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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089129
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】止水材
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/10 20060101AFI20240626BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20240626BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240626BHJP
   C08L 23/20 20060101ALI20240626BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20240626BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20240626BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
C09K3/10 Z
C08L101/12
C08K3/013
C08L23/20
C08L9/00
C08L23/08
C08L83/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204308
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】509341606
【氏名又は名称】株式会社川瀬工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110003454
【氏名又は名称】弁理士法人友野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 孝道
【テーマコード(参考)】
4H017
4J002
【Fターム(参考)】
4H017AA04
4H017AB07
4H017AB15
4H017AD06
4H017AE03
4J002AA001
4J002AC031
4J002AC061
4J002BB001
4J002BB051
4J002BB171
4J002BB181
4J002CP031
4J002DA017
4J002DA027
4J002DA036
4J002DA037
4J002DE077
4J002DE087
4J002DE096
4J002DE106
4J002DE116
4J002DE136
4J002DE137
4J002DE147
4J002DE156
4J002DE236
4J002DE237
4J002DG046
4J002DG047
4J002DG057
4J002DJ007
4J002DJ017
4J002DJ037
4J002DJ047
4J002DJ057
4J002DL007
4J002ED038
4J002EH088
4J002EH138
4J002EN138
4J002EV258
4J002FD017
4J002FD096
4J002FD097
4J002FD318
4J002GJ02
4J002GL00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】水浸入部と止水材との間に空隙がないと共に、止水材内部に気泡なく充填することができ、充填された止水材が、体積変化が少なく、弾性シール状態を長期間に亘り保持する、止水材を提供する。
【解決手段】止水材は、40℃における動粘度が200~200,000mm/sであり、100℃における動粘度が10~5,000mm/sである液状樹脂20~50wt%に、顔料80~50wt%が分散していることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
40℃における動粘度が200~200,000mm/sであり、100℃における動粘度が10~5,000mm/sである液状樹脂20~50wt%に、顔料80~50wt%が分散していることを特徴とする止水材。
【請求項2】
前記顔料が、体質顔料と着色顔料であることを特徴とする請求項1に記載の止水材。
【請求項3】
前記液状樹脂と前記顔料の合計100wt%に対し、0.1~1.0wt%の分散剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の止水材。
【請求項4】
前記液状樹脂と前記顔料の合計100wt%に対し、0.1~1.0wt%の分散剤を含有することを特徴とする請求項2に記載の止水材。
【請求項5】
前記液状樹脂が、ポリオレフィン樹脂であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の止水材。
【請求項6】
前記ポリオレフィン樹脂が、ポリブテン樹脂であることを特徴とする請求項5に記載の止水材。
【請求項7】
前記ポリブテン樹脂が、イソブテン、1-ブテン、及び2-ブテンから選択される二種以上で合成される共重合体であることを特徴とする請求項6に記載の止水材。
【請求項8】
前記ポリオレフィン樹脂が、イソプレン樹脂又は水添イソプレン樹脂であることを特徴とする請求項5に記載の止水材。
【請求項9】
前記ポリオレフィン樹脂が、ブタジエン樹脂又は水添ブタジエン樹脂であることを特徴とする請求項5に記載の止水材。
【請求項10】
