(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088978
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】紡糸延伸装置
(51)【国際特許分類】
D02J 1/22 20060101AFI20240626BHJP
D01D 10/00 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
D02J1/22 302D
D01D10/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204065
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128923
【弁理士】
【氏名又は名称】納谷 洋弘
(74)【代理人】
【識別番号】100128912
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100180297
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 裕子
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 寛治
(72)【発明者】
【氏名】金子 雅彦
【テーマコード(参考)】
4L036
4L045
【Fターム(参考)】
4L036AA01
4L036MA04
4L036MA33
4L036PA12
4L045AA05
4L045BA03
4L045DA17
4L045DA41
4L045DB07
4L045DB11
4L045DC03
4L045DC21
(57)【要約】
【課題】ローラ上が延伸点とならないようにし、所望の延伸を行うことを可能にする。
【解決手段】紡糸延伸装置203はゴデットローラ233とゴデットローラ234とを含む複数のゴデットローラ231~239を備える。ゴデットローラ234は、ゴデットローラ233と軸方向が平行となるように、ゴデットローラ233よりも下流側に設けられている。糸条Yは、ゴデットローラ233とゴデットローラ234との糸送り速さの差により延伸される。ゴデットローラ233及びゴデットローラ234は、いずれも、糸条Yの巻き掛け角度が360度未満である。紡糸延伸装置203は、ゴデットローラ233に当接するニップローラ251と、ゴデットローラ234に当接するニップローラ252と、をさらに備える。糸条Yは、ゴデットローラ233とニップローラ251との間と、ゴデットローラ234とニップローラ2522との間とを走行する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡糸装置から紡出される糸条を糸走行方向に送る複数のローラを備える紡糸延伸装置であって、
前記複数のローラは、
第1ローラと、
前記第1ローラと軸方向が平行となるように、前記第1ローラよりも前記糸条の走行方向の下流側に設けられる第2ローラと、を少なくとも含み、
前記第1ローラと前記第2ローラとの糸送り速さの差により前記糸条を延伸することが可能であり、
前記第1ローラ及び前記第2ローラは、いずれも、前記糸条の巻き掛け角度が360度未満であり、
前記紡糸延伸装置は、
前記第1ローラ及び前記第2ローラのうち少なくともいずれか一方に当接するニップローラをさらに備え、
前記糸条が、
前記ニップローラと、該ニップローラと当接する前記第1ローラまたは前記第2ローラとの間を走行するように構成される、
ことを特徴とする紡糸延伸装置。
【請求項2】
前記ニップローラは、
前記第1ローラに巻き掛けられている前記糸条の離間が開始される位置において前記第1ローラに当接するように配置され、又は/及び、前記第2ローラへの前記糸条の巻き掛けが開始される位置において前記第2ローラに当接するように配置される、
ことを特徴とする請求項1に記載の紡糸延伸装置。
【請求項3】
前記第1ローラ、前記第2ローラ、及び前記ニップローラは、保温箱の内部に収容されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の紡糸延伸装置。
【請求項4】
前記ニップローラ、及び該ニップローラと当接する前記第1ローラ又は/及び前記第2ローラは、円筒状又は円柱状であって、
前記ニップローラは、当接する前記第1ローラ又は前記第2ローラと軸方向が平行となるように配置されている、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の紡糸延伸装置。
【請求項5】
前記ニップローラは、
前記第1ローラに当接する第1ニップローラと、
前記第2ローラに当接する第2ニップローラと、を含み、
前記糸条が、
前記第1ローラと前記第1ニップローラとの間と、前記第2ローラと前記第2ニップローラとの間とを走行するように構成される、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の紡糸延伸装置。
【請求項6】
前記第1ローラ及び前記第2ローラのうち少なくともいずれかは、非加熱ローラである、
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の紡糸延伸装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡糸装置から紡出される糸条を糸走行方向に送る複数のローラを備える紡糸延伸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、紡糸装置から紡出された糸条を糸走行方向に送る複数のローラを備え、各ローラにおいて糸条を複数回(例えば2~6回)ターンさせた紡糸延伸装置が知られている。この種の紡糸延伸装置では、各ローラにおいて糸条を複数回ターンさせるため糸道がローラの軸方向にずれてしまうという課題があった。
【0003】
