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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089277
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
   F02B 37/18 20060101AFI20240626BHJP
   F02B 37/00 20060101ALI20240626BHJP
   F02D 13/02 20060101ALI20240626BHJP
   F02D 23/00 20060101ALI20240626BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
F02B37/18 A
F02B37/00 302A
F02D13/02 H
F02D23/00 K
F02D29/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204543
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】細野 清隆
(72)【発明者】
【氏名】柳川 健介
(72)【発明者】
【氏名】川辺 敬
(72)【発明者】
【氏名】村上 隆
(72)【発明者】
【氏名】廣江 健太
【テーマコード(参考)】
3G005
3G092
3G093
【Fターム(参考)】
3G005EA20
3G005FA22
3G005GA02
3G005GB28
3G005GC07
3G005GC08
3G005JA02
3G005JA39
3G005JB11
3G092AA18
3G092DA01
3G092DA02
3G092DA12
3G092DB03
3G092DB04
3G092EA02
3G092FA15
3G093DA01
3G093DB11
3G093EA14
3G093EA15
(57)【要約】
【課題】低回転高負荷時における早期着火を抑制する内燃機関を提供する。
【解決手段】吸気通路5に設けられ電動モータ17で駆動するコンプレッサ15bと排気通路11に設けられたタービン15aとを有する過給機15と、タービン15aをバイパスするバイパス路24を開閉するウエストゲートバルブ25を有する、車両の走行駆動用の内燃機関1であって、ウエストゲートバルブ25及び電動モータ17を制御するコントロールユニット50を備え、コントロールユニット50は、内燃機関1の目標出力が所定の回転以下かつ所定の負荷以上のLSPI領域の外からLSPI領域内に移動した場合、コンプレッサ15bを駆動させるように電動モータ17を制御するとともにバイパス路24を開くようにウエストゲートバルブ25を制御する排気強化制御を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室に吸気を供給する吸気通路と、
前記燃焼室から排気を排出する排気通路と、
前記吸気通路に設けられモータで駆動するコンプレッサと、前記排気通路に設けられるタービンとを有する過給機と、
前記タービンをバイパスするバイパス路を開閉するウエストゲートバルブと、
前記ウエストゲートバルブ及び前記モータを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記内燃機関の目標出力が所定の回転速度以下かつ所定の負荷以上である第1領域の外側から前記第1領域内に移動した場合、前記コンプレッサを駆動させるように前記モータを制御するとともに前記バイパス路を開くように前記ウエストゲートバルブを制御する排気強化制御を行う、
ことを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記内燃機関は、車両の走行駆動輪を駆動可能であって、
前記車両は、前記走行駆動輪と前記内燃機関との間の動力伝達路に変速装置を有し、
前記制御部は、前記内燃機関の目標出力が前記第1領域内に移動し、前記変速装置をシフトダウンする前に、前記排気強化制御を行う、
ことを特徴とする請求項1記載の内燃機関。
【請求項3】
前記内燃機関の吸気弁又は排気弁の少なくとも一方の開弁時期を変更可能な可変バルブタイミング機構を有し、前記吸気弁と前記排気弁とが共に開弁するバルブオーバーラップ期間が設定されており、
前記制御部は、前記排気強化制御を行う際に、前記排気強化制御を行なわない場合よりも前記バルブオーバーラップ期間が短くなるように前記可変バルブタイミング機構を制御する、
