(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089094
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】ネットワークポリマー及びその製造方法、並びに、プレポリマー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 12/02 20060101AFI20240626BHJP
【FI】
C08G12/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204232
(22)【出願日】2022-12-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「データ駆動型分子設計を基点とする超複合材料の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】内藤 昌信
(72)【発明者】
【氏名】中村 泰之
(72)【発明者】
【氏名】藤田 健弘
(72)【発明者】
【氏名】川井 森生
【テーマコード(参考)】
4J033
【Fターム(参考)】
4J033EA05
4J033EA11
4J033EA51
4J033EB29
4J033EC02
4J033HB01
4J033HB09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高い耐熱性を有し、且つ製造コスト及び製造時間を削減できるネットワークポリマーを提供する。
【解決手段】ネットワークポリマーであって、2,4,5の位置の炭素それぞれから1個の水素が取れたイミダゾリン構造を有する3価の基、又はその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つである繰り返し単位(I)と、置換又は無置換の2価の炭化水素基である繰り返し単位(II)と、を含むネットワーク構造を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワークポリマーであって、
下記式(1)で表される3価の基、及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つである繰り返し単位(I)と、
置換又は無置換の2価の炭化水素基である繰り返し単位(II)と、を含むネットワーク構造を有し、
式(1)において、*1~*3はそれぞれ結合位置を表し、
3個の結合位置*1~*3のうち、少なくとも結合位置*1に結合する繰り返し単位(II)が電子求引性基である、ネットワークポリマー。
【化1】
【請求項2】
繰り返し単位(I)が式(1)で表される3価の基である、請求項1に記載のネットワークポリマー。
【請求項3】
前記ネットワーク構造が下記式(3)で表される繰り返し単位(III)により構成され、
式(3)において、R
1は、置換又は無置換の2価の炭化水素基であり、且つ電子求引性基である、請求項1又は2に記載のネットワークポリマー。
【化2】
【請求項4】
前記電子求引性基が、芳香環を含む2価の基である請求項1~3のいずれか一項に記載のネットワークポリマー。
【請求項5】
前記電子求引性基が、下記(2-1)~(2-3)で表される2価の基からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1~4のいずれか一項に記載のネットワークポリマー。
【化3】
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のネットワークポリマーを合成するためのプレポリマーであって、
繰り返し単位(II)と、
下記式(5)で表される繰り返し単位(V)と、を含むネットワーク構造を有し、
式(5)において、*51~*53はそれぞれ結合位置を表し、
3個の結合位置*51~*53のうち、少なくとも結合位置*51に結合する繰り返し単位(II)が電子求引性基である、プレポリマー。
【化4】
【請求項7】
前記ネットワーク構造が下記式(6)で表される繰り返し単位により構成され、式(6)において、R
1は、置換又は無置換の2価の炭化水素基であり、且つ電子求引性基である、請求項6に記載のプレポリマー。
【化5】
【請求項8】
ネットワークポリマーの合成方法であって、
請求項6又は7に記載の前記プレポリマーを用意することと、
前記プレポリマーを加熱することと、を含むネットワークポリマーの合成方法。
【請求項9】
請求項6又は7に記載のプレポリマーの合成方法であって、
前記プレポリマーを構成する繰り返し単位(II)である、置換又は無置換の2価の炭化水素基と2個のアルデヒド基とが結合したジアルデヒドと、アンモニアとを反応させることを含む、プレポリマーの合成方法。
【請求項10】
ネットワークポリマーであって、
置換又は無置換の2価の炭化水素基である繰り返し単位(II)と、
下記式(5)で表される繰り返し単位(V)と、を含むネットワーク構造を有し、
式(5)において、*51~*53はそれぞれ結合位置を表し、
3個の結合位置*51~*53のうち、少なくとも結合位置*51に結合する繰り返し単位(II)が電子求引性基である、ネットワークポリマー。
【化6】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネットワークポリマー及びその製造方法、並びに、プレポリマー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題への取り組みが至上命題となった現代において、アンモニアは脱炭素社会に向けた次世代の原料として注目を集めている。アンモニアは燃焼時に二酸化炭素を一切発生しない(4NH3+3O2→2N2+6H2O)。このため、化石燃料に代わる新たなエネルギー源として利用でき、燃料や発電、水素貯蔵などへの運用が期待されている。
