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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089060
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】中綿入り布製品
(51)【国際特許分類】
   A41D 31/02 20190101AFI20240626BHJP
   A41D 31/06 20190101ALI20240626BHJP
   A41D 31/00 20190101ALI20240626BHJP
   A41D 1/02 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
A41D31/02 G
A41D31/06 100
A41D31/00 502S
A41D1/02 C
A41D31/00 502A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204182
(22)【出願日】2022-12-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 展示会名 アウトドア/アスレチック総合展示会 展示日 令和4年12月5日
(71)【出願人】
【識別番号】594137960
【氏名又は名称】株式会社ゴールドウイン
(74)【代理人】
【識別番号】100095430
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 勲
(72)【発明者】
【氏名】岩村 陽子
(72)【発明者】
【氏名】花田 未奈美
(72)【発明者】
【氏名】松田 洋直
【テーマコード(参考)】
3B031
【Fターム(参考)】
3B031AA08
3B031AB01
3B031AC01
3B031AC11
3B031AE11
3B031AE15
(57)【要約】
【課題】簡単な構造で簡単な製造方法で作ることができ、中綿部材が均一な嵩高を有して良好な断熱性を維持し、保温性が高い中綿入り布製品を提供する。
【解決手段】一対の表生地28と裏生地26が積層されて中綿仕切りステッチ32で縫い合わされ、袋状の中綿収容空間40を有する。中綿収容空間40には保温性を有する中綿部材42を有し、一対の生地26,28の、一方の表生地28は、他方の裏生地26よりも大きい。中綿仕切りステッチ32の近傍には、タック35又はダーツ等による余剰部を備える。表生地28は、中綿部材42に押し上げられて立体的に裏生地26から立ち上がり、中綿収容空間40が立体形状となり、中綿部材42は、中綿仕切りステッチ32の近傍に均一の厚みで入れられる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の生地が積層して設けられ、前記生地どうしは中綿仕切りステッチで縫い合わされて袋状の中綿収容空間が形成され、前記中綿収容空間には保温性を有する中綿部材が入れられ、
前記一対の生地の、一方の前記生地は他方の前記生地よりも大きく裁断され、前記中綿仕切りステッチの近傍に余剰部が作られ、大きく裁断された前記生地は、前記中綿部材に押し上げられて立体的に他方の前記生地から立ち上がり、前記中綿収容空間は立体形状となり、前記中綿部材が前記中綿仕切りステッチの近傍に均一な厚みで入れられることを特徴とする中綿入り布製品。
【請求項2】
前記一方の生地の前記余剰部は、タック又はダーツである請求項1記載の中綿入り布製品。
【請求項3】
前記一対の生地の一方は、着用者の身体側に位置する表生地であり、他方は外側に位置する裏生地であり、前記表生地が前記裏生地よりも大きく裁断され、前記表生地に前記タックまたは前記ダーツが作られ前記中綿部材に押し上げられて立体的に前記裏生地から立ち上がる請求項1又は2記載の中綿入り布製品。
【請求項4】
前記中綿収容空間は、互いに隣接している請求項1又は2記載の中綿入り布製品。
