(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089100
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】コーティング材、熱硬化型樹脂組成物及び積層体
(51)【国際特許分類】
C09D 133/00 20060101AFI20240626BHJP
C09D 133/14 20060101ALI20240626BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20240626BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240626BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D133/14
C09D175/04
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204262
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】岩嵜 拓也
(72)【発明者】
【氏名】望月 克信
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG051
4J038CH121
4J038DG191
4J038DG281
4J038DG301
4J038GA03
4J038JA32
4J038KA03
4J038KA06
4J038MA07
4J038NA01
4J038NA03
4J038NA12
4J038PA19
4J038PB07
4J038PB09
4J038PC02
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】耐候性、密着性及び塗膜外観に優れる塗膜を得ることができるコーティング材を提供すること。
【解決手段】重量平均分子量が200,000以上800,000以下であり、かつ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定による検出ピークの総面積に対する、分子量50,000未満のピーク面積の割合が20%以下である水酸基含有(メタ)アクリル系重合体を含むコーティング材とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が200,000以上800,000以下であり、かつ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定による検出ピークの総面積に対する、分子量50,000未満のピーク面積の割合が20%以下である水酸基含有(メタ)アクリル系重合体を含む、コーティング材。
【請求項2】
前記水酸基含有(メタ)アクリル系重合体は、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構造単位を、前記水酸基含有(メタ)アクリル系重合体の全構造単位に対し、5~75質量%含む、請求項1に記載のコーティング材。
【請求項3】
前記水酸基含有(メタ)アクリル系重合体の総量に対する、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有量が10.0質量%以下である、請求項1に記載のコーティング材。
【請求項4】
前記水酸基含有(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度が、0℃以上80℃以下である、請求項1に記載のコーティング材。
【請求項5】
前記水酸基含有(メタ)アクリル系重合体の水酸基価が、20mgKOH/g以上270mgKOH/g以下である、請求項1に記載のコーティング材。
【請求項6】
更に溶剤を含む、請求項1に記載のコーティング材。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のコーティング材と、イソシアネート化合物とを含有する、熱硬化型樹脂組成物。
【請求項8】
前記イソシアネート化合物は、ブロックイソシアネート化合物を含む、請求項7に記載の熱硬化型樹脂組成物。
【請求項9】
基材と、請求項7に記載の熱硬化型樹脂組成物により前記基材の一方又は両方の表面に形成された塗膜と、を備える、積層体。
【請求項10】
前記基材における前記塗膜との接触面が、前記塗膜を剥離可能な離型性を有する、請求項9に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング材、熱硬化型樹脂組成物及び積層体に関し、より詳しくは、(メタ)アクリル系重合体を用いて塗膜を形成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や家電等の各種製品においては、耐候性や耐擦り傷性、耐摩擦性、耐水性、耐有機溶剤性、硬さ等の様々な性能を付与することによって表面を保護したり、製品に意匠性を付与したりするために表面塗装が用いられている。また、表面塗装において製品の表面を被覆する塗膜の材料としてアクリル樹脂を用いることが従来行われている(例えば、特許文献1や特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1には、水酸基価60~200KOHmg/gのアクリルポリオールを含む樹脂成分、ブロックイソシアネートを必須成分としてメラミン樹脂を含有することがある架橋剤、及び少なくともジブチル錫のジカルボン酸塩からなるブロックイソシアネート解離触媒を含む一液低温硬化型クリヤー塗料について開示されている。また、特許文献2には、水酸基、カルボキシル基又はアルコキシシラン基のうち1種以上の架橋性官能基を含み、ガラス転移点が30~90℃であり、数平均分子量が3000~50000であるアクリル樹脂と、このアクリル樹脂を架橋硬化させるブロックイソシアネート樹脂及びアミノ樹脂よりなる架橋硬化樹脂と、樹脂ビーズとを含む熱硬化性樹脂組成物によりクリヤ塗装膜を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-101995号公報
【特許文献2】特開2011-224975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
塗膜には一般に、用途等に応じた複数の性能を備えていることが求められる。例えば、自動車の内装品や外装品等の表面塗装において、塗膜には、耐候性や塗装面との密着性、美しい外観等といった複数の性能を同時に満足することが求められる。特に近年では、気候変動による環境の変化や消費者の意識向上等の観点から、より厳しい基準を満たすことが求められており、これらの性能において従来にも増して優れる塗膜を開発することが望まれる。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、耐候性、密着性及び塗膜外観に優れる塗膜を得ることができるコーティング材及び熱硬化型樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討し、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体を用いるとともに、その分子量特性に着目することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明によれば以下の手段が提供される。
【0008】
〔1〕 重量平均分子量が200,000以上800,000以下であり、かつ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定による検出ピークの総面積に対する、分子量50,000未満のピーク面積の割合が20%以下である水酸基含有(メタ)アクリル系重合体を含む、コーティング材。
〔2〕 前記水酸基含有(メタ)アクリル系重合体は、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構造単位を、前記水酸基含有(メタ)アクリル系重合体の全構造単位に対し、5~75質量%含む、〔1〕に記載のコーティング材。
〔3〕 前記水酸基含有(メタ)アクリル系重合体の総量に対する、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有量が10.0質量%以下である、〔1〕又は〔2〕に記載のコーティング材。
〔4〕 前記水酸基含有(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度が、0℃以上80℃以下である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のコーティング材。
〔5〕 前記水酸基含有(メタ)アクリル系重合体の水酸基価が、20mgKOH/g以上270mgKOH/g以下である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のコーティング材。
〔6〕 更に溶剤を含む、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のコーティング材。