【0003】
また、アンモニアは、プラスチックを始めとするポリマーの材料として利用することができる。プラスチック業界では脱炭素社会への取組みが大きな流れとなっており、アンモニアを代替したプラスチックはこうした研究を大きく進展させる可能性がある。アンモニアを原料とする窒素含有のポリマーとしては、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド等が知られている。その他、例えば、特許文献1は、ポリマー末端に1,2-2基置換のイミダゾリン構造を有する窒素含有ポリマーを開示している。
【0004】
全体的な傾向として、主鎖に窒素元素の入ったポリマーは炭化水素から構成されるものに比べて総じて高い耐熱性を持つ。耐熱性を高める要因として二つ考えられ、一つはアミド結合やイミド結合など、剛直な構造を内包していることである。もう一つはアミンの反応性から架橋点を多く持つネットワークポリマーを形成することである。こうした強固な構造は機械的強度を始めとする様々な機能性材料としての特性の要因ともなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の窒素含有ポリマーは、アンモニアから直接合成することができなかった。アンモニアは、まず、アミンを始めとする窒素含有モノマーに変換され、その後、モノマーを重合することで窒素含有ポリマーが得られる。窒素含有モノマーを経由するため、従来の窒素含有ポリマーは、石油由来のプラスチックよりも割高な材料となる傾向にあった。また、従来の窒素含有ポリマーに対しては、更に高い耐熱性の要求もあった。
【0007】
本発明はこれらの課題を解決するものである。即ち、本発明は、高い耐熱性を有し、且つ製造コスト及び製造時間を削減できるネットワークポリマーを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0009】
[1] ネットワークポリマーであって、
後述する式(1)で表される3価の基、及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つである繰り返し単位(I)と、
置換又は無置換の2価の炭化水素基である繰り返し単位(II)と、を含むネットワーク構造を有し、
式(1)において、*1~*3はそれぞれ結合位置を表し、
3個の結合位置*1~*3のうち、少なくとも結合位置*1に結合する繰り返し単位(II)が電子求引性基である、ネットワークポリマー。
[2] 繰り返し単位(I)が式(1)で表される3価の基である、[1]に記載のネットワークポリマー。
[3] 前記ネットワーク構造が後述する式(3)で表される繰り返し単位(III)により構成され、
式(3)において、R1は、置換又は無置換の2価の炭化水素基であり、且つ電子求引性基である、[1]又は[2]に記載のネットワークポリマー。
[4] 前記電子求引性基が、芳香環を含む2価の基である[1]~[3]のいずれかに記載のネットワークポリマー。
[5]
前記電子求引性基が、後述する式(2-1)~(2-3)で表される2価の基からなる群から選択される少なくとも1つである、[1]~[4]のいずれかに記載のネットワークポリマー。
[6] [1]~[5]のいずれかに記載のネットワークポリマーを合成するためのプレポリマーであって、
繰り返し単位(II)と、
後述する式(5)で表される繰り返し単位(V)と、を含むネットワーク構造を有し、
式(5)において、*51~*53はそれぞれ結合位置を表し、
3個の結合位置*51~*53のうち、少なくとも結合位置*51に結合する繰り返し単位(II)が電子求引性基である、プレポリマー。
[7] 前記ネットワーク構造が後述する式(6)で表される繰り返し単位により構成され、式(6)において、R1は、置換又は無置換の2価の炭化水素基であり、且つ電子求引性基である、[6]に記載のプレポリマー。
[8] ネットワークポリマーの合成方法であって、
[6]又は[7]に記載の前記プレポリマーを用意することと、
前記プレポリマーを加熱することと、を含むネットワークポリマーの合成方法。
[9] [6]又は[7]に記載のプレポリマーの合成方法であって、
前記プレポリマーを構成する繰り返し単位(II)である、置換又は無置換の2価の炭化水素基と2個のアルデヒド基とが結合したジアルデヒドと、アンモニアとを反応させることを含む、プレポリマーの合成方法。
[10] ネットワークポリマーであって、
置換又は無置換の2価の炭化水素基である繰り返し単位(II)と、
後述する式(5)で表される繰り返し単位(V)と、を含むネットワーク構造を有し、
式(5)において、*51~*53はそれぞれ結合位置を表し、
3個の結合位置*51~*53のうち、少なくとも結合位置*51に結合する繰り返し単位(II)が電子求引性基である、ネットワークポリマー。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、低コストで製造でき、且つ高い耐熱性を有するネットワークポリマーを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態のネットワークポリマーの製造方法を説明するフローチャートである。
【
図2】実施例で用いたジアルデヒド、及び合成したプレポリマー(ネットワークポリイミン)の化学構造式を示す図である。
【
図3A】実施例で合成したプレポリマー(ネットワークポリイミン)のIRスペクトルである(全体図)。
【
