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  • 特開-光触媒塗布液 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089330
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】光触媒塗布液
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/39 20240101AFI20240626BHJP
   B01J 23/30 20060101ALI20240626BHJP
   B01J 23/888 20060101ALI20240626BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
B01J35/02 J ZAB
B01J23/30 A
B01J23/888 A
C09D1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204621
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【弁理士】
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 喜紀
(72)【発明者】
【氏名】芝 直樹
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 徳隆
(72)【発明者】
【氏名】堤之 朋也
(72)【発明者】
【氏名】渥美 竜文
【テーマコード(参考)】
4G169
4J038
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA09
4G169BA21C
4G169BA22C
4G169BA27C
4G169BA48A
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB08C
4G169BB10C
4G169BB12C
4G169BC31A
4G169BC31B
4G169BC31C
4G169BC60A
4G169BC60B
4G169BD12C
4G169BE08C
4G169CA07
4G169CA10
4G169CA11
4G169DA06
4G169EA01X
4G169EA01Y
4G169EA02X
4G169EA02Y
4G169EB18Y
4G169EC30
4G169FC02
4G169FC03
4G169FC04
4G169FC08
4G169HA02
4G169HA10
4G169HB06
4G169HE03
4G169HE07
4G169HE12
4J038HA161
4J038KA04
4J038KA09
4J038NA01
4J038NA27
4J038PB05
4J038PC02
4J038PC03
4J038PC04
4J038PC06
4J038PC08
4J038PC10
(57)【要約】
【課題】本開示は、青色系基材の意匠性を悪化させることを抑制することができ、かつ、光触媒コーティング層のVOC除去能力の低下や光触媒活性による光触媒コーティング層の退色、変色を抑制することができる光触媒塗布液を提供する。
【解決手段】本開示の光触媒塗布液は、酸化タングステンを含む可視光応答型光触媒粒子と、水溶性銅化合物と、水性媒体とを含む。前記光触媒塗布液は、緑、青緑又は青の色相を有し、前記色相は、マンセル表色系の色相環における5G~10Bの領域に属する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化タングステンを含む可視光応答型光触媒粒子と、水溶性銅化合物と、水性媒体とを含む光触媒塗布液であって、
前記光触媒塗布液は、緑、青緑又は青の色相を有し、
前記色相は、マンセル表色系の色相環における5G~10Bの領域に属することを特徴とする光触媒塗布液。
【請求項2】
前記水溶性銅化合物に含まれる銅の前記光触媒塗布液における割合は、20ppm以上であり、
