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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089062
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】空気供給装置
(51)【国際特許分類】
   B60C 23/12 20060101AFI20240626BHJP
   F04B 27/02 20060101ALI20240626BHJP
   F04B 35/01 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
B60C23/12
F04B27/02 A
F04B35/01 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204184
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】515007028
【氏名又は名称】株式会社中野鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】100106013
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 幸一
(72)【発明者】
【氏名】山本 匡
(72)【発明者】
【氏名】中野 隆次
【テーマコード(参考)】
3H076
【Fターム(参考)】
3H076AA03
3H076BB38
3H076CC01
3H076CC18
3H076CC24
3H076CC28
3H076CC31
(57)【要約】
【課題】空気供給装置を含む車輪全体の慣性モーメントを可及的に小さくするとともに、車輪内の限られた空間に収容することのできるコンパクトな空気供給装置を提供する。
【解決手段】第1シリンダ61の軸線68を車輪2の回転軸9近傍に配置するとともに、第1シリンダ61の軸線68と回転軸9との共通垂線を含む直線7が、第1ピストン71の摺動範囲69を通るよう構成している。第2シリンダ62、第2ピストン72も、これらと同様の構成である。さらに、第1シリンダ61および第2シリンダ62を、回転軸9に対して点対称の位置に配置するよう構成している。このように構成することで、空気供給装置1を構成する多数の部材を回転軸9まわりにまとめて配置することができる。
【選択図】 図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤを備えた車輪に固定的に保持される第1シリンダであって、その軸線が前記車輪の回転軸と直行するよう構成された第1シリンダと、
前記第1シリンダ内に摺動可能に保持された第1ピストンと、
前記車輪に対して回転可能に保持された重錘装置であって、その回転軸は前記車輪の回転軸と一致するよう構成され、その重心が当該重錘装置の回転軸から偏位した第1偏位位置にくるよう構成された重錘装置と、
前記重錘装置の回転軸から偏位した第2偏位位置と前記第1ピストンの一端との間に設けられ、前記重錘装置および前記第1ピストンの双方と回動可能に連結された第1リンク部材と、
を備え、
前記車輪の回転時における前記第1シリンダと前記重錘装置の相対回転を利用して、前記第1シリンダ内で前記第1ピストンを往復摺動させることで圧縮空気を生成し、生成された圧縮空気を前記タイヤに供給するよう構成された、空気供給装置であって、
前記第1シリンダの軸線を前記車輪の回転軸近傍に配置するとともに、
前記第1シリンダの軸線と前記車輪の回転軸との共通垂線を含む直線が、前記第1ピストンの摺動範囲を通るよう構成したこと、
を特徴とする空気供給装置。
【請求項2】
請求項1の空気供給装置において、
さらに、
前記車輪に固定的に保持される第2シリンダであって、その軸線が前記車輪の回転軸と直行するよう構成された第2シリンダと、
前記第2シリンダ内に摺動可能に保持された第2ピストンと、
前記重錘装置の第2偏位位置と前記第2ピストンの一端との間に設けられ、前記重錘装置および前記第2ピストンの双方と回動可能に連結された第2リンク部材と、
を備え、
前記車輪の回転時における前記第2シリンダと前記重錘装置の相対回転を利用して、前記第2シリンダ内で前記第2ピストンを往復摺動させることで圧縮空気を生成し、生成された圧縮空気を前記タイヤに供給するよう構成された、空気供給装置であって、
前記第2シリンダの軸線を前記車輪の回転軸近傍に配置するとともに、
前記第2シリンダの軸線と前記車輪の回転軸との共通垂線を含む直線が、前記第2ピストンの摺動範囲を通るよう構成し、
前記第1シリンダと前記第2シリンダとは、前記車輪の回転軸に対して点対称の位置に配置されたこと、
を特徴とする空気供給装置。
【請求項3】
請求項2の空気供給装置において、
前記タイヤは、同一の回転軸を有し互いに隣接する第1タイヤおよび第2タイヤにより構成され、
前記第1ピストンおよび前記第1シリンダにより生成された圧縮空気を前記第1タイヤに供給するとともに、前記第2ピストンおよび前記第2シリンダにより生成された圧縮空気を前記第2タイヤに供給するよう構成されたこと、
を特徴とする空気供給装置。
【請求項4】
請求項2の空気供給装置において、
前記第1ピストンおよび前記第1シリンダにより生成された圧縮空気ならびに前記第2ピストンおよび前記第2シリンダにより生成された圧縮空気を、ともに1つのタイヤに供給するよう構成されたこと、
を特徴とする空気供給装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかの空気供給装置を備えたこと、
を特徴とする車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気供給装置に関し、とくに、回転する空気入りタイヤに自動的に空気を供給する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪の回転に伴って圧縮空気を生成してタイヤに供給する装置が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
この装置は、車両のホイールハブと共に回転するケーシングによって保持されるシリンダ内で往復運動をする対向するピストンを有するポンプを備えている。そして、ピストンは、偏心器に篏合されるリングの外側端部に設けられている。偏心器は、クラッチプレートを介して、カウンターウェイト構造に固定可能とされている。
