(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008922
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】二酸化炭素吸収液及び二酸化炭素の分離回収方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/14 20060101AFI20240112BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20240112BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
B01D53/14 210
B01D53/62 ZAB
B01D53/78
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112238
(22)【出願日】2023-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2022110285
(32)【優先日】2022-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ムーンショット型研究開発事業/地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現/冷熱を利用した大気中二酸化炭素直接回収の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】町田 洋
(72)【発明者】
【氏名】則永 行庸
(72)【発明者】
【氏名】平山 幹朗
【テーマコード(参考)】
4D002
4D020
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002AC01
4D002AC05
4D002AC10
4D002BA02
4D002CA01
4D002CA06
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4D002DA17
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4D002DA32
4D002DA34
4D002DA70
4D002EA07
4D002FA01
4D002GA01
4D002GB03
4D002GB04
4D002GB20
4D020AA03
4D020BA16
4D020BA18
4D020BA19
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4D020BB04
4D020BC02
4D020CB01
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4D020CB25
4D020DA03
4D020DB02
4D020DB04
4D020DB20
(57)【要約】
【課題】より省エネルギーな直接空気回収(DAC)技術を提供するため、熱エネルギーを必要としない減圧等によって大気からの圧力差を用いて二酸化炭素を分離回収することができる二酸化炭素吸収液及びこれを用いた二酸化炭素の分離回収方法を提供する。
【解決手段】二酸化炭素を含有する被分離ガスから二酸化炭素を分離回収するための二酸化炭素吸収液であって、第一級アミン及び有機溶媒を含有し、且つ、前記有機溶媒は、25℃における蒸気圧が0~1000Paである、二酸化炭素吸収液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を含有する被分離ガスから二酸化炭素を分離回収するための二酸化炭素吸収液であって、
第一級アミン及び有機溶媒を含有し、且つ、
前記有機溶媒は、25℃における蒸気圧が0~1000Paである、二酸化炭素吸収液。
【請求項2】
25℃において、二酸化炭素分圧が40Pa及び10Paである場合におけるCO2吸収量の差が、0.01~1.00mol-CO2/mol-アミンである、請求項1に記載の二酸化炭素吸収液。
【請求項3】
25℃において、前記二酸化炭素吸収液の蒸気圧が100Pa以下である、請求項1に記載の二酸化炭素吸収液。
【請求項4】
25℃において、前記二酸化炭素吸収液の二酸化炭素分圧が40Paである場合におけるCO2吸収量が、0.010g-CO2/g-二酸化炭素吸収液以上である、請求項1に記載の二酸化炭素吸収液。
【請求項5】
前記第一級アミンが、第一級アルカノールアミンである、請求項1に記載の二酸化炭素吸収液。
【請求項6】
前記第一級アルカノールアミンが、モノエタノールアミン、ジグリコールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、モノプロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、DL-1-アミノ-2-プロパノール、及び3-アミノ-1,2-プロパンジオールよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項5に記載の二酸化炭素吸収液。
