(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089069
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】根菜カリウム含有率測定方法及び根菜製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/359 20140101AFI20240626BHJP
G01N 21/3563 20140101ALI20240626BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20240626BHJP
G01N 33/02 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
G01N21/359
G01N21/3563
G01N21/27 F
G01N33/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204197
(22)【出願日】2022-12-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 掲載日 令和4年9月6日 日本生物環境工学会2022年福岡大会(2022年9月6日~9日開催)「可視・近赤外分光法によるハツカダイコンのカリウム含有量非破壊的計測の試み」
(71)【出願人】
【識別番号】306024148
【氏名又は名称】公立大学法人秋田県立大学
(71)【出願人】
【識別番号】595101665
【氏名又は名称】株式会社オーク
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194283
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 大勇
(72)【発明者】
【氏名】小川 敦史
(72)【発明者】
【氏名】山本 奈菜
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB08
2G059BB11
2G059CC03
2G059EE02
2G059EE11
2G059HH01
2G059HH02
2G059MM01
2G059MM12
(57)【要約】
【課題】根菜の胚軸においてカリウム含有率を非破壊で測定することが可能な方法を提供する。
【解決手段】
被検体の根菜の胚軸に400から1400nmの間の可視光及び近赤外領域に含まれる光を照射し、400から1400nmの間の可視光及び近赤外領域に含まれる二種以上の波長に対応する反射強度を計測し、該反射率を算出し、これらの値から被検体のカリウム含有率を測定する。また、根菜は、ハツカダイコン(Raphanus sativus var. sativus、又はカブ(Brassica rapa var. rapa)であることが好適である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体である根菜の胚軸部分に、400~1400nmである可視光及び近赤外領域の光を照射し、
前記光の二種以上の波長に対応する反射強度を測定して、該反射強度から反射率を算出し、
前記反射強度及び前記反射率の値に基づいて前記根菜のカリウム含有率を測定する
ことを特徴とする根菜カリウム含有率測定方法。
【請求項2】
前記カリウム含有率は、下記式(1)で推定される
K=a1×R1+a1×R1+a1×R1 …… +an×Rn+b -- 式(1)
ただし、Kは推定カリウム含有率、R1、R2、R3……Rnは、400~1400nmの間の可視光及び近赤外領域に含まれるn種の波長に対応する反射率を示し、a1、a2、a3……an及びbは、十分に多い母集団において、測定された反射率及び実測カリウム含有率を用いて最小自乗法で決定された係数である
ことを特徴とする請求項1に記載の根菜カリウム含有率測定方法。
【請求項3】
前記根菜は、ハツカダイコン(Raphanus sativus var. sativus、又はカブ(Brassica rapa var. rapa)である
ことを特徴とする請求項1に記載の根菜カリウム含有率測定方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の根菜カリウム含有率測定方法により、前記根菜の前記カリウム含有率を測定し、
