(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089040
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】ホウ素含有塩基性塩化アルミニウム
(51)【国際特許分類】
C01F 7/57 20220101AFI20240626BHJP
B01D 21/01 20060101ALI20240626BHJP
C02F 1/52 20230101ALI20240626BHJP
【FI】
C01F7/57
B01D21/01 102
C02F1/52 E
C02F1/52 K
C02F1/52 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204145
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】591282766
【氏名又は名称】南海化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹田 一貴
(72)【発明者】
【氏名】上田 安宏
【テーマコード(参考)】
4D015
4G076
【Fターム(参考)】
4D015BA04
4D015BB06
4D015BB12
4D015BB13
4D015CA01
4D015CA14
4D015DA04
4D015DA16
4D015DA40
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4D015FA02
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4D015FA15
4D015FA17
4D015FA22
4D015FA24
4G076AA06
4G076AA10
4G076BF07
4G076BF09
4G076CA14
4G076CA40
4G076DA28
(57)【要約】
【課題】本発明が解決しようとする課題は、水処理用凝集剤等に使用する塩基性塩化アルミニウムに関し、処理すべき水の種類による広範囲の物性変動に対応でき、凝集性と製造性に優れたホウ素含有塩基性塩化アルミニウムを提供することにある。
【解決手段】ホウ素を含有し、B/Alのモル比が0.01以上、1.00以下であることを特徴とするホウ素含有塩基性塩化アルミニウムである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素を含有し、B/Alのモル比が0.01以上、1.00以下であることを特徴とするホウ素含有塩基性塩化アルミニウム。
【請求項2】
酸化アルミニウム濃度が8質量%以上、15質量%以下であり、塩基度が40%以上、80%以下である、請求項1に記載のホウ素含有塩基性塩化アルミニウム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のホウ素含有塩基性塩化アルミニウムを含有する水処理凝集剤。
【請求項4】
塩基性塩化アルミニウムにホウ素化合物をB/Alのモル比が0.01以上、1.00以下となるように添加することを特徴とするホウ素を含有し、B/Alのモル比が0.01以上、1.00以下であるホウ素含有塩基性塩化アルミニウムの製造方法。
【請求項5】
被処理水を、ホウ素を含有し、B/Alのモル比が0.01以上、1.00以下である塩基性塩化アルミニウムと混合することを特徴とする被処理水中の不純物の凝集方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理用凝集剤等に使用する塩基性塩化アルミニウムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムに基づく加水分解金属塩は、水処理凝集剤として非常に広く使用されており、汚れた水からコロイド粒子や溶存有機物など多くの不純物を除去する上で重要な役割を果たしている。
【0003】