【請求項7】
前記有機溶媒が、ポリオール若しくはそのアルキルエーテル、並びにイオン液体よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の二酸化炭素吸収液。
【請求項8】
前記有機溶媒が、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール及びポリエチレングリコール、並びにこれらのモノアルキルエーテルと、
カチオンがイミダゾリニウムカチオン、第4級ホスホニウムカチオン、又はリン原子を含む複素環骨格を有するカチオンであり、アニオンがBr-、Cl-、BF4
-、PF6
-、又は(CF3SO2)2N-であるイオン液体と
よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項7に記載の二酸化炭素吸収液。
【請求項9】
前記二酸化炭素吸収液の総量を100質量%として、前記第一級アミンの含有量が1~50質量%である、請求項1に記載の二酸化炭素吸収液。
【請求項10】
前記二酸化炭素吸収液の総量を100質量%として、前記有機溶媒の含有量が50~99質量%である、請求項1に記載の二酸化炭素吸収液。
【請求項11】
二酸化炭素を吸着して地中に埋める直接空気回収技術に使用するために用いられる、請求項1~10のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収液。
【請求項12】
二酸化炭素を含有する被分離ガスから二酸化炭素を分離回収する方法であって、
(1)請求項1~10のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収液を、二酸化炭素を含有する被分離ガスと接触させ、二酸化炭素を含有する被分離ガスから二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収液を得る工程、及び、
(2)前記工程(1)で得られた、二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収液から、減圧下に二酸化炭素を脱離して放散させ、放散した二酸化炭素を回収する工程
を備える、方法。
【請求項13】
前記工程(2)が、二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収液から、減圧下に二酸化炭素を昇華させる工程である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記工程(1)及び(2)が、0~60℃で行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記工程(1)が、二酸化炭素分圧30~100Paの圧力下に行われ、前記工程(2)が二酸化炭素分圧1~20Paの圧力下に行われる、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素吸収液及び二酸化炭素の分離回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人類の社会活動に付随する二酸化炭素やメタンといった温室効果ガス排出量の急激な増加が地球温暖化の原因の一つに挙げられている。特に、二酸化炭素は温室効果ガスの中でも最も主要なものであり、2016年に発効されたパリ協定に従い、二酸化炭素排出量削減へ向けての対策が急務となっている。
【0003】
このような状況下、大気中の二酸化炭素を吸着して地中に埋める直接空気回収(DAC)技術は、ネガティブエミッションに資する数少ない手段である。
【0004】
これまでに、カーボンエンジニアリング、クライムワークス、グローバルサーモスタット等、各社が直接空気回収(DAC)技術の先行的な取り組みを進めている。
【0005】
例えば、カーボンエンジニアリング社は、アルカリ溶液に二酸化炭素を吸収させつつ、二酸化炭素を炭酸塩に固定させているが、二酸化炭素の回収には、900℃という非常に高温での加熱が必要とされており、過大な熱エネルギーが必要である。
【0006】
また、二酸化炭素吸収液として水溶液を使用した場合には、水の蒸気圧が極めて大きい。このため、大気中の二酸化炭素分割は、25℃において約40Paであるところ、熱エネルギーを必要としない減圧等によって大気からの圧力差を用いて二酸化炭素を分離回収するために適していない。
【0007】
