(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089043
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】エキシマランプ及びその製造方法、並びに紫外線照射装置
(51)【国際特許分類】
H01J 61/35 20060101AFI20240626BHJP
H01J 65/00 20060101ALI20240626BHJP
H01J 61/30 20060101ALI20240626BHJP
H01J 9/24 20060101ALI20240626BHJP
H01J 61/12 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
H01J61/35 F
H01J65/00 B
H01J61/30 N
H01J9/24 C
H01J61/12 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204148
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一樹
(72)【発明者】
【氏名】十川 博行
(72)【発明者】
【氏名】吉池 勝大
(72)【発明者】
【氏名】阿部 友則
【テーマコード(参考)】
5C043
【Fターム(参考)】
5C043AA07
5C043BB01
5C043CC16
5C043DD36
5C043EA16
5C043EB11
5C043EB15
5C043EC02
(57)【要約】
【課題】安価で且つランプ寿命を延ばすことを可能としたホウ珪酸ガラスを用いたエキシマランプ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】放電ガスGが封入された放電管2を備え、放電管2は、ホウ珪酸ガラスからなり、放電ガスGは、KrClからなり、放電管2の内面に塩素を含む塩素含有層4が設けられている。塩素含有層4は、ホウ珪酸ガラスと塩素とを反応させた層からなる。塩素含有層4を形成する際は、濃度が35~37質量%の塩酸溶液を用いて、この塩酸溶液中にホウ珪酸ガラスの放電管2を浸漬し、ホウ珪酸ガラスと塩素溶液中の塩素とを反応させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電ガスが封入された放電管を備え、
前記放電管は、ホウ珪酸ガラスからなり、
前記放電ガスは、KrClからなり、
前記放電管の内面に塩素を含む塩素含有層が設けられていることを特徴とするエキシマランプ。
【請求項2】
前記塩素含有層は、前記ホウ珪酸ガラスと前記塩素とを反応させて塩素により終端した層からなることを特徴とする請求項1に記載のエキシマランプ。
【請求項3】
前記塩素含有層の厚みは、100~500nmであることを特徴とする請求項1に記載のエキシマランプ。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載のエキシマランプを備えることを特徴とする紫外線照射装置。
【請求項5】
放電ガスが封入された放電管を備えたエキシマランプの製造方法であって、
前記放電管として、ホウ珪酸ガラスを用い、
前記放電ガスとして、KrClを用い、
前記放電管の内面に塩素を含む塩素含有層を形成することを特徴とするエキシマランプの製造方法。
【請求項6】
前記塩素含有層を形成する際に、前記ホウ珪酸ガラスと前記塩素とを反応させることを特徴とする請求項5に記載のエキシマランプの製造方法。
【請求項7】
前記塩素含有層を形成する際に、塩酸溶液を用いることを特徴とする請求項6に記載のエキシマランプの製造方法。
【請求項8】
前記塩酸溶液の濃度を35~37質量%とすることを特徴とする請求項7に記載のエキシマランプの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エキシマランプ及びその製造方法、並びに紫外線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、COVID-19を始めとした感染症が世界中で流行しており、感染症の対策が非常に重要になる。その中でも除菌やウイルスの不活性化の需要が高まっており、特に紫外線による除菌やウイルスの不活性化が注目されている。
【0003】
