(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089229
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】エラストマー組成物及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 21/00 20060101AFI20240626BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20240626BHJP
C08K 5/101 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
C08L21/00
C08L1/02
C08K5/101
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204469
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 澄子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大輔
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB012
4J002AB014
4J002AC011
4J002AC032
4J002AC083
4J002DA037
4J002EH126
4J002FD012
4J002FD014
4J002FD017
4J002FD206
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】補強性及び低燃費性の総合性能を改善できるエラストマー組成物等を提供する。
【解決手段】エラストマー成分、ミクロフィブリル化植物繊維、及び、フェニルエステル化合物を含むエラストマー組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマー成分、ミクロフィブリル化植物繊維、及び、フェニルエステル化合物を含むエラストマー組成物。
【請求項2】
前記フェニルエステル化合物の25℃での蒸気圧が1.0kPa以下である請求項1記載のエラストマー組成物。
【請求項3】
前記フェニルエステル化合物の含有量が、前記エラストマー成分100質量部に対して、60質量部以下である請求項1又は2記載のエラストマー組成物。
【請求項4】
前記ミクロフィブリル化植物繊維の含有量が、前記エラストマー成分100質量部に対して、20質量部以下である請求項1又は2記載のエラストマー組成物。
【請求項5】
前記エラストマー成分が、イソプレン系ゴムを含む請求項1又は2記載のエラストマー組成物。
【請求項6】
前記ミクロフィブリル化植物繊維の平均繊維径が、10μm以下である請求項1又は2記載のエラストマー組成物。
【請求項7】
前記ミクロフィブリル化植物繊維の配合量に対する前記フェニルエステル化合物の配合量の比が、3以下である請求項1又は2記載のエラストマー組成物。
【請求項8】
請求項1又は2記載のエラストマー組成物で構成されたタイヤ部材を有するタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラストマー組成物及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース繊維等のミクロフィブリル化植物繊維を充填剤としてエラストマー組成物に配合することで、エラストマー組成物を補強し、モジュラス(複素弾性率)を向上できることが知られているが、ミクロフィブリル化植物繊維は親水性のため、疎水性のエラストマー成分中での分散性が悪いという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、前記課題を解決し、補強性及び低燃費性の総合性能を改善できるエラストマー組成物等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、エラストマー成分、ミクロフィブリル化植物繊維、及び、フェニルエステル化合物を含むエラストマー組成物に関する。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、エラストマー成分、ミクロフィブリル化植物繊維、及び、フェニルエステル化合物を含むエラストマー組成物であるので、補強性及び低燃費性の総合性能を改善できる。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明のエラストマー組成物は、エラストマー成分、ミクロフィブリル化植物繊維、及び、フェニルエステル化合物を含む。前記エラストマー組成物は、補強性及び低燃費性の総合性能を改善できる。
【0007】
前述の効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、以下のようなメカニズムによるものと推察される。
エラストマー成分及びミクロフィブリル化植物繊維を含むエラストマー組成物に、フェニルエステル化合物を含めると、フェニルエステル化合物はエステル基を有しているため、フェニルエステル化合物とミクロフィブリル化植物繊維とが親和性に優れ、フェニルエステル化合物がミクロフィブリル化植物繊維の内部に含浸することで繊維の解繊を促進し、更に、フェニルエステル化合物の芳香環がエラストマーと相互作用することにより、エラストマー成分中のミクロフィブリル化植物繊維の分散性が向上すると考えられる。そして、ミクロフィブリル化植物繊維の分散性に優れたものとなることにより、エラストマー組成物の補強性が向上し、また、エラストマーのポリマー鎖の運動が抑制され、発熱(エネルギーロス)が抑えられるため、低燃費性が向上すると考えられる。以上のように、エラストマー成分及びミクロフィブリル化植物繊維を含むエラストマー組成物に、フェニルエステル化合物を含めると、エラストマー成分中のミクロフィブリル化植物繊維の分散性が向上し、これにより、エラストマー組成物の補強性及び低燃費性の総合性能が改善されるものと推察される。
【0008】
本発明のエラストマー組成物の製造方法は、エラストマー成分、ミクロフィブリル化植物繊維、及び、フェニルエステル化合物を混合する方法であれば特に限定されないが、例えば、ミクロフィブリル化植物繊維及びフェニルエステル化合物を混合する工程(I)と、該工程(I)で得られた混合物にエラストマー成分を添加して更に混合する工程(II)とを含む製造方法が好適である。
【0009】
(工程(I))
工程(I)では、ミクロフィブリル化植物繊維及びフェニルエステル化合物を混合する。このように、予めミクロフィブリル化植物繊維及びフェニルエステル化合物を混合することで後述する工程(II)でエラストマー成分と工程(I)で得られた混合物とを混合した際、エラストマー成分中にミクロフィブリル化植物繊維をより良好に分散できる。
【0010】
工程(I)で使用するミクロフィブリル化植物繊維としては、良好な補強性が得られるという観点から、セルロースミクロフィブリルが好ましい。セルロースミクロフィブリルとしては、天然物由来のものであれば特に制限されず、例えば、果実、穀物、根菜などの資源バイオマス、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、及びこれらを原料として得られるパルプや紙、布、農作物残廃物、食品廃棄物や下水汚泥などの廃棄バイオマス、稲わら、麦わら、間伐材などの未使用バイオマスの他、ホヤ、酢酸菌等の生産するセルロースなどに由来するものが挙げられる。これらミクロフィブリル化植物繊維は、1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0011】
なお、本明細書において、セルロースミクロフィブリルとは、典型的には、平均繊維径が10μm以下の範囲内であるセルロース繊維、より典型的には、セルロース分子の集合により形成されている平均繊維径500nm以下の微小構造を有するセルロース繊維を意味する。なお、典型的なセルロースミクロフィブリルは、例えば、上記のような平均繊維径を有するセルロース繊維の集合体として形成されている。
【0012】
上記ミクロフィブリル化植物繊維の製造方法としては特に限定されないが、例えば、セルロースミクロフィブリルの原料を必要に応じて水酸化ナトリウム等のアルカリで化学処理した後、リファイナー、二軸混練機(二軸押出機)、二軸混練押出機、高圧ホモジナイザー、媒体撹拌ミル、石臼、グラインダー、振動ミル、サンドグラインダー等により機械的に磨砕ないし叩解する方法が挙げられる。これらの方法では、化学処理によって原料からリグニンが分離されるため、リグニンを実質的に含有しないミクロフィブリル化植物繊維が得られる。また、その他の方法として、セルロースミクロフィブリルの原料を超高圧処理する方法なども挙げられる。
【0013】
上記ミクロフィブリル化植物繊維としては、例えば、(株)スギノマシン、ダイセルファインケム(株)等の製品を使用できる。
【0014】
上記ミクロフィブリル化植物繊維としては、上記製造方法等により得られた未変性のミクロフィブリル化植物繊維の他、更に、酸化処理や種々の化学変性処理などを施したものや、セルロースミクロフィブリルの由来となり得る天然物(例えば、木材、パルプ、竹、麻、ジュート、ケナフ、農作物残廃物、布、紙、ホヤセルロース等)をセルロース原料として、酸化処理や種々の化学変性処理などを行い、その後に必要に応じて解繊処理を行ったものも使用できる。例えば、酸化処理を施したミクロフィブリル化合物を好適に使用できる。
【0015】
上記ミクロフィブリル化植物繊維の化学変性の態様としては、例えば、エステル化処理、エーテル化処理、アセタール化処理等が例示される。具体的には、アセチル化等のアシル化、シアノエチル化、アミノ化、スルホンエステル化、リン酸エステル化、アルキルエステル化、アルキルエーテル化、複合エステル化、β-ケトエステル化、ブチル化等のアルキル化、塩素化、等が好ましく例示される。更には、アルキルカルバメート化、アリールカルバメート化も例示できる。化学変性処理はいずれも、ミクロフィブリル化植物繊維を疎水化する処理であり、ミクロフィブリル化植物繊維としてこのような化学変性処理を施したものを用いることによって、ミクロフィブリル化植物繊維の分散性が向上する傾向がある。
【0016】
すなわち、上記ミクロフィブリル化植物繊維は、化学変性ミクロフィブリル化植物繊維であり、該化学変性ミクロフィブリル化植物繊維における置換度は、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.4以上、更に好ましくは0.5以上であり、また、好ましくは2.5以下、より好ましくは2.3以下、更に好ましくは2.0以下である。ここで置換度とは、セルロースの水酸基のうち化学変性によって他の官能基に置換された水酸基のグルコース環単位当りの平均個数を意味し、理論上最大値は3である。なお、上記化学変性ミクロフィブリル化植物繊維が2種以上の組み合わせからなる場合、置換度は、化学変性ミクロフィブリル化植物繊維全体での平均として算出される。
【0017】
上記化学変性ミクロフィブリル化植物繊維における該置換度は、例えば、0.5N-NaOHと0.2N-HClとを用いる滴定法やNMR、赤外吸収スペクトル等の測定によって確認できる。
【0018】