このため、熱エネルギーを必要としない減圧等によって大気からの圧力差を用いて二酸化炭素を分離回収するために適した二酸化炭素吸収剤は実用化されていないのが現状であり、より省エネルギーな直接空気回収(DAC)技術が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決しようとするものであり、より省エネルギーな直接空気回収(DAC)技術を提供するため、熱エネルギーを必要としない減圧等によって大気からの圧力差を用いて二酸化炭素を分離回収することができる二酸化炭素吸収液及びこれを用いた二酸化炭素の分離回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、第一級アミンと25℃における蒸気圧が0~1000Paである有機溶媒とを使用することにより、上記課題を解決し、熱エネルギーを必要としない減圧等によって大気からの圧力差を用いて二酸化炭素を分離回収することができる二酸化炭素吸収液が得られることを見出した。
【0010】
本発明は、上記の知見に基づき、更に十分な検討を重ねて完成されたものであり、以下の構成を包含する。
【0011】
項1.二酸化炭素を含有する被分離ガスから二酸化炭素を分離回収するための二酸化炭素吸収液であって、
第一級アミン及び有機溶媒を含有し、且つ、
前記有機溶媒は、25℃における蒸気圧が0~1000Paである、二酸化炭素吸収液。
【0012】
項2.25℃において、二酸化炭素分圧が40Pa及び10Paである場合におけるCO2吸収量の差が、0.01~1.00mol-CO2/mol-アミンである、項1に記載の二酸化炭素吸収液。
【0013】
項3.25℃において、前記二酸化炭素吸収液の蒸気圧が100Pa以下である、項1又は2に記載の二酸化炭素吸収液。
【0014】
項4.25℃において、前記二酸化炭素吸収液の二酸化炭素分圧が40Paである場合におけるCO2吸収量が、0.010g-CO2/g-二酸化炭素吸収液以上である、項1~3のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収液。
【0015】
項5.前記第一級アミンが、第一級アルカノールアミンである、項1~4のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収液。
【0016】
項6.前記第一級アルカノールアミンが、モノエタノールアミン、ジグリコールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、モノプロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、DL-1-アミノ-2-プロパノール、及び3-アミノ-1,2-プロパンジオールよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項5に記載の二酸化炭素吸収液。
【0017】
項7.前記有機溶媒が、ポリオール若しくはそのアルキルエーテル、並びにイオン液体よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1~6のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収液。
【0018】
項8.前記有機溶媒が、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール及びポリエチレングリコール、並びにこれらのモノアルキルエーテルと、
カチオンがイミダゾリニウムカチオン、第4級ホスホニウムカチオン、又はリン原子を含む複素環骨格を有するカチオンであり、アニオンがBr-、Cl-、BF4
-、PF6
-、又は(CF3SO2)2N-であるイオン液体と
よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1~7のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収液。
【0019】
項9.前記二酸化炭素吸収液の総量を100質量%として、前記第一級アミンの含有量が1~50質量%である、項1~8のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収液。
【0020】
項10.前記二酸化炭素吸収液の総量を100質量%として、前記有機溶媒の含有量が50~99質量%である、項1~9のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収液。
【0021】
項11.二酸化炭素を吸着して地中に埋める直接空気回収技術に使用するために用いられる、項1~10のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収液。
【0022】
項12.二酸化炭素を含有する被分離ガスから二酸化炭素を分離回収する方法であって、
(1)項1~11のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収液を、二酸化炭素を含有する被分離ガスと接触させ、二酸化炭素を含有する被分離ガスから二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収液を得る工程、及び、
