IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東亞合成株式会社の特許一覧 ▶ 小山 義之の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089234
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】ハイドロゲル形成材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/21 20060101AFI20240626BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20240626BHJP
   C08J 3/075 20060101ALI20240626BHJP
   A61L 15/22 20060101ALI20240626BHJP
   A61L 15/24 20060101ALI20240626BHJP
   A61L 15/42 20060101ALI20240626BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20240626BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
C08J3/21 CEY
C08J5/00 CEZ
C08J3/075
A61L15/22 100
A61L15/24 100
A61L15/42 310
A61L31/14 300
A61L31/04 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204477
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591079395
【氏名又は名称】小山 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】大内 彩歌
(72)【発明者】
【氏名】中村 賢一
(72)【発明者】
【氏名】小山 義之
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智子
【テーマコード(参考)】
4C081
4F070
4F071
【Fターム(参考)】
4C081AA02
4C081AA12
4C081AC16
4C081CA08
4C081CA10
4C081DA12
4F070AA29
4F070AA38
4F070AB11
4F070AB13
4F070AB22
4F070CB04
4F070CB11
4F070FA04
4F070FA17
4F070FB09
4F071AA32
4F071AA37
4F071AA81
4F071AC05A
4F071AE19A
4F071AF05
4F071AG34
4F071AH19
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC12
(57)【要約】
【課題】生体組織に対する接着性に優れたハイドロゲル形成材を簡便な方法により製造することができるハイドロゲル形成材の製造方法を提供すること。
【解決手段】カルボキシル基を有する重合体(A)を含むアルコール溶液である第1溶液と、カルボキシル基と水素結合を形成し得る官能基を有する重合体(B)(ただし、重合体(A)を除く)を含むアルコール溶液である第2溶液とを混合する工程と、第1溶液と第2溶液との混合液から溶媒を除去する工程と、を含む方法により、水分との接触によりハイドロゲルを形成するハイドロゲル形成材を製造する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分との接触によりハイドロゲルを形成するハイドロゲル形成材の製造方法であって、
カルボキシル基を有する重合体(A)のアルコール溶液である第1溶液と、カルボキシル基と水素結合を形成し得る官能基を有する重合体(B)(ただし、前記重合体(A)を除く)のアルコール溶液である第2溶液とを混合する工程と、
前記第1溶液と前記第2溶液との混合液から溶媒を除去する工程と、
を含む、ハイドロゲル形成材の製造方法。
【請求項2】
前記重合体(A)は、架橋重合体及び重量平均分子量が6,000以上の重合体の少なくともいずれかである、請求項1に記載のハイドロゲル形成材の製造方法。
【請求項3】
前記重合体(B)は、架橋重合体及び重量平均分子量が6,000以上の重合体の少なくともいずれかである、請求項1又は2に記載のハイドロゲル形成材の製造方法。
【請求項4】
前記第1溶液に含まれるアルコール及び前記第2溶液に含まれるアルコールは、炭素数1~5の直鎖状又は分岐状のアルコールである、請求項1又は2に記載のハイドロゲル形成材の製造方法。
【請求項5】
前記重合体(A)はポリ(メタ)アクリル酸である、請求項1又は2に記載のハイドロゲル形成材の製造方法。
【請求項6】
前記重合体(B)はアミド基を有する、請求項1又は2に記載のハイドロゲル形成材の製造方法。
【請求項7】
前記重合体(B)は、ポリビニルピロリドン及びポリ(メタ)アクリルアミドよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項6に記載のハイドロゲル形成材。
【請求項8】
前記ハイドロゲル形成材が医療用処置材である、請求項1又は2に記載のハイドロゲル形成材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロゲル形成材の製造方法に関し、より詳細には、水分との接触によりハイドロゲルを形成するハイドロゲル形成材を得るための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織に接着するハイドロゲルは、癒着防止材や止血材、創傷被覆材等の各種医療用処置材として有用であり、従来、種々の検討が行われている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、ポリアクリル酸及びポリビニルピロリドンのうち一方の重合体の水溶液をフィルム状に乾燥させ、得られたフィルムに対して、他方の重合体の水溶液を接触させた後、凍結乾燥することにより、水分の吸収によりハイドロゲルを形成可能な乾燥ゲルを得ることが開示されている。また、特許文献1には、水溶性高分子の存在下においてポリアクリル酸の水溶液にポリビニルピロリドンの水溶液を混合した混合液を凍結乾燥することにより乾燥ゲルを得ることが開示されている。このようにして得られた乾燥ゲルは、傷口や止血部位等のような濡れた生体組織に貼付されることにより、血液や組織液等の水分を吸収して膨潤し、生体組織に接着する機能を持つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-100462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