前記光触媒塗布液における前記光触媒粒子(A)に対する前記水溶性銅化合物(B)の重量比(B/A)は、(12.5/100)以下である請求項1に記載の光触媒塗布液。
【請求項3】
透過光測定法で測定される前記光触媒塗布液の濁度は、0.1以上2.5以下である請求項1に記載の光触媒塗布液。
【請求項4】
分散剤をさらに含み、
前記分散剤は、ノニオン系分散剤である請求項1~3のいずれか1つに記載の光触媒塗布液。
【請求項5】
前記光触媒塗布液における前記水溶性銅化合物に含まれる銅原子(C)に対する前記分散剤(D)の重量比(D/C)は、(5000/100)以上であり、
前記光触媒塗布液における前記光触媒粒子(A)に対する前記分散剤(D)の重量比(D/A)は、(1000/100)以下である請求項4に記載の光触媒塗布液。
【請求項6】
前記光触媒塗布液における前記光触媒粒子の割合は、0.1wt%以上1.5wt%以下である請求項1~3のいずれか1つに記載の光触媒塗布液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光触媒塗布液に関する。
【背景技術】
【0002】
可視光応答型光触媒コーティング層を基材上に形成することにより、室内のような弱い光の環境下でもVOC除去、抗菌・抗ウィルスなどの効果が得られる。また、光触媒を含むコーティング液を塗布してコーティング層を基材上に確実に施工する為に様々な工夫がなされている。
特許第3598274号(特許文献1)には光触媒被膜用コーティング液に有機色素を配合して、視認性を向上させ、光触媒被膜の形成を確認して、有機色素は塗布後に光触媒作用により消色されるとある。
特許第6720615号(特許文献2)には光触媒粒子と、特定の塩基性染料と粘土系安定化剤とを添加することにより、施工時に優れた視認性を発揮する光とある。
但しこれらの方法では塗布した部分に色素付着することで視認性を高め、未塗布部分と外観上の差により容易に識別することを目的としている。またメチレンブルー等の塩基性染料は可視光照明で褪色するため、基材の意匠性を損なうことなく形成する方法ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3598274号
【特許文献2】特許第6720615号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸化チタン系の光触媒は白色であり、酸化タングステン系の光触媒は薄い黄色~黄緑色である。このような光触媒を、青色のような色調の異なる基材上に大量に塗布し光触媒コーティング層を形成した場合、基材の色と光触媒コーティング層の色とが混ざり基材の意匠性の悪化を招く。光触媒と着色剤を組み合わせて所望の色調を得ることが考えられるが、クチナシ青色素などの有機色素を用いると、光触媒の分解エネルギーが色素の分解に用いられる。このため、光触媒コーティング層のVOC除去能力の低下や光触媒活性による光触媒コーティング層の退色、変色を招く。
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであり、青色系基材の意匠性を悪化させることを抑制することができ、かつ、光触媒コーティング層のVOC除去能力の低下や光触媒活性による光触媒コーティング層の退色、変色を抑制することができる光触媒塗布液を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、酸化タングステンを含む可視光応答型光触媒粒子と、水溶性銅化合物と、水性媒体とを含む光触媒塗布液を提供する。前記光触媒塗布液は、緑、青緑又は青の色相を有し、前記色相は、マンセル表色系の色相環における5G~10Bの領域に属する。
【発明の効果】
【0006】
本開示の光触媒塗布液は、光触媒粒子と水溶性銅化合物を含む。光触媒粒子の色は薄い黄色~黄緑色であり、水溶性銅化合物は、水性媒体中において青色を呈する。このため、光触媒塗布液の色は、光触媒粒子の色と水溶性銅化合物の色との混色となり、この混色がマンセル表色系の色相環における5G~10Bの領域に属する色相(緑、青緑又は青の色相)を有する。つまり、光触媒塗布液は、マンセル表色系の色相環における5G~10Bの領域に属する色相となるように、光触媒粒子と水溶性銅化合物を含む。