かかる課題を解決するために、各ローラへの糸条の巻き掛け角度を360度以内(いわゆるS掛け)とし、糸道がローラの軸方向にずれないようにした紡糸延伸装置が開示されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に開示された紡糸延伸装置は、上流側の第1ゴデットローラ21a、21bと下流側の第2ゴデットローラ22a、22bとを備え、それぞれのゴデットローラには、360度以内の巻き掛け角度で糸条が巻き掛けられている。そして、第1ゴデットローラ21a、21bの糸送り速度V1、V2よりも第2ゴデットローラ22a、22bの糸送り速度V3、V4の方が早い糸送り速度に設定されており、第1ゴデットローラ21a、21bと第2ゴデットローラ22a、22bとの間で延伸される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、紡糸延伸装置では、隣り合う2つのローラのうち上流側のゴデットローラと下流側のゴデットローラとの中間に延伸点があることが好ましい。しかし、例えば特許文献1に開示されたいわゆるS掛けの紡糸延伸装置では、ローラ上で糸条が滑り、ローラ上が延伸点となる可能性がある。ローラ上が延伸点となると、延伸不良となり、所望の延伸を行うことができないおそれがある。
【0006】
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであり、ローラ上が延伸点とならないようにし、所望の延伸を行うことを可能ならしめる紡糸延伸装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の紡糸延伸装置は、
紡糸装置から紡出される糸条を糸走行方向に送る複数のローラを備える紡糸延伸装置であって、
前記複数のローラは、
第1ローラと、
前記第1ローラと軸方向が平行となるように、前記第1ローラよりも前記糸条の走行方向の下流側に設けられる第2ローラと、を少なくとも含み、
前記第1ローラと前記第2ローラとの糸送り速さの差により前記糸条を延伸することが可能であり、
前記第1ローラ及び前記第2ローラは、いずれも、前記糸条の巻き掛け角度が360度未満であり、
前記紡糸延伸装置は、
前記第1ローラ及び前記第2ローラのうち少なくともいずれか一方に当接するニップローラをさらに備え、
前記糸条が、
前記ニップローラと、該ニップローラと当接する前記第1ローラ又は/及び前記第2ローラとの間を走行するように構成される、
ことを特徴とする。
【0008】
上記(1)に記載の紡糸延伸装置によれば、第1ローラと第2ローラとのうち少なくともいずれか一方のローラにニップローラが当接する。そして、糸条が、ニップローラと、このニップローラと当接する第1ローラ又は第2ローラとの間とを走行する。そのため、第1ローラ及び第2ローラへの糸条の巻き掛け角度が360度未満であったとしても、ニップローラと当接する第1ローラ上又は第2ローラ上において糸条の滑りを抑制できる。よって、ニップローラと当接する第1ローラ上又は第2ローラ上が延伸点とならないようにすることが可能となり、延伸不良を抑制でき、ひいては所望の延伸を行うことを可能ならしめる紡糸延伸装置を提供することが可能となる。
【0009】
なお、ニップローラが、第1ローラ及び第2ローラのうちいずれか一方のローラと当接するニップローラのみである場合、一方のローラとこのローラと当接するニップローラとの間を糸条が走行することが好ましい。また、ニップローラが、第1ローラと当接するニップローラと、第2ローラと当接するニップローラとがある場合、第1ローラとこの第1ローラと当接するニップローラとの間、及び、第2ローラとこの第2ローラと当接するニップローラとの間を、糸条が走行することが好ましい。
【0010】
(2)本発明の紡糸延伸装置において、
前記ニップローラは、
前記第1ローラに巻き掛けられている前記糸条の離間が開始される位置において前記第1ローラに当接するように配置され、又は/及び、前記第2ローラへの前記糸条の巻き掛けが開始される位置において前記第2ローラに当接するように配置される、
ことが好ましい。
【0011】
上記(2)に記載の紡糸延伸装置によれば、ニップローラは、第1ローラに巻き掛けられている糸条の離間が開始される位置と、第2ローラへの糸条の巻き掛けが開始される位置とのうち少なくともいずれか一方の位置に配置される。第1ローラに巻き掛けられている糸条の離間が開始される位置にニップローラが配置される場合、このニップローラと第1ローラとが当接する。第2ローラへの糸条の巻き掛けが開始される位置にニップローラが配置される場合、このニップローラと第2ローラとが当接する。そのため、第1ローラから糸条の離間が開始される位置と、第2ローラへの糸条の巻き掛けが開始される位置とのうち少なくともいずれかの位置において糸条の滑りを抑制することができる。よって、ニップローラと当接する第1ローラ上又は/及び第2ローラ上が延伸点とならないようにすることが可能となり、延伸不良を抑制でき、ひいては所望の延伸を行うことが可能となる。
【0012】
とくに、第1ローラに巻き掛けられている糸条の離間が開始される位置において第1ローラと当接するニップローラと、第2ローラへの糸条の巻き掛けが開始される位置において第2ローラと当接するニップローラとの両方を紡糸延伸装置が備える場合、第1ローラから糸条の離間が開始される位置と、第2ローラへの糸条の巻き掛けが開始される位置との間においてより確実に糸条を延伸させることが可能となる。
【0013】
(3)本発明の紡糸延伸装置において、
前記第1ローラ、前記第2ローラ、及び前記ニップローラは、保温箱の内部に収容されている、
ことが好ましい。
【0014】
上記(3)に記載の紡糸延伸装置によれば、第1ローラ、第2ローラ、及びニップローラが保温箱の内部に収容されるため、糸条に対する熱の掛け方を安定させることができ、ひいては糸条の延伸を良好に補助することが可能となる。
【0015】
