IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 藤原 良の特許一覧

特開2024-89112ワンウェイクラッチ及びそれを用いた締結具
<>
  • 特開-ワンウェイクラッチ及びそれを用いた締結具 図1
  • 特開-ワンウェイクラッチ及びそれを用いた締結具 図2
  • 特開-ワンウェイクラッチ及びそれを用いた締結具 図3
  • 特開-ワンウェイクラッチ及びそれを用いた締結具 図4
  • 特開-ワンウェイクラッチ及びそれを用いた締結具 図5
  • 特開-ワンウェイクラッチ及びそれを用いた締結具 図6
  • 特開-ワンウェイクラッチ及びそれを用いた締結具 図7
  • 特開-ワンウェイクラッチ及びそれを用いた締結具 図8
  • 特開-ワンウェイクラッチ及びそれを用いた締結具 図9
  • 特開-ワンウェイクラッチ及びそれを用いた締結具 図10
  • 特開-ワンウェイクラッチ及びそれを用いた締結具 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089112
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】ワンウェイクラッチ及びそれを用いた締結具
(51)【国際特許分類】
   F16D 41/06 20060101AFI20240626BHJP
   F16B 39/28 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
F16D41/06 Z
F16B39/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204283
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】522032280
【氏名又は名称】藤原 良
(74)【代理人】
【識別番号】100084375
【弁理士】
【氏名又は名称】板谷 康夫
(74)【代理人】
【識別番号】100142077
【弁理士】
【氏名又は名称】板谷 真之
(72)【発明者】
【氏名】藤原 良
(57)【要約】
【課題】ワンウェイクラッチにおいて、別途のナットを用いることなく、被固定物と対象物とを締結する。
【解決手段】ワンウェイクラッチ1は、ボルト2の軸部21が挿通される略円筒状のハウジング10と、ハウジング10に内設されボルト2を1方向にのみ回動させるクラッチ機構と、を備える。また、ハウジング10は、ボルト2の挿出端部の内周面に形成された雌ねじ部13bを有する。この構成によれば、雌ねじ部13bを設けたので、ワンウェイクラッチ1自体がインサートナットとしての機能を果たし、別途のナットを用いることなく、ワンウェイクラッチ1とボルト2により、被固定物と対象物とを締結することができる。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルトの軸部が挿通される略円筒状のハウジングと、前記ハウジングに内設されボルトを1方向にのみ回動させるクラッチ機構と、を備えたワンウェイクラッチであって、
前記ハウジングは、該ハウジングにおけるボルトの挿出端部の内周面に形成された雌ねじ部を有することを特徴とするワンウェイクラッチ。
【請求項2】
前記ハウジングは、前記ハウジングにおけるボルトの挿入端部の外周面に形成されたフランジ部と、前記ハウジングの外周面においてボルト挿通方向に長尺となるよう形成された複数の凸片部と、を有することを特徴とする請求項1に記載のワンウェイクラッチ。
【請求項3】
前記凸片部は、ボルト挿通方向に沿って多段的に形成され、
ボルトの挿出端部側に形成された凸片部の幅が、挿入端部側に形成された凸片部の幅よりも小さいことを特徴とする請求項2に記載のワンウェイクラッチ。
【請求項4】
前記ハウジングは、多段的に形成された前記凸片部のうち最もボルトの挿入端部側に形成された前記凸片部と前記フランジ部との間に設けられた凸帯部を有し、
前記凸帯部が形成された箇所の前記ハウジングの外周径は、前記凸片部が形成された箇所の前記ハウジングの外周径と略等しいことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のワンウェイクラッチ。
【請求項5】
前記ハウジングは、前記ハウジングにおけるボルトの挿出端部の外周面に形成されたフランジ部を有し、