低カリウム野菜であることを非破壊的に確認して栽培する
ことを特徴とする根菜製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に根菜の胚軸においてカリウム含有率を非破壊で測定する根菜カリウム含有率測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本における慢性腎臓病患者は年々増加しており、非特許文献1によれば、末期腎不全である腎臓病透析患者は34万人を超える。慢性腎臓病は現在の医療では完治できないため、腎臓病透析患者は人工透析に加え厳しい食事制限が課せられる。腎臓病透析患者の摂取制限が必要な成分の一つにカリウムがある。腎臓病透析患者は体内のカリウムを十分に排出することができないため、摂取制限を行わないと高カリウム血症を引き起こし、不整脈や心不全に至る場合がある。
【0003】
このような腎臓病透析患者が抱える問題を少しでも緩和するために開発されたのが、カリウム含有率が少なくなるように栽培された「低カリウム野菜」である。これまでに、ホウレンソウ(非特許文献2参照)やレタス等の葉菜類や、メロン、イチゴ、根菜等の果物等で低カリウム化に成功した事例が報告されている。
【0004】
一方、現在市場で販売されている低カリウムレタスを中心とした低カリウム葉菜類は、気温や日照量、湿度等の生育環境が一律に保たれた植物工場内で栽培されている。品質を保証するには全数検査が望ましいが、出荷される際に抜き取り調査を行うことによってカリウム含有率の低下を確認している。抜き取り調査によるカリウム含有率の測定では、植物体から搾汁し、イオンメーターを用いてカリウムを測定するか、又は、植物体を灰化及びカリウム抽出することで測定する等破壊的な操作を伴っている。このため、全数検査による品質担保を目指すには、非破壊的かつ手軽にカリウム含有率を測定する方法を開発する必要がある。
【0005】
ここで、特許文献1を参照すると、メロンにおいて可視光領域である500nm~800nmの波長範囲に含まれる複数の波長をメロン果皮に照射し、その反射光強度に基づいてメロンのカリウム含有率を非破壊で測定する発明が記載されている。
すなわち、特許文献1では、可視光である500nm~800nmの反射率を用いメロンのカリウム含有率を非破壊で測定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】花房規男他、わが国の慢性透析療法の現況(2020年12月31日現在)、日本透析学会誌、2021、54、p.611~657
【非特許文献2】谷垣陽介他、根野菜の低カリウム化に関する基礎研究2、日本生物環境工学会 松山大会 講演要旨、2017、p.80~81
【非特許文献3】小川敦史他、腎臓病透析患者のための低カリウム含有量ホウレンソウの栽培方法の確立、日本作物学会紀事、2007、76、p.232~237
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、特許文献1において、メロンは緑色であるために500nm~800nmの反射率を用いると、カリウム含有率との相関が得られていた。
しかしながら、根菜類であるハツカダイコンやカブは白色や赤色や紫色等様々な色彩を呈しており、500nm~800nmの反射率を用いてカリウム含有率との関係を検討しても両者の間に高い相関を得られない場合があった。
【0009】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の問題を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の根菜カリウム含有率測定方法は、被検体である根菜の胚軸部分に、400~1400nmである可視光及び近赤外領域の光を照射し、前記光の二種以上の波長に対応する反射強度を測定して、該反射強度から反射率を算出し、前記反射強度及び前記反射率の値に基づいて前記根菜のカリウム含有率を測定することを特徴とする。
本発明の根菜カリウム含有率測定方法は、前記カリウム含有率は、下記式(1)で推定される
K=a1×R1+a1×R1+a1×R1 …… +an×Rn+b -- 式(1)
