(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008912
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】高純度のバレニンを含む動物性エキス由来組成物
(51)【国際特許分類】
C07K 5/062 20060101AFI20240112BHJP
A61K 38/05 20060101ALI20240112BHJP
A61P 17/18 20060101ALI20240112BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240112BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240112BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20240112BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240112BHJP
A61P 13/00 20060101ALI20240112BHJP
A61K 31/4172 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
C07K5/062
A61K38/05
A61P17/18
A61P21/00
A61P25/28
A61P9/12
A61P29/00
A61P13/00
A61K31/4172
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111948
(22)【出願日】2023-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2022110312
(32)【優先日】2022-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】598008433
【氏名又は名称】東海物産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】米山 明
(72)【発明者】
【氏名】仲西 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 千香子
(72)【発明者】
【氏名】佐野 千明
(72)【発明者】
【氏名】河合 祥生
(72)【発明者】
【氏名】小山 洋介
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA06
4C084BA01
4C084BA10
4C084BA14
4C084BA23
4C084CA17
4C084MA52
4C084NA20
4C084ZA152
4C084ZA422
4C084ZA942
4C084ZB112
4C084ZC312
4C086AA01
4C086AA04
4C086BC38
4C086GA15
4C086GA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA20
4C086ZA15
4C086ZA42
4C086ZA94
4C086ZB11
4C086ZC31
4H045AA10
4H045AA20
4H045BA09
4H045CA40
4H045EA01
4H045EA20
4H045FA71
4H045GA01
4H045GA05
4H045GA25
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、食品添加物として使用可能である、高純度のバレニンの結晶を含む組成物及びその製造方法を提供することにある。
【解決手段】
上記目的は、動物性エキスに由来する粗バレニン水溶液に、最終濃度が70%以上になるような量のエタノールを瞬間的に加えて撹拌することにより、スラリーを得る工程と、スラリーを、固液分離処理に供して、ケーキを得る工程と、ケーキを、85%~94%含水エタノールを用いた洗浄及び95%~99.9%含水エタノールを用いた洗浄を順次実施する洗浄処理に供することにより、ケーキ洗浄物を得る工程と、ケーキ洗浄物を水に溶解して得た水溶液を、乾燥処理に供することにより、請求項4に記載のバレニン含有組成物を得る工程とを含む、バレニン含有組成物の製造方法などにより解決される。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
純度が99.0%以上100.0%未満であるバレニン及び純度が0.0%超過1.0%以下である動物性エキス由来不純物を含む、バレニン含有組成物。
【請求項2】
さらに、カルノシンの純度が0.001%~0.4%であり、及び/又はアンセリンの純度が0.001%~0.30%である、請求項1に記載のバレニン含有組成物。
【請求項3】
さらに、β-アラニン、β-アミノイソ酪酸、γ-アミノ酪酸及び1-メチルヒスチジンの合計の純度が0.15%以下である、請求項1に記載のバレニン含有組成物。
【請求項4】
前記バレニン含有組成物は、クジラ目又はアカマンボウ目の動物性エキスに由来する、請求項1~3のいずれか1項に記載のバレニン含有組成物。
【請求項5】
動物性エキスに由来する粗バレニン水溶液に、最終濃度が70%以上になるような量のエタノールを瞬間的に加えて撹拌することにより、スラリーを得る工程と、
スラリーを、固液分離処理に供して、ケーキを得る工程と、
ケーキを、85%~94%含水エタノールを用いた洗浄及び95%~99.9%含水エタノールを用いた洗浄を順次実施する洗浄処理に供することにより、ケーキ洗浄物を得る工程と、
ケーキ洗浄物を水に溶解して得た水溶液を、疎水性吸着樹脂を用いた相互分離処理に供することにより、バレニン含有液を得る工程と、
バレニン含有液に、最終濃度が70%以上になるような量のエタノールを瞬間的に加えることにより、請求項4に記載のバレニン含有組成物を得る工程と
を含む、請求項4に記載のバレニン含有組成物の製造方法。
【請求項6】
動物性エキスに由来する粗バレニン水溶液に、最終濃度が70%以上になるような量のエタノールを瞬間的に加えて撹拌することにより、スラリーを得る工程と、
スラリーを、固液分離処理に供して、ケーキを得る工程と、
ケーキを、85%~94%含水エタノールを用いた洗浄及び95%~99.9%含水エタノールを用いた洗浄を順次実施する洗浄処理に供することにより、ケーキ洗浄物を得る工程と、
ケーキ洗浄物を水に溶解して得た水溶液を、乾燥処理に供することにより、請求項4に記載のバレニン含有組成物を得る工程と
を含む、請求項4に記載のバレニン含有組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度のバレニンを含む動物性エキス由来組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
イミダゾールジペプチドは、イミダゾール基を有するヒスチジン又はヒスチジン誘導体とアミノ酸とが結合したジペプチドである。イミダゾールジペプチドの一つに、バレニン(β-アラニル-1-メチル-L-ヒスチジン;CAS番号:331-38-4)がある。バレニンは、1-メチルL-ヒスチジン及びβ-アラニンからなるジペプチドである。
【0003】
バレニンは、カルノシン、アンセリンと違って、地上生物、カツオ、マグロなどの海洋生物の筋肉にはあまり含まれず、ミンククジラ、ナガスクジラ、イワシクジラ、イルカといったクジラ目及びアカマンボウ目の筋肉に多く含まれることに特徴がある。バレニンは、抗酸化作用、抗疲労作用、抗認知作用、筋肉持続作用といった生理作用を有する機能性成分として注目されている。
【0004】