例えば、放電ガスにKrClを用いたエキシマランプは、ピーク波長が222nmの紫外線(UVC)を励起させるため、254~290nmの他のUVCによりも人体に対する許容可能暴露量が多く、人体が介在する環境での除菌やウイルスの不活性化などに用いられている。
【0004】
一方、紫外線照射装置の光源として使用されているエキシマランプには、寿命があり、一定サイクルでランプ交換が必要になる。このため、信頼性とランニングコストとの観点から、ランプ寿命を延ばす必要がある(例えば、下記特許文献1,2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3116634号公報
【特許文献2】特開2011-216419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したエキシマランプでは、放電ガス中の塩素が放電管のガラスと反応して、紫外線の照度が減少することがわかっている。
【0007】
具体的に、ホウ珪酸ガラスからなる放電管は、石英ガラスからなる放電管に比べて、放電ガス中の塩素がホウ珪酸ガラスに含まれるホウ素やナトリウムと反応して、紫外線の照度が減少し易い。また、石英ガラスは、ホウ珪酸ガラスよりも高価なため、製造コストが高くなる。
【0008】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、安価で且つランプ寿命を延ばすことを可能としたホウ珪酸ガラスを用いたエキシマランプ及びその製造方法、並びに、そのようなエキシマランプを用いた紫外線照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
〔1〕 放電ガスが封入された放電管を備え、
前記放電管は、ホウ珪酸ガラスからなり、
前記放電ガスは、KrClからなり、
前記放電管の内面に塩素を含む塩素含有層が設けられていることを特徴とするエキシマランプ。
〔2〕 前記塩素含有層は、前記ホウ珪酸ガラスと前記塩素とを反応させて塩素により終端した層からなることを特徴とする前記〔1〕に記載のエキシマランプ。
〔3〕 前記塩素含有層の厚みは、100~500nmであることを特徴とする前記〔1〕に記載のエキシマランプ。
〔4〕 前記〔1〕~〔3〕の何れか一項に記載のエキシマランプを備えることを特徴とする紫外線照射装置。
〔5〕 放電ガスが封入された放電管を備えたエキシマランプの製造方法であって、
前記放電管として、ホウ珪酸ガラスを用い、
前記放電ガスとして、KrClを用い、
前記放電管の内面に塩素を含む塩素含有層を形成することを特徴とするエキシマランプの製造方法。
〔6〕 前記塩素含有層を形成する際に、前記ホウ珪酸ガラスと前記塩素とを反応させることを特徴とする前記〔5〕に記載のエキシマランプの製造方法。
〔7〕 前記塩素含有層を形成する際に、塩酸溶液を用いることを特徴とする前記〔6〕に記載のエキシマランプの製造方法。
〔8〕 前記塩酸溶液の濃度を35~37質量%とすることを特徴とする前記〔7〕に記載のエキシマランプの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、安価で且つランプ寿命を延ばすことを可能としたホウ珪酸ガラスを用いたエキシマランプ及びその製造方法、並びに、そのようなエキシマランプを用いた紫外線照射装置を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るエキシマランプを備えた紫外線照射装置の構成を示す平面図である。
【
図2】
図1中に示す線分A-Aによる紫外線照射装置の断面図である。
【
図5】実施例1及び比較例1のXPS分析による深さ方向に対する塩素濃度を示すグラフである。
【
図6】実施例1のCl2pのピークを示すグラフである。
【
図7】実施例1及び比較例1のエキシマランプの点灯時間に対する照度維持率の変化を測定したグラフである。
【
図8】比較例1のエキシマランプについて、発光初期と1000時間後の紫外線の発光スペクトルを測定したグラフである。
【
図9】実施例1のエキシマランプについて、発光初期と1000時間後の紫外線の発光スペクトルを測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面においては、各構成要素を模式的に示すことがあり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0013】
本発明の一実施形態として、例えば
図1~
図4に示すエキシマランプ1を備えた紫外線照射装置100について説明する。
【0014】
なお、