(4)本発明の紡糸延伸装置において、
前記ニップローラ、及び該ニップローラと当接する前記第1ローラ又は/及び前記第2ローラは、円筒状又は円柱状であって、
前記ニップローラは、当接する前記第1ローラ又は前記第2ローラと軸方向が平行となるように配置されている、
ことが好ましい。
【0016】
上記(4)に記載の紡糸延伸装置は、ニップローラが第1ローラに当接するニップローラである場合、このニップローラは、第1ローラと軸方向が平行となるように配置される。また、ニップローラが第2ローラに当接するニップローラである場合、このニップローラは、第2ローラと軸方向が平行となるように配置される。さらに、第1ローラに当接するニップローラと、第2ローラに当接するニップローラとの両方を備える場合、第1ローラに当接するニップローラは第1ローラと軸方向が平行となるように配置され、第2ローラに当接するニップローラは第2ローラと軸方向が平行となるように配置される。このようにすることで、ニップローラとこのニップローラに当接するローラとの間で、糸条Yを安定して押さえることができる。
【0017】
(5)本発明の紡糸延伸装置において、
前記ニップローラは、
前記第1ローラに当接する第1ニップローラと、
前記第2ローラに当接する第2ニップローラと、を含み、
前記糸条が、
前記第1ローラと前記第1ニップローラとの間と、前記第2ローラと前記第2ニップローラとの間とを走行するように構成される、
ことが好ましい。
【0018】
上記(5)に記載の紡糸延伸装置によれば、ニップローラには、第1ローラに当接する第1ニップローラと、第2ローラに当接する第2ニップローラとが含まれる。そして、第1ローラと第1ニップローラとの間と、第2ローラと第2ニップローラとの間とを糸条が走行する。そのため、第1ローラ上及び第2ローラ上のいずれにおいても糸条の滑りを抑制することができる。よって、第1ローラと第2ローラとの間において糸条を延伸させることが可能となり、延伸不良を抑制できるとともに、所望の延伸を行うことが可能となる。
【0019】
(6)本発明の紡糸延伸装置において、
前記第1ローラ及び前記第2ローラのうち少なくともいずれかは、非加熱ローラである、
ことを特徴とする。
【0020】
上記(6)に記載の紡糸延伸装置によれば、第1ローラ及び第2ローラのうち少なくともいずれかが非加熱ローラであったとしても、第1ローラ上及び第2ローラ上における糸条の滑りを抑制することができる。よって、第1ローラ上及び第2ローラ上が延伸点とならないようにすることができ、所望の延伸を行うことを可能ならしめる紡糸延伸装置を提供することが可能となる。さらに、ニップローラを非加熱のゴデットローラと当接させることとなり、ニップローラを加熱ローラと当接させる場合と比べて、ニップローラに与えるダメージを軽減でき、ニップローラの長寿命化を図ることが可能となる。
【0021】
本発明に係る紡糸延伸装置は、上記(1)~(6)に記載された構成の全部を備えることは必須でない。例えば、本発明に係る紡糸延伸装置を、上記(1)のみに記載された構成のみであってもよい。また、整合を図ることができる範囲で、上記(1)に記載された構成と、上記(2)~(6)の少なくともいずれかに記載された構成の全部または一部の構成と、を任意に組み合わせたものを、本発明に係る紡糸延伸装置とすることもできる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ローラ上が延伸点とならないようにし、所望の延伸を行うことを可能ならしめる紡糸延伸装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本実施形態に係る紡糸引取装置の概略を示す図の一例である。
【
図2】第1変形例に係る紡糸引取装置のうち、案内ローラ、及び紡糸延伸装置の概略を示す図の一例である。
【
図3】第2変形例に係る紡糸引取装置のうち、案内ローラ、及び紡糸延伸装置の概略を示す図の一例である。
【0024】
(紡糸引取装置1の全体構成)
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。この明細書において、各図に示すように方向を定義する。例えば
図1において、紙面上下方向を上下方向、紙面左右方向を左右方向、紙面に垂直な方向を前後方向、紙面手前側を前方と定義する。
【0025】
図1は、本実施形態に係る紡糸引取装置1の概略を示す図の一例である。紡糸引取装置1は、紡糸装置2から紡出される複数の糸条Yを糸巻取装置4で巻き取るように構成されている。糸条Yは、例えば、ポリエステル、ナイロンである。紡糸装置2は、溶融したポリマーを糸条Yとして下方に紡出する装置である。
【0026】
紡糸引取装置1は、主として、油剤ノズルを各々備えた複数の油剤ガイド5と、複数の案内ガイド6と、糸道規制ガイド7と、2つの案内ローラ11,12と、紡糸延伸装置3と、糸巻取装置4とを含む。紡糸装置2、その下方に配置された複数の油剤ガイド5、及び複数の案内ガイド6は、上階(例えば2階)に配置されている。糸道規制ガイド7、2つの案内ローラ11,12、紡糸延伸装置3、及び糸巻取装置4は、下階(例えば1階)に配置されている。
【0027】
複数の油剤ガイド5は、紡糸装置2の下方に配置され、紡糸装置2から下方に紡出された複数の糸条Yのそれぞれに油剤を付与する。複数の案内ガイド6は、複数の油剤ガイド5のそれぞれの下方において左右方向に等間隔に配置され、油剤が付与された複数の糸条Yを個別に案内する。
【0028】
糸道規制ガイド7は、複数の案内ガイド6の下方に配置され、複数の案内ガイド6によって個別に案内された複数の糸条Yを、左右方向に等間隔となるように収束させる。糸道規制ガイド7は、複数の糸条Yが走行する糸走行方向と直交する配列方向、すなわち左右方向に並んだ複数の溝部(不図示)を有する。複数の糸条Yは、それぞれ、左右方向に並んだ複数の溝部内を走行することにより、左右方向の間隔が決められるとともに、左右方向への移動が規制されている。
【0029】