上記化学変性ミクロフィブリル化植物繊維がアセチル化ミクロフィブリル化植物繊維の場合は置換度が0.3以上であることが好ましく、2.5以下であることが好ましい。アミノ化ミクロフィブリル化植物繊維の場合は置換度が0.3以上であることが好ましく、2.5以下であることが好ましい。スルホンエステル化ミクロフィブリル化植物繊維の場合は置換度が0.3以上であることが好ましく、1.8以下であることが好ましい。アルキルエステル化ミクロフィブリルセルロースの場合は置換度が0.3以上であることが好ましく、1.8以下であることが好ましい。複合エステル化ミクロフィブリルセルロースの場合は置換度が0.4以上であることが好ましく、1.8以下であることが好ましい。β-ケトエステル化ミクロフィブリルセルロースの場合は置換度が0.3以上であることが好ましく、1.8以下であることが好ましい。アルキルカルバメート化ミクロフィブリルセルロースの場合は置換度が0.3以上であることが好ましく、1.8以下であることが好ましい。アリールカルバメート化ミクロフィブリルセルロースの場合は置換度が0.3以上であることが好ましく、1.8以下であることが好ましい。
【0019】
上記アセチル化は、例えば、ミクロフィブリル化植物繊維に、酢酸、濃硫酸、無水酢酸を加えて反応させる方法等で行なうことができる。具体的には、例えば、酢酸とトルエンとの混合溶媒中、硫酸触媒存在下で、ミクロフィブリル化植物繊維と無水酢酸とを反応させてアセチル化反応を進行させ、その後、溶媒を水に置き換える方法等、従来公知の方法で行なうことができる。
【0020】
上記アミノ化は、例えば、トシルエステル化した後にアルコール中でアルキルアミンと反応させ、親核置換反応させる方法など公知の方法により行なうことができる。
【0021】
上記スルホンエステル化は、例えば、ミクロフィブリル化植物繊維を硫酸に溶解して、水中に投入するのみの簡単な操作で行なうことができる。他にも、無水硫酸ガス処理、クロルスルホン酸とピリジンによって処理する方法等で行なうことができる。
【0022】
上記リン酸エステル化は、例えば、ジメチルアミン処理等を施したミクロフィブリル化植物繊維をリン酸と尿素とで処理する方法により行なうことができる。
【0023】
上記アルキルエステル化は、例えば、ミクロフィブリル化植物繊維を塩基性条件下でカルボン酸クロライドを用いて反応させるSchotten-Baumann法(ショッテン・バウマン法)で行うことができ、また、上記アルキルエーテル化は、ミクロフィブリル化植物繊維を塩基性条件下でハロゲン化アルキルを用いて反応させるWilliamson法等で行なうことができる。
【0024】
上記塩素化は、例えば、DMF(ジメチルホルムアミド)中で塩化チオニルを加えて加熱する方法で行なうことができる。
【0025】
上記複合エステル化は、例えば、ミクロフィブリル化植物繊維に2種類以上のカルボン酸無水物またはカルボン酸クロライドを塩基性条件下で反応させる方法で行なうことができる。
【0026】
上記β-ケトエステル化は、例えば、ミクロフィブリル化植物繊維にジケテンやアルキルケテンダイマーを反応させる方法、もしくはミクロフィブリル化植物繊維とアルキルアセトアセテートのようなβ-ケトエステル化合物のエステル交換反応により行なうことができる。
【0027】
上記アルキルカルバメート化は、例えば、ミクロフィブリル化植物繊維にアルキルイソシアナートを塩基性触媒またはスズ触媒存在下で反応させる方法で行なうことができる。
【0028】
上記アリールカルバメート化は、例えば、ミクロフィブリル化植物繊維にアリールイソシアナートを塩基性触媒またはスズ触媒存在下で反応させる方法で行なうことができる。
【0029】
上記ミクロフィブリル化植物繊維の酸化処理の態様としては、例えば、N-オキシル化合物を用いた酸化処理などが例示される。このように、効果がより良好に得られるという観点から、上記ミクロフィブリル化植物繊維が、N-オキシル化合物を用いて酸化処理されたミクロフィブリル化植物繊維であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0030】
上記N-オキシル化合物を用いて酸化処理されたミクロフィブリル化植物繊維としては、セルロースのピラノース環における炭素6位の一級水酸基がカルボキシル基又はアルデヒド基、並びにその塩に表面酸化されており、且つセルロースI型結晶構造を有するものを好適に使用できる。このような特定ミクロフィブリル化植物繊維は、特開2008-001728号公報等に開示されている。ここで、ピラノース環とは、5つの炭素と1つの酸素からなる六員環炭水化物であり、N-オキシル化合物を用いたセルロースの酸化反応の際には、セルロースのピラノース環における炭素6位の一級水酸基が選択的に酸化される。すなわち、天然セルロースは生合成された時点ではナノファイバーであるが、これらは水素結合により多数収束して、繊維の束を形成している。N-オキシル化合物を用いてセルロース繊維を酸化すると、ピラノース環の炭素6位の一級水酸基が選択的に酸化され、かつこの酸化反応はミクロフィブリルの表面にとどまるので、ミクロフィブリルの表面のみに高密度にカルボキシル基が導入される。カルボキシル基は負の電荷を帯びているので互いに反発しあい、水中に分散させると、ミクロフィブリル同士の凝集が妨げられ、この結果、繊維の束はミクロフィブリル単位で解れて、セルロースナノファイバーとなる。効果がより良好に得られる点で、セルロースのピラノース環における炭素6位の一級水酸基がカルボキシル基に表面酸化されたものが好ましい。
【0031】
上記N-オキシル化合物を用いて酸化処理されたミクロフィブリル化植物繊維に存在するカルボキシル基とアルデヒド基の量の総和は、セルロース繊維の重量(絶乾)に対し、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.2mmol/g以上であり、また、好ましくは2.5mmol/g以下、より好ましくは2.2mmol/g以下である。上記範囲内であると、ナノファイバーをより均一に分散できる。
なお、本発明において、上記総和をミクロフィブリル化植物繊維における荷電量として表す。絶乾とは、全重量中セルロース繊維が100%を占めるものをいう。
【0032】
特に、上記カルボキシル基の量は、セルロース繊維の重量(絶乾)に対し、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.2mmol/g以上であり、また、好ましくは2.4mmol/g以下、より好ましくは2.1mmol/g以下である。上記範囲内のカルボキシル基を導入すると、電気的な反発力が生まれ、ミクロフィブリルが解繊する結果、ナノファイバーをより均一に分散できる。
【0033】
なお、上記N-オキシル化合物を用いて酸化処理されたミクロフィブリル化植物繊維がI型結晶構造であることの同定や、アルデヒド基およびカルボキシル基の量(mmol/g)の定量には、公知の方法を用いることができ、例えば、特開2008-001728号公報に記載の方法で解析できる。
【0034】
上記N-オキシル化合物を用いて酸化処理されたミクロフィブリル化植物繊維としては、例えば、天然セルロースを原料とし、水中においてN-オキシル化合物を酸化触媒とし、共酸化剤を作用させることにより天然セルロースを酸化して反応物繊維を得る酸化反応工程、不純物を除去して水を含浸させた反応物繊維を得る精製工程、及び水を含浸させた反応物繊維を溶媒に分散させる分散工程を含む製法により調製できる。
【0035】
まず、酸化反応工程では、水中に天然セルロースを分散させた分散液を調製する。前記天然セルロースとしては、植物、動物、バクテリア産生ゲル等のセルロースの生合成系から単離した精製セルロースが挙げられる。天然セルロースには、叩解等の表面積を高める処理を施すことも可能である。また、単離、精製の後、ネバードライで保存していた天然セルロースを用いることも可能である。反応における天然セルロースの分散媒は水であり、反応水溶液中の天然セルロース濃度は、通常、約5%以下である。
【0036】
セルロースの酸化触媒として使用可能なN-オキシル化合物は、ニトロキシラジカルを発生し得る化合物をいい、例えば、下記式(1)で表されるアミノ基のα位に炭素数1~4のアルキル基を有する複素環式のニトロキシラジカルを発生する化合物が含まれる。
【0037】
【0038】
上記式(1)中、R1~R4は同一又は異なる炭素数1~4のアルキル基を表す。
【0039】
上記式(1)で表されるニトロキシラジカルを発生する化合物のうち、2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン-1-オキシル、およびその誘導体、例えば4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン-1-オキシル、4-アルコキシ-2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン-1-オキシル、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン-1-オキシル、4-アミノ-2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン-1-オキシル等がより好ましく、中でも2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(以下、TEMPOとも称する)およびその誘導体、例えば4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(以下、4-ヒドロキシTEMPOとも称する)、4-アルコキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(以下、4-アルコキシTEMPOとも称する)、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(以下、4-ベンゾイルオキシTEMPOとも称する)、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(以下、4-アミノTEMPOとも称する)等がより好ましく、またこれらの誘導体も使用できる。中でも活性の点からTEMPOがより好ましい。
【0040】
4-ヒドロキシTEMPOの誘導体としては、例えば、下記式(2)~(4)の化合物のような、4-ヒドロキシTEMPOの水酸基を炭素数4以下の直鎖又は分岐状炭素鎖を有するアルコールでエーテル化して得られる誘導体、並びにカルボン酸又はスルホン酸でエステル化して得られる誘導体等が挙げられる。
【0041】
【0042】
上記式(2)中、R5は炭素数4以下の直鎖又は分岐状炭素鎖を表す。
【0043】
【0044】
上記式(3)中、R6は炭素数4以下の直鎖又は分岐状炭素鎖を表す。
【0045】
【0046】
上記式(4)中、R7は炭素数4以下の直鎖又は分岐状炭素鎖を表す。
【0047】
4-アミノTEMPOの誘導体としては、4-アミノTEMPOのアミノ基がアセチル化され、適度な疎水性が付与された下記式(5)で表される4-アセトアミドTEMPOが、安価であり、均一に酸化処理されたセルロースを得ることができる点で好ましい。
【0048】
【0049】
また、下記式(6)で表されるN-オキシル化合物のラジカル、すなわち、アザアダマンタン型ニトロキシラジカルも、短時間で効率よくセルロースを酸化できる点で好ましい。
【0050】
【0051】
上記式(6)中、R8、R9は同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~6の直鎖もしくは分岐鎖アルキル基を表す。
【0052】
上記N-オキシル化合物の添加量は、得られる酸化したセルロースを、充分にナノファイバー化できる程度の触媒量であれば特に限定されないが、セルロース繊維1g(絶乾)に対して、好ましくは0.01mmol/g以上、より好ましくは0.015mmol/g以上、更に好ましくは0.025mmol/g以上であり、また、好ましくは10mmol/g以下、より好ましくは1mmol/g以下、更に好ましくは0.5mmol/g以下である。
【0053】