図1は、エキシマランプ1を備えた紫外線照射装置100の構成を示す平面図である。
図2は、
図1中に示す線分A-Aによる紫外線照射装置100の断面図である。
図3は、放電管2の構成を示す水平断面図である。
図4は、放電管2の構成を示す鉛直断面図である。
【0015】
本実施形態の紫外線照射装置100は、
図1及び
図2に示すように、本実施形態のエキシマランプ1と、エキシマランプ1を内側に収容する筐体101と、筐体101の開口部101aを閉塞するガラス基板102と、筐体101の内側からエキシマランプ1を吊り下げた状態で支持する複数(本実施形態では4つ)の支持部材103と、エキシマランプ1の通電を制御する通電制御部104とを備えている。
【0016】
本実施形態のエキシマランプ1は、
図1~
図4に示すように、放電ガスGが封入された放電管2と、放電管2を外側から挟み込む一対の電極3とを備えている。
【0017】
放電管2は、例えば放電ガスGとしてKrClを封入したホウ珪酸ガラス製の円筒管からなる。KrClは、電圧を印加して放電により励起され、基底状態に戻るときにピーク波長が222nmの紫外線を発光する。
【0018】
放電管2の内面には、塩素を含む塩素含有層4が設けられている。塩素含有層4は、上述した放電管2を形成するホウ珪酸ガラスと塩素とを反応させた層からなる。塩素含有層4は、上述した放電ガスG中の塩素が放電管2のホウ珪酸ガラスに含まれるホウ素やナトリウムと反応するのを抑制する。
【0019】
塩素含有層4を形成する際は、濃度が35~37質量%の塩酸(HCl)溶液を用いて、この塩酸溶液中にホウ珪酸ガラスの放電管2を浸漬し、ホウ珪酸ガラスと塩酸溶液中の塩素とを反応させる。
【0020】
これにより、ホウ珪酸ガラス中のホウ素やナトリウムが塩酸溶液中の塩素と反応する、又は、ガラス表面の未結合手が塩素により終端されることで、放電管2の内面に塩素含有層4を形成することが可能である。
【0021】
また、塩素含有層4の厚みは、100~500nmであることが好ましく、より好ましくは、300~500nmである。
【0022】
塩素含有層4の厚みが100nm未満であると、上述した放電ガスG中の塩素が放電管2のホウ珪酸ガラスと反応する可能性があるため、塩素含有層4の厚みが不十分となる。
【0023】
一方、塩素含有層4の厚みが500nm超えると、上述した放電ガスG中の塩素が放電管2のホウ珪酸ガラスと反応するのを抑制する効果に変化がなく、それ以上の厚みは不要となる。
【0024】
一対の電極3は、例えばアルミニウム(Al)や銅(Cu)などの導電金属からなり、互いに対称な形状を有して、放電管2を挟んだ幅方向の両側に互いに対向して配置されている。
【0025】
また、一対の電極3は、放電管2の軸線方向(長さ方向)に延在しながら、互いに対向する側(内側)の面が放電管2の外周面に沿って凹状に湾曲した形状を有している。
【0026】
これにより、一対の電極3は、放電管2の外周面に沿って放電管2を挟み込みながら、放電管2の両端部分を除く中央部分を保持している。
【0027】
筐体101は、例えば下面に開口部101aを有して、例えば方形箱状に形成されたアルミニウム等からなる。ガラス基板102は、紫外線に対して透過率が高い石英ガラスからなり、開口部101aを閉塞した状態で筐体101に取り付けられている。したがって、エキシマランプ1は、筐体101及びガラス基板102により密閉された空間Kに配置されている。
【0028】
なお、本実施形態の紫外線照射装置100では、持ち運び可能とするため、筐体101の上部に取手(図示せず。)が取り付けられた構成としてもよい。
【0029】
複数の支持部材103は、例えばセラミック等の絶縁体からなり、互いに同じ長さで棒状に形成されている。複数の支持部材103は、一対の電極3の長さ方向の両端にそれぞれ取り付けられている。
【0030】
これにより、エキシマランプ1は、これら複数の支持部材103を介して筐体101の内側に設けられた天板101bから吊り下げられた状態で支持されている。また、筐体101は、複数の支持部材103を介して一対の電極3とは電気的に絶縁されている。
【0031】
通電制御部104は、筐体101の天板101bの上に配置された通電回路基板からなり、一対の配線ケーブル105を介して一対の電極3と電気的に接続されている。
【0032】
以上のような構成を有する本実施形態のエキシマランプ1を備えた紫外線照射装置100では、外部電源(図示せず。)から通電制御部104に電力が供給される。また、エキシマランプ1の点灯時には、通電制御部104を介して一対の電極3の間に高周波高電圧が印加される。