ただし、Kは推定カリウム含有率、R1、R2、R3……Rnは、400~1400nmの間の可視光及び近赤外領域に含まれるn種の波長に対応する反射率を示し、a1、a2、a3……an及びbは、十分に多い母集団において、測定された反射率及び実測カリウム含有率を用いて最小自乗法で決定された係数であることを特徴とする。
本発明の根菜カリウム含有率測定方法は、前記根菜は、ハツカダイコン(Raphanus sativus var. sativus、又はカブ(Brassica rapa var. rapa)であることを特徴とする。
本発明の根菜製造方法は、前記根菜カリウム含有率測定方法により、前記根菜の前記カリウム含有率を測定し、低カリウム野菜であることを非破壊的に確認して栽培することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被検体である根菜の胚軸部分に、400~1400nmである可視光及び近赤外領域の光を照射し、光の二種以上の波長に対応する反射強度を測定して、当該反射強度から反射率を算出し、反射強度及び反射率の値に基づいて根菜のカリウム含有率を測定することで、非破壊で根菜のカリウム濃度を測定可能な根菜カリウム含有率測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例に係るハツカダイコンの品種「ニューコメット」の胚軸の反射率から求めたカリウム含有率の推定値と、破壊測定方法により求めたカリウム含有率の実測値との関係を示すグラフである。
【
図2】本発明の実施例に係るハツカダイコンの品種「ルビーコメット」の胚軸の非破壊測定による反射率から求めたカリウム含有率の推定値と、破壊測定方法により求めたカリウム含有率の実測値との関係を示すグラフである。
【
図3】本発明の実施例に係るハツカダイコンの品種「イザベル」の胚軸の反射率から求めたカリウム含有率の推定値と、破壊測定方法により求めたカリウム含有率の実測値との関係を示すグラフである。
【
図4】本発明の実施例に係るカブの品種「みふね」の胚軸の反射率から求めたカリウム含有率の推定値と、破壊測定方法により求めたカリウム含有率の実測値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施の形態>
腎臓病透析患者はカリウムの摂取制限の必要があり、このような腎臓病透析忠者が抱える問題を少しでも緩和するために開発されたのが、カリウム含有率が少なくなるように栽培された「低カリウム野菜」である。
低カリウム野菜は、出荷される際に抜き取り調査を行うことによってカリウム含有量低下を保証している。しかし、抜き取り調査では品質を担保できているとは言い難く、カリウム含有量の測定には破壊的な操作を伴う全数検査は不可能であるため、非破壊的且つ手軽にカリウム含有量を測定できる方法の開発の技術的ニーズがあった。
このため、本発明の発明者らは鋭意研究を行い、糖度等の分析に用いられる可視光及び赤外光反射率を利用することを着想し、低カリウム根菜において、カリウム含有量の非破壊測定法を確立し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
具体的には、本発明者らは、後述する実施例で示すように、低カリウム根菜類であるハツカダイコンとカブの栽培を行った。そして、可食部である根菜胚軸のカリウム含有率を測定した。根菜類の胚軸におけるカリウム含有率の測定は、根菜類胚軸部分を乾燥した後、乾式灰化及び硝酸による抽出を行った後、ICP発光分光分析装置(ICP-OES)を用いた測定により、本発明による400~1400nmの間の可視光及び近赤外領域における反射率の非破壊的測定を行った。
これについて、カリウム含有量の測定を回帰変数として重回帰分析のステップワイズ法にて検量線を作成し、ハツカダイコンは通年生産可能であるため、栽培期間をずらしたサンプルを用意し、栽培期間毎に検量線を作成して比較した。結果として、全ての栽培期間においてカリウム含有量と、可視光及び近赤外光反射率との間に0.01%以上の水準で、有意な相関がみられた。すなわち、可視光及び赤外光反射率からカリウム含有量の測定が可能となった。
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る根菜カリウム含有率測定方法及び根菜製造方法について、より詳細について説明する。
【0016】
