(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089317
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】熱交換装置
(51)【国際特許分類】
F25B 37/00 20060101AFI20240626BHJP
F25B 17/08 20060101ALI20240626BHJP
F28D 20/00 20060101ALI20240626BHJP
F28F 23/00 20060101ALI20240626BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20240626BHJP
B01J 20/20 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
F25B37/00
F25B17/08 Z
F28D20/00 Z
F28F23/00 Z
B01J20/34 E
B01J20/20 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204604
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】曽根 和樹
(72)【発明者】
【氏名】市川 靖
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 仁
(72)【発明者】
【氏名】内村 允宣
(72)【発明者】
【氏名】青梅 亜美
【テーマコード(参考)】
3L093
4G066
【Fターム(参考)】
3L093NN03
3L093RR01
4G066AA04B
4G066BA13
4G066BA20
4G066BA22
4G066BA36
4G066BA38
4G066CA56
4G066DA01
4G066EA20
4G066GA40
(57)【要約】
【課題】弾性を有し、収縮して媒体を脱離可能であり、かつ、膨張して媒体を吸着可能であるナノ多孔質体と、前記ナノ多孔質体に応力を印加して前記ナノ多孔質体を収縮させる動作と、印加された前記応力を解放して前記ナノ多孔質体を膨張させる動作とを行う応力付与部と、前記媒体を透過可能であり、前記ナノ多孔質体の表面に隣接する多孔質部と、前記ナノ多孔質体と直接または間接的に接触して、前記ナノ多孔質体の熱を伝導する第1の熱伝導部と、前記多孔質部と前記第1の熱伝導部とを熱的に接続し、前記多孔質部を露出させる開口部を有する第2の熱伝導部と、前記ナノ多孔質体、前記多孔質部および前記第2の熱伝導部の全体、前記第1の熱伝導部の少なくとも一部、並びに前記媒体を収容する収容部とを備える、熱交換装置である。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性を有し、収縮して媒体を脱離可能であり、かつ、膨張して媒体を吸着可能であるナノ多孔質体と、
前記ナノ多孔質体に応力を印加して前記ナノ多孔質体を収縮させる動作と、印加された前記応力を解放して前記ナノ多孔質体を膨張させる動作とを行う応力付与部と、
前記媒体を透過可能であり、前記ナノ多孔質体の表面に隣接する多孔質部と、
前記ナノ多孔質体と直接または間接的に接触して、前記ナノ多孔質体の熱を伝導する第1の熱伝導部と、
前記多孔質部と前記第1の熱伝導部とを熱的に接続し、前記多孔質部を露出させる開口部を有する第2の熱伝導部と、
前記ナノ多孔質体、前記多孔質部および前記第2の熱伝導部の全体、前記第1の熱伝導部の少なくとも一部、並びに前記媒体を収容する収容部と、
を備える、熱交換装置。
【請求項2】
前記ナノ多孔質体は、前記応力が印加または解放されることによって細孔径が変化し、細孔に取り込まれる前記媒体を可逆的に吸脱着させる、請求項1に記載の熱交換装置。
【請求項3】
前記多孔質部は、前記応力付与部と前記ナノ多孔質体との間、前記ナノ多孔質体を挟んで前記応力付与部の反対側、及び、前記ナノ多孔質体の側面のうち、1か所以上に配置されている、請求項1または2に記載の熱交換装置。
【請求項4】
前記多孔質部は、前記ナノ多孔質体を覆っている、請求項1または2に記載の熱交換装置。
【請求項5】
前記第1の熱伝導部は、前記収容部の内部において前記ナノ多孔質体に接触して熱的に接続される接触部と、前記収容部から外部に延出する延出部と、を有する、請求項1または2に記載の熱交換装置。
