ31に吸引される。冷却液は、熱交換器32を通過する際に冷却される。
【0043】
また、冷却液通路30aおよび冷却液通路30bは、電流が流れる金属材料で形成されており、磁束吸収部材13は、冷却液通路30aおよび冷却液通路30bとともに、電気的な閉回路を形成するように構成されている。このため、磁束吸収部材13は、閉回路を形成することで、電気が流れて誘導加熱コイル12からの磁束を吸収できるように構成されている。或いは、冷却液通路30aと冷却液通路30bとが、ポンプ31の金属材料部分と、金属製の通路34aと、熱交換器32の金属材料部分と、金属製の通路34bと、タンク33の金属材料部分とを通じて電気的に導通され、磁束吸収部材13と冷却液通路30aと冷却液通路30bとを含む電気的な閉回路が形成されていてもよい。
【0044】
(反射部材)
反射部材14は、加熱室11内において、導電体で構成された加熱室11の壁である天井壁26と、誘導加熱コイル12に対向して配置される被処理物100と、の間に配置されている。反射部材14は、誘導加熱コイル12と対向して配置される被処理物100と本実施形態における第1の壁である天井壁26との間に配置されている。そして、反射部材14は、誘導加熱コイル12によって誘導加熱されて発熱した被処理物100から天井壁26側へ放熱される輻射熱を被処理物100側へ反射する部材である。
【0045】
反射部材14は、少なくとも表面が反射率の高い材料で形成された薄い板状の部材として設けられており、例えば、金製の薄板、銀製の薄板、表面が研磨された状態のアルミニウム製の薄板、鏡、表面が滑らかな状態のセラミック製の板材、等として構成されている。また、反射部材14は、セラミック製の板状の基材あるいは耐熱性を有するカーボン製の板状の基材の表面に金がコーティングされた部材として構成されていてもよい。なお、表面の反射率が高く、耐熱性もあり、さらに、加熱室11内に充填されるガスによる化学的劣化に対する耐性がある材料で形成された反射部材14として、金製の薄板として構成された反射部材14、または、セラミック製あるいは耐熱カーボン製の基材の表面に金がコーティングされて構成された反射部材14を用いることが考えられる。
【0046】
また、反射部材14は、例えば、円板状の薄板として設けられており、本実施形態では、リング状の磁束吸収部材13に対して磁束吸収部材13の上側において取り付けられている。
図3を参照して、反射部材14は、複数の雄ネジ部材35によって磁束吸収部材13に取り付けられている。雄ネジ部材35は、例えば、セラミック製のネジ部材として設けられている。反射部材14には、雄ネジ材35が挿通される貫通孔36が設けられている。リング状の磁束吸収部材13には、磁束吸収部材13の径方向の内側に突出する複数の取付け部37がロウ付けで設けられている。各取付け部37には、雌ネジ溝が内周に形成された雌ネジ穴37aが設けられている。
【0047】
図3(B)を参照して、反射部材14が磁束吸収部材13に取り付けられる際には、円板状の反射部材14が磁束吸収部材13に重ねられる。反射部材14の貫通孔36と磁束吸収部材13の雌ネジ穴37aとの間には、セラミック材料等の耐熱性を有する絶縁性材料で形成されたワッシャ38が配置され、反射部材14と磁束吸収部材13とが、雄ネジ部材35で締結される。よって、磁束吸収部材13と反射部材14とは、電気的に絶縁された状態で結合される。このため、磁束吸収部材13が反射部材14に電気的に接続されず、磁束吸収部材13が電気的な閉回路を形成することができる。なお、反射部材14の全体がセラミック材料等の絶縁性材料で形成されている場合は、ワッシャ38を用いなくてもよい。
【0048】
なお、磁束吸収部材13に取付け部37を設けることなく、磁束吸収部材13におけるリング状の部分に雌ネジを設け、雄ネジ部材35で締結してもよい。
【0049】
