IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シャープ株式会社の特許一覧

特開2024-89327光触媒塗布液及び光触媒コーティング層
<>
  • 特開-光触媒塗布液及び光触媒コーティング層 図1
  • 特開-光触媒塗布液及び光触媒コーティング層 図2
  • 特開-光触媒塗布液及び光触媒コーティング層 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089327
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】光触媒塗布液及び光触媒コーティング層
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/39 20240101AFI20240626BHJP
   B01J 35/58 20240101ALI20240626BHJP
   B01J 31/34 20060101ALI20240626BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240626BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240626BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240626BHJP
   A61L 9/00 20060101ALI20240626BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
B01J35/02 J ZAB
B01J35/06 A
B01J31/34 M
C09D7/61
C09D7/63
C09D201/00
A61L9/00 C
A61L9/01 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204616
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【弁理士】
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】芝 直樹
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 徳隆
(72)【発明者】
【氏名】堤之 朋也
(72)【発明者】
【氏名】渥美 竜文
(72)【発明者】
【氏名】加藤 喜紀
【テーマコード(参考)】
4C180
4G169
4J038
【Fターム(参考)】
4C180AA02
4C180AA07
4C180AA16
4C180BB08
4C180CC03
4C180DD04
4C180EA04X
4C180EA05X
4C180EA33X
4C180EA39X
4C180EA52Y
4C180EB06Y
4C180EB07Y
4C180EB15Y
4C180EB18Y
4C180EB21Y
4C180EB26Y
4C180EB27Y
4C180EB32Y
4C180HH15
4C180HH19
4C180MM06
4G169AA03
4G169BA21A
4G169BA21B
4G169BA22A
4G169BA22B
4G169BA29B
4G169BA48A
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BC31A
4G169BC31B
4G169BC60A
4G169BC60B
4G169BD01A
4G169BD01B
4G169BD02A
4G169BD02B
4G169BD04A
4G169BD04B
4G169BE06A
4G169BE06B
4G169BE08A
4G169BE08B
4G169CA02
4G169CA10
4G169CA11
4G169CA17
4G169DA06
4G169EA02X
4G169EA02Y
4G169EA10
4G169HA02
4G169HA06
4G169HB06
4G169HC24
4G169HD10
4G169HE03
4G169HE07
4J038HA216
4J038JC40
4J038KA09
4J038MA08
(57)【要約】
【課題】本開示は、暗所において優れた抗菌性能を有し、かつ、明所において優れた消臭性能及び抗菌性能を有する光触媒コーティング層を形成することができる光触媒塗布液を提供する。
