(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008902
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】異常箇所推定システム
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20240112BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
G01M99/00
G01H17/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111005
(22)【出願日】2023-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2022109325
(32)【優先日】2022-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】517069066
【氏名又は名称】ロボセンサー技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107102
【弁理士】
【氏名又は名称】吉延 彰広
(74)【代理人】
【識別番号】100172498
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 秀幸
(74)【代理人】
【識別番号】100164242
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 直人
(72)【発明者】
【氏名】大村 昌良
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
【Fターム(参考)】
2G024AD01
2G024BA21
2G024BA27
2G024CA13
2G024FA06
2G024FA15
2G064AA11
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB13
2G064AB15
2G064AB22
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC02
2G064CC41
2G064DD02
(57)【要約】
【課題】本発明は、安価な異常箇所推定システムを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の異常箇所推定システム1は、第1の間隔L1をあけて複数のローラ94が配置されたベルトコンベア9の異常箇所を推定する異常箇所推定システム1であって、第1の間隔L1よりも広い第2の間隔L2をあけてベルトコンベア9に取り付けられて振動を検出する複数の振動検出器2と、複数の振動検出器2それぞれが検出した振動を表す検出信号を受信し、検出信号に基づいて複数のローラ94のうち異常が生じているローラ94を推定する異常箇所推定装置3とを備えている。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象の機器に間隔をあけて取り付けられて振動を検出する複数の振動検出器と、
複数の前記振動検出器それぞれが検出した振動を表す検出信号を受信し、該検出信号に基づいて異常が生じている異常箇所を推定する異常箇所推定装置とを備えたことを特徴とする異常箇所推定システム。
【請求項2】
前記異常箇所推定装置は、前記検出信号に前記異常箇所を特定する情報が対応付けられた教師データによる学習により構築された学習モデルを記憶する学習モデル記憶部と、前記機器を駆動しているときに該検出信号を受信する検出信号取得部と、該学習モデルを用いて、該検出信号取得部が取得した該検出信号から前記異常箇所を推定する推定部とを有するものであることを特徴とする請求項1記載の異常箇所推定システム。
【請求項3】
前記機器の正常状態における前記検出信号の情報である正常振動情報を記憶した記憶部を備え、
前記異常箇所推定装置は、前記正常振動情報と受信した前記検出信号の情報である受信振動情報とを比較することで前記機器の異常状態の有無を判別して該異常状態である場合には異常な振動の周波数を特定し、前記振動検出器それぞれが検出した振動の該周波数における振動波形を比較することで前記異常箇所を推定する推定部を有するものであることを特徴とする請求項1記載の異常箇所推定システム。
【請求項4】
前記推定部は、前記振動検出器それぞれが検出した振動の前記周波数における位相ズレを用いて前記異常箇所を推定するものであることを特徴とする請求項3記載の異常箇所推定システム。
【請求項5】
第1の間隔をあけて複数の作動部が配置された機器の異常箇所を推定する異常箇所推定システムであって、
前記第1の間隔よりも広い第2の間隔をあけて前記機器に取り付けられて振動を検出する複数の振動検出器と、
複数の前記振動検出器それぞれが検出した振動を表す検出信号を受信し、該検出信号に基づいて複数の前記作動部のうち異常が生じている異常作動部を推定する異常箇所推定装置とを備えたことを特徴とする異常箇所推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出対象の機器の異常箇所を推定する異常箇所推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