【請求項5】
前記中綿入り布製品はジャケットであり、前記中綿部材はダウンである請求項1又は2記載の中綿入り布製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、寒冷地等で保温防寒のために使用する衣料やその他の中綿入り布製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、寒冷地で着用する保温性が高い衣料として、生地の内側にダウン等の中綿が入れられた中綿入り衣料がある。このような中綿入り衣料は、例えば、特許文献1の中綿入り衣料の製造方法に開示されているように、表生地と裏生地を縫い合わせて袋状とした内側空間に、中綿が充填されたものがある。しかし、表生地と裏生地を縫い合わせる縫い目の周囲は、内側空間が狭くなり、中綿が薄くなり、断熱性が低くなるという問題がある。
【0003】
この問題を解決するものとして、特許文献2の衣類及び他のアウトドア用品のための加温セル・パターンが開示されている。加温セル・パターンは、複数の加温セルを取り付けて形成され、各加温セルは、立方体形状である。各加温セルは、各種の方法で衣類又は他のアウトドア用品の生地に取り付けられている。加温セルの角は、ダーツが付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-71019号公報
【特許文献2】特表2022―506307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献2の場合、断熱性は高いが、立体形状の加温セルを間隔をおいて形成し、各セルの間に空気チャネルを形成して生地に設けることが難しく、製造工数がかかるものである。
【0006】
この発明は、上記背景技術の問題点に鑑みてなされたものであり、簡単な構造で簡単な製造方法で作ることができ、中綿部材が均一な嵩高を有して良好な断熱性を維持し、保温性が高い中綿入り布製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一対の生地が積層して設けられ、前記生地どうしは中綿仕切りステッチで縫い合わされて袋状の中綿収容空間が形成され、前記中綿収容空間には保温性を有する中綿部材が入れられ、前記一対の生地の、一方の前記生地は他方の前記生地よりも大きく裁断され、前記中綿仕切りステッチの近傍にはタック又はダーツ等による余剰部が作られ、大きく裁断された前記生地は、前記中綿部材に押し上げられて立体的に他方の前記生地から立ち上がり、前記中綿収容空間は立体形状となり、前記中綿部材は、前記中綿仕切りステッチの近傍にもほぼ均一の厚みで入れられる中綿入り布製品である。
【0008】
前記一対の生地の一方は、着用者の身体側に位置する表生地であり、他方は身体に対して外側に位置する裏生地であり、前記表生地が前記裏生地よりも大きく裁断され、前記表生地に前記タックまたは前記ダーツが作られ前記中綿部材に押し上げられて着用者の身体側に向かって立体的に前記裏生地から立ち上がる。
【0009】
前記中綿収容空間は、互いに隣接している。前記中綿入り布製品はジャケットであり、前記中綿部材はダウンである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の中綿入り布製品は、簡単な構造で簡単な製造方法で作ることができ、中綿部材は均一な嵩高を有して良好な断熱性を維持し、保温性が高い。少量の中綿部材でも効率的に立体的になり、高い保温性を有する。従って、中綿部材の使用量を抑えることもでき、経済的である。その他、各中綿収容空間ごとに形状変化が可能であり、身体形状に沿い易く、フィット感が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】この発明の第一実施形態の中綿入り衣料の正面図である。
図2】この発明の第一実施形態の中綿入り衣料の背面図である。
図3】この発明の第一実施形態の中綿入り衣料の部分拡大斜視図である。