このようなアルミニウムに基づく加水分解金属塩としては硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、塩基性塩化アルミニウムなどが用いられている。ここで、塩基性塩化アルミニウムは、ポリ塩化アルミニウム(PAC)とも称されるものであり、塩基度の範囲、硫酸イオンの含有の有無等により種々のものが知られている。 塩基性塩化アルミニウムは、一般的に、塩酸と水酸化アルミニウムを反応させることで合成され、多くの場合これに塩基性物質を添加して塩基度を高めた高塩基性塩化アルミニウムや水溶性硫酸塩を添加した硫酸イオン含有塩基性塩化アルミニウムが製造されている。
【0004】
上記のうち、硫酸イオンには塩基性塩化アルミニウムの凝集性能を向上する作用がある反面、安定性を低下させることが知られている。特許文献1には、塩基性塩化アルミニウムに含有させた硫酸イオンは、保存時に液の白濁、さらにはゲル化等の問題を生じることが記載されており、塩基性塩化アルミニウム中に含有させる硫酸イオン濃度は安定性の面から制限される。
【0005】
また、日本産業規格では、水道用ポリ塩化アルミニウムの酸化アルミニウム含有量の範囲を10.0質量%以上、11.0質量%以下、塩基度の範囲を45質量%以上、65質量%以下、硫酸イオン含有量を3.5%質量以下に規制していることが記載されている。
【0006】
したがって、広範囲の物性変動に対応できる凝集性が向上した塩基性塩化アルミニウムを得る上で、塩基度および硫酸イオン濃度により制御するのは限界があり、硫酸イオンに代わる別の物質による凝集性の向上が望まれる。
【0007】
更に、特許文献2には、ケイ素をSi/Al2O3のモル比として0.001以上、0.1以下の範囲で含有した高塩基性塩化アルミニウムが開示されている。硫酸イオンの代替手段としてみた場合、ケイ素には以下の問題点が存在する。
(1)利用可能なケイ素化合物に制限がある点
(2)製造方法に制限がある点
【0008】
上記で用いられるケイ素の酸化物であるシリカ(SiO2)は水にほとんど溶解せず、ケイ素のオルト酸であるケイ酸(Si(OH)4)は、速やかに脱水縮合する性質を有し、最終的にはシリカになるため、工業的に利用可能なケイ素化合物はアルカリケイ酸塩のような塩基性物質に限られる。特許文献2においてもアルカリケイ酸塩のみが用いられており、アルカリケイ酸塩が塩基性物質であることから、ケイ素を含む塩基性塩化アルミニウムの製造方法が限定されることになる。
【0009】
以上のことから、より汎用性の高い物質による塩基性塩化アルミニウムの凝集性の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009-279512号公報
【特許文献2】特許第6186545号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】日本産業規格(JIS)K1475-1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、水処理用凝集剤等に使用する塩基性塩化アルミニウムに関し、処理すべき水の種類による広範囲の物性変動に対応でき、凝集性と製造性に優れた塩基性塩化アルミニウムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、塩基性塩化アルミニウムにホウ素を含有させることによって、従来では濁りの除去が困難であった条件の水の処理が可能になることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]ホウ素を含有し、B/Alのモル比が0.01以上、1.00以下であることを特徴とするホウ素含有塩基性塩化アルミニウム。
[2]酸化アルミニウム濃度が8質量%以上、15質量%以下であり、塩基度が40%以上、80%以下である、上記[1]に記載のホウ素含有塩基性塩化アルミニウム。
[3]上記[1]または[2]に記載のホウ素含有塩基性塩化アルミニウムを含有する水処理凝集剤。
[4]塩基性塩化アルミニウムにホウ素化合物をB/Alのモル比が0.01以上、1.00以下となるように添加することを特徴とするホウ素を含有し、B/Alのモル比が0.01以上、1.00以下であるホウ素含有塩基性塩化アルミニウムの製造方法。