被搬送物を搬送するベルトコンベアの搬送方向全長にガイドレールを設置し、音を検出するセンサを搭載した移動台車をそのガイドレールに沿って移動可能に配置して制御手段によって移動台車を移動させてベルトコンベアに設けられたローラごとの音を検出することで異常が発生したローラを特定する異常箇所検出システムが知られている(例えば、特許文献1等参照)。また、工作機械、ロボット、農業機械、車、家電、ロケット、飛行機などの他の機器においてもセンサを用いて機器の異常箇所を検出する異常箇所検出システムが使用されている。さらに、近年では故障予測やメンテナンス作業の効率化を行うためにこれらの機器に異常箇所検出システムを配置することも検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の異常箇所検出システムでは、ベルトコンベアの搬送方向に沿ってセンサを移動させるための設備や制御手段が必要になってしまうため、異常箇所検出システムが高価になってしまうという問題がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑み、安価な異常箇所推定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を解決する本発明の異常箇所推定システムは、
検出対象の機器に間隔をあけて取り付けられて振動を検出する複数の振動検出器と、
複数の前記振動検出器それぞれが検出した振動を表す検出信号を受信し、該検出信号に基づいて異常が生じている異常箇所を推定する異常箇所推定装置とを備えたことを特徴とする。
【0007】
この異常箇所推定システムによれば、前記振動センサを移動させる必要がないので、異常箇所推定システムを安価に構成できる。
【0008】
ここで、前記機器は、運搬機器であってもよく、ベルトコンベアであってもよい。また、前記異常箇所推定装置は、前記振動検出器どうしの間に生じた異常の発生箇所を前記異常箇所として推定するものであってもよい。
【0009】
また、本発明の異常箇所推定システムにおいて、
前記異常箇所推定装置は、前記検出信号に前記異常箇所を特定する情報が対応付けられた教師データによる学習により構築された学習モデルを記憶する学習モデル記憶部と、前記機器を駆動しているときに該検出信号を受信する検出信号取得部と、該学習モデルを用いて、該検出信号取得部が取得した該検出信号から前記異常箇所を推定する推定部とを有するものであってもよい。
【0010】
前記推定部が、前記学習モデルを用いて前記異常箇所を推定することで、前記異常箇所推定装置が該異常箇所を正確に推定できる。
【0011】
また、本発明の異常箇所推定システムにおいて、
前記機器の正常状態における前記検出信号の情報である正常振動情報を記憶した記憶部を備え、
前記異常箇所推定装置は、前記正常振動情報と受信した前記検出信号の情報である受信振動情報とを比較することで前記機器の異常状態の有無を判別して該異常状態である場合には異常な振動の周波数を特定し、前記振動検出器それぞれが検出した振動の該周波数における振動波形を比較することで前記異常箇所を推定する推定部を有するものであってもよい。
【0012】
前記周波数における振動波形を比較することで該異常箇所を推定できる。
【0013】
さらに、本発明の異常箇所推定システムにおいて、
前記推定部は、前記振動検出器それぞれが検出した振動の前記周波数における位相ズレを用いて前記異常箇所を推定するものであってもよい。
【0014】
位相ズレを用いて推定することで、該異常箇所をより高精度に推定できる。
【0015】
また、上記目的を解決する本発明の異常箇所推定システムは、
第1の間隔をあけて複数の作動部が配置された機器の異常箇所を推定する異常箇所推定システムであって、
前記第1の間隔よりも広い第2の間隔をあけて前記機器に取り付けられて振動を検出する複数の振動検出器と、
複数の前記振動検出器それぞれが検出した振動を表す検出信号を受信し、該検出信号に基づいて複数の前記作動部のうち異常が生じている異常作動部を推定する異常箇所推定装置とを備えたことを特徴とする。
【0016】
この異常箇所推定システムによれば、前記振動センサを移動させる必要がなく、前記作動部よりも少ない数の該振動センサで該異常作動部を推定するので、異常箇所推定システムを安価に構成できる。なお、ここでいう異常作動部とは、既に故障が発生している作動部だけでなく近いうちに故障の発生が予想される作動部や部品交換またはメンテナンスが必要になる可能性の高い作動部を含む。
【0017】
ここで、前記機器は、運搬機器であってもよく、ベルトコンベアであってもよい。また、前記異常箇所推定装置は、前記機器が正常状態か異常状態かを判定して該異常状態であるときに前記異常作動部を推定するものであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、安価な異常箇所推定システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】
図1に示したベルトコンベアの一部を拡大して示す図である。
【
図3】
図2のA-A線で切断したA-A断面図である。
【
図4】(a)は、
図1に示した振動検出器の平面図であり、(b)は、同図(a)に示した振動検出器の正面図である。
【
図5】(a)は、
図4(a)に示した振動検出器の下面図であり、(b)は、同図(a)に示した振動検出器から対向部材を取り外した状態を示す下面図である。
【
図7】異常箇所推定システムの機能構成を示すブロック図である。
【
図8】第2実施形態の異常箇所推定システムを示す
図7と同様のブロック図である。
【
図9】(t1)は、異常が生じているローラと振動検出器との位置関係および特定周波数の振動波形を示す模式図であり、(t2)は同図(t1)から所定時間経過後の同振動波形を示す模式図であり、(t3)は、同図(t2)からさらに所定時間経過後の同振動波形を示す模式図である。
【
図10】
図9に示した2つの振動検出器それぞれが計測した振動波形を重ねて示す模式図である。
【
図11】工作機械や製造装置などの機器を簡略化して示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。本実施形態では、本発明の異常箇所推定システムをベルトコンベアに適用した例を用いて説明する。
【0021】
【0022】
図1に示すように、ベルトコンベア9は、始端側ホッパH1によって供給された石炭などの被搬送物G(