上記共酸化剤として、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸又はこれらの塩;過酸化水素、過有機酸などが使用可能であるが、好ましくはアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩である。例えば、次亜塩素酸ナトリウムを使用する場合、臭化アルカリ金属の存在下で反応を進めることが好ましい。セルロース繊維1g(絶乾)に対し、この臭化アルカリ金属の添加量は、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.2mmol/g以上、更に好ましくは0.5mmol/g以上であり、また、好ましくは100mmol/g以下、より好ましくは10mmol/g以下、更に好ましくは5mmol/g以下である。次亜塩素酸ナトリウムの添加量は、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.5mmol/g以上、更に好ましくは2.5mmol/g以上であり、また、好ましくは500mmol/g以下、より好ましくは50mmol/g以下、更に好ましくは25mmol/g以下である。
【0054】
上記反応水溶液のpHは、約8~11の範囲で維持することが好ましい。水溶液の温度は約4~40℃、例えば、室温で行うことが可能であり、特に温度の制御は必要としない。
【0055】
上記共酸化剤の添加量は、セルロース繊維1g(絶乾)に対して3.0mmol/g以上が好ましく、8.2mmol/g以下が好ましい。
【0056】
上記精製工程は、未反応の次亜塩素酸や各種副生成物等の反応スラリー中に含まれる反応物繊維と水以外の化合物を系外へ除去する。通常の精製法を採用でき、例えば、水洗とろ過を繰り返すことで高純度(99質量%以上)の反応物繊維と水の分散体を調製する。
【0057】
上記精製工程に続き、該工程で得られた水を含浸した反応物繊維(水分散体)を、溶媒中に分散させる分散処理(分散工程)を施すことにより、前記ミクロフィブリル化植物繊維の分散体を調製できる。分散媒としての溶媒は、通常水が好ましい。また、水以外にも水に可溶するアルコール類、エーテル類、ケトン類等を使用しても良い。分散工程で使用する分散機としては、汎用の分散機、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー等の強力で叩解能力のある装置等、を使用できる。このようにして得られるミクロフィブリル化植物繊維の分散体を更に対イオン交換法等により疎水化することが好ましい。当該対イオン交換法としては、ミクロフィブリル化植物繊維の分散体に、pHを2以下に調整した希塩酸や希硝酸等の希酸を添加した後、水洗し、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドやテトラブチルアンモニウムヒドロキシド等の第4級アンモニウム塩を添加して中和する、などの通常行われる従来公知の方法を用いることができる。このようにして得られるミクロフィブリル化植物繊維の分散体を必要に応じて乾燥させることにより、N-オキシル化合物を用いて酸化処理されたミクロフィブリル化植物繊維を得ることができる。当該乾燥には、凍結乾燥法等を採用できる。
ここで、上記ミクロフィブリル化植物繊維の分散体の中にバインダーとして、水溶性高分子や糖類のような極めて沸点が高く、セルロースに対して親和性を有する化合物を混入させておくことにより、汎用の乾燥法でも、再度溶媒中にナノファイバーとして分散できるミクロフィブリル化植物繊維を得ることができる。この場合、分散体中に添加するバインダーの量は、反応物繊維に対して10~80質量%の範囲が望ましい。
【0058】
上記ミクロフィブリル化植物繊維の平均繊維径は、ミクロフィブリル化植物繊維の配向性及び分散性の観点から、10μm以下であることが好ましい。当該平均繊維径は、500nm以下がより好ましく、200nm以下が更に好ましく、100nm以下が特に好ましく、50nm以下が最も好ましい。また、該平均繊維径の下限は特に制限されないが、ミクロフィブリル化植物繊維の絡まりがほどけにくく、分散し難いという理由から、1nm以上が好ましく、3nm以上がより好ましく、4nm以上が更に好ましい。
【0059】
上記ミクロフィブリル化植物繊維の平均繊維長は、50nm以上であることが好ましく、より好ましくは150nm以上、更に好ましくは300nm以上、特に好ましくは470nm以上である。また、上限は特に限定されないが、5mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましく、50μm以下が更に好ましく、20μm以下がより更に好ましく、10μm以下が特に好ましく、5μm以下が最も好ましい。平均繊維長が下限未満の場合や上限を超える場合は、前述の平均繊維径と同様の傾向がある。
【0060】
なお、ミクロフィブリル化植物繊維が2種以上の組み合わせからなる場合、平均繊維径、平均繊維長は、ミクロフィブリル化植物繊維全体での平均として算出される。
【0061】
本明細書において、ミクロフィブリル化植物繊維の平均繊維径及び平均繊維長は、走査型電子顕微鏡写真による画像解析、透過型電子顕微鏡写真による画像解析、原子間力顕微鏡写真による画像解析、X線散乱データの解析、細孔電気抵抗法(コールター原理法)等によって測定できる。
【0062】
次に、工程(I)で使用するフェニルエステル化合物について説明する。
なお、本明細書において、フェニルエステル化合物とは、分子内にアリール基及びエステル結合を有する化合物を指す。上記フェニルエステル化合物としては、分子内にアリール基及びエステル結合を有している限り、任意の有機化合物を用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
上記フェニルエステル化合物は、25℃での蒸気圧が1.0kPa以下であることが好ましい。このような蒸気圧を有するフェニルエステル化合物を用いることで、ミクロフィブリル化植物繊維と混合静置した際に、ミクロフィブリル化植物繊維により浸透しやすく、また、フェニルエステル化合物の芳香環がエラストマーと相互作用してミクロフィブリル化植物繊維の分散性が向上するため、補強性、低燃費性をより向上させることができる。より好ましくは0.5kPa以下であり、更に好ましくは0.1kPa以下である。なお、下限は特に限定されないが、例えば、10-5kPa以上であることが好ましい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、本明細書において、蒸気圧とは、静止法、沸点法、示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimetry)法等の従来公知の方法で測定可能な、平衡蒸気圧を指す。また、平衡蒸気圧は、ASTM E1194-07に準拠して測定できる。
【0064】
上記フェニルエステル化合物は、沸点が120℃以上であることが好ましい。より好ましくは130℃以上であり、更に好ましくは140℃以上であり、より更に好ましくは150℃以上であり、より更に好ましくは170℃以上であり、特に好ましくは200℃以上である。なお、下限は特に限定されないが、例えば、400℃以下であることが好ましく、350℃以下であることがより好ましく、300℃以下であることが更に好ましい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0065】
上記フェニルエステル化合物は、分子量が100以上であることが好ましい。より好ましくは120以上であり、更に好ましくは150以上である。また、500以下が好ましく、450以下がより好ましく、400以下が更に好ましく、350以下がより更に好ましく、300以下が特に好ましい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0066】
上記フェニルエステル化合物は、分子中にアリール基を有する。上記アリール基は、置換基を有していてもよく、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロシクリル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、ヘテロシクリルオキシ基、アルカノイル基、アロイル基、ヘテロシクリルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヘテロシクリルオキシカルボニル基、アルカノイルオキシ基、アロイルオキシ基、ヘテロシクリルカルボニルオキシ基、カルバモイル基、カルボキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アミノ基、シアノ基、オキソ基、ハロゲン原子などが挙げられる。なお、当該アリール基は、置換基を1つ有していてもよいし、2つ以上有していてもよく、2つ以上有する場合、それぞれは同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0067】
上記フェニルエステル化合物としては、アリール基上に置換基を有さない化合物であることが好ましく、フェニル基を有する化合物であることがより好ましく、下記式(I)で表される化合物であることが特に好ましい。なかでも、下記式(I)で表される化合物であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0068】
【0069】
上記式(I)中、Raは、2価の炭化水素基を表す。Rbは、1価の炭化水素基を表す。mは0又は1を表す。芳香環は、置換基を有していてもよい。
【0070】
上記式(I)において、Raの2価の炭化水素基としては、直鎖状、環状又は分枝鎖状のいずれの基でもよく、特に直鎖状の基が好ましい。2価の炭化水素基は、置換又は非置換のいずれでもよい。上記式(I)において、Raの2価の炭化水素基として、具体的には、置換又は非置換の炭素数1~30のアルキレン基、炭素数2~30のアルケニレン基、炭素数5~30のシクロアルキレン基、炭素数6~30のシクロアルキルアルキレン基、炭素数6~30のアリーレン基、炭素数7~30のアラルキレン基等が挙げられる。なかでも、Raは、置換又は非置換の炭素数1~18のアルキレン基が好ましく、炭素数1~10のアルキレン基がより好ましく、炭素数1~6のアルキレン基が更に好ましく、炭素数1~3のアルキレン基が特に好ましい。Raの具体例としては、置換又は非置換のメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基などが挙げられる。
【0071】
上記式(I)において、Rbの1価の炭化水素基としては、直鎖状、環状又は分枝鎖状のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられ、特にアルキル基、アリール基、アラルキル基が好ましい。1価の炭化水素基は、置換又は非置換のいずれでもよい。上記式(I)において、Rbの炭素数は、1~18が好ましく、1~10がより好ましく、1~7が更に好ましい。Rbの1価の炭化水素基の具体例としては、置換又は非置換のメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、フェニル基、ベンジル基等が挙げられる。
【0072】
上記フェニルエステル化合物としては、具体的には、例えば、安息香酸メチル、安息香酸ベンジル、安息香酸フェニル等の安息香酸エステル化合物;3-フェニルプロピオン酸メチル、3-フェニルプロピオン酸ベンジル、3-フェニルプロピオン酸フェニル等の3-フェニルプロピオン酸エステル化合物などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。このように、上記フェニルエステル化合物が、安息香酸エステル化合物及び3-フェニルプロピオン酸エステル化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0073】
