(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008919
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】質量分析法におけるイオンピーク面積の処理
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20240112BHJP
H01J 49/40 20060101ALI20240112BHJP
H01J 49/42 20060101ALI20240112BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
G01N27/62 D
H01J49/40 600
H01J49/42 050
H01J49/00 360
【審査請求】有
【請求項の数】21
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023112034
(22)【出願日】2023-07-07
(31)【優先権主張番号】2210074.7
(32)【優先日】2022-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】508306565
【氏名又は名称】サーモ フィッシャー サイエンティフィック (ブレーメン) ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】ベルント ハーゲドルン
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ムラド
(72)【発明者】
【氏名】トビー シャンリー
(72)【発明者】
【氏名】ハミッシュ スチュワート
(72)【発明者】
【氏名】アンキット ドウィヴェディ
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041GA03
2G041GA07
2G041GA08
2G041LA09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】質量分析器によって生成された信号を分析する方法を提供する。
【解決手段】方法は、質量分析器によって生成された信号を受信することと、信号内の1つ以上のイオンピークのうちの第1のイオンピークの面積を決定することと、第1のイオンピークに寄与したイオンの数を推定することと、を含む。第1のイオンピークに寄与したイオンの数は、補正関数から第1のイオンピークの面積に適用される補正を決定すること、及び、その補正を第1のイオンピークの面積に適用することによって推定される。補正関数は、質量分析器についての、平均単一イオン面積と、イオン質量、質量電荷比、及び/又は電荷との間の関係を記述する。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析器によって生成された信号を分析する方法であって、前記方法は、
前記質量分析器によって生成された信号を受信することであって、前記信号が、1つ以上のイオンピークを含む、受信することと、
前記1つ以上のイオンピークのうちの第1のイオンピークの面積を決定することと、
前記第1のイオンピークに寄与したイオンの数を、(i)補正関数から前記第1のイオンピークの前記面積に適用される補正を決定することであって、前記補正関数が、前記質量分析器についての、平均単一イオン面積と、イオン質量(m)、質量電荷比(m/z)、及び/又は電荷(z)との間の関係を記述する、決定すること、並びに、(ii)前記補正を前記第1のイオンピークの前記面積に適用すること、によって推定することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記補正関数が、m/z範囲にわたる、前記分析器についての、平均単一イオン面積と、イオン質量又はm/zとの間の関係を記述し、前記m/z範囲が、約25、50、75、又は100~約6000、8000、10,000、又は15,000である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記補正関数の質量又はm/z依存性が、前記m/z範囲にわたって連続的である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記補正関数の質量又はm/z依存性が、遷移質量において、最大値を有し、前記遷移質量を下回る質量において、質量が増加するにつれて増加し、前記遷移質量を上回る質量において、質量が増加するにつれて減少する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記分析器が、少なくともダイノードを備えるイオン検出器を含み、前記遷移質量が、前記ダイノードの1つ以上の特質に依存する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記補正関数の質量又はm/z依存性が、形式
【数1】
を有し、式中、Tは、イオンの運動エネルギーであり、mは、イオンの質量であり、vは、イオンの速度であり、a、b、及びv
0は、ベストフィットパラメータである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記補正関数が、1素電荷~10素電荷以上の電荷範囲にわたる、前記分析器についての、平均単一イオン面積と電荷との間の関係を記述する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記補正関数の電荷依存性が、電荷とともに直線的に変化する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記分析器のための前記補正関数が、グローバル補正関数をスケーリングすることによって得られる、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記1つ以上のイオンピークのうちの1つ以上の更なるイオンピークの面積を決定することと、
前記1つ以上の更なるイオンピークの各々に寄与したイオンの数を、前記1つ以上の更なるイオンピークの各々について、(i)前記補正関数から前記イオンピークの前記面積に適用されるための補正を決定すること、及び(ii)前記補正を前記イオンピークの前記面積に適用すること、によって推定することと、
を更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記補正関数又は前記グローバル補正関数が、測定された単一イオン面積(SIA)データにモデルをフィッティングさせることによって決定される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
質量分析器のための補正関数を決定する方法であって、前記方法が、
質量分析器を使用して複数の単一イオンを分析することであって、前記複数の単一イオンが、前記分析器の対象となる質量m/z及び/又は電荷範囲のうちの大部分又は全てにわたって広がる質量m/z及び/又は電荷を有するイオンを含む、分析することと、
前記複数の単一イオンを分析することに応答して、前記分析器によって生成された複数のイオンピークの各イオンピークの面積を決定することによって、単一イオン面積(SIA)データを生成することと、
モデルを前記SIAデータにフィッティングさせることによって、補正関数を決定することと、を含む、方法。
【請求項13】
前記単一イオン面積(SIA)データが、検出器効率について生のSIAデータを補正することによって、前記生のSIAデータから導出された補正されたSIAデータである、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
イオン源及び質量分析器を備える分析機器を動作させる方法であって、前記方法が、
前記イオン源においてイオンを生成することと、
前記質量分析器を用いて前記イオンを分析して信号を生成することと、
請求項1~11、又は13のいずれか一項に記載の方法を使用して、前記信号を分析することと、を含む、方法。
【請求項15】
前記質量分析器が、飛行時間型(ToF)質量分析器である、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記飛行時間型質量分析器が、イオントラップを含み、前記方法が、
前記イオントラップ内に第1のイオンパケットを蓄積することと、
前記第1のイオンパケットを分析して、第1の信号を生成することと、
前記第1の信号を分析して、前記第1のイオンパケット内のイオンの総数を推定することと、
前記イオントラップ内に第2のイオンパケットを蓄積することと、を含み、
前記第1のイオンパケット内のイオンの推定された前記総数を使用して、前記第2のイオンパケット内のイオンの総数を制御する、請求項14及び15に記載の方法。
【請求項17】
プロセッサ上で実行されるとき、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法を行うコンピュータソフトウェアコードを記憶する、非一時的コンピュータ可読記憶媒体。
【請求項18】
分析機器のための制御システムであって、前記制御システムが、前記分析機器に、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法を行わせるように構成されている、制御システム。
【請求項19】
イオン分析器と、請求項18に記載の制御システムと、を備える、分析機器。
【請求項20】
分析機器であって、
質量分析器と、
制御システムであって、
前記質量分析器によって生成された信号を受信することであって、前記信号が、1つ以上のイオンピークを含む、受信することと、
前記1つ以上のイオンピークのうちの第1のイオンピークの面積を決定することと、
前記第1のイオンピークに寄与したイオンの数を、(i)補正関数から前記第1のイオンピークの前記面積に適用される補正を決定することであって、前記補正関数が、前記質量分析器についての、平均単一イオン面積と、イオン質量、質量電荷比、及び/又は電荷との間の関係を記述する、決定すること、並びに、(ii)前記補正を前記第1のイオンピークの前記面積に適用すること、によって、推定することと、を行うように構成されている、制御システムと、を備える、分析機器。
【請求項21】
前記質量分析器が、イオントラップを備える飛行時間型質量分析器であり、前記機器が、
前記イオントラップ内に第1のイオンパケットを蓄積することと、
前記第1のイオンパケットを分析して、第1の信号を生成することと、
前記第1のイオンパケット内のイオンの総数を推定することと、
前記第1のイオンパケット内のイオンの推定された前記総数を使用して、前記イオントラップ内に蓄積された第2のイオンパケット内のイオンの数を制御することと、を行うように構成されている、請求項20に記載の分析機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンを分析する方法に関し、特に、質量分析法(mass spectrometry、MS)及び質量分析器に関する。
【背景技術】
【0002】
飛行時間型(time-of-flight、ToF)質量分析器は、静電界におけるイオンの移動時間がイオンの質量電荷比(m/z)の平方根に比例するという特性を利用する。イオンは、イオン源から放出され、所望のエネルギーまで加速され、特定の距離を移動した後にイオン検出器に衝突する。この検出器によって生成される信号は、記録され、典型的には、時間分解されたピークがもたらされ、各ピークは、同じ質量電荷比(m/z)を有する1つ以上のイオンによって生成される。
【0003】
全てのイオンについて移動距離が実質的に同じであるため、イオンの到着時間は、イオンの質量電荷比(m/z)を決定するために使用され、質量電荷比(m/z)は、後で識別のために使用することができる。加えて、ピークの面積を使用して、そのピークに寄与したイオンの数を推定することができ、その数は、今度は、定量化のために使用することができる。
【0004】
質量分析のための装置及び方法を改善するための余地が未だ残っていると考えられる。
【発明の概要】
【0005】
第1の態様は、質量分析器によって生成された信号を分析する方法を提供し、この方法は、
質量分析器によって生成された信号を受信することであって、この信号は、1つ以上のイオンピークを含む、受信することと、
1つ以上のイオンピークのうちの第1のイオンピークの面積を決定することと、
