(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089152
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】動脈スティフネス増大抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7016 20060101AFI20240626BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240626BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240626BHJP
A23L 33/125 20160101ALI20240626BHJP
【FI】
A61K31/7016
A61P9/00
A61P9/10
A23L33/125
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204343
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】321006774
【氏名又は名称】DM三井製糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100201226
【弁理士】
【氏名又は名称】水木 佐綾子
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮太
(72)【発明者】
【氏名】坂崎 未季
(72)【発明者】
【氏名】永井 幸枝
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018LE06
4B018MD09
4B018MD29
4B018ME14
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA01
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA28
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA36
4C086ZA45
(57)【要約】
【課題】グルコース負荷がある状態であっても動脈スティフネスの増大を抑制し得る、動脈スティフネス増大抑制剤を提供する。
【解決手段】イソマルツロースを有効成分として含有する動脈スティフネス増大抑制剤であって、イソマルツロースが、ヒトに対して1日1回以上、かつ4週間以上継続して投与されるように使用される、動脈スティフネス増大抑制剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソマルツロースを有効成分として含有する動脈スティフネス増大抑制剤であって、
前記イソマルツロースが、ヒトに対して1日1回以上、かつ4週間以上継続して投与されるように使用される、動脈スティフネス増大抑制剤。
【請求項2】
イソマルツロースを有効成分として含有する脈波伝播速度の増大抑制剤であって、
前記イソマルツロースが、ヒトに対して1日1回以上、かつ4週間以上継続して投与されるように使用される、脈波伝播速度の増大抑制剤。
【請求項3】
前記イソマルツロースが、1回当たり20g以上投与されるように使用される、請求項1又は2に記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動脈スティフネス増大抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
心疾患や脳血管疾患などの血管に関連する疾患(心血管疾患)はわが国の主要な死因の一つである。したがって、心血管疾患を予防することは重要な課題である。動脈スティフネスは、動脈壁の物理的な硬さを意味し、血圧値とは独立した心血管疾患発症の予知因子であることが報告されている。したがって、動脈硬化(血管の老化)、早期血管障害等を含む心血管疾患を予防するためには、血圧値だけではなく、動脈スティフネスをコントロールすることが重要である。
【0003】
動脈スティフネスの増大を抑制することにより、心血管疾患の改善、予防が見込まれる。そのため、動脈スティフネスを抑制又は改善するための成分について種々の研究がなされている。例えば、特許文献1には、カカオポリフェノールが動脈スティフネス改善用組成物の有効成分として有用であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
炭水化物を多く含む食事による食後高血糖は、心血管疾患の危険因子といわれている。この理由の一つとしては、グルコース負荷に伴う血中インスリン濃度の上昇を介した血管内皮機能の低下が考えられる。グルコース負荷により血管内皮機能の低下が生じると、結果として、心血管疾患の危険因子である動脈スティフネスが増大し得る。したがって、心血管疾患の予防のため、食後高血糖に伴う動脈スティフネスの増大を抑制することは重要である。