〔7〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のコーティング材と、イソシアネート化合物とを含有する、熱硬化型樹脂組成物。
〔8〕 前記イソシアネート化合物は、ブロックイソシアネート化合物を含む、〔7〕に記載の熱硬化型樹脂組成物。
〔9〕 基材と、〔7〕に記載の熱硬化型樹脂組成物により前記基材の一方又は両方の表面に形成された塗膜と、を備える、積層体。
〔10〕 前記基材における前記塗膜との接触面が、前記塗膜を剥離可能な離型性を有する、〔9〕に記載の積層体。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコーティング材及び熱硬化型樹脂組成物によれば、耐候性、密着性及び塗膜外観に優れる塗膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳しく説明する。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリロ」とは、アクリロ及び/又はメタクリロを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
【0011】
≪コーティング材≫
本発明のコーティング材(以下、「本コーティング材」ともいう)は、成形体の表面を被覆してその表面を保護したり加飾したりする塗膜を形成するために使用される。本コーティング材は、重量平均分子量が200,000以上800,000以下である水酸基含有(メタ)アクリル系重合体(以下、単に「水酸基含有(メタ)アクリル系重合体」ともいう)を含む。
【0012】
<水酸基含有(メタ)アクリル系重合体>
水酸基含有(メタ)アクリル系重合体は、(メタ)アクリル系単量体を主要構造単位とする重合体であり、水酸基を有する。水酸基含有(メタ)アクリル系重合体は、その全構造単位のうち、(メタ)アクリル系単量体に由来する構造単位を70質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、85質量%以上含むことが更に好ましく、90質量%以上含むことがより更に好ましく、95質量%以上含むことが一層好ましい。
【0013】
水酸基含有(メタ)アクリル系重合体は、重合体側鎖における水酸基量を調整しやすい点や、構成単量体の重合性に優れ、かつ水酸基含有(メタ)アクリル系重合体の製造が比較的容易である点において、水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構造単位を含むことが好ましい。水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体は、少なくとも1個の水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物であればよく、特に限定されない。水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル等が挙げられる。
【0014】
これらの具体例としては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルとして、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、及び(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等が挙げられる。
【0015】
ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの具体例としては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。ε-カプロラクトン変性(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの具体例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのε-カプロラクトン付加物、及び4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートのε-カプロラクトン付加物等が挙げられる。
【0016】
水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体は、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度を調整しやすい点や、塗膜外観を良好にできる点で、中でも(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルが好ましい。
【0017】
水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構造単位の割合は、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体を構成する全構造単位に対して、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上が更に好ましく、20質量%以上がより更に好ましい。水酸基含有(メタ)アクリル系重合体における水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構造単位の割合が上記範囲であると、塗膜の硬度をより向上させることができる。また、密着性により優れた塗膜を得る観点から、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構造単位の割合は、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体を構成する全構造単位に対して、75質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、65質量%以下が更に好ましい。なお、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体としては1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体を構成する各構造単位の割合は、ガスクロマトグラフ測定により各単量体の反応率を算出し、当該反応率に基づき算出される値である。
【0018】
水酸基含有(メタ)アクリル系重合体は、本発明の効果を損なわない範囲において、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体とは異なる単量体(以下、「その他の単量体」ともいう)に由来する構造単位を更に含んでいてもよい。その他の単量体としては、エチレン性不飽和単量体を好ましく用いることができ、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸の脂肪族環式エステル、(メタ)アクリル酸の芳香族エステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、不飽和カルボン酸、不飽和酸無水物、複素環構造を有するビニル化合物、アミノ基含有ビニル化合物、アミド基含有ビニル化合物、ニトリル基含有ビニル化合物、芳香族ビニル化合物、マレイミド化合物等が挙げられる。
【0019】
これらの具体例としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル及び(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。
【0020】
(メタ)アクリル酸の脂肪族環式エステルとしては、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸tert-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロドデシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル及び(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸の芳香族エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシメチル、(メタ)アクリル酸2-フェノキシエチル及び(メタ)アクリル酸3-フェノキシプロピル等が挙げられる。
【0021】
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸n-プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸n-ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-エトキシプロピル、(メタ)アクリル酸n-プロポキシプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブトキシプロピル、(メタ)アクリル酸メトキシブチル、(メタ)アクリル酸エトキシブチル、(メタ)アクリル酸n-プロポキシブチル及び(メタ)アクリル酸n-ブトキシブチル等が挙げられる。
