(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089115
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法及び半導体装置の検査方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20240626BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20240626BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20240626BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
H01L29/78 658L
H01L29/78 653C
H01L29/78 652T
H01L29/78 652K
H01L21/66 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204287
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 優
【テーマコード(参考)】
4M106
【Fターム(参考)】
4M106CA01
4M106CA10
4M106CB19
4M106DJ27
(57)【要約】
【課題】積層欠陥の種類を特定可能な技術を提供する。
【解決手段】半導体基板102上に積層したエピ層104内にpnダイオード構造を含む半導体装置1の製造方法は、前記エピ層内に形成される積層欠陥の種類を特定する特定工程、を備えており、前記特定工程は、前記pnダイオード構造を介して通電する第1ステップS1と、前記第1ステップの後に、前記積層欠陥に依存する電気特性値を測定する第2ステップS2と、前記第2ステップの後に、前記pnダイオード構造を介して通電する第3ステップS3と、前記第3ステップの後に、前記積層欠陥に依存する電気特性値を測定する第4ステップS4と、を備えている。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板(102)上に積層したエピ層(104)内にpnダイオード構造を含む半導体装置(1)の製造方法であって、
前記エピ層内に形成される積層欠陥の種類を特定する特定工程、を備えており、
前記特定工程は、
前記pnダイオード構造を介して通電する第1ステップ(S1)と、
前記第1ステップの後に、前記積層欠陥に依存する電気特性値を測定する第2ステップ(S2)と、
前記第2ステップの後に、前記pnダイオード構造を介して通電する第3ステップ(S3)と、
前記第3ステップの後に、前記積層欠陥に依存する電気特性値を測定する第4ステップ(S4)と、を備える、半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記第1ステップの通電時間は、前記エピ層内に形成される前記積層欠陥のうち三角状欠陥(2)の拡張が開始してから停止したと推定されるまでの拡張推定時間に設定される、請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記エピ層は、n型のドリフト層(12)と、p型のボディ層(13)と、を有しており、
前記拡張推定時間は、前記エピ層のオフ角(θ)と前記ドリフト層の厚み(Dt)から算出される前記三角状欠陥の拡張長さを前記積層欠陥の拡張速度で除して算出される、請求項2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記積層欠陥の前記拡張速度は、通電時の電流密度と前記エピ層の温度に基づいて設定される、請求項3に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記半導体基板が炭化珪素である、請求項1~4のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
半導体基板(102)上に積層したエピ層(104)内にpnダイオード構造を含む半導体装置(1)の検査方法であって、
前記エピ層内に形成される積層欠陥の種類を特定する特定工程、を備えており、
前記特定工程は、