重合体の水溶液をフィルム状に乾燥させて、このフィルムに対し別の重合体の水溶液を接触させた後、乾燥することによりハイドロゲル形成材を製造する場合、フィルムを作製する工程が必要になり、工程数が多く操作が煩雑になることが懸念される。また、本発明者らが検討したところ、水溶性高分子の存在下で重合体の水溶液同士を混合した混合液を乾燥することにより得られる乾燥ゲルは、生体組織に対する接着性が十分でなく、実用性の点で劣ることが懸念されることから、更なる改善の余地があることが分かった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、生体組織に対する接着性に優れたハイドロゲル形成材を簡便な方法により製造することができるハイドロゲル形成材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討し、重合体溶液の調製に用いる溶媒として特定の溶媒を用いることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明によれば以下の手段が提供される。
【0007】
〔1〕 水分との接触によりハイドロゲルを形成するハイドロゲル形成材の製造方法であって、カルボキシル基を有する重合体(A)のアルコール溶液である第1溶液と、カルボキシル基と水素結合を形成し得る官能基を有する重合体(B)(ただし、前記重合体(A)を除く)のアルコール溶液である第2溶液とを混合する工程と、前記第1溶液と前記第2溶液との混合液から溶媒を除去する工程と、を含む、ハイドロゲル形成材の製造方法。
【0008】
〔2〕 前記重合体(A)は、架橋重合体及び重量平均分子量が6,000以上の重合体の少なくともいずれかである、上記〔1〕に記載のハイドロゲル形成材の製造方法。
〔3〕 前記重合体(B)は、架橋重合体及び重量平均分子量が6,000以上の重合体の少なくともいずれかである、上記〔1〕又は〔2〕に記載のハイドロゲル形成材の製造方法。
〔4〕 前記第1溶液に含まれるアルコール及び前記第2溶液に含まれるアルコールは、炭素数1~5の直鎖状又は分岐状のアルコールである、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のハイドロゲル形成材の製造方法。
〔5〕 前記重合体(A)はポリ(メタ)アクリル酸である、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のハイドロゲル形成材の製造方法。
〔6〕 前記重合体(B)はアミド基を有する、上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のハイドロゲル形成材の製造方法。
〔7〕 前記重合体(B)は、ポリビニルピロリドン及びポリ(メタ)アクリルアミドよりなる群から選択される少なくとも1種である、上記〔6〕に記載のハイドロゲル形成材。
〔8〕 前記ハイドロゲル形成材が医療用処置材である、上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のハイドロゲル形成材の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上記重合体(A)のアルコール溶液と上記重合体(B)のアルコール溶液とを混合し、得られた混合液から溶媒を除去することにより、生体組織に対する接着性に優れたハイドロゲル形成材を簡便な方法により製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳しく説明する。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味する。「(メタ)アクリロ」とは、アクリロ及び/又はメタクリロを意味する。「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
【0011】
本発明におけるハイドロゲル形成材は、水分との接触によりハイドロゲルを形成するものである。当該ハイドロゲル形成材は、カルボキシル基を有する重合体(A)と、カルボキシル基と水素結合を形成し得る官能基(以下、「官能基E」ともいう)を有する重合体(B)(ただし、重合体(A)を除く)とを含む。以下ではまず、本発明におけるハイドロゲル形成材について説明し、続いて、当該ハイドロゲル形成材を得るための製造方法について詳細に説明する。
【0012】
《ハイドロゲル形成材》
本発明におけるハイドロゲル形成材は、重合体(A)が有するカルボキシル基と、重合体(B)が有する官能基Eとの水素結合により形成された架橋構造を有し、水分と接触した際に吸水作用を示す。以下、ハイドロゲル形成材に含まれる成分、及び必要に応じて任意に配合される成分について説明する。
【0013】
<重合体(A)>
重合体(A)は、カルボキシル基を有していればよく特に限定されない。重合体(B)と共に使用した場合に水分との接触に伴い速やかにハイドロゲルを形成可能でありながら、構成単量体の重合性に優れ、カルボキシル基含有重合体の製造が比較的容易である点で、重合体(A)は、エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を含む重合体であることが好ましい。重合体(B)との間に架橋構造を適度に形成させ、これにより柔軟性及び水膨潤性に優れたハイドロゲル形成材を得る観点から、重合体(A)としては中でも、エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位であって、カルボキシル基を有する構造単位(以下、「構造単位(UA)」ともいう)を含む重合体を好ましく使用できる。構造単位(UA)としては、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体(以下、「カルボキシル基含有単量体」ともいう)に由来する構造単位が挙げられる。