第1のイオンピークに寄与したイオンの数を、(i)補正関数から第1のイオンピークの面積に適用される補正を決定することであって、補正関数が、質量分析器についての、平均単一イオン面積と、イオン質量(m)、質量電荷比(m/z)、及び/又は電荷(z)との間の関係を記述する、決定すること、並びに(ii)補正を第1のイオンピークの面積に適用すること、によって推定することと、を含む。
【0006】
実施形態は、質量分析器によって生成された信号を分析する方法を提供する。
【0007】
質量分析器は、飛行時間型(ToF)質量分析器であってもよい。したがって、この分析器は、イオン経路の端部に配置されたイオン検出器を備えることができる。イオンパケットは、イオン経路に注入され得、注入されるとすぐに、イオンは、検出のためにイオン経路に沿って検出器まで移動し得る。検出器は、検出器で受け取られたイオン強度を示す信号を(到着)時間の関数として作り出すように構成され得る。
【0008】
質量分析器は、代わりに、イオントラップ質量分析器又は四重極質量分析器であってもよい。したがって、分析器は、イオンを質量電荷比(m/z)の順序で放出するように構成されたRFイオントラップであって、放出するとすぐに、イオンは検出のための検出器へ移動する、RFイオントラップか、又は、それらのm/zに従ってイオンをフィルタリングするように構成された四重極質量フィルタであって、質量フィルタによって透過されたイオンが検出のための検出器へ移動する、四重極質量フィルタ、を備えることができる。この検出器は、検出器で受け取られたイオン強度を示す信号を、時間の関数として作り出すように構成され得る。
【0009】
この方法では、1つ以上のイオンピークは、信号内で識別され、次いで、識別されたイオンピークのうちの1つ以上又は各々の面積は、例えば、ピーク下の信号の面積を合計又は積分することによって決定される。次いで、1つ以上のイオンピーク又は各イオンピークについて、検出器に到着してピークを作り出すイオンの数は、イオンピーク面積に適切な補正を適用することによって、例えば、イオンピーク面積を補正係数で除算(又は乗算)することによって、イオンピークの面積に基づいて推定される。
【0010】
この方法では、特定のイオンピークの面積に適用される補正は、質量分析器のための補正関数から決定される。この補正関数は、分析器についての、平均単一イオン面積(SIA)と、イオン質量、質量電荷比(m/z)、及び/又は電荷との間の関係を記述する。いくつかの実施形態では、補正関数は、分析器についての、平均単一イオン面積(single ion area、SIA)と、イオン質量又は質量電荷比(m/z)との間の関係のみを記述する。他の実施形態では、補正関数はまた、分析器についての、単一イオン面積(SIA)と電荷との間の関係も(例えば、別個に)記述する。例えば、補正関数は、イオンの質量若しくはm/zの関数として(又は同等に、イオンの速度若しくは到着時間の関数として)、また任意選択的に、イオンの電荷の関数として、単一イオンを検出することに応答して、分析器によって作り出されるイオンピークの近似平均面積を提供することもできる。
【0011】
特定のイオンピークのための補正は、イオンピークに関連付けられた質量若しくはm/z(又は同等に、速度若しくは到着時間)、及び任意選択的に電荷を決定し、次いで、その決定された質量若しくはm/z(又は速度若しくは到着時間)、及び任意選択的に電荷における補正関数の値を決定することによって、補正関数から決定され得る。そのように決定された値は、(例えば、イオンピーク面積を当該値で除算(又は乗算)することによって)イオンピーク面積に適用されて、イオンピークに寄与したイオンの数を推定することができる。したがって、補正は、分析器によって生成されたイオン面積の質量及び/又は電荷依存性を補正することができる。
【0012】
この点に関して、ToF分析器などの質量分析器によって作り出されたイオンピークの面積が、典型的には、イオンの質量及び/又は電荷に対する明白な依存性を有するにもかかわらず、既知の質量分析計は、この質量及び/又は電荷依存性を系統的に補正しない。更に、そのような補正を容易にすることができる、飛行時間型質量分析器などの質量分析器に関連する質量及び/又は電荷の全範囲にわたって適切な補正値を提供する、既知のグローバル補正関数は存在しない。
【0013】
以下で更に詳細に説明されるように、実施形態は、質量分析器の全体的に動作可能な質量m/z及び/又は電荷範囲にわたる、平均単一イオン面積と、イオン質量m/z及び/又は電荷との間の関係を記述する、補正関数を提供する。これにより、特に正確かつ直接的な様式で、イオン面積の、質量及び/又は電荷に対する依存性の系統的な補正が可能になる。
【0014】
この方法は、イオンパケットが、イオントラップから分析器のドリフト領域に注入される前に、イオントラップ内に蓄積される飛行時間型質量分析器について、特に有利である。そのような分析器では、イオントラップ内に蓄積される各イオンパケット内のイオンの総数を正確に制御して、例えば、イオントラップの空間電荷限界などの、イオントラップの限界を下回るが、できるだけその限界に近づくように、イオンの数を最適化する必要があることが多い。これは、いわゆる、自動利得制御(AGC)法を使用して一般的に行われ、この自動利得制御法は、イオンパケット内のイオンの数の正確な測定又は推定に基づいて、後続のイオンパケット内のイオンの数を制御することができる。各イオンパケットは、広範囲の質量及び/又は電荷にわたって(したがって、広範囲の対応するSIAを有する)広がるイオンを含むことができ、よって、質量及び/又は電荷に対するイオン面積の依存性を補正することは、イオンパケット内のイオンの数の推定精度、及びAGC法に対する大幅な改善を提供することができる。
【0015】
実施形態はまた、MSデータの改善された定量化、例えば、ToF-MS間のデータの無標識定量化も提供する。
【0016】
したがって、実施形態は、イオン分析器によって生成されたデータを分析する改善された方法を提供することが認識されるであろう。
【0017】
質量分析器は、質量分析計などの分析機器の一部を形成することができる。機器は、イオン源を備え得る。イオンは、イオン源内のサンプルから生成され得る。イオンは、イオン源と分析器との間に配置された1つ以上のイオン光学デバイスを介して、イオン源から分析器へと通過され得る。
【0018】
1つ以上のイオン光学デバイスは、1つ以上のイオンガイド、1つ以上のレンズ、1つ以上のゲートなどの任意の好適な配列を備え得る。1つ以上のイオン光学デバイスは、イオンを移送するための1つ以上の移送イオンガイド、及び/又はイオンを質量選択するための1つ以上の質量セレクタ若しくはフィルタ、及び/又はイオンを冷却するための1つ以上のイオン冷却イオンガイド、及び/又はイオンをセグメント化若しくは反応させるための1つ以上の衝突セル若しくは反応セルなどを含むことができる。1つ以上の又は各イオンガイドは、多重極イオンガイド(例えば、四重極イオンガイド、六重極イオンガイドなど)、セグメント化多重極イオンガイド、積層リング型イオンガイドなどのRFイオンガイドを含み得る。
【0019】
質量分析器は、飛行時間型(ToF)質量分析器、イオントラップ質量分析器、又は四重極質量分析器などの任意の適切な質量分析器であってもよい。
【0020】
実施形態では、質量分析器は、イオンの到着時間からそのイオンの質量電荷比(m/z)を決定するように構成されたToF分析器である。一般に、ToF分析器は、イオン経路の始端に配置されたイオン注入器、及びそのイオン経路の終端に配置されたイオン検出器を含むことができる。分析器は、検出器におけるイオンの到着時間(すなわち、イオンが注入器から移動し、イオン経路を介して検出器に到着するまでにかかる時間)を決定することによって、イオンを分析するように構成され得る。
【0021】
イオン経路は、線形ToF分析器の場合には線形であるもの、又はリフレクトロン若しくは多重反射飛行時間型(MR-ToF)分析器を備えるToF分析器の場合には1つ以上の反射を含むものなど、任意の適切な形態を有することができる。
【0022】
特定の実施形態では、分析器は、多重反射飛行時間型(MR-ToF)分析器であり、例えば、米国特許第9,136,101号に記載されているタイプの傾斜ミラー型多重反射飛行時間型質量分析器、又は、例えば、英国特許第2,580,089号に記載されているタイプの単焦点レンズ型多重反射飛行時間型質量分析器などである。
【0023】
したがって、この分析器は、第1の方向Xにおいて互いに離間して対向する2つのイオンミラーを備えることができ、各ミラーは、概して、第1の端部と第2の端部との間のドリフト方向Yに沿って細長く、そのドリフト方向Yは、第1の方向Xに対して直交する。イオン注入器は、イオンミラーの第1の端部の近傍に配置され得、イオンミラー間の空間にイオンを注入するように構成され得る。検出器は、イオンミラーの第1の端部近傍に配置され得、イオンがイオンミラー間での複数の反射を完了した後に、イオンを検出するように構成され得る。分析器は、イオン注入器からイオンミラー間の空間にイオンを注入することによってイオンを分析するように構成され得、注入するとすぐに、イオンは、(a)デフレクタからドリフト方向Yに沿って、イオンミラーの第2の端部に向かってドリフトし、(b)イオンミラーの第2の端部の近くでドリフト方向速度を反転し、かつ(c)検出のために、ドリフト方向Yに沿ってデフレクタにドリフトして戻る間に、イオンミラー間で方向Xに複数の反射を有する、ジグザグ形のイオン経路をとることができる。
【0024】
イオン注入器は、例えば、1つ以上の(例えば、直交する)加速電極などの任意の適切な形態とすることができる。しかしながら、特定の実施形態では、イオン注入器は、イオントラップを備える。このイオントラップは、(イオン源から、1つ以上のイオン光学デバイスを介して)イオンを受け取るように構成され得、例えば、蓄積期間中にイオンを蓄積することによって、イオンパケットを蓄積するように構成され得る。イオントラップは、(例えば、イオン経路に沿ってイオンパケットを加速することによって)蓄積された各パケットイオンをイオン経路に注入するように構成され得、注入するとすぐに、パケットのイオンは、イオン経路に沿って検出器まで移動することができる。イオントラップは、例えば、英国特許第2,580,089号に記載されているように、取り出しトラップであるような任意の適切な形態を有することができる。
【0025】
質量分析器は、代わりに、イオントラップ質量分析器又は四重極質量分析器であってもよい。したがって、分析器は、イオンを質量電荷比(m/z)の順序で放出するように構成されたRFイオントラップであって、放出されるとすぐに、イオンは検出のための検出器へ移動する、RFイオントラップか、又は、イオンをそれらのm/zに従ってフィルタリングするように構成された四重極質量フィルタであって、質量フィルタによって透過されたイオンが検出のための検出器へ移動する、四重極質量フィルタ、を備えることができる。この検出器は、検出器で受け取られたイオン強度を、時間の関数として示す信号を作り出すように構成され得る。
【0026】
様々な実施形態では、検出器は、1つ以上の変換ダイノードなどの任意の適切なイオン検出器とすることができ、任意選択的に、1つ以上の電子増倍管、1つ以上のシンチレータ、及び/又は1つ以上の光子増倍管などの後に続く。検出器は、検出器で受け取られたイオンを検出するように構成され得、検出器で受け取られたイオンの強度を示す信号を(到着)時間の関数として作り出すように構成され得る。
【0027】
検出器は、時間デジタル変換器(time-to-digital converter、TDC)又はアナログデジタル変換器(analogue-to-digital converter、ADC)などのデジタイザを含むことができ、これは、各信号をデジタル化して、デジタル化された信号を作り出すように構成され得る。したがって、分析器によって生成される各信号は、デジタル化された信号とすることができる。デジタイザは、単一のチャネル、又は複数のチャネルを有し得、例えば、検出器からの信号は、第1の高利得チャネルと第2の低利得チャネルとの間で(ダイナミックレンジを増加させるために)分裂される。
【0028】
各信号は、複数のイオンピークなど、1つ以上のイオンピークを含むことができ、各ピークは、検出器によって検出されるイオン(又は実質的に同じ質量電荷比(m/z)を有する複数のイオン)によって生成される。
【0029】
いくつかの実施形態では、ToF分析器は、それぞれのイオンパケットに関する信号を生成するように構成され得る。例えば、複数のそのようなイオンパケットは、ToFイオン経路に順次注入されて、検出器によって検出され得る。したがって、本方法は、(i)イオンパケットをToFイオン経路に注入し、(ii)イオンパケットを検出器において検出し、(iii)イオンパケットに対するそれぞれの信号を作り出すことを繰り返すことを含み得る。イオンパケットは、約100Hzよりも大きく、かつ約10kHzよりも小さい、例えば、約200Hzのレートなど、任意の所望のレートでToFイオン経路に注入され(かつ、信号が作り出され)得る。