図3B】実施例で合成したプレポリマー(ネットワークポリイミン)のIRスペクトルである(二重結合伸縮振動ピークの比較)。
【
図3C】実施例で合成したプレポリマー(ネットワークポリイミン)のIRスペクトルである(反応温度による生成物の比較)。
【
図4】実施例で合成したプレポリマー(ネットワークポリイミン)の
13C固体NMRスペクトルである。
【
図5A】実施例で合成したプレポリマー(ネットワークポリイミン)と、それの加熱処理で得られたネットワークポリマー(イミダゾリンポリマー)とのIRスペクトルである(全体図)。
【
図5B】実施例で合成したプレポリマー(ネットワークポリイミン)と、それの加熱処理で得られたネットワークポリマー(イミダゾリンポリマー)とのIRスペクトルである(C=N伸縮振動ピークの比較)。
【
図6A】実験1-1のプレポリマー(テレフタルアルデヒドを原料とするポリイミン)から合成したネットワークポリマー(イミダゾリンポリマー)のTG、DTG測定結果を示す図である。
【
図6B】実験1-1のプレポリマー(テレフタルアルデヒドを原料とするポリイミン)から合成したネットワークポリマー(イミダゾリンポリマー)のDSC測定結果を示す図である。
【
図7A】実験2-1のプレポリマー(イソフタルアルデヒドを原料とするポリイミン)から合成したネットワークポリマー(イミダゾリンポリマー)のTG、DTG測定結果を示す図である。
【
図7B】実験2-1のプレポリマー(イソフタルアルデヒドを原料とするポリイミン)から合成したネットワークポリマー(イミダゾリンポリマー)のDSC測定結果を示す図である。
【
図8A】実験3-1のプレポリマー(ビス(4-ホルミルフェニル)エーテルを原料とするポリイミン)から合成したネットワークポリマー(イミダゾリンポリマー)のTG、DTG測定結果を示す図である。
【
図8B】実験3-1のプレポリマー(ビス(4-ホルミルフェニル)エーテルを原料とするポリイミン)から合成したネットワークポリマー(イミダゾリンポリマー)のDSC測定結果を示す図である。
【
図9】実施例で合成したネットワークポリマー(イミダゾリンポリマー)の熱物性を示す表である。
【
図10】実験1-1のプレポリマーの分解処理後の
1H-NMR測定結果を示す図である。
【
図11A】実験1-1のプレポリマーの分解性評価の経過観察の写真である(無機酸水溶液系)。
【
図11B】実験1-1のプレポリマーの分解性評価の経過観察の写真である(無機酸水溶液及び有機溶媒の混合系)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。尚、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
本明細書における基(原子群)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、本発明の効果を損ねない範囲で、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。このことは、各化合物についても同義である。
【0014】
[第1実施形態]
<ネットワークポリマー>
ネットワークポリマーとは、高分子鎖がネットワーク構造(三次元網目構造)を取る高分子の総称である。本実施形態のネットワークポリマー(イミダゾリンポリマー)は、下記式(1)で表される3価の基、又はその誘導体である繰り返し単位(I)と、2価の基である繰り返し単位(II)とを含むネットワーク構造を有する。式(1)において、*1~*3はそれぞれ結合位置を表す。
【0015】
【0016】
繰り返し単位(I)は、式(1)に示すように、2,4,5の位置の炭素それぞれから1個の水素が取れたイミダゾリン構造を有する3価の基、又はその誘導体である。製造コスト及び時間を削減する観点からは、繰り返し単位(I)は、式(1)で表される3価の基であることが好ましい。3価の基である繰り返し単位(I)は、ネットワーク構造の架橋点である。本実施形態のネットワークポリマーは、架橋点が環状のイミダゾリン構造であるため、従来のネットワークポリマーと比較して、より高い耐熱性を有し、同時に、より高い機械強度及び耐薬品性が得られる。また、繰り返し単位(I)と繰り返し単位(II)とは交互に結合していることが好ましい。これにより、より多くの架橋点を有することができ、耐熱性、機械強度、及び耐薬品性が更に向上する。
【0017】
式(1)で表される3価の基の誘導体は、例えば、イミダゾリン構造に対して、水素化、及び/又は置換基導入がなされた3価の基である。置換基としては、例えば、置換又は無置換の脂肪族炭化水素基が挙げられる。水素化、置換基導入は、イミダゾリン構造の1の位置の窒素、及び/又は、3の位置の窒素に対して生じる。例えば、式(1)で表される3価の基の誘導体は、イミダゾリニウム塩構造を有してもよい。具体的な誘導体としては、例えば、以下の式で表される3価の基が挙げられる。以下の式において、*は結合位置を表す。ネットワーク構造に含まれる、式(1)で表される3価の基の誘導体は、1種類のみであってもよいし、複数種類であってもよい。
【0018】
【0019】
本実施形態のネットワーク構造は、繰り返し単位(I)として、式(1)で表される3価の基のみを有してもよいし、その誘導体のみを有してもよいし、式(1)で表される3価の基とその誘導体との両方を有してもよい。
【0020】