光触媒塗布液がこのような色相を有することにより、光触媒塗布液を青色系基材上に塗布し光触媒コーティング層を形成した場合でも、光触媒コーティング層の色が青色系となり基材の意匠性を悪化させることを抑制することができる。また、水溶性銅化合物を青色色素として用いることにより、光触媒活性による光触媒コーティング層の退色、変色を抑制することができ、かつ、光触媒コーティング層の光触媒活性が低下することを抑制することができる。また、水溶性銅化合物は抗菌・抗ウィルス性を有するため、光触媒コーティング層が抗菌・抗ウィルス性を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の光触媒塗布液を用いて光触媒コーティング層を形成する方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の光触媒塗布液は、酸化タングステンを含む可視光応答型光触媒粒子と、水溶性銅化合物と、水性媒体とを含む。前記光触媒塗布液は、緑、青緑又は青の色相を有し、前記色相は、マンセル表色系の色相環における5G~10Bの領域に属する。
【0009】
好ましくは、前記水溶性銅化合物に含まれる銅の前記光触媒塗布液における割合は、20ppm以上であり、前記光触媒塗布液における前記光触媒粒子(A)に対する前記水溶性銅化合物(B)の重量比(B/A)は、(12.5/100)以下である。
透過光測定法で測定される光触媒塗布液の濁度は、0.1以上2.5以下であることが好ましい。
前記水溶性銅化合物は、グルコン酸銅を含むことが好ましい。
前記光触媒塗布液は分散剤を含むことが好ましい。また、分散剤は、ノニオン系分散剤であることが好ましく、ポリオキシアルキレン基含有化合物または脂肪族ポリエーテル誘導体であることがより好ましい。ポリオキシアルキレン化合物は、高分子アミン化合物であってもよい。 前記分散剤は、平均分子量が10000以下の高分子化合物であることが好ましい。
好ましくは、光触媒塗布液における水溶性銅化合物に含まれる銅原子(C)に対する分散剤(D)の重量比(D/C)は、(5000/100)以上であり、光触媒塗布液における光触媒粒子(A)に対する分散剤(D)の重量比(D/A)は、(1000/100)以下である。
前記光触媒塗布液における光触媒粒子の割合は、0.1wt%以上1.5wt%以下であることが好ましい。
【0010】
以下、図面を用いて本発明の一実施形態を説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0011】
図1は本実施形態の光触媒塗布液を用いて光触媒コーティング層を形成する方法の説明図である。
本実施形態の光触媒塗布液2は、酸化タングステンを含む可視光応答型光触媒粒子と、水溶性銅化合物と、水性媒体とを含む。光触媒塗布液2は、緑、青緑又は青の色相を有し、前記色相は、マンセル表色系の色相環における5G~10Bの領域に属する。
光触媒塗布液2は、分散剤を含んでもよい。
【0012】
光触媒塗布液2は、水性媒体に光触媒粒子が分散した分散液である。また、水性媒体には、水溶性銅化合物が溶解している。また、光触媒塗布液2は、基材4の表面に塗布法により塗布される分散液である。
光触媒塗布液2の製造方法では、まず光触媒粒子を水に微分散させ、次に水溶性銅化合物を溶解、混合させる。必要であれば事前に溶媒で光触媒粒子を希釈してもよく、また分散剤を加えてもよい。光触媒粒子は、一般的には湿式の分散機(超音波分散機、コロイドミル及びビーズミルなど)を用いて水に分散できる。混合は一般的な液体混合機を用いることができ、撹拌羽根等が付属しているものであれば光触媒塗布液2の組成をより均一にすることができる。
【0013】
