(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089310
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】ダイシングダイボンドフィルム及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20240626BHJP
H01L 21/52 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
H01L21/78 M
H01L21/52 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204589
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】福井 章洋
(72)【発明者】
【氏名】角野 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】大西 謙司
【テーマコード(参考)】
5F047
5F063
【Fターム(参考)】
5F047BA34
5F047BA35
5F047BA53
5F047BB03
5F047BB19
5F063AA18
5F063AA31
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5F063CB05
5F063CB07
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5F063DG04
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5F063EE16
5F063EE17
5F063EE18
5F063EE42
5F063EE43
5F063EE44
5F063EE48
(57)【要約】
【課題】 ダイシングテープを引き伸ばした後に、隣り合う半導体チップ間の離間距離(カーフ)が部位によってばらつくことを抑制できるだけでなく、引き伸ばし時におけるダイシングテープの裂けが抑制され、しかも、ダイボンドシートを良好に割断できるダイシングダイボンドフィルムなどを提供することを課題としている。
【解決手段】 基材層、及び、該基材層に重なった粘着剤層を有するダイシングテープと、該ダイシングテープに重なったダイボンドシートとを備え、
前記ダイシングテープの120℃における引張貯蔵弾性率が0.10MPa以上であり、且つ、-15℃における引張貯蔵弾性率が280MPa以上500MPa以下である、ダイシングダイボンドフィルムなどを提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層、及び、該基材層に重なった粘着剤層を有するダイシングテープと、該ダイシングテープに重なったダイボンドシートとを備え、
前記ダイシングテープの120℃における引張貯蔵弾性率が0.10MPa以上であり、且つ、-15℃における引張貯蔵弾性率が280MPa以上500MPa以下である、ダイシングダイボンドフィルム。
【請求項2】
前記基材層は、積層された複数の層を有し、
前記複数の層の断面における弾性率であって、-5℃で原子間力顕微鏡(AFM)による弾性率マッピングを実施したときのヒストグラムにおける頻度最大ピークで示される弾性率のうち、最も大きい弾性率及び最も小さい弾性率をそれぞれP及びQとしたときに、下記式(1)が満たされる、請求項1に記載のダイシングダイボンドフィルム。
[(P-Q)/P]×100≧5 式(1)
【請求項3】
前記基材層は、積層された複数の層を有し、
前記複数の層の断面における弾性率であって、-5℃で原子間力顕微鏡(AFM)による弾性率マッピングを実施したときのヒストグラムにおける頻度最大ピークで示される弾性率は、いずれも、190MPa以上890MPa以下である、請求項1又は2に記載のダイシングダイボンドフィルム。
【請求項4】
ナノインデンター測定によって算出される0℃における前記粘着剤層の弾性率は、0.60MPaよりも大きい、請求項1又は2に記載のダイシングダイボンドフィルム。
【請求項5】
前記ダイボンドシートの0℃における破断伸度は、4.7%よりも小さい、請求項1又は2に記載のダイシングダイボンドフィルム。
【請求項6】
基材層及び該基材層に重なった粘着剤層を有するダイシングテープと、該ダイシングテープに重なったダイボンドシートと、を備えるダイシングダイボンドフィルムを使用して、半導体チップを有する半導体装置を製造する、半導体装置の製造方法であって、
前記ダイシングテープの120℃における引張貯蔵弾性率が0.10MPa以上であり、且つ、-15℃における引張貯蔵弾性率が280MPa以上500MPa以下であり、
前記ダイシングテープの前記粘着剤層と半導体ウエハとの間に前記ダイボンドシートを配置することによって、前記ダイボンドシートを介して前記半導体ウエハを前記ダイシングテープに固定するマウント工程と、
前記ダイシングテープを引き伸ばすことによって、前記ダイボンドシートと共に前記半導体ウエハを割断し、前記半導体ウエハが小片化された前記半導体チップを得るエキスパンド工程と、を備える、半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体装置などを製造するときに使用されるダイシングダイボンドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体装置などの製造において使用されるダイシングダイボンドフィルムが知られている。この種のダイシングダイボンドフィルムは、例えば、ダイシングテープと、該ダイシングテープに積層され且つ半導体ウエハに接着されるダイボンドシートと、を備える。ダイシングテープは、基材層と、ダイボンドシートに接している粘着剤層とを有する。この種のダイシングダイボンドフィルムは、半導体装置の製造において、例えば下記のように使用される。
【0003】
半導体装置を製造する方法は、一般的に、高集積の電子回路によって円板状のベアウエハの片面側に回路面を形成する前工程と、回路面が形成された半導体ウエハから半導体チップを切り出して組立てを行う後工程とを備える。
【0004】
例えば、後工程は、半導体ウエハを小さい半導体チップ(ダイ)へ割断するための脆弱部位をレーザー光によって半導体ウエハに形成するステルスダイシング工程と、半導体ウエハの回路面とは反対側の面をダイボンドシートに貼り付けて、ダイボンドシートを介して半導体ウエハをダイシングテープに固定するマウント工程と、半導体ウエハの放射方向にダイシングテープを引き伸ばして、脆弱部位が形成された半導体ウエハをダイボンドシートと共に割断して、隣り合う半導体チップ(ダイ)の間隔を広げるエキスパンド工程と、ダイボンドシートと粘着剤層との間で剥離してダイボンドシートが貼り付いた状態の半導体チップを取り出すピックアップ工程と、ダイボンドシートが貼り付いた状態の半導体チップをダイボンドシートを介して被着体に接着させるダイボンド工程と、被着体に接着したダイボンドシートを熱硬化処理するキュアリング工程と、を有する。半導体装置は、例えばこれらの工程を経て製造される。
【0005】
上記のような半導体装置の製造方法において、例えば上記のエキスパンド工程を実施した後において、割断された複数の半導体チップの周囲でダイシングテープがたるみ、いったん間隔が広がった隣り合う半導体チップ同士が接触する場合がある。
これに対して、上記のごときダイシングテープのたるみを抑制し、隣り合う半導体チップの接触を防止すべく、高温で加熱される前のダイシングテープの長さに対する、加熱された後のダイシングテープの長さを特定したダイシングダイボンドフィルムが知られている(例えば、特許文献1)。
【0006】
詳しくは、特許文献1に記載のダイシングダイボンドフィルムにおいて、100℃で1分間の加熱前におけるダイシングテープのMD方向の第1長さ100%に対して、前記加熱後における前記MD方向の第2長さが、95%以下である。
特許文献1に記載のダイシングダイボンドフィルムによれば、ダイシングテープを引き伸ばしたことで割断された複数の半導体チップの周囲でダイシングテープがたるむことを抑制できる。これにより、隣り合う半導体チップ間の離間距離(カーフ)を十分に空けることができ、半導体チップ同士の接触を防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、エキスパンド工程において、ダイシングテープを引き伸ばした後に、隣り合う半導体チップ間の離間距離(カーフ)が部位によってばらつくことを抑制できるだけでなく、引き伸ばし時におけるダイシングテープの裂けが抑制され、しかも、ダイボンドシートを良好に割断できるダイシングダイボンドフィルムについては、未だ十分に検討されているとはいえない。
【0009】
そこで、本発明は、エキスパンド工程において、隣り合う半導体チップ間の離間距離(カーフ)が部位によってばらつくことを抑制できるだけでなく、ダイシングテープの裂けが抑制され、しかも、ダイボンドシートを良好に割断できるダイシングダイボンドフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本発明に係るダイシングダイボンドフィルムは、
基材層、及び、該基材層に重なった粘着剤層を有するダイシングテープと、該ダイシングテープに重なったダイボンドシートとを備え、
前記ダイシングテープの120℃における引張貯蔵弾性率が0.10MPa以上であり、且つ、-15℃における引張貯蔵弾性率が280MPa以上500MPa以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る半導体装置の製造方法は、
基材層及び該基材層に重なった粘着剤層を有するダイシングテープと、該ダイシングテープに重なったダイボンドシートと、を備えるダイシングダイボンドフィルムを使用して、半導体チップを有する半導体装置を製造する、半導体装置の製造方法であって、
前記ダイシングテープの120℃における引張貯蔵弾性率が0.10MPa以上であり、且つ、-15℃における引張貯蔵弾性率が280MPa以上500MPa以下であり、
前記ダイシングテープの前記粘着剤層と半導体ウエハとの間に前記ダイボンドシートを配置することによって、前記ダイボンドシートを介して前記半導体ウエハを前記ダイシングテープに固定するマウント工程と、
前記ダイシングテープを引き伸ばすことによって、前記ダイボンドシートと共に前記半導体ウエハを割断し、前記半導体ウエハが小片化された前記半導体チップを得るエキスパンド工程と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るダイシングダイボンドフィルムによれば、エキスパンド工程において、隣り合う半導体チップ間の離間距離(カーフ)が部位によってばらつくことを抑制できるだけでなく、ダイシングテープの裂けが抑制され、しかも、ダイボンドシートを良好に割断できる。
本発明に係る半導体装置の製造方法によれば、エキスパンド工程において、隣り合う半導体チップ間の離間距離(カーフ)が部位によってばらつくことを抑制できるだけでなく、ダイシングテープの裂けが抑制され、しかも、ダイボンドシートを良好に割断できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態のダイシングダイボンドフィルムを厚さ方向に切断した断面図。
【
図2A】本実施形態のダイシングダイボンドフィルムにおけるダイシングテープの基材層の一例を厚さ方向に切断した断面図。
【
図2B】本実施形態のダイシングダイボンドフィルムにおけるダイシングテープの基材層の他の例を厚さ方向に切断した断面図。
【
図3A】半導体装置の製造方法におけるステルスダイシング工程の様子を模式的に表す断面図。
【
図3B】半導体装置の製造方法におけるステルスダイシング工程の様子を模式的に表す断面図。
【
図3C】半導体装置の製造方法におけるステルスダイシング工程の様子を模式的に表す断面図。
【
図3D】半導体装置の製造方法におけるバックグラインド工程の様子を模式的に表す断面図。
【
図4A】半導体装置の製造方法におけるマウント工程の様子を模式的に表す断面図。
【
図4B】半導体装置の製造方法におけるマウント工程の様子を模式的に表す断面図。
【
図5A】半導体装置の製造方法における低温でのエキスパンド工程の様子を模式的に表す断面図。
【
図5B】半導体装置の製造方法における低温でのエキスパンド工程の様子を模式的に表す断面図。
【
図5C】半導体装置の製造方法における低温でのエキスパンド工程の様子を模式的に表す断面図。
【
図6A】半導体装置の製造方法における常温でのエキスパンド工程の様子を模式的に表す断面図。
【
図6B】半導体装置の製造方法における常温でのエキスパンド工程の様子を模式的に表す断面図。
【
図7】半導体装置の製造方法におけるエキスパンド工程時の加熱処理の様子を半導体チップの厚さ方向の一方側から見た模式図。
【
図8】半導体装置の製造方法におけるピックアップ工程の様子を模式的に表す断面図。
【
図9】半導体装置の製造方法におけるダイボンド工程後及びワイヤボンディング工程後の様子を模式的に表す断面図。
【
図10】半導体装置の製造方法における封止工程の様子を模式的に表す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るダイシングダイボンドフィルムの一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1は、
図1に示すように、ダイシングテープ20と、該ダイシングテープ20の粘着剤層22(後述)に積層され且つ半導体ウエハに接着されるダイボンドシート10とを備える。
なお、図面における図は模式図であり、実物における縦横の長さ比と必ずしも同じではない。
【0016】
本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1では、使用されるときに、活性エネルギー線(例えば紫外線)が照射されることによって、粘着剤層22が硬化される。詳しくは、一方の面に半導体ウエハが接着されたダイボンドシート10と、該ダイボンドシート10の他方の面に貼り合わされた粘着剤層22とが積層した状態で、紫外線等が少なくとも粘着剤層22に照射される。例えば、基材層21が配置されている方から紫外線等を照射して、基材層21を経た紫外線等が粘着剤層22に届く。紫外線等の照射によって、粘着剤層22が硬化する。
照射後に粘着剤層22が硬化することによって、粘着剤層22の粘着力を下げることができるため、照射後に粘着剤層22からダイボンドシート10(半導体チップが接着した状態)を比較的容易に剥離させることができる。ダイボンドシート10は、半導体装置の製造において、回路基板又は半導体チップなどの被着体に接着されることとなる。