【0004】
すなわち、カウンターウェイト構造を用いて、偏心器がリングと共回りするのを防ぐことで、ピストンのポンプ動作を行わせるよう構成している(特許文献1の[要約]および図3参照)。
【0005】
一般的な自動車のように走行中の車輪に非回転部分がない場合であっても、上述のカウンターウェイト構造を採用することで、回転する車輪に非回転部分を作り出すことができる。この非回転部分を利用して、回転する車輪に設けたピストンのポンプ動作を行わせることが可能となる。
【0006】
回転する車輪にこのような装置を装着する以上、装置を含む車輪全体の、車輪の回転軸周りの慣性モーメント(以下、単に「慣性モーメント」と表現することがある。)が増大することは避けられないが、車両の加減速性能を維持するためには、車輪全体の慣性モーメントはできるだけ小さいことが好ましく、また、他の装備との干渉防止や車両の空力特性を維持するためには、車輪内の限られた空間に上記装置を収容することが要求される。
【0007】
このような観点から、偏心器の回転中心(すなわち車輪の回転中心)から装置外縁までの寸法をできるだけ小さくする必要があり、その手段として、偏心器に篏合されているリングの外側端部に設けられているピストンのストロークを小さく抑える方法が考えられる。
【0008】
しかし、ピストンのストロークを小さく抑えつつ、必要とされる1ストロークあたりの空気供給量を確保するためには、シリンダ内径を大きくする必要がある。
【0009】
一方、タイヤに圧縮空気を供給するためには一定以上のシリンダ内空気圧が必要とされるところ、シリンダ内径を大きくするとピストンヘッドの面積も増加するから、このシリンダ内空気圧によってピストンに作用する反力も増大する。
【0010】
そして、増大したピストンの反力による偏心器の共回りを防ぐためには、カウンターウェイト構造(重錘)により生成される偏心器の回転中心周りのトルク(すなわち、重錘の重量や、車輪の回転中心から重錘の重心までの距離)を大きくする必要があり、これでは、車輪全体の慣性モーメントを小さく抑えつつ、車輪内の限られた空間に装置を収容することが困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2015-523273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この発明は、このような従来技術における問題点を解決し、車両の加減速性能の維持を容易にするために空気供給装置を含む車輪全体の慣性モーメントを可及的に小さくするとともに、他の装備との干渉防止や車両の空力特性の維持等を容易にするために車輪内の限られた空間に収容することのできるコンパクトな空気供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明による空気供給装置は、タイヤを備えた車輪に固定的に保持される第1シリンダであって、その軸線が車輪の回転軸と直行するよう構成された第1シリンダと、第1シリンダ内に摺動可能に保持された第1ピストンと、車輪に対して回転可能に保持された重錘装置であって、その回転軸は車輪の回転軸と一致するよう構成され、その重心が重錘装置の回転軸から偏位した第1偏位位置にくるよう構成された重錘装置と、重錘装置の回転軸から偏位した第2偏位位置と第1ピストンの一端との間に設けられ、重錘装置および第1ピストンの双方と回動可能に連結された第1リンク部材と、を備え、車輪の回転時における第1シリンダと重錘装置の相対回転を利用して、第1シリンダ内で第1ピストンを往復摺動させることで圧縮空気を生成し、生成された圧縮空気をタイヤに供給するよう構成された、空気供給装置であって、第1シリンダの軸線を車輪の回転軸近傍に配置するとともに、第1シリンダの軸線と車輪の回転軸との共通垂線を含む直線が、第1ピストンの摺動範囲を通るよう構成したこと、を特徴とする。
【0014】
本発明の特徴は、上記のように広く示すことができるが、その構成や内容は、目的および特徴とともに、図面を考慮に入れた上で、以下の開示によりさらに明らかになるであろう。
【発明の効果】
【0015】
本願の第1発明による空気供給装置は、タイヤを備えた車輪に固定的に保持される第1シリンダであって、その軸線が車輪の回転軸と直行するよう構成された第1シリンダと、第1シリンダ内に摺動可能に保持された第1ピストンと、車輪に対して回転可能に保持された重錘装置であって、その回転軸は車輪の回転軸と一致するよう構成され、その重心が重錘装置の回転軸から偏位した第1偏位位置にくるよう構成された重錘装置と、重錘装置の回転軸から偏位した第2偏位位置と第1ピストンの一端との間に設けられ、重錘装置および第1ピストンの双方と回動可能に連結された第1リンク部材と、を備え、車輪の回転時における第1シリンダと重錘装置の相対回転を利用して、第1シリンダ内で第1ピストンを往復摺動させることで圧縮空気を生成し、生成された圧縮空気をタイヤに供給するよう構成された、空気供給装置であって、第1シリンダの軸線を車輪の回転軸近傍に配置するとともに、第1シリンダの軸線と車輪の回転軸との共通垂線を含む直線が、第1ピストンの摺動範囲を通るよう構成したこと、を特徴とする。
【0016】
このように、第1シリンダの軸線を車輪の回転軸近傍に配置したうえで、第1シリンダの軸線と車輪の回転軸との共通垂線を含む直線が、第1ピストンの摺動範囲を通るよう構成することで、第1ピストンおよびこれを内包する第1シリンダを、車輪の回転軸近傍に配置することができる。
【0017】
第1ピストンおよび第1シリンダを、車輪の回転軸近傍に配置することで、車輪の回転軸から空気供給装置の外縁までの寸法を小さく抑えることができ、その結果、空気供給装置を含む車輪全体の慣性モーメントを可及的に小さくすることが可能となる。
【0018】
また、第1ピストンを、車輪の回転軸近傍に配置することで、第1ピストンのストロークを大きくしても、車輪の回転軸から空気供給装置の外縁までの寸法は、それほど大きくなることはない。
【0019】
そして、第1ピストンのストロークを大きくすることで、シリンダ内径を小さくすることができ、圧縮空気により第1ピストンに作用する反力が減少する。第1ピストンに作用する反力が減少すると、重錘装置の共回り防止のために重錘装置が生成すべき回転軸周りのトルク(すなわち、重錘装置の重量や、車輪の回転軸から重錘装置の重心までの距離)を小さくすることができ、空気供給装置のさらなるコンパクト化を図ることが可能となる。
【0020】