光触媒塗布液2の塗布法は、特に限定されないが、例えば、スプレーコーティング、バーコート法、刷毛塗り、ディップコーティング、スクリーン印刷法、スピンコート法、ロールコート等である。例えば、図1のように、光触媒塗布液2を基材4の表面にスプレー塗布し形成された塗布膜5を乾燥させることにより光触媒コーティング層6を形成することができる。また、光触媒コーティング層6を有する光触媒被覆部材10も形成することができる。光触媒塗布液2を塗布乾燥することにより形成された光触媒コーティング層6が光照射を受けて消臭等の光触媒効果を発揮する。
光触媒塗布液2の塗布には、電動のスプレーガン(例えば、ハンドスプレー3)を使用することが好ましく、HVLPガンなどを使用することがさらに好ましい。このことにより、光触媒塗布液2を基材4に細かく、薄く、均一にムラなく塗布することができる。
【0014】
基材4は、例えば、例えば、壁紙、カーテン、建物の内壁、建物の外壁、部屋の天井、建物の床面、家具、窓、ガラス、プラスチック、金属、セラミックス、木、石、セメント、コンクリート、繊維、フィルター、布帛、紙、皮革などである。基材4の色は、青系の色であってもよい。青系の色は、例えば、青、空色、水色、瑠璃色、群青色、藍色、インディゴ、ネイビーブルー、シアン、ピーコックブルーなどである。また、基材4の色は、マンセル表色系の10種の基本色(赤、黄赤、黄、黄緑、緑、青緑、青、青紫、紫、赤紫)のうち黄緑(GY)、緑(G)、青緑(BG)、青(B)、青紫(PB)に属する色相を有してもよい。
光触媒性能を十分に発揮させるため、基材4は可塑剤等の移行性成分を含まないものが望ましい。
【0015】
水性媒体は、主成分として水を含む。また、水性媒体は、水とアルコール(例えば、エタノール)との混合液であってもよい。また、水性媒体における水の割合は、例えば、30wt%以上100wt%以下である。水性媒体は、エタノールを含むこと好ましい。このことにより、光触媒塗布液2における光触媒粒子の分散性を向上させることができる。水性媒体におけるエタノールの割合は、例えば、1wt%以上70wt%以下である。
【0016】
可視光応答型光触媒粒子は、可視光を受光することにより光触媒活性を示す粒子であり、酸化タングステン粒子(WO3粒子)を含む。光触媒粒子は光照射を受けて有機物分解等の効果を発揮することができる。酸化タングステンの色は、薄い黄色~黄緑色である。光触媒コーティング層6が光触媒粒子を含むことにより、消臭機能、抗菌機能、抗ウィルス機能などを有することができる。
光触媒粒子は、酸化タングステン(WO3)を主成分とする。酸化タングステン粒子は、光触媒活性を有すれば、化学量論的組成からずれた組成を有する酸化タングステン粒子であってもよい。また、酸化タングステン粒子は、光触媒活性を失わない範囲で、不純物原子や添加原子を含んでもよい。
光触媒塗布液2は、光触媒塗布液2に対して0.1wt%以上1.5wt%以下の光触媒粒子を含むことができる。
【0017】
光触媒粒子は、WO3粒子のエネルギーギャップを小さくして可視光領域での応答性を上げる助触媒をWO3粒子に添加したものであってもよい。助触媒としては、Pt、Pd、Rh、Ru、Os、Irのような白金族金属が好ましい。光触媒粒子の50%体積累積径は、1nm以上500nm以下であることが好ましく、さらに5nm以上であると、光触媒塗布液2中における凝集が少なく、再分散が容易である。また、光触媒粒子の50%体積累積径が200nm以下であると、光触媒塗布液2を調製する工程で光触媒粒子が他の成分と均一に混合しすく、離脱することも少なく良好である。粒子径測定は、BET比表面積計やレーザ回折式粒度分布計や動的光散乱式粒度分布計等によって測定することができる。
【0018】
分散剤は、水性媒体中に光触媒粒子を分散させるための成分である。光触媒塗布液2が分散剤を含むことにより、水性媒体中における光触媒粒子の分散性を向上させることができる。通常光触媒粒子分散液に金属イオンを添加すると、イオンが光触媒粒子の表面電荷を中和するため静電反発が弱まり分散性が低下する。分散剤は静電反発力の増加や高分子鎖の立体障害によって前記イオンの効果を抑制し光触媒粒子の分散性を向上させることができる。また、光触媒塗布液2が分散剤を含むことにより光触媒塗布液2が青色を発色しやすくなる。
