(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000890
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】接着剤用物性改良剤及び接着剤
(51)【国際特許分類】
C08L 1/02 20060101AFI20231226BHJP
C08L 51/06 20060101ALI20231226BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20231226BHJP
C08G 59/18 20060101ALI20231226BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20231226BHJP
C09J 163/00 20060101ALI20231226BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
C08L1/02
C08L51/06
C08L63/00 A
C08G59/18
C09J201/00
C09J163/00
C09J11/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099866
(22)【出願日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(71)【出願人】
【識別番号】000132161
【氏名又は名称】株式会社スギノマシン
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100116159
【弁理士】
【氏名又は名称】玉城 信一
(72)【発明者】
【氏名】大窪 和也
(72)【発明者】
【氏名】小武内 清貴
(72)【発明者】
【氏名】宇賀神 友康
(72)【発明者】
【氏名】小倉 孝太
(72)【発明者】
【氏名】大坪 雅之
(72)【発明者】
【氏名】峯村 淳
【テーマコード(参考)】
4J002
4J036
4J040
【Fターム(参考)】
4J002AB01X
4J002BN03Y
4J002CD00W
4J002CD01W
4J002CD02W
4J002CD03W
4J002EJ006
4J002EN006
4J002EP006
4J002ER026
4J002EU116
4J002EV016
4J002FD146
4J002GJ01
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4J036DB06
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4J036DC41
4J036FB01
4J036FB07
4J036FB18
4J036JA06
4J040BA022
4J040CA002
4J040EC001
4J040JB02
4J040KA04
4J040KA05
4J040KA16
4J040KA42
4J040LA01
4J040LA03
4J040LA06
(57)【要約】
【課題】接着剤に混合することで、当該接着剤の物性を改良することができる接着剤用物性改良剤を提供する。
【解決手段】コアシェル型ゴム粒子とセルロースナノファイバーとを組み合わせてなり、接着剤の物性を改良する接着剤用物性改良剤であって、前記コアシェル型ゴム粒子に対する前記セルロースナノファイバーの質量割合(セルロースナノファイバー/コアシェル型ゴム粒子)が、0.05~0.3である接着剤用物性改良剤である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアシェル型ゴム粒子とセルロースナノファイバーとを組み合わせてなり、接着剤の物性を改良する接着剤用物性改良剤であって、
前記コアシェル型ゴム粒子に対する前記セルロースナノファイバーの質量割合(セルロースナノファイバー/コアシェル型ゴム粒子)が、0.05~0.3である接着剤用物性改良剤。
【請求項2】
前記セルロースナノファイバーの重合度が100~1000である請求項1に記載の接着剤用物性改良剤。
【請求項3】
前記コアシェル型ゴム粒子の平均粒径(D50)が100~300nmである請求項1又は2に記載の接着剤用物性改良剤。
【請求項4】