図4】この発明の第一実施形態の中綿入り衣料の製造工程を示す概略図(a)(b)(c)(d)である。
図5】この発明の第一実施形態の中綿入り衣料の製造工程を示す図4(d)におけるA-A線縦断面図である。
図6】この発明の第二実施形態の中綿入り衣料の表生地の正面図(a)と裏生地の正面図(b)である。
図7】この発明の第三実施形態の中綿入り衣料の表生地の正面図である。
図8】この発明の中綿入り布製品の保温率の試験結果を示すグラフである。
図9】この発明の中綿入り布製品の消費電力の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の実施形態について図面に基づいて説明する。図1図5はこの発明の第一実施形態を示すもので、この実施形態の中綿入り布製品は、寒冷地の屋外などで着用する中綿入り衣料であるジャケット10である。図1はジャケット10の正面を、図2はジャケット10の背面を示したものであり、着用者の上半身を覆う前身頃14、後見頃16、脇部18、袖部20、フード部22等のパーツが縫い合わされて設けられ、さらにGORE-TEX(登録商標)等による外生地23が設けられている。前身頃14の中心には、着脱の際に開閉するファスナ24が設けられている。
【0013】
各パーツは、各パーツの形状に裁断され着用者の身体に対して外側に位置し外生地23に対面する裏生地26と、着用者の身体側である表面に位置し裏生地26よりも大きく裁断された表生地28が積層して設けられている。表生地28は身体に接触しても違和感がないように柔軟な素材で作られている。
【0014】
重ねられた裏生地26と表生地28は中綿仕切りステッチ32で縫い合わされて袋状の中綿収容空間40が形成され、中綿収容空間40には保温性を有する中綿部材42が入れられている。中綿部材42は、例えばダウンである。表生地28は、裏生地26よりも大きく裁断され、中綿仕切りステッチ32の近傍は、表生地28の余剰部であるタック35が作られている。表生地28は、中綿部材42に押し上げられて立体的に裏生地26から立ち上がり、中綿収容空間40は立体形状に形成される。中綿収容空間40が立体形状であるため、中綿部材42は、中綿仕切りステッチ32の近傍にもほぼ均一の厚みで入れられている。中綿収容空間40どうしは、表生地28が裏生地26から略直角に立ち上がって形成されるバッフル面40aで互いに隣接し、隙間がなく、中綿部材42がほぼ均一の厚みで連接して設けられる。
【0015】
次に、この実施形態のジャケット10の製造方法について、図3図5に基づいて説明する。まず、後見頃16の中央ピース16aについて説明する。中央ピース16aは、図4に示すように、襟ぐりから裾まで連続する上下方向に長い形状であり、長手方向に交差する端部の長さは、襟ぐり側よりも裾側が長い。襟ぐり側の端部は、中央ピース16aの内側に向かってくぼむ円弧形状である。長手方向に沿う一対の側縁部29は、長手方向の中間付近でくびれており、中央ピース16aは鼓形状となる。中央ピース16aの長手方向の5か所には、長手方向に対して略直角に、中綿仕切りステッチ32が設けられ、上下方向に6個の中綿収容空間40が設けられる。
【0016】
図4(a)(b)には、後見頃16の中央ピース16aの表生地28と裏生地26の正面図を示す。裏生地26は中央ピース16aの形状に裁断され、周囲を一周する縫い代線26aが設けられている。表生地28は、裏生地26の長手方向を拡大して余剰部を形成した鼓形状に裁断され、長手方向の拡大倍率は例えば1.2倍である。なお長手方向に交差する幅方向は、裏生地26の長さと等しい長さである。表生地28にも、周囲を一周する縫い代線28cが設けられている。
【0017】
次に、図4(c)に示すように、裏生地26と表生地28を重ね合わせ、裏生地26と表生地28の、長手方向の両端部に位置する縫い代線26a,28cを互いに合わせて、端止めステッチ30で各々縫い合わせ、さらに一対のステッチ30の間に、長手方向の5か所を、長手方向に対して略直角に、つまり端止めステッチ30に対して略平行に、中綿仕切りステッチ32で縫い合わせる。