図3参照)を終端側ホッパH2に搬送する公知のコンベアである。このベルトコンベア9は機器の一例に相当に相当する。以下、始端側ホッパH1がある側を上流側と称し、終端側ホッパH2がある側を下流側と称することがある。
【0023】
ベルトコンベア9は、躯体90と、支柱91と、平ベルト92(
図2参照)と、複数のローラ94(
図2参照)と、不図示のベルト駆動装置とを有している。これらのローラ94は、それぞれ作動部の一例に相当する。躯体90は、支柱91によって支持され、搬送経路に沿って延在している。以下、搬送経路に沿う方向(躯体90が延在している方向)を、搬送方向と称することがある。
図1には本発明の異常箇所推定システム1(
図7参照)の一部をなす振動検出器2を黒丸で示している。この振動検出器2は、搬送経路に沿ってほぼ等間隔で複数配置されている。
【0024】
図2は
図1に示したベルトコンベアの一部を拡大して示す図であり、
図3は
図2のA-A線で切断したA-A断面図である。躯体90は上流側端部以外は上方に向かって傾斜しているが、
図2では傾斜角度は無視して左右方向に延在するように描いている。
【0025】
図2および
図3に示すように、躯体90は、フレーム901と、枠体902と、斜材903とを有している。フレーム901は、躯体90の四隅それぞれに配置され搬送経路に沿って延在した、断面視がL字状をしたL型鋼である。枠体902は、搬送経路に沿った第1の間隔L1ごとにフレーム901に固定された鋼材である。枠体902は、搬送方向に見て上下方向に長い長方形の枠形状をしている。斜材903は、枠体902の間で各フレーム901を連結して筋交い状に延び、上流端と下流端それぞれが異なるフレーム901に固定された鋼板である。
【0026】
平ベルト92は、帯状の無端ベルトである。この平ベルト92は、枠体902の内側で搬送方向に沿って延在している。平ベルト92は、往路では上流側から下流側に向かって走行し、復路では下流側から上流側に向かって走行する。
図2および
図3では、上側にある平ベルト92は往路を走行しており、下側にある平ベルト92は復路を走行している。
図2には、平ベルト92の走行方向を白抜きの矢印で描いている。平ベルト92は、往路においては複数のローラ94によって支持されている。また、往路において平ベルト92の上には被搬送物Gが載置されている。平ベルト92は、不図示のベルト駆動装置を駆動することで往路および復路を循環する。なお、平ベルト92は、復路においても複数のローラで支持されていてもよい。
【0027】
ローラ94は、枠体902ごとに設けられている。このローラ94は、枠体902に固定された軸受けを介して回転自在に枠体902に取り付けられている。平ベルト92が走行することでローラ94はその軸心を中心にして回転する。
【0028】
図2に示すように、振動検出器2は、搬送方向に並んだ4つの枠体902ごとに1つづつ配置されている。すなわち、振動検出器2が配置された間隔である第2の間隔L2は、ローラ94が配置された間隔である第1の間隔L1の4倍の間隔である。振動検出器2は、ローラ94の近傍であって枠体902に磁力によって取り付けられている。ただし、振動検出器2をネジなどの締結用機械要素によって枠体902に取り付けてもよい。振動検出器2の構成については後に詳述する。
【0029】
図4(a)は、
図1に示した振動検出器の平面図であり、
図4(b)は、同図(a)に示した振動検出器の正面図である。また、
図5(a)は、
図4(a)に示した振動検出器の下面図である。振動検出器2は、
図4(b)における下面側が枠体902側(
図3参照)になるように、枠体902に取り付けられている。このため、振動検出器2は、
図4(b)に示した姿勢に対して90度回転した姿勢で枠体902に取り付けられているが、以下の振動検出器2の構造に関する説明では、
図4(b)における上下方向を基準にして説明する。
【0030】
図4(a)および
図4(b)に示すように、振動検出器2は、高さが7.4mmで直径が25mmの円柱状をしている。なお、振動検出器2は、使用条件等に応じて任意の大きさのものが用いられる。振動検出器2は、線状センサ21と、収容部材22と、対向部材23と、ベース部材24と、磁石25と、回路基板26と、信号ケーブル27とを備えている。振動検出器2は磁石25の磁力によって枠体902(
図3参照)に吸着している。線状センサ21の大部分はベース部材24の下面と対向部材23の上面の間にある。
【0031】
図4(b)に示すように、収容部材22は、天板部221と周壁部222とが一体に形成された強磁性体のステンレス製のものである。収容部材22は、ステンレス以外の材質で構成されていてもよいが、強磁性体で構成されていることが好ましく、軟磁性材料によって構成されていることがより好ましい。なお、
図4(b)では、収容部材22の内側面とベース部材24とが区別できるようにベース部材24を少し小さく描いているが、実際にはベース部材24の上面は収容部材22の天板部221の下面と接している。また、ベース部材24の側面と周壁部222の内周面との間にはわずかな隙間しか存在していない。ベース部材24の下面にある線状センサ21およびベース部材24は、天板部221と対向部材23によって挟み込まれることで固定されている。
【0032】
天板部221は円盤状をしている。この天板部221は振動検出器2の上面を構成している。周壁部222は、天板部221の周縁部分から垂下している。これらの天板部221と周壁部222によって下方が開口した収容空間が形成されている。線状センサ21、対向部材23の殆どの部分、ベース部材24、磁石25および回路基板26は、この収容空間に収容されている。周壁部222の下端には薄肉部分が形成されている。また
図5(a)に示すように、周壁部222には、下端から上方に向かって凹み、信号ケーブル27が通るための切欠部が形成されている。
【0033】
