IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井製糖株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-エンドセリン-1分泌抑制剤 図1
  • 特開-エンドセリン-1分泌抑制剤 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089153
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】エンドセリン-1分泌抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/125 20160101AFI20240626BHJP
   A61K 31/715 20060101ALI20240626BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240626BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
A23L33/125
A61K31/715
A61P43/00 111
A61P3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204344
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】321006774
【氏名又は名称】DM三井製糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100201226
【弁理士】
【氏名又は名称】水木 佐綾子
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮太
(72)【発明者】
【氏名】坂崎 未季
(72)【発明者】
【氏名】永井 幸枝
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE04
4B018LE05
4B018MD09
4B018MD29
4B018MD37
4B018ME14
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA20
4C086MA01
4C086MA27
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZC02
4C086ZC35
(57)【要約】
【課題】イソマルツロースの新規な用途を提供する。
【解決手段】イソマルツロースを有効成分として含有する、エンドセリン-1分泌抑制剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソマルツロースを有効成分として含有する、エンドセリン-1分泌抑制剤。
【請求項2】
前記イソマルツロースが、ヒトに対して1日1回以上、かつ4週間以上継続して投与されるように使用される、請求項1に記載のエンドセリン-1分泌抑制剤。
【請求項3】
前記イソマルツロースが、1回当たり20g以上投与されるように使用される、請求項1又は2に記載のエンドセリン-1分泌抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドセリン-1分泌抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
イソマルツロースは6-O-α-D-グルコピラノシル-D-フルクトース(商標としてはパラチノース)とも称される化合物であり、様々な機能性を有する糖質として知られている。例えば、特許文献1には、イソマルツロースの摂取により糖尿病性腎症の悪化が抑制されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-41661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、イソマルツロースの更なる有効活用のため、イソマルツロースの新規な用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、イソマルツロースが、ペプチドホルモンの一種であるエンドセリン-1の分泌を抑制する作用を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち本発明の一側面は、イソマルツロースを有効成分として含有する、エンドセリン-1の分泌抑制剤を提供する。
【0007】
エンドセリン-1分泌抑制剤は、イソマルツロースが、ヒトに対して1日1回以上、かつ4週間以上継続して投与されるように使用されることが好ましい。
【0008】
エンドセリン-1分泌抑制剤は、イソマルツロースが、1回当たり20g以上投与されるように使用されることが好ましい。
【0009】
エンドセリン-1の異常な産生はがん、高血圧、心臓病等の様々な疾患の原因になるところ、本発明のエンドセリン-1分泌抑制剤によれば、エンドセリン-1の異常な産生が抑制される。また、エンドセリン-1は食後高血糖により分泌が誘発されることも知られているが、本発明のエンドセリン-1分泌抑制剤は、食後高血糖のような、グルコース負荷がある状態であっても、エンドセリン-1の分泌を効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、イソマルツロースの新規な用途が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例に係る試験において、エンドセリン-1の濃度の推移を示すグラフである。
