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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089276
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
   F02B 31/06 20060101AFI20240626BHJP
   F02B 19/12 20060101ALI20240626BHJP
   F02B 23/10 20060101ALI20240626BHJP
   F02B 37/00 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
F02B31/06 500A
F02B19/12 A
F02B23/10 310A
F02B37/00 302Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204542
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 隆
(72)【発明者】
【氏名】柳川 健介
(72)【発明者】
【氏名】細野 清隆
(72)【発明者】
【氏名】廣江 健太
(72)【発明者】
【氏名】川辺 敬
【テーマコード(参考)】
3G005
3G023
【Fターム(参考)】
3G005EA14
3G005GB28
3G023AA01
3G023AD21
3G023AD28
(57)【要約】
【課題】広い運転領域で、筒内での燃焼を適切に行い、燃焼効率の高い内燃機関を提供する。
【解決手段】気筒30内に形成される主燃焼室41と、主燃焼室41内に設けられる副燃焼室43と、ピストンの移動方向及び吸排気方向と直交する方向に並んで設けられる一対の吸気ポート2a、2bと、を有する内燃機関1であって、一対の吸気ポート2、2bから主燃焼室41内へと流れ込む一対の吸気がなす角度を変更する吸気ポートベーン71と、吸気ポートベーン71を作動させるベーンアクチュエータ72と、内燃機関1の運転状態に応じて、ベーンアクチュエータ72を制御するタンブル流コントロールユニット75と、を備え、内燃機関1の運転状態に応じて主燃焼室41内への1対の吸気の流入方向を変更して、気筒30内でのタンブル流の軸線の位置を移動させる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドと、シリンダと、ピストンと、に囲まれて形成される主燃焼室と、
前記主燃焼室内に設けられる副燃焼室と、
前記ピストンの移動方向及び吸排気方向と直交する方向に並んで設けられる一対の吸気ポートと、を有する内燃機関であって、
前記一対の吸気ポートから前記主燃焼室内へと流れ込む一対の吸気がなす角度を変更する変更手段と、
前記内燃機関の運転状態に応じて、前記変更手段を制御する制御部と、を備える、
ことを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
過給機を更に備え、
前記制御部は、前記過給機の過給領域では一対の吸気の角度が平行となるように前記変更手段を制御し、前記過給機の非過給領域では一対の吸気の角度が平行とならないように前記変更手段を制御する、
ことを特徴とする請求項1記載の内燃機関。
【請求項3】
前記変更手段は、前記一対の前記吸気ポートの前記ピストンの移動方向に直交する方向の壁面にそれぞれ設けられる板状部材で形成され、
前記制御部は、前記板状部材の角度を制御する、
ことを特徴とする請求項1また2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記制御部は、
一対の前記吸気ポートは、前記主燃焼室に向かうにつれて互いに離れるように設けられており、
前記変更手段は、前記板状部材を前記吸気ポートの前記ピストンの移動方向に直交する方向の壁面に平行にすることで、前記主燃焼室において発生する吸気のタンブル流の回転軸が前記主燃焼室の略中心に位置するようにし、前記板状部材を前記吸気ポートの前記ピストンの移動方向に直交する方向の壁面から立ち上げることで前記回転軸が前記主燃焼室の略中心から吸排気方向にずれた位置となるようにする、
ことを特徴とする請求項3に記載の内燃機関。
【請求項5】
前記内燃機関は、目標空燃比をストイキで制御される
ことを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関。
