(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089322
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】生分解性樹脂成形物の処理方法
(51)【国際特許分類】
C08J 11/10 20060101AFI20240626BHJP
B09B 3/60 20220101ALI20240626BHJP
B09B 5/00 20060101ALI20240626BHJP
B09B 101/75 20220101ALN20240626BHJP
【FI】
C08J11/10 ZAB
B09B3/60
B09B5/00 Q
B09B101:75
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204609
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】万字 角英
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 祐二
【テーマコード(参考)】
4D004
4F401
【Fターム(参考)】
4D004AA07
4D004CA18
4D004CC12
4F401AA30
4F401BB20
4F401CA77
4F401EA11
4F401EA12
(57)【要約】
【課題】自然環境中、特に土壌環境中での生分解性樹脂成形物の分解期間を短縮(分解を促進)する方法を開発することを目的とする。
【解決手段】エステル結合を有する生分解性樹脂を主成分とする樹脂成形物を生分解する前処理として、樹脂成形物を弱アルカリ性剤の処理液に浸漬処理する生分解性樹脂成形物の処理方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル結合を有する生分解性樹脂を主成分とする樹脂成形物を生分解する前処理として、樹脂成形物を弱アルカリ性剤の処理液に浸漬処理することを特徴とする生分解性樹脂成形物の処理方法。
【請求項2】
弱アルカリ性剤を飽和濃度以上に含有する処理液であることを特徴とする請求項1記載の生分解性樹脂成形物の処理方法。
【請求項3】
弱アルカリ性剤が、炭酸カルシウム、苦土石灰、有機石灰のいずれかであることを特徴とする請求項2記載の生分解性樹脂成形物の処理方法。
【請求項4】
浸漬期間が5日以上であることを特徴とする請求項1記載の生分解性樹脂成形物の処理方法。
【請求項5】
エステル結合を有する生分解性樹脂は、カルボキシル基と水酸基を縮重合させたポリマー、環状エステル化合物を開環重合させたポリマー、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、ポリカプロラクトンブチレンサクシネート、ポリテトラメチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸、ポリヒドロキシ酪酸-ヒドロキシ吉草酸共重合体、ポリヒドロキシ酪酸-ヒドロキシヘキサン酸共重合体、澱粉ポリエステル樹脂のいずれかであることを特徴とする請求項1記載の生分解性樹脂成形物の処理方法。
【請求項6】
樹脂成形物は、建設用資材、農業用資材、漁業用資材、一般包装用資材、一般用容器であることを特徴とする請求項1記載の生分解性樹脂成形物の処理方法。
【請求項7】
生分解は、土壌中生分解であることを特徴とする請求項1記載の生分解性樹脂成形物の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
生分解性樹脂成形物の処理技術に関する。特に、微生物による生分解の前処理技術である。
【背景技術】
【0002】
プラスチックのほとんどが有限な石油資源からつくられ、環境中ではほとんど分解されず、燃やせばCO2が排出されることから、資源循環や脱炭素社会の実現に向けてはマイナスの要因となっている。さらに回収しきれずに山や河川、土壌など自然環境中に拡散したプラスチックがほとんど分解されずに微小なマイクロプラスチックになり、最終的には海に流れ着いて海洋生物に悪影響を与え深刻な環境問題となっている。
近年、環境への配慮から、生分解性樹脂が注目されており、処理技術としては、分解しやすい生分解性樹脂の開発、微生物の探索、処理促進技術の開発、処理装置の開発などが提案されている。