【0006】
本発明は、グルコース負荷がある状態であっても動脈スティフネスの増大を抑制し得る、動脈スティフネス増大抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、イソマルツロースを特定の期間、継続的に摂取することにより、血糖値の上昇をもたらす糖を摂取した後であっても、動脈スティフネスの増大を抑制し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明の一側面は、イソマルツロースを有効成分として含有する動脈スティフネス増大抑制剤であって、イソマルツロースが、ヒトに対して1日1回以上、かつ4週間以上継続して投与されるように使用される、動脈スティフネス増大抑制剤を提供する。
【0009】
本発明の他の一側面は、イソマルツロースを有効成分として含有する脈波伝播速度の増大抑制剤であって、イソマルツロースが、ヒトに対して1日1回以上、かつ4週間以上継続して投与されるように使用される、脈波伝播速度の増大抑制剤を提供する。
【0010】
上記の剤は、イソマルツロースが、1回当たり20g以上投与されるように使用されることが好ましい。
【0011】
一過性の動脈スティフネス増大抑制効果は持続しにくく、通常一定時間が経過すると動脈スティフネスは初期値と同程度まで低下(悪化)する。一方で、本発明に係る動脈スティフネス増大抑制剤は、継続的に投与されることにより、動脈スティフネス増大抑制剤を摂取したときと違うタイミングで血糖値の上昇をもたらす糖(イソマルツロースではない糖)を摂取した後であっても動脈スティフネスの増大を抑制できることから、動脈壁の機能的・構造的変化が生じ得ると考えられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、グルコース負荷がある状態であっても動脈スティフネスの増大を抑制し得る、動脈スティフネス増大抑制剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例に係る試験において、上腕-足首間脈波伝播速度(baPWV)の推移を示すグラフである。
【
図2】実施例に係る試験において、上腕-足首間脈波伝播速度(baPWV)の推移について統計解析をした結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本実施形態に係る動脈スティフネス増大抑制剤は、イソマルツロースを有効成分として含有する動脈スティフネス増大抑制剤であって、イソマルツロースが、ヒトに対して1日1回以上、かつ4週間以上継続して投与されるように使用される、動脈スティフネス増大抑制剤である。
【0016】
本明細書において、「動脈スティフネス」とは、動脈壁の物理的な硬さ(物理的柔軟性)をいう。動脈壁は、内膜、中膜、及び外膜の3層構造からなるが、動脈スティフネスは、これら3層全てを含む動脈壁全体の硬さをいうのであって、いずれかの層の硬さから評価されるものではない。また、動脈スティフネスは、動脈壁の物理的な硬さを示すものであり、血液中のコレステロール値から算出される動脈硬化指数とは異なる指標である。
【0017】
動脈スティフネスは、例えば、心血管リスクの指標である、脈波伝播速度(pulse wave velocity;PWV)、心臓足首血管指数(cardio-ancle vascular index;CAVI)等を測定することにより評価することができる。PWVは、上腕-足首間脈波伝播速度(brachial-ancle pulse wave velocity;baPWV)、又は心臓-上腕間脈波伝播速度(heart-brachial pulse wave velocity;hbPWV)であってもよい。PWV及びCAVIは、動脈スティフネスの程度が大きい程、高値となる。
【0018】
すなわち、本発明は、イソマルツロースを有効成分として含有する、脈波伝播速度の増大抑制剤を提供するということもでき、イソマルツロースを有効成分として含有する、心臓足首血管指数の増大抑制剤を提供するということもできる。さらに本発明は、イソマルツロースを有効成分として含有する、上腕-足首間脈波伝播速度の増大抑制剤、及び心臓-上腕間脈波伝播速度の増大抑制剤を提供するということもできる。
【0019】
イソマルツロース(isomaltulose)は、グルコースとフルクトースとがα-1,6結合してなる化合物であり、6-O-α-D-グルコピラノシル-D-フルクトースとも称される。また、イソマルツロースは、パラチノース(palatinose)とも称される。なお、「パラチノース/PALATINOSE」は、DM三井製糖株式会社の登録商標である。
【0020】