【請求項6】
前記開口部のサイズは、前記媒体の気体の平均自由行程の10倍以上である、請求項1または2に記載の熱交換装置。
【請求項7】
前記第2の熱伝導部は、前記多孔質部の表面に対して直線状または曲線状に配置されている、請求項1または2に記載の熱交換装置。
【請求項8】
前記第2の熱伝導部は、前記多孔質部の表面に対して面状に配置されている、請求項1または2に記載の熱交換装置。
【請求項9】
前記第2の熱伝導部は、前記多孔質部の表面に対してメッシュ状に配置されている、請求項1または2に記載の熱交換装置。
【請求項10】
前記第2の熱伝導部は、前記多孔質部の表面に対する垂直断面形状が蛇腹状となるように配置されている、請求項1または2に記載の熱交換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱を移動させることで対象(空間や物体)の加熱や冷却を行う熱交換装置が広く用いられている。例えば、下記特許文献1には、媒体としての水を気化させる高熱源と、気化させた水分を凝縮する低熱源とを与えるヒートポンプと、水分を集めるデシカント(乾燥材)とを用いた吸着式ヒートポンプ(デシカント空調器)が開示されている。このような吸着式ヒートポンプでは、一般に、デシカントに用いる吸着剤としてシリカゲル、ゼオライトなどの多孔質体が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の吸着式ヒートポンプ(デシカント空調器)では、多孔質体中における流体冷媒の移動速度が小さい。このため、冷媒分子が蒸発する(すなわち、吸熱する)際に、冷媒分子の蒸発速度が小さく、単位時間内に十分な吸熱量を得ることが難しい。冷媒分子の蒸発を促すために、多孔質体の温度を上昇させる方法が考えられるが、この方法では入熱用のヒータが必要となるため装置の大型化を招く。また、ヒータを稼働させるためのエネルギーが必要となるため、エネルギーの消費効率が低下する。
【0005】
また、特に設置スペースの限られているカーエアコンなどに適用するために、吸発熱量および吸発熱出力がより高い熱交換装置が求められている。さらに、流体冷媒を繰り返し吸着および脱離させた場合であっても熱交換性能の低下が生じにくい熱交換装置が求められている。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、小型化およびエネルギーの消費効率の向上が可能であり、吸発熱量および吸発熱出力が高く、流体冷媒を繰り返し吸着および脱離させた場合であっても熱交換性能の低下が生じにくい熱交換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。その過程で、応力を印加および解放することによって機械的に変形して、媒体を脱離および吸着可能なナノ多孔質体を熱交換装置の吸着剤として用い、脱離または吸着により発生した潜熱を冷熱または温熱に直接的に利用した。この際、上記媒体を透過可能な多孔質部を上記ナノ多孔質体に隣接配置し、上記ナノ多孔質体と直接または間接的に接触して当該ナノ多孔質体の熱を伝導する熱伝導部(本明細書中、「第1の熱伝導部」とも称する)をさらに配置した。そして、上記多孔質部と上記第1の熱伝導部とを熱的に接続し、当該多孔質部を露出させる開口部を有する熱伝導部(本明細書中、「第2の熱伝導部」とも称する)をさらに配置し、上記の各構成要素を収容部内に収容して熱交換装置を構成した。これにより、上記課題が解決され得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の一形態は、弾性を有し、収縮して媒体を脱離可能であり、かつ、膨張して媒体を吸着可能であるナノ多孔質体と、前記ナノ多孔質体に応力を印加して前記ナノ多孔質体を収縮させる動作と、印加された前記応力を解放して前記ナノ多孔質体を膨張させる動作とを行う応力付与部と、前記媒体を透過可能であり、前記ナノ多孔質体の表面に隣接する多孔質部と、前記ナノ多孔質体と直接または間接的に接触して、前記ナノ多孔質体の熱を伝導する第1の熱伝導部と、前記多孔質部と前記第1の熱伝導部とを熱的に接続し、前記多孔質部を露出させる開口部を有する第2の熱伝導部と、前記ナノ多孔質体、前記多孔質部および前記第2の熱伝導部の全体、前記第1の熱伝導部の少なくとも一部、並びに前記媒体を収容する収容部とを備える、熱交換装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、小型化およびエネルギーの消費効率の向上が可能であり、吸発熱量および吸発熱出力が高く、流体冷媒を繰り返し吸着および脱離させた場合であっても熱交換性能の低下が生じにくい熱交換装置が得られうる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】
