(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089335
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
F01L 13/08 20060101AFI20240626BHJP
F02D 15/00 20060101ALI20240626BHJP
F02N 99/00 20100101ALI20240626BHJP
【FI】
F01L13/08 E
F02D15/00 D
F02N99/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204631
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】521431099
【氏名又は名称】カワサキモータース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野網 拓也
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲路
【テーマコード(参考)】
3G018
3G092
【Fターム(参考)】
3G018AA15
3G018AB07
3G018AB17
3G018BA06
3G018CA08
3G018DA01
3G018DA05
3G018DA24
3G018DA32
3G018EA21
3G018EA22
3G018FA17
3G018GA11
3G092AA11
3G092AC04
3G092DA02
3G092DA04
3G092DD01
3G092DD02
3G092DG01
3G092DG10
3G092EA15
3G092EA25
3G092FA31
3G092GA01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】内燃機関の始動性を向上させる装置を提供する。
【解決手段】内燃機関は、クランクシャフト31と、第1気筒7と第2気筒8と、回転始動時において、第1気筒と第2気筒とを回転始動後よりも減圧し、且つ、第1気筒の減圧量に比べて第2気筒の減圧量を大きくするデコンプ装置と、を備える。第1気筒と第2気筒との燃焼室を外部に対して開放及び遮断する複数のバルブを備え、デコンプ装置は、内燃機関の圧縮行程において、第1気筒の開放期間に比べて、第2気筒の開放期間を大きくするように、複数のバルブを駆動する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトと、
第1気筒と第2気筒と、
回転始動時において、前記第1気筒と前記第2気筒とを回転始動後よりも減圧し、且つ、前記第1気筒の減圧量に比べて前記第2気筒の減圧量を大きくするデコンプ装置と、を備える内燃機関。
【請求項2】
前記第1気筒と前記第2気筒との燃焼室を外部に対して開放及び遮断する複数のバルブを備え、
前記デコンプ装置は、前記内燃機関の圧縮行程において、前記第1気筒の開放期間に比べて、前記第2気筒の開放期間を大きくするように、前記複数のバルブを駆動する、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記第1気筒と前記第2気筒との燃焼室を外部に対して開放及び遮断する複数のバルブと、
所定の軸回りに回転されて前記複数のバルブに駆動力を与える複数のカムと、を備え、
前記デコンプ装置は、
前記第1気筒と前記第2気筒とに個別に対応して配置され、前記複数のカムの内方に位置する基準位置と、前記基準位置から前記複数のカムの外周面より外方に向けて突出する突出位置との間でシフト可能に構成された複数のデコンプ体と、
前記クランクシャフトの回転数に応じて、前記複数のデコンプ体を前記基準位置と前記突出位置との間でシフトさせるシフターと、を有する、請求項1又は2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記複数のデコンプ体のうち、前記第2気筒に対応して配置されたデコンプ体の数が、前記複数のデコンプ体のうち、前記第1気筒に対応して配置されたデコンプ体の数よりも多い、請求項3に記載の内燃機関。
【請求項5】
前記複数のカムは、前記第2気筒に対応して配置された一対のカムを含み、
前記複数のデコンプ体は、前記一対のカムに対応して配置された一対のデコンプ体を含む、請求項4に記載の内燃機関。
【請求項6】
前記一対のデコンプ体は、前記一対のカムの互いに異なる外周面の位置において、前記一対のカムの前記外周面より前記一対のカムの内方に退避可能に配置されている、請求項5に記載の内燃機関。
【請求項7】
前記複数のデコンプ体は、同一構造を有する、請求項3に記載の内燃機関。
【請求項8】
全ての前記デコンプ体と、前記全ての前記デコンプ体に対応する全ての前記複数のカムと、が取り付けられた単一のカムシャフトを備える、請求項3に記載の内燃機関。
【請求項9】
前記内燃機関の回転始動時と、前記内燃機関の回転始動後とで、前記第2気筒内の燃焼状態を異ならせるように、前記燃焼状態を制御する制御装置を更に備える、請求項1又は2に記載の内燃機関。
【請求項10】
前記デコンプ装置は、
前記複数のカムが取り付けられた筒体であるカムシャフトと、
前記カムシャフトの内部に挿通され、前記カムシャフトの軸回りに前記カムシャフトと個別に回転自在に軸支されて、前記デコンプ体をシフトさせるための外力を前記複数のデコンプ体に付与するデコンプシャフトと、を有し、
前記カムシャフトは、前記複数のカムのうち、隣接する2つのカムの間に位置して前記デコンプシャフトを回転自在に軸支するシャフト支持部を有する、請求項3に記載の内燃機関。
【請求項11】
クランクシャフトと、
気筒と、
前記気筒の燃焼室を外部に対して開放及び遮断する複数のバルブと、
回転始動時において、前記気筒を回転始動後よりも減圧するデコンプ装置と、
所定の軸回りに回転されて前記複数のバルブに駆動力を与える一対のカムと、を備え、