イソマルツロースは、天然において蜂蜜中に見出される。また、細菌や酵母に由来するα-グルコシルトランスフェラーゼ(イソマルツロースシンターゼ)がショ糖に作用した場合に生じる転移生成物中にも存在する。工業的には、イソマルツロースは、プロタミノバクター・ルブラム(Protaminobacter rubrum)やセラチア・プリムチカ(Serratia plymuthica)等の細菌に由来するα-グルコシルトランスフェラーゼをショ糖に作用させることにより製造される。
【0021】
イソマルツロースとしては、天然由来のものを用いてもよく、酵素作用等により合成されたものを用いてもよい。
【0022】
イソマルツロースは、結晶粒子として動脈スティフネス増大抑制剤に含有されてもよいし、顆粒状粒子として含有されてもよい。顆粒状粒子は、例えば、イソマルツロースの複数の結晶粒子の集合体と、非晶質の糖分とを含み、該糖分が結晶粒子の集合体に内包されている、(球状)粒子であってもよい。このような顆粒状粒子は、例えば、イソマルツロースと非晶質の糖分とを含む糖液からイソマルツロースの結晶粒子を析出させ、該結晶粒子を含む糖液をスプレードライする方法により、得ることができる。あるいは、上記糖液を加熱しながらこれに剪断力を加えてイソマルツロースの結晶核を析出させ、該結晶核を含む混合物を冷却する方法により、イソマルツロースを含む顆粒状の粒子を得ることもできる。上記の糖液は、例えば、スクロースに酵素を作用させることにより得ることができる。この場合、糖液及び得られる顆粒状粒子は、トレハロース、フルクトース、グルコース、スクロース及びイソマルトース等を非晶質の糖分として含む。顆粒状粒子は、特開2012-179045号公報等に記載されている固形物であってもよい。
【0023】
また、イソマルツロースは、市販されているものを用いてもよい。市販品としては、例えば、結晶パラチノース(商品名「結晶パラチノースPST-N」、DM三井製糖株式会社製)、粉末パラチノース(商品名「粉末パラチノースPST-NP」、DM三井製糖株式会社製)、パラチノースシロップ(商品名「パラチノースシロップ-ISN」及び「パラチノースシロップ-TN」、DM三井製糖株式会社製)等が挙げられる。
【0024】
本実施形態に係る動脈スティフネス増大抑制剤は、イソマルツロースを有効成分として含んでいればよく、イソマルツロースのみからなるものであってもよく、イソマルツロースを含有する組成物であってもよい。動脈スティフネス増大抑制剤が組成物である場合、これに含まれるイソマルツロースは、イソマルツロース単体として含有されてもよく、いくつかの糖類を含有する市販のイソマルツロース製剤として含有されてもよい。イソマルツロース製剤は、イソマルツロースの他に、他の成分を含むことがある。
【0025】
他の成分としては、食品、医薬部外品又は医薬品に使用可能な素材であってよい。食品、医薬部外品又は医薬品に使用可能な素材としては、特に制限されるものではないが、例えば、アミノ酸、タンパク質、炭水化物、油脂、甘味料、ミネラル、ビタミン、香料、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、乳化剤、界面活性剤、基剤、溶解補助剤、懸濁化剤等が挙げられる。
【0026】
タンパク質としては、ミルクカゼイン、ホエイ、大豆タンパク、小麦タンパク、卵白等が挙げられる。炭水化物としては、コーンスターチ、セルロース、α化デンプン、小麦デンプン、米デンプン、馬鈴薯デンプン等が挙げられる。油脂としては、サラダ油、コーン油、大豆油、ベニバナ油、オリーブ油、パーム油等が挙げられる。甘味料としては、ブドウ糖、ショ糖、果糖、ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖等の糖類、キシリトール、エリスリトール、マルチトール等の糖アルコール、スクラロース、アスパルテーム、サッカリン、アセスルファムK等の人工甘味料、ステビア甘味料などが挙げられる。ミネラルとしては、カルシウム、カリウム、リン、ナトリウム、マンガン、鉄、亜鉛、マグネシウム等、及びこれらの塩類等が挙げられる。ビタミンとしては、ビタミンE、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンB類、ビオチン、ナイアシン等が挙げられる。賦形剤としては、デキストリン、デンプン、乳糖、結晶セルロース等が挙げられる。結合剤としては、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク等が挙げられる。崩壊剤としては、結晶セルロース、寒天、ゼラチン、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、デキストリン等が挙げられる。乳化剤又は界面活性剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、クエン酸、乳酸、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。基剤としては、セトステアリルアルコール、ラノリン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。溶解補助剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。懸濁化剤としては、モノステアリン酸グリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられてよい。