(2)前記工程(1)で得られた、二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収液から、減圧下に二酸化炭素を脱離して放散させ、放散した二酸化炭素を回収する工程
を備える、方法。
【0023】
項13.前記工程(2)が、二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収液から、減圧下に二酸化炭素を昇華させる工程である、項12に記載の方法。
【0024】
項14.前記工程(1)及び(2)が、0~60℃で行われる、項12又は13に記載の方法。
【0025】
項15.前記工程(1)が、二酸化炭素分圧30~100Paの圧力下に行われ、前記工程(2)が二酸化炭素分圧1~20Paの圧力下に行われる、項12~14のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、熱エネルギーを必要としない減圧等によって大気からの圧力差を用いて二酸化炭素を分離回収することができる二酸化炭素吸収液及びこれを用いた二酸化炭素の分離回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】実施例3で得られた二酸化炭素吸収液において、25℃、30℃及び40℃における二酸化炭素分圧と二酸化炭素吸収量との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本明細書において、「含有する(comprise)」は、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」も包含する概念である。
【0029】
本明細書において、範囲を「A~B」で表す場合、特に限定されない限り、A以上B以下を意味する。
【0030】
1.二酸化炭素吸収液
本発明の二酸化炭素吸収液は、二酸化炭素を含有する被分離ガスから二酸化炭素を分離回収するための二酸化炭素吸収液であって、アミン及び有機溶媒を含有する。
【0031】
(1-1)第一級アミン
本発明で使用される第一級アミンとしては、特に制限されるわけではないが、25℃における蒸気圧が小さい第一級アミンが好ましい。
【0032】
具体的には、大気からの圧力差を用いて二酸化炭素を分離回収しやすい観点から、本発明で使用される第一級アミンの25℃における蒸気圧は、0~100Paが好ましく、0~50Paがより好ましい。なお、第一級アミンの25℃における蒸気圧は、既報の文献値がある場合は文献値を採用し、そうでない場合は分子構造から推算する。
【0033】
このような第一級アミンとしては、具体的には、モノエタノールアミン、ジグリコールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、モノプロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、DL-1-アミノ-2-プロパノール、3-アミノ-1,2-プロパンジオール等のアルカノールアミンが挙げられる。これらのなかでも、大気からの圧力差を用いて二酸化炭素を分離回収しやすい観点から、モノエタノールアミン、ジグリコールアミン等が好ましい。
【0034】
以上の第一級アミンは、公知又は市販品を用いることができる。また、以上の単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0035】
なお、第一級アミンではなく、第二級アミン又は第三級アミンを使用した場合は、仮に、蒸気圧の少ない第二級アミン又は第三級アミンを使用し、且つ、後述のように蒸気圧の少ない有機溶媒又はイオン液体を使用した場合であっても、得られた二酸化炭素吸収液は二酸化炭素と十分に反応せず、十分に二酸化炭素を吸収することができない。
【0036】
本発明の二酸化炭素吸収液において、上記した第一級アミンの含有量は、特に制限されるわけではないが、大気からの圧力差を用いて二酸化炭素を分離回収しやすい観点から、二酸化炭素吸収液の総量を100質量%として、1~50質量%が好ましく、5~40質量%がさらに好ましい。
【0037】
(1-2)有機溶媒
本発明で使用される有機溶媒としては、25℃における蒸気圧が0~1000Paである有機溶媒を使用する。特に、大気からの圧力差を用いて二酸化炭素を分離回収しやすい観点から、本発明で使用される有機溶媒の25℃における蒸気圧は、0~1000Pa、好ましくは0.01~100Pa、より好ましくは0.02~10Pa、さらに好ましくは0.03~1Paである。また、有機溶媒としては、蒸気圧が実質的にゼロ(例えば0~0.005Pa)であるイオン液体も好ましく使用することができる。なお、有機溶媒の25℃における蒸気圧は、既報の文献値がある場合は文献値を採用し、そうでない場合は分子構造から推算する。