【0030】
実施形態で受信及び処理される各信号は、単一イオンパケットに関する信号から作り出され得る。あるいは、受信及び処理される各信号は、複数のイオンパケット(すなわち、複数のイオン注入)に関する信号から作り出され得、それによって、複数の(デジタル化)信号は、組み合わされる(例えば、平均化される)。
【0031】
本方法では、1つ以上のイオンピークが、信号内で識別され得る。これは、任意の適切な様式で、例えば、任意の適切なピーク検出アルゴリズムを使用して行われ得る。本方法は、1つ以上の識別されたイオンピーク又は識別された各イオンピークの1つ以上の特性を決定することによって進行し得る。適切な特性には、例えば、イオンピークの重心及び/又は強度などが含まれる。これは、任意の適切な様式、例えば、適切なピークモデルを、識別されたイオンピークにフィッティングさせることによって行われ得る。例えば、ガウス又は非対称ガウスなどの任意の好適なピークモデルが使用され得る。
【0032】
各イオンピークの1つ以上の特性は、必要に応じて使用することができる。例えば、各イオンピークに関連付けられる、その質量、電荷、及び/又は質量電荷比(m/z)などの物理化学的特質は、1つ以上の特性を使用して決定され得る。イオンピークに関連付けられる物理化学的特質は、当該ピークに関連付けられる1つ以上の特性のみを使用して、又は、当該ピークに関連付けられる1つ以上の特性、及び1つ以上の他のピークに関連付けられる1つ以上の特性の両方を使用することによって決定され得る。例えば、イオンピークに関連付けられるm/zは、当該ピークに関連付けられる到着時間(すなわち重心)から決定され得る。イオンピークに関連付けられる電荷は、サンプル及び/又は機器設定値の予備的知識から、又は関連する同位体パターン及び/若しくは隣接する荷電状態イオンピークを考慮に入れることによって決定することができる。イオンピークに関連付けられる質量は、ピークに関連付けられるm/z及び電荷から決定され得る。
【0033】
本方法では、これらの特性に加えて、信号内で識別された1つ以上又は各イオンピークの面積が決定される。これは、任意の適切な様式で、例えば、ピーク下の信号の面積を(例えば、雑音閾値に対して)合計又は積分することによって、かつ/又は適切なイオンピークモデルをそのピークにフィッティングさせて、イオンピークモデルの面積を決定することによって、行われ得る。
【0034】
次いで、そのように決定されたイオンピーク面積を使用して、イオンピークに寄与したイオンの数を推定し、すなわち、何個のイオンがイオン検出器のダイノード上に衝突してイオンピークを生成したかを推定する。これは、イオンピーク面積に補正を適用することによって行われる。この補正は、任意の適切な様式で、例えば、イオンピーク面積を補正係数で除算又は乗算することによって、又は任意の同等の演算を行うことによって、適用され得る。
【0035】
複数の異なるイオンピークが(それぞれの異なる質量又はm/zを有するイオンに対応する)信号で識別される場合、本方法は、それぞれの異なる補正をイオンピークの各々に適用することによって、イオンピークの各々に寄与したイオンの数を推定することを含むことができる。次いで、信号内の各イオンピークに寄与した推定されたイオンの数を合計して、その信号に寄与したイオンの総数を推定し、例えば、その信号を生成したイオンパケット内のイオンの総数を推定することができる。
【0036】
本方法では、特定のイオンピークの面積に適用される補正は、分析器のための補正関数から決定される。補正は、イオンピークに関連付けられる質量若しくはm/z(又は同等に、速度若しくは到着時間)を決定し(すなわち、イオンピークを生じさせるイオンの質量若しくはm/zを決定し)、次いで、決定された質量若しくはm/z(又は速度若しくは到着時間)における補正関数の値を決定することによって、補正関数から決定することができる。そのように決定された値は、例えば、イオンピーク面積を補正係数で除算(又は乗算)することによって、補正係数として使用することができる。
【0037】
補正関数は、分析器についての、平均単一イオン面積(SIA)と、イオン質量又はm/zとの間の関係を(少なくとも)記述する任意の適切な形式をとることができる。本明細書で使用される場合、「単一イオン面積」又は「SIA」は、単一イオンを検出することに応答して、分析器によって生成されるイオンピークの面積である。例えば、補正関数は、質量若しくはm/zの関数として(又は同等に、イオン速度若しくは到着時間の関数として)、平均SIAの曲線であってもよく、又は平均SIAの曲線を含んでもよい。特定の実施形態では、補正関数は、分析器についての、イオン質量若しくはm/zの関数として(又は同等に、イオン速度若しくは到着時間の関数として)、(近似)平均SIAを提供する。したがって、特定のイオンピークに寄与したイオンの数は、イオンピークに関連付けられる質量又はm/zにおける補正関数から平均SIAを取得し、またイオンピークの測定された面積をこの値で除算することによって、推定することができる。
【0038】
実施形態では、補正関数は、分析器の動作可能なm/zの全範囲にわたるなどの、分析器の対象となるm/z範囲にわたる、分析器についての、平均SIAと、イオン質量又はm/zとの間の関係を記述する。本明細書で使用される場合、分析器の「動作可能なm/z範囲」は、分析器が分析するように設計されるイオンm/zの範囲である。特定の実施形態では、質量分析器は、例えば、小型及び大型の有機分子、生体分子、DNA、RNA、タンパク質、ペプチド、それらの断片などの、生命科学分野におけるイオンを分析するように設計される。したがって、補正関数は、約25、50、75、又は100~約6000、8000、10,000、15,000以上の範囲にわたる、平均SIAとイオンm/zとの間の関係を記述することができる。いくつかの実施形態では、補正関数は、(少なくとも)約50~約8000のm/z範囲にわたる、平均SIAとイオンm/zとの間の関係を記述する。
【0039】
補正関数は、このm/z範囲の大部分又は全てにわたって連続関数であり得、補正関数は、このm/z範囲の大部分又は全てにわたって連続的に変化し得る。これにより、特に正確かつ直接的な様式で、質量又はm/zに対するイオン面積の依存性の系統的な補正が可能になる。
【0040】
補正関数は、任意の適切な形式を有することができ、任意の適切な様式で導出され得る。例えば、補正関数は、イオンと検出器との相互作用の「第1原理」の理論分析に基づいて、導出されてもよい。しかしながら、本発明者らは、大きな質量及び/又は電荷パラメータ空間、並びに生命科学MS分野において典型的に分析される分子イオンの固有の複雑さ(例えば、非常に雑多な異なる高次構造を含む)に起因して、そのような第1原理分析は、本文脈にはあまりよく適さないことを認識した。
【0041】
したがって、特定の実施形態では、補正関数は、その分析器の実験的に取得されたSIAデータにモデル(のパラメータ)をフィッティングさせることによって導出される。この実験的に取得されたSIAデータは、対象となる質量m/z及び/又は電荷範囲の大部分又は全てにわたるイオンの、分析器についてのSIAの実験測定値を含むことができる。SIAデータは、同じ(例えば、単一の)電荷のイオンに対するSIAの実験測定値を含むことができる。SIAデータは、複数の異なる質量又はm/zの各々における、SIAの複数の測定値を含むことができる。
【0042】
モデルがフィッティングされるSIAデータは、任意の適切な様式で取得することができる。例えば、各々及びあらゆる個々の分析器に関してSIAデータを取得し、当該分析器のSIAデータにモデル(のパラメータ)をフィッティングさせることによって、各それぞれの分析器のための補正関数を導出することが可能になるであろう。しかしながら、特定の実施形態では、SIAデータは、あるクラスの分析器の1つ(又はいくつか)の特定の代表的な分析器のみに関して取得され、グローバル補正関数が、モデル(のパラメータ)を当該データにフィッティングさせることによって、導出される。次いで、グローバル補正関数は、(以下で更に説明されるように)同じクラスの1つ以上の異なる分析器のための補正関数として、又はその補正関数を導出するために、使用することができる。
【0043】
モデルがフィッティングされるSIAデータは、(代表的な)分析器のために記録される生のSIAデータとすることができる。あるいは、生のSIAデータは、モデルが、処理及び/又は補正されたデータに適合する前に、適切に処理及び/又は補正され得る。
【0044】
実施形態では、データは、最初に、例えば、雑音、及び/又はピークリンギングなどの影響を除去するように洗浄される。これは、下限閾値及び/又は上限閾値を使用して、所与の質量のための生のSIAデータ点を切り取ることによって行われ得る。これらの実施形態では、下限閾値及び/又は上限閾値は、任意の適切な様式で決定され得る。例えば、下限閾値は、固定閾値であってもよく、上限閾値は、例えば、中央値から標準偏差の指定数を上回るデータ点を拒否することによって、動的に計算されてもよい。他のデータ洗浄手順も可能である。
【0045】
実施形態では、各所与の質量のための(残りの)SIA値の平均値が決定され、そのモデルは、これらの平均SIA値にフィッティングされる。平均SIA値は、例えば、予想分布を、洗浄されたデータにフィッティングさせ、洗浄されたデータの平均値ではなく、フィッティングされた分布の平均値をとることによって、洗浄工程によって除外されたデータを説明するように補正され得る。
【0046】
更なる実施形態では、SIAデータは、モデルが、補正されたデータにフィッティングされる前に、検出効率に対して補正され得る。上述したように、検出器は、1つ以上の電子増倍ステージの後に続く変換ダイノードを備えることができる。この変換ダイノードは、イオンが変換ダイノードに衝突したときに、1つ以上の二次電子を作り出すように構成され得る。しかしながら、イオンが変換ダイノードに衝突したときに、ゼロ個の二次電子が変換ダイノードによって作り出される確率はゼロではないことが認識されている。そのようなゼロ二次電子事象は、測定可能なあらゆる信号も作り出さず、したがって、実験的に測定されたSIAデータの平均SIA値は、実際の平均SIAの過大評価である可能性が高い。更に、ゼロ二次電子事象の可能性は、これらの質量におけるイオンがより低い効率で電子に変換される(すなわち、イオン当たりのより少ない二次電子を作り出す)ため、より低いSIAを提供する質量に対してより高い。
【0047】
したがって、実施形態では、SIAデータ(又は平均SIA値)は、ゼロ二次電子事象の可能性を考慮に入れて補正され、そのモデルは、補正されたSIA値の平均値(又は補正された平均SIA値)にフィッティングされる。ゼロ二次電子事象を考慮に入れることによって、補正関数の精度が大幅に改善され得ることがわかった。
【0048】
SIAデータに対する補正は、任意の適切な方法で行われ得、任意の適切な様式をとり得る。実施形態では、特定の質量における特定のSIA値に(又は特定の平均SIA値に)適用される補正の大きさは、特定の質量における平均SIA値に依存し、このため、例えば、平均SIAの関数として、ゼロ二次電子事象の確率のばらつきを考慮に入れる。以下で更に説明されるように、補正は、イオンから電子への変換プロセスの確率分布が疑似ポアソンであると仮定し、かつ、特定の質量における二次電子発生量(SEY)(すなわち、イオンがダイノードに衝突することに応答して、ダイノードによって作り出される二次電子の平均数)の推定値を使用することによって、取得することができる。そして次に、特定の質量におけるSEYの推定は、実験的に取得されたSIAデータをモンテカルロシミュレーションと比較することによって取得することができる。
【0049】
(任意選択的に、処理及び/又は補正された)実験データにフィッティングされるモデルは、任意の適切な形式をとることができる。特に、このモデルは、半経験的に導出されたモデルであってもよい。この点に関して、以下で更に詳細に説明されるように、理論的考察は、一般的に、SIAの質量依存性が、ダイノードの特質に依存する遷移質量において最大値を有すること、SIAが、遷移質量を下回る質量において質量が増加するにつれて増加すること、及び、SIAが、遷移質量を上回る質量において質量が増加するにつれて減少することを示唆する。実施形態によれば、これらの(及び他の)理論的考察を考慮に入れるモデルが作り出されているが、それ以外の場合では、実験的に導出される。したがって、実施形態では、モデル(及び補正関数)の質量依存性は、遷移質量において最大値を有し、遷移質量を下回る質量において質量が増加するにつれて増加し、遷移質量を上回る質量において質量が増加するにつれて減少する。