前記ポリオレフィン樹脂が、エチレンとα-オレフィンとの共重合体であることを特徴とする請求項5に記載の止水材。
【請求項11】
前記液状樹脂が、シリコーン樹脂であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の止水材。
【請求項12】
前記シリコーン樹脂が、ポリジメチルシロキサンであることを特徴とする請求項11に記載の止水材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物外部及び構造物内部への各種水浸入部における漏水を防止するための、水浸入部に注入する止水工法に適した止水材に関する。特に、本発明は、下水道処理施設、並びに、下水道管の本管、取付管、及び、廃棄管等のコンクリート構造物の補修、特に、これらに発生するクラック及び破損・欠損孔等から浸入する雨水、湧水や伏流水等の地下水等による漏水の防止、並びに、廃棄管の管路充填に適する注入型止水材に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリ-ト構造物外部及び内部への漏水を防止するための止水は、適材適所、各種止水工法及び止水材が採用される。特に、下水道処理施設、並びに、ヒュ-ム管である下水道管の本管、取付管、及び、廃棄管等のコンクリート構造物のクラック、及び、破損・欠損孔等から浸入する雨水、湧水や伏流水等の地下水等による漏水を防止するため、各種水浸入部に止水材を注入して漏水を防止する工法において、次のように、様々な止水材が検討され、採用されてきた(例えば、特許文献1~4)。
【0003】
無機系止水材としては、例えば、珪酸ソーダ(水ガラス)又は珪酸ソーダとセメントの混合物や微粒子を含有するセメントがあり、前者は、水浸入部のクラックが大きく、湧水や伏流水の地下水が多量の場合に、後者は、水浸入部のクラックが小さく、湧水や伏流水の地下水が少量の場合にと使い分けられている。しかし、前者は、硬化収縮率が大きい上、硬化物が脆く、再漏水を招き易いという問題があり、後者は、短時間での固結が困難であり、微小なヘヤ-クラックへの浸透深さが浅い等の問題があると指摘されている。
【0004】
有機系止水材としては、一液又は二液硬化型のエポキシ樹脂及びポリウレタン樹脂を要素成分とするものが用いられてきた。しかし、エポキシ樹脂系は、硬化条件の制御が限定的であるため、工程が硬化温度及び硬化時間等の制約を受けるという作業性の問題と、硬化樹脂の強靭性に乏しく、温度や振動等の外的環境の変化に順応することができず、水浸入部と止水材界面に新たなクラックが生じるという機能性の問題がある。このような観点から、機能性の改善を目的として、樹脂の力学的性質を幅広く制御できるポリウレタン樹脂系が提案されてきた。特に、芳香族親水性ポリオールポリウレタン樹脂は、強靭性、耐久性に優れているが、乾燥収縮が大きく、水膨張性がないため、漏水防止機能が経時的に低下し、恒久的な止水効果を持続することができない場合が多い。そこで、更に、ポリカーボネート系ポリウレタン水性エマルションと遅延硬化型の一液硬化ポリウレタン樹脂を混合した止水材が提案されている。設計自在なポリウレタン樹脂と特徴と、ポリウレタン樹脂にエマルション粒子が分散されている海島構造による力学的性質の向上が期待されるが、乾燥及び硬化速度が作業性を低下させる問題と共に、水膨潤性及びエマルション粒子界面の耐水性の問題が懸念される。未だ、このような問題を全て解決することは難しく、更なる改良が進められている。
【0005】
また、このようなエポキシ樹脂系及びポリウレタン樹脂系止水材の問題を異なる樹脂系で解決する方法も検討されている。例えば、(メタ)アクリル酸エステル系の水浸入部に注入して使用する止水材が提案されている。これは、ポリエチレングリコ-ルモノ(メタ)アクリレ-ト、ポリエチレングリコ-ルジ(メタ)アクリレ-ト、及び、(メタ)アクリル酸の金属塩とからなる三成分混合物に重合触媒を加えた止水材である。ポリエチレングリコ-ルモノ(メタ)アクリレ-トをポリエチレングリコ-ルジ(メタ)アクリレ-トにより三次元的な堅い架橋構造と、金属塩による柔軟な架橋構造による強靭性の付与、及び、エチレングリコールによる水膨潤性の付与が期待される。しかし、硬化物が脆く、力学的強度が不足しており、圧縮すると破壊し易く、復元性が乏しいという問題及び水膨潤性が乏しいという問題があり、様々な組成物が検討されているが、未だ十分な改良が達成されていないようである。
【0006】
そこで、無機-有機複合系止水材も、提案されている。上記アクリル系止水材に水硬性セメントを添加したものである。しかし、依然として上記圧縮復元性及び水膨張性の問題は十分に解消されていない。従って、コンクリート構造物に発生する各種水浸入部に対して、このような各種止水材が提案され、検討されているが、未だ、求められる機能を十分に発揮できる止水材は見出されていないようである。
【0007】
コンクリート構造物でも、特に、ヒューム管である下水道管の本管、取付管、及び、廃棄管等の補修、特に、これらに発生するクラック及び破損・欠損孔等から浸入する雨水、湧水や伏流水等の地下水等による漏水の防止、並びに、廃棄管の管路充填に焦点を絞って視ると、止水を共通目的とする、次のような補修材が提案されている(例えば、特許文献5~7)。
【0008】
下水道本管との接続部位を含む取付管の補修において、取付管の破損・欠損等を閉塞・止水するための補修用樹脂材と称して樹脂モルタルが採用されている。そして、下水道本管に接続された放置取付管(廃棄管)の補修においては、取付管の管口部を閉塞・止水するための注入物と称して、また、取付管継手を閉塞・止水するための閉塞材と称して、エポキシ樹脂が採用されている。この場合、廃棄管を充填・止水するためには、一方では、土質安定材と称するセメントシリカ系無機質系懸濁液が、他方では、充填材と称するエアーモルタルが採用されている。