前記デコンプ装置は、
前記気筒に対応して配置され、前記一対のカムの内方に位置する基準位置と、前記基準位置から前記一対のカムの外周面より外方に向けて突出する突出位置との間でシフト可能に構成された複数のデコンプ体を有し、
前記複数のデコンプ体は、前記一対のカムの互いに異なる外周面の位置において、前記一対のカムの前記外周面より前記一対のカムの内方に退避可能に配置されている、内燃機関。
【請求項12】
前記デコンプ装置は、
前記一対のカムが取り付けられた筒体であるカムシャフトと、
前記カムシャフトの内部に挿通され、前記カムシャフトの軸回りに前記カムシャフトと個別に回転自在に軸支されて、前記デコンプ体をシフトさせるための外力を前記複数のデコンプ体に付与するデコンプシャフトと、を有し、
前記カムシャフトは、前記一対のカムの間に位置して前記デコンプシャフトを回転自在に軸支するシャフト支持部を有する、請求項11に記載の内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、デコンプ装置を備える内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内燃機関をクランキングさせて始動するために必要なトルクを低減するデコンプ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関を始動させる際、例えば、始動用モータが用いられる。この場合、始動用モータのトルクが十分でないと、内燃機関の始動性が低下する。また、内燃機関の設計条件や使用状況によって、始動開始時間の更なる短縮化が求められる場合がある。
【0005】
そこで本開示は、内燃機関の始動性を向上させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る内燃機関は、クランクシャフトと、第1気筒と第2気筒と、回転始動時において、前記第1気筒と前記第2気筒とを回転始動後よりも減圧し、且つ、前記第1気筒の減圧量に比べて前記第2気筒の減圧量を大きくするデコンプ装置と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、内燃機関の始動性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る車両の概要図である。
【
図2】
図2は、
図1の内燃機関のカムシャフトの軸方向から見た部分断面図である。
【
図5】
図5は、
図2のカムシャフトとデコンプシャフトとの断面図である。
【
図6】
図6は、
図1のクランクシャフトの低速回転時のウェイトの状態を示す図である。
【
図7】
図7は、
図1のクランクシャフトの高速回転時のウェイトの状態を示す図である。
【
図8】
図8は、
図4の第3カム及びデコンプ体の拡大断面図である。
【
図9】
図9は、
図4の第4カム及びデコンプ体の拡大断面図である。
【
図11】
図11は、
図1の内燃機関のカムシャフトの回転角度とバルブのリフト量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して各実施形態を説明する。以下に記載する各方向は、車両の搭乗者から見た方向を基準とする。また、以下に記載するデコンプ動作とは、内燃機関の回転始動時において、内燃機関の気筒を回転始動後よりも減圧することにより、内燃機関の圧縮抵抗を低減することを指す。また、内燃機関の回転始動とは、内燃機関に付与される外力により、内燃機関のクランクシャフトを回転始動することを指す。言い換えると回転始動状態とは、例えば、内燃機関の気筒内の燃料の爆発によるクランクシャフトの回転駆動が開始されるまでの状態を指す。前記外力には、例えば、走行用駆動源の電動モータから与えられる回転駆動力や、搭乗者等の人により与えられる外力が含まれる。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る車両1の概要図である。
図1に示されるように、本実施形態の車両1は、一例として、複数の走行用駆動源E,Mと、当該駆動源E,Mの駆動力が伝達される駆動輪DWとを備える。複数の走行用駆動源E,Mには、走行用の第1駆動源と、第1駆動源とは別の走行用の第2駆動源とが含まれる。本実施形態の第1駆動源は、内燃機関Eである。また本実施形態の第2駆動源は、電動モータMである。一例として、車両1はハイブリッド型車両である。車両1は、走行用駆動源として電動モータMのみが用いられる第1走行モードと、走行用駆動源として少なくとも内燃機関Eが用いられる第2走行モードとで切替可能に構成されている。本実施形態の車両1は、電動モータMによる走行中に、内燃機関Eが始動可能に構成されている。これにより車両1は、第1走行モードでの走行中に、走行モードを第1走行モードから第2走行モードに切替可能に構成されている。一例として、車両1は、搭乗者が跨って乗る鞍乗車両であり、自動二輪車である。
【0011】
車両1は、発電機Gと、蓄電池Bとを備える。発電機Gは、内燃機関Eの駆動力により発電する。本実施形態の発電機Gは、一例としてISG(Integrated Starter Generator)であって、内燃機関Eの回転始動時にクランクシャフト31を回転させるスタータモータとしても機能する。蓄電池Bは、発電機Gと電動モータMとに接続され、スタータモータとして機能する発電機Gと電動モータMとを駆動する。また蓄電池Bは、発電機Gの出力により蓄電する。駆動輪DWは、第1走行モードにおいて電動モータMの出力により駆動され、第2走行モードにおいて少なくとも内燃機関Eの出力により駆動される。なお車両1は、自動二輪車に限定されず、例えば、三輪車や四輪車でもよい。また車両1は、走行用駆動源として内燃機関Eのみを備えていてもよい。
【0012】
本実施形態の内燃機関Eは、一例として、複数のピストン18と、各ピストン18に対応して配置される複数の気筒30と、気筒30内の燃焼室30a(