【0027】
イソマルツロースはショ糖の1/2程度ではあるが甘味を有することから、本実施形態に係る動脈スティフネス増大抑制剤は、甘味料として主にイソマルツロースを含むものであってもよい。イソマルツロースはその加水分解速度がスクロースの1/5と遅く、摂取後の血糖値の上昇を抑制することができるため、甘味料として主にイソマルツロースを含むものとすることにより、血糖コントロールが容易になるという効果も得られる。
【0028】
動脈スティフネス増大抑制剤がイソマルツロース以外の成分を含有する場合、イソマルツロースの含有量は、動脈スティフネス増大抑制剤の形態、使用目的等により適宜設定してよいが、例えば、動脈スティフネス増大抑制剤全量基準で、10質量%以上、20質量%以上、又は30質量%以上であってよく、70質量%以下、60質量%以下、又は50質量%以下であってよい。
【0029】
動脈スティフネス増大抑制剤は、食品組成物又は医薬組成物として用いることができる。本実施形態に係る食品組成物又は医薬組成物は、例えば、健康食品、特定保健用食品、機能性食品、栄養機能食品、サプリメント、医薬部外品、医薬品等の形態で提供されてもよい。本実施形態に係る食品組成物は、例えば、動脈スティフネス増大を抑制させる旨、増大した動脈スティフネスを改善させる旨の表示が付されたものであってもよい。また、剤の形態は固体(粉末、顆粒等)、液体(溶液、懸濁液等)、ペースト等のいずれの形状であってもよく、散剤、丸剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、液剤、懸濁剤等のいずれの剤形であってもよい。
【0030】
本実施形態に係る動脈スティフネス増大抑制剤は、イソマルツロースが、ヒトに対して1日1回以上、かつ4週間以上投与されるように使用される。
【0031】
動脈スティフネス増大抑制剤は、グルコース負荷がある状態であっても動脈スティフネスの増大抑制効果を得る観点から、1日1回以上投与される。動脈スティフネス増大抑制剤は、1日2回以上、又は3回以上投与されてもよい。動脈スティフネス増大抑制剤は、1日3回以下投与されてもよい。
【0032】
動脈スティフネス増大抑制剤が投与される時間帯は特に限定されないが、例えば、朝食前の空腹時、朝食と同時、昼食前、又は昼食と同時であってよい。
【0033】
動脈スティフネス増大抑制剤は、グルコース負荷がある状態であっても動脈スティフネスの増大抑制効果を得る観点から、4週間以上継続して投与される。動脈スティフネス増大抑制剤は、8週間以上、又は12週間以上投与されてもよい。動脈スティフネス増大抑制剤は、52週間以下投与されてもよい。
【0034】
動脈スティフネス増大抑制剤は、イソマルツロースが、1回当たり、好ましくは20g以上、より好ましくは22g以上、更に好ましくは25g以上投与されるように使用されることが好ましい。また、動脈スティフネス増大抑制剤は、イソマルツロースが、1回当たり、75g以下、72g以下、又は70g以下投与されるように使用されてもよい。動脈スティフネス増大抑制剤は、イソマルツロースが、1日当たり、好ましくは20g以上、より好ましくは22g以上、更に好ましくは25g以上投与されるように使用されることが好ましい。また、動脈スティフネス増大抑制剤は、イソマルツロースが、1日当たり、75g以下、72g以下、又は70g以下投与されるように使用されてもよい。この範囲であれば、十分な血中濃度を達成することができ、動脈スティフネスの増大抑制作用をより効果的に発現することができる。
【0035】
動脈スティフネス増大抑制剤は、経口投与がされてよく、静脈投与等の非経口投与がされてもよい。動脈スティフネス増大抑制剤は、経口投与されることが好ましい。
【0036】
動脈スティフネス増大抑制剤の投与対象は、糖尿病に罹患していないヒト(健常者)であってもよい。投与対象としてのヒトは、60歳以上、65歳以上、又は70歳以上の高齢者であってもよい。
【0037】
一実施形態に係る脈波伝播速度の増大抑制剤、及び心臓足首血管指数の増大抑制剤の具体的な態様は、上述した動脈スティフネス増大抑制剤における態様と同様であってよい。すなわち、一実施形態に係る増大抑制剤、及び心臓足首血管指数は、上述した動脈スティフネス増大抑制剤に関する説明において、「動脈スティフネス増大抑制剤」を「脈波伝播速度の増大抑制剤」又は「心臓足首血管指数の増大抑制剤」と読み替えたものであってよい。