図1Aは、本発明の一実施形態に係る熱交換装置100Aの構成例を示す断面図である。
【
図2A】
図2Aは、本発明の変形例に係る熱交換装置の一部をX方向から見た平面図である。
【
図3A】
図3Aは、本発明の他の変形例に係る熱交換装置の一部をX方向から見た平面図である。
【
図4】本発明のさらに他の変形例に係る熱交換装置の一部をX方向から見た平面図である。
【
図5】後述する実施例の欄において、実施例1および比較例1で作製した各サンプルに対してメタノールの蒸気を容器の内部に供給してGMSに吸着させ、GMSを含む積層構造体と銅板との複合体を積層方向に80MPaでプレスした際の銅板の温度変化(ΔT)を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一形態は、弾性を有し、収縮して媒体を脱離可能であり、かつ、膨張して媒体を吸着可能であるナノ多孔質体と、前記ナノ多孔質体に応力を印加して前記ナノ多孔質体を収縮させる動作と、印加された前記応力を解放して前記ナノ多孔質体を膨張させる動作とを行う応力付与部と、前記媒体を透過可能であり、前記ナノ多孔質体の表面に隣接する多孔質部と、前記ナノ多孔質体と直接または間接的に接触して、前記ナノ多孔質体の熱を伝導する第1の熱伝導部と、前記多孔質部と前記第1の熱伝導部とを熱的に接続し、前記多孔質部を露出させる開口部を有する第2の熱伝導部と、前記ナノ多孔質体、前記多孔質部および前記第2の熱伝導部の全体、前記第1の熱伝導部の少なくとも一部、並びに前記媒体を収容する収容部とを備える、熱交換装置である。
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明で参照する図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0013】
(熱交換装置)
図1Aは、本発明の一実施形態に係る熱交換装置100Aの構成例を示す断面図である。
図1Bは、
図1Aの一部をY方向から見た平面図である。
図1Aおよび
図1Bに示す熱交換装置100Aは、例えば、自動車の室内(内気)を冷却するカーエアコン(冷房)に適用することができる装置である。
【0014】
熱交換装置100Aは、ナノ多孔質体20に応力を印加および解放することにより、機械的に変形させて、媒体の脱離および吸着を行う。例えば、熱交換装置100Aは、媒体の脱離時に発生する蒸発潜熱から得た冷熱を利用して対象(例えば、空気)を冷却する。また、熱交換装置100Aは、媒体の吸着時に発生する凝縮潜熱から得た排熱を利用して、空気を加熱することも可能である。熱交換装置100Aは、冷却した空気と加熱した空気とを混合して、空気を所望の温度に調整することも可能である。なお、ナノ多孔質体20から脱離または吸着する媒体を、冷媒と言い換えてもよい。また、気化した媒体を、媒体蒸気、冷媒蒸気、または、ゲスト分子と言い換えてもよい。
【0015】
図1Aおよび
図1Bに示すように、熱交換装置100Aは、ナノ多孔質体20と直接または間接的に接触して、ナノ多孔質体20の熱を伝導する熱伝導部29(第1の熱伝導部)を備える。熱伝導部29の両面に、多孔質部23で覆われたナノ多孔質体20が設けられている。また、ナノ多孔質体20が多孔質部23で覆われた構造体を、さらに熱伝導部25(第2の熱伝導部)が覆っている。この熱伝導部25(第2の熱伝導部)は、多孔質部23と第1の熱伝導部29とを熱的に接続している。また、
図1Aおよび
図1Bに示す実施形態において、第2の熱伝導部25は金属メッシュにより構成されている。これにより、第2の熱伝導部25は多孔質部23を露出させる開口部を有している。
【0016】
