(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089245
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】蓄電装置用のパラメータ計測装置およびパラメータ計測方法
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20240626BHJP
G01R 19/00 20060101ALI20240626BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
H02J7/00 Q
G01R19/00 B
H01M10/48 P
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204497
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】毛利 浩喜
【テーマコード(参考)】
2G035
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G035AA01
2G035AA04
2G035AB03
2G035AC01
2G035AD51
2G035AD55
5G503BA01
5G503BB01
5G503BB02
5G503BB03
5G503CA01
5G503CA11
5G503DA04
5G503EA05
5G503EA09
5G503FA06
5G503GD03
5G503GD06
5H030AA01
5H030AS08
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
【課題】第2の検出機構で取得したパラメータの計測精度を向上することができるパラメータ計測装置を提供する。
【解決手段】本発明により、予め定められた第1周期で、蓄電装置200の所定のパラメータを取得する第1検出機構10と、上記第1周期よりも長い、予め定められた第2周期で、蓄電装置200の上記パラメータを取得する第2検出機構20と、第1検出機構10および第2検出機構20に接続された制御部50と、を備える、蓄電装置200用のパラメータ計測装置が提供される。制御部50は、第2検出機構20で取得された取得値Vbを予め定められた処理によって補正して補正値Vcを算出する補正値算出部54と、上記補正値を出力値として外部に出力する補正値出力部55と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電装置に接続され、予め定められた第1周期で、前記蓄電装置の所定のパラメータを取得する第1検出機構と、
前記蓄電装置に対して前記第1検出機構と並列に接続され、前記第1周期よりも長い、予め定められた第2周期で、前記蓄電装置の前記パラメータを取得する第2検出機構と、
前記第1検出機構および前記第2検出機構に接続された制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記第2検出機構で取得された取得値を、予め定められた処理によって補正して、補正値を算出する補正値算出部と、
前記補正値を出力値として外部に出力する補正値出力部と、
を備える、蓄電装置用のパラメータ計測装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記第1検出機構の異常の有無を判定する異常判定部を備え、
前記異常判定部で異常ありと判定されない場合に、前記第1検出機構で取得された取得値を前記出力値として外部に出力し、
前記異常判定部で異常ありと判定された場合に、前記補正値を前記出力値として外部に出力可能に構成されている、
請求項1に記載のパラメータ計測装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記異常判定部で異常ありと判定された場合に、前記補正値算出部で前記補正値の算出が開始され、前記補正値を算出している間は、前記第2検出機構で取得された取得値を前記出力値として外部に出力し、
前記補正値の算出が完了したら、前記補正値を前記出力値として外部に出力するように構成されている、
請求項2に記載のパラメータ計測装置。
【請求項4】
前記第1周期の信号を生成する発振器と、
前記発振器で生成された信号を分周して、前記第2周期の信号を生成する分周器と、
をさらに備え、
前記第1検出機構は、前記発振器で生成された信号に基づいて前記蓄電装置の電圧値を取得し、
前記第2検出機構は、前記分周器で生成された信号に基づいて前記蓄電装置の電圧値を取得するように構成されている、
請求項1から3のいずれか1つに記載のパラメータ計測装置。
【請求項5】
前記補正値算出部は、前記第1検出機構で取得された取得値から最小二乗誤差法により補正係数を算出し、前記第2検出機構で取得された取得値を前記補正係数で補正し、前記補正値を算出するように構成されている、