また、締結する換わりに、反射部材14を磁束吸収部材13へかしめて取り付けてもよい。この場合、反射部材14には、径方向の外側に向かって突出するかしめ部が設けられ、かしめ部が折り曲げられて磁束吸収部材13の縁部分に対してかしめられるように構成される。また、反射部材14には、折り曲げられて磁束吸収部材13の縁部分にかしめられるかしめ部が形成されるため、反射部材14は折り曲げ可能な金属材料で形成される。なお、かしめ部が設けられる反射部材14が、金属材料で形成される場合は、反射部材14のかしめ部と磁束吸収部材13の縁部分との間には、絶縁性材料で形成されたシートが配置される。
【0050】
円板状の反射部材14が、リング状の磁束吸収部材13に対して上下方向X1において重ねられた状態で取り付けられる。これにより、反射部材14は、磁束吸収部材13の径方向の内側を覆うように設けられている。なお、反射部材14は、磁束吸収部材13の径方向の内側を隙間がある状態で覆うように設けられていてもよい。例えば、反射部材14が、磁束吸収部材13の径方向において磁束吸収部材13の内周側との間で隙間がある状態で、磁束吸収部材13の径方向の内側の領域を覆うように設けられていてもよい。隙間は、その他の設計事情により適切な量として構わない。
【0051】
(磁束吸収部材による磁束吸収作用の検証)
磁束吸収部材13が設けられていない比較例に係る誘導加熱装置と、磁束吸収部材13が設けられた誘導加熱装置とについて、誘導加熱コイル12によって被処理物100を誘導加熱する条件を同一の条件に設定し、加熱室11内の磁束の分布を解析した。
【0052】
なお、磁束吸収部材13が、誘導加熱コイル12に対して誘導加熱コイル12の軸方向である上下方向X1の両端側のいずれにも設けられる形態について、加熱室11内の磁束の分布を解析した。すなわち、誘導加熱コイル12に対して、誘導加熱コイル12の軸方向である上下方向X1における一方側の天井壁26側と他方側の底壁27側とのいずれにも磁束吸収部材13が設けられる形態について、加熱室11内の磁束の分布を解析した。なお、天井壁26または底壁27は、第1の壁に相当している。
【0053】
誘導加熱コイル12の軸方向に沿った断面では、誘導加熱コイル12の径方向の中心に対する両側の領域の磁束の分布は同一となる。
図4は、誘導加熱コイル12の径方向の中心に対する片側の領域の磁束の分布を示している。なお、被処理物100については、高さ方向の寸法が径方向の寸法に比して小さいリング状の部材であり、誘導加熱コイル12の径方向の中心に対する片側の領域において矩形の断面の物とした。
【0054】
図4は、誘導加熱装置の加熱室11内における磁束の分布状態を解析した結果を示す図であって、
図4(A)は、比較例に係る誘導加熱装置の加熱室11内の磁束の分布の解析結果を示す図であり、
図4(B)は、磁束吸収部材13を設けた誘導加熱装置の加熱室11内の磁束の分布の解析結果を示す図である。いずれにおいても、誘導加熱コイル12による被処理物100の誘導加熱の条件は同一とし、最大2500Aで1kHzの高周波電流を誘導加熱コイル12に通電した条件にて解析を行った。なお、
図4(B)に示す実施例では、磁束吸収部材13が銅製である条件にて解析を行った。
【0055】
また、
図4(A)および
図4(B)において、4段階の磁束密度(T1、T2、T3、T4)で示されている。磁束密度T1の領域は、磁束密度が0.01T(テスラ)未満であって最も磁束密度が小さい領域であり、薄くドットでハッチングされた領域として示されている。磁束密度T2の領域は、磁束密度T1よりも磁束密度が大きく、磁束密度が0.01T以上で0.05T未満の領域であり、濃くドットでハッチングされた領域として示されている。磁束密度T3の領域は、磁束密度T2よりも磁束密度が大きくて4段階の磁束密度の中で2番目に磁束密度が大きく、磁束密度が0.05T以上で0.08T未満の領域であり、斜線でハッチングされた領域として示されている。磁束密度T4の領域は、磁束密度T3よりも磁束密度が大きくて4段階の磁束密度の中で最も磁束密度が大きく、磁束密度が0.08T以上の領域であり、網掛けでハッチングされた領域として示されている。
【0056】