図4(b)に示すように、対向部材23は、収容部材22下端に形成された開口を塞いだ板状の部材である。この対向部材23は、板厚1.0mmのアルミ製のものである。対向部材23の材質は他の金属や樹脂であってもよいが、非磁性体で構成することが好ましい。また、板厚は材質などに応じた任意の厚みで構わない。対向部材23は、周壁部222下端の薄肉部分の内側に圧入されている。対向部材23の下面は周壁部222の下面よりも少しだけ下方に位置している。対向部材23上面の中央部分には、下方に窪んだ対向凹部が形成されている。対向凹部は、磁石25の外径よりも少し大きな径の円形状に形成されており、対向凹部内には磁石25の下端部分が入り込んでいる。
【0034】
ベース部材24の上面には、回路基板26、信号ケーブル27の一端部分などが配置される空間を画定するベース凹部が形成されている。線状センサ21の両端部は、ベース部材24に形成された引出孔を通ってベース凹部内に繋がり端子部材を介して、回路基板26に接続されている。
【0035】
磁石25は、円柱状をしたネオジウム磁石である。なお、磁石25は、ネオジウム磁石以外の硬磁性材料で構成された磁石、例えばサマリウムコバルト系磁石であってもよい。また、磁石25の形状は角柱状など他の形状であってもよい。磁石25の殆どの部分は、後述するベース貫通孔241(
図5(b)参照)内に配置されているが、下端部分はベース部材24よりも下方に突出しており、上述したように対向部材23の対向凹部内に入り込んでいる。
【0036】
回路基板26は、ベース凹部内に配置されている。この回路基板26は、プリアンプと、A/D変換部と、イコライザーとを有している。プリアンプは、線状センサ21の出力信号を増幅するためのものである。プリアンプは、線状センサ21からの信号電圧を±5V程度の範囲に収まるように調整されたゲインで増幅する。A/D変換部は、プリアンプによって増幅された信号をデジタル変換するものである。イコライザーは、A/D変換部から出力されたデジタル信号を補正して出力する。線状センサ21には感度の高い周波数と感度の低い周波数が存在する。イコライザーによって、線状センサ21の感度特性に基づく出力レベルのばらつきが補正される。これにより、線状センサ21の感度特性によらず、周波数ごとに同一条件によるデータを出力できる。
【0037】
信号ケーブル27は、信号線と、シグナルグランド線と、アース線と、電源線とを内部に有し、外側がプロテクションチューブによって覆われたケーブルである。信号ケーブル27は、線状センサ21で得られ回路基板26によって調整された信号を外部機器に伝達するためのものである。信号ケーブル27の一端は、ベース凹部内で端子部材を介して回路基板26に接続されている。
【0038】
図5(b)は、
図5(a)に示した振動検出器から対向部材を取り外した状態を示す下面図である。
【0039】
図5(b)に示すように、ベース部材24は、中心部分に上下方向に貫通したベース貫通孔241が形成された概して中空円柱状をした樹脂製のものである。ベース貫通孔241は、磁石25の外径よりも少し大きな径に形成されている。ベース部材24の下面には、螺旋溝242が形成されている。螺旋溝242は、渦巻状に略4周周回して形成されている。螺旋溝242の両端には、ベース部材24の上下方向に貫通した引出孔が2つ形成されている。線状センサ21は、その螺旋溝242に沿って延在している。そして、線状センサ21の一端はベース部材24の外周側に形成された引出孔を貫通してベース部材24の上面側に達し、線状センサ21の他端はベース部材24の内周側に形成された引出孔を貫通してベース部材24の上面側に達している。
【0040】
【0041】
図6に示すように、線状センサ21は、センサ線210と、内側シース214と、シールド被覆215と、外側シース216とを備えている。センサ線210は、内部導体211と圧電体212と外部導体213とから構成されている。内部導体211は、線状センサ21の中心に配置されており、7本の導体線2111で構成されている。圧電体212は、内部導体211の外周に設けられている。外部導体213は、圧電体212の外周に設けられている。この線状センサ21は、主に被検出体の振動を検出するものである。
【0042】
7本の導体線2111は、いずれも直径が50μmのものであって、このうち4本はステンレス製の導体線211Sであり、残りの3本は銅製の導体線211Cである。
図6では、ステンレス製の導体線211Sを左下がりのハッチングで、銅製の導体線211Cを右下がりのハッチングでそれぞれ示している。
【0043】
7本の導体線2111は、正六角形の各頂点およびその正六角形の中心に配置された状態になっている。これらの7本の導体線2111は、一本に撚り合わされた状態のものである。すなわち、内部導体211は、7本の導体線2111をその断面において最密構造に配置した上で撚り合わせたものである。内部導体211の数は7本でなくてもよい。複数の導体線2111を撚り合わせることにより、線状センサ21の柔軟性を高めることができる。ただし、複数の導体線2111を撚り合わせずに、直線状に束にしたものを用いてもよい。
【0044】
以上説明したセンサ線210では、内部導体211を構成する導体線2111として、機械的強度や電気抵抗が異なる複数種類の導体線が用いられているが、柔軟性をさらに高める場合や、電気抵抗をさらに低くする場合には、銅製の導体線211Cの割合を増加させてもよい。反対に、機械的強度および剛性をさらに高める場合には、ステンレス製の導体線211Sの割合を増加させてもよい。また、導体線2111として、タングステン、チタン、タングステン、バネ鋼材または合金等からなる導体線を用いてもよい。さらには、カーボンナノチューブやピッチ系炭素繊維を含む導体線であってもよい。
【0045】
圧電体212は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の圧電材料を内部導体211に塗布することによって形成されたものである。なお、塗布する構成に限らず、例えば、帯状のPVDFフィルムを内部導体211に螺旋状に巻き付けた構成であってもよい。ポリフッ化ビニリデンは、圧電効果が発生する軽量の高分子材料であり、これに圧力を加えると電圧が発生し、電圧を加えると歪が発生する特性を備えている。圧電体212には分極処理が施されており、振動等によって圧電体212に変形が生じたときに内部導体211と外部導体213の間に電圧が誘起される。圧電体212を構成する圧電材料として、ポリフッ化ビニリデンの他に、トリフルオロエチレン(TrEF)や、PVDFとTrEFの混晶材料や、ポリ乳酸、ポリ尿酸、ポリアミノ酸等の双極子モーメントをもつ高分子材料を用いてもよい。