図2参照)での爆発により回転駆動されるクランクシャフト31とを備える。本実施形態の複数の気筒30には、第1気筒7と第2気筒8とが含まれる。本実施形態の内燃機関Eは、一例として4ストローク機関である。このため、内燃機関Eの動作周期の1サイクル中に、クランクシャフト31は軸回りに2回転する。ピストン18は、前記1サイクル中に、気筒30内の下死点と上死点との間を往復運動する。ピストン18が下死点から上死点へ移動する圧縮行程において、気筒30内の気体が圧縮されることにより、気筒30内の圧力は上昇する。
【0013】
また詳細を後述するように、内燃機関Eは、回転始動時において、第1気筒7と第2気筒8とを回転始動後よりも減圧するデコンプ装置9(
図2参照)を備える。車両1では、デコンプ装置9を用いることでデコンプ動作が実現される。以下、内燃機関Eの圧縮行程でデコンプ動作をせずに圧縮された気筒30内の最大圧力をベース圧力とするとき、内燃機関Eの圧縮行程で圧縮される気筒30内の最大圧力がデコンプ動作により前記ベース圧力に対して小さくなる量を減圧量として表現する。即ち、減圧量が大きいほど、圧縮行程で圧縮された気筒30内の圧力が小さくなる。
【0014】
本実施形態のデコンプ装置9は、内燃機関Eの回転始動時において、第1気筒7の減圧量に比べて第2気筒8の減圧量を大きくする。これにより内燃機関Eは、回転始動時において、単一の気筒のみを減圧したり、第1気筒7と同等の減圧量で第2気筒8を減圧したりする場合に比べて、圧縮行程で圧縮される気筒30内の合計圧力が小さくなる。言い換えると、回転始動時において、圧縮行程で気筒30内の気体を圧縮させる際の合計の圧縮抵抗が縮小する。これによってクランクシャフト31を回転始動するために必要な外力を低減でき、内燃機関Eを容易に始動できる。なお、複数の気筒30に3つ以上の気筒が含まれる場合、一例として、複数の気筒30には、単一の第1気筒7と、複数の第2気筒8が含まれていることが好ましい。この場合、複数の気筒30には、減圧量が大きい気筒が、減圧量が小さい気筒よりも多く含まれる。
【0015】
また車両1は、第2気筒8内の燃焼状態を制御する制御装置14を備える。制御装置14は、例えば、内燃機関Eに備えられて気筒30内の燃料を点火する点火装置I、内燃機関Eに備えられて気筒30内に燃料を噴射するフュエルインジェクターF、及び、内燃機関Eに備えられて気筒30内への吸気量を調整する電子制御スロットルTのうちの少なくともいずれかを制御する。制御装置14は、気筒30内の燃焼状態を制御する燃焼制御回路を有する。本実施形態の制御装置14は、プログラムが格納されたメモリ60と、メモリ60に格納されたプログラムを実行するプロセッサ61とを有する。一例として、燃焼制御回路は、メモリ60とプロセッサ61により実現される。また一例として、制御装置14には、ECU(Electronic Control Unit)が含まれる。
【0016】
また車両1は、走行用駆動源E,Mの出力回転数を変速する変速機TMと、内燃機関Eと変速機TMとの間に配置された動力伝達経路を接続及び遮断するクラッチCとを備える。変速機TMは、外部から駆動力が伝達される入力軸10と、外部に対して駆動力を出力する出力軸11とを有する。また変速機TMは、入力軸10と出力軸11との軸上に配置されたギヤ列12,13を有する。変速機TMの出力は、車両1に備えられた伝達体16を介して、出力軸11から駆動輪DWに伝達される。伝達体16は、一例としてチェーン、ベルト、又はドライブシャフトを含むが、伝達体16の構成は、これに限定されない。発電機Gは、内燃機関Eが有するクランクケース20(
図2参照)の車幅方向一方側に配置された内部空間に収容されている。本実施形態の発電機Gは、内燃機関Eを始動させる機能を有するが、発電機Gの構成は、これに限定されない。例えば車両1は、発電機Gとは別に、クランクシャフト31を始動回転させるスタータモータを備えていてもよい。
【0017】
図2は、
図1の内燃機関Eのカムシャフト39,40の軸方向から見た部分断面図である。
図2では、第2気筒8の内部空間である燃焼室30aの一部と、カムシャフト39,40の径方向断面とを示している。
図2に示すように、内燃機関Eは、複数の吸気ポート30bと、複数の排気ポート30cとを有する。吸気ポート30bは、内燃機関Eに備えられて外部から供給される吸気を気筒30内に向けて流通させる吸気経路5dと連通している。排気ポート30cは、内燃機関Eに備えられて気筒30内から排出された排気を内燃機関Eの外部に向けて流通させる排気経路5eと連通している。ポート30b,30cは、気筒30の内部空間を外部と連通させる。一例として、内燃機関Eでは、複数の吸気ポート30bと複数の排気ポート30cとが、気筒30毎に2つずつ配置されている。気筒30毎に配置されるポート30b,30cの数は、これに限定されない。
【0018】
内燃機関Eは、気筒30の燃焼室30aを外部に対して開放及び遮断する複数のバルブを備える。複数のバルブには、複数の吸気バルブ35及び複数の排気バルブ36が含まれる。複数の吸気バルブ35は、複数の吸気ポート30bに個別に対応して配置されている。一例として、内燃機関Eでは、複数の吸気バルブ35と複数の排気バルブ36とが、気筒30毎に2つずつ配置されている。バルブの構成及び配置は、これに限定されない。
【0019】
内燃機関Eは、吸気ポート30bを閉塞する方向に吸気バルブ35を付勢するバルブ付勢体37を有する。吸気ポート30bは、バルブ付勢体37の付勢力により吸気ポート30bの開口周縁に押圧される吸気バルブ35により閉塞される。複数の排気バルブ36は、複数の排気ポート30cに対応して配置されている。また内燃機関Eは、排気ポート30cを閉塞する方向に排気バルブ36を付勢するバルブ付勢体38を有する。排気ポート30cは、バルブ付勢体38の付勢力により排気ポート30cの開口周縁に押圧される排気バルブ36により閉塞される。付勢体37,38は、一例としてバネを含む。付勢体37,38の構成は、これに限定されない。なお、1つのバルブは、2つ以上の気筒30の燃焼室30aを同時に外部に対して開放及び遮断する開閉するものではない。