本実施形態で使用可能な分散剤としては、アニオン性界面活性剤(アニオン系分散剤)、ノニオン性界面活性剤(ノニオン系分散剤)、カチオン性界面活性剤(カチオン系分散剤)、両性界面活性剤(両イオン系分散剤)、脂肪族ポリエーテル誘導体、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩、脂肪酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩等が挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が挙げられる。
カチオン性界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウムブロミド、アルキルピリジニウムブロミド、イミダゾリニウムラウレートなどの四級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
この中で好ましいのはノニオン性界面活性剤(ノニオン系分散剤)であり、更に好ましいのはポリオキシアルキレン基を有する界面活性剤でありこれはアミン化合物であってもよい。
【0019】
光触媒塗布液2が分散剤を含むことにより、光触媒塗布液2をスプレー噴霧した際に液滴や空中で乾燥した光触媒粒子が過剰に帯電することを防ぐことができる。このため、噴霧範囲に静電気が帯電しているものに対して光触媒粒子が過剰に集中付着し、付着面が白く白化することを防止することができる。
分散剤の平均分子量は100以上10000未満が好ましく、より好ましくは200以上2000未満である。分散剤の分子量が小さすぎると揮発性が高くなり、噴霧された液滴が壁と接触する前に空中で乾燥し固体となるため白化防止効果が低下する。また、分散剤の分子量が大きすぎると、塗布後に光触媒粒子は近傍の有機物を主に分解対象とするため周囲の分散剤を分解することに時間を要し、塗布直後は光触媒粒子が空気中の有機ガスの分解に対して効果を発揮する速度が遅くなってしまう。分子量が小さく光触媒効果への影響の少ない分散剤として、日油株式会社製エスリーム(ポリオキシアルキレン基含有化合物)や東邦化学工業株式会社製PEG200(ポリエチレングリコール)などが挙げられる。
【0020】
水溶性銅化合物は、水に溶ける銅化合物である。光触媒塗布液2が水溶性銅化合物を含むことにより、光触媒塗布液2や光触媒コーティング層6を青色に着色できる。光触媒塗布液2中で銅イオンは水分子や対イオンと錯形成し、錯体が光を吸収することで青色を示す。水溶性銅化合物として、硫酸銅、硝酸銅、塩化銅、酢酸銅、グルコン酸銅等やその水和物を用いることができる。
【0021】
水溶性銅化合物は、光触媒塗布液2において水溶性媒体に溶けている。このため、銅化合物が沈殿することを抑制することができる。また、銅イオンは抗菌性を有するため、光触媒塗布液2及び光触媒コーティング層6が抗菌性を有することができる。また、銅イオンは有機物ではないため、光触媒塗布液2の色や光触媒コーティング層6の色が光触媒活性により変化することを抑制することができる。
【0022】
水溶性銅化合物が水を含む溶媒に溶解すると、銅イオンが対イオンや水分子と錯体を形成し、それが光を吸収することで青色を発色する。発色は銅イオンが光を吸収することで生じるため、光触媒粒子など液中の不透明粒子濃度が高い場合、不透明粒子によって光が遮られてしまうため十分な光を吸収できず銅イオンは発色できない。そのため、液中の不透明粒子は十分に低濃度である必要がある。
【0023】
銅(II)イオン水溶液は青系の色を有するため、水溶性銅化合物及び光触媒粒子を含む光触媒塗布液2の色は、銅イオンの色と光触媒粒子の色との混合色となる。このことにより、光触媒塗布液2がマンセル表色系の色相環における5G~10Bの領域に属する色相(緑、青緑又は青の色相)を有することができる。光触媒塗布液2は、マンセル表色系の色相環における5G~5GBの領域に属する色相(緑又は青緑の色相)を有することがより好ましい。
【0024】
マンセル表色系は、色の表示方法の1つであり、色相(H)、明度(V)、彩度(C)を用いて色をマンセル値として表現する。
