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  • 特開-離解用刃物及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008903
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】離解用刃物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21B 1/14 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
D21B1/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111031
(22)【出願日】2023-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2022110073
(32)【優先日】2022-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000165398
【氏名又は名称】兼房株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深世古 征吾
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 諒
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AG03
4L055BA11
4L055CA09
4L055EA19
4L055EA32
4L055FA30
(57)【要約】
【課題】耐食性が高い離解用刃物及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】従来の離解用刃物は、形成された刃金が、刃金本来の硬度よりも低下する他、耐食性も低下する。その原因としては、刃金を形成する際、溶接時の熱により本体成分が刃金部分に溶け出して刃金本来の性能を発揮できないことにある。また、肉盛加工を行う場合の加工条件によっては、加工後に刃金割れが発生することがあり、肉盛品質が刃物の寿命に影響を及ぼす。本発明者らは刃金部分を形成する際に本体の加熱を抑制することで、本体成分の刃金部分への移行を抑制できるため、本体10由来の鉄元素が表面に拡散されておらず、本体10と刃金20の境界に直交する断面において鉄元素の有無で評価したときの刃金20と本体10との境界が明確である。刃金20に本体10由来の元素が溶け出さないようにすることで、刃金20の硬度及び耐食性の低下を抑制できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液中でパルプを離解する離解用刃物であって、
全体の質量を基準として50%以上の鉄を含有する合金からなる本体と、
コバルト及びニッケルの含有量の和が全体の質量を基準として50%以上である合金からなり、前記本体の表面に積層された刃金と、
を有し、
前記刃金は、
前記本体の表面に4mm以下の厚さで積層されて形成され、且つ、
前記本体由来の鉄元素が表面に拡散されておらず、前記刃金と前記本体との境界に直交する断面において鉄元素の濃度で評価したときの前記刃金と前記本体との境界が明確であり、
前記刃金の表面硬度が50HRC以上である離解用刃物。
【請求項2】
液中でパルプを離解する離解用刃物であって、
全体の質量を基準として50%以上の鉄を含有する合金からなる本体と、
コバルト及びニッケルの含有量の和が全体の質量を基準として50%以上である合金からなり、前記本体の表面に積層された刃金と、
を有し、
前記刃金の表面硬度が50HRC以上である離解用刃物。
【請求項3】
液中でパルプを離解する離解用刃物であって、
全体の質量を基準として50%以上の鉄を含有する合金からなる本体と、
コバルト及びニッケルの含有量の和が全体の質量を基準として50%以上である合金からなり、前記本体の表面に積層された刃金と、
を有し、
前記本体由来の鉄元素が表面に拡散されておらず、前記刃金と前記本体との境界に直交する断面において鉄元素の濃度で評価したときの前記刃金と前記本体との境界が明確である離解用刃物。
【請求項4】
前記刃金が積層された厚みは、4mm以下である請求項2又は3に記載の離解用刃物。
【請求項5】
前記刃金は、コバルトを全体の質量を基準として50%以上含有し、クロム及びタングステンを含有する合金からなる請求項1~3のうちの何れか1項に記載の離解用刃物。
【請求項6】