【0020】
また内燃機関Eは、クランクシャフト31の回転駆動力により回転する、第1カムシャフト39と第2カムシャフト40とを備える。カムシャフト39,40は、回転自在に軸支されたシャフト体41と、シャフト体41に取り付けられた複数のカム42とを有する。複数のカム42は、所定の軸回りに回転されて複数のバルブに駆動力を与える。本実施形態の複数のカム42は、シャフト体41と共にシャフト体41の軸回りに回転する。一例として、複数のカム42は、吸気カム42Xと排気カム42Yとを含む。吸気カム42Xは、第1カムシャフト39に取り付けられ、吸気バルブ35に対応して配置されている。排気カム42Yは、第2カムシャフト40に取り付けられ、排気バルブ36に対応して配置されている。複数のカム42は、複数のバルブのうち対応するバルブの開放タイミングに合わせて、シャフト体41の周方向の所定位置にカム山42a(
図4参照)が位置するように配置されている。
【0021】
第2カムシャフト40は、一例として筒体である。第2カムシャフト40の内部には、後述するデコンプ体50に外力を与えるデコンプシャフト43が挿通されている。一例として第2カムシャフト40とデコンプシャフト43とは、同一の軸線上に配置され、且つ、当該軸線の軸回りに個別に回転自在に軸支されている。
【0022】
一例として、内燃機関Eは、バルブ35,36に取り付けられたバルブリフター44,45を備える。バルブリフター44,45は、カム42と接触可能に配置されている。またバルブリフター45は、デコンプ体50と接触可能に配置されている。バルブリフター44,45は、カム42及びデコンプ体50により与えられる外力をバルブ35,36に伝達する。バルブリフターは、タペットとも称される。
【0023】
第1カムシャフト39の回転に伴い、吸気カム42Xのカム山42aがバルブリフター44を押圧することで、吸気カム42Xから吸気バルブ35と付勢体37とに外力が伝達される。この外力により、吸気バルブ35は、付勢体37の弾性力に抗いながら気筒30の内部に向けて押し下げられる。これにより、吸気ポート30bが開放される。また第1カムシャフト39の回転に伴い、吸気カム42Xのカム山42aがバルブリフター44から遠位に移動すると、吸気バルブ35と付勢体37とに伝達される前記外力が消失する。これにより、吸気バルブ35が付勢体37の付勢力により移動し、吸気ポート30bが再び吸気バルブ35により閉塞される。
【0024】
また第2カムシャフト40の回転に伴い、排気カム42Yのカム山42aがバルブリフター45を押圧することで、カム42から排気バルブ36と付勢体38とに外力が伝達される。この外力により、排気バルブ36は、付勢体38の弾性力に抗いながら気筒30の内部に向けて押し下げられる。これにより、排気ポート30cが開放される。また第2カムシャフト40の回転に伴い、排気カム42Yのカム山42aがバルブリフター44から遠位に移動すると、排気バルブ36と付勢体38とに伝達される前記外力が消失する。これにより、排気バルブ36が付勢体38の付勢力により移動し、排気ポート30cが再び排気バルブ36により閉塞される。
【0025】
このように内燃機関Eは、一例として、カムシャフト39,40、カム42、及び付勢体37,38を有する動弁装置19を備える。動弁装置19は、内燃機関Eの吸気行程及び排気行程の少なくともいずれかにおいて、複数のバルブを動作させる。動弁装置19の構成は、これに限定されない。例えば動弁装置19は、カム42が、ロッカーアームを介してバルブ35,36に外力を付与する構成を有していてもよい。
【0026】
デコンプ装置9は、内燃機関Eの回転始動時において、第1気筒7と第2気筒8とを回転始動後よりも減圧する。本実施形態のデコンプ装置9は、複数のデコンプ体50と、シフター51とを有する。デコンプ体50は、複数のカム42の外周面より外方に向けて突出可能に配置されている。本実施形態のデコンプ装置9は、一例として、気筒30の燃焼室30aを外部に対して開放することで気筒30の圧縮抵抗を縮小するように排気バルブ36を駆動する。このためデコンプ体50は、排気バルブ36に向けて突出可能に排気カム42Yに配置されている。
【0027】
デコンプ体50は、第1気筒7と第2気筒8とに個別に対応して配置されている。一例として、複数のデコンプ体50は、同一構造を有する。また、本実施形態の内燃機関Eは、一例として、全てのデコンプ体50と、全てのデコンプ体50に対応する全ての複数のカム42とが取り付けられた単一のカムシャフトを備える。本実施形態の前記単一のカムシャフトは、第2カムシャフト40である。第2カムシャフト40は、排気カム42Yである複数のカム42をシャフト体41の軸回りに回転させる。シフター51は、クランクシャフト31の回転数に応じて、複数のデコンプ体50を後述する基準位置P1と突出位置P2と(
図7参照)の間でシフトさせる。本実施形態のデコンプ装置9は、複数のデコンプ体50と個別に対応して配置された複数のシフター51を有する。
【0028】
図3は、
図2のデコンプシャフト43の外観図である。デコンプシャフト43は、第2カムシャフト40の軸回りに第2カムシャフト40と個別に回転自在に軸支されて、デコンプ体50をシフトさせるための外力を複数のデコンプ体50に付与する。
図3に示すように、デコンプシャフト43は、シャフト体48と、シャフト体48の軸方向一端に配置された制御板49とを有する。シャフト体48は、周面に配置された複数の窪み48aを有する。複数の窪み48aは、複数のデコンプ体50と個別に対応して配置されている。複数の窪み48aは、シャフト体48の周方向の異なる位置に配置されている。制御板49は、ウェイト54(
図4参照)から付与される外力により、第2カムシャフト40とデコンプシャフト43との軸回りの相対位置を制御する。制御板49は、シャフト体48の軸方向に板面より外方に向けて突出する少なくとも1つの突起49aを有する。
【0029】
図4は、