【0038】
このような有機溶媒としては、大気からの圧力差を用いて二酸化炭素を分離回収しやすい観点から、ポリオール若しくはそのアルキルエーテル、並びにイオン液体が好ましい。なかでも、ポリオール若しくはそのアルキルエーテルとしては、例えば、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール等の他、これらのモノアルキルエーテル等が挙げられる。
【0039】
また、イオン液体としては、大気からの圧力差を用いて二酸化炭素を分離回収しやすい観点から、カチオンがイミダゾリニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、第4級ホスホニウムカチオン、又はリン原子を含む複素環骨格を有するカチオン(1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、1-ブチルピリジニウム等)であり、アニオンがBr-、Cl-、BF4
-、PF6
-、又は(CF3SO2)2N-であるイオン液体が好ましい。
【0040】
これらのなかでも、大気からの圧力差を用いて二酸化炭素を分離回収しやすい観点から、トリエチレングリコール、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスファート(BMIMPF6)等が好ましい。
【0041】
以上の有機溶媒は、公知又は市販品を用いることができる。また、以上の有機溶媒は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0042】
本発明の二酸化炭素吸収液において、上記した有機溶媒の含有量は、特に制限されるわけではないが、大気からの圧力差を用いて二酸化炭素を分離回収しやすい観点から、二酸化炭素吸収液の総量を100質量%として、50~99質量%が好ましく、60~95質量%がさらに好ましい。
【0043】
(1-3)その他成分
本発明の二酸化炭素吸収液には、上記した第一級アミンや、25℃における蒸気圧が0~1000Paの有機溶媒の他にも、酸化防止剤等の副反応抑制剤;腐食防止剤等の劣化防止剤等の各種成分を含ませることも可能である。
【0044】
酸化防止剤等の副反応抑制剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、エリソルビン酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、二酸化硫黄等が挙げられる。
【0045】
腐食防止剤等の劣化防止剤としては、例えば、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、1-ホスホノプロパン-2,3-ジカルボン酸、ホスホノスクシン酸、2-ヒドロキシホスホノ酢酸、マレイン酸系重合体(マレイン酸及びアミレンの共重合体;マレイン酸、アクリル酸及びスチレンの三元共重合体等)等が挙げられる。
【0046】
これらの各種成分は、本発明の効果を損なわない範囲で含ませることができ、例えば、二酸化炭素吸収液の総量を100質量%として、0.01~10質量%、好ましくは0.02~5質量%含ませることができる。
【0047】
ただし、水やメタノール、エタノール等のように、25℃における蒸気圧が1000Paより大きい溶媒は、大気からの圧力差を用いて二酸化炭素を分離回収しやすい観点から、極力少ないことが好ましく、0~10質量%、特に0~5質量%、さらには0~1質量%が好ましく、なかでも、これらの25℃における蒸気圧が1000Paより大きい溶媒は含まないことが最も好ましい。
【0048】
(1-4)二酸化炭素吸収液
以上のような各成分を含有する本発明の二酸化炭素吸収液は、特に制限されるわけではないが、大気からの圧力差を用いて二酸化炭素を分離回収しやすい観点から、25℃において、二酸化炭素分圧が40Pa及び10Paである場合におけるCO2吸収量の差が、0.01~1.00mol-CO2/mol-アミンであることが好ましく、0.03~0.50mol-CO2/mol-アミンであることがより好ましく、0.05~0.50mol-CO2/mol-アミンであることがさらに好ましい。
【0049】
以上のような各成分を含有する本発明の二酸化炭素吸収液は、特に制限されるわけではないが、大気からの圧力差を用いて二酸化炭素を分離回収しやすい観点から、25℃において、蒸気圧が、100Pa以下が好ましく、0.01~95Paがより好ましく、0.02~90Paがさらに好ましい。なお、この蒸気圧は0.03~20Pa以下とすることもできる。
【0050】
