(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089194
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】耐電圧試験装置及び耐電圧試験方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/12 20200101AFI20240626BHJP
【FI】
G01R31/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204401
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000108797
【氏名又は名称】エスペック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100137143
【弁理士】
【氏名又は名称】玉串 幸久
(72)【発明者】
【氏名】徳永 裕太
【テーマコード(参考)】
2G015
【Fターム(参考)】
2G015AA01
2G015BA01
2G015BA04
2G015CA05
(57)【要約】
【課題】複数の供試体を耐電圧試験する場合に、絶縁破壊した供試体の状態を正確に把握する。
【解決手段】耐電圧試験装置10は、電源部14と、電源部14に対して並列に設けられる個別配線23と、個別配線23に接続された各供試体Sに電流が流れるかどうかを監視する電流監視部35と、個別配線のそれぞれに対応して設けられた切替部40と、を備える。個別配線23は、切替部40によって電源部14の一方の接続端に断接されるとともに供試体Sの一方の端子に接続可能な一側配線32と、電源部14の他方の接続端に接続されるとともに供試体Sの他方の端子に接続可能な他側配線33と、を含む。切替部40は、電源部14の一方の接続端と一側配線32とが導通可能な状態から、一側配線32が他側配線33と同電位の逃がし配線37に接続される状態に切り替え可能である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源部と、
前記電源部に対して並列に設けられるとともにそれぞれ絶縁部を有する供試体が接続可能に構成された複数の個別配線と、
各個別配線に接続された前記各供試体に、前記電源部による印加電圧を受けて電流が流れるかどうかを監視するための電流監視部と、
前記複数の個別配線のそれぞれに対応して設けられた切替部と、を備え、
前記各個別配線は、前記切替部によって前記電源部の一方の接続端に電気的に断接されるとともに前記供試体の一方の端子に電気的に接続可能に構成された一側配線と、前記電源部の他方の接続端に電気的に接続されるとともに前記供試体の他方の端子に電気的に接続可能に構成された他側配線と、を含み、
各切替部は、当該切替部が設けられた前記個別配線の前記一側配線と前記電源部の前記一方の接続端とが導通可能な状態から、当該切替部が設けられた前記個別配線の前記一側配線が前記電源部の前記一方の接続端から電気的に切り離されて当該切替部が設けられた前記個別配線の他側配線と同電位のところに電気的に接続される状態に切り替え可能である、耐電圧試験装置。
【請求項2】
前記供試体を配置する試験室を有するチャンバーを備えており、
前記各切替部は、前記チャンバーの外に配置されている、請求項1に記載の耐電圧試験装置。
【請求項3】
前記他側配線と同電位のところに電気的に接続された逃がし配線が設けられ、
前記各切替部はそれぞれ、前記電源部の前記一方の接続端に電気的に接続された第1コネクタと、前記逃がし配線に設けられた第2コネクタと、前記一側配線に電気的に接続され前記第1コネクタと前記第2コネクタとに選択的に接続される切替コネクタと、を備える、請求項1又は2に記載の耐電圧試験装置。
【請求項4】
電源部に並列に接続された複数の個別配線のそれぞれに、絶縁部を有する供試体を接続し、
各個別配線に電圧がかかるように前記電源部を起動し、
各供試体において、前記電源部による印加電圧を受けて電流が流れていないかを監視しつつ前記電源部による電圧の印加を継続し、
個別配線のうち前記電流が流れたことが確認された供試体の一方の端子に電気的に繋がる一側配線については、前記電源部の一方の接続端から電気的に切り離すとともに、前記一側配線を、前記電源部の他方の接続端に電気的に接続されるとともに前記供試体の他方の端子に電気的に接続された他側配線と同電位のところに接続する、耐電圧試験方法。