図2の第2カムシャフト40の外観図である。
図4に示すように、第2カムシャフト40は、シャフト体41の軸方向一端に配置されたスプロケットギヤ53と、スプロケットギヤ53と重ねて配置される少なくとも1つのウェイト54を有する。スプロケットギヤ53は、シャフト体41に対して固定されている。スプロケットギヤ53には、内燃機関Eに備えられた伝達体17(
図6参照)により、クランクシャフト31の回転駆動力が伝達される。伝達体17は、一例としてチェーン、ベルト、或いはドライブシャフトを含むが、伝達体17の構成は、これに限定されない。スプロケットギヤ53は、平歯車である。スプロケットギヤ53は、シャフト体41の軸方向に板面より外方に向けて突出する少なくとも1つの軸体55を有する。第2カムシャフト40は、同数のウェイト54と軸体55とを有する。
【0030】
ウェイト54は、軸体55の軸回りの一定の角度範囲内で回転自在に軸体55に軸支される。本実施形態では、前記少なくとも1つのウェイト54は、一対のウェイト54A,54Bを含む。また前記少なくとも1つの軸体55は、ウェイト54Aを軸支する軸体55Aと、ウェイト54Bを軸支する55Bとを含む。またデコンプ装置9は、一対のウェイト54A,54Bを互いに近接する方向に付勢するウェイト付勢体56を有する。一対のウェイト54A,54Bは、付勢体56により接続されている。付勢体56は、一例としてバネを含む。付勢体56の構成は、これに限定されない。
【0031】
複数の排気カム42Yは、第2カムシャフト40の軸方向に離隔して配置されている。複数の排気カム42Yは、所定のタイミングで排気バルブ36に外力を付与するように、第2カムシャフト40の周方向におけるカム山42aの位置が調整されている。複数の排気カム42Yは、第1気筒7に対応して配置された少なくとも2つ以上のカムと、第2気筒8に対応して配置された2つ以上のカムとを含む。
【0032】
本実施形態の複数の排気カム42Yは、合計4つのカム42を含む。一例として、複数の排気カム42Yは、第1気筒7に対応して配置された一対のカムである第1カム42A及び第2カム42Bを含む。また複数の排気カム42Yは、第2気筒8に対応して配置された一対のカムである第3カム42C及び第4カム42Dを含む。また一例として、カムシャフト40の周方向における一対のカム42A,42Bのカム山42aの頂部の位置は、一致している。カムシャフト40の周方向における一対のカム42C,42Dのカム山42aの頂部の位置は、一致している。カムシャフト40の周方向において、一対のカム42A,42Bのカム山42aの頂部の位置と、一対のカム42C,42Dのカム山42aの頂部の位置は、互いに異なっている。これにより内燃機関Eは、第1気筒7と第2気筒8とで、カム42C~42Dにより排気バルブ36が開放及び閉塞されるタイミングが異なっている。なお第2カムシャフト40には、第1気筒7及び第2気筒8のそれぞれに対応する吸気バルブ35を開放及び閉塞するため、カム42A~42D以外の他のカムが配置されていてもよい。
【0033】
複数の排気カム42Yは、外周面に配置された複数の開口42bを有する複数の開口付カムを含む。一例として、本実施形態の開口付カムは、カム42B~42Dである。第2気筒8に対応して配置される開口付カムは、第1気筒7に対応して配置される開口付カムよりも多い。複数の開口42bは、複数のデコンプ体50と個別に対応して配置されている。複数の開口42bは、第2カムシャフト40の周方向の異なる位置に配置されている。シャフト体41の軸方向から見て、カム42Cとカム42Dとの開口42bに対応して配置されたデコンプ体50の第1接触面50aは、シャフト体41の周方向に離隔した位置に配置されている。
【0034】
図5は、
図2の第2カムシャフト40とデコンプシャフト43との断面図である。
図5は、シャフト40,43の径方向から見た断面を示す。
図5に示すように、第2カムシャフト40とデコンプシャフト43との径方向の間には、潤滑スペースSが配置されている。潤滑スペースSには、第2カムシャフト40の内周面と、デコンプシャフト43の外周面とを潤滑するための潤滑油が配置される。この潤滑油は、一例として、クランクシャフト31を潤滑するエンジンオイルである。
【0035】
内燃機関Eは、カムシャフト40の内部に配置されてデコンプシャフト43を軸支する複数の軸受を備える。本実施形態の複数の軸受は、一対の軸受BR1、BR2を含む。一例として、軸受BR1、BR2はニードルベアリングを含むが、軸受の構成は、これに限定されない。一例として、一対の軸受BR1、BR2は、シャフト体48の軸方向前記一端と、軸方向他端とに対応して配置されている。
【0036】
第2カムシャフト40は、複数のカム42のうち、隣接する2つのカムの間に位置してデコンプシャフト43を回転自在に軸支するシャフト支持部40aを有する。本実施形態のシャフト支持部40aは、第2カム42Bと第3カム42Cとの間に位置している。シャフト支持部40aは、一例として、第2カムシャフト40の内径が部分的に縮小された縮径部である。シャフト支持部40aは、シャフト体48の軸方向に延びる内周面を有する。シャフト支持部40aの内周面は、一例として平滑面である。シャフト支持部40aの内周面は、シャフト体48の外周面の少なくとも一部と対向する。シャフト支持部40aとデコンプシャフト43との間には、潤滑スペースSに存在する潤滑油の一部が配置される。これにより、シャフト支持部40aとデコンプシャフト43との間の摩擦抵抗が低減されている。本実施形態のシャフト体48のシャフト支持部40aと対向する外周面の一部には、内部に潤滑油が保持される溝48cが配置されている。シャフト支持部40aが隣接する2つのカムの間に位置することにより、デコンプ動作時にデコンプ体50が外部から受ける反力によりデコンプシャフト43が撓むのが適切に抑制される。これにより、デコンプ体50をより正確に動作させることができる。なお第2カムシャフト40は、複数のシャフト支持部40aを有していてもよい。
