(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089207
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】コルチゾールを半定量するためのイムノクロマト測定キット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20240626BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
G01N33/543 521
G01N33/53 A
G01N33/53 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204423
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山口 達哉
(57)【要約】
【課題】 本発明は、酪農の現場において乳牛の血液や唾液などの生体試料中のコルチゾール濃度を迅速、簡便、安価に半定量することが可能なイムノクロマト測定キットを提供する。
【解決手段】 本発明は、生体試料中のコルチゾールを半定量するためのイムノクロマト測定キットであって、前記生体試料を希釈するための検体希釈液、競合試薬、およびイムノクロマトストリップを含み、前記イムノクロマトストリップは、少なくとも試料添加部材、含浸部材、膜担体、吸収部材を含み、前記膜担体は、抗IgG抗体が固定化された複数のテストラインを有することを特徴とする測定キットである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料中のコルチゾールを半定量するためのイムノクロマト測定キットであって、前記生体試料を希釈するための検体希釈液、競合試薬、およびイムノクロマトストリップを含み、
前記イムノクロマトストリップは、少なくとも試料添加部材、含浸部材、膜担体、吸収部材を含み、
前記膜担体は、抗IgG抗体が固定化された複数のテストラインを有することを特徴とする測定キット。
【請求項2】
前記膜担体は、3以上5以下の複数のテストラインを有することを特徴とする請求項1に記載の測定キット。
【請求項3】
前記複数のテストラインは、上流側から下流側に向かって固定化された抗IgG抗体量を順に増加または減少させたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の測定キット。
【請求項4】
前記抗IgG抗体は、抗マウスIgG抗体、抗ウサギIgG抗体、抗モルモットIgG抗体、および抗ヤギIgG抗体からなる群から選ばれる1以上であることを特徴とする請求項3に記載の測定キット。
【請求項5】
前記競合試薬は、コルチゾールと化合物との複合体を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の測定キット。
【請求項6】
前記化合物は、ビオチンであることを特徴とする請求項5に記載の測定キット。
【請求項7】
前記含浸部材には、競合試薬に対する抗体および/または高親和物質に標識物質を結合した標識体、および抗コルチゾール抗体が含浸されていることを特徴とする請求項1または2に記載の測定キット。
【請求項8】
前記競合試薬に対する抗体は、抗ビオチン抗体であることを特徴とする請求項7に記載の測定キット。
【請求項9】
前記競合試薬に対する高親和物質は、アビジンおよび/またはストレプトアビジンであることを特徴とする請求項7に記載の測定キット。
【請求項10】
前記生体試料は、血漿、血清、唾液または尿であることを特徴とする請求項1または2に記載の測定キット。
【請求項11】
牛のストレス状態を判定するために用いられることを特徴とする請求項1または2に記載の測定キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、牛から得られる生体試料中のコルチゾールを半定量するためのイムノクロマト測定キットに関する。より詳しくは、生体試料(検体)を希釈するための検体希釈液、競合試薬およびイムノクロマトストリップからなる、生体試料中のコルチゾールを半定量するための測定キットに関する。
【背景技術】
【0002】
酪家畜を快適な環境で飼うことや、家畜が健康であることは、安全・安心な畜産物の生産につながり、また、生産性の向上にも結びつくと考えられる。乳牛の飼養管理においては、気温や湿度などの牛舎環境や、人または他の乳牛との関わりなどもストレスとなり、乳牛の生産性を低下させる要因となることが指摘されている。このため、乳牛のストレス状況を把握することは、牛にとってより快適な飼養環境を提供することに大いに役立つこととなる。
【0003】