特許文献1(特開平9-111036号公報)には、シートなどの生分解性ポリエステル系樹脂組成物を強アルカリ性廃棄処理液によって接触分解させる処理方法が提案されている。
特許文献2(特開平6-49266号公報)には、ヒドロキシカルボン酸のポリマーまたはコポリマーを主成分とする熱可塑性ポリマー組成物を水酸化ナトリウム水溶液などのpH10以上のアルカリ性溶液中に60℃で1時間保持浸漬して溶解する方法が提案されている。
特許文献3(特開2004-292705号公報)には、生分解性樹脂を微粉砕し、粉砕後にアンモニアなどの、pH13以上の強アルカリで分解した後、生ごみ様有機物のスラリーと混合して、メタン発酵微生物とタンクなどの装置内で接触させて、メタンガスを改修する処理システムが提案されている。
特許文献4(特開2002-266340号公報)には、生分解性ポリエステル製ドレーン材が埋設されている土壌に消石灰などのアルカリ物質を散布又はドレーン材中に注入してドレーン材の分解を促進する方法が提案されている。
特許文献5(特開2015-10217号公報)には、加水分解処理工程と微生物分解工程によって生分解性ポリエステル樹脂を処理する方法において、尿素などの塩基性物質を含む溶液60~100℃、2~120時間で加水分解する処理方法が提案されている。
特許文献6(特開2003-12858号公報)には、生分解性ポリエステル樹脂をアリルアミンなどの強アルカリアミン化合物溶液に60℃6時間程度浸漬したのち、微生物入りのコンポスト装置に投入して処理する方法が提案されている。
特許文献7(特開2001-115016号公報)には、生分解性ポリエステル樹脂と特定の化合物とを共重合する方法が提案されている。
特許文献8(特開平10-219088号公報)には、生分解性ポリエステル樹脂に無機粒子を添加して、分子量低下の促進を図ることが提案されている。
【0003】
植物資源を原料とした生分解性バイオマスプラスチックも注目されている。生分解性樹脂は原料が石油、バイオマス、またはその両者に分かれ、微生物の力によってCO2と水にまで分解される。バイオマス由来は、生分解や燃やすことによって発生するCO2は、原料として用いる植物が成長過程でCO2を吸収し固定化しているため相殺される。
ヨーロッパでは使い捨てのごみ袋に対し、堆肥化できる素材以外の使用を禁じる法律が施行され、おもにフィルム分野で生分解性樹脂の需要が高まっている。日本も2020年7月からレジ袋の有料化が始まった。また。建設現場では養生用などワンウェイ用途でポリエチレン製のフィルム・シート類を多く使用するため、廃プラスチックの削減が課題となり、生分解性樹脂の利用はその解決策の一つと考えられる。
生分解性樹脂の処理方法としては埋立処理のほかに、焼却処理、コンポスト処理、メタン発酵処理などがあり、農業用資材や土木・建設用資材として使用されるものの中には土壌埋設など自然処理される場合もある。焼却処理、コンポスト処理、メタン発酵処理には専用の処理施設や設備が必要であり、建設および稼働により多くのエネルギーを消費しCO2の発生量も多い。また新たに専用の処理施設を建設するには、一定量の廃棄物が定期的に発生し回収する必要があり、生分解性樹脂の流通状況から考えるとなかなか難しい。
一方、埋立処理や土壌埋設ではエネルギーの消費やCO2の発生を比較的抑えることはできるが、分解期間が長く、大きな埋立面積が必要になるという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-111036号公報
【特許文献2】特開平6-49266号公報
【特許文献3】特開2004-292705号公報
【特許文献4】特開2002-266340号公報
【特許文献5】特開2015-10217号公報
【特許文献6】特開2003-12858号公報
【特許文献7】特開2001-115016号公報
【特許文献8】特開平10-219088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、廃棄物の発生が少ない前処理によって、自然環境中、特に土壌環境中での分解期間を短縮(分解を促進)する方法を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1.エステル結合を有する生分解性樹脂を主成分とする樹脂成形物を生分解する前処理として、樹脂成形物を弱アルカリ性剤の処理液に浸漬処理することを特徴とする生分解性樹脂成形物の処理方法。