前記フランジ部の外径形状が多角形であることを特徴とする請求項1に記載のワンウェイクラッチ。
【請求項6】
前記クラッチ機構は、少なくともローラー、ばね部及び内壁凹部から構成されることを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項5のいずれか一項に記載のワンウェイクラッチ。
【請求項7】
請求項6に記載のワンウェイクラッチを用いた締結具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワンウェイクラッチに関し、特に圧入式のワンウェイクラッチ及びそれを用いた締結具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、部材同士を締結する手段として、ねじ締結体が広く用いられている。ねじ締結体は、ボルト及びこれに螺合するナットの締付けによってボルトの軸部に発生した軸力(引張力)と、被締結部材に発生した圧縮力(締付力)との両者が釣り合うことでその締結状態が維持されるものである。
【0003】
また、機械や構造物などの奥側が肉厚であり、ボルト・ナットで被締結部材を挟んで締結できない場合には、ねじ込んで締め付けるいわゆる押さえボルトが採用され、肉厚の機械や構造物側に設けた雌ねじに螺合して、ナットを用いずに被締結部材を固定するものがある。
【0004】
しかし、通常のボルト・ナットでは、経時的に螺合が緩み、長期間にわたって締結状態を維持できないことがある。そこで、ボルト・ナットの螺合をより確実に結合させるべく、緩み止め構造を備えた技術が知られている。このような構造として、例えば、予めネジ孔に円盤状の受部材を挿入しておき、ボルトの先端に設けた裁頭円錐型の凸部を受部材に偏心篏合させることによって、ボルトに軸方向とは直行する方向の大きな剪断応力を作用させ、いわゆるクサビ効果によってボルトをロックする技術が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
また、例えば、雌ねじに螺合する締付けねじ部を設けた軸部の上端に、上記ねじ部のピッチより大きいピッチを有するゆるみ止めねじ部を設け、上記ゆるみ止めねじ部に螺合するナット体が組み付けられた押さボルトの技術が知られている(特許文献2参照)。この技術は、ピッチの異なるねじ部を設けたことで、高いゆるみ止め効果を実現している。
【0006】
一方、一方向のみに回転力を伝達するクラッチ機構としてワンウェイクラッチが知られている。ワンウェイクラッチは、同軸上の内輪と外輪の間で一方向のトルクを伝達するクラッチ機構である(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10-37936号公報
【特許文献2】特開2011-38552号公報
【特許文献3】特開平11-117954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載の発明では、ボルトとは別体の小さな受部材をネジ孔に装着する煩雑な作業が必要となり、例えば、夜間作業では、小さな受け部材を装着する作業が困難となることがある。
【0009】
また、特許文献2に記載の発明では、異なるピッチのねじ部を設けたことで、ある程度の緩み防止効果は期待できるものの、ボルト・ナットによる螺合結合という構造に頼っている以上、例えば、ボルトを締め過ぎることでねじ山が潰れたり、ボルト軸が塑性域に入り軸力が失われたり、或いは「遅れ破壊」(一定の引張荷重を受けているねじが、ある時間経過後に、外観上の変形を伴うことなく突然破断する現象。ねじの強度が高いほど発生しやすいといわれる。)など、従来の螺合結合という構造特有の課題を根本的に解決するものとは言えない。
【0010】
一方、特許文献3に記載の発明は、ファクシミリや複写機の紙送り機構などの機械装置に組み込まれて、特定方向の回転運動のみを伝達するローラクラッチとして用いられる。本願発明者は、上記課題を解決すべく、上記ワンウェイクラッチの機構を締結具に組み込むという着想に至り、鋭意研究の結果、更なる新規な着想を得て本願発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、ボルトの軸部が挿通される略円筒状のハウジングと、前記ハウジングに内設されボルトを1方向にのみ回動させるクラッチ機構と、を備えたワンウェイクラッチであって、前記ハウジングは、該ハウジングにおけるボルトの挿出端部の内周面に形成された雌ねじ部を有することを特徴とする。