前記接着剤がエポキシ樹脂接着剤である請求項1又は2に記載の接着剤用物性改良剤。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の接着剤用物性改良剤とマトリクス樹脂とを含む接着剤。
【請求項6】
前記マトリクス樹脂がエポキシ樹脂である請求項5に記載の接着剤。
【請求項7】
さらに、硬化剤を含む請求項6に記載の接着剤。
【請求項8】
前記エポキシ樹脂に対する前記硬化剤の質量割合(硬化剤/エポキシ樹脂)が、0.25~0.8である請求項7に記載の接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤用物性改良剤及び当該接着剤用物性改良剤を含む接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
接着剤による接合は、塗工された接合部全体に均一な応力分布が得られ、比強度が高いという利点がある。このような利点と、接着剤の材質に応じた様々な材料との良好な接合性から、一般機械部品、産業用機械部品、車両等部品、船舶・航空関連部品、電子・電気部品、建築・土木材料、生活用品、容器・包装部材等の様々な分野で、接着剤の使用が拡大している。
【0003】
このような拡大に伴い、これまでの接着剤に対してその物性を改良する試みが各用途に応じてなされている。
【0004】
例えば特許文献1は、エポキシ樹脂中にコアシェルポリマーが一次粒子の状態で分散しているエポキシ樹脂組成物により、従来技術が有するエポキシ樹脂強化に際しての種々の問題点を克服したエポキシ樹脂製品を開示している。そして、エポキシ樹脂製品として、構造接着剤(車両、車体の一次/二次構造材の組み立て、土木、建築)、耐熱性接着剤(航空機やその他耐熱性を必要とする用途)、低温特性に優れる接着剤(耐寒性が要求される接着剤)といった種々の接着剤を例示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1では、接着剤としての物性の評価、特に耐疲労性等の評価はなされていない。接着剤としては接着の強度以外に接着後の疲労寿命も、SDGsの観点から今後重要となることが予想される。したがって、接着自体の組成設計も重要であるが、従来の接着剤に対して物性を改良できる物性改良材があれば、上記組成設計にかけるコストを抑えることが可能で、実用的な観点から有効である。
【0007】
以上から、本発明は、接着剤に混合することで、当該接着剤の物性を改良することができる接着剤用物性改良剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは下記本発明に想到し当該課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0009】
[1] コアシェル型ゴム粒子とセルロースナノファイバーとを組み合わせてなり、接着剤の物性を改良する接着剤用物性改良剤であって、前記コアシェル型ゴム粒子に対する前記セルロースナノファイバーの質量割合(セルロースナノファイバー/コアシェル型ゴム粒子)が、0.05~0.3である接着剤用物性改良剤。
[2] 前記セルロースナノファイバーの重合度が100~1000である[1]に記載の接着剤用物性改良剤。
[3] 前記コアシェル型ゴム粒子の平均粒径(D50)が100~300nmである[1]又は[2]に記載の接着剤用物性改良剤。
[4] 前記接着剤がエポキシ樹脂接着剤である[1]~[3]のいずれか1つに記載の接着剤用物性改良剤。
[5] [1]~[4]のいずれか1つに記載の接着剤用物性改良剤とマトリクス樹脂とを含む接着剤。
[6] 前記マトリクス樹脂がエポキシ樹脂である[5]に記載の接着剤。
[7] さらに、硬化剤を含む[5]又は[6]に記載の接着剤。
[8] 前記エポキシ樹脂に対する前記硬化剤の質量割合(硬化剤/エポキシ樹脂)が、0.25~0.8である[7]に記載の接着剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、接着剤に混合することで、当該接着剤の物性を改良することができる接着剤用物性改良剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例4の接着剤を用いて接着継手の疲労寿命試験を行った際の、被着材の破断面を測定したSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る一実施形態(本実施形態)を説明する。