【0017】
<ダイシングダイボンドフィルムのダイシングテープ>
上記のダイシングテープ20は、通常、長尺シートであり、使用されるまで巻回された状態で保管される。本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1は、割断処理されるシリコンウエハよりも、ひと回り大きい内径を有する円環状の枠に張られ、カットされて使用される。
【0018】
上記のダイシングテープ20は、基材層21と、該基材層21に重なった粘着剤層22とを備える。上記のダイシングテープ20の粘着剤層22は、例えば感圧接着型の層である。
【0019】
ダイシングテープ20の120℃における引張貯蔵弾性率は、0.10MPa以上である。そのため、隣り合う半導体チップ間の離間距離(カーフ)が部位によってばらつくことを抑えることができる。上記の離間距離(カーフ)のばらつきが抑えられる理由については、後に詳しく説明する。
【0020】
ダイシングテープ20の120℃における上記の引張貯蔵弾性率は、0.11MPa以上であることが好ましく、0.15MPa以上であることがより好ましい。上記の引張貯蔵弾性率がより大きいことによって、カーフのばらつきをより抑えることができる。上記の引張貯蔵弾性率は、0.20MPa以下であってもよい。上記の引張貯蔵弾性率がより小さいことによって、後述するエキスパンド工程において、ダイシングテープ20がより効果的に熱収縮できる。
【0021】
ダイシングテープ20の120℃における引張貯蔵弾性率は、例えば、引張貯蔵弾性率が比較的高いポリプロピレン等の樹脂の基材層21における含有率をより高めることにより、大きくすることができる。一方、引張貯蔵弾性率が比較的高いポリプロピレン等の樹脂の基材層21における含有率をより下げることにより、上記の弾性率を小さくすることができる。
【0022】
ダイシングテープ20の-15℃における引張貯蔵弾性率は、280MPa以上500MPa以下である。そのため、ダイシングテープの裂けを抑制でき、また、ダイボンドシートを良好に割断できる。ダイシングテープの裂けを抑制でき、ダイボンドシートを良好に割断できる理由については、後に詳しく説明する。
【0023】
ダイシングテープ20の-15℃における上記の引張貯蔵弾性率は、300MPa以上であることが好ましく、320MPa以上であることがより好ましい。-15℃における上記の引張貯蔵弾性率がより大きいことによって、ダイボンドシートをより良好に割断できる。即ち、より良好な割断性を発揮できる。
上記の-15℃における引張貯蔵弾性率は、500MPa以下であってもよく、400MPa以下であってもよい。上記の引張貯蔵弾性率がより小さいことによって、ダイシングテープの裂けをより抑制できる。
【0024】
ダイシングテープ20の-15℃における引張貯蔵弾性率は、例えば、引張貯蔵弾性率が比較的高いポリプロピレン等の樹脂の基材層21における含有率をより高めることにより、大きくすることができる。一方、引張貯蔵弾性率が比較的高いポリプロピレン等の樹脂の基材層21における含有率をより下げることにより、上記の弾性率を小さくすることができる。
【0025】
上記の引張貯蔵弾性率は、以下の測定条件で測定される。
測定装置:固体粘弾性測定装置(例えば測定装置名「RSA-G2」ティー・エイ・インスツルメント社製)
試料サイズ:初期長さ40mm、幅10mm
昇温速度:10℃/min、
測定温度:-40℃以上150℃以下の温度範囲
120℃又は-5℃における引張貯蔵弾性率の値を読み取る
チャック間距離:20mm
周波数:1Hz
歪み:0.1%
【0026】
[ダイシングテープの基材層]
本実施形態において、粘着剤層22に重ねられた基材層21は、単層構造であってもよく、積層構造(例えば3層構造)であってもよい。
【0027】
基材層21の各層は、例えば、金属箔、紙や布などの繊維シート、ゴムシート、樹脂フィルムなどである。
基材層21を構成する繊維シートとしては、紙、織布、不織布などが挙げられる。
樹脂フィルムの材質としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン;エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、アイオノマー樹脂、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル(ランダム、交互)共重合体等のエチレンの共重合体;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル;ポリアクリレート;ポリ塩化ビニル(PVC);ポリウレタン;ポリカーボネート;ポリフェニレンスルフィド(PPS);脂肪族ポリアミド、全芳香族ポリアミド(アラミド)等のポリアミド;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK);ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリ塩化ビニリデン;ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体);セルロース又はセルロース誘導体;含シリコーン高分子;含フッ素高分子などが挙げられる。これらは、1種が単独で又は2種以上が組み合わされて使用され得る。
【0028】
基材層21は、高分子材料を含むことが好ましく、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂及びポリプロピレン樹脂を含むことがより好ましい。基材層21の各層は、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、又は、ポリプロピレン樹脂などの樹脂フィルムなどで構成されていることが好ましい。これにより、比較的高い熱収縮性と比較的高い弾性率とをより十分に兼ね備えることができる。
なお、基材層21が樹脂フィルムを有する場合、樹脂フィルムが延伸処理等を施され、伸び率などの変形性が制御されていてもよい。
【0029】
基材層21の表面には、粘着剤層22との密着性を高めるために、表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、例えば、クロム酸処理、オゾン暴露、火炎暴露、高圧電撃暴露、イオン化放射線処理等の化学的方法又は物理的方法による酸化処理等が採用され得る。また、アンカーコーティング剤、プライマー、接着剤等のコーティング剤によるコーティング処理が施されていてもよい。
【0030】
基材層21は、複数の層で構成されていることが好ましく、2層又は3層で構成されていることがより好ましい。
基材層21が複数の層の積層構造(例えば3層構造)を有することによって、より弾性率が高い層とより弾性率が低い層とを積層することが可能となるため、比較的簡便に基材層21の弾性率をコントロールすることができる。例えば、1層のみで構成された基材層21の弾性率が比較的高い場合、エキスパンド工程において、半導体チップの浮きや基材層21の破れがやや生じやすくなり得る。また、例えば、半導体チップを割断するための応力は、エキスパンド工程においてダイシングテープ20を引き伸ばす力から基材層21及び粘着剤層22を経て伝わるところ、1層のみで構成された基材層21の弾性率が比較的低い場合、上記応力がやや伝わりにくくなり得る。
また、基材層21が複数の層の積層構造(例えば3層構造)を有することによって、上記理由と同様の理由により、比較的簡便に基材層21の熱収縮率をコントロールできる。
このように、基材層21が複数の層で構成されていることにより、各層の物性(特性)を引き出すことができる。そのため、複数層で構成された基材層は、単層の基材層よりも、所望の特性を発揮しやすい。
【0031】
基材層21の複数の層のうち少なくとも2つの層の断面の弾性率であって、-5℃で原子間力顕微鏡(AFM)による弾性率マッピングを実施したときのヒストグラムにおける頻度最大ピークで示される弾性率は、いずれも、190MPa以上890MPa以下であることが好ましい。少なくとも2つの層の各弾性率が上記の範囲内であることによって、ダイシングテープの裂けをより抑制でき、また、ダイボンドシートをより良好に割断できる。
原子間力顕微鏡(AFM)分析による上記の弾性率は、300MPa以上であることがより好ましく、400MPa以上であることがさらに好ましい。上記の弾性率がより大きいことにより、ダイボンドシート10をより良好に割断できる。
また、上記のAFM分析による弾性率は、800MPa以下であることがより好ましく、700MPa以下であることがさらに好ましい。上記の弾性率がより小さいことにより、ダイシングテープ20の裂けをより抑制できる。
【0032】
好ましくは、複数の層の断面における上記弾性率のうち、最も大きい弾性率及び最も小さい弾性率をそれぞれP及びQとしたときに、下記式(1)が満たされる。
[(P-Q)/P]×100≧5 式(1)
換言すると、基材層21の複数の層のうち、上記弾性率の差が最も大きくなる2つの層において、上記弾性率の差が5%以上であることが好ましい。これにより、ダイボンドシート10の割断に有利な硬さ、及び、裂け抑制に有利な柔軟さの両方を基材層21が十分に有することができる。
上記の弾性率の差は、9%以上であってもよい。即ち、式(1)の左辺の値は9以上であってもよい。また、上記の弾性率の差は、50%以下であってもよい。即ち、式(1)の左辺の値は50以下であってもよい。
なお、上記の弾性率の差は、上記弾性率の差が最も大きくなる2つの層の弾性率の差(絶対値)を、弾性率が大きい方の層の弾性率値で除することによって算出される。例えば、基材層21が2層で構成されている場合、上記の弾性率の2層間の差を求める。例えば、基材層21が3層で構成されている場合、上記弾性率の差が最も大きくなる2つの層間における上記の弾性率の差を求める。
【0033】
AFM分析を利用した上記の弾性率は、例えば、層に配合されるポリプロピレン等の比較的硬い樹脂の含有比率を高くすることによって高めることができる。一方、例えば、層に配合されるエチレン-酢酸ビニル共重合体の含有比率を高くすること、又は、層に配合されるエチレン-酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニルの構成比率を高くすることによって上記の弾性率を低くすることができる。
【0034】
AFM分析を利用した上記の弾性率の測定条件の詳細は、以下の通りである。
<測定方法>
(測定用試料の前処理)
ウルトラミクロトームを用いて、冷却下にて、測定対象の層の一部を切断して切片を作製する。200nm以上300nm以下の厚さとなるように切片を作製する。次に、切片をシリコンウエハ上に回収して測定用試料を作製する。
(測定法)
装置:原子間力顕微鏡(AFM)
装置例:オックスフォード・インストゥルメンツ社製、
「アサイラムリサーチMFP-3D-SA」
測定モード:DFMモード、AFMフォースカーブマッピング
カンチレバー:AC240TS(Si製バネ定数3N/m相当)
測定範囲:3μm四方スキャン
測定雰囲気:窒素ガス雰囲気
測定温度:-5℃
【0035】
基材層21の複数の層は、少なくとも、エラストマー材料を含むエラストマー層、及び、非エラストマー材料を含む非エラストマー層を有することが好ましい。また、基材層21は、少なくともエラストマー層及び非エラストマー層を含む、2層又は3層構造を有することが好ましい。
エラストマー材料は、室温における上記の引張貯蔵弾性率が200MPa以下の高分子材料である。エラストマーは、通常、室温(23℃)においてゴム弾性を示す高分子材料である。一方、非エラストマー材料は、室温における上記の引張貯蔵弾性率が200MPaよりも大きい高分子材料である。
【0036】
上記の非エラストマー材料は、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレンなどのポリオレフィンを少なくとも含むことが好ましい。ポリプロピレンは、メタロセン触媒によって合成されたメタロセンポリプロピレンであってもよい。
【0037】
一方、エラストマー材料は、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)を少なくとも含むことが好ましい。エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)は、酢酸ビニルの構成単位を5質量%以上35質量%以下含んでもよい。
なお、構成単位とは、エチレン-酢酸ビニル共重合体を重合するときのモノマー(エチレン、酢酸ビニル)が重合した後の各モノマー由来の構造である。以下同様である。
【0038】
基材層21は、例えば
図2Aに示すように、第1基材層21a及び第2基材層21bが積み重なった2層で構成される。2層構造の基材層21は、非エラストマー材料を含む第1基材層21aと、第1基材層21aに積層され且つエラストマー材料を含む第2基材層21bとを有することが好ましい。例えば、第2基材層21bの片面と、粘着剤層22の片面とが重なり合っている。
このような2層の積層構造を有する基材層21は、例えば、各層が共押出成形によって作製され且つ2つの層が一体化されて形成されている。
【0039】
2層構造の基材層21では、第1基材層21aがポリプロピレン樹脂を含み、第2基材層21bがエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂を含むことが好ましい。これにより、高温において弾性率が比較的高いポリプロピレン樹脂の特性を基材層21が発揮できることに加え、高温において熱収縮率が比較的高いエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂の特性も基材層21が発揮できる。そのため、例えば、エキスパンド工程後に部位によるカーフのばらつきを抑制できる。
【0040】
一方、基材層21は、例えば
図2Bに示すように、第1基材層21a、第2基材層21b、及び第3基材層21cが積み重なった3層で構成されてもよい。3層構造の基材層21は、非エラストマー材料をそれぞれ含む第1基材層21a及び第3基材層21cと、これらの層の間に配置され且つエラストマー材料を含む第2基材層21bとを有することが好ましい。
このような3層の積層構造を有する基材層21は、例えば、各層が共押出成形によって作製され且つ3つの層が一体化されて形成されている。
【0041】