【請求項6】
シリンダヘッドと、シリンダと、ピストンと、に囲まれて形成される燃焼室と、
前記燃焼室に吸気を供給する吸気ポートと、を有する内燃機関であって、
前記吸気ポートの前記ピストンの移動方向に直交する方向の壁面である側壁に、吸気流れ方向に延びる弁体が前記ピストンの移動方向及び吸気流れ方向に直交する方向に間隔を置いて一対設けられ、前記弁体の吸気流れ方向上流側端部にピストンの移動方向に延びて設けられる回転支持軸と、前記回転支持軸を中心に前記弁体の前記側壁に対する角度を変更するように前記弁体を回転させるアクチュエータと、前記アクチュエータを制御する制御部と、を備える、
ことを特徴とする内燃機関。
【請求項7】
前記吸気ポートは、前記ピストンの移動方向と直交する方向に並んで一対設けられ、
前記弁体及び前記回転支持軸は、各前記吸気ポートに設けられる、
ことを特徴とする請求項6に記載の内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の筒内への吸気流の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に使用されるガソリンエンジン等の内燃機関の多くは、吸気通路や燃焼室内に燃料を噴射するインジェクタ(燃料噴射弁)と、筒内の燃焼室に臨んで配置される点火装置(点火プラグ)を有している。
更に特許文献1には、燃焼室(主燃焼室)内に、副燃焼室を備えた内燃機関が開示されている。特許文献1に記載された内燃機関では、副燃焼室内に比較的燃料濃度の高い混合気を供給し、点火装置によって副燃焼室内の混合気に着火することで、副燃焼室から火炎が主燃焼室に噴射(噴出)して主燃焼室内の混合気を燃焼させる構成になっている。これにより、主燃焼室内の混合気の着火性を向上させて内燃機関の出力を向上させることができ、あるいは主燃焼室内の燃料濃度を低くして燃費を向上させることが可能である。
【0003】
一方、内燃機関において、混合気の燃焼効率を向上させるために、筒内で吸気によりタンブル流を発生させることが有効であることが知られている。例えば特許文献2には、可動式の弁体により吸気通路内で吸気を上部に偏って通過させるような装置を備えた内燃機関が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-206960号公報
【特許文献2】特開2017-89511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように、副燃焼室を有する内燃機関において、噴射孔の大きさ等の副燃焼室の形状は変更できるものではないので、負荷等の内燃機関の運転状態に応じて副燃焼室から主燃焼室への火炎の強さを変更することができず、広い運転領域で火炎の強さ、即ち主燃焼室内の混合気の燃焼強度を適切にすることが困難である。
また、特許文献2では内燃機関の運転状態に応じて筒内でのタンブル流の強度を制御することは可能であるが、強すぎるタンブル流は燃焼強度を過度に強くし、内燃機関の汚破損につながる。一方、タンブル流を弱くすると、主燃焼室内の空気と燃料との予混合が不十分となる。よって、内燃機関の広い運転領域において燃焼強度を適切にすることが困難である。
【0006】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、タンブル流を適切に制御し、広い運転領域で燃焼効率の高い内燃機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の内燃機関は、シリンダヘッドと、シリンダと、ピストンと、に囲まれて形成される主燃焼室と、前記主燃焼室内に設けられる副燃焼室と、前記ピストンの移動方向及び吸排気方向と直交する方向に並んで設けられる一対の吸気ポートと、を有する内燃機関であって、前記一対の吸気ポートから前記主燃焼室内へと流れ込む一対の吸気がなす角度を変更する変更手段と、前記内燃機関の運転状態に応じて、前記変更手段を制御する制御部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
これにより、内燃機関の運転状態に応じて、主燃焼室内において発生する吸気のタンブル流の回転軸を移動させて、タンブル流の崩壊タイミングを変更させることができる。したがって、内燃機関の運転領域に応じて、主燃焼室内での燃料と吸気との混合を促して燃焼効率を向上させることと、必要以上の燃焼を抑制することの両立を図ることができる。
