(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089114
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】内燃機関の排気浄化システムおよび内燃機関の排気浄化方法
(51)【国際特許分類】
F01N 3/08 20060101AFI20240626BHJP
【FI】
F01N3/08 C
F01N3/08 A ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204286
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】永森 敬士
【テーマコード(参考)】
3G091
【Fターム(参考)】
3G091AB02
3G091AB06
3G091AB13
3G091AB14
3G091BA07
3G091BA14
3G091DA08
3G091EA34
3G091GB03Z
3G091GB04Z
3G091GB05Z
3G091GB10Z
3G091HA15
(57)【要約】
【課題】電気化学リアクタのNOx浄化性能の低下を抑制する。
【解決手段】固体電解質の表面に形成したカソード電極とアノード電極との間に電圧を印加して、排ガス中のNOxを還元浄化する電気化学リアクタを有する排気浄化システムであって、電気化学リアクタに流入する排ガスの空燃比がリッチのとき(S11で肯定判定)、電極間への電圧の印加を停止する。固体電解質の分解を抑止でき、NOx浄化性能の低下を抑止できる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と第2電極との間に配設された、酸素イオン伝導性を有する固体電解質を含み、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加することにより、排ガスに含まれるNOxを還元浄化する電気化学リアクタと、
前記電気化学リアクタに流入する排ガスの酸素濃度の情報を取得する取得部と、
前記第1電極と前記第2電極との間に印加する電圧を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記取得部で取得した排ガスの酸素濃度が所定値以下のとき、
前記第1電極と前記第2電極への電圧の印加を停止する、あるいは、前記第1電極と前記第2電極に印加する電圧を設定値以下にするよう構成されている、内燃機関の排気浄化システム。
【請求項2】
前記取得部は、前記電気化学リアクタの上流の排気通路に設けた、排ガスの空燃比がリッチのときリッチ信号を出力し、排ガスの空燃比がリーンのときリーン信号を出力するO2センサであり、
前記制御部は、前記O2センサがリッチ信号を出力しているとき、前記第1電極と前記第2電極への電圧の印加を停止する、あるいは、前記第1電極と前記第2電極に印加する電圧を設定値以下にする、請求項1に記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項3】
前記取得部は、前記電気化学リアクタの上流の排気通路に設けた、排ガスの空燃比を検出する空燃比センサであり、
前記制御部は、前記空燃比センサで検出した排ガスの空燃比がリッチであるとき、前記第1電極と前記第2電極への電圧の印加を停止する、あるいは、前記第1電極と前記第2電極に印加する電圧を設定値以下にする、請求項1に記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項4】
前記取得部は、前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記電気化学リアクタに流入する排ガスの酸素濃度の情報を取得する、請求項1に記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項5】
前記固体電解質は、酸化物系固体電解質である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項6】
前記固体電解質は、酸化セリウムを含む、請求項5に記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項7】
前記第1電極および前記第2電極の少なくとも一方は、銀(Ag)を含む、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項8】
電気化学リアクタを用いた、内燃機関の排気浄化方法であって、