副腎皮質ホルモンであるコルチゾールは、古くから知られているストレスの指標であり、ストレスに鋭敏に反応してその濃度が増減することが知られている。しかし、血液などの生体試料中のコルチゾール濃度を調べるには、ELISA法が用いられ、煩雑な操作や多大な時間がかかるといった問題がある(非特許文献1)。
【0004】
こういった課題を解決するために、例えば特許文献1には、血液中のコルチゾールをイムノクロマト法を用いて測定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Prev Vet Med.,2015,120(3-4):291-297
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するために案出されたもので、血液や唾液などの生体試料中に存在するコルチゾール濃度を迅速、簡便に測定(半定量)することができる測定キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下に示す手段により上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1) 生体試料中のコルチゾールを半定量するためのイムノクロマト測定キットであって、前記生体試料を希釈するための検体希釈液、競合試薬、およびイムノクロマトストリップを含み、
前記イムノクロマトストリップは、少なくとも試料添加部材、含浸部材、膜担体、吸収部材を含み、
前記膜担体は、抗IgG抗体が固定化された複数のテストラインを有することを特徴とする、測定キット。
(2) 前記膜担体は、3以上5以下の複数のテストラインを有することを特徴とする、(1)に記載の測定キット。
(3) 前記複数のテストラインは、上流側から下流側に向かって固定化された抗IgG抗体量を順に増加または減少させたものであることを特徴とする、(1)または(2)に記載の測定キット。
(4) 前記抗IgG抗体は、抗マウスIgG抗体、抗ウサギIgG抗体、抗モルモットIgG抗体、および抗ヤギIgG抗体からなる群から選ばれる1以上であることを特徴とする、(1)~(3)のいずれかに記載の測定キット。
(5) 前記競合試薬は、コルチゾールと化合物との複合体を含むことを特徴とする、(1)~(4)のいずれかに記載の測定キット。
(6) 前記化合物は、ビオチンであることを特徴とする、(5)に記載の測定キット。
(7) 前記含浸部材には、競合試薬に対する抗体および/または高親和物質に標識物質を結合した標識体、および抗コルチゾール抗体が含浸されていることを特徴とする、(1)~(6)のいずれかに記載の測定キット。
(8) 前記競合試薬に対する抗体は、抗ビオチン抗体であることを特徴とする、(7)に記載の測定キット。
(9) 前記競合試薬に対する高親和物質は、アビジンおよび/またはストレプトアビジンであることを特徴とする、(7)または(8)に記載の測定キット。
(10) 前記生体試料は、血漿、血清、唾液または尿であることを特徴とする、(1)~(9)のいずれかに記載の測定キット。
(11) 牛のストレス状態を判定するために用いられることを特徴とする、(1)~(10)のいずれかに記載の測定キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、酪農の現場において乳牛の生体試料中のコルチゾール濃度を迅速、簡便、安価に測定(半定量)することが可能なコルチゾール半定量用のイムノクロマト測定キットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の測定キットに含まれるイムノクロマトストリップの一例を示す模式図(上面図)である。
【
図2】本発明の測定キットに含まれるイムノクロマトストリップの一例を示す模式図(側面図)である。
【
図3】本発明の測定キットに含まれるイムノクロマトストリップをハウジングケースに収容した一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明は、生体試料中のコルチゾールを半定量するためのイムノクロマト測定キットであって、前記生体試料を希釈するための検体希釈液、競合試薬、およびイムノクロマトストリップを含み、前記イムノクロマトストリップは、少なくとも試料添加部材、含浸部材、膜担体、吸収部材を含み、前記膜担体は、抗IgG抗体が固定化された複数のテストラインを有する測定キットである。
【0014】
(生体試料)
本発明において、生体試料は、特に限定されるものではないが、血清、血漿、唾液等が適している。動物種も、ウシの他、ヒト、ブタ、ウマ、イヌ、ネコなどの生体試料を測定対象とすることが出来る。
【0015】
(コルチゾール)