2.弱アルカリ性剤を飽和濃度以上に含有する処理液であることを特徴とする1.記載の生分解性樹脂成形物の処理方法。
3.弱アルカリ性剤が、炭酸カルシウム、苦土石灰、有機石灰のいずれかであることを特徴とする2.記載の生分解性樹脂成形物の処理方法。
4.浸漬期間が5日以上であることを特徴とする1.記載の生分解性樹脂成形物の処理方法。
5.エステル結合を有する生分解性樹脂は、カルボキシル基と水酸基を縮重合させたポリマー、環状エステル化合物を開環重合させたポリマー、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、ポリカプロラクトンブチレンサクシネート、ポリテトラメチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸、ポリヒドロキシ酪酸-ヒドロキシ吉草酸共重合体、ポリヒドロキシ酪酸-ヒドロキシヘキサン酸共重合体、澱粉ポリエステル樹脂のいずれかであることを特徴とする1.記載の生分解性樹脂成形物の処理方法。
6.樹脂成形物は、建設用資材、農業用資材、漁業用資材、一般包装用資材、一般用容器であることを特徴とする1.記載の生分解性樹脂成形物の処理方法。
7.生分解は、土壌中生分解であることを特徴とする1.記載の生分解性樹脂成形物の処理方法。
【発明の効果】
【0007】
1.ポリエステルなどのエステル結合を有する樹脂成形物を生分解するにあたり、前処理として、弱アルカリ性処理液で処理することにより、生分解期間を短縮できる。アルカリ処理として弱アルカリ性剤の処理液を用いるので、強アルカリ性剤のような廃液処理などの後処理が不要となる。
本発明は、強アルカリ性剤などの危険物を使用することなく、簡易な仮設の設備を用いて屋内外で実施できるため、専用の処理施設は不要であり、実施場所の自由度が高い。本発明は自然環境中、特に土壌環境中における生分解性樹脂の生分解期間の短縮(生分解の促進)ができる。
2.弱アルカリ性剤を飽和濃度以上に含有することにより、浸漬期間中、アルカリ濃度を十分に保つことができる。弱アルカリ性剤として、炭酸カルシウム、苦土石灰、有機石灰を処理液中に溶解濃度以上の量を浸漬槽に存在させることにより、消費されたアルカリ成分を溶液中に補充でき、浸漬期間中、弱アルカリ性を飽和濃度に保つことができる。処理液の管理が極めて容易である。
弱アルカリ性処理液は炭酸塩を飽和濃度以上に含有するため、pH調整をしなくても常に所定のpH値に近い溶液を作製でき、また緩衝力が十分であることからpHの変動が小さく、それによって処理過程でのpH低下(十分な処理効果が得られない)によるアルカリ成分の追加・pH調整などを最小限にとどめられ、また繰り返し利用も容易となる。
3.炭酸カルシウム、苦土石灰、有機石灰は、農地の酸性中和剤など農業用剤としても使用されているので、生分解を行う土壌に対して、安全であり、土壌をそのまま利用することができる。
4.エステル結合を有する多くの生分解性樹脂の前処理として、5日以上の浸漬処理することにより、一月程度の生分解に短縮できる。土壌中での生分解期間を短縮できるので、生分解処理施設を小型化できる。あるいは、処理用土地面積を少なくすることができ、栽培用農地や公園の場合、遊休期間が短くなり再利用期間を短縮することができる。
建設用養生フィルムや農業用マルチフィルムなど各地で大量に発生する樹脂成型材を発生地の近くで、簡易な仮設の設備を用いて屋内外で実施できるため、専用の処理施設は不要であり、実施場所の自由度が高い。
5.エステル結合を有する生分解性樹脂は、カルボキシル基と水酸基を縮重合させたポリマー、環状エステル化合物を開環重合させたポリマー、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、ポリカプロラクトンブチレンサクシネート、ポリテトラメチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸、ポリヒドロキシ酪酸-ヒドロキシ吉草酸共重合体、ポリヒドロキシ酪酸-ヒドロキシヘキサン酸共重合体、澱粉ポリエステル樹脂などを対象とすることができる。
6.本発明は、簡易な仮設の設備を用いて屋内外で実施でき、専用の処理施設や専門知識は不要であり、処理による環境負荷が小さく、実施場所の自由度が高い発明である。
そして、本発明は、強アルカリ性剤などの危険物を使用することなく、処理のために加熱などのエネルギーや廃棄物処理などの事後処理も必要とせず、発生するCO2を抑制できる実用性の高い発明である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【0009】