3層構造の基材層21では、両面側にそれぞれ配置された第1基材層21a及び第3基材層21cがいずれもポリプロピレン樹脂を含み、第1基材層21a及び第3基材層21cの間に配置された第2基材層21bがエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂を含むことが好ましい。これにより、高温において弾性率が比較的高いポリプロピレン樹脂の特性を基材層21が発揮できることに加え、高温において熱収縮率が比較的高いエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂の特性も基材層21が発揮できる。そのため、エキスパンド工程後に部位によるカーフのばらつきを抑制できる。なお、基材層21において、例えば、粘着剤層22から最も離れた層が第1基材層21aであり、粘着剤層22と重なった層が第3基材層21cである。第2基材層21bは、第1基材層21aと第3基材層21cとの間に配置されている。
【0042】
2層構造の基材層21において、粘着剤層22からより遠い層の厚さに対する、粘着剤層22により近い層の厚さの比(第2基材層21bの厚さ/第1基材層21aの厚さ)は、1以上10以下であることが好ましい。
3層構造の基材層21において、外層の総厚さに対する内層の厚さの比(第2基材層21bの厚さ/第1基材層21a及び第3基材層21cの総厚さ)は、1以上10以下であることが好ましい。また、第1基材層21a及び第3基材層21cの厚さは、ほぼ同じであってもよく、例えば、第3基材層21cの厚さに対する第1基材層21aの厚さの比は、0.9以上1.1以下であってもよい。
【0043】
基材層21の厚さ(総厚さ)は、80μm以上150μm以下であることが好ましい。斯かる値は、ランダムに選んだ少なくとも3箇所における測定値の平均値である。以下、粘着剤層22の厚さも、同様にして測定された平均値である。基材層21の厚さが80μm以上であることによって、基材層21の全体に対してより均一に応力をかけることができ、エキスパンド工程において半導体ウエハをより良好に割断することができる。
【0044】
2層構造の基材層21において、好ましくは、第1基材層21aが10μm以上30μm以下の厚さを有し、第2基材層21bが60μm以上120μm以下の厚さを有する。これにより、基材層21における各層の物性(特性)が基材層21においてより好適に反映されるという利点がある。
3層構造の基材層21において、好ましくは、第1基材層21a及び第3基材層21cが、それぞれ独立して1μm以上15μm以下の厚さを有し、第2基材層21bが、70μm以上120μm以下の厚さを有する。これにより、基材層21における各層の物性(特性)が基材層21においてより好適に反映されるという利点がある。
【0045】
上記の基材層21において、第1基材層21a及び第3基材層21cのうち少なくとも一方が、帯電防止剤をさらに含んでもよい。帯電防止剤によって、基材層21における静電気の帯電を防止できる。そのため、半導体チップにおける電子回路が静電気の放電によって静電破壊することを十分に防げる。また、帯電を防止することによって、埃等の異物が基材層21に付着することを十分に防げる。
【0046】
基材層21の背面側(粘着剤層22が重なっていない側)には、剥離性を付与するために、例えば、シリコーン系樹脂やフッ素系樹脂等の離型剤(剥離剤)などによって離型処理が施されていてもよい。
基材層21は、背面側から紫外線等の活性エネルギー線を粘着剤層22へ与えることが可能となる点で、光透過性(紫外線透過性)の樹脂フィルム等であることが好ましい。
【0047】
[ダイシングテープの粘着剤層]
本実施形態において、粘着剤層22は、例えば、アクリル共重合体と、イソシアネート化合物と、重合開始剤とを含む。
粘着剤層22は、5μm以上40μm以下の厚さを有してもよい。粘着剤層22の形状および大きさは、通常、基材層21の形状および大きさと同じである。
【0048】
ナノインデンター測定によって算出される0℃における粘着剤層22の弾性率は、0.60MPaよりも大きいことが好ましい。これにより、ダイボンドシートをより良好に割断できる。
【0049】
ナノインデンター測定によって算出される0℃における粘着剤層22の弾性率は、0.70MPa以上であることがより好ましい。これにより、ダイボンドシートをさらに良好に割断できる。即ち、さらに良好な割断性を発揮できる。
なお、上記の粘着剤層22の弾性率は、1.30MPa以下であってもよく、1.20MPa以下であってもよい。上記の粘着剤層22の弾性率がより小さいことにより、低温でダイボンドシート10などを割断した際の粘着剤層22の割れをより抑制できる。
【0050】
上記の粘着剤層22の弾性率は、例えば、アクリル共重合体を構成することとなるモノマーのうち、ガラス転移点を比較的高くさせるアクリロイルモルフォリン等のモノマーの比率を高くすることによって、大きくすることができる。一方、アクリル共重合体を構成することとなるモノマーのうち、ガラス転移点を比較的低くさせる2-エチルヘキシルアクリレート等のモノマーの比率を高くすることにより、上記弾性率を低くすることができる。
【0051】
0℃において粘着剤層22に対してナノインデンター測定を実施する際の測定条件の詳細は、以下の通りである。
<測定方法>
測定機器:ナノインデンター「Triboindenter(製品名)」
Hysitron Inc.社製
圧子:Conical(球形:曲率半径10μm)
測定モード:単一押し込み試験
最大変位に達した時の保持時間:0秒
押し込み・引き抜き深さ速度:5nm/sec
押し込み深さ:2000nm
解析ソフト:「TI950 Triboindenter(製品名)」Bruker社製(version9.4.0.1)
測定時の環境:0℃設定、相対湿度35%±10%
ダイシングテープ20の一部を取り出し、基材層21側を下にしてサンプル台に固定した。つぎに、粘着剤層22の露出表面に圧子を押し込んだ。測定データを、解析ソフトによって解析して、0℃における粘着剤層22の弾性率を求めた。
【0052】
本実施形態において、粘着剤層22は、少なくとも、アルキル(メタ)アクリレート単位と、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位とをモノマー単位として分子中に有するアクリル共重合体を含む。
なお、「単位」とは、アクリル共重合体を重合するときのモノマー(例えば2-エチルヘキシルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレートなど)が重合した後の各モノマー由来の構造である。以下同様である。
【0053】
アクリル共重合体において、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位のうち一部は、ラジカル重合性炭素-炭素二重結合を有する。アクリル共重合体は、アルキル(メタ)アクリレート単位100モル部に対して、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位を15モル部以上60モル部以下含み、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位のうちの50モル%以上95モル%以下がラジカル重合性炭素-炭素二重結合を含有している。
なお、本明細書において「(メタ)アクリレート」との表記は、メタクリレート(メタクリル酸エステル)及びアクリレート(アクリル酸エステル)のうちの少なくとも一方を表す。「(メタ)アクリル」という用語も同様である。
【0054】
上記のアクリル共重合体は、分子中に、アルキル(メタ)アクリレート単位と、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位とを少なくともモノマー単位として有する。モノマー単位は、アクリル共重合体の主鎖を構成する単位である。換言すると、モノマー単位は、アクリル共重合体を重合するために使用したモノマーに由来するものである。上記のアクリル共重合体における各側鎖は、主鎖を構成する各モノマー単位に含まれる。
【0055】
上記のアルキル(メタ)アクリレート単位は、アルキル(メタ)アクリレートモノマーに由来する。換言すると、アルキル(メタ)アクリレートモノマーが重合反応したあとの分子構造が、アルキル(メタ)アクリレート単位である。「アルキル」という表記は、(メタ)アクリル酸に対してエステル結合した炭化水素部分を表す。
【0056】
アルキル(メタ)アクリレート単位におけるアルキル部分(炭化水素)は、飽和炭化水素であってもよく、不飽和炭化水素であってもよい。
アルキル(メタ)アクリレート単位におけるアルキル部分(炭化水素)は、直鎖状炭化水素であってもよく、分岐鎖状炭化水素であってもよく、環状構造を含んでいてもよい。
アルキル(メタ)アクリレート単位におけるアルキル部分(炭化水素)の炭素数は、6以上22以下であってもよい。
【0057】
上記のアクリル共重合体は、アルキル(メタ)アクリレート単位としてアルキル部分の炭素数が6以上のアルキル(メタ)アクリレート単位を含むことが好ましく、アルキル部分が飽和炭化水素であり炭素数8以上22以下の炭化水素である飽和アルキル(メタ)アクリレート単位を含むことがより好ましい。
【0058】
上記のアクリル共重合体は、分子中の全モノマー単位のうち、アルキル部分の炭素数6以上のアルキル(メタ)アクリレート単位の占める割合(モル換算)が最も高いことが好ましく、アルキル部分の炭素数8以上のアルキル(メタ)アクリレート単位の占める割合(モル換算)が最も高いことがより好ましい。例えば、全モノマー単位のうちアルキル部分の炭素数8以上のアルキル(メタ)アクリレート単位がモル換算で50%以上90以下%占めてもよい。
【0059】
アルキル部分の炭素数6以上の飽和アルキル(メタ)アクリレート単位は、ベンゼン環、並びに、エーテル結合(-CH2-O-CH2-)、-OH基、及び-COOH基などの極性基のいずれも分子中に含まないことが好ましい。アルキル部分の炭素数6以上の飽和アルキル(メタ)アクリレート単位において、アルキル部分は、C及びH以外の原子を含まず、6以上10以下の炭素原子で構成された飽和直鎖状炭化水素、又は、飽和分岐鎖状炭化水素であってもよい。
【0060】
上記のアクリル共重合体は、アルキル部分の炭素数が6以上10以下の飽和分岐鎖状アルキル(メタ)アクリレート単位を上記のアルキル(メタ)アクリレート単位として含むことが好ましい。
【0061】
上記の飽和分岐鎖状アルキル(メタ)アクリレート単位のアルキル部分(炭化水素部分)の構造は、飽和分岐鎖状アルキル構造であればよく、iso構造、sec構造、neo構造、又は、tert構造であり得る。
具体的には、飽和分岐鎖状アルキル(メタ)アクリレート単位としては、イソヘキシル(メタ)アクリレート、イソヘプチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートの各単位などが挙げられる。これらのなかでも、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート単位が好ましい。
【0062】
上記の飽和直鎖状アルキル(メタ)アクリレート単位のアルキル部分(炭化水素部分)の構造は、飽和直鎖状アルキル構造であればよい。
具体的には、飽和直鎖状アルキル(メタ)アクリレート単位としては、n-オクチル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートなどの各単位が挙げられる。
【0063】
上記のアクリル共重合体は、上述したアルキル(メタ)アクリレート単位として、1種を単独で含んでもよく、又は、2種以上を含んでもよい。
【0064】
架橋性基含有(メタ)アクリレート単位は、ウレタン化反応によってウレタン結合を形成できるヒドロキシ基、又は、ラジカル反応によって重合できる重合性基を有する。より詳しくは、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位は、未反応のヒドロキシ基、又は、重合性基としてのラジカル重合性炭素-炭素二重結合のいずれか一方を有する。換言すると、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位の一部は、未反応のヒドロキシ基を有し、他の一部(その他全て)は、ヒドロキシ基を有さずラジカル重合性炭素-炭素二重結合を有する。
【0065】
上記のアクリル共重合体は、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位として、炭素数4以下のアルキル部分にヒドロキシ基が結合したヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート単位を有する。粘着剤層22がイソシアネート化合物を含む場合、イソシアネート化合物のイソシアネート基と、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート単位のヒドロキシ基とが、容易に反応できる。
ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート単位を有するアクリル共重合体と、イソシアネート化合物とを粘着剤層22に共存させておくことによって、粘着剤層22を適度に硬化させることができる。そのため、アクリル共重合体が十分にゲル化できる。よって、粘着剤層22は、形状を維持しつつ粘着性能を発揮できる。
【0066】
ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート単位は、炭素数2以上4以下のアルキル部分にOH基が結合した、ヒドロキシ基含有C2~C4アルキル(メタ)アクリレート単位であることが好ましい。「C2~C4アルキル」という表記は、(メタ)アクリル酸に対してエステル結合した炭化水素部分の炭素数を表す。換言すると、ヒドロキシ基含有C2~C4アルキル(メタ)アクリルモノマーは、(メタ)アクリル酸と、炭素数2以上4以下のアルコール(通常、2価アルコール)とがエステル結合したモノマーを示す。以下、本明細書において同様である。
C2~C4アルキルの炭化水素部分は、通常、飽和炭化水素である。例えば、C2~C4アルキルの炭化水素部分は、直鎖状飽和炭化水素、又は、分岐鎖状飽和炭化水素である。C2~C4アルキルの炭化水素部分は、酸素(O)や窒素(N)などを含有する極性基を含まないことが好ましい。
【0067】
ヒドロキシ基含有C2~C4アルキル(メタ)アクリレート単位としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシn-ブチル(メタ)アクリレート、又は、ヒドロキシiso-ブチル(メタ)アクリレートといったヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの各単位が挙げられる。なお、ヒドロキシ基(-OH基)は、炭化水素部分の末端の炭素(C)に結合していてもよく、炭化水素部分の末端以外の炭素(C)に結合していてもよい。
【0068】