請求項1から3のいずれか1つに記載のパラメータ計測装置。
【請求項6】
前記補正値算出部は、前記第1検出機構で取得された取得値から線形近似により補正係数を算出し、前記第2検出機構で取得された取得値を前記補正係数で補正し、前記補正値を算出するように構成されている、
請求項1から3のいずれか1つに記載のパラメータ計測装置。
【請求項7】
前記第1検出機構は、FIRフィルタを備え、
前記補正係数は、前記第1検出機構の前記FIRフィルタのフィルタ係数である、
請求項5に記載のパラメータ計測装置。
【請求項8】
前記第1検出機構は、FIRフィルタを備え、
前記補正係数は、前記第1検出機構の前記FIRフィルタのフィルタ係数である、
請求項6に記載のパラメータ計測装置。
【請求項9】
蓄電装置に接続され、予め定められた第1周期で、前記蓄電装置の所定のパラメータを取得する第1検出機構と、
前記蓄電装置に対して前記第1検出機構と並列に接続され、前記第1周期よりも長い、予め定められた第2周期で、前記蓄電装置の前記パラメータを取得する第2検出機構と、
を備えた蓄電装置用のパラメータ計測装置でパラメータを計測する方法であって、
前記第2検出機構で取得された取得値を、予め定められた処理によって補正して、補正値を算出する補正値算出工程と、
前記補正値を出力値として外部に出力する補正値出力工程と、
を含む、パラメータ計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置用のパラメータ計測装置およびパラメータ計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両駆動用電源等として蓄電装置が汎用されている。蓄電装置では、一般に、検出機構によって各種パラメータ(例えば、電圧、電流、温度、充電状態(SOC:State of Charge)等)が計測される。検出機構で計測されたパラメータは、例えば正常な範囲にあるか否かを監視されるとともに、各種制御に用いられる。
【0003】
これに関連して、例えば特許文献1には、車両走行用の蓄電装置と、車両走行用の蓄電装置の電圧を検出する電圧検出機構であって、高精度の(第1の)電圧検出機構と簡易の(第2の)電圧検出機構とが並列に接続された冗長構成の電圧検出機構と、第1の電圧検出機構の故障を検出する故障判定部と、を備えた車両用の電源装置が開示されている。特許文献1には、故障判定部によって第1の電圧検出機構の故障が検知されたときに、第2の電圧検出機構で蓄電装置の電圧を取得して車両を走行させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蓄電装置のパラメータ、特には電圧、電流、SOCのような電気化学的なパラメータは、短時間に細かく変動し、ばらつきが大きくなる。ところが、例えば特許文献1に記載されるように、冗長構成にあっては、第1の検出機構でサンプリング周期を短くする(短い周期でパラメータを取得する)一方、第2の検出機構では、サンプリング周期が相対的に長めに設定されることが多い。その結果、第2の検出機構で取得されたパラメータは、相対的に計測精度が低くなる課題がある。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、第2の検出機構で取得したパラメータの計測精度を向上することができる新たな蓄電装置用のパラメータ計測装置およびパラメータ計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明により、蓄電装置に接続され、予め定められた第1周期で、上記蓄電装置の所定のパラメータを取得する第1検出機構と、上記蓄電装置に対して上記第1検出機構と並列に接続され、上記第1周期よりも長い、予め定められた第2周期で、上記蓄電装置の上記パラメータを取得する第2検出機構と、上記第1検出機構および上記第2検出機構に接続された制御部と、を備え、上記制御部は、上記第2検出機構で取得された取得値を、予め定められた処理によって補正して、補正値を算出する補正値算出部と、上記補正値を出力値として外部に出力する補正値出力部と、を備える、蓄電装置用のパラメータ計測装置が提供される。
【0008】
また、本発明により、蓄電装置に接続され、予め定められた第1周期で、上記蓄電装置の所定のパラメータを取得する第1検出機構と、上記蓄電装置に対して上記第1検出機構と並列に接続され、上記第1周期よりも長い、予め定められた第2周期で、上記蓄電装置の上記パラメータを取得する第2検出機構と、を備えた蓄電装置用のパラメータ計測装置でパラメータを計測する方法であって、上記第2検出機構で取得された取得値を、予め定められた処理によって補正して、補正値を算出する補正値算出工程と、上記補正値を出力値として外部に出力する補正値出力工程と、を含む、パラメータ計測方法が提供される。