本発明は、ポリエステルなどのエステル結合を有する樹脂成形物を生分解するにあたり、前処理として、弱アルカリ性処理液で処理することにより、生分解期間を短縮できる。アルカリ処理として弱アルカリ性剤の処理液を用いるので、強アルカリ性剤のような廃液処理などの後処理が不要となる。
【0010】
本発明は、強アルカリ性剤などの危険物を使用することなく、簡易な仮設の設備を用いて屋内外で実施できるため、専用の処理施設は不要であり、実施場所の自由度が高い。本発明は自然環境中、特に土壌環境中における生分解性樹脂の生分解期間の短縮(生分解の促進)ができる。
処理液は、弱アルカリ性剤を飽和濃度以上に含有する処理液である。
弱アルカリ性剤は、炭酸カルシウム、苦土石灰、有機石灰などの固形物である。
浸漬期間が長いほど生分解期間は短縮でき、5日以上であればよく、好ましくは7日以上であり、さらに好ましくは14日以上である。
なお、本発明の弱アルカリ性剤の処理液は、弱アルカリ性剤が溶解した状態を示しており、水溶液、弱アルカリ性剤を飽和以上添加された状態を含んでいる。処理液の弱アルカリ性剤の溶解量が減少したら、補給することもできる。また、飽和溶解量以上の弱アルカリ性剤が含まれていれば、随時、水溶液中に補充されることとなる。
【0011】
<エステル結合を有する生分解性樹脂>
エステル結合を有する生分解性樹脂は、微生物産生ポリエステル、カルボキシル基と水酸基を縮重合させたポリマー、環状エステル化合物を開環重合させたポリマーなどであり、共重合体も含む。
カルボキシル基と水酸基を縮重合させたポリマー、環状エステル化合物を開環重合させたポリマー、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、ポリカプロラクトンブチレンサクシネート、ポリテトラメチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸、ポリヒドロキシ酪酸-ヒドロキシ吉草酸共重合体、ポリヒドロキシ酪酸-ヒドロキシヘキサン酸共重合体、澱粉ポリエステル樹脂などである。
【0012】
<樹脂成形物>
樹脂成形物は、前記した生分解性樹脂製の成形物であって特に制限されないが、建設用資材、農業用資材、漁業用資材、一般包装用資材、一般用容器などである。
建設用資材は、例えば、建築包装資材、養生フィルム、包装用フィルム、緩衝用発泡体、梱包材、梱包袋、ボトル、単管キャップ、鉄筋キャップ、建築資材用キャップなどである。
農業用資材は、例えば、マルチングフィルム、トンネルフィルム、ハウスフィルム、誘引ネット、発芽シート、植生マット、育苗床、植木鉢などである。
漁業用資材は、例えば、魚箱などである。
一般包装用資材、一般用容器には、上記の生分解性樹脂製の各種のプラスチック製品を挙げることができる。養生フィルム、包装用資材、包装用フィルム、袋、トレイ、ボトル、緩衝用発泡体などが挙げられる。
建設用資材は、養生フィルム、養生シートなど建設現場で使用されるワンウェイ資材が多く、各地の建設現場で発生するので、回収して集中処理するには、手間暇と設備が必要となり、処理費用がかさむ。農業用資材も、各地の農場で発生するので、建設と同様に回収して集中処理するには、手間暇と設備が必要となり、処理費用がかさむ。競争力のある農業の育成に対しては、足かせとなる。本発明は、建設現場や農場付近で生分解性樹脂成形物を分解処理できることとなるので、有用性が大きい。
【0013】
生分解性樹脂を主成分とする成形物には、他の熱可塑性樹脂、フィラー、補強材、着色剤、増粘剤、離型剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、核剤、充填剤等が含有されていてもよい。
これらの添加剤は、生分解性樹脂と相溶あるいは十分分散し、かつ分解処理に影響を与えない程度まで含有できる。
さらに、最終処分場に埋立処理される場合には、塗料やモルタルなどが付着していてもよい。
【0014】
生分解性樹脂を主成分とする成形物は、さらに、事前に細かく破砕処理することもできる。以下、本明細書では、破砕などの細分化されたものも含めて、処理対象物を生分解性樹脂成形物と称する。
プラスチック専用の破砕機などを利用することができ、破砕することによって見かけの容積を減らすことができるとともに、アルカリ性処理液との接触面積を広げることができる。また生分解過程においても分解の促進につながる。