すなわち、空気供給装置を含む車輪全体の慣性モーメントを可及的に小さくするとともに、車輪内の限られた空間に収容することのできるコンパクトな空気供給装置を提供することが可能となる。これにより、空気供給装置を搭載した車両の加減速性能の維持が容易になるとともに、他の装備との干渉防止や車両の空力特性の維持等が容易になる。
【0021】
本願の第2発明による空気供給装置は、本願の第1発明による空気供給装置において、さらに、車輪に固定的に保持される第2シリンダであって、その軸線が車輪の回転軸と直行するよう構成された第2シリンダと、第2シリンダ内に摺動可能に保持された第2ピストンと、重錘装置の第2偏位位置と第2ピストンの一端との間に設けられ、重錘装置および第2ピストンの双方と回動可能に連結された第2リンク部材と、を備え、車輪の回転時における第2シリンダと重錘装置の相対回転を利用して、第2シリンダ内で第2ピストンを往復摺動させることで圧縮空気を生成し、生成された圧縮空気をタイヤに供給するよう構成された、空気供給装置であって、第2シリンダの軸線を車輪の回転軸近傍に配置するとともに、第2シリンダの軸線と車輪の回転軸との共通垂線を含む直線が、第2ピストンの摺動範囲を通るよう構成し、第1シリンダと第2シリンダとは、車輪の回転軸に対して点対称の位置に配置されたこと、を特徴とする。
【0022】
したがって、第1シリンダ、第1ピストンおよび第1リンク部材と略同様の機能を有する第2シリンダ、第2ピストンおよび第2リンク部材をさらに備え、第1シリンダと第2シリンダとを、車輪の回転軸に対して点対称の位置に配置することで、空気供給装置を含む車輪全体の慣性モーメントを可及的に小さくするとともに、車輪内の限られた空間に収容することのできるコンパクトな2気筒のポンプを備えた空気供給装置を提供することが可能となる。
【0023】
本願の第3発明による空気供給装置は、本願の第2発明による空気供給装置において、タイヤは、同一の回転軸を有し互いに隣接する第1タイヤおよび第2タイヤにより構成され、第1ピストンおよび第1シリンダにより生成された圧縮空気を第1タイヤに供給するとともに、第2ピストンおよび第2シリンダにより生成された圧縮空気を第2タイヤに供給するよう構成されたこと、を特徴とする。
【0024】
したがって、第1タイヤおよび第2タイヤに、別々のピストンおよびシリンダ(以下、単に「シリンダ」と表現することがある。)で、それぞれ圧縮空気を供給することができる。
【0025】
このため、たとえば、第1タイヤおよび第2タイヤの適正空気圧が異なる場合であっても、2つのシリンダの設定空気圧を異ならせるだけで、特別な追加装置を用いることなく容易に、第1タイヤおよび第2タイヤの適正空気圧を維持することが可能となる。
【0026】
本願の第4発明による空気供給装置は、本願の第2発明による空気供給装置において、第1ピストンおよび第1シリンダにより生成された圧縮空気ならびに第2ピストンおよび第2シリンダにより生成された圧縮空気を、ともに1つのタイヤに供給するよう構成されたこと、を特徴とする。
【0027】
したがって、1つのタイヤに、別々のシリンダで圧縮空気を供給することができる。
【0028】
このため、2つのシリンダの出力を並列に接続すれば、車輪1回転あたりの空気供給装置の空気供給量は、それぞれのシリンダの1ストロークあたりの空気供給量の和となるから、たとえば、単位時間当たりのタイヤの空気の透過量(漏出量)が多い場合であっても、タイヤの適正空気圧を維持することが容易となる。
【0029】
また、1つのシリンダが故障した場合でも、他のシリンダによりタイヤへの空気供給を行うことが可能となるため、急激な空気圧の低下を防止することができる。
【0030】
本願の第5発明による車両は、本願の第1ないし第4のいずれかの発明による空気供給装置を備えたこと、を特徴とする。
【0031】
したがって、本願の第5発明による車両は、本願の第1ないし第4のいずれかの発明による空気供給装置と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、空気供給装置1を備えた車両の車輪2の正面図である。
図2図2は、車輪2の縦断面を説明するための図面である。
図3図3は、図2の部分拡大図である。
図4図4は、ポンプ4の正面図である。
図5図5は、ポンプ4の左側面を表す部分断面図である。
図6図6は、図5におけるVI-VI線断面図である。
図7図7は、図5におけるVII-VII線断面図である。
図8図8は、第1ピストン71および第2ピストン72の動きを説明するための図面である。
図9図9は、図8のうち、第1シリンダ61のシリンダ内筒64、第1ピストン71および第1リンク81に着目した拡大図である。
図10図10は、図9のうち、第1ピストン71が上死点にあるときの状態のみを示す図面である。
図11図11は、空気供給装置101を備えた車両の車輪102の正面図である。
図12図12は、車輪102の縦断面を説明するための図面である。
図13図13は、図12の部分拡大図である。
図14図14は、ポンプ104の左側面を表す部分断面図である。
図15図15は、図14におけるXV-XV線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
まず、この発明の一の実施形態による空気供給装置1について説明する。
【0034】
図1は、2気筒のポンプ4を有する空気供給装置1を備えた車両の車輪2の正面図である。車両として、とくに限定されるものではないが、自動車を例示することができる。したがって、小型の自動車はもとより、鉱石運搬トラックなどの大型車両にも、この空気供給装置1を適用することができる。
【0035】
図2は、車輪2の縦断面を説明するための図面である。図2に示すように、車輪2は、第1タイヤである外側のタイヤ21、および、第2タイヤである内側のタイヤ22を備えたダブルタイヤ型の車輪である。タイヤ21、22は、それぞれ、ホイール23、24に装着され、ホイール23、24は、ボルト、ナット等の締結具により、車両のハブ3に締結されている。
【0036】
図3は、図2の部分拡大図である。図3に示すように、ホイール23にはバルブ25が設けられている。ホイール24には、鋼管29を介して、バルブ26が設けられている。バルブ25,26には、それぞれ、給気ホース27、28が接続されている。車輪2の回転時に、空気供給装置1から、給気ホース27、28ならびにバルブ25,26を介して、タイヤ21、22に、それぞれ、圧縮空気が供給される。
【0037】