上記のアクリル共重合体は、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位として、側鎖にラジカル重合性炭素-炭素二重結合(重合性不飽和二重結合)を有する重合性(メタ)アクリレート単位を含む。
【0069】
重合性(メタ)アクリレート単位は、具体的には、上述したヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート単位におけるヒドロキシ基に、イソシアネート基含有(メタ)アクリルモノマーのイソシアネート基がウレタン結合した分子構造を有する。
【0070】
上記のアクリル共重合体が、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位のラジカル重合性炭素-炭素二重結合を含むことによって、上述したピックアップ工程の前に、粘着剤層22を、活性エネルギー線(紫外線等)の照射によって硬化させることができる。例えば、紫外線等の活性エネルギー線の照射によって、光重合開始剤からラジカルを発生させ、このラジカルの作用によって、アクリル共重合体を互いに架橋反応させることができる。これによって、照射前における粘着剤層22の粘着力を、照射後に低下させることができる。そして、ダイボンドシート10を粘着剤層22から良好に剥離させることができる。
なお、活性エネルギー線としては、紫外線、放射線、電子線が採用される。
【0071】
重合性(メタ)アクリレート単位は、アクリル共重合体の重合反応の後に、ウレタン化反応によって調製され得る。例えば、アルキル(メタ)アクリレートモノマーと、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリルモノマーとの共重合の後に、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート単位の一部におけるヒドロキシ基と、イソシアネート基含有重合性モノマーのイソシアネート基とを、ウレタン化反応させることによって、重合性(メタ)アクリレート単位を得ることができる。
【0072】
上記のイソシアネート基含有(メタ)アクリルモノマーは、分子中にイソシアネート基を1つ有し且つ(メタ)アクリロイル基を1つ有することが好ましい。斯かるモノマーとしては、例えば、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートが挙げられる。
【0073】
本実施形態において、上記のアクリル共重合体は、上述したモノマー単位以外のモノマー単位を含んでもよい。例えば、(メタ)アクリロイルモルフォリン、N-ビニル-2-ピロリドン、又は、アクリロニトリルなどの各単位を含んでもよい。上記のアクリル共重合体がモノマー単位として(メタ)アクリロイルモルフォリン単位を含み、上記のアクリル共重合体における(メタ)アクリロイルモルフォリン単位の構成比率を変更することによって、上記のアクリル共重合体のガラス転移点又は極性を比較的容易に制御できる。
【0074】
粘着剤層22に含まれるアクリル共重合体において、上記の各単位(各構成単位)は、1H-NMR、13C-NMRなどのNMR分析、熱分解GC/MS分析、及び、赤外分光法などによって確認できる。なお、アクリル共重合体における上記単位のモル割合は、通常、アクリル共重合体を重合するときの配合量(仕込量)から算出される。
【0075】
上記のアクリル共重合体における全モノマー単位(100モル部)のうち、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位の占める割合が5モル部以上50モル部以下であり、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位のうちの50%以上95%以下(モル換算)が上記のごとくウレタン結合を形成していることが好ましい。換言すると、上記のアクリル共重合体は、全モノマー単位を100モル部としたときに、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位を5モル部以上50モル部以下含み、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位のうちの50%以上95%以下がラジカル重合性炭素-炭素二重結合を有する重合性(メタ)アクリレート単位であることが好ましい。これにより、ダイボンドシート10と、硬化する前の粘着剤層22との粘着力を維持できる一方で、ダイボンドシート10と、硬化した後の粘着剤層22との剥離性をより良好にできる。
【0076】
上記のアクリル共重合体は、全モノマー単位を100モル部としたときに、重合性(メタ)アクリレート単位を10モル部以上50モル部以下含むことが好ましい。これにより、ダイボンドシート10と、硬化する前の粘着剤層22との粘着力を維持できる一方で、ダイボンドシート10と、硬化した後の粘着剤層22との剥離性をより良好にできる。
【0077】
本実施形態において、ダイシングテープ20の粘着剤層22がさらに含み得るイソシアネート化合物は、分子中に複数のイソシアネート基を有する。イソシアネート化合物が分子中に複数のイソシアネート基を有することによって、粘着剤層22におけるアクリル共重合体間の架橋反応を進行させることができる。詳しくは、イソシアネート化合物の一方のイソシアネート基をアクリル共重合体のヒドロキシ基と反応させ、他方のイソシアネート基を別のアクリル共重合体のヒドロキシ基と反応させることで、イソシアネート化合物を介した架橋反応を進行させることができる。
なお、イソシアネート化合物は、ウレタン化反応などを経て合成された化合物であってもよい。
【0078】
イソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、又は、芳香脂肪族ジイソシアネートなどのジイソシアネートが挙げられる。
【0079】
さらに、イソシアネート化合物としては、例えば、ジイソシアネートの二量体や三量体等の重合ポリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネートが挙げられる。
【0080】
加えて、イソシアネート化合物としては、例えば、上述したイソシアネート化合物の過剰量と、活性水素含有化合物とを反応させたポリイソシアネートが挙げられる。活性水素含有化合物としては、活性水素含有低分子量化合物、活性水素含有高分子量化合物などが挙げられる。
なお、イソシアネート化合物としては、アロファネート化ポリイソシアネート、ビウレット化ポリイソシアネート等も用いることができる。
上記のイソシアネート化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0081】
上記のイソシアネート化合物としては、芳香族ジイソシアネートと活性水素含有低分子量化合物との反応物が好ましい。芳香族ジイソシアネートの反応物は、イソシアネート基の反応速度が比較的遅いため、斯かる反応物を含む粘着剤層22は、過度に硬化してしまうことが抑制される。上記のイソシアネート化合物としては、分子中にイソシアネート基を3つ以上有するものが好ましい。
【0082】
本実施形態において、粘着剤層22に含まれる重合開始剤は、加えられた熱や光のエネルギーによって重合反応を開始できる化合物である。粘着剤層22が重合開始剤を含むことによって、粘着剤層22に熱エネルギーや光エネルギーを与えたときに、アクリル共重合体間における架橋反応を進行させることができる。詳しくは、ラジカル重合性炭素-炭素二重結合を含有する重合性(メタ)アクリレート単位を有するアクリル共重合体間において、重合性基同士の重合反応を開始させて、粘着剤層22を硬化させることができる。これにより、粘着剤層22の粘着力を低下させ、ピックアップ工程において、硬化した粘着剤層22からダイボンドシート10を容易に剥離させることができる。
重合開始剤としては、例えば、光重合開始剤又は熱重合開始剤などが採用される。重合開始剤としては、一般的な市販製品を使用できる。
【0083】
粘着剤層22は、上述した成分以外のその他の成分をさらに含み得る。その他の成分としては、例えば、粘着付与剤、可塑剤、充填剤、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、界面活性剤、軽剥離化剤等が挙げられる。その他の成分の種類および使用量は、目的に応じて、適切に選択され得る。
【0084】
<ダイシングダイボンドフィルムのダイボンドシート>
ダイボンドシート10は、
図1に示すように、上述したダイシングテープ20の粘着剤層22に重ねられている。
【0085】
ダイボンドシート10の厚さは、特に限定されないが、例えば1μm以上200μm以下である。斯かる厚さは、3μm以上150μm以下であってもよく、5μm以上140μm以下であってもよい。なお、ダイボンドシート10が積層体である場合、上記の厚さは、積層体の総厚さである。
【0086】
ダイボンドシート10は、例えば
図1に示すように、単層構造を有してもよい。本明細書において、単層とは、同じ組成物で形成された層のみを有することである。同じ組成物で形成された層が複数積層された形態も単層である。
一方、ダイボンドシート10は、例えば2種以上の異なる組成物でそれぞれ形成された層が積層された多層構造を有してもよい。ダイボンドシート10が多層構造を有する場合、ダイボンドシート10を構成する少なくとも1層が、後述する架橋性基含有アクリルポリマーなどを含み、必要に応じて熱硬化性樹脂をさらに含んでいればよい。
【0087】
ダイボンドシート10の0℃における破断伸度は、4.7%よりも小さいことが好ましい。これにより、ダイボンドシートをより良好に割断できる。
【0088】
上記の破断伸度は、4.0%以下であることが好ましく、3.0%以下であることがより好ましい。これにより、ダイボンドシートをさらに良好に割断できる。即ち、さらに良好な割断性を発揮できる。
なお、上記の破断伸度は、0.5%以上であってもよい。
【0089】
上記の破断伸度は、例えば、ダイボンドシート10におけるシリカフィラーの含有比率を低くすることによって、大きくすることができる。一方、ダイボンドシート10におけるシリカフィラーの含有比率を高くすることによって、上記の破断伸度を小さくすることができる。
【0090】
上記の破断伸度の測定条件の詳細は、以下の通りである。
ダイボンドシートから切り出された試験片:長さ40mm、幅10mm
測定装置:動的粘弾性測定装置
(製品名「RSA-G2」(ティー・エイ・インスツルメント社製など)
測定モード:引張モード
初期チャック間距離:20mm
引張速度:1mm/sec
測定温度:0℃(0℃で4分間経過した後に測定)
なお、試験片をチャック治具に固定するときに試験片が割れないように、チャック部において、2つのシリコーン離型処理PETライナー(50μm厚さ)を緩衝材として用いた。これらPETライナーで試験片を挟み込む。
引張測定開始前のチャック間距離をL0、破断時のチャック間距離をL1としたときに、下記式にて破断伸度を算出する。
破断伸度(%)=[(L1-L0)/L0]×100
【0091】
ダイボンドシート10は、熱硬化処理によって架橋反応を起こす架橋性基を分子中に有する架橋性基含有アクリルポリマーを含む。斯かる架橋性基含有アクリルポリマーは、(メタ)アクリル酸エステルモノマーが少なくとも重合した高分子化合物である。
【0092】
上記の架橋性基含有アクリルポリマーは、通常、側鎖に上記の架橋性基を有する。上記の架橋性基含有アクリルポリマーは、側鎖の末端に上記の架橋性基を有してもよい。なお、上記の架橋性基含有アクリルポリマーは、主鎖の両端のうち少なくとも一方に上記の架橋性基を有してもよい。
【0093】
上記の架橋性基含有アクリルポリマーが分子中に有する架橋性基は、熱硬化処理によって架橋反応を起こす官能基であれば、特に限定されない。
【0094】
架橋性基としては、例えば、ヒドロキシ基又はカルボキシ基などが挙げられる。これらの架橋性基は、エポキシ基又はイソシアネート基と架橋反応を起こすことができる。例えば、ヒドロキシ基又はカルボキシ基の少なくとも一方を分子中に有する上記の架橋性基含有アクリルポリマーは、エポキシ基又はイソシアネート基を分子中に有する化合物(例えば、後述するエポキシ樹脂など)との間で架橋反応を起こすことができる。
【0095】
また、架橋性基としては、例えば、エポキシ基又はイソシアネート基などが挙げられる。これらの架橋性基は、ヒドロキシ基やカルボキシ基と架橋反応を起こすことができる。例えば、エポキシ基又はイソシアネート基の少なくとも一方を分子中に有する上記の架橋性基含有アクリルポリマーは、ヒドロキシ基又はカルボキシ基の少なくとも一方を分子中に有する化合物(例えば、後述するフェノール樹脂など)との間で架橋反応を起こすことができる。
【0096】
本実施形態において、ダイボンドシート10に含まれる架橋性基含有アクリルポリマーは、ヒドロキシ基又はカルボキシ基の少なくとも一方を架橋性基として含有することが好ましい。これにより、ダイボンドシート10をより良好に被着体に接着させることができる。
【0097】
上記の架橋性基含有アクリルポリマーにおいて、架橋性基含有モノマーの構成単位が占める割合は、0.1質量%以上60.0質量%以下であってもよく、0.5質量%以上40.0質量%以下であってもよく、1.0質量%以上30.0質量%以下であってもよく、3.0質量%以上20.0質量%以下であってもよい。
なお、構成単位とは、架橋性基含有アクリルポリマーを重合するときのモノマー(例えば2-エチルヘキシルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレートなど)が重合した後の各モノマー由来の構造である。以下同様である。
【0098】
上記の架橋性基含有アクリルポリマーは、例えばラジカル重合開始剤を用いた一般的な重合方法によって合成できる。
【0099】
上記の架橋性基含有アクリルポリマーは、分子中の構成単位のうち、アルキル(メタ)アクリレートモノマーの構成単位を質量割合で最も多く含むことが好ましい。当該アルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、アルキル基(炭化水素基)の炭素数が1以上18以下のC1~C18アルキル(メタ)アクリレートモノマーが挙げられる。アルキル(メタ)アクリレートモノマーは、例えば、アルキル基(炭化水素基)の炭素数が1以上12以下のC1~C12アルキル(メタ)アクリレートモノマーであってもよい。
【0100】
アルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、飽和直鎖状アルキル(メタ)アクリレートモノマー、飽和分岐鎖状アルキル(メタ)アクリレートモノマーなどが挙げられる。
【0101】