【0050】
遷移質量は、ダイノードの特質に依存する、例えば、ダイノードが形成される材料などに依存する適切な値をとることができる。適切な遷移質量は、100~200Daの範囲である。例えば、ダイノードがステンレス鋼ダイノードである場合、遷移質量は、約140Daの値を有し得る。
【0051】
本発明者らは、特に適切なモデル(したがって、補正関数)が次の形式を有することを見出した。
【数1】
又は同等に、
【数2】
式中、Tは、イオンの運動エネルギー(イオン注入器によってイオンに印可される加速電圧によって固定される)であり、mは、イオンの質量であり、vは、イオンの速度であり、a、b、及びv
0は、ベストフィットパラメータである。実施形態では、(グローバル)補正関数の質量依存性は、このモデルのパラメータ(すなわち、a、b、及びv
0)を、(代表的な)分析器について(任意選択的に、処理及び/又は補正された)実験的に取得されたSIAデータにフィッティングさせることによって導出される。非線形回帰、最小自乗フィッティングなどの任意の適切なフィッティング技法を使用することができる。支配的な誤差は、従属変数(平均SIA)上にあり、これに対して、独立変数(質量)は、高精度であることが知られている。
【0052】
本発明者らは、特に、同じクラスの複数の異なる機器にわって使用され得、かつ、広範囲の異なる分析物を分析するために使用される分析器の文脈において使用され得る、グローバル補正関数の確立が望まれる場合に、このモデルが本実施形態に特に適していることを見出した。このグローバル補正関数は、少なくとも同じ機器の幾何学的形状を有し、同じダイノード材料を使用し、かつ、イオンが同じ入射角度で検出器に到着するなどのように構成されている、複数の分析器に対して画定され得る。この点に関して、本発明者らは、様々な実施形態のグローバル補正関数が、特定の直接的な様式で、例えば、単純なスケーリングによって、各個々の分析器に対して較正され得ることを認識した。更に、この比較的単純な冪乗則モデルの使用は、実験データへの過大フィッティングを防止し、これは、後で取得される曲線が、同じクラスの複数の異なる機器に対して、また適切な広範囲の異なる分析物に対して使用されることを可能にする。
【0053】
上述したように、グローバル補正関数は、同じクラスの1つ以上の異なる分析器(すなわち、少なくとも同じ機器の幾何学的形状を有し、同じダイノード材料を使用し、イオンが同じ入射角度で検出器に到着するように構成されている分析器など)のための補正関数として使用することができる。特定の実施形態では、グローバル補正関数を使用して、同じクラスの異なる分析器毎の補正関数を導出する。他のクラスの分析器、又は、例えば、ダイノードなどのために他の材料を使用する同様の分析器は、補正関数の全ての自由パラメータの再較正を必要とする場合がある。特定の実施形態では、特定の分析器のための補正関数は、グローバル補正関数を特定の分析器に対して較正すること、例えば、垂直方向にスケーリングすること(すなわち、そのSIA軸をスケーリングすること)によって導出される。この較正は、特定の質量又はm/zにおける分析器の平均SIA値を、例えば、特定の質量又はm/zが遷移質量に存在するか、又はその遷移質量の近傍に存在する場合に、決定することを含むことができる。次いで、分析器のための補正関数は、平均SIA値に応じて、グローバル補正関数(のSIA軸)をスケーリングすることによって導出することができる。これは、グローバル補正関数のSIA軸をスケーリングすることを含むことができ、その結果、特定の質量又はm/zにおける、スケーリングされた補正関数の値は、その特定の質量又はm/zにおける、分析器の決定された平均SIA値と同等である。
【0054】
実施形態では、各個々の分析器はまた、検出器電圧の動作可能範囲(すなわち、検出器の電子増倍ステージにわたって適用され、その結果、異なるレベルの増幅を提供することができる電圧の範囲)に対して較正することもできる。この較正を使用して、各個々の分析器毎にSIA対検出器電圧較正曲線を導出することができ、例えば、定期的に繰り返して、検出器の経年変化を考慮することができる。この較正機能は、上述したグローバル補正関数から導出された補正関数と組み合わせることができ、すなわち、それによって、イオンから電子への変換効率が、同じクラスの全ての分析器について同じであることを前提とすることができる。したがって、上記の較正は、質量又はm/zがイオンから電子への較正に依存することについて説明し、これに対して、第2の較正は、検出器電圧が電子増倍(又は場合によっては、電子から光子への変換、その後のPMT)に依存することについて説明する。イオンから電子への変換、及び電子増倍は、全く独立したプロセスであるため、これらの2つの較正を組み合わせて、単一イオンによって作り出される検出器信号全体をモデル化することができる。
【0055】
例えば、分析器を使用して同じ電荷のイオンのみを分析することができる場合、補正関数は、SIAを質量又はm/zのみの関数として記述することが可能であろう。しかしながら、更なる実施形態では、補正関数はまた、分析器についての、平均単一イオン面積と電荷との間の関係も記述する。例えば、補正関数は、質量若しくはm/zの関数として(又は同等に、イオン速度若しくは到着時間の関数として)、また電荷の関数として、平均SIAを記述する面とすることができる。特定の実施形態では、補正関数は、分析器についての、イオン質量若しくはm/zの関数として(又は同等に、イオン速度若しくは到着時間の関数として)、また電荷を関数として、(近似)平均SIAを提供する。したがって、特定のイオンピークに寄与したイオンの数は、イオンピークに関連付けられた質量又はm/z及び電荷における補正関数から平均SIAを取得し、イオンピークの測定された面積をこの値で除算することによって推定することができる。
【0056】
実施形態では、補正関数は、約1素電荷~約10素電荷、15素電荷、20素電荷以上などの、分析器の対象となる電荷範囲にわたる、分析器についての、平均SIAとイオン電荷との間の関係を記述する。特定の実施形態では、補正関数は、約1素電荷~約15素電荷の範囲にわたる、平均SIAとイオン電荷との間の関係を記述する。
【0057】
これらの実施形態では、平均単一イオン面積と電荷との間の関係は、モデル(のパラメータ)を、分析器の実験的に取得されたSIAデータにフィッティングさせることによって、再度導出することができる。実験的に取得されたSIAデータは、対象となる電荷範囲の大部分又は全てにわたるイオンに対する、分析器のSIAの実験的測定値を含むことができる。特定の実施形態では、モデル(及び補正関数)は、電荷と共に、単調に直線的に増加する。
【0058】
様々な実施形態はまた、補正関数の生成にも拡大する。
【0059】
したがって、更なる態様は、質量分析器のための補正関数を決定する方法を提供し、この方法は、
質量分析器を使用して複数の単一イオンを分析することであって、その複数の単一イオンは、分析器の対象となる質量m/z及び/又は電荷の範囲の大部分又は全てにわたって広がる質量m/z及び又は電荷を有するイオンを含む、分析することと、
複数の単一イオンを検出することに応答して、分析器によって生成された複数のイオンピークの各イオンピークの面積を決定することによって、単一イオン面積(SIA)データを生成することと、
モデルをSIAデータにフィッティングさせることによって、補正関数を導出することと、を含む。
【0060】
この態様は、本明細書に記載される取捨選択可能な特徴のうちのいずれか1つ以上又は各々を含むことができ、実施形態では、それらを含む。
【0061】
したがって、例えば、SIAデータは、例えば、上述したように、処理され得、補正され得、かつ/又は平均SIAデータであり得る。モデル(及び補正関数)の質量又はm/z依存性は、上述した形式、例えば、次式を有することができる。
【数3】
又は同等に、
【数4】
である。モデル(及び補正関数)はまた、例えば、上述したように、分析器についての、平均単一イオン面積と電荷との間の関係を記述することもできる。
【0062】
SIAデータは、代表的な分析器のSIAデータとすることができ、補正関数は、グローバル補正関数とすることができ、同じクラスの別の分析器の補正関数は、例えば、上述したように、グローバル補正関数をスケーリングすることによって、グローバル補正関数から導出することができる。補正関数を使用して、例えば、上述したように、分析器によって作り出されるイオンピークに寄与したイオンの数を推定することができる。
【0063】
更なる態様は、イオン源及び質量分析器を備える、質量分析計などの分析機器を動作させる方法を提供し、この方法は、
イオン源においてイオンを生成することと、
質量分析器を用いてイオンを分析して信号を生成することと、
上述した方法を使用してその信号を分析することと、を含む。
【0064】
この態様は、本明細書に記載される取捨選択可能な特徴のうちのいずれか1つ以上又は各々を含むことができ、実施形態では、それらを含む。
【0065】
したがって、例えば、この分析器は、イオン経路の始端に配置されたイオントラップ、及びそのイオン経路の終端に配置されたイオン検出器を含む、ToF分析器であってもよい。このイオントラップは、イオンを受け取って、イオンパケットを蓄積するように構成され得る。このイオントラップは、蓄積された各パケットイオンをイオン経路に注入するように構成され得、注入するとすぐに、パケットイオンは、イオン経路に沿って検出器まで移動することができる。
【0066】
本方法は、信号を生成したイオンパケット内のイオンの総数を推定することを含むことができる。次いで、推定されたイオンの総数を使用して、イオントラップ内にその後蓄積される、イオンパケット内のイオンの総数を制御することができる。イオントラップ内にその後蓄積される、イオンパケット内のイオンの数は、イオントラップへのイオンの蓄積時間(例えば、充填時間)を制御することによって(すなわち、自動利得制御(AGC)法で)制御することができる。したがって、本方法は、第1のイオンパケットのイオンの推定された総数を使用して、後続のイオンパケットのための、イオントラップへのイオンの蓄積時間(例えば、充填時間)を制御することを含むことができる。一般に、充填時間は、1つ以上の以前のイオンパケット内のイオンの推定された総数、イオントラップへの1つ以上の以前のイオンパケットの既知の充填時間、及び、イオントラップ内のイオンの所望又は目標の最大数に基づいて、決定することができる。
【0067】
更なる態様は、プロセッサ上で実行されたとき、上述の方法を行うコンピュータソフトウェアコードを記憶する非一時的コンピュータ可読記憶媒体を提供する。
【0068】
更なる態様は、質量分析計などの分析機器のための制御システムを提供し、その制御システムは、分析機器に、上述の方法を行わせるように構成される。
【0069】
更なる態様は、イオン分析器、及び上述した制御システムを備える、質量分析計などの分析機器を提供する。
【0070】
更なる態様は、分析機器を提供し、分析機器は、
質量分析器と、
制御システムであって、
質量分析器によって生成された信号を受信することであって、その信号は、1つ以上のイオンピークを含む、受信することと、
1つ以上のイオンピークのうちの第1のイオンピークの面積を決定することと、
第1のイオンピークに寄与したイオンの数を、(i)補正関数から第1のイオンピークの面積に適用される補正を決定することであって、その補正関数は、質量分析器についての、平均単一イオン面積と、イオン質量、質量電荷比、及び/又は電荷との間の関係を記述する、決定すること、並びに、(ii)補正を第1のイオンピークの面積に適用すること、によって、推定することと、を行うように構成されている、制御システムと、を備える。
【0071】
これらの態様及び実施形態は、本明細書に記載の任意選択の特徴のいずれか1つ以上又は各々を含むことができ、実施形態ではもちろん含む。
【0072】
したがって、例えば、分析機器は、質量分析計であってもよく、質量分析器は、多重反射飛行時間型(MR-ToF)分析器などの飛行時間型(ToF)質量分析器であってもよい。この飛行時間型(ToF)質量分析器は、イオンを分析器のドリフト領域に注入するように構成されたイオントラップを含むことができる。制御システムは、機器に、上述の方法のうちのいずれか1つ以上又は各々を行わせるように構成することができる。
【0073】
次に、添付の図面を参照して、様々な実施形態をより詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【