【0046】
圧電体212の厚みは、導体線2111の直径以上であることが好ましい。
図6に示す圧電体212の厚さは、最も薄い箇所で75μmであるが、10μm以上150μm以下であることが好ましい。
【0047】
外部導体213は、圧電体212の外周に、カーボンナノチューブ等のカーボンを含む高分子導電性材料が塗布されることで形成されている。外部導体213を形成する導電性材料としては、銀の微粒子を含む高分子導電性材料や銀ペースト等であってもよい。
図6に示す外部導体213の厚さは、30μmであるが、5μm以上80μm以下であることが好ましい。また、外部導体213に導電性材料を用いずに導線を用いてもよい。
【0048】
内側シース214は、耐摩耗性、耐薬品性、防錆性を高めるために外部導体213の外周を覆っている。この内側シース214は、厚さが30μmに形成されている。この内側シース214は、ポリアミド合成樹脂を塗布することで形成されているが、ポリ塩化ビニル樹脂を塗布することで形成してもよい。
【0049】
シールド被覆215は、ニッケルメッキ銅やステンレスなどの金属製の細線を編組してチューブ状にしたシールドである。なお、シールド被覆215は、内側シース214に、蒸着等の方法を用いて銅やアルミニウム等を付着させることで形成してもよい。また、シールド被覆215は、金属箔を巻き付けることで形成してもよい。
【0050】
外側シース216は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を塗布することで形成されている。ただし、4フッ化・6フッ化プロピレン樹脂(FEP)、4フッ化エチレンエチレン共重合(EPFE)、または4フッ化エチレンパーフロロアルコキシエチレン共重合 フッ素樹脂(PFA)を塗布することで形成してもよい。
【0051】
図6に示す線状センサ21の直径は0.5mmである。ただし、線状センサ21の直径はさらに太くてもよく細くてもよく、0.1mm以上3.0mm以下であることが好ましい。
【0052】
検出対象によって異常振動による発生波形や周波数は大きく変わり、異常箇所推定のためには、高い検出感度と幅広い周波数帯域を有する優れた振動検出器2が必要とされている。
【0053】
一般的な加速度センサーは、異常振動により振動するようなカンチレバーやダイアフラムなどの可動部や可動構造物をセンサー内部に持ち、この可動部や可動構造物が異常振動により振動変形することで圧電体に発生する歪を計測させる機構を有するものである。この可動部や可動構造物では機械的な制約(バネ乗数などの振動による変形の制約)を有するため、一般的な加速度センサーを振動検出器として用いても計測可能な感度が悪く、また計測可能な周波数帯域が狭くなっている。
【0054】
他方、ここで説明をした振動検出器2では
図4、
図5に示すように、一般的な加速度センサーの様な、異常振動により振動するようなカンチレバーやダイアフラムなどの可動部を持っていない。
【0055】
ここで示した振動検出器2は、異常振動のセンシング対象となる機器の表面、あるいは内部構造に直接振動検出器2を接触させて計測する。振動検出器2の中で、線状センサ21が真円から歪んだ状態となって被検出体に直接、強く押しつけられている、もしくは対向部材23を介して被検出体に押しつけられ、真円から歪んだ状態で強く押しつけられている。このため、線状センサ21は、検出対象の機器から伝搬してくる異常振動を、振動検出器2と計測対象機器との接触面を通じて、直接異常振動の伝搬によりセンシングするものである。
【0056】
この異常振動の伝搬により、直接振動検出器2接触面の歪の変化(粗密波のような縦波の振動)が発生し、この歪により線状センサ21中の圧電体が極わずかに歪むことでセンシング信号を発生する構成となっている。
【0057】
このように線状センサ21を用いた当該振動検出器2が直接異常振動を計測するため、一般的な加速度センサよりも非常に高いセンシング性能を発揮することができる。例えば、0.1~100マイクロニュートンという極微小な振動であっても計測が可能となっているため、振動検出器2は非常に高い検出感度を有している。また計測可能な周波数帯域も、0.01Hz(ヘルツ)から10,000,000Hz(ヘルツ)という超広帯域をセンシング可能なため、振動検出器2はあらゆる異常振動を計測と可能となっている。
【0058】
この様に極小さな振動を非常に広い計測周波数帯域で計測が可能なため、従来の加速度センサーを用いた異常箇所計測装置を用いるよりも、より早期に、より確実に異常の発生を検出することが可能となった。
【0059】
検出対象によって異常振動による発生波形や周波数は大きく変わるが、異常箇所推定のために十分に高い検出感度と十分に幅広い周波数帯域を有する優れた振動検出器2の提供により、異常箇所推定装置でも非常に高い分解能を実現することができる。振動検出器2から得られる正常/異常信号のアナログデジタル変換では16bitから24bitと非常に高い分解能と、100,000から10,000,000Hz(10x10の6乗ヘルツ)という超高速のデジタルデータ変換を行うに適する高精度・広帯域の計測データの収集が可能である。この振動検出器2により、高性能な異常箇所の推定が可能となった。
【0060】
図7は、異常箇所推定システムの機能構成を示すブロック図である。
【0061】
図7に示すように、異常箇所推定システム1は、複数の振動検出器2と、異常箇所推定装置3とを備えている。上述したように、複数の振動検出器2は、第2の間隔L2(
図2参照)をあけて