ことを特徴とする請求項1又は2記載の内燃機関。
【請求項4】
前記制御部は、
前記排気強化制御を行う際に、前記内燃機関の回転速度に基づいて前記バルブオーバーラップ期間を設定する
ことを特徴とする請求項3記載の内燃機関。
【請求項5】
前記制御部は、
前記排気強化制御を行う際に、前記内燃機関の回転速度が所定値以上の場合には前記バルブオーバーラップ期間が短くなるように前記可変バルブタイミング機構を制御し、前記排気強化制御を行う際に、前記内燃機関の回転速度が前記所定値未満の場合には前記バルブオーバーラップ期間を短く変更しない
ことを特徴とする請求項4記載の内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動の過給機を備えた内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
排気により駆動する内燃機関の過給機において、更にモータ等により任意のタイミング及び回転速度でコンプレッサを駆動可能にした電動式の過給機が開発されている。
特許文献1には、電動モータによりコンプレッサを駆動可能にした電動式過給機を備えた内燃機関が開示されている。更に特許文献1に記載された内燃機関は、排気通路に設けられたタービンをバイパスするバイパス路及びウエストゲートバルブと、排気の一部を吸気に還流する高圧EGR装置と、を備えている。そして、エンジンが冷間状態かつ低負荷領域にあるときに、ウエストゲートバルブと高圧EGR装置のEGRバルブとを開き、かつ電動式過給機によって過給圧を上昇させるように制御することで、タービンにより排気熱を奪われることを抑制するとともに十分な新気量を確保するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-105190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ガソリンエンジン等の点火式の内燃機関においては、低回転高負荷時に早期着火(プレイグニッション)を発生する可能性があり、筒内の保護及び出力の確保の為の対策が必要になっている。従来、このような早期着火に対しては、内燃機関の出力を制限することによって対応している。
また、バルブオーバーラップ期間を長くすることにより筒内からの掃気性を向上させることで早期着火を抑制する方法が考えられるが、バルブオーバーラップ期間を長くすると実圧縮比が低下するため、バルブオーバーラップ期間の変更では対応しきれない場合がある。なお、特許文献1では、ウエストゲートバルブを開き電動式過給機によって過給圧を上昇させるタイミングはエンジンが冷間状態かつ低負荷領域にあるときであり、低回転高負荷時の早期着火の対応については検討されていない。
【0005】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、モータ駆動の過給機を備えた内燃機関において低回転高負荷時における早期着火を抑制する内燃機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の内燃機関は、内燃機関の燃焼室に吸気を供給する吸気通路と、前記燃焼室から排気を排出する排気通路と、前記吸気通路に設けられモータで駆動するコンプレッサと、前記排気通路に設けられるタービンとを有する過給機と、前記タービンをバイパスするバイパス路を開閉するウエストゲートバルブと、前記ウエストゲートバルブ及び前記モータを制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記内燃機関の目標出力が所定の回転速度以下かつ所定の負荷以上である第1領域の外側から前記第1領域内に移動した場合、前記コンプレッサを駆動させるように前記モータを制御するとともに前記バイパス路を開くように前記ウエストゲートバルブを制御する排気強化制御を行うことを特徴とする。
【0007】
これにより、内燃機関の目標出力が所定の回転速度以下かつ所定の負荷以上、即ち低回転高負荷の第1領域に移動した場合に、排気強化制御を行うことで、内燃機関の排気が促進される。したがって、第1領域において早期着火(プレイグニッション)を発生し難くすることができる。
好ましくは、前記内燃機関は、車両の走行駆動輪を駆動可能であって、前記車両は、走行駆動輪と前記内燃機関との間の動力伝達路に変速装置を有し、前記制御部は、前記内燃機関の目標出力が前記第1領域内に移動し、前記変速装置をシフトダウンする前に、前記排気強化制御を行うとよい。