なお、図示していないが、糸道規制ガイド7と案内ローラ11との間には糸道ガイドが配置されており、この糸道ガイドによって、糸条Yは、配列方向が左右方向から前後方向に変えられる。
【0030】
案内ローラ11、12は、糸道規制ガイド7よりも、糸条Yの走行方向(以下「糸走行方向」と称する)の下流側に配置されており、モータ(不図示)によって回転駆動される。紡糸装置2から紡出された複数の糸条Yは、油剤ガイド5、案内ガイド6、糸道規制ガイド7を経由して、案内ローラ11に巻き掛けられており、案内ローラ11によって紡糸延伸装置3へ送られる。紡糸延伸装置3によって加熱延伸された複数の糸条Yは、案内ローラ12によって糸巻取装置4へ送られる。
【0031】
(糸巻取装置4)
次に、説明の便宜上、紡糸延伸装置3よりも先に、糸巻取装置4について簡単に説明する。糸巻取装置4は、複数の糸条Yを巻き取る装置であり、紡糸延伸装置3の下方に配置されている。糸巻取装置4は、ボビンホルダ13及びコンタクトローラ14等を有している。ボビンホルダ13は、前後方向に延びる円筒形状を有し、モータ(不図示)によって回転駆動される。ボビンホルダ13には、その軸方向に複数のボビンBが並んだ状態で装着される。糸巻取装置4は、ボビンホルダ13を回転させることによって、複数のボビンBに複数の糸条Yを同時に巻き取り、複数のパッケージPを生産する。コンタクトローラ14は、複数のパッケージPの表面に接触して所定の接圧を付与し、パッケージPの形状を整える。
【0032】
(紡糸延伸装置3)
次に、紡糸延伸装置3について説明する。紡糸延伸装置3は、複数の糸条Yを加熱延伸する装置であり、紡糸装置2の下方に配置されている。紡糸延伸装置3は、主として、保温箱20と、保温箱20の内部に収容された複数のゴデットローラ31~35とを有している。本実施形態において、紡糸延伸装置3は、5本のゴデットローラ31~35を備えているが、ゴデットローラの数はこれに限定されない。
【0033】
保温箱20の右側面部の下部には、複数の糸条Yを保温箱20の内部に導入するための糸導入口20aが形成されている。糸導入口20aから保温箱20の内部に導入された糸条Yは、ゴデットローラ31~35によって糸走行方向に送られる。保温箱20の右側面部の上部には、複数の糸条Yを保温箱20の外部に導出するための糸導出口20bが形成されている。
【0034】
各ゴデットローラ31~35は、糸条Yを加熱しつつ糸導入口20aから糸導出口20bに向かう糸走行方向に糸条Yを送るローラであり、全て軸方向が同じ(すなわち平行)となるように配置されている。本実施形態において、各ゴデットローラ31~35は、前後方向が軸方向となるように配置されており、例えば金属製のローラである。各ゴデットローラ31~35は、保温箱20内において、糸走行方向の上流側から順にゴデットローラ31~35が配置されている。ゴデットローラ31~35を保温箱20内に配置することで糸条Yに対する熱の掛け方を安定させることができ、ひいては糸条Yの延伸を良好に補助することが可能となるが、ゴデットローラ31~35を保温箱20内に配置することは必須でない。複数の糸条Yは、糸走行方向における最も上流側のゴデットローラ31から順に、各ゴデットローラ31~35に対して360度未満の巻き掛け角度で巻き掛けられている。各ゴデットローラ31~35は、モータ(不図示)によってそれぞれ所定の糸送り速さで回転駆動される(回転方向は
図1中の各ゴデットローラ31~35の矢印参照)。また、各ゴデットローラ31~35には、ヒータ(不図示)が内蔵されており、ヒータによって各ゴデットローラ31~35の表面は加熱される。
【0035】
例えば5本のゴデットローラ31~35のうち、糸走行方向における上流側の3つのゴデットローラ31~33は、複数の糸条Yを延伸する前に予熱するための予熱ローラである。3つのゴデットローラ31~33のローラ表面温度は、糸条Yのガラス転移点以上の温度(例えば90~100℃程度)に設定されている。3つのゴデットローラ31~33よりも糸走行方向における下流側の2つのゴデットローラ34、35は、延伸された複数の糸条Yを熱セットするための調質ローラである。2つのゴデットローラ34、35のローラ表面温度は、3つのゴデットローラ31~33のローラ表面温度よりも高い温度(例えば150~200℃程度)に設定されている。また、2つのゴデットローラ34、35の糸送り速さは、3つのゴデットローラ31~33よりも速くなっている。
【0036】
糸導入口20aを介して保温箱20に導入された複数の糸条Yは、まず、ゴデットローラ31~33によって延伸可能な温度まで予熱される。予熱された複数の糸条Yは、ゴデットローラ33とゴデットローラ34との間の糸送り速さの差によって延伸される。さらに、複数の糸条Yは、ゴデットローラ34、35によってさらに高温に加熱されて、延伸された状態が熱セットされる。このようにして延伸された複数の糸条Yは、糸導出口20bから保温箱20の外に導出される。
【0037】
なお、ゴデットローラ34は、ゴデットローラ33よりも糸走行方向の下流側において、ゴデットローラ33と隣り合って配置されたゴデットローラである。本実施形態では、ゴデットローラ33の回転方向とゴデットローラ34の回転方向とは互いに反対方向である。本実施形態の「ゴデットローラ33」は本発明の「第1ローラ」に相当し、本実施形態の「ゴデットローラ34」は本発明の「第2ローラ」に相当する。
【0038】
ところで、紡糸延伸装置3において糸条Yを延伸するとき、上述のとおり、ゴデットローラ33とゴデットローラ34との間の糸送り速さの差によって延伸されるが、この場合、延伸点は、ゴデットローラ33とゴデットローラ34との間にあることが好ましい。しかし、ゴデットローラ33,34のローラ上で糸条Yが滑ると、ゴデットローラ33,34のローラ上が延伸点となる可能性がある。ゴデットローラ33またはゴデットローラ34のローラ上に延伸点があると、糸条Yが延伸不良となり、糸条Yについて所望の延伸を行うことができないおそれがあり、好ましくない。