図2】実施形態による多重反射飛行時間型質量分析器を概略的に示す。
【
図3】実施形態による、イオン分析器においてイオンを検出するプロセスを概略的に示す。
【
図4A】選択された種について記録されたSIAの中核密度推定値を含むヒストグラムを示し、
図4Bは、その対応するSIA分布の平均値を示す。
【
図4B】選択された種について記録されたSIAの中核密度推定値を含むヒストグラムを示し、
図4Bは、その対応するSIA分布の平均値を示す。
【
図5】洗浄されたデータの平均値と共に、生のSIAデータの箱ひげ図を示す。
【
図6】入射速度の関数としての、SIAに対するベストフィットパラメータ及び回帰線を示す。
【
図7】質量の関数としての、ベストフィット平均SIAを示す。
【
図8A】同じ平均SIA、及び異なるイオンから電子への変換値を有する、モンテカルロシミュレーションされた出力と共に、パルス面積分布データを示し、
図8Bは、そのパルス面積分布データに対して対応するベストフィットを示す。
【
図8B】同じ平均SIA、及び異なるイオンから電子への変換値を有する、モンテカルロシミュレーションされた出力と共に、パルス面積分布データを示し、
図8Bは、そのパルス面積分布データに対して対応するベストフィットを示す。
【数5】
のプロットを示す。
【
図10】c
0=1(巨視的な場合)及びn=1(微視的な場合)付近における効率解の2つの実数部の分岐を示す。
【
図11】修正されたベストフィットパラメータ、及び修正された回帰線を共に、初期SIAデータ(黒色ドット)及び効率補正されたSIAデータ(赤色ドット)を示す。
【
図12A】質量依存補正なしで測定されたSIAの電荷依存性を示し、
図12Bは、質量依存補正関数を含む、同じデータセットの電荷依存性を示す。
【
図12B】質量依存補正なしで測定されたSIAの電荷依存性を示し、
図12Bは、質量依存補正関数を含む、同じデータセットの電荷依存性を示す。
【
図13】実施形態による、イオンピークに寄与したイオンの数を決定する方法を示す。
【
図14A】m/z依存単一イオン面積補正を伴わない、
図2に図示されたタイプの質量分析器を使用して取得された、Pierce(商標)Flexmix(商標)較正溶液の質量スペクトルを示し、
図14Bは、m/z依存単一イオン面積補正を伴う、対応するスペクトルを示す。
【
図14B】m/z依存単一イオン面積補正を伴わない、
図2に図示されたタイプの質量分析器を使用して取得された、Pierce(商標)Flexmix(商標)較正溶液の質量スペクトルを示し、
図14Bは、m/z依存単一イオン面積補正を伴う、対応するスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0075】
詳細な記載
図1は、実施形態に従って動作され得る、質量分析計などの分析機器を概略的に例示している。
図1に示すように、分析機器は、イオン源10、1つ以上のイオン移動ステージ20、及び分析器30を含む。
【0076】
イオン源10は、サンプルからイオンを生成するように構成されている。イオン源10は、エレクトロスプレーイオン化(Electrospray Ionisation、ESI)イオン源、MALDIイオン源、大気圧イオン化(Atmospheric Pressure Ionisation、API)イオン源、プラズマイオン源、電子イオン化イオン源、化学イオン化イオン源など、任意の好適な連続又はパルスイオン源とすることができる。いくつかの実施形態では、2つ以上のイオン源が提供され、使用され得る。イオンは、分析される任意の好適なタイプのイオン、例えば、小型及び大型の有機分子、生体分子、DNA、RNA、タンパク質、ペプチド、それらの断片などであってもよい。
【0077】
イオン源10は、液体クロマトグラフィ分離デバイス又はキャピラリ電気泳動分離デバイス(図示せず)などの分離デバイスに任意選択的に結合され得、それにより、イオン源10においてイオン化されるサンプルは、分離デバイスからもたらされる。
【0078】
イオン移送ステージ20は、イオン源10の下流に配置され、大気圧インターフェースと、イオン源10によって生成されたイオンの一部又は大部分をイオン源10から分析器30に移送することができるように構成された1つ以上のイオンガイド、レンズ及び/又は他のイオン光学デバイスとを含み得る。イオン移送ステージ20は、任意の好適な数及び構成のイオン光学デバイスを含み得、例えば、任意選択的に、1つ以上のRF及び/又は多重極イオンガイド、イオンを冷却するための1つ以上のイオンガイド、1つ以上の質量選択イオンガイドなどのうちの任意の1つ以上を含む。
【0079】
分析器30は、イオン移送ステージ20の下流に配置され、イオン移送ステージ20からイオンを受け取るように構成されている。分析器は、イオンを分析して、イオンの質量又は質量電荷比などの、イオンの物理化学的特質を決定するように構成されている。これを行うために、分析器30は、イオンを検出器に通過させるように構成されている。この機器は、検出器によって測定された信号から、イオンの物理化学的特質を決定するように構成することができる。この機器は、質量スペクトルなどの、分析されたイオンのスペクトルを作り出すように構成することができる。
【0080】
分析器30は、飛行時間型(ToF)質量分析器、イオントラップ質量分析器、又は四重極質量分析器などの任意の適切な質量分析器とすることができる。
【0081】
特定の実施形態では、分析器30は、飛行時間型(ToF)質量分析器であり、例えば、イオンを分析器のドリフト領域内のイオン経路に沿って通過させることによってイオンの質量電荷比(m/z)を決定するように構成され、ドリフト領域は高真空(例えば、<1×10-5mbar)に維持される。イオンは、電界によってドリフト領域内に加速され得、イオン経路の終端に配置されたイオン検出器によって検出され得る。加速は、比較的低い質量電荷比を有するイオンに、比較的高い速度を達成させ、比較的高い質量電荷比を有するイオンよりも前にイオン検出器に到着させ得る。そのため、イオンは、それらの速度及びイオン経路の長さによって決定される時間の後にイオン検出器に到着し、それにより、イオンの質量電荷比が決定されることが可能になる。検出器に到着する各イオン又はイオン群は、検出器によってサンプリングされ得、検出器からの信号は、デジタル化され得る。次いで、プロセッサは、イオン又はイオン群の飛行時間及び/又は質量電荷比(「m/z」)を示す値を決定し得る。飛行時間(「ToF」)スペクトル及び/又は質量スペクトルを生成するために、複数のイオンのデータが収集され、組み合わされ得る。
【0082】
図1は単なる概略的なものであり、分析機器は任意の数の1つ以上の追加の構成要素を含むことができ、実施形態ではもちろん含むことに留意されたい。例えば、いくつかの実施形態では、分析機器は、イオンをフラグメント化又は反応させるための衝突セル又は反応セルを含み、分析器30によって分析されるイオンは、イオン源10によって生成された親イオンをフラグメント化又は反応させることによって作り出されたフラグメントイオン又は生成物イオンであり得る。
【0083】
図1にも示すように、機器は、分析器30を含む機器の様々な構成要素の動作を制御する、適切にプログラムされたコンピュータなどの制御ユニット40の制御下にある。制御ユニット40はまた、本明細書に記載される実施形態による検出器を含む様々な構成要素からデータを受信及び処理することもできる。
【0084】
図2は、分析器30の1つの例示的な実施形態の詳細を概略的に例示している。この実施形態では、分析器30は、多重反射飛行時間型(MR-ToF)質量分析器である。
【0085】
図2に示すように、多重反射飛行時間型分析器30は、第1の方向Xに互いに離間して対向する一対のイオンミラー31、32を含む。イオンミラー31、32は、第1の端部と第2の端部との間で直交ドリフト方向Yに沿って細長い。
【0086】
イオントラップの形態であり得るイオン源(注入器)33は、分析器の一端(第1の端部)に配置される。イオン源33は、イオン移送ステージ20からイオンを受け取るように配置され、構成され得る。イオンは、イオンミラー31、32の間の空間に注入される前に、イオン源33内に蓄積されることができる。
図2に示すように、イオンは、比較的小さい注入角度又はドリフト方向速度でイオン源33から注入されて、ジグザグイオン軌道を生み出し得、それによって、ミラー31、32間の異なる振動は、空間において分離される。
【0087】
1つ以上のレンズ及び/又は偏向器が、イオン源33とイオンが最初に遭遇するイオンミラー32との間で、イオン経路に沿って配置され得る。例えば、
図2に示すように、第1の面外レンズ34、注入偏向器35、及び第2の面外レンズ36は、イオン源33とイオンが最初に遭遇するイオンミラー32との間で、イオン経路に沿って配置され得る。他の構成も可能であろう。一般に、1つ以上のレンズ及び/又は偏向器は、イオンビームを好適に調整し、集束させ、かつ/又は偏向させるように、すなわち、イオンビームが分析器を通る所望の軌道をとるように、構成され得る。
【0088】
分析器はまた、イオンミラー31、32の間で、イオン経路に沿って配置された別の偏向器37を含む。
図2に示すように、偏向器37は、その第1のイオンミラー反射(イオンミラー32における)の後、かつその第2のイオンミラー反射(他方のイオンミラー31における))の前に、イオン経路に沿って、イオンミラー31、32の間でおよそ等距離に配置され得る。
【0089】
分析器はまた、検出器38も含む。検出器38は、イオンを検出し、例えば、検出器へのイオンの到着に関連付けられた強度及び到着時間を記録するように構成された任意の好適なイオン検出器とすることができる。好適な検出器としては、例えば、1つ以上の変換ダイノードが挙げられ、任意選択的に、1つ以上の電子増倍管などが後に続く。
【0090】
イオンを分析するために、イオンが、(a)イオンミラー31、32の反対側の(第2の)端部に向かってドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度をイオンミラー31、32の第2の端部の近傍で反転させ、次いで(c)偏向器37に向かってドリフト方向Yに沿って戻るようにドリフトする間に、イオンは、イオンミラー31、32の間でX方向に複数回反射するジグザグイオン経路をとるように、イオン源33からイオンミラー31、32の間の空間内に注入され得る。次いで、イオンを、検出のために偏向器37から検出器38に移動させ得る。
【0091】
図2の分析器では、イオンミラー31、32は両方とも、X方向及び/又はドリフトY方向に対して傾斜している。代わりに、イオンミラー31、32のうちの一方のみを傾斜させ、例えば、イオンミラー31、32のうちの他方をドリフトY方向に平行に配置することも可能であろう。一般に、イオンミラーは、ドリフト方向Yの長さに沿ってX方向に互いに一定でない距離にある。イオンミラーの第2の端部に向かうイオンのドリフト方向速度は、2つのミラーの互いからの一定でない距離からもたらされる電界によって対抗され、この電界は、イオンに、ドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、偏向器37に向かってドリフト方向に沿って戻るようにドリフトさせる。
【0092】
図2に示す分析器は、一対の補正ストライプ電極39を更に備える。ドリフト長に下って移動するイオンは、各々がミラー31、32を通過するたびにわずかに偏向され、追加のストライプ電極39は、ミラー間の距離の変化によって生じる飛行時間誤差を補正するために使用される。例えば、ストライプ電極39は、電気的にバイアスがかかっており、その結果、ミラー間のイオン振動の周期は、(2つのミラー間の距離が一定でないにもかかわらず)ドリフト長全体に沿って実質的に一定である。イオンは、最終的に、ドリフト空間を下って戻るように反射され、検出器38に集束される。
【0093】
図2の傾斜ミラー型多重反射飛行時間型質量分析器の更なる詳細は、米国特許第9,136,101号に記載されている。
【0094】
一般に、分析器30は、任意の適切なタイプの質量分析器又は飛行時間型(ToF)質量分析器とすることができることに留意されたい。例えば、分析器は、例えば、英国特許第2,580,089号に記載されているような、単一レンズタイプの多重反射飛行時間型質量分析器であってもよい。
【0095】
一般に、イオン衝撃検出器を有する飛行時間型(ToF)質量分析器は、静電界におけるイオンの移動時間がイオンの質量電荷比(m/z)の平方根に比例するという特性を利用する。イオンは、イオン源(例えば、直交加速器又は高周波イオントラップ)から同時に放出され、所望のエネルギーまで加速され、特定の距離を移動した後にイオン検出器に衝突する。同様に、イオントラップ質量分析器及び四重極質量分析器では、イオンは、最終的に、イオン検出器に衝突する。