【0013】
[接着剤用物性改良剤]
本実施形態に係る接着剤用物性改良剤は、コアシェル型ゴム粒子とセルロースナノファイバーとを組み合わせてなり、接着剤の物性を改良する。ここでいう「接着剤の物性を改良する」とは、当該接着用物性改良剤を添加しない接着剤よりも、接着剤の機械的物性(例えば、接着疲労寿命、接着強さ、衝撃強度の少なくともいずれか)を向上させることをいう。
【0014】
本実施形態において、コアシェル型ゴム粒子とセルロースナノファイバーとを組み合わせて接着剤に混合すると、コアシェル型ゴム粒子とその付近にあるコアシェル型ゴム粒子とをセルロースナノファイバーが架橋するように結合し、接着疲労寿命、接着強さ、又は、衝撃強度といった接着剤の機械的物性を向上させると考えられる。接着剤としては、種々の接着剤に適用できるが、エポキシ樹脂接着剤であることが好ましい。
【0015】
上記のような物性を向上させる観点から、コアシェル型ゴム粒子に対するセルロースナノファイバーの質量割合(セルロースナノファイバー/コアシェル型ゴム粒子)は、0.05~0.3とし、0.05~0.17とすることが好ましく、0.06~0.13とすることがより好ましい。質量割合が0.05未満だと、セルロースナノファイバーの量が少ないため接着剤中で有用な架橋を形成することができず、0.3を超えると接着剤中でセルロースナノファイバーの分散が困難になり、過剰なセルロースナノファイバーが凝集してしまう。
以下、コアシェル型ゴム粒子及びセルロースナノファイバーについて詳細に説明する。
【0016】
(コアシェル型ゴム粒子)
本実施形態に係るコアシェル型ゴム粒子(以下、「CSR」ということがある)とは、エラストマーやゴム状のポリマー等を主成分とする粒子状のコア部分と、コア部分とは異なるポリマーをグラフト重合等の方法でコア表面の一部又は全体を被覆した粒子である。
【0017】
コアシェル型ゴム粒子のコア部分を構成するポリマーとしては、共役ジエン系モノマー、(メタ)アクリル酸エステル系モノマーより選ばれる1種又は複数種から構成されたポリマー、又はポリシロキサンゴム、あるいはこれらを併用することができる。
【0018】
かかる共役ジエン系モノマーとしては、例えば、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等を挙げることができ、これらを単独で、もしくは複数種用いて構成されるポリマーであってもよく、架橋したポリマーであってもよい。安価に入手でき、重合が容易である点から、ブタジエンが特に好ましい。すなわち、コア成分としてブタジエンを含むモノマーから重合されたポリマーであることが好ましい。
【0019】
コアシェル型ゴム粒子のシェル部分は、接着剤中のマトリクス樹脂に対する親和性を有するものが好ましい。またシェル部分は、マトリクス樹脂と化学反応し、化学結合を形成する機能を有するものであってもよい。マトリクス樹脂が、例えばエポキシ樹脂の場合は、シェル部分を構成するポリマーは、安価に入手可能で、良好なグラフト重合性とエポキシ樹脂に対する親和性等の観点から、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物より選ばれる1種以上の成分を重合して得られる重合体、もしくは、共重合して得られる共重合体であることが好ましい。
【0020】
コアシェル型ゴム粒子の体積平均粒子径(D50)は、50~500nmであることが好ましく、60~300nmであることがより好ましく、80~250nmであることがさらに好ましく、なかでも、90~200nmであることが好ましい。体積平均粒子径が50~500nmであることで、マトリクス樹脂中でのコアシェル型ゴム粒子の分散性が良好となり、後述のセルロースナノファイバーとの架橋がされやすくなって、接着剤物性向上効果が得られやすくなる。
体積平均粒子径(D50)は、レーザ回折式の粒度分布測定装置により測定することができる。
【0021】
コアシェル型ゴム粒子の製造方法については特に制限はなく、公知の方法を採用することができる。
また、コアシェル型ゴム粒子は塊状で取り出されたものを粉砕して粉体として、本実施形態に係る接着剤用物性改良に適用してもよく、塊状で一度も取り出すことなく、エポキシ樹脂等の中に分散させたマスターバッチの状態で適用してもよい。
【0022】