好ましくは、過給機を更に備え、前記制御部は、前記過給機の過給領域では一対の吸気の角度が平行となるように前記変更手段を制御し、前記過給機の非過給領域では一対の吸気の角度が平行とならないように前記変更手段を制御するとよい。
【0009】
これにより、過給領域ではタンブル流の回転軸を主燃焼室内の中心位置より排気側に位置させ、タンブル流を抑制して過剰な燃焼を抑制し、非過給領域ではタンブル流の回転軸を主燃焼室内の中心位置近辺にして、タンブル流を維持し易くして燃焼を補助することができる。
好ましくは、前記変更手段は、前記一対の前記吸気ポートの前記ピストンの移動方向に直交する方向の壁面にそれぞれ設けられる板状部材で形成され、前記制御部は、前記板状部材の角度を制御するとよい。
【0010】
これにより、簡単な構造で主燃焼室内への吸気の流入方向を制御して、タンブル流の回転軸の位置を変更させることができる。
好ましくは、一対の前記吸気ポートは、前記主燃焼室に向かうにつれて互いに離れるように設けられており、前記変更手段は、前記板状部材を前記吸気ポートの前記ピストンの移動方向に直交する方向の壁面に平行にすることで前記回転軸が前記主燃焼室の略中心に位置するようにし、前記板状部材を前記吸気ポートの前記ピストンの移動方向に直交する方向の壁面から立ち上げることで前記回転軸が前記主燃焼室の略中心から吸排気方向にずれた位置となるようにするとよい。
【0011】
これにより、板状部材を吸気ポートのピストンの移動方向に直交する方向の壁面に平行にすることで、吸気ポートから筒内へ広がるように吸気が導入されるので、主燃焼室の中心部での吸気移動量を抑え、タンブル流の回転軸を主燃焼室の略中心に位置させることができる。また、板状部材を吸気ポートのピストンの移動方向に直交する方向の壁面から立ち上がるようにすることで、吸気ポートから筒内への吸気が導入される際に吸気が広がり難くなるので、主燃焼室の中心部での吸気通過量が増加し、タンブル流の回転軸が主燃焼室の略中心から排気側に移動させることができる。
【0012】
好ましくは、前記内燃機関は、目標空燃比をストイキで制御されるとよい。
これにより、変更手段及び制御部により、タンブル流を主燃焼室内の中心付近に位置させることで、タンブル流が維持され、ピストン上死点付近までタンブル流を維持させることが可能になり、主燃焼室の目標空燃比をストイキにする内燃機関の出力を高めることができる。
【0013】
好ましくは、シリンダヘッドと、シリンダと、ピストンと、に囲まれて形成される燃焼室と、前記燃焼室に吸気を供給する吸気ポートと、を有する内燃機関であって、前記吸気ポートの前記ピストンの移動方向に直交する方向の壁面である側壁に、吸気流れ方向に延びる弁体が前記ピストンの移動方向及び吸気流れ方向に直交する方向に間隔を置いて一対設けられ、前記弁体の吸気流れ方向上流側端部にピストンの移動方向に延びて設けられる回転支持軸と、前記回転支持軸を中心に前記弁体の前記側壁に対する角度を変更するように前記弁体を回転させるアクチュエータと、前記アクチュエータを制御する制御部と、を備えるとよい。
【0014】
これにより、制御部によりアクチュエータを制御して弁体の角度を変更することで、筒内への吸気の流入方向を制御して、タンブル流の回転軸の位置を変更させることができる。したがって、制御部による制御により、タンブル流の崩壊タイミングを変更させることができ、筒内での燃焼を制御することができる。
好ましくは、前記吸気ポートは、前記ピストンの移動方向と直交する方向に並んで一対設けられ、前記弁体及び前記回転軸は、各前記吸気ポートに設けられるとよい。
【0015】
これにより、一対の吸気ポートから筒内への吸気の流入方向を制御して、タンブル流の回転軸を移動させることが可能になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の内燃機関によれば、筒内への吸気の流入方向を制御して、筒内でタンブル流の回転軸の位置を移動制御することができる。これにより、広い運転領域で運転状態に応じて燃焼効率の高い内燃機関にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係るタンブル流制御装置を採用する内燃機関の給排気系の構成図の一例である。
図2】本実施形態の内燃機関における吸排気ポート及び点火プラグの位置を示す上面図である。