本実施形態において、熱伝導部29は、収容部32に収容されてナノ多孔質体20と直接または間接的に接触する接触部291と、接触部291に接続し収容部32から延出された延出部292と、を有する。延出部292をフィン部と言い換えてもよい。接触部291と延出部292とは1枚の金属板で一体に形成されている。接触部291は収容部32内に存在するナノ多孔質体20と熱交換を行い、延出部292は収容部32外に存在する対象(例えば、空気)と熱交換を行う。
【0017】
また、熱交換装置100Aにおいて、応力付与部31は、第1プレス板131Aと、第1プレス板131Aと向かい合うように配置された第2プレス板131Bと、を有する。第1プレス板131Aと、第2プレス板131Bとは、収容部32の外側に配置されている。第1プレス板131Aと第2プレス板131Bとの間に、第1の熱伝導部29、ナノ多孔質体20、多孔質部23および第2の熱伝導部25が配置されている。
【0018】
第1プレス板131Aと第2プレス板131Bとは、互いに近づく方向に移動することよって、ナノ多孔質体20に応力を加える(すなわち、プレスする)。また、第1プレス板131Aと第2プレス板131Bとは、互いに離れる方向に移動することによって、ナノ多孔質体20に加えられた応力を解放する。
【0019】
(ナノ多孔質体)
ナノ多孔質体20は、弾性を有し、収縮して媒体を脱離可能で、かつ、膨張して媒体を吸着可能なナノ多孔質の材料を含む構造体から構成される。例えば、ナノ多孔質体20は、複数の粒子と、複数の粒子同士を結合するバインダとを含み、複数の粒子の各々がナノ多孔質である(すなわち、複数のナノレベルの細孔を有する)構造体であってもよい。
図1に示すように、ナノ多孔質体20は、応力付与部31(第1プレス板131Aおよび第2プレス板131B)から応力を印加されて収縮して媒体を脱離し、応力を解放すると自由膨張して媒体を吸着する。
【0020】
ここで、「弾性」とは、応力付与部31によって外部から応力が印加されて収縮しても、応力が解放されることによって、可逆的に大きく変形してほぼ元の形状に回復する性質を意味する。ナノ多孔質体20の弾性限度は、媒体を脱離するために必要な応力印加よりも大きくなるように設計されている。ナノ多孔質体20の弾性限度は、熱交換装置100Aの適用対象の冷却規模等に応じて適宜設計することが好ましい。
【0021】
また、「ナノ多孔質」とは、複数のナノレベルの細孔を有することを意味する。ナノレベルの細孔とは、好ましくは直径0.5~100nmであり、より好ましくは直径0.7~50nmであり、さらに好ましくは直径0.7~6nmのミクロ孔またはメソ孔である。なお、IUPAC(国際純正及び応用化学連合)では、直径2nm未満の細孔をミクロ孔(micropore)、直径2~50nmの細孔をメソ孔(mesopore)、直径50nm超の細孔をマクロ孔(macropore)と定義している。
【0022】
媒体は、ナノ多孔質体20に吸着すると気体から液体へ相変化し、脱離すると液体のままで存在するか、または液体から気体へ相変化する。ナノ多孔質体20の細孔壁に吸着された細孔内部の液体密度の媒体は、飽和蒸気圧よりも低い圧力の蒸気と平衡状態となっている。すなわち、ナノ多孔質体20の細孔壁に吸着された気体は、飽和蒸気圧よりも低い圧力で液体の状態となっている。
【0023】
ナノ多孔質体20に応力が印加されると、ナノ多孔質体20の細孔が収縮し、細孔壁に吸着していた媒体は脱離する。このとき、液体の密度で吸着された媒体は、液体または気体としてナノ多孔質体20の外部に放出される。熱交換装置100Aは、この脱離の際の蒸発潜熱を冷熱として利用することによって、対象(例えば、空気)を冷却することができる。
【0024】
また、ナノ多孔質体20に印加された応力が解放されると、ナノ多孔質体20は自由膨張して細孔が元の大きさに戻り、媒体を再び吸着させる。上述したように、媒体は、ナノ多孔質体20へ吸着される際に、気体から液体へ相変化して、凝縮潜熱を発生する。熱交換装置100Aは、この吸着の際の凝縮潜熱を温熱として利用することができる。
【0025】
ナノ多孔質体の材料として、グラフェンメソスポンジ(Graphene MesoSponge:GMS)、または、ゼオライトテンプレートカーボン(Zeorite Tem plate Carbon:ZTC)が挙げられる。GMSおよびZTCは、いずれも単層グラフェン骨格からなり、流体冷媒の脱離および吸着に必要な多孔性および弾性特性を有している。
【0026】