【0012】
上記ワンウェイクラッチにおいて、前記ハウジングは、前記ハウジングにおけるボルトの挿入端部の外周面に形成されたフランジ部と、前記ハウジングの外周面においてボルト挿通方向に長尺となるよう形成された複数の凸片部と、を有することが好ましい。
【0013】
上記ワンウェイクラッチにおいて、前記凸片部は、ボルト挿通方向に沿って多段的に形成され、ボルトの挿出端部側に形成された凸片部の幅が、挿入端部側に形成された凸片部の幅よりも小さいことが好ましい。
【0014】
上記ワンウェイクラッチにおいて、前記ハウジングは、多段的に形成された前記凸片部のうち最もボルトの挿入端部側に形成された前記凸片部と前記フランジ部との間に設けられた凸帯部を有し、前記凸帯部が形成された箇所の前記ハウジングの外周径は、前記凸片部が形成された箇所の前記ハウジングの外周径と略等しいことが好ましい。
【0015】
上記ワンウェイクラッチにおいて、前記ハウジングは、前記ハウジングにおけるボルトの挿出端部の外周面に形成されたフランジ部を有し、前記フランジ部の外径形状が多角形であることが好ましい。
【0016】
上記ワンウェイクラッチにおいて、前記クラッチ機構は、少なくともローラー、ばね部及び内壁凹部から構成されることが好ましい。
【0017】
上記ワンウェイクラッチは、締結具に用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のワンウェイクラッチによれば、被固定物を対象物へ確実に固定することができることに加え、ボルトとナットという従来の螺合結合構造のみに頼らないため、ボルトの締め過ぎによって、ねじ山が潰れることもなく、ボルト軸が塑性域に入り軸力が失われたり、或いは「遅れ破壊」を起こすこともない。
【0019】
また、本発明のワンウェイクラッチは、雌ねじ部が設けられているので、ワンウェイクラッチ自体がインサートナットとしての機能を果たし、別途のナットを用いることなく、ワンウェイクラッチとボルトにより、被固定物と対象物とを締結するための締結具が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1の実施形態に係るワンウェイクラッチの斜視図。
図2】上記ワンウェイクラッチの内部構造を示すために一部を切断した斜視図。
図3】(a)は上記ワンウェイクラッチの正面図、(b)は(a)の45°水平回転させた側面図、(c)は底面図、(d)は(a)のB-B線における水平断面図、(e)は(a)のC-C線における水平断面図、(f)は(a)のD-D線における水平断面図、(g)は(a)のE-E線における水平断面図、(h)は(a)のF-F線における鉛直断面図。
図4】(a)は図1のA-A線水平断面図であって、ボルトが回転可能な状態を示す、(b)はボルトが回転不可な状態を示す図。
図5】上記ワンウェイクラッチを用いた締結具の施工例を示す断面図。
図6】本発明の第2の実施形態に係るワンウェイクラッチの斜視図。
図7】上記実施形態の変形例に係るワンウェイクラッチの斜視図。
図8】本発明の第3の実施形態に係るワンウェイクラッチの斜視図。
図9図8のG-G線鉛直断面図。
図10】(a)は図9のH-H線水平断面図であって、ボルトが回転可能な状態を示す、(b)はボルトが回転不可な状態を示す図。
図11】上記ワンウェイクラッチを用いた締結具の施工例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の第1の実施形態に係るワンウェイクラッチ及びそれを用いた締結具について、図1乃至図5を参照して説明する。なお、本発明を構成する各部の大きさや形状、位置関係は、本発明の理解を促すことを目的として概略的に記したものである。そして、各構成要素の材料や材質などは、好適な組み合わせとして開示するものであり、本発明の主旨を逸脱することなく、この効果を達成可能な変更を妨げるものでない。
【0022】
図1乃至図3に示すように、本実施形態に係るワンウェイクラッチ1は、ハウジング10と、ハウジング10に内設され、ボルト2(後述する図5参照)を1方向にのみ回動させるクラッチ機構と、を備える。ワンウェイクラッチ1及びボルト2により、締結具100が構成される。ハウジング10は、全体形状としては、略円筒状を成し、ボルト2の雄ねじ部21bが挿通される挿通孔h1の内周に、クラッチ機構が内設される。ハウジング10の構成材の材質としては、ポリアミド樹脂系材料、ジュラルミン、アルミニウムが軽量化の観点から好適である。