前記pnダイオード構造を介して通電する第1ステップ(S1)と、
前記第1ステップの後に、前記積層欠陥に依存する電気特性値を測定する第2ステップ(S2)と、
前記第2ステップの後に、前記pnダイオード構造を介して通電する第3ステップ(S3)と、
前記第3ステップの後に、前記積層欠陥に依存する電気特性値を測定する第4ステップ(S4)と、を備える、半導体装置の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、半導体装置の製造方法及び半導体装置の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特定種類の半導体装置は、半導体基板上に積層したエピ層内にpnダイオード構造を含むことがある。例えば、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)と称される種類の半導体装置は、半導体基板上に積層したエピ層内にn型のドリフト層とp型のボディ層で構成されるpnダイオード構造を含んでいる。このようなpnダイオード構造を介して電流が流れると、電子と正孔の再結合エネルギーによってエピ層内に積層欠陥が形成されることが知られている。積層欠陥の形成は、半導体装置のオン抵抗を増加させてしまう。
【0003】
特許文献1は、順方向抵抗値が飽和するまでpnダイオード構造を介して通電し、通電前後の順方向抵抗値の変化度合いから積層欠陥の有無を検出する方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
積層欠陥には複数の種類があり、例えば三角状欠陥、帯状欠陥、コ型欠陥が知られている。三角状欠陥は、エピ層内において比較的小さな面積で形成されるので、半導体装置のオン抵抗を増加させる影響は小さい。一方、帯状欠陥及びコ型欠陥は、エピ層内において比較的大きな面積で形成されるので、半導体装置のオン抵抗を増加させる影響は大きい。特に、帯状欠陥及びコ型欠陥は、エピ層内の位置によっては大面積化し、半導体装置のオン抵抗を大幅に増加させる可能がある。このため、帯状欠陥及びコ型欠陥が形成され得る製造プロセスは、改善する必要がある。
【0006】
特許文献1の技術では、積層欠陥の有無については検出できるものの、積層欠陥の種類については特定することができない。本願明細書は、積層欠陥の種類を特定可能な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書は、半導体基板上に積層したエピ層内にpnダイオード構造を含む半導体装置を製造する方法を提供することができる。この製造方法は、前記エピ層内に形成される積層欠陥の種類を特定する特定工程を備えていてもよい。前記特定工程は、前記pnダイオード構造を介して通電する第1ステップと、前記第1ステップの後に、前記積層欠陥に依存する電気特性値を測定する第2ステップと、前記第2ステップの後に、前記pnダイオード構造を介して通電する第3ステップと、前記第3ステップの後に、前記積層欠陥に依存する電気特性値を測定する第4ステップと、を備えていてもよい。前記第1ステップと前記第3ステップの通電は、連続して実施されてもよい。即ち、前記第2ステップの測定は連続した通電中に実施され、前記第2ステップの測定前を前記第1ステップとし、前記第2ステップの測定後を前記第3ステップとしてもよい。
【0008】
本明細書はまた、半導体基板上に積層したエピ層内にpnダイオード構造を含む半導体装置を検査する方法を提供することができる。この検査方法は、前記エピ層内に形成される積層欠陥の種類を特定する特定工程を備えていてもよい。前記特定工程は、前記pnダイオード構造を介して通電する第1ステップと、前記第1ステップの後に、前記積層欠陥に依存する電気特性値を測定する第2ステップと、前記第2ステップの後に、前記pnダイオード構造を介して通電する第3ステップと、前記第3ステップの後に、前記積層欠陥に依存する電気特性値を測定する第4ステップと、を備えていてもよい。前記第1ステップと前記第3ステップの通電は、連続して実施されてもよい。即ち、前記第2ステップの測定は連続した通電中に実施され、前記第2ステップの測定前を前記第1ステップとし、前記第2ステップの測定後を前記第3ステップとしてもよい。
【0009】