【0008】
これにより、内燃機関の目標出力が第1領域内に移動したときに、シフトダウンをする前に、排気強化制御が行なわれることで早期着火が抑制されるので、早期着火を回避するための内燃機関の出力低下制御を抑制することができる。
好ましくは、前記制御部は、前記内燃機関の吸気弁又は排気弁の少なくとも一方の開弁時期を変更可能な可変バルブタイミング機構を有し、前記吸気弁と前記排気弁とが共に開弁するバルブオーバーラップ期間が設定されており、前記制御部は、前記排気強化制御を行う際に、前記排気強化制御を行なわない場合よりも前記バルブオーバーラップ期間が短くなるように前記可変バルブタイミング機構を制御するとよい。
【0009】
これにより、排気強化制御を行う際に、バルブオーバーラップ期間を短くすることで、吸気弁の閉弁時期を遅角させ、実圧縮比を低下させることができる。したがって、ノッキングが抑制されるので、例えば点火時期をリタードさせて燃費を向上させることが可能になる。
好ましくは、前記制御部は、前記排気強化制御を行う際に、前記内燃機関の回転速度に基づいて前記バルブオーバーラップ期間を設定するとよい。
【0010】
これにより、内燃機関の回転速度に応じてバルブオーバーラップ期間を適切に設定し、内燃機関の出力を向上させることができる。
好ましくは、前記制御部は、前記排気強化制御を行う際に、前記内燃機関の回転速度が所定値以上の場合には前記バルブオーバーラップ期間が短くなるように前記可変バルブタイミング機構を制御し、前記内燃機関の回転速度が前記所定値未満の場合には前記バルブオーバーラップ期間を短く変更しないとよい。
【0011】
これにより、排気強化制御を行う際に、内燃機関の回転速度が所定値以上の高回転時には燃焼室内の吸排気の流速が上昇して掃気性が確保されるので、バルブオーバーラップ期間を短くすることでノッキングを抑制し、例えば点火時期をリタードさせて燃費を向上させることができる。また、排気強化制御を行う際に、回転速度が所定値未満の低回転時には燃焼室内の吸排気の流速が低下するので、バルブオーバーラップ期間を短くすることはせず、掃気性を維持する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の内燃機関によれば、内燃機関の目標出力が低回転高負荷の第1領域に移動した場合に、排気強化制御を行うことで内燃機関の排気が促進され、早期着火(プレイグニッション)を発生し難くすることができる。これにより、低回転高負荷時に早期着火を防止すべく内燃機関の出力が第1領域へ移動しないようにするための出力制限が不要となり、内燃機関の出力低減を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態の内燃機関の給排気系の構成図である。
図2】本実施形態における排気強化制御部において実行される排気強化制御の制御手順を示すフローチャートである。
図3】バルブオーバーラップ機構付きの内燃機関におけるシフトダウン時での内燃機関の運転状態の推移例を示す説明図である。
図4】シフトダウン時での内燃機関の各種運転状態の推移例を示すタイムチャートであり、排気強化制御有無での排圧の変化を示す説明図である。
図5】バルブオーバーラップ機構付きの内燃機関における給排気弁の開弁時期を示すタイミング図であり、排気強化制御有無での違いを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態の内燃機関1の給排気系の構成図である。
図1に示すように、本実施形態の内燃機関1は、吸気ポート2に燃料であるガソリンを噴射するインジェクタ3を有するポート噴射式のガソリンエンジンである。
本実施形態の内燃機関1は、自動変速装置を備えた車両の走行駆動用の動力源として用いられ、自動変速機を介して車両の走行駆動輪に動力を伝達して、車両を走行駆動可能である。
【0015】
本実施形態の内燃機関1の吸気通路5には、吸気の流れに沿って、エアクリーナー6、インタークーラー7、スロットルバルブ8が吸気ポート2の上流側に備えられている。内燃機関1の排気通路11には、排気ポート31から排気の流れに沿って、上流側排気浄化触媒12及び下流側排気浄化触媒13が備えられている。
また、内燃機関1には、過給機15、EGRシステム16が備えられている。
【0016】