ただし破砕過程で刃に固着するような素材については成形物のまま処理することが好ましい。
【0015】
生分解性樹脂認証について
生分解性樹脂認証は、対象材料が認定基準を満たしていることを認証するシステムであり、ISO(JIS)、EN、ASTMなどの規格に試験方法が記載されている。日本では生分解性プラ識別認証制度があり、ヨーロッパではTUV AUSTRIAが実施している生分解性樹脂認証などがある。
TUV AUSTRIAの認証の種類は分解しにくい順にOK compost INDUSTRIAL(都市型ゴミ処理場において生分解可能、認証Aとする)、OK compost HOME(一般家庭のコンポストで生分解可能、認証Bとする)、OK biodegradable SOIL(畑、森林から採取した土壌を植種源として生分解可能、認証Cとする)、OK biodegradable WATER(活性汚泥中で生分解可能、認証Dとする)、OK biodegradable MARINE(海水中で生分解可能、認証Eとする)があるが、日本の生分解性プラ識別認証制度は認証Aに相当するもののみである。
すなわち、日本の認証では生分解性樹脂を認証Aに相当するものとして一括りに扱っているが、その中には認証BやCに相当するものも含まれている。欧米では本認証システムが進んでおり、認証を取得していない材料や製品を使用する場合には税金を支払う制度もある。したがって日本国内で流通している生分解性樹脂のなかにも、グローバルな展開のためにTUV AUSTRIAの認証を取得しているものもある。
生分解性樹脂の中には単体だけでなく、他の生分解性樹脂とのポリマーアロイなどのコンパウンド化により単体では発揮できない性能を有する複合材料もあり、生分解性についても前記認証A~Cのそれぞれに該当するグレードを有するものもある。したがって生分解性に関してはポリマー名とその処理方法ではなく、生分解性の程度による区分と各区分に適した処理方法を検討する必要がある。生分解性の区分として、汎用性が高く産業利用上においても有効と考えられるため、TUV AUSTRIAが実施している生分解性樹脂認証の要求事項を利用すると汎用性が向上する。
認証Aの要求事項の中にISO14855(JIS K 6953)に準拠して測定した場合に、「58℃の好気的コンポスト環境下で、生分解度が6か月以内に90%以上になる」という基準がある。認証Bの要求事項の中にISO14855(JIS K 6953)に準拠して測定した場合に、「28℃のコンポスト環境下で、生分解度が12か月以内に90%以上になる」という基準がある。認証Cの要求事項の中にISO17556に準拠して測定した場合に、「土壌中、25℃のコンポスト環境下で、生分解度が2年以内に90%以上になる」という基準がある。認証Dの要求事項の中にISO14851、ISO14852に準拠して測定した場合に、「水系培養液中(20℃から25℃)で、生分解度が56日以内に90%以上になる」という基準がある。認証Eの要求事項の中にASTM D 6691に準拠して測定した場合に、「海水中(30℃)で、生分解度が6か月以内に90%以上になる」という基準がある。
ポリ乳酸は認証Aに該当する。現在、生分解性樹脂の中に自ら分解する酵素を埋め込み、環境中に流出した場合に分解がはじまる酵素内包生分解性樹脂の開発が国内外で進められており、製品として使用している間は生分解されることなく優れた物性を発現し、環境中に流出した場合のみ生分解がはじまる生分解開始スイッチ機能の付与が検討されている。DelRe et al. 2021, Nature, 592:558-563には酵素を埋め込んだポリ乳酸が室温のコンポスト環境下において短期間で生分解したことを報告している。ポリマーの物性への影響など検討要素は残されているが、近い将来本技術が確立されれば、ポリ乳酸をはじめとした認証Aに該当する生分解性樹脂が、実質的に認証B相当になると考えられる。また認証Aに該当するポリ乳酸などは過剰な処理条件を必要とする。このような事情を鑑みて本発明では認証BおよびCを生分解対象とした。また認証DおよびEに該当する生分解性樹脂が認証BやCの要求事項を満たすことは自明である。
【0016】
<弱アルカリ性剤の処理液>
弱アルカリ性剤は、第2族元素の炭酸塩が好ましく、より好ましくは少なくとも炭酸カルシウム、苦土石灰、有機石灰からなる群より選択される一種である。