図2】実施例に係る試験において、エンドセリン-1の濃度の推移について統計解析した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本実施形態に係るエンドセリン-1分泌抑制剤は、イソマルツロースを有効成分として含有する。
【0014】
エンドセリン-1は、1988年に発見された21アミノ酸残基からなるペプチドホルモンであり、生体における強力な血管収縮物質のひとつである。エンドセリン-1は、血管内皮由来の血管平滑筋収縮活性を有するが、血管内皮だけでなく心筋細胞、腎糸球体メサンギウム細胞などの細胞でも産生される。エンドセリン-1はエンドセリン受容体を介して細胞内のGiタンパク質、Gqタンパク質といったGタンパク質を活性化することにより、細胞膜を介しシグナルを伝達する。エンドセリン-1は、エンドセリン受容体とみかけの上で不可逆的に結合し、血流を制御し、持続的な血圧の上昇に関わる。
【0015】
血流の制御の他にも、エンドセリン-1は、神経細胞の発生、細胞の増殖、体液の水分濃度の調整、陽性変時・変力作用、血管平滑筋増殖、心筋細胞肥大、繊維芽細胞増殖といった様々な作用に関与する。したがって、本実施形態に係るエンドセリン-1分泌抑制剤は、エンドセリン-1の分泌を抑制することを介して、これらの作用を制御する効果を奏することもできる。
【0016】
イソマルツロース(isomaltulose)は、グルコースとフルクトースとがα-1,6結合してなる化合物であり、6-O-α-D-グルコピラノシル-D-フルクトースとも称される。また、イソマルツロースは、パラチノース(palatinose)とも称される。なお、「パラチノース/PALATINOSE」は、DM三井製糖株式会社の登録商標である。
【0017】
イソマルツロースは、天然において蜂蜜中に見出される。また、細菌や酵母に由来するα-グルコシルトランスフェラーゼ(イソマルツロースシンターゼ)がショ糖に作用した場合に生じる転移生成物中にも存在する。工業的には、イソマルツロースは、プロタミノバクター・ルブラム(Protaminobacter rubrum)やセラチア・プリムチカ(Serratia plymuthica)等の細菌に由来するα-グルコシルトランスフェラーゼをショ糖に作用させることにより製造される。
【0018】
イソマルツロースとしては、天然由来のものを用いてもよく、酵素作用等により合成されたものを用いてもよい。
【0019】
イソマルツロースは、結晶粒子としてエンドセリン-1分泌抑制剤に含有されてもよいし、顆粒状粒子として含有されてもよい。顆粒状粒子は、例えば、イソマルツロースの複数の結晶粒子の集合体と、非晶質の糖分とを含み、該糖分が結晶粒子の集合体に内包されている、(球状)粒子であってもよい。このような顆粒状粒子は、例えば、イソマルツロースと非晶質の糖分とを含む糖液からイソマルツロースの結晶粒子を析出させ、該結晶粒子を含む糖液をスプレードライする方法により、得ることができる。あるいは、上記糖液を加熱しながらこれに剪断力を加えてイソマルツロースの結晶核を析出させ、該結晶核を含む混合物を冷却する方法により、イソマルツロースを含む顆粒状の粒子を得ることもできる。上記の糖液は、例えば、スクロースに酵素を作用させることにより得ることができる。この場合、糖液及び得られる顆粒状粒子は、トレハロース、フルクトース、グルコース、スクロース及びイソマルトース等を非晶質の糖分として含む。顆粒状粒子は、特開2012-179045号公報等に記載されている固形物であってもよい。
【0020】
また、イソマルツロースは、市販されているものを用いてもよい。市販品としては、例えば、結晶パラチノース(商品名「結晶パラチノースPST-N」、DM三井製糖株式会社製)、粉末パラチノース(商品名「粉末パラチノースPST-NP」、DM三井製糖株式会社製)、パラチノースシロップ(商品名「パラチノースシロップ-ISN」及び「パラチノースシロップ-TN」、DM三井製糖株式会社製)等が挙げられる。
【0021】
本実施形態に係るエンドセリン-1分泌抑制剤は、イソマルツロースを有効成分として含んでいればよく、イソマルツロースのみからなるものであってもよく、イソマルツロースを含有する組成物であってもよい。エンドセリン-1分泌抑制剤が組成物である場合、これに含まれるイソマルツロースは、イソマルツロース単体として含有されてもよく、いくつかの糖類を含有する市販のイソマルツロース製剤として含有されてもよい。イソマルツロース製剤は、イソマルツロースの他に、他の成分を含むことがある。
【0022】
他の成分としては、食品、医薬部外品又は医薬品に使用可能な素材であってよい。食品、医薬部外品又は医薬品に使用可能な素材としては、特に制限されるものではないが、例えば、アミノ酸、タンパク質、炭水化物、油脂、甘味料、ミネラル、ビタミン、香料、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、乳化剤、界面活性剤、基剤、溶解補助剤、懸濁化剤等が挙げられる。
【0023】