【0014】
カルボキシル基含有単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、桂皮酸、コハク酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ω-カルボキシ-カプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、4-カルボキシスチレン等が挙げられる。生体組織に対する接着性をより優れたものとすることができる点において、カルボキシル基含有単量体としては中でも、(メタ)アクリル酸を好ましく使用できる。
【0015】
重合体(A)において、構造単位(UA)の割合は、重合体(A)を構成する全構造単位に対して、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上が更に好ましく、70質量%以上がより更に好ましく、80質量%以上が一層好ましく、90質量%以上がより一層好ましい。重合体(A)における構造単位(UA)の割合が上記範囲であると、生体組織に対する接着性により優れたハイドロゲルを得ることができる。なお、重合体(A)を構成する構造単位(UA)は1種のみでもよく、2種以上でもよい。
【0016】
得られるハイドロゲルの生体組織に対する接着性をより優れたものとすることができる点において、重合体(A)は中でも、ポリ(メタ)アクリル酸が好ましい。重合体(A)がポリ(メタ)アクリル酸である場合、重合体(A)は、(メタ)アクリル酸単位を、重合体(A)を構成する全構造単位に対して70質量%以上有することが好ましく、80質量%以上有することがより好ましく、90質量%以上有することが更に好ましく、95質量%以上有することがより更に好ましい。
【0017】
なお、重合体(A)を得る方法は、カルボキシル基含有単量体を用いる方法に限定されない。例えば、(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合した後、加水分解することによって重合体(A)を得てもよい。あるいは、(メタ)アクリルアミド及び(メタ)アクリロニトリル等の窒素含有単量体を重合した後、強アルカリで処理する方法や、水酸基を有する重合体に酸無水物を反応させる方法等により重合体(A)を得てもよい。これらの方法によっても、重合体(A)として構造単位(UA)を含む重合体を得ることができる。
【0018】
生体組織に対する接着性により優れたハイドロゲルを得ることができる点で、重合体(A)としては、重量平均分子量が6,000以上の重合体(以下、「高分子量重合体(AH)」ともいう)及び架橋重合体の少なくともいずれかを好ましく用いることができる。重合体(A)としては、これらのうち架橋重合体をより好ましく使用することができる。
【0019】
架橋重合体を製造する方法は特に限定されない。架橋重合体の製造方法としては、例えば以下の方法(1)及び方法(2)が挙げられる。これらのうち、操作が簡便であり、かつ架橋の程度を制御しやすい点で、方法(1)によることが好ましい。
(1)架橋性官能基を有する単量体(以下、「架橋性単量体」ともいう)と、カルボキシル基含有単量体とを共重合し、重合反応を利用して架橋させる方法
(2)反応性官能基を有する重合体を合成し、その後、必要に応じて架橋剤を添加して架橋させる方法
【0020】
架橋性単量体としては、架橋性官能基を有するエチレン性不飽和単量体を好ましく用いることができる。架橋性単量体の具体例としては、エチレン性不飽和基を2個以上有する多官能重合性単量体、及び自己架橋可能な架橋性官能基(例えば、加水分解性シリル基等)を有する自己架橋性単量体等が挙げられる。架橋性単量体は、均一な架橋構造を得やすい点で、これらのうち多官能重合性単量体が好ましい。
【0021】
多官能重合性単量体の具体例としては、多官能(メタ)アクリレート化合物、多官能アルケニル化合物、(メタ)アクリロイル基及びアルケニル基の両方を有する化合物等が挙げられる。多官能重合性単量体は、均一な架橋構造を得やすい点で、アルケニル基含有化合物(多官能アルケニル化合物、(メタ)アクリロイル基及びアルケニル基の両方を有する化合物)が好ましく、多官能アルケニル化合物がより好ましい。
【0022】
多官能アルケニル化合物の具体例としては、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、テトラアリルオキシエタン、ポリアリルサッカロース等の多官能アリルエーテル化合物;ジアリルフタレート等の多官能アリル化合物;ジビニルベンゼン等の多官能ビニル化合物等を挙げることができる。多官能アルケニル化合物は、これらの中でも、分子内に複数のアリルエーテル基を有する多官能アリルエーテル化合物が好ましい。(メタ)アクリロイル基及びアルケニル基の両方を有する化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸イソプロペニル、(メタ)アクリル酸ブテニル、(メタ)アクリル酸ペンテニル、(メタ)アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル等のアルケニル基含有(メタ)アクリル酸化合物等を挙げることができる。
【0023】
また、自己架橋性単量体の具体例としては、加水分解性シリル基含有ビニル単量体等が挙げられる。加水分解性シリル基含有ビニル単量体としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシランン等のビニルシラン類;(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸トリエトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸メチルジメトキシシリルプロピル等のシリル基含有(メタ)アクリル酸エステル類;トリメトキシシリルプロピルビニルエーテル、トリメトキシシリルウンデカン酸ビニル等が挙げられる。
【0024】
重合体(A)が架橋性単量体に由来する構造単位を含む場合、重合体(A)において、架橋性単量体に由来する構造単位の量は、重合体(A)を構成する全構造単位に対して、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。また、架橋性単量体に由来する構造単位の量は、重合体(A)を構成する全構造単位に対して、5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましい。重合体(A)を構成する架橋性単量体は1種のみでもよく、2種以上でもよい。