上記半導体装置の製造方法及び検査方法では、前記第1ステップで通電を開始すると、前記エピ層内に前記積層欠陥の形成が始まる。前記積層欠陥の形成が開始してから拡張が停止するまでの時間は、前記積層欠陥の種類に応じて異なる。上記製造方法及び上記検査方法によると、前記第2ステップで測定された前記電気特性値と前記第4ステップで測定された前記電気特性値の間に優位な差があれば、前記第1ステップの通電では拡張が停止せず、前記第3ステップの通電でも拡張が継続する種類の前記積層欠陥が存在していることを特定することができる。このように、上記半導体装置の製造方法及び検査方法では、少なくとも一部の前記積層欠陥の種類を特定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本明細書が開示する半導体装置のアクティブ領域と終端領域の平面レイアウトを模式的に示す半導体層の平面図である。
【
図2】本明細書が開示する半導体装置の半導体層の要部断面図を模式的に示しており、
図1のII-II線に対応した断面図である。
【
図3】本明細書が開示する半導体装置の半導体層に形成される積層欠陥を模式的に示す図である。
【
図4】本明細書が開示する半導体装置に内蔵するpnダイオード構造を介して通電したときに、ドリフト層内における三角状欠陥の拡張が開始した直後の様子を模式的に示す図である。
【
図5】本明細書が開示する半導体装置に内蔵するpnダイオード構造を介して通電したときに、ドリフト層内における三角状欠陥の拡張途中の様子を模式的に示す図である。
【
図6】本明細書が開示する半導体装置に内蔵するpnダイオード構造を介して通電したときに、ドリフト層内における三角状欠陥の拡張が停止した後の様子を模式的に示す図である。
【
図7】本明細書が開示する半導体装置のドリフト層内に形成された三角状欠陥を平面視したときの形状を模式的に示す図である。
【
図8】本明細書が開示する半導体装置に内蔵するpnダイオード構造を介して通電したときの、異なる電流密度における積層欠陥の拡張速度と半導体層の温度の関係を示す図である。
【
図9】本明細書が開示する半導体装置に内蔵するpnダイオード構造を介して通電したときの、通電時間とオン抵抗変動量の関係を示す図である。
【
図10】
図9の通電時間t1における、半導体層に形成される積層欠陥を模式的に示す図である。
【
図11】
図9の通電時間t2における、半導体層に形成される積層欠陥を模式的に示す図である。
【
図12】
図9の通電時間t3における、半導体層に形成される積層欠陥を模式的に示す図である。
【
図13】本明細書が開示する半導体装置の製造方法の一部のフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(半導体装置1の構成)
図1に示されるように、半導体装置1は、半導体層10を用いて構成された半導体チップである。半導体層10は、その上面に直交する方向から見たときに(以下、「平面視したときに」という)、アクティブ領域10Aと、アクティブ領域10Aの周囲を一巡するように取り囲む終端領域10Bと、を含んでいる。アクティブ領域10Aは、後述するように、半導体層10内において電流が流れる領域であり、特定のデバイス構造が形成された領域である。終端領域10Bは、半導体装置1の耐圧を確保するための領域であり、例えばガードリング構造又はリサーフ構造が形成された領域である。以下では、半導体層10の厚み方向をz方向といい、半導体層10の上面に平行な一方向をx方向といい、x方向とz方向に対して直交する方向をy方向という。
【0012】
図2に示されるように、半導体装置1は、MOSFETと称されるパワー半導体素子であり、半導体層10と、半導体層10の下面10bを被覆するドレイン電極22と、半導体層10の上面10aを被覆するソース電極24と、半導体層10の上面10aから深部に向けて伸びるトレンチ内に設けられている複数のトレンチゲート30と、を備えている。複数のトレンチゲート30の各々は、半導体層10を平面視したときに、y方向に沿って伸びている。また、複数のトレンチゲート30は、x方向に沿って相互に間隔を置いて配置されており、ストライプ状のレイアアウトを有している。なお、複数のトレンチゲート30のストライプ状のレイアウトは一例であり、他のレイアウトが採用されてもよい。
【0013】