【0009】
上記のパラメータ計測装置およびパラメータ計測方法によれば、サンプリング周期が第1検出機構よりも長い第2検出機構を用いる場合に、第2検出機構で取得されたパラメータの計測精度を、第1検出機構で取得されたパラメータの計測精度に近づけることができる。これにより、外部に出力する出力値の精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るパラメータ計測装置の模式的なブロック図である。
【
図2】
図2は、パラメータ計測方法の一例を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、4taps-FIRフィルタの回路図である。
【
図4】
図4(A)は、第2検出機構で取得された取得値Vb(3セル分)のバラつきを表すグラフであり、
図4(B)は、
図4(A)の取得値Vbを補正値算出部で補正した補正値Vcのバラつきを表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、ここで開示される技術の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、各図面は模式的に描かれており、必ずしも実物を反映していない。以下では、同じ作用を奏する部材、部位には同じ符号を付し、重複する説明は適宜省略または簡略化する。
【0012】
[パラメータ計測装置100]
図1は、一実施形態に係るパラメータ計測装置100の模式的なブロック図である。
図1に示すように、パラメータ計測装置100は、蓄電装置200に接続されて使用される。蓄電装置200は、単セルであってもよいし、複数の単セルを含む電池モジュールであってもよい。電池モジュールにおいて、複数の単セルは直列に接続されていてもよい。単セルの構成は従来同様であってよく、何ら限定されない。単セルの外形は、直方体状(角形)、円柱状、袋状等、任意の形状であってよい。単セルは、蓄電池であり、例えばリチウムイオン電池である。なお、本明細書において「蓄電池」とは、繰り返し充放電が可能な蓄電デバイス全般を指す用語であって、リチウムイオン二次電池やニッケル水素電池等の二次電池(化学電池)と、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタ(物理電池)と、を包含する概念である。
【0013】
パラメータ計測装置100は、ここでは車両に搭載されている、所謂、車載用の蓄電装置200のパラメータを計測する装置である。車両の種類は特に限定されないが、例えば、電気自動車(BEV:Battery Electric Vehicle)、ハイブリッド自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV:Plug-in Hybrid Electric Vehicle)等である。図示は省略するが、パラメータ計測装置100は、ここでは電池モジュールに含まれる複数の単セルに対してそれぞれ設けられている。すなわち、パラメータ計測装置100は、電池モジュールに含まれる単セルと同数である。ただし、パラメータ計測装置100は、1つの電池モジュールに対して1つ設けられていてもよい。すなわち、電池モジュールと同数であってもよい。
【0014】
図1に示すように、本実施形態のパラメータ計測装置100は、第1検出機構10と、第2検出機構20と、スイッチ18と、発振器30と、分周器40と、制御部50と、を備えている。ただし、スイッチ18と、発振器30と、分周器40と、は必須ではなく、他の実施形態において、その一部または全部を省略することもできる。パラメータ計測装置100は、冗長構成のパラメータ検出機構として、第1検出機構10と第2検出機構20とを有している。第1検出機構10と第2検出機構20とは、同じ機能を有する。すなわち、第1検出機構10と第2検出機構20とは、同じ種類のパラメータを取得するように構成されている。
【0015】
第1検出機構10および第2検出機構20で計測されるパラメータは、ここでは、電圧(V)値である。ただし、パラメータ計測装置100で計測されるパラメータは、電圧値以外、例えば、電流、温度、充電状態(SOC:State of Charge)、容量、消費電力等の値であってもよい。パラメータ計測装置100で計測されるパラメータが、電圧、電流、充電状態(SOC:State of Charge)のような電気化学的なパラメータである場合、短時間に細かく変動し、ばらつきが大きくなることから、ここで開示される技術の効果を適用することが特に効果的である。
【0016】
第1検出機構10は、