【0037】
図6は、
図1のクランクシャフト31の低速回転時のウェイト54の状態を示す図である。
図6では、平面視におけるスプロケットギヤ53が示されている。ここで言う低速回転の状態には、内燃機関Eの回転始動時のクランクシャフト31の回転状態が含まれる。
図6に示すように、スプロケットギヤ53は、デコンプシャフト43の一対の突起49aを外部に露出させる開口53aを有する。一対の突起49aは、スプロケットギヤ53の径方向に離隔して配置されている。スプロケットギヤ53の平面視において、ウェイト54は、軸体55に軸支された位置とスプロケットギヤ53の周方向に離隔した位置から、デコンプシャフト43の軸心よりもデコンプシャフト43の径方向外方で、一対の突起49aのうち遠位に位置する突起に向けて延びるアーム54aを有する。ウェイト54は、アーム54aの先端に配置され、且つ、開口53aを介して突起49aと係合する係合溝54bを有する。
【0038】
スプロケットギヤ53がデコンプシャフト43の軸回りに回転すると、一対のウェイト54A,54Bがスプロケットギヤ53と共に回転する。これにより、一対のウェイト54A,54Bに遠心力が作用する。
図7は、
図1のクランクシャフト31の高速回転時のウェイト54の状態を示す図である。ここで言う高速回転の状態には、内燃機関Eの回転始動後のクランクシャフト31の回転状態が含まれる。
図7に示すように、クランクシャフト31の回転数が増大するのに伴って前記遠心力が増大する。クランクシャフト31の回転数が、予め定められたデコンプ解除速度を超えると、前記遠心力が付勢体56の付勢力よりも大きくなる。これにより、一対のウェイト54A,54Bは、付勢体56の付勢力に抗って軸体55A,55Bの軸回りに互いに離れる方向に揺動する。このとき、一対のウェイト54A,54Bから付与される外力が、一対のウェイト54A,54Bの係合溝54bに係合した一対の突起49aを介してデコンプシャフト43に伝達される。デコンプシャフト43は、この外力により、シャフト体48の軸回りを一定範囲で回転する。これにより、デコンプシャフト43と第2カムシャフト40との軸回りの相対位置が変化する。ここで、本実施形態のデコンプ解除速度は、内燃機関Eの回転始動により得られるクランクシャフト31の所定の回転速度に設定される。
【0039】
また、スプロケットギヤ53の回転数が低減すると、前記遠心力は低減する。これにより、一対のウェイト54A,54Bは、付勢体56の付勢力により、互いに近接する方向に揺動する。このように、クランクシャフト31の回転数に応じて、第2カムシャフト40とデコンプシャフト43との軸回りの相対位置が変化する。本実施形態では、クランクシャフト31との回転数に応じて、一対のウェイト54A,54Bの相対位置が、
図6に示した互いに最も近接する第1位置と、
図7に示した互いに最も離れる第2位置との間で往復して変化する。
【0040】
図4に示すように、本実施形態の複数のデコンプ体50は、カム42Bに対応して配置されたデコンプ体50Bを含む。デコンプ体50Bは、カム42Bの外周面の所定位置において、カム42Bの外周面よりカム42Bの内方に退避可能に配置されている。また本実施形態の複数のデコンプ体50は、一対のカム42C,42Dに対応して配置された一対のデコンプ体50C,50Dを含む。一対のデコンプ体50C,50Dは、一対のカム42C、42Dの互いに異なる外周面の位置において、一対のカム42C,42Dの外周面より一対のカム42C,42Dの内方に退避可能に配置されている。
【0041】
本実施形態では、カム42Bに対するデコンプ体50Bの配置と、カム42Cに対するデコンプ体50Cの配置とが同様に設定され、カム42B,42Cに対するデコンプ体50B,50Cの配置と、カム42Dに対するデコンプ体50Dの配置とが、異なるように設定されている。なおカム42Aには、デコンプ体50は配置されていない。
【0042】
図8は、
図4の第3カム42C及びデコンプ体50Cの拡大断面図である。
図9は、
図4の第4カム42D及びデコンプ体50Dの拡大断面図である。
図8及び
図9では、基準位置P1に配置されたデコンプ体50C,50Dを破線で示し、突出位置P2に配置されたときのデコンプ体50C,50Dを実線で示している。本実施形態では、デコンプ体50B~50D及びシフター51を含む基本構成は同様である。このため、デコンプ体50B~50D及びシフター51について、
図8に示される構成を一例として説明する。
【0043】
図8に示すように、シフター51は、スリーブ57とデコンプ付勢体58とを有する。スリーブ57は、カム42の外周面におけるカム山42aとは略反対側の領域に配置された窪み42cの内部空間に配置される。窪み42cは、開口42bと連通している。スリーブ57には、デコンプ体50Cが挿通される。スリーブ57は、突出位置P2に配置されたデコンプ体50Cの一部を外部に露出させる開口57aを有する。スリーブ57は、カム42の内方に位置する基準位置P1と、基準位置P1からカム42の外周面より外方に向けて突出する突出位置P2との間のデコンプ体50Cの移動を案内する。デコンプ付勢体58は、スリーブ57の内部において、デコンプ体50Cを突出位置P2から基準位置P1に向かう方向に付勢する。付勢体58は、一例としてバネを含む。付勢体58の構成は、これに限定されない。
【0044】
デコンプ体50Cは、円柱状の形状を有する。デコンプ体50Cは、シャフト体48の径方向に延びている。また、本実施形態のデコンプ体50Cは、スリーブ57の軸方向に延びている。デコンプ体50Cは、長手方向一方に位置してバルブリフター45と接触する第1接触面50aと、長手方向他端に位置してデコンプシャフト43と接触する第2接触面50bとを有する。シャフト体48の軸方向から見て、第1接触面50aは、一例として、中央が両端よりも外部に向けて突出する円弧形状を有する。第2接触面50bは、デコンプシャフト43の軸回りの回転に伴い、シャフト体48の窪み48a内の底面と、当該底面のシャフト体48の周方向両側よりも外方に位置する周面48bとに交互に接触する。またデコンプ体50Cは、付勢体58と係合する係合部分50cを有する。係合部分50cは、一例として、デコンプ体50Cの径方向に延びる板状の形状を有する。本実施形態の付勢体58は、デコンプ体50Cに挿通された状態で、スリーブ57の開口周縁と、係合部分50cの板面とに当接している。