【請求項5】
複数の供試体のうちの一部の供試体に電流が流れたことが確認されると、前記電源部による電圧の印加を停止し、
前記電流が流れたことが確認された供試体に繋がる前記一側配線を前記他側配線と同電位のところに電気的な接続を切り替えた後、前記電源部による印加を再開する、請求項4に記載の耐電圧試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐電圧試験装置及び耐電圧試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、たとえば、下記特許文献1に開示されているように、電気製品、電気部品、半導体部品等において、使用電圧に対して十分な絶縁耐力があるかどうか、すなわち絶縁破壊をしないかどうかを確認する、あるいは、絶縁抵抗を測定するための耐電圧試験装置が知られている。耐電圧試験装置は、高電圧(たとえば1kV以上の高電圧)を発生する電源部と、電源部と供試体を互いに接続する配線と、を有し、供試体に高電圧を印加できるように構成されている。特許文献1に開示された耐電圧試験装置では、複数の供試体を同時に試験できるように、電源部には、供試体を接続可能な複数の配線が並列につながっている。そして、複数の供試体に同時に高電圧を印加し、絶縁破壊した供試体があると、その供試体に繋がる配線を遮断するようになっている。一方で、絶縁破壊していない供試体については継続して高電圧を印加し続ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された耐電圧試験装置では、絶縁破壊した供試体に繋がる配線については、電源部側の配線から遮断されるが、絶縁破壊していない供試体については引き続き高電圧を印加し続けるため、絶縁破壊した供試体に接続されていた電源部側の配線にも高電圧がかかった状態となる。そのため、この電源部側の配線にかかる高電圧によって、絶縁破壊した供試体に繋がる配線が帯電してしまう可能性がある。その場合、絶縁破壊した供試体にさらに電圧がかかることになるため、供試体の状態が絶縁破壊したときの状態から変化することになる。そのため、供試体を事後分析しようとしても、絶縁破壊したときの供試体の状態を正確に把握できないという問題が生ずる。
【0005】
そこで、本発明は、前記従来技術を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、複数の供試体を同時に耐電圧試験するときでも、絶縁破壊した供試体の状態を正確に把握できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するため、本発明に係る耐電圧試験装置は、電源部と、前記電源部に対して並列に設けられるとともにそれぞれ絶縁部を有する供試体が接続可能に構成された複数の個別配線と、各個別配線に接続された前記各供試体に、前記電源部による印加電圧を受けて電流が流れるかどうかを監視するための電流監視部と、前記複数の個別配線のそれぞれに対応して設けられた切替部と、を備える。前記各個別配線は、前記切替部によって前記電源部の一方の接続端に電気的に断接されるとともに前記供試体の一方の端子に電気的に接続可能に構成された一側配線と、前記電源部の他方の接続端に電気的に接続されるとともに前記供試体の他方の端子に電気的に接続可能に構成された他側配線と、を含む。各切替部は、当該切替部が設けられた前記個別配線の前記一側配線と前記電源部の前記一方の接続端とが導通可能な状態から、当該切替部が設けられた前記個別配線の前記一側配線が前記電源部の前記一方の接続端から電気的に切り離されて当該切替部が設けられた前記個別配線の他側配線と同電位のところに電気的に接続される状態に切り替え可能である。
【0007】
本発明に係る耐電圧試験装置では、電源部に並列に接続された複数の個別配線にそれぞれ絶縁部を有する供試体を接続し、この状態で電源部によって供試体に電圧を印加することができる。このとき、電流監視部によって、各供試体に電流が流れているかどうかを監視することにより、供試体が絶縁破壊していないかを確認することができる。また、複数の供試体のうち、何れかの供試体において絶縁破壊が生じた場合には、切替部により、当該絶縁破壊した供試体が接続されている個別配線において、一側配線と電源部の一方の接続端とが導通可能な状態から、当該個別配線の一側配線が電源部の一方の接続端から電気的に切り離されて当該他側配線と同電位のところに接続される状態に切り替えることができる。これにより、当該一側配線が帯電してしまう状態になることを防止できる。