前記電気化学リアクタは、第1電極と第2電極の間に配設された、酸素イオン伝導性を有する固体電解質を含み、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加することにより、排ガスに含まれるNOxを還元浄化するように構成され、
前記電気化学リアクタに流入する排ガスの酸素濃度の情報を取得することと、
前記酸素濃度が所定値以下のとき、前記第1電極と前記第2電極への電圧の印加を停止する、あるいは、前記第1電極と前記第2電極に印加する電圧を設定値以下にすることと、を含む、内燃機関の排気浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内燃機関の排気浄化システムおよび内燃機関の排気浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排ガス中に含まれるNOx(窒素酸化物)を浄化するために、排気通路に電気化学リアクタを備えた内燃機関が知られている。たとえば、特開2016-14376号公報(特許文献1)には、NOx吸蔵還元触媒(NOx storage reduction catalyst:以下、NSR触媒とも称する)の下流に電気化学リアクタを設け、NSR触媒のNOx放出還元処理時に、NSR触媒から流出するNOxを、電気化学リアクタによって還元浄化することが記載されている。電気化学リアクタは、酸素イオン伝導性を有する固体電解質からなり、この固体電解質に形成した電極間に電圧を印加して、電気化学的にNOxを還元浄化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、NSR触媒に流入する排ガスの空燃比をリッチとし、NSR触媒に吸蔵されていたNOxを放出還元する際に、電気化学リアクタの電極間に電圧を印加して、NSR触媒から流出する(リークする)NOxを浄化している。電気化学リアクタに流入する排ガスの空燃比がリッチであり、排ガスに酸素(O2)が存在しない雰囲気において、電気化学リアクタの電極間に電圧を印加すると、固体電解質が分解し、電気化学リアクタのNOx浄化性能が低下する。
【0005】
本開示の目的は、電気化学リアクタのNOx浄化性能の低下を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示の内燃機関の排気浄化システムは、第1電極と第2電極との間に配設された、酸素イオン伝導性を有する固体電解質を含み、第1電極と第2電極との間に電圧を印加することにより、排ガスに含まれるNOxを還元浄化する電気化学リアクタと、電気化学リアクタに流入する排ガスの酸素濃度の情報を取得する取得部と、第1電極と第2電極との間に印加する電圧を制御する制御部と、を備える。制御部は、取得部で取得した排ガスの酸素濃度が所定値以下のとき、第1電極と第2電極への電圧の印加を停止する、あるいは、第1電極と第2電極に印加する電圧を設定値以下にするよう構成されている。
【0007】
この構成によれば、取得部で取得した排ガスの酸素濃度が所定値以下のとき、電気化学リアクタの第1電極と第2電極への電圧の印加を停止する。電気化学リアクタに流入する排ガスに、実質的に酸素が存在しないほど、排ガスの酸素濃度が所定値以下になると、第1電極と第2電極への電圧の印加が停止されるので、固体電解質の分解を抑制でき、電気化学リアクタのNOx浄化性能の低下を抑制できる。なお、「排ガスに、実質的に酸素が存在しない」とは、排ガス中の酸素濃度のバラツキ等により、部分的に酸素は存在するが、固体電解質の大部分(たとえば、90%以上)の領域において、酸素が存在しない、等の状態である。
【0008】
この構成によれば、取得部で取得した排ガスの酸素濃度が所定値以下のとき、電気化学リアクタの第1電極と第2電極に印加する電圧を設定値以下にする。電気化学リアクタに流入する排ガスに、実質的に酸素が存在しないほど、排ガスの酸素濃度が所定値以下になると、電極間に印加される電圧が設定値以下になるので、固体電解質の分解を抑制できる。排ガスに酸素が存在しない雰囲気において、電極間に印加される電圧が低いほど、固体電解質の分解する速度が遅くなる(分解する量が少なくなる)。設定値は、固体電解質の分解による劣化の進行を許容できる程度の電圧値、あるいは、固体電解質の分解が開始しない電圧値であってよい。
【0009】
(2)取得部は、電気化学リアクタの上流の排気通路に設けた、排ガスの空燃比がリッチのときリッチ信号を出力し、排ガスの空燃比がリーンのときリーン信号を出力するO2センサであり、制御部は、O2センサがリッチ信号を出力しているとき、第1電極と第2電極への電圧の印加を停止する、あるいは、第1電極と第2電極に印加する電圧を、設定値以下にするよう構成されてもよい。
【0010】