図3】本実施形態の内燃機関のタンブル流制御装置の構成図である。
図4】高負荷運転時におけるタンブル流制御装置によるタンブル流の発生状態を示すイメージ図である。
図5】低負荷運転時におけるタンブル流制御装置によるタンブル流の発生状態を示すイメージ図である。
図6】本実施形態の内燃機関におけるタンブル比の推移例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るタンブル流制御装置を採用する内燃機関1の給排気系の構成図の一例である。
図1に示すように、本実施形態の内燃機関1は、吸気ポート2に燃料であるガソリンを噴射するインジェクタ3を有するポート噴射式のガソリンエンジンである。
【0019】
本実施形態の内燃機関1の吸気通路5には、吸気の流れに沿って吸気ポート2に向かって、エアクリーナー6、インタークーラー7、スロットルバルブ8が備えられている。内燃機関1の排気通路11には、排気ポート31から排気の流れに沿って、上流側排気浄化触媒12及び下流側排気浄化触媒13が備えられている。
また、内燃機関1には、過給機(ターボチャージャ)15、EGRシステム16が備えられている。
【0020】
過給機15は、排気によって回転駆動される図示しないタービンと、タービンの回転に伴って回転し吸気通路内の吸気を圧縮する図示しないコンプレッサを有する。タービンは排気ポート31と上流側排気浄化触媒12との間の排気通路11に設けられ、コンプレッサはエアクリーナー6とインタークーラー7との間の吸気通路5に設けられている。
EGRシステム16は、内燃機関1の排気通路11と吸気通路5とを連通するEGR通路20と、EGR通路20の流路面積を変更するEGRバルブ21と、EGR通路20を通過する排気を冷却するEGRクーラー22を備えている。EGR通路20は、上流側排気浄化触媒12と下流側排気浄化触媒13との間の排気通路11と、エアクリーナー6と過給機15のコンプレッサとの間の吸気通路5とを連結している。
【0021】
また、排気通路11には過給機15のタービンをバイパスする通路を開閉するウエストゲートバルブ25が備えられている。吸気通路5には、過給機15のコンプレッサをバイパスする通路を開閉するリサキュレーションバルブ26が備えられている。
図2は、第1実施形態の内燃機関1における吸排気ポート2、31及び点火プラグ35の位置を示す上面図である。
【0022】
図2に示すように、内燃機関1は、1つの気筒30について吸気ポート2が2個及び排気ポート31が2個備えられている。また、2個の吸気ポート2に吸気バルブ32が夫々備えられるとともに、2個の排気ポート31に排気バルブ33が夫々備えられている。
インジェクタ3は、各吸気ポート2に1個ずつ、即ち1つの気筒30毎に2個ずつ備えられている。
【0023】
内燃機関1の気筒30の上部(シリンダヘッド34)には、その中央部を挟んで一方側に2個の吸気ポート2が、ピストン37の移動方向及び吸排気方向に直交する方向で並んで配置され、他方側に2個の排気ポート31が並んで配置されている。2個の吸気ポート2が、ピストン37の移動方向及び吸排気方向に直交する方向で並んで配置されるとは、2個の吸気ポート2の出口付近(気筒30側端部)が、ピストン37の移動方向及び吸排気方向に直交する方向に並んでいること、すなわち、2個の吸気ポート2がピストン37の移動方向や吸排気方向には並んでいないことを指す。
【0024】
図1、2に示すように、シリンダヘッド34の中央部には、点火プラグ35が備えられている。シリンダヘッド34には、点火プラグ35の中心電極を囲むように区画壁42が備えられている。
気筒30内には、シリンダヘッド34とシリンダ36とピストン37とに囲まれて、ピストン37の移動方向に軸線が延びる略円柱状の空間である主燃焼室41が形成され、更に主燃焼室41の上部中心部の空間が区画壁42に囲まれた副燃焼室43として設けられている。区画壁42には、複数の連通孔44が開いており、主燃焼室41と副燃焼室43とが連通孔44を介して連通している。
【0025】
内燃機関1は、コントロールユニット50(制御部)によって作動制御される。コントロールユニット50は、出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央演算処理装置(CPU)等から構成されている。コントロールユニット50は、クランク角、吸気温度、排気温度、EGRガス温度等を入力し、インジェクタ3、点火プラグ35、スロットルバルブ8、EGRバルブ21、ウエストゲートバルブ25、リサキュレーションバルブ26等を作動制御する。本実施形態では、コントロールユニット50は主燃焼室41内がストイキとなるようにインジェクタ3、スロットルバルブ8等を制御する。