【0022】
不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、桂皮酸、コハク酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ω-カルボキシ-カプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、4-カルボキシスチレン等が挙げられる。不飽和酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。
【0023】
複素環構造を有するビニル化合物としては、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等が挙げられる。
【0024】
アミノ基含有ビニル化合物としては、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸2-ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2-ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2-(ジ-n-プロピルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2-ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸2-ジエチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ジ-n-プロピルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸3-ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸3-ジエチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸3-(ジ-n-プロピルアミノ)プロピル等が挙げられる。
【0025】
アミド基含有ビニル化合物としては、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0026】
ニトリル基含有ビニル化合物としては、(メタ)アクリル酸シアノメチル、(メタ)アクリル酸1-シアノエチル、(メタ)アクリル酸2-シアノエチル、(メタ)アクリル酸1-シアノプロピル、(メタ)アクリル酸2-シアノプロピル、(メタ)アクリル酸3-シアノプロピル、(メタ)アクリル酸4-シアノブチル、(メタ)アクリル酸6-シアノヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチル-6-シアノヘキシル、(メタ)アクリル酸8-シアノオクチル、(メタ)アクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリル、α-イソプロピルアクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、α-フルオロアクリロニトリル等が挙げられる。
【0027】
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、ビニルキシレン、メチルスチレン、エチルスチレン、ブチルスチレン、メトキシスチレン、ヒドロキシスチレン、イソプロペニルフェノール、ビニル安息香酸、ビニルナフタレン等が挙げられる。
【0028】
マレイミド化合物としては、マレイミド及びN-置換マレイミド化合物が挙げられる。N-置換マレイミド化合物としては、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-n-プロピルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-n-ブチルマレイミド、N-イソブチルマレイミド、N-tert-ブチルマレイミド等のN-アルキル置換マレイミド;N-シクロペンチルマレイミド及びN-シクロヘキシルマレイミド等のN-シクロアルキル置換マレイミド;N-ベンジルマレイミド等のN-アラルキル置換マレイミド;N-フェニルマレイミド、N-(4-ヒドロキシフェニル)マレイミド、N-(4-アセチルフェニル)マレイミド、N-(4-メトキシフェニル)マレイミド等のN-アリール置換マレイミドが挙げられる。なお、その他の単量体としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
その他の単量体は、耐候性、密着性及び硬度により優れた塗膜を得る観点から、上記の
うち、(メタ)アクリル酸エステル単量体が好ましい。中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸の脂肪族環式エステル、及び(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルよりなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び(メタ)アクリル酸の脂肪族環式エステルよりなる群から選択される少なくとも1種がより好ましく、炭素数1~12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び炭素数3~12の脂肪族環を有する(メタ)アクリル酸の脂肪族環式エステルよりなる群から選択される少なくとも1種が更に好ましく、炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより更に好ましい。
【0030】
水酸基含有(メタ)アクリル系重合体が、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体とその他の単量体との共重合体である場合、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体及びグラフト共重合体等のいずれであってもよい。重合体の分子量制御がしやすい点で、好ましくはランダム共重合体である。
【0031】
・分子量特性について
水酸基含有(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量(Mw)は、200,000以上800,000以下である。水酸基含有(メタ)アクリル系重合体のMwが200,000未満であると、塗膜の耐候性及び密着性が十分でなく、また800,000を超えると、塗膜外観に劣る傾向がある。これらの観点から、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体のMwは、210,000以上であることが好ましく、220,000以上であることがより好ましい。水酸基含有(メタ)アクリル系重合体のMwの上限については、700,000以下であることが好ましく、600,000以下であることがより好ましく、500,000以下であることが更に好ましく、400,000以下であることがより更に好ましい。なお、本明細書において、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」ともいう)を用いて得られる標準ポリスチレン換算値である。
【0032】
水酸基含有(メタ)アクリル系重合体につき、Mwと数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、良好な耐候性を示す塗膜が得られやすい点において、8.0以下が好ましく、6.0以下がより好ましく、5.0以下が更に好ましく、4.0以下がより更に好ましい。水酸基含有(メタ)アクリル系重合体のMw/Mnの下限は特に限定されず、1.0以上であればよい。
【0033】
水酸基含有(メタ)アクリル系重合体は、GPC測定による検出ピークの総面積に対する、分子量50,000未満のピーク面積の割合(以下、「分子量50,000未満含有率」ともいう)が20%以下である。分子量50,000未満含有率が20%未満であると、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体を用いて得られる塗膜の耐候性が十分でない傾向がある。耐候性に優れた塗膜を得る観点から、分子量50,000未満含有率は、18%以下であることが好ましく、16%以下であることがより好ましく、15%以下であることが更に好ましく、13%以下であることがより更に好ましく、10%以下であることが一層好ましい。分子量50,000未満含有率の下限については0%以上であればよく、例えば0.1%以上であってもよい。なお、本明細書において、分子量50,000未満含有率は、GPC測定により得られる積分分子量分布より算出される値である。
【0034】
・水酸基価について