【0008】
すなわち、耐電圧試験装置のように高圧の電圧を印加するものにおいては、電源部の一方の接続端から印加された高圧の電圧によって、一側配線が帯電し得る。あるいは場合によっては、隣の供試体に繋がる個別配線に印加される電圧によって、絶縁破壊した供試体に繋がる一側配線が帯電し得る。これらの場合、絶縁破壊した供試体にさらに電圧がかかった状態となり得る。しかしながら、切替部が、一側配線が他側配線と同電位のところに接続された状態に切り替えられるため、絶縁破壊した供試体を挟んで一側配線と他側配線とが同電位になり、そのために、絶縁破壊した供試体に電圧がかかった状態になることを回避できる。したがって、絶縁破壊した供試体に電圧がかかった状態に維持されることを防止できるため、絶縁破壊したときの供試体の状態を事後的に正確に把握することができる。なお、「他側配線と同電位のところ」は、他側配線や、他側配線に接続された配線であってもよく、あるいは他側配線が接地されている場合には、接地されたところであってもよい。
【0009】
前記供試体を配置する試験室を有するチャンバーを備えてもよい。この場合において、前記各切替部は、前記チャンバーの外に配置されていてもよい。この態様では、切替部による切り替え操作時に試験者が試験室内にアクセスする必要がないため、試験室内の温度、湿度等の試験環境が変動しないようにすることができる。
【0010】
前記他側配線と同電位のところに電気的に接続された逃がし配線が設けられてもよい。前記各切替部はそれぞれ、前記電源部の前記一方の接続端に電気的に接続された第1コネクタと、前記逃がし配線に設けられた第2コネクタと、前記一側配線に電気的に接続され前記第1コネクタと前記第2コネクタとに選択的に接続される切替コネクタと、を備えてもよい。
【0011】
この態様では、切替コネクタを、第1コネクタに接続された状態から、第2コネクタに接続された状態に変更することにより、一側配線が電源部の一方の接続端から電気的に切り離されて他側配線と同電位のところに接続される状態に切り替えることができる。したがって、高価な高電圧リレーを使うことなく、接続切替が可能である。
【0012】
本発明に係る耐電圧試験方法は、電源部に並列に接続された複数の個別配線のそれぞれに、絶縁部を有する供試体を接続し、各個別配線に電圧がかかるように前記電源部を起動し、各供試体において、前記電源部による印加電圧を受けて電流が流れていないかを監視しつつ前記電源部による電圧の印加を継続し、個別配線のうち前記電流が流れたことが確認された供試体の一方の端子に電気的に繋がる一側配線については、前記電源部の一方の接続端から電気的に切り離すとともに、前記一側配線を、前記電源部の他方の接続端に電気的に接続されるとともに前記供試体の他方の端子に電気的に接続された他側配線と同電位のところに接続する。
【0013】
本発明に係る耐電圧試験方法では、一部の供試体が絶縁破壊したことが確認されると、絶縁破壊した供試体が接続されている個別配線において、電源部の一方の接続端と一側配線とが導通可能な状態から、当該個別配線の一側配線が電源部の一方の接続端から電気的に切り離されて当該他側配線と同電位のところに接続される状態に切り替えられる。したがって、電源部の一方の接続端からの高電圧が印加された状態にあることによって一側配線が帯電してしまい、絶縁破壊した供試体に電圧がかかった状態に維持されることを防止できる。このため、絶縁破壊した供試体の状態を事後的に正確に把握することができる。
【0014】
前記耐電圧試験方法において、複数の供試体のうちの一部の供試体に電流が流れたことが確認されると、前記電源部による電圧の印加を停止し、前記電流が流れたことが確認された供試体に繋がる前記一側配線を前記他側配線と同電位のところに電気的な接続を切り替えた後、前記電源部による印加を再開してもよい。
【0015】