【0018】
次に、図4(d)に示すように、表生地28の、長手方向に沿う両側の側縁部29に、中綿仕切りステッチ32の両側で、それぞれ中綿仕切りステッチ32に対して略平行に、谷折りと山折りを順に作り、両側の山折りの折れ目34どうしを、中綿仕切りステッチ32に一致する位置で隣接させ、タック35を作る。そして、5つの中綿仕切りステッチ32の位置でタック35を取りながら、裏生地26と表生地28の周囲を、縫い代線26a,28cを互いに合わせて、二回目の端止めステッチ36で一周して端止めする。これにより、端止めステッチ36と中綿仕切りステッチ32で囲まれた6つの中綿収容空間40が形成される。この時、中央ピース16aの長手方向に沿う一方の側縁部29は、端止めステッチ30と中綿仕切りステッチ32の間の中間付近または一対の中綿仕切りステッチ32の間の中間付近は、端止めステッチ36が途切れて、中綿挿入口38が形成される。
【0019】
次に、中綿収容空間40に中綿部材42を入れる工程を図5に示す。図5図4(d)のA-A線縦断面図である。図5(a)は、中綿部材42を入れる前の状態を示し、裏生地26と表生地28を、端止めステッチ30、中綿仕切りステッチ32、端止めステッチ36で縫い合わせた状態では、表生地28は一対の折れ目34が互いに隣接してタック35が折り畳まれた状態であり、中綿収容空間40は厚みがなく、裏生地26と表生地28は重ねられている。
【0020】
次に、中綿挿入口38から中綿部材42を入れ、中綿挿入口38を縫い閉じる。中綿部材42を入れると、図5(b)に示すように、表生地28は、中綿部材42に押し上げられて立体的に裏生地26から立ち上がる。端止めステッチ36から離れた部分の折れ目34は略直角に開き、タック35が開き、中綿収容空間40は直方体状に形成される。中綿収容空間40が直方体状であるため、中綿部材42は、中綿仕切りステッチ32の近傍にもほぼ均一の厚みで入れられる。中綿収容空間40どうしは、表生地28が裏生地26から略直角に立ち上がって形成されるバッフル面40aで互いに隣接し、隙間がなく、中綿部材42がほぼ均一の厚みで連接して設けられる。これで中央ピース16aが完成する。
【0021】
中綿部材42を入れて完成した中央ピース16aを、図2に示すように中央部16aの両側に位置する側方ピース16bに、長手方向に沿う一対の側縁部29同士を切り替え合わせステッチ44により縫い合わせて、後見頃16を作る。なお、側方ピース16bも、中央ピース16aと同様に、裏生地26と、裏生地26より大きい表生地28を端止めステッチ30、中綿仕切りステッチ32、端止めステッチ36の順で縫い合わせて中綿収容空間40を形成し、中綿部材42を入れて立体的にする。これにより側方ピース16bも、裏生地26と表生地28の間に中綿部材42が均一の厚みで入れられている。
【0022】
切り替え合わせステッチ44は、図3に示すように、中央ピース16aを囲む端止めステッチ36よりも少し中央側に設ける。これにより、中央ピース16aと側方ピース16bの、表生地28の折れ目34が連接し、中央ピース16aと側方ピース16bの、バッフル面40aに対して交差しなおかつ裏生地26に対して略直角に立ち上がるバッフル面40bが形成される。中央ピース16aと側方ピース16bは、立体的な中綿収容空間40どうしは、バッフル面40bで互いに隣接し、隙間なく、各中綿部材42がほぼ均一の厚みで設けられる。つまり、各中綿収容空間40は、4つの辺が、隣接する中綿収容空間40に隙間なく隣接し、各中綿部材42が一面にほぼ均一の厚みで設けられる。なお、この製造方法は、これ以外でも良い。
【0023】
ジャケット10の、後見頃16以外のフード部22、前身頃14、脇部18、袖部20も同様に、各ピースの形状に裁断された裏生地26に、裏生地26より大きい表生地28を端止めステッチ30、中綿仕切りステッチ32、端止めステッチ36の順で縫い合わせて中綿収容空間40を形成し、中綿部材42を入れて立体的にする。これにより、中綿部材42はほぼ均一の厚みで入れられている。完成した各ピースをさらに切り替え合わせステッチ44により縫い合わせて、フード部22、後見頃16、脇部18、袖部20である各パーツを作る。