水酸基含有(メタ)アクリル系重合体の水酸基価は、20mgKOH/g以上270mgKOH/g以下であることが好ましい。水酸基含有(メタ)アクリル系重合体の水酸基価が20mgKOH/g以上であると、硬度がより高い塗膜を得ることができ、270mgKOH/g以下であると、密着性が更に向上された塗膜を得ることができる。これらの観点から、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体の水酸基価は、30mgKOH/g以上がより好ましく、40mgKOH/g以上が更に好ましく、50mgKOH/g以上がより更に好ましく、60mgKOH/g以上が一層好ましく、70mgKOH/g以上がより一層好ましい。水酸基含有(メタ)アクリル系重合体の水酸基価の上限については、250mgKOH/g以下がより好ましく、240mgKOH/g以下が更に好ましく、230mgKOH/g以下がより更に好ましく、220mgKOH/g以下が一層好ましい。なお、本明細書において「水酸基価」は、JIS K1557-1における水酸基価の測定(ピリジン-無水酢酸法)に準じて測定される値である。測定条件の詳細は、後述する実施例に記載の方法に従う。
【0035】
・ガラス転移温度(Tg)について
水酸基含有(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度(Tg)は、0℃以上80℃以下であることが好ましい。水酸基含有(メタ)アクリル系重合体のTgが0℃以上であると、塗膜の硬度をより向上させることができ、80℃以下であると、塗膜外観により優れた塗膜を得ることができる。これらの観点から、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体のTgは、より好ましくは10℃以上であり、更に好ましくは20℃以上であり、より更に好ましくは30℃以上である。水酸基含有(メタ)アクリル系重合体のTgの上限については、より好ましくは70℃以下であり、更に好ましくは60℃以下であり、より更に好ましくは50℃以下である。なお、本明細書において、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体のTgは、示差走査熱量測定計を用いて得られる熱流束曲線のベースラインと変曲点での接点との交点から決定される値である。測定条件の詳細は、後述する実施例に記載の方法に従う。
【0036】
・重合方法
水酸基含有(メタ)アクリル系重合体を製造するための重合方法は特段制限されるものではない。水酸基含有(メタ)アクリル系重合体は、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法、塊状重合等の公知のラジカル重合方法を採用して、単量体を重合することにより得ることができる。溶液重合法による場合、例えば、有機溶媒及び単量体を反応器に仕込み、重合開始剤(例えばアゾ化合物)を添加して、40~250℃に加熱して重合することにより、目的とする重合体を得ることができる。また、重合反応により得られた水酸基含有(メタ)アクリル系重合体に対し、単離及び/又は精製の処理を行ってもよい。これらの処理としては公知の方法を適宜採用することができる。
【0037】
Mwが200,000以上800,000以下であり、かつ分子量50,000未満含有率が20%以下の水酸基含有(メタ)アクリル系重合体を得るには、例えば、単量体や重合開始剤を反応器内に添加する時期や回数、1回の添加あたりの添加量等を調整したり、重合時間を比較的長くしたりすることによって行うことができる。より具体的には、重合開始剤及び/又は単量体を反応器内に比較的長い時間をかけて連続的に供給したり、重合開始剤及び/又は単量体を反応器内に複数回に分けて添加しつつ比較的長い時間をかけて重合したり、あるいはこれらを組み合わせることにより行うことができる。
【0038】
本コーティング材は、上述した水酸基含有(メタ)アクリル系重合体からなるものであってもよく、例えば酸化防止剤や紫外線吸収剤、顔料等の任意の添加剤を水酸基含有(メタ)アクリル系重合体と共に含んでいてもよい。なお、本明細書において、「コーティング材」は非硬化型であり、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体が有する水酸基と反応して硬化を生じさせる成分(すなわち硬化剤)を含まない。したがって、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体と共に硬化剤を含み、熱付与により硬化する「熱硬化型樹脂組成物」とは少なくともこの点において異なる。
【0039】
ここで、本コーティング材の製造工程の簡略化を図る観点からすると、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体等を含む単量体を重合することにより得られた生成物(以下、「重合生成物」ともいう)については、精製等の処理を行わずにコーティング材としてそのまま用いることが好ましい。その一方で、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体を製造する際に得られる重合生成物中には通常、未重合の単量体等といった低分子の有機化合物が微量に含まれている。特に、未重合の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体が重合生成物中に比較的多く含まれている場合、その重合生成物を用いて塗膜を形成すると、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体の水酸基量が設計よりも少ないことや、硬化の際に未重合の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体が硬化剤と反応すること等に起因して塗膜の架橋密度が低下し、塗膜の硬度が低下することが懸念される。そのため、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体の製造に際しては、重合生成物中に含まれる未重合の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体の量を極力少なくし、ひいては本コーティング材に含まれる水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体の量を十分に少なくすることが好ましい。
【0040】
具体的には、本コーティング材において、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体の総量に対する、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有量は、0質量%以上12.0質量%以下であることが好ましく、0質量%以上10.0質量%以下であることがより好ましく、0質量%以上8.0質量%以下であることが更に好ましく、0質量%以上6.5質量%以下であることがより更に好ましく、0質量%以上5.0質量%以下であることが一層好ましく、0質量%以上3.5質量%以下であることがより一層好ましく、0質量%以上2.0質量%以下であることが更に一層好ましい。なお、本明細書において、コーティング材における水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有量は、ガスクロマトグラフ測定により算出される値である。測定条件の詳細は、後述する実施例の記載に従う。
【0041】
≪熱硬化型樹脂組成物≫
本発明の熱硬化型樹脂組成物(以下、「本組成物」ともいう)は、上述した水酸基含有(メタ)アクリル系重合体あるいは本コーティング材と、イソシアネート化合物とを含有する。このような本組成物は、成形体の表面を被覆する塗膜を形成するためのコーティング用途に特に好ましく適用できる。本組成物に含有される水酸基含有(メタ)アクリル系重合体の具体的な説明や好ましい例等については上述したとおりである。
【0042】
<イソシアネート化合物>
本組成物は、硬化剤(架橋剤ともいう)としてイソシアネート化合物を含む。イソシアネート化合物は、イソシアネート基及び/又はブロックイソシアネート基を一分子内に合計2個以上有する化合物であることが好ましい。
【0043】
イソシアネート基含有化合物の具体例としては、例えば、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンメチルエステルジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、1,5-オクチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等の鎖状脂肪族イソシアネート化合物;4,4′-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添トリレンジイソシアネート、2,4又は2,6-メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル-4,4′-ジイソシアネート、4,4′-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)等の脂肪族環式イソシアネート化合物;2,4又は2,6-トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5-ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、シクロヘキサンフェニレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(4-フェニルイソシアネート)チオホスフェート、トリジンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート、ジフェニルスルホンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート化合物を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、耐黄変性に優れる点において、無黄変型である鎖状脂肪族イソシアネート化合物及び脂肪族環式イソシアネート化合物よりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、反応性の観点からHDI系が好ましい。