工程(I)では、本発明のエラストマー組成物において後述する含有量となるように各成分を配合することが好ましい。これにより、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0074】
工程(I)において各成分を混合する方法としては、特に限定されず、例えば、フェニルエステル化合物中にミクロフィブリル化植物繊維を浸漬する方法、フェニルエステル化合物をミクロフィブリル化植物繊維に含浸させる方法、ミクロフィブリル化植物繊維にフェニルエステル化合物を塗布する方法、ミクロフィブリル化植物繊維にフェニルエステル化合物をスプレー等により噴霧する方法など任意の混合方法を用いることができる。なかでも、効果がより良好に得られるという観点からは、フェニルエステル化合物をミクロフィブリル化植物繊維に含浸させる方法が好ましい。
【0075】
上記フェニルエステル化合物をミクロフィブリル化植物繊維に含浸させる方法における、含浸時間は、特に限定されず適宜設定することができるが、例えば、1時間以上とすることが好ましく、3時間以上がより好ましく、5時間以上が更に好ましく、10時間以上が特に好ましく、12時間以上が最も好ましい。また、24時間以下が好ましく、20時間以下がより好ましく、16時間以下が特に好ましい。
【0076】
また、上記フェニルエステル化合物をミクロフィブリル化植物繊維に含浸させる方法における、含浸温度は、特に限定されず、例えば、フェニルエステル化合物の凝固点以上沸点未満の温度とすることが好ましく、具体的には、20℃以上が好ましく、25℃以上がより好ましく、30℃以上が特に好ましく、40℃以上が最も好ましい。また、80℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、60℃以下が更に好ましく、50℃以下が特に好ましい。
なお、フェニルエステル化合物のミクロフィブリル化植物繊維への含浸は、通常常圧(1atm)下で行われる。
【0077】
(工程(II))
工程(II)では、工程(I)で得られた混合物にエラストマー成分を添加して更に混合する。この工程で、ミクロフィブリル化植物繊維とエラストマー成分とが混合される。
【0078】
工程(II)で使用するエラストマー成分としては、特に限定されず、例えば、ゴム成分、樹脂成分、又は、これらの混合物などを用いることができるが、なかでもゴム成分が好ましい。
【0079】
本明細書において、エラストマー成分は、重量平均分子量(Mw)が15万以上で、架橋に寄与する成分である。
【0080】
上記エラストマー成分の重量平均分子量は、好ましくは17万以上、より好ましくは20万以上、更に好ましくは25万以上であり、また、好ましくは200万以下、より好ましくは150万以下、更に好ましくは100万以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0081】
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMULTIPORE HZ-M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0082】
上記ゴム成分としては、ゴム工業において用いられる一般的なゴムを使用できる。例えば、イソプレン系ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のジエン系ゴムなどが挙げられる。また、上記以外のゴム成分としては、ハロゲン化ブチルゴム(X-IIR)、ブチルゴム(IIR)等のブチル系ゴム、フッ化ビニリデン系ゴム、テトラフルオロエチレン-プロピレン系ゴム、テトラフルオロエチレン-パーフルオロビニルエーテル系ゴム等のフッ素ゴム、シリコーンゴムなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、ジエン系ゴムが好ましく、イソプレン系ゴム、SBR、BRがより好ましく、イソプレン系ゴムが特に好ましい。このように、上記ゴム成分がジエン系ゴムを含むこともまた、本発明の好適な実施形態の1つである。また、上記ゴム成分が、イソプレン系ゴム、SBR、及びBRからなる群より選択される少なくとも1種を含むこともまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0083】
イソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、改質NR、変性NR、変性IR等が挙げられる。NRとしては、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、ゴム工業において一般的なものを使用できる。IRとしては、特に限定されず、例えば、IR2200等、ゴム工業において一般的なものを使用できる。改質NRとしては、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)等、変性NRとしては、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等、変性IRとしては、エポキシ化イソプレンゴム、水素添加イソプレンゴム、グラフト化イソプレンゴム等、が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、NRが好ましい。
【0084】
SBRとしては特に限定されず、例えば、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E-SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR)等を使用できるが、効果がより良好に得られるという観点から、乳化重合スチレンブタジエンゴムが好ましい。また、SBRとしては、水素添加されたSBR(水添SBR)を用いることもできる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0085】
SBRのスチレン量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上、特に好ましくは20質量%以上であり、また、好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下、特に好ましくは30質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、本明細書において、ゴム成分のスチレン量は、核磁気共鳴(NMR)法によって測定できる。
【0086】
SBRのビニル量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上、特に好ましくは30質量%以上であり、また、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、特に好ましくは35質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、本明細書において、ゴム成分のビニル量は、1H-NMR測定により算出される。
【0087】
SBRとしては、例えば、住友化学(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等により製造・販売されているSBRを使用できる。また、公知の方法により合成したものを使用することもできる。
【0088】
なお、上述のSBRのスチレン量は、SBRが1種である場合、当該SBRのスチレン量を意味し、複数種である場合、平均スチレン量を意味する。
SBRの平均スチレン量は、{Σ(各SBRの含有量×各SBRのスチレン量)}/全SBRの合計含有量で算出でき、例えば、ゴム成分100質量%中、スチレン量40質量%のSBRが85質量%、スチレン量25質量%のSBRが5質量%である場合、SBRの平均スチレン量は、39.2質量%(=(85×40+5×25)/(85+5))である。
【0089】
また、上述のSBRのビニル量はSBR中におけるブタジエン部の総質量を100としたときのビニル結合の割合であり(単位:質量%)、ビニル量[質量%]+シス量[質量%]+トランス量[質量%]=100[質量%]となる。SBRが1種である場合、当該SBRのビニル量を意味し、複数種である場合、平均ビニル量を意味する。
SBRの平均ビニル量は、Σ{各SBRの含有量×(100[質量%]-各SBRのスチレン量[質量%])×各SBRのビニル量[質量%]}/Σ{各SBRの含有量×(100[質量%]-各SBRのスチレン量[質量%])}で算出でき、例えば、ゴム成分100質量部中、スチレン量40質量%、ビニル量30質量%のSBRが75質量部、スチレン量25質量%、ビニル量20質量%のSBRが15質量部、残り10質量部がSBR以外である場合、SBRの平均ビニル量は、28質量%(={75×(100[質量%]-40[質量%])×30[質量%]+15×(100[質量%]-25[質量%])×20[質量%])}/{75×(100[質量%]-40[質量%])+15×(100[質量%]-25[質量%])}である。
【0090】
SBRは、非変性SBRでもよいし、変性SBRでもよい。
変性SBRとしては、シリカ、カーボンブラック等の充填剤と相互作用する官能基を有するSBRであればよく、例えば、SBRの少なくとも一方の末端を、上記官能基を有する化合物(変性剤)で変性された末端変性SBR(末端に上記官能基を有する末端変性SBR)や、主鎖に上記官能基を有する主鎖変性SBRや、主鎖及び末端に上記官能基を有する主鎖末端変性SBR(例えば、主鎖に上記官能基を有し、少なくとも一方の末端を上記変性剤で変性された主鎖末端変性SBR)や、分子中に2個以上のエポキシ基を有する多官能化合物により変性(カップリング)され、水酸基やエポキシ基が導入された末端変性SBR等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0091】
上記官能基としては、例えば、窒素原子、酸素原子、及び珪素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含む官能基等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0092】
上記官能基としては、例えば、アミノ基、アミド基、シリル基、アルコキシシリル基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、メルカプト基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基、水酸基、オキシ基、エポキシ基等が挙げられる。なお、これらの官能基は、置換基を有していてもよい。なかでも、効果がより好適に得られるという理由から、アミノ基(好ましくはアミノ基が有する水素原子が炭素数1~6のアルキル基に置換されたアミノ基)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシ基)、アルコキシシリル基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシシリル基)が好ましい。
【0093】
BRは特に限定されず、例えば、高シス含量のハイシスBR、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR、希土類系触媒を用いて合成したBR(希土類BR)等を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0094】