バルブ25と給気ホース27との接続態様はとくに限定されるものではなく、これらを直接、接続するほか、バルブ25が、たとえば米式バルブのように、給気ホース27から供給される圧縮空気の圧力で弁を開くことが困難であるような場合には、バルブ25と給気ホース27との間に、バルブ25の開弁機能を備えたアタッチメント(図示せず)を介装するよう構成することもできる。バルブ26と給気ホース28との接続態様も、同様である。
【0038】
空気供給装置1は、略円板状のベースプレート30、ポンプ4、有蓋略円筒状のカバー31を備えている。ポンプ4は、カラー33およびこれを貫通するボルト34を用いて、ベースプレート30に固定されている。
【0039】
カバー31は、ボルト32を用いて、ベースプレート30に固定されている。ベースプレート30とカバー31とにより区画される略円柱状空間90に、ポンプ4が収容されている。ポンプ4に接続された給気ホース27、28は、それぞれ、ベースプレート30に装着された膜付グロメット91、92を介して略円柱状空間90の外部に導かれている。略円柱状空間90をなす円柱の軸線が車輪2の回転軸9と略一致するよう構成されている。
【0040】
ベースプレート30は、円筒状の支柱38およびこれを貫通するボルト39を用いて車両のハブ3に結合される。
【0041】
このようにして、ポンプ4を備えた空気供給装置1を、ハブ3を介して、車輪2に固定的に結合する。
【0042】
図4は、ポンプ4の正面図である。図5は、ポンプ4の左側面を表す部分断面図であって、第1ピストン71が上死点にあり、第2ピストン72が下死点にあるときの状態を示す。
【0043】
図4図5に示すように、ポンプ4は、取付リングプレート40を備えている。取付リングプレート40は、略円筒形のボス部41と、ボス部41の後方向(図中Z2方向)端部に形成された略円環状のフランジ部42と、ボス部41の後端(図中Z2方向端)からさらに後方に突設された一部有蓋円筒状のシリンダ取付部43を備えている。
【0044】
ボス部41の円筒状の内周部には、ベアリング44を介して、略偏心円筒状の偏心リング51が回転可能に保持されている。偏心リング51の回転軸は、車輪2の回転軸9と一致するよう構成されている。したがって、とくに断らない限り、偏心リング51の回転軸も、車輪2の回転軸も、区別することなく、いずれも回転軸9と表現することがある。
【0045】
偏心リング51の回転軸9から所定量偏位した位置に設けられた円筒状の内周部には、図4の奥行き方向(図5のZ方向)に所定間隔で配置された1対のベアリング52,53を介して、偏心軸54が回転可能に保持されている。
【0046】
偏心リング51の前端(図中Z1方向端)は、取付リングプレート40のボス部41の前端(図中Z1方向端)より、わずかに前方(図中Z1方向)に突出しているが、この偏心リング51の前端に、略短冊状のバランサープレート55の一端が、3本のボルト56により取付けられている。バランサープレート55の他端には、錘57が、3本のボルト58により取付けられている。
【0047】
偏心リング51、ベアリング52,53、偏心軸54、バランサープレート55、ボルト56、錘57およびボルト58が、重錘装置50を構成している。そして、偏心リング51の回転軸9は、重錘装置50の回転軸でもあるから、とくに断らない限り、重錘装置50の回転軸も、回転軸9と表現することがある。
【0048】
図4において、重錘装置50の重心をCGとすれば、回転軸9に対する重心CGの位置が第1偏位位置となる。また、回転軸9に対する偏心軸54の中心の位置が第2偏位位置となる。
【0049】
取付リングプレート40のフランジ部42は、3組のカラー33およびボルト34により、ベースプレート30に固定されている。
【0050】
取付リングプレート40のシリンダ取付部43の後端(図中Z2方向端)面である天面43aに接して、第1シリンダ61および第2シリンダ62が配置されている。シリンダ取付部43において、第1リンク部材である第1リンク81および第2リンク部材である第2リンク82との干渉を避けるために、中央部を含む一部が、平面視で略紡錘形状に切除され、リンク収容部45を構成している(図7参照)。
【0051】
図6は、図5におけるVI-VI線断面図である。
【0052】
図5図6に示すように、第1シリンダ61は、略直方体形状のブロックにより構成されている。第1シリンダ61は、その底面61aが取付リングプレート40のシリンダ取付部43の天面43aに接するよう、ボルト63により、シリンダ取付部43に固定されている。
【0053】
図6に示すように、第1シリンダ61の第1側面(図中X2側の側面)61bの略中央が回転軸9上を通るよう構成している。第1シリンダ61の第1側面61bおよびこれに平行な第2側面(図中X1側の側面)61cのY方向の長さが、第1側面61bに直交する第1シリンダ61の第3側面(図中Y2側の側面)61dおよび第4側面(図中Y1側の側面)61eのX方向の長さの略2倍となるよう構成している。
【0054】
第1シリンダ61の第1側面61bの近傍に、第1側面61bと略平行で、かつ、回転軸9に直交する方向(図中Y方向)の軸線を有する略円筒状のシリンダ内筒64が形成されている。シリンダ内筒64の軸線を第1シリンダ61の軸線68(または、単に「軸線68」)という(図8参照)。
【0055】
シリンダ内筒64の適部(この例では、第1ピストン71が下死点にあるときの、そのピストンヘッド71a(後述)の近傍)に、シリンダ内筒64内に外気を取り入れるための吸気孔64aが設けられている。吸気孔64aは、シリンダ内筒64から、図5に示す第1シリンダ61の底面61a側に貫通するよう構成してもよいし、逆に、シリンダ内筒64から、第1シリンダ61の上面61f側に貫通するよう構成してもよい。もちろん、シリンダ内筒64から、第1シリンダ61の底面61a側および上面61f側の双方に貫通するよう構成することもできる。
【0056】
シリンダ内筒64の一端は、第3側面61dに開口し、端部にブッシュ(無給油滑り軸受)65が内装されている。
【0057】
シリンダ内筒64の他端は、第1シリンダ61内の第4側面61e近傍に位置し、いずれも軸線68と共通の軸線を持つ小径の排気口64b、中径の弁保持穴64cに、順に連通している。弁保持穴64cは、第4側面61eに開口している。
【0058】
弁保持穴64cには、逆止弁66が装着されている。逆止弁66は、たとえば、弁保持穴64cに、この順で配置されたOリング66a、弁体としての鋼球66b、ばね66cを、通気ボルト66dにより締め込むことで形成される。通気ボルト66dの解放端に給気ホース27(図3参照)が接続される。シリンダ内筒64の他端から給気ホース27に至る通気路に逆止弁66を設けることで、給気ホース27からシリンダ内筒64への空気の逆流を阻止することができる。