【0033】
これにより、エキシマランプ1は、放電管2内で放電を開始し、放電ガスGの励起により発生した紫外線を外部へと照射する。
【0034】
紫外線は、ガラス基板102を透過して照射対象物に向けて照射される。本実施形態の紫外線照射装置100は、例えば除菌やウイルスの不活性化などに好適に用いられる。
【0035】
ところで、本実施形態のエキシマランプ1では、放電管2の内面に、上述した塩素含有層4が設けられている。
【0036】
これにより、放電時に放電ガスG中の塩素が放電管2のホウ珪酸ガラスと反応するのを抑制し、紫外線の照度を長時間維持することができ、ランプ寿命を延ばすことが可能である。
【0037】
なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0038】
例えば、上記実施形態では、塩素含有層4を形成する際に、上述した塩酸溶液中にホウ珪酸ガラスの放電管2を浸漬する方法を採用しているが、放電管2のホウ珪酸ガラスと塩素とを反応さてホウ珪酸ガラスを塩素で終端させる方法であればよく、それ以外の方法を採用することも可能である。
【実施例0039】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0040】
本実施例では、実施例1として、全長220mm、外径10mm、内径8mm、厚み1mmのホウ珪酸ガラスからなる円筒のガラス管を準備し、濃度が35~37質量%の塩酸溶液を用いて、この塩酸溶液中にガラス管を15分間浸漬した。
【0041】
このガラス管について、内面から深さ方向に対するXPS分析を実施した。また、比較例1として、未浸漬のガラス管についても同様に、内面から深さ方向に対するXPS分析を実施した。その結果を
図5及び
図6に示す。
【0042】
なお、
図5は、実施例1及び比較例1のXPS分析による内面からの深さに対する塩素濃度を示すグラフである。一方、
図6は、実施例1のCl2pのピークを示すグラフである。
【0043】
図5及び
図6に示すように、実施例1では、450nm以上の深さにおいても塩素が検出された。
【0044】
次に、実施例1及び比較例1のガラス管に、KrClの放電ガスGを封入し、それぞれの放電管を作製した後、エキシマランプとして、1000時間の連続点灯を行い、その照度維持率を測定した。その測定結果を
図7に示す。
【0045】
なお、
図7は、実施例1及び比較例1のエキシマランプの点灯時間に対する照度維持率の変化を測定したグラフである。
【0046】
図7に示すように、比較例1のエキシマランプは、1000時間後の照度維持率が約60%であったのに対して、実施例1のエキシマランプは、1000時間後の照度維持率が約80%であった。
【0047】
これにより、実施例1のエキシマランプは、比較例1のエキシマランプに比べて、照度維持率が約20%向上したことがわかる。
【0048】
次に、実施例1及び比較例1のエキシマランプについて、発光初期と1000時間後の紫外線の発光スペクトルをそれぞれ測定した。その結果を
図8及び
図9に示す。
【0049】
なお、
図8は、比較例1のエキシマランプについて、発光初期と1000時間後の紫外線の発光スペクトルを測定したグラフである。
図9は、実施例1のエキシマランプについて、発光初期と1000時間後の紫外線の発光スペクトルを測定したグラフである。
【0050】
図8及び
図9に示すように、実施例1及び比較例1の発光スペクトルは、Kr2Clのエキシマ発光に起因する波長300~400nmのブロードなスペクトルである。
【0051】
また、
図9に示す実施例1の発光スペクトルは、
図8に示す比較例1の発光スペクトルに比べて、時間経過に対するKr2Clの発光強度の増加が少ないことがわかる。
【0052】
したがって、ガラス管の塩酸浸漬により塩素含有層を形成することによって、放電ガスG中の塩素濃度の低下が低く抑えられることがわかった。
【0053】
以上のように、本発明によれば、安価で且つランプ寿命を延ばすことを可能としたホウ珪酸ガラスを用いたエキシマランプ及びその製造方法、並びに、そのようなエキシマランプを用いた紫外線照射装置を提供することが可能である。
1…エキシマランプ 2…放電管 3…電極 4…塩素含有層 100…紫外線照射装置 101…筐体 102…ガラス基板 103…支持部材 104…通電制御部 105…配線ケーブル G…放電ガス