[5]被処理水を、ホウ素を含有し、B/Alのモル比が0.01以上、1.00以下である塩基性塩化アルミニウムと混合することを特徴とする被処理水中の不純物の凝集方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、処理すべき水の種類による広範囲の物性変動に対応でき、凝集性と製造性に優れたホウ素含有塩基性塩化アルミニウムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例1及び比較例1の上澄水濁度を示すグラフである。
【
図2】実施例2及び比較例1の上澄水濁度を示すグラフである。
【
図3】実施例3及び比較例1の上澄水濁度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、ホウ素を含有し、B/Alのモル比が0.01以上、1.00以下であるホウ素含有塩基性塩化アルミニウム(以下、単に「本発明のホウ素含有塩基性塩化アルミニウム」ということがある)である。
【0018】
[必須構成元素の含有量]
本発明のホウ素含有塩基性塩化アルミニウムにおけるB/Alのモル比は0.01以上、1.00以下であり、0.02以上、0.70以下がより好ましく、0.05以上、0.50以下が特に好ましい。ホウ素含有塩基性塩化アルミニウムにおけるB/Alのモル比が0.01より少ないと、凝集性に改善が認められず、1を超えても効果が飽和するので好ましくない。
【0019】
[酸化アルミニウム濃度]
本発明のホウ素含有塩基性塩化アルミニウムの酸化アルミニウム濃度は、特に限定されないが、例えば、8質量%以上、15質量%以下である。酸化アルミニウム濃度は、好ましくは9質量%以上、13質量%以下であり、特に好ましくは、10質量%以上、11質量%以下である。塩基性塩化アルミニウムに含まれる酸化アルミニウムの定量は、日本産業規格(JIS)K1475に準拠して行われる。
【0020】
[塩基度の範囲]
本発明のホウ素含有塩基性塩化アルミニウムの塩基度の範囲は、特に限定されないが、例えば、40%以上、80%以下である。好ましくは50%以上、70%以下であり、より好ましくは55%以上、65%以下である。塩基性塩化アルミニウムの塩基度の測定は、日本産業規格(JIS)K1475に準拠して行われる。
【0021】
[酸化アルミニウム濃度と塩基度の範囲]
上記した酸化アルミニウム濃度と塩基度の範囲は適宜組み合わせることができる。そのため、本発明のホウ素含有塩基性塩化アルミニウムの酸化アルミニウム濃度が8質量%以上、15質量%以下であり、塩基度が40%以上、80%以下であることが好ましく、酸化アルミニウム濃度が9質量%以上、13質量%以下であり、塩基度が50%以上、70%以下であることがより好ましく、酸化アルミニウム濃度が10質量%以上、11質量%以下、塩基度が55%以上、65%以下であることが特に好ましい。
【0022】
[塩化物イオン含有量の定義]
塩化物イオンについては、Cl/Alのモル比が0以上、3以下であることが好ましい。Cl/Alのモル比の上限は、2.5であることがより好ましく、更に好ましくは2である。塩化物イオンを含有するときは、例えば、Cl/Alのモル比が0.1以上、2以下であることが好ましい。
【0023】
[他の構成要素]
本発明のホウ素含有塩基性塩化アルミニウムは、アルミニウム及びホウ素を必須構成要素とするものであるが、本発明のホウ素含有塩基性塩化アルミニウムの構成要件を満たす限りにおいて、他の構成要素を任意成分として含有しても構わない。他の構成要素として、アルカリ金属、アルカリ土類金属、硫酸イオン等を例示することができる。
【0024】
[アルカリ金属含有量の定義]
他の構成要素の含有割合について、例えば、アルカリ金属については、アルカリ金属をMとしたときに、M/Alのモル比が0以上、1以下であることが好ましい。M/Alのモル比の上限は、0.8であることがより好ましく、更に好ましくは0.7である。アルカリ金属を含有するときは、例えば、M/Alのモル比が0.01以上、0.70以下であることが好ましい。