コアシェル型ゴム粒子の取り扱いや分散の容易さから、マスターバッチの状態を用いることが好ましい。マスターバッチの状態のコアシェル型ゴム粒子としては、例えば特開2004-315572号公報に記載の方法で製造することができる。具体的には、乳化重合、分散重合、懸濁重合等の水媒体中で重合する方法を用いてコアシェル型ゴム粒子を作製し、コアシェル型ゴム粒子分散懸濁液を製造する。次に製造した懸濁液に水と部分溶解性を示す有機溶媒(例えばアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類溶媒)を混合後、水溶性電解質(例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム等のアルカリ金属塩)を接触させ、有機溶媒層と水層を相分離させ、水層を除去し、コアシェル型ゴム粒子が分散した有機溶媒を製造する。その後、エポキシ樹脂を混合し、有機溶媒を除去し、コアシェル型ゴム粒子がエポキシ樹脂中に分散したマスターバッチを製造する。かかるコアシェル型ゴム粒子がエポキシ樹脂中に分散したマスターバッチとしては、(株)カネカのカネエース(登録商標)等を用いることができる。
【0023】
(セルロースナノファイバー)
本実施形態に係るセルロースナノファイバー(以下、「CNF」ということがある)は、他のナノファイバーに比べて、化学的安定性、熱的安定性、低コストである点で、実用的といえる。
【0024】
セルロースナノファイバーの平均繊維径は、太すぎたり細すぎたりすると、セルロースナノファイバーの凝集のリスクや接着剤マトリックスの増粘によるハンドリング性の悪化、CSR表面への吸着・架橋がしにくくなるため、1~100nmであることが好ましく、5~80nmであることがより好ましく、10~50nmであることがさらに好ましい。
また、セルロースナノファイバーの平均長さは、繊維径同様、接着剤中での分散性やハンドリング性、CSRとの架橋のしやすさの観点から、0.5~100μmであることが好ましく、1~50μmであることがより好ましく、1~30μmであることがさらに好ましい。
セルロースナノファイバーの平均繊維径や平均長さは、適切な倍率で撮影された電子顕微鏡写真や原子間力顕微鏡像に基づいて測定した繊維径や長さ(n=20程度)から算出することができる。
【0025】
セルロースナノファイバーには種々の製造方法から製造されたものがあるが、なかでも機械解繊で製造された機械解繊セルロースナノファイバーであることが好ましい。機械解繊セルロースナノファイバーは、原料ファイバーをビーターやリファイナーで所定の長さとして、高圧ホモジナイザー、グラインダー、衝撃粉砕機、ビーズミル等を用いて、フィブリル化または微細化(機械粉砕)して得られる。
【0026】
他方、化学修飾されて製造される化学修飾セルロースナノファイバーがある。この化学修飾セルロースナノファイバーは、原料ファイバーを化学的処理により微細化しやすくし、その後、機械解繊で微細化して得られる。例えば、TEMPO酸化CNFのような化学修飾CNFを用いると塩に含まれる金属イオンが不純物として働く可能性がある。金属イオンとしては、例えば、ナトリウム、アルミニウム、銅、及び銀が挙げられる。
【0027】
一方で、機械解繊セルロースナノファイバーは微細化の際に化学修飾等を行わず、媒体として水性媒体だけを用いるので、無機粒子に何らかの影響を及ぼしやすい化合物が存在せず、化学的にも熱的にも安定である。そのため、化学修飾セルロースナノファイバーよりも実用的といえる。
なお、高圧ホモジナイザーで処理しても、機械解繊セルロースナノファイバーは重合度の低下が起きにくい。
【0028】
ここで、機械解繊セルロースナノファイバーは、ナトリウム、アルミニウム、銅、及び銀のいずれか1つ(好ましくは、いずれか2つのそれぞれ、より好ましくはいずれか3つのそれぞれ)の含有率が0.1質量%以下となっており、0.01質量%以下となっていることが好ましい。
上記含有率は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法、電子線マイクロアナライザーを用いたEPMA法、蛍光X線分析法の元素解析により測定して求めることができるが、上記の少なくともいずれかで含有率が0.1質量%以下となっており、0.01質量%以下となっていることが好ましい。
【0029】
また、機械解繊セルロースナノファイバーの重合度は、100~1000であることが好ましく、550~900であることがより好ましく、600~850であることがさらに好ましい。重合度が100~1000であることで、接着剤中での分散性と架橋に適したセルロースナノファイバーにすることができる。