過給機15は、排気によって回転駆動される図示しないタービン15aと、タービン15aの回転に伴って回転し吸気通路5内の吸気を圧縮するコンプレッサ15bを有するターボチャージャである。更に、過給機15は、コンプレッサ15bを駆動する電動モータ17(モータ)を備え、電動モータ17の駆動により過給のアシストをする機能を有している。本実施形態では、タービン15aとコンプレッサ15bとを繋ぐ軸に電動モータ17が設けられ、この軸を電動モータ17によって回転させることで過給のアシストをする。
【0017】
EGRシステム16は、内燃機関1の排気通路11と吸気通路5とを連通するEGR通路20と、EGR通路20の流路面積を変更するEGRバルブ21と、EGR通路20を通過する排気を冷却するEGRクーラー22を備えている。EGR通路20は、排気通路11のタービン15aより下流側と、吸気通路5のコンプレッサ15bより上流側とを連結している。
【0018】
また、排気通路11には過給機15のタービンをバイパスするバイパス路24を開閉するウエストゲートバルブ25が備えられている。吸気通路5には、過給機15のコンプレッサ15bをバイパスする通路を開閉するリサキュレーションバルブ26が備えられている。
内燃機関1は、コントロールユニット50(制御部)によって作動制御される。コントロールユニット50は、出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央演算処理装置(CPU)等から構成されている。コントロールユニット50は、クランク角、吸気量、排気温度等を入力し、インジェクタ3、点火プラグ35、スロットルバルブ8、EGRバルブ21、電動モータ17、ウエストゲートバルブ25、リサキュレーションバルブ26等を作動制御する。
【0019】
また、コントロールユニット50は、車両の自動変速装置を制御する変速機制御部52を備えている。
本実施形態の内燃機関1のコントロールユニット50には、低回転高負荷時における早期着火(プレイグニッション)によるノッキングを抑制するための排気強化制御(LSPI領域からの一時回避制御)を行う排気強化制御部51が備えられている。
排気強化制御部51は、内燃機関1の運転状態を取得し、電動モータ17、ウエストゲートバルブ25等を作動制御する。
【0020】
なお、排気強化制御部51や変速機制御部52は、コントロールユニット50と別体に設けられていてもよい。
図2は、排気強化制御部51において実行される排気強化制御の制御手順を示すフローチャートである。
排気強化制御部51は、内燃機関1の運転時に所定時間(例えば数msec)毎に繰り返し行われる。
【0021】
始めに、ステップS10では、内燃機関1の要求トルクTを算出する、要求トルクTは、車両のアクセル操作量やエンジン回転速度等から演算される。なお、要求トルクTは、コントロールユニット50において演算した値を使用すればよい。そして、ステップS20に進む。
ステップS20では、ステップS10において入力した要求トルクTが最大トルクTmax以上であるか否かを判別する。最大トルクTmaxは、内燃機関1のLSPI(Low Speed Pre-Ignition)領域に基づいて規制されるトルクであり、エンジン回転速度に応じてあらかじめ設定された値である。
【0022】
LSPI領域とは、例えば図3において右上がり斜線及び左上がり斜線の領域で示すような低回転高負荷領域で、プレイグニッション(早期着火)が発生する可能性が有る領域であり、内燃機関1の回転速度Ne及び負荷Ecによって規定される。なお、LSPI領域は本発明の第1領域に相当する。本実施形態では、最大トルクTmaxとは、LSPI領域(右上がり斜線及び左上がり斜線)とその他の領域(斜線なし)との境界部分である。最大トルクTmax、即ちLSPI領域は、実験等によって事前に取得したデータに基づきマップ化しておけばよい。
【0023】
要求トルクTが最大トルクTmax以上である場合には、ステップS30に進む。要求トルクTが最大トルクTmax未満である場合には、ステップS80に進む。
ステップS30では、LSPI領域からの一時回避のため排気強化制御を実行する。排気強化制御は、ウエストゲートバルブ25(W/Gバルブ)を開作動させるとともに、過給機15の電動モータ17を駆動(ON)してコンプレッサ15bを駆動し内燃機関1の筒内への吸気を過給する。そして、ステップS40に進む。
【0024】
ステップS40では、車速及びアクセル開度に基づくシフトダウン要求判定をする。コントロールユニット50には、車速及びアクセル開度毎の目標変速段のマップがあらかじめ記憶されており、このマップを使用して目標変速段が決定される。