【0023】
本実施形態のハウジング10は、ボルト2の挿入端部の外周面に形成されたフランジ部12と、ボルト挿出端部の外周面に形成され、ハウジング10の外径より小径となる誘導部13と、を有する。フランジ部12は、ワンウェイクラッチ1を対象物B(図5参照)に対して垂直に埋め込むことができるよう、対象物Bの平面の平行な面を拡大させたものである。誘導部13は、対象物Bへの埋め込みをスムーズに行えるよう、外周径を最も小さくしたものである。なお、誘導部13の端面の外周縁には、複数の突起13aが設けられている。
【0024】
ハウジング10は、その外周面において、ボルト2の挿通方向に長尺になるよう形成された複数の凸片部11を有する(再び図1乃至図3参照)。凸片部11は、ボルト挿通方向に沿って多段的に形成されており、本実施形態では、凸片部11は、ボルトの挿出端部側(図中下側)に形成された下凸片部11aと、挿入端部側(図中上側)に形成された上凸片部11bとから構成される。下凸片部11aの幅は、上凸片部11bの幅よりも小さくなるように形成されている(図3(h)(g)参照)。また、2本1組となった下凸片部11aの間隔は、同じく上凸片部11bの間隔よりも広くなっている。なお、ここでは、凸片部11は2段構成であり、2本1組の下凸片部11a及び上凸片部11bが、ハウジング10の外周面の4箇所に夫々等間隔で配置された構成を示すが、凸片部11は3段以上の構成であってもよく、また、例えば、3本1組で3箇所に配置した構成や、6本を均等に配した構成、又は8本を均等に配置した構成(いずれも図示せず)であってもよい。
【0025】
また、ハウジング10は、多段的に形成された凸片部11のうち最もボルトの挿入端部側に形成された上凸片部11bとフランジ部12との間に設けられた凸帯部11cを有する。凸帯部11cが形成された箇所のハウジング10の外周径は、フランジ部12の外周径より小さく、凸片部11が形成された箇所のハウジング10の外周径と略等しい(図3(h)参照)。上述したように、下凸片部11aの幅は、上凸片部11bの幅よりも小さくなっているので、ハウジング10の外径周は、ボルト2の挿出端部側ほど太い箇所が少なく、挿入端部側ほど太い箇所が多くなる。
【0026】
ハウジング10のうち、下凸片部11aと上凸片部11bとの間、及び上凸片部11bと凸帯部11cとの間には、夫々周溝10a、10bが形成されている。周溝10a、10bの外周径は、誘導部13の外周径と略等しい(図3(h)参照)。また、凸帯部11cのうち、周溝10b側の周縁には、凹部11dが形成されている。凹部11dは、2つ1組で、凸帯部11cの周縁の4箇所に、上凸片部11aと互い違いの配置になるように形成される。
【0027】
ボルト2は、ボルト頭20と、軸部21と、を有する(図5参照)。軸部21は、円筒部21aと、雄ねじ部21bと、を有する。本実施形態において、ボルト2としては、円筒部21aが後述するローラー14の全長に略相当する長さのものが用いられる。
【0028】
また、ハウジング10は、ボルト2の挿出端部の内周面に形成された雌ねじ部13bを有する。本実施形態において、雌ねじ部13bは、挿通孔h1における挿出端部位置からローラー14の設置位置近傍まで形成されており(図2参照)、ボルト2の雄ねじ部21bと螺合する(図5参照)。なお、雌ねじ部13bの位置や長さは、ボルト2の雄ねじ部21bと対応するように設計される。
【0029】
ここで、ワンウェイクラッチの代表的な構造と原理は、上記特許文献3に開示されているように、互いに同心に組み合わされた2個の部材のうち、一方の部材が両方向回転運動をし得る場合に、このうちの一方向の回転運動のみを他方の部材に伝達する場合に利用される機構である。本実施形態のクラッチ機構は、図4(a)(b)に示すように、少なくともローラー14、ばね部15及び内壁凹部16から構成される。ばね部15は、ローラー14を内面凹部16から遠ざける方向への付勢力を生じる。
【0030】