重合度は、セルロースの最小構成単位であるグルコース単位の連結数であり、銅エチレンジアミン溶液を用いた粘度法によって求められる。
【0030】
本実施形態のセルロースナノファイバーは、セルロースを機械解繊して得られるCNF分散体の状態、あるいはCNF分散体を乾燥して乾燥状態のCNF(乾燥CNF)を、接着剤用物性改良材に適用してもよい。
【0031】
セルロースナノファイバーの原料であるセルロースを機械粉砕してCNF分散体とする解繊手法としては、パルプをビーターやリファイナーで所定の長さとして、高圧ホモジナイザー、グラインダー、衝撃粉砕機、ビーズミルなどを用いて、フィブリル化または微細化することで機械粉砕する方法が挙げられる。
【0032】
セルロースとしては、結晶形がI型のセルロース(セルロースI型)である木材パルプや、コットン、リンター、麻、バクテリアセルロース、柔細胞繊維などの非木系パルプ、結晶形がII型のセルロース(セルロースII型)である溶解剤としてN一メチルモルホリンN-オキシド/水溶媒、銅アンモニア錯体、水酸化ナトリウム/二硫化炭素を用いた再生セルロース繊維等が用いられる。セルロースII型は、分子量および結晶化度が低下しているため、セルロースI型よりも繊維が切断されやすく、また、耐熱性も低いので、好ましい材料としては、セルロースI型である。
【0033】
既述の解繊手法としては、セルロース分散流体(好ましくはセルロース水分散流体)を直径0.1~0.8mmの噴射ノズルを介して、100~245MPaの高圧噴射処理により、衝突用硬質体に衝突させて解繊する方法、すなわち、ウォータージェット(WJ)のせん断力、衝突力、キャビテーションを利用した解繊手法(WJ法)であることが好ましい。当該方法によれば、市販されている高圧ホモジナイザーのように、セルロース分散流体を高圧低速で狭い流路を通過させ、解放時に均質化させるせん断力だけではなく、衝突用硬質体に衝突させることによる衝突力や、キャビテーションを利用した、高圧での連続処理が可能である。
WJ法においては、均一なナノファイバーを得る観点から、衝突処理を1回行うことを1パスとして、好ましくは1~30パス、さらに好ましくは5~20パスの繰り返し衝突を行うことが好ましい。
【0034】
また、WJ法は酸やアルカリを使用する必要がないため、例えばセルロースの分子鎖へのダメージが少なく、結晶化度の高いCNFが得られる。なお、セルロースの場合、未処理に対する各パス回数(衝突回数)における結晶化度は、40~83%となる。ボールミルやディスクミルなどの他の物理的粉砕法では、結晶化度が低下していくのに対して、WJ法では、結晶化度が低下し難いことが大きな特長である。
【0035】
さらに、WJ法では、最大で30質量%の高濃度のセルロース分散流体を直径0.1~0.8mmの噴射ノズルを介して、100~245MPaの高圧噴射処理により、衝突用硬質体に衝突させて解繊することができ、一般的に行われている1~2質量%のナノファイバー化の工程に比べ、固形分当たりの処理量が飛躍的に向上することから、低コスト・環境低負荷・高効率でのCNF分散体を得ることができる。
【0036】
乾燥状態のCNFは、例えば、CNF分散体、あるいはこれに適宜有機成分を混合撹拌等したものを、乾燥装置内で予熱期間経過後に進行する恒率乾燥期間(食品などを一定の加熱条件で乾燥する過程で時間に対して含水率が一定の割合で減少していく乾燥過程の期間)において、その乾燥速度が0.0002~0.5[kg/m2・s]の条件で行うことで得ることができる。
【0037】
このとき、乾燥前の湿り材料の質量をms[kg]の時間θ[s]に対する変化について、減少速度をrm[kg/s]として表すとrm=-dms/dθで表され、乾き材料の質量をm[kg]、水分の質量をmw[kg]とすると、ms=m+mwであり、乾燥工程中ではmは不変であり、rm=-d(m+mw)/dθ=-dmw/dθと示され、さらに、乾燥速度Rは、蒸発が起こる面積A[m2]を基準として、R=-1/A・dmw/dθ=rm/A[kg/m2・s]と表される。
【0038】