【0025】
[アルカリ土類金属含有量の定義]
アルカリ土類金属については、アルカリ土類金属をEとしたときに、E/Alのモル比が0以上、0.1以下であることが好ましい。E/Alのモル比の上限は、0.07であることがより好ましく、更に好ましくは0.05である。アルカリ土類金属を含有するときは、例えば、E/Alのモル比が0.01以上、0.05以下であることが好ましい。
【0026】
[硫酸イオン含有量の定義]
硫酸イオンについては、SO4/Alのモル比が0以上、0.18以下であることが好ましい。SO4/Alのモル比の上限は、0.16であることがより好ましく、更に好ましくは0.14である。硫酸イオンを含有するときは、例えば、SO4/Alのモル比が0.01以上、0.14以下であることが好ましい。
【0027】
[製造方法]
本発明のホウ素含有塩基性塩化アルミニウムは、塩基性塩化アルミニウムにホウ素化合物をB/Alのモル比が0.01以上、1.00以下となるように添加することにより製造することができる。
【0028】
原料として用いる塩基性塩化アルミニウムは、特に限定されないが、例えば、酸化アルミニウム濃度が8質量%以上、20質量%以下、好ましくは9質量%以上、13質量%以下、特に好ましくは、10質量%以上、11質量%以下のものを用いる。また、上記した塩基性塩化アルミニウムは、塩基度が40%以上、80%以下、好ましくは50%以上、70%以下、特に好ましくは55%以上、65%以下のものを用いる。また、上記した酸化アルミニウム濃度と塩基度の範囲は適宜組み合わせることができる。このような酸化アルミニウム濃度や塩基度の塩基性塩化アルミニウムは常法(例えば、特許3464023号等を参照)に従って製造することができる。
【0029】
塩基性塩化アルミニウムの製造方法の一例としては、水酸化アルミニウム等のアルミニウム化合物と塩酸をオートクレーブに入れて水熱処理する方法等が挙げられる。水熱処理時に圧力は常圧よりも高圧、例えば、0.2MPa以上、1.5MPa以下の加圧条件とし、水の温度は、沸点以上の温度、例えば、約120℃以上、200℃以下の温度をかけることで水酸化アルミニウムを塩酸で溶解する方法が好ましい。
【0030】
上記製造方法において、塩基性塩化アルミニウムの塩基度を変更する目的で塩基度調整剤を使用してもよい。塩基度調整剤としては、例えば、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属の炭酸水素塩、アルカリ土類金属の炭酸水素塩、アルカリ金属のアルミン酸塩が挙げられる。
【0031】
アルカリ金属とアルカリ土類金属の水酸化物の具体例は、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等である。アルカリ金属とアルカリ土類金属の炭酸塩、炭酸水素塩の具体例は、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム等である。アルカリ金属のアルミン酸塩の具体例は、アルミン酸ナトリウム等である。
【0032】
塩基性塩化アルミニウムの硫酸イオン濃度を変更する目的で硫酸や硫酸アルミニウムを使用してもよい。
【0033】
なお、塩基性塩化アルミニウムとしては、上記のようにして製造されるものの他に、塩基性塩化アルミニウムや、普通塩基度、高塩基度、超高塩基度等のポリ塩化アルミニウム等の名称で販売されている市販品で上記範囲のものがあれば、それを使用してもよい。
【0034】
本発明のホウ素含有塩基性塩化アルミニウムの特徴であるホウ素は、上記した塩基性塩化アルミニウムにホウ素化合物を最終的なホウ素含有塩基性塩化アルミニウムにおけるB/Alのモル比が0.01以上、1.00以下、好ましくは、0.02以上、0.70以下、より好ましくは、0.05以上、0.50以下となるように添加することで得られる。なお、本発明のホウ素含有塩基性塩化アルミニウムにおけるホウ素の含有量は、添加するホウ素化合物の量で変化させることができる。また、ホウ素化合物の添加方法は特に限定されず、塩基性塩化アルミニウムを製造する工程の内、いずれかの工程でホウ素化合物を上記の量で添加すればよいが、好ましくは塩基性塩化アルミニウムを製造する最後の工程で添加する。これらの工程の後には、更に、常法に従って精製、乾燥等を行ってもよい。