図4(A)に示すように、磁束吸収部材13が設けられていない比較例では、磁束密度T2の領域が、加熱室11内で大きく広がって分布しており、磁束密度T2の領域が加熱室11の天井壁26および底壁27にまで達して広がっている一方、磁束吸収部材13が設けられた場合では、磁束密度T2の領域が、加熱室11内で大きく広がって分布することが抑制されている。このように、誘導加熱コイル12と天井壁26および底壁27との間に配置された磁束吸収部材13によって、誘導加熱コイル12から加熱室11の天井壁26および底壁27へと向かう磁束が吸収されている。これにより、加熱室11の天井壁26および底壁27が誘導加熱コイル12によって加熱されることが抑制され、加熱室11の保護が図られることになる。
【0057】
(第1実施形態の作用効果)
以上説明したように、誘導加熱コイル12と加熱室11の壁としての天井壁26との間に配置された磁束吸収部材13によって、誘導加熱コイル12から加熱室11の天井壁26へと向かう磁束が吸収され、天井壁26が加熱されることが抑制される。これにより、加熱室11の天井壁26を誘導加熱コイル12に接近させて加熱室11の小型化を図った場合でも、加熱室11を保護することができる。更に、加熱室11の壁としての天井壁26と被処理物100との間に配置された反射部材14によって、誘導加熱されて発熱した被処理物100から放熱される輻射熱が被処理物100側へ反射される。このため、被処理物100の加熱効率が低下することが抑制される。よって、加熱時の電力消費を抑制することもできる。以上の通り、本実施形態によると、加熱室11の保護と被処理物100の加熱効率の低下の抑制とを両立することができる。
【0058】
また、第1実施形態によると、誘導加熱コイル12が螺旋状であるため、誘導加熱コイル12の両端側の一方である上側で誘導加熱コイル12の周方向に沿って磁束吸収部材13を設置することで、加熱室11の天井壁26側へと向かう磁束を吸収することができる。このため、誘導加熱コイル12の周方向に沿って磁束吸収部材13を設置すればよく、磁束吸収部材13を設計し易い。
【0059】
また、第1実施形態では、反射部材14は、磁束吸収部材13の径方向の内側を覆うように設けられている。このため、被処理物100からの輻射熱が加熱室11の天井壁26側へと最も漏れる領域である磁束吸収部材13の径方向の内側の領域が反射部材14で覆われる。なお、磁束吸収部材13の径方向の内側の領域を言い換えると、被処理物100からの輻射熱を遮る物が何もない領域である。このため、当該領域を反射部材14で覆うことで、被処理物100の加熱効率の低下の抑制をより期待することができる。
【0060】
(第1実施形態の変形例)
以下の変形例の説明においては、第1実施形態と同様の構成あるいは対応する構成については、図面において同一の符号を付すことで、あるいは同一の符号を引用することで、重複する説明を省略する。
【0061】
図5は、第1実施形態における磁束吸収部材13の配置に関する変形例である。
図5に係る誘導加熱装置1aは、磁束吸収部材13が、誘導加熱コイル12の軸方向の両端側のいずれにも設けられている。すなわち、変形例に係る誘導加熱装置1aにおいては、磁束吸収部材13が、誘導加熱コイル12に対して、誘導加熱コイル12の軸方向である上下方向X1における上側だけではなく下側にも設けられている。
【0062】
誘導加熱装置1aにおいて、誘導加熱コイル12の下側に設けられた磁束吸収部材13は、底壁27と誘導加熱コイル12との間に配置されており、誘導加熱コイル12の下方で、誘導加熱コイル12と隙間を介して対向して配置されている。また、誘導加熱コイル12の下側の磁束吸収部材13は、誘導加熱コイル12の内側で誘導加熱コイル12と水平方向で対向して配置される被処理物100に対して、水平方向と垂直な方向である上下方向X1において対向している。なお、底壁27は、導電体で構成された加熱室11の壁として設けられており、被処理物100と誘導加熱コイル12とが対向する方向である水平方向と垂直な方向である上下方向X1で被処理物100および誘導加熱コイル12と対向する第1の壁を構成している。このため、誘導加熱コイル12の下側の磁束吸収部材13は、誘導加熱コイル12と第1の壁である底壁27との間に配置されている。