【0009】
しかし、上記樹脂モルタル及びエポキシ樹脂は、類似した機能が要求される補修用樹脂材及び閉塞材として使用すると、硬化収縮が大きいため、硬化時に下水道管との間に微小な空隙を新たな水浸入部として生成してしまうという問題に加え、強靭性に乏しいため、温度や振動等の外的環境の変化に順応することができず、止水防止効果を長期間に亘り保持することが困難であるという問題がある。また、硬化条件の制御が限定的で、硬化温度及び硬化時間等の制約を受けるという作業上の問題がある。一方、廃棄管の管路充填を目的とし採用されている土質安定材と称するセントシリカ系充填材は、力学的強度に優れているが、エポキシ樹脂以上に強靭性に乏しく、外的環境の変化への順応は困難であると共に、硬化時間が長く、作業効率に支障をきたす。また、優れた力学的強度が、廃棄管の撤去を著しく困難にするという問題もある。同様の目的で採用されている充填材と称するエアーモルタルは、管路充填等で実績が豊富であるが、無機系材料に共通した欠点である、ゴムのような粘弾性を有しておらず、強靭性が乏しいため、外的環境の変化への順応は困難である。更に、下水道本管に接続された廃棄管への充填材の充填を含む下水道の本管及び/又は取付管の補修において、下水道本管及び/又は取付管の破損・欠損、並びに、廃棄管の管口部の閉塞・止水するための注入物・閉塞材と、廃棄管を充填・止水するための土質安定材・充填材とにおいて、異なる材料を用いるのは、極めて繁雑であり、作業及び工程の効率化の大きな弊害となっている。
【0010】
このような下水道管の本管、取付管、及び、廃棄管等の補修、特に、これらに発生するクラック及び破損・欠損孔等から浸入する雨水、湧水や伏流水等の地下水等による漏水の防止、並びに、廃棄管の管路充填における課題に対し、注入物、閉塞材、土質安定材、及び、充填材に共通する機能に基づいて、注入型止水材とも称すべき商品が見出された。これらに要求される機能が統合されて、これらの有する問題点を解消し得る可能性がある。
【0011】
それは、ポリオレフィン系樹脂を要素成分とした注入型止水材である(例えば、非特許文献1~3)。非特許文献1によれば、ポリオレフィンコポリマー、ポリアクリレートコポリマー、及び、二酸化珪素とから成り、粘塑性を有する熱可塑性の止水材と記載されており、非硬化型止水材であることも理解される。これらの記載から詳細なことは不明であるが、粘塑性を有していることから、廃棄管の土質安定材及び充填材として管路充填に採用されると、一定以上の応力が掛からない限り変形することがなく、形態を保持することができる。また、非硬化型であるため、硬化収縮がなく、この止水材と下水道管との間に空隙が生成する可能性が低いと共に、硬化時間を要することがなく、作業効率も高いと考えられる。更に、粘弾性を有するポリマー成分と、ポリマーに介在して架橋点同様の機能を発現する二酸化珪素を含有しているため、一定以上の応力が掛からない状態において、長期間に亘り強靭性を保持するものと推測され、外的環境の変化への順応も可能であると考えられる。化学的には、耐水性を含めた薬品安定性優れたポリオレフィンコポリマーが、長期間に亘る使用にも耐え得る成分として機能するものと考えられる。
【0012】
しかしながら、構成成分から、一定以上の応力を掛けて注入という操作をする際の粘性に課題を有しているのではないかと推測される。つまり、この止水材を注入する際の粘性が高いため、下水道管の本管、取付管、及び、廃棄管等の補修、特に、これらに発生するクラック及び破損・欠損孔等への浸透性と共に、微細な形状への追従性が懸念され、硬化型止水材の硬化収縮ではなく、土質安定材及び充填材としても、補修用樹脂材及び閉塞材としても、止水材と下水道管との間の空隙及び止水材内部の気泡が生成し、空間充填効果及び止水防止効果の弊害になるものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004-124063号公報
【特許文献2】特開2007-099911号公報
【特許文献3】特開2017-095622号公報
【特許文献4】特開2020-152859号公報
【特許文献5】特開2003-166284号公報4
【特許文献6】特開2009-091861号公報
【特許文献7】特開2011-102511号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】カスター・ピーエヌ・ジャパン株式会社,「KBフレックス200」,[on line],[2022年12月2日検索],インターネット<https://www.koster-japan.com/pdf/kb200_web.pdf>
【非特許文献2】株式会社立基,「ストパック製品 ラインアップ」,[on line],[2022年12月2日検索],インターネット<https://www.tatsuki-k.co.jp/stopaq/lineup.html#PTOP>