炭酸カルシウムは、重質炭酸カルシウムでも軽質炭酸カルシウムでもよい。
苦土石灰は、ドロマイト(Ca・Mg(CO3)2)を粉砕したものである。
有機石灰は、貝殻やその化石、卵の殻などを焼いて粉砕したものである。
いずれも農業分野で利用される誰でも入手可能な材料であり、使用上の制限はほとんどない。
剤型は、特に制限されないが、水への溶解度が低いため粉末状が好ましい。
【0017】
水としては特に制限されないが、精製水や蒸留水が好ましい。
経済的、省エネルギー的には水道水を太陽が当たる屋外で半日置くか、屋内で3日程度放置して残留塩素を除去した水を使用してもよい。炭酸塩の緩衝作用があるため、雨水の利用も可能である。
供与される弱アルカリ性剤の処理液は、炭酸塩などを飽和濃度以上に含有する。これにより予め飽和溶液のpH値を把握しておけば、pH調整をしなくても常に所定のpH値に近い溶液を作製することができる。
【0018】
さらに、炭酸塩などが飽和濃度以上に含有し緩衝力が十分な水溶液であるため、生分解性樹脂の加水分解により部分的に酸を生じても緩衝作用がはたらく。なお、本発明が適用されるエステル結合を有する生分解性樹脂は、弱アルカリによって、分子量を低下させる部分的な加水分解が生ずることとなる。
例えば炭酸カルシウムの場合、樹脂成形物と反応して、酸の発生により増加した水素イオン(H+)は炭酸イオン(CO3
2-)や炭酸水素イオン(HCO3
-)と結合して減少し、この反応で炭酸イオン(CO3
2-)濃度が低下するため、炭酸カルシウム(CaCO3)が解離して炭酸イオン(CO3
2-)が供給される。これによりpH値は大きく変動しない。
したがって、処理過程でのpH低下(十分な処理効果が得られない)によるアルカリ成分の追加・pH調整などを行う必要がなく、また繰り返し利用も容易となる。繰り返し回数の増加に伴いアルカリ成分の追加が必要となった場合においても、不溶成分の沈殿により添加量の目安を把握することができる。必要に応じてpH試験紙などの簡易的な方法でpH値を測定しても把握することができる。
【0019】
<飽和濃度>
飽和濃度以上の量とは、特に制限されないが、接触する生分解性樹脂を主成分とする成形物の量、処理液の繰り返し利用の回数などによって適宜設定される。
運用中の飽和状態については、沈殿物の有無による目視でもある程度は把握でき、必要に応じてpH試験紙などの簡易的な方法でpH値を測定しても把握することができる。
強アルカリを使用していないため、飽和濃度であっても前処理に必要なpH値に留まり安全性が高い。
【0020】
<前処理である浸漬処理>
弱アルカリ性処理液に対する処理する生分解性樹脂成形物の容積比は、特に制限されず、全体が浸漬する容量を用いる。正味の容積比の代りに重量比としては、繰り返し利用や各回の処理量の変動を考慮して幅を持たせると、好ましくは弱アルカリ性処理液100重量部に対して0.1~20重量部の範囲が好適に実施される。
弱アルカリ性処理液で前処理する際の温度は特に制限されない。処理する場所の温度、すなわち屋内であれば屋内温度程度、屋外であれば外気温程度が好ましい。
一般に生分解性樹脂のアルカリ処理では温度が高いほど効率がよいとされるが、本発明では室温程度で十分に効果が発揮される。また、炭酸カルシウムの溶解度は、温度が上昇するとともに低下し、加温にはエネルギーを消費するという問題もある。ただし冬季など外気温の低い場合には屋内での実施が望ましい。
【0021】
弱アルカリ性処理液で処理する時間は、生分解性樹脂成形物の比表面積が大きいほど短くできる。
例えば、薄いフィルムやシート状の成形物は、比表面積が大きく、その破砕物はさらに比表面積が大きくなる。通常、処理時間は5日以上であればよいが、より好ましくは7日以上であり、さらに好ましくは14日以上である。
【0022】
<生分解土壌>
生分解は、土壌中で実施することができる。
分解には酵素や温度などの環境制御を備えた生分解施設を利用することもできるが、畑などの農地や林地など、自然環境下の土壌に埋設処理して、自然に生育している菌によって分解することができる。
土壌は、生分解性樹脂の分解能を有する微生物(生分解菌)が含まれる土壌が好ましく、例えば、畑地土壌や森林土壌などが挙げられる。畑地または森林の表層土壌を採取して別の場所へ移設してもよいし、JIS K 6955に準拠した基準土壌を調製してもよい。さらに前記土壌に堆肥を混入してもよい。生分解菌の有無またはエステラーゼ活性の有無の事前測定を行うことが望ましい。