【0096】
図3は、n
ion個のイオン50のパケットが検出器38によって検出されるプロセスを概略的に例示している。特に、
図3は、イオンから電子への変換プロセス、及びその後の信号処理チェーンを図示している。
【0097】
図3に示すように、検出器38は、変換ダイノード51、及びそれに続く1つ以上の電子増倍管ステージ53を備える。n
ion個のイオン50のパケットが、変換ダイノード51に衝突すると、n
e個の二次電子52が作り出される。そのn
ion個のイオンのパケットは、変換係数γでn
e個の二次電子に変換される。
【0098】
次いで、二次電子52は、時間関数として変換ダイノード51で受け取られたイオン50の強度を示す信号を作り出すように、1つ以上の電子増倍管ステージ53によって増幅される。電子増倍53の1つ以上のステージは、利得係数gemを伴う信号増加を提供する。
【0099】
生成された信号は、例えば、時間デジタル変換器(TDC)又はアナログデジタル変換器(ADC)のいずれかであるデジタイザなどのデータ取得電子機器54によって記録される。アナログデジタル変換ステージ54は、別の利得係数gswを導入する。
【0100】
図3に図示してある実施形態では、検出器38は、変換ダイノード51、及びそれに続く1つ以上の電子増倍管ステージ53を備える。ただし、一般に、検出器38は、例えば、1つ以上のシンチレータ結晶、光電子増倍管(PMT)などの、
図3に示されたものに追加される1つ以上の中間変換プロセスを含み得ることに留意されたい。
【0101】
図3に示すように、検出プロセスは、時間分解されたピーク55をもたらし、この場合、各ピークは、実質的に同じ質量電荷比のイオンによって生成される。ToF分析器の場合、その移動距離は、イオン50の全てに対して実質的に同じであるため、イオン到着時間を使用して、イオンの質量電荷比(m/z)を決定することができ、次いで、その質量電荷比は、イオン識別のために使用することができる。
【0102】
更に、時間分解されたピークの面積Sを使用して、そのピークに寄与したイオンの数を決定することができ、次いで、その数は、定量化のために使用することができる。最終信号Sは、到着時間軸にわたる、デジタル化された信号カウントの、ピーク毎の積分によって取得され、本明細書では、「イオン面積」、「イオンピーク面積」(
図3の影付き領域)、又は、具体的には、限界n
ion=1における「単一イオン面積」(SIA)と称される。
【0103】
積分されたデジタル化信号Sと入射イオンの初期数nionとの間の有効利得係数G(すなわち、ここで、S=Gnion)は、一定ではないが、入射イオン、異なる変換、及び増幅ステージの統計的特質に関する、並びにイオンの質量及び荷電状態に関する、明白な依存性の耐性を有することが認識された。
【0104】
図4Aは、
図2に図示してあるタイプの分析器を使用して、選択種(一価MRFAペプチド)について記録されたSIAの中核密度推定値を含むヒストグラムを示している。生の入力データを洗浄するために、下限SIA閾値(推定された雑音レベル付近の)、及び首尾一貫して決定された上限SIA閾値が適用された。
図4Bは、対応するSIAの平均値の分布を示しており、これは、一価イオンの明白な質量依存性を示している。より洗練されたデータ分析及び洗浄手順(図示せず)により、m
tr≒150Daの遷移質量付近で最大値となる質量曲線にわたる、SIAの単峰形状が示唆されている。
【0105】
以下の文献出展において、質量の関数としての(金属製又は半導体製)変換ダイノードのイオン衝突時の二次電子発生量(SEY)は、第1原理から導出されるか、又は、狭い範囲の質量及び入射イオン種に対して半発見的に決定される。(i)Beuhler,R.J.及びL.Friedman、「A Model of Secondary Electron Yields from Atomic and Polyatomic Ion Impacts on Copper and Tungsten Surfaces Based upon Stopping-power Calculations」Journal of Applied Physics48、no.9(September1、1977):3928-36。(ii)Liu、Ranran、Qiyao Li、及びLloyd M.Smith、「Detection of Large Ions in Time-of-Flight Mass Spectrometry:Effects of Ion Mass and Acceleration Voltage on Microchannel Plate Detector Response」Journal of the American Society for Mass Spectrometry 25,no.8(August 2014):1374-83。(iii)Moshammer,R.及びR.Matthaus、「Secondary Electron Emission by Low Energy Ion Impact」Journal de Physique Colloques 50,no.C2(1989):C2-111-C2-120。(iv)Sternglass,E.J.「Theory of Secondary Electron Emission by High-Speed Ions」Physical Review 108,no.1(October 1,1957):1-12。(v)Westmacott,G.,W.Ens,and K.G.Standing.「Secondary Ion and Electron Yield Measurements for Surfaces Bombarded with Large Molecular Ions」Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section B:Beam Interactions with Materials and Atoms 108,no.3(February 1,1996):282-89。
【0106】
これらの推定値は、典型的には、荷電粒子上の材料パワーの停止に関する、Bloch、Bethe、及びBohrの先導的仕事に基づき、これは、透過距離当たりの平均エネルギー損失、
【数6】
をモデル化しており、また典型的には、非常に小さい入射エネルギー(この場合、イオンは、依然として原子電子を搬送することができ、実質的に正味の電荷を減少させる)か、又は逆の高エネルギーの場合に対する補正を組み込む。そのように導出されたエネルギー損失曲線の基本的な特質を使用して、SIA特性における極大値の存在のように、
図4Bに示された特徴的な挙動を理解することができる。同じように見える曲線は、二次電子の励起、並びに、バルク内で励起され、かつ十分に残っている脱出速度で表面に到着する必要がある、二次電子の特性拡散長に対して、可能なエネルギー移送
【数7】
を考慮することによって取得することができる。
【0107】
これらの様々な研究は、それぞれ、原子番号Z≒100までの素粒子から開始して、非常に異なる質量範囲について言及しており、また巨大分子イオン(m≒1000~100000Da)の検出まで及んでいる。また、SEYの直線的な速度依存性が、当該技術分野において長い間、前提とされ、かつ使用されて、質量が遷移質量を上回る(m>mtr)ようにSEYを記述してきた(例えば、Ingram、Hayden、及びHess「Mass Spectrometry in Physics Research」、National Bureau of Standards(US)、Circ.、522、1953、p.257を参照)。
【0108】
ToF分析器のSEYがイオン質量及び電荷に対する明白な依存性を有することを示す文献及び実験的証拠があるにもかかわらず、既知の質量分析計は、イオン電子変換プロセスの質量及び/又は電荷依存性に対して、系統的に補正していない。これは、事実上、一定の水平線による、
図4Bのデータ点の近似に相当する。
【0109】
更に、例えば、10kVの加速電圧を使用する、
図2に図示してあるタイプのMR-ToF機器などのToF-MS分析機器に関連する質量対電荷比の全範囲(例えば、m/z≒50~15,000以上)にわたって、実験データにベストフィットするグローバルSEY(m,z)曲線を見出すことに成功した試みは存在しない。
【0110】
加えて、既知の分析機器において、測定されたSIAが、実際には消失しない確率で起こることになる真の陰性及び/又はゼロ二次電子事象を含まないことを、変換プロセスの統計的特質、及び後続の検出ツールチェーンから理解することができる。検出効率≦1のスケーリングに基づく対応する補正は、既知の分析機器では行われない。
【0111】
したがって、実施形態は、これらの質量及び電荷依存性、並びに検出効率を補正するために使用することができる補正関数を提供する。特に、実施形態は、質量分析器の動作パラメータ空間全体にわたる、SIA、イオン質量と、電荷との関係を記述する補正関数を提供する。これにより、特に正確かつ直接的な様式で、イオン面積の、質量及び/又は電荷に対する依存性の系統的な補正が可能になる。
【0112】
(例えば、定量化のために)測定されたピーク面積から入射イオンの数の正確な推定を提供するために、いくつかの個別であるが関連する問題が、実施形態によって対処される。第1に、質量(又は同等に速度)及び電荷の関数としての、SEY又は同等にSIAのモデルが提供される。第2に、測定されたSIAは、検出効率を推定することによって、ゼロ電子事象に対して補正される。これは、変換プロセスの既知の統計的特質を活用することによって得ることができるが、SEY自体の初期推定値を入力として必要とする。したがって、初期イオンから(二次)電子への変換の推定値が提供される。これらの個々の問題に対処することによって、実施形態は、測定されたイオンピーク面積から入射イオンの総数の正確な推定を容易にする。
【0113】
この点に関して、本発明者らは、ToF分析器、及び生命科学の分野における他の分析器を使用して通常分析される分子イオンの大きな質量及び電荷パラメータ空間、並びに固有の複雑さ(例えば、それらの異なる高次構造を含む)が、第1原理に基づく分析が目下の問題に対して実行可能である可能性を非常に低くすることを認識した。したがって、実施形態は、半経験的なグローバルに有効なモデルを、ToF-MS(又は他のMS)機器のために実験的に取得されたSIAデータの質量にフィッティングさせることによって、導出された補正関数を提供する。
【0114】
一般に、実施形態は、(i)質量分析器の実験データに基づいて、半経験的なグローバルに有効なモデルをSIA及びSEYの質量/速度及び電荷依存性にフィッティングさせること、(ii)測定され、十分に補正され、かつアルゴリズム的に洗浄されたSIAデータを、モンテカルロ(Monte Carlo、MC)シミュレーションからのモデルベースの予測にフィッティングさせることによって、SEYを推定すること、(iii)推定されたSEYを使用して、電子増倍プロセスの統計的特質に基づいて取得される検出効率係数によって、初期に取得されたSIAデータを補正すること、並びに、(iv)それによって、例えば、ToF-MSデータの無標識定量化のための、入射イオンの数の正確な予測を容易にすること、を含む。
【0115】
したがって、実施形態は、イオンから電子への変換プロセス、及び検出ツールチェーンのその後の二次電子発生量の、質量及び電荷依存性のための改善された(発見的及び統計的)モデルに基づいて、質量分析法、特に飛行時間型質量分析法(ToF-MS)のための入射イオン存在比の改善された定量化を提供する。
【0116】
以下の説明は、生のSIAデータに基づく、ワークフローの代表的な例を提供して、実施形態、及びそこで使用されるアルゴリズム工程を例示する。明確にするために、一価イオンに対する質量依存補正、及び電荷依存追加補正が、別個に提示される。本明細書で使用される場合、参照される全ての質量m(荷電状態を記述しない質量スペクトルの文脈において使用される場合、電荷数z=1を意味する)は、特段の記述がない限り、ダルトン(Da)単位で提供されるものとして理解されるべきであり、無次元のm/zは、ダルトンの単位の質量と電荷数との商である。
【0117】
1.一価種に対する質量依存補正
まず、所与の加速及び検出器電圧に対して、SIAデータは、一価種に対する十分に大きい質量範囲にわたって記録される。
【0118】
図5は、洗浄されたデータの平均値と共に、
図2に図示してあるタイプのMR-ToF機器についての、生のSIAデータの箱ひげ図の抜粋を示しており、