この態様では、一部の供試体が絶縁破壊したことが確認されて、この供試体が接続された一側配線の接続切り替えを行うときに、電源部による電圧印加を一旦停止するため、絶縁破壊した供試体が接続された一側配線において放電が生ずることを防止できる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、複数の供試体を同時に耐電圧試験するときでも、絶縁破壊した供試体の状態を正確に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態に係る耐電圧試験装置を側方から見た状態で示す断面図である。
【
図2】前記耐電圧試験装置を前方から見た図である。
【
図3】前記耐電圧試験装置に設けられた電気回路を示す図である。
【
図4】前記耐電圧試験装置に設けられた切替部の設置構成を説明するための図である。
【
図5】前記耐電圧試験装置に設けられた切替部の設置構成を説明するための図である。
【
図7】前記耐電圧試験装置に設けられた電気回路の変形例を示す図である。
【
図8】前記耐電圧試験装置に設けられた電気回路の変形例を示す図である。
【
図9】前記耐電圧試験装置に設けられた電気回路の変形例を示す図である。
【
図10】前記耐電圧試験装置に設けられた電気回路の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施形態に係る耐電圧試験装置は、電気部品等の供試体に高電圧を印加して、供試体が絶縁破壊しないかどうかを確認するための試験装置である。すなわち、供試体には絶縁部が含まれており、この絶縁部の耐電圧性を評価するために耐電圧試験装置が用いられる。
【0019】
図1及び
図2に示すように、耐電圧試験装置10は、複数の供試体Sを同時に試験可能な装置であり、複数の供試体Sが配置される試験室TRを有するチャンバー12と、試験室TR内に配置された供試体Sに印加する電圧を発生させる電源部14と、を備えている。チャンバー12は、前面が開口した試験室TRを形成する槽本体12aと、試験室TRの前面開口を開閉する扉体12bと、槽本体12aに隣接する機械室16と、を有する。
【0020】
チャンバー12は、試験室TRを有するものであれば、どのようなタイプのチャンバー12でもよいが、本実施形態では、試験室TR内をたとえば100℃以上の温度環境やマイナスの温度環境に設定可能なチャンバーによって構成されている。試験室TR内の温度を設定するには、機械室16の前面に設けられた操作部16aを用いることができる。
【0021】
電源部14は、たとえば10kV以上の直流電圧及び交流電圧の少なくとも一方を発生させるように構成されている。なお、
図3は、電源部14がたとえば、交流電圧を発生させるものとした場合を示している。
【0022】
図3に示すように、電源部14には、複数の供試体Sが電気的に接続されるようになっている。電源部14と複数の供試体Sとを接続する電気回路20は、電源部14の一方の接続端に接続された第1メイン配線21と、電源部14の他方の接続端に接続された第2メイン配線22と、第1メイン配線21及び第2メイン配線22に並列に接続されるとともにそれぞれ供試体Sを接続可能に構成された複数の個別配線23と、を含む。第1メイン配線21には、保護抵抗28が設けられている。
【0023】
各個別配線23は、後述の切替部40によって第1メイン配線21(すなわち電源部14の一方の接続端)に対して断接可能であり且つ供試体Sの一方の端子に接続可能に構成された一側配線32と、第2メイン配線22に接続されるとともに供試体Sの他方の端子に接続可能に構成された他側配線33と、を含む。供試体Sには、一方の端子と他方の端子との間を絶縁する絶縁部が含まれている。他側配線33には、当該他側配線33(すなわち供試体Sの絶縁部)に電流が流れていないかどうかを監視するための電流監視部35が設けられている。
【0024】
図3の例では、電源部14が交流電圧を発生させるものであり、中間接地となっているため、第1メイン配線21及び一側配線32は、供試体Sに向けて電源部14からの高電圧を印加するための導電体である印加側導電体となり得、また、供試体Sに電流が流れた場合に他側配線33からの電流を電源部14に流れさせるための導電体である非印加側導電体ともなり得る。また、第2メイン配線22及び他側配線33も同様に、印加側導電体とも非印加側導電体ともなり得る。
【0025】