図1に示すように、例えば車両の通常走行時等に蓄電装置200と電気的に接続されて、予め定められた第1周期で、蓄電装置200の所定のパラメータ(ここでは電圧値)を取得するように構成されている。第1検出機構10は、制御部50によって制御される。第1検出機構10には、発振器30から発振信号が入力される。第1検出機構10は、ここでは発振信号に基づいて取得値(電圧値)Vaを取得するように構成されている。第1検出機構10は、ここでは、蓄電装置200の電圧を検出する第1検出回路11に加えて、第1FIR(Finite Impulse Response、有限インパルス応答)フィルタ12を含んで構成されている。第1検出回路11および第1FIRフィルタ12の構成は、特に限定されず、従来と同様であってよい。
【0017】
第1FIRフィルタ12は、第1検出回路11と制御部50との間に配設されている。第1FIRフィルタ12のフィルタ係数(タップ係数)Ciは、制御部50から入力される。フィルタ係数の初期値は、予め制御部50の記憶部57に記憶されている。また、詳しくは後述するが、通常時(車両の通常走行時等)、第1FIRフィルタ12のフィルタ係数Ciは、制御部50のフィルタ係数学習部54aによって定期的に更新される。第1FIRフィルタ12は、発振器30から入力された発振信号に基づいて、第1周期で検出した電圧値を通過させる(言い換えれば、第1周期で検出した電圧値以外は除去する)ように構成されている。
【0018】
第2検出機構20は、
図1に示すように、蓄電装置200に対して第1検出機構10と並列に接続されている。第2検出機構20は、例えば後述する異常判定部51で異常ありと判定された場合等に蓄電装置200と電気的に接続されて、第1周期よりも長い、予め定められた第2周期で、上記パラメータ(ここでは電圧値)を取得するように構成されている。第2検出機構20は、制御部50によって制御される。第2検出機構20には、分周器40から分周信号が入力される。第2検出機構20は、ここでは分周信号に基づいて取得値(電圧値)Vbを取得するように構成されている。第2検出機構20は、ここでは、蓄電装置200の電圧を検出する第2検出回路21に加えて、第2FIRフィルタ22を含んで構成されている。第2検出回路21および第2FIRフィルタ22の構成は、特に限定されず、従来と同様であってよい。
【0019】
第1検出機構10と第2検出機構20とは、異種冗長構成であることが好ましい。第2検出回路21は、メーカーや仕様、検出方法等のうちの少なくとも1つが、第1検出回路11とは異なっていることが好ましい。パラメータ計測装置100は、異種冗長構成のパラメータ検出機構を有することが好ましい。
【0020】
第2FIRフィルタ22は、第2検出回路21と制御部50との間に配設されている。第2FIRフィルタ22のフィルタ係数(タップ係数)は、制御部50から入力される。フィルタ係数の初期値は、予め制御部50の記憶部57に記憶されている。第2FIRフィルタ22は、分周器40から入力された分周信号に基づいて、第2周期で検出した電圧値を通過させる(言い換えれば、第2周期で検出した電圧値以外は除去する)ように構成されている。
【0021】
スイッチ18は、第1検出機構10と第2検出機構20との接続を切り替える切替手段である。スイッチ18は、制御部50によって制御される。
図1に示すように、スイッチ18は、通常時(車両の通常走行時等)には、蓄電装置200と第1検出機構10とを接続している。スイッチ18は、異常判定部51で異常ありと判定された場合等に、蓄電装置200と第2検出機構20とを接続するように切り替えられる。
【0022】
発振器(CLK)30は、一定の周期波形をもつ交流の発振信号を生成する電子回路である。発振器30は、制御部50と電気的に接続されている。発振器30は、制御部50にCLKを出力し、制御部50の回路を動作させる。制御部50からは、発振器30を調整するパラメータ値(具体的にはレジスタ設定)が入力される。発振器30は、ここでは第1周期の発振信号を生成するように構成されている。発振器30の構成は、特に限定されず、従来と同様であってよい。発振器30で生成された発振信号は、第1検出機構10および分周器40に出力される。発振器30が出力する発振信号の周期は、第1検出機構10で取得値Vaを取得するサンプリング周期となる。
【0023】
分周器(ディバイダ)40は、発振器30で生成された発振信号の周波数を分周して(言い換えれば、1/M(Mは、2以上の自然数)に落として)、発振信号に同期した周波数の分周信号を生成する電子回路である。すなわち、分周器40は、発振器30の1/Mの逓倍クロックを生成する電子回路である。逓倍Mは、例えば消費電力や精度、折り返しノイズ等を考慮して、適宜設定できる。分周器40は、発振器30および制御部50と電気的に接続されている。分周器40は、制御部50に分周CLKを出力し、制御部50の回路を動作させる。制御部50からは、分周器40の分周比を調整するパラメータ値(具体的にはレジスタ設定)が入力される。分周器40の構成は、特に限定されず、従来と同様であってよい。分周器40は、ここでは発振信号を分周して第2周期の分周信号を生成するように構成されている。分周器40で生成された分周信号は、第2検出機構20に出力される。分周器40が出力する分周信号の周期は、第2検出機構20で取得値Vbを取得するサンプリング周期となる。