この構成によれば、電気化学リアクタに流入する排ガスに酸素が存在しない雰囲気になると、O2センサがリッチ信号を出力するので、第1電極と第2電極への電圧の印加を停止し、あるいは、第1電極と第2電極に印加する電圧を設定値以下にする。これにより、固体電解質の分解を抑制でき、電気化学リアクタのNOx浄化性能の低下を抑制できる。
【0011】
(3)取得部は、電気化学リアクタの上流の排気通路に設けた、排ガスの空燃比を検出する空燃比センサであり、制御部は、空燃比センサで検出した排ガスの空燃比がリッチであるとき、第1電極と第2電極への電圧の印加を停止する、あるいは、第1電極と第2電極に印加する電圧を設定値以下にするよう構成されてもよい。
【0012】
この構成によれば、電気化学リアクタに流入する排ガスに酸素が存在しない雰囲気になると、空燃比センサで検出する排ガスの空燃比がリッチになるので、第1電極と第2電極への電圧の印加が停止し、あるいは、第1電極と第2電極に印加する電圧が設定値以下になる。これにより、固体電解質の分解を抑制でき、電気化学リアクタのNOx浄化性能の低下を抑制できる。
【0013】
(4)取得部は、内燃機関の運転状態に基づいて、電気化学リアクタに流入する排ガスの酸素濃度の情報を取得してもよい。
【0014】
排ガスの空燃比は、内燃機関の運転状態、たとえば、内燃機関の筒内(シリンダー)に供給される新気(空気)量と燃料量の比率によって変化する。この構成によれば、内燃機関の運転状態に基づいて、電気化学リアクタに流入する排ガスの酸素濃度の情報を取得するので、排気通路にO2センサや空燃比センサを備えない内燃機関であっても、電気化学リアクタのNOx浄化性能の低下を抑制できる。
【0015】
(5)上記(1)~(4)において、固体電解質は酸化物系固体電解質であってよい。
(6)上記(5)において、固体電解質は、酸化セリウムを含んでもよい。
【0016】
この構成によれば、酸化セリウム(セリア)は、低温においても、酸素イオン伝導性が良好であるので(酸素イオン伝導率が大きいので)、高いNOx浄化性能を得ることができる。なお、酸化セリウムは、ガドリニアドープセリア(Gadolinia Doped Ceria/Gadolinium Doped Ceria(GDC):Ce1-xGdxO2-y)であってよい。
【0017】
(7)上記(1)~(6)において、第1電極および第2電極の少なくとも一方は、銀(Ag)を含んでもよい。
【0018】
この構成によれば、銀(Ag)は、低温での活性に優れるため、低温領域におけるNOx浄化性能を向上することができる。なお、第1電極、第2電極のうち、負極の電極は、NOxを吸蔵するNOx吸蔵材と銀(Ag)を含むようにしてよく、この場合、NOx吸蔵材はバリウム(Ba)であってよい。これにより、排ガスの空燃比がリーンのとき(排ガスが酸化雰囲気のとき)、電極間に電圧を印加することによって、排ガス中のNOxを選択的に還元することができ、NOxの浄化性能を向上できる。
【0019】
(8)本開示の内燃機関の排気浄化方法は、電気化学リアクタと用いた内燃機関の排気浄化方法である。電気化学リアクタは、第1電極と第2電極との間に配設された、酸素イオン伝導性を有する固体電解質を含み、第1電極と第2電極との間に電圧を印加することにより、排ガスに含まれるNOxを還元浄化するように構成されている。排気浄化方法は、電気化学リアクタに流入する排ガスの酸素濃度の情報を取得することと、酸素濃度が所定値以下のとき、第1電極と第2電極への電圧の印加を停止する、あるいは、第1電極と第2電極に印加する電圧を設定値以下にすることと、を含む。
【0020】
この方法によれば、電気化学リアクタに流入する排ガスの酸素濃度が所定値以下のとき、電気化学リアクタの第1電極と第2電極への電圧の印加を停止する。電気化学リアクタに流入する排ガスに、実質的に酸素が存在しないほど、排ガスの酸素濃度が所定値以下になると、第1電極と第2電極への電圧の印加が停止されるので、固体電解質の分解を抑制でき、電気化学リアクタのNOx浄化性能の低下を抑制できる。なお、「排ガスに、実質的に酸素が存在しない」とは、排ガス中の酸素濃度のバラツキ等により、部分的に酸素は存在するが、固体電解質の大部分(たとえば、90%以上)の領域において、酸素が存在しない、等の状態である。
【0021】