これまでに、本発明者らによって、様々な動物の肉から高純度のイミダゾールジペプチドを製造することができている(例えば、特許文献1及び2を参照)。特に、特許文献2では、ミンククジラの胸肉を用いて、バレニンを90質量%以上で含有する高バレニン含有物を得ることができている。また、アカマンボウからバレニンを含むイミダゾールジペプチド含有抽出物が得られるという報告がある(例えば、特許文献3を参照)。
【0005】
一方、バレニンと同じくイミダゾールジペプチドの一つとして、カルノシンが知られている。カルノシンの結晶を得る方法としては、粗L-カルノシンが溶解した水溶液から水を濃縮することにより、L-カルノシンの結晶を析出させてL-カルノシンのスラリー溶液を得た後、スラリー溶液を加温して一定時間おき、次いでアルコールを徐々に加えて混合することにより、高純度のL-カルノシンの結晶を得る方法が知られている(例えば、特許文献4を参照)。また、N(α)-(3-((ベンジルオキシカルボニル)アミノ)プロピルカルボニル)-N(π)-メチル-L-ヒスチジンベンジルエステルを出発物質としてバレニンを化学合成する方法が知られている(例えば、特許文献5を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6765046号
【特許文献2】特許第6769643号
【特許文献3】特開2021-31445号公報
【特許文献4】特許第5448588号
【特許文献5】中国特許出願公開第112624976号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
バレニンの生理作用を期待する場合、使用するバレニンは高純度のバレニンの結晶であることが望まれる。しかし、クジラの肉は、バレニンの他に、同じイミダゾールジペプチドであるカルノシン及びアンセリンを含む。特に、クジラの肉には、バレニンに対して10%以上のカルノシンが含まれる。特許文献1及び2に記載の方法では、純度が99.0%以上であるような、高純度のバレニンの結晶を得ることはできない。特許文献3では、アカマンボウの肉を用いてバレニン抽出物を得ているが、その純度は80%未満である。
【0008】
また、本発明者らが調べたところによれば、メチルヒスチジンを構成単位として含むバレニンは、アンセリンと同様に、ヒスチジンを構成単位として含むカルノシンに比べて、水及び水を含む有機溶媒である含水有機溶媒に対する溶解度が高い。したがって、特許文献4に記載のカルノシンの結晶を得る方法によっては、高純度のバレニンの結晶だけではなく、バレニンの結晶そのものが得られない。特許文献5に記載の方法は、化学合成方法であり、メタノールを使用すること、出発物質が高価なN(α)-(3-((ベンジルオキシカルボニル)アミノ)プロピルカルボニル)-N(π)-メチル-L-ヒスチジンベンジルエステルであることといった問題を有する。特に、化学合成により得られたバレニンは食品添加物として認められておらず、加工食品に応用することができない。99.0%以上といった高純度のバレニンの結晶を含む組成物及びその製造方法については、これまでにほとんど知られていない。
【0009】
そこで、本発明は、食品添加物として使用可能である、99.0%以上であるといった、高純度のバレニンの結晶を含む組成物及び該組成物の製造方法を提供することを、発明が解決しようとする課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特許文献4に記載の方法では高純度のバレニンの結晶を含む組成物は得られないことを見出した。
【0011】
そこで、本発明者らは、高純度のバレニンの結晶を含む組成物を得るべく、さらに試行錯誤を繰り返した。その結果、クジラの粗抽出物を、疎水性吸着樹脂を用いた吸着処理に供することにより、バレニンとその他のイミダゾールジペプチドとを相互分離することができることを見出した。さらに、得られたバレニンを多く含む相互分離溶離液を、最終濃度が所定の濃度になるように有機溶媒を瞬間的に加えて混合し、さらにバレニンが結晶化して得られたケーキに高濃度の有機溶媒で段階的に洗浄するケーキ処理に供したところ、純度が98%以上であるバレニンの結晶を得ることに成功した。
【0012】
さらに純度を高めるべく、得られたバレニンの結晶を、純水に溶解して結晶溶解液を得て、次いで該結晶溶解液を、乾燥処理に供したところ、又は相互分離処理に供してバレニン含有液を得て、次いでバレニン含有液をエタノール処理に供したところ、驚くべきことに、バレニンの純度が99.0%以上であるバレニンの結晶を得ることに成功した。本発明はこのような知見や成功例に基づいて完成された発明である。
【0013】
したがって、本発明によれば、以下の各態様が提供される。
[1]純度が99.0%以上100.0%未満であるバレニン及び純度が0.0%超過1.0%以下である動物性エキス由来不純物を含む、バレニン含有組成物。
[2]さらに、カルノシンの純度が0.001%~0.4%であり、及び/又はアンセリンの純度が0.001%~0.30%である、[1]に記載のバレニン含有組成物。
[3]さらに、β-アラニン、β-アミノイソ酪酸、γ-アミノ酪酸及び1-メチルヒスチジンの合計の純度が0.15%以下である、[1]に記載のバレニン含有組成物。
[4]前記バレニン含有組成物は、クジラ目又はアカマンボウ目の動物性エキスに由来する、[1]~[3]のいずれか1項に記載のバレニン含有組成物。
[5]動物性エキスに由来する粗バレニン水溶液に、最終濃度が70%以上になるような量のエタノールを瞬間的に加えて撹拌することにより、スラリーを得る工程と、
スラリーを、固液分離処理に供して、ケーキを得る工程と、
ケーキを、85%~94%含水エタノールを用いた洗浄及び95%~99.9%含水エタノールを用いた洗浄を順次実施する洗浄処理に供することにより、ケーキ洗浄物を得る工程と、
ケーキ洗浄物を水に溶解して得た水溶液を、疎水性吸着樹脂を用いた相互分離処理に供することにより、バレニン含有液を得る工程と、
バレニン含有液に、最終濃度が70%以上になるような量のエタノールを瞬間的に加えることにより、[4]に記載のバレニン含有組成物を得る工程と
を含む、[4]に記載のバレニン含有組成物の製造方法。
[6]動物性エキスに由来する粗バレニン水溶液に、最終濃度が70%以上になるような量のエタノールを瞬間的に加えて撹拌することにより、スラリーを得る工程と、
スラリーを、固液分離処理に供して、ケーキを得る工程と、
ケーキを、85%~94%含水エタノールを用いた洗浄及び95%~99.9%含水エタノールを用いた洗浄を順次実施する洗浄処理に供することにより、ケーキ洗浄物を得る工程と、
ケーキ洗浄物を水に溶解して得た水溶液を、乾燥処理に供することにより、[4]に記載のバレニン含有組成物を得る工程と
を含む、[4]に記載のバレニン含有組成物の製造方法。
また、本発明によれば、以下の各態様が提供される。
[1’]特性X線(CuKα線)を用いて得られる粉末X線回折パターンにおいて、回折角(2θ)が11.1°、12.2°、12.9°、16.1°、16.9°、17.3°、18.4°、19.7°、20.3°、20.8°、21.9°、24.6°、26.6°及び31.2°に回折ピーク(±0.2°)を示し、
示差熱分析による融点が247±3℃であり、及び
バレニンの純度が99.0%以上である、バレニンの結晶。
[2’]さらに、カルノシンの純度が0.4%未満である、[1’]に記載のバレニンの結晶。
[3’]さらに、β-アラニン、β-アミノイソ酪酸、γ-アミノ酪酸及び1-メチルヒスチジンの合計の純度が0.15%以下である、[1’]又は[2’]に記載のバレニンの結晶。
[4’]前記バレニンの結晶は、クジラ目又はアカマンボウ目に由来する、[1’]~[3’]のいずれか1項に記載のバレニンの結晶。