【0024】
制御部50は、
図1に示すように、第1検出機構10と第2検出機構20とスイッチ18と発振器30と分周器40とに接続され、パラメータ計測装置100の全体を制御可能に構成されている。制御部50は、図示しない車両のECU(Electronic Control Unit)と電気的に接続されている。本実施形態の制御部50は、異常判定部51と、第1出力部52と、第2出力部53と、補正値算出部54と、補正値出力部55と、出力選択部56と、記憶部57と、を備えている。ただし、異常判定部51と第1出力部52と第2出力部53と出力選択部56と記憶部57とは必須ではなく、他の実施形態において、その一部または全部を省略することもできる。また制御部50は、上記に加えて、例えば使用者に警告を行う通知部等を備えていてもよい。
【0025】
異常判定部51は、第1検出機構10の異常の有無を判定するように構成されている。異常判定部51は、例えば第1検出機構10で取得された取得値Vaを、第2検出機構20で取得された取得値Vb、あるいは、記憶部57に記憶されている正常電圧範囲および/または正常電圧挙動と比較して、異常の有無を判定するように構成されている。第1出力部52は、第1検出機構10で取得された取得値Vaを、出力値として外部(ここでは車両のECU)に出力するように構成されている。第2出力部53は、第2検出機構20で取得された取得値Vbを、出力値として外部(ここでは車両のECU)に出力するように構成されている。
【0026】
補正値算出部54は、第2検出機構20で取得された取得値Vbを、予め定められた処理(後述する補正処理)によって補正係数で補正して、補正値Vcを算出(推定)するように構成されている。補正係数は、ここでは第1FIRフィルタ12のフィルタ係数Ciである。補正値算出部54は、ここではフィルタ係数学習部54aを備える。フィルタ係数学習部54aは、ここでは通常時(車両の通常走行時)に定期的に第1FIRフィルタ12のフィルタ係数Ciを算出し、記憶部57に記憶されているフィルタ係数を補正係数として随時更新するように構成されている。なお、この補正係数の更新は、誤差が下記式(1)を満たすまで継続される。補正係数は、下記式(1)を満たすタイミングで車両の安定走行時の係数として記憶部57に保存される。この保存された値が、後述する補正値Vcを算出するときに参照される。
誤差 ≦ α(αは、例えば0.001)…式(1)
【0027】
フィルタ係数学習部54aは、ここでは所定の時間毎(例えば、x時間毎(xは自然数))に、最小二乗誤差法(LMS:Least Mean Square)によって、補正係数としての第1FIRフィルタ12のフィルタ係数Ciを、次の式(2)から算出するように構成されている。
【0028】
【数1】
ただし、式(2)において、
xは、第1検出回路11の測定値(入力データ)であり、
yは、取得値Va(出力データ)であり、
Nは、タップ数(2以上の任意の整数)であり、
Ciは、i番目のフィルタ係数の推定値である。
【0029】
一例として、タップ数が4(N=4)のときの4taps-FIRフィルタの回路図(シフトレジスタ回路)を、
図3に示す。従来公知なように、
図3において、「+」は、加算器であり、Dは、Dフリップフロップである。Xは、式(2)のxと同じであり、X
n-3が最も古く、X
nが最も新しい測定値である。Cは、式(2)のCと同じであり、C
3が最も古く、C
0が最も新しい推定値である。y
nは、取得値Vaである。
【0030】
補正値出力部55は、補正値算出部54で補正された補正値Vcを、出力値として外部(ここでは車両のECU)に出力するように構成されている。
【0031】
出力選択部56は、取得値Va、取得値Vb、および補正値Vcのなかから、外部(ここでは車両のECU)に出力する1つの出力値を選択して、第1出力部52からの出力と、第2出力部53からの出力と、補正値出力部55からの出力とを、切り替えるように構成されている。出力選択部56は、例えば車両の通常走行時や、異常判定部51で異常ありと判定されない場合に、第1検出機構10で取得された取得値Vaを、出力値として外部(ここでは車両のECU)に出力するように構成されている。出力選択部56は、例えば異常判定部51で異常ありと判定された場合に、第2検出機構20で取得された取得値Vbおよび取得値Vbから算出された補正値Vcのうちの一方を、出力値として外部(ここでは車両のECU)に出力するように構成されている。
【0032】