【非特許文献3】株式会社ヘルメチック,「ストッパブルパテ」,[on line],[2022年12月2日検索],インターネット<https://www.hermetic.co.jp/item/waterstoppable-series/2548/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、ヒューム管である下水道管の本管、取付管、及び、廃棄管等の補修、特に、これらに発生するクラック及び破損・欠損孔等から浸入する雨水、湧水や伏流水等の地下水等による漏水の防止、下水道管の本管、取付管、及び、廃棄管等の補修、並びに、廃棄管の管路充填に適した補修材であって、半永久的な止水機能を有し、漏水防止、補修、及び、管路充填に共通して用いることができ、スラリー等の硬化阻害がなく、環境に悪影響を及ぼすこともない注入型止水材の提供を目的とする。
【0016】
このような目的を達成するためには、注入型止水材が、止水機能を有する材質であることと共に、クラック及び破損・欠損孔等への浸透性と微細な形状への追従性を有し、補修材と下水道管との間の空隙及び止水材内部の気泡を生成することがない低い体積変化率と注入に適した流動特性を有していることに加え、長期間に亘り、外的環境の変化に順応可能な強靭性、及び、地中における様々な圧縮応力に対して変形しない力学的強度を有している必要もある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、背景技術に記述した従来技術に鑑み、硬化反応を伴わない、ポリオレフィン系ポリマーを要素成分とする注入型止水材に着目して検討を開始したところ、ポリオレフィンコポリマー、ポリアクリレートコポリマー、及び、二酸化珪素を構成成分とする注入型止水材は、流動特性が制御されなければ、下水道管の本管、取付管、及び、廃棄管等の補修、特に、これらに発生するクラック及び破損・欠損孔等への浸透性と共に、微細な形状への追従性の問題が生じる可能性が高く、流動特性を最適化する必要性が認められた。そして、流動特性には、ポリアクリレートコポリマーの分子量とエステル結合に基づく分子内及び分子間相互作用、並びに、ポリオレフィンコポリマーの分子量と繰り返し単位内の炭素数及び立体的な配置という止水材を構成する有機材料の化学構造的な要素と、樹脂と顔料の配合比と関係がある止水材を構成する有機/無機材料間及び無機材料間の相互作用という物理化学的な要素が、大きな影響を及ぼしていることが分かった。その結果として、ポリアクリレートコポリマーの削除、並びに、限定された粘度特性及び化学構造を備えている液状樹脂に最適な顔料の配合が、目的とする注入型止水材を得るための解決手段であることを見出し、本発明に至った。
【0018】
すなわち、本発明は、40℃における動粘度が200~200,000mm/sであり、100℃における動粘度が10~5,000mm/sである液状樹脂10~60wt%に、顔料90~40wt%が分散していることを特徴とする止水材である。特に、液状樹脂の40℃における動粘度が600~30,000mm/sであり、100℃における動粘度が30~600mm/sである液状樹脂20~50wt%に、顔料80~50wt%が分散している止水材であることがより好ましく、40℃における動粘度が2,000~30,000mm/sであり、100℃における動粘度が80~600mm/sである液状樹脂30~40wt%に、顔料70~60wt%が分散している止水材であることがより更に好ましい。このような動粘度の液状樹脂は、一種類の液状樹脂でもよいが、二種類以上の液状樹脂から作製される混合液状樹脂でもよく、特に、相溶する二種類以上の液状樹脂の混合液状樹脂であることがより好ましい。
【0019】
液状樹脂が、40℃において200mm/s未満の動粘度で、100℃において10mm/s未満の動粘度であり、60wt%を超えると、下水道管の本管、取付管、及び、廃棄管等に発生するクラック及び破損・欠損孔等への浸透性と微細な形状への追従性は良好であり、補修材と下水道管との間の空隙及び止水材内部の気泡を生成することはないが、下水道管の本管、取付管、及び、廃棄管等に発生するクラック及び破損・欠損孔等、並びに、廃棄管に充填された止水材の力学的強度が不足するという問題が発生する。逆に、液状樹脂が、40℃において200,000mm/sを超える動粘度で、100℃において5,000mm/sを超える動粘度であり、10wt%未満であると、下水道管の本管、取付管、及び、廃棄管等に発生するクラック及び破損・欠損孔等、並びに、廃棄管に充填された止水材の力学的強度に不足はないが、下水道管の本管、取付管、及び、廃棄管等に発生するクラック及び破損・欠損孔等への浸透性と微細な形状への追従性が不十分であり、補修材と下水道管との間の空隙及び止水材内部の気泡を生成するという問題が発生する。
【0020】
このような現象は、40℃における動粘度が200~200,000mm/sであり、100℃における動粘度が10~5,000mm/sである液状樹脂10~60wt%に、顔料90~40wt%が分散している止水材が、チキソトロピーを有することと強い関係がある。つまり、下水道管の本管、取付管、及び、廃棄管等への注入時において、圧力が加えられると、凝集(フロキュレーション)している顔料の網目構造が破壊されると共に、顔料と液状樹脂との相互作用が切断され、粘度が低下して流動性が高まり、注入後においては、顔料のフロキュレーションによる網目構想が再構築されると共に、顔料と液状樹脂及び液状樹脂同士の相互作用も再形成され、一定以上の圧力を加えなければ形態変化が生じない力学的強度を発現するのである。また、粘弾性的性質を有する液状樹脂の比較的分子量が小さな重合体(オリゴマー)分子が、顔料の網目構造を充填すると共に、顔料粒子間を橋架するため、強靭性を半永久的に保持することができる。その結果、温度や振動等外的環境の変化に順応することが可能となり、新たなクラックが発生することなく、半永久的に止水機能を発揮する。なお、ここで、重合体(オリゴマー)と表記したのは、本発明に適した樹脂は、動粘度、数平均分子量から明らかなように、重合度が低い重合体(ポリマー)であるが、一般的には、オリゴマーと称されることがあるためである。