この方法によれば、電気化学リアクタに流入する排ガスの酸素濃度が所定値以下のとき、電気化学リアクタの第1電極と第2電極に印加する電圧を設定値以下にする。電気化学リアクタに流入する排ガスに、実質的に酸素が存在しないほど、排ガスの酸素濃度が所定値以下になると、電極間に印加される電圧が設定値以下になるので、固体電解質の分解を抑制できる。設定値は、固体電解質の分解による劣化の進行を許容できる程度の電圧値、あるいは、固体電解質の分解が開始しない電圧値であってよい。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、電気化学リアクタのNOx浄化性能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本実施の形態に係る内燃機関の排気浄化システムの構成を示す図である。
【
図2】DPF一体型電気化学リアクタの模式図である。
【
図3】(A)および(B)は、DPF一体型電気化学リアクタの故障頻度を示す図である。
【
図4】エンジンECUにて実行される、電気化学リアクタ制御ルーチンの処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】排ガスの空燃比と電極間に印加する電圧の関係の一例を示す図である。
【
図6】変形例3における、電気化学リアクタの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ、本開示の実施の形態について説明する。以下の説明では、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない場合がある。
【0025】
図1は、本実施の形態に係る内燃機関の排気浄化システムの構成を示す図である。
図1を参照して、エンジン(内燃機関)1は、排気浄化システム70を備えた圧縮着火式内燃機関(ディーゼルエンジン)である。エンジン1は、たとえば、車両の駆動源として用いられる。エンジン1は、エンジン本体10のシリンダ(気筒)12に形成された燃焼室に、燃料噴射弁(インジェクター)14から燃料を噴射し、圧縮自着火を行う内燃機関である。本実施の形態において、エンジン1は4気筒である。エンジン1の吸気通路20には、エアクリーナ22、インタークーラ24、および絞り弁(ディーゼルスロットル弁)26が設けられており、エアクリーナ22で異物が除去された新気(空気)は、ターボ過給器30のコンプレッサ32で過給(圧縮)され、インタークーラ24で冷却されて、吸気マニホールド28に供給され、吸気ポートから各燃焼室に供給される。
【0026】
燃料タンク40には、燃料が貯留されている。燃料タンク40内の燃料は、フィードポンプ41によって高圧燃料ポンプ42へ供給され、高圧燃料ポンプ42から吐出された高圧の燃料が燃料通路43を介してコモンレール44に圧送される。コモンレール44に蓄えられた高圧の燃料が、インジェクター14から燃焼室(筒内)に噴射される。
【0027】
燃焼室から排出される排気(排ガス)は、排気マニホールド50に集められ、排気通路52を介して、外気に放出される。また、排気の一部は、EGR(Exhaust Gas Recirculation)通路60を介して、吸気マニホールド28に還流される。EGR通路60には、EGRクーラ62とEGR弁64が設けられる。
【0028】
排気通路52には、ターボ過給器30のタービン34が設けられ、タービン34の下流に、排気浄化システム70として、酸化触媒71、DPF(Diesel Particulate Filter)一体型電気化学リアクタ72が設けられている。酸化触媒71は、排ガスに含まれるCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、SOF(Soluble Organic Fraction:可溶性有機成分)を酸化して、浄化する。また、酸化触媒71は、DPF一体型電気化学リアクタ72に捕集したパティキュレート・マター(PM)を燃焼除去する際に、供給されたHCを燃焼(酸化)して、排ガス温度を上昇させる。
【0029】
図2は、DPF一体型電気化学リアクタ72の模式図である。DPF一体型電気化学リアクタ72は、ウォールフロー型のDPFに電極を形成して、電気化学リアクタの機能を付加したものである。DPF一体型電気化学リアクタ72は、排ガスが流れる方向に延在する、複数のセル壁721によって形成された流路(セル)720を有するハニカム構造を有し、セル720の入口側と出口側が、交互に、栓部材722によって目詰めされている。セル720を形成するセル壁721は、酸素イオン伝導性を有する多孔質の固体電解質から構成されており、本実施の形態では、ガドリニアドープセリア(GDC:Ce
1-xGd
xO
2-y)から構成されている。なお、固体電解質は、GDCに限られず、酸化物固体電解質であればよく、たとえば、サマリウムドープセリア(SDC)、イットリウムドープセリア(YDC)、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、等であってよい。また、固体電解質は、酸素イオン伝導性を示すプロトン伝導性酸化物から構成されてよく、BaZrO