図4に図示してあるようなものと全く同じデータセットを参照している。
図5に図示してあるデータは、質量範囲m/z≒50~8,000をカバーするが、任意の所望の質量範囲にわたるSIAデータは、同じ方法で取得することができる。電荷依存データはまた、例えば、(以下のセクション2で説明されるように)イオン質量の選択されたセットに対して取得することもできる。
【0119】
図2に図示してあるタイプのMR-ToF機器では、イオンミラー31、32に印可される電圧の、例えば、<5%のわずかなシフトは、検出器38におけるイオンパケットの、単一イオンへの完全な時間焦点はずれには十分である。例えば、500のm/zを有するイオンは、そうでなければ、<4nsのピークに集束されるはずであるが、マイクロ秒程度にわたって広がる可能性がある。それによって、信号は、約数百の個々のピークに分割され得、各ピークは、約1nsの幅を有する。
図5に示された生のデータは、この技法を使用して取得されたものであり、これにより、単一イオンデータは、例えば、イオンビームを減衰させる必要なく、比較的迅速かつ直接的な様式で取得されることが可能になる。この技法はまた、他のタイプのToF分析器、例えば、より単純な単一反射ToF分析器とも互換性があるが、焦点はずれのレベルは、より大きくならざるを得ず、又はイオンの数は、より少なくならざるを得ない。
【0120】
1.1初期質量依存SIAのベストフィット曲線の取得
入力データの大きなばらつきに起因して、また、雑音閾値、及びピークリンギングなどのような更なる影響を考慮するために、まず、所与の質量に対する生のSIAデータ点のセットは、固定された下限閾値と、データ中央値付近の反復シグマクリッピングから得られる動的に計算された上限閾値とを使用することによってクリッピングされる(中央値から、標準偏差の指定された数を超える値を連続的に拒否する)。
【0121】
次いで、残りのSIAの平均値は、所与の質量に対して使用され、(単純化のために)洗浄された分布がポアソン分布によって十分に近似することができる形状のものであると仮定する。この近似は、基礎となる支配的な物理的プロセスの性質によって動機付けられる。ポアソン分布は、平均値に対応する1つのパラメータによって完全に決定される。
【0122】
次いで、これらの平均SIAは、運動エネルギー式
【数8】
及び(Tを固定する)既知の加速電圧を使用して、質量から速度領域に変換される。
【0123】
所望の特質を有する単純な半経験的平均v依存性(すなわち、ダイノード材料依存遷移速度において極大値を有する冪乗則依存性)を提供するために、
【数9】
が仮定され、式中、a、b、及びv
0は、ベストフィット(最適)パラメータである。
【0124】
本発明者らは、このモデルが、同じクラスの複数の異なる機器にわたって使用することができ、かつ、広範囲の異なる分析物を分析するという状況において使用することができる比較的一般的なモデルを確立することが望ましいという本状況で特に適していることを見出した。この比較的単純な冪乗則モデルの使用により、実験データに対する過大フィッティングが防止され、これにより、その後に得られる曲線が、同じ設計の複数の異なる機器に対して、かつ広範囲の異なる分析物に対して使用されることが可能になる。
【0125】
この形式は、特に有利であるが、モデルの特定の形式は、必要に応じて選択することができ、実施形態は、本明細書で説明される特定の形式に限定されないことに留意されたい。他の補正関数は、より重要度は低いが許容できる性能を与え得るか、又は制限された質量及び/若しくは電荷の範囲にわたって良好な性能を与え得るか、又は特別な種類の分子種に対して良好ではあるが必ずしも一般化できない性能を与え得る。
【0126】
モデルの非線形回帰は、(適切な回帰ライブラリ関数を使用して)実験的に得られたデータに対して行われる。入射速度の関数として得られた、SIAに対する回帰線及びベストフィットパラメータは、
図6に図示してある。
図6に示すように、この例の場合、a=7.22e-4、b=1.11、及びv
0=124469(
図6の描写に対応する単位で)である。遷移速度は、v
tr=138706m/sである。
【0127】
次いで、その結果は、質量領域に逆変換されて、遷移質量m
Tr及び全体的な挙動を識別する。質量領域において、
【数10】
である。
図7は、その結果得られた、質量の関数としてのベストフィット平均SIAを示している。
図7に示すように、この例の場合、遷移質量は、m
tr=140Daである。
【0128】
非統一検出効率(以下に説明される)に対する追加補正なしで、イオンの数は、この曲線を使用して、例えば、任意の測定された対象となる質量に対するベストフィットSIA(m)によって除算された測定されたピーク面積として、ここで、近似的に得ることができる。
【0129】
1.2検出効率のための補正
イオンから電子への変換プロセス及び後続の信号処理チェーンの統計的性質に起因して、ゼロ電子事象の有限確率が存在する。
【0130】
特に、1つ以上の二次電子がダイノード51によって作り出されると、それらの二次電子は、電子増倍53の1つ以上のステージによって、良好に(ポアソン的)動作するように増倍される。しかしながら、ダイノード51が、イオンに応答しても、二次電子を作り出さない機会が存在する。これは、
図8Aに見ることができ、シミュレーションされたSIA分布を示している。
図8Aに示すように、分布の大部分は、ほぼガウス的であるが、ゼロ電子事象に起因して、ゼロにおいて三角型のピークが存在する。
【0131】
この傾向は、
図7の曲線では、説明されていない。ゼロ二次電子事象は、測定可能なあらゆる信号も作り出さず、したがって、
図7の平均SIA値は、実際の平均SIAの過大推定値である可能性が高い。更に、ゼロ二次電子事象の可能性は、これらの質量におけるイオンがより低い効率で電子に変換される(すなわち、イオン当たりより少ない二次電子を作り出す)ため、より低いSIAを提供する質量に対してより高い。したがって、更なる実施形態は、以下の補正方式を採用する。
【0132】
固定質量m≒m
Tr(理想的には、高い
【数11】
を有する遷移質量m
Trに近い)において、SEYに対する初期の推測は、モンテカルロ(MC)シミュレーション(この質量において平均
【数12】
を有する測定されたSIA値を使用する)との比較によって推定される。
【0133】
図8は、所与のSIAに対する、初期イオンから電子への変換、したがって、SEYのMCモデル化を示している。
図8Aは、同じ平均SIA、及び異なるイオンから電子への変換値(1~7個の電子)を有する、シミュレーションされた出力と共に、パルス面積分布データを示している。ダイノード51における単一イオンに応答して異なる数の二次電子が作り出されると仮定して、各種の曲線は、初期電子変換プロセスのMCシミュレーションを示している。
【0134】
図8Bは、SEYのための推定値を得るために使用することができる対応するベストフィットを示している。
図8に示された例では、特定のステンレス鋼ダイノードは、各単一イオンに応答して、平均4つの電子を作り出すように示されている。
【0135】
他の質量c
0における未補正の平均発生量の第1の推定値は、
【数13】
(式中、a
0は、再び、平均SIAである)によって取得される。そのa
0(したがって、c
0)は、真の陰性の割合がより高いために、過大評価され、したがって、補正発生量cが求められる。
【0136】
イオン電子変換プロセスの確率分布が(良好な近似の)疑似ポアソンであると仮定される場合、その効率は、一般に、以下のように得ることができる。
【数14】
【0137】
これは、
【数15】
の根につながり、ここで、自明でない解は以下の通りである。
【数16】
式中、W
kは、分岐添字kを有するランバートW関数(又はオメガ関数)である。実数ε及びc
0に対して、唯一の正値解が、主分枝k=0によって与えられる。したがって、解は、数値演算ソフトウェアライブラリ関数から直接取得することができる。
【0138】
図9は、(初期に推測された)SEYの関数として、得られた検出効率曲線εを示している。
【0139】
開始値の不一致
【数17】
を補正するために(初期変換
【数18】
が、
【数19】
に対応するように)、全ての効率が、次式の対応する係数によって最終的に再スケーリングすることができる。
【数20】
【0140】
補正されたSIA予想値は、最終的に、
【数21】
として到達する。効率は、形式的に、次のように定義されることに留意されたい。
【数22】
式中、P
e-(n≧1)は、したがって、1つ以上の電子を放出する確率である。
【0141】
これらの統計的特質は、微視的スケールで定義されるため、nは、形式的に正の整数に離散化され、
【数23】
は、n<1の場合、(不連続導関数を伴って)正確に鋭くゼロに降下する。
【0142】
巨視的に平均化されたSIA/SEYに適用される場合、初期推定値c
0<1を有する任意の値は、ゼロに投影されるであろう。これは、非物理的な境界の場合(巨視的に平均化されたSEYは、ゼロ電子寄与なしでは1未満に降下することができないため、定義上、微視的に定義された
【数24】
係数の適用を介して除去される)を表し、強くバイアスされた適合係数をもたらすであろう。実際には、この場合、完全反復サイクルの一貫性、及び/又はこれらの巨視的効果を考慮する
【数25】
関係の補正を正常点検することによって、除外されなければならない。
【0143】
図10は、c
0=1(巨視的な場合)及びn=1(微視的な場合)付近の効率解の2つの実数値の分岐を示している。
【0144】
完全補正方式を初期取得SIA値に適用すると、SIAデータの大幅に修正された速度/質量依存性が得られ、本明細書で提示されているように、完全補正方式の効果を際立たせている。これはまた、より高い質量がより低いSIAを有した結果、SEYがより低く、かつ変換効率がより低くなるため、SIAの初期質量依存性からも理解することができる。
【0145】
図11は、初期SIAデータ(黒色ドット)、及び効率補正されたSIAデータ(赤色ドット)、並びに新しいベストフィットパラメータ及び新しい回帰線を示している。ゼロ電子事象の補正により、質量依存性の冪乗則指数b/2は、(この例では、
【数26】
へ)大幅に変化する。より具体的には、
図11に示すように、この例の場合、a=1.37e-5、b/2=0.74、及びv
0=93754である(
図11の描写に対応する単位で)。遷移質量は、m
tr=140Daである。
【0146】
2.SIAの電荷依存性
以下は、荷電状態に関するSIAの依存性に対する追加補正について説明する。
【0147】
図12Aは、ほぼm≒600~1300Daの質量範囲にわたる、質量依存補正なしで測定されたSIAの電荷依存性を示している。この電荷依存SIAデータは、
図2に図示してあるタイプの機器に関して2つの連なる測定から得られたものである(質量自由度は、明確にするために示されていない)。見かけ上、直線的な平均傾向を有する、荷電状態に対するSIAの非常に強調された依存性を見ることができる。
【0148】
図12Bは、同じデータを示しているが、以前のセクションからの質量依存補正が適用されている。更に、MCシミュレーションに基づくイオン電子変換推定値を使用して、二次電子の数が含まれる推定値を取得している(質量補正曲線の使用は、共通のz=1曲線に対するSEYの規格化に相当する)。明らかに、直線的な傾向が、更に強調されている。
【0149】
したがって、実施形態では、電荷に対するSIAの直線的な依存性が、補正関数内に含まれている。
【0150】
3.補正関数の使用
上述した様式で導出された補正関数は、グローバル補正関数として、すなわち、同じクラスの全ての個々の分析器に対して、例えば、少なくとも同じ機器の幾何学的形状を有し、同じダイノード材料を使用し、イオンが同じ入射角で検出器に到着するように構成されているなどの、
図2に図示してあるタイプの全ての分析機器に対して、使用することができる。グローバル補正関数を使用して、グローバル補正関数を各個々の分析器にスケーリングすることによって、各個々の分析器のための補正関数を導出する。これは、例えば、質量が遷移質量にあるか、又はその遷移質量の近傍にある場合に、特定の質量のイオンに対する平均単一イオン面積(SIA)を測定し、次いで、測定された平均SIAに基づいて、グローバル補正関数をスケーリングすることを含むことができる。これは、特定の質量におけるスケーリングされた補正関数の値が、特定の質量における分析器の決定された平均SIA値と同等であるように、グローバル補正関数のSIA軸をスケーリングすることを含むことができる。
【0151】
図13は、実施形態による、イオンピークに寄与したイオンの数を決定する方法を概略的に例示している。