本実施形態に係る根菜カリウム含有率測定方法は、被検体である根菜の胚軸部分に、400~1400nmである可視光及び近赤外領域の光を照射し、光の二種以上の波長に対応する反射強度を測定して、該反射強度から反射率を算出し、反射強度及び反射率の値に基づいて根菜のカリウム含有率を測定することを特徴とする。
すなわち、本実施形態に係る根菜カリウム含有率測定方法は、被検体の根菜の胚軸部分に400~1400nmの間の可視光及び近赤外領域に含まれる光を照射する。そして、400~1400nmの間の可視光及び近赤外領域に含まれる二種以上の波長に対応する反射強度を計測して、この反射率を算出し、これらの値から被検体のカリウム含有率を測定するものである。
【0017】
より具体的には、本実施形態に係る根菜カリウム含有率測定方法において、カリウム含有率は、設定された下記の重回帰モデルの式(1)に基づき推定される
K=a1×R1+a1×R1+a1×R1 …… +an×Rn+b -- 式(1)
ただし、Kは推定カリウム含有率、R1、R2、R3……Rnは、400~1400nmの間の可視光及び近赤外領域に含まれるn種の波長に対応する反射率を示し、a1、a2、a3……an及びbは、十分に多い母集団において、測定された反射率及び実測カリウム含有率を用いて最小自乗法で決定された係数である。
【0018】
ここで、このn種の波長としては、二種以上(n≧2)の波長であり、少なくともカリウムの含有量を特徴的に説明可能な波長を用いる。具体的には、上述の式(1)の1~nまでのnを削減していって、十分に統計的に有意になる程度の波長であってもよい。後述の実施例では、400~1400nmの間、10nm間隔で設定したため、この波長は100種(n=100)であったものの、より少なくてもよく、数十種~場合によっては二種でもよい。各波長の反射率は、可視光又は赤外光用の分光測色計を用いることが可能である。
【0019】
また、上述のa1、a2、a3……an及びbを算出するための十分に多い母集団は、例えば、十~数百程度であってもよく、相関係数が有意に算出できるサンプル数があればよい。たとえば、下記の実施例で示すように二十程度のサンプル数で十分な相関が求められ得る。
【0020】
本実施形態に係る根菜カリウム含有率測定方法において、測定される根菜類としては、例えば、後述する実施例で、代表例として示したように、ハツカダイコン(Raphanus sativus var. sativus、又はカブ(Brassica rapa var. rapa)を用いることが好適である。
この他にも、本実施形態に係る根菜カリウム含有率測定方法では、各種根菜類について用いることが可能である。これらの他の根菜としては、テーブルビート(Beta vulgaris vulgaris L.)、ダイコン(Raphanus sativus var. hortensis)、ニンジン(Daucus carota subsp. sativus)、サツマイモ(Ipomoea batatas)、ショウガ(Zingiber officinale)、ゴボウ(Arctium lappa L.)、レンコン(Nelumbo nucifera)、ジャガイモ(Solanum tuberosum L.)、サトイモ(Colocasia esculenta)、ヤマノイモ(Dioscorea)等が挙げられるものの、他の種類の根菜であってもよい。具体的には、緑色を呈しておらず、表面に色素のある根菜であってもよい。
【0021】
本実施形態に係る根菜製造方法は、根菜カリウム含有率測定方法により、前記根菜の前記カリウム含有率を測定し、低カリウム野菜であることを非破壊的に確認して栽培する栽培方法である。
【0022】
具体的には、本発明の実施の形態に係る根菜類の栽培方法では、栽培期間中の培地の養分組成を容易に変更できる水耕栽培方法を用いて栽培することが好適である。
本実施形態の根菜類の栽培方法では、後述する実施例で示す1K液を用いて、栽培期間の途中から培養液中のカリウム濃度を減らして栽培することで、胚軸のカリウム含有率を減少させることができる。
ここで、本発明の実施の形態に係る水耕栽培方法の栽培の根菜類の植物体の生育ステージは、幼体及び通常の大きさの植物体のどちらにも適用可能である。
すなわち、低カリウム根菜用培養液に培養液を取り換えるだけで、ビニールハウスや植物工場等の施設栽培での水耕栽培について、好適に用いることが可能である。
【0023】