【0045】
図9に示すように、デコンプ体50Dは、第4カム42Dの外周面におけるカム山42aの頂部とは反対側の位置に対して、第4カム42Dの周方向にずれた位置から、第4カム42Dの外方へ突出可能に配置されている。本実施形態では、一例として、デコンプシャフト43の軸方向から見て、カム42C,42Dの内部領域のうち、カム42C,42Dのカム山42aの頂部とデコンプシャフト43の軸心とを通る直線L1により分割される同じ領域内に、デコンプ体50C,50Dが配置されている。また一例として、直線L1に対するデコンプ体50Cの軸線L2の傾斜角度θ1(
図8参照)は、直線L1に対するデコンプ体50Dの軸線L3の傾斜角度θ2(
図9参照)よりも小さい。傾斜角度θ1,θ2は、これに限定されず、適宜調整可能である。
【0046】
図10は、
図4のデコンプ動作中におけるデコンプ体50の拡大断面図である。
図10は、一例として突出位置P2に配置されたデコンプ体50Dを示している。
図10では、デコンプ体50Dが基準位置P1に配置されたときのバルブリフター45を破線で示している。
図10に示すように、デコンプ体50の第2接触面50bがシャフト体48の周面48bと接触するとき、シャフト体48から付与される外力が、デコンプ体50と付勢体58とに伝達される。この外力により、デコンプ体50は、付勢体58の弾性力に抗いながら、基準位置P1(
図9参照)から突出位置P2まで移動する。また、デコンプ体50の第2接触面50bがシャフト体48の窪み48aの底面と接触するとき、デコンプシャフト43からデコンプ体50と付勢体58とに付与される外力が縮小又は消失する。その結果、デコンプ体50は、付勢体58の弾性力により、突出位置P2から基準位置P1まで移動する。
【0047】
このように、デコンプ体50の位置P1,P2は、デコンプシャフト43の周方向におけるデコンプシャフト43とデコンプ体50との相対位置により変化する。本実施形態では、一対のウェイト54A,54Bが第1位置に配置されるときにデコンプ体50が突出位置P2に配置され、一対のウェイト54A,54Bが第2位置に配置されるときにデコンプ体50が基準位置P1に配置されるように、デコンプシャフト43の複数の窪み48aが配置されている。
【0048】
また、デコンプ体50が突出位置P2に位置するとき、デコンプ体50がカム42の外周面から外部に向けて突出し、第1接触面50aがバルブリフター45の表面と接触する。その結果、デコンプ体50からの外力が、バルブリフター45を介して、排気バルブ36と付勢体38とに伝達される。これにより排気バルブ36は、付勢体38の弾性力に抗いながら気筒30の内部に向けて押し下げられ、排気ポート30cが開放される。気筒30の内部空間は、外部と連通する状態となり、気筒30内の気体が排気ポート30cから排出される。これにより、気筒30内の圧力上昇が抑制される。また、前記ベース圧力に対して気筒30内の圧力が低下する。その結果、内燃機関Eの圧縮抵抗が低減される。
【0049】
また、デコンプ体50が基準位置P1に位置するとき、第1接触面50aがバルブリフター45の表面に対して非接触になる。これにより、デコンプ体50から排気バルブ36と付勢体38とに伝達される外力が消失する。その結果、排気バルブ36が付勢体38の付勢力により移動し、排気ポート30cが再び閉塞される。排気ポート30cは、デコンプ体50によっては開放されなくなる。
【0050】
以上の動作に基づき、内燃機関Eの回転始動によって得られるクランクシャフト31の回転速度が前記所定速度以下のとき、言い換えると内燃機関Eの回転始動時には、ウェイト54A,54Bが第1位置に配置され且つデコンプ体50が突出位置P2に配置される。これに伴い、排気ポート30cがデコンプ体50によって開放されることでデコンプ動作が実現される。また、クランクシャフト31の回転速度が前記所定速度を超えたとき、言い換えると内燃機関Eの回転始動後には、ウェイト54A,54Bが第2位置に配置され且つデコンプ体50が基準位置P1に配置される。これに伴い、デコンプ動作によって排気ポート30cを開放する動作は終了する。
【0051】
ここで本実施形態では、デコンプ体50の動作中において、シャフト支持部40aにより、デコンプ体50B,50Cの近傍でデコンプシャフト43が適切に支持される。これにより、デコンプ体50がバルブリフター45から受ける反力等の外力により、デコンプシャフト43が撓むのが抑制される。そのため、デコンプシャフト43から付与される外力をデコンプ体50に適切に伝達できる。従って、正確なデコンプ動作が実現される。
【0052】
また本実施形態では、一例として、複数のデコンプ体50のうち第2気筒8に対応して配置されたデコンプ体50の数が、複数のデコンプ体50のうち第1気筒7に対応して配置されたデコンプ体50の数よりも多い。また本実施形態では、第2気筒8に対応して配置された複数のデコンプ体50が、互いにカムシャフト40の軸回りの位相をずらして配置されている(
図4参照)。このため第2気筒8では、第1気筒7よりも、排気ポート30cがデコンプ体50により開放される開放期間、即ちバルブの開放期間を増大できる。これにより第2気筒8では、第1気筒7に比べて、デコンプ体50により圧縮抵抗を低減できる。
【0053】
このようにデコンプ装置9は、第1気筒7の減圧量に比べて第2気筒8の減圧量を大きくするため、一例として、内燃機関Eの圧縮行程において、第1気筒7の開放期間に比べて第2気筒8の開放期間を大きくするように、複数のバルブを駆動する。
【0054】
以下、デコンプ装置9によるバルブの駆動例について説明する。