[5’][1’]~[4’]のいずれか1項に記載の結晶を含む、食品用組成物、医薬用組成物又は化粧品用組成物。
[6’]粗バレニンを含む水溶液に、最終濃度が70%以上になるような量の有機溶媒を瞬間的に加えることにより、スラリーを得る工程と、
スラリーを、固液分離処理に供して、ケーキを得る工程と、
ケーキを、85%以上の含水有機溶媒を用いた洗浄処理に供することにより、ケーキ洗浄物を得る工程と
ケーキ洗浄物の水溶液を、疎水性吸着樹脂を用いた相互分離処理に供することにより、バレニン含有液を得る工程と、
バレニン含有液に、最終濃度が70%以上になるような量の有機溶媒を瞬間的に加えることにより、バレニンの純度が99.0%以上であるバレニンの結晶を得る工程と、
を含む、バレニンの純度が99.0%以上であるバレニンの結晶の製造方法。
[7’]前記粗バレニンを含む水溶液は、動物性エキスから得られた粗バレニンを含む水溶液である、[6’]に記載の方法。
[8’]前記粗バレニンを含む水溶液は、疎水性吸着樹脂を用いた相互分離処理に供された粗バレニンを含む水溶液である、[6’]~[7’]のいずれか1項に記載の方法。
[9’]前記粗バレニンを含む水溶液は、疎水性吸着樹脂を用いた相互分離処理及び濃縮処理に供された、粗バレニンを含む水溶液である、[6’]~[8’]のいずれか1項に記載の方法。
[10’]前記濃縮処理は、水溶液のBrixが50%~70%になるまで実施される減圧濃縮処理である、[9’]に記載の方法。
[11’]前記洗浄処理は、85%~94%含水有機溶媒を用いた洗浄及び95%~99.9%含水有機溶媒を用いた洗浄を順次実施する洗浄処理である、[6’]~[10’]のいずれか1項に記載の方法。
[12’]前記有機溶媒は、それぞれ独立して、メタノール、エタノール、2-プロパノール及びアセトンからなる群から選ばれる少なくとも1種の有機溶媒である、[6’]~[11’]のいずれか1項に記載の方法。
[13’]前記動物性エキスは、クジラ目及びアカマンボウ目からなる群から選ばれる少なくとも1種の動物に由来する動物性エキスである、[7’]~[12’]のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、動物性エキスに由来し、それ自体動物性エキスとしてみなされることから、食品添加物として使用可能である、純度が99.0%以上であるバレニンの結晶を含む組成物を得ることができる。さらに、本発明の一態様のバレニンの結晶を含む組成物を得る方法は、簡便かつ経済性に優れた方法であることから、工業的規模で高純度のバレニンの結晶を含む組成物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】
図1Aは、後述する実施例に示すとおりの、バレニン結晶IIの粉末X線回折パターンを示した図である。
【
図1B】
図1Bは、後述する実施例に示すとおりの、バレニン結晶IIIの粉末X線回折パターンを示した図である。
【
図1C】
図1Cは、後述する実施例に示すとおりの、バレニン結晶IVの粉末X線回折パターンを示した図である。
【
図2】
図2は、後述する実施例に示すとおりの、バレニン結晶IIの示差熱分析データを示した図である。
【
図3A】
図3Aは、後述する実施例に示すとおりの、バレニン結晶IIの偏光顕微鏡写真(偏向なし)を示した図である。
【
図3B】
図3Bは、後述する実施例に示すとおりの、バレニン結晶IIの偏光顕微鏡写真(偏向あり)を示した図である。
【
図3C】
図3Cは、後述する実施例に示すとおりの、バレニン結晶III及びバレニン標準品のHPLCクロマトグラムを示した図である。
【
図4】
図4は、後述する実施例に示すとおりの、バレニン、アンセリン、カルノシン及びクレアチニンの各結晶のエタノール濃度に対する溶解度の測定結果を示した図である。
【
図5】
図5は、後述する実施例に示すとおりの、バレニン、アンセリン及びカルノシンの滴定曲線を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の詳細について説明するが、本項目の事項によってのみに限定されるものではなく、本発明はその目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0017】
本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、食品分野の当業者により通常用いられている意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。また、本明細書においてなされている推測及び理論は、本発明者らのこれまでの知見及び経験によってなされたものであることから、本発明はこのような推測及び理論のみによって拘泥されるものではない。
【0018】
「RV」は、樹脂量に対する溶媒の流量倍数を表し、例えば、樹脂量に対して2倍の動物性エキスを通液する場合は、RVは2となる。
「SV」は、空間速度(Space Velocity)を表し、1時間当たりに樹脂量(体積)を通過した液量(体積)の樹脂量に対する比率を表す。例えば、1m3の樹脂に1時間当たり5m3の液量が通過した場合、SVは5となる。
「純度」は、含有量及び濃度と同義であり、特に言及がなければ、固形分の乾燥質量に対する成分の乾燥質量の割合に基づいて算出される。バレニンの量は後述する実施例に記載のHPLC法により測定される。
数値範囲の「~」は、その前後の数値を含む範囲であり、例えば、「0%~100%」は、0%以上であり、かつ、100%以下である範囲を意味する。「超過」及び「未満」は、その前の数値を含まない、下限及び上限をそれぞれ意味し、例えば、「1超過」は1より大きい数値であり、「100未満」は100より小さい数値を意味する。
「及び/又は」は、列記した複数の関連項目のいずれか1つ、又は2つ以上の任意の組み合わせ若しくは全ての組み合わせを意味する。
「含む」は、含まれるものとして明示されている要素以外の要素を付加できることを意味する(「少なくとも含む」と同義である)が、「からなる」及び「から本質的になる」を包含する。すなわち、「含む」は、明示されている要素及び任意の1種若しくは2種以上の要素を含み、明示されている要素からなり、又は明示されている要素から本質的になることを意味し得る。要素としては、成分、工程、条件、パラメーター等の制限事項等が挙げられる。
整数値の桁数と有効数字の桁数とは一致する。例えば、1の有効数字は1桁であり、10の有効数字は2桁である。また、小数値は小数点以降の桁数と有効数字の桁数とは一致する。例えば、0.1の有効数字は1桁であり、0.10の有効数字は2桁である。
【0019】
[バレニンの結晶を含む組成物]
本発明の一態様は、バレニンの結晶を含む組成物(以下、バレニン含有組成物ともよぶ。)である。本発明の一態様のバレニン含有組成物は、バレニンの遊離体の結晶を含む組成物である。バレニンの結晶は、粉末X線回折パターンにおける回折ピークの回折角(2θ)及び示差熱分析による融点により特定される。
【0020】
バレニンの結晶は、特性X線(CuKα線)を用いて得られる粉末X線回折パターンにおいて、回折角(2θ)が11.1°、12.2°、12.9°、16.1°、16.9°、17.3°、18.4°、19.7°、20.3°、20.8°、21.9°、24.6°、26.6°及び31.2°に回折ピークを示す。
【0021】
粉末X線回折における回折ピークの回折角2θの値は、測定に使用する機器、測定環境、データの解析方法などの違いにより±0.2°の範囲内で誤差が生じ得ることから、回折角の値は上記値±0.2°と理解される。なお、粉末X線回折における各ピークの相対強度は晶癖、サンプリング条件、測定条件などの違いにより変わり得る。
【0022】