【0026】
図3は、内燃機関1のタンブル流制御装置70の構成図である。図4は、高負荷運転時におけるタンブル流制御装置70によるタンブル流の発生状態を示すイメージ図である。図5は、低負荷運転時におけるタンブル流制御装置70によるタンブル流の発生状態を示すイメージ図である。
内燃機関1は、主燃焼室41内に発生する吸気のタンブル流を制御するタンブル流制御装置70を備えている。
【0027】
図3に示すように、タンブル流制御装置70は、各気筒30の各吸気ポート2(2a、2b)に、吸気の移動方向を変更させる吸気ポートベーン71(弁体、板状部材)と、吸気ポートベーン71を駆動するベーンアクチュエータ72(アクチュエータ)と、を備えるとともに、ベーンアクチュエータ72を作動制御するタンブル流コントロールユニット75(制御部)を備えている。なお、吸気ポートベーン71及びベーンアクチュエータ72は、本発明の変更手段に相当する。
【0028】
吸気ポートベーン71は、ピストン37の移動方向及び吸排気方向に対して直交方向に並んで配置された1対の吸気ポート2の吸気バルブ32に近い位置に夫々設けられている。なお、吸排気方向は、気筒30内での吸排気の移動方向であり、吸気バルブ32と排気バルブ33とを結ぶ方向である。本実施形態では、吸気バルブ32と排気バルブ33とが2個ずつ備えられているので、一対の吸気バルブ32の中心を結ぶ線の中心と、一対の排気バルブ33の中心を結ぶ線の中心とを結ぶ線の方向を吸排気方向とする。
【0029】
吸気ポートベーン71は、各吸気ポート2a、2bのピストン37の移動方向と直交する方向の壁面(側壁)のうち、気筒30内(主燃焼室41)の中心Cから遠い側である外側壁面に備えられ、上下方向(ピストン移動方向)に延びる回転支持軸73を中心に揺動可能に支持された板状の部材である。回転支持軸73は、吸気ポートベーン71の吸排気方向の上流側端部に設けられている。
【0030】
本実施形態では、2個の吸気ポート2a、2bは、気筒30内に向かうにつれて互いに離れるように延びている。
吸気ポートベーン71は、吸気ポート2a、2bの外側壁面に沿った位置、即ち主燃焼室41に向かって互いに離れるように延びる第1位置(図3において実線で示した)と、吸気ポート2a、2bの外側壁面から吸気ポートベーン71の吸排気方向の下流側端部が立ち上がる位置、即ち一対の吸気ポートベーン71が互いに平行な第2位置(図3において破線で示した)との間で移動可能である。
【0031】
ベーンアクチュエータ72は、例えばサーボモータやステッピングモータであって、吸気ポートベーン71を第1の位置と第2の位置との間で移動させる。
タンブル流コントロールユニット75は、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、タイマ及び中央演算処理装置(CPU)等を含んで構成され、コントロールユニット50等より内燃機関1の運転状態(負荷や回転速度)を入力して、ベーンアクチュエータ72を作動制御する。なお、タンブル流コントロールユニット75は内燃機関1を作動制御するコントロールユニット50内に備えられていてもよいし、コントロールユニット50と別体に備えてもよい。
【0032】
図4に示すように、タンブル流コントロールユニット75は、過給機15の非過給時かつ高負荷運転領域において、吸気ポートベーン71を第1位置にする、即ち吸気ポートベーン71を吸気ポート2a、2bの外側の壁面に沿うように移動させる。
これにより吸気は、一対の吸気ポート2a、2bから、主燃焼室41の中心Cよりも外側に広がって主燃焼室41に流入する。すなわち、一対の吸気ポート2a、2bから主燃焼室41に流入する一対の吸気のなす角度が、排気方向に向かうにつれて、ピストン37の移動方向及び吸排気方向と直交する方向で広がるような角度となる。なお、一対の吸気のなす角度とは、一対の吸気ポート2a、2bを流れる吸気の主流がなす角度である。したがって、主燃焼室41の中心C側の流速と外側の流速との差が小さくなり、主燃焼室41で発生する吸気のタンブル流の回転軸Axtは、主燃焼室41の中心Cに近い位置で吸排気方向に略直交する方向に延びるような位置になる。
【0033】