コルチゾールは副腎皮質から放出されるステロイドホルモンであり、糖質コルチコイドの一種である。炭水化物、脂肪、およびタンパク質代謝を制御しており、生体にとって必須のホルモンである。コルチゾールは3種の糖質コルチコイドの中で最も生体内量が多く、糖質コルチコイド活性の約95%はこれによるものである。急性のストレスは血中のコルチゾール濃度を増加させることが知られている。また,コルチゾールは様々な生物学的作用を有することから、ストレスと病気を結びつけるホルモンとして注目されている。更に、コルチゾールは炎症との関連も深いことから,肥満、メタボリック・シンドローム、心疾患などとの関連についても研究が行われている。
【0016】
(検体希釈液)
本発明において、検体希釈液は、所定のpH範囲において充分な緩衝能力を有していれば、いかなる種類の緩衝剤を用いてもよく、例えば、トリス、リン酸、フタル酸、クエン酸、マレイン酸、コハク酸、シュウ酸、ホウ酸、酒石酸、酢酸、炭酸、グッドバッファー(MES、ADA、PIPES、ACES、コラミン塩酸、BES、TES、HEPES、アセトアミドグリシン、トリシン、グリシンアミド、ビシン)等が挙げられる。
【0017】
本発明において、検体希釈液は、イムノクロマトストリップ上での生体試料の展開性を向上させ、かつ免疫反応に影響しない非イオン性界面活性剤を含むことが好ましい。非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(Triton(登録商標)系界面活性剤等)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(Brij(登録商標)系界面活性剤等)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Tween(登録商標)系界面活性剤等)、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アルキルグルコシド、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。また、前記界面活性剤は単独で用いても二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、検体希釈液中の界面活性剤の濃度は、生体試料の希釈倍率にもよるが0.01質量%以上0.2質量%以下が好ましく、0.05質量%以上0.2質量%以下がより好ましく、0.05質量%以上0.15質量%以下がさらに好ましい。濃度が低すぎると、生体試料(希釈液)が展開しにくくなることがあり、濃度が高すぎると、テストラインのシグナルが低くなることがある。
【0018】
また、検体希釈液は、競合反応の効率化、促進、特異性向上のために、ポリエチレングリコールおよび/または塩化ナトリウムを含むことが好ましい。検体希釈液へのポリエチレングリコールおよび塩化ナトリウムの添加濃度は、生体試料希釈液中の終濃度がそれぞれ、1質量%以上4質量%以下、1質量%以上3質量%以下となるように添加するのが好ましい。なお、使用するポリエチレングリコールの数平均分子量は、好ましくは2000以上16000以下であり、より好ましくは5000以上10000以下である。数平均分子量が小さい場合、本発明に適した充分な抗原抗体反応の促進作用が得られないことがある。また、数平均分子量が大きい場合、同様に、抗原抗体反応の促進作用が得られないとか、生体試料希釈液の粘性が高くなり、イムノクロマトストリップ上の展開性が低下することがある。
【0019】
(競合試薬)
本発明において、競合試薬は、生体試料中の遊離またはタンパク質に結合した状態のコルチゾールと競合することが出来、かつ標識体(物質)により検出が可能であれば特に制限はない。競合試薬としては、コルチゾールと化合物との複合体を用いるのが好ましい。複合体とすることによりコルチゾールが安定し、また性能の良い抗体が入手し易いことから好ましい。化合物としては、牛血清アルブミン、卵白アルブミンやビオチンなどが挙げられ、これらの中でもビオチンが好適に用いられる。詳細な理由は不明だが、コルチゾールと低分子量であるビオチンとの複合体は、コルチゾールとアルブミン等の高分子量物質との複合体よりも、生体試料中のコルチゾールに対して競合原理が働きやすいと推測している。また、コルチゾールと低分子量物質との複合体は、コルチゾールと牛血清アルブミンなどのタンパク質(高分子量物質)との複合体よりも製造コストを低く抑えられるメリットもある。
【0020】
なお、ビオチンと複合体を形成したコルチゾールは不安定な化合物であり、光や熱によって二重結合の異性化が起こりやすく、また酸や空気、金属イオンとも反応しやすいため容易に分解してしまう畏れがある。そのため、競合試薬は低温、暗所にて使用時まで保存するのが好ましい。保存温度としては4℃以下が好ましく、-20℃以下がより好ましく、-80℃以下がさらに好ましい。