【0035】
[ホウ素化合物]
本発明のホウ素含有塩基性塩化アルミニウムの製造に用いられるホウ素化合物は、特に限定されないが、例えば、ホウ素のオキソ酸の塩等が好ましい。代表的なホウ素のオキソ酸の塩としては、四ホウ酸ナトリウムや四ホウ酸カリウム、メタホウ酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウムなどが挙げられる。中でも、工業用原料としてホウ砂が使用できる四ホウ酸ナトリウムが特に好ましい。上記したホウ素のオキソ酸の塩としては、ホウ酸や三酸化二ホウ素を水に溶解することでホウ酸イオン生成し、塩基性物質で遊離する水素イオンを中和してホウ素のオキソ酸の塩を形成したものを用いてもよい。
【0036】
[確認方法]
本発明においては、上記のような性質を有するホウ素含有塩基性塩化アルミニウムが製造されたことをICP-AES(誘導結合プラズマ―発光分析法)やアゾメチンH吸光光度法、ポリオール錯体を用いた電気化学的定量法などで確認することができる。
【0037】
[水処理]
以上説明した本発明のホウ素含有塩基性塩化アルミニウムは、被処理水と混合することにより被処理水中の不純物を凝集させることができる。被処理水中の不純物を凝集させる場合のホウ素含有塩基性塩化アルミニウムの使用量は特に限定されないが、例えば、1~1000mg/L、好ましくは3~300mg/Lである。なお、本発明のホウ素含有塩基性塩化アルミニウムは、従来公知の塩基性塩化アルミニウムにより、被処理水中の不純物を凝集させる凝集方法を利用した各種水処理と同様に各種水処理に利用できる。また、本発明のホウ素含有塩基性塩化アルミニウムを用いた凝集方法の各種条件は、ホウ素含有塩基性塩化アルミニウムを用いる以外は、従来公知の塩基性塩化アルミニウムにより、被処理水中の不純物を凝集させる凝集方法と同様でよい。
【0038】
本発明のホウ素含有塩基性塩化アルミニウムが凝集させることができる被処理水中の不純物としては、浮遊物質(懸濁物質、suspended solids)のように水中に懸濁している不溶解性物質である。「上水試験方法」では「2mmのふるいを通過し、孔径1μmの濾過材上に残留する物質を浮遊物質とする。」と定義している。例えば、粘土(粒径0.004mm以下)、シルト(粒径0.06mm以下)など岩石の砕屑物、金属、金属水酸化物、金属酸化物などの無機物、菌類、藻類などの生物由来の濁質、油などの有機物等が挙げられる。また、不純物の大きさとしては、例えば、1nm~0.1mm、好ましくは0.01μm~10μmである。このような不純物を含有する被処理水としては、例えば、上水道用原水(河川等の表流水)、工業用水、産業排水、生活排水、畜産排水等が挙げられる。
【0039】
また、本発明のホウ素含有塩基性塩化アルミニウムを用いた被処理水中の不純物の凝集方法を他の公知の水処理プロセスと組み合わせても良い。他の公知の水処理プロセスとしては、例えば、沈殿分離、浮上分離、濾過、脱水濾過、膜分離、イオン交換、物理吸着、ストリッピング、酸化・消毒、電気透析・電気分解等が挙げられる。
【0040】
[凝集作用のメカニズム]
一般に、天然の濁質はコロイド溶液の性質を有するものが多く、粒子表面が負の電荷を有し、これが互いに反発し合うことで安定な状況として存在する。通常のアルミニウム系凝集剤は、水で希釈されることによって加水分解が進行し、より大きな正電荷をもつアルミニウム多量体が形成され、濁質の表面電荷を中和することで粒子間に引力が働き、微細な塊状(フロック)が形成される。更にアルミニウム系凝集剤の加水分解物が濁質同士を主に吸着作用によって結合してフロックを形成し沈殿する。これに対し、本発明のホウ素含有塩基性塩化アルミニウムを用いたときは、ホウ素によってフロックの形成が促進される。ホウ素原子は酸素原子と安定した結合を作る性質が有り、通常ホウ素化合物は、水中においてオキソ酸であるホウ酸の形態で存在し、電離して陰イオンであるホウ酸イオンを形成する。アルミニウム系凝集剤の吸着作用による結合がホウ酸イオンによって促進されることで凝集作用が向上する。