【0059】
第1シリンダ61内の第4側面61e近傍に、リリーフ弁67が設けられている。リリーフ弁67は、逆止弁66における鋼球66bの下流側において弁保持穴64cに開口する小径の排気口64dに連通するとともに第2側面61cに開口する、大径の弁保持穴64eに装着される。
【0060】
リリーフ弁67は、たとえば、弁保持穴64eに、この順で配置されたOリング67a、弁体67b、ばね67cを、中空の調整ボルト67dにより締め込むことで形成される。調整ボルト67dによりリリーフ圧を調整したのち、ナット67eにより調整ボルト67dを固定する。リリーフ弁67のリリーフ圧を調整することで、空気供給装置1からタイヤ21に供給される空気圧の上限を設定することができる。
【0061】
第1シリンダ61のシリンダ内筒64内において摺動するよう、略円柱状の第1ピストン71が配置されている。したがって、第1ピストン71の軸線は、第1シリンダ61の軸線68に一致する。
【0062】
第1ピストン71の先端部はピストンヘッド71aを構成しており、ピストンヘッド71aの直近下方(図中Y2方向)にピストンリング71bが装着されている。
【0063】
ピストンリング71bは、たとえば、ゴム製のものが例示でき、ピストンリング71bによって、第1ピストン71の外周とシリンダ内筒64との間の気密性を保っている。なお、この気密性は、第1ピストン71が圧縮方向(Y1方向)に移動する際にのみ機能するものであって、反対方向(Y2方向)に移動する際には機能しない。
【0064】
後述する図9に詳しく示すように、第1ピストン71には、ピストンリング71bの下端(図中Y2方向端)に隣接するよう、径大部73が設けられている。径大部73は、シリンダ内筒64と接触しつつシリンダ内筒64内を摺動する円柱状に形成されている。ピストンリング71bの上端(図中Y1方向端)から、径大部73の下端(図中Y2方向端)までの略円筒状の領域を、第1ピストン71の摺動部79という。
【0065】
径大部73の下端に連続して、径大部73より直径の小さい円柱状の径小部74が設けられている。径小部74は、ブッシュ65の内面と接触しつつブッシュ65内を摺動するよう構成されている。
【0066】
図6に戻って、この例では、第2シリンダ62を、これに装着される逆止弁66およびリリーフ弁67を含め、第1シリンダ61と同一の構成とするとともに、第2シリンダ62に配置された第2ピストン72も、第1シリンダ61に配置された第1ピストン71と同一の構成としている。
【0067】
図7は、図5におけるVII-VII線断面図であって、併せて、第1ピストン71、第2ピストン72の状態を想像線(二点鎖線)で表した図面である。
【0068】
図5図7に示すように、取付リングプレート40のリンク収容部45に、いずれも略棹状の第1リンク81および第2リンク82が配置されている。
【0069】
第1リンク81の基端部には、上述の偏心軸54が立設されている。偏心軸54は、基端部の前後双方向(図5におけるZ1方向およびZ2方向)に突出するよう形成されており、前方向(Z1方向)に突出した部分がベアリング52,53の内輪に挿入され固定されている。
【0070】
偏心軸54の後方向(Z2方向)に突出した部分は、第2リンク82の基端部に穿設された貫通孔82aに挿入され、両者は回動可能に結合されている。
【0071】
第1リンク81の先端部には、第1リンクピン81bが後方向(Z2方向)に立設されている。第1リンクピン81bは、第1ピストン71の基端部に穿設されたピン孔71cに挿入され、両者は回動可能に結合されている。
【0072】
図7において、第1リンクピン81bの中心と偏心軸54の中心とを結ぶ直線を、第1リンク81の軸線83という。
【0073】
第2リンク82の先端部には、第2リンクピン82bが後方向(Z2方向)に立設されている。第2リンクピン82bは、第2ピストン72の基端部に穿設されたピン孔72cに挿入され、両者は回動可能に結合されている。
【0074】
図7において、第2リンクピン82bの中心と偏心軸54の中心とを結ぶ直線を、第2リンク82の軸線84という。
【0075】
図8は、第1ピストン71および第2ピストン72の動きを説明するための図面である。図8において、第1ピストン71が上死点にあり、第2ピストン72が下死点にあるときの状態を実線で示し、第1ピストン71が下死点にあり、第2ピストン72が上死点にあるときの状態を二点鎖線で示す。
【0076】
なお、車輪2の回転に伴い、第1シリンダ61および第2シリンダ62も、車輪2とともに回転軸9まわりに回転し、重錘装置50を構成する偏心リング51(図5参照)は回転しないが、説明の便宜上、図8においては、第1シリンダ61および第2シリンダ62は回転せず、逆に、偏心リング51が回転軸9まわりに回転するものとしている。
【0077】
図8において、回転軸9を通り第1シリンダ61の軸線68に直交する直線は、当該軸線68と回転軸9との共通垂線(空間における2直線の最短距離となる2点を結ぶ直線)を含む直線7となっている。
【0078】
図9は、図8のうち、第1シリンダ61のシリンダ内筒64、第1ピストン71および第1リンク81を抜き出して描いた拡大図である。図9においては、偏心リング51に保持された偏心軸54についても、第1ピストン71が上死点にあるときの状態を実線で示し、第1ピストン71が下死点にあるときの状態を二点鎖線で示している。
【0079】
図9に示すように、シリンダ内筒64内を摺動する第1ピストン71が上死点にあるときの第1ピストン71の摺動部79の上端(図中Y1方向端)から、第1ピストン71が下死点にあるときの摺動部79の下端(図中Y2方向端)に至る範囲を、第1ピストン71の摺動範囲69とすれば、共通垂線を含む直線7が、第1ピストン71の摺動範囲69を通る(横切る)よう構成されていることがわかる。
【0080】
第1ピストン71の有効長(軸線68上における第1ピストン71の基端部のピン孔71cの中心から摺動部79の上端までの距離)をLPとし、摺動部79の長さ(軸線68上における摺動部79の寸法)をSとし、第1ピストン71が上死点にあるときの第1ピストン71の基端部のピン孔71cの中心から共通垂線を含む直線7までの距離をDTとし、第1ピストン71が下死点にあるときの第1ピストン71の基端部のピン孔71cの中心から共通垂線を含む直線7までの距離をDBとすれば、共通垂線を含む直線7が、第1ピストン71の摺動範囲69を通るためには、次式を満足する必要がある。