【0021】
本発明において、生体試料1mLに対して競合試薬を0.1ng以上10ng以下添加するのが好ましい。生体試料中のコルチゾール濃度と競合試薬の添加量の差が大きすぎると競合が上手くいかず定量性が低下することがある。なお、競合試薬は凍結乾燥等されたものを用いてもよいし、溶液の状態であってもよい。
【0022】
(標識体)
本発明において、標識体は、競合試薬中の化合物に対する抗体および/または高親和物質に標識物質を結合させて得ることが出来る。抗体は、競合試薬中の化合物に対する抗体であればよく、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよいが、反応特異性の観点からモノクローナル抗体であることが好ましい。例えば、抗ビオチン抗体が挙げられる。また、高親和物質としては、例えば化合物がビオチンの場合、アビジンやストレプトアビジンが好適に用いられる。
【0023】
標識物質は特に制限はなく、例えば、呈色(蛍光を含む)標識物質、酵素標識物質などが挙げられるが、迅速に検査結果が得られることから呈色標識物質であることが好ましい。呈色標識物質としては、コロイド金属および着色ラテックス粒子、着色セルロース微粒子などが挙げられる。コロイド金属の代表例としては、白金コロイド、金コロイド、銀コロイド、パラジウムコロイド、金ナノロッド、金ナノプレート、銀ナノプレートなどが挙げられる。コロイド金属の粒子の大きさは通常、直径3nm以上100nm以下とされる。着色ラテックスの代表例としては、赤色および青色などのそれぞれの顔料で着色されたポリスチレンラテックス、ポリメタクリル酸メチル、アクリル酸重合体などが挙げられる。ラテックス粒子の粒径としては特に制限されないが、粒径25nm以上500nm以下のものが好ましい。この他に、市販されている着色セルロース微粒子なども使用出来る。着色セルロース微粒子の粒径としては特に制限されないが、粒径100nm以上500nm以下のものが好ましい。蛍光標識物質としてはポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニルトルエン、シリカなどの材質からなるものを例示することができ、蛍光色素としてはフルオレセインおよびその誘導体、ローダミンおよびその誘導体、シアニンおよびその誘導体などを例示することができる。
【0024】
本発明において、着色セルロース微粒子の色は、特に限定されないが、例えば、赤色、青色、黄色、緑色、黒色、白色、蛍光色が挙げられる。これらの中でも、バックグラウンドにヘモグロビン由来の赤色がある場合、その影響を受けにくい青色、黒色が好ましく、青色がより好ましい。このような着色セルロース微粒子としては、旭化成社製の着色セルロースナノビーズ(NanoAct(登録商標))が挙げられるが、この中でもNavy(BL1)、Dark Navy(BL2)、Black(KR1)が好ましく、Navy(BL1)、Dark Navy(BL2)がより好ましい。
【0025】
本発明において、標識物質表面への非特異結合を抑えるために予めブロッキング剤を用いて処理しておいてもよい。ブロッキング剤は、ポリエチレングリコールやタンパク質を用いるのが好ましい。タンパク質としてはBlocking Peptide Fragment(BPF、東洋紡社製)、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼインなどが好ましい。これらのブロッキング剤は市販されているものがあればそれを用いても良いし、別途公知の方法で製造しても良い。分子サイズも特に制限されないが、平均分子量で100kDa以下が好ましい。一般的にブロッキング剤の分子サイズが小さいほど検出粒子1粒子に対するタンパク質の結合量が増加し感度などの性能が高くなる。
【0026】
(生体試料の希釈)
本発明において、生体試料は希釈してもしなくても構わない。希釈を行う場合は、2倍以上100倍以下の倍率で希釈を行うのが適当である。希釈倍率が高すぎると、生体試料中のコルチゾール量が少なくなるため、測定の精度が低くなることがある。
【0027】
(イムノクロマトストリップ)
イムノクロマトストリップの具体例としては、
図1、2に示すようなイムノクロマトストリップ8が挙げられる。
図1、2において、1は粘着シート、2は含浸部材、3は膜担体、4はテストライン、5はコントロールライン、6は試料添加部材、7は吸収部材を示している。膜担体3は、幅5mm、長さ25mmの細長い帯状のニトロセルロース製メンブレンからなり、同じく幅5mmの粘着シート1の中ほどに貼り付けられている。膜担体3には、クロマト展開の始点側、すなわち