粉末X線回折による結晶の同一性の認定は、バレニンの結晶及び対象の結晶の回折角並びに全体の回折パターンを比較し、これらが同一及び近似する場合、例えば、上記回折角のうち、回折角が7個以上一致するとき、好ましくは8個以上一致するとき、より好ましくは10個以上一致するとき、さらに好ましくは14個全てが一致するときは、バレニンの結晶と同一性がある結晶であるといえる。
【0023】
バレニンの結晶は、示差熱分析による融点が247℃である。
【0024】
示差熱分析(TG-DTA)による融点(外挿開始点又は補外融解開始温度)の値は、測定に使用する機器、測定環境、サンプル量などの違いにより±3℃の範囲内で誤差が生じ得る。バレニンの結晶は、示差熱分析による融点が247±3℃であるといえる。
【0025】
TG-DTAによる結晶の同一性の認定は、バレニンの結晶及び対象の結晶の融点並びにDTA曲線のパターンを比較し、これらが同一及び近似する場合、例えば、融点が247±3℃で、かつパターンが概ね近しいときは、バレニンの結晶と同一性がある結晶であるといえる。
【0026】
バレニンの結晶の粉末X線回折測定及び示差熱分析は、後述する実施例に記載の方法によって実施される。
【0027】
バレニンの結晶は、粉末X線回折における回折ピークの回折角及び示差熱分析による融点が上記した値の範囲内にあれば、その他の特性については特に限定されない。なお、バレニンの結晶は、偏光板を用いた顕微鏡観察に供した場合、
図3A及び
図3Bに示す形状を呈する傾向にある。そこで、結晶の同一性の認定において、粉末X線回折における回折ピークの回折角及び示差熱分析による融点を比較検討した上で、さらに偏光板を用いた顕微鏡観察を実施して、同一又は近似する形状を呈するときは、バレニンの結晶と同一性がある結晶であると認定してもよい。
【0028】
本発明の一態様のバレニン含有組成物は、バレニンの純度が99.0%以上であればよいが、例えば、99.2%以上であることが好ましく、99.4%以上であることがより好ましく、99.6%以上であることがさらに好ましく、99.8%以上であることがなおさらに好ましい。本発明の一態様のバレニン含有物におけるバレニンの純度の上限は、典型的には99.9%であるが、100.0%未満である。
【0029】
本発明の一態様のバレニン含有組成物は、夾雑物の純度が低いことが好ましい。主な夾雑物としては、動物性エキスに含まれる、バレニンとの分離が難しい、カルノシン及びアンセリンが挙げられる。本発明の一態様のバレニン含有組成物は、カルノシンの純度は0.001%~0.4%であることが好ましく、0.01%~0.10%であることがより好ましく、0.02%~0.070%であることがさらに好ましく;アンセリンの純度は0.001%~0.30%であることが好ましく、0.01%~0.20%であることがより好ましく、0.05%~0.15%であることがさらに好ましい。
【0030】
本発明の一態様のバレニン含有組成物は、バレニン、カルノシン及びアンセリンの純度に基づけば、バレニンの純度が99.0%以上100.0%未満であり、カルノシンの純度が0.001%~0.4%であり、かつアンセリンの純度が0.001%~0.30%であることが好ましく;バレニンの純度が99.6%以上100.0%未満であり、カルノシンの純度が0.01%~0.10%であり、かつアンセリンの純度が0.01%~0.20%であることがより好ましい。このように本発明の一態様のバレニン含有組成物は、原料が動物性エキスであることにより、バレニンに加えて、カルノシン、アンセリン、リジンといった動物性エキス由来の不純物、具体的には純度が0.0%超過1.0%以下である動物性エキス由来不純物を含む。
【0031】
本発明の一態様のバレニン含有組成物は、他のアミノ酸の混入が低減されたバレニン結晶を含む組成物であり得る。本発明の一態様のバレニン含有組成物は、β-アラニン、β-アミノイソ酪酸、γ-アミノ酪酸、リジン及び1-メチルヒスチジンの合計の純度が0.15%以下であることが好ましく、0.001%~0.20%であることがより好ましく、0.01%~0.10%であることがさらに好ましい。本発明の一態様のバレニン含有組成物は、β-アラニン、β-アミノイソ酪酸、γ-アミノ酪酸及び1-メチルヒスチジンの純度がそれぞれ0.10%以下であることが好ましく、及び/又はリジンの純度が0.001%~0.10%であることが好ましい。本発明の一態様のバレニン含有組成物は、バレニンの純度が99.6%以上100.0%未満であり、カルノシンの純度が0.01%~0.10%であり、アンセリンの純度が0.01%~0.20%であり、リジンの純度が0.001%~0.10%であることが好ましい。
【0032】
[バレニンの結晶を含む組成物の製造方法]
本発明の一態様の製造方法の概要は、以下に示すとおりである。すなわち、粗バレニン水溶液に最終濃度が所定の高濃度になるように有機溶媒を瞬間的に加えることによりスラリーを得て、次いでスラリーから液体成分を除去してケーキを得て、次いでケーキを高濃度の含水有機溶媒を用いて洗浄することによりケーキ洗浄物を得て、次いでケーキ洗浄物の水溶液を疎水性吸着樹脂を用いた相互分離処理に供することによりバレニン含有液を得て、次いでバレニン含有液に最終濃度が所定の高濃度になるように有機溶媒を瞬間的に加えることにより、本発明の一態様のバレニン含有組成物を得ることができる。
【0033】
具体的には、バレニン含有組成物の製造方法は、粗バレニン水溶液に、最終濃度が70%以上になるような量の有機溶媒を瞬間的に加えることにより、スラリーを得る工程と、スラリーを、固液分離処理に供して、ケーキを得る工程と、ケーキを、85%以上の含水有機溶媒を用いた洗浄処理に供することにより、ケーキ洗浄物を得る工程と、ケーキ洗浄物の水溶液を、疎水性吸着樹脂を用いた相互分離処理に供することにより、バレニン含有液を得る工程と、バレニン含有液に、最終濃度が70%以上になるような量の有機溶媒を瞬間的に加えることにより、バレニンの純度が99.0%以上であるバレニン含有組成物を得る工程とを含む。
【0034】
粗バレニン水溶液は、その性状によっては、スラリー工程においてバレニンの結晶を効率良く得るためには前処理に供することが好ましい。
【0035】
以下では、バレニン含有組成物の製造方法について、前処理工程、スラリー工程、ケーキ工程及び洗浄工程に分けて説明する。
【0036】
[前処理工程]
バレニン含有組成物の製造方法は、粗バレニン水溶液を出発原料として用いる。バレニンは水に対する溶解度が比較的高いことから、粗バレニンを水に加えて混合することにより粗バレニン水溶液が得られる。
【0037】
粗バレニン水溶液を得る方法は、バレニン含有物から粗バレニン水溶液を得る方法である。バレニン含有物から粗バレニン水溶液を得る方法としては、例えば、本発明者らによる特許文献1の例5に記載の方法に準じる方法などが挙げられる。
【0038】
特許文献1の例5に記載の方法に準じる方法は、クジラ、アカマンボウといったバレニンを多く含む動物のエキス(動物性エキス)からバレニン含有液体製品を得る方法である。
【0039】
動物性エキスは、クジラ目、アカマンボウ目などの動物の肉などの部位に含まれる成分を、抽出媒体に溶かし出して得られたものであればよい。動物の種類は、肉などの部位にバレニンを含む動物であれば特に限定されないが、例えば、バレニンを多く含むことから、ミンククジラ、ナガスクジラ、イワシクジラ、イルカといったクジラ目、アカマンボウ目などが挙げられる。動物性エキスは、バレニンの含有量の観点から、クジラ目及びアカマンボウ目の筋肉のエキスが好ましい。
【0040】
動物性エキスの取得方法は特に限定されず、バレニンが含まれる動物の部位を、水抽出、熱水抽出、超臨界抽出などの公知の抽出方法に供して得られる抽出物を利用してもよいし、市販されているものを利用してもよい。動物性エキスは、上記抽出物から不溶性固形分及び夾雑成分を取り除くために、固液分離処理、濃縮処理、乾燥処理、希釈処理などの加工処理に供したものであることが好ましい。