電気回路20には、逃がし配線37も設けられている。逃がし配線37は、後述する切替部40によって一側配線32が第1メイン配線21に対して遮断されたときに、一側配線32に電荷が貯まらないように、一側配線32から電荷を逃がすための配線である。すなわち、一部の供試体Sが絶縁破壊した場合には、当該供試体Sが接続された一側配線32を後述の切替部40によって第1メイン配線21から電気的に切り離すが、その場合であっても、他の供試体Sについては引き続き電圧を印加するため、第1メイン配線21には高電圧がかかり続ける。このため、第1メイン配線21又は隣接する個別配線23に印加された高圧の電圧によって、絶縁破壊した供試体Sに接続されている一側配線32が帯電し得る。そこで、この一側配線32に電荷が貯まらないように、逃がし配線37が設けられている。なお、逃がし配線37は、各個別配線23に対応するように複数設けられてもよい。
【0026】
逃がし配線37は、対応する他側配線33と同電位のところに電気的に接続されている。たとえば、逃がし配線37の一端は第2メイン配線22に接続されている。このため、逃がし配線37は、第2メイン配線22及び他側配線33と同電位となる。なお、逃がし配線37は、第2メイン配線22ではなく、他側配線33に接続されていてもよい。
【0027】
電気回路20には、各個別配線23にそれぞれ切替部40が設けられている。切替部40は、第1メイン配線21(すなわち電源部14の一方の接続端)と一側配線32とが導通可能な状態(導通可能状態)と、一側配線32が第1メイン配線21から電気的に切り離されるとともに逃がし配線37に接続される非導通状態と、を選択的に取り得るように構成されている。切替部40が導通可能状態にある場合には、供試体Sに電源部14の電圧が印加される。この場合、供試体Sの絶縁部が正常に機能していれば、個別配線23に電流は流れないが、供試体Sが絶縁破壊すると、この供試体Sが接続された個別配線23には電流が流れることになる。一方、切替部40が非導通状態にある場合には、供試体Sに電源部14の電圧は印加されない。
【0028】
各切替部40は、第1メイン配線21に設けられた第1コネクタ40aと、逃がし配線37に設けられた第2コネクタ40bと、一側配線32に電気的に接続されるとともに第1コネクタ40aと第2コネクタ40bとに選択的に接続される切替コネクタ40cと、を備える。切替コネクタ40cが第1コネクタ40aに接続されれば、前記導通可能状態となり、切替コネクタ40cが第2コネクタ40bに接続されれば前記非導通状態となる。
【0029】
切替部40は、
図1、
図4及び
図5に示すように、チャンバー12の背面壁12cに固定された中継ボックス42に設けられている。すなわち、切替部40は、試験室TRの外側に配置されている。
【0030】
中継ボックス42は、枠状の外周体43と、外周体43内に固定された支持板44とを有し、支持板44には、複数の第1コネクタ40aが取り付けられた第1取付部材45と、複数の第2コネクタ40bが取り付けられた第2取付部材46と、が固定されている。第1取付部材45は、横長の部材であって第1メイン配線21の一部を構成しており、複数の第1コネクタ40aが横方向に並ぶように配置されている。また、第2取付部材46は、横長の部材であって逃がし配線37の一部を構成しており、第2取付部材46には、複数の第2コネクタ40bが横方向に並ぶように配置されている。そして、第1コネクタ40a及び第2コネクタ40bは、チャンバー12の背面側から切替コネクタ40cを挿入できるように固定されている。
【0031】
なお、第1コネクタ40aの配置及び第2コネクタ40bの配置は、横方向に一列に並ぶような配置に限られるものではなく、どのような配置であってもよい。ただし、第2コネクタ40bは、高電圧に印加された状態にある第1コネクタ40aの影響で帯電することがないように、第1コネクタ40aから離れた位置に配置されている必要がある。
図4、
図5では、3つの切替コネクタ40cが第1コネクタ40aに接続され、3つの切替コネクタ40cが第2コネクタ40bに接続された状態を示しているが、これは、3つの供試体Sが絶縁破壊した後の試験時の状態を例示するものである。
【0032】