3系、SrCeO
3系のプロトン伝導性酸化物であってもよい。
【0030】
セル壁721には、カソード電極750とアノード電極760が形成されており、セル壁721(固体電解質)が、カソード電極750とアノード電極760との間に配設された構成とされている。カソード電極750は、たとえば、ペロブスカイト構造の酸化物に、GDC、銀(Ag)、および酸化バリウム(BaO)を含む多孔質材料から構成されており、本実施の形態では、カソード電極750は、排ガス流出側のセル720に面するセル壁721の表面に形成されている。
【0031】
アノード電極760は、たとえば、ペロブスカイト構造の酸化物に、GDCとAgとを含む多孔質材料から構成されており、本実施の形態では、アノード電極760は、排ガス流入側のセル720に面するセル壁721の表面に形成されている。本開示において、カソード電極750が、「第1電極」の一例に相当し、アノード電極760が、「第2電極」の一例に相当する。
【0032】
DPF一体型電気化学リアクタ72には、バッテリ(直流電源)200、および電圧調整回路300から構成される電源回路が接続される。バッテリ200は、エンジン1の補機用バッテリであってよい。電圧調整回路300は、たとえば、スイッチと可変抵抗から構成され、カソード電極750、アノード電極760への電圧の印加を停止することができ、また、カソード電極750、アノード電極760へ印加される電圧を調整可能である。電圧調整回路300は、DCDCコンバータから構成されてもよい。
【0033】
DPF一体型電気化学リアクタ72は、排ガスに含まれるPMを捕集するとともに、カソード電極750とアノード電極760との間に(電極間に)電圧が印加されることにより、排ガス中のNOxを還元し、浄化する。たとえば、リーン空燃比の排ガスに含まれるNOxは、カソード電極750のBaOに吸蔵(吸収あるいは吸着)され、BaOに吸蔵されたNOxは、電極間に印加された電圧によって、カソード電極750においてN2に還元され放出される。また、電極間に印加された電圧によって、排ガス中のNOxは、カソード電極750においてN2に還元され放出される。このNOxの還元反応によって、酸素イオン(O2-)が生成されるが、この酸素イオンは、カソード電極750からセル壁721(固体電解質)を通って、アノード電極760へ移動する。アノード電極760において、酸素イオンは電子をアノード電極760へ放出し、酸素(O2)になり、酸素は大気へ放出される。このようにして、DPF一体型電気化学リアクタ72は、排ガスに含まれるNOxを還元浄化し、電極間に印加される電圧が高いほど、NOxの浄化量が大きくなる。
【0034】
図3は、DPF一体型電気化学リアクタの故障頻度を示す図である。
図3(A)は、排ガスの空燃比(A/F)がリーンのとき(空気過剰率が1.0より大きいとき)における、電極間の印加電圧と故障頻度の関係を示している。
図3(A)における排ガスの空燃比は18.0(空気過剰率:1.2)であり、排ガス中のNOx濃度は1000ppmである。
図3(A)、(B)において、横軸は、電極間に印加した電圧の大きさであり、縦軸は故障頻度である。ここで、DPF一体型電気化学リアクタの故障とは、電圧印加の前後でセルインピーダンス(固体電解質のインピーダンス)が大きく増加し、一定数のセル壁(固体電解質)が物理的に破壊することである。DPF一体型電気化学リアクタが故障すると、NOx浄化性能が低下する。
図3(A)に示すように、排ガスの空燃比がリーンであるとき、電極間に電圧を印加しても、故障は発生しない。
【0035】
図3(B)は、排ガスの空燃比(A/F)がリッチのとき(空気過剰率が1.0より小さいとき)における、電極間の印加電圧と故障頻度の関係を示している。
図3(B)における排ガスの空燃比は14.0(空気過剰率:0.95)であり(排ガスに酸素が存在しない雰囲気であり)、排ガス中のNOx濃度は1000ppmである。
図3(B)に示すように、排ガスの空燃比がリッチであるとき、電極間に電圧が印加されると、故障が発生し、電圧が高いほど、故障の頻度が高くなる。故障が発生する原因は、明確ではないが、次にように推察される。電極間に電圧を印加すると、印加電圧下でのO2分圧になるよう電極間を酸素イオンが移動する。排ガスの空燃比がリーンであり、排ガスに酸素(O
2)が存在する場合には、電極周囲のNOxの分解の進行とともに排ガス中の酸素も分解され、酸素イオンが移動する。しかし、排ガスの空燃比がリッチのとき、電極周囲のNOxの分解は進行するものの、排ガスに酸素が存在しないので、セル壁(固体電解質)に含まれるセリア(CeO2)が一部分解され、酸素イオンが移動する。この結果、固体電解質の劣化が進行し、最終的には破壊に至るものと推察される。なお、