図1、2の左側(上流側)の末端から右側(下流側)に向かって3mm以上18mm以下の間の複数個所に、ほぼ等間隔おきに、抗コルチゾール抗体を捕捉するためのテストライン4が形成(抗IgG抗体が線状に固定)されている。さらに、膜担体3の上流側の末端から下流側に向かって8mm以上25mm以下の位置にコントロールライン5が形成(標識体中の抗体または化合物を特異的に結合する抗体が線状に固定)されている。なお、コントロールラインは、最下流のテストラインより更に下流側に配置され、このテストラインとコントロールラインとの距離は2mm以上8mm以下とするのが好ましい。コントロールライン5は、分析対象物質であるコルチゾールの存否に係わらずイムノクロマト展開が行われたことを確認するためのものである。
【0028】
(試料添加部材)
本発明において、試料添加部材6は、例えば、多孔質ポリエチレン、多孔質ポリプロピレンなどのような多孔質合成樹脂のシートまたはフィルム、あるいは、濾紙および綿布などのようなセルロース製の紙または不織布などを用いることができる。
【0029】
(含浸部材)
本発明において、含浸部材2は、5mm×15mmの帯状のガラス繊維を用いるが、これに限定されるものではなく、例えば、濾紙、ニトロセルロース膜、ポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔質プラスチック不織布なども使用できる。含浸部材2は、標識体を含む懸濁液を前記ガラス繊維等の部材に含浸せしめ、これを乾燥させるなどによって作製することができる。なお、含浸部材には、競合試薬に対する抗体および/または高親和物質に標識物質を結合した標識体、および抗コルチゾール抗体を予め含浸させておき、これを試料添加部材と膜担体との間に配置させて用いる。
【0030】
(膜担体)
本発明において、膜担体3は、ニトロセルロース製メンブレンフィルターを用いるが、生体試料に含まれるコルチゾールをクロマト展開可能で、かつ、テストライン4を形成する抗体等の物質を固定可能なものであれば、いかなるものであってもよく、他のセルロース類膜、ナイロン膜、ガラス繊維膜なども使用できる。
【0031】
(テストライン)
本発明において、テストライン4に固定化する抗体は、抗コルチゾール抗体に対する抗体であって、抗マウスIgG抗体、または抗ウサギIgG抗体、または抗モルモットIgG抗体、または抗ヤギIgG抗体のいずれかであり、例えば、抗コルチゾール抗体がマウス由来であれば、抗マウスIgG抗体が選択される。抗体は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよいが、反応特異性の観点から、モノクローナル抗体であることが好ましい。テストラインは、膜担体上に1~4mmの間隔を空けて複数のテストラインを設けるのが好ましい。前記テストラインは、2以上設けるのが好ましく、3以上がより好ましい。また、7以下が好ましく、6以下がより好ましく、5以下がさらに好ましい。このとき、各テストラインには抗IgG抗体が固定化されるが、上流側から下流側に向かって固定化される抗体量を順に増加または減少するのが好ましい。
また、テストラインに固定化された抗体に直接結合するのは、抗コルチゾール抗体であるが、この結合量は試料中に存在するコルチゾール量を間接的に反映する。従って、固定化する抗体の反応特異性は非常に重要である。
【0032】
(抗コルチゾール抗体)
コルチゾール(分子量362)は低分子化合物であり十分な複雑性を備えていないため、通常では免疫応答を誘発できない。このため、免疫した動物に抗体を産出させるには、卵白アルブミンなどのキャリアタンパク質にコルチゾールを化学結合したものを免疫原として用いる必要がある。また、アジュバントを混合して免疫原を注入すると、免疫応答強度が上がり、よい抗体を得る可能性が高まる。ポリクローナル抗体は、ウサギやマウスなどに免疫して得られた抗血清から精製して得ることが出来る。モノクローナル抗体の産生細胞は、例えば、コルチゾールと卵白アルブミンの結合物を適当なアジュバントとともにマウスのような動物に免疫したのち、免疫された動物の脾細胞とミエローマ細胞とを融合し、融合細胞のみが増殖出来る選択培地で培養し、増殖した細胞を前記コルチゾールとの結合物などを使用して、たとえば酵素標識免疫法などを利用して選別することにより取得することができる。
【0033】
(コントロールライン)
本発明において、コントロールライン5には、標識体中の抗体または化合物を特異的に結合する抗体が固定化されているのが好ましい。前記抗体としては、抗IgG抗体を用いることができ、例えば標識体中の抗ビオチン抗体がヤギ由来であれば、抗ヤギIgG抗体を膜担体に固定化することによって形成することができる。この場合、抗ヤギIgG抗体と抗ビオチン抗体(ヤギIgG)が特異的に結合し、ラインの蛍光シグナルが確認出来ればよい。コントロールラインを用いることにより、標識体が膜担体の最下流部まで移動したこと、即ち、イムノクロマト展開が(正常に)行われたことを確認することができる。