【0025】
なお、重合体(A)は、本発明の効果を損なわない範囲において、カルボキシル基含有単量体及び架橋性単量体とは異なる単量体(以下、「その他の単量体」ともいう)に由来する構造単位を更に有していてもよい。その他の単量体としては、エチレン性不飽和単量体を好ましく用いることができ、例えば(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸の脂肪族環式エステル、(メタ)アクリル酸の芳香族エステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0026】
これらの具体例としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル及び(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。
【0027】
(メタ)アクリル酸の脂肪族環式エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸tert-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロドデシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル及び(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル等が挙げられる。
【0028】
(メタ)アクリル酸の芳香族エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシメチル、(メタ)アクリル酸2-フェノキシエチル及び(メタ)アクリル酸3-フェノキシプロピル等が挙げられる。
【0029】
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸n-プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸n-ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸エトキシプロピル、(メタ)アクリル酸n-プロポキシプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブトキシプロピル、(メタ)アクリル酸メトキシブチル、(メタ)アクリル酸エトキシブチル、(メタ)アクリル酸n-プロポキシブチル及び(メタ)アクリル酸n-ブトキシブチル等が挙げられる。
【0030】
(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、及び(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等が挙げられる。
【0031】
ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの具体例としては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート及びポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0032】
重合体(A)において、その他の単量体に由来する構造単位の含有量は、重合体(A)を構成する全構造単位に対して、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、2質量%以下が更に好ましく、1質量%以下がより更に好ましい。重合体(A)を構成するその他の単量体は1種のみでもよく、2種以上でもよい。
【0033】
重合体(A)として架橋重合体を用いる場合、架橋重合体としては市販品を使用することもできる。このような市販品としては、例えば、商品名で、ジュンロン(登録商標)PW-120、同PW-121、同PW-312S(以上、東亞合成社製);Carbopol 934P NF、同941、同981、同Ultrez10、同Ultrez30(以上、Lubrizol社製)等が挙げられる。
【0034】
重合体(A)として高分子量重合体(AH)を用いる場合、高分子量重合体(AH)の重量平均分子量(Mw)は、水膨潤後のハイドロゲル形成材の生体組織に対する接着性を十分に高くする観点から、1万以上であることがより好ましく、5万以上であることが更に好ましく、10万以上であることがより更に好ましい。また、重合体及び重合体溶液の取り扱い性の観点から、高分子量重合体(AH)のMwは、好ましくは5,000万以下であり、より好ましくは3,000万以下であり、更に好ましくは1,000万以下である。なお、重合体(A)の分子量は、カルボキシル基をトリメチルシリルジアゾメタンによりメチル化処理した後、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりテトラヒドロフラン溶離液を用いて測定されるポリスチレン換算値である。
【0035】
<重合体(B)>
重合体(B)は、カルボキシル基と水素結合を形成し得る官能基(官能基E)を有し、かつ重合体(A)とは異なる重合体である。官能基Eとしては、例えばアミド基、シアノ基、カルボニル基、アミノ基、水酸基等が挙げられる。重合体(B)が有する官能基Eは1種でもよく2種以上でもよい。水膨潤性に優れたハイドロゲル形成材を得ることができる点において、官能基Eは中でも、アミド基及び/又は水酸基が好ましく、アミド基が特に好ましい。
【0036】
重合体(B)の具体例としては、アミド基を有する重合体として、アミド基を有するエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を含む重合体が挙げられ、具体的には、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-ビニル-2-ピロリドン、1-ビニル-4-メチル-2-ピロリドン等の単量体を用いて得られる重合体が挙げられる。アミド基を有する重合体は、これらのうち、ポリビニルピロリドン及びポリ(メタ)アクリルアミドよりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0037】