以上のような各成分を含有する本発明の二酸化炭素吸収液は、特に制限されるわけではないが、大気からの圧力差を用いて二酸化炭素を分離回収しやすい観点から、25℃において、二酸化炭素分圧が40Paである場合におけるCO2吸収量(溶解度)が、0.010g-CO2/g-二酸化炭素吸収液以上であることが好ましく、0.015~0.100g-CO2/g-二酸化炭素吸収液であることがより好ましく、0.020~0.100g-CO2/g-二酸化炭素吸収液であることがさらに好ましい。
【0051】
本発明の二酸化炭素吸収液が、二酸化炭素を吸収する対象となる「二酸化炭素を含有する被分離ガス」としては、大気の他にも、例えば、石炭、重油、天然ガス等を燃料とする火力発電所、製造所のボイラー、セメント工場のキルン、コークスで酸化鉄を還元する製鐵高炉、銑鉄中の炭素を燃焼して製鋼する製鉄転炉、石炭ガス化複合発電設備、タンカー等からの排ガス、採掘時天然ガス、改質ガス等も使用でき、該ガス中の二酸化炭素濃度は、体積濃度で通常0.01~50体積%程度、特に0.04~20体積%程度とすることができる。このような二酸化炭素濃度範囲では、本発明の作用効果が特に好適に発揮され得る。なお、二酸化炭素を含むガスには、二酸化炭素以外にN2、水蒸気、CO、H2S、COS、SO2、NO2、CH4、水素等のガスが含まれていてもよい。
【0052】
後述の分離回収方法において説明するように、分離回収される二酸化炭素は、現在その技術が開発されつつある、二酸化炭素を吸着して地中に埋める直接空気回収(DAC)技術に供することができることから、上記のような本発明の二酸化炭素吸収液は、二酸化炭素を吸着して地中に埋める直接空気回収(DAC)技術に使用することが特に好適である。
【0053】
2.二酸化炭素の分離回収方法
本発明の二酸化炭素吸収液による二酸化炭素の分離回収方法は、特に制限されるわけではないが、
(1)本発明の二酸化炭素吸収液を、二酸化炭素を含有する被分離ガスと接触させ、二酸化炭素を含有する被分離ガスから二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収液を得る工程、及び、
(2)前記工程(1)で得られた、二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収液から、減圧下に二酸化炭素を脱離して放散させ、放散した二酸化炭素を回収する工程
により行うことができる。
【0054】
(2-1)工程(1)
工程(1)では、本発明の二酸化炭素吸収液を、二酸化炭素を含有する被分離ガスと接触させることで、該二酸化炭素を含有する被分離ガス中の二酸化炭素を本発明の二酸化炭素吸収液に吸収させて分離する。
【0055】
工程(1)における、本発明の二酸化炭素吸収液を、二酸化炭素を含有する被分離ガスと接触させる方法は、特に限定されるものではない。例えば、本発明の二酸化炭素吸収液中に二酸化炭素を含有する被分離ガスをバブリングさせる方法、二酸化炭素を含有する被分離ガス中に本発明の二酸化炭素吸収液を霧状に降らす方法(噴霧乃至スプレー方式)、磁製や金属網製の充填材が入った吸収塔内で高圧の二酸化炭素を含有する被分離ガスと本発明の二酸化炭素吸収液とを向流接触させる方法等が挙げられる。
【0056】
工程(1)における温度は、0~60℃、好ましくは5~50℃、より好ましくは10~40℃とすることができる。この範囲であれば、大気からの圧力差を用いて二酸化炭素を分離回収しやすいとともに、かかる熱エネルギーも少なく省エネルギーな直接空気回収(DAC)技術を達成しやすい。
【0057】
工程(1)における圧力は、大気中の二酸化炭素分圧と同程度とすることを想定し、大気からの圧力差を用いて二酸化炭素を分離回収しやすい観点から、例えば、30~100Pa、好ましくは32~80Pa、より好ましくは35~60Paとすることができる。
【0058】
(2-2)工程(2)
工程(2)では、工程(1)で得られた、二酸化炭素を吸収した本発明の二酸化炭素吸収液から、減圧下に二酸化炭素を脱離して放散させ、放散した二酸化炭素を回収する。
【0059】
工程(2)の二酸化炭素を脱離して放散させる工程は、過度に加熱しないで行うことができる。具体的には、工程(2)の二酸化炭素を脱離して放散させる工程における温度は、0~60℃、好ましくは5~50℃、より好ましくは10~40℃とすることができる。この範囲であれば、大気からの圧力差を用いて二酸化炭素を分離回収しやすいとともに、かかる熱エネルギーも少なく省エネルギーな直接空気回収(DAC)技術を達成しやすい。
【0060】
工程(2)の二酸化炭素を脱離して放散させる工程における圧力は、大気からの圧力差を用いて二酸化炭素を分離回収しやすい観点から、例えば、1~20Pa、好ましくは2~18Pa、より好ましくは3~15Paとすることができる。
【0061】
工程(2)の二酸化炭素を脱離して放散させる方法は、特に限定されるものではない。特に、本発明においては、大気からの圧力差を用いて二酸化炭素を分離回収することができるため、所定の圧力範囲に減圧することで、二酸化炭素を脱離して放散させることが可能である。
【0062】