記憶部57には、第1FIRフィルタ12のフィルタ係数Ci(補正係数)、第2FIRフィルタ22のフィルタ係数、発振器30や分周器40の設定(例えばパラメータ値)、第1検出機構10の異常の有無を判定する基準(例えば、取得値Vaと取得値Vbとの許容可能誤差や、正常電圧範囲および/または正常電圧挙動)、補正値算出部54で行われる補正処理に必要なプログラムやデータ等が記憶されている。記憶部57には、さらに蓄電装置200の情報(例えば、製造日、メーカー名、製造国名等)が、蓄電装置200から記憶されていてもよい。なお、記憶部57は、ここでは制御部50の一部であるが、他の実施形態において、制御部50の外部に設けられ、制御部50と有線又は無線を介して通信可能に構成されていてもよい。
【0033】
制御部50の構成は特に限定されない。制御部50は、例えばマイクロコンピュータであってもよい。マイクロコンピュータは、例えば、外部機器からデータ等を受信するインターフェイス(I/F)と、プログラムの命令を実行する中央演算処理装置(CPU:Central Processing Unit)と、CPUが実行するプログラムを格納したROM(Read Only Memory)と、プログラムを展開するワーキングエリアとして使用されるRAM(Random Access Memory)と、上記プログラムや各種データを格納するメモリと、を備えていてもよい。
【0034】
[パラメータ計測装置100の制御方法]
ここに開示される制御方法では、電源投入、もしくはシステムが開始されると、制御部50により、第1FIRフィルタ12のフィルタ係数Ciと第2FIRフィルタ22のフィルタ係数の初期値が設定される。第1FIRフィルタ12のフィルタ係数Ciは、車両の通常走行時に、フィルタ係数学習部54aによって随時更新される。詳しくは、上記式(1)を満たすまで誤差が小さくなるように、上記式(2)でフィルタ係数が演算処理される。そして、式(1)で設定した誤差式が成立すると、そのときのフィルタ係数の値が記憶部57に記憶される。
【0035】
また、車両の通常走行時にあっては、第1検出機構10によって取得値Vaが取得され、第1検出機構10で取得された取得値Vaが、第1出力部52から電圧値として車両のECUに出力されている。車両のECUは、故障診断部(図示せず)を備えており、断線、回線故障、通信エラー等の故障の発生を検知可能なように構成されている。
【0036】
図2は、パラメータ計測方法の一例を示すフローチャートである。
図2の計測方法は、例えば車両のECU(図示せず)で故障診断フラグがONとなった際に実行される。ステップS1では、例えば車両の通常走行時に、ECUの故障診断部において故障が検知される。故障診断部は、故障診断フラグをON(例えば1)とする。そして、ステップS2に進む。
【0037】
次に、ステップS2では、異常判定部51あるいは車両の上位ECUによって、第1検出機構10の異常の有無が判定される。ここでは、第1検出機構10で取得された取得値Vaに基づいて、第1検出機構10で異常が発生しているか否かが判定される。一例において、異常判定部51は、スイッチ18を制御して、第2検出機構20で取得値Vbを取得し、第1検出機構10で取得された取得値Vaと比較する。そして、取得値Vaと取得値Vbとの差が、予め記憶部57に記憶されている許容可能誤差から外れている場合に、異常と判定する。
【0038】
あるいは、他の一例において、異常判定部51は、第1検出機構10で取得された取得値Vaを、記憶部57に記憶されている正常電圧範囲と比較して、正常電圧範囲から外れている場合に、異常と判定する。さらに異常判定部51は、所定の時間範囲で取得値Vaの経時変化を取得し、記憶部57に記憶されている正常電圧挙動と比較して、正常電圧挙動と異なる場合、例えば、固定値のまま変化しない場合(High張り付き、Low張り付き等)に、異常と判定する。
【0039】
そして、第1検出機構10で異常ありと判定されない場合(ステップS2の結果がNOである場合)には、第1検出機構10以外の個所で故障が発生していると推定される。そのため、ステップS3では、引き続き第1検出機構10で取得値Vaが取得される。そして、出力選択部56によって第1出力部52が選択され、第1出力部52から電圧値として取得値Vaの出力が継続される。そして、制御を終了する。
【0040】
一方、第1検出機構10で異常ありと判定された場合(ステップS2の結果がYESである場合)には、ステップS4に進む。ステップS4では、蓄電装置200と第2検出機構20とを接続するようにスイッチ18が切り替えられ、第2検出機構20で取得値Vbが取得される。なお、スイッチ18が切り替わった直後、第2FIRフィルタ22のフィルタ係数は初期値のままである。そして、続くステップS5では、出力選択部56によって、第2出力部53が選択され、第2出力部53から電圧値として取得値Vbが車両のECUに出力される。言い換えれば、出力値が、取得値Vaから取得値Vbへと切り替えられる。ステップS5は、ステップS1で故障診断フラグがONとなってから、nCLK(nは自然数)の間、継続される。そして、ステップS6に進む。