繰り返し単位(II)は、置換又は無置換の2価の炭化水素基であれば特に限定されない。炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であってもよいし、芳香族炭化水素基であってもよい。脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、環状、またはこれらの組み合わせの2価の基であってよく、その炭素数は、例えば、1個以上、1~18個、又は3~8個であってよい。芳香族炭化水素基は、単環化合物由来の基であってもよく、縮合環化合物由来の基であってもよい。芳香族炭化水素基としては、例えば、電子求引性基として後述する2価の基が挙げられる。また、繰り返し単位(II)は、脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とから構成される2価の基であってもよい。また、置換基の例としては、ヒドロキシル基、アミノ基、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基等)、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、イオン性親水性基(カルボン酸塩、スルホン酸塩等)が挙げられる。
【0021】
ネットワーク構造において、繰り返し単位(I)と、繰り返し単位(II)とが交互に結合している場合、繰り返し単位(I)の式(1)において、結合位置*1~*3には、それぞれ、繰り返し単位(II)が結合している。このうち、少なくとも結合位置*1に結合する繰り返し単位(II)は、電子求引性基である。結合位置*1に電子求引性基が結合していると、後述するように、プレポリマーの加熱により、効率的にネットワークポリマーを製造できる。
【0022】
電子求引性基とは、水素原子と比較して、結合している原子側から電子を引きつけやすい置換基をいう。電子求引性基としては、芳香環を含む2価の基が挙げられ、芳香環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環が挙げられる。芳香環は、アルキル基、エステル基、ハロゲン原子等により置換された芳香環であってもよい。また、電子求引性基は、置換基を有する2価の脂肪族炭化水素基であってもよく、置換基としては、エステル基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、アミド基等が挙げられる。好ましい例として、以下の式(2-1)~(2-3)で表される2価の基が挙げられる。式(2-1)~(2-3)において、*は結合位置を表す。
【0023】
【0024】
式(1)において、結合位置*2及び*3に結合する繰り返し単位(II)は特に限定されず、電子求引性基であってもよいし、電子求引性基でなくてもよく、電子供与性基であってもよい。また、本実施形態のネットワーク構造は、繰り返し単位(II)として、1種類のみを有してもよいし、複数種類を有してもよい。しかし、原料の種類を最小限として原料管理の手間を省く観点からは、ネットワーク構造を構成する繰り返し単位(II)は、一種類の電子求引性基であることが好ましく、芳香環(例えば、ベンゼン環)を含む2価の基がより好ましい。この場合、繰り返し単位(I)の式(1)の結合位置*1~*3には、全て同じ種類の繰り返し単位(II)が結合する。そして、繰り返し単位(II)が、芳香環を含む剛直の構造で構成されることで、ネットワークポリマーの耐熱性、機械強度、耐薬品性が更に高まる。
【0025】
本実施形態のネットワークポリマーは、好ましくは、繰り返し単位(I)として式(1)で表される3価の基を有し、繰り返し単位(II)として、1種類の電子求引性基を有する。即ち、本実施形態のネットワークポリマーは、好ましくは、下記式(3)で表される繰り返し単位(III)により構成されるネットワーク構造を有する。式(3)において、R1は、置換又は無置換の2価の炭化水素基であり、且つ電子求引性基であり、*31~*33はそれぞれ結合位置を表す。電子求引性基としては、繰り返し単位(II)として説明した形態が挙げられ、好適態様も同様である。
【0026】
【0027】
繰り返し単位(III)により構成されるネットワーク構造では、1つの繰り返し単位(III)の結合位置*32に、別の繰り返し単位(III)の結合位置*31が結合する。また、1つの繰り返し単位(III)の結合位置*33に、更に別の繰り返し単位(III)の結合位置*31が結合する。即ち、繰り返し単位(III)により構成されるネットワーク構造は、下記式(4)で表される構造を有する。式(4)において、*は結合位置を表し、R1は式(3)において説明したものと同様である。
【0028】
【0029】
本実施形態で用いるネットワークポリマーの有するネットワーク構造は、繰り返し単位(I)及び(II)のみから構成されてもよいし、本発明の効果を奏する範囲において、他の官能基を含有してもよい。但し、ネットワーク構造の主構成単位は繰り返し単位(I)及び(II)であることが好ましい。
【0030】
本実施形態のネットワークポリマーの分子量は、特に限定されないが、例えば、重量平均分子量が、1000~100000であってよい。
【0031】
ネットワークポリマーは、架橋点として、繰り返し単位(I)(イミダゾリン構造)を多く含むネットワーク構造を有することにより、高い耐熱性を有する。本実施形態のネットワークポリマーの5%重量減少温度(T5%)は、例えば、300℃~500℃、300℃~400℃、又は340~390℃であってよい。5%重量減少温度は、例えば、実施例において後述する評価方法により求められる。
【0032】
<ネットワークポリマーの製造方法>
図1に示すフローチャートに従い、本実施形態のネットワークポリマーの製造方法の一例について説明する。本実施形態の製造方法は、以下の工程S1及びS2を含む。
工程S1:プレポリマーの用意(アンモニアを用いた合成)、及び
工程S2:プレポリマーの加熱。
【0033】