色相(H)は、いろあいを表し10種の基本色である赤(R)、黄赤(YR)、黄(Y)、黄緑(GY)、緑(G)、青緑(BG)、青(B)、青紫(PB)、紫(P)、赤紫(RP)とその度合い(2.5、5、7.5、10)を用いて40種のいずれかで表される(例えば、10G、2.5Bなど)。色相環は40種の色相を環状に配置したものである。
明度(V)は、色の明るさを0から10までの数値で表したものであり、暗い色ほど数値が小さく、明るい色ほど数値が大きい。
彩度(C)は、鮮やかさを数値で表したものであり、色味のない鈍い色ほど数値が小さく、鮮やかな色彩ほど数値が大きい。
【0025】
マンセル値は、これら3つの属性(色相、明度、彩度)を組み合わせて表記する記号(HV/C)である(例えば、5G8.5/1)。
マンセル表色系では、対象物の色と色票とを見比べて、色相、明度、彩度を決定することができる。また、色彩計を用いて測定することによっても色相、明度、彩度を決定することができる。
【0026】
好ましくは、水溶性銅化合物に含まれる銅の光触媒塗布液2における割合は、20ppm以上であり、かつ、光触媒塗布液2における光触媒粒子(A)に対する水溶性銅化合物(B)の重量比(B/A)は、(12.5/100)以下である。このことにより、光触媒塗布液2が5G~10Bの領域に属する色相を有することができ、かつ、光触媒塗布液2を用いて形成した光触媒コーティング層6が優れた光触媒性能を有することができる。
【0027】
透過光測定法で測定される光触媒塗布液2の濁度は、0.1以上2.5以下であることが好ましく、0.1以上1.2以下であることがより好ましい。このことにより、光触媒塗布液2が5G~10Bの領域に属する色相を有することができ、かつ、光触媒塗布液2を用いて形成した光触媒コーティング層6が優れた光触媒性能を有することができる。
【0028】
好ましくは、光触媒塗布液2における水溶性銅化合物に含まれる銅原子(C)に対する分散剤(D)の重量比(D/C)は、(5000/100)以上であり、かつ、光触媒塗布液2における光触媒粒子(A)に対する分散剤(D)の重量比(D/A)は、(1000/100)以下である。重量比(D/A)は、(50/100)以上(300/100)以下であることがより好ましい。このことにより、光触媒塗布液2を用いて形成した光触媒コーティング層6が優れた光触媒性能を有することができ、かつ、光触媒塗布液2において光触媒粒子が凝集・沈降することを抑制することができる。
【0029】
光触媒塗布液の調製
光触媒である酸化タングステン粉末(光触媒粒子)、分散剤、銅化合物、エタノール、純水のうち表1に示したものをこの組成で混合し、攪拌分散させることにより実施例1~11、比較例1~6の光触媒塗布液を調製した。
分散剤には、ノニオン系分散剤である日油株式会社製「エスリーム(ポリオキシアルキレン基含有化合物)」又はポリエチレングリコールを用いた。
銅化合物には、水溶性銅化合物であるグルコン酸銅(分子量:453.84)を用いた。銅の原子量は63.55であり、グルコン酸銅における銅の割合は約14wt%である。
【0030】
光触媒塗布液の色の評価
調製した実施例1~11、比較例1~6の光触媒塗布液の色をマンセル表色系を使用してマンセル値として表現した。具体的には、白色LED照明下(色温度:5000 K、照度:500 lx)において、バイアル瓶に入れた光触媒塗布液の色をカラーチャート(一般社団法人日本塗料工業会 2017年J版塗料用標準色 ポケット版)と比較し、カラーチャート(マンセル色相環)の最も近い色のマンセル色相を光触媒塗布液の色相(H)とした。また、光触媒塗布液の色をマンセル色票と比較することにより、光触媒塗布液の色の明度(V)、彩度(C)を決めた。表1に光触媒塗布液の色のマンセル値(HV/C)を示した。また、表1には、色の評価も示している。表1では、光触媒塗布液の色相が、マンセル表色系の色相環における5G~10Bの領域に属する色相(青色~青緑色)である場合は、その光触媒塗布液の色の評価を「〇」で示し、光触媒塗布液の色相が、前記領域に属する色相でない場合は、その光触媒塗布液の色の評価を「×」で示した。また、表2~表5にも色の評価を示している。