【0063】
また、誘導加熱コイル12の下側の磁束吸収部材13は、誘導加熱コイル12の上側の磁束吸収部材13と同様に、リング状に形成されており、誘導加熱コイル12の周方向に沿った形状に設けられている。本変形例では、誘導加熱コイル12と誘導加熱コイル12の下側の磁束吸収部材13とは、いずれも、誘導加熱コイル12の軸方向である上下方向X1から見た状態で円形のリング状となるように配置されている。そして、誘導加熱コイル12と誘導加熱コイル12の下側の磁束吸収部材13とは、上下方向X1から見て周方向に亘って重なった状態で配置されている。
【0064】
図5に示す変形例に係る誘導加熱装置1aでは、磁束吸収部材13は、誘導加熱コイル12と天井壁26との間に配置されるとともに、誘導加熱コイル12と底壁27との間にも配置される。このため、本変形例の誘導加熱装置1aによると、被処理物100と誘導加熱コイル12とが対向する方向と垂直な方向で誘導加熱コイル12と対向する第1の壁としての天井壁26および底壁27を保護することができる。
【0065】
なお、
図5に示す変形例に係る誘導加熱装置1aにおいては、誘導加熱コイル12の下側の磁束吸収部材13には反射部材14が取り付けられておらず、底壁27と被処理物100との間に反射部材14は配置されていない。しかし、誘導加熱コイル12の下側の磁束吸収部材13に反射部材14が取り付けられ、底壁27と被処理物100との間に反射部材14が配置される形態が実施されてもよい。この場合、誘導加熱コイル12の下側の磁束吸収部材13に取付けられる反射部材14は、被処理物100を載せた上下駆動部17が通過できるように設けられる。そのようにすれば、被処理物100の加熱効率の低下を更に抑制できる。
【0066】
図6(A)および
図6(B)は、第1実施形態における反射部材14の配置に関する変形例を説明するための図である。
図6(A)に示す変形例においては、円板状の反射部材14が、リング状の磁束吸収部材13に対して、径方向の内側で磁束吸収部材13の径方向の内側を全体的に又は一部隙間を介して覆うように設けられている。
【0067】
また、反射部材14は、セラミック材料等の絶縁性材料で形成された取付け部材(図示省略)を介して、取り付けられる。反射部材14を取り付けるための取付け部材は、例えば、磁束吸収部材13のリング状の部分に嵌合するように構成する。なお、反射部材14は、加熱室11の壁から延びる支持部材(図示省略)に対して支持された状態で磁束吸収部材13の内側に配置されてもよい。
【0068】
図6(B)に示す変形例においては、円板状の反射部材14が、リング状の磁束吸収部材13に対して、下側において取り付けられている。また、円板状の反射部材14は、リング状の磁束吸収部材13に対して上下方向X1において重ねられた状態で磁束吸収部材13の下側に取り付けられる。これにより、反射部材14は、磁束吸収部材13の径方向の内側を覆うように設けられている。また、反射部材14は、第1実施形態と同様に締結して取り付けられる。
【0069】
図6(A)および
図6(B)に示す変形例においても、第1実施形態と同様に、反射部材14は、天井壁26と被処理物100との間に配置される。また、反射部材14が、磁束吸収部材13の径方向の内側を覆うように設けられる。
【0070】
[第2実施形態]
図7(A)は、前方から見た誘導加熱装置2について一部断面を含む状態で示す図であり、
図7(B)は、
図7(A)のB-B線矢視位置から見た状態を示す図である。第2実施形態の誘導加熱装置2は、第1実施形態と同様に構成されるが、磁束吸収部材13および反射部材14の配置に関する構成において、天井壁26を保護するためだけではなく、左側壁25と前方壁22と後方壁23とである側壁も保護するように磁束吸収部材13や、反射部材14が追加されている。なお、磁束吸収部材13や、反射部材14は、第1実施形態と同様に構成されている。なお、第2実施形態の説明においては、第1実施形態と同様の構成あるいは対応する構成については、図面において同一の符号を付し、あるいは同一の符号を引用する。