【解決手段】本開示の光触媒塗布液は、酸化タングステン粒子を含む光触媒粒子と、グルコン酸銅と、分散剤と、水性媒体とを含む。前記光触媒塗布液における光触媒粒子(X)に対するグルコン酸銅(Y)の重量比(Y/X)は、2/100以上20/100以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化タングステン粒子を含む光触媒粒子と、グルコン酸銅と、分散剤と、水性媒体とを含む光触媒塗布液であって、
前記光触媒塗布液における前記光触媒粒子(X)に対する前記グルコン酸銅(Y)の重量比(Y/X)は、2/100以上20/100以下であることを特徴とする光触媒塗布液。
【請求項2】
前記光触媒塗布液のpHは、4.5以上6.5以下である請求項1に記載の光触媒塗布液。
【請求項3】
前記光触媒塗布液は、前記光触媒粒子及び前記分散剤と混合する前における前記グルコン酸銅が前記水性媒体に溶解している溶液のpHが3.5以上4.5以下となるように前記グルコン酸銅を含む請求項1に記載の光触媒塗布液。
【請求項4】
前記分散剤の平均分子量は、10000以下である請求項1に記載の光触媒塗布液。
【請求項5】
前記光触媒塗布液における、前記光触媒粒子の重量割合をX、前記グルコン酸銅の重量割合をY、前記分散剤の重量割合をZとしたとき、前記光触媒塗布液は、式:(0.8X+2Y)≦Z<1.5Xを満たすように前記分散剤、前記光触媒粒子及び前記グルコン酸銅を含む請求項1に記載の光触媒塗布液。
【請求項6】
前記光触媒塗布液における前記光触媒粒子の重量割合は、0.1wt%以上5.0wt%以下である請求項1~5のいずれか1つに記載の光触媒塗布液。
【請求項7】
前記光触媒塗布液における前記グルコン酸銅の重量割合は、0.01wt%以上1.0wt%以下である請求項1~5のいずれか1つに記載の光触媒塗布液。
【請求項8】
前記光触媒塗布液における前記分散剤の重量割合は、0.01wt%以上5.0wt%以下である請求項1~5のいずれか1つに記載の光触媒塗布液。
【請求項9】
酸化タングステン粒子を含む光触媒粒子と、グルコン酸銅とを含む光触媒コーティング層であって、
前記光触媒コーティング層における前記光触媒粒子(X)に対する前記グルコン酸銅(Y)の重量比(Y/X)は、2/100以上20/100以下であることを特徴とする光触媒コーティング層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光触媒塗布液及び光触媒コーティング層に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、受光することにより光触媒活性を発揮する物質であり、酸化チタン粒子が代表的である。酸化チタン粒子は、主に紫外線を受光することにより光触媒活性を発揮するため、紫外光をあまり含まない室内照明(特に、LED照明)下では十分な光触媒活性を発揮できない場合がある。
一方、酸化タングステンは、酸化チタンに比べて光の吸収帯域が広く、紫外線を含まない可視光でも光触媒活性を発揮するため、住居等の室内照明環境において、ガス分解性能、抗菌性能等の効果を発揮することができる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2014/141694A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光触媒は受光することによってVOC除去や抗菌抗ウィルス等の効果を発揮するため、光のない環境においては効果を発揮できない。また、塗布量や光強度の兼ね合いで効果を発揮するまでに時間がかかる場合がある。また、光触媒に他材料を混合することで機能を向上させる例は存在するが、光触媒と相性の良い材料を選択しないと、混合した材料の機能を十分に発揮できないばかりか光触媒の性能を阻害する場合がある。
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであり、暗所において優れた抗菌性能を有し、かつ、明所において優れた消臭性能及び抗菌性能を有する光触媒コーティング層を形成することができる光触媒塗布液を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、酸化タングステン粒子を含む光触媒粒子と、グルコン酸銅と、分散剤と、水性媒体とを含む光触媒塗布液を提供する。前記光触媒塗布液における前記光触媒粒子(X)に対する前記グルコン酸銅(Y)の重量比(Y/X)は、2/100以上20/100以下である。
【発明の効果】
【0006】
本開示の光触媒塗布液から形成した光触媒コーティング層は暗所において優れた抗菌性能を有することができ、かつ、明所において優れた消臭性能及び抗菌性能を有する。このことは、本願発明者等が行った実験により明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の光触媒塗布液を用いて光触媒コーティング層を形成する方法の説明図である。