【0041】
続くステップS6では、補正値算出部54によって、取得値Vbに補正処理が施され、補正値Vcが算出される。詳しくは、ステップS1からnCLK(nは自然数)経過後、第2FIRフィルタ22のフィルタ係数は、補正係数として、記憶部57に記憶されている第1FIRフィルタ12のフィルタ係数Ciを継承する。すなわち、補正処理は、ここではフィルタ係数学習部54aで算出された第1FIRフィルタ12のフィルタ係数Ciを用い、取得値Vbを補正する処理である。補正値Vcは、ここでは取得値Vbのフィルタ係数を補正係数としての第1FIRフィルタ12のフィルタ係数Ciに置き換えることで(例えば、Vb×Ci=Vcで)求められる。言い換えれば、継承したフィルタ係数Ciとの演算結果が、補正値Vcとなる。
【0042】
なお、上述の通り、補正係数としてのフィルタ係数Ciは、ここでは最小二乗誤差法で算出されている。最小二乗誤差法は、測定値の等化処理を施す際、誤差を伴う測定値の処理において、FIRフィルタのフィルタ係数Ciを更新することで、等化誤差の二乗が最も小さくなるように制御する手法である。最小二乗誤差法は、回路規模が大きくはなるが、理論値との誤差を小さく抑えることができるため、補正値Vcの推定の精度を向上できる。最小二乗誤差法によるフィルタ係数Ciの算出(推定)、ならびにフィルタ係数Ciを用いた補正については、従来公知の技術であるため、ここでは詳しい説明を省略する。
【0043】
図4(A)は、第2検出機構20で取得された取得値Vb(3セル分)のバラつきを表すグラフであり、
図4(B)は、
図4(A)の取得値Vbを補正値算出部54で補正した補正値Vcのバラつきを表すグラフである。ここでは、ターゲット値を3.7Vとして、最小二乗誤差法で第1FIRフィルタ12のフィルタ係数Ciを求め、フィルタ係数Ciで取得値Vbを補正することにより、補正値Vcを算出(推定)している。
図4(A)との比較から分かるように、
図4(B)では値のバラつきが減り、ターゲット値に収束していることが看取される。このようにして、補正値Vcの算出が完了したら、ステップS7に進む。
【0044】
続くステップS7では、補正値Vcの算出が完了したら、出力選択部56によって、補正値出力部55が選択され、補正値出力部55から電圧値として補正値Vcが車両のECUに出力される。言い換えれば、出力値が、取得値Vbから補正値Vcへと切り替えられる。本工程は、典型的には、故障診断部の故障診断フラグがOFF(例えば0)となるまで継続される。そして、制御を終了する。
【0045】
以上のようなパラメータ計測装置100ないし計測方法によれば、例えば第1検出機構10で故障等の異常が発生して、第1検出機構10よりもサンプリング周期が長い第2検出機構20を用いる場合に、第2検出機構20の計測精度を、第1検出機構10の計測精度に近づけて、車両のECUに出力する電圧値の計測精度を向上することができる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は一例に過ぎない。本発明は、他にも種々の形態にて実施することができる。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。請求の範囲に記載の技術には、上記に例示した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0047】
(1)例えば、上記した実施形態では、ここでは補正値算出部54がフィルタ係数学習部54aを備え、最小二乗誤差法(LMS)によって、補正係数(第1FIRフィルタ12のフィルタ係数Ci)が算出されていた。しかしこれには限定されない。他の好適な実施形態において、補正値算出部54は、線形近似(Linear Approximation)によって補正係数(第1FIRフィルタ12のフィルタ係数Ci)を算出してもよい。線形近似とは、一次関数y = ax + b(x、yは、上記式(2)と同じ、aは、第1FIRフィルタ12のフィルタ係数Ci)を用いて直線で表現される点と測定点との誤差が最も小さくなるように制御する手法である。線形近似は、簡単に実装でき、回路規模も小さくて済むという利点がある。なお、線形近似によるフィルタ係数Ciの算出(推定)については、従来公知の技術であるため、ここでは詳しい説明を省略する。
【0048】
また、他の好適な実施形態において、例えば第1検出機構10が第1FIRフィルタ12を備えていない場合等には、最小二乗誤差法および線形近似のうちのいずれかで、四則演算により(言い換えればフィルタ係数を用いずに)、取得値Vaから補正係数を算出し、この補正係数で取得値Vbを補正するようにしてもよい。
【0049】