なお、目標出力P(負荷Ecすなわち目標トルクT及び回転速度Ne)がLSPI領域、すなわち低回転高負荷領域にある場合には、通常は高変速段は不向きな領域であるためシフトダウン要求が出されるように目標変速段のマップが設定される。そして、ステップS50に進む。
【0025】
ステップS50では、車両の自動変速機(変速機制御部52)に変速要求をするか否かを判定する。自動変速機への変速要求の判定については、例えば電動モータ17での過給アシストが可能か否かにより判定する。過給アシストが可能か否かは、電動モータ17の連続駆動時間(連続稼働可能な時間)を考慮して判定するとよい。電動モータ17の連続稼働時間は、電力消費量や回路、電動モータ17の温度上昇量を考慮して設定されている。なお、排気強化制御を行う場合には、内燃機関1が低回転高負荷であることから過給機15の電動モータ17は最大出力付近になる。電動モータ17は、電動モータ17を駆動していない状態で自動変速機をシフトダウンさせた場合に、シフトダウンが完了する前に電動モータ17が作動停止しないような連続稼働時間を有するものを使用すればよい。
【0026】
過給アシストが不可な場合には、ステップS60に進む。過給アシストが可能な場合には、排気強化制御を継続し本ルーチンをリターンする。なお、過給アシストが不可な場合とは、直近で過給アシストが不可となる可能性が有る場合も含む。例えば、電動モータ17が連続して駆動している時間が、連続稼働時間より少し短い所定時間に達した場合、過給アシストが不可となったと判定すればよい。
【0027】
ステップS60では、自動変速機を制御する変速機制御部52に、変速段をステップS40において決定された目標変速段にシフトダウンさせるように要求信号を出力して、シフトダウンを開始させる。そして、ステップS70に進む。
ステップS70では、排気強化制御を終了させる。ステップS70で排気強化制御を終了させる際には、排気強化制御を急激に停止させるのでなく、内燃機関1の回転速度や要求トルクの推移に応じてLSPI領域から脱するまで、徐々にウエストゲートバルブ25を閉動作させるとともに過給アシスト量を低下させる。そして、本ルーチンをリターンする。
【0028】
ステップS80では、排気強化制御を停止する。即ち、過給機15の電動モータ17を停止(OFF)するとともに、ウエストゲートバルブ25(W/Gバルブ)を閉作動させる。なお、ステップS80までに排気強化制御が停止されていれば、停止状態を維持する。ステップS70で過給アシスト量を低下させているが、未だ過給アシストを継続している状態でステップS80となった場合は、排気強化制御を即終了する、すなわち過給アシストを終了させるとよい。そして、本ルーチンをリターンする。
【0029】
以上のように、本実施形態の内燃機関1は、タービン15a及びコンプレッサ15bを有する過給機15を備えるとともに、過給機15にはコンプレッサ15bを任意に駆動できる電動モータ17が備えられている。また、排気通路11には、タービン15aをバイパスするバイパス路24を開閉するウエストゲートバルブ25が備えられている。
内燃機関1は、低回転高負荷時において早期着火(プレイグニッション)を発生する可能性のある領域であるLSPI領域を有している。従来は、内燃機関1の目標出力PがLSPI領域内になった場合には、内燃機関1の運転領域がLSPI領域に入らないように目標出力Pを小さな値に変更する。図3において、白丸が目標出力Pである。図3では、点線矢印に示すように内燃機関1の出力が目標出力Pに向かい変化するが、目標出力PがLSPI領域内に位置しているため、LSPI領域外に位置する黒丸を新たな目標出力P‘とし、実線矢印に示すように内燃機関1の出力を目標出力P’に向けて変化させる。なお、目標出力P‘は低回転高負荷領域にあるため、に内燃機関1の出力が目標出力P’に達すると、シフトダウンして二点鎖線矢印のように新たな目標出力に向けて内燃機関1の出力が変化する。
【0030】
本実施形態では、内燃機関1の目標出力(回転速度及び負荷)が低回転高負荷のLSPI領域に移動した場合に、ウエストゲートバルブ25を開作動させるとともに、電動モータ17を駆動してコンプレッサ15bを作動させ吸気圧を上昇させる排気強化制御を実行することで、図4に示すように内燃機関1の排気圧を低下させるとともに吸気圧を確保する。これにより、掃気性を向上させることができ、早期着火をし難くすることができる。したがって、発生領域から逸脱させるための内燃機関1の目標出力Pを低下させる制御を抑制することができる。図3における右上がり斜線及び左上がり斜線で示す領域が排気強化制御を行う前のLSPI領域であり、右上がり斜線が排気強化制御の実施中のLSPI領域である。目標出力Pが左上がり斜線内に位置しているが、排気強化制御により左上がり斜線内がLSPI領域から外れるため、目標出力Pを変更せずともLSPI領域を脱することができる。