WJ法によって製造したセルロースナノファイバーを乾燥させる乾燥速度について、上記0.0002~0.5[kg/m2・s]の範囲に含まれる場合は、乾燥時に強固な凝集を起こすことなく、樹脂への分散性を高くすることができる。一方で、乾燥速度が0.0002[kg/m2・s]を下回ると極端に分散性が低下する場合がある。乾燥速度0.0002~0.5[kg/m2・s]の範囲に含まれる条件の乾燥方法としては、所望の乾燥速度が得られる乾燥装置であれば、限定されず、種々の市販された乾燥装置を用いることができる。例えば、噴霧乾燥法を利用した噴霧乾燥装置だけでなく、真空乾燥法を利用した乾燥装置、気流乾燥法を利用した気流式乾燥装置、流動層乾燥法を利用した流動層乾燥装置などが想定できる。
【0039】
噴霧乾燥は、液体や、液体と固体との混合物(スラリー)を気体中に噴霧して急速に乾燥させ、乾燥粉体を製造する手法である。噴霧乾燥は、スプレードライやスプレードライングとも呼ばれ、食品や医薬品といった熱で傷みやすい材料を乾燥させるのが好ましく、乾燥体が安定した粒度分布となるので、触媒のような製品の乾燥に用いられる。
【0040】
真空乾燥は、真空または減圧下で乾燥させる手法である。気圧が下がると空気中の水蒸気分圧が下がり、水分の沸点が低下し蒸発速度が加速されるので、対象物の乾燥を早めることができる。
【0041】
気流乾燥は、粉状、湿潤状、泥状、または塊状の材料を300~600℃の高速熱気流中で浮遊させ、輸送しつつ数秒単位で急速に乾燥させる手法である。熱風が気流乾燥管内を一般に10~30m/s程度で流れるので伝熱効率がよい。
【0042】
流動層乾燥は、乾燥ガスを吹き込むことで粉体を流動化させ、乾燥させる手法であり、流動層の優れた混合性、ガス接触性、伝熱性を乾燥に利用したものである。被乾燥物は流動室の一端から投入されて浮遊流動しながら出口より排出される。被乾燥物の移動速度、流動状態などを適宜調節したり、仕切板を入れる場合もある。
【0043】
噴霧乾燥を行うスプレードライヤー及びその条件等としては、例えば、特開2019-131772号公報及び特開2019-131774号公報に記載のものを採用することが可能で、これによりセルロースナノファイバーの含水率が10質量%以下であるセルロースナノファイバー添加剤が製造される。
なお、乾燥速度を0.0002~0.5[kg/m2・s]の範囲に調整することで、乾燥CNFの含水率を10質量%以下とすることできる。
【0044】
以上のようなCSR及びCNFを、これらの質量比(CNF/CSR)が、0.05~0.3の範囲になるように組み合わせることで、本実施形態に係る接着剤用物性改良剤が作製される。
【0045】
ここで、CSR及びCNFを組み合わせる態様としては、CSR及びCNFが接着剤に混合された際に、これらの相互作用が発揮されるような態様であれば特に限定されず、CSRの粉体及び/又はCSRをエポキシ樹脂等の中に分散させたマスターバッチと、CNF分散体(好ましくはCNF水分散体をエタノール置換したCNFエタノール分散体)又は乾燥CNFとの組み合わせであることが好ましい。接着剤に添加する際にこれらは予め混合された状態でもよく、接着剤に添加する際にこれらを同時若しくは順次添加して組み合わされた状態でもよい。すなわち、最終的に、接着剤中にCSR及びCNFが混在している状態となればよい。
【0046】
[接着剤]
本実施形態に係る接着剤は、既述の接着剤用物性改良剤とマトリクス樹脂とを含む。すなわち、本実施形態に係る接着剤は、既述のコアシェル型ゴム粒子とセルロースナノファイバーとマトリクス樹脂とを含む。
マトリクス樹脂としては、熱硬化性樹脂が好ましく、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリル(テレ)フタレート樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂等が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は1種または2種以上を併用して用いることができる。また、熱硬化性樹脂の特性を損なわない範囲で少量の熱可塑性樹脂やアクリル、スチレン等のモノマーを添加することが可能である。
【0047】
上記のマトリクス樹脂の中でもエポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂は他の樹脂に比べて、本実施形態の接着剤物性改良材との親和性が高く、かつ汎用性も良好である。