GMSは、細孔壁の大部分が単層グラフェンから構成され、約6nm程度の微小な細孔を有するスポンジ状のメソ多孔体であり、活性炭に匹敵する極めて高いBET比表面積(約2000m2/g)を有している。その一方で、活性炭やカーボンブラックとは異なり腐食の原因となるグラフェンの端部をほとんど含んでいないことから、優れた耐食性(酸化耐性)も備えている。また、柔軟かつ強靭であるというグラフェンの性質に起因して、GMSは柔軟性および弾性に優れ、細孔の直径が約5.8nmから約0.7nmになるまで可逆的に弾性変形することができる。GMSの製造方法については、Nishihara, H. et al., Advanced Functional Materials, Vol. 26, 2016, 6418-6427.に記載されている。
【0027】
ZTCは、単層のグラフェンシートにより構成される。また、均一な細孔(直径約1.2nm)が三次元的に規則配列し、相互に連結しており、極めて高いBET比表面積と細孔容積を有する(最大でBET比表面積が4100m2/g、細孔容積が1.8cc/g)ことが知られている。ZTCの製造方法については、Nishihara, H. et al., Chemistry-European Journal 15, 5355(2009)等に記載されている。
【0028】
なお、本発明において、ナノ多孔質体の材料は、GMSまたはZTCに限定されない。ナノ多孔質体の材料は、弾性を有し、収縮して流体媒体を脱離可能で、かつ、膨張して流体媒体を吸着可能な材料であれば、他の材料を用いてもよい。このような例として、球状のメソ孔を有する炭素メソスポンジ(CMS;Carbon MesoSponge)が挙げられる。
【0029】
(媒体)
媒体として、例えば、水またはアルコールが挙げられる。アルコールの一例として、メタノールまたはエタノールが挙げられる。流体とは、液体、気体、または液体と気体とが混合したものを意味する。
【0030】
(応力付与部)
応力付与部31は、ナノ多孔質体20に応力を印加して収縮させる動作と、印加した応力を解放してナノ多孔質体20を自由膨張させる動作とを行う。これにより、応力付与部31は、ナノ多孔質体20の細孔径を外部からの応力で制御することができる。ナノ多孔質体20は、応力が印加または解放されることによって細孔径が変化し、細孔にゲスト分子27として取り込まれる媒体を可逆的に吸脱着させるものであることが好ましい。応力付与部31は、ナノ多孔質体20に対して接近離反する方向に往復運動してナノ多孔質体20に応力を印加および解放することができる限りにおいてその構成は特に限定されない。応力付与部31としては、例えば、モーターの回転運動を利用した機械式プレス機や油圧等の流体圧を利用した液圧式プレス機などを使用することができる。
【0031】
(多孔質部)
多孔質部23は、例えば、ナノ多孔質体20を覆うように配置されている。ゲスト分子27は、多孔質部23を透過可能である。多孔質部23の細孔径はナノ多孔質体20の細孔径よりも大きく、ゲスト分子27の出入りを阻害しないようになっている。また、多孔質部23は、弾性を有し、かつ、ナノ多孔質体20よりも固い。これにより、応力付与部31は、多孔質部23を介して、ナノ多孔質体20に応力を付与することが可能である。多孔質部23は、ナノ多孔質体20を覆うことによって、ナノ多孔質体20を側面から支えることができるので、ナノ多孔質体20の型崩れを抑制することができる。多孔質部23は、例えば、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル等の樹脂で構成されている。多孔質部23は、糸状の樹脂で構成されていてもよく、糸状の樹脂が二重織、朱子織、綾織されて濾布状に構成されたものであってもよい。
【0032】
多孔質部23は、応力付与部31とナノ多孔質体20との間、ナノ多孔質体20を挟んで応力付与部31の反対側、および、ナノ多孔質体20の側面のうち、1か所以上に配置されていることが好ましい。なかでも、
図1Aおよび
図1Bに示すように、多孔質部23はナノ多孔質体20を(好ましくはその全面を)覆っていることが好ましい。これによれば、熱交換装置100Aは、ゲスト分子27の吸脱着によって吸熱または発熱するナノ多孔質体20を熱源として、収容部32外に存在する物質(例えば、空気)と熱交換することができる。
【0033】
(第1の熱伝導部)