図5に示すように、タンブル流コントロールユニット75は、過給機15の過給領域において、吸気ポートベーン71を第2位置にする、即ち吸気ポートベーン71を給排気方向と平行にする。
これにより吸気は、一対の吸気ポート2a、2bから、吸排気方向と略平行に主燃焼室41に流入する。したがって、主燃焼室41の中心C側の流速が、吸排気方向に直交する方向の外側の流速よりも大きくなり、主燃焼室41内で発生する吸気のタンブル流の回転軸Axtの中心部が主燃焼室41の中心Cより遠ざかり排気バルブ33側に近づいて、回転軸Axtが円弧状に屈曲したものになる。
【0034】
図6は、本実施形態の内燃機関1におけるタンブル比の推移例を示すグラフである。図6中において、実線がタンブル流の回転軸Axtを図5のように移動させた場合、破線がタンブル流の回転軸Axtを図4のまま移動させない場合を示している。
図6の実線に示すように、タンブル流の回転軸Axtを主燃焼室41の中心Cから移動させることで、吸気流入初期から中期でのタンブル比を維持しつつ、ピストンの上死点付近でタンブル流が崩壊し易くなる。
【0035】
以上のように、本実施形態の内燃機関1は、主燃焼室41の上部中心部に区画壁42に囲まれた副燃焼室43が備えられている。区画壁42には、主燃焼室41と副燃焼室43とを連通する連通孔44が設けられ、点火プラグ35によって、副燃焼室43内の混合気に点火する。これにより、副燃焼室43内で着火して発生した火炎が連通孔44を通過して主燃焼室41に拡散し、主燃焼室41内の混合気を効率的に燃焼させる。
【0036】
内燃機関1は、ピストン37の移動方向と直交する方向に並んで設けられる一対の吸気ポート2a、2bを有している。更に、この一対の吸気ポート2a、2bから主燃焼室41内へと流れ込む一対の吸気がなす角度(流入角度)を変更するタンブル流制御装置70を備えている。したがって、タンブル流制御装置70により吸気の流入角度を変更することで主燃焼室41内において発生する吸気のタンブル流の回転軸Axtを移動させることができる。
【0037】
そして内燃機関1の運転状態に応じて主燃焼室41内で吸気のタンブル流の回転軸Axtを移動させることで、タンブル流の崩壊タイミングを変更させることができる。したがって、内燃機関1の運転領域に応じて、タンブル流を維持させることで、主燃焼室41内での燃料と吸気との混合を促して燃焼効率を向上させることができる一方、タンブル流の崩壊を早めることで、気筒30内での必要以上の燃焼を抑制することができる。
【0038】
従来から、吸気量が変化することにより一対の吸気ポートを流れる吸気の流速が変化することはあり得たが、一対の吸気ポートから排出される吸気の角度は一定であるため、タンブル流の回転軸Axtを移動させることはできず、タンブル流の崩壊タイミングを制御することはできなかった。本実施形態によれば、タンブル流制御装置70により一対の吸気ポート2a、2bから流れ込む一対の吸気がなす角度を変更し、タンブル流の回転軸Axtを移動させることができるため、タンブル流の崩壊タイミングを制御して気筒30内での燃焼状態を調整することができる。
【0039】
タンブル流の回転軸Axtを主燃焼室41の中心Cから移動させる際は、回転軸Axtを排気側に移動させるのが好ましい。これにより、気筒30内の高温となりやすい排気側を、タンブル流によって冷却し、ノッキングの発生を抑制することができる。
本実施形態の内燃機関1は過給機15を備えており、タンブル流制御装置70は、過給領域では一対の吸気の角度が平行となるように吸気ポートベーン71を制御するとともに、非過給時の高負荷領域では一対の吸気の角度が平行とならないように吸気ポートベーン71を制御する。
【0040】
これにより、過給領域では、タンブル流の回転軸Axtを主燃焼室41内の中心Cからずらしてタンブル流の崩壊を早めることができるので、過剰な燃焼を抑制することができる。特に、副燃焼室43付きの内燃機関1では、燃料供給量の増加に伴って副燃焼室43からの火炎噴射が強くなるので、燃料供給量が増加される過給領域ではタンブル流の崩壊を早めて過剰な燃焼を抑制し、シリンダ36やピストン37等の気筒30内の保護を図ることができる。
【0041】
燃料供給が抑えられる非過給領域では、タンブル流の回転軸Axtを主燃焼室41内の中心C付近にして、タンブル流を維持し易くして、燃焼を補助することができる。特に不安定な燃焼になり易い非過給状態で低負荷領域である場合に、タンブル流を主燃焼室41内の中心位置に維持させ、吸気と燃料との混合を促して燃焼を補助することで、安定した燃焼を効果的に維持させることができる。