図2】抗菌性試験の結果を示すグラフである。
図3】消臭性試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の光触媒塗布液は、酸化タングステン粒子を含む光触媒粒子と、グルコン酸銅と、分散剤と、水性媒体とを含む。前記光触媒塗布液における前記光触媒粒子(X)に対する前記グルコン酸銅(Y)の重量比(Y/X)は、2/100以上20/100以下である。
【0009】
前記光触媒塗布液のpHは、4.5以上6.5以下であることが好ましい。
前記光触媒塗布液は、光触媒粒子及び分散剤と混合する前におけるグルコン酸銅が水性媒体に溶解している溶液のpHが3.5以上4.5以下となるようにグルコン酸銅を含むことが好ましい。
前記分散剤の平均分子量は、10000以下であることが好ましい。
前記光触媒塗布液における、前記光触媒粒子の重量割合をX、前記グルコン酸銅の重量割合をY、前記分散剤の重量割合をZとしたとき、前記光触媒塗布液は、式:(0.8X+2Y)≦Z<1.5Xを満たすように前記分散剤、前記光触媒粒子及び前記グルコン酸銅を含むことが好ましい。
【0010】
前記光触媒塗布液における前記光触媒粒子の重量割合は、0.1wt%以上5.0wt%以下であることが好ましい。
前記光触媒塗布液における前記グルコン酸銅の重量割合は、0.01wt%以上1.0wt%以下であることが好ましい。
前記光触媒塗布液における分散剤の重量割合は、0.01wt%以上5.0wt%以下であることが好ましい。
本開示は、酸化タングステン粒子を含む光触媒粒子と、グルコン酸銅とを含む光触媒コーティング層も提供する。前記光触媒コーティング層における前記光触媒粒子(X)に対する前記グルコン酸銅(Y)の重量比(Y/X)は、2/100以上20/100以下である。
【0011】
以下、図面を用いて本開示の一実施形態を説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本開示の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0012】
図1は本実施形態の光触媒塗布液を用いて光触媒コーティング層を形成する方法の説明図である。
本実施形態の光触媒塗布液2は、酸化タングステン粒子を含む光触媒粒子と、グルコン酸銅と、分散剤と、水性媒体とを含む。光触媒塗布液2における光触媒粒子(X)に対するグルコン酸銅(Y)の重量比(Y/X)は、2/100以上20/100以下であり、好ましくは8/100以上であり15/100より小さい。
本実施形態の光触媒コーティング層6は、酸化タングステン粒子を含む光触媒粒子と、グルコン酸銅とを含む。前記光触媒コーティング層における前記光触媒粒子(X)に対する前記グルコン酸銅(Y)の重量比(Y/X)は、2/100以上20/100以下であり、好ましくは8/100以上であり15/100より小さい。
【0013】
光触媒塗布液2は、水性媒体に光触媒粒子が分散した分散液である。また、水性媒体には、グルコン酸銅が溶解している。また、光触媒塗布液2は分散剤を含む。また、光触媒塗布液2は、基材4の表面に塗布法により塗布される分散液である。
光触媒塗布液2のpHは、4.5~6.5である。このことにより、光触媒粒子に含まれる酸化タングステン粒子が光触媒塗布液2中で安定して存在することができる。
光触媒塗布液2の製造方法では、例えば、水性媒体にグルコン酸銅を溶解させ、この溶液に光触媒粒子及び分散剤を加え光触媒粒子を微分散させる。必要であれば事前に溶媒で光触媒粒子を希釈してもよい。光触媒粒子は、一般的には湿式の分散機(超音波分散機、コロイドミル及びビーズミルなど)を用いて水に分散できる。混合は一般的な液体混合機を用いることができ、撹拌羽根等が付属しているものであれば光触媒塗布液2の組成をより均一にすることができる。
【0014】
光触媒塗布液2の塗布法は、特に限定されないが、例えば、スプレーコーティング、バーコート法、刷毛塗り、ディップコーティング、スクリーン印刷法、スピンコート法、ロールコート等である。例えば、図1のように、光触媒塗布液2を基材4の表面にスプレー塗布し形成された塗布膜5を乾燥させることにより光触媒コーティング層6を形成することができる。また、光触媒コーティング層6を有する光触媒被覆部材10も形成することができる。光触媒塗布液2を塗布乾燥することにより形成された光触媒コーティング層6が光照射を受けて消臭、抗菌等の光触媒効果を発揮する。