飽和直鎖状アルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘプチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。なお、直鎖状アルキル基部分の炭素数は、2以上8以下であることが好ましい。
飽和分岐鎖状アルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、イソヘプチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。なお、アルキル基部分は、iso構造、sec構造、neo構造、又は、tert構造のいずれかを有してもよい。
【0102】
上記の架橋性基含有アクリルポリマーは、アルキル(メタ)アクリレートモノマーと共重合可能な架橋性基含有モノマーに由来する構成単位を含む。
本実施形態において、上記の架橋性基含有アクリルポリマーは、少なくともアルキル(メタ)アクリレートモノマーと架橋性基含有モノマーとが共重合したアクリルポリマーである。換言すると、上記の架橋性基含有アクリルポリマーは、アルキル(メタ)アクリレートモノマーの構成単位と、架橋性基含有モノマーの構成単位とがランダムな順序でつながった構成を有する。
【0103】
上記架橋性基含有モノマーとしては、例えば、カルボキシ基含有(メタ)アクリルモノマー、酸無水物(メタ)アクリルモノマー、ヒドロキシ基(水酸基)含有(メタ)アクリルモノマー、エポキシ基(グリシジル基)含有(メタ)アクリルモノマー、イソシアネート基含有(メタ)アクリルモノマー、スルホン酸基含有(メタ)アクリルモノマー、リン酸基含有(メタ)アクリルモノマー、アクリルアミド、アクリロニトリル等の官能基含有モノマー等が挙げられる。なお、上記架橋性基含有モノマーは、分子中にエーテル基又はエステル基などを有してもよい。
【0104】
上記架橋性基含有アクリルポリマーは、好ましくは、
カルボキシ基含有(メタ)アクリルモノマー、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリルモノマー、エポキシ基含有(メタ)アクリルモノマー、及びイソシアネート基含有(メタ)アクリルモノマーからなる群より選択された少なくとも1種の架橋性基含有モノマーと、
アルキル(メタ)アクリレート(特に、アルキル部分の炭素数が8以下のアルキル(メタ)アクリレート)と、の共重合体である。
【0105】
カルボキシ基含有(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)サクシネートモノマーなどが挙げられる。なお、カルボキシ基は、モノマー構造の末端部分に配置されていてもよく、末端部分以外の炭化水素に結合していてもよい。
ヒドロキシ基含有(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートモノマー、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートモノマー、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートモノマーなどが挙げられる。なお、ヒドロキシ基は、モノマー構造の末端部分に配置されていてもよく、末端部分以外の炭化水素に結合していてもよい。
エポキシ基含有(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレートモノマー、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテルなどが挙げられる。なお、エポキシ基は、モノマー構造の末端部分に配置されていてもよく、末端部分以外の炭化水素に結合していてもよい。
イソシアネート基含有(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-(2-メタクリロイルオキシエチルオキシ)エチルイソシアネートなどが挙げられる。
【0106】
ダイボンドシート10は、上記の架橋性基含有アクリルポリマー以外の成分を含んでもよい。例えば、ダイボンドシート10は、熱硬化性樹脂、又は、上記の架橋性基含有アクリルポリマー以外の熱可塑性樹脂の少なくとも一方をさらに含んでもよい。
【0107】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂等が挙げられる。上記熱硬化性樹脂としては、1種のみ、又は、2種以上が採用される。
【0108】
上記エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型、ナフタレン型、フルオレン型、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、テトラフェニロールエタン型、ヒダントイン型、トリスグリシジルイソシアヌレート型、又は、グリシジルアミン型の各エポキシ樹脂が挙げられる。
【0109】
フェノール樹脂は、エポキシ樹脂の硬化剤として作用し得る。フェノール樹脂としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、ポリパラオキシスチレン等のポリオキシスチレン等が挙げられる。
ノボラック型フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert-ブチルフェノールノボラック樹脂、ノニルフェノールノボラック樹脂等が挙げられる。
フェノール樹脂の水酸基当量[g/eq]は、例えば、90以上220以下であってもよい。
上記フェノール樹脂としては、1種のみ、又は、2種以上が採用される。
【0110】
本実施形態において、ダイボンドシート10は、互いに架橋反応する、上記の架橋性基含有アクリルポリマーと熱硬化性樹脂とを含んでもよい。
【0111】
例えば、ダイボンドシート10は、エポキシ基含有アクリルポリマーを架橋性基含有アクリルポリマーとして含み、且つ、フェノール樹脂を熱硬化性樹脂として含んでもよい。これにより、架橋性基含有アクリルポリマーのエポキシ基と、フェノール樹脂のヒドロキシ基とが架橋反応してダイボンドシート10を十分に硬化させることができる。
【0112】
ダイボンドシート10に含まれ得る、上記の架橋性基含有アクリルポリマー以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、6-ポリアミド樹脂や6,6-ポリアミド樹脂等のポリアミド樹脂、フェノキシ樹脂、架橋性官能基を分子中に含まないアクリル樹脂、PETやPBT等の飽和ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。
上記熱可塑性樹脂としては、1種のみ、又は、2種以上が採用される。
【0113】
ダイボンドシート10において、上記の架橋性基含有アクリルポリマーの含有率は、好ましくは8質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは30質量%以上であり、さらに好ましくは40質量%以上である。
【0114】
ダイボンドシート10において、フィラーを除く有機成分(例えば、上記の架橋性基含有アクリルポリマー、熱硬化性樹脂、硬化触媒等、シランカップリング剤、染料)の100質量部に対して、上記の架橋性基含有アクリルポリマーの含有割合は、好ましくは15質量部以上100質量部以下であり、より好ましくは40質量部以上95質量部以下であり、さらに好ましくは60質量部以上である。なお、ダイボンドシート10における熱硬化性樹脂の含有率を変化させることによって、ダイボンドシート10の弾性や粘性を調整することができる。
一方、上記有機成分の100質量部に対して、熱硬化性樹脂の含有割合は、40質量部以下であってもよい。
【0115】
ダイボンドシート10は、フィラーを含有してもよく、含有しなくてもよい。ダイボンドシート10におけるフィラーの量を変えることにより、ダイボンドシート10の弾性及び粘性をより容易に調整することができる。さらに、ダイボンドシート10の導電性、熱伝導性、弾性率等の物性を調整することができる。
【0116】
フィラーとしては、無機フィラー及び有機フィラーが挙げられる。フィラーとしては、無機フィラーが好ましい。
無機フィラーとしては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、結晶質シリカや非晶質シリカといったシリカなどを含むフィラーが挙げられる。また、無機フィラーの材質としては、アルミニウム、金、銀、銅、ニッケル等の金属単体や、合金などが挙げられる。ホウ酸アルミニウムウィスカ、アモルファスカーボンブラック、グラファイト等のフィラーであってもよい。フィラーの形状は、球状、針状、フレーク状等の各種形状であってもよい。フィラーとしては、上記の1種のみ、又は、2種以上が採用される。
【0117】
ダイボンドシート10がフィラーを含む場合、上記フィラーの含有率は、ダイボンドシート10の総質量の50質量%以下であってもよく、40質量%以下であってもよく、30質量%以下であってもよい。なお、上記フィラーの含有率は、例えば5質量%以上であってもよい。
【0118】
ダイボンドシート10は、必要に応じて他の成分を含んでもよい。上記他の成分としては、例えば、硬化触媒、難燃剤、シランカップリング剤、イオントラップ剤、染料等が挙げられる。
難燃剤としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、臭素化エポキシ樹脂等が挙げられる。
シランカップリング剤としては、例えば、β-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
イオントラップ剤としては、例えば、ハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
上記他の添加剤としては、1種のみ、又は、2種以上が採用される。
【0119】
ダイボンドシート10は、弾性及び粘性を調整しやすいという点で、好ましくは、上記の架橋性基含有アクリルポリマー、熱硬化性樹脂、及びフィラーを含む。
【0120】
本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1は、使用される前の状態において、ダイボンドシート10の一方の面(ダイボンドシート10が粘着剤層22と重なっていない面)を覆うはく離ライナーを備えてもよい。はく離ライナーは、ダイボンドシート10を保護するために用いられ、ダイボンドシート10に被着体(例えば半導体ウエハ)を貼り付ける直前に剥離される。
はく離ライナーとしては、例えば、シリコーン系、長鎖アルキル系、フッ素系、硫化モリブデン等の剥離剤によって表面処理された、プラスチックフィルム又は紙等を用いることができる。
はく離ライナーは、ダイボンドシート10を支持するための支持材として利用できる。はく離ライナーは、粘着剤層22にダイボンドシート10を重ねるときに、好適に使用される。詳しくは、はく離ライナーとダイボンドシート10とが積層された状態でダイボンドシート10を粘着剤層22に重ね、重ねた後にはく離ライナーを剥がす(転写する)ことによって、粘着剤層22にダイボンドシート10を重ねることができる。
【0121】
続いて、本実施形態のダイボンドシート10、及び、ダイシングダイボンドフィルム1の製造方法について説明する。
【0122】
<ダイシングダイボンドフィルムの製造方法>
本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1の製造方法は、
ダイボンドシート10を作製する工程と、
ダイシングテープ20を作製する工程と、
製造されたダイボンドシート10とダイシングテープ20とを重ね合わせる工程とを備える。
【0123】
<ダイボンドシートを作製する工程>
ダイボンドシート10を作製する工程は、
ダイボンドシート10を形成するための樹脂組成物を調製する樹脂組成物調製工程と、
樹脂組成物からダイボンドシート10を形成するダイボンドシート形成工程と、を有する。
【0124】
樹脂組成物調製工程では、例えば、上記の架橋性基含有アクリルポリマーと、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、硬化触媒、又は、溶媒のいずれかとを混合して、各樹脂を溶媒に溶解させることによって、樹脂組成物を調製する。溶媒の量を変化させることによって、組成物の粘度を調整することができる。なお、これらの樹脂としては、市販されている製品を用いることができる。
【0125】
ダイボンドシート形成工程では、例えば、上記のごとく調製した樹脂組成物を、はく離ライナーに塗布する。塗布方法としては、特に限定されず、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、グラビア塗工等の一般的な塗布方法が採用される。次に、必要に応じて、脱溶媒処理や硬化処理等によって、塗布した組成物を固化させて、ダイボンドシート10を形成する。
【0126】
<ダイシングテープを作製する工程>
ダイシングテープを作製する工程は、
アクリル共重合体を合成する合成工程と、
上述したアクリル共重合体と、イソシアネート化合物と、重合開始剤と、溶媒と、目的に応じて適宜追加するその他の成分と、を含む粘着剤組成物から溶媒を揮発させて粘着剤層22を作製する粘着剤層作製工程と、
基材層21を作製する基材層作製工程と、
粘着剤層22と基材層21とを貼り合わせることによって、基材層21と粘着剤層22とを積層させる積層工程と、を備える。
【0127】
合成工程では、例えば、アルキル部分の炭素数が8以上12以下のC8~C12アルキル(メタ)アクリレートモノマーと、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリルモノマーと、をラジカル重合させることによって、アクリル共重合体中間体を合成する。
ラジカル重合は、一般的な方法によって行うことができる。例えば、上記の各モノマーを溶媒に溶解させて加熱しながら撹拌し、重合開始剤を添加することによって、アクリル共重合体中間体を合成できる。アクリル共重合体の分子量を調整するために、連鎖移動剤の存在下において重合を行ってもよい。
次に、アクリル共重合体中間体に含まれる、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート単位の一部のヒドロキシ基と、イソシアネート基含有重合性モノマーのイソシアネート基とを、ウレタン化反応によって結合させる。これにより、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート単位の一部が、ラジカル重合性炭素-炭素二重結合を含有する重合性(メタ)アクリレート単位となる。