【0081】
DB+S≧LP≧DT・・・・・(1)
【0082】
ここで、第1リンク81の軸線83の長さをLLとし,回転軸9から偏心軸54の中心までの距離をRとし、回転軸9と軸線68との距離をAとすれば、上死点および下死点における各部材の幾何学的関係より、次式が成立する。なお、下式において、X^Yは、XのY乗を表すものとする。
【0083】
(LL-R)^2=DT^2+A^2・・・・・(2)
【0084】
(LL+R)^2=DB^2+A^2・・・・・(3)
【0085】
式(2)および式(3)を考慮すれば、式(1)は、次式で表現することができる。なお、下式において、SQRT(X)は、Xの平方根を表すものとする。
【0086】
SQRT((LL+R)^2-A^2)+S≧LP≧SQRT((LL-R)^2-A^2)・・・・・(4)
【0087】
すなわち、第1ピストン71の有効長LP、軸線83の長さLL、回転軸9から偏心軸54の中心までの距離R、回転軸9と軸線68との距離A、摺動部79の長さSが、式(4)を満足するよう設定することで、共通垂線を含む直線7が、第1ピストン71の摺動範囲69を通るよう構成することができる。
【0088】
さらに、共通垂線を含む直線7が、第1ピストン71が上死点にあるときの第1ピストン71の摺動部79の下端よりも下方(図中Y2方向)で、かつ、第1ピストン71が下死点にあるときの第1ピストン71の摺動部79の上端よりも上方(図中Y1方向)に位置するよう構成することができる。この場合、距離LP、長さS、距離DT、距離DBの関係は、次式を満足する必要がある。
【0089】
DB≧LP≧DT+S・・・・・(5)
【0090】
式(2)および式(3)を考慮すれば、式(5)は、次式で表現することができる。
【0091】
SQRT((LL+R)^2-A^2)≧LP≧SQRT((LL-R)^2-A^2)+S・・・・・(6)
【0092】
すなわち、第1ピストン71の有効長LP、軸線83の長さLL、回転軸9から偏心軸54の中心までの距離R、回転軸9と軸線68との距離A、摺動部79の長さSが、式(6)を満足するよう設定することで、共通垂線を含む直線7が、第1ピストン71が上死点にあるときの第1ピストン71の摺動部79の下端よりも下方(図中Y2方向)で、かつ、第1ピストン71が下死点にあるときの第1ピストン71の摺動部79の上端よりも上方に位置するよう構成することができる。
【0093】
このように構成することで、共通垂線を含む直線7が、第1ピストン71の摺動範囲69のより中央近くをとおるよう構成することができる。
【0094】
さらに、共通垂線を含む直線7が、第1ピストン71の摺動範囲69の中央近傍をとおるよう構成するには、次式を満足する必要がある。
【0095】
LP≒(DB+DT+S)/2・・・・・(7)
【0096】
式(2)および式(3)を考慮すれば、式(7)は、次式で表現することができる。
【0097】
LP≒(SQRT((LL+R)^2-A^2)+SQRT((LL-R)^2-A^2)+S)/2・・・・・(8)
【0098】
すなわち、第1ピストン71の有効長LP、軸線83の長さLL、回転軸9から偏心軸54の中心までの距離R、回転軸9と軸線68との距離A、摺動部79の長さSが、式(8)を満足するよう設定することで、共通垂線を含む直線7が、第1ピストン71の摺動範囲69の中央近傍をとおるよう構成することができる。
【0099】
たとえば、LL=52、R=11、A=8.5、S=8とした場合、共通垂線を含む直線7が、第1ピストン71の摺動範囲69を通るよう構成するには、式(4)より、第1ピストン71の有効長LPを、40ないし70程度に設定すればよい。
【0100】
そして、共通垂線を含む直線7が、第1ピストン71の摺動範囲69のより中央近くをとおるよう構成するには、式(6)より、第1ピストン71の有効長LPを、48ないし62程度に設定すればよい。
【0101】
さらに、共通垂線を含む直線7が、第1ピストン71の摺動範囲69の中央近傍をとおるよう構成するには、式(8)より、第1ピストン71の有効長LPを55前後(52ないし58程度)に設定すればよい。
【0102】
なお、図9に示す例では、LP=56.5に設定している。すなわち、図9に示す例では、共通垂線を含む直線7が、第1ピストン71の摺動範囲69の中央近傍を通るよう構成されている。
【0103】
このように、共通垂線を含む直線7が、第1ピストン71の摺動範囲69を通るよう構成することで、たとえば、図8に示すように、共通垂線を含む直線7が、第1ピストン71を収容する第1シリンダ61の、軸線68方向(図中Y方向)における中間部(この例では中央近傍)を通るよう構成することができる。
【0104】
すなわち、軸線68方向(図中Y方向)において、第1ピストン71および第1シリンダ61を、回転軸9の近傍に配置することが可能となる。
【0105】
つぎに図10は、図9のうち、第1ピストン71が上死点にあるときの状態のみを示す図面である。
【0106】
図10に示すように、第1ピストン71が上死点にあるとき、軸線68と軸線83とのなす角度をθTとすれば、第1リンク81に作用する軸線83方向の力FLに対する、第1ピストン71に作用する軸線68方向の力FPの比率である変換比率FP/FLは、次式で表される。
【0107】
FP/FL=COSθT・・・・・(9)
【0108】
一方、軸線68と軸線83とのなす角度θT、軸線83の長さLL,回転軸9から偏心軸54の中心までの距離R、回転軸9と軸線68との距離Aを用いれば、上死点における各部材の幾何学的関係は、次式で表される。
【0109】
A/(LL-R)=SINθT・・・・・(10)
【0110】
式(9)および式(10)よりθTを消去すれば、変換比率FP/FLは次式で表すことができる。
【0111】
FP/FL=SQRT(1-(A/(LL-R))^2)・・・・・(11)
【0112】
さて、第1ピストン71により、効率的に空気を圧縮するためには、最も大きい圧縮力が必要となる上死点において、第1リンク81に作用する軸線83方向の力FLを、効率的に、軸線68方向の力FPに変換して、第1ピストン71に伝達する必要がある。
【0113】
このために要求される最低限の変換比率を下限変換比率TEとすれば、許容される変換比率FP/FLの範囲は、次式で表すことができる。
【0114】
1≧FP/FL≧TE・・・・・(12)