半導体層10は、半導体基板102と、半導体基板102上に積層したエピ層104と、を有している。これら半導体基板102及びエピ層104は、特に限定されるものではないが、例えば4Hの炭化珪素(4H-SiC)であってもよい。半導体層10の上面10a、即ち、エピ層104の上面10aの結晶面が(0001)のSi面に対して(11-20)方向にオフ角だけ傾斜している。オフ角は、特に限定されるものではないが、例えば4°であってもよい。半導体層10は、n+型のドレイン層11と、n-型のドリフト層12と、p型のボディ層13と、p+型のボディコンタクト領域14と、n+型のソース領域15と、を有している。
【0014】
ドレイン層11は、半導体層10の下層部に設けられており、半導体層10の下面10bに露出する位置に配置されている。ドレイン層11は、半導体基板102であり、エピ層104がエピタキシャル成長するための下地基板でもある。ドレイン層11は、半導体層10の下面10bを被膜するドレイン電極22にオーミック接触している。
【0015】
ドリフト層12は、ドレイン層11とボディ層13の間に設けられている。ドリフト層12は、エピタキシャル成長技術を利用して、ドレイン層11の表面から結晶成長して形成される。
【0016】
ボディ層13は、ドリフト層12上に設けられており、半導体層10の上層部に配置されている。ボディ層13は、特に限定されるものではないが、例えばイオン注入技術を利用して、半導体層10の上層部にp型不純物イオンを導入して形成されてもよい。このように、半導体装置1では、p型のボディ層13とn型のドリフト層12で構成されるpnダイオード構造がエピ層104内に内蔵している。
【0017】
ボディコンタクト領域14は、ボディ層13上に設けられており、半導体層10の上層部に配置されており、半導体層10の上面10aに露出する位置に配置されている。ボディコンタクト領域14は、特に限定されるものではないが、例えばイオン注入技術を利用して、半導体層10の上層部にp型不純物イオンを導入して形成されてもよい。ボディコンタクト領域14は、半導体層10の上面10aを被膜するソース電極24にオーミック接触している。
【0018】
ソース領域15は、ボディ層13上に設けられており、半導体層10の上層部に配置されており、半導体層10の上面10aに露出する位置に配置されている。ソース領域15は、ボディ層13によってドリフト層12から隔てられている。ソース領域15は、トレンチゲート30の側面に接している。ソース領域15は、イオン注入技術を利用して、半導体層10の表層部に窒素又はリンを導入して形成される。ソース領域15は、半導体層10の上面10aを被膜するソース電極24にオーミック接触している。
【0019】
トレンチゲート30は、半導体層10の上層部に形成されているトレンチ内に充填されており、ソース領域15とボディ層13を貫通してドリフト層12に達している。トレンチゲート30は、ゲート絶縁膜32と、ゲート絶縁膜32を介して半導体層10に対向するゲート電極34と、を有している。
【0020】
このように、半導体装置1は、縦型のMOSFETとして構成されており、ゲート電極34に印加する電圧によってドレイン電極22からソース電極24に流れる電流を制御するトランジスタ動作を実行することができる。また、半導体装置1は、ボディ層13とドリフト層12で構成されるpnダイオード構造を有しており、このpnダイオード構造を還流ダイオードとして動作させることができる。pnダイオード構造が動作するモードでは、ソース電極24がドレイン電極22よりも正となる電圧がドレイン電極22とソース電極24の間に印加される。このとき、ボディ層13からドリフト層12内に正孔が注入され、ドレイン層11からドリフト層12内に電子が注入され、ソース電極24からドレイン電極22に電流が流れる。
【0021】
(積層欠陥の形成と拡張)
半導体装置1に内蔵するpnダイオード構造を介して通電すると、ドリフト層12に注入された正孔と電子の再結合エネルギーによってドリフト層12内に積層欠陥が形成される。
図3に、pnダイオード構造を介して通電したときに形成される3種類の積層欠陥2,4,6を示す。積層欠陥2,4,6は、正孔と電子の再結合エネルギーによって形成されるため、半導体層10のうちpnダイオード構造が存在するアクティブ領域10A内に形成される。