【0039】
そこで、本実施形態の紡糸延伸装置3は、ニップローラ51,52を備えている。ニップローラ51は、ゴデットローラ33のローラ上での糸条Yの滑りを抑制するためのローラである。ニップローラ51は、軸方向がゴデットローラ33の軸方向と平行であり、ニップローラ51がゴデットローラ33と当接するように配置されている。糸条Yは、ゴデットローラ33とニップローラ51との間を走行する。糸条Yは、ニップローラ51によりゴデットローラ33に対して押圧されることで、ゴデットローラ33上での滑りが抑制される。ゴデットローラ33に対してニップローラ51が押圧する力は、糸条Yの線径及び線種に応じて適宜に設定される。ゴデットローラ33,34が保温箱20内に配置される場合には、ニップローラ51,52もゴデットローラ33,34とともに保温箱20内に配置される。
【0040】
ニップローラ51,52は、ゴデットローラ33との間に糸条Yを挟むことから、例えば弾力性及び耐熱性を兼ね備えた材質であることが好ましく、例えば、高強度糸等の補強材が含まれたゴム材が用いられる。ゴム材は、例えばNBR、天然ゴム、又は合成ゴム等、さまざまなゴム材を用いることができる。
【0041】
なお、この明細書において、「ニップローラ51がゴデットローラ33と当接する」は、「ニップローラ51のローラ面がゴデットローラ33のローラ面と当接する」を意味する。ニップローラ51及びゴデットローラ33に限らず、全てのニップローラ及びゴデットローラについても同様に、「ニップローラがゴデットローラと当接する」は、「ニップローラのローラ面がゴデットローラのローラ面と当接する」を意味する。
【0042】
ニップローラ52は、ゴデットローラ34のローラ上での糸条Yの滑りを抑制するためのローラである。ニップローラ52は、軸方向がゴデットローラ34の軸方向と平行であり、ゴデットローラ34と当接するように配置されている。糸条Yは、ゴデットローラ34とニップローラ52との間を走行する。糸条Yは、ニップローラ52によりゴデットローラ34に対して押圧されることで、ゴデットローラ34上での滑りが抑制される。ゴデットローラ34に対してニップローラ52が押圧する力は、糸条Yの線径及び線種に応じて、適宜な値に設定される。
【0043】
なお、ゴデットローラ31~35及びニップローラ51,52は、いずれも円筒状又は円柱状のローラである。そして、ニップローラ51,52を、当接するゴデットローラ33,34と軸方向が平行となるように配置することで、当接するゴデットローラ33,34との間で、糸条Yを安定して押さえることができる。
【0044】
ニップローラ51、52は、それぞれ、モータ(不図示)によって回転駆動される。ニップローラ51、52の回転方向は、それぞれ、ゴデットローラ33、34の回転方向とは反対方向である(回転方向は
図1中のニップローラ51、52の矢印参照)。ニップローラ51、52の回転速さは、それぞれ、ゴデットローラ33、34の回転速さと同じであることが好ましい。なお、ニップローラ51、52は、モータにより回転駆動されることに限定されず、それぞれ、例えばゴデットローラ33、34に追従して回転するローラであってもよい。
【0045】
このように、本実施形態の紡糸延伸装置3によれば、ゴデットローラ33とニップローラ51とが当接し、ゴデットローラ34とニップローラ52とが当接する。そして、糸条Yが、ゴデットローラ33とニップローラ51との間と、ゴデットローラ34とニップローラ52との間とを走行する。すなわち、糸条Yは、ゴデットローラ33のローラ上においてニップローラ51によって押圧され、ゴデットローラ34のローラ上においてニップローラ52によって押圧されている。そのため、ゴデットローラ33及びゴデットローラ34への糸条Yの巻き掛け角度が360度未満であったとしても、ゴデットローラ33のローラ上及びゴデットローラ34のローラ上のいずれにおいても糸条Yの滑りを抑制できる。よって、ゴデットローラ33のローラ上及びゴデットローラ34のローラ上が延伸点とならないようにすることができ、所望の延伸を行うことが可能となる。
【0046】
ゴデットローラ33への糸条Yの巻き掛け区間は、
図1において、位置Aから時計方向に位置Bまでの間である。位置Aは、ゴデットローラ33への糸条Yの巻き掛けが開始される位置である。位置Bは、ゴデットローラ33に巻き掛けられている糸条Yの離間が開始される位置である。ニップローラ51は、ゴデットローラ33への糸条Yの巻き掛け区間のうち、いずれの位置に配置されていてもよいが、少なくとも、ゴデットローラ33から糸条Yの離間が開始される位置Bにおいて、ゴデットローラ33と当接するように配置されていることが好ましい。
【0047】
また、ゴデットローラ34への糸条Yの巻き掛け区間は、
図1において、位置Cから反時計方向に位置Dまでの間である。位置Cは、ゴデットローラ34への糸条Yの巻き掛けが開始される位置である。位置Dは、ゴデットローラ34に巻き掛けられている糸条Yの離間が開始される位置である。ニップローラ52は、ゴデットローラ34への糸条Yの巻き掛け区間のうち、いずれの位置に配置されていてもよいが、少なくとも、ゴデットローラ34への糸条Yの巻き掛けが開始される位置Cにおいて、ゴデットローラ34と当接するように配置されていることが好ましい。
【0048】
ゴデットローラ33から糸条Yの離間が開始される位置Bにおいてゴデットローラ33とニップローラ51とが当接し、ゴデットローラ34への糸条Yの巻き掛けが開始される位置Cにおいてゴデットローラ34とニップローラ52とが当接することで、位置B及び位置Cでの糸条Yの滑りを抑制することができる。その結果、ゴデットローラ33、34のローラ上ではない位置Bと位置Cとの間において糸条Yを延伸させることができ、延伸不良を抑制できるとともに、所望の延伸を行うことが可能となる。
【0049】
また、