図1に示したベルトコンベア9の躯体90に取り付けられている。それらの全ての振動検出器2は、信号ケーブル27によって異常箇所推定装置3に接続されている。なお、振動検出器2と異常箇所推定装置3の間に異常の発生有無を判定する判定手段を設け、その判定手段が異常の発生を判定した時にのみ検出信号を異常箇所推定装置3に送信するようにしてもよい。さらに、振動検出器2と異常箇所推定装置3の間にバンドパスフィルタなどの信号処理手段を設けてもよい。
【0062】
異常箇所推定装置3は、検出信号取得部31と、推定部32と、学習モデル記憶部33と、表示部34とを有している。この異常箇所推定装置3は、CPUとメモリとを有するコンピュータと表示パネルで構成されている。検出信号取得部31は、ベルトコンベア9(
図1参照)を駆動しているときに各線状センサ21が検出した振動を表す検出信号を受信して推定部32に出力する機能部分である。推定部32は、検出信号取得部31から受け取った検出信号と、学習モデル記憶部33に記憶された学習モデルとを用いて多数のローラ94(
図3参照)のうち異常が生じているローラ94を推定する機能部分である。この異常が生じているローラ94は、異常作動部の一例に相当し、そのローラ94が配置されている箇所が異常箇所の一例に相当する。なお、ここでいう異常とは、故障が発生していることだけでなく近いうちに故障の発生が予想される場合や近い内に部品交換またはメンテナンスが必要になる可能性の高い場合を含む概念である。推定部32は、推定が完了したら推定結果を表示部34に表示させる。推定部32は、全てのローラ94が正常である場合には正常である旨を表示部34に表示させ、異常が生じているローラ94がある場合は、その異常が生じているローラ94を特定する情報を表示部34に表示させる。
【0063】
学習モデル記憶部33に記憶された学習モデルは、不図示の機械学習装置を用いて構築されたモデルである。機械学習装置には、多数の検出信号とそれらの検出信号に異常が生じているローラ94を特定する情報が対応付けられた教師データが与えられる。その情報には、そのローラ94が配置されている箇所の情報も含まれている。機械学習装置に与えられる検出信号は、実際に振動検出器2が検出した検出信号であってもよく疑似的に作成されたものであってもよい。同様に、異常が生じているローラ94を特定する情報は、実際に異常が生じた際に異常が生じているローラ94を特定した結果の情報であってもよく疑似的に作成されたものであってもよい。また、機械学習装置に与えられる検出信号には、全てのローラ94(
図3参照)に異常が発生していない正常状態における検出信号である正常検出信号が含まれていてもよい。その場合、正常検出信号には、正常状態である旨を示す情報が対応付けられていてもよく、異常が生じているローラ94が存在しない旨を示す情報が対応付けられていてもよい。機械学習装置は、与えられた教師データに基づいて教師あり学習を行うことで学習モデルを構築する。構築された学習モデルは、学習モデル記憶部33に記憶される。この学習モデルは、公知のニューラルネットワークを利用している。学習モデルとしては、特に再帰的ニューラルネットワークを利用することが好ましく、レザバーコンピューティングを利用することがより好ましい。レザバーコンピューティングを利用することで、少ない教師データで学習モデルを構築できる。なお、機械学習装置を異常箇所推定装置3に組み込んで、振動検出器2から得られた検出信号を追加の教師データとして機械学習装置に随時与えて学習モデルを更新するように構成してもよい。
【0064】
以上説明した実施形態の異常箇所推定システム1によれば、振動検出器2を移動させる必要もなく、ローラ94の数よりも少ない数の振動検出器2で異常が生じているローラ94を推定できるので、異常箇所推定システム1を安価に構成できる。また、推定部32は、学習モデルを用いて推定しているので、異常が生じているローラ94を正確に推定できる。さらに、異常箇所推定システム1は、周囲の空気振動などの外部ノイズが検出結果に入り込みにくい線状センサ21を検出部とした振動検出器2を用いているので、高い精度で異常が生じているローラ94を推定することができる。
【0065】
続いて、第2実施形態の異常箇所推定システム1について説明する。これより後の説明では、これまで説明した構成要素の名称と同じ名称の構成要素には、これまで用いた符号を付して説明し、重複する説明は省略することがある。
【0066】
図8は、第2実施形態の異常箇所推定システムを示す
図7と同様のブロック図である。
【0067】
図8に示す異常箇所推定システム1は、異常箇所推定装置3の構成が先の実施形態と異なる。この第2実施形態の異常箇所推定装置3は、学習モデル記憶部33の代わりに正常波形記憶部36が設けられている点が先の実施形態と異なり、推定部32の処理内容も先の実施形態と異なる。正常波形記憶部36には、ベルトコンベア9(
図1参照)が正常状態であるときの検出信号の情報である正常振動情報が記憶されている。すなわち、正常波形記憶部36には、全てのローラ94(
図3参照)が正常なときの検出信号の情報が正常振動情報として記憶されている。以下、ベルトコンベア9が正常状態であるときの検出信号を正常検出信号と称することがある。この正常波形記憶部36は、記憶部の一例に相当する。正常波形記憶部36には、正常振動情報として正常検出信号をFFT(Fast Fourier Transform)装置で解析した結果である正常時周波数成分が記憶されている。ただし、正常振動情報として正常検出信号の波形そのものを記憶していてもよい。
【0068】
推定部32は、正常波形記憶部36に記憶されている正常振動情報と検出信号取得部31から受け取った検出信号の情報である受信振動情報とを比較することで、ベルトコンベア9(