【0042】
タンブル流制御装置70は、一対の吸気ポート2a、2bのピストン37の移動方向に直交する方向での外側の壁面にそれぞれ設けられる吸気ポートベーン71を有しており、吸気ポートベーン71の角度を制御するようにしている。これにより、簡単な構造で主燃焼室41内への吸気の流入方向を制御して、タンブル流の回転軸Axtの位置を変更させることができる。
【0043】
詳しくは、一対の吸気ポート2a、2bは、主燃焼室41に向かうにつれて互いに離れるように設けられており、タンブル流制御装置70が吸気ポートベーン71を吸気ポート2a、2bの外側壁面に平行にすることで、タンブル流の回転軸Axtが主燃焼室41の略中心に位置するようにしている。また、吸気ポートベーン71を吸気ポート2a、2bの外側壁面から内側に立ち上げることで、タンブル流の回転軸Axtが主燃焼室41の略中心から吸排気方向にずれた位置となるようにしている。
【0044】
これにより、吸気ポートベーン71を吸気ポート2a、2bの外側壁面に平行にすることで、吸気ポート2a、2bから気筒30内へ広がるように吸気が導入されるので、主燃焼室41の中心部での吸気通過量を抑え、タンブル流の回転軸Axtを主燃焼室41の略中心に位置するようにすることができる。
また、吸気ポートベーン71を吸気ポート2a、2bの外側壁面から内側に立ち上がるようにすることで、吸気ポート2a、2bから気筒30内への吸気が導入される際に吸気が広がり難くなるので、主燃焼室41の中心部での吸気通過量が増加し、タンブル流の回転軸Axtが弓なりになって主燃焼室41の略中心から排気側に移動させることができる。
【0045】
また、内燃機関1は、主燃焼室41での目標空燃比をストイキに制御することで、内燃機関1の出力を高めることができる。単に目標空燃比をストイキに制御するだけでは、高出力時(燃料供給量が多大となるような運転領域)に気筒30内での燃焼が激しくなりすぎる可能性が有るが、本発明によれば、このような場合もタンブル流の回転軸Axtを移動させることで、吸気流入初期から中期でのタンブル比を維持して予混合性を確保しつつ過剰な燃焼を抑制することができる。
【0046】
本発明は、上記の実施形態に限定するものではない。
例えば、上記実施形態は副燃焼室43や過給機を有する内燃機関1であるが、副燃焼室や過給機を有しない内燃機関であっても本発明を適用できる。燃焼室として主燃焼室41のみを有する内燃機関でも、上記実施形態のようにタンブル流制御装置70により主燃焼室41への吸気の流入方向を制御することで、タンブル流の回転軸Axtの位置を変更可能にしてタンブル流を制御し、内燃機関1の運転状態に応じて燃焼の促進及び過剰な燃焼の抑制を両立させることができる。例えば、EGR通路20とEGRバルブ21を備える内燃機関の場合、吸気に導入されるEGR量が多くなると燃焼が緩慢になり、EGR量が少なくなると燃焼が促進される。そのため、EGR量が所定以上の場合にタンブル流の回転軸Axtが主燃焼室41の略中心となるように吸気ポートベーン71を制御し、EGR量が所定未満の場合にタンブル流の回転軸Axtが主燃焼室41の略中心からずれるとなるように吸気ポートベーン71を制御すればよい。
【0047】
また、上記実施形態では、1つの気筒30に2個の吸気ポート2を備えているが、3個以上吸気ポート2を有する内燃機関であっても本発明を適用できる。あるいは1つの気筒30に1個の吸気ポート2を有する内燃機関であっても、吸気ポート2の両側壁に夫々吸気ポートベーン71を設け、気筒30内での吸気の広がり度合を変更可能にすればよい。
また、吸気ポートベーン71等の各種部品や、内燃機関の各インジェクタや筒内の詳細な構造については、適宜変更してもよい。また、本発明の内燃機関は、自動車の走行駆動用等の各種内燃機関に適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 内燃機関
2(2a、2b) 吸気ポート
15 過給機
34 シリンダヘッド
36 シリンダ
37 ピストン
41 主燃焼室
43 副燃焼室
71 吸気ポートベーン(弁体、板状部材、変更手段)
72 ベーンアクチュエータ(アクチュエータ、変更手段)
73 回転支持軸
75 タンブル流コントロールユニット(制御装置)
Axt 回転軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6