ウレタン化反応は、一般的な方法によって行うことができる。例えば、溶媒及びウレタン化触媒の存在下において、加熱しながらアクリル共重合体中間体とイソシアネート基含有重合性モノマーとを撹拌する。これにより、アクリル共重合体中間体のヒドロキシ基の一部に、イソシアネート基含有重合性モノマーのイソシアネート基をウレタン結合させることができる。
【0128】
粘着剤層作製工程では、例えば、アクリル共重合体と、イソシアネート化合物と、重合開始剤とを溶媒に溶解させて、粘着剤組成物を調製する。溶媒の量を変化させることによって、組成物の粘度を調整することができる。次に、粘着剤組成物をはく離ライナーに塗布する。塗布方法としては、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、グラビア塗工等の一般的な塗布方法が採用される。塗布した組成物に、脱溶媒処理や固化処理等を施すことによって、塗布した粘着剤組成物を固化させて、粘着剤層22を作製する。
【0129】
基材層作製工程では、一般的な方法によって製膜して基材層を作製できる。製膜する方法としては、例えば、カレンダー製膜法、有機溶媒中でのキャスティング法、密閉系でのインフレーション押出法、Tダイ押出法、ドライラミネート法等が挙げられる。共押出し成形法を採用してもよい。なお、基材層21として、市販されているフィルム等を用いてもよい。
【0130】
積層工程では、はく離ライナーに重なった状態の粘着剤層22と基材層21とを重ねて積層させる。なお、はく離ライナーは、使用前まで粘着剤層22に重なった状態であってもよい。
なお、架橋剤とアクリル共重合体との反応を促進するため、また、架橋剤と基材層21の表面部分との反応を促進するために、積層工程の後に、50℃環境下で、48時間のエージング処理工程を実施してもよい。
【0131】
これら工程によって、ダイシングテープ20を製造することができる。
【0132】
<ダイボンドシートとダイシングテープとを重ね合わせる工程>
ダイボンドシート10とダイシングテープ20とを重ね合わせる工程では、上記のごとく製造したダイシングテープ20の粘着剤層22にダイボンドシート10を貼り付ける。
【0133】
斯かる貼付では、ダイシングテープ20の粘着剤層22、及び、ダイボンドシート10からそれぞれはく離ライナーを剥離し、ダイボンドシート10と粘着剤層22とが直接接触するように、両者を貼り合わせる。例えば、圧着することによって貼り合わせることができる。貼り合わせるときの温度は、特に限定されず、例えば、30℃以上50℃以下であり、好ましくは35℃以上45℃以下である。貼り合わせるときの線圧は、特に限定されないが、好ましくは0.1kgf/cm以上20kgf/cm以下であり、より好ましくは1kgf/cm以上10kgf/cm以下である。
【0134】
上述した工程を経て上記のごとく製造されたダイシングダイボンドフィルム1は、例えば、半導体装置(半導体集積回路)を製造するための補助用具として使用される。
【0135】
上述したダイシングダイボンドフィルム1を使用する半導体装置の製造方法は、
基材層及び該基材層に重なった粘着剤層を有するダイシングテープと、該ダイシングテープに重なったダイボンドシートと、を備えるダイシングダイボンドフィルムを使用して、半導体チップを有する半導体装置を製造する、半導体装置の製造方法であって、
前記ダイシングテープの120℃における引張貯蔵弾性率が0.10MPa以上であり、且つ、-15℃における引張貯蔵弾性率が280MPa以上500MPa以下であり、
前記ダイシングテープの前記粘着剤層と半導体ウエハとの間に前記ダイボンドシートを配置することによって、前記ダイボンドシートを介して前記半導体ウエハを前記ダイシングテープに固定するマウント工程と、
前記ダイシングテープを引き伸ばすことによって、前記ダイボンドシートと共に前記半導体ウエハを割断し、前記半導体ウエハが小片化された前記半導体チップを得るエキスパンド工程と、を備える。
【0136】
以下、半導体装置の製造方法(ダイシングダイボンドフィルムの使用方法)について、さらに詳しく説明する。
【0137】
<半導体装置の製造方法(半導体装置を製造するときのダイシングダイボンドフィルムの使用方法)>
半導体装置の製造方法では、一般的に、回路面が形成された半導体ウエハから半導体チップを切り出して組立てを行う。このとき、本実施形態のダイシングダイボンドフィルムが製造補助用具として使用される。
【0138】
本実施形態の半導体装置の製造方法は、
基材層及び該基材層に重なった粘着剤層を有するダイシングテープと、該ダイシングテープに重なったダイボンドシートと、を備えるダイシングダイボンドフィルムを使用して、半導体チップを有する半導体装置を製造する、半導体装置の製造方法である。
本実施形態の半導体装置の製造方法は、上述したダイシングダイボンドフィルム1のダイボンドシート10に半導体ウエハの片面を貼り付けて、ダイボンドシート10を介して半導体ウエハをダイシングテープ20に固定するマウント工程と、
ダイシングテープ20を引き伸ばすことによって、半導体ウエハの脆弱部位を境界にしてダイボンドシート10と共に半導体ウエハを割断するエキスパンド工程と、を備える。
さらに、本実施形態の半導体装置の製造方法は、ダイシングテープ20の粘着剤層22に貼り付けられた小片化されたダイボンドシート10を、半導体チップとともに粘着剤層22から剥離するピックアップ工程を備える。
【0139】
詳しくは、本実施形態の半導体装置の製造方法は、例えば、バックグラインドテープを貼り付けた半導体ウエハの内部にレーザー光によって脆弱部分を形成し、半導体ウエハを割断処理によって半導体チップ(ダイ)へ加工する準備を行うステルスダイシング工程と、バックグラインドテープが貼り付けられた半導体ウエハを研削して厚さを薄くするバックグラインド工程と、厚さが薄くなった半導体ウエハの一面(例えば、回路面とは反対側の面)をダイボンドシート10に貼り付けて、ダイボンドシート10を介して半導体ウエハをダイシングテープ20に固定する上記のマウント工程と、ダイシングテープ20を引き延ばすことによって半導体ウエハを割断して半導体チップを作製し、隣り合う半導体チップの間隔を広げる上記のエキスパンド工程と、ダイボンドシート10と粘着剤層22との間を剥離してダイボンドシート10が貼り付いた状態で半導体チップ(ダイ)を取り出す上記のピックアップ工程とを有する。
本実施形態の半導体装置の製造方法は、さらに、半導体チップに貼り付いたダイボンドシート10を被着体に接着させるダイボンド工程と、被着体に接着したダイボンドシート10を硬化させるキュアリング工程と、半導体チップにおける電子回路の電極と被着体とをワイヤによって電気的に接続するワイヤボンディング工程と、被着体上の半導体チップ及びワイヤを熱硬化性樹脂によって封止する封止工程と、を有する。
【0140】
ステルスダイシング工程は、いわゆるSDBG(Stealth Dicing Before Grinding)プロセスにおける工程である。ステルスダイシング工程では、
図3A~
図3Cに示すように、回路面が形成されたパターンウエハを半導体チップに割断するための脆弱部分を半導体ウエハWの内部に形成する。具体的には、まず、半導体ウエハWの回路面にバックグラインドテープGを貼り付ける(
図3A参照)。次に、バックグラインドテープGを貼り付けた状態で、半導体ウエハWが所定の厚さになるまで研削パッドKによる研削加工(プレバックグラインド加工)を施す(
図3B参照)。そして、厚さが薄くなった半導体ウエハWにレーザー光を当てることによって半導体ウエハWの内部に脆弱部分を形成する(
図3C参照)。
【0141】
ステルスダイシング工程に代わり、ハーフカット工程を実施してもよい。ハーフカット工程は、いわゆるDBG(Dicing Before Grinding)プロセスにおける工程である。
ハーフカット工程では、半導体ウエハを割断処理によって半導体チップ(ダイ)へ加工すべく半導体ウエハに溝を形成してから半導体ウエハを研削して厚さを薄くする。
具体的には、ハーフカット工程では、回路面が形成された半導体ウエハを半導体チップ(ダイ)に割断するためのハーフカット加工を施す。より具体的には、半導体ウエハの回路面とは反対側の面に、ウエハ加工用テープを貼り付ける。半導体ウエハにウエハ加工用テープを貼り付けた状態で、半導体ウエハに分割用の溝を形成する。溝を形成した面にバックグラインドテープを貼り付ける一方で、始めに貼り付けたウエハ加工用テープを剥離する。
【0142】
本実施形態のダイシングダイボンドフィルムは、上記のごとく半導体ウエハを割断して半導体チップを製造するためのSDBG(Stealth Dicing Before Grinding)プロセス又はDBG(Dicing Before Grinding)プロセスで使用されることが好ましい。
【0143】
バックグラインド工程では、
図3Dに示すように、バックグラインドテープGを貼り付けた状態の半導体ウエハWに対してさらに研削加工を施し、後の割断処理によって作製される半導体チップ(ダイ)の厚さになるまで半導体ウエハWの厚さを薄くする。例えば、上記ハーフカット加工された半導体ウエハWが個別化しないように所定の厚さになるまで研削加工を施す。このように研削加工を施すと、後のエキスパンド工程(特に低温エキスパンド工程)によって、半導体ウエハWを半導体チップへと割断すると同時にダイボンドシート10も割断することとなる。
【0144】
マウント工程では、
図4A~
図4Bに示すように、半導体ウエハWをダイシングテープ20に固定する。詳しくは、ダイシングテープ20の粘着剤層22にダイシングリングRを取り付けつつ、露出したダイボンドシート10の面に、上記のごとき切削加工によって厚さが薄くなった半導体ウエハWを貼り付ける(
図4A参照)。続いて、半導体ウエハWからバックグラインドテープGを剥離する(
図4B参照)。
【0145】
エキスパンド工程では、
図5A~
図5Cに示すように、半導体ウエハWを割断することで、半導体ウエハWを小片化して、小片化された半導体チップXを作製し、作製された半導体チップX同士の間隔を広げる。詳しくは、ダイシングテープ20の粘着剤層22にダイシングリングRを取り付けた後、エキスパンド装置の保持具Hに固定する(
図5A参照)。エキスパンド装置が備える突き上げ部材Uを、ダイシングダイボンドフィルム1の下側から突き上げることによって、ダイシングダイボンドフィルム1を面方向に広げるように引き延ばす(
図5B参照)。これにより、特定の温度条件において半導体ウエハWを割断する。上記温度条件は、例えば-20~0℃であり、好ましくは-15~0℃、より好ましくは-10~-5℃である。突き上げ部材Uを下降させることによって、エキスパンド状態を解除する(
図5C参照 ここまで低温エキスパンド工程)。
さらに、エキスパンド工程では、
図6A~
図6Bに示すように、より高い温度条件下(例えば10℃~25℃)において、面積を広げるようにダイシングテープ20を引き延ばす。これにより、割断後に隣り合う半導体チップXをフィルム面の面方向に引き離して、さらにカーフ(隣り合う半導体チップ間の離間距離)を広げる(常温エキスパンド工程)。
【0146】
本実施形態において、エキスパンド工程によってダイシングテープ20は面方向に引き伸ばされた状態となる。このとき、小片化された多数の半導体チップ群の周囲でダイシングテープ20が加熱処理されなければ、多数の半導体チップと重なり合った部分(中央部分)のダイシングテープ20が元の形状へ戻るように縮む。このようにダイシングテープ20が縮むことを抑えるべく、小片化された多数の半導体チップ群の周囲でダイシングテープ20を120℃程度の温度で加熱処理する。換言すると、多数の半導体チップと重なり合っていない部分であって多数の半導体チップ群の外周に沿った部分のダイシングテープ20を120℃程度の温度で加熱処理する。加熱処理は、例えば
図7に示すように、小片化された多数の半導体チップ群の外周に沿って周方向に移動できるヒーターS等を用いて実施される。従って、ダイシングテープ20において加熱処理される部分のなかで温度がより高い部分と、より低い部分とが同時に存在し得る。
図7に示すように、例えば、ダイシングテープ20において加熱処理される部分であって、半導体チップ群の外周を囲む帯状部分では、長手方向の一方の部分で温度がより高く、他方の部分で温度がより低い状況になり得る。
【0147】
ピックアップ工程の前に、例えば基材層21に重なった粘着剤層22に、基材層21側から紫外線を照射することによって、粘着剤層22に硬化処理を施す(硬化処理工程)。
【0148】
ピックアップ工程では、
図8に示すように、ダイボンドシート10が貼り付いた状態の半導体チップXをダイシングテープ20の粘着剤層22から剥離する。詳しくは、ピン部材Pを上昇させて、ピックアップ対象の半導体チップXを、ダイシングテープ20を介して突き上げる。突き上げられた半導体チップXを吸着治具Jによって保持する。
【0149】
ダイボンド工程では、ダイボンドシート10が貼り付いた状態の半導体チップXを被着体Zに接着させる。ダイボンド工程では、例えば
図9に示すように、ダイボンドシート10が貼り付いた状態の半導体チップXを複数回積み重ねていくことがある。
【0150】
キュアリング工程では、ダイボンドシート10に含まれる上述した架橋性基含有アクリルポリマーにおける架橋性基(例えばエポキシ基)の反応活性を高めてダイボンドシート10の硬化を進行させるために、例えば100℃以上180℃以下の温度で加熱処理を行う。
【0151】
ワイヤボンディング工程では、半導体チップX(ダイ)と被着体Zとを加熱しつつ、ワイヤLで接続する(例えば
図9を参照)。
【0152】
封止工程では、
図10に示すように、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂Mによって半導体チップXとダイボンドシート10とを封止する。封止工程では、熱硬化性樹脂Mの硬化反応を進行させるために、例えば100℃以上180℃以下の温度で加熱処理を行う。
【0153】
近年の半導体産業においては、集積化技術のさらなる進展に伴って、より薄い半導体チップ(例えば20μm以上50μm以下の厚さ)、及び、より薄いダイボンドシート(例えば1μm以上40μm以下、好ましくは7μm以下、より好ましくは5μm以下の厚さ)が要望されている。
【0154】
上述した半導体装置の製造方法(ダイシングダイボンドフィルムの使用方法)において、エキスパンド工程(特に常温エキスパンド工程)では、ダイシングテープ20の面積を広げるように面方向に強い力で引き伸ばす。また、ダイシングテープ20を引き伸ばした後、ダイシングテープ20の一部を120℃程度で加熱処理することによって収縮させる。具体的には、小片化された多数の半導体チップと重なり合っていない、多数の半導体チップ群の外周に沿った部分(外周部分)のダイシングテープ20を上記のごとき加熱処理によって収縮させる。斯かる加熱処理は、例えば