【0044】
また、ブロックイソシアネート基を有する化合物(以下、「ブロックイソシアネート化合物」ともいう)としては、上記のイソシアネート基含有化合物をブロック剤と反応させ、マスキングしたものが挙げられる。
【0045】
ブロック剤としては、例えば、n-ブタノール、n-ヘキシルアルコール、2-エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、フェノールカルビノール、メチルフェニルカルビノール等の一価のアルキル(又は芳香族)アルコール類;エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル等のセロソルブ類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールフェノール等のポリエーテル型両末端ジオール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等のジオール類と、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸等のジカルボン酸類とから得られるポリエステル型両末端ポリオール類;パラ-t-ブチルフェノール、クレゾール等のフェノール類;ジメチルケトオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、メチルアミルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類;及びε-カプロラクタム、γ-ブチロラクタムに代表されるラクタム類が好ましく用いられる。
【0046】
本組成物は、例えばコーティング用の熱硬化型樹脂組成物として製造された後、当該組成物を用いて塗膜が形成されるまでの間(例えば、数日間~数か月程度)、そのまま保管されることがある。したがって、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体を含む本組成物の保存安定性を高める観点から、本組成物に配合されるイソシアネート化合物は、ブロックイソシアネート化合物を含むことが好ましい。また、本組成物に含有させるイソシアネート化合物としてブロックイソシアネート化合物を用いることで、本組成物を一液型の塗料とすることもでき、本組成物の取り扱い性を向上させることができる。
【0047】
具体的には、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体が有する水酸基1当量(モル当量)に対し、イソシアネート化合物が有するイソシアネート基及びブロックイソシアネート基の合計が0.5~2.0当量となる量のイソシアネート化合物を本組成物に含有させることが好ましい。本組成物におけるイソシアネート化合物の含有量を上記範囲とすることにより、耐候性及び硬度においてより優れた塗膜を得ることができる点、本組成物の保存安定性の低下を抑制できる点で好ましい。水酸基含有(メタ)アクリル系重合体が有する水酸基1当量に対する、イソシアネート化合物が有するイソシアネート基及びブロックイソシアネート基の合計の量は、0.6~1.5当量であることがより好ましく、0.75~1.25当量であることが更に好ましい。
【0048】
また、本組成物がイソシアネート化合物としてブロックイソシアネート化合物を含む場合、本組成物の保存安定性や取り扱い性を更に良好にする観点から、ブロックイソシアネート化合物の割合は、本組成物中のイソシアネート化合物の総量に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましい。
【0049】
<その他の成分>
本組成物には、使用する目的等に応じて、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体及びイソシアネート化合物とは異なる成分(以下、「その他の成分」ともいう)が更に含有されていてもよい。
【0050】
(硬化触媒)
本組成物は、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体及びイソシアネート化合物と共に、硬化触媒を更に含有していてもよい。硬化触媒としては、イソシアネート系架橋剤を用いる場合に使用され得る公知の化合物を適宜用いることができる。硬化触媒の具体例としては、ジブチル錫ジラウレート(DBTDL)、ジブチル錫ビス-o-フェニルフェネート、ジブチル錫マレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウリルメルカプチド、ジメチル錫ジクロライド等の錫系化合物;N-メチルモルホリン等の3級アミン等が挙げられる。
【0051】
本組成物における硬化触媒の含有量は特に制限されないが、塗膜形成時の効率性の観点から、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体100質量部に対して、0.001~3質量部とすることが好ましく、0.001~1質量部とすることがより好ましい。なお、硬化触媒としては1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0052】
(溶剤)
本組成物は、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体、イソシアネート化合物及び必要に応じて配合される成分が、溶剤に溶解された液状の組成物であってもよい。本組成物が溶剤型の熱硬化型樹脂組成物である場合、塗工性の向上を図ることができ、塗膜外観が良好な塗膜を比較的簡便に形成することができる。
【0053】
本組成物に含有させる溶剤としては、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体及びイソシアネート化合物を溶解可能な有機溶媒が挙げられる。有機溶媒の具体例としては、例えば、非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、炭化水素系溶媒等が挙げられる。有機溶媒は、これらの1種でもよく、2種以上の混合溶媒であってもよい。例えば、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体及びイソシアネート化合物を、酢酸エチルや酢酸ブチル、エチルメチルケトン(MEK)、トルエン、ジプロピレングリコールメチルエーテル(DPM)等の1種以上の有機溶媒に溶解させることにより、溶剤型の熱硬化型樹脂組成物を得ることができる。
【0054】
本組成物には、その他の成分として上記のほか、充填剤、レベリング剤、消泡剤、艶消し剤、シランカップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤が配合されていてもよい。また、本組成物に顔料を分散させてカラー塗料としたり、パール顔料やアルミペースト、光輝材を混合して意匠性を有する塗膜を形成可能な塗料としたりしてもよい。更に必要に応じて、エポキシ基含有化合物や、メラミン架橋剤、シリコン樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレンワックス、ラノリンワックス等を配合することもできる。
【0055】
本組成物は、上述した水酸基含有(メタ)アクリル系重合体及びイソシアネート化合物、並びに必要に応じて配合されるその他の成分を適宜の方法により混合することによって調製することができる。各成分を混合する際には室温下で行ってもよく、適宜加温しながら行ってもよい。また、溶剤型の熱硬化型樹脂組成物を製造する場合には、固形成分を先に混合した後に溶剤を加えてもよいし、又は固形成分の混合と同時に溶剤を加えてもよい。あるいは、予め溶剤に溶解された固形成分を他の固形成分と混合したり、予め溶剤に溶解された固形成分同士を混合したりすることにより本組成物を調製してもよい。
【0056】