【0041】
[水処理凝集剤]
本発明のホウ素含有塩基性塩化アルミニウムは被処理水中の不純物の凝集作用を有するため、これを含有させた水処理凝集剤として利用することができる。その場合、水処理凝集剤には、本発明の効果を損なわない限り、別の凝集剤を添加してもよい。例えば、ポリ硫酸第二鉄のような無機凝集剤や、有機系の高分子凝集剤等が挙げられる。
【実施例0042】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
[ジャーテスト]
本発明では塩基性塩化アルミニウムの凝集性の評価として、濁度を指標とするジャーテストを採用した。浮遊物質量と濁度の間には高い相関があり、水の不純物量(汚れ、濁り)を示す指標として扱う場合には、濁度を用いることが一般的である。
【0044】
ジャーテストは、ジャーテスター MJS―6T(株式会社大同工業所)を使用して、模擬濁質としてカオリン(はくとう土,CAS登録番号:1332-58-7)を50mg/L含有し、下記表1の水質を有する試験水に対して、室温(約20℃)で実施した。ジャーテストによる凝集条件は、1Lビーカーに入れた試験水1Lを、100rpmで撹拌しながら実施例および比較例の塩基性塩化アルミニウムを添加し、引き続き同じ100rpmで1分間の急速撹拌、60rpmで10分間の緩速撹拌、10分間の静置とした。静置後の上澄水を採取し、濁度、吸光度(Abs.)、曇り度(Haze)、pHを測定した。なお、上澄水の濁度、吸光度、曇り度は濁度計・色度計 WA7700(日本電色工業株式会社)を使用して測定した。pHはポータブル型pHメーター D-71(株式会社堀場製作所)を使用して測定した。
【0045】
【0046】
(比較例1)
高塩基度ポリ塩化アルミニウムのジャーテスト:
模擬濁質としてカオリンを50mg/L含有し、表1の水質を有する試験水に、凝集剤としてホウ素を含まない南海化学社製の高塩基度ポリ塩化アルミニウム(酸化アルミニウム濃度10.7質量%、塩基度61.4%)を注入率10、15、20、25、30mg/Lとなるように注入し、ジャーテストを行った。表2に上澄水の濁度、吸光度、曇り度、pHをまとめた。
【0047】
【0048】
表2の結果から今回ジャーテストに使用した模擬濁質としてカオリンを含有する試験水は、ポリ塩化アルミニウムを添加するのみでは被処理水の濁度を18度以下に低下させることはできないことがわかった。また、凝集剤の注入量を増加させると濁度の低下量が減少する傾向がみられた。これは注入したポリ塩化アルミニウムによって濁質が正電荷を帯び、粒子間に反発力が生じることで凝集作用が抑制されたためと推測される。
【0049】
(実施例1)
ホウ素含有塩基性塩化アルミニウムのジャーテスト:
南海化学社製の高塩基度ポリ塩化アルミニウム(酸化アルミニウム濃度10.7質量%、塩基度61.4%)にホウ素化合物として四ホウ酸ナトリウム(CAS登録番号:1330-43-4、分子式:Na2B4O7)を表3に示すB/Alモル比率となるように添加した(四ホウ酸ナトリウムの添加率は、1.05、2.10、5.26、10.45、20.63、50.11、68.81mg/g)。添加後、混合溶解してホウ素含有塩基性塩化アルミニウムとした。
【0050】
模擬濁質としてカオリンを50mg/L含有し、表1の水質を有する試験水に、凝集剤としてのホウ素含有塩基性塩化アルミニウムを注入率30mg/Lとなるように注入し、ジャーテストを行った。表3に上澄水の濁度、吸光度、曇り度、pHをまとめた。
【0051】
【0052】
図1は、凝集剤注入率30mg/Lにおける実施例1及び比較例1の上澄水濁度を示す図である。
図1の横軸は、B/Alモル比であり、縦軸は濁度(被処理水の濁度)である。濁度の値が小さいほど、凝集性が高いことを示している。