液中でパルプを離解する離解用刃物を製造する方法であって、
全体の質量を基準として50%以上の鉄を含有する合金からなる本体の表面に、コバルト及びニッケルの含有量の和が全体の質量を基準として50%以上である合金粉末を噴霧またはワイヤーを供給しながら、レーザー照射により加熱溶融することで積層した積層体からなる刃金を形成する積層工程を有する離解用刃物の製造方法。
【請求項7】
前記積層工程では、前記積層体は厚みが4mm以下で形成される請求項6に記載の離解用刃物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、古紙などの製紙原料から再生パルプを製造するパルパー機等に装着される離解用刃物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
古紙から再生パルプを製造する際には、水などの液体中で古紙を撹拌し、パルプにまで離解するパルパー機等が用いられる。パルパー機等には、離解用刃物が設けられている。離解用刃物は、その使用環境から刃金および本体とも高い耐食性が必要であり、特に刃金部分は本体よりも高い耐食性が要求される。また、長時間使用されるため、刃金部分には高い耐摩耗性も要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5487376号公報
【特許文献2】特許第6539825号公報
【特許文献3】特許第4934881号公報
【特許文献4】特許第7041042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように離解用刃物の耐食性、耐摩耗性などの耐久性を向上するため、従来より刃金部分にはコバルト又はニッケル等を主成分とする合金が採用されているが十分な耐久性を実現できているとは言い難かった。ここで、刃金は主にガス溶接による肉盛で本体の一部に形成される。
【0005】
本発明は上記実情に鑑み完成したものであり、耐食性、耐摩耗性などの耐久性が高い離解用刃物及びその製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する目的で本発明者らは鋭意検討を行い以下の知見を得た。従来の離解用刃物は、形成された刃金が、刃金本来の硬度よりも低下していることと、耐食性及び耐摩耗性が低下することとの間に関係があることを本発明者らは見出した。つまり、形成された刃金の硬度が低下することで耐食性や耐摩耗性などの耐久性が充分で無くなることを見出した。
【0007】
刃金の硬度が低下する原因としては、刃金を形成する際に行うガス溶接時の熱により本体成分が刃金部分に溶け出すなどして刃金本来の性能を発揮できないことにあることが推測された。また、肉盛加工を行う場合の加工条件によっては、加工後に刃金割れが発生することがあり、肉盛品質が刃物の寿命に影響を及ぼす。
【0008】
以上の知見より本発明者らは刃金部分を形成する際に本体の加熱を抑制することで離解用刃物の耐食性及び耐摩耗性を向上できることに想到し以下の発明を創作した。
【0009】
すなわち、上記課題を解決する本発明の離解用刃物は、液中でパルプを離解する離解用刃物であって、全体の質量を基準として50%以上の鉄を含有する合金からなる本体と、コバルト及びニッケルの含有量の和が全体の質量を基準として50%以上である合金からなり、前記本体の表面に積層された刃金とを有し、以下の(1)及び(2)のうちの少なくとも一方の構成を有する。
(1)前記刃金の表面硬度が50HRC以上である。
(2)前記本体由来の鉄元素が表面に拡散されておらず、前記刃金と前記本体との境界に直交する断面において、鉄元素の濃度で評価したときの前記刃金と前記本体との境界が明確である。刃金に対して、本体由来の元素が溶け出さないようにすることで刃金の硬度を高くすることが可能になり耐食性及び耐摩耗性が向上する。
【0010】
上記課題を解決する本発明の離解用刃物の製造方法は、液中でパルプを離解する離解用刃物を製造する方法であって、全体の質量を基準として50%以上の鉄を含有する合金からなる本体の表面に、コバルト及びニッケルの含有量の和が全体の質量を基準として50%以上である合金粉末を噴霧またはワイヤーを供給しながら、レーザー照射により加熱溶融することで積層した積層体からなる刃金を形成する積層工程を有する。レーザー照射により刃金部分を本体表面上に形成することで、刃金に対して、本体由来の元素が溶け出さないようにすることが可能になり刃金の硬度が高くなって耐食性、耐摩耗性などの耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態の離解用刃物を示す(a)平面図、(b)正面図、(c)下面図、(d)右側面図である。