(2)例えば、上記した実施形態では、ステップS7で、補正値出力部55から補正値Vcを出力し、制御を終了していた。しかしこれには限定されない。補正値算出部54は、継承したフィルタ係数Ciを元に学習し、第2FIRフィルタ22の学習後のフィルタ係数を用いて、さらに最適値Vc’を算出してもよい。補正値出力部55からは、最適値Vc’が車両のECUに出力されてもよい。
【0050】
(3)例えば、上記した実施形態では、パラメータ計測装置100が車載用の蓄電装置200のパラメータを計測する装置であった。しかしこれには限定されない。パラメータ計測装置100は、例えば、一般住宅や、商業施設、病院、工場等の各種施設の建築物に設置される、所謂、定置用の蓄電装置200のパラメータを計測する装置であってもよい。定置用の蓄電装置200は、車載用の蓄電装置200のリユース品であってもよい。この場合、記憶部57には、車載用の蓄電装置200で使用されていた際のフィルタ係数(ヒストリーデータ)が入力され、補正処理では、このフィルタ係数Ciを引用して補正値Vcを算出してもよい。車載用途として使用されていたときのヒストリーデータを活用することで、あえてフィルタ係数Ciを演算する手間を省くことができる。
【0051】
以上の通り、ここで開示される技術の具体的な態様として、以下の各項に記載のものが挙げられる。
項1:蓄電装置に接続され、予め定められた第1周期で、上記蓄電装置の所定のパラメータを取得する第1検出機構と、上記蓄電装置に対して上記第1検出機構と並列に接続され、上記第1周期よりも長い、予め定められた第2周期で、上記蓄電装置の上記パラメータを取得する第2検出機構と、上記第1検出機構および上記第2検出機構に接続された制御部と、を備え、上記制御部は、上記第2検出機構で取得された取得値を、予め定められた処理によって補正して、補正値を算出する補正値算出部と、上記補正値を出力値として外部に出力する補正値出力部と、を備える、蓄電装置用のパラメータ計測装置。
項2:上記制御部は、上記第1検出機構の有無を判定する異常判定部を備え、上記異常判定部で異常ありと判定されない場合に、上記第1検出機構で取得された取得値を上記出力値として外部に出力し、上記異常判定部で異常ありと判定された場合に、上記補正値を上記出力値として外部に出力可能に構成されている、項1に記載のパラメータ計測装置。
項3:上記制御部は、上記異常判定部で異常ありと判定された場合に、上記補正値算出部で上記補正値の算出が開始され、上記補正値を算出している間は、上記第2検出機構で取得された取得値を上記出力値として外部に出力し、上記補正値の算出が完了したら、上記補正値を上記出力値として外部に出力するように構成されている、項2に記載のパラメータ計測装置。
項4:上記第1周期の信号を生成する発振器と、上記発振器で生成された信号を分周して、上記第2周期の信号を生成する分周器と、をさらに備え、上記第1検出機構は、上記発振器で生成された信号に基づいて上記蓄電装置の電圧値を取得し、上記第2検出機構は、上記分周器で生成された信号に基づいて上記蓄電装置の電圧値を取得するように構成されている、項1~項3のいずれか1つに記載のパラメータ計測装置。
項5:上記補正値算出部は、上記第1検出機構で取得された取得値から最小二乗誤差法により補正係数を算出し、上記第2検出機構で取得された取得値を上記補正係数で補正し、上記補正値を算出するように構成されている、項1~項4のいずれか1つに記載のパラメータ計測装置。
項6:上記補正値算出部は、上記第1検出機構で取得された取得値から線形近似により補正係数を算出し、上記第2検出機構で取得された取得値を上記補正係数で補正し、上記補正値を算出するように構成されている、項1~項4のいずれか1つに記載のパラメータ計測装置。
項7:上記第1検出機構は、FIRフィルタを備え、上記補正係数は、上記第1検出機構の上記FIRフィルタのフィルタ係数である、項5または項6に記載のパラメータ計測装置。
項8:蓄電装置に接続され、予め定められた第1周期で、上記蓄電装置の所定のパラメータを取得する第1検出機構と、上記蓄電装置に対して上記第1検出機構と並列に接続され、上記第1周期よりも長い、予め定められた第2周期で、上記蓄電装置の上記パラメータを取得する第2検出機構と、を備えた蓄電装置用のパラメータ計測装置でパラメータを計測する方法であって、上記第2検出機構で取得された取得値を、予め定められた処理によって補正して、補正値を算出する補正値算出工程と、上記補正値を出力値として外部に出力する補正値出力工程と、を含む、パラメータ計測方法。
【符号の説明】
【0052】
10 第1検出機構
20 第2検出機構
30 発振器
40 分周器
50 制御部
51 異常判定部
52 第1出力部
53 第2出力部
54 補正値算出部
54a フィルタ係数学習部
55 補正値出力部
56 出力選択部
57 記憶部
100 パラメータ計測装置
200 蓄電装置