BRのシス量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、特に好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90質量%以上であり、上限は特に限定されない。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、本明細書において、ゴム成分のシス量は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定できる。
【0095】
なお、上述のBRのシス量は、BRが1種である場合、当該BRのシス量を意味し、複数種である場合、平均シス量を意味する。
BRの平均シス量は、{Σ(各BRの含有量×各BRのシス量)}/全BRの合計含有量で算出でき、例えば、ゴム成分100質量%中、シス量:90質量%のBRが20質量%、シス量:40質量%のBRが10質量%である場合、BRの平均シス量は、73.3質量%(=(20×90+10×40)/(20+10))である。
【0096】
また、BRは、非変性BRでもよいし、変性BRでもよい。変性BRとしては、変性SBRと同様の官能基が導入された変性BRが挙げられる。
【0097】
BRとしては、例えば、宇部興産(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等の製品を使用できる。
【0098】
ゴム成分は、オイルで伸展された油展ゴム、樹脂で伸展された樹脂伸展ゴムであってもよい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、油展ゴムに使用されるオイル、樹脂伸展ゴムに使用される樹脂は、後述の可塑剤で説明したものと同様である。また、油展ゴム中のオイル分、樹脂伸展ゴム中の樹脂分は特に限定されないが、通常、ゴム固形分100質量部に対して10~50質量部程度である。
【0099】
上記樹脂成分としては、特に限定されないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸メチル等のアクリル樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネートなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0100】
工程(II)では、本発明のエラストマー組成物において後述する含有量となるように各成分を配合することが好ましい。これにより、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、工程(II)においては、工程(I)で得られた混合物、エラストマー成分の他に、後述する種々の他の配合剤も添加して混合してもよいし、工程(I)で得られた混合物及びエラストマー成分を混合した後、当該混合物と他の配合剤とを混合してもよいが、効果がより良好に得られるという観点からは、工程(I)で得られた混合物及びエラストマー成分を混合した後、当該混合物と他の配合剤とを混合するのが好ましい。他の配合剤としては、例えば、補強剤(カーボンブラック、シリカ等)、シランカップリング剤、加硫剤、ステアリン酸、加硫促進剤、加硫促進助剤、オイル、レジン、ワックス、老化防止剤等が挙げられる。
【0101】
工程(II)において各成分を混合する方法としては、例えば、各成分をオープンロール、バンバリーミキサー等のゴム混練装置を用いて混練する方法を用いることができる。そして、その後加硫する方法等によりエラストマー組成物を製造できる。
【0102】
工程(II)において、工程(I)で得られた混合物、エラストマー成分の他に、他の配合剤も添加して混合する場合の、上記混練条件としては、加硫剤及び加硫促進剤以外の添加剤を混練するベース練り工程では、混練温度は、通常100℃以上180℃以下、好ましくは120℃以上170℃以下である。加硫剤、加硫促進剤を混練する仕上げ練り工程では、混練温度は、通常120℃以下、好ましくは80℃以上110℃以下である。また、加硫剤、加硫促進剤を混練した組成物は、通常、プレス加硫等の加硫処理が施される。加硫温度としては、通常140℃以上190℃以下、好ましくは150℃以上185℃以下である。加硫時間は、通常5分以上15分以下である。
また、工程(II)において、工程(I)で得られた混合物及びエラストマー成分を混合した後、当該混合物と他の配合剤とを混合する場合の、上記混練条件としては、工程(I)で得られた混合物及びエラストマー成分を混合する工程では、混練温度は、20℃以上が好ましく、25℃以上がより好ましく、30℃以上が特に好ましく、40℃以上が最も好ましい。また、80℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、60℃以下が更に好ましく、50℃以下が特に好ましい。混練時間は、10分以上が好ましく、20分以上がより好ましく、30分以上が特に好ましい。また、100分以下が好ましく、80分以下がより好ましく、60分以下が特に好ましい。そして、加硫剤及び加硫促進剤以外の添加剤を混練するベース練り工程以降は、工程(I)で得られた混合物、エラストマー成分の他に、他の配合剤も添加して混合する場合と同様である。
【0103】
本発明のエラストマー組成物において、エラストマー成分(好ましくはゴム成分)100質量%中のジエン系ゴムの含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上であり、100質量%であってもよい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0104】
上記エラストマー組成物において、エラストマー成分(好ましくはゴム成分)100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、より更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上、最も好ましくは95質量%以上であり、100質量%であってもよい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0105】
上記エラストマー組成物において、エラストマー成分がSBRを含む場合の、エラストマー成分(好ましくはゴム成分)100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上である。また、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0106】
上記エラストマー組成物において、エラストマー成分がBRを含む場合の、エラストマー成分(好ましくはゴム成分)100質量%中のBRの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、また、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0107】
上記エラストマー組成物において、ミクロフィブリル化植物繊維の含有量(固形分)は、エラストマー成分(好ましくはゴム成分)100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1質量部以上が更に好ましく、3質量部以上がより更に好ましく、5質量部以上が特に好ましい。また、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下が更に好ましい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0108】
上記エラストマー組成物において、フェニルエステル化合物の含有量は、エラストマー成分(好ましくはゴム成分)100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1質量部以上が更に好ましく、5質量部以上がより更に好ましく、10質量部以上が特に好ましく、15質量部以上が最も好ましい。また、70質量部以下が好ましく、60質量部以下がより好ましく、50質量部以下が更に好ましく、40質量部以下がより更に好ましく、30質量部以下が特に好ましく、20質量部以下が最も好ましい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0109】
上記エラストマー組成物において、ミクロフィブリル化植物繊維とフェニルエステル化合物との配合比(ミクロフィブリル化植物繊維の配合量に対するフェニルエステル化合物の配合量の比)は、0.5以上が好ましく、1以上がより好ましく、2以上が更に好ましい。また、5以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下が更に好ましい。
【0110】
上記エラストマー組成物は、カーボンブラックを含有してもよい。
カーボンブラックとしては、N134、N110、N220、N234、N219、N339、N330、N326、N351、N550、N762などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0111】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、50m2/g以上が好ましく、100m2/g以上がより好ましく、114m2/g以上が更に好ましく、120m2/g以上がより更に好ましく、135m2/g以上が特に好ましい。また、上記N2SAは、250m2/g以下が好ましく、200m2/g以下がより好ましく、160m2/g以下が更に好ましく、150m2/g以下が特に好ましい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JIS K6217-2:2001によって求められる。
【0112】
カーボンブラックのジブチルフタレート吸油量(DBP吸油量)は、80ml/100g以上が好ましく、90ml/100g以上がより好ましく、100ml/100g以上が更に好ましく、110ml/100g以上が特に好ましく、114ml/100g以上が最も好ましい。また、上記DBP吸油量は、200ml/100g以下が好ましく、170ml/100g以下がより好ましく、150ml/100g以下が更に好ましく、125ml/100g以下が特に好ましい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、カーボンブラックのジブチルフタレート吸油量は、JIS K6217-4:2001に準拠して求められる。
【0113】
カーボンブラックとしては、例えば、旭カーボン(株)、キャボットジャパン(株)、東海カーボン(株)、三菱ケミカル(株)、ライオン(株)、新日化カーボン(株)、コロンビアカーボン社等の製品を使用できる。
【0114】
エラストマー成分(好ましくはゴム成分)100質量部に対するカーボンブラックの含有量は、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上、更に好ましくは20質量部以上であり、また、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは50質量部以下、特に好ましくは30質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0115】
上記エラストマー組成物は、シリカを含有してもよい。
シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0116】