図2】実施例の試験試料の一部断面図である。
図3】比較例の試験試料の一部断面図である。
図4】(a)実施形態の離解用刃物、(b)第1変形態様の離解用刃物及び(c)第2変形態様の離解用刃物のぞれぞれの拡径方向側の端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態)
本発明の離解用刃物及びその製造方法について以下実施形態に基づき詳細に説明を行う。なお、本明細書において「主成分」とは、全体の質量を基準として50%以上含有することを意味する。本実施形態の離解用刃物は、古紙等の製紙原料を液中で離解するパルパー機等に用いる刃物であり、図1に示すように、本体10と、その本体の表面に積層された刃金20とその他必要に応じて採用されるその他部材とを有する。パルパー機(図略)は、製紙原料が投入できる製紙原料投入口をもつ槽内に液体と共に製紙原料を投入し、離解用刃物が配設されたローターにより撹拌する装置である。本実施形態の離解用刃物は、ローターの回転中心から放射状に複数配設する。槽の底面乃至側面にはストレーナーを介して開閉自在な排出口が設けられており、パルパー機の動作により一定以上離解された製紙原料を外部に取り出すことができる。
【0013】
本実施形態の離解用刃物は、図1(a)において左方を回転中心側、右方を拡径側に向けて配設し、矢印の方向に回転する。図1(b)及び(d)の上下方向を逆転するとパルパー機内の上下方向と一致し、図1(d)の矢印の方向に回転する。また、刃金が下向きになる様に取り付けられる。図1(d)の矢印方向の面(先端面)と図上面とが交わる交線が切れ刃(離解刃)20aに相当する。
【0014】
本体は、全体の質量を基準として50%以上の鉄を含有する合金からなる。合金としては、ステンレス鋼、ダイス鋼、メッキ等表面処理を施した構造用鋼、鋳鉄などが例示できる。本体の形状は、最終的な離解用刃物から刃金に相当する部分を除いた形状である。ここで本体を刃金と別の材料から構成するのは、刃金を構成する合金で離解用刃物全体を構成すると、高価になる上に、加工も大変だからである。
【0015】
刃金20は、本体10の表面に積層されている。図4(a)に示すように、刃金20は、本実施形態の離解用刃物の回転周方向の先端面と図上面とが交わる交線(切れ刃)20aを含む三角柱状の部位に設けられている。つまり、図4(a)における刃金20の形状は、図に現れる拡径方向側の端面のみの形状ではなく、刃金のどの部位においてもこの拡径方向側の端面と並行に切断する限り同様の断面形状である。
具体的に好ましい積層方法としては、刃金を構成する合金を加熱溶融して積層する方法が例示される。加熱溶融の方法としては、本体への伝熱が少ない方法が好ましく、特に本体が溶融しない乃至は溶融が少ない方法が好ましい。例えばレーザークラッドなどのレーザーにより積層する合金を選択的に加熱する方法を採用することが好ましい。詳しくは後述する離解用刃物の製造方法にて説明する。
【0016】
本実施形態の離解用刃物は、(1)本体と刃金との境界が明確であること、及び、(2)刃金の表面硬度が50HRC以上であることのうちの少なくとも一方の特徴をもつ。特に双方の特徴をもつことが好ましい。境界が明確であるかどうかは、本体と刃金との境界に直交する断面において判断する。「境界が明確である」とは、光学的に決定した境界が明確であるか、SEM-EDS、EPMAなどの元素分析法により断面方向における元素濃度プロファイルを測定して判断することができる。特に鉄元素の濃度で判断することができる。特に刃金部分の組成が本体近傍の一部分(熱影響層)を除いて積層方向において均一であれば境界が明確であると判断できる。本体近傍の一部分に形成された熱影響層は、刃金部分の積層方向の長さの10%以下であることが好ましい。刃金の表面硬度としては、50HRC以上、53HRC以上、55HRC以上などを採用することができる。
【0017】
刃金は、コバルト及びニッケルの含有量の和が全体の質量を基準として50%以上である合金からなり、特にコバルト及びニッケルの何れか一方のみで含有量が50%以上に達することが好ましい。刃金に採用できる合金としては、コバルト及びニッケルのうちの少なくとも一方を含むほか、鉄、クロム、モリブデン、バナジウム、チタン、ニオブ等を適宜含有する耐食合金が挙げられるが、これらには限定されない。特に、コバルト系合金やニッケル系合金を使用することが好ましい。コバルト系合金としては、全体の質量を基準として50%以上のコバルトを含み、クロムとタングステンをさらに含む合金であるステライト(登録商標)、あるいはステライトを含む複合材を用いることができる。ステライト(登録商標)には幾つかの種類があるが、特にステライト(登録商標)のNo12やNo6を採用することが好ましい。参考までにステライト(登録商標)の組成について表1に示す。