【0031】
【表1】
【0032】
色の評価が「×」であった比較例2、3の光触媒塗布液は銅化合物を含まない。このため、光触媒塗布液の色を青色~青緑色とするためには、光触媒塗布液が銅化合物を含む必要があると考えられる。
色の評価が「×」であった比較例4、5の光触媒塗布液は銅化合物を含むが、分散剤を含まない。このため、光触媒塗布液が銅化合物と分散剤の両方を含むことにより、光触媒塗布液が青色~青緑色になりやすくなると考えられる。
【0033】
光触媒塗布液の分散性の評価
調製した光触媒塗布液を静置し、凝集沈殿状態を観察することにより、光触媒塗布液の分散性を評価した。表2に、実施例3、4の光触媒塗布液の分散性の評価、光触媒塗布液の組成及び光触媒塗布液の色(マンセル値)を示す。また、表5にも分散性の評価を示している。
分散性の評価では、常温24時間、光触媒塗布液を静置しても凝集沈降が観察されなかった光触媒塗布液の評価を「〇」で示し、常温数時間以内に凝集沈降が観察された光触媒塗布液の評価を「△」で示した。また、静置後直ちに凝集沈降が観察された光触媒塗布液の評価を「×」で示した。
【0034】
【表2】
【0035】
分散性の評価が「△」である実施例4の光触媒塗布液に含まれる分散媒は水であるが、分散性の評価が「〇」である実施例3の光触媒塗布液に含まれる分散媒は、水とエタノールの混合物である。このため、分散媒がエタノールを含むことにより光触媒塗布液における分散性が向上すると考えられる。
【0036】
光触媒性能の評価
調製した光触媒塗布液wet 1.6gをセルロース不織布(12.5cm角)にスポイトを用いてまんべんなく滴下して不織布表面に塗布膜を形成し、この塗布膜を乾燥させることにより光触媒コーティング層を形成した。この光触媒コーティング層を有する不織布に対し青色LED光(4500lx)を48時間プレ照射し、有機ガス分解性能測定用サンプルを作製した。作製したサンプルを1Lのガスバッグ内に投入し、その後、アセトアルデヒドガス50ppmをガスバッグ内に注入した。このガスバッグ内のサンプルに青色LED 光(4500lx)を1時間照射した後ガスバッグ内のアセトアルデヒド濃度を検知管で測定した。そして、次の式を用いてアセトアルデヒド残存率を算出した。
アセトアルデヒド残存率(%)=(青色光照射後のアセトアルデヒド濃度)/(初期アセトアルデヒド濃度(50ppm))×100
【0037】
表3に、実施例1、2、5、6、7の光触媒塗布液(光触媒コーティング層)及び比較例1の光触媒塗布液(光触媒コーティング層)についての光触媒性能の評価、光触媒塗布液における銅原子(銅化合物に含まれている銅原子)の濃度、光触媒塗布液における光触媒粒子に対する銅化合物の重量比(銅化合物/光触媒)、光触媒塗布液の組成、光触媒塗布液の色の評価を示す。また、光触媒性能の評価は、表4、表5にも示している。
光触媒性能の評価において、アセトアルデヒド残存率が10%以下であった光触媒塗布液(光触媒コーティング層)の評価を「◎」で示し、アセトアルデヒド残存率が10~20%であった光触媒塗布液(光触媒コーティング層)の評価を「〇」で示し、アセトアルデヒド残存率が20~90%であった光触媒塗布液(光触媒コーティング層)の評価を「△」で示した。アセトアルデヒド残存率が90~100%である光触媒塗布液(光触媒コーティング層)の評価を「×」としたが、該当する光触媒塗布液はなかった。
【0038】
【表3】
【0039】
光触媒塗布液における銅原子の濃度が20ppm以上である実施例1,2,5,6,7の光触媒塗布液の色の評価は「〇」となった。このため、銅原子濃度を20ppm以上とすることにより、光触媒塗布液の色を青色~青緑色にすることができると考えられる。
また、光触媒塗布液における光触媒粒子に対する銅化合物の重量比(銅化合物/光触媒)12.5/100以下であると、光触媒性能の評価が「◎」又は「〇」となった。このため、光触媒塗布液における光触媒粒子に対する銅化合物の重量比を12.5/100以下とすることにより、光触媒コーティング層の光触媒活性を高くすることができる。
【0040】
光触媒塗布液の濁度の評価