図3(B)に示すように、電極間に印加される電圧が高いほど、故障の頻度が高くなるが、電圧がα以下の場合には、故障が発生していない。
【0036】
本実施の形態では、DPF一体型電気化学リアクタ72に流入する排ガスの空燃比がリッチであり、排ガスに酸素(O2)が存在しない雰囲気では、カソード電極750とアノード電極760への電圧の印加を停止すること、あるいは、カソード電極750とアノード電極760との間に(電極間に)印加する電圧を設定値以下にすることによって、セル壁721(固体電解質)の分解を抑制し、NOx浄化性能の低下を抑制する。
【0037】
図1を参照して、エンジンECU100は、CPU(Central Processing Unit)101、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)からなるメモリ102、各種信号を入出力するための入出力ポート(図示せず)等を含み、メモリ102に記憶された情報、各種センサからの情報に基づいて所定の演算処理を実行し、インジェクター14、絞り弁26、高圧燃料ポンプ42、電圧調整回路300、等を制御する。
【0038】
エンジンECU100に入力される各種センサとしては、たとえば、エンジン回転速度センサ111、アクセルペダルセンサ112、エアフローメータ113、O2センサ114、等である。エンジン回転速度センサ111は、エンジン1の回転速度NEを検出する。アクセルペダルセンサ112は、ユーザによるアクセルペダル操作量(以下「アクセル開度」ともいう)APを検出する。エアフローメータ113は、吸気通路20に設けられ、エンジン1の吸気量(吸入空気量)Gaを検出する。
【0039】
O2センサ114は、DPF一体型電気化学リアクタ72の上流の排気通路52に設けられており、DPF一体型電気化学リアクタ72に流入する排ガスの空燃比がリッチであるとき、リッチ信号を出力し、空燃比がリーンであるとき、リーン信号を出力する。
【0040】
図4は、エンジンECU100にて実行される、電気化学リアクタ制御ルーチンの処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、エンジン1の作動中、所定期間毎に繰り返し処理される。まず、ステップ(以下、ステップを「S」と略す)10では、DPF一体型電気化学リアクタ72に流入する排ガスの酸素濃度を取得する。本実施の形態では、O
2センサ114の出力信号を取得する。
【0041】
続くS11では、DPF一体型電気化学リアクタ72に流入する排ガスの空燃比が、リッチであるか否かを判定する。O2センサ114の出力信号がリーン信号であり、DPF一体型電気化学リアクタ72に流入する排ガスがリーンのときには、S11で肯定判定され、S12へ進む。DPF一体型電気化学リアクタ72に流入する排ガスがリッチであり、排ガスに酸素が存在しないとき、O2センサ114の出力信号はリッチ信号であるので、S11で肯定判定され、S13へ進む。
【0042】
S12では、電極間(カソード電極750とアノード電極760との間)に、電圧を印加し、NOxの還元浄化を行う。たとえば、エンジン1の運転状態から推定したNOx排出量が多いほど、電圧が高くなるよう、電圧調整回路300が制御し、今回野ルーチンを終了する。
【0043】
S13では、電極間の電圧の印加を停止し、今回のルーチンを終了する。あるいは、S13では、電極間の電圧の印加を停止することなく、電圧を設定値以下に制限し、今回のルーチンを終了してもよい。設定値は、
図3(B)に示したαであってよく、この場合には、電極間に印加される電圧がα以下に制限されるので、DPF一体型電気化学リアクタ72に故障が発生しない。また、設定値は、αより高い電圧であるβ(
図3(B)参照)であってもよい。電気化学リアクタの劣化は、排ガスに酸素が存在しない雰囲気において電極間に電圧を印加したことによる固体電解質の分解以外の要因(たとえば、経時変化等)によっても進行する。よって、βは、これらの要因による劣化の進行と同程度になる印加電圧に設定される。
【0044】
また、排ガスに酸素が存在しない雰囲気において、電極間に印加される電圧が低いほど、セル壁721(固体電解質)の分解する速度が遅くなる(分解する量が少なくなる)。この観点から、設定値は、固体電解質の分解による劣化の進行を許容できる程度の電圧値、あるいは、固体電解質の分解が開始しない電圧値であってもよい。
【0045】