【0024】
次に、各パーツを切り替え合わせステッチ46で縫い合わせ、ジャケット10が製造される。ジャケット10は、表生地28にタック35が設けられ中綿部材42に押し上げられて着用者の身体側に向かって裏生地26から立ち上がる。切り替え合わせステッチ46は、端止めステッチ36と切り替え合わせステッチ44よりも各パーツの中央側に設ける。これにより、隣接するパーツどうしの表生地28の折れ目34が連接し、バッフル面40a,40bのいずれかに対して交差しなおかつ裏生地26に対して略直角に立ち上がるバッフル面が形成され、隣接するパーツの中綿収容空間40どうしはバッフル面で互いに隣接し、隙間なく、各中綿部材42がほぼ均一の厚みで設けられる。
【0025】
この実施形態のジャケット10によれば、簡単な構造で簡単な製造方法で作ることができ、中綿部材42は均一な嵩高を有して良好な断熱性を維持し、着用者に対しての接地面積が増え、保温性が高い。表生地28を大きく裁断して、タック35を作るという簡単な製造方法により、各中綿収容空間40を立体形状に作り、また中綿収容空間40どうしを互いに隣接させることができ、中綿部材42をほぼ均一の厚みで設けることができる。
【0026】
さらに、これにより以下の効果を有する。表生地28と裏生地26を縫い合わせる中綿仕切りステッチ32や、各ピースを縫い合わせる切り替え合わせステッチ44,46の周囲で、中綿部材42が薄くなることが無く、表裏の窪みが軽減され、コールドスポットになる中綿収容空間40間の隙間を低減し、デッドエアースペースの拡大に貢献する。従って、断熱性が高くなり、保温性がアップし、少量の中綿部材42でも効率的に立体的になり、高い保温性を有する。中綿部材42の使用量を抑えることができ、経済的である。従来のノーマルな中綿仕切りステッチよりも、同量の中綿部材42を入れて嵩高アップすることができる。少量の中綿部材42でも効率的に立体的になり、高い保温性を有する。中綿部材42の使用量を抑えることができ、動物由来のダウン中綿の使用量を減らすことで動物愛護にもなる。各中綿収容空間40ごとに形状変化が可能であり、身体形状に沿い易く、フィット感が向上する。
【0027】
次にこの発明の第二実施形態について図6に基づいて説明する。なお、ここで上記実施形態と同様の部材は同様の符号を付して説明を省略する。この実施形態のジャケット48は、立体的な中綿収容空間40を有し、中綿収容空間40を立体的に作る方法はタック35ではなく、ダーツである。図6は、ジャケット48の後見頃16の中央ピース16aの、表生地28の正面図(a)と裏生地26の正面図(b)である。ジャケット48の裏生地26も中央ピース16aの形状に裁断され、周囲を一周する縫い代線26aが設けられている。表生地28も、裏生地26の長手方向を拡大し余剰部を形成した形状に裁断され、長手方向の拡大倍率は例えば1.2倍である。
【0028】
表生地28には、中綿仕切りステッチ32が設けられる中綿仕切りステッチ線28aが設けられ、中綿仕切りステッチ線28aの近傍には、中綿仕切りステッチ線28aに対して略平行な折れ目線28bが設けられている。折れ目線28bは、中綿仕切りステッチ線28aの両側に、ほぼ等しい間隔で一対が設けられている。表生地28の、長手方向に沿う一対の側縁部29には、折れ目線28bに接する位置に、ダーツ用切込50が各々設けられている。ダーツ用切込50は、折れ目線28bに接する位置を角部とするV字形である。表生地28には、周囲を一周する縫い代線28cが設けられ、縫い代線28cも、各ダーツ用切込50の内側に沿ってV字形となる。
【0029】
ダーツ用切込50により、中綿収容空間40を立体的に形成する製造方法について説明する。まず、表生地28を、折れ目線28bを中表にして山折りし、ダーツ用切込50のV字の互いに重なる2つの辺を重ねて縫い合わせてダーツを作る。各折れ目線28bの側縁部29に連続する両端部に、各々ダーツを作る。中表にして縫い合わせたダーツ用切込50を、表面が凸となるように裏返す。