アンモニアを原料として1ステップ(1バッチ)で合成できるプレポリマーを用い(工程S1)、このプレポリマーを加熱する(工程S2)というシンプルな方法により、本実施形態のネットワークポリマーは製造できる。このように、本実施形態のネットワークポリマーは、従来の窒素含有のポリマーとは異なり、窒素含有モノマーを経由する必要がないため、製造コスト及び製造時間を大幅に削減できる。
以下に、各工程の詳細について説明する。
【0034】
工程S1:
本実施形態で用いるプレポリマーは、下記式(5)で示される、N,N’-メチレンジイミン誘導体である、3価の繰り返し単位(V)を架橋点とするネットワークポリマー(ネットワークポリイミン)である。より詳細には、プレポリマーは、置換又は無置換の2価の炭化水素基である繰り返し単位(II)と、式(5)で表される繰り返し単位(V)とを含むネットワーク構造を有する。式(5)において、*51~*53はそれぞれ結合位置を表し、3個の結合位置*51~*53のうち、少なくとも結合位置*51に結合する繰り返し単位(II)は電子求引性基である。また、繰り返し単位(II)と繰り返し単位(V)とは交互に結合することが好ましい。
【化6】
【0035】
繰り返し単位(II)としては、上述した形態が挙げられ、好適態様も同様である。プレポリマーでは、製造目的物であるネットワークポリマー(イミダゾリンポリマー)の有する繰り返し単位(II)と同じ構造の繰り返し単位(II)を選択する。
【0036】
本実施形態で用いるプレポリマーの有するネットワーク構造は、繰り返し単位(II)及び(V)のみから構成されてもよいし、本発明の効果を奏する範囲において、他の官能基を含有してもよい。例えば、ネットワーク構造の主構成単位は繰り返し単位(II)及び(V)であるが、更に、繰り返し単位(I)のイミダゾリン構造を有してもよい。
【0037】
上述した、繰り返し単位(III)により構成されるネットワーク構造を有するネットワークポリマーは、下記式(6)で表される繰り返し構造(VI)を有するプレポリマーを加熱することにより製造できる。式(6)において、R1は、置換又は無置換の2価の炭化水素基であり、且つ電子求引性基であり、*61~*63はそれぞれ結合位置を表す。電子求引性基としては、上述形態が挙げられ、好適態様も同様である。製造目的物であるネットワークポリマーの有する電子求引性基(R1)と同じ構造の電子求引性基(R1)を選択する。
【0038】
【0039】
本実施形態のプレポリマーは、ジアルデヒドと、アンモニアとを反応させることで合成できる。ジアルデヒドは、プレポリマーを構成する繰り返し単位(II)である、置換又は無置換の2価の炭化水素基と2個のアルデヒド基とが結合した化合物である。例えば、まず、ジアルデヒドを溶媒に溶解させ、そこに、同溶媒に溶解させたアンモニアを加えて反応液を調製する。反応液を所定時間攪拌して反応させると、生成物であるプレポリマーが得られる。プレポリマーの合成を説明する式(7)を以下に示す。式(7)において、Rは繰り返し単位(II)を示す。このように、プレポリマーはアンモニアを用いて、1バッチの非常にシンプルな工程で合成できる。尚、原料のアンモニアは、気体状態のみならず、反応液(溶媒)に溶解した状態、アンモニウムイオン、及びアンモニウム塩等をアンモニア源として用いてよい。
【0040】
【0041】
反応条件(合成条件)等は、特に限定されず、適宜調整可能であるが、反応を促進する観点から以下の範囲に調整してもよい。反応液の溶媒としては、水、メタノール、エタノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、2-イソプロパノール等のプロトン性溶媒が挙げられる。反応液中のジアルデヒドの濃度は、10mM~1M(M=mol/L)、又は50mM~0.5Mとしてよく、アンモニア濃度は、20mM~2M、又は100mM~1Mとしてよい。反応温度は、25℃~180℃、又は25℃~100℃としてよく、反応時間は、1時間~12時間としてよい。
【0042】
尚、反応温度(合成温度)を比較的高くした場合(例えば、100~180℃)、繰り返し単位(V)(N,N’-メチレンジイミン誘導体)の一部において分子内環化が生じ、繰り返し単位(I)のイミダゾリン構造となる場合がある。この場合、プレポリマーは、繰り返し単位(I)、(II)及び(V)を有するネットワーク構造を有する。ネットワーク構造では、繰り返し単位(I)及び(V)のどちらか一方と、繰り返し単位(II)とか交互に結合していることが好ましい。反応温度を高くすることで、未反応アルデヒド成分を低減することができる。尚、反応温度を高くする場合、アンモニアの揮発を抑制するために反応容器内の圧力を窒素等の不活性ガスにより高め、加圧条件下(例えば、2.2atm以上)で合成することが好ましい。
【0043】
合成したプレポリマーに対しては、合成反応後、必要に応じて汎用の方法により、再沈殿、濾過、洗浄、乾燥等を行ってよい。
【0044】
工程S2:
次に、プレポリマーを加熱する。これによりプレポリマー内で分子内環化が起き、式(1)で表されるイミダゾリン構造(繰り返し単位(I))が形成され、本実施形態のネットワークポリマーが得られる。プレポリマーは、N,N’-メチレンジイミン誘導体構造(式(5)で表される3価の基)における2つの窒素に挟まれた中央の炭素(結合位置*51)に電子求引性基が結合している。このため、中央炭素の電子密度が高まり(酸性度が上がり)、これにより、分子内環化が促進されると推測される。
【0045】
ネットワークポリマーの合成を説明する式(8)を以下に示す。式(8)において、Rは繰り返し単位(II)を示す。このように、本実施形態のネットワークポリマー(イミダゾリンポリマー)はプレポリマー(ポリイミン)の加熱処理というシンプルな方法により製造可能である。