光触媒塗布液2の塗布には、電動のスプレーガン(例えば、ハンドスプレー3)を使用することが好ましく、HVLPガンなどを使用することがさらに好ましい。このことにより、光触媒塗布液2を基材4に細かく、薄く、均一にムラなく塗布することができる。
【0015】
基材4は、例えば、例えば、壁紙、カーテン、建物の内壁、建物の外壁、部屋の天井、建物の床面、家具、窓、ガラス、プラスチック、金属、セラミックス、木、石、セメント、コンクリート、繊維、フィルター、布帛、紙、皮革などである。
【0016】
水性媒体は、主成分として水を含む。また、水性媒体は、水とアルコール(例えば、エタノール)との混合液であってもよい。また、水性媒体における水の割合は、例えば、30wt%以上100wt%以下である。水性媒体におけるアルコールの割合は、例えば、1wt%以上70wt%以下である。また、水性媒体は、酢酸エチルを含んでもよい。
【0017】
光触媒粒子は、光を受光することにより光触媒活性を示す粒子であり、酸化タングステン粒子(WO3粒子)を含む。光触媒粒子は光照射を受けて有機物分解等の効果を発揮することができる。光触媒コーティング層6が光触媒粒子を含むことにより、消臭性能、抗菌性能、抗ウィルス性能などを有することができる。
光触媒粒子は、酸化タングステン(WO3)を主成分とする。酸化タングステン粒子は、光触媒活性を有すれば、化学量論的組成からずれた組成を有する酸化タングステン粒子であってもよい。また、酸化タングステン粒子は、光触媒活性を失わない範囲で、不純物原子や添加原子を含んでもよい。光触媒塗布液2における光触媒粒子の重量割合は、例えば、0.1wt%以上5.0wt%以下であり、好ましくは0.2wt%以上1.2wt%以下である。このことにより、光触媒コーティング層6が優れた光触媒活性を有することができ、かつ、光触媒粒子が凝集し光触媒コーティング層6が呈色することを抑制することができる。
【0018】
光触媒粒子は、助触媒をWO3粒子に担持したものであってもよい。助触媒としては、Pt、Pd、Rh、Ru、Os、Irのような白金族金属が好ましい。光触媒粒子の50%体積累積径(一次粒径)は、1nm以上500nm以下であることが好ましく、さらに5nm以上であると、光触媒塗布液2中における凝集が少なく、再分散が容易である。また、光触媒粒子の50%体積累積径が200nm以下であると、光触媒塗布液2を調製する工程で光触媒粒子が他の成分と均一に混合しすく、離脱することも少なく良好である。粒子径測定は、BET比表面積計やレーザ回折式粒度分布計や動的光散乱式粒度分布計等によって測定することができる。
【0019】
グルコン酸銅は、水溶性銅化合物であり、グルコン酸の銅塩である。グルコン酸銅の分子式は、C12H22CuO14である。一般的に銅系化合物は劇物に分類されるものが多いが、グルコン酸銅は劇物に分類されておらず、食品添加物としても指定されている安全性の高い化学物質である。グルコン酸銅が水性媒体に溶解すると銅イオンが発生し、この溶液は青色になる。
グルコン酸銅を含む光触媒塗布液2を塗布することにより、グルコン酸銅又はその分解物を含む光触媒コーティング層6を形成することができる。グルコン酸銅又はその分解物に含まれる銅イオンは、抗菌作用を有するため、光触媒コーティング層6の抗菌性能を向上させることができる。
光触媒粒子の光触媒活性は光触媒粒子が受光することにより発生するため、暗所においては、光触媒活性による抗菌作用は期待できない。しかし、光触媒コーティング層6がグルコン酸銅又はその分解物を含むことにより、光触媒コーティング層6は暗所においても抗菌性能を有することができる。また、銅イオンと光触媒活性との相乗効果により、明所における抗菌作用も向上させることができる。
【0020】
光触媒塗布液2におけるグルコン酸銅の重量割合は、0.01wt%以上1.0wt%以下であり、好ましくは0.03wt%以上0.5wt%以下であり、より好ましくは、0.05wt%以上0.2wt%以下である。このことにより、光触媒コーティング層6が優れた抗菌性能を有することができると共に優れた消臭性能を有することができる。また、光触媒コーティング層6が呈色することを抑制することができる。
光触媒塗布液2は、光触媒粒子及び分散剤と混合する前におけるグルコン酸銅が前記水性媒体に溶解している溶液のpHが3.5以上4.5以下となるようにグルコン酸銅を含むことができる。このことにより、光触媒塗布液2のpHを4.5~6.5とすることができ、光触媒粒子に含まれる酸化タングステン粒子が光触媒塗布液2中で安定して存在することができる。
【0021】