図3には、三角状欠陥2と帯状欠陥4とコ型欠陥6の3種類の積層欠陥が示されている。
【0022】
三角状欠陥2は、半導体基板102に存在する基底面転位(BPD)又はエピ層104内に存在する基底面転位(BPD)からドリフト層12の厚みに対応した大きさまで拡張して形成される。帯状欠陥4は、半導体基板102に存在する基底面転位(BPD)からステップフロー方向(この例では、(11-20)方向であり、x方向である)に直交する方向(即ち、y方向である)に沿ってアクティブ領域10Aの端部まで拡張して形成される。なお、帯状欠陥4が拡張する向きは、y方向のいずれかの向きであり、
図3の例ではy方向の図示下向きに延びた例が示されている。コ型欠陥6は、エピ層104内に存在するハーフループ転位からそのハーフループ内を拡張して形成される。
【0023】
三角状欠陥2は、ドリフト層12の厚みに対応した大きさで拡張が停止するため、その大きさは比較的小さい。一方、帯状欠陥4は、基底面転位(BPD)の位置によってはアクティブ領域10Aの大部分を横断するように形成されるため、その大きさが大きくなる可能性がある。コ型欠陥6も、ハーフループ転位の大きさによっては大きく形成される可能性がある。このため、帯状欠陥4及びコ型欠陥6が形成される製造プロセスは、改善する必要がある。
【0024】
(三角状欠陥の拡張推定時間)
図4~
図6に、三角状欠陥2の拡張が開始してから停止するまでの三角状欠陥2の状態の変化を示す。
図4は、三角状欠陥2の拡張が開始した直後の状態である。
図5は、三角状欠陥2の拡張が進行している途中の状態である。
図6は、三角状欠陥2の拡張が停止した後の状態である。
図4~
図6では、基底面である(0001)面が露出して図示されている。基底面である(0001)面は、オフ角θだけ半導体基板102の表面に対して傾斜している。
【0025】
図4に示されるように、基底面転位(BPD)が半導体基板102内に存在している。半導体装置1に内蔵するpnダイオード構造を介して通電すると、注入された正孔と電子の再結合エネルギーによって基底面転位(BPD)がエピ層104の基底面内を延びるとともに、三角状欠陥2がエピ層104の基底面転位(BPD)から基底面内を拡張する。エピ層104の基底面内を延びる基底面転位(BPD)は、エピ層104を平面視したときに、ステップフロー方向(この例では、(11-20)方向であり、x方向である)に平行である。4H-SiCを材料とするエピ層104では、三角状欠陥2は、エピ層104の基底面転位(BPD)から60°の範囲内に拡張する。
図5に示されるように、通電時間の増加に伴って三角状欠陥2の拡張は継続する。
図6に示されるように、三角状欠陥2は、基底面内をドリフト層12の厚みDtに対応した大きさまで拡張して停止する。
【0026】
図7に、半導体層10を平面視したときの三角状欠陥2の形状を示す。三角状欠陥2は、半導体層10を平面視したときに、直角三角形の形状となる。三角状欠陥2は、60°の頂点である基底面転位(BPD)の位置が起点であり、30°の頂点が終点となるように拡張して形成される。本明細書では、半導体層10を平面視したときの起点と終点の間の長さ、即ち、直角三角形の斜辺の長さを三角状欠陥2の拡張長さという。三角状欠陥2の拡張長さは、ドリフト層12の長さをDt、オフ角をθとすると、(Dt/tanθ)×2で表すことができる。
【0027】
また、本明細書では、半導体層10を平面視したときの起点と終点を結ぶ方向に沿った三角状欠陥2が拡張する速度を三角状欠陥2の拡張速度という。
図8に示すように、三角状欠陥2の拡張速度は、pnダイオード構造を介して通電するときの電流密度と半導体層10の温度に依存する。電流密度が大きいほど拡張速度は大きく、半導体層10の温度が高いほど拡張速度は大きい。このような拡張速度は、例えばフォトルミネッセンス法による観測を利用して、同一種類の半導体装置の試験サンプルから求めることができる。
【0028】
三角状欠陥2の拡張が開始してから停止するまでの拡張推定時間は、三角状欠陥2の拡張長さを三角状欠陥2の拡張速度で除することで算出することができる。
【0029】
(通電時間とオン抵抗値の変動)