吸光度計用PCRチューブ(0.2mL)に光触媒塗布液を注入し、このPCRチューブを吸光度計(ウシオ電機株式会社製PAS-110-YU)にセットし、光触媒塗布液の濁度(光学密度、O.D.)を測定した(カラーセンサによる透過光測定方式、ピーク波長:615mm、波長範囲:575nm~660nm)。
表4に、実施例1、3、8の光触媒塗布液及び比較例6の光触媒塗布液についての濁度、光触媒塗布液の組成、光触媒塗布液の色の評価、光触媒塗布液(光触媒コーティング層)の光触媒性能の評価を示す。
【0041】
【表4】
【0042】
光触媒塗布液における光触媒粒子濃度が大きくなるつれ、光触媒塗布液の濁度は大きくなっている。また、濁度が2.5以上だと光触媒塗布液の色の評価が「×」となった。このため、濁度が2.5よりも小さくなるように光触媒粒子濃度を調整することにより、光触媒塗布液の色を青色~青緑色にすることができると考えられる。また、濁度が0.1以下となるような光触媒粒子濃度では、光触媒性能の評価が「△」となった。
【0043】
光触媒塗布液の成分比について
表5に、実施例1、3、7、9、10の光触媒塗布液についての成分組成、光触媒塗布液における銅原子(銅化合物に含まれている銅原子)に対する分散剤の重量比、光触媒塗布液における光触媒粒子に対する分散剤の重量比、光触媒塗布液の色の評価、光触媒塗布液の分散性の評価、光触媒性能の評価を示す。
【0044】
【表5】
【0045】
表5からわかるように、光触媒塗布液における銅原子に対する分散剤の重量比(分散剤/銅原子)が50/1よりも大きくなるように、光触媒塗布液が分散剤及び銅化合物を含むことにより、光触媒塗布液の分散性を向上させることができる。また、光触媒塗布液における光触媒粒子に対する分散剤の重量比(分散剤/光触媒粒子)が10/1よりも小さくすることにより、光触媒塗布液(光触媒コーティング層)の光触媒性能を向上させることができる。なお、実施例7の光触媒塗布液では、光触媒粒子に対する銅化合物の重量比が12.5/100を超えるため、光触媒性能の評価が低くなったと考えられる(表3参照)。
【0046】
光触媒コーティング層の色の評価
光触媒である酸化タングステン粉末(光触媒粒子)、エタノール、純水を表6に示した組成で混合し、攪拌分散させることにより比較例7の光触媒塗布液を調製した。
実施例1、実施例3又は比較例7の光触媒塗布液をセルロース不織布(12.5cm角)(基材)にトリガータイプのスプレーノズルを用いて噴霧することにより不織布表面に塗布膜を形成し、この塗布膜を乾燥させることにより光触媒コーティング層を形成した。光触媒塗布液の噴霧量は、光触媒粒子の塗布量が3g/m2となるように調整した。
【0047】
表6に、形成した実施例1、3、比較例7の光触媒コーティング層の色(基材の色と光触媒コーティング層の色との混合色)のマンセル値及び光触媒コーティング層を形成していない基材(不織布)の色のマンセル値を示した。具体的には、白色LED照明下(色温度:5000 K、照度:500 lx)において、光触媒コーティング層の色又は不織布の色をカラーチャート(一般社団法人日本塗料工業会 2017年J版塗料用標準色 ポケット版)と比較し、カラーチャート(マンセル色相環)の最も近い色のマンセル色相を光触媒コーティング層の色相(H)又は不織布の色相(H)とした。また、光触媒コーティング層の色又は不織布の色をマンセル色票と比較することにより、光触媒コーティング層の色又は不織布の色の明度(V)、彩度(C)を決めた。
【0048】
【表6】
【0049】
実施例1、3の光触媒コーティング層の色(基材の色と光触媒コーティング層の色との混合色)は、比較例7の光触媒コーティング層の色(基材の色と光触媒コーティング層の色との混合色)及び基材(不織布)の色と比較して寒色よりの色となった。このため、実施例1又は3の光触媒塗布液を青色系基材に塗布して光触媒コーティング層を形成したとしても、青色系基材の意匠性を悪化させることを抑制することができると考えられる。
【符号の説明】
【0050】
2: 光触媒塗布液 3:ハンドスプレー 4:基材 5:塗布膜 6:光触媒コーティング層 10:光触媒被覆部材
図1