光触媒塗布液2における光触媒粒子(X)に対するグルコン酸銅(Y)の重量比(Y/X)は、2/100以上であり、好ましくは8/100以上である。このことにより、光触媒コーティング層6が暗所において優れた抗菌性能を有することができる。また、明所において、光触媒活性と銅イオンの抗菌作用との相乗効果により光触媒コーティング層6の抗菌作用を向上させることができる。
また、光触媒塗布液2における光触媒粒子(X)に対するグルコン酸銅(Y)の重量比(Y/X)は、20/100以下であり、好ましくは15/100より小さい。このことにより、グルコン酸銅が光触媒コーティング層6の消臭性能を阻害することを抑制することができ、光触媒コーティング層6が明所において優れた消臭性能を有することができる。また、光触媒コーティング層6が呈色することも抑制することができる。
【0022】
分散剤は、水性媒体中に光触媒粒子を分散させるための成分である。光触媒塗布液2が分散剤を含むことにより、水性媒体中における光触媒粒子の分散性を向上させることができる。分散剤は静電反発力の増加や高分子鎖の立体障害によって分散性を向上させることができる。分散剤は、例えば、アミン化合物又は脂肪族アミド化合物である。また、光触媒塗布液2が分散剤を含むことにより、光触媒塗布液2をスプレー噴霧した際に液滴や空中で乾燥した光触媒粒子が過剰に帯電することを防ぐことができる。このため、噴霧範囲に静電気が帯電しているものに対して光触媒粒子が過剰に集中付着し、付着面が白く白化することを防止することができる。また、光触媒塗布液2が分散剤を含むことにより、銅イオンによる光触媒粒子の分散性の低下を抑制することができる。
光触媒コーティング層6に含まれる分散剤は、光触媒活性により分解される。このため、光触媒活性により分散剤が分解されている期間は、光触媒コーティング層6の消臭性能などが低下する。このため、分散剤は、光触媒活性により比較的短時間で分解されるものが好ましい。
【0023】
分散剤の平均分子量は100以上10000以下が好ましく、より好ましくは200以上6000未満である。このことにより、比較的短い時間で光触媒活性により分散剤を分解することができ、分散剤により長期間光触媒活性が阻害されることを抑制することができる。また、分散剤の分子量が小さすぎると揮発性が高くなり、噴霧された液滴が壁と接触する前に空中で乾燥し固体となるため白化防止効果が低下する。また、分散剤の分子量が大きすぎると、塗布後に光触媒粒子は近傍の有機物を主に分解対象とするため周囲の分散剤を分解することに時間を要し、塗布直後は光触媒粒子が空気中の有機ガスの分解に対して効果を発揮する速度が遅くなってしまう。
本実施形態で使用可能な分散剤としては、アニオン性界面活性剤(アニオン系分散剤)、ノニオン性界面活性剤(ノニオン系分散剤)、カチオン性界面活性剤(カチオン系分散剤)、両性界面活性剤(両イオン系分散剤)、脂肪族ポリエーテル誘導体、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩、脂肪酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩等が挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が挙げられる。
カチオン性界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウムブロミド、アルキルピリジニウムブロミド、イミダゾリニウムラウレートなどの四級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
この中でより好ましいのは、光触媒の性能をあまり阻害せず、分散性に優れる、ポリエチレングリコール、ポリオキシアルキレン基を有するアミン化合物である。
【0024】
光触媒塗布液2における分散剤の重量割合は、例えば、0.01wt%以上5.0wt%以下であり、好ましくは0.2wt%以上3.0wt%以下であり、より好ましくは0.4wt%以上1.5wt%以下である。このことにより、光触媒塗布液2において光触媒粒子をよく分散させることができ光触媒粒子が凝集沈降することを抑制することができると共に、光触媒コーティング層6において光触媒活性により分散剤を比較的短時間で分解することができる。
【0025】
光触媒塗布液2における、光触媒粒子の重量割合をX、グルコン酸銅の重量割合をY、分散剤の重量割合をZとしたとき、光触媒塗布液2は、式:(0.8X+2Y)≦Z<1.5Xを満たすように分散剤、光触媒粒子及びグルコン酸銅を含むことが好ましい。
光触媒塗布液2における分散剤の重量割合Zを、数式:0.8X+2Yを用いて算出した値以上とすることにより(0.8X+2Y≦Z)、光触媒塗布液が優れた分散性を有することができる。