水酸基を有する重合体としては、ポリエチレングリコール(市販品として、例えば日油社製のマクロゴール4000、マクロゴール6000及びマクロゴール20000)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(市販品として、例えばBASF社製のクレモファーRH40、日光ケミカルズ社製のHCO-40及びHCO-60)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(市販品として、例えばADEKA社製のプルロニック(登録商標)F68)、ポリビニルアルコール等が挙げられる。水酸基を有する重合体は、これらのうち、ポリエチレングリコールが好ましい。
【0038】
重合体(B)は、上記の中でも、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリビニルアルコール及びアミド基を有する重合体よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。中でも、水分と接触した際の膨潤性に優れたハイドロゲル形成材を得る観点から、重合体(B)は、アミド基を有する重合体が好ましく、ポリビニルピロリドン及びポリ(メタ)アクリルアミドよりなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。これらの中でも特に、構成単量体の重合性に優れ、重合体(B)の製造が容易である点において、重合体(B)は、ポリビニルピロリドン及びポリアクリルアミドの少なくともいずれかであることが特に好ましい。
【0039】
ポリビニルピロリドンは、典型的には、N-ビニル-2-ピロリドンからなる重合体である。ただし、本発明の効果を損なわない範囲において、N-ビニル-2-ピロリドンとは異なる単量体に由来する構造単位を含んでいてもよい。N-ビニル-2-ピロリドンとは異なる単量体の具体例としては、重合体(A)を構成していてもよいその他の単量体として例示した化合物等が挙げられる。
【0040】
ポリビニルピロリドンにおいて、N-ビニル-2-ピロリドンとは異なる単量体に由来する構造単位の含有量は、ポリビニルピロリドンを構成する全構造単位に対して、3質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が更に好ましい。
【0041】
また同様に、ポリアクリルアミドは、典型的には、アクリルアミドからなる重合体である。ただし、本発明の効果を損なわない範囲において、アクリルアミドとは異なる単量体に由来する構造単位を含んでいてもよい。アクリルアミドとは異なる単量体の具体例としては、重合体(A)を構成していてもよいその他の単量体として例示した化合物等が挙げられる。ポリアクリルアミドにおいて、アクリルアミドとは異なる単量体に由来する構造単位の含有量は、ポリアクリルアミドを構成する全構造単位に対して、3質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が更に好ましい。
【0042】
ポリメタクリルアミドは、典型的には、メタクリルアミドからなる重合体である。ただし、本発明の効果を損なわない範囲において、メタクリルアミドとは異なる単量体に由来する構造単位を含んでいてもよい。メタクリルアミドとは異なる単量体の具体例としては、重合体(A)を構成していてもよいその他の単量体として例示した化合物等が挙げられる。ポリメタクリルアミドにおいて、メタクリルアミドとは異なる単量体に由来する構造単位の含有量は、ポリメタクリルアミドを構成する全構造単位に対して、3質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が更に好ましい。
【0043】
生体組織に対する接着性により優れたハイドロゲルを得ることができる点で、重合体(B)としては、重量平均分子量が6,000以上の重合体(以下、「高分子量重合体(BH)」ともいう)及び架橋重合体の少なくともいずれかを好ましく用いることができる。重合体(B)としては、これらのうち高分子量重合体(BH)をより好ましく使用することができる。
【0044】
重合体(B)として高分子量重合体(BH)を用いる場合、高分子量重合体(BH)の重量平均分子量(Mw)は、ハイドロゲルの力学的強度及び増粘効果を確保するとともに、生体組織に対する接着性に優れたハイドロゲルを得る観点から、より好ましくは1万以上であり、更に好ましくは3万以上であり、より更に好ましくは5万以上である。また、重合体及び重合体溶液の取り扱い性の観点から、高分子量重合体(BH)のMwは、好ましくは10,000万以下であり、より好ましくは5,000万以下であり、更に好ましくは3,000万以下である。なお、重合体(B)の重量平均分子量は、GPCにより測定されるポリスチレン換算値である。
【0045】
中でも、重合体(A)及び重合体(B)がそれぞれ、架橋重合体及び重量平均分子量が6,000以上の重合体の少なくともいずれかであることが、ハイドロゲルの生体組織に対する接着性を良好にできる点で特に好ましい。この場合、重合体(A)及び重合体(B)が共に架橋重合体であってもよく、重合体(A)及び重合体(B)が共に、重量平均分子量6,000以上の高分子量重合体であってもよい。また、重合体(A)及び重合体(B)の一方が架橋重合体であって、他方が重量平均分子量6,000以上の高分子量重合体であってもよい。
【0046】
なお、原料重合体である重合体(A)及び重合体(B)の分子量が高いほど、第1溶液と第2溶液との混合液中において重合体の動きが抑制され、これにより、より優れた水膨潤性を示すハイドロゲル形成材を得ることができたものと考えられる。
【0047】
ハイドロゲル形成材に含まれる重合体(A)と重合体(B)との合計量は、力学的強度が高く、かつ水分との接触により膨潤しやすいハイドロゲル形成材を得る観点、及び生体組織に対する接着性に優れたハイドロゲルを得る観点から、ハイドロゲル形成材の全量に対し、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましく、95質量%以上がより更に好ましい。
【0048】