本組成物は、25℃における粘度が1,000mPa・s以上であることが好ましい。本組成物の25℃における粘度が1,000mPa・s以上であることにより、本組成物を用いて得られる塗膜が十分な厚みを有し、また形状を保持しやすくなる。これらの観点から、本組成物の25℃における粘度は1,500mPa・s以上であることがより好ましく、2,000mPa・s以上であることが更に好ましく、2,500mPa・s以上であることがより更に好ましく、3,000mPa・s以上であることが一層好ましい。また、本組成物を用いて塗膜を形成する際の作業性を良好にする観点から、本組成物の25℃における粘度は、100,000mPa・s以下が好ましく、50,000mPa・s以下がより好ましく、30,000以下が更に好ましい。なお、本組成物の粘度は、E型粘度計を用いて25℃±0.5℃で測定される値である。測定方法の詳細は、後述する実施例に記載の方法に従う。
【0057】
≪積層体≫
本発明の積層体(以下、「本積層体」ともいう)は、基材と塗膜とを備え、基材の一方又は両方の表面に、本組成物からなる塗膜が設けられている。本積層体の好ましい一態様は、基材と塗膜とを備える積層フィルムである。
【0058】
基材としては、例えば、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリウレタン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、フッ素系樹脂(ポリフッ化ビニリデン、四フッ化ポリエチレン等)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリアミド、エチレン-酢酸ビニル系樹脂等の各種樹脂材料からなる樹脂フィルム;グラシン紙、クラフト紙、クレーコート紙等の各種紙材料からなる紙シート等が挙げられる。基材の大きさや厚みは特に限定されない。基材の厚みは、例えば10μm~500μm程度である。基材は、塗膜との接触面が、塗膜を剥離可能な離型性を有していることが好ましい。当該接触面における離型性は、例えば、公知の離型処理によって付与されていてもよく、あるいは、基材の材質(例えばポリエチレンテレフタレート)によるものであってもよい。
【0059】
本積層体において、塗膜は、基材表面のうち一方の面のみに設けられていてもよく、両方の面に設けられていてもよい。本組成物により基材表面に塗膜を形成する方法は特に限定されない。例えば、本組成物が溶剤型である場合、本組成物を基材表面に塗工し、加熱等の手段により溶剤を除去することにより、基材表面に、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体を含む塗膜を形成することができる。
【0060】
塗工方法は、本組成物の粘度等に応じて適宜設定することができる。塗工方法としては、例えば、バーコーター、アプリケーター、ドクターブレード、ディップコーター、ロールコーター、スピンコーター、フローコーター、ナイフコーター、コンマコーター、リバースコーター、ダイコーター、リップコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、インジェット等の各種塗工方法が挙げられる。本組成物を基材表面に塗工する際の本組成物の塗工量は、本組成物により形成される塗膜の厚みが所望の範囲内になるように適宜設計すればよい。塗膜の厚みは、例えば1μm~300μm程度である。
【0061】
塗膜は単層であってもよく、複数の層により構成されていてもよい。また、塗膜を構成する層の少なくとも一部が、光輝材や顔料等が配合されることによって着色された着色層であってもよい。本積層体が備える塗膜は、当該塗膜を塗装対象である成形体の表面に貼り合わせて成形体表面を被覆するコーティング用途として特に有用である。
【0062】
塗膜により被覆される成形体は特に限定されるものではなく、例えば樹脂製品、金属製品、セラミック製品、ガラス製品等といった、塗膜を貼り合わせ可能な物品であればよい。具体的には、例えば、生活家電、キッチン家電、健康家電、季節家電等の各種家電製品;トイレ、浴室、扉、壁等の住宅設備の内装・外装部材;バンパー、ダッシュボード、ドア、ルーフ、ボンネット等の自動車内装品及び自動車外装品;生活雑貨、日用雑貨等の各種雑貨品;自動車用ディスプレイ、遊技機用ディスプレイ、携帯電話機、スマートフォン、タブレット端末、パーソナルコンピュータ、ゲーム機、時計等の各種表示装置;電子部品;介護・医療用品;船舶や航空機の内外装品等が挙げられる。
【0063】
本積層体が備える塗膜により成形体を被覆する際には、真空成形法、真空圧空成形法、射出成形法等を用いることが好ましい。真空成形法では、塗膜を加熱軟化しつつ展張し、塗膜の成形体側の空間を減圧することで、塗膜を成形体の表面形状に沿って成形しつつ貼り付ける。真空圧空成形法では、真空成形法の成形工程後に、更に反対側の空間を加圧することにより、塗膜を成形体の表面形状に沿って成形しつつ接着する。真空圧空成形機の例としては、浅野研究所社製の熱板式減圧被覆成形機TFHシリーズ、布施真空社製TOM成形機NGFシリーズ、ナビタス社製のNATS空気転写機等が挙げられる。射出成形法では、射出成形機の金型キャビティに塗膜をセットし、射出成形を行うことにより、塗膜を成形体の表面形状に沿って貼り合わせる。これらの方法により、本組成物により形成された塗膜によって表面が被覆された成形体を得ることができる。
【0064】
本組成物により形成される塗膜は、耐候性、密着性及び塗膜外観に優れていることから、これらの性能が同時に要求される用途、具体的には、自動車内装品及び/又は自動車外装品等を塗装するための自動車用コーティング被膜として特に好適である。
【実施例0065】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。以下において「部」及び「%」は、特に断らない限り「質量部」及び「質量%」をそれぞれ意味する。
【0066】
1.測定・分析方法
<水酸基含有(メタ)アクリル系重合体の分子量測定>
ゲル浸透クロマトグラフ装置(型式名「HLC-8320」、東ソー社製)を用いて、下記の条件よりポリスチレン換算による重量平均分子量(Mw)を得た。また、GPC測定による検出ピークの総面積に対する、分子量50,000未満の検出ピークの面積の割合(分子量50,000未満含有率(単位:%))を積分分子量分布より算出した。
○測定条件
カラム:東ソー製TSKgel SuperMultiporeHXL×4本
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン
検出器:RI
【0067】
<水酸基含有(メタ)アクリル系重合体の組成分析>
・検量線の作成
測定成分(標品)を各0.3g精秤し、ヘキサンで合計を15gに希釈した(2%溶液)。さらに、ヘキサンで2000ppm、200ppm溶液に希釈して、それぞれの希釈液5g、メタクリル酸エチル(内部標準)を各0.05g精秤した。この混合液をガスクロマトグラフ測定し、各成分の内部標準に対する検出感度を求めた。
・重合体の組成分析
水酸基含有(メタ)アクリル系重合体溶液1g(固形分約30%)と内部標準液(メタクリル酸エチル)0.01g~0.06gを精秤し、アセトン1gを添加し、10分間撹拌した。溶解した後、ヘキサン9gを添加し、充分に振とうし、10分撹拌した後、静置した。上澄みを1.5mL程度採取し、4000rpm×10分間遠心分離した。遠心分離後の上澄みを測定用試料とし、ガスクロマトグラフ測定により各単量体の反応率を算出し、当該反応率に基づいて、重合体を構成する単量体の組成(質量%)を算出した。
(ガスクロマトグラフ測定条件)
ガスクロマトグラフ装置:GC-2014S(島津製作所社製)
カラム:RTX-502.2(ジーエルサイエンス社製)
キャリアガス:窒素ガス(2.38mL/分)
インジェクション温度:220℃
ディテクター温度:260℃
オーブン温度:60℃×7分保持、10℃/分で昇温、250℃×10分保持
【0068】
<水酸基含有(メタ)アクリル系重合体の水酸基価測定>
JIS K1557-1における水酸基価の測定(ピリジン-無水酢酸法)に準じて測定した。具体的には次の通りである。
適量の試料(予想水酸基価が10~100mgKOH/gの場合は2g、100~150mgKOH/gの場合は1.5g、150~200mgKOH/gの場合1g)に、アセチル化試薬(無水酢酸25gにピリジンを加え、100mLの溶液にしたもの)5mLをホールピペットで加え、溶解させた後、95℃で2時間撹拌し、アセチル化を行った。その後、水1mLを加え、95℃で10分間、加熱し残った無水酢酸を加水分解させた。次に、この液にTHF100mLを加え、0.5moL/L水酸化カリウムエタノール溶液で滴定を行った。滴定は、電位差滴定装置(自動滴定装置COM-1600ST、平沼産業製)を用いて、pH曲線の変曲点を求めた。一連の操作を、試料無しのブランクについても同様に行った。得られた数値を次式に代入することで水酸基価を求めた。
(水酸基価)={(B-C)×f×28.05}/S
式中の記号は次の通りである。
B=ブランク試験に用いた0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液の量(単位:mL)
C=滴定に用いた0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液の量(単位:mL)