【0041】
特許文献1の例5に記載の方法に準じて、クジラの肉から粗バレニン水溶液を得る方法の概要は以下のとおりである。
【0042】
クジラの肉を水に加えたものを、80℃~95℃にて、数十分間~数時間の熱水抽出処理に供する。得られた熱水抽出物を固液分離処理に供して、任意に電気透析膜若しくはナノろ過膜を用いた脱塩処理に供することにより、バレニンが0.1質量%~10質量%であり、Brixが0.1%~30%であり、かつpHが6~7であるクジラエキスを得る。
【0043】
次いで、クジラエキスを、1RV~10RV、SV1~SV3でNa型に変換した強酸性陽イオン交換樹脂を充填したカラムへ通液し、次いで0.1RV~5RVの水を通液して、クジラエキス中のバレニンを強酸性陽イオン交換樹脂へ吸着する。この吸着処理後のカラム内のpHは5.6~8.2である。
【0044】
次いで0.1N~1.0Nアルカリ金属塩水酸化物水溶液を、1RV~5RV、SV1~SV5でカラムへ通液して、バレニン溶出液を得る。溶出処理後のカラム内のpHは8.5~15.0である。
【0045】
得られたバレニン溶出液を、酸を加えてpH8~9に調整し、任意に活性炭、セラミックフィルター、ナノろ過膜、メンブランフィルターなどを用いた処理に供して、バレニン含有液体製品を得る。バレニン含有液体製品(特許文献1の例5に記載の方法におけるイミダゾールジペプチド10%含有液体製品に相当)は、バレニンが0.1質量%~10質量%であり、Brixが0.5%~10%であり、かつpHが6~8である。これらの一連の操作に係る処理を、「陽イオン交換処理」ともよぶ。
【0046】
バレニン含有液体製品を濃縮処理に供して、次いで得られたバレニン含有液体製品の濃縮液に水を加えたものを、0.5RV~5RV、SV1~SV5で芳香族系疎水性吸着樹脂を充填したカラムへ通液して、バレニン溶出液中のバレニンを芳香族系疎水性吸着樹脂へ吸着する。この吸着処理後のカラム内のpHは、使用したバレニン含有液体製品と同様に、8~9である。
【0047】
次いで水を、5RV~15RV、SV1~SV5でカラムへ通液して、複数種類のイミダゾールジペプチドが相互分離し、適当量ごとにバレニンを多く含むフラクションを回収して、バレニンが高純度で含まれる粗バレニン水溶液を得る。なお、溶出処理後のカラム内のpHは、使用した水と同様に、約7である。粗バレニン水溶液は、pH調整処理、脱塩処理、濃縮処理、無菌ろ過処理などの追加の処理に供してもよい。これらの一連の操作に係る処理を、「相互分離処理」ともよぶ。本発明の一態様の方法は、クジラ目又はアカマンボウ目の動物性エキスから特許文献1の例5に記載の方法におけるイミダゾールジペプチド10%含有液体製品に相当するバレニン含有液体製品を、芳香族系疎水性吸着樹脂を用いた相互分離処理に供することにより、動物性エキスに由来する粗バレニン水溶液を得る工程をさらに含むことが好ましい。
【0048】
粗バレニン水溶液が希薄な場合は、スラリーを形成するためには多くの有機溶媒を必要とする。そこで、粗バレニン水溶液は、有機溶媒の添加量を減じるために、濃縮処理に供することが好ましい。
【0049】
濃縮処理は、粗バレニン水溶液から水分を揮散又は除去する方法であれば特に限定されず、これまでに知られている溶液を対象とした濃縮処理を採用できる。粗バレニン水溶液にはバレニンが良好な分散性で溶解しており、さらに一般的かつ簡便であることから、エバポレーターを用いた、常温下又は加温した状態での減圧濃縮処理であることが好ましい。
【0050】
濃縮処理による濃縮の程度は特に限定されないが、例えば、濃縮前と比べて体積が10%~99%に減じる程度などが挙げられ、スラリーを効率良く形成するためには、Brixが40%~80%になるまで濃縮することが好ましく、Brixが50%~70%になるまで濃縮することがより好ましい。
【0051】
[スラリー工程]
粗バレニン水溶液に、最終濃度が所定の高濃度になるような量の有機溶媒を瞬間的に加えることにより、微粉状のバレニンの結晶が生じ、さらに結晶化が進むことにより、バレニンの結晶が溶液中に懸濁してどろどろとした状態のスラリーが得られる。
【0052】
有機溶媒は、バレニンの溶解度が低い、又はバレニンが全く溶解しない有機溶媒で、水と混和する性質を有するものであれば特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノールなどのアルコール溶媒;アセトンなどのケトン溶媒などが挙げられるが、結晶化したバレニン結晶との分離のために沸点が低く、安全性が高いという観点から、エタノールであることが好ましい。有機溶媒は、これらの1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせでもよい。
【0053】
有機溶媒の添加量は、濃縮液等に加えた後に得られる混合液における有機溶媒の濃度(最終濃度;体積比)が70%以上になるような量である。例えば、濃縮液等の量が30mLであれば、有機溶媒の添加量は70mL以上である。このように、有機溶媒の添加量は、有機溶媒の最終濃度が70%以上になるような量であれば特に限定されないが、例えば、最終濃度が70%~99%になるような量であり、バレニンを効率良く結晶化させるためには、70%~90%であることが好ましく、約80%であることがより好ましい。また、有機溶媒の添加量が上記した範囲内の量になる限り、有機溶媒は水を含む含水有機溶媒であってもよい。
【0054】
濃縮液等への有機溶媒の添加は、有機溶媒により濃縮液等におけるバレニンの周囲の水和水を速やかに奪い、バレニンを析出及び結晶化するために、瞬間的に行う。この目的のためには、用意した有機溶媒の全量を、濃縮液等へ一度に添加することが好ましい。有機溶媒の全量を一度で濃縮液等に添加することが難しい場合は、二度~三度に分けて添加してもよいが、全ての添加が数分以内に行われることが好ましく、数十秒以内に行われることがより好ましく、数秒以内に行われることがさらに好ましい。
【0055】
濃縮液等へ有機溶媒を混合するときに、及び/又は混合の後に、得られた混合液を撹拌することが好ましく、激しく撹拌することがより好ましい。撹拌はバレニンの結晶が認められる程度に実施すればよく、ガラス棒を用いた手動的及び撹拌装置を用いた機械的のいずれでもよいが、混合液において白い塊(バレニンの結晶)が確認できる程度に実施することが好ましい。有機溶媒の添加及び撹拌をする際の温度は特に限定されず、常温で行えばよい。
【0056】
バレニンの結晶が生じた溶液では、静置した状態でも、徐々にバレニンの過飽和が解消され、結晶が成長することが認められる。そこで、有機溶媒を添加し、激しく撹拌することにより白い塊が発生した混合液を静置することが好ましい。静置時間は特に限定されないが、例えば、数分間~数十時間であり、好ましくは30分間~10時間であり、より好ましくは3時間~8時間である。
【0057】
静置後の溶液を再び激しく撹拌すると、バレニンの結晶が凝集し、全体的に白っぽく、どろどろとした状態のスラリーとなる。スラリーにおけるバレニンの含有量は特に限定されないが、例えば、5質量%以上であることが好ましく、5質量%~20質量%であることがより好ましい。
【0058】
[ケーキ工程]
スラリーを、固液分離処理に供して、液体成分を除去することにより、湿潤した固形物であるケーキを得る。
【0059】
固液分離処理は、これまでに知られている固液分離手段を用いればよい。固液分離手段としては、例えば、ろ過、遠心分離、圧搾などが挙げられるが、特に限定されない。具体的には、スラリーを常温下でメンブレンフィルター、ろ布、ろ紙などのろ材を用いたろ過処理に供することにより、ケーキが得られる。
【0060】