【0046】
【0047】
プレポリマーの加熱処理温度、及び/又は加熱処理時間は特に限定されないが、例えば、160~190℃の温度で、8~12時間、加熱処理してもよい。これらを調整することにより、ネットワークポリマーの繰り返し単位(I)の構造を調整してもよい。
【0048】
尚、上述した本実施形態のネットワークポリマーの製造方法では、プレポリマーを合成したが、本実施形態はこれに限定されない。例えば、自家合成せずに、合成されているプレポリマーを入手し、それを加熱処理してネットワークポリマーを製造してもよい。
【0049】
以上説明した本実施形態のネットワークポリマー(イミダゾリンポリマー)は、製造コスト及び製造時間を削減できると共に、高い耐熱性、機械強度、及び耐薬品性を有する。これにより、接着剤、ゴミ袋、塗料、建材、医療機器、固体燃料等、様々な用途への応用が期待できる。
【0050】
[第2実施形態]
本実施形態のネットワークポリマー(ネットワークポリイミン)は、上述した第1実施形態のプレポリマーであり、その好適態様も同様である。即ち、本実施形態のネットワークポリマーは、置換又は無置換の2価の炭化水素基である繰り返し単位(II)と、下記式(5)で表される繰り返し単位(V)とを含むネットワーク構造を有する。式(5)において、*51~*53はそれぞれ結合位置を表し、3個の結合位置*51~*53のうち、少なくとも結合位置*51に結合する繰り返し単位(II)は電子求引性基である。
【化10】
【0051】
本実施形態のネットワークポリマーは、アンモニアを原料として1ステップ(1バッチ)で合成できる。従来の窒素含有のポリマーとは異なり、窒素含有モノマーを経由する必要がないため、製造コスト及び製造時間を大幅に削減できる。
【0052】
また、本実施形態のネットワークポリマー(ネットワークポリイミン)は、第1実施形態のネットワークポリマー(イミダゾリンポリマー)と比較すると、耐熱性等がやや低い傾向にある。しかし、N,N’-メチレンジイミン誘導体である架橋点(3価の繰り返し単位(V))を多く持つネットワーク構造により、一般的なポリマーと比較すれば、十分に高い耐熱性、及び機械強度を有する。特に、繰り返し単位(II)が、芳香環を含む剛直の構造で構成される場合、ネットワークポリマーの耐熱性及び機械強度が更に高まる。
【0053】
更に、本実施形態のネットワークポリマーは、分解性を有する。本明細書において、分解性とは、化学的反応により、モノマー、又はオリゴマーに分解可能な性質を意味する。分解性を有する本実施形態のネットワークポリマーは、ケミカルリサイクルが期待できる。ケミカルリサイクルとは、ポリマーを化学的反応により分解して次の用途に用いるリサイクル方法である。上記式(8)で説明される、第1の実施形態のネットワークポリマーの合成反応(分子内環化)は不可逆反応であるため、第1の実施形態のネットワークポリマーはケミカルリサイクルをすることができない。一方、本実施形態のネットワークポリマー(第1の実施形態のプレポリマー)は、例えば、酸性の分解液により分解し、ケミカルリサイクルが可能となる。本実施形態のネットワークポリマーは、酸性下におくことで、上述した式(7)の逆反応が生じ、原料のアルデヒド及びアンモニア(酸性液中のアンモニアイオン)に分解できる。尚、本実施形態のネットワークポリマーは、強酸条件下(例えば、pH2以下)で分解性を示すことが好ましい。これにより、一般的な用途では使用中に分解せず、安定に存在することができる。
【0054】
ネットワークポリマーの分解処理の条件等は、特に限定されず、適宜調整可能であるが、分解反応を促進する観点から以下の範囲に調整してもよい。分解液は、無機酸(無機酸の水溶液)を含むことが好ましく、無機酸としては、塩酸、硫酸等が挙げられる。これらの無機酸は1種類のみを単独で用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。無機酸の濃度は、0.1N~1N、又は0.1N~0.3Nとしてよい。分解液は更に、メタノール、エタノール、アセトン、アセトニトリル、ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等の有機溶媒を含有してよく、分解反応促進の観点から、アセトニトリルを含むことが好ましい。これらの有機溶媒は1種類のみを単独で用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。
【0055】
本実施形態のネットワークポリマーは、第1の実施形態で説明したプレポリマーと同様の製造方法により製造でき、好適形態も同様である。しかし、反応温度(合成温度)を比較的高くした場合(例えば、120~180℃)、繰り返し単位(V)(N,N’-メチレンジイミン誘導体)の一部において分子内環化が生じ、繰り返し単位(I)のイミダゾリン構造となる場合がある。分子内環化が生じた部分は分解しないため、その分、ネットワークポリマーの分解性が低下する。したがって、分解性を高める観点からは、分子内環化を抑制するために、反応温度は、20~90℃、又は20℃~60℃が好ましい。
【0056】
以上説明した本実施形態のネットワークポリマー(ポリイミン)は、製造コスト及び製造時間を削減できると共に、高い耐熱性、及び機械強度を有する。これにより、第1の実施形態のネットワークポリマーのプレポリマー以外にも、例えば、接着剤、ゴミ袋、塗料、建材、医療機器、固体燃料等、様々な用途への応用が期待できる。
【実施例0057】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0058】