【0071】
誘導加熱コイル12と左側壁25との間に配置される磁束吸収部材13は、被処理物100が内側に配置される誘導加熱コイル12の径方向の外側で誘導加熱コイル12と左側壁25側で対向して配置されている。誘導加熱コイル12と前方壁22との間に配置される磁束吸収部材13は、被処理物100が内側に配置される誘導加熱コイル12の径方向の外側で誘導加熱コイル12と前方壁22側で対向して配置されている。誘導加熱コイル12と後方壁23との間に配置される磁束吸収部材13は、被処理物100が内側に配置される誘導加熱コイル12の径方向の外側で誘導加熱コイル12と後方壁23側で対向して配置されている。左側壁25側で誘導加熱コイル12に対向する磁束吸収部材13は、誘導加熱コイル12に対して左右方向X2において対向して配置されている。前方壁22側で誘導加熱コイル12に対向する磁束吸収部材13と後方壁23側で誘導加熱コイル12に対向する磁束吸収部材13とは、いずれも、誘導加熱コイル12に対して前後方向X3において対向して配置されている。
【0072】
なお、誘導加熱コイル12に対して磁束吸収部材13を介して左側で対向する左側壁25と、誘導加熱コイル12に対して磁束吸収部材13を介して前方で対向する前方壁22と、誘導加熱コイル12に対して磁束吸収部材13を介して後方で対向する後方壁23とは、いずれも、導電体で構成された加熱室11の壁として設けられている。左側壁25と前方壁22と後方壁23とは、被処理物100が内側に配置される誘導加熱コイル12の径方向の外側で誘導加熱コイル12と対向する第2の壁を構成している。そして、誘導加熱コイル12の左側、前方、および後方のそれぞれに配置された磁束吸収部材13は、誘導加熱コイル12と、第2の壁である左側壁25、前方壁22、および後方壁23のそれぞれとの間に配置されている。
【0073】
反射部材14は、第1実施形態と同様に天井壁26および被処理物100の間と、更に左側壁25および被処理物100の間とに配置されるとともに、前方壁22および被処理物100の間と、後方壁23および被処理物100の間とにも配置されている。なお、4つの反射部材14は、いずれも、誘導加熱コイル12の内側で誘導加熱コイル12と対向して配置される被処理物100に対して、誘導加熱コイル12の外側で、被処理物100に対向して配置されている。そして、誘導加熱コイル12の外側で誘導加熱コイル12に左側、前方、及び後方でそれぞれ対向して配置される反射部材14は、被処理物100と、第2の壁である左側壁25、前方壁22、および後方壁23のそれぞれとの間に配置されている。
【0074】
(第2実施形態の作用効果)
第2実施形態によると、各壁の保護を図ることができる。更に、誘導加熱されて発熱した被処理物100から加熱室11の天井壁26側、左側壁25側、前方壁22側、および後方壁23側へ放熱される輻射熱が被処理物100側へ反射され、加熱効率が低下することがより抑制される。
【0075】
(第2実施形態の変形例)
図8は、本発明の第2実施形態の変形例を示す図であって、
図8(A)は、前方から見た誘導加熱装置2aについて一部断面を含む状態で示す図であり、
図8(B)は、
図8(A)のC-C線矢視位置から見た状態を示す図である。
図9は、
図8に示す誘導加熱装置2aを
図8(A)のD-D線矢視位置から見た状態で示す図である。第2実施形態と同様に構成されるが、磁束吸収部材13および反射部材14の配置に関する構成において、第2実施形態から天井壁26側、前方壁22側、および後方壁23側で対向する配置構成が省略されて、左側壁25側で対向する配置構成のみとなっている。なお、反射部材14の配置に関する変形例についても、第1実施形態と同様である。
【0076】
図10は、第2実施形態における磁束吸収部材13および反射部材14の形状に関する変形例である。なお、