ハイドロゲル形成材における各重合体の含有量は、重合体(A)100質量部に対して、重合体(B)が20~500質量部となるように調整することが好ましい。重合体(A)及び重合体(B)の含有量が上記範囲であると、力学的強度の改善効果が高く、また生体組織に対して優れた接着性を示すハイドロゲルを形成できる点で好適である。このような観点から、重合体(A)及び重合体(B)の含有量は、重合体(A)100質量部に対して、重合体(B)が30~400質量部となる量とすることがより好ましく、50~300質量部となる量とすることが更に好ましく、50~200質量部となる量とすることがより更に好ましく、75~150質量部となる量とすることが一層好ましい。
【0049】
なお、重合体(A)及び重合体(B)を製造するための重合方法は特段制限されるものではない。重合体(A)及び重合体(B)はそれぞれ、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法、塊状重合等の公知の重合方法を採用して、単量体を重合することにより得ることができる。溶液重合法による場合、例えば、有機溶剤及び単量体を反応器に仕込み、重合開始剤(例えば、アゾ化合物)を添加して、40~250℃に加熱して重合することにより、目的とする重合体を得ることができる。
【0050】
<その他の成分>
ハイドロゲル形成材には、使用する目的等に応じて、その他の成分が更に含有されていてもよい。その他の成分としては、例えば、水溶性重合体(以下、「水溶性重合体(C)」ともいう)等が挙げられる。また、ハイドロゲル形成材を医療用途等に適用する場合、その他の成分として、抗菌剤、抗炎症剤、血液凝固剤、抗凝固剤、局所麻酔剤、血管収縮剤及び血管拡張剤等の各種薬剤をハイドロゲル形成材に配合してもよい。なお、その他の成分としては、1種又は複数種を含有させることができる。その他の成分の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲において、各成分に応じて適宜選択することができる。
【0051】
水溶性重合体(C)としては、増粘剤として一般に使用され得る水溶性重合体が挙げられ、具体例として多糖類が挙げられる。多糖類としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体;ヒアルロン酸及びコンドロイチン硫酸等のムコ多糖類;カラギナン、ペクチン、ローカストビーンガム、グアーガム、キサンタンガム及びウェランガム等の水溶性天然高分子多糖類、並びにこれらの塩(例えば、ナトリウム塩)等が挙げられる。水溶性重合体(C)は、中でも、ヒアルロン酸又はその塩が好ましい。水溶性重合体(C)の重量平均分子量は、例えば20万以上であり、50万以上が好ましく、80万以上が更に好ましく、110万超であることがより更に好ましい。
【0052】
ハイドロゲル形成材における水溶性重合体(C)の含有量は、ハイドロゲルの形成を妨げないようにする観点から、重合体(A)及び重合体(B)の合計量100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましく、10質量部以下とすることがより好ましい。また、水溶性重合体(C)の含有量は、重合体(A)及び重合体(B)の合計量100質量部に対して、5質量部以下としてもよく、2質量部以下としてもよく、1質量部以下としてもよい。水溶性重合体(C)としては1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0053】
ハイドロゲル形成材は、水分との接触前は乾燥した状態であり、水分との接触により膨潤してハイドロゲルとなる。ハイドロゲル形成材の形状は特に限定されず、用途に応じて適宜設計し得るが、例えばフィルム状、シート状、スポンジ状、粉末状等が挙げられる。また、その大きさも特に限定されない。例えばハイドロゲル形成材がフィルム状又はシート状の場合、ハイドロゲル形成材の厚みは、通常0.1~50,000μm程度である。
【0054】
《ハイドロゲル形成材の製造方法》
上述した本発明におけるハイドロゲル形成材は、以下の工程1及び工程2を含む方法(以下、「本製造方法」ともいう)により製造することができる。
工程1:重合体(A)のアルコール溶液である第1溶液と、重合体(B)のアルコール溶液である第2溶液とを混合する工程
工程2:第1溶液と第2溶液との混合液から溶媒を除去する工程
【0055】
ここで、水溶性である重合体(A)及び重合体(B)を用い、重合体(A)が有するカルボキシル基と重合体(B)が有する官能基Eとの水素結合を利用してハイドロゲルを得る場合、各重合体を溶媒にそれぞれ溶解した溶液を混ぜ合わせ、溶媒を除去する方法を用いることにより、比較的簡便にハイドロゲル形成材を製造できるといえる。しかしながら、重合体(A)及び重合体(B)を溶解する溶媒として水を用い、重合体(A)の水溶液と重合体(B)の水溶液とを単に混合するものとすると、非常に速やかに水素結合が形成される一方で、繊維状の凝集塊が形成されてハイドロゲルが得られないことがある。また、ハイドロゲルが得られても、その得られたハイドロゲルは水に対する溶解性及び膨張性が十分でなく、生体組織に対する接着性にも劣る。これに対し、本製造方法によれば、重合体を溶解する溶媒としてアルコールを用い、第1溶液と第2溶液とを混合して溶媒を除去するという比較的簡便な操作によって、優れた水溶性及び水膨潤性を示し、かつ生体組織に対する接着性に優れたハイドロゲル形成材を得ることができる。以下、本製造方法の各工程について説明する。
【0056】
<工程1:混合工程>
第1溶液及び第2溶液はそれぞれ、重合体を溶解するための溶媒としてアルコールを含む。アルコールとしては、炭素数1~5の直鎖状又は分岐状のアルコールを好ましく用いることができる。なお、第1溶液及び第2溶液の調製に用いるアルコールは、第1溶液と第2溶液とで同一種類であってもよく、異なる種類であってもよい。また、第1溶液及び第2溶液の各溶液を調製する際には、1種のアルコールを単独で使用してもよく、2種以上のアルコールを組み合わせて使用してもよい。
【0057】
生体組織に対する接着性により優れたハイドロゲルを得る観点から、第1溶液及び第2溶液を調製する際に使用するアルコールは、上記の中でも、炭素数1~3の直鎖状又は分岐状のアルコールが好ましい。また、医療用途に適用することを考慮すると、中でもエタノール、n-プロパノール及びイソプロピルアルコールよりなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、エタノールが特に好ましい。