【0030】
次に、裏生地26と表生地28を重ね、裏生地26と表生地28の、長手方向の両端部に位置する縫い代線26a,28cを互いに合わせて、端止めステッチ30で各々縫い合わせ、さらに一対のステッチ30の間に、長手方向の5か所を、長手方向に対して略直角に、つまり端止めステッチ30に対して略平行に、中綿仕切りステッチ線28aに沿って、中綿仕切りステッチ32で縫い合わせる。
【0031】
次に、縫い代線28cの外側であって、中綿仕切りステッチ線28aの延長線上に、つまり一対のダーツ用切込50の間に、側縁部29に切り込みを入れ、ダーツ先を立たせながら、縫い代線26aと縫い代線28cを合わせて、端止めステッチ36で一周して端止めする。これにより、端止めステッチ36と中綿仕切りステッチ32で囲まれた6つの中綿収容空間40が形成される。このとき、端止めステッチ36が6箇所で途切れて中綿挿入口38が形成される。中綿挿入口38から中綿部材42を入れ、中綿挿入口38を縫い閉じる。中綿部材42を入れると、表生地28は、中綿部材42に押し上げられて立体的に裏生地26から立ち上がり、V字形のダーツにより、中綿収容空間40は台形の立方体である四角錐台形状に形成される。これ以降の製造方法は、タック35により形成された上記実施形態のジャケット10と同様である。
【0032】
この実施形態のジャケット48によれば、ダーツ用切込50により、中綿収容空間40が、裏生地26に対して平行な矩形の上面と、上面の4つの辺に連続するバッフル面40aにより綺麗な立体形状となり、中綿部材42は、中綿仕切りステッチ32の近傍にもほぼ均一の厚みで入れることができる。上記の、タック35により形成されたジャケット10では、中綿仕切りステッチ32と、切り替え合わせステッチ44,46が交差する位置には中綿部材42が入らない空白ができるが、この実施形態のダーツ用切込48では、ダーツにより空白ができず、保温性がより高い。
【0033】
次にこの発明の第三実施形態について図7に基づいて説明する。なお、ここで上記実施形態と同様の部材は同様の符号を付して説明を省略する。この実施形態のジャケット52も、第二実施形態のジャケット48と同様に、中綿収容空間40を立体的にする方法はダーツである。図7は、ジャケット52の後見頃16の中央ピース16aの、表生地28の正面図である。なお、裏生地26は、第二実施形態のジャケット48と同形状であり、説明を省略する。
【0034】
表生地28には、中綿仕切りステッチ32が設けられる中綿仕切りステッチ線28aが設けられ、中綿仕切りステッチ線28aの両側に、折れ目線28bが一対設けられている。表生地28の、長手方向に沿う一対の側縁部29には、中綿仕切りステッチ線28aに連続する部分はコの字形に切り欠かれたダーツ用切込54が設けられている。ダーツ用切込54の2つの角部は、折れ目線28bに各々連続している。縫い代線28cも、各ダーツ用切込54に沿ってコの字形となる。
【0035】
ダーツ用切込54により、中綿収容空間40を立体的に形成する製造方法について説明する。まず、表生地28を、折れ目線28bを山折りし、ダーツ用切込50のコの字の角部を囲む2つの辺を、中表にして重ねて縫い合わせてダーツを作る。一つのダーツ用切込50二つの角部があり、一つのダーツ用切込50毎に、二つのダーツを作る。各折れ目線28bの、側縁部29に連続する両端部に、各々二つのダーツを作る。中表にして縫い合わせたダーツ用切込54を、表が凸となるように裏返す。次に、裏生地26と表生地28を重ね、裏生地26と表生地28の、長手方向の両端部に位置する縫い代線26a,28cを互いに合わせて、端止めステッチ30で各々縫い合わせ、さらに一対のステッチ30の間に、長手方向の5か所を、長手方向に対して略直角に、つまり端止めステッチ30に対して略平行に、中綿仕切りステッチ線28aに沿って、中綿仕切りステッチ32で縫い合わせる。