図10は、第2実施形態の変形例に係る誘導加熱装置2bを模式的に示す図であって、左右方向X2の一方側から(左側から)見た誘導加熱装置2bについて一部断面を含む状態で示す図である。
【0077】
誘導加熱装置2bにおいては、磁束吸収部材13は、外形が矩形の枠状に形成されている。より具体的には、誘導加熱装置2cの磁束吸収部材13は、内部に冷却液の通路を区画する中空の矩形断面で延びる管状の部材が、四角形の四辺を構成するように延びて設けられていることで、外形が矩形の枠状に形成されている。
【0078】
[第3実施形態]
図11(A)は、前方から見た誘導加熱装置3について一部断面を含む状態で示す図であり、
図11(B)は、
図11(A)のE-E線矢視位置から見た状態を示す図である。
図12は、
図11に示す誘導加熱装置3を
図11(A)のF-F線矢視位置から見た状態で示す図である。第3実施形態の誘導加熱装置3は、第1実施形態と同様に構成されるが、誘導加熱コイル12aの形態に関する構成と、磁束吸収部材13aおよび反射部材14aの配置に関する構成が異なっている。
【0079】
(第3実施形態の誘導加熱装置の構成)
図11および
図12に示す誘導加熱装置3においては、誘導加熱コイル12aは、第1実施形態の誘導加熱コイル12のような螺旋状ではなく、加熱室11内で誘導加熱される位置に配置された被処理物100に対して左右方向X2において対向して配置される枠状に設けられている。そして、誘導加熱コイル12aは、誘導加熱コイル12aと被処理物100とが互いに対向する方向である左右方向X2から見て被処理物100の周囲を取り囲むように配置される。
【0080】
誘導加熱装置3において加熱処理が施される被処理物100は、中実の軸状の部材としてまたは筒状に延びる中空の軸状の部材として設けられている。軸状の被処理物100は、長手方向が上下方向X1に沿った状態で、上下駆動部17の複数の支持爪17aによって支持され、誘導加熱コイル12aと左右方向X2において対向して配置される。そして、誘導加熱コイル12aは、誘導加熱コイル12aと被処理物100とが対向する左右方向X2から見て被処理物100の周囲を被処理物100の長手方向と平行な上下方向X1の全長に亘って取り囲むように配置される。また、本実施形態では、誘導加熱コイル12aは、誘導加熱される被処理物100に対して、左右方向X2における右側壁24側で対向して配置されている。
【0081】
誘導加熱装置3の磁束吸収部材13aは、第1実施形態とは異なり、誘導加熱コイル12aによる誘導加熱によって左側壁25が加熱されることから左側壁25を保護するために設けられている。また、誘導加熱装置3の磁束吸収部材13aは、第1実施形態の磁束吸収部材13とは形状も異なっている。
【0082】
そして、誘導加熱コイル12aおよび被処理物100と左側壁25との間に配置された磁束吸収部材13aは、左右方向X2において、被処理物100に対して、左側壁25側で対向して配置される。さらに、磁束吸収部材13aは、左右方向X2において、誘導加熱コイル12aに対して、被処理物100を介して左側壁25側で対向して配置される。すなわち、磁束吸収部材13aは、左右方向X2において被処理物100に対して右側壁24側で対向して配置される誘導加熱コイル12aに対して、被処理物100を介して左側壁25側で対向して配置される。このため、被処理物100に対しては、左右方向X2において、誘導加熱コイル12aが右側壁24側で対向して配置され、磁束吸収部材13aが誘導加熱コイル12a側と反対側となる左側壁25側で対向して配置される。
【0083】
なお、左側壁25は、導電体で構成された加熱室11の壁として設けられており、誘導加熱コイル12aおよび被処理物100に対して磁束吸収部材13aを介して対向している。そして、左側壁25は、被処理物100と誘導加熱コイル12aとが対向する方向と平行な方向である左右方向X2で被処理物100に対して誘導加熱コイル12a側と反対側で対向する本実施形態における第3の壁を構成している。磁束吸収部材13aは、誘導加熱コイル12aおよび被処理物100と本実施形態における第3の壁である左側壁25との間に配置されている。