図7に示すように、小片化された多数の半導体チップ群の外周に沿ってヒーター等を移動させることによって実施する。具体的には、多数の半導体チップ群の外周に沿って2つのヒーター等がそれぞれ半周するように移動する。このような加熱処理方法では、加熱される部分のなかで最初に加熱される部位と最後に加熱される部位とが存在する。そのため、最初に加熱された部位と最後に加熱された部位とで温度差が生じる。換言すると、最初に加熱された部位の温度は、ヒーター等が離れていくうちに冷却されるため、加熱処理が終了したときに、最後に加熱された部位の温度よりも低くなる。一般的に、温度が高いほど材料の弾性率は小さくなるため、冷える前における例えば120℃程度の高温部分の弾性率は、冷えた部分の弾性率よりもかなり小さくなり得る。よって、高温によって弾性率が小さくなったダイシングテープ20の高温部分は、ダイシングテープ20が引き伸ばし方向の逆方向へ縮む力を必ずしも十分に抑えられなくなり得る。一方で、ダイシングテープ20の冷えた部分の弾性率は高いため、上記の縮む力を十分に抑えることができる。このような状態では、多数の半導体チップ群と重なり合った部分のダイシングテープ20が不均一に縮みやすくなる。従って、いったん広がった多数の半導体チップ群におけるカーフが、ばらつく可能性がある。
これに対して、本実施形態のダイシングダイボンドフィルムでは、ダイシングテープ20の120℃における引張貯蔵弾性率が0.10MPa以上であり、120℃という高温でも弾性率が比較的高いため、ダイシングテープ20が上記のごとく縮もうとする力を十分に抑えることができる。120℃という温度は、例えばエキスパンド工程において引き伸ばされたダイシングテープ20の一部を上記のごとく加熱処理して収縮させるときの温度に近い。このときの加熱処理は、上述したように、例えば、小片化された多数の半導体チップ群の外周に沿った加熱されるべき部分をヒーター等で順に加熱することで実施される。よって、加熱されて温度が高まった部分と、加熱後に温度が下がった部分とが混在することとなる。このような状況でも、本実施形態のダイシングテープ20では、高温部位(例えば120℃の部分)での弾性率が比較的高いため、低温部位だけでなく高温部位でも上記のごとくダイシングテープ20が縮もうとする力を十分に抑えられる。よって、多数の半導体チップ群と重なったダイシングテープ20の中央部分において、部位によって縮む力がばらつくことを抑制できる。従って、エキスパンド工程後に部位によるカーフのばらつきを抑制することができる。
【0155】
さらに、本実施形態のダイシングダイボンドフィルムでは、ダイシングテープ20の-15℃における引張貯蔵弾性率が280MPa以上500MPa以下であることから、ダイボンドシート10を割断するための力をダイシングテープ20からダイボンドシート10へ十分に伝えることができる。また、低温における引張力に対してダイシングテープ20が十分に伸びることができる。従って、ダイボンドシート10を良好に割断でき、また、ダイシングテープ20の裂けを抑制できる。
【0156】
本実施形態のダイシングダイボンドフィルムは上記例示の通りであるが、本発明は、上記例示のダイシングダイボンドフィルムに限定されるものではない。
即ち、一般的なダイシングダイボンドフィルムにおいて用いられる種々の形態が、本発明の効果を損ねない範囲において、採用され得る。
【0157】
本明細書によって開示される事項は、以下のものを含む。
(1)
基材層及び該基材層に重なった粘着剤層を有するダイシングテープと、該ダイシングテープに重なったダイボンドシートとを備え、
前記ダイシングテープの120℃における引張貯蔵弾性率が0.10MPa以上であり、且つ、-15℃における引張貯蔵弾性率が280MPa以上500MPa以下である、ダイシングダイボンドフィルム。
(2)
前記基材層は、積層された複数の層を有し、
前記複数の層の断面における弾性率であって、-5℃で原子間力顕微鏡(AFM)による弾性率マッピングを実施したときのヒストグラムにおける頻度最大ピークで示される弾性率のうち、最も大きい弾性率及び最も小さい弾性率をそれぞれP及びQとしたときに、下記式(1)が満たされる、請求項1に記載のダイシングダイボンドフィルム。
[(P-Q)/P]×100≧5 式(1)
(3)
前記基材層は、積層された複数の層を有し、
前記複数の層の断面における弾性率であって、-5℃で原子間力顕微鏡(AFM)による弾性率マッピングを実施したときのヒストグラムにおける頻度最大ピークで示される弾性率は、いずれも、190MPa以上890MPa以下である、上記(1)又は(2)に記載のダイシングダイボンドフィルム。
(4)
前記基材層は、積層された複数の層を有し、
前記複数の層のうち、いずれか1つの層がポリオレフィンを含み、前記1つの層以外のいずれかの層がエチレン-酢酸ビニル共重合体を含む、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のダイシングダイボンドフィルム。
(5)
ナノインデンター測定によって算出される0℃における前記粘着剤層の弾性率は、0.60MPaよりも大きい、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のダイシングダイボンドフィルム。
(6)
前記粘着剤層は、分子中にアルキル(メタ)アクリレート単位と架橋性基含有(メタ)アクリレート単位とを有するアクリル共重合体を少なくとも含む、上記(1)乃至(5)のいずれかに記載のダイシングダイボンドフィルム。
(7)
前記架橋性基含有(メタ)アクリレート単位のうち少なくとも一部が、ラジカル重合性炭素-炭素二重結合を有する、上記(6)に記載のダイシングダイボンドフィルム。
(8)
前記ダイボンドシートの0℃における破断伸度は、4.7%よりも小さい、上記(1)乃至(7)のいずれかに記載のダイシングダイボンドフィルム。
(9)
基材層及び該基材層に重なった粘着剤層を有するダイシングテープと、該ダイシングテープに重なったダイボンドシートと、を備えるダイシングダイボンドフィルムを使用して、半導体チップを有する半導体装置を製造する、半導体装置の製造方法であって、
前記ダイシングテープの120℃における引張貯蔵弾性率が0.10MPa以上であり、且つ、-15℃における引張貯蔵弾性率が280MPa以上500MPa以下であり、
前記ダイシングテープの前記粘着剤層と半導体ウエハとの間に前記ダイボンドシートを配置することによって、前記ダイボンドシートを介して前記半導体ウエハを前記ダイシングテープに固定するマウント工程と、
前記ダイシングテープを引き伸ばすことによって、前記ダイボンドシートと共に前記半導体ウエハを割断し、前記半導体ウエハが小片化された前記半導体チップを得るエキスパンド工程と、を備える、半導体装置の製造方法。
【実施例0158】
次に実験例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0159】
以下のようにして、ダイシングテープを製造した。また、このダイシングテープをダイボンドシートと貼り合わせて、ダイシングダイボンドフィルムを製造した。
【0160】
<ダイシングテープの作製>
[粘着剤層a]
(アクリル共重合体の原料モノマー)
・アクリロイルモルフォリン(ACMO):11質量部
・2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA):27質量部
・2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA):100質量部
冷却管、窒素導入管、温度計および撹拌装置を備えた反応容器に上記の各原料を入れた。モノマーの合計100質量部に対し、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2質量部を熱重合開始剤として使用した。全モノマーの濃度が35質量%となるように酢酸エチルを反応溶媒として加えた。窒素気流中で62℃にて5時間、さらに75℃にて2時間の重合反応処理を行い、アクリル共重合体の中間体を得た。
次に、得られたアクリル共重合体の中間体を含む液に、HEAの合計量に対してモル換算で80モル%となるように2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(以下、MOI)(製品名「karenz MOI」 昭和電工マテリアルズ社製)を加えた、また、MOI量に対して0.03質量%のジラウリン酸ジブチルスズを反応触媒として加えた。その後、空気気流中で50℃にて12時間付加反応処理(ウレタン化反応)を行い、アクリル共重合体を得た。
続いて、アクリル共重合体100質量部に対して、光重合開始剤(製品名「Omnirad127D」 IGM社製)2.5質量部、ポリイソシアネート化合物(製品名「タケネートD-101A」 三井化学社製)1.00質量部、酸化防止剤(製品名「Irganox1010」 BASFジャパン社製)0.01質量部を加えて、粘着剤溶液を調製した。調製した粘着剤溶液を、シリコーン処理を施したPET剥離ライナーの処理面上に塗布した。120℃で2分間の加熱乾燥処理を施し、厚さ10μmの粘着剤層を形成した。
【0161】
[粘着剤層b]
(アクリル共重合体の原料モノマー)
・2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA):20質量部
・2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA):100質量部
上記と同様の反応容器に上記の各原料を入れた。モノマーの合計100質量部に対し、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2質量部を熱重合開始剤として使用した。全モノマーの濃度が60質量%となるようにトルエンを反応溶媒として加えた。窒素気流中で62℃にて6時間、さらに75℃にて2時間の重合反応処理を行い、アクリル共重合体の中間体を得た。
次に、得られたアクリル共重合体の中間体を含む液に、HEAの合計量に対してモル換算で80モル%となるように、上記のMOIを加えた、また、MOIに対して0.03質量%のジラウリン酸ジブチルスズを反応触媒として加えた。その後、空気気流中で50℃にて12時間付加反応処理(ウレタン化反応)を行い、アクリル共重合体を得た。
続いて、アクリル共重合体100質量部に対して、光重合開始剤(上記の「Omnirad127D」を2.5質量部、ポリイソシアネート化合物(上記の「タケネートD-101A」)を0.75質量部、酸化防止剤(上記の「Irganox1010」)を0.01質量部加えて、粘着剤溶液を調製した。調製した粘着剤溶液を、シリコーン処理を施したPET剥離ライナーの処理面上に塗布した。120℃で2分間の加熱乾燥処理を施し、厚さ10μmの粘着剤層を形成した。
【0162】
[粘着剤層c]
上記の粘着剤層bで得たアクリル共重合体を含む液に、アクリル共重合体100質量部に対して、光重合開始剤(「Omnirad127D」IGM社製)を2.5質量部、ポリイソシアネート化合物(「タケネートD-101A」三井化学社製)を0.5質量部、酸化防止剤(「Irganox1010」BASFジャパン社製)を0.01質量部加えて、粘着剤溶液を調製した。調製した粘着剤溶液を、シリコーン処理を施したPET剥離ライナーの処理面上に塗布した。120℃で2分間の加熱乾燥処理を施し、厚さ10μmの粘着剤層を形成した。
【0163】
各実施例及び各比較例における粘着剤層の種類は、それぞれ表1に示す通りである。
【0164】
【0165】
[基材層]
以下に示す樹脂(市販品)を用いて、3層又は2層が積層した基材層を作製した。
(基材層を構成する樹脂フィルム(層))
・非エラストマー層1(N-1で示す)
主成分:ポリプロピレン樹脂1、
他成分:ポリマー型帯電防止剤及びポリオレフィン系樹脂1
・非エラストマー層2(N-2で示す)
主成分:ポリオレフィン系樹脂2、
他成分:ポリマー型帯電防止剤及びポリオレフィン系樹脂1
・非エラストマー層3(N-3で示す)
主成分:ポリプロピレン樹脂1、
他成分:ポリマー型帯電防止剤
・エラストマー層1(R-1で示す)
主成分:ポリプロピレン樹脂1、
他成分:エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂1
・エラストマー層2(R-2で示す)
エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)2
・エラストマー層3(R-3で示す)
エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)3
・エラストマー層4(R-4で示す)
主成分:エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)3、
他成分:ポリマー型帯電防止剤
【0166】
(基材層の成形)
押し出しTダイ成形機を用いて基材層を成形した。押出温度は、190℃であった。2層タイプ又は3層積層タイプの基材層を作製するときに、Tダイから共押出成形して各層を一体化させた。一体化した基材層(積層体)が十分に固化した後、基材層をロール状に巻き取って保管した。
基材層を構成する各層の厚さは、表2に示した通りである。
【0167】
【0168】
[粘着剤層と基材層との貼り合わせ]
続いて、上記のようにしてそれぞれ作製した粘着剤層を粘着剤層作製後1時間以内に基材層と貼り合わせ、50℃にて24時間保存し、ダイシングテープを製造した。
なお、表2に示す第1基材層は、粘着剤層から最も離れるように配置され、第2基材層は、第1基材層よりも粘着剤層に近い位置に配置される。基材層が3層構造を有する場合の第3基材層は、粘着剤層の片面に重なっている。
【0169】
<ダイボンドシートの作製>
[ダイボンドシートα]
・アクリルポリマー(製品名「SG-P3」、ナガセケムテックス社製 エポキシ基含有)35質量部(固形分量)、
・アクリルポリマー(アクリル酸エチルとメタクリル酸ブチルとグリシジルメタクリレートとの共重合体をメチルエチルケトンで溶解したアクリル樹脂溶液:重量平均分子量Mw=70,000/エポキシ当量=444(g/eq)/ガラス転移温度Tg=11℃)30質量部(固形分量)、
・フェノール樹脂(製品名「MEHC-7851SS」、明和化成社製)6質量部、
・シリカフィラー(製品名「MEK-AC-2140Z」、日産化学工業社製)27質量部、
・シランカップリング剤(製品名「KBM-403」、信越化学工業社製)2質量部
上記の各原料を所定量のメチルエチルケトンに加えて混合し、総固形分濃度15質量%の接着用組成物溶液を調製した。