本実施の形態において、エンジン1の排気浄化システム70は、DPF一体型電気化学リアクタ72を有する。DPF一体型電気化学リアクタ72は、カソード電極750とアノード電極760との間に配設された、酸素イオン伝導性を有する固体電解質からなるセル壁721を含み、カソード電極750とアノード電極760との間に電圧を印加することにより、排ガスに含まれるNOxを還元浄化する。エンジンECU100は、O2センサ114の検出信号に基づいて、DPF一体型電気化学リアクタ72に流入する排ガスの酸素濃度の情報を取得し、排ガスの空燃比がリッチのとき、カソード電極750とアノード電極760への電圧の印加を停止する。あるいは、排ガスの空燃比がリッチのとき、カソード電極750とアノード電極760に印加する電圧を設定値以下にするよう構成されている。
【0046】
本実施の形態によれば、DPF一体型電気化学リアクタ72に流入する排ガスの空燃比がリッチであり、排ガスに酸素が存在しない場合、電極間への電圧の印加が停止されるので、固体電解質の分解を抑制でき、NOx浄化性能の低下を抑制できる。また、排ガスの空燃比がリッチであり、排ガスに酸素が存在しない場合、電極間に印加される電圧が設定値以下になるので、固体電解質の分解を抑制でき、NOx浄化性能の低下を抑制できる。
【0047】
本実施の形態によれば、DPF一体型電気化学リアクタ72のセル壁721は、GDCを含む酸化物系固体電解質から構成され、酸化セリウム(セリア)を含んでいる。酸化セリウムは、低温においても、酸素イオン伝導性が良好であるので(酸素イオン伝導性が大きいので)、高いNOx浄化性能を選ることができる。また、カソード電極750、アノード電極760は、Agを含んでいる。Agは、低温での活性に優れるため、低温領域におけるNOx浄化性能を向上することができる。さらに、カソード電極750は、NOx吸蔵材としてのバリウムを、酸化バリウムとして含んでいる。これにより、排ガスの空燃比がリーンのとき(排ガスが酸化雰囲気のとき)、電極間に電圧を印加することによって、排ガス中のNOxを選択的に還元することができ、NOxの浄化性能を向上できる。
【0048】
なお、本実施の形態において、O
2センサ114およびS10(
図4)の処理が、本開示の「取得部」の一例に相当し、S11~S13の処理が、本開示の「制御部」の一例に相当する。
【0049】
(変形例1)
上記の実施形態では、O2センサ114を用いて、排ガスの酸素濃度(空燃比)を検出していたが、O2センサ114に代えて、空燃比センサ(全域空燃比センサ)を用いて、DPF一体型電気化学リアクタ72に流入する排ガスの空燃比を検出するようにしてもよい。
【0050】
O
2センサ114に代えて空燃比センサを用いる場合、
図4のS11において、空燃比センサで検出した空燃比が理論空燃比(ストイキ)より小さい(リッチ)である場合、肯定判定され、空燃比センサで検出した空燃比が理論空燃比より大きい(リーン)である場合、否定判定されるようにしてよい。
【0051】
空燃比センサを用いる場合、空燃比センサで検出した空燃比が所定値以下のときに、S11において肯定判定されるようにしてもよい。排ガスの空燃比が弱リーンであっても、排ガス中の酸素濃度のバラツキ等により、DPF一体型電気化学リアクタ72のセル壁721(固体電解質)において、部分的に酸素は存在するが、セル壁721の大部分(たとえば、90%以上)の領域において、酸素が存在しない状態が生じる。所定値は、このような状態が生じる空燃比の値であり、予め実験等によって決定してよい。
【0052】
空燃比センサを用いた場合、空燃比センサで検出した空燃比に応じて、電極間に印加する電圧を制御してもよい。
図5は、排ガスの空燃比と電極間に印加する電圧の関係の一例を示す図である。
図5において、横軸は排ガスの空燃比であり、縦軸は、電極間に印加する電圧である。
図5において、破線は、DPF一体型電気化学リアクタ72に流入する排ガスの空燃比が理論空燃比より小さいとき(リッチであるとき)、電極間に印加する電圧を停止する例である。
図5において、実線は、排ガスの空燃比がリッチであるとき、電圧を設定値以下に制限する例を示している。
図5に示すように、空燃比センサで検出した排ガスの空燃比に基づいて、電極間に印加する電圧を制御することにより、DPF一体型電気化学リアクタ72に流入する排ガスの空燃比がリッチであり、排ガスに酸素が存在しない場合における固体電解質の分解を抑制でき、NOx浄化性能の低下を抑制できる。なお、空燃比センサは、NOx濃度も検出可能なNOx-空燃比複合センサであってもよい。
【0053】
(変形例2)
排気通路52に、酸素濃度を検出するセンサを設けることなく、エンジン1の運転状態から、排ガスの空燃比を推定してもよい。