シリカとしては、例えば、エボニックデグッサ社、ローディア社、東ソー・シリカ(株)、ソルベイジャパン(株)、(株)トクヤマ等の製品を使用できる。
【0117】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、好ましくは80m2/g以上、より好ましくは100m2/g以上、更に好ましくは120m2/g以上、特に好ましくは150m2/g以上である。また、該N2SAは、好ましくは300m2/g以下、より好ましくは250m2/g以下、更に好ましくは200m2/g以下、特に好ましくは180m2/g以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、シリカのN2SAは、ASTM D3037-81に準拠して測定できる。
【0118】
シリカの平均粒子径は、好ましくは24nm以下、より好ましくは18nm以下、更に好ましくは16nm以下、特に好ましくは15nm以下であり、また、好ましくは6nm以上、より好ましくは9nm以上、更に好ましくは12nm以上である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0119】
なお、本明細書において、シリカの平均粒子径の測定方法は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察が用いられる。具体的には、シリカ粒子を透過型電子顕微鏡で写真撮影し、粒子の形状が球形の場合には球の直径を粒子径とし、針状又は棒状の場合には短径を粒子径とし、不定型の場合には短径と長径の平均値を粒子径とし、微粒子100個の粒径の平均値を平均粒子径とする。
【0120】
エラストマー成分(好ましくはゴム成分)100質量部に対するシリカの含有量は、好ましくは80質量部以上、より好ましくは85質量部以上、更に好ましくは90質量部以上、より更に好ましくは95質量部以上、特に好ましくは100質量部以上であり、また、好ましくは200質量部以下、より好ましくは180質量部以下、更に好ましくは150質量部以下、特に好ましくは120質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0121】
上記エラストマー組成物は、シリカを含有する場合、シリカと共にシランカップリング剤を含むことが好ましい。
シランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、などのスルフィド系、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、Momentive社製のNXT、NXT-Zなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、などのグリシドキシ系、3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシランなどのクロロ系などがあげられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、効果がより良好に得られるという理由から、スルフィド系、メルカプト系が好ましい。
【0122】
シランカップリング剤としては、例えば、エボニックデグッサ社、Momentive社、信越シリコーン(株)、東京化成工業(株)、アヅマックス(株)、東レ・ダウコーニング(株)等の製品を使用できる。
【0123】
シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、3質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、8質量部以上が更に好ましく、また、25質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下が更に好ましい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0124】
上記エラストマー組成物は、カーボンブラック、シリカ以外の他のフィラー(充填剤)を含んでもよい。他のフィラー(充填剤)としては、ゴム分野で公知の材料を使用でき、例えば、炭酸カルシウム、タルク、アルミナ、クレイ、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、マイカなどの無機フィラー;難分散性フィラー等が挙げられる。
【0125】
エラストマー成分(好ましくはゴム成分)100質量部に対する充填剤の総量(充填剤の合計含有量)は、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは15質量部以上、特に好ましくは20質量部以上であり、また、好ましくは300質量部以下、より好ましくは250質量部以下、更に好ましくは200質量部以下、特に好ましくは150質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0126】
上記エラストマー組成物は、可塑剤を含有してもよい。
本明細書において、可塑剤とは、ゴム成分に可塑性を付与する材料であり、液体可塑剤(25℃で液体(液状)の可塑剤)、固体可塑剤(25℃で固体の可塑剤)が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0127】
上記エラストマー組成物において、可塑剤の含有量(可塑剤の総量)は、エラストマー成分(好ましくはゴム成分)100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは30質量部以上、更に好ましくは50質量部以上、より更に好ましくは55質量部以上、より更に好ましくは60質量部以上、特に好ましくは65質量部以上、最も好ましくは70質量部以上であり、また、好ましくは200質量部以下、より好ましくは150質量部以下、更に好ましくは100質量部以下、特に好ましくは90質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、可塑剤の含有量には、ゴム(油展ゴム、樹脂伸展ゴム)、硫黄(オイル含有硫黄)に含まれるオイルや樹脂の量も含まれる。
【0128】
液体可塑剤としては、オイル、液状ポリマー(液状樹脂、液状ジエン系ポリマー(液状ゴム)、液状ファルネセン系ポリマー等)等が挙げられる。固体可塑剤としては、25℃で固形(固体)のゴム業界で通常用いられるような固体樹脂類等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0129】
上記エラストマー組成物において、液体可塑剤の含有量は、エラストマー成分(好ましくはゴム成分)100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは15質量部以上、特に好ましくは20質量部以上、最も好ましくは30質量部以上であり、また、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下、更に好ましくは50質量部以下、特に好ましくは40質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、液体可塑剤の含有量には、油展ゴムに含まれるオイルの量、硫黄に含まれるオイルの量も含まれる。
【0130】
上記オイルとしては、特に限定されず、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどのプロセスオイル、TDAE、MES等の低PCA(多環式芳香族)プロセスオイル、植物油、及びこれらの混合物等、従来公知のオイルを使用できる。これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、ライフサイクルアナリシスの観点から、ゴム混合用ミキサーや自動車エンジンなどで使用されたあとの潤滑油や廃食油などを適宜用いても良い。
【0131】
上記植物油としては、例えば、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、べに花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油等が挙げられる。
【0132】
上記オイルとしては、例えば、出光興産(株)、三共油化工業(株)、(株)ジャパンエナジー、オリソイ社、H&R社、豊国製油(株)、昭和シェル石油(株)、富士興産(株)、日清オイリオグループ(株)等の製品を使用できる。
【0133】
上記液状樹脂としては、例えば、25℃で液状のテルペン系樹脂(テルペンフェノール樹脂、芳香族変性テルペン樹脂を含む)、ロジン樹脂、スチレン系樹脂、C5系樹脂、C9系樹脂、C5/C9系樹脂、ジシクロペンタジエン(DCPD)樹脂、クマロンインデン系樹脂(クマロン、インデン単体樹脂を含む)、フェノール樹脂、オレフィン系樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。また、これらの水素添加物も使用可能である。
【0134】
上記液状樹脂としては、例えば、丸善石油化学(株)、住友ベークライト(株)、ヤスハラケミカル(株)、東ソー(株)、RutgersChemicals社、BASF社、アリゾナケミカル社、日塗化学(株)、(株)日本触媒、ENEOS(株)、荒川化学工業(株)、田岡化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0135】
上記液状ジエン系ポリマー(液状ゴム)としては、例えば、25℃で液状の液状スチレンブタジエン共重合体(液状SBR)、液状ブタジエン重合体(液状BR)、液状イソプレン重合体(液状IR)、液状スチレンイソプレン共重合体(液状SIR)、液状スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(液状SBSブロックポリマー)、液状スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体(液状SISブロックポリマー)等が挙げられる。これらは、末端や主鎖が極性基で変性されていても構わない。また、これらの水素添加物も使用可能である。
【0136】
上記液状ジエン系ポリマーは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、1.0×103以上であることが好ましく、3.0×103以上であることがより好ましい。また、該Mwは、5.0×104以下であることが好ましく、1.5×104以下であることがより好ましい。また、該液状ジエン系ポリマーのMwの下限又は上限は、4500、8500でもよい。
なお、本明細書において、液状ジエン系ポリマーのMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算値である。
【0137】
上記液状ジエン系ポリマーとしては、例えば、サートマー社、(株)クラレ等の製品を使用できる。
【0138】
上記固体可塑剤としては、ゴム配合物として、通常用いられる固体樹脂(レジン)を使用でき、例えば、25℃で固体の芳香族ビニル重合体、クマロンインデン樹脂、クマロン樹脂、インデン樹脂、フェノール樹脂、ロジン樹脂、石油樹脂、テルペン系樹脂、アクリル系樹脂などが挙げられる。また、樹脂は、水添されていてもよい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、樹脂自体が複数の由来のモノマー成分を共重合したものでもよい。これらのなかでも、効果がより良好に得られる観点から、芳香族ビニル重合体、テルペン系樹脂が好ましく、芳香族ビニル重合体が特に好ましい。
【0139】