図1に示すように、模擬濁質としてカオリンを含む試験水にポリ塩化アルミニウムのみを注入した比較例1(B/Alモル比が0)では、被処理水の濁度は低下せず、懸濁物質であるカオリンはほとんど凝集しなかった。これに対し、実施例1のように、四ホウ酸ナトリウムを添加して、凝集剤のB/Alモル比を0.01以上、1.00以下に調整することによって、被処理水の濁度を低下させることができた。また、凝集剤の注入率が一定であれば、B/Alモル比を増加させることによって、被処理水の濁度をより低下させ、良好な凝集性が得られることがわかった。
【0053】
(実施例2)
ホウ素含有塩基性塩化アルミニウムのジャーテスト:
南海化学社製の高塩基度ポリ塩化アルミニウム(酸化アルミニウム濃度10.7質量%、塩基度61.4%)にホウ素化合物としてメタホウ酸ナトリウム四水和物(CAS登録番号:10555-76-7、分子式:NaBO2・4H2O)を表4に示すB/Alモル比率となるように添加した(メタホウ酸ナトリウム四水和物の添加率は、5.74、14.29、28.12、54.58mg/g)。添加後、混合溶解してホウ素含有塩基性塩化アルミニウムとした。
【0054】
模擬濁質としてカオリンを50mg/L含有し、表1の水質を有する試験水1Lに、ホウ素含有塩基性塩化アルミニウムを注入率30mg/Lとなるように注入し、ジャーテストを行った。表4に上澄水の濁度、吸光度、曇り度、pHをまとめた。
【0055】
図2は、凝集剤注入率30mg/Lにおける実施例2及び比較例1の上澄水濁度を示す図である。メタホウ酸ナトリウム四水和物を添加して、凝集剤のB/Alモル比を0.01以上、1.00以下に調整することによって、被処理水の濁度を低下させることができた。
【0056】
【0057】
(実施例3)
ホウ素含有塩基性塩化アルミニウムのジャーテスト:
南海化学社製の高塩基度ポリ塩化アルミニウム(酸化アルミニウム濃度10.7質量%、塩基度61.4%)にホウ素化合物として過ホウ酸ナトリウム四水和物(CAS登録番号:10486-00-7、分子式:NaBO3・4H2O)を表5に示すB/Alモル比率となるように添加した(過ホウ酸ナトリウム四水和物の添加率は、6.40、15.93、31.28、60.53mg/g)。添加後、混合溶解してホウ素含有塩基性塩化アルミニウムとした。
【0058】
模擬濁質としてカオリンを50mg/L含有し、表1の水質を有する試験水1Lに、ホウ素含有塩基性塩化アルミニウムを注入率30mg/Lとなるように注入し、ジャーテストを行った。表5に上澄水の濁度、吸光度、曇り度、pHをまとめた。
【0059】
図3は、凝集剤注入率30mg/Lにおける実施例3及び比較例1の上澄水濁度を示す図である。過ホウ酸ナトリウム四水和物を添加して、凝集剤のB/Alモル比を0.01以上、1.00以下に調整することによって、被処理水の濁度を低下させることができた。
【0060】
【0061】
(比較例2)
ケイ素とマグネシウムを含む高塩基性塩化アルミニウムのジャーテスト:
特許文献2(特許第6186545号公報)に記載の方法に従い、ケイ素とマグネシウムを含む高塩基性塩化アルミニウム(酸化アルミニウム濃度10.3質量%,塩基度70.5%)を得た。得られた高塩基性塩化アルミニウムの組成は、Si/Al2O3(モル比)=0.008、Mg/Al2O3(モル比)=0.06、Na/Al2O3(モル比)=0.6、Cl/Al2O3(モル比)=2.6,SO4/Al2O3(モル比)=0.072であった。なお、各元素の分析に関しては、JIS分析法に従って分析を行った。
【0062】
模擬濁質としてカオリンを50mg/L含有し、表1の水質を有する試験水に、凝集剤としてケイ素とマグネシウムを含む高塩基性塩化アルミニウムを注入率10、15、20、25、30mg/Lとなるように注入し、ジャーテストを行った。表6に上澄水の濁度、吸光度、曇り度、pHをまとめた。
【0063】
【0064】
表6の結果から今回ジャーテストに使用した模擬濁質としてカオリンを含有する試験水は、ケイ素とマグネシウムを含む高塩基性塩化アルミニウムを添加するのみでは被処理水の濁度を23度以下に低下させることはできないことがわかった。また、比較例1と同様に凝集剤の注入量を増加させると濁度の低下量が減少する傾向がみられた。