【0058】
なお、第1溶液及び第2溶液には、本発明の効果を妨げない範囲においてアルコール以外の溶媒を含んでいてもよい。第1溶液及び第2溶液を混合した際に凝集塊の形成による沈殿の発生を抑制する観点から、第1溶液及び第2溶液の各重合体溶液に含まれるアルコール以外の溶媒の量は、重合体溶液(第1溶液又は第2溶液)に含まれる溶媒の全量に対して、5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量以下が更に好ましく、0.5質量%以下がより更に好ましく、0.1質量%以下が一層好ましい。
【0059】
第1溶液及び第2溶液における重合体濃度はそれぞれ、例えば0.05~30質量%である。ハイドロゲルが効率良く形成されるようにする観点から、第1溶液及び第2溶液の各重合体溶液における重合体濃度は、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上である。また、当該重合体濃度の上限については、第1溶液及び第2溶液の粘度が高くなりすぎることを抑制する観点から、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。なお、重合体(A)及び重合体(B)の詳細については上述した通りである。
【0060】
第1溶液及び第2溶液における各重合体の含有量につき、水膨潤性に優れたハイドロゲルを得る観点から、重合体(A)100質量部に対して、重合体(B)が20~500質量部となるように第1溶液及び第2溶液の量及び濃度を調整することが好ましい。重合体(A)及び重合体(B)の量は、重合体(A)100質量部に対して、重合体(B)が30~400質量部となる量とすることがより好ましく、50~300質量部となる量とすることが更に好ましく、50~200質量部となる量とすることがより更に好ましく、75~150質量部となる量とすることが一層好ましい。また、水溶性重合体(C)を含有するハイドロゲル形成材を得る場合、第1溶液及び第2溶液の少なくとも一方に水溶性重合体(C)を含有させてもよい。第1溶液及び/又は第2溶液における水溶性重合体(C)の含有量は、重合体100質量部に対して、例えば0.01~20質量部としてもよく、0.01~10質量部としてもよい。
【0061】
第1溶液と第2溶液とを混合する方法は特段の制約はなく、適宜の方法を用いて行うことができる。例えば、第1溶液及び第2溶液の一方に対し他方を添加してもよいし、所定の容器内に第1溶液と第2溶液とを同時に添加してもよい。重合体溶液の添加は、一括して行ってもよく、分割して行ってもよい。また、第1溶液と第2溶液との混合を促進させたり均一にしたりすること等を目的として、第1溶液と第2溶液との混合液に対して撹拌や加温等の処理を適宜行ってもよい。
【0062】
第1溶液及び第2溶液の使用量(体積比)は、ハイドロゲルが効率良く形成されるようにする観点から、第1溶液の全量が、第2溶液の全量100部に対して、20~500部となる量とすることが好ましく、30~400部となる量とすることがより好ましく、50~300部となる量とすることが更に好ましい。
【0063】
<工程2:除去工程>
工程2では、上記工程1により得られた重合体(A)、重合体(B)及びアルコールを含む混合液から溶媒を除去する。これにより、ハイドロゲル形成材として、重合体(A)と重合体(B)とを含む乾燥体を得ることができる。
【0064】
第1溶液と第2溶液との混合液から溶媒を除去する方法については特段の制約はなく、所望とするハイドロゲル形成材の形状や用途等に応じて、公知の脱溶媒方法を適宜採用することにより行うことができる。例えば、自然乾燥により脱溶媒を行ってもよく、加温処理や送風処理、凍結乾燥処理等の1種又は2種以上を適宜組み合わせて脱溶媒を行ってもよい。加温により溶媒を除去する場合、加熱温度は溶媒の種類に応じて適宜設定され得るが、例えば30~80℃程度とすることができる。また、脱溶媒処理は大気圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。
【0065】
また、凍結乾燥により溶媒を除去する場合、凍結温度は、例えば-70℃~-5℃であり、好ましくは-60℃~-5℃である。凍結乾燥による脱溶媒は室温減圧下で行うことが好ましい。凍結乾燥時の圧力は、例えば50Pa以下であり、好ましくは20Pa以下であり、より好ましくは10Pa以下である。
【0066】
例えば、フィルム状又はシート状のハイドロゲル形成材を製造する場合、第1溶液と第2溶液との混合液を基材上に塗工し、溶媒を除去することにより得ることができる。また、スポンジ状のハイドロゲル形成材を製造する場合、第1溶液と第2溶液との混合液を所望の形状及び厚みを有する型(モールド)に入れ、溶媒を除去することにより得ることができる。スポンジ状のハイドロゲル形成材を得る場合、凍結乾燥により脱溶媒を行うことが好ましい。このとき、第1溶液と第2溶液との混合液を過冷却の状態にした後、凍結させる方法により行うとよい。その際、冷却温度が異なる複数の工程により混合液を冷却することが好ましい。この方法によれば、力学的強度が高く、水膨潤状態において生体組織に対する接着性に優れたハイドロゲル形成材を簡便な方法により得ることができる。
【0067】
粉末状のハイドロゲル形成材を製造する場合、上記のようにして得られたフィルム状、シート状又はスポンジ状のハイドロゲル形成材を粉砕等することにより得ることができる。また、第1溶液と第2溶液との混合液を噴霧又は滴下して乾燥させることにより、粉末状のハイドロゲル形成材を得ることもできる。
【0068】
なお、本明細書において「乾燥」とは、水分が完全に除去された状態のほか、乾燥過程において水分が残存している状態を含む意味である。乾燥処理により得られる乾燥体の水分含有量は、例えば10質量%以下であり、好ましくは5質量%以下である。
【0069】
<ハイドロゲル形成材の使用態様>
本発明の製造方法により得られるハイドロゲル形成材は、使用前は乾燥した状態の固形物(すなわち乾燥体)であり、水分と接触すると吸水して膨潤することによりハイドロゲル(すなわち膨潤体)となる。ここで、水分としては、水に限らず、例えば、水に溶解可能な有機溶媒(エタノール等)、体液(血液、組織液等)、及びこれらの混合液が挙げられる。
【0070】