また、本実施形態の水耕栽培方法においては、根菜類の種子を催芽させた後、この水耕栽培用の普通処方培養液によって水耕栽培する。この際、温度、日照時間、培養液の電気伝導度(EC)、pH等は、栽培する根菜類の種類に合わせて適宜調整する。
また、本実施形態の水耕栽培方法として、例えば、噴霧水耕方式又は湛液方式で栽培してもよい。湛液方式の場合、培養液の流れを作らない静置状態で栽培してもよいし、流れのある培養液で栽培してもよい。これは、収穫前の特定期間でも同様である。
また、本実施形態の水耕栽培方法は、太陽光を利用した通常のハウス水耕栽培等に適用されても、LED(Light Emitting Diode)等を利用した植物工場での水耕栽培等に適用されてもよい。
【0024】
また、本発明の実施の形態に係る根菜類は、上述の根菜製造方法による栽培方法により栽培されたことを特徴とする。
本実施形態の水耕栽培方法で栽培された根菜類中の成分は、上述の測定方法により分析することが可能である。この分析により、既存の通常の水耕栽培方法で栽培されたカリウム含有量が高くない根菜類と区別可能である。
【0025】
以上のように構成することで、以下のような効果を得ることができる。
従来、低カリウム野菜の出荷の際のカリウム含有率の検査は抜き取り検査が行われているが、本来なら品質保評の面から見ると非破壊の全量検査が望まれていた。
しかしながら、特許文献1に記載の手法は、緑色のメロンにしか用いることができなかった。
これに対して、本実施形態に係る根菜カリウム含有率測定方法により、根菜のカリウム合有率を非破壊で測定することができる。すなわち、被検体の根菜に光を照射して得られた特定波長の反射光から、根菜の可食部である胚軸におけるカリウム含有率を非破壊で定量的に測定することができる。よって、カリウムの摂取制限がある慢性腎臓病患者のための低カリウム含有率根菜の栽培における品質検査に利用可能となる。
【0026】
加えて、本実施形態に係る根菜カリウム含有率測定方法では、通常の小型分光測色計や赤外分光センサ等により反射率を測定して、算出された重回帰式等に当てはめるだけで、カリウム含有率を非破壊で測定することが可能となる。これにより、特許文献1のように特別な装置が必用なく、容易に検査することができる。
【0027】
従来は、低カリウム野菜の生産現場においては抜き取り検査が行われていた。これに対して、本実施形態に係る根菜カリウム含有率測定方法を用いることで、全数検査を行い品質保証して出荷することが可能になる。
また、本実施形態に係る根菜カリウム含有率測定方法は、根菜のカリウム含有率を非破壊的に定量測定することができ、カリウムの摂取制限がある慢性腎臓病患者のための低カリウム含有率根菜の栽培における品質検査に利用可能である。
よって、本実施形態に係る根菜製造方法を、低カリウム根菜の出荷前の栽培現場での利用も可能となる。また、水耕栽培の栽培装置に組み込んで、栽培中の栽培状態とカリウムの含有率との関係を参照して、カリウムの含有率が低くなった段階で、時期を早めて出荷することも可能となる。
【0028】
なお、上述の実施形態においては、重回帰モデルを用いて、根菜カリウム含有率測定を行ったものの、その他の統計モデル、ニューラルネットワークやカーネルマシン等の各種機械学習等を用いることも可能である。
【実施例0029】
次に、図面に基づき本発明を実施例によりさらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
【0030】
[低カリウム根菜の栽培]
供試材料にはハツカダイコン(Raphanus sativus var. sativus)の品種「ニューコメット(タキイ種苗株式会社製)」、「ルビーコメット(タキイ種苗株式会社)」、「イザベル(カネコ種苗株式会社製)」と、カブ(Brassica rapa var. rapa)の品種「みふね(株式会社サカタのタネ製)」を用いた。
【0031】
湿らせたろ紙を敷いたシャーレ上に種子を置床し、22℃に設定した室内で3日~5日間催芽処理を行った。発芽後、中心に切れ込みが入ったウレタンスポンジ(22mm×22mm×27mm)で挟み、下記で説明する「1K液」を培養液として与えて育苗した。
根が10cm以上に伸長した段階でスポンジごとビニールハウス内に設置している里山式溶液栽培プラント(W100-3型、750mm×750mm×3780mm、株式会社里山村製)に定植し、胚軸が3cm以上に肥大した段階で収穫した.