図1には図示されていないが、ゴデットローラ33への糸条Yの巻き掛け区間において、複数のニップローラが配置されていてもよい。同様に、ゴデットローラ34への糸条Yの巻き掛け区間において、複数のニップローラが配置されていてもよい。
【0050】
本実施形態では、ゴデットローラ33は、ローラ表面温度が糸条Yのガラス転移点以上の高温に設定された加熱ローラであり、ゴデットローラ34は、ローラ表面温度がゴデットローラ33よりもさらに高温に設定された加熱ローラであるが、これに限定されない。例えば、ゴデットローラ33及びゴデットローラ34のうち少なくともいずれかのゴデットローラが非加熱ローラであってもよい。このような場合であっても、糸条Yを挟んでゴデットローラ33とニップローラ51とが当接する位置(例えば位置B)、及び糸条Yを挟んでゴデットローラ34とニップローラ52とが当接する位置(例えば位置C)において、糸条Yの滑りを抑制することができ、延伸不良を抑制できるとともに、所望の延伸を行うことが可能となる。さらに、ニップローラと非加熱のゴデットローラとを当接させることにより、ニップローラと加熱ローラとを当接させる場合と比べて、ニップローラに与えるダメージを軽減でき、ニップローラの長寿命化を図ることが可能となる。
【0051】
また、本実施形態は、産業用糸のように線径が相対的に大きな糸を延伸する紡糸延伸装置、及び衣料用糸のように線径が相対的に小さな糸を延伸する紡糸延伸装置のいずれにも適用することができる。
【0052】
(変形例)
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は、これらの例に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。以下に、本実施形態に変更を加えた変形例について説明する。以下に説明する第1変形例及び第2変形例は、延伸点が複数ある場合の例である。なお、以下の変形例では、本実施形態と異なる箇所を主として説明し、本実施形態と同様の構成(機能、配置等)については、極力説明を省略する。
【0053】
(第1変形例)
第1変形例は、本実施形態と同様に、複数のゴデットローラが上下方向に配置された例である。複数のゴデットローラが上下方向に配置された場合、本実施形態と同様に、糸条Yを延伸する2つのローラ(例えば後述のゴデットローラ131とゴデットローラ132)の回転方向は反対方向である。
図2は、第1変形例に係る紡糸引取装置のうち、案内ローラ111、112、及び紡糸延伸装置103の概略を示す図の一例である。この
図2では、紡糸引取装置のうち、紡糸装置、糸巻取装置、油剤ガイド、案内ガイド、及び糸道規制ガイド等の図示を省略している。また、紡糸延伸装置103が備える保温箱の図示も省略している。
【0054】
案内ローラ111、112は、モータ(不図示)によって回転駆動される。紡糸装置(不図示)から紡出された複数の糸条Yは、案内ローラ111、112に巻き掛けられており、案内ローラ111によって紡糸延伸装置103へ送られる。紡糸延伸装置103によって加熱延伸された複数の糸条Yは、案内ローラ113によって糸巻取装置(不図示)へ送られる。
【0055】
紡糸延伸装置103は、主として、例えば5本のゴデットローラ131~135と、例えば7本のニップローラ151~157とを備えている。5本のゴデットローラ131~135及び7本のニップローラ151~157は、全て軸方向が同じとなるように配置されている。5本のゴデットローラ131~135及び6本のニップローラ151~157は、保温箱の内部に収容されるが、
図1では保温箱の図示を省略している。なお、ゴデットローラ及びニップローラの数はこれに限定されない。
【0056】
各ゴデットローラ131~135は、糸条Yを加熱しつつ、糸走行方向の下流側に向けて糸条Yを送るローラであり、図示しないモータによってそれぞれ所定の糸送り速さで回転駆動される(回転方向は
図2中の各ゴデットローラ131~135の矢印参照)。複数の糸条Yは、糸走行方向における最も上流側のゴデットローラ131から順に、各ゴデットローラ131~135に対して360度未満の巻き掛け角度で巻き掛けられている。
【0057】
第1変形例において、「ゴデットローラ131」を本発明の「第1ローラ」とする場合は「ゴデットローラ132」が本発明の「第2ローラ」に相当し、「ゴデットローラ132」を本発明の「第1ローラ」とする場合は「ゴデットローラ133」が本発明の「第2ローラ」に相当し、「ゴデットローラ133」を本発明の「第1ローラ」とする場合は「ゴデットローラ134」が本発明の「第2ローラ」に相当する。なお、「ゴデットローラ111」を本発明の「第1ローラ」とし、「ゴデットローラ131」を本発明の「第2ローラ」としてもよい。
【0058】
ニップローラ151~157は、それぞれ、図示しないモータによって、当接するゴデットローラと反対方向に回転駆動される(回転方向は
図2中のニップローラ151~157の矢印参照)。ニップローラ151~157の回転速さは、それぞれ、当接するゴデットローラの回転速さと同じであることが好ましい。なお、ニップローラ151~157は、モータにより回転駆動されることに限定されず、それぞれ、例えば当接するゴデットローラに追従して回転するローラであってもよい。
【0059】
この第1変形例では、例えば、ゴデットローラ131~134は加熱ローラであり、ゴデットローラ135は非加熱ローラである。そして、例えば、ゴデットローラ131とゴデットローラ132との間、ゴデットローラ132とゴデットローラ133との間、及びゴデットローラ133とゴデットローラ134との間、のそれぞれにおいて、糸条Yが延伸される。すなわち、ゴデットローラ132の糸送り速さはゴデットローラ131の糸送り速さよりも速く、ゴデットローラ133の糸送り速さはゴデットローラ132の糸送り速さよりも速く、ゴデットローラ134の糸送り速さはゴデットローラ133の糸送り速さよりも速い。
【0060】