本発明において、コントロールラインは最下流に位置するテストラインより更に下流側に位置させるよう形成させる。
【0034】
(吸収部材)
本発明において、吸収部材7は、液体をすみやかに吸収、保持できる材質のものであればよく、綿布、濾紙、およびポリエチレン、ポリプロピレン等からなる多孔質プラスチック不織布等を挙げることができるが、特に濾紙が最適である。
【0035】
イムノクロマトストリップは、これを保護するため、また、取り扱いがし易いように、プラスチック製のハウジングケース9などに収容されるのが好ましい(
図3)。このケースは、例えば、イムノクロマトストリップの試料添加部材6の上部に試料滴下部10が開口され、テストライン4およびコントロールライン5の上部に判定部(判定窓)11が開口されていることが好ましい。
【0036】
(イムノクロマト展開)
本発明のコルチゾールの半定量方法について説明する。まず、生体試料、競合試薬、および検体希釈液を混合して生体試料希釈液を調製する。得られた生体試料希釈液をイムノクロマトストリップの試料滴下部位に滴下して毛細管現象を利用してイムノクロマトストリップ上を展開させる。展開した生体試料希釈液は含浸部材を通過する際に、標識体および抗コルチゾール抗体を溶出させる。展開中の生体試料希釈液中のコルチゾールまたは競合試薬(コルチゾールと化合物との複合体)は、競合的に抗コルチゾール抗体に捕捉される。さらに、標識体は抗コルチゾール抗体に捕捉された競合試薬(コルチゾールと化合物との複合体)に結合し、さらにこの結合体はテストラインの抗マウスIgG抗体によって捕捉されシグナルを呈する(呈色する)。本発明においては、抗体の固定化量が異なる複数のテストラインが設置されているため、各々のテストラインにおいて呈色する、しないの差が生じる。即ち、生体試料中のコルチゾール濃度が、テストラインごとに呈色が生じるよう設定された閾値より高ければ呈色が無く、低ければ呈色する。試料中のコルチゾール濃度が、これらテストラインのうち最も低く設定された閾値よりも低ければ、すべてのテストラインが呈色し、逆に、最も高いテストラインの閾値より高ければ、どのテストラインも呈色しない。この中間の濃度であれば、その濃度に応じて呈色/非呈色が混在することとなり、このテストラインの呈色パターンにより、半定量を行うことが出来る。なお、展開開始後、5~12分の間にテストラインの呈色/非呈色を判定することが望ましい。この間に判定を行えば、コルチゾールと、競合試薬(コルチゾールと化合物の複合体)との競合反応が最も効果的に起き、コルチゾールの濃度に応じた半定量結果が得られるため好ましい。5分未満では、抗コルチゾール抗体と生体試料中のコルチゾールまたは競合試薬(コルチゾールと化合物との複合体)との反応が充分でないため、生体試料中のコルチゾール濃度を正確に反映した半定量結果を得ることが出来ないことがある。また、12分を超えると、抗コルチゾール抗体に対する非特異的な反応が増加するため、生体試料中のコルチゾール濃度に応じた正確な半定量結果が得られなくなることがある。
【0037】
(競合法)
本発明において、生体試料中のコルチゾールは競合法により測定するのが好ましい。コルチゾールのような低分子化合物は、2種類の抗体でサンドイッチすることが難しいため、競合法をとることが好ましい。
【0038】
(イムノクロマト測定キット)
本発明のイムノクロマト測定キットは、上記のイムノクロマトストリップに加えて、検体を希釈するための検体希釈液、競合試薬を少なくとも含み、更に必要に応じて、生体試料希釈液を調製するための容器などを含む。また、イムノクロマト結果を測定するための測定装置(クロマトリーダー等)も含む場合がある。
【実施例0039】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例で測定された特性値の測定は、以下の方法に従った。
【0040】
(競合試薬の調製)
コルチゾール(シグマアルドリッチ、C106)を、Biotin-hydrazide(同仁化学、B303)を用いて、ビオチン化することにより、競合試薬(コルチゾール-ビオチン複合体)を調製した。調製後、使用時まで-30℃にて保存した。
【0041】
(抗コルチゾール抗体の作製)
コルチゾールとBSA(ウシ血清アルブミン)との結合物をマウスに免疫して得られた血清から、アフィニティクロマトグラフィーによりIgGを精製して得られたものを、抗コルチゾール抗体とした。
【0042】
(抗IgG抗体)
抗マウスIgG抗体(Goat Anti-Mouse IgG、アブカム、ab6708)を、抗IgG抗体として用いた。