ハツカダイコンについては、通年生産可能であるため、栽培期間をずらしたサンプルを用意し、栽培期間毎に検量線を作成して比較した。
【0032】
本実施例に使用した培養液(1K液)は、非特許文献3の低カリウムホウレンソウ栽培の培養液組成に基づいてに調製し、EC管理装置(オンディーネハイドロコントローラー 兵神機械工業株式会社製)を用いて、培養液中のECが1.3になるように調整した。基本濃度組成(1K液)は、1.50mM KNO3、1.50mM NaNO3、2.00mM Ca(NO3)2・4H2O、0.50 mM NH4H2PO4、1.00mM MgSO4・7H2O、26.9μM EDTA-Fe、4.55μM MnCl2・4H2O、23.1μM H3BO3、0.38μM ZnSO4・7H2O、0.16μM CuSO4・5H2O、0.015μM (NH4)6Mo7O24・4H2Oとした。
【0033】
非特許文献2によれば、栽培期間の途中から培養液中のカリウム濃度を減らして栽培することで、胚軸のカリウム含有率を減少させることが可能であることが知られている。
このため、本実施例でも、栽培途中にカリウム濃度が「0」の培養液に変更し、胚軸のカリウム含有率がばらつくように調整して栽培した。
【0034】
[カリウム含有率の測定方法]
収穫直後の新鮮重を測定したのち、80℃の強制対流定温乾燥機(SOFW450、アズワン株式会社製)内で72時間乾燥させた。乾燥後の重量を測定したのちに粉砕し、全量を、るつぼに入れて550℃のマッフル炉(FP412、ヤマト科学株式会社製)で6時間燃焼させた。灰化した試料全量を1NのHNO3 12mlに溶解し、孔径0.25μmのセルロースフィルターでろ過した。溶解液を1NのHNO3で20倍に希釈後、ICP発光分光分析機(IRIS Adventure ICAP、日本ジャーレルアッシュ製)を用いてカリウム濃度を測定した。測定した元素濃度は新鮮重100g当たりの含有量である含有率(mg/100g FW)に換算した。
【0035】
[分光反射率の測定方法]
収穫したサンプルを茎葉部と胚軸、根に切り分け、胚軸の可視光及び近赤外光反射率を測定した。可視光反射率(400nm~700nm)の測定には小型分光測色計(Spectro 1TM、Variable、 Inc.製)を、赤外光反射率(1100nm~1350m)の測定には超小型近赤外分光センサモジュール(NIRONE S 1.4、Spectral Engines GmbH製)を用いた。サンプル1個体につき、400nm~700nmと1100nm~1350nmの反射率を10nm間隔の条件で3反復ずつ測定した。
【0036】
統計処理には重回帰分析のステップワイズ法(変数増減法)を用いた。カリウム含有率を目的変数、400nm~700nmと1100nm~1350nmにおける10nm毎の分光反射率を説明変数とし、統計ソフトJMP 16(SAS Institute Inc.製)を用いて統計処理を行った。変数を追加及び除去する基準のP値は0.25とし、検量線を作成した。
【0037】
[試験結果]
図1にハツカダイコンの品種「ニューコメット」における、非破壊測定による反射率から求めたカリウム含有率の推定値と、破壊測定方法により求めたカリウム含有率の実測値との関係を示す。
【0038】
相関係数が0.820(n=120)であり、両者の間には0.01%水準で有意な相関が認められた。
【0039】
図2にハツカダイコンの品種「ルビーコメット」における、非破壊測定による反射率から求めたカリウム含有率の推定値と、破壊測定方法により求めたカリウム含有率の実測値との関係を示す。
【0040】
相関係数が0.864(n=21)であり、両者の間には0.01%水準で有意な相関が認められた。
【0041】
図3にハツカダイコンの品種「イザベル」における、非破壊測定による反射率から求めたカリウム含有率の推定値と、破壊測定方法により求めたカリウム含有率の実測値との関係を示す。
【0042】
相関係数が0.865(n=18)であり、両者の間には0.01%水準で有意な相関が認められた。
【0043】
図4にカブの品種「みふね」における、非破壊測定による反射率から求めたカリウム含有率の推定値と、破壊測定方法により求めたカリウム含有率の実測値との関係を示す。
【0044】
相関係数が0.856(n=39)であり、両者の間には0.01%水準で有意な相関が認められた。
【0045】
これらの結果から、根菜の胚軸において、可視光及び近赤外光の反射率からカリウム含有量の測定が可能であることが明らかになった。
【0046】
なお、上記実施の形態の構成及び動作は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行することができることは言うまでもない。