<プレポリマー(ネットワークポリイミン)の合成>
[実験1-1]
ヤング管に、ジアルデヒド(
図2に示す式(a1)で表される化合物(テレフタルアルデヒド):6mmol)を入れ、窒素置換した。エタノール(5mL)を加えて溶解させたあと、2mMアンモニアエタノール溶液(10mL)を加えて、常温常圧(反応温度:室温)において、12時間撹拌したところ、生成物の粉末が得られた。これを濾過し、エタノールで洗浄して100℃で一晩乾燥させた。収率は、98%であった。
【0059】
[実験1-2]
反応温度を100℃に変え、アンモニアの揮発を防ぐために、ヤング管を用いた加圧条件(窒素ガス、2.2atm)とした以外は、実験1-1と同様の方法によりプレポリマーを合成した。
【0060】
[実験2-1]
ジアルデヒドとして、式(a1)で表される化合物に代えて、
図2に示す式(a2)で表される化合物(イソフタルアルデヒド)を用いた以外、実験1-1と同様の方法によりプレポリマーを合成した。収率は、94%であった。
【0061】
[実験2-2]
反応温度を100℃に変え、アンモニアの揮発を防ぐために、ヤング管を用いた加圧条件(窒素ガス、2.2atm)とした以外は、実験2-1と同様の方法によりプレポリマーを合成した。
[実験3-1]
ジアルデヒドとして、式(a1)で表される化合物に代えて、
図2に示す式(a3)で表される化合物(ビス(4-ホルミルフェニル)エーテル)を用いた以外、実験1-1と同様の方法によりプレポリマーを合成した。収率は、93%であった。
【0062】
[実験3-2]
反応温度を100℃に変え、アンモニアの揮発を防ぐために、ヤング管を用いた加圧条件(窒素ガス、2.2atm)とした以外は、実験3-1と同様の方法によりプレポリマーを合成した。
【0063】
<プレポリマーの構造解析>
実験1-1~3-2で合成したプレポリマーはいずれも有機溶媒に溶けなかったため、固体分析による構造の同定を試みた。以下の構造解析結果から、実験1-1~3-2では、下記式(7)で説明される反応が生じ、プレポリマーが合成されたことが確認できた。式(7)において、Rは繰り返し単位(II)を示す。
【0064】
【0065】
(1)赤外分光分析
フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光株式会社(JASCO)製、FT/IR6100)を用いて合成したプレポリマーの赤外分光分析(IR)スペクトルを測定した。測定は、ATR法を用いた。MCT検出器を用い、液体窒素で冷却しながら、600~4000cm-1の測定範囲で分析を行った。
【0066】
実験1-1、2-1及び3-1(反応温度:室温(rt))のプレポリマーのIRスペクトルを
図3A及び
図3Bに示す。比較のため、式(b)で表される低分子化合物のIRスペクトルも併せて
図3Bに示す。
【0067】
アルデヒドおよびイミンは二重結合を持っており、IR伸縮振動をもって比較するとわかりやすい。一般に、芳香族アルデヒドのC=O伸縮振動は、1685-1710cm-1に強いシグナルを、イミンのC=N伸縮振動は1640-1680cm-1に中程度のシグナルを持つとされている。合成したプレポリマーにおいては、1630cm-1付近に特徴的なメタンジアミンのC=N伸縮振動のピークが見られ、ポリイミンの生成が示唆された。なお、1700cm-1付近にアルデヒド由来のC=O伸縮振動のピークが存在しており、一部の末端がアルデヒドのまま残っていることが示唆された。
【0068】
実験1-1(反応温度:rt)、及び実験1-2(反応温度:100℃)のプレポリマーのIRスペクトルを
図3A及び
図3Bに示す。比較のため、式(b)で表される低分子化合物のIRスペクトルも併せて
図3Bに示す。実験1-1(反応温度:rt)と比較して、実験1-2(反応温度:100℃)は、反応温度を高くしたことにより、末端アルデヒドの反応が進み、アルデヒド残渣のピークは減少した。一方で、1604cm
-1にピークが見られるようになった。このピークは、イミダゾリン構造のC=N二重結合伸縮振動のピークと見られる。この結果から、実験1-2(反応温度:100℃)では、繰り返し単位(V)(N,N’-メチレンジイミン誘導体)の一部において分子内環化が生じ、繰り返し単位(I)のイミダゾリン構造が生成したと推測される。
【0069】
(2)
13C固体NMR測定
核磁気共鳴装置(日本電子株式会社(JEOL)製、JNM ECA 500)を用いて、実験1-1(反応温度:rt)で合成したプレポリマーの
13C固体NMR測定を行った。測定条件を、周波数500MHz、MASの回転数15kHz、コンタクトタイム2msecとし、CP-MAS法、及びDD-MAS法による測定を行った。サンプルの形状は粉末で、全て室温で測定した。結果を
図4に示す。
【0070】
NMRスペクトルからは、120~140ppmに見られる芳香族ピークと、160~170ppmに見られるイミンのピークが確認された。76ppmに見られるピークはメタンジアミンの中央炭素ピークと思われる。このピークの化学シフトは直接結合する芳香族上の置換基によって大きく依存し、電子求引性のイミンがパラ位に結合することで高磁場側にシフトしたものと考えられる。
【0071】
<ネットワークポリマー(イミダゾリンポリマー)の合成>
次に、実験1-1~3-2で合成したプレポリマー(ネットワークポリイミン)に対して、175℃で加熱処理を施した。加熱処理により、試料は、黄色(加熱前)から橙色(加熱後)に変色した。これはプレポリマー分子内で、下記式(8)に示す環化反応が生じ、イミダゾリン骨格のネットワークポリマーができたことを示している。式(8)において、Rは繰り返し単位(II)を示す。