ハイドロゲル形成材は、支持体上に保持された状態で提供されてもよく、フィルム等の包装体に包含された状態で提供されてもよく、スプレーの状態で提供されてもよい。ハイドロゲル形成材が支持体上に保持された状態で提供される場合、支持体の形状及び材質としては特に限定されないが、例えば、織布や不織布等の布地;ポリスチレンやポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂基材等が挙げられる。ハイドロゲル形成材は、力学的強度が高く、かつ柔軟性に優れていることから、ハイドロゲル形成用フィルム又はハイドロゲル形成用スポンジとして好ましく用いることができる。
【0071】
本製造方法により得られるハイドロゲル形成材は、水分との接触前は柔軟性を有する乾燥体であり、水分との接触により乾燥体から膨潤体に変化し、これにより生体組織に対する接着性を示す。また、本製造方法により得られるハイドロゲル形成材は、生体吸収性を有さず、また生理条件下において徐々に分解して可溶化するため、安全性が高く、生体内に留置することも可能である。このようなハイドロゲル形成材は医療用処置材として好適であり、具体的には、癒着防止材や止血材、創傷被覆材等の各種医療用処置材として特に好適である。
【実施例0072】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。以下において「部」及び「%」は、特に断らない限り「質量部」及び「質量%」をそれぞれ意味する。
【0073】
<ハイドロゲル形成材の製造>
[実施例1]
ポリアクリル酸(重合体(A)、以下「PAA」ともいう)を1.2質量%の濃度で含むエタノール溶液(第1溶液)30mLと、ポリビニルピロリドン(重合体(B)、以下「PVP」ともいう)を1.85質量%の濃度で含むエタノール溶液(第2溶液)30mLとをそれぞれ調製した。続いて、第1溶液と第2溶液とを混合し、PAA、PVP及びエタノールを含む混合液を得た。50mm×50mmのポリプロピレン製の基材上に、25mm×7mmの開口部を有するシリコンゴムシート(厚み10mm)を設置し、上記混合液を1.5mLキャストして、室温下で20時間乾燥させ、ハイドロゲル形成材(大きさ:25mm×7mm×260μm)を得た。なお、重合体の混合比は、PAA:PVP=1:1.53(質量比)とした。
【0074】
[実施例2、3]
原料の種類を表1に記載した通りに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、ハイドロゲル形成材を得た。
【0075】
[比較例1]
第1溶液及び第2溶液の調製に用いる溶媒をエタノールから水に変更し、PAAを1.2質量%の濃度で含む水溶液30mLと、PVPを1.85質量%の濃度で含む水溶液30mLとを混合することにより、PAA、PVP及び水を含む混合液を調製したところ、繊維状の凝集塊である沈殿が発生し、ハイドロゲル形成材を得ることができなかった。なお、重合体の混合比は実施例1と同じとした。
【0076】
<評価>
実施例1~3により得られた各ハイドロゲル形成材について、生体組織(皮膚)に対する接着力を測定し評価した。測定方法の詳細は以下のとおりである。結果を表1に示す。
・生体組織(皮膚)に対する接着力の測定・評価
疑似皮膚としてプロテインレザー(イデアテックス ジャパン社製、プロテインレザーPBZ13001-BK)を用い、プロテインレザーに対するハイドロゲル形成材の面接着強度を測定した。まず、瞬間接着剤(東亞合成社製、アロンアルフア(登録商標))を用い、50mL遠沈管の蓋に3cm角のプロテインレザーを貼り付けたものを2本作製した。それぞれのプロテインレザーに、綿棒で水を適量塗布し、ハイドロゲル形成材を間に挟み込んだ後、300gの錘を乗せて1分間放置した。錘を取り除いてから1分後に、引張試験機を用いて、25℃、120mm/minの条件で引っ張りを行った際に発生する最大応力を測定した。この測定を各例5回ずつ実施し、5回の測定値の平均を接着力(N/cm)として評価した。
【0077】
【表1】
【0078】
表1において用いた化合物の詳細を以下に示す。
・高架橋PAA:高架橋ポリアクリル酸〔Lubrizol社製、Carbopol 934P NF〕
・低架橋PAA:低架橋ポリアクリル酸〔Lubrizol社製、Carbopol 941〕
・未架橋PAA:未架橋ポリアクリル酸〔東亞合成社製、ジュリマーAC-10P、ポリスチレン換算重量平均分子量=5,000〕
・高分子量PVP:ポリビニルピロリドン〔BASF社製、Kollidon 90F、ポリスチレン換算重量平均分子量=32万(ジメチルホルムアミド溶離液)〕
・低分子量PVP:ポリビニルピロリドン〔BASF社製、Kollidon 30F、ポリスチレン換算重量平均分子量=4.9万(ジメチルホルムアミド溶離液)〕
【0079】
<評価結果>
表1の結果から明らかなように、カルボキシル基を有する重合体(A)のエタノール溶液と、カルボキシル基と水素結合を形成し得る官能基を有する重合体(B)のエタノール溶液とを混合し、得られた混合液からエタノールを除去することにより製造された実施例1~3のハイドロゲル形成材は、皮膚に対する接着力が0.53N/cm以上と高く、生体組織に対する接着性に優れていた。これらの中でも、重合体(A)及び重合体(B)がそれぞれ、架橋重合体であるか又は重量平均分子量が6,000以上の高分子体である場合(実施例1、2)には、皮膚に対する接着力が1.0N/cm以上とより高く、生体組織に対する接着性により優れるものであった。
【0080】
これに対して、重合体(A)の水溶液と重合体(B)の水溶液とを混合した比較例1では、ハイドロゲル形成材を得ることができなかった。なお、比較例1のように、重合体(A)及び重合体(B)の各重合体を溶解する溶媒として水を用いた場合には、水素結合の他に重合体の主鎖間に疎水結合が形成されることによって繊維状の凝集塊が生じやすいのに対し、実施例1~3のように溶媒としてアルコールを用いた場合には、重合体の主鎖間における疎水結合の形成が抑制されることにより、重合体が繊維状の凝集塊となって沈殿することを回避でき、これにより優れた性能を有するハイドロゲル形成材を得ることができたものと推察される。
【0081】
以上の結果から、重合体(A)のアルコール溶液と重合体(B)のアルコール溶液とを混合し、得られた混合液から溶媒を除去する方法を採用することにより、重合体の種類が異なる複数種の重合体溶液を混合して溶媒を除去するという比較的簡便な操作によって、生体組織に対する接着性に優れたハイドロゲル形成材が得られることが明らかになった。