第1コネクタ40a及び第2コネクタ40bには、一側配線32に取り付けられた切替コネクタ40cが選択的に接続される。切替コネクタ40cは、一側配線32のうち、チャンバー12の外側に引き出された外側配線32aの先端に取り付けられている。すなわち、一側配線32は、外側配線32aと、外側配線32aに繋がり槽本体12aの背面壁12cに形成されたケーブル孔25に挿通された挿通部32bと、挿通部32bに繋がりチャンバー12内に配置された内側配線32cと、を含む。外側配線32aは、切替コネクタ40cを第1コネクタ40aに着脱するために必要な長さを有するとともに、切替コネクタ40cを第2コネクタ40bに着脱すために必要な長さを有しており、自由に曲げられる柔軟な構成である。
【0033】
なお、外側配線32a、挿通部32b及び内側配線32cは、連続した電線で構成されてもよく、あるいは、互いに接続された構成であってもよい。たとえば、挿通部32bは、ケーブル孔25内に配置されるため、ケーブル孔25内に設けられた絶縁体25a内に配置された導電体によって構成されてもよい。なお、
図4では、外側配線32aと挿通部32bと内側配線32cとが互いに接続された構成の場合を示している。
【0034】
内側配線32cは、
図1及び
図2に示すように、供試体Sの一方の端子に電気的に接続するためのクリップ状の接続部32dが取り付けられている。すなわち、内側配線32cは、供試体Sに直接的に接続される。ただし、これに代え、内側配線32cは、供試体Sに対して間接的に接続されてもよい。たとえば、内側配線32cは、図外の別の配線を介して供試体Sに接続されてもよい。
【0035】
試験室TR内には、供試体Sを配置するための棚板48が設けられており、供試体Sは、この棚板48の上に配置された絶縁部材49の上に載置される。なお、供試体Sは、絶縁材からなる箱の中に貯溜された絶縁性の液中に浸されてもよい。
【0036】
棚板48の上には、一側配線32の内側配線32cを所定位置に保持するための槽内配線治具51が設けられている。槽内配線治具51は、絶縁材で構成されており、たとえば、一方向に細長い直方体形状に形成されていている。そして、
図6に示すように、槽内配線治具51の上面には、長さ方向に延びるような切り込み51aが設けられている。この切り込み51aは、内側配線32cの数に応じた数だけ設けられており、各切り込み51aは互いに平行に延びている。各内側配線32cはそれぞれ異なる切り込み51aに埋め込まれる。これにより、内側配線32cは互いに間隔を保った状態で所定の位置に保持されることになる。また、内側配線32cは部分的に絶縁材の中に埋め込まれることになるため、内側配線32cから棚板48への気中放電を含む放電を抑制できる。なお、
図6には、各切り込み51aの長さが異なるように形成された例を示しているが、これに限られず、何れの切り込み51aも同じ長さに形成されていてもよい。また、槽内配線治具51を省略してもよい。
【0037】
他側配線33には、供試体Sの他方の端子に電気的に接続するためのクリップ状の接続部33aが取り付けられている。他側配線33は、槽本体12aの側面壁12dに形成されたケーブル孔26を通して試験室TRの外部に引き出されている。このケーブル孔26は、他側配線33を挿通可能なたとえば絶縁体からなる栓部材53で塞がれている。なお、一側配線32が背面壁12cのケーブル孔25に挿通され、他側配線33が側面壁12dのケーブル孔26に挿通される構成に限られるものではなく、この逆の配線の仕方をしてもよい。
【0038】
本実施形態に係る耐電圧試験装置10を用いて、供試体Sの耐電圧試験を行うには、以下の順序で試験準備及び試験を行うことができる。
【0039】
まず、各供試体Sを試験室TR内の所定位置に配置するとともに電源部14と電気的に接続する。すなわち、第1メイン配線21を電源部14の一方の接続端に接続するとともに、第2メイン配線22を電源部14の他方の接続端に接続し、さらに、各個別配線23の一側配線32の接続部32dをそれぞれ供試体Sの一方の端子に接続するとともに、他側配線33の接続部33aを供試体Sの他方の端子に接続する。また、一側配線32(内側配線32c)の一部は、槽内配線治具51の切り込み51aに埋め込まれ、一側配線32が位置決めされる。また、一側配線32(外側配線32a)に設けられた切替コネクタ40cは、第1コネクタ40aに接続しておく。つまり、各切替部40を、第1メイン配線21と一側配線32とが導通可能な状態(導通可能状態)にしておく。
【0040】