【0048】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、脂肪族ポリエポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、グリシジルアミン型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、モノエポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化スチレンーブタジエンースチレンブロック共重合体、エポキシ基含有ポリエステル樹脂、エポキシ基含有ポリウレタン樹脂、エポキシ基含有アクリル樹脂、スチルベン型エポキシ化合物、トリアジン型エポキシ化合物、フルオレン型エポキシ化合物、トリフェノールメタン型エポキシ化合物、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ化合物、ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物、アリールアルキレン型エポキシ化合物等が挙げられる。なかでも、本実施形態の接着剤物性改良材との良好な親和性の観点から、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。
【0049】
ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールF型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂等が挙げられ、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。
【0050】
マトリクス樹脂は、硬化剤を含有することもできる。硬化剤としては、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、アミド系硬化剤、フェノール系硬化剤、チオール系硬化剤、イミダゾール、3フッ化ホウ素-アミン錯体、グアニジン誘導体等が挙げられる。
【0051】
マトリクス樹脂としてエポキシ樹脂を使用する場合、アミン系硬化剤を用いることが好ましい。
アミン系硬化剤としては、例えば、脂肪族アミン、脂環族アミン、変性脂肪族ポリアミン、変性脂環族アミン及びポリアミドアミンからなる群より選択される少なくとも一種であってよく、なかでも、ポリオキシプロピレンジアミン等のポリオキシアルキレンジアミンが好ましい。ポリオキシプロピレンジアミンは、「JEFFAMINE D-230」(ハンツマン・ジャパン(株)製)が市販品として挙げられる。
【0052】
エポキシ樹脂に対する硬化剤の質量割合(硬化剤/エポキシ樹脂)は、硬化速度の観点から、0.25~0.8であることが好ましく、0.25~0.50であることがより好ましく、0.28~0.30であることがより好ましい。
【0053】
また、必要に応じて、硬化促進剤を含んでもよい。当該硬化促進剤は、エポキシ基等と反応しうる硬化促進剤であれば特に限定されず、各種公知のものを用いることができる。
本発明の効果が損なわれない範囲であれば、マトリクス樹脂には従来公知の各種添加剤を含有しても良く、例えば、加水分解防止剤、着色剤、難燃剤、酸化防止剤、重合開始剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、離型剤、消泡剤、レベリング剤、光安定剤(例えば、ヒンダードアミン等)、酸化防止剤、無機フィラー、有機フィラー等を挙げることができる。
【0054】
本実施形態に係る接着剤は、既述の材料を用いて、各種公知の方法で作製することができる。例えば、マトリクス樹脂、接着剤用物性改良剤、及び必要に応じて硬化剤等を、常圧、若しくは減圧下で混合ミキサー等の撹拌機を用いて十分に撹拌して製造する方法、あるいは、マトリクス樹脂、接着剤用物性改良剤、及び必要に応じて硬化剤等を、各種有機溶剤に溶解させて、混合ミキサー等の撹拌機を用いて十分に撹拌する方法等が挙げられる。有機溶剤は、例えば、シクロヘキサンノン、トルエン等が挙げられる。
【実施例0055】
[実施例1~3、比較例1]
下記のセルロースナノファイバーA~Cのいずれかとコアシェル型ゴム粒子とを表1のように組み合わせたものを接着剤用物性改良材とし、下記のようにして接着剤を作製した。