堆肥は、特に制限されないが、好気的堆肥化プラントで十分に通気されていた堆肥が好ましい。
【0023】
菌の活動は温度依存性があるので、分解時間は季節によって異なるが、フィルムのような薄いもので20℃程度の中間季では、一月程度で分解可能である。
本発明は、簡易な仮設の設備を用いて屋内外で実施できるため、専用の処理施設は不要であり、実施場所の自由度が高く、自然環境中、特に土壌環境中における生分解性樹脂の生分解期間の短縮(生分解の促進)ができるので、低費用で処理できる。
炭酸カルシウム、苦土石灰、有機石灰などは、従来から農業で使用されているので、農地でも安全性が高い。
また、最終処分場などの施設を利用することもでき、塗料やモルタルなどの異物が混入しているようなものを処理する場合には活用することができる。
【0024】
「弱アルカリ性溶液処理装置」
弱アルカリ性処理液と生分解性樹脂成形物との接触工程では、アルカリ性処理溶液の貯留槽と生分解性樹脂成形物を保持する保持部材が用いられる。
【0025】
<貯留槽>
貯留槽の外形形状は特に制限されないが、直方体形状、立方体形状、円柱形上などが挙げられる。貯留槽の材質は特に制限されないが、耐アルカリ性の耐久性材料であればよく、例えば、PVC、ABS、PP、PEなどのプラスチック材料またはステンレス製などの金属材料が挙げられる。貯留槽には移動可能とするためにキャスターを設けてもよい。
貯留槽は、弱アルカリ性物質の粉体などを過剰に投入しておくことで、飽和濃度を長期間維持することができる。貯留槽の容積や生分解性樹脂組成物の処理量などに合わせて、適宜、弱アルカリ性物質の追加などの管理を行うこととする。
攪拌装置を設けて弱アルカリ性溶液の循環をさせることもできる。
【0026】
<保持部材>
保持部材は、処理対象の生分解性樹脂組成物を収容する容器であって、貯留槽内に浸漬したときに弱アルカリ処理液と生分解性樹脂組成物が接触するように籠や格子などの穴あき容器が適している。細かく切断や粉砕処理した生分解性樹脂組成物などの場合は、細かな目のネットや金網製の容器が適している。
保持部材の外形形状は、直方体形状、立方体形状、円柱形状、籠状、袋状、網状、皿状などが挙げられる。保持部材の容積を一定にすることで、生分解性樹脂組成物の処理量の管理もできる。保持部材の材質は、耐アルカリ性の耐久性材料であればよく、合成繊維、無機繊維、ステンレス製などの金属材料などが挙げられる。
貯留槽の処理液は継続使用ができるので、保持部材に処理対象の生分解性樹脂組成物を収容すると、その保持部材ごとに浸漬期間の管理や搬送ができるので、管理作業にも適している。
保持部材に、貯留槽への搬出入や生分解地への移送のために、取手や吊り具を備えているとハンドリングに適している。
【0027】
<補助部材>
生分解性樹脂成形物は、発泡体などがあるので、弱アルカリ性溶液に確実に浸漬させるための補助部材を備えることができる。
補助部材は、錘や上から押さえるプレッシャーや、処理槽の底に設けたフックなどの留具、保持部材を収容するステンレス製の折などである。
保持部材と補助部材が網状または籠状の構造物の場合、アルカリ性処理液と生分解性樹脂成形物またはその破砕物との接触効率がよくなる。この場合、目開きのサイズは生分解性樹脂成形物またはその破砕物よりも小さくする必要がある。
【0028】
<弱アルカリ性処理の実施場所>
アルカリ性処理液による処理(「アルカリ処理」と表す場合がある。)は、屋内または屋外で実施できる。屋外で実施する場合には、希釈防止のために雨除けの屋根を設けることが好ましく、屋根は、テントやビニール温室なども利用することができる。壁は特に必要ないが、壁を設けても構わない。
アルカリ処理場所は、建設工事場所などの処理対象の生分解性樹脂成形物の発生場所、生分解処理地、あるいは、中間集積地などである。例えば、生分解性樹脂を使用期間終了後に処分場に運搬し、処分場の敷地内でアルカリ処理後に生分解処理を行う場合などが挙げられる。例えば、建設工事現場で使用した生分解性樹脂を使用期間終了後に敷地内でアルカリ処理し、その後処分場に運搬して生分解処理する場合などが挙げられる。この場合、アルカリ処理によって生分解しやすい状態になっているため、運搬途中に拡散するような想定外の事象が生じたとしても、自然環境中に滞在するリスクはより低くなる。これは非生分解性のプラスチックであればマイクロプラスチック化が懸念される事象である。
【0029】
<生分解性樹脂成形物の処理方法>