【0021】
このような本発明の止水材の、チキソトロピーに起因する状態変化を図1に示す。(a)は、ポリブテン樹脂1に顔料2が分散されている止水材が、圧力を加えられている注入時の状態の模式図であり、(b)は、注入前及び注入完了後の止水材の状態の模式図である。空白の部分もポリブテン樹脂1が充填されており、ポリブテン樹脂1の分子のイメージを曲線で示している。注入時は、(a)から分かるように、顔料の一次粒子又はそれが複数集合した二次粒子が、ポリブテン樹脂にほぼ均一に独立して点在しており、ポリブテンの粘性が支配的で、高い流動性を示している。本発明の止水材は、約10~70℃で注入することができるように設計されるが、特に、40~70℃において注入することが好ましい止水材の場合、ポリブテン樹脂間のファンデルワールス力からも解放され、一層高い流動性を示す。そのため、本発明の止水材は、クラック及び破損・欠損孔等への浸透性と微細な形状への追従性に優れている。注入完了後、(b)に示すように、顔料の一次粒子又は二次粒子がフロキュレーションによって、強固な網目構造を再構築し、顔料とポリブテン樹脂及びポリブテン樹脂同士の相互作用も再形成されるので、一定以上の応力を加えなければ破壊されることがない形態を保持することができる。本発明の止水材は、約10~70℃で注入することができるように設計されるが、特に、40~70℃において注入することが好ましい止水材の場合、冷却後の物性変化が著しく、一層強固になると共に、顔料の網目構造をポリブテン樹脂で充填されているので、ポリブテン樹脂の弾性も備え、強靭な止水材として機能する。
【0022】
また、本発明の止水材の特徴を、液状樹脂の動粘度(動粘性係数)で規定したのは、動粘度が粘度(粘性係数)を密度で除した物性値で、液状樹脂の分子構造に依存する分子間距離の影響を取り除き、分子同士の剪断力の大きさ、すなわち、分子同士の滑性を表すものであることに基づいている。本発明の液状樹脂に顔料、特に、無機顔料を多量に分散した材料系においては、その材料系に占める液状樹脂の体積分率が低く、その流動特性が、粘度よりも動粘度に依存していることが実験的に示唆されたためである。
【0023】
このような本発明の止水材の組成を検討する過程で、更なる力学的強度の向上を目的として、ポリメチルメタクリレートポリマーを添加したが、止水材注入後の固化速度が遅く、一定以上の圧力に対する力学的強度が発現するまでに長時間を要した。このことは、粘度指数向上剤の作用効果から理解される。一般的に、粘度指数は、潤滑油の粘度の温度依存性を低下させ、環境温度の変化に対しても良好な潤滑性能を保持する粘度指数向上剤の指標として活用される。この粘度指数向上剤の代表的な樹脂として、平均分子量20,000~1,500,000のポリメチルメタクリレート、平均分子量5,000~300,000のポリイソブチレン、平均分子量20,000~250,000のポリオレフィン共重合体等が広く使用されている。このような作用が、ポリメチルメタクリレートの止水材を構成する液状樹脂にも作用すると共に、ポリメチルメタクリレートの長い分子が、図1に示したような顔料の網目構造の形成を阻害し、固化速度を遅延させたものと考えられる。
【0024】
さて、本発明の止水材に適した液状樹脂としては、耐水性、耐候性、および、耐薬品性に優れたポリオレフィン樹脂であることが好ましい。動粘度が上記範囲にあり、更に、数平均分子量が、500~3,000であることが好ましく、600~1,500であることがより好ましく、700~1,500であることがより更に好ましい。ここで、数平均分子量は、蒸気圧式分子量測定法によって求められるものである。
【0025】
このようなポリオレフィン樹脂の中でも、ポリブテン樹脂であることが好ましい。ポリブテン樹脂は、イソブテン単独重合体、2-ブテン単独重合体、1-ブテン単独重合体、並びに、イソブテン、1-ブテン、及び、2-ブテンから選択される二種以上で合成されるブテン共重合体に大別され、いずれも好ましく用いることができるが、ブテン共重合体であることがより好ましい。イソブテン単独重合体は、デーリムケミカル(株)製デーリムポリブテン、イネオスオリゴマーズ社製インドポール(登録商標)ポリブテン等を、ポリブテン共重合体は、エネオス社製日石ポリブテン、日油社製日油ポリブテン等を具体的代表例として挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
更に、イソプレン樹脂又は水添イソプレン樹脂、ブタジエン樹脂又は水添ブタジエン樹脂、及び、エチレンとα-オレフィンとの共重合体も、ポリブテン樹脂同様に用いることができる。
【0027】
イソプレン樹脂又は水添イソプレン樹脂、及び、ブタジエン樹脂又は水添ブタジエン樹脂の具体的代表例としては、それぞれ、出光興産社製の水酸基末端液状ポリイソプレンPoly ip(商標)、及び、水酸基末端ポリブタジエンPoly bd(商標)等を挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
エチレンとα-オレフィンとの共重合体は、α-オレフィンとして、1-ブテン、1-ヘキセン、及び、4-メチル-1-ペンテン等から選択される1種以上のコモノマーとの共重合体であることが好ましい。具体的代表例としては、三井化学社製であるルーカント(登録商標)を挙げることができる。
【0029】