タンパク質としては、ミルクカゼイン、ホエイ、大豆タンパク、小麦タンパク、卵白等が挙げられる。炭水化物としては、コーンスターチ、セルロース、α化デンプン、小麦デンプン、米デンプン、馬鈴薯デンプン等が挙げられる。油脂としては、サラダ油、コーン油、大豆油、ベニバナ油、オリーブ油、パーム油等が挙げられる。甘味料としては、ブドウ糖、ショ糖、果糖、ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖等の糖類、キシリトール、エリスリトール、マルチトール等の糖アルコール、スクラロース、アスパルテーム、サッカリン、アセスルファムK等の人工甘味料、ステビア甘味料などが挙げられる。ミネラルとしては、カルシウム、カリウム、リン、ナトリウム、マンガン、鉄、亜鉛、マグネシウム等、及びこれらの塩類等が挙げられる。ビタミンとしては、ビタミンE、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンB類、ビオチン、ナイアシン等が挙げられる。賦形剤としては、デキストリン、デンプン、乳糖、結晶セルロース等が挙げられる。結合剤としては、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク等が挙げられる。崩壊剤としては、結晶セルロース、寒天、ゼラチン、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、デキストリン等が挙げられる。乳化剤又は界面活性剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、クエン酸、乳酸、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。基剤としては、セトステアリルアルコール、ラノリン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。溶解補助剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。懸濁化剤としては、モノステアリン酸グリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられてよい。
【0024】
イソマルツロースはショ糖の1/2程度ではあるが甘味を有することから、本実施形態に係るエンドセリン-1分泌抑制剤は、甘味料として主にイソマルツロースを含むものであってもよい。イソマルツロースはその加水分解速度がスクロースの1/5と遅く、摂取後の血糖値の上昇を抑制することができるため、甘味料として主にイソマルツロースを含むものとすることにより、血糖コントロールが容易になるという効果も得られる。
【0025】
エンドセリン-1分泌抑制剤がイソマルツロース以外の成分を含有する場合、イソマルツロースの含有量は、エンドセリン-1分泌抑制剤の形態、使用目的等により適宜設定してよいが、例えば、エンドセリン-1分泌抑制剤全量基準で、10質量%以上、20質量%以上、又は30質量%以上であってよく、70質量%以下、60質量%以下、又は50質量%以下であってよい。
【0026】
エンドセリン-1分泌抑制剤は、食品組成物又は医薬組成物として用いることができる。本実施形態に係る食品組成物又は医薬組成物は、例えば、健康食品、特定保健用食品、機能性食品、栄養機能食品、サプリメント、医薬部外品、医薬品等の形態で提供されてもよい。本実施形態に係る食品組成物は、例えば、エンドセリン-1の分泌を抑制させる旨、過剰分泌されたエンドセリン-1の分泌を抑制させる旨の表示が付されたものであってもよい。また、剤の形態は固体(粉末、顆粒等)、液体(溶液、懸濁液等)、ペースト等のいずれの形状であってもよく、散剤、丸剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、液剤、懸濁剤等のいずれの剤形であってもよい。
【0027】
エンドセリン-1分泌抑制剤は、1日1回以上投与されてもよい。エンドセリン-1分泌抑制剤は、1日2回以上、又は3回以上投与されてもよい。エンドセリン-1分泌抑制剤は、1日3回以下投与されてもよい。
【0028】
エンドセリン-1分泌抑制剤が投与される時間帯は特に限定されないが、例えば、朝食前の空腹時、朝食と同時、昼食前、又は昼食と同時であってよい。
【0029】
エンドセリン-1分泌抑制剤は、エンドセリン-1の分泌をより効果的に抑制する観点から、4週間以上継続して投与されてもよい。エンドセリン-1分泌抑制剤は、8週間以上、又は12週間以上投与されてもよい。エンドセリン-1分泌抑制剤は、52週間以下投与されてもよい。
【0030】
エンドセリン-1分泌抑制剤は、イソマルツロースが、1回当たり、好ましくは20g以上、より好ましくは22g以上、更に好ましくは25g以上投与されるように使用されることが好ましい。また、エンドセリン-1分泌抑制剤は、イソマルツロースが、1回当たり、75g以下、72g以下、又は70g以下投与されるように使用されてもよい。エンドセリン-1分泌抑制剤は、イソマルツロースが、1日当たり、好ましくは20g以上、より好ましくは22g以上、更に好ましくは25g以上投与されるように使用されることが好ましい。また、エンドセリン-1分泌抑制剤は、イソマルツロースが、1日当たり、75g以下、72g以下、又は70g以下投与されるように使用されてもよい。この範囲であれば、十分な血中濃度を達成することができ、エンドセリン-1の分泌抑制作用をより効果的に発現することができる。
【0031】
エンドセリン-1分泌抑制剤は、経口投与がされてよく、静脈投与等の非経口投与がされてもよい。エンドセリン-1分泌抑制剤は、経口投与されることが好ましい。
【0032】
エンドセリン-1分泌抑制剤の投与対象はヒト又は動物であってよく、好ましくはヒトである。投与対象としてのヒトは、糖尿病に罹患していないヒト(健常者)であってもよい。投与対象としてのヒトは、60歳以上、65歳以上、又は70歳以上の高齢者であってもよい。
【0033】
エンドセリン-1分泌抑制剤を動物へ使用する場合、飼料、飼料添加物として用いることもできる。飼料としては、ドッグフード、キャットフード等のコンパニオンアニマル用飼料、家畜用飼料、家禽用飼料、養殖魚介類用飼料等が挙げられる。「飼料」には、動物が栄養目的で経口的に摂取するもの全てが含まれる。より具体的には、養分含量の面から分類すると、粗飼料、濃厚飼料、無機物飼料、特殊飼料の全てを包含し、また公的規格の面から分類すると、配合飼料、混合飼料、単体飼料の全てを包含する。また、給餌方法の面から分類すると、直接給餌する飼料、他の飼料と混合して給餌する飼料、又は飲料水に添加し栄養分を補給するための飼料の全てを包含する。