軸部21を右回転させたとき(図4(a)参照)、ローラー14は、軸部21に押されてばね部15の付勢力に反してその一部が内壁凹部16に嵌まり込み、軸部21の回転トルクは、ハウジング10には伝わらなくなる。すなわち、軸部21は、ハウジング10に対して回転可能となる。一方、軸部21を左回転させたとき(図4(b)参照)、ローラー14は、ばね部15の付勢力に伴って内壁凹部16から離脱すると共に、ハウジング10の内壁と軸部21との両方に接触し、軸部21の回転トルクが、ハウジング10には伝わるようになる。すなわち、ハウジング10が固定されていない状態では、軸部21が回転するとハウジング10も一緒に回転するが、ハウジング10が固定された状態では、軸部21は回転不可となる。このクラッチ機構を用いることにより、ハウジング10が固定された状態では、軸部21を右回転させたときには、軸部21はハウジング10に対して回転可能となり、軸部21を左回転させたときには、軸部21はハウジング10に対して回転不可となる。すなわち、ワンウェイクラッチ1は、ボルト2を締める方向にのみ回転可能とする。
【0031】
次に、本実施形態のワンウェイクラッチ1及びそれを用いた締結具の施工手順について、図5を参照して説明する。ここでは、ワンウェイクラッチ1を対象物Bへ埋め込んだ後、被固定物Aを、対象物Bに取り付ける際の手順を示す。被固定物Aには、予めボルト軸21を挿通するための孔Haが設けられており、また、対象物Bには、下穴Hbが設けられている。下穴Hbは、フランジ部12、誘導部13及び軸部21に夫々対応するように、口径が3段階で異なるように形成される。
【0032】
下穴Hbの主要部は、誘導部13に対応する口径となっている。ワンウェイクラッチ1のハウジング10の外周面には凸片部11が設けられており、凸片部11が設けられた箇所の外周径は、下穴Hbの主要部の口径よりも大きい。そのため、ワンウェイクラッチ1を下穴Hbに埋め込む際には、凸片部11が下穴Hbの内壁を削りながらワンウェイクラッチ1が下穴Hbに埋め込まれていく。このとき、下凸片部11aが細いので、ハウジング10の平均径としては、挿入先端側の方が小さくなっており、上凸片部11b、凸帯部11cと、挿入後端側になるほど段階的に大きくなっている。つまり、ワンウェイクラッチ1は、徐々に下穴Hbを徐々に押し削りながら、下穴Hbに埋め込まれていくので、例えば、対象物Bに急激な力が加わって亀裂などが生じてしまうことを防止することができる。また、削られた対象物Bは、凸片部11の間や周溝10a、10b、凹部11dへ流動し、ワンウェイクラッチ1と下穴Hbとの間を隙間なく埋めて、ワンウェイクラッチ1の対象物Bへの固定をより強固なものとする。更に、誘導部13の端面に設けられた複数の突起13aが、下穴Hbの底部を削ると共に、底部に食い込み、対象物Bに対してハウジング10が回転しないように規制する。
【0033】
また、凸片部11は、下穴Hbに埋め込まれる際に、ワンウェイクラッチ1が下穴Hb内で空回りすることを抑制する。更に、凸帯部11cは、外周径が大きく、下穴Hbの内壁を押し広げて密着するので、ワンウェイクラッチ1が下穴Hb内で空回りすることを更に効果的に抑制する。
【0034】
上記のようにして、ワンウェイクラッチ1が対象物Bに埋め込まれた後、被固定物Aが配置され、ボルト2のボルト軸21を、被固定物Aの孔Haに挿通させ、更に、ボルト2の雄ねじ部21bをワンウェイクラッチ1のハウジング10に設けられた雌ねじ部13bへ螺合させる。そして、ボルト頭20を締め付けることで、被固定物Aと対象物Bとを一体的な締結状態とすることができる。このとき、ワンウェイクラッチ1のクラッチ機構により、ボルト2は、締める方向には回転するが、緩める方向には回転しないので、緩み止め効果を得ることができる。
【0035】
なお、ボルト2を緩ませるには、クラッチ機構の所定のトルク容量を超える力を加えるか、又は凸片部11が下穴Hbの内側面を削って、ハウジング10が対象物B内で回転するほどの力を加える必要があることから、一般的な使用場面を考慮した限りでは、締結状態が解かれることは殆どない。
【0036】
従って、本実施形態のワンウェイクラッチ1及びそれを用いた締結具100によれば、ボルトの締め過ぎにより、ネジ山が滑ったり、ボルト軸が切れたりということがなくなると共に、被固定物を対象物(該ハウジング外周面凸片部挿入状態)へ確実に固定し、締結状態を安定して維持することができる。
【0037】
また、本実施形態のワンウェイクラッチ1は、雌ねじ部13bが設けられているので、ワンウェイクラッチ1自体がインサートナットとしての機能を果たし、別途のナットを用いることなく、ワンウェイクラッチ1とボルト2により、被固定物Aと対象物Bとを締結するための締結具100が得られる。
【0038】