続いて、チャンバー12を起動して、試験室TRを所定の温度環境に調整する。試験室TRが所定の温度環境に調整されると、電源部14を起動し、各供試体Sに所定電圧を印加する。このとき、試験目的に応じて、所定時間だけ電圧を印加したり、供試体Sが絶縁破壊するまで電圧を印加したりする。このとき、各電流監視部35によって各供試体Sに電流が流れていないかを監視しつつ、電源部14による電圧の印加を継続する。
【0041】
試験中、一部の電流監視部35において電流が流れたことが確認されると、対応する供試体Sが絶縁破壊したこととなる。その場合には、所定の温度環境を維持しつつ、電源部14による電圧印加を一旦停止する。そして、絶縁破壊した供試体Sが接続された一側配線32に設けられている切替部40については、第1メイン配線21と一側配線32とが導通した導通可能状態から非導通状態に切り替える。すなわち、切替コネクタ40cを第1コネクタ40aから外すとともに、この外した切替コネクタ40cを第2コネクタ40bに接続する。これにより、この供試体Sが接続された一側配線32は、第1メイン配線21(電源部14の一方の接続端)から電気的に切り離されるとともに逃がし配線37に電気的に接続された非導通状態となる。なお、他の切替部40については、引き続き、一側配線32に電圧が印加される導通可能状態にしておく。
【0042】
切替部40の操作を終えると、電源部14を再度起動して、さらに試験を続ける。このとき、絶縁破壊した供試体Sが接続された一側配線32については、電源部14の電圧がかからないだけでなく、逃がし配線37に接続されているため、帯電することもない。以降、供試体Sが絶縁破壊する度に、電源部14を停止した上で、当該供試体Sに対応した切替部40の切り替え操作を行い、再度、電源部14を起動する。そして、試験終了の条件が満たされると、試験を終える。
【0043】
以上説明したように、本実施形態の耐電圧試験装置10では、電源部14に並列に接続された複数の個別配線23にそれぞれ絶縁部を有する供試体Sを接続し、この状態で電源部14によって供試体Sに電圧を印加することができる。このとき、電流監視部35により、各供試体Sに電流が流れているかどうかを監視することにより、供試体Sが絶縁破壊していないかを確認することができる。また、複数の供試体Sのうち、何れかの供試体Sにおいて絶縁破壊が生じた場合には、切替部40により、当該絶縁破壊した供試体Sが接続されている個別配線23において、第1メイン配線21と一側配線32とが導通可能な状態から、当該個別配線23の一側配線32が当該第1メイン配線21(電源部14の一方の接続端)から電気的に切り離されて他側配線33と同電位のところに接続される状態に切り替えることができる。これにより、当該一側配線32が帯電してしまう状態になることを防止できる。すなわち、耐電圧試験装置10のように高圧の電圧を印加するものにおいては、第1メイン配線21と一側配線32とが近接している場合には、第1メイン配線21に印加された高圧の電圧によって、一側配線32が帯電し得る。あるいは場合によっては、隣の供試体Sに繋がる個別配線23に印加される電圧によって、絶縁破壊した供試体Sに繋がる一側配線32が帯電し得る。しかしながら、切替部40が、一側配線32が、他側配線33と同電位のところに接続された状態に切り替えるため、絶縁破壊した供試体Sを挟んで一側配線32と他側配線33とが同電位になり、そのために、絶縁破壊した供試体Sに電圧がかかった状態になることを回避できる。したがって、他の供試体Sについて引き続き電圧を印加する場合であっても、絶縁破壊した供試体Sについては電圧がかかった状態に維持されることを防止できるため、絶縁破壊したときの供試体Sの状態を事後的に正確に把握することができる。また、一側配線32が帯電してしまう状態になった場合には、他の個別配線23に放電する恐れがあるため、他の個別配線23の電流監視に影響を及ぼす可能性があるが、本実施形態ではこのようなことがない。
【0044】
また本実施形態では、切替部40がチャンバー12の外に配置されているため、切替部40による切り替え操作時に試験者が試験室TR内にアクセスする必要がない。このため、試験室TR内の温度、湿度等の試験環境が変動しないようにすることができる。
【0045】