【0152】
図13に示すように、特定の(「i番目」の)イオンピークが、検出器38によって作り出されたデジタル化信号内で識別され、そのピーク面積S
iは、例えば、ピーク下の信号の面積を積分することによって、初期決定される(ステップ60)。i番目のイオンピークの質量m
iもまた、任意選択的に、その電荷z
iと共に決定される(ステップ62)。これは、必要に応じて、行うことができる。例えば、イオンピークの質量電荷比(m/z)は、その到着時間から決定され得、その電荷zは、実験の文脈から、かつ/又は関連する同位体パターン及び/若しくは隣接する荷電状態イオンピークを考慮に入れることによって決定され得、その質量mは、そのm/z及び電荷zから決定され得る。
【0153】
次に、i番目のイオンピークのm
i及び/又は電荷z
iを使用して、イオンピークに対する補正係数SIA
i(m
i、z
i)を、(スケーリングされた)補正関数SIA(m、z)(上述した様式で作り出されている)から探す(ステップ64)。最後に、i番目のイオンピークに寄与したイオンの数
【数27】
は、イオンピーク面積S
iを補正係数SIA
i(m
i、z
i)で除算することによって、すなわち、
【数28】
によって決定される(ステップ66)。
【0154】
この点に関して、ピーク面積は、ピーク内のイオンの数と共に直線的に増加することが知られていることに留意されたい。飽和効果は、例えば、任意の適切な既存の技法を使用して、補正することができる。
【0155】
イオンピークに寄与したイオンの数を決定するこのプロセスは、信号内の1つ以上のイオンピーク又は他の各イオンピークに対して繰り返すことができる。次いで、信号内の各イオンピークに寄与したイオンの、そのように推定された数を合計して、その信号に寄与したイオンの総数を推定することができ、例えば、信号を生成したイオンパケット内のイオンの総数を推定することができる。
【0156】
この情報は、例えば、サンプル内の特定の分析物の定量化のために使用することができる。
【0157】
追加的又は代替的に、この情報は、いわゆる自動利得制御(AGC)法のために使用することができる。上述したように、
図2に図示してあるタイプの飛行時間型質量分析器では、イオンパケットは、イオントラップ33から、ミラー31、32の間のドリフト領域に注入される前に、イオントラップ33内に蓄積される。これらの分析器では、イオントラップ33内に蓄積された各イオンパケット内のイオンの総数を正確に制御すること、例えば、イオントラップ33の空間電荷限界などの、イオントラップ33の限界を下回るが、できるだけその限界に近いイオンの数を最適化することが必要である。これは、典型的には、いわゆる自動利得制御(AGC)法を使用して行われ、この制御法は、イオンパケット内のイオンの数の正確な測定又は推定に基づいて、後続のイオンパケット内のイオンの数を制御する。
【0158】
実施形態は、信号を生成した、イオンパケット内のイオンの総数が、その信号のみを考慮することによって正確に推定されることを可能にする。各イオンパケットは、広範囲の質量及び電荷(広範囲の対応するSIAを伴う)にわたって広がるイオンを含むことができ、したがって、質量及び/又は電荷に対するイオン面積の依存性を補正することが、イオンパケット内のイオンの数の推定精度、及びAGC法に対する大幅な改善を提供する。
【0159】
図14A及び
図14Bは、150~3000の質量範囲を有するPierce(商標)Flexmix(商標)較正溶液の質量スペクトルを比較している。
図14Bのスペクトルは、m/z依存単一イオン面積補正が適用されているのに対し、
図14Aのスペクトルは、適用されていない。より高いm/z種は、それらの種を定量化するためのいずれの試みも実質的に妨げる効果を有する補正なしで、相対的に漸減されることが観察することができる。
【0160】
上記のことから、実施形態は、イオンピークに寄与する初期イオンの数の改善された推定値を得るために使用することができる、包括的かつ自己完結型の方式を提供することが理解されるであろう。モンテカルロシミュレーション及び統計的補正を使用して、大きな質量(及び荷電状態)領域にわたる、発見的に動機付けられた補正方式を得る。これにより、広範囲の生命科学分野への一般化可能性が実行不可能である、第1原理に基づくモデルに頼る必要性が回避される。
【0161】
様々な実施形態を参照して本発明を記載してきたが、添付の特許請求の範囲に記載されている本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことができることが理解されるであろう。
【手続補正書】
【提出日】2023-08-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析器によって生成された信号を分析する方法であって、前記方法は、
前記質量分析器によって生成された信号を受信することであって、前記信号が、1つ以上のイオンピークを含む、受信することと、
前記1つ以上のイオンピークのうちの第1のイオンピークの面積を決定することと、
前記第1のイオンピークに寄与したイオンの数を、(i)補正関数から前記第1のイオンピークの前記面積に適用される補正を決定することであって、前記補正関数が、前記質量分析器についての、平均単一イオン面積と、イオン質量(m)、質量電荷比(m/z)、及び/又は電荷(z)との間の関係を記述する、決定すること、並びに、(ii)前記補正を前記第1のイオンピークの前記面積に適用すること、によって推定することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記補正関数が、m/z範囲にわたる、前記分析器についての、平均単一イオン面積と、イオン質量又はm/zとの間の関係を記述し、前記m/z範囲が、約25、50、75、又は100~約6000、8000、10,000、又は15,000である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記補正関数の質量又はm/z依存性が、前記m/z範囲にわたって連続的である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記補正関数の質量又はm/z依存性が、遷移質量において、最大値を有し、前記遷移質量を下回る質量において、質量が増加するにつれて増加し、前記遷移質量を上回る質量において、質量が増加するにつれて減少する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記分析器が、少なくともダイノードを備えるイオン検出器を含み、前記遷移質量が、前記ダイノードの1つ以上の特質に依存する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記補正関数の質量又はm/z依存性が、形式
【数1】
を有し、式中、Tは、イオンの運動エネルギーであり、mは、イオンの質量であり、vは、イオンの速度であり、a、b、及びv
0は、ベストフィットパラメータである、請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記補正関数が、1素電荷~10素電荷以上の電荷範囲にわたる、前記分析器についての、平均単一イオン面積と電荷との間の関係を記述する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記補正関数の電荷依存性が、電荷とともに直線的に変化する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記分析器のための前記補正関数が、グローバル補正関数をスケーリングすることによって得られる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記1つ以上のイオンピークのうちの1つ以上の更なるイオンピークの面積を決定することと、
前記1つ以上の更なるイオンピークの各々に寄与したイオンの数を、前記1つ以上の更なるイオンピークの各々について、(i)前記補正関数から前記イオンピークの前記面積に適用されるための補正を決定すること、及び(ii)前記補正を前記イオンピークの前記面積に適用すること、によって推定することと、
を更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記補正関数又は前記グローバル補正関数が、測定された単一イオン面積(SIA)データにモデルをフィッティングさせることによって決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
質量分析器のための補正関数を決定する方法であって、前記方法が、
質量分析器を使用して複数の単一イオンを分析することであって、前記複数の単一イオンが、前記分析器の対象となる質量m/z及び/又は電荷範囲のうちの大部分又は全てにわたって広がる質量m/z及び/又は電荷を有するイオンを含む、分析することと、
前記複数の単一イオンを分析することに応答して、前記分析器によって生成された複数のイオンピークの各イオンピークの面積を決定することによって、単一イオン面積(SIA)データを生成することと、
モデルを前記SIAデータにフィッティングさせることによって、補正関数を決定することと、を含む、方法。
【請求項13】
前記単一イオン面積(SIA)データが、検出器効率について生のSIAデータを補正することによって、前記生のSIAデータから導出された補正されたSIAデータである、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
イオン源及び質量分析器を備える分析機器を動作させる方法であって、前記方法が、
前記イオン源においてイオンを生成することと、
前記質量分析器を用いて前記イオンを分析して信号を生成することと、
請求項1、2、3及び11のいずれか一項に記載の方法を使用して、前記信号を分析することと、を含む、方法。
【請求項15】
前記質量分析器が、飛行時間型(ToF)質量分析器である、請求項1、2、3、11及び12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記飛行時間型質量分析器が、イオントラップを含み、前記方法が、
前記イオントラップ内に第1のイオンパケットを蓄積することと、
前記第1のイオンパケットを分析して、第1の信号を生成することと、
前記第1の信号を分析して、前記第1のイオンパケット内のイオンの総数を推定することと、
前記イオントラップ内に第2のイオンパケットを蓄積することと、を含み、
前記第1のイオンパケット内のイオンの推定された前記総数を使用して、前記第2のイオンパケット内のイオンの総数を制御する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
プロセッサ上で実行されるとき、請求項1、2、3、11及び12のいずれか一項に記載の方法を行うコンピュータソフトウェアコードを記憶する、非一時的コンピュータ可読記憶媒体。
【請求項18】
分析機器のための制御システムであって、前記制御システムが、前記分析機器に、請求項1、2、3、11及び12のいずれか一項に記載の方法を行わせるように構成されている、制御システム。
【請求項19】
イオン分析器と、請求項18に記載の制御システムと、を備える、分析機器。
【請求項20】
分析機器であって、
質量分析器と、
制御システムであって、
前記質量分析器によって生成された信号を受信することであって、前記信号が、1つ以上のイオンピークを含む、受信することと、
前記1つ以上のイオンピークのうちの第1のイオンピークの面積を決定することと、
前記第1のイオンピークに寄与したイオンの数を、(i)補正関数から前記第1のイオンピークの前記面積に適用される補正を決定することであって、前記補正関数が、前記質量分析器についての、平均単一イオン面積と、イオン質量、質量電荷比、及び/又は電荷との間の関係を記述する、決定すること、並びに、(ii)前記補正を前記第1のイオンピークの前記面積に適用すること、によって、推定することと、を行うように構成されている、制御システムと、を備える、分析機器。
【請求項21】
前記質量分析器が、イオントラップを備える飛行時間型質量分析器であり、前記機器が、
前記イオントラップ内に第1のイオンパケットを蓄積することと、
前記第1のイオンパケットを分析して、第1の信号を生成することと、
前記第1のイオンパケット内のイオンの総数を推定することと、
前記第1のイオンパケット内のイオンの推定された前記総数を使用して、前記イオントラップ内に蓄積された第2のイオンパケット内のイオンの数を制御することと、を行うように構成されている、請求項20に記載の分析機器。
【外国語明細書】