第1の熱伝導部29は、ナノ多孔質体20と直接または間接的に接触して、ナノ多孔質体20の熱を伝導するための部材である。
図1Aおよび
図1Bに示すように、第1の熱伝導部29は、接触部291と、接触部291に接続し収容部32から延出された延出部292とを有することが好ましい。ただし、第1の熱伝導部は、その全体が収容部に収容されていてもよい。第1の熱伝導部の構成材料について特に制限はなく、熱伝導率の高い金属(アルミニウム、銅など)が用いられうる。
【0034】
(第2の熱伝導部)
第2の熱伝導部25は、多孔質部と第1の熱伝導部とを熱的に接続する部材である。また、多孔質部23からの媒体の脱離や多孔質部23への媒体の吸着を阻害しないように、第2の熱伝導部は多孔質部を露出させる開口部を有する。
図1Aおよび
図1Bに示す実施形態では、第2の熱伝導部が多孔質部23の表面に対してメッシュ状に配置されていることで、開口部が設けられている。このように、第2の熱伝導部25が多孔質部23の表面に対してメッシュ状に配置されていることで、多孔質部23と第1の熱伝導部29との間の熱伝導をよりいっそう促進することができる。また、多数の開口部の存在により、媒体(ゲスト分子)の拡散も促進することができる。なお、開口部のサイズについて特に制限はないが、媒体(ゲスト分子)の気体の平均自由行程の10倍以上であることが好ましく、50倍以上であることがより好ましく、100倍以上であることが特に好ましい。なお、媒体の拡散を促進するという観点からは開口部のサイズは大きいほど好ましい。このため、第2の熱伝導部の配置形態に応じて開口部のサイズの上限値は適宜設定されうる。第2の熱伝導部の構成材料についても特に制限はなく、熱伝導率の高い金属(アルミニウム、銅など)が用いられうる。第2の熱伝導部の構成材料は、第1の熱伝導部の構成材料と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0035】
(収容部)
収容部32は、内部にナノ多孔質体20、多孔質部23および第2の熱伝導部25の全体を収容し、第1の熱伝導部29の少なくとも一部を収容し、さらには媒体(ゲスト分子27)をも収容する空間を有する容器である。収容部32の内部は、真空または真空に近い低圧に保たれていてもよいし、常圧または常圧に近い圧力に保たれていてもよい。収容部32は、熱伝導性に優れた材料で構成されていることが好ましく、例えばアルミニウムまたは銅等の金属で構成されていることが好ましい。これにより、熱交換装置100Aは、熱伝導部29の延出部292のみならず収容部32を介しても、対象(例えば、空気)と効率よく熱交換することができる。
【0036】
(制御部)
熱交換装置100Aは、制御部(図示せず)をさらに備えてもよい。制御部は、例えば、CPU(中央演算装置)、RAM(Random Access Memory)および記録媒体等から構成されている。記録媒体に記録されたプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行する。これにより、制御部は、応力付与部31の動作を制御してナノ多孔質体20へ応力を印加したりこれを解放したりすることができる。
【0037】
従来の吸着式ヒートポンプ(デシカント空調器)では、多孔質体中における流体冷媒の移動速度が小さい。このため、冷媒分子が蒸発する(すなわち、吸熱する)際に、冷媒分子の蒸発速度が小さく、単位時間内に十分な吸熱量を得ることが難しい。冷媒分子の蒸発を促すために、多孔質体の温度を上昇させる方法が考えられるが、この方法では入熱用のヒータが必要となるため装置の大型化を招く。また、ヒータを稼働させるためのエネルギーが必要となるため、エネルギーの消費効率が低下する。
【0038】
これに対し、本形態に係る熱交換装置では、応力を印加および解放することによって細孔径を変化させ、ゲスト分子として取り込まれる媒体を可逆的に吸脱着させることができるナノ多孔質材料を含むナノ多孔質体を吸着剤に用いる。これにより、媒体の相変化によって吸熱または発熱するナノ多孔質体を熱源として、収容部外に存在する物質(例えば、空気)と熱交換することができる。この熱交換装置では、ヒータによる入熱ではなく、応力付与部によるプレスが入力エネルギーとなる。このため、前記熱交換装置は、エネルギーの消費効率(COP:Coefficient Of Performance)を向上させることができる。また、上記熱交換装置は、入熱用のヒータは不要であるため、小型化が可能である。