【0072】
【0073】
<ネットワークポリマーの構造解析>
上述したプレポリマー(ポリイミン)と同様の方法により、ネットワークポリマー(加熱処理後、環化後)の赤外分光分析(IR)スペクトルを測定した。結果を
図5A及び
図5Bに示す。比較のため、プレポリマー(加熱処理前、環化前)のIRスペクトルも
図5A及び
図5Bに示す。
【0074】
1500~1700cm-1のC=N二重結合に注目すると、1633cm-1のピークが加熱により減少し、代わりに1605cm-1のピークが増加していることがわかる。このピークシフトは、加熱により分子内環化が生じ、イミダゾリンポリマーが生成したことを示している。
【0075】
<ネットワークポリマー(イミダゾリンポリマー)熱物性評価>
実験1-1、2-1及び3-1、それぞれのプレポリマーから得られたネットワークポリマー(イミダゾリンポリマー)の熱物性の測定を行った。
まず、示差熱熱重量同時測定装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製、TG/DTA7300)を用いて、TG-DTA測定により、熱分解温度T
5%を求めた。大気下条件(N
2:O
2=4:1)で、Ptパンを用い、20~1000℃まで測定した。測定結果(Tg及びDTG)を
図6A、
図7A及び
図8Aに示す。
5%重量減少温度T
5%は、熱重量測定を行った場合に、熱重量測定前の試料の重量に対して、5%の重量が分解した温度と定義して求めた。結果を
図9に示す。
【0076】
次に、示差走査熱量計(株式会社島津製作所製、DSC 60 Plus)を用いて、示差熱分析(DSC)によってガラス転移温度Tgを測定した。測定範囲は-50℃~300℃、昇温速度は10℃/minとし、窒素雰囲気下で2サイクルの温度プログラムを実施し、2サイクル目の昇温過程について、熱量を測定した。結果を
図6B、
図7B及び
図8Bに示す。
【0077】
いずれのイミダゾリンポリマーも似たような挙動を示した。分解温度T5%は340~390℃辺りにあり、DSC測定ではTgが観測されなかった。ネットワークポリマーではTgが見られない(Tgが熱分解温度より高い)ことがよくあり、この系に関しても同様だと考えられる。一般的な熱硬化性樹脂の耐熱温度と照らし合わせると、この系の耐熱温度はフェノール樹脂(340~380℃)と同等であり、非常に良い耐熱性を持つことがわかった。
【0078】
<プレポリマーの分解性評価>
実験1-1で合成したプレポリマー(テレフタルアルデヒドを原料とするネットワークポリイミン)について、分解性評価を行った。まず、プレポリマー25mgに対して、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)5mL及び1M塩酸1mLを加えて撹拌した。プレポリマーは、酸性の分解液(DMF+HCl)に30分ほどで溶解し、黄色溶液となった。更に70℃で12時間放置すると溶液は無色になった。溶媒を窒素吹き付けにより蒸発させ、白色固体を得た。
【0079】
次に、得られた白色固体について、フーリエ変換核磁気共鳴装置(日本電子株式会社(JEOL)製、JNM-AL400S)用い、
1H-NMR測定を行った。周波数は400MHzとし、溶媒として重ジメチルスルホキシド(DMSO)を用い、室温で測定した。化学シフトはテトラメチルシラン(0ppm)を基準とした。結果を
図10に示す。
【0080】
図10に示すように、NMRスペクトルには、原料のテレフタルアルデヒド及びアンモニウムイオン(塩化アンモニウム)のピークが見られ、原料への分解が確認できた。最後に固体を水で洗浄し、100℃で一晩乾燥し、白色固体を得た。分解収率は、92%であった。
また、実験2-1及び3-1で合成したプレポリマーについても、同様の実験を行い、酸性下での同様の分解性を確認した。尚、熱処理後のイミダゾリンポリマー、3種類についても同様の分解性評価を行ったが、いずれも分解性を示さなかった。
【0081】
更に、以下に説明する評価により、プレポリマーの分解性と、分解液の組成との関係性を調査した。実験1-1で合成したポリマー25mgと、濃塩酸(12M)及び希塩酸(1M、0.1M、0.01M)それぞれ5mLとを混ぜあわせ、3日間室温で撹拌した。
図11Aに、混合直後の写真(0h)と、3日後の写真(72h)を示す。
図11Aから、濃塩酸(12M)でのみポリマーが分解し、溶液となったことがわかる。しかし、溶液は無色とはならず、やや黄色味があり、オリゴマーまでの分解度と推測される。その他の濃度での分解は確認されなかった。
【0082】
次に、分解液として、1M塩酸1mLと、6種類の有機溶媒(メタノール、エタノール、アセトン、アセトニトリル、ジオキサン、DMF)それぞれ5mLとを混合して調製し、これに実験1-1で合成したプレポリマーを混合し、同様に3日間室温で撹拌した。
図11Bに、混合直後の写真(0h)、1時間後の写真(1h)、3日後の写真(72h)を示す。
図11Bから、いずれの分解液においてもポリマーが分解され、溶液を得られたことがわかる。メタノール、エタノール、アセトニトリル、ジオキサンにおいては無色溶液となり、モノマーまでの分解が起こったと考えられる。特にアセトニトリルは1時間ほどで無色溶液となり、分解速度が速かった。
以上の結果から、分解液は、塩酸(無機酸の水溶液)に加えて、モノマーが安定して存在できる有機溶媒を含有する方が効率的にポリマーを分解可能なことが確認できた。
以上説明した本実施形態のネットワークポリマーは、製造コスト及び製造時間を削減できると共に、高い耐熱性、機械強度、及び耐薬品性を有する。これにより、接着剤、ゴミ袋、塗料、建材、医療機器、固体燃料等、様々な用途への応用が期待できる。