[洗浄工程]
クジラなどの動物性エキスから得られた粗バレニン水溶液を用いる場合、スラリー工程及びケーキ工程を経て得られたバレニンの結晶には夾雑成分が含まれる。このために、バレニンの結晶において、バレニンの純度が99%以上にならない場合がある。そこで、夾雑成分を除去するために、ケーキを洗浄処理に供する。洗浄処理は、目的に応じて、第1の洗浄処理及び第2の洗浄処理の少なくとも二度行うことが好ましい。
【0061】
有機溶媒の濃度が低い場合は、バレニンが溶解する可能性がある。そこで、第1の洗浄処理には、有機溶媒の濃度が85%以上、好ましくは85%~94%、より好ましくは約90%である含水有機溶媒を用いる。
【0062】
一方、第1の洗浄処理に供したケーキは、ケーキ表面に夾雑成分が残存して付着している可能性がある。そこで、第1の洗浄処理に供したケーキは、バレニンの溶解性が低い濃度の含水有機溶媒を用いて第2の洗浄処理に供することが好ましい。第2の洗浄処理には、第1の洗浄処理よりも有機溶媒の濃度が高い含水有機溶媒を用いることが好ましく、95%~99.9%の含水有機溶媒が好ましく、98%~99%の含水有機溶媒がより好ましい。なお、含水有機溶媒に代えて有機溶媒そのものを用いてもよい。
【0063】
洗浄処理に使用する溶媒は、夾雑成分が溶解する溶媒であれば特に限定されないが、例えば、スラリー工程の説明で挙げられた有機溶媒などが挙げられ、水に溶解している夾雑成分を溶解するために、水と混和する有機溶媒であることが好ましく、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトンであることが好ましく、一般的かつ取り扱いの安全性の観点から、エタノールであることがより好ましい。有機溶媒は、これらの1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせでもよい。また、洗浄処理に使用する溶媒は、スラリー工程で使用する溶媒と同一であってもよく、異なっていてもよい。同様に、第1の洗浄処理に使用する溶媒は、第2の洗浄処理に使用する溶媒と同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0064】
洗浄処理は、ケーキと含水有機溶媒とが接触する方法であれば特に限定されない。例えば、ケーキ工程においてメンブレンフィルターを用いたろ過処理を採用した場合は、常温下で、メンブレンフィルター上に残ったケーキに対して十分量の含水有機溶媒を添加してろ過することにより、例えば、ケーキ 10gに対して50mL~200mLの85%~94%の含水有機溶媒を添加してろ過することにより第1の洗浄処理を実施し、次いでケーキに対して同量の95%~99.9%の含水有機溶媒を添加してろ過することにより第2の洗浄処理を実施することができる。
【0065】
上記のようにして、ケーキ工程で得たケーキを洗浄処理に供することにより、ケーキ洗浄物が得られる。洗浄工程後のケーキ洗浄物を、乾燥処理及び粉砕処理などに供することにより、固体状のバレニンの結晶を含むケーキ洗浄物が得られる。ケーキ洗浄物におけるバレニンの純度は98.0%以上であることが好ましい。
【0066】
より純度の高いバレニンを得るために、ケーキ洗浄物を再度相互分離処理及びスラリー工程に供することが好ましい。すなわち、ケーキ洗浄物を水に溶解して結晶溶解液を得て、次いで結晶溶解液を相互分離処理に供して粗バレニン水溶液を得て、得られた粗バレニン水溶液を濃縮処理に供し、得られた濃縮液を用いてスラリー工程(エタノール晶析)を実施することにより、固体状のバレニンの結晶を含むバレニン含有組成物が得られる。代替的に、ケーキ洗浄物を乾燥処理に供することによっても、バレニンの純度が高いバレニン含有組成物が得られる。すなわち、ケーキ洗浄物を水に溶解して結晶溶解液を得て、次いで結晶溶解液を減圧乾燥、凍結乾燥などの乾燥処理に供することにより、固体状のバレニンの結晶を含むバレニン含有組成物が得られる。バレニン含有組成物におけるバレニンの純度は99.0%以上100.0%未満であり、99.2%以上100.0%未満であることが好ましく、99.4%以上100.0%未満であることがより好ましく、99.6%以上100.0%未満であることがさらに好ましく、99.8%以上100.0%未満であることがなおさらに好ましい。
【0067】
本発明の一態様の方法は、本発明の課題を解決し得る限り、上記した工程の前段若しくは後段又は工程途中に、種々の工程や操作を加入することができる。
【0068】
[本発明のその他の態様]
本発明の別の側面は、本発明の一態様のバレニン含有組成物を含む、食品用組成物である。本発明の別の側面は、本発明の一態様のバレニン含有組成物を含む、医薬用組成物である。本発明の別の側面は、本発明の一態様のバレニン含有組成物を含む、化粧品用組成物である。本発明の一態様の食品用組成物、医薬用組成物及び化粧品用組成物を総称して、本発明の一態様の組成物とよぶ。
【0069】
本発明の一態様の組成物は、その態様によって、経口的又は非経口的に適用され得る。非経口的な適用としては、皮内、皮下、静脈内、筋肉内投与などによる注射及び注入;経皮;鼻、咽頭などの粘膜からの吸入などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
本発明の一態様の組成物を適用する生物個体は特に限定されず、例えば、動物、中でも哺乳類が挙げられ、哺乳類としてはヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジなどが挙げられ、これらの中でもヒトであることが好ましい。適用個体は、健常な個体であってもよいが、疲労回復、血圧降下などのバレニンが有する有効作用が望まれる個体であることが好ましい。
【0071】
本発明の一態様の組成物は、その態様に応じて、種々の他の成分を組んでもよい。他の成分としては、例えば、糖類、甘味料、安定化剤、乳化剤、澱粉、澱粉加工物、澱粉分解物、調味料、着香料、着色料、酸味料、風味原料、栄養素、果汁、卵などの動植物性食材、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、香料、保存剤、緩衝剤、滑沢剤、油性成分、保湿剤、清涼剤、キレート剤、pH調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、美白剤、乳化剤、ビタミン類、その他各種薬効成分などの通常の食品、医薬品及び化粧品を製造する際に使用される添加物などを挙げることができる。他の成分の使用量は、本発明の課題の解決を妨げない限り特に限定されず、適宜設定され得る。
【0072】
本発明の一態様の組成物は、通常用いられる形態であれば特に限定されず、例えば、固形状、液状、ゲル状、懸濁液状、クリーム状、シート状、スティック状、粉状、粒状、顆粒状、錠状、棒状、板状、ブロック状、ペースト状、カプセル状、ゼリー状、カプレット状などの各形態を採り得る。
【0073】
本発明の一態様の組成物の製造方法は特に限定されないが、例えば、バレニンの結晶とその他の成分とを混合すること、及び得られた混合物を所望の形態に成形することを含む方法などが挙げられる。
【0074】
本発明の一態様の組成物は、例えば、バレニンを高純度で含有するものとして、バレニンが有する抗酸化作用、抗疲労作用、抗認知作用、筋肉持続作用などの生理作用を期待した用途で使用され得る。
【0075】
本発明の一態様の組成物におけるバレニンの結晶の含有量は特に限定されないが、例えば、組成物の全量に対し、バレニンの結晶が乾燥質量として0.001質量%以上となるような量であることが好ましく、0.1質量%~99質量%となるような量であることがより好ましい。
【0076】