また本実施形態では、切替コネクタ40cが第1コネクタ40aに接続された状態において、試験者が切替コネクタ40cを引き抜くことによって第1コネクタ40aとの接続を解除するとともに、引き抜かれた切替コネクタ40cを第2コネクタ40bに接続することにより、切替コネクタ40cが第2コネクタ40bに接続された状態に変更される。この操作により、一側配線32が第1メイン配線21から電気的に切り離されて他側配線33と同電位のところに接続される状態に切り替えることができる。したがって、高価な高電圧リレーを使わなくても、切替部40の接続切り替えを行うことができる。
【0046】
また本実施形態では、一部の供試体Sが絶縁破壊したことが確認されて、一側配線32の接続切り替えを行うときに、電源部14による電圧印加を一旦停止するため、切替コネクタ40cを第1メイン配線21の第1コネクタ40aから引き離す際に、切替コネクタ40c及び第1コネクタ40a間で放電が生ずることを防止できる。
【0047】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明は、前記実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更、改良等が可能である。例えば、前記実施形態では、電源部14が中間接地された構成(
図3)を例示したが、これに代え、
図7に示すように、電源部14の他方の接続端(第2メイン配線22が接続される側の接続端)が接地された構成であってもよい。この場合は、他側配線33が接地されることになるため、逃がし配線37も接地される構成となる。つまり、逃がし破線37も他側配線33と同電位となる。なおこの場合、第1メイン配線21及び一側配線32は、供試体Sに向けて電源部14からの高電圧を印加するための印加側導電体となり、第2メイン配線22及び他側配線33は、供試体Sに電流が流れた場合に第1メイン配線21からの電流を電源部14に流れさせるための非印加側導電体となる。
【0048】
図8及び
図9に示すように、電源部14は、直流電圧を発生させるものであってもよい。
図8に示すように、電源部14は、中間接地されてもよく、この場合、逃がし配線37は第2メイン配線22又は他側配線33に接続される。一方、
図9に示すように、電源部14の他方の接続端(第2メイン配線22が接続される側の接続端)が接地された構成の場合、逃がし配線37は、第2メイン配線22又は他側配線33に接続されることにより接地されるが、第2メイン配線22又は他側配線33に接続されずに直接接地されてもよい。
【0049】
図10に示すように、第1メイン配線21が、各切替部40に対応して、第1メイン配線21の主部から分岐するように設けられた複数の延出配線55を含んでいてもよく、第1コネクタ40aはこの延出配線55の先端に設けられてもよい。
【0050】
前記実施形態では、供試体Sがチャンバー12の試験室TR内に配置されて、所定の温度環境等の中で耐電圧試験が行われるように構成されているが、これに限られるものではなく、チャンバー12を省略してもよい。つまり、所定の温度環境等に調整することなく、耐電圧試験を行うものであってもよい。
【0051】
前記実施形態では、切替部40が第1コネクタ40a及び第2コネクタ40bに選択的に接続される切替コネクタ40cを有する構成となっているが、これに限られるものではなく、たとえば、切替部40が、高電圧用に専用に設計された高電圧リレーによって構成されていてもよい。すなわち、高電圧リレー(切替部40)は、電源部14の一方の接続端に電気的に接続された第1接点と、逃がし配線37に電気的に接続された第2接点と、一側配線32に電気的に接続されるとともに高度に絶縁された状態で第1接点と第2接点との間で電気的に接続が切り替えられる可動接点部と、を備える。この場合には、一部の切替部40を切り替える際に、電源部14を停止してもよく、あるいは、電源部14を停止することなく切り替えを行ってもよい。高電圧リレーで構成される場合には、試験者による手動の切り替え操作が不要となるため、切替部40を試験室TR内に配置することも可能である。
【符号の説明】
【0052】
10 :耐電圧試験装置
12 :チャンバー
14 :電源部
23 :個別配線
32 :一側配線
33 :他側配線
35 :電流監視部
37 :逃がし配線
40 :切替部
40a :第1コネクタ
40b :第2コネクタ
40c :切替コネクタ
S :供試体
TR :試験室