生分解性樹脂成形物の処理方法の一例として、同じ敷地内でアルカリ処理と生分解処理を実施する場合を示す。
事前に畑地または森林の表層土壌を採取し、生分解処理を実施する場所に敷き詰める。原位置で行う場合にはこの作業は不要である。
使用済みの生分解性樹脂成形物(破砕物粗を含む)を保持部材に収容し、補助部材で押さえながら、貯留槽内の炭酸カルシウム、苦土石灰、または有機石灰を飽和濃度以上に含有するアルカリ性処理液中に5日以上浸漬する。
5日以上浸漬した後、生分解性樹脂成形物を収容した保持部材を取り出し、アルカリ性処理液をできるだけ除去する。保持部材は液体や土壌が通過可能なため、容易にアルカリ性処理液を除去でき、処理液は貯留槽に戻す。本発明のアルカリ処理では生分解性樹脂成形物またはその破砕物が大幅に分解したり、崩壊したりすることはほとんどない。
アルカリ処理の間に、生分解処理を行う場所で畑地または森林から採取して敷き詰められた土壌の表層を掘削しておく。
なお、堆肥などのコンポストを土壌中に混入しておくこともできる。
また、処理する生分解性樹脂成形物の量が少量(例えば、数kg)であれば、農地ではなく施設内や公園などの敷地も利用できる。
【0030】
アルカリ処理した生分解性樹脂成形物またはその破砕物を保持部材に収容したまま中和などの処理を行うことなく生分解処理場所まで運搬する。
その後、前記掘削場所に、アルカリ処理した生分解性樹脂成形物を投入する。アルカリ処理後に生分解性樹脂成形物が保持部材に付着して剥離し難い状態になることがあり、その場合には保持部材ごと投入する。
最後に掘削してほぐしておいた土壌を用いて被覆する。必要に応じて鋤きこみを行ってもよい。
保持部材は液体や土壌が通過可能なため、土壌と生分解性樹脂成形物またはその破砕物との接触を妨げない。さらに生分解後に掘り出した後の洗浄も容易であり、土の付着も少ない。洗い流した土は回収して生分解に再利用可能である。
アルカリ性処理液は緩衝作用を有するアルカリ成分が飽和濃度以上に含有されているため、繰り返し使用が可能である。
このように専用の処理施設を必要とせず、エネルギー消費やCO2の発生、廃棄物の発生が少ない前処理によって、生分解性樹脂成形物を自然環境中、特に土壌環境中での分解期間を短縮(分解を促進)することができる。
【実施例0031】
試験1:苦土石灰水溶液のpHの推移
・目的
炭酸カルシウムを飽和濃度以上に含有する水溶液は、緩衝作用によってpHの変動が小さく、繰り返し利用などによってアルカリ成分が消費された場合においても余剰分の炭酸塩の効果によってアルカリ成分の追加・pH調整を最小限にとどめることができる。一方、苦土石灰には炭酸カルシウムに加えて炭酸マグネシウムが含まれている。この2成分が混合する飽和濃度以上の水溶液でのpHの挙動を把握し、安定状態でのpH値を得るために実験を行った。
・実験
蒸留水200mlに苦土石灰を40mg、60mg、120mg添加して5時間攪拌し、溶液A、B、Cを作製した。溶液Bは飽和濃度に相当し、溶液Cは飽和濃度以上であり、溶液Aは比較対照である。
・結果
各溶液のpHの測定結果を
図1に示す。
どの溶液も2日以降は安定し、溶液BとCのpH値は溶液Aよりも高く、8.7~8.8付近で推移した。生分解性樹脂成形物の処理では弱アルカリ性の範囲の中でもpHが高いほど効果が期待される。この結果から苦土石灰を飽和濃度以上に含有すれば、pHを測定しなくてもpH8.7~8.8付近の水溶液を作製できることを確認した。次の実験2では苦土石灰を飽和濃度以上に含有する水溶液(pH8.7~8.8付近)を用いて生分解性樹脂成形物の処理実験を行った。
【0032】
試験2:試験片の作製
生分解性樹脂成形物としては、ポリブチレンサクシネートコンパウンド(三菱ケミカル株式会社製)を原料とした厚さ30μmのフィルムから3cm×3cmの大きさの試験片を切り出した。各条件では3枚の試験片を用いた。なお、本生分解性樹脂成形物はOK compost HOME相当である。
なお、「OK compost HOME」は、TUV AUSTRIAが実施している生分解性プラスチック認証の種類で、一般家庭のコンポストで生分解が可能であるとされている。
http://www.djklab.com/service/kaigai/2925
【0033】
試験3:土壌の調製
愛媛県今治市上浦町の茄子を植えていた畑地から表層15cm以上の土壌を採取し、2mm以下の大きさにふるい分けした後、プランター内に敷き詰めて曝露用土壌を調製した。土壌pHは6.5であった。