【実施例0038】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
以下の方法に従って、イソマルツロースの長期摂取による、食後高血糖に伴う動脈スティフネス増大への影響を検討した。
【0040】
<対象者>
健常な中高齢者54名(男性30名、女性24名)を対象者とした。全ての対象者は、介入前にシングル・ブラインド・テストにおいていずれかのグループ、すなわち、イソマルツロース摂取群(I群)及びスクロース摂取群(S群)に属することとし、それぞれ12週間の介入を行った。
【0041】
<試験デザイン>
全ての対象者に、表1に記載された組成のゼリーを1日1回、12週間継続して摂取させた。I群にはイソマルツロースを含有するゼリー(実施例1)を、S群にはスクロースを含有するゼリー(比較例1)を摂取させた。ゼリーの摂取は毎朝、朝食摂取前に摂取するようにし、全ての対象者には介入期間中の食習慣を介入前と変えないように指示した。12週間の介入前、介入4週間後、8週間後、及び12週間後において、ゼリーの摂取から1日以上経過した後に75g経口ブドウ糖負荷試験(75-gOGTT、詳細は後述する)を行い、75-gOGTTの前、75-gOGTTの60分後及び120分後に、動脈スティフネスを後述する方法により評価した。
【0042】
【0043】
<75g経口ブドウ糖負荷試験(75-gOGTT)>
75-gOGTTは医師の指示の下、医療機関及び研究で一般的に使用されているトレーランG75g(株式会社陽進堂)を用いて、日本糖尿病学会のガイドライン(Araki E, Goto A, Kondo T, Noda M, Noto H, Origasa H, et al. JapaneseClinical Practice Guideline for Diabetes 2019. J Diabetes Investig 2020;11:1020-1076.)に従い、5分間で一般的な容量(1回につき225mL)を経口摂取した。
【0044】
<動脈スティフネスの評価>
動脈スティフネスは、動脈の2点間における脈波伝播時間とメジャーによる距離から脈波伝播速度(PWV)を算出して評価した(PWV=動脈の長さ÷脈波伝播時間)。上腕-足首間脈波伝播速度(baPWV)は、血圧脈波検査装置(BP-203RPEII、フクダコーリン株式会社)を用いて、左右の上腕と足首にオシロメトリセンサーを取り付けることで全身動脈スティフネスの指標として評価した。PWVの測定値に関する検者内及び検者間の変動係数は、3%及び4%であった。
【0045】
<統計処理>
各群の介入前後におけるbaPWVの変化は平均値(95%信頼区間)で示した。75-gOGTT前後における2群間のbaPWVの変化の比較には反復測定二元配置分散分析法を用いた。ポストホック検定による各介入における変化の比較には、Bonferroni法を実施した。曲線下の90分の総面積(baPWV AUC)は台形公式を使用して算出した。統計解析には、IBM SPSS Statistics Ver.25(IBM社製)を用いた。本試験における統計的有意水準は5%に設定した。
【0046】
介入前後における各群のbaPWVの推移を
図1に示す。
図1(a)は、介入前におけるbaPWVであり、75-gOGTTの前、75-gOGTTの60分後、及び75-gOGTTの120分後のbaPWVの推移を示している。
図1(b)、(c)、(d)は、それぞれ、介入4週間後、介入8週間後、及び介入12週間後におけるbaPWVであり、75-gOGTTの前、75-gOGTTの60分後、及び75-gOGTTの120分後のbaPWVの推移を示している。
【0047】
介入前後における各群のbaPWV AUCを
図2に示す。
図1(a)、(b)、(c)、(d)は、それぞれ、介入前、介入4週間後、介入8週間後、及び介入12週間後における各群のbaPWV AUCを示している。
【0048】
介入4、8及び12週間後におけるbaPWVは、S群において、75-gOGTT前と比較して75-gOGTTの60分後(p<0.05)及び120分後(p<0.05)に有意に増大したが、I群において有意な変化は見られなかった。一方、介入4、8及び12週間後における75-gOGTTの60分後のbaPWVは、S群と比較してI群において有意に低値を示した(p<0.05)。75-gOGTT前のbaPWVは両群において、介入前と比較して介入後に変化は見られなかった。介入前におけるbaPWVAUCは、群間差は認められなかった。介入4、8、及び12週間後におけるbaPWVAUCは、S群と比較してI群において有意に低値を示した(p<0.01)。以上のとおり、介入4、8及び12週間後における、75-gOGTTの60分後及び120分後のbaPWVは、S群と比較して、I群においてより低値であり、グルコース負荷後の動脈スティフネスの増大が抑制されていることが分かった。