また、本発明の止水材に適した液状樹脂は、ポリオレフィン樹脂よりも耐水性、耐候性、及び、耐薬品性に優れている上、耐寒性及び耐熱性にも優れる液状樹脂であるシリコーン樹脂も好ましく用いることができる。動粘度が上記範囲にあり、更に、数平均分子量が、10,000~200,000であることが好ましく、20,000~80,000であることがより好ましく、40,000~80,000であることがより更に好ましい。これは、後述するように、シリコーン樹脂の粘性特性を支配する要因が、珪素-酸素結合の低い回転障壁にあるので、シリコーン樹脂がポリオレフィン樹脂と同様の粘性特性には大きな分子量を必要とするためである。ここで、数平均分子量は、蒸気圧式分子量測定法によって求められるものである。
【0030】
このようなシリコーン樹脂の中でも、特に、潤滑油や離型剤等幅広く使用されるポリジメチルシロキサンが好ましく、具体的代表例には、信越化学工業社製シリコーンオイルKF-96シリーズ、KF-50シリーズ、KF-54、KF-965シリーズ、及び、KF-968等、並びに、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製シリコーンオイルTSF451シリーズ等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
本発明の止水材に、以上のような樹脂を挙げたのは、実験的に良好な結果がもたらされたためであるが、化学構造上の根拠もある。その根拠を説明するために、図2に、ポリオレフィン樹脂として、一般的なポリオレフィン樹脂であるエチレン-プロピレン共重合体(a)、ポリブテン共重合体(b)、ポリイソプレン(c)、ポリブタジエン(d)、エチレン-1-ブテン共重合体(e)、及び、ポリジメチルシロキサン(f)を示した。
【0032】
ポリブテン共重合体(b)は、ポリ2-ブテンユニット5、ポリイソブテンユニット6、及び、ポリ1-ブテンユニット7からなる共重合体を示しているが、このポリブテン樹脂の特徴は、ポリエチレンユニット3とポリプロピレンユニット4からなるエチレン-プロピレン共重合体と比較すれば明らかなように、主鎖を構成する炭素一つ当たりの側鎖メチル基が一つ多いということに基づいて生起する。液体状態においては、分子間距離が長くなり、エチレン-プロピレン共重合体よりも粘性が低くなる一方、固体状態では、メチル基による分子の絡みが強くなり、エチレン-プロピレン共重合体(a)よりもクリープ特性が優れている。そして、この優れた力学的特性は、本発明の止水材にも反映されていることが、実験的に分かった。それは、止水材に使用するポリブテン樹脂単体では液状であるが、ポリブテン樹脂と同等以上に配合される顔料が構築する網目構造に充填されるポリブテン樹脂は、顔料との相互作用、狭い堆積に充填されたポリブテン樹脂同士の相互作用によって、固体と類似したポリブテン樹脂であると考えられるからである。
【0033】
ポリイソプレン(c)は、エチレン-プロピレン共重合体(a)と比較すれば、側鎖メチル基の数は変わらないが、一般的な重合法では、シス-1、4-ポリイソプレンで、二重結合により主鎖が屈曲した形態の分子であり、それが、ポリブテン共重合体(b)同様、液体では粘性が低く、固体ではゴム弾性を示す要因となっている。
【0034】
ポリブタジエン(d)は、側鎖にビニル基を有する1、2-ポリブタジエンユニット9と1、4-ポリブタジエンユニットとからなり、この場合は、ポリブテン共重合体と同様の側鎖とポリイソプレン(c)同様の主鎖により、液体では粘性が低く、固体ではゴム弾性を示す要因となっている。
【0035】
エチレン-1-ブテン共重合体(e)は、ポリ1-ブテンユニット11から明らかなように、側鎖にエチル基を有し、ポリブテン共重合体(a)と全く同様のことがいえる。
【0036】
シリコーン樹脂の代表例であるポリジメチルシロキサン(f)は、上記ポリオレフィン樹脂とは全く異なり、ポリジメチルシロキサンユニット12の主鎖を構成する珪素-酸素結合エネルギーが、炭素-炭素結合エネルギーよりも大きく、安定していると共に、結合回転障壁が低く、結合角が大きいらせん構造をしていることによって、本発明の止水材に求められる粘性、耐水性、耐候性、耐薬品性、耐熱性、及び、耐寒性等を有している。粘性についていえば、珪素-酸素結合の回転障壁が低く、ポリオレフィン樹脂と同一分子量では、圧倒的に低い粘度を示すため、止水材として最適な流動特性とするため、ポリオレフィン樹脂と比較して極めて大きな分子量が必要とされる。
【0037】
本発明は、実験的に良好な結果がもたらされた結果であり、特に、樹脂の動粘度という粘性特性が、注入型止水材として最も重要であるが、このように、本発明の特別な技術的特徴は、樹脂の化学構造からも理解することができる。
【0038】
一方、顔料は、有機顔料と比較して耐候性や耐薬品性等に優れ、長期間に亘る物理的及び化学的安定性が求められる止水材には、無機顔料が好ましい。顔料にも、機能及び用途に従って様々な種類があるが、本発明の止水材には、流動性、力学的強度、及び、付着性等を制御するため体質顔料を用いることが好ましい。更に、下水道管の補修において、下水道管との区別を明確にし、止水材と下水道管との間の空隙の生成、クラック及び破損・欠損孔等への浸透性、並びに、微細な形状への追従性を確認するため、着色顔料を添加することが好ましいが、必ずしも必要とするものではない。特に、上記機能を有する体質顔料が、着色顔料として機能する顔料の場合には、区別されるものではなく、例えば、後述する二酸化チタンやカーボンブラック等を挙げられる。
【0039】