本発明の一態様の食品用組成物の具体的な形態としては、例えば、清涼飲料、炭酸飲料、果実飲料、野菜ジュース、乳酸菌飲料、乳飲料、豆乳、ミネラルウォーター、茶系飲料、コーヒー飲料、スポーツ飲料、アルコール飲料、ゼリー飲料などの飲料類;トマトピューレ、キノコ缶詰、乾燥野菜、漬物などの野菜加工品;乾燥果実、ジャム、フルーツピューレ、果実缶詰などの果実加工品;カレー粉、わさび、ショウガ、スパイスブレンド、シーズニング粉などの香辛料;パスタ、うどん、そば、ラーメン、マカロニなどの麺類(生麺、乾燥麺含む);食パン、菓子パン、調理パン、ドーナツなどのパン類;アルファー化米、オートミール、麩、バッター粉などの粉類製品;焼菓子、ビスケット、米菓子、キャンデー、チョコレート、チューイングガム、スナック菓子、冷菓、砂糖漬け菓子、和生菓子、洋生菓子、半生菓子、プリン、アイスクリームなどの菓子類;小豆、豆腐、納豆、きな粉、湯葉、煮豆、ピーナッツなどの豆類製品;蜂蜜、ローヤルゼリーなどの加工食品;ハム、ソーセージ、ベーコンなどの肉製品;ヨーグルト、プリン、練乳、チーズ、発酵乳、バター、アイスクリームなどの酪農製品;加工卵製品;干物、蒲鉾、ちくわ、魚肉ソーセージなどの加工魚;乾燥わかめ、昆布、佃煮などの加工海藻;タラコ、数の子、イクラ、からすみなどの加工魚卵;だしの素、醤油、酢、みりん、コンソメベース、中華ベース、濃縮出汁、ドレッシング、マヨネーズ、ケチャップ、味噌などの調味料;サラダ油、ゴマ油、リノール油、ジアシルグリセロール、べにばな油などの食用油脂;スープ(粉末、液体含む)、惣菜、レトルト食品、チルド食品、半調理食品(例えば、炊き込みご飯の素、カニ玉の素)などの調理済み食品などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0077】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例0078】
[測定方法]
(1)バレニン、アンセリン及びカルノシン
バレニンの含有量は、HPLCにより測定した。HPLCは、カラムとして「InertSustain C18(粒子径5μm、φ4.6mm×150mm)」(GLサイエンス社製)を用い、展開溶媒として10mMリン酸ナトリウム(pH6.5)添加の水を用い、HPLCとして「LC-2030 3D」(島津製作所製;流速1.0mL/min、25℃、インジェクション容量10μL、検出波長210nm)を用いて、検量線法により測定した。なお、バレニンの標準品としては「L-バレニン」(浜理薬品工業社製;ロット番号:0802-6530)を用い、アンセリンの標準品としては「L-アンセリン硝酸塩」(シグマアルドリッチ社製、純度99%)を用い、カルノシンの標準品としては「L-カルノシン」(シグマアルドリッチ社製、純度99%社製)を用いて、バレニン、アンセリン及びカルノシンを定量した。
【0079】
(2)粉末X線回折
粉末X線回折は、以下の条件で実施した。
装置:「SmartLab」(株式会社リガク)
線源:CuKα線
温度:室温
フィルター:CuKβフィルター
X線出力:40kV、20mA
検出器:D/teX Ultra
スキャンモード:連続
スキャン速度:3°/min
ステップ幅:0.01°
スキャン軸:2θ/θ
測定範囲(2θ):10°~40°
入射スリット:2/3°
波長:1.5418Å
光学系:集中法
その他:標準試料ステージ(ガラス試料版)、Niフィルター使用
【0080】
(3)示差熱分析(TG-DTA)
示差熱分析は、以下の条件で実施した。
装置:「TG-DTA2000S」(マックサイエンス社製)
昇温速度:10℃/分
窒素流量:200mL/分
試料容器:アルミニウム製
リファレンス:空の試料容器
【0081】
(4)顕微鏡観察
顕微鏡観察は、顕微鏡「MP38T」(アズワン社製)、偏光フィルタ「CIRCULAR P.L MarkII」(マルミ光機社製)及び「偏光板」(アーテック社製)を用いて、倍率400にて実施した。
【0082】
(5)アミノ酸分析
遊離アミノ酸分析は、高速アミノ酸分析計「L-8900形」(日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて行った。標準アミノ酸溶液は、アミノ酸混合標準液「AN-II型」(富士フイルム和光純薬社製)及びアミノ酸混合標準液「B型」(富士フイルム和光純薬社製)を使用方法(生体分析用)に従い混合したものを用いた。ニンヒドリン発色試薬は、「日立用ニンヒドリン発色溶液キット」(富士フイルム和光純薬社製)、アミノ酸アナライザー用緩衝液は「MCI緩衝液PFキット」(三菱ケミカル社製)を用いた。試料の調製は、0.02N塩酸にて適宜希釈し、0.2μmメンブレンフィルター(アドバンテック社製)でろ過した試料を分析に用いた。
【0083】
(6)pH
pHは、卓上型pHメーター「F-71」及び「D-51)(ともに堀場製作所社製)を用いて測定した。
【0084】
[例1.バレニン含有液体製品の作製]
以下のとおりに、特許文献1(特許第6765046号)の例5に記載の方法に準じて、ミンククジラの胸肉を原料としてバレニン含有液体製品 1,604.5gを得た。
【0085】
ミンククジラの胸肉 3.3kgに対して、蒸留水 6.6kgを加えて、90℃にて30分間熱水抽出し、Brixが1.2%であり、かつイミダゾールジペプチドが0.36質量%であるクジラ抽出物を得た。得られたクジラ抽出物を、pH調整せずに、珪藻土ろ過して、クジラエキスを得た。クジラエキスのpHは6.1であった。
【0086】
得られたクジラエキスを、6.5RVで、SV2.0にて、予めNa型に平衡化している強酸性陽イオン交換樹脂(「ダイヤイオン SK1B」;三菱ケミカル社製)に通液し、次いで1RVのRO水で水押しする吸着処理に供した。
【0087】
次いで0.4N水酸化ナトリウムをSV2.0、1.5RVでカラムに通液して、バレニン溶出液を1,530g得た。
【0088】
バレニン溶出液 1,530gを、塩酸を用いてpH8.2程度に調整し、電気透析装置(「DW-Lab」;AGCエンジニアリング社製)を用いて脱塩濃縮し、バレニン含有液体製品 1,604.5gを得た。
【0089】
得られたバレニン含有液体製品は、Brixが2.4%であり、pHが9.98であり、バレニンが1.36質量%であり、カルノシンが0.24質量%であり、及びアンセリンが0.01質量%であった。また、該製品の乾燥質量あたりのバレニンの量から、バレニンの純度は62.6%であった。
【0090】
[例2.バレニン結晶の作製]
バレニン含有液体製品を、エバポレーターを用いて、55℃にて濃縮することにより、バレニン含有液体製品濃縮液 156g(Brix 22.2%)を得た。
【0091】
該濃縮液 150g(バレニン 16.90g、カルノシン 2.98g、アンセリン 0.12g)を、水で1,000ml(1RV)へメスアップした。得られた溶液を、SV2.0にて、合成吸着樹脂(「セパビーズSP207」;三菱ケミカル社製)1,000mlを充填したカラム(φ80mm、高さ350mm)に通液した。次いで、蒸留水を7RVでSV2.0にてカラムに通液する相互分離処理に供した。
【0092】
得られた溶離液は400mlずつフラクション回収し、各フラクションについて、HPLCでバレニン、カルノシン及びアンセリンを定量した。溶離液をカルノシン/バレニンの比率が10質量%を下回った点で区分けし、前半の画分及び後半の画分に分けた。後半画分をバレニン含有液(5,430g)として回収した。該バレニン含有液には、バレニン 8.13g、アンセリン 0.01g及びカルノシン 0.05gが含まれていることがわかった。
【0093】
得られたバレニン含有液を、エバポレーターを用いて、55℃にてBrixが60%になるまで減圧濃縮処理に供した。得られた濃縮液を、粗バレニン水溶液とした。
【0094】