【0018】
【表1】
【0019】
他に、コバルトを主成分とし、クロムとモリブデンをさらに含む合金であるトリバロイ(登録商標)、あるいはトリバロイを含む複合材を用いることができる。ニッケル系合金としては、ニッケルを主成分とし、モリブデンやクロム等をさらに含む合金であるハステロイ(登録商標)、あるいはハステロイを含む複合材を用いることができる。他に、ニッケルを主成分とし、鉄、クロム、ニオブ、モリブデンをさらに含むインコネル(登録商標)、あるいはインコネルを含む複合材を用いることができるが、これらには限定されない。
【0020】
特にコバルト系合金を採用する場合のコバルトの含有量としては、その下限値として、40質量%、45質量%、50質量%、55質量%、60質量%が例示でき、上限値として、75質量%、70質量%、65質量%が例示できる。コバルト以外に含有できる元素としては、クロム、タングステン、炭素が例示できる。クロムの含有量は、26%以上、33%以下、上限値としては32%を採用することもできる。その他にもモリブデン、鉄、ケイ素を含有することができる。モリブデンは1%以下、鉄は3%以下、ケイ素は2%以下にすることが好ましい。これらの上限値及び下限値は独立して任意に組み合わせ可能である。
【0021】
刃金は、本体の表面に4mm以下で積層されることが好ましく、特に3mm以下、2mm以下にすることが好ましく、1mm以上にすることが好ましい。なお、本明細書中において「積層」とは、本体に対して1層以上の層を形成することを意味し、刃金は2層で積層されていることが好ましい。
【0022】
・離解用刃物の製造方法
本実施形態の離解用刃物の製造方法は、本体の表面に刃金を構成する合金を積層する積層工程とその他必要に応じて選択されるその他の工程をもつ。積層工程では、合金粉末を噴霧またはワイヤーを供給しながら本体の表面にレーザー照射を行い加熱溶融させる。その結果、合金が溶融して本体の表面に積層されていく。噴霧等した合金が本体の表面に付着した状態でレーザー照射により溶融して本体の表面に積層される。積層工程は1回乃至複数回行って刃金を構成する合金を複数層積層する。特に積層数は2層が好ましい。また、積層した刃金の厚みは4mm以下であることが好ましい。
【0023】
本体については前述した本実施形態の離解用刃物にて説明したものと同様のものが採用できるため説明を省略する。合金粉末又はワイヤーを構成する合金は、本実施形態の離解用刃物における刃金を構成する合金と同組成のものが採用できるため説明を省略する。
【0024】
その他の工程としては、積層工程で形成した積層体を研削、切削等することで切れ刃を形成する工程が挙げられる。
【0025】
(第1変形態様)
本変形態様の離解用刃物は、図4(b)に示すように、刃金21の図上面に露出する面積が大きくなっている以外は実施形態の離解用刃物と外形は概ね同じである。本変形態様の離解用刃物の刃金21は、実施形態の刃金20が相対的に切れ刃20aの近傍を構成しているのに対して、切れ刃21aよりも離れた部位も刃金21により構成するように後端側に延長された形状をもつ。後端側に延長する程度としては特に限定しないが、図上面の回転周方向(図面左右方向)の長さを基準として、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上とすることが好ましい。
【0026】
ここで、図4(b)における刃金21の形状は、図に現れる拡径方向側の端面のみの形状ではなく、刃金のどの部位においてもこの拡径方向側の端面と並行に切断する限り同様の断面形状である。その結果、刃金21の量の増加は最小限としながらも図上面(特に製紙原料に接触する側の面)を保護することが可能になる。なおここで刃金が積層された厚みは、4mm以下であることが好ましく、特に3mm以下、2mm以下にすることがより好ましく、1mm以上にすることが好ましい。刃金は2層で積層されていることが好ましい。この場合の積層された厚みとは、パルパー機内に設置されたときの上下方向(図面上下方向)の厚みを意味する。
【0027】