ニップローラ151は、ゴデットローラ131への糸条Yの巻き掛けが開始される位置において、ゴデットローラ131との間で糸条Yを挟んで、ゴデットローラ131と当接するように配置されている。
【0061】
ニップローラ152は、ゴデットローラ131から糸条Yの離間が開始される位置において、ゴデットローラ131との間で糸条Yを挟んで、ゴデットローラ131と当接するように配置されている。ニップローラ153は、ゴデットローラ132への糸条Yの巻き掛けが開始される位置において、ゴデットローラ132との間で糸条Yを挟んで、ゴデットローラ132と当接するように配置されている。
【0062】
ニップローラ154は、ゴデットローラ132から糸条Yの離間が開始される位置において、ゴデットローラ132との間で糸条Yを挟んで、ゴデットローラ132と当接するように配置されている。ニップローラ155は、ゴデットローラ133への糸条Yの巻き掛けが開始される位置において、ゴデットローラ133との間で糸条Yを挟んで、ゴデットローラ133と当接するように配置されている。
【0063】
ニップローラ156は、ゴデットローラ133から糸条Yの離間が開始される位置において、ゴデットローラ133との間で糸条Yを挟んで、ゴデットローラ133と当接するように配置されている。ニップローラ157は、ゴデットローラ134への糸条Yの巻き掛けが開始される位置において、ゴデットローラ134との間で糸条Yを挟んで、ゴデットローラ134と当接するように配置されている。
【0064】
このように、延伸点が複数であっても、それぞれの延伸点が各ゴデットローラ131、132、133、134上とならないようにすることができる。すなわち、各ゴデットローラ131、132、133、134への糸条Yの巻き掛け角度が360度未満であったとしても、各ゴデットローラ131、132、133、134のローラ上のいずれにおいても糸条Yの滑りを抑制できる。よって、各ゴデットローラ131、132、133、134のローラ上が延伸点とならないようにすることができ、所望の延伸を行うことが可能となる。
【0065】
しかも、糸走行方向における上流側の一のゴデットローラから糸条Yの離間が開始される位置、及び一のゴデットローラよりも糸走行方向における下流側に隣り合う他のゴデットローラへの糸条Yの巻き掛けが開始される位置のそれぞれに、ニップローラが配置されている。そのため、ゴデットローラのローラ上ではない二つのゴデットローラ間(例えば、ゴデットローラ131とゴデットローラ132との間(より詳しくはニップローラ152とニップローラ153との間)において糸条Yを延伸させることができ、延伸不良を抑制できるとともに、所望の延伸を行うことが可能となる。
【0066】
(第2変形例)
第2変形例は、複数のゴデットローラが左右方向に配置された例である。とくに、繊度が大きく、多くの加熱長を必要とする産業資材用糸の紡糸引取装置では、複数のゴデットローラが左右方向に配置されることがある。複数のゴデットローラが左右方向に配置された場合、糸条Yを延伸する2つのローラ(例えば後述の予備加熱ローラ233と延伸ローラ234)の回転方向が同じである。
図3は、第1変形例に係る紡糸引取装置のうち、案内ローラ211、212、213、及び紡糸延伸装置203の概略を示す図の一例である。この
図3では、紡糸引取装置のうち、紡糸装置、糸巻取装置、油剤ガイド、案内ガイド、及び糸道規制ガイド等の図示を省略している。
【0067】
案内ローラ211、212、213は、モータ(不図示)によって回転駆動される。紡糸装置(不図示)から紡出された複数の糸条Yは、案内ローラ211、212、213に巻き掛けられており、案内ローラ211によって紡糸延伸装置203へ送られる。紡糸延伸装置203によって加熱延伸された複数の糸条Yは、案内ローラ212,213によって糸巻取装置(不図示)へ送られる。
【0068】
紡糸延伸装置203は、主として、例えば9本のゴデットローラ231~239と、例えば4本のニップローラ251~254とを備えている。9本のゴデットローラ231~239及び4本のニップローラ251~254は、全て軸方向が同じとなるように配置されている。なお、ゴデットローラ及びニップローラの数はこれに限定されない。
【0069】
各ゴデットローラ231~239は、糸条Yを加熱しつつ、糸走行方向の下流側に向けて糸条Yを送るローラであり、図示しないモータによってそれぞれ所定の糸送り速さで回転駆動される(回転方向は
図3中の各ゴデットローラ231~239の矢印参照)。複数の糸条Yは、糸走行方向における最も上流側のゴデットローラ231から順に、各ゴデットローラ231~239に対して360度未満の巻き掛け角度で巻き掛けられている。
【0070】
第2変形例において、「ゴデットローラ251」を本発明の「第1ローラ」とする場合は「ゴデットローラ252」が本発明の「第2ローラ」に相当し、「ゴデットローラ253」を本発明の「第1ローラ」とする場合は「ゴデットローラ254」が本発明の「第2ローラ」に相当する。
【0071】
ニップローラ251~254は、それぞれ、図示しないモータによって、当接するゴデットローラと反対方向に回転駆動される(回転方向は
図3中のニップローラ251~254の矢印参照)。ニップローラ251~254の回転速さは、それぞれ、当接するゴデットローラの回転速さと同じであることが好ましい。なお、ニップローラ251~254は、モータにより回転駆動されることに限定されず、それぞれ、例えば当接するゴデットローラに追従して回転するローラであってもよい。
【0072】
第2変形例において、例えば、9本のゴデットローラ231~239は、延伸前の糸条Yを加熱する予備加熱ローラ231~133と、延伸ローラ234~236と、延伸された糸条Yを調質するための熱セットローラ237~239とを備える。
【0073】
この第2変形例では、例えば、予備加熱ローラ232、延伸ローラ235、及び熱セットローラ238は加熱ローラであり、予備加熱ローラ231、233、延伸ローラ234、236、及び熱セットローラ237、239は非加熱ローラである。