次に、粗バレニン水溶液を、容積比でエタノール:濃縮液=80:20となるように、エタノールを常温で瞬時に加え、ガラス棒を用いて激しく撹拌するエタノール処理に供したところ、均一な薄白色の溶液が得られた。この溶液についてさらに撹拌を続けたところ、溶液中に白い塊(フロック)が発生した。常温で5時間静置後、再度激しく撹拌したところ、白色沈殿が生じた。このようにして得られた、白色沈殿を有するエタノール処理液は、全体的にどろどろとした状態の溶液であった。
【0095】
なお、濃縮液にエタノールを瞬時に加えることにより、速やかなエタノールの分散が達成されたと考えられる。また、濃縮液を細かな液滴としてエタノール層へ分散させることにより、バレニンの周囲の水和水が速やかに奪われて、バレニンが析出したと推測される。
【0096】
得られた白色沈殿を有する溶液をろ紙でろ過することにより、ろ紙上にケーキ固形物を得た。得られたケーキ固形物に対して、90%含水エタノール 100mLを添加することにより、第1のケーキ洗浄処理を実施した。次いで、ろ紙上のケーキに対して99%エタノール 100mLを添加することにより、第2のケーキ洗浄処理を実施した。
【0097】
洗浄後のケーキを、70℃にて常圧乾燥機を用いて3時間乾燥した。得られた乾燥物を、乳鉢を用いて摩砕し、次いで得られた磨砕物を60℃にて4時間減圧乾燥したところ、バレニン結晶を得た。得られたバレニン結晶は、バレニンの純度が98.4%の結晶であり、かつアンセリンの純度は0.20%であり、及びカルノシンの純度は0.43%であった。得られたバレニン結晶を、バレニン結晶Iとした。
【0098】
ここで、エタノール晶析による結晶の製造方法に加え、より簡便な方法として水晶析による凍結乾燥処理及び減圧濃縮を試みた。バレニン結晶I 1.0gに水 10.0gを加え、小型超低温槽「MY BIO」(日本フリーザー社製)で-80℃にて一晩保管した。保管後のサンプルを凍結乾燥機「FDU-2110」(東京理化器械社製)で凍結乾燥(FD)し、バレニン結晶II(バレニンの純度 98.4%)を得た。
【0099】
より純度の高いバレニンを得るために、バレニン結晶Iを水に溶解して結晶溶解液を得た。次いで、上記と同様にして、結晶溶解液を相互分離処理に供して粗バレニン水溶液を得て、得られた粗バレニン水溶液を減圧濃縮処理に供し、得られた濃縮液を容積比でエタノール:濃縮液=80:20となるように、エタノールを常温で瞬時に加え、ガラス棒を用いて激しく撹拌するエタノール処理に供することにより、バレニンの純度が99.8%であり、アンセリンの純度が0.12%であり、及びカルノシンの純度が0.06%であるバレニン結晶IIIを得た。
【0100】
次いで、バレニン結晶III 1.0gに水 10.0gを加えて、エバポレーターを用いて55℃にて減圧乾燥することにより、バレニン結晶IV(バレニンの純度 99.8%)を得た。
【0101】
[例3.バレニン結晶の物性評価]
バレニン結晶II~IVについて、粉末X線回折を測定した。
図1A~
図1Cに、バレニン結晶II~IVの粉末X線回折パターンをそれぞれ示す。また、バレニン結晶II~IVに共通する特徴的なピークの回析角(2θ)を表1に示す。バレニン結晶II~IVは、特性X線(CuKα線)を用いて得られる粉末X線回折パターンにおいて、表1に示す回析角の±0.2°に回析ピークを示した。なお、表1において、d間隔及び相対積分強度は、バレニン結晶II~IVの平均値を用いた。
【0102】
【0103】
バレニン結晶II~IVは、粉末X線回折による回折角(2θ)として、表1に示すとおりに、11.1°、12.2°、12.9°、16.1°、16.9°、17.3°、18.4°、19.7°、20.3°、20.8°、21.9°、24.6°、26.6°及び31.2°に特徴的なピークを示した。
【0104】
バレニン結晶I~IVについて、示差熱分析による融点測定を行った。
図2にバレニン結晶IIIの示差熱分析データを示す。バレニン結晶I~IVの融点は247±3℃であった。
【0105】
バレニン結晶IIIについて顕微鏡観察(400倍)した結果を
図3A及び
図3Bに示す。
図3Aが偏光なしの観察結果であり、右が偏光ありの観察結果である。
図3A及び
図3Bから、例2で得られたバレニン結晶は針状形の結晶であることがわかった。
【0106】
バレニン結晶III及びHPLCの標準品として用いた「L-バレニン」(浜理薬品工業社製;以下、バレニン標準品ともよぶ)について、HPLC測定及びアミノ酸分析を実施することによりこれらを比較した。比較結果を表2に示す。また、HPLCのクロマトグラムについて
図3Cに示す。なお、測定前に、バレニン結晶III及びバレニン標準品を、70℃にて、4時間の減圧乾燥処理に供した。
【0107】
【0108】
表2及び
図3Cに示すとおり、バレニン結晶IIIは、バレニン標準品よりも純度が高いことがわかった。さらに、バレニン標準品はカルノシンの純度が0.4質量%以上であり、β-アラニン、β-アミノイソ酪酸、γ-アミノ酪酸及び1-メチルヒスチジンの合計の純度が0.18質量%以上であるのに対して、バレニン結晶IIIはカルノシンの純度が0.4質量%未満であり、β-アラニン、β-アミノイソ酪酸、γ-アミノ酪酸及び1-メチルヒスチジンの合計の純度が0.1質量%未満であることがわかった。したがって、バレニン結晶IIIは、バレニン標準品よりも、バレニン純度の高いバレニンの結晶であることがわかった。
【0109】
[例4.バレニン、アンセリン、カルノシン及びクレアチニンの溶解度の評価]
バレニン結晶I、特願2021-155549におけるアンセリン結晶II、L-カルノシン結晶(シグマアルドリッチ社製)及びクレアチニン結晶(富士フィルム和光純薬社製)を0%~99%含水エタノールに、25℃にて溶解しなくなるまで投入して飽和状態とし、各エタノール濃度における各結晶の溶解性を評価した。
【0110】
すなわち、バレニン、アンセリン、カルノシン及びクレアチニンの各結晶を、10%刻みに調製した0%~99%のエタノール 2mLを含む遠沈管に入れた。この遠沈管をタッチミキサーで撹拌しながら沈殿が溶解しなくなるまで結晶を投入し、エタノール中に分散させた。次いで、遠沈管を超音波恒温槽にて25℃で20分間の超音波処理を4回繰り返し、沈殿が有ることを確認した。沈殿が見当たらなくなった場合は、結晶を追加投入した。
【0111】
超音波処理後、沈殿を有する遠沈管を遠心分離処理(25℃、1,850Gで5分)に供し、得られた上清を0.45μmフィルター(PTFE)でろ過した。得られたろ液について、溶解しているバレニン、アンセリン、カルノシン及びクレアチニンの含有量をHPLCにより定量した。
【0112】
バレニン、アンセリン、カルノシン及びクレアチニンの各結晶の溶解度の測定結果を
図4に示す。
図4に示すとおり、バレニンは、アンセリンと同様に、0%~70%のエタノール濃度の範囲では溶解度が大きいことが示された。この結果から、バレニンは容易にはエタノール沈殿により回収できないこと、バレニンを晶析するためには高濃度のエタノールが適していることがわかった。
【0113】
一方、バレニン結晶Iの0.1M水溶液を調製し、0.1N硫酸水溶液及び0.1N水酸化ナトリウム水溶液を用いて常法にしたがって滴定曲線を作成した。滴定曲線を
図5に示す。同様に作成した、アンセリン結晶II及びL-カルノシン結晶の滴定曲線も併せて示す。滴定曲線からバレニンのpK
1、pK
R及びpK
2を求めたところ、それぞれ2.98、6.98及び9.63であることがわかった。
本発明は、飲食品、医薬品、化粧品、医薬部外品などの分野で適用可能であり、特に抗疲労用組成物、抗酸化用組成物、血圧降下用組成物、抗炎症作用用組成物、尿酸値降下用組成物の有効成分として利用できるバレニンの結晶を含有する組成物を工業的に製造できる点で有用である。