なお、刃金21の後端側が徐々に厚みが薄くなっているのは製造機械の制約であり、可能ならば後端側においても同じ厚みにしても良い。本変形態様の離解用刃物の刃金21も実施形態と同様に本体11の刃金21が形成される部位を切削加工などで形成した後、図面下方から上方に向けて行われる積層工程により形成することができる。積層工程後には、図上面及び先端面を研削加工することでそれらの面の交線を切れ刃21aとすることができる。
【0028】
(第2変形態様)
他の変形態様の離解用刃物は、図4(c)に示すように、刃金22の図上面に露出する面積と先端面に露出する面積が大きくなっている以外は実施形態の離解用刃物と外形は概ね同じである。本変形態様の離解用刃物の刃金22は、実施形態の刃金20が相対的に切れ刃20aの近傍を構成しているのに対して、切れ刃22aよりも離れた部位も刃金21により構成するように後端側と図面下方向側の双方に延長された形状をもつ。
【0029】
後端側に延長する程度としては特に限定しないが、図上面の回転周方向(図面左右方向)の長さを基準として、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上とすることが好ましい。図面の下方向に延長する程度としても特に限定しないが、回転周方向に直交する方向(図面上下方向)の長さを基準として、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、40%以上とすることが好ましい。
【0030】
ここで、図4(c)における刃金22の形状は、図に現れる拡径方向側の端面のみの形状ではなく、刃金のどの部位においてもこの拡径方向側の端面と並行に切断する限り同様の断面形状(略L字状)である。その結果、刃金22の量の増加は最小限としながらも図上面及び先端面を保護することが可能になる。なおここで刃金が積層された厚みは、4mm以下であることが好ましく、特に3mm以下、2mm以下にすることがより好ましく、1mm以上にすることが好ましい。刃金は2層で積層されていることが好ましい。この場合の積層された厚みとは、図4(c)に寸法線として記載した通り、略L字状の断面の図上面側の部位においてはパルパー機内に設置されたときの上下方向(図面上下方向)を、先端面側の部位においては回転周方向(図面左右方向)のそれぞれを意味する。
【0031】
本変形態様の離解用刃物の刃金22も実施形態や第1変形態様と同様に本体12の刃金22が形成される部位を切削加工などで形成した後、図面下方から上方に向けて行われる積層工程と、後端側から先端側に向けて行われる積層工程を組み合わせることにより形成することができる。積層工程後には、図上面及び先端面を研削加工することでそれらの面の交線を切れ刃22aとすることができる。
【実施例0032】
(表面硬度)
・実施例
ステンレス鋼からなる本体の表面にステライト(登録商標)のNo12からなる合金粉末を噴霧しながらレーザー照射を行い積層体(2層:刃金に相当)を形成(レーザークラッディング)したものを本実施例の試験試料とした。その試験試料について刃金の表面硬度を測定した結果、55HRCであった。本実施例の試験試料の断面を図2に示す。図2より明らかなように、表面に形成した積層体(刃金20)と本体10との間の熱影響層は殆ど観察できないほど厚みが小さかった。
【0033】
・比較例
実施例と同じ材料を用い、レーザークラッディングに変えてガス溶接を用いて積層体を形成した。積層体は一回の操作で実施例と同じ厚みとなった。本比較例の試験試料の表面硬度は、47~48HRCであり、実施例と比べて大幅に硬度が低下することが分かった。本比較例の試験試料の断面を図3に示す。本実施例の試験試料の断面と比べると、本比較例の試験試料の熱影響層30の厚みは大きいことが分かった。そのため、本体10を構成する元素が積層体(刃金)20に溶け込む量が多くなって硬度の低下が進行したことが推測された。
【0034】
(耐食性)
レーザークラッディングにより刃金を製造した実施例の試験試料と、ガス溶接により刃金を製造した比較例の試験試料とについて水中における耐食性の評価を行った。その結果、実施例の試験試料の方が約5倍の優れた耐食性を示すことが分かった。
【0035】
(耐クラック性)
ステンレス鋼からなる本体の表面にステライト(登録商標)のNo12からなる合金粉末を噴霧しながらレーザー照射を行い積層体を形成した。合金粉末の噴霧量及び積層数を調節することで積層体の厚みを、3.5mm、4mm、5mmとした試験試料をそれぞれ制作した。
【0036】
これらの試験試料について、耐食性試験を行った後の表面を顕微鏡で観察した結果、厚みが4mm以下だと微小なひび割れが生じがたいことが分かった。
【符号の説明】
【0037】
10、11、12、…本体 20、21、22、…刃金 30…熱影響層
図1
図2
図3
図4