【0031】
なお、本実施形態では、タービン15aとコンプレッサ15bとを繋ぐ軸を回転させるように電動モータ17が設けられるため、過給中に排気強化制御が行われる場合は、既にコンプレッサ15bが回転している状態で電動モータ17でコンプレッサ15bを駆動することになるので、電動モータ17の消費電力を低減することができる。
コントロールユニット50の排気強化制御部51は、内燃機関1の目標出力PがLSPI領域内に移動し、シフトダウンする直前、すなわち内燃機関1の目標出力Pがシフトダウン要求がなされる領域に移動したとき、シフトダウンより前に排気強化制御を行う。
【0032】
シフトダウンする直前では、内燃機関1は低回転高負荷のLSPI領域に入りやすい。そして、シフトダウン後は内燃機関1の回転速度が上昇するので、内燃機関1の出力を低下させる必要がある。
本実施形態では、シフトダウンをする前に排気強化制御が行なわれることで、LSPI領域に入ることを抑制することができる。また、シフトダウンをする前に排気強化制御によりウエストゲートバルブ25が開かれることで、排気によるタービン15aの回転が抑制される。よって、シフトダウン後のタービン15aの回転数に対する排気の影響を小さくすることができ、シフトダウン時におけるエンジン出力制御を容易にすることができる。
【0033】
上記実施形態の内燃機関1において更に、吸気弁32に開弁時期を変更可能な可変バルブタイミング機構60を有しているとよい。
図1において2点鎖線で示すように、排気強化制御部51は、排気強化制御を実行する際に、図5に示すようにバルブオーバーラップ期間が短くなるように、すなわち吸気弁32の開弁タイミングを遅角させるように可変バルブタイミング機構60を補正制御するとよい。
【0034】
従来、バルブオーバーラップ期間を短くすることは掃気性の低下につながるため、LSPI領域付近で行うことはできなかったが、本実施の形態によれば、排気強化制御を行うことで掃気が強化されているため、バルブオーバーラップ期間を短くすることができる。これにより、内燃機関1における実圧縮比の低下によりノッキングが抑制されるので、例えば点火時期をリタードさせて燃費を向上させることが可能になる。
【0035】
更に、排気強化制御を実行する際に、内燃機関1の回転速度に応じてバルブオーバーラップ期間を変更するようにしてもよい。
例えば内燃機関1が任意に設定された所定値以上の高回転時には、排気強化制御を行う際、バルブオーバーラップ期間が短くなるように可変バルブタイミング機構を補正制御し、内燃機関1の回転数が所定値未満の低回転時には、排気強化制御を行う際にも可変バルブタイミング機構の補正制御を実行しない、すなわちバルブオーバーラップ期間を維持する。
【0036】
内燃機関1の高回転時には燃焼室内の吸気の流速が上昇するので、掃気性が確保できるためバルブオーバーラップ期間を短くし、ノッキングを抑制し、例えば点火時期をリタードさせて燃費を向上させる。
内燃機関1の低回転時には燃焼室内の吸気の流速が低下するので、バルブオーバーラップ期間を短くすることはせず、掃気性を維持する。
【0037】
なお、内燃機関1の回転速度に応じてバルブオーバーラップ期間を連続的あるいは段階的に変更するようにしてもよい。
なお、可変バルブタイミング機構は、排気弁33の開弁時期を変更するもの、あるいは吸気弁32及び排気弁33の両方の開弁時期を変更するものであってもよい。
本発明は、上記の実施形態に限定するものではない。例えば上記実施形態において、過給機15に備えた電動モータ17は発電可能なものであってもよい。また、内燃機関1や各種補器等の詳細な構成についても適宜変更してもよい。例えば、過給機15として、軸で連結されたタービン15a及びコンプレッサ15bに加え、吸気通路5に別途コンプレサと、このコンプレッサを駆動させる電動モータ17とを有したものを採用してもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 内燃機関
5 吸気通路
11 排気通路
15 過給機
15b コンプレッサ
15a タービン
17 電動モータ(モータ)
25 ウエストゲートバルブ
32 吸気弁
33 排気弁
50 コントロールユニット(制御部)
51 排気強化制御部(制御部)
60 可変バルブタイミング機構
図1
図2
図3
図4
図5