【実施例0034】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
以下の方法に従って、イソマルツロースの摂取による、エンドセリン-1の分泌への影響を検討した。
【0036】
<対象者>
健常な中高齢者54名(男性30名、女性24名)を対象者とした。全ての対象者は、介入前にシングル・ブラインド・テストにおいていずれかのグループ、すなわち、イソマルツロース摂取群(I群)及びスクロース摂取群(S群)に属することとし、それぞれ12週間の介入を行った。
【0037】
<試験デザイン>
全ての対象者に、表1に記載された組成のゼリーを1日1回、12週間継続して摂取させた。I群にはイソマルツロースを含有するゼリー(実施例1)を、S群にはスクロースを含有するゼリー(比較例1)を摂取させた。ゼリーの摂取は毎朝、朝食摂取前に摂取するようにし、全ての対象者には介入期間中の食習慣を介入前と変えないように指示した。12週間の介入前、介入4週間後、8週間後、及び12週間後において、ゼリーの摂取から1日以上経過した後に75g経口ブドウ糖負荷試験(75-gOGTT、詳細は後述する)を行い、75-gOGTTの前、75-gOGTTの60分後及び120分後に、エンドセリン-1の分泌量を後述する方法により評価した。
【0038】
【表1】
【0039】
<75g経口ブドウ糖負荷試験(75-gOGTT)>
75-gOGTTは医師の指示の下、医療機関及び研究で一般的に使用されているトレーランG75g(株式会社陽進堂)を用いて、日本糖尿病学会のガイドライン(Araki E, Goto A, Kondo T, Noda M, Noto H, Origasa H, et al. JapaneseClinical Practice Guideline for Diabetes 2019. J Diabetes Investig 2020;11:1020-1076.)に従い、5分間で一般的な容量(1回につき225mL)を経口摂取した。
【0040】
<エンドセリン-1の分泌量の評価>
全ての対象者に対し、衛生的な環境で12時間以上の絶食状態で、肘静脈からの採血を行った。.75-gOGTT用糖質液の経口摂取前、摂取60分後及び120分後に、医師の指示のもと看護師が滅菌された使い捨ての採血針を用いて血液を採取した(1回につき15~20mL)。採血後のサンプルは、直ちに4℃、3000rpmにて15分間の遠心分離を行い、エンドセリン-1の濃度を測定するための検査キット(Cayman Chemical社、アナーバー)を用いて、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)により、エンドセリン-1の濃度を測定した。
【0041】
<統計処理>
各群の介入前後におけるエンドセリン-1濃度の変化は平均値(95%信頼区間)で示した。75-gOGTT前後における2群間のエンドセリン-1濃度の変化の比較には反復測定二元配置分散分析法を用いた。ポストホック検定による各介入における変化の比較には、Bonferroni法を実施した。曲線下の90分の総面積(エンドセリン-1濃度AUC)は台形公式を使用して算出した。統計解析には、IBM SPSS Statistics Ver.25(IBM社製)を用いた。本試験における統計的有意水準は5%に設定した。
【0042】
介入前後における各群のエンドセリン-1濃度の推移を図1に示す。図1(a)は、介入前におけるエンドセリン-1濃度であり、75-gOGTTの前、75-gOGTTの60分後、及び75-gOGTTの120分後のエンドセリン-1濃度の推移を示している。図1(b)、(c)、(d)は、それぞれ、介入4週間後、介入8週間後、及び介入12週間後におけるエンドセリン-1濃度であり、75-gOGTTの前、75-gOGTTの60分後、及び75-gOGTTの120分後のエンドセリン-1濃度の推移を示している。
【0043】
介入前後における各群のエンドセリン-1濃度AUCを図2に示す。図1(a)、(b)、(c)、(d)は、それぞれ、介入前、介入4週間後、介入8週間後、及び介入12週間後における各群のエンドセリン-1濃度AUCを示している。
【0044】
介入前におけるエンドセリン-1濃度は両群において、75-gOGTT前と比較して、75-gOGTTの60分後(p<0.05)及び120分後(p<0.05)に有意に増加し、両群間に有意な違いは見られなかった。介入4、8及び12週間後におけるエンドセリン-1濃度は、S群において、75-gOGTT前と比較して75-gOGTTの60分後(p<0.01)及び120分後(p<0.01)に有意に増加したが、I群において有意な変化は見られなかった。介入4、8及び12週間後の75-gOGTT前、60分後及び120分後のエンドセリン-1濃度は、S群と比較してI群において有意に低値を示した(p<0.01)。介入前におけるエンドセリン-1濃度AUCは、群間差は認められなかった。介入4、8及び12週間後におけるエンドセリン-1濃度AUCは、S群と比較してI群において有意に低値を示した(p<0.01)。以上のとおり、介入4、8及び12週間後における、75-gOGTTの60分後及び120分後のエンドセリン-1濃度は、S群と比較して、I群においてより低値であり、イソマルツロースの摂取によりエンドセリン-1の分泌が抑制されていることが分かった。
図1
図2