【0039】
また、本形態に係る熱交換装置は、ナノ多孔質体の表面に隣接して、媒体を透過可能である多孔質部が配置されている。このような多孔質部を配置することにより、機械的に応力を印加した際にナノ多孔質体が型崩れを起こしたり、不純物が混入したりすることを防ぐことができる。加えて、ナノ多孔質体に荷重を均一に印加できるため吸発熱量が向上しうる。また、ナノ多孔質体の型崩れによる吸脱着量の低下が生じにくいため、吸発熱量が維持されうる。さらに、媒体を透過させ、媒体の拡散を妨げない構造とすることにより、媒体の吸脱着量が向上しうる。その結果、吸発熱量が向上し、応力の印加および解放を繰り返しても吸発熱量の低下がより生じにくい。さらに、本形態に係る熱交換装置は、ナノ多孔質体と他の部材(例えば、応力付与部や収容部の内壁等)との間に多孔質部23が介在し、さらに開口部を有する第2の熱伝導部が介在する。このような構成とすることによって、ナノ多孔質体20の表面に通気性を確保することができる。その結果、ナノ多孔質体へゲスト分子27を輸送し易くなるため、熱交換性能をいっそう高めることが可能である。
【0040】
(変形例1)
図2Aは、本発明の変形例に係る熱交換装置の一部をX方向から見た平面図である。
図2Bは、
図2Aに示す構造をY方向から見た平面図である。
図2Aおよび
図2Bに示すように、本変形例においては、円柱状の第2の熱伝導部25が、多孔質部23と第1の熱伝導部29とを熱的に接続するように、多孔質部23の表面に配置されている。すなわち、本変形例において、第2の熱伝導部25は、多孔質部23の表面に対して直線状に配置されている。なお、第2の熱伝導部25は、多孔質部23の表面に対して曲線状に配置されていてもよい。また、複数の第2の熱伝導部25の間には、多孔質部23が露出するように開口部が設けられている。本変形例の構成によれば、簡便な構成によって多孔質部23と第1の熱伝導部29との間の熱伝導を促進することができる。
【0041】
(変形例2)
図3Aは、本発明の他の変形例に係る熱交換装置の一部をX方向から見た平面図である。
図3Bは、
図3Aに示す構造をY方向から見た平面図である。
図3Aおよび
図3Bに示すように、本変形例においては、平板状の第2の熱伝導部25が、多孔質部23と第1の熱伝導部29とを熱的に接続するように、多孔質部23の表面に配置されている。すなわち、本変形例において、第2の熱伝導部25は、多孔質部23の表面に対して面状に配置されている。また、複数の第2の熱伝導部25の間には、多孔質部23が露出するように開口部が設けられている。本変形例の構成によれば、変形例1と比較して、第2の熱伝導部25が多孔質部23および第1の熱伝導部29と接触する面積が増大していることから、これらの間の熱伝導をよりいっそう促進することができる。
【0042】
(変形例3)
図4は、本発明のさらに他の変形例に係る熱交換装置の一部をX方向から見た平面図である。
図4に示すように、本変形例においては、多孔質部23の表面に対する垂直断面形状が蛇腹状となるように、第2の熱伝導部25が多孔質部23の表面に配置されている。なお、多孔質部23の他の面にも蛇腹状の第2の熱伝導部25がさらに設けられてもよい。また、
図4に示す形態では、多孔質部23の大部分が露出しており、このような場合も「開口部が設けられている」の概念に含まれるものとする。本変形例の構成によれば、変形例1と比較して、第2の熱伝導部25が多孔質部23および第1の熱伝導部29と接触する面積が増大していることから、これらの間の熱伝導をよりいっそう促進することができる。また、蛇腹状の形状を有することにより、第2の熱伝導部25の熱抵抗を低減させることもできる。
【0043】
なお、以下の実施形態も本発明の範囲に含まれる:請求項2の特徴を有する請求項1に記載の熱交換装置;請求項3の特徴を有する請求項1または2に記載の熱交換装置;請求項4の特徴を有する請求項1~3のいずれかに記載の熱交換装置;請求項5の特徴を有する請求項1~4のいずれかに記載の熱交換装置;請求項6の特徴を有する請求項1~5のいずれかに記載の熱交換装置;請求項7の特徴を有する請求項1~6のいずれかに記載の熱交換装置;請求項8の特徴を有する請求項1~6のいずれかに記載の熱交換装置;請求項9の特徴を有する請求項1~6のいずれかに記載の熱交換装置;請求項10の特徴を有する請求項1~6のいずれかに記載の熱交換装置。