体質顔料として使用できる無機物質は、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、アルキル化炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、二酸化珪素(シリカ)、表面疎水化二酸化珪素(シリカ)、二酸化チタン、含水珪酸アルミニウム、カオリン、クレイ、タルク、雲母、硅石粉、石膏、ガラス粉末、ベントナイト等の水膨潤性粘土鉱物、へクトライト等のスメクタイト系粘土鉱物、天然に産する粘土セメント、ゼオライト、フライアッシュ、珪藻土、活性白土、セラミック粉末、カーボンブラック、黒鉛、活性炭、硅石、ガラス繊維、及び、炭素繊維等の多岐に亘り、これらの任意の混合物を用いることもできる。
【0040】
着色顔料は、白色顔料として、二酸化チタン、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、亜鉛華、鉛白、硫酸バリウム等、赤色顔料として、酸化鉄赤、鉛丹等、黄色顔料として、カドミウムイエロー、ニッケルチタンイエロー、ストロンチウムイエロー、黄鉛、及び、亜鉛黄(クロム酸亜鉛)等、緑色顔料として、酸化クロム(III)等、青色顔料として、アルミン酸コバルト、ウルトラマリンブルー、プルシアンブルー等、黒色顔料として、カーボンブラック等を挙げることができる。
【0041】
このような体質顔料及び着色顔料から、止水材に求められる特性である、流動性、力学的強度、付着性、耐候性、及び、耐薬品性、並びに、下水道管とを区別する着色力という観点から、適宜選択して用いることができる。特に好ましい顔料としては、シリカ、表面疎水化シリカ、炭酸カルシウム、及び、カーボンブラックを挙げることができる。炭酸カルシウム及びカーボンブラックは、体質顔料と着色顔料を兼ねることができるという特徴を有しているためであり、シリカ、表面疎水化シリカ、及び、カーボンブラックは、止水材にチキソトロピーを付与することができるためである。従って、無彩色に限定すれば、シリカ、表面疎水化シリカ、及び、カーボンブラックがより好ましく、着色顔料の併用による幅広い色の選択も考慮すれば、シリカ及び表面疎水化シリカがより好ましい。
【0042】
本発明の止水材が、均一かつ安定な分散状態とし、最適な流動特性と力学的強度が発現するように製造するためには、液状樹脂に体質顔料及び/又は着色顔料を分散する際に、更なる添加剤として分散剤を使用することが好ましい。液状樹脂と、体質顔料及び/又は着色顔料との合計100wt%に対し、0.1~1.0wt%の分散剤を添加して分散することが好ましい。必ずしも必要とするものではないが、均一かつ安定な分散状態とする分散効果を顕著に向上させるためには、0.1wt%以上添加することが好ましいが、1.0wt%以上添加すると、止水材としての、止水防止効果、流動特性、及び、力学的強度等に悪影響を及ぼす。
【0043】
このための分散剤としては、一般的な界面活性剤を使用することができ、特に、限定されるものではなく、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤から選択して使用できる。陰イオン性界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、脂肪酸塩、ナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物、及び、高分子界面活性剤等、非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルアミン、及び、アルキルアルカノールアミド、陽イオン性界面活性剤としては、アルキルアミン塩及び第四級アンモニウム塩等、両性界面活性剤としては、アルキルベタイン及びアルキルアミンオキサイド等を挙げることができる。一般的に、顔料に対する吸着性に優れ、止水材にチキソトロピーを付与する能力の高い界面活性剤として、陰イオン性界面活性剤である、アルキル硫酸エステル塩及びポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、並びに、非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを挙げられるが、本発明の樹脂に相溶性があり、有効成分が約100%として入手可能な非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。ただし、非イオン性界面活性剤の場合、使用する顔料によって、親水性-親油性比(HLB、Hydrophile-Lipophile Balance)を考慮して選択する必要があり、シリカ及びカーボンブラックのように表面に親水性基が存在する場合は、HLBが12~18が好ましく、表面疎水化シリカのように表面の親水性基が処理されている場合は、HLBが6~11であることが好ましい。なお、高分子分散剤の使用は、粘度指数向上剤において説明したように、止水材の流動特性を損ねる場合があるため、分子量の低いオリゴマー分散剤を用いることが好ましい。
【0044】