【0115】
式(12)に式(11)を適用すれば、下式が得られる。下式において、X*Yは、XとYの積を表すものとする。
【0116】
0≦A≦(LL-R)*SQRT(1-TE^2)・・・・・(13)
【0117】
すなわち、所望の下限変換比率TEを確保するためには、式(13)を満足する範囲内において、回転軸9と軸線68との距離Aを定めればよいことになる。したがって、式(13)を満足する範囲内において、できるだけ小さい距離Aを選択すれば、所望の下限変換比率TEを確保しつつ、軸線68を回転軸9近傍に配置することができる。
【0118】
圧縮空気を生成する上で、第1リンク81に作用する軸線83方向の力FLの少なくとも1/2を軸線68方向の力FPに変換する必要があると考えれば、下限変換比率TEは、TE≒0.5である。また、同一条件でより高圧の圧縮空気を得るためには、下限変換比率TEは高いほうが好ましいことから、好ましくはTE≒0.7、より好ましくはTE≒0.8、さらに好ましくはTE≒0.9、最も好ましくはTE≒0.95である。
【0119】
たとえば、LL=52、R=11、TE=0.5とした場合、回転軸9と軸線68との距離Aの設定可能範囲は、式(13)より、0≦A≦35.5となる。したがって、実機製作等における諸制約を満たしたうえで、上記範囲内でできるだけ小さい距離Aを選択すれば、下限変換比率TEを満足しつつ、軸線68を回転軸9のより近傍に配置することができる。
【0120】
他条件は同一で、TE=0.7とした場合、回転軸9と軸線68との距離Aの設定可能範囲は、式(13)より、0≦A≦29.3となる。
【0121】
同様に、TE=0.8とした場合、回転軸9と軸線68との距離Aの設定可能範囲は、式(13)より、0≦A≦24.6となる。
【0122】
同様に、TE=0.9とした場合、回転軸9と軸線68との距離Aの設定可能範囲は、式(13)より、0≦A≦17.9となる。
【0123】
同様に、TE=0.95とした場合、回転軸9と軸線68との距離Aの設定可能範囲は、式(13)より、0≦A≦12.8となる。
【0124】
なお、図9に示す例では、A=8.5としている。したがって、式(11)によれば、変換比率FP/FL≒0.98となり、下限変換比率TE=0.95をクリアしていることがわかる。
【0125】
このように、下限変換比率TEを満足しつつ、軸線68を回転軸9のより近傍に配置するよう構成することで、たとえば、図8に示すように、軸線68に直交する方向(図中X方向)において、第1ピストン71および第1シリンダ61を、回転軸9の近傍に配置することが可能となる。
【0126】
以上より、共通垂線を含む直線7が、第1ピストン71の摺動範囲69を通るよう構成する(図9参照)とともに、下限変換比率TEを満足しつつ軸線68を回転軸9のより近傍に配置するよう構成する(図10参照)ことで、図8に示すように、軸線68方向(図中Y方向)および軸線68に直交する方向(図中X方向)の双方向において、第1ピストン71および第1シリンダ61を、回転軸9の近傍に配置することが可能となるのである。
【0127】
この結果、車輪2の回転軸9から、第1ピストン71および第1シリンダ61を含む空気供給装置1の外縁までの寸法を小さく抑えることができ、その結果、空気供給装置1を含む車輪2全体の慣性モーメントを可及的に小さくすることが可能となる。
【0128】
また、このように構成することにより、第1ピストン71のストロークを大きくしても、回転軸9から空気供給装置1の外縁までの寸法がそれほど大きくなることはない。
【0129】
したがって、第1ピストン71のストロークを大きくすることで、シリンダ内筒64の内径(これを、シリンダ61の内径という。)を小さくすることができる。
【0130】
たとえば、この実施形態においては、シリンダ61の内径を12mm程度とすることで、圧縮空気により第1ピストン71に作用する反力を低く抑えている。このように構成しても、第1ピストン71をロングストローク型とし、たとえば、そのストロークを22mm程度とすれば、車輪一回転あたりの空気供給量が2.4ccとなるため、鉱石運搬トラックなどの大型車両のタイヤにも、この空気供給装置1を用いることができる。
【0131】
ちなみに、鉱石運搬トラックに用いられる超大型タイヤ(タイヤ直径4.02m、タイヤ空気量9793リットル)の場合、2か月あたりの透過量(タイヤから自然に漏れ出す空気量)は、経験上、979リットル程度とされているから、1日当たりの透過量は、約16.3リットルになる。
【0132】
一方、鉱石運搬トラックの1日あたりの走行距離を300kmと仮定すると、上記の車輪の1日あたりの回転数は23761回転となるから、上記の空気供給装置1の、車輪一回転あたりの空気供給量を、ロスを見込んで2ccとしても、1日あたりの空気供給可能量は、約48リットルとなり、上記超大型タイヤの1日当たりの透過量約16.3リットルを十分に補えるのである。
【0133】
さて、シリンダ61の内径を小さくして、圧縮空気により第1ピストン71に作用する反力が減少すると、重錘装置50の共回り防止のために重錘装置50が生成すべき回転軸9周りのトルク(すなわち、重錘装置50の重量や、回転軸9から重錘装置50の重心CGまでの距離)を小さくすることができ、重錘装置50を含む空気供給装置1のさらなるコンパクト化を図ることが可能となる。
【0134】
このようにして、空気供給装置を含む車輪全体の慣性モーメントを可及的に小さくするとともに、車輪内の限られた空間に収容することのできるコンパクトな空気供給装置を提供することが可能となるのである。
【0135】
図9ないし図10においては、第1シリンダ61と第1リンク81との関係に着目して説明しているが、第2シリンダ62と第2リンク82との関係も、第1シリンダ61と第1リンク81との関係と同様である。
【0136】
そして、図6に示すように、第1ピストン71を備えた第1シリンダ61および第2ピストン72を備えた第2シリンダ62を、回転軸9に対して点対称の位置に配置するよう構成している。
【0137】
このように構成することで、2気筒のポンプ4を備えた空気供給装置1を構成する多くの部材を、回転軸9まわりに、均等に、かつ、コンパクトに配置することができ、その結果、空気供給装置1を含む車輪2全体の慣性モーメントを可及的に小さくすることが可能となる。とりわけ、空気供給装置1を構成するほとんどの部材が、比較的密度の高い金属で構成されている点に鑑みれば、その効果は大きい。
【0138】