【実施例0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0045】
(GMSの調製)
GMSは、単層グラフェン骨格を有し、大きな空孔率および弾性を有する。GMSの合成法はAdvanced Functional Materials,Vol.26,2016,6418-6427.を引用した。
【0046】
アルミナナノ粒子(Sasol,SBa200)を電気炉に設置し、窒素気流中1173Kまで昇温させた。1173Kに到達したら、窒素ガスを20vol%メタン、80vol%窒素に切り替え、2時間のCVDによりアルミナナノ粒子の表面に炭素を析出させた。その後、窒素のみのフローに切り替え、室温まで冷却した。得られたカーボン被覆アルミナナノ粒子をフッ酸(47wt%,Wako pure chemical industries)に浸漬し、アルミナナノ粒子を取り除いた。得られたメソポーラスカーボンは、アルゴン気流中(10Pa)2073Kで焼成し、GMSを得た。
【0047】
GMSは、主に単層グラフェンからなり、大きな弾性を持ち合わせている。特開2019-138620号公報に記載される手法に準じて、GMSは、応力印加により可逆的に形状が変形することを確認した。また、特開2019-138620号公報に記載される手法に準じて、GMSの応力無印加時(303K)と80MPaの応力印加時(288K、293K、298K、303K)におけるメタノールの脱離/吸着曲線を測定し、GMSに応力を印加/解放することによってメタノールの脱離/吸着および液体/気体の相変化が可逆的に起こることを確認した。
【0048】
また、得られたGMSの粉末を用いて、GMSの平均二次粒子径を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定したところ、20μmであった。
【0049】
[実施例1]
(包装体試料の作製)
多孔質部として、ポリプロピレン(PP)製の濾布(通気性7cm/s、厚さ0.32mm、中尾フィルター株式会社製)を準備した。このポリプロピレン製濾布を2枚重ねて、三辺をヒートシーラーで熱溶着して袋状にし、空いた一辺から上記のGMS粉末20mgを入れた。その後、空いた一辺を熱溶着して、ナノ多孔質体(14mm×14mm)の周囲を多孔質部で包囲した包装体試料(24mm×24mm×1.1mm)を作製した。
【0050】
(第2の熱伝導部の配置)
上記で作製した包装体試料を5枚積層した。一方、第2の熱伝導部として、アルミニウム箔(厚さ50μm)を準備した。このアルミニウム箔を切り出し、上記の積層体の積層方向に垂直な2つの面を除く外周面の全面に配置し、テープで固定した。このようにして、本実施例の積層構造体を作製した。
【0051】
(第1の熱伝導部の配置および容器内への設置)
上記で作製した積層構造体の最上面(アルミニウム箔で覆われておらず多孔質部が露出している)に、第1の熱伝導部としての銅板(100mm×20mm×1mm)の一方の端部をテープで固定し、積層構造体と銅板との複合体を、プレス機構を備えたステージ上に載せた。次いで、ステージ上に載せた上記複合体を覆うようにアクリル樹脂製の容器をかぶせ、銅板の他方の端部が当該容器の上部から外部空間へ延出するようにして容器を密封し、さらに容器の内部を真空引きした。このようにして、本実施例のサンプルを作製した。
【0052】
[比較例1]
第2の熱伝導部(アルミニウム箔)を配置しなかったこと以外は、上述した比較例1と同じ方法により、本比較例のサンプルを作製した。
【0053】
[吸熱性能の評価]
上記の実施例1および比較例1で作製した各サンプルに対して、媒体(ゲスト分子)であるメタノールの蒸気を容器の内部に供給し、GMSに吸着させた。そして、ステージを移動させることによりプレス機構を作動させることで、ステージ上の上記複合体を積層方向に80MPaでプレスした。その際の銅板の温度変化(ΔT)を、極細熱電対を用いて測定した。結果を
図5に示す。
【0054】
図5に示すように、比較例1ではGMSに対してプレス処理を施した際の銅板の温度変化(ΔT)は-0.65℃であった。これに対し、実施例1ではΔTが-3.5℃であり、比較例1に対して5.4倍の温度変化が達成できた。