まず、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル製:jER828,エポキシ当量190)に、セルロースナノファイバーA~Cのいずれかとコアシェル型ゴム粒子とを表1に示す配合で添加した。さらにアミン系硬化剤(ポリオキシプロピレンジアミン、ハンツマン・ジャパン(株)製「JEFFAMINE D-230」)を表1に示す配合で加えて、自転・公転式ミキサ(THINKY製AR-100)を用いて800/2000rpm(自転/公転)の条件下で10分間撹拌した。その後、0/2000rpmの条件下で5分間脱泡処理を行うことで接着剤を作製した。
【0056】
・セルロースナノファイバーA:(株)スギノマシン製FMa(乾燥CNF)、重合度200、平均繊維径20nm、比表面積150m2/g、I型結晶
・セルロースナノファイバーB:(株)スギノマシン製WFo(乾燥CNF)、重合度650、平均繊維径20nm、比表面積120m2/g、I型結晶
・セルロースナノファイバーC:(株)スギノマシン製IMa(乾燥CNF)、重合度800、平均繊維径20nm、比表面積120m2/g、I型結晶
なお、セルロースナノファイバーA~Cはいずれも機械解繊セルロースナノファイバーに該当する。
・コアシェル型ゴム粒子:(株)カネカ製カネエース(登録商標)MX-153(CSR:33質量%を含むマスターバッチ)、体積平均粒子径(D50)100nm
【0057】
(評価)
各実施例及び比較例の接着剤について、下記の評価を行った。結果を表1に示す。
(1)引っ張りせん断接着強さ
JIS K6850に準拠した方法により、引っ張りせん断接着強さを下記のようにして測定した。
まず、試験片(194mm×25mm、厚さ1.6mmの冷間圧延鋼)の片面に接着剤を塗布し、別の試験片(194mm×25mm、厚さ1.6mmの冷間圧延鋼)と重ね合わせて貼り合わせた。次いで、電気炉にて70℃,7.0時間の条件下で硬化を行った。これを引張りせん断接着強さ測定用試料とした。引張りせん断接着強さ(単位:MPa)は、材料万能試験機(島津製作所製、定格荷重100kN)を用い、温度23℃、湿度50%の環境下で、引張速度0.5mm/分の条件で測定した。試料数(n)は5とし、平均を求めた。
【0058】
(2)接着継手の疲労寿命
JIS K6864に準拠した方法により、接着継手の疲労寿命を下記のようにして測定した。
まず、測定用試料としては、上記引張りせん断接着強さ測定用試料と同じものを用いた。接着継手の疲労寿命は、油圧サーボ式強度試験機(島津製作所製、定格荷重50kN)を用い、温度23℃、湿度50%の環境下で、最大応力は静的強度に対して70%、周波数:5Hz、波形:正弦波、応力比:0.1の条件で測定した。試料数(n)は5とし、平均を求めた。
【0059】
(3)接着剤の衝撃強度
温度23℃、湿度50%の環境下で、JIS K6855に準拠した方法で、接着剤の衝撃強度を下記のようにして測定した。
まず、被着材はJIS SS400とし、この接着面を研削によってRa1.6μmに調整し、脱脂した。フッ素樹脂テープを用いて制御しながら、接着剤を厚さ0.16mmとなるように被着体に塗布し、被着材同士を接合した。その後、電気炉にて70℃、7.0時間の条件下で硬化を行った。試験にはアイゾッド衝撃試験機(衝撃試験機IT:東洋精機(株))を使用し、一方の被着材の端面から上部に9.0mmの位置に打撃を与えた。打撃ハンマの角度変化より、接着継手の破壊に要するエネルギを測定した。衝撃接着強さは以下の式を用いて算出した。試料数(n)は5とし、平均を求めた。
式:S=E/A
ここで、Eは衝撃吸収エネルギ、Aは接着面積である。試料数(n)は5とし、平均を求めた。
【0060】
【0061】
[実施例4、5、比較例2]
CNFの添加量を表2のように変更した以外は実施例2と同様にして接着剤を作製した。作製した接着剤について、既述の評価を行った。なお、接着継手の疲労寿命は、最大応力は静的強度に対して90%とし、他を既述の条件として評価を行った。結果を表2に示す。
【0062】
【0063】
ここで、実施例4で作製した接着剤を用いて接着継手の疲労寿命試験を行った際に、被着材の破断面を電子顕微鏡(日本電子株式会社製、装置名JSM-7001FD)で測定した結果を
図1に示す。
図1に示すように、破断面においてCNFとエポキシ中に分散したCSRとが架橋するように結合していることが観察できる。CNFとエポキシ中に分散したCSRとが架橋されていることで、素材間での界面接着性が向上し、亀裂の進展が抑制されたと推察される。これにより、接着疲労寿命、接着強さ、又は、衝撃強度といった接着剤の機械的物性を向上させると考えられる。