また、第1ピストン71が上死点、下死点にくるタイミングで、第2ピストン72が下死点、上死点にくるよう構成することが容易であるため、圧縮空気により第1ピストン71および第2ピストン72に作用する反力の合計を小さく抑えることができる。このため、2気筒のポンプ4を備えているにもかかわらず、重錘装置50の共回り防止のために重錘装置50が生成すべき回転軸9周りのトルクを小さく抑えることができ、空気供給装置1のコンパクト化をいっそう図ることが可能となる。
【0139】
つぎに、この発明の他の実施形態による空気供給装置101について説明する。空気供給装置101は、上述の空気供給装置1と類似の構成を備えている。したがって、理解の容易化の観点から、空気供給装置101のうち、空気供給装置1と同様の構成については、空気供給装置1と同じ符号を付し、重複する説明は省略することとする。
【0140】
図11は、1気筒のポンプ104を有する空気供給装置101を備えた車両の車輪102の正面図である。車両として、とくに限定されるものではないが、この場合も、自動車を例示することができる。したがって、小型の自動車はもとより、鉱石運搬トラックなどの大型車両にも、この空気供給装置101を適用することができる。
【0141】
図12は、車輪102の縦断面を説明するための図面である。図12に示すように、車輪102は、1つのタイヤ121を備えたシングルタイヤ型の車輪である。タイヤ121はホイール123に装着され、ホイール123は、ボルト、ナット等の締結具により、車両のハブ103に締結されている。
【0142】
図13は、図12の部分拡大図である。図13に示すように、ホイール123に設けられたバルブ125には給気ホース27が接続されている。車輪102の回転時に、空気供給装置101から、給気ホース27、バルブ125を介して、タイヤ121に空気が供給される。
【0143】
空気供給装置101は、略円板状のベースプレート30、ポンプ104、有蓋略円筒状のカバー31を備えている。ポンプ104は、カラー33およびこれを貫通するボルト34を用いて、ベースプレート30に固定されている。
【0144】
カバー31は、ボルト32を用いて、ベースプレート30に固定されている。ベースプレート30とカバー31とにより区画される略円柱状空間90に、ポンプ104が収容されている。ポンプ104に接続された給気ホース27は、ベースプレート30に装着された膜付グロメット91を介して略円柱状空間90の外部に導かれている。略円柱状空間90をなす円柱の軸線が車輪102の回転軸9と略一致するよう構成されている。
【0145】
ベースプレート30は、円筒状の支柱138およびこれを貫通するボルト139を用いて車両のハブ103に結合される。
【0146】
このようにして、ポンプ104を備えた空気供給装置101を、ハブ103を介して、車輪102に固定的に結合する。
【0147】
ポンプ104の正面図は、ポンプ4の正面図である図4と同様であるので、図示およびその説明を省略する。
【0148】
図14は、ポンプ104の左側面を表す部分断面図であって、第1ピストン71が上死点にあるときの状態を示す。図15は、図14におけるXV-XV線断面図である。
【0149】
図14図15に示すように、空気供給装置101を構成するポンプ104は、図5ないし図8に示す第2シリンダ62(これに取り付けられた逆止弁66およびリリーフ弁67を含む)、第2ピストン72、第2リンク82を備えていない点を除き、上述の空気供給装置1を構成するポンプ4と同様の構成である。したがって、空気供給装置1の奏する作用および効果は、2気筒のポンプ4に特有の作用および効果を除き、空気供給装置101にも該当する。
【0150】
なお、上述の各実施形態においては、空気供給装置を、ハブを介して、車輪に固定的に結合する場合を例に説明したが、この発明は、これに限定されるものではない。この発明は、空気供給装置を、直接、車輪たとえばホイールに固定的に結合する場合にも、適用することができる。
【0151】
また、上述の各実施形態においては、1つの車輪に装着されたタイヤの数と、空気供給装置に備えられたシリンダ及びピストンの組数が等しい場合を例に説明したが、この発明はこれに限定されるものではない。
【0152】
たとえば、図5に示すポンプ4を備えた空気供給装置1を、図12に示すシングルタイヤ型の車輪102に用いるよう構成することもできる。この場合、2つのシリンダ61、62から送出される圧縮空気を1つにまとめて1つのバルブ125に供給するよう、給気ホースを、たとえば分岐継手を用いて、逆Y字状に構成しておけばよい。
【0153】
この際、1つのシリンダ側で故障したり給気ホースが外れたりした場合でも、他のシリンダから供給された圧縮空気が故障したシリンダ側に漏出しないように、給気経路の適部、たとえば分岐継手の各入力部に逆止弁を設けるよう構成することもできる。
【0154】
逆に、図14に示すポンプ104を備えた空気供給装置101を、図2に示すダブルタイヤ型の車輪2に用いるよう構成することもできる。この場合、1つのシリンダ61から送出される圧縮空気を2つに分配して2つのバルブ25、26に供給するよう、給気ホースを、たとえば分岐継手を用いて、Y字状に構成しておけばよい。
【0155】
この際、1つのタイヤと給気ホースとの結合が外れたような場合でも、他のタイヤから空気が漏出しないように、給気経路の適部、たとえば分岐継手の各出力部に逆止弁を設けるよう構成することもできる。
【0156】
上記においては、本発明を好ましい実施形態として説明したが、各用語は、限定のために用いたのではなく、説明のために用いたものであって、本発明の範囲および精神を逸脱することなく、添付のクレームの範囲において、変更することができるものである。また、上記においては、本発明のいくつかの典型的な実施形態についてのみ詳細に記述したが、当業者であれば、本発明の新規な教示および利点を逸脱することなしに上記典型的な実施形態において多くの変更が可能であることを、容易に認識するであろう。したがって、そのような変更はすべて、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0157】
1:空気供給装置
2:車輪
7:第1シリンダ61の軸線68と回転軸9との共通垂線を含む直線
9:車輪2の回転軸
61:第1シリンダ
62:第2シリンダ
68:第1シリンダ61の軸線
69:第1ピストン71の摺動範囲
71:第1ピストン
72:第2ピストン
図1
図2
図3
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