【0084】
誘導加熱装置3の反射部材14aは、誘導加熱コイル12aに対して左側壁25側で誘導加熱コイル12に対向して配置される被処理物100と左側壁25との間に配置されている。すなわち、反射部材14aは、被処理物100と誘導加熱コイル12aとが対向する方向と平行な左右方向X2において、被処理物100に対して誘導加熱コイル12aが対向する側と反対側で、被処理物100と対向して配置されている。反射部材14aは、被処理物100と本実施形態における第3の壁である左側壁25との間に配置されている。なお、反射部材14aの配置に関する変形例についても、第1実施形態や第2実施形態と同様である。
【0085】
(第3実施形態の作用効果)
磁束吸収部材13aは、誘導加熱コイル12aおよび被処理物100と左側壁25との間に配置され、反射部材14は、誘導加熱コイル12aに対向する被処理物100と左側壁25との間に配置される。このため、被処理物100に対して誘導加熱コイル12a側と反対側で被処理物100に対向する第3の壁としての左側壁25を保護することができる。そして、被処理物100から第3の壁としての左側壁25側へ放熱される輻射熱を被処理物100側へ反射して被処理物100の加熱効率の低下を抑制できる。
【0086】
(第3実施形態の変形例)
上述の第3実施形態では、誘導加熱コイル12aが被処理物100に対して右側壁24側で対向する形態を例にとって説明したが、この通りでなくてもよく、誘導加熱コイル12aが被処理物100に対して前方壁22側または後方壁23側で対向する形態が実施されてもよい。
【0087】
上述の第3実施形態のように、誘導加熱コイル12aが被処理物100に対して右側壁24側で対向する形態では、磁束吸収部材13aは、誘導加熱コイル12aおよび被処理物100と左側壁25との間に配置され、反射部材14aは、左側壁25と被処理物100との間に配置される。一方、誘導加熱コイル12aが被処理物100に対して前方壁22側で対向するように配置される形態では、磁束吸収部材13aは、誘導加熱コイル12aおよび被処理物100と後方壁23との間に配置され、反射部材14aは、後方壁23と被処理物100との間に配置される。この形態では、後方壁23は、被処理物100と誘導加熱コイル12aとが対向する方向と平行な方向である前後方向X2で被処理物100に対して誘導加熱コイル12a側と反対側で対向する第3の壁を構成している。この形態では、磁束吸収部材13aは、誘導加熱コイル12aおよび被処理物100と第3の壁である後方壁23との間に配置され、反射部材14aは、被処理物100と第3の壁である後方壁23との間に配置される。
【0088】
また、誘導加熱コイル12aが被処理物100に対して後方壁23側で対向するように配置される形態では、磁束吸収部材13aは、誘導加熱コイル12aおよび被処理物100と前方壁22との間に配置され、反射部材14aは、前方壁22と被処理物100との間に配置される。この形態では、前方壁22は、被処理物100と誘導加熱コイル12aとが対向する方向と平行な方向である前後方向X2で被処理物100に対して誘導加熱コイル12a側と反対側で対向する第3の壁を構成している。この形態では、磁束吸収部材13aは、誘導加熱コイル12aおよび被処理物100と第3の壁である前方壁22との間に配置され、反射部材14aは、被処理物100と第3の壁である前方壁22との間に配置される。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、本発明は、被処理物を誘導加熱するための誘導加熱コイルを備えた誘導加熱装置として、広く適用することができる。
【符号の説明】
【0090】
1,1a,2,2a,2b,2c,3,3a,4:誘導加熱装置、 11:加熱室、12,12a:誘導加熱コイル、 13,13a:磁束吸収部材、 14,14a:反射部材、 22:前方壁、 23:後方壁、 24:右側壁、 25:左側壁、 26:天井壁、 27:底壁