上記エラストマー組成物において、固体可塑剤の含有量は、エラストマー成分(好ましくはゴム成分)100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは15質量部以上、更に好ましくは25質量部以上、特に好ましくは40質量部以上、最も好ましくは50質量部以上であり、また、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは70質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0140】
上記樹脂の軟化点は、50℃以上が好ましく、55℃以上がより好ましく、60℃以上が更に好ましく、85℃以上が特に好ましい。また、160℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、140℃以下が更に好ましく、100℃以下が特に好ましい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、上記樹脂の軟化点は、JIS K6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0141】
上記芳香族ビニル重合体は、芳香族ビニルモノマーを構成単位として含むポリマーである。例えば、α-メチルスチレン及び/又はスチレンを重合して得られる樹脂が挙げられ、具体的には、スチレンの単独重合体(スチレン樹脂)、α-メチルスチレンの単独重合体(α-メチルスチレン樹脂)、α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体、スチレンと他のモノマーの共重合体などが挙げられる。
【0142】
上記クマロンインデン樹脂は、樹脂の骨格(主鎖)を構成する主なモノマー成分として、クマロン及びインデンを含む樹脂である。クマロン、インデン以外に骨格に含まれるモノマー成分としては、スチレン、α-メチルスチレン、メチルインデン、ビニルトルエンなどが挙げられる。
【0143】
上記クマロン樹脂は、樹脂の骨格(主鎖)を構成する主なモノマー成分として、クマロンを含む樹脂である。
【0144】
上記インデン樹脂は、樹脂の骨格(主鎖)を構成する主なモノマー成分として、インデンを含む樹脂である。
【0145】
上記フェノール樹脂としては、例えば、フェノールと、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フルフラールなどのアルデヒド類とを酸又はアルカリ触媒で反応させることにより得られるポリマー等の公知のものを使用できる。なかでも、酸触媒で反応させることにより得られるもの(ノボラック型フェノール樹脂など)が好ましい。
【0146】
上記ロジン樹脂としては、天然ロジン、重合ロジン、変性ロジン、これらのエステル化合物、これらの水素添加物に代表されるロジン系樹脂等が挙げられる。
【0147】
上記石油樹脂としては、C5系樹脂、C9系樹脂、C5/C9系樹脂、ジシクロペンタジエン(DCPD)樹脂、これらの水素添加物などが挙げられる。なかでも、DCPD樹脂、水添DCPD樹脂が好ましい。
【0148】
上記テルペン系樹脂は、テルペンを構成単位として含むポリマーであり。例えば、テルペン化合物を重合して得られるポリテルペン樹脂、テルペン化合物と芳香族化合物とを重合して得られる芳香族変性テルペン樹脂などが挙げられる。芳香族変性テルペン樹脂としては、テルペン化合物及びフェノール系化合物を原料とするテルペンフェノール樹脂や、テルペン化合物及びスチレン系化合物を原料とするテルペンスチレン樹脂、テルペン化合物、フェノール系化合物及びスチレン系化合物を原料とするテルペンフェノールスチレン樹脂も使用できる。なお、テルペン化合物としては、α-ピネン、β-ピネンなど、フェノール系化合物としては、フェノール、ビスフェノールAなど、芳香族化合物としては、スチレン系化合物(スチレン、α-メチルスチレンなど)が挙げられる。
【0149】
上記アクリル系樹脂は、アクリル系モノマーを構成単位として含むポリマーである。例えば、カルボキシル基を有し、芳香族ビニルモノマー成分とアクリル系モノマー成分とを共重合して得られる、スチレンアクリル樹脂等のスチレンアクリル系樹脂などが挙げられる。なかでも、無溶剤型カルボキシル基含有スチレンアクリル系樹脂を好適に使用できる。
【0150】
上記樹脂としては、例えば、丸善石油化学(株)、住友ベークライト(株)、ヤスハラケミカル(株)、東ソー(株)、RutgersChemicals社、BASF社、アリゾナケミカル社、エクソンモービル社、KRATON社、日塗化学(株)、(株)日本触媒、ENEOS(株)、荒川化学工業(株)、田岡化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0151】
上記エラストマー組成物は、老化防止剤を含有してもよい。
老化防止剤としては、例えば、フェニル-α-ナフチルアミン等のナフチルアミン系老化防止剤;オクチル化ジフェニルアミン、4,4′-ビス(α,α′-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系老化防止剤;N-イソプロピル-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-(1,3-ジメチルブチル)-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N′-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン等のp-フェニレンジアミン系老化防止剤;2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物等のキノリン系老化防止剤;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スチレン化フェノール等のモノフェノール系老化防止剤;テトラキス-[メチレン-3-(3′,5′-ジ-t-ブチル-4′-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等のビス、トリス、ポリフェノール系老化防止剤等が挙げられる。市販品としては、精工化学(株)、住友化学(株)、大内新興化学工業(株)、フレクシス社等の製品を使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0152】
上記エラストマー組成物において、老化防止剤の含有量は、エラストマー成分(好ましくはゴム成分)100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは0.8質量部以上、更に好ましくは1.0質量部以上、より更に好ましくは2.0質量部以上であり、また、好ましくは10.0質量部以下、より好ましくは6.0質量部以下、更に好ましくは4.0質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0153】
上記エラストマー組成物は、ワックスを含有してもよい。
ワックスとしては、特に限定されず、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス;植物系ワックス、動物系ワックス等の天然系ワックス;エチレン、プロピレン等の重合物等の合成ワックス等が挙げられる。市販品としては、大内新興化学工業(株)、日本精蝋(株)、精工化学(株)等の製品を使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0154】
上記エラストマー組成物において、ワックスの含有量は、エラストマー成分(好ましくはゴム成分)100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは6質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0155】
上記エラストマー組成物は、ステアリン酸を含有してもよい。
ステアリン酸としては、従来公知のものを使用でき、市販品としては、日油(株)、花王(株)、富士フイルム和光純薬(株)、千葉脂肪酸(株)等の製品を使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0156】
上記エラストマー組成物において、ステアリン酸の含有量は、エラストマー成分(好ましくはゴム成分)100質量部に対して、好ましくは1.0質量部以上、より好ましくは2.0質量部以上、更に好ましくは3.0質量部以上であり、また、好ましくは10.0質量部以下、より好ましくは6.0質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0157】
上記エラストマー組成物は、酸化亜鉛を含有してもよい。
酸化亜鉛としては、従来公知のものを使用でき、市販品としては、三井金属鉱業(株)、東邦亜鉛(株)、ハクスイテック(株)、正同化学工業(株)、堺化学工業(株)等の製品を使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0158】
上記エラストマー組成物において、酸化亜鉛の含有量は、エラストマー成分(好ましくはゴム成分)100質量部に対して、好ましくは1.0質量部以上、より好ましくは2.5質量部以上、更に好ましくは3.0質量部以上、より更に好ましくは3.5質量部以上であり、また、好ましくは10.0質量部以下、より好ましくは6.0質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0159】
上記エラストマー組成物は、硫黄を含有してもよい。
硫黄としては、ゴム工業において一般的に架橋剤として用いられる粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、可溶性硫黄等が挙げられる。市販品としては、鶴見化学工業(株)、軽井沢硫黄(株)、四国化成工業(株)、フレクシス社、日本乾溜工業(株)、細井化学工業(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0160】
上記エラストマー組成物において、硫黄の含有量は、エラストマー成分(好ましくはゴム成分)100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1.5質量部以上、更に好ましくは1.8質量部以上であり、また、好ましくは3.5質量部以下、より好ましくは2.8質量部以下、更に好ましくは2.5質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0161】
上記エラストマー組成物は、加硫促進剤を含有してもよい。
加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド等のチアゾール系加硫促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT-N)等のチウラム系加硫促進剤;N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N′-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤を挙げることができる。市販品としては、住友化学(株)、大内新興化学工業(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0162】