図9に、半導体装置1のpnダイオード構造を介して通電したときの半導体装置1のオン抵抗の変動量を示す。pnダイオード構造を介して通電すると、ドリフト層12内に積層欠陥が形成され、半導体装置1のオン抵抗が増大する。ここで、半導体装置1のオン抵抗は、半導体装置1をトランジスタ動作させたときのオン電圧Vdで代用される。半導体装置1のオン電圧に代えて、半導体装置1をダイオード動作させたときの順方向電圧を用いてもよい。いずれの電気的特性値も、積層欠陥の面積に依存してドリフト層12の電気抵抗値が増加すると増加する電気的特性値である。これらに代えて、ドリフト層12に形成される積層欠陥の面積に依存する他の電気的特性値を用いてもよい。
【0030】
図9中の折れ線L1は、三角状欠陥2のみが形成される場合のオン抵抗の変動量を示す。
図9中の折れ線L2は、三角状欠陥2と帯状欠陥4が形成される場合のオン抵抗の変動量を示す。なお、帯状欠陥4に代えてコ型欠陥6(
図3参照)が形成される場合も同様である。また、折れ線L1と折れ線L2は、同数の三角状欠陥2が形成される場合を例示している。
図10~
図12は、三角状欠陥2と帯状欠陥4が形成される場合、即ち、折れ線L2の各時間t1~t3における積層欠陥の状態を示している。
【0031】
通電時間t1は、三角状欠陥2の拡張が開始してから停止するまでの時間である。折れ線L1に示すように、三角状欠陥2のみが形成される場合、半導体装置1のオン抵抗の増加は通電時間t1で飽和する。なお、形成される三角状欠陥2の個数の多少によってオン抵抗の変動量が上下するが、三角状欠陥2のみが形成される場合、半導体装置1のオン抵抗の増加は通電時間t1で飽和する。この通電時間t1は、上記した拡張推定時間によって推定可能な時間である。
【0032】
三角状欠陥2と帯状欠陥4が形成される場合、通電時間t1では帯状欠陥4が拡張途中である(
図10参照)。折れ線L2に示すように、通電時間t2では帯状欠陥4の拡張が継続しており(
図11参照)、半導体装置1のオン抵抗の増加も継続する。折れ線L2に示すように、通電時間t3では帯状欠陥4の拡張がアクティブ領域10Aの端部にまで達することで停止し(
図12参照)、半導体装置1のオン抵抗の増加も飽和する。なお、帯状欠陥4が形成される位置及び拡張の向きによっては、オン抵抗の増加が飽和する通電時間が通電時間t2よりも短い場合もあれば、長くなる場合もある。また、形成される帯状欠陥4の個数の多少によっても、オン抵抗の増加が飽和する通電時間が変動する。
【0033】
上記したように、三角状欠陥2のみが形成される場合、半導体装置1のオン抵抗の増加は通電時間t1で飽和し、その通電時間t1は拡張推定時間によって推定可能な時間である。三角状欠陥2に加えて、三角状欠陥2以外の種類の積層欠陥、例えば帯状欠陥4及びコ型欠陥6が形成される場合、半導体装置1のオン抵抗の増加は通電時間t1よりも長い通電時間で飽和する。
【0034】
(半導体装置の製造方法)
上記で説明したように、半導体装置1のpnダイオード構造を介して通電したときに半導体装置1のオン抵抗の増加が飽和する通電時間は、積層欠陥の種類に依存する。特に、三角状欠陥2は、上記で説明した拡張推定時間でオン抵抗の増加が飽和すると推定される。この知見を利用することで、形成される積層欠陥の種類を特定することができる。
【0035】
図13に、半導体装置1の製造方法の一部のフローを示す。なお、この製造フローは、ドリフト層12内の積層欠陥の種類を特定する特定工程であり、半導体装置1を製造する最終段階、例えば出荷前検査の段階で実施されてもよい。
【0036】
まず、ステップS1において、半導体装置1のpnダイオード構造を介して通電する。このステップS1の通電時間は、拡張推定時間(
図9の時間t1に相当)に設定されている。
【0037】
次に、ステップS2において、半導体装置1のオン抵抗を測定する。上記したように、半導体装置1のオン抵抗は、半導体装置1のオン電圧で代用される。ステップS2で測定されたオン電圧をVd(t1)とする。
【0038】
次に、ステップS3において、半導体装置1のpnダイオード構造を介して通電する。このステップS3の通電時間は、帯状欠陥及びコ型欠陥が形成されるとした場合に、帯状欠陥及びコ型欠陥が十分に拡張した時間(例えば、
図9の時間t2以降に相当)に設定されている。
【0039】
次に、ステップS4において、半導体装置1のオン抵抗を測定する。ステップS4で測定されたオン電圧をVd(t2)とする。