次に、シリコーン離型処理の施された面を有するPET剥離ライナーのシリコーン離型処理面上に、アプリケータを使用して接着用組成物を塗布し、塗膜を形成した。この塗膜に対して130℃で2分間の加熱乾燥処理を施し、PET剥離ライナー上に厚さ20μmのダイボンドシートを作製した。
【0170】
[ダイボンドシートβ]
・アクリルポリマー(製品名「SG-P3」、ナガセケムテックス社製 エポキシ基含有)35質量部(固形分量)、
・アクリルポリマー(アクリル酸エチルとメタクリル酸ブチルとグリシジルメタクリレートとの共重合体をメチルエチルケトンで溶解したアクリル樹脂溶液:重量平均分子量Mw=70,000/エポキシ当量=444(g/eq)/ガラス転移温度Tg=11℃)30質量部(固形分量)、
・フェノール樹脂(製品名「MEHC-7851SS」、明和化成社製)6質量部、
・シリカフィラー(製品名「SE2050-MCV」、アドマテックス社製)27質量部、
・シランカップリング剤(製品名「KBM-403」、信越化学工業社製)2質量部
上記の各原料を所定量のメチルエチルケトンに加えて混合し、総固形分濃度15質量%の接着用組成物溶液を調製した。
次に、調製した接着用組成物を用いて、上記と同様にして、PET剥離ライナー上に厚さ20μmのダイボンドシートを作製した。
【0171】
[ダイボンドシートγ]
・アクリルポリマー(製品名「PARACRON KG-8001」、根上工業社製 エポキシ基含有)100質量部(固形分量)、
・フェノール樹脂(製品名「MEHC-7851SS」、明和化成社製)3質量部、
・シリカフィラー(製品名「SE2050-MCV」、アドマテックス社製)10質量部
上記の各原料を所定量のメチルエチルケトンに加えて混合し、総固形分濃度12質量%の接着用組成物溶液を調製した。
次に、調製した接着用組成物を用いて、上記と同様にして、PET剥離ライナー上に厚さ20μmのダイボンドシートを作製した。
【0172】
(実施例1~8、比較例1~3)
[ダイシングダイボンドフィルムの製造]
各ダイシングダイボンドフィルムの構成を表3に示す。室温において、ラミネーターを使用して、円形状のダイボンドシートと、ダイシングテープとを貼り合せることによって、ダイシングダイボンドフィルムを製造した。
【0173】
<ダイシングダイボンドフィルムの物性測定>
各実施例及び各比較例のダイシングダイボンドフィルムを構成する各層について、以下のようにして各物性を測定した。
【0174】
[120℃における引張貯蔵弾性率]
ダイシングテープの引張貯蔵弾性率の測定方法の詳細は、上述した通りである。-15℃及び120℃における各弾性率の測定結果を表3に示す。
【0175】
[-5℃で断面AFM分析によるエラストマー層及び非エラストマー層の各弾性率]
エラストマー層及び非エラストマー層の-5℃における弾性率の測定方法の詳細は、上述した通りである。斯かる弾性率は、断面AFM分析による弾性率マッピングを実施したときのヒストグラムにおける頻度最大ピークで示される。斯かる弾性率の測定結果を表3に示す。
【0176】
[ナノインデンター測定によって算出される0℃における粘着剤層の弾性率]
ナノインデンター測定によって算出される粘着剤層の0℃における弾性率の測定方法の詳細は、上述した通りである。測定結果を表3に示す。
【0177】
[ダイボンドシートの0℃における破断伸度]
ダイボンドシートの0℃における弾性率の測定方法の詳細は、上述した通りである。測定結果を表3に示す。
【0178】
【0179】
さらに以下のようにして、上記のごとく製造したダイシングダイボンドフィルムの性能を評価した。
【0180】
<性能評価(中心部における隣り合う半導体チップ間の離間距離(カーフ幅))>
(評価用サンプルの準備)
評価用サンプルとして、ベアウエハを用いて作製したチップ(ダイ)付きダイシングダイボンドフィルムを準備した。
具体的には、ラミネーターを使用して、ウエハ加工用テープ(製品名「UB-3083D」、日東電工社製)に保持されたベアウエハをダイシングダイボンドフィルムのダイボンドシートに貼り合わせた。続いて、ウエハからウエハ加工用テープを剥離した。貼り合わせ時の条件は、貼り合わせ速度が10mm/秒、温度条件が50~80℃、圧力条件が0.15MPaであった。
(ウエハの準備)
まず、ベアウエハ(直径12インチ,厚さ780μm,東京化工社製)において改質領域を形成する予定の第1面にウエハ加工用テープ(製品名「UB-3083D」、日東電工社製)を貼り合わせた。次に、ステルスダイシング装置(製品名「DAL7360(SDE05)」、Power:0.25W,周波数:80kHz、ディスコ社製)を使用して、このベアウエハの内部に改質領域を形成した。詳しくは、ウエハ内部の第1面に近い側に集光点を合わせたレーザー光を、第1面とは反対の裏面(第2面)側から照射した。照射は、ベアウエハを分割するための予定ラインに沿って実施した。これにより、多光子吸収によるアブレーションによって、ウエハ内部(ウエハの第1面からの深さ50μm)に、一区画3mm×7mmの格子を描くように小片化用の改質領域を形成した。その後、バックグラインド装置(製品名「DGP8760」、ディスコ社製)を使用して、ウエハの第2面から研削することによって、当該ウエハを厚さ30μmになるまで薄くした。以上のようにして、ウエハ加工用テープに保持された状態のウエハを形成した。このウエハは、複数のチップ(3mm×7mm)へとウエハを小片化するための区画を含む。
(チップ(ダイ)の作製)
上記のようにして作製したベアウエハをダイシングダイボンドフィルムに貼り付けた。ダイシングダイボンドフィルムに貼り付けた状態のベアウエハを、エキスパンド工程によって割断し、小片化した。なお、上記のウエハ加工用テープをベアウエハから剥離した状態で、ダイセパレート装置(製品名「ダイセパレータDDS2300、ディスコ社製」を使用して、エキスパンド工程を実施した。また、エキスパンド工程では、クールエキスパンドを実施した後、常温エキスパンドを実施した。
クールエキスパンドは、以下のようにして実施した。具体的には、ベアウエハに貼り付けたダイシングダイボンドフィルムの粘着剤層上においてフレームが貼着される予定の領域に、直径12インチのSUS製リングフレーム(ディスコ社製)を室温にて貼り付けた。続いて、SUS製リングフレームが貼り付けられたベアウエハを、ダイセパレート装置に装着した。そして、クールエキスパンダーユニットにて、エキスパンド温度-15℃、エキスパンド速度100mm/秒、エキスパンド量10mmの条件で、ウエハ及びダイボンドシートを割断して、複数のダイボンドシート層付きチップを得た。
さらに、室温環境下、エキスパンド速度1mm/秒、エキスパンド量10mmの条件で常温エキスパンドを行った。
そして、エキスパンド状態を維持したまま、ヒート温度250℃、ヒート距離20mm、ローテーションスピード3°/secの条件で、ウエハの外周縁を取り囲む部分におけるダイシングテープをヒーターによって熱収縮させた。すなわち、
図7に示すような加熱処理方法によって、多数の半導体チップ群と重なっていない部分のダイシングテープに加熱処理を施し、加熱処理された部分を熱収縮させた。
熱収縮の後、顕微鏡観察によって、複数箇所において、ダイボンドシート付きチップ間の間隔(カーフ)を測定した。カーフは、中心部における任意の10箇所における間隔を測定し、測定値を算術平均することにより求めた。カーフ(平均値)が15μm以上である場合を「良好(○)」、15μm未満である場合を「不良(×)」と評価した。
【0181】
<性能評価(ダイボンドシートの割断性、および、カーフ均一性)>
(評価用サンプルの準備)
評価用サンプルとして、ベアウエハを用いて作製したチップ(ダイ)付きダイシングダイボンドフィルムを準備した。具体的には、ラミネーターを使用して、ウエハ加工用テープ(製品名「UB-3083D」、日東電工社製)に保持されたベアウエハをダイシングダイボンドフィルムのダイボンドシートに貼り合わせた。続いて、ウエハからウエハ加工用テープを剥離した。貼り合わせ時の条件は、貼り合わせ速度が10mm/秒、温度条件が50~80℃、圧力条件が0.15MPaであった。
(ウエハの準備)
まず、ベアウエハ(直径12インチ,厚さ780μm,東京化工社製)において改質領域を形成する予定の第1面にウエハ加工用テープ(製品名「UB-3083D」、日東電工社製)を貼り合わせた。次に、ステルスダイシング装置(製品名「DAL7360(SDE05)」、Power:0.25W,周波数:80kHz、ディスコ社製)を使用して、このベアウエハの内部に改質領域を形成した。詳しくは、ウエハ内部の第1面に近い側に集光点を合わせたレーザー光を、第1面とは反対の裏面(第2面)側から照射した。ベアウエハを分割するための予定ラインに沿って照射を実施した。これにより、多光子吸収によるアブレーションによって、ウエハ内部(ウエハの第1面からの深さ50μm)に、一区画3mm×7mmの格子を描くように小片化用の改質領域を形成した。その後、バックグラインド装置(製品名「DGP8760」、ディスコ社製)を使用して、ウエハの第2面から研削することによって、ウエハを厚さ30μmになるまで薄くした。以上のようにして、ウエハ加工用テープに保持された状態のウエハを形成した。このウエハは、複数のチップ(3mm×7mm)へとウエハを小片化するための区画を含む。
(チップ(ダイ)の作製)
上記のようにして作製したベアウエハをダイシングダイボンドフィルムに貼り付けた。ダイシングダイボンドフィルムに貼り付けた状態のベアウエハを、エキスパンド工程によって割断し、小片化した。なお、エキスパンド工程は、上記のウエハ加工用テープをベアウエハから剥離した状態で、ダイセパレート装置(製品名「ダイセパレータDDS2300、ディスコ社製」を使用して実施した。また、エキスパンド工程では、クールエキスパンドを実施した後、常温エキスパンドを実施した。クールエキスパンドは、以下のようにして実施した。具体的には、ベアウエハに貼り付けたダイシングダイボンドフィルムの粘着剤層上においてフレームが貼着される予定の領域に、直径12インチのSUS製リングフレーム(ディスコ社製)を室温にて貼り付けた。続いて、SUS製リングフレームが貼り付けられたベアウエハを、ダイセパレート装置に装着した。そして、クールエキスパンダーユニットにて、エキスパンド温度0℃、エキスパンド速度100mm/秒、エキスパンド量12mmの条件で、ウエハ及びダイボンドシートを割断して、複数のダイボンドシート層付きチップを得た。さらに、室温環境下、エキスパンド速度1mm/秒、エキスパンド量10mmの条件で常温エキスパンドを行った。そして、エキスパンド状態を維持したまま、ヒート温度250℃、ヒート距離20mm、ローテーションスピード3°/secの条件で、ウエハの外周縁を取り囲む部分におけるダイシングテープをヒーターによって熱収縮させた。すなわち、
図7に示すような加熱処理方法によって、多数の半導体チップ群と重なっていない部分のダイシングテープに加熱処理を施し、加熱処理された部分を熱収縮させた。熱収縮の後、テープ背面側から光を当て、チップ及びダイボンドシートが割断されているか全体を観察した。より詳細な確認は顕微鏡を用いて行った。
(ダイボンドシートの割断性)
割断されるべきチップの総数のうち、チップとともにダイボンドシートが割断できている数を確認し、割断率を算出した。割断率が100%の場合を「良好(〇)」、90%以上100%未満の場合を「やや不良(△)」、90%未満の場合を「不良(×)」と評価した。
(カーフ均一性)
カーフ均一性の評価のために、複数箇所において、ダイボンドシート付きチップ間の間隔(カーフ)を顕微鏡観察によって測定した。任意の9箇所(中心部とウェハ外周付近45℃刻み8方向)におけるカーフ(間隔)を測定し、測定値を算術平均することによって平均値を求めた。また、観察した9点すべてにおいてカーフが15μm以上ある場合を「かなり良好(◎)」とし、5μm以上15μm未満の場合を「良好(〇)」とし、5μm未満の部分がある場合を「不良(×)」とした。
【0182】
<性能評価(ダイシングテープの裂けの抑制性能)>
上述した割断性評価およびカーフ均一性評価と同様にサンプルを準備し、ダイセパレート装置に装着した。そして、クールエキスパンダーユニットにて、エキスパンド温度-15℃、エキスパンド速度200mm/秒、エキスパンド量14mmの条件でエキスパンド工程を実施した。この条件にてテープが破れなかった場合を「良好(○)」、破れた場合を「不良(×)」と評価した。
【0183】
上記の評価結果から把握されるように、実施例のダイシングダイボンドフィルムは、比較例のダイシングダイボンドフィルムに比べて、エキスパンド工程においてダイシングテープを引き伸ばした後に、隣り合う半導体チップ間の離間距離(カーフ)が部位によってばらつくことを抑制できた。さらに、引き伸ばし時におけるダイシングテープの裂けが抑制され、しかも、ダイボンドシートを良好に割断できた。
【0184】
実施例のダイシングダイボンドフィルムでは、ダイシングテープの120℃における弾性率が0.10MPa以上である。
このような構成を有する実施例のダイシングダイボンドフィルムを、半導体装置を製造するときに使用することによって、半導体装置を効率良く製造することができる。半導体装置の製造においては、エキスパンド工程において、ダイシングテープを引き伸ばすとともに半導体ウエハを小片化する。そして、エキスパンド工程の後に、例えば、小片化された多数の半導体チップ群の外周に沿って加熱用ヒーター等を一方向に移動させつつ、多数の半導体チップ群の周囲部分のダイシングテープを加熱によって熱収縮させる。このように、半導体チップ群の周囲部分でダイシングテープを熱収縮させることにより、引き伸ばされた方向の逆方向にダイシングテープが縮む力を弱めることができる。ダイシングテープの縮む力を弱めた分、いったん広がった隣り合う半導体チップの間隔(カーフ)を保つことができる。
上記実施例のようにダイシングテープの120℃における弾性率が0.10MPa以上であることにより、ダイシングテープにおける加熱処理される部分では、最初に加熱されて温度がより低い部位と、最後に加熱されて温度がより高い部位(例えば120℃付近)とが混在する。このように、ダイシングテープにおいて加熱処理を受けた部分のなかで温度差があっても、高温部分での弾性率が比較的大きいため、多数の半導体チップ群と重なった部分(中央部分)のダイシングテープが上記のごとく縮もうとするときの力のばらつきを抑えることができる。よって、半導体チップ群における部位によるカーフのばらつきを抑制できたと考えられる。
また、実施例のダイシングダイボンドフィルムでは、ダイシングテープの-15℃における引張貯蔵弾性率が280MPa以上500MPa以下である。そのため、ダイボンドシートを割断するための力をダイシングテープからダイボンドシートへ十分に伝えることができる。また、低温における引張力に対してダイシングテープが十分に伸びることができる。従って、ダイボンドシートを良好に割断でき、また、ダイシングテープの裂けを抑制できる。