上記エラストマー組成物において、加硫促進剤の含有量は、エラストマー成分(好ましくはゴム成分)100質量部に対して、好ましくは1.0質量部以上、より好ましくは1.5質量部以上、更に好ましくは2.5質量部以上、より更に好ましくは3.5質量部以上であり、また、好ましくは10.0質量部以下、より好ましくは8.0質量部以下、更に好ましくは7.0質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0163】
上記エラストマー組成物には、上記成分の他、ゴム工業において一般的に用いられている添加剤、例えば、有機過酸化物等を更に配合してもよい。これらの添加剤の含有量は、エラストマー成分(好ましくはゴム成分)100質量部に対して、0.1~200質量部が好ましい。
【0164】
上記エラストマー組成物は、タイヤ、靴底、床材、防振材、免震材、ブチル枠材、ベルト、ホース、パッキン、薬栓、その他のゴム製工業製品等に用いることができる。特に、低燃費性能などのタイヤ性能に優れることから、タイヤ用エラストマー組成物として用いることが好ましい。
【0165】
上記タイヤ用エラストマー組成物を適用するタイヤ部材としては特に限定されず、トレッド(キャップトレッド、ベーストレッドなど)、サイドウォール、ビードエイペックス、クリンチエイペックス、インナーライナー、アンダートレッド、ブレーカートッピング、プライトッピング等、任意のタイヤの各部材が挙げられる。なかでも、低燃費性能などに優れることから、トレッドに好適に適用できる。
【0166】
上記タイヤ用エラストマー組成物を適用するタイヤとしては、空気入りタイヤ、非空気入りタイヤなどが挙げられるが、なかでも、空気入りタイヤが好ましい。特に、夏用タイヤ(サマータイヤ)、冬用タイヤ(スタッドレスタイヤ、スノータイヤ、スタッドタイヤなど)、オールシーズンタイヤ、等として好適に使用できる。タイヤは、乗用車用タイヤ、大型乗用車用、大型SUV用タイヤ、トラック、バスなどの重荷重用タイヤ、ライトトラック用タイヤ、二輪自動車用タイヤ、レース用タイヤ(高性能タイヤ)などに使用可能である。なかでも、乗用車用タイヤに好適に使用できる。
【0167】
上記タイヤは、上記エラストマー組成物を用いて通常の方法により製造される。例えば、各種材料を配合したエラストマー組成物を、未加硫の段階でトレッドなどのタイヤ部材の形状に合わせて押し出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造することができる。
【実施例0168】
以下では、実施をする際に好ましいと考えられる例(実施例)を示すが、本発明の範囲は実施例に限られない。
【0169】
以下に示す各種薬品を用いて表1に従って配合等を変化させて得られるタイヤを検討し、下記評価方法に基づいて算出した結果を表1に示す。
【0170】
TEMPO:東京化成工業(株)製の2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシラジカル(上記式(1)中、R1~R4がメチル基で表される化合物)
臭化ナトリウム:富士フイルム和光純薬(株)製
次亜塩素酸ナトリウム:東京化成工業(株)製
NaOH:富士フイルム和光純薬(株)製のNaOH
過酸化水素水:富士フイルム和光純薬工業(株)製の過酸化水素水
フェニルエステル化合物1:富士フイルム和光純薬工業(株)製の3-フェニルプロピオン酸メチル(25℃での蒸気圧:5.6×10-3kPa、沸点:239℃)
フェニルエステル化合物2:富士フイルム和光純薬工業(株)製の安息香酸メチル(25℃での蒸気圧:5.0×10-2kPa、沸点:198℃)
フェニルエステル化合物3:東京化成工業(株)製の安息香酸ベンジル(25℃での蒸気圧:3.0×10-2kPa、沸点:323℃)
NR:TSR20(天然ゴム)
BR:宇部興産(株)製のBR150B(シス含量:98質量%)
SBR:日本ゼオン(株)製のNipol 1502(E-SBR、スチレン量:23.5質量%、ビニル量:20質量%未満)
カーボンブラック:三菱ケミカル(株)製のダイアブラックI(N220、N2SA:114m2/g、DBP吸油量:114ml/100g)
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N´-フェニル-p-フェニレンジアミン)
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学(株)製ノクセラーNS(N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0171】
<TEMPO酸化ミクロフィブリル化植物繊維の調製>
(製造例1)
乾燥重量で5.00gの未乾燥の針葉樹漂白クラフトパルプ(主に1000nmを超える繊維径の繊維から成る)、39mgのTEMPO及び514mgの臭化ナトリウムを水500mlに分散後、15質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1gのパルプ(絶乾)に対して次亜塩素酸ナトリウムの量が5.5mmolとなるように次亜塩素酸ナトリウムを加えて反応を開始する。反応中は3MのNaOH水溶液を滴下してpHを10.0に保つ。pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なし、反応物をガラスフィルターにてろ過後、十分な量の水による水洗、ろ過を5回繰り返し、固形分量15質量%の水を含浸させた反応物繊維を得る。
次に、該反応物繊維に水を加え、固形分量1質量%スラリーとする。
酸化されたセルロース4g(絶乾)に1MのNaOH1.5ml、30%過酸化水素水0.5mlを添加し、超純水を加えて、5%(w/v)に調整後、オートクレーブで80℃で2時間加熱する。
未洗浄のアルカリ加水分解処理後の酸化されたセルロースを超高圧ホモジナイザー(処理圧140MPa)で3回処理し、透明なゲル状分散液を得る。得られたゲル状分散液に、pHを2に調整した希塩酸を添加後、水洗し、そこへテトラメチルアンモニウムヒドロキシドを加える中和処理を行い、TEMPO酸化ミクロフィブリル化植物繊維を作製する。
なお、TEMPO酸化ミクロフィブリル化植物繊維に存在するカルボキシル基とアルデヒド基の量の総和及びカルボキシル基の量は、セルロース繊維の重量に対し、1.6mmol/g及び1.5mmol/gで、平均繊維径は4.0nm、平均繊維長は470nmである。
ここで、マイカ切片上に固定したTEMPO酸化ミクロフィブリル化植物繊維を走査型プローブ顕微鏡(日立ハイテクサイエンス社製)で観察(3000nm×3000nm)し、繊維50本分の繊維幅を測定して、平均繊維径を算出する。平均繊維長は、得られた観察画像から画像解析ソフトWinROOF(三谷商事社製)を用いて算出する。
また、TEMPO酸化ミクロフィブリル化植物繊維に存在するカルボキシル基とアルデヒド基の量の総和及びカルボキシル基の量の定量は、特開2008-001728号公報に記載の方法により行う。
【0172】
<複合物の調製>
(製造例2)
実施例1~6においては、表1に示す配合処方に従い、500mlのセパラブルフラスコに、TEMPO酸化ミクロフィブリル化植物繊維を計量後、フェニルエステル化合物を滴下する。オーブン40℃で12時間静置して、TEMPO酸化ミクロフィブリル化植物繊維とフェニルエステル化合物との複合物を得る。
【0173】
<加硫ゴム組成物の調製>
実施例1~6においては、表1に示す配合処方に従い、オープンロールを用いて、天然ゴム(NR)と上記製造例2で得られた複合物とを60℃の条件下で60分間混練して、ゴム混練物を得る。その後、表1に示す配合処方にしたがい、(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーミキサーを用いて、得られるゴム混練物に硫黄及び加硫促進剤以外の薬品を160℃の条件下で4分間混練りし、混練り物を得る。次に、得られる混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で4分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得る。得られた未加硫ゴム組成物を170℃で12分間プレス加硫して加硫ゴム組成物を得る。
また、比較例1~3においては、表1に示す配合処方に従い、(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の薬品を160℃の条件下で4分間混練りし、混練り物を得る。次に、得られる混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で4分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得る。得られた未加硫ゴム組成物を170℃で12分間プレス加硫して加硫ゴム組成物を得る。
【0174】
表1に従って配合を変化させた組成物により得られる加硫ゴム組成物を想定して、下記の評価方法に基づいて、算出した結果を表1に示す。
なお、評価基準は、比較例1とする。
【0175】
(引張試験)
上記加硫ゴム組成物を用いて3号ダンベル型ゴム試験片を作製し、JIS K6251:2010「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」に準じて、温度23℃の条件下で引張試験を実施し、23℃における破断時伸度EB〔%〕(23℃)、破断時強度TB〔MPa〕(23℃)を測定し、破壊強度〔MPa・%〕(=TB×EB/2)を算出して、評価基準を100として指数表示する(破壊強度指数)。指数が大きい程、破壊強度が大きく、補強性に優れていることを示す。
(引張試験の条件)
環境温度=23℃
試験機=東洋精機製作所社製の商品名「ストログラフ」
引張速度=500mm/min
【0176】
(粘弾性試験)
粘弾性スペクトロメータVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度70℃、周波数10Hz、初期歪み10%及び動歪み2%の条件下で、上記加硫ゴム組成物の損失正接(tanδ)を測定する。評価基準を100として、下記計算式により測定結果を指数表示する。指数が大きい程、転がり抵抗性に優れ、低燃費性に優れていることを示す。
(転がり抵抗指数)=(評価基準のtanδ)/(各配合のtanδ)×100
【0177】
<総合性能>
破壊強度指数、転がり抵抗指数の和を総合性能として評価する。
【0178】
【0179】
本発明(1)は、エラストマー成分、ミクロフィブリル化植物繊維、及び、フェニルエステル化合物を含むエラストマー組成物である。
【0180】
本発明(2)は、前記フェニルエステル化合物の25℃での蒸気圧が1.0kPa以下である本発明(1)記載のエラストマー組成物である。
【0181】
本発明(3)は、前記フェニルエステル化合物の含有量が、前記エラストマー成分100質量部に対して、60質量部以下である本発明(1)又は(2)記載のエラストマー組成物である。
【0182】
本発明(4)は、前記ミクロフィブリル化植物繊維の含有量が、前記エラストマー成分100質量部に対して、20質量部以下である本発明(1)~(3)のいずれかに記載のエラストマー組成物である。
【0183】
本発明(5)は、前記エラストマー成分が、イソプレン系ゴムを含む本発明(1)~(4)のいずれかに記載のエラストマー組成物である。
【0184】
本発明(6)は、前記ミクロフィブリル化植物繊維の平均繊維径が、10μm以下である本発明(1)~(5)のいずれかに記載のエラストマー組成物である。
【0185】
本発明(7)は、前記ミクロフィブリル化植物繊維の配合量に対する前記フェニルエステル化合物の配合量の比が、3以下である本発明(1)~(6)のいずれかに記載のエラストマー組成物である。
【0186】
本発明(8)は、本発明(1)~(7)のいずれかに記載のエラストマー組成物で構成されたタイヤ部材を有するタイヤである。