【0040】
次に、ステップS5において、ステップS4で測定されたオン電圧Vd(t2)がステップS2で測定されたオン電圧Vd(t1)よりも大きいか否かを判定する。Vd(t2)がVd(t1)よりも大きくない場合、半導体装置1のオン抵抗は時間t1で飽和していることから、三角状欠陥のみが形成されたと判定する(ステップS6)。一方、Vd(t2)がVd(t1)よりも大きい場合、半導体装置1のオン抵抗は時間t1以降も増加しており、三角状欠陥以外の種類の積層欠陥、例えば帯状欠陥とコ型欠陥の少なくともいずれか一方の拡張が継続していることから、帯状欠陥とコ型欠陥の少なくともいずれか一方が形成されていると判定する。なお、時間t1で三角状欠陥の拡張が完全に停止していない場合を考慮し、ステップS5の判定をVd(t2)とVd(t1)の差分がマージン電圧よりも大きいか否かとしてもよい。このように、
図13の製造方法によれば、三角状欠陥以外の種類の積層欠陥の有無を特定することができ、製造プロセスの改善にフィードバックすることができる。上記では、三角状欠陥以外の種類の積層欠陥として帯状欠陥及びコ型欠陥を例示したが、ここでいう三角状欠陥以外の種類の積層欠陥には、時間t1で欠陥拡張が飽和しない様々な種類の積層欠陥が含まれる。
【0041】
以下、本明細書で開示される技術の特徴を整理する。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【0042】
(特徴1)
半導体基板(102)上に積層したエピ層(104)内にpnダイオード構造を含む半導体装置(1)の製造方法であって、
前記エピ層内に形成される積層欠陥の種類を特定する特定工程、を備えており、
前記特定工程は、
前記pnダイオード構造を介して通電する第1ステップ(S1)と、
前記第1ステップの後に、前記積層欠陥に依存する電気特性値を測定する第2ステップ(S2)と、
前記第2ステップの後に、前記pnダイオード構造を介して通電する第3ステップ(S3)と、
前記第3ステップの後に、前記積層欠陥に依存する電気特性値を測定する第4ステップ(S4)と、を備える、半導体装置の製造方法。
【0043】
(特徴2)
前記第1ステップの通電時間は、前記エピ層内に形成される前記積層欠陥のうち三角状欠陥(2)の拡張が開始してから停止したと推定されるまでの拡張推定時間に設定される、特徴1に記載の半導体装置の製造方法。
【0044】
(特徴3)
前記エピ層は、n型のドリフト層(12)と、p型のボディ層(13)と、を有しており、
前記拡張推定時間は、前記エピ層のオフ角(θ)と前記ドリフト層の厚み(Dt)から算出される前記三角状欠陥の拡張長さを前記積層欠陥の拡張速度で除して算出される、特徴2に記載の半導体装置の製造方法。
【0045】
(特徴4)
前記積層欠陥の前記拡張速度は、通電時の電流密度と前記エピ層の温度に基づいて設定される、特徴3に記載の半導体装置の製造方法。
【0046】
(特徴5)
前記半導体基板が炭化珪素である、特徴1~4のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
【0047】
(特徴6)
半導体基板(102)上に積層したエピ層(104)内にpnダイオード構造を含む半導体装置(1)の検査方法であって、
前記エピ層内に形成される積層欠陥の種類を特定する特定工程、を備えており、
前記特定工程は、
前記pnダイオード構造を介して通電する第1ステップ(S1)と、
前記第1ステップの後に、前記積層欠陥に依存する電気特性値を測定する第2ステップ(S2)と、
前記第2ステップの後に、前記pnダイオード構造を介して通電する第3ステップ(S3)と、
前記第3ステップの後に、前記積層欠陥に依存する電気特性値を測定する第4ステップ(S4)と、を備える、半導体装置の検査方法。
【0048】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0049】
1:半導体装置、 2:三角状欠陥、 4:帯状欠陥、 6:コ型欠陥、 10:半導体層、 11:ドレイン層、 12:ドリフト層、 13:ボディ層、 14:ボディコンタクト領域、 15:ソース領域、 22:ドレイン電極、 24:ソース電極、 30:トレンチゲート、 102:半導体基板、 104:エピ層