光触媒塗布液2における分散剤の重量割合Zを、光触媒粒子の重量割合Xを1.5倍した値(1.5X)よりも小さくすること(Z<1.5X)により、分散剤分解時間を短くすることができ、光触媒コーティング層6が比較的早く消臭性能を発揮できるようになる。
【0026】
光触媒塗布液の調製
光触媒である酸化タングステン粉末(光触媒粒子)、グルコン酸銅、分散剤、純水のうち表1に示したものをこの組成で混合し、攪拌分散させることにより実施例1~19、比較例1~5の光触媒塗布液を調製した。実施例1~19の光触媒塗布液のpHは約5.5であった。また、実施例1~19の光触媒塗布液の調製に用いたグルコン酸銅水溶液のpHは約4.0であった。
分散剤には、日油株式会社製「エスリーム」を用いた。この分散剤は、ポリオキシアルキレン基含有化合物であり、分散剤の分子量は、100~10000である。
水溶性銅化合物であるグルコン酸銅(分子量:453.84)は、淡青色の粉末であり、グルコン酸銅における銅の割合は約14wt%である。
表1には、光触媒塗布液における光触媒粒子Xに対する分散剤Zの重量比Z/Xおよび光触媒塗布液における光触媒粒子Xに対するグルコン酸銅Yの重量比Y/Xも示している。
【0027】
【表1】
【0028】
抗菌性試験
JIS R1752:2020に従った方法で、実施例1~19、比較例1~5の光触媒塗布液を、光触媒粒子が0.02g/m2となるようにセルロース不織布に塗布することにより作成したサンプルの暗所(24時間)及び明所(24時間、500 lx)における抗菌活性値を測定した。測定結果及び評価を表2に示す。表2の抗菌性能の評価では、抗菌活性値が3以上であった光触媒塗布液の評価を「◎」で示し、抗菌活性値が2以上3未満であった光触媒塗布液の評価を「○」で示し、抗菌活性値が1以上2未満であった光触媒塗布液の評価を「△」で示し、抗菌活性値が1未満であった光触媒塗布液の評価を「×」で示している。ここで、評価が「◎」「○」又は「△」である場合を許容可能なレベル(抗菌性が優れている)と判断した。
また、図2は、横軸を光触媒塗布液における光触媒粒子(X)に対するグルコン酸銅(Y)の重量比(Y/X)とし、縦軸を抗菌活性値としたグラフであり、比較例2、実施例1~4の測定結果を示している。
【0029】
【表2】
【0030】
図2のグラフのように、暗所での抗菌活性値は、重量比(Y/X)大きくなるにつて大きくなる。また、重量比(Y/X)を8/100以上とすることにより光触媒塗布液が十分に大きい抗菌活性値を有することがわかった。
暗所では、光触媒活性が生じないため、暗所での抗菌活性はグルコン酸銅によるものと考えられる。
【0031】
消臭性試験
比較例1~5、実施例1~19の光触媒塗布液を、光触媒粒子が0.4g/m2となるように、セルロース不織布(12.5cm角)にスポイトを用いてまんべんなく滴下して不織布表面に塗布膜を形成し、この塗布膜を乾燥させることにより光触媒コーティング層を形成した。この光触媒コーティング層を有する不織布に対し青色LED光(4500lx)を48時間プレ照射し、消臭性試験用サンプルを作製した。作製したサンプルを1Lのガスバッグ内に投入し、その後、アセトアルデヒドガス50ppmをガスバッグ内に注入した。このガスバッグ内のサンプルに青色LED光(4500lx)を1時間照射した後ガスバッグ内のアセトアルデヒド濃度を検知管で測定した。そして、次の式を用いてアセトアルデヒド残存率を算出した。
アセトアルデヒド残存率(%)=(青色光照射後のアセトアルデヒド濃度)/(初期アセトアルデヒド濃度(50ppm))×100
【0032】
測定結果及び評価を表2に示す。消臭性能の評価において、アセトアルデヒド残存率が5%以下であった光触媒塗布液(光触媒コーティング層)の評価を「◎」で示し、アセトアルデヒド残存率が5~20%であった光触媒塗布液(光触媒コーティング層)の評価を「〇」で示し、アセトアルデヒド残存率が20~90%であった光触媒塗布液(光触媒コーティング層)の評価を「△」で示した。アセトアルデヒド残存率が90~100%である光触媒塗布液(光触媒コーティング層)の評価を「×」としたが、該当する光触媒塗布液はなかった。
また、図3は、横軸を光触媒塗布液における光触媒粒子(X)に対するグルコン酸銅(Y)の重量比(Y/X)とし、縦軸をアセトアルデヒド残存率としたグラフであり、比較例2、実施例5~9の測定結果を示している。
【0033】
表2及び図3に示したグラフから、重量比(Y/X)を15/100より小さくすることで、アセトアルデヒド残存率を20%以下にすることができることが分かった。これは、光触媒粒子(X)に対するグルコン酸銅(Y)の重量比(Y/X)が大きい場合、光触媒粒子の光触媒活性が阻害されるためと考えられる。