図11は、
図1の内燃機関Eのカムシャフト39,40の回転角度とバルブ35、36のリフト量との関係を示す図である。
図11中、上位に示されるグラフは第1気筒7に対応し、下位に示されるグラフは第2気筒8に対応する。各グラフの縦軸は、吸気バルブ35と排気バルブ36とのリフト量の変化を示している。各グラフの横軸は、内燃機関Eの動作周期の1サイクル中に2回転するカムシャフト40の所定の基準角に対する軸回りの回転角度範囲を示している。
【0055】
図11では、デコンプ体50Bによる排気バルブ36のリフト量をグラフ線BL1で示している。また、デコンプ体50Cによる排気バルブ36のリフト量をグラフ線BL2で示している。また、デコンプ体50Dによる排気バルブ36のリフト量をグラフ線BL3で示している。また
図11では、デコンプ動作がないとした場合の圧縮期間Q0を各グラフに示している。また
図11では、便宜上、第1気筒7と第2気筒8とにおいて、カム42Xによる吸気バルブ35のリフトタイミングを一致させ、且つ、カム42Yによる排気バルブ36のリフトタイミングを一致させている。本実施形態の前記各リフトタイミングは、実際には互いにずれて設定されている。
【0056】
図11に示すように、本実施形態の内燃機関Eでは、動作周期の1サイクル中において、第1気筒7及び第2気筒8の両方で排気バルブ36を用いてデコンプ動作が行われる。一例として、前記1サイクル中の第2気筒8に対応するデコンプ動作数は、前記1サイクル中の第1気筒7に対応するデコンプ動作数よりも多い。本実施形態では、前記1サイクル中において、第2気筒8に対して複数のデコンプ動作が行われる。この複数のデコンプ動作には、2つのデコンプ動作が含まれているが、3以上のデコンプ動作が含まれていてもよい。
【0057】
本実施形態では、デコンプ動作数が上記のように設定されることで、前記1サイクル中の第2気筒8に対応するバルブの開放期間が、前記1サイクル中の第1気筒7に対応するバルブの開放期間よりも長い。言い換えると、前記1サイクル中の第2気筒8に対応するデコンプ動作の圧縮期間Q2が、前記1サイクル中の第1気筒7に対応するデコンプ動作の圧縮期間Q1よりも短い。
【0058】
これにより内燃機関Eでは、回転始動時において、第1気筒7と第2気筒8との内部の圧力が回転始動後よりも減圧される。更に前記1サイクル中において、第1気筒7の減圧量に比べて第2気筒8の減圧量が増大される。これにより、例えば、第1気筒7の燃焼室30aで燃焼を行うことで内燃機関Eの回転駆動力を得つつ、第2気筒8の圧縮抵抗を第1気筒7の圧縮抵抗よりも低減して、内燃機関E全体での圧縮抵抗の低減を図れる。その結果、内燃機関Eの回転始動性が向上される。
【0059】
ここで例えば、内燃機関Eの始動用モータとしてISGが用いられる場合、始動用モータのトルクが低いために内燃機関Eの始動性の向上が求められることがある。また内燃機関Eでは、設計条件や使用状況等によっても始動性の向上が求められることがある。ここで言う使用状況には、例えば、内燃機関Eをアイドリングストップ状態から復帰させる場合や、車両1の走行中に、走行モードを第1走行モードから第2走行モードに切り替えて内燃機関Eを急始動させる場合が含まれる。本実施形態によれば、デコンプ装置9により内燃機関Eの回転始動性が向上されるため、内燃機関Eの回転数を始動開始から短時間で上昇できる。よって、これらの状況に対しても適切に対処できる。また車両1の走行中に、走行モードを第1走行モードから第2走行モードに切り替えて内燃機関Eを始動する場合、内燃機関Eの回転数が十分に上昇していないことで車両1の搭乗者が感じ取る走行フィーリングが低下することを防止できる。また本実施形態によれば、クランクシャフト31の回転数に応じてデコンプ装置9が自動で作動する。このため、例えば、内燃機関Eの回転始動時に第2気筒8の圧縮抵抗を第1気筒7の圧縮抵抗よりも低減する操作を内燃機関Eの使用者や車両1の搭乗者が行わなくてもよい。
【0060】
また本実施形態では、第2気筒8に対応して配置された複数のデコンプ体50が、カムシャフト40の軸回りの位相をずらして配置されている。このため、グラフ線BL2,BL3から把握できるように、前記1サイクル中の複数のデコンプ動作のうち、先行するデコンプ動作とこれに続く別のデコンプ動作との間が離れている。
【0061】
複数のデコンプ動作が行われるタイミングは、デコンプシャフト43の周方向における複数の窪み48aの位置により調整される。例えば、デコンプシャフト43の軸方向から見て、デコンプシャフト43の周方向における複数の窪み48aの間隔を大きくすると、先行するデコンプ動作とこれに続く別のデコンプ動作との間の時間が延長される。また、複数の窪み48aの前記間隔を小さくすると、先行するデコンプ動作とこれに続く別のデコンプ動作との間の時間が短縮される。また、デコンプシャフト43の軸方向から見て、デコンプシャフト43の周方向における複数の窪み48aを部分的に重なるように配置すると、1つ当たりのデコンプ動作時間を延長できる。本実施形態では、一例として、前記1サイクル中の複数のデコンプ動作において吸気バルブ35と排気バルブ36とが同時に開放されるタイミングが存在する。前記1サイクル中の複数のデコンプ動作は、吸気バルブ35が開放されないタイミングで行われてもよい。
【0062】
また複数のデコンプ体50は、例えば、異なる形状を有するデコンプ体50を含んでいてもよい。この場合、例えば、第1気筒7に対応して配置されるデコンプ体50と、第2気筒8に対応して配置されるデコンプ体50の形状が異なっていてもよい。また本実施形態では、1つのカム42に対して1つのデコンプ体50が配置されているが、1つのカム42に対して2つ以上のデコンプ体50が配置されていてもよい。この場合、1つのカム42のカム山42aと離隔した位置の外周面に対して、2つ以上のデコンプ体50がカム42の周方向に離隔して配置されていてもよい。また本実施形態では、デコンプ体50から付与される外力が排気バルブ36に