図1参照)が正常状態か異常状態かを判別する。この第2実施形態の推定部32は、FFT機能を有しており、検出信号取得部31から受け取った検出信号をFFT機能で解析する。その解析の結果得られた周波数成分を受信振動情報として一時的に記憶する。そして、推定部32は、受信振動情報における周波数成分に正常時周波数成分にはないピーク値が存在している場合や正常時周波数成分にも存在していたピーク値が有意に変化(増大または減少)している場合に異常状態であると判別し、正常時周波数成分と実質的に変化していない場合に正常状態であると判別する。なお、正常波形記憶部36に正常検出信号の波形そのものの情報が記憶されている場合、推定部32は、その波形をFFT機能で解析して受信振動情報と比較し、正常状態か異常状態かを判別する。またこの場合、推定部32は、正常検出信号と検出信号取得部31から受け取った検出信号とを直接比較して正常状態か異常状態かを判別してもよい。
【0069】
推定部32は、正常状態と判別した場合、全てのローラ94が正常である旨を表示部34に表示させる。また、推定部32は、異常状態と判別した場合、正常時周波数成分にはないピーク値が現れた周波数またはピーク値が有意に変化した周波数を異常な振動の周波数として特定し、振動検出器2それぞれが検出した振動のその周波数における振動波形を比較して多数のローラ94(
図3参照)のうち異常が生じているローラ94を推定する。以下、異常な振動の周波数を特定周波数と称することがある。そして、推定部32は、推定結果である異常が生じているローラ94を特定する情報を表示部34に表示させる。
【0070】
なお、推定部32は、異常が生じた際にピーク値が現れる可能性の高い周波数および異常が生じた際にピーク値が変化する可能性の高い周波数に関する情報をあらかじめ記憶していてもよい。なお、通常それらの周波数は複数存在するので、推定部32は複数の周波数を記憶している。そして、受信振動情報におけるそれらの周波数成分のうち少なくとも1つが正常時周波数成分に対して有意に変化しているときに異常状態と判別してもよい。その場合、推定部32は、その変化が生じている周波数を特定し、振動検出器2それぞれが検出した振動のその周波数における振動波形を比較して多数のローラ94のうち異常が生じているローラ94を推定してもよい。
【0071】
図9(t1)は、異常が生じているローラと振動検出器との位置関係および特定周波数の振動波形を示す模式図であり、
図9(t2)は同図(t1)から所定時間経過後の同振動波形を示す模式図であり、
図9(t3)は、同図(t2)からさらに所定時間経過後の同振動波形を示す模式図である。なお、
図9では、複数のローラ94と複数の振動検出器2のうち、異常が生じているローラ94とその近傍のもののみを図示している。この
図9では、異常が生じているローラをローラ94Xとして示している。また、この
図9を用いた説明においては、異常が生じているローラをローラ94Xと称して説明する。
【0072】
図9に示すように、異常が生じているローラ94Xから生じた振動は、
図1に示したベルトコンベア9の躯体90を介して搬送方向に伝搬されていく。
図9では、異常が生じているローラ94Xから下流側(
図9における右側)に伝わっていく振動のうち、特定周波数の振動波形を実線で示し、異常が生じているローラ94Xから上流側(
図9における左側)に伝わっていく特定周波数の振動波形を破線で示している。各振動検出器2はそれぞれの位置で伝わってきた振動を検出する。以下、特定周波数の振動波形を単に振動波形と称することがある。また、
図9における右側の振動検出器2を振動検出器2aと称し、
図9における左側の振動検出器2を振動検出器2bと称することがある。
【0073】
図10は、
図9に示した2つの振動検出器それぞれが計測した振動波形を重ねて示す模式図である。
図10(t1)には
図9(t1)に示した振動波形に対応した振動波形が示されており、
図10(t2)には
図9(t2)に示した振動波形に対応した振動波形が示されており、
図10(t3)には
図9(t3)に示した振動波形に対応した振動波形が示されている。
【0074】
図10では、
図9における右側の振動検出器2aが検出した振動波形を実線で示し、
図9における左側の振動検出器2bが検出した振動波形を破線で示している。推定部32には、あらかじめ各振動検出器2の搬送方向における位置情報と各ローラ94(
図9参照)の搬送方向における位置情報とが記憶されている。推定部32は、全ての振動検出器2のうち、特定周波数におけるピーク値の変化量が大きい、つまり特定周波数において正常時に対する振幅の変化が大きく表れている振動検出器2と、次にその変化が大きく表れている振動検出器2を選択する。振動は伝搬することで減衰していくことから変化量が大きく検出されているそれら2つの振動検出器2の間にあるローラ94に異常が生じている可能性が高い。なお、2つの振動検出器2の間にあるローラ94には、それら2の振動検出器2が取り付けられた枠体902(
図2参照)に設けられたローラ94も含まれる。推定部32は、全ての振動検出器2のうち、特定周波数の振動における振幅の変化が最も大きく表れている振動検出器2と次にその振幅の変化が大きく表れている振動検出器2が検出した振動波形を用いて異常が生じているローラ94を推定している。ただし、推定部32は、検出した振動の特定周波数における振幅の変化が大きな上位の3つ以上の振動検出器2を選択してそれらの振動波形を用いて異常が生じているローラ94を推定してもよく、全ての振動検出器2から得られた振動波形を用いて異常が生じているローラ94を推定してもよい。
【0075】
図10に示すように、振動波形には異常が生じているローラ94(
図9参照)から振動検出器2までの距離に応じて到達時間に差があるため、その距離が等距離でなければ多くの場合2つの振動検出器2が検出した振動波形には位相ズレPSが生じる。推定部32(
図8参照)は、この位相ズレPSと、振動検出器2の位置と、ローラ94の位置と、振動の伝搬速度と、特定周波数から計算される振動周期とから異常が生じているローラ94を推定する。なお、