【0034】
抗菌性試験の結果及び消臭性能測定の結果から、光触媒塗布液における光触媒粒子(X)に対するグルコン酸銅(Y)の重量比(Y/X)を、8/100以上とし15/100より小さくすることにより、光触媒塗布液から形成した光触媒コーティング層が暗所において優れた抗菌性能を有することができ、かつ、明所において優れた消臭性能及び抗菌性能を有することがわかった。
【0035】
光触媒塗布液の分散性の評価
調製した光触媒塗布液を静置し、凝集沈殿状態を観察することにより、光触媒塗布液の分散性を評価した。分散性の評価を表2に示す。表2では、常温24時間、光触媒塗布液を静置しても凝集沈降が観察されなかった光触媒塗布液の評価を「〇」で示し、常温数時間以内に凝集沈降が観察された光触媒塗布液の評価を「△」で示した。また、静置後直ちに凝集沈降が観察された光触媒塗布液の評価を「×」で示した。
また、表3には、実施例10~16、比較例3、4の光触媒塗布液における、光触媒粒子の重量割合X、グルコン酸銅の重量割合Y、分散剤の重量割合Z及び分散性の評価を示している。表3には、数式:0.8X+2Yを用いて算出した値も示している。表3には、実施例10~16、比較例3、4の光触媒塗布液における光触媒粒子Xに対する分散剤Zの重量比Z/Xおよび光触媒粒子Xに対するグルコン酸銅Yの重量比Y/Xも示している。
【0036】
【表3】
【0037】
表2、表3に示した評価結果から、光触媒塗布液における分散剤の重量割合Zを、数式:0.8X+2Yを用いて算出した値以上とすることにより(0.8X+2Y≦Z)、光触媒塗布液が優れた分散性を有することがわかった。
【0038】
分散剤分解時間の評価
比較例2~4、実施例1~19の光触媒塗布液を、光触媒粒子が0.4g/m2となるように、セルロース不織布(12.5cm角)にスポイトを用いてまんべんなく滴下して不織布表面に塗布膜を形成し、この塗布膜を乾燥させることにより光触媒コーティング層を形成し、分散剤分解時間測定用のサンプルを作製した。なお、プレ照射は行っていない。作製したサンプルを1Lのガスバッグ内に投入し、その後、アセトアルデヒドガス50ppmをガスバッグ内に注入した。このガスバッグ内のサンプルに青色LED光(4500lx)を2時間又は4時間照射した後、ガスバッグ内のアセトアルデヒドガス濃度を検知管(株式会社ガステック製)にて測定した。このような測定を各照射時間で行った。そして、次の式を用いてアセトアルデヒド残存率を算出した。
アセトアルデヒド残存率(%)=(青色光照射後のアセトアルデヒド濃度)/(初期アセトアルデヒド濃度(50ppm))×100
このアセトアルデヒド残存率が80%以下になったときの照射時間を分散剤分解時間とした。
【0039】
分散剤分解時間の評価を表2に示す。分散剤分解時間の評価において、分散剤分解時間が2時間以下であった光触媒塗布液(光触媒コーティング層)の評価を「〇」で示し、分散剤分解時間が2時間より長く4時間以下であった光触媒塗布液(光触媒コーティング層)の評価を「△」で示した。分散剤分解時間が4時間より長かった光触媒塗布液(光触媒コーティング層)の評価を「×」としたが、該当する光触媒塗布液はなかった。
また、表4には、実施例17~19の光触媒塗布液における、光触媒粒子の重量割合X、分散剤の重量割合Z、重量割合Xを1.5倍した値(1.5X)、及び分散剤分解時間の評価を示している。また、比較例5の光触媒塗布液における光触媒粒子の重量割合X、分散剤の重量割合Z、重量割合Xを1.5倍した値(1.5X)も示している。
【0040】
【表4】
【0041】
表2、表4に示した評価結果から、分散剤の重量割合Zを、光触媒粒子の重量割合Xを1.5倍した値(1.5X)よりも小さくすること(Z<1.5X)により、分散剤分解時間を短くすることができ、光触媒コーティング層が比較的早く消臭性能を発揮できるようになることがわかった。
【0042】
光触媒塗布液の分散性の評価及び分散剤分解時間の評価から、光触媒塗布液における分散剤の重量割合Zを、数式:0.8X+2Yを用いて算出した値以上とし、かつ、光触媒粒子の重量割合Xを1.5倍した値(1.5X)よりも小さくすることにより(0.8X+2Y≦Z<1.5X)、光触媒塗布液が優れた分散性を有することができ、かつ、光触媒コーティング層が比較的早く消臭性能を発揮できることがわかった。
【符号の説明】
【0043】
2: 光触媒塗布液 3:ハンドスプレー 4:基材 5:塗布膜 6:光触媒コーティング層 10:光触媒被覆部材
図1
図2
図3