【0036】
次に、縫い代線28cの外側であって、中綿仕切りステッチ線28aの延長線上に、つまりダーツ用切込54の内側で、一対のダーツの間に、側縁部29に切り込みを入れ、ダーツ先を立たせながら、縫い代線26aと縫い代線28cを合わせて、上記と同様に、端止めステッチ36で一周して端止めする。これにより、端止めステッチ36と中綿仕切りステッチ32で囲まれた6つの中綿収容空間40が形成される。このとき、端止めステッチ36が6箇所で途切れて中綿挿入口38が形成される。中綿挿入口38から中綿部材42を入れ、中綿挿入口38を縫い閉じる。中綿部材42を入れると、表生地28は、中綿部材42に押し上げられて立体的に裏生地26から立ち上がり、コの字形のダーツにより、中綿収容空間40は直方体状に形成される。これ以降の製造方法は、ダーツ用切込50により形成された上記実施形態のジャケット48と同様である。
【0037】
この実施形態のジャケット52によれば、ダーツ用切込54により、中綿収容空間40が、裏生地26に対して平行な矩形の上面と、上面の4つの辺に略直角に連続するバッフル面40aにより綺麗な直方体状となり、中綿部材42は、中綿仕切りステッチ32の近傍にも均一の厚みで入れることができる。中綿収容空間40どうしは、裏生地26に対して略直角に立ち上がるバッフル面40aで互いに隣接し、隙間なく中綿部材42が設けられ、保温性がより高い。
【0038】
なお、この発明の中綿入り布製品は、上記実施形態以外でも良く、縫製の順番は、上記実施形態と異なるものでも良い。余剰部の形成はタックやダーツ等の組合せでもよく、中綿仕切りステッチの位置や数、中綿収容空間の形状等、自由に変更可能である。中綿入り布製品としてはジャケット以外に、ズボンや寝袋、掛け布団等、いろいろな中綿入り衣料やその他の保温機能を有する布製品に適用して製造することができる。中綿部材は、ダウン以外でも良く、合成繊維や木綿等自由に選択可能である。一つの製品に、タックによる中綿収容空間とダーツによる中綿収容空間が用いられてもよい。裏生地と表生地は、いずれも複数の生地が予め積層されて形成されたものでもよい。中綿部材は、直方体状以外に三角柱状やその他の多角形の柱状でもよい。
【実施例0039】
本願発明品である中綿入り布製品について、保温性試験を行い、消費電力による保温性能の比較を行った。試料は、20cm×20cmの座布団試料を作成した(N=3)。試験環境は、室温20℃、湿度65%、熱板30℃、風速0.3m/s、時間は60分間放置した50~60分の10分平均値にて比較した(安定区間)。比較には、特許文献1に開示されている中綿入り衣料の縫目に類似する中綿仕切りステッチで、同じ大きさに作成した試料を比較品とした。
【0040】
保温率の結果を図8に示す。比較品では81%であるのに対し、本願発明品では88%であった。これにより、本願発明品は比較品よりも高い保温性を持つことが分かった。また、消費電力の結果を図9に示す。消費電力Heatloss(W)は、少ないほど暖かい。比較品では0.209Wであるのに対し、本願発明品では0.131Wであった。相対比較すると、比較品を100%としたとき本願発明品は63%であった。これにより、温かさがアップしていることが分かった。
【0041】
この結果から、本願発明品は、各ステッチの工夫により肌面に対しての接地面積が増えるとともに、コールドスポットにある中綿収容空間40間の隙間を低減し、保温性アップにつながった。すなわち同じ嵩高とダウン量の中綿部材42であっても、新しいステッチ方法により表裏の窪みが軽減され、デッドエアースペースの拡大に貢献していることが保温性能向上の要因だと考えられる。
【符号の説明】
【0042】
10,48,52 ジャケット
26 裏生地
28 表生地
32 中綿仕切りステッチ
35 タック
40 中綿収容空間
42 中綿部材
50,54 ダーツ用切込
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9