図10に示すように、位相ズレPSは、時間が経過しても変化しないので、ある時点での位相ズレPSを用いて推定すればよい。また、振動の伝搬速度は、計算または実測で求め、あらかじめ推定部32に記憶させている。なお、2つの振動検出器2の間にあるローラ94から各振動検出器2までの距離の差と、振動の伝搬速度と、振動周期とから、それらのローラ94ごとに振動の位相ズレPSを計算し、計算した位相ズレPSと振動検出器2が検出した振動波形の位相ズレPSとが一致するローラ94に異常が生じていると推定してもよい。
【0076】
上述したように、推定部32は、位相ズレPSが生じている場合には、位相ズレPSと振動検出器2の位置とローラ94の位置と伝搬速度と振動周期との関係から異常が生じているローラ94を推定する。しかし、位相ズレPSが生じていないときには、異常が生じているローラ94から2つの振動検出器2までの距離が等距離である場合と、異常が生じているローラ94から2つの振動検出器2までの距離の差と特定周波数の振動波が一周期で進む距離とが倍数の関係である場合とがある。一方、異常が生じているときには、正常時周波数成分に対してピーク値が変化する周波数が複数表れることが殆どである。このため推定部32は、位相ズレPSが生じていないときには、正常時周波数成分に対してピーク値が変化した周波数のうち、先に用いた特定周波数と倍数の関係にない周波数における振動波形を用いて位相ズレPSを確認する。そして、その周波数においても位相ズレPSが生じていなければ異常が生じているローラ94が2の振動検出器2のちょうど中間部分にあると推定する。一方、あらたに用いた周波数において位相ズレPSが生じていれば、その位相ズレPSと伝搬速度と周期と距離の差との関係から異常が生じているローラ94を推定する。
【0077】
この第2実施形態の異常箇所推定システム1においても先の実施形態と同様の効果を奏する。また、推定部32は、特定周波数における振幅を用いて異常が生じているローラ94おおよその位置を推定し、次にその位置の近傍にある振動検出器2の位相ズレPSを用いて詳細に推定するので、推定処理が迅速に行える上に異常が生じているローラ94を正確に推定できる。
【0078】
本発明は上述の実施形態に限られることなく特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形を行うことができる。たとえば、本実施形態では、本発明の異常箇所推定システム1をベルトコンベアに適用した例を用いて説明したが、工作機械、ロボット、農業機械、車、家電、ロケット、飛行機などの他の機器に適用してもよい。例えば、ロケットに適用する場合、ロケット本体の躯体または筐体やブースターの躯体または筐体に複数の振動検出器2を間隔をあけて取り付け、それらの振動検出器2の位置関係と振動を表す検出信号に基づいて異常が主じている異常箇所を推定すればよい。飛行機では圧力隔壁の躯体または筐体に複数の振動検出器2を取り付け、それらの振動検出器2の位置関係と振動を表す検出信号に基づいて異常が主じている異常箇所を推定すればよい。また、本実施形態では異常が生じている特定のローラ94を推定する異常箇所推定システム1を例示したが、異常箇所推定システム1は、異常が生じているローラ94が配置されている箇所を推定してもよい。なお、第2の間隔L2が第1の間隔L1の間隔の4倍である例を示したが、第2の間隔L2は、第1の間隔L1よりも広い間隔であることが好ましい。すなわち、異常箇所推定システム1は、ローラ94の数よりも少ない数の振動検出器2を用いて異常が生じているローラ94を推定するものであることが好ましい。さらに、第1の間隔L1および第2の間隔L2は必ずしも等間隔でなくてもよい。またさらに、振動検出器2を枠体902に配置した例を示したが、振動検出器2は、枠体902以外のものに配置してもよい。加えて、圧電体212を用いた線状センサ21について説明したが、導電ゴム等の抵抗線やキャパシタ線等を用いた線状センサ21に変更してもよい。また、円柱状の振動検出器2を例にして説明したが、振動検出器2は角柱状など他の形状をしていてもよい。さらには、振動検出器2を線状センサ21のみ又は線状センサ21と信号ケーブル27のみで構成してもよい。
【0079】
また、異常箇所推定システム1は、
図11に示すように3次元的に振動検出器2を配置して使用することができる。
図11は、工作機械、製造装置、ロケット又は飛行機などの機器8を簡略化して示した斜視図である。
【0080】
図11では、複数の作動部81それぞれを中抜きの丸で示し、振動検出器2を黒丸で示している。振動検出器2は、機器8における隣り合う頂点に配置されている。この例では、4つの振動検出器2が配置されている。作動部81は、機器8の原点(X0,Y0,Z0)に対してXYZ方向それぞれに離間した位置(X1,Y1,Z1)、(X2,Y2,Z2)・・・(Xn,Yn,Zn)に配置されている。異常箇所推定システム1は、先に説明した第1実施形態または第2実施形態と同様の手法を用いてXYZの各軸方向ごとに異常が生じている作動部81の位置を推定する。詳細には、振動検出器2のうち、
図11における手前左下にある振動検出器2と手前右下にある振動検出器2の検出信号を用いて、異常が生じている作動部81のX軸方向の位置を推定する。また、振動検出器2のうち
図11における手前左下にある振動検出器2と奥左下にある振動検出器2の検出信号を用いて、異常が生じている作動部81のY軸方向の位置を推定する。さらに、振動検出器2のうち
図11における手前左下にある振動検出器2と手前左上にある振動検出器2の検出信号を用いて、異常が生じている作動部81のZ軸方向の位置を推定する。これらのXYZ各軸の推定結果を組み合わせることで、推定部32は、異常が生じている作動部81を正確に推定することができる。なお、振動検出器2は、頂点以外の位置に配置されていてもよく、各軸ごとに間隔をあけて3つ以上配置してもよい。
【0081】
なお、以上説明した各実施形態や各変形例の記載それぞれにのみ含まれている構成要件であっても、その構成要件を、他の実施形態や他の変形例に適用してもよい。
【符号の説明】
【0082】
1 異常箇所推定システム
2 振動検出器
3 異常箇所推定装置
9 ベルトコンベア
94 ローラ
L1 第1の間隔
L2 第2の間隔