【0074】
予備加熱ローラ231~133及びニップローラ251は、保温箱221の内部に収容されている。延伸ローラ234~236及びニップローラ252、253は、保温箱222の内部に収容されている。熱セットローラ237~239及びニップローラ254は、保温箱223の内部に収容されている。
【0075】
糸条Yは、例えば、予備加熱ローラ233と延伸ローラ234との間、及び延伸ローラ236と熱セットローラ237との間において延伸される。すなわち、延伸ローラ234の糸送り速さは予備加熱ローラ233の糸送り速さよりも速く、熱セットローラ237の糸送り速さは延伸ローラ236の糸送り速さよりも速い。なお、予備加熱ローラ233と延伸ローラ234とは回転方向が同じであり、同様に、延伸ローラ236と熱セットローラ237とは回転方向が同じである。
【0076】
ニップローラ251は、予備加熱ローラ233ら糸条Yの離間が開始される位置において、予備加熱ローラ233との間で糸条Yを挟んで、予備加熱ローラ233と当接するように配置されている。ニップローラ252は、延伸ローラ234への糸条Yの巻き掛けが開始される位置において、延伸ローラ234との間で糸条Yを挟んで、延伸ローラ234と当接するように配置されている。
【0077】
ニップローラ253は、延伸ローラ236ら糸条Yの離間が開始される位置において、延伸ローラ236との間で糸条Yを挟んで、延伸ローラ236と当接するように配置されている。ニップローラ254は、熱セットローラ237への糸条Yの巻き掛けが開始される位置において、熱セットローラ237との間で糸条Yを挟んで、熱セットローラ237と当接するように配置されている。
【0078】
このように、延伸点が複数であって、糸条Yを延伸する2つのローラ(例えば予備加熱ローラ233と延伸ローラ234)の回転方向が同じである場合においても、それぞれの延伸点が予備加熱ローラ233、延伸ローラ234、236、及び熱セットローラ237の各ローラ上とならないようにすることができる。すなわち、ゴデットローラ231~239(とくに予備加熱ローラ233、延伸ローラ234、236、及び熱セットローラ237)への糸条Yの巻き掛け角度が360度未満であったとしても、予備加熱ローラ233、延伸ローラ234、236、及び熱セットローラ237の各ローラ上のいずれにおいても糸条Yの滑りを抑制できる。よって、予備加熱ローラ233、延伸ローラ234、236、及び熱セットローラ237の各ローラ上が延伸点とならないようにすることができ、所望の延伸を行うことが可能となる。
【0079】
しかも、糸走行方向における上流側の一のゴデットローラから糸条Yの離間が開始される位置、及び一のゴデットローラよりも糸走行方向における下流側に隣り合う他のゴデットローラへの糸条Yの巻き掛けが開始される位置のそれぞれに、ニップローラが配置されている。そのため、ゴデットローラのローラ上ではない二つのゴデットローラ間(例えば、予備加熱ローラ233と延伸ローラ234との間(より詳しくはニップローラ251とニップローラ252との間))において糸条Yを延伸させることができ、延伸不良を抑制できるとともに、所望の延伸を行うことが可能となる。
【0080】
(その他)
なお、上述の本実施形態、第1変形例、及び第2変形例において、紡糸延伸装置3,103,203は、延伸点よりも上流側に隣接するゴデットローラと当接するニップローラと、延伸点よりも下流側に隣接するゴデットローラと当接するニップローラとの両方を備えている。例えば、本実施形態であれば、紡糸延伸装置3は、離間が開始される位置においてゴデットローラ33と当接するニップローラ51と、巻き掛けが開始される位置においてゴデットローラ34と当接するニップローラ52との両方を備えている。ただし、これに限定されず、紡糸延伸装置3は、離間が開始される位置においてゴデットローラ33と当接するニップローラ51と、巻き掛けが開始される位置においてゴデットローラ34と当接するニップローラ52とのうちいずれか一方のみを備えて、互いに当接するゴデットローラとニップローラとの間を糸条Yが走行するようにてもよい。第1変形例及び第2変形例においても同様である。
【0081】
また、上述の本実施形態、第1変形例、及び第2変形例において、各ニップローラは、当接するゴデットローラと軸方向が同じである。具体的には、本実施形態では、ニップローラ51の軸方向とゴデットローラ33の軸方向とが平行であり、ニップローラ52の軸方向とゴデットローラ34の軸方向とが平行である。第1変形例では、ニップローラ151の軸方向とニップローラ152の軸方向とゴデットローラ131の軸方向とが平行、ニップローラ153の軸方向とニップローラ154の軸方向とゴデットローラ132の軸方向とが平行、ニップローラ155の軸方向とニップローラ156の軸方向とゴデットローラ133の軸方向とが平行、ニップローラ157の軸方向とゴデットローラ134の軸方向とが平行である。第2変形例では、ニップローラ251の軸方向とゴデットローラ233の軸方向とが平行、ニップローラ252の軸方向とゴデットローラ234の軸方向とが平行、ニップローラ253の軸方向とゴデットローラ236の軸方向とが平行、ニップローラ254の軸方向とゴデットローラ237の軸方向とが平行である。ただし、これらに限定されず、全部のニップローラ又は一部のニップローラを例えば円錐状のローラとし、円錐面とゴデットローラのローラ面とが当接するようにニップローラが回転する態様としてもよい。この場合、円錐状のニップローラの回転軸は、当接するゴデットローラの回転軸に対して平行ではなく傾斜する。
【符号の説明】
【0082】
1 紡糸引取装置
2 紡糸装置
Y 糸条
33 ゴデットローラ(第1ローラ)
34 ゴデットローラ(第2ローラ)
51 ニップローラ(第1ニップローラ)
52 ニップローラ(第2ニップローラ)
131~135 ゴデットローラ
151~157 ニップローラ
231~239 ゴデットローラ
251~254 ニップローラ