次に、本発明の第2の実施形態に係るワンウェイクラッチについて、図6を参照して説明する。本実施形態のワンウェイクラッチ1は、上記第1の実施形態と比べて、凸帯部11cや周溝10a、10bが無く、より長尺の凸片部11がフランジ部12から誘導部13の近傍まで延びた構成となっている。本実施形態においても、凸片部11を設けたことで、一定の強度でワンウェイクラッチ1を対象物B(不図示)に固定することができる。また、ワンウェイクラッチ1は、雌ねじ部13bが設けられているので、インサートナットとしての機能を果たし、別途のナットを用いることなく、被固定物Aと対象物Bとを締結することができる。
【0039】
次に、上記第2の実施形態の変形例に係るワンウェイクラッチについて、図7を参照して説明する。本変形例のワンウェイクラッチ1は、フランジ部12に彩色領域Lを設けたものである。ワンウェイクラッチ1は、ハウジング10の長さや径、凸片部11の形状など、様々なバリエーションが存在し得る。そこで、彩色領域Lには、例えば、ハウジング10のタイプ別に異なる色彩を施すことで、ワンウェイクラッチ1の取扱いの利便性を向上させることができる。
【0040】
次に、本発明の第3の実施形態に係るワンウェイクラッチ及びそれを用いた締結具について、図8乃至図11を参照して説明する。本実施形態のワンウェイクラッチ1は、ハウジング10が、ボルト2の挿出端部(図中下方)の外周面に形成されたフランジ部12を有し、フランジ部12の外径形状が多角形である。本実施形態では、フランジ部12を六角形としているが、四角形など、他の形状であってもよい。
【0041】
本実施形態では、上記実施形態とは異なり、ボルト2の挿入端部(図中上方)の外周面にフランジ部12は設けられておらず、また、凸片部11や凸帯部11cも設けられていない。一方、本実施形態でも、上記実施形態と同様に、ボルト2の挿出端部の内周面に雌ねじ部13bが設けられている。なお、クラッチ機構(ローラー14、ばね部15、内面凹部16)の構成は、上記実施形態と同様である(図10参照)。
【0042】
次に、本実施形態のワンウェイクラッチ1及びそれを用いた締結具の施工手順について、図11を参照して説明する。上記実施形態では、被固定物Aと対向する面からワンウェイクラッチ1を対象物Bへ埋め込んでいたが、本実施形態では、対象物Bにおける被固定物Aとは反対側の面からワンウェイクラッチ1を埋め込むのに適した構成となっている。
【0043】
ここでも、被固定物Aには、予めボルト軸21を挿通するための孔Haが設けられており、一方、対象物Bには、被固定物Aとは反対側の面から下穴Hbが設けられている。下穴Hbは、ハウジング10及び軸部21に夫々対応するように、口径が2段階で異なるように形成される。ワンウェイクラッチ1を下穴Hbに圧入すると、フランジ部12が対象物Bの裏側面に当接し、ワンウェイクラッチ1は、それ以上は下穴Hbに埋め込めなくなる。
【0044】
上記のようにして、ワンウェイクラッチ1が対象物Bに埋め込まれた後、被固定物Aが配置され、ボルト2のボルト軸21を、被固定物Aの孔Haに挿通させ、更に、ボルト2の雄ねじ部21bをワンウェイクラッチ1のハウジング10に設けられた雌ねじ部13bへ螺合させる。ワンウェイクラッチ1は、フランジ部12が対象物Bの裏側面と当接しており、ねじを締めていくほどボルト頭20とフランジ部12とによって被固定物Aと対象物Bとが強く一体的に締結される。また、フランジ部12を多角形(六角形)としている、フランジ部12側を六角レンチなどで固定、締め上げることもできる。
【0045】
なお、本実施形態のハウジング10においても、上記実施形態で示した凸片部11や凸帯部11cを設けてもよい。しかし、ワンウェイクラッチ1のフランジ部12とボルト2のボルト軸21で、被固定物A及び対象物Bを強く挟持する構成なので、ワンウェイクラッチ1が対象物Bに固定されている必要はなく、凸片部11が無くても、被固定物Aと対象物Bとを確実に締結することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 ワンウェイクラッチ
10 ハウジング
11 凸片部
11a 下凸片部(凸片部)
11b 上凸片部(凸片部)
11c 凸帯部
12 フランジ部
13 誘導部
13b 雌ねじ部
14 ローラー(クラッチ機構)
15 ばね部(クラッチ機構)
16 内壁凹部(クラッチ機構)
100 締結具
2 ボルト
20 ボルト頭
21 軸部
21a 円筒部
21b 雄ねじ部
A 被固定物
B 対象物
h1 挿通孔
L 彩色領域

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11