【0043】
(標識体溶液の調製)
標識物質として着色セルロース微粒子液(旭化成、BL1、1質量%)をpH7.0の10mM Tris Buffer(PBS)に懸濁させ、これに抗ビオチン抗体(abcam、ab53494)を加えて混合し、37℃で120分間静置して、抗体を着色セルロース微粒子表面に結合させた。更に、着色セルロース微粒子表面への非特異結合を抑えるために、1質量%カゼインを添加し、37℃で60分間静置してブロッキング処理を行った。この後、洗浄操作を行い、1質量%スクロース含有PBS(pH7.4)に懸濁して、標識体溶液(抗ビオチン抗体結合着色セルロース微粒子液)を調製した。
【0044】
(検体希釈液の調製)
リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4、ナカライテスク社、27576-21)に、TritonX-100(シグマアルドリッチ社、10789704001)、ポリエチレングリコール、およびNaClの終濃度がそれぞれ、0.15質量%、2.0質量%、1.5質量%になるように加えて溶解させ、検体希釈液を調製した。
【0045】
(含浸部材の作製)
8mm×150mmの帯状のガラス繊維不織布に、上記で得られた標識体溶液(抗ビオチン抗体結合着色セルロース微粒子液)を0.5mLと抗コルチゾール抗体(1mg/mL)の0.5mLを混合した液を含浸させた。室温で乾燥させた後に、8mm×5mmの大きさに切断し、含浸部材とした。
【0046】
(膜担体の作製)
前記の抗マウスIgG抗体の、0.1、0.2、0.4、および0.8mg/mLの濃度の溶液をそれぞれ調製した後、これを25mm×300mmのニトロセルロース製メンブレンフィルターの一端から、8、10、12、14mmの位置に、それぞれ、1.0μL/cmの量で線状に塗布してテストラインを作製した。
次に、抗ヤギIgG抗体(アブカム、ab182021)を1mg/mLの濃度に調製した後、上記ニトロセルロース製メンブレンフィルターの上流端から17mmの位置(即ち、抗マウスIgG抗体0.8mg/mLの液を固定化したテストラインから3mm下流の位置)に1.0μL/cmの量で線状に塗布してコントロールラインを作製した。
テストラインおよびコントロールラインを作製後、50℃で30分間乾燥させ、25mm×5mmの大きさに切断し、膜担体とした。
【0047】
(イムノクロマトストリップの作製)
粘着シート上に、調製した膜担体、含浸部材に加えて試料添加部材、吸収部材を配置し、イムノクロマトストリップを作製した。
【0048】
(コルチゾール標準液の調製)
コルチゾール(シグマアルドリッチ、C106)をPBS(リン酸緩衝生理食塩液)に添加し、コルチゾール標準液を調製した。
【0049】
(測定キットを用いた半定量)
上記標準液に検体希釈液を加えて表1に示す各濃度のコルチゾール希釈液を調製した。コルチゾール希釈液にコルチゾール-ビオチン複合体の濃度が0.3ng/mLになるように競合試薬を加えた後、イムノクロマトストリップの試料滴下部に100μL滴下し、展開させた。滴下より10分後に、目視でテストラインの呈色を判定した。結果を表1に示す。
本キットにおける検出感度は、上流側のテストラインから順に、それぞれ生体試料希釈液中のコルチゾール濃度が、
・0ng/mL以上2.5ng/mL未満のとき呈色あり(2.5ng/mL以上のとき呈色なし)
・0ng/mL以上5ng/mL未満のとき呈色あり(5ng/mL以上のとき呈色なし)
・0ng/mL以上10ng/mL未満のとき呈色あり(10ng/mL以上のとき呈色なし)
・0ng/mL以上20ng/mL未満のとき呈色あり(20ng/mL以上のとき呈色なし)
というように閾値設定をしており、本発明のコルチゾール測定キットにおいて、検出感度通りの半定量結果が得られることが確認された。
【0050】
【0051】
(生体試料中コルチゾールの半定量)
12頭の乳用牛から得られた血清を検体希釈液で10倍希釈し、それら生体試料希釈液について、本発明の測定キットを用いてコルチゾールの半定量を行った。また、同じ生体試料希釈液について、ELISA法による測定を行った。ELISA法による測定は、Cortisol ELISA kit(Abcam、ab108665)を用いて実施した。これらの測定結果を表2に示した。この結果から、本発明のイムノクロマト法の半定量値とELISA法による測定値は、良く一致していることが確認された。
【0052】
本発明により、酪農の現場において乳牛の血液や唾液などの生体試料中のコルチゾール濃度を迅速、簡便、安価に測定(半定量)することができるので、牛のストレス状態を素早く客観的に把握することが出来、効率の良い乳用牛の生産を行うことが可能となる。