f=0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液のファクター
S=試料の質量(単位:g)
【0069】
<水酸基含有(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度(Tg)測定>
示差走査熱量計を用いて得られた熱流束曲線のベースラインと、変曲点での接線との交点から重合体のガラス転移温度(Tg)を決定した。熱流束曲線は、試料約5mgを-20℃まで冷却し、3分間保持した後、10℃/minで100℃まで昇温し、引き続き-20℃まで冷却し、3分間保持した後、10℃/minで100℃まで昇温する条件で
得た。
測定機器:エスアイアイ・ナノテクノロジー社製DSC6220
測定雰囲気:窒素雰囲気下
【0070】
<コーティング材中のメタクリル酸2-ヒドロキシエチル残量の測定>
・検量線の作成
測定成分(標品)を各0.3g精秤し、ヘキサンで合計を15gに希釈した(2%溶液)。さらに、ヘキサンで2000ppm、200ppm溶液に希釈して、それぞれの希釈液5g、メタクリル酸エチル(内部標準)を各0.05g精秤した。この混合液をガスクロマトグラフ測定し、各成分の内部標準に対する検出感度を求めた。
・残存モノマーの抽出
水酸基含有(メタ)アクリル系重合体溶液(固形分約30%)1gと内部標準液(メタクリル酸エチル)0.01g~0.06gを精秤し、アセトン1gを添加し、10分間撹拌した。溶解した後、ヘキサン9gを添加し、充分に振とうし、10分撹拌した後、静置した。上澄みを1.5mL程度採取し、4000rpm×10分間遠心分離した。遠心分離後の上澄みを測定用試料としてガスクロマトグラフ測定を行い、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体を含む重合溶液(すなわちコーティング材)中に含まれるメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(以下、「残HEMA」ともいう)の量を算出した。
(ガスクロマトグラフ測定条件)
ガスクロマトグラフ装置:GC―2014S(島津製作所社製)
カラム:RTX-502.2(ジーエルサイエンス社製)
キャリアガス:窒素ガス(2.38mL/分)
インジェクション温度:220℃
ディテクター温度:260℃
オーブン温度:60℃×7分保持、10℃/分で昇温、250℃×10分保持。
【0071】
<熱硬化型樹脂組成物の粘度測定>
E型粘度計(TOKIMEC社製、RBV-01型粘度計)を用いて、温度25℃±0.5℃の条件で測定した。ローターと回転数はフルスケールの約50%となるように調整した。
【0072】
2.水酸基含有(メタ)アクリル系重合体及びコーティング材の製造
(実施例1:水酸基含有(メタ)アクリル系重合体A-1及びコーティング材B-1の製造)
撹拌機、温度計を装着したフラスコに、メタクリル酸メチル(以下、「MMA」という)を4.9部、メタクリル酸ブチル(以下、「BMA」という)を25.3部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(以下、「HEMA」という)を19.8部、酢酸エチルを23.4部仕込み、窒素バブリングしながら、フラスコ内を75℃に保った。
また別途、モノマー供給槽にMMAを4.9部、BMAを25.3部、HEMAを19.8部仕込んだ。また、開始剤供給槽に2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(富士フイルム和光純薬製、商品名「V65」、以下、「V65」という)を0.12部及び酢酸エチルを44.0部仕込み、溶剤供給槽に酢酸エチルを80.0部仕込んだ。
単量体(MMA、BMA、HEMA)及び酢酸エチルを入れた上記フラスコに、酢酸エチル2.1部にV65 0.02部を溶解させた液を入れ(以下、重合開始時にフラスコに入れた重合開始剤を「第1開始剤」とし、第1開始剤を含む液を「第1開始剤液」とする)、第1開始剤液をフラスコに入れたのと同時に、モノマー供給槽から単量体(MMA、BMA、HEMA)を一定の供給速度で3時間かけて供給した。また、単量体の連続供給と同時に、開始剤供給槽内の開始剤液を開始剤供給槽から一定の供給速度で6時間かけてフラスコに連続供給した。さらに、単量体の連続供給と同時に、溶剤供給槽から酢酸エチルを一定の供給速度で4時間かけてフラスコに連続供給した。
なお、以下では、開始剤供給槽からフラスコに連続供給する重合開始剤について、フラスコに連続供給する際の供給回に応じて、「第2開始剤」、「第3開始剤」と表記する。具体的には、1回目の連続供給時の重合開始剤を「第2開始剤」とし、2回目の連続供給時の重合開始剤を「第3開始剤」とする。
単量体等の供給開始から液温を75℃に保ち、9時間重合を行った。9時間経過したら、酢酸エチル2.8部にV65 0.05部を溶解させた液(これを「第1追触媒」とする)をフラスコに投入して液温を78℃に昇温した。液温が78℃に到達してから1時間後、更に、酢酸エチル2.8部にV65 0.05部を溶解させた液(これを「第2追触媒」とする)をフラスコに投入して1時間半熟成させた。1時間半経過した後、固形分が30.0%となるように酢酸エチルを投入し、重合生成物が溶解するまで撹拌した。溶解した後に冷却して反応を停止し、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体A-1を含む溶液(これをコーティング材B-1とする)を得た。水酸基含有(メタ)アクリル系重合体A-1の物性値を測定したところ、Mwは246,500であり、ガラス転移温度は40.5℃であり、水酸基価は179.0mgKOH/gであり、分子量50,000未満含有率は14.9%であった。水酸基含有(メタ)アクリル系重合体A-1の組成は、MMA単位が9.4質量%、BMA単位が49.1質量%、HEMA単位が41.5質量%であった(表中の重合体組成参照)。また、コーティング材B-1に含まれる水酸基含有(メタ)アクリル系重合体A-1(固形分)は29.6%であり、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(残HEMA)は2.4%であった。
【0073】
(実施例2、3、5~22及び比較例1:水酸基含有(メタ)アクリル系重合体A-2、A-3、A-5~A-23及びコーティング材B-2、B-3、B-5~B-23の製造)
表1~3の通り、単量体の仕込み量(表中の単量体組成参照)、溶剤量、開始剤量、追触媒量及び反応器内温を変更した以外は、実施例1と同様の方法により製造した。得られた水酸基含有(メタ)アクリル系重合体のそれぞれについて、重合体を構成する単量体の組成(重合体組成)及び物性値を表1~3に示す。
【0074】
(実施例4:水酸基含有(メタ)アクリル系重合体A-4及びコーティング材B-4の製造)
撹拌機、温度計を装着したフラスコに、MMAを9.7部、BMAを50.8部、HEMAを39.5部、酢酸エチルを23.4部仕込み、窒素バブリングしながら、フラスコ内を70℃に保った。開始剤供給槽にV65を0.05部、酢酸エチルを44.0部仕込んだ。また溶剤供給槽に酢酸エチルを80.0部仕込んだ。
単量体(MMA、BMA、HEMA)及び酢酸エチルを入れた上記フラスコに、酢酸エチル2.1部にV65 0.01部(第1開始剤)を溶解させた液を入れ、第1開始剤液をフラスコに入れたのと同時に、開始剤供給槽内の開始剤液(第2開始剤を含む液)を開始剤供給槽から一定の供給速度で6時間かけてフラスコに連続供給した。さらに、開始剤供給槽内の開始剤液の連続供給と同時に、溶剤供給槽から酢酸エチルを一定の供給速度で4時間かけてフラスコに連続供給した。開始剤供給槽内の開始剤液等の供給開始から液温を75℃に保ち、9時間重合を行った。9時間経過した後に、酢酸エチル2.8部にV65 0.1部を溶解させた液(第1追触媒)をフラスコに投入して液温を78℃に昇温した。液温が78℃に到達して1時間後、更に、酢酸エチル2.8部にV65 0.1部を溶解させた液(第2追触媒)をフラスコに投入して1時間半熟成させた。1時間半経過した後、固形分が25.0%となるように酢酸エチルを投入し、重合生成物が溶解するまで撹拌した。溶解した後に冷却して反応を停止し、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体A-4を含む溶液(これをコーティング材B-4とする)を得た。水酸基含有(メタ)アクリル系重合体A-4の物性値を測定したところ、Mwは724,600であり、ガラス転移温度は40.7℃であり、水酸基価は181.5mgKOH/gであり、分子量50,000未満含有率は8.7%であった。水酸基含有(メタ)アクリル系重合体A-4の組成は、MMA単位が9.3質量%、BMA単位が48.6質量%、HEMA単位が42.1質量%であった。また、コーティング材B-4に含まれる水酸基含有(メタ)アクリル系重合体A-4の量(固形分)は25.3%であり、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(残HEMA)は3.0%であった。
【0075】
(比較例2:水酸基含有(メタ)アクリル系重合体A-24及びコーティング材B-24の製造)