【0054】
エンジンECU100は、アクセル開度AP、エンジン回転速度NEに基づいて、燃料噴射量Qfおよび燃料噴射時期を算出し、インジェクター14から供給さ燃料量等を制御している。燃料噴射量Qfは、アクセル開度APとエンジン回転速度NEをパラメータとしたマップとして予め設定されている。排ガスの空燃比は、エンジン1に供給される新気(空気)量と燃料噴射量によって定まる。たとえば、エアフローメータ113で検出した、吸入空気量Gaとエンジン回転速度NEに基づいて、エンジン1の1回転当たりの吸入空気量Ga/Nを算出し、1回転当たりの吸入空気量Ga/Nと燃料噴射量Qfとを用いて、排ガスの空燃比を算出する。そして、算出した、排ガスの空燃比がリッチであるとき、電極間の電圧の印加を停止する、あるいは、電極間に印加する電圧を設定値以下に制御するようにしてもよい。
【0055】
また、エンジン1が、DPF一体型電気化学リアクタ72で捕集したPMを燃焼除去する際(DPF再生時)に、排ガスの空燃比をリッチに制御して、DPF一体型電気化学リアクタ72の昇温を実行する制御を採用している場合には、DPF再生時であることを示すフラグを用いて、電極間の電圧の印加を停止する、あるいは、電極間に印加する電圧を設定値以下に制御するようにしてもよい。
【0056】
(変形例3)
上記実施の形態では、電気化学リアクタは、ウォールフロー型のDPFに電極を形成して、電気化学リアクタの機能を付加した、DPF一体型電気化学リアクタ72を採用している。しかし、PMを捕集するDPF機能を備えない、電気化学リアクタあってもよい。
【0057】
図6は、変形例3における、電気化学リアクタ80の模式図である。電気化学リアクタ80は、複数のセル壁821によって形成された流路(セル)820を有するハニカム構造を有する。セル820を形成するセル壁821は、DPF一体型電気化学リアクタ72と同様に、酸素イオン伝導性を有する多孔質の固体電解質から構成されている。
【0058】
セル壁821には、カソード電極850とアノード電極760が形成されており、セル壁821(固体電解質)が、カソード電極850とアノード電極860との間に配設された構成とされている。カソード電極850は、DPF一体型電気化学リアクタ72と同様に、GDC、銀(Ag)、および酸化バリウム(BaO)を含む多孔質材料から構成されている。アノード電極860も、DPF一体型電気化学リアクタ72と同様に、GDCとAgとを含む多孔質材料から構成されている。また、電気化学リアクタ80の各電極には、DPF一体型電気化学リアクタ72と同様の電源回路(バッテリ200、電圧調整回路300)が接続されている。
【0059】
この電気化学リアクタ80は、DPF一体型電気化学リアクタ72と同様に、ターボ過給器30のタービン34の排気通路52に設けられ、電極間に電圧を印加することによって、排ガス中のNOxを浄化する。なお、電気化学リアクタ80の上流、あるいは、下流に、DPFを配設するようにしてもよい。
【0060】
この変形例3においても、電気化学リアクタ80に流入する排ガスの空燃比に基づいて、上記実施の形態と同様に、電極間に印加される電圧を制御することにより、電気化学リアクタ80の固体電解質の分解を抑制し、NOx浄化性能の低下を抑止できる。
【0061】
上記実施の形態では、エンジン1が圧縮着火式内燃機関(ディーゼルエンジン)である例を説明したが、エンジン(内燃機関)は、火花点火式内燃機関(ガソリンエンジン)であってよく、水素(H2)やアンモニア(NH3)を燃料とするエンジンであってもよい。
【0062】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0063】
1 エンジン、10 エンジン本体、12 シリンダ、14 インジェクター、20 吸気通路、22 エアクリーナ、24 インタークーラ、26 絞り弁、28 吸気マニホールド、30 ターボ過給器、32 コンプレッサ、34 タービン、40 燃料タンク、41 フィードポンプ、 42 高圧燃料ポンプ、43 燃料通路、44 コモンレール、45 燃料通路、50 排気マニホールド、52 排気通路、60 EGR通路、62 EGRクーラ、64 EGR弁、70 排気浄化システム、71 酸化触媒、72 DPF一体型電気化学リアクタ、80 電気化学リアクタ、100 エンジンECU、101 CPU、102 メモリ、111 エンジン回転速度センサ、112 アクセルペダルセンサ、113 エアフローメータ、114 O2センサ、200 バッテリ、300 電圧調整回路、720,820 セル、721,821 セル壁、722 栓部材、750,850 カソード電極、760,860 アノード電極。