そして、本発明の止水材が、均一かつ安定な分散状態の止水材となるように製造するためには、液状樹脂と体質顔料及び/又は着色顔料との混合及び分散において、強力な剪断力が掛かる混合・分散機が必要とされ、ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、及び、3本ロールミル等の幅広い粘度に対応できる混合・分散機が好ましい。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、ヒューム管である下水道管の本管、取付管、及び、廃棄管等の補修、特に、これらに発生するクラック及び破損・欠損孔等から浸入する雨水、湧水や伏流水等の地下水等による漏水の防止、下水道管の本管、取付管、及び、廃棄管等の補修、並びに、廃棄管の管路充填において、クラック及び破損・欠損孔等への浸透性と微細な形状への追従性を有し、補修材と下水道管との間の空隙及び止水材内部の気泡を生成することがない上、外的環境の変化に順応可能な強靭性を有し、地中における様々な圧縮応力に対して変形することがないため、半永久的な止水機能を発現するという顕著な効果を奏する。また、スラリー等の硬化阻害がない上、環境に悪影響を及ぼすこともない。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】本発明の止水材が、補修される下水道管に注入される際には粘性が低く、注入完了後には固化して所望の力学的強度を発現するメカニズムを説明する模式図である。
図2】本発明に適用する液状樹脂が、止水材として優れた機能を発現する理由を説明するための化学構造式である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の止水材を、一実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能であり、特許請求の範囲に記載した技術思想によってのみ限定されるものである。
【0048】
≪実施例1≫
本発明の一実施形態に係る止水材を下記配合で、混合・分散機として、ニーダーで混合・分散した後、更に、三本ロールで均一に分散させた。
ポリブテン樹脂 35wt%
表面疎水化シリカ 65wt%
ポリブテン樹脂としては、ブテン共重合体で、40℃における動粘度が15,000mm/s、100℃における動粘度が350mm/sとなるように、数平均分子量800であるエネオス社製日石ポリブテンHV-50と数平均分子量1,400であるエネオス社製日石ポリブテンHV-300とをブレンドして用い、表面疎水化シリカとしては、表面が疎水化された平均粒子径110nmである信越化学工業社製シリカ球状微粒子QSG-100を用いた。
【0049】
≪実施例2≫
本発明の一実施形態に係る止水材を下記配合で、混合・分散機として、ニーダーで混合・分散した後、更に、三本ロールで均一に分散させた。
ポリブテン樹脂 35wt%
表面疎水化シリカ 65wt%
分散剤 0.5wt%
ポリブテン樹脂及び表面疎水化シリカは、実施例1と同じものを用い、分散剤は、HLBが8.1の非イオン性界面活性剤ポリオキシエチレンラウリルエーテルである花王社製エマルゲン103を用いた。
【0050】
≪実施例3≫
ポリブテン樹脂 40wt%
シリカ 60wt%
分散剤 1.0wt%
ポリブテン樹脂としては、イソブテン単独重合体で、40℃における動粘度が9,000mm/s、100℃における動粘度が270mm/sとなるように、数平均分子量680であるデーリムケミカル(株)製デーリムポリブテンPB1300とデーリムケミカル(株)製デーリムポリブテンPB680とをブレンドして用い、シリカとしては、平均一次粒子径15nmであるトクヤマ社製親水性シリカQS-10を用いた。また、分散剤は、HLBが12.1の非イオン性界面活性剤ポリオキシエチレンラウリルエーテルである花王社製エマルゲン108を用いた。
【0051】
特許文献7の実施形態と同様な工法において、エポキシ樹脂及びエアーモルタルに替えて、実施例1及び2で製造された止水材は、60℃に温めて、実施例3で製造された止水材は、常温(約25℃)で注入試験を行った。その結果、いずれの止水材においても、下水道本管の継手部に、空隙なく、また、微細な凹凸にも追従して、円滑な注入が行えると共に、取付管にも支障なく止水材の管路充填を行えた。止水材が注入された後、常温に戻り静止した止水材及び常温で静止した止水材は、所定の圧力以上に耐える力学的強度を十分に有していた。長期間に亘る止水性能は、今後の経過を調査する必要があるが、顔料によって形成された強固な網目構造に、強靭性を有するポリブテン樹脂が充填されている構造であると共に、ポリブテン樹脂が、優れた耐水性、耐候性、および、耐薬品性を有しているため、温度や振動等の外的環境変化に順応することができるものと考えられる。特許が先願性であることから、長期間に亘る結果を得た後に出願すること非実際的であるため、本発明の出願に及んだ。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の注入型止水材によれば、下水道管の外部水浸入部が、その複雑な形状にも追従して充填されるだけでなく、取付管及び廃棄管にも円滑に管路充填が行え、止水効果が半永久的に保持される効果を奏する。また、外部水浸入部の補修と管路充填とを同一止水材で行え、作業効率が顕著に高まる。また、耐水性、耐候性、及び、耐薬品性等に優れたポリブテン樹脂、更に、耐寒性及び耐熱性等も有するシリコーン樹脂を用いている止水材であるため、本発明の注入型止水材は、土木・建設業だけでなく、幅広く各種産業において利用可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 ポリブテン樹脂
2 顔料
3 ポリエチレンユニット
4 ポリプロピレンユニット
5 ポリ2-ブテンユニット
6 ポリイソブテンユニット
7 ポリ1-ブテンユニット
8 ポリイソプレンユニット
9 1、2-ポリブタジエンユニット
10 1,4-ポリブタジエンユニット
11 ポリ1-ブテンユニット
12 ポリジメチルシロキサンユニット

図1
図2