表3の通り反応器内温を変更した以外は、実施例4と同様の方法により製造した。得られた水酸基含有(メタ)アクリル系重合体A-24について、重合体を構成する単量体の組成(重合体組成)及び物性値を表3に示す。
【0076】
(比較例3:水酸基含有(メタ)アクリル系重合体A-25及びコーティング材B-25の製造)
撹拌機、温度計を装着したフラスコに、MMAを4.9部、BMAを25.3部、HEMAを19.8部、酢酸エチルを23.4部仕込み、窒素バブリングしながら、フラスコ内を75℃に保った。モノマー供給槽にMMAを4.9部、BMAを25.3部、HEMAを19.8部仕込んだ。また、開始剤供給槽にV65を0.23部、酢酸エチルを44.0部仕込んだ。溶剤供給槽には酢酸エチルを80.0部仕込んだ。
単量体(MMA、BMA、HEMA)及び酢酸エチルを入れた上記フラスコに、酢酸エチル2.1部にV65 0.02部(第1開始剤)を溶解させた液(第1開始剤液)を入れ、第1開始剤液をフラスコに入れたのと同時にモノマー供給槽から単量体を一定の供給速度で3時間かけて供給した。また、単量体の連続供給と同時に、開始剤供給槽内の開始剤液の仕込み量の37.5%(これを第2開始剤とする)を一定の供給速度で3時間かけてフラスコに連続供給し、溶剤供給槽から酢酸エチルを一定の供給速度で4時間かけてフラスコに連続供給した。4時間経過後に更に、開始剤供給槽内の残りの開始剤液(開始剤供給槽内の開始剤液の仕込み量の62.5%、これを第3開始剤とする)を開始剤供給槽から一定の供給速度で2時間かけてフラスコに連続供給した。単量体等の連続供給の開始から液温を75℃に保ち、7時間重合を行った。7時間経過した後に、酢酸エチル5.5部にV65 0.03部を溶解させた液(第1追触媒)をフラスコに投入して液温を78℃に昇温した。液温が78℃に到達して1時間経過した後に、固形分が30.0%となるように酢酸エチルを投入して、重合生成物が溶解するまで撹拌した。溶解した後に冷却して反応を停止し、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体A-25を含む溶液(これをコーティング材B-25とする)を得た。水酸基含有(メタ)アクリル系重合体A-25の物性値を測定したところ、Mwは265,300であり、ガラス転移温度は40.7℃であり、水酸基価は181.3mgKOH/gであり、分子量50,000未満含有率は22.5%であった。水酸基含有(メタ)アクリル系重合体A-4の組成は、MMA単位が9.3質量%、BMA単位が48.6質量%、HEMA単位が42.1質量%であった。また、コーティング材B-25に含まれる水酸基含有(メタ)アクリル系重合体A-25(固形分)は29.4%であり、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(残HEMA)は3.0%であった。
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
表1~3において用いた化合物の詳細を以下に示す。
・MMA:メタクリル酸メチル
・BMA:メタクリル酸n-ブチル
・HEMA:メタクリル酸2-ヒドロキシエチル
・BA:アクリル酸ブチル
・V65:2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)
【0081】
3.熱硬化型樹脂組成物及び積層体の製造、並びに評価
以下の実施例23~51、比較例4~6では、上記実施例1~22、比較例1~3により得られた水酸基含有(メタ)アクリル系重合体を含む溶液をそれぞれコーティング材として用い、以下の方法により熱硬化型樹脂組成物を製造した。また、各熱硬化型樹脂組成物を用いてPETフィルム上に塗膜を形成することにより積層体を製造し、以下に示す評価を行った。
【0082】
(実施例23)
コーティング材として実施例1で得られた水酸基含有(メタ)アクリル系重合体A-1を含む溶液(コーティング材B-1)を、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体A-1を43.0部(固形分)含む量、架橋剤としてデュラネートSBN―70D(旭化成社製、HDI系ブロックイソシアネート)を57.0部(固形分)、硬化触媒としてジブチル錫ジラウレート(日東化成社製、ネオスタンU-220H)を0.01部混合して、熱硬化型樹脂組成物を製造した。
PETフィルム(パナック社製、商品名「ルミラー50T60」50μm)上に、バーコーターを用いて熱硬化型樹脂組成物を塗布した後、80℃にて5分間加熱乾燥し、PETフィルムと塗膜との積層体を得た。得られた積層体の塗膜側を鋼板に貼り付け、真空成型した後、PETフィルムを剥がした。真空成型による塗膜の貼り付けは、真空圧空成型機(ナビタス社製、NATS-0612B型)を用いて、加熱温度160℃、加熱時間30分とし、圧空0.2MPatの条件で行った。真空成型により塗膜を鋼板に貼り付けた後のサンプル(膜厚:約50μm)を評価用サンプルとし、以下に示す各種試験に使用した。
【0083】
(実施例24~51及び比較例4~6)
使用するコーティング材を変更し、表4~7の通り水酸基含有(メタ)アクリル系重合体の種類及び量、イソシアネート化合物の種類及び量を変更した以外は、実施例23と同様の方法により熱硬化型樹脂組成物を製造し、評価した。
【0084】
評価方法は以下の通りである。結果を表4~7に示す。
<耐候性>
得られた各評価用サンプルをメタルウェザーメーター(ダイプラ・ウィンテス社製「DAIPLA METAL WEATHER KU-R5NCI-A」)に入れ、促進耐候試験を行った。条件は照射63℃、70%RH、照度80mW/cm2とし、2時間に1回2分間のシャワーで試験を実施した。外観にクラック等の異常が生じ始めた時間を記録した。
【0085】
<密着性>
得られた各評価用サンプルに、カッターナイフで縦横2mm間隔の切り込みを入れて、2mm×2mmの大きさの升目25個を形成し、この碁盤目上にニチバン(株)製#405のセロハンテープを貼り付けた後に強く剥がした。剥離後の残膜率(%)を算出し、塗膜の密着性を評価した。残膜数が多いほど密着性が良好であることを示す。
【0086】
<鉛筆硬度>
各評価用サンプルについてJIS K 5600-5-4(引っかき硬度(鉛筆法))に準じて鉛筆引っ掻き試験を実施し、塗膜に傷が付かない最大の硬度を測定した。
【0087】
<塗膜外観>
得られた各評価用サンプルの塗膜の外観を目視で確認し、以下基準に従って評価した。
◎:塗膜表面に外観上の目立った不具合(肌荒れ、ひび割れ)がなかった。
〇:塗膜表面の一部に僅かに肌荒れが見られた。
△:塗膜表面の半分にひび割れまたは肌荒れが見られた。
×:塗膜表面全体のひび割れまたは肌荒れが見られた。
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
表4~7中、「NCO/OH比」は、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体が有する水酸基量に対する、イソシアネート化合物が有するイソシアネート基及び/又はブロックイソシアネート基量の当量比(モル比)を表す。表4~7において用いた化合物の詳細を以下に示す。
(イソシアネート化合物)
・C-1:デュラネートSBN-70D(旭化成社製)HDI系ブロックイソシアネート化合物、固形分70質量%、有効NCO:10.1質量%、溶剤:ジプロピレングリコールメチルエーテル(DPM)
・C-2:コロネート2507(東ソー社製)TDI系ブロックイソシアネート化合物、固形分80.5質量%、有効NCO:11.7質量%、溶剤:エチルメチルケトン(MEK)
・C-3:コロネート2715(東ソー社製)HDI系、固形分90質量%、有効NCO:18.7質量%、溶剤:酢酸ブチル
(硬化触媒)
・DBTDL:ジブチル錫ジラウレート、ネオスタンU-220H
【0093】
4.評価結果
表4~7の結果から明らかなように、Mwが200,000以上800,000以下、かつ分子量50,000未満含有率が20%以下である水酸基含有(メタ)アクリル系重合体A-1~A-22を含むコーティング材(実施例1~22)を用いて塗膜を形成することにより、耐候性、密着性及び塗膜外観に優れた塗膜を得ることができた(実施例23~51)。また、水酸基含有(メタ)アクリル系重合体A-1~A-22を含むコーティング材により形成された塗膜は硬度も高かった。これらの中でも、コーティング材中の残HEMAの量が十分に少ない場合には、硬度がより高い塗膜を得ることができた(例えば、実施例23、28~30と実施例31との対比)。
【0094】
これに対し、Mwが200,000未満の水酸基含有(メタ)アクリル系重合体A-23を含むコーティング材(比較例1)を用いた場合には、耐候性及び密着性に劣っていた(比較例4)。また、Mwが800,000超の水酸基含有(メタ)アクリル系重合体A-24を含むコーティング材(比較例2)を用いた場合には塗膜外観に劣り(比較例5)、分子量50,000未満含有率が20%超の水酸基含有(メタ)アクリル系重合体A-25を含むコーティング材(比較例3)を用いた場合には耐候性に劣っていた(比較例6)。