特に、省エネルギーな直接空気回収(DAC)技術を達成しやすい観点からは、分離された二酸化炭素を昇華(固化)させる二酸化炭素昇華器により、分離した二酸化炭素を、冷熱を有する流体を利用した冷媒等による冷却によって昇華(固化)させて回収することもできる。この二酸化炭素が昇華(固化)されて生じたドライアイスを、再度昇華(気化)する等して回収し、炭酸ガス等として活用することも可能である。この際使用できる装置は、例えば、国際公開第2021/221007号に記載の装置等を使用することもできる。
【0063】
工程(2)において、二酸化炭素を放散した後の本発明の二酸化炭素吸収液は、再び工程(1)に戻し、循環再利用することもできる。
【0064】
また、上記の本発明の二酸化炭素吸収液による二酸化炭素の分離回収方法では、大気からの圧力差を用いて二酸化炭素を分離回収する方法について説明したが、工程(2)において、加熱し、温度差を用いて二酸化炭素を分離回収することも可能である。
【0065】
本発明の二酸化炭素吸収液による二酸化炭素の分離回収方法により分離回収された二酸化炭素は、通常95~100%の体積濃度を持ち、純粋で、あるいは非常に高濃度であり得る。該分離回収された二酸化炭素は、現在その技術が開発されつつある、二酸化炭素を吸着して地中に埋める直接空気回収(DAC)技術に供することができる。その他、該分離回収された二酸化炭素の利用用途は、特に限定されるものではない。例えば、化成品等の合成原料、或いは食品冷凍用の冷剤等が挙げられる。
【実施例0066】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。但し、本発明はこれら実施例等に限定されるものではない。
【0067】
なお、25℃における蒸気圧は、文献値により引用した。
【0068】
試薬及び溶媒
実施例及び比較例で使用した試薬及び溶媒を以下に示す。
【0069】
【0070】
【0071】
実施例1
モノエタノールアミン30質量%と、トリエチレングリコール70質量%とを混合し、実施例1の二酸化炭素吸収液を得た。
【0072】
実施例2
モノエタノールアミン10質量%と、トリエチレングリコール90質量%とを混合し、実施例2の二酸化炭素吸収液を得た。
【0073】
実施例3
ジグリコールアミン30質量%と、トリエチレングリコール70質量%とを混合し、実施例3の二酸化炭素吸収液を得た。
【0074】
実施例4
モノプロパノールアミン30質量%と、トリエチレングリコール70質量%とを混合し、実施例4の二酸化炭素吸収液を得た。
【0075】
実施例5
ジグリコールアミン30質量%と、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスファート70質量%とを混合し、実施例5の二酸化炭素吸収液を得た。
【0076】
比較例1
ジエタノールアミン30質量%と、トリエチレングリコール70質量%とを混合し、比較例1の二酸化炭素吸収液を得た。
【0077】
比較例2
モノエタノールアミン30質量%と、水70質量%とを混合し、比較例2の二酸化炭素吸収液を得た。
【0078】
比較例3
ジエタノールアミン30質量%と、水70質量%とを混合し、比較例3の二酸化炭素吸収液を得た。
【0079】
試験方法
(蒸気圧)
実施例1~5及び比較例1~3で得られた二酸化炭素吸収液の25℃における蒸気圧を表3に示す。
【0080】
【0081】
(二酸化炭素吸収量)
比較例2の二酸化炭素吸収液は25℃における蒸気圧が高いことが判明し、揮発するために、圧力差によって二酸化炭素を分離回収する二酸化炭素吸収液には適していないことが判明した。
【0082】
次に、実施例1~5及び比較例1~3で得られた二酸化炭素吸収液について、25℃において、二酸化炭素分圧が10Pa及び40Paの場合の二酸化炭素吸収量を測定した。測定は、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーにより行った。結果を表4及び
図1に示す。なお、
図1では、実施例3の二酸化炭素吸収液において、25℃、30℃及び40℃における二酸化炭素分圧と二酸化炭素吸収量との関係を示している。また、
図1では、実施例3の二酸化炭素吸収液について、計算により求められる二酸化炭素吸収量を破線で示しており、実測値をマーカーで示している。
【0083】
【0084】
以上の結果、実施例1~5では、25℃においても、揮発しにくいうえに、二酸化炭素分圧が10Pa及び40Paの場合における二酸化炭素吸収量の差が大きく、大気からの圧力差を用いて二酸化炭素を分離回収することができることが示唆されている。一方、比較例1及び3では、揮発しにくいものの、二酸化炭素分圧が10Pa及び40Paの場合における二酸化炭素吸収量の差がほとんどなく、大気からの圧力差を用いて二酸化炭素を分離回収することができないことが示唆されている。また、比較例2では、上記のとおり、蒸気圧が高く揮発するために、圧力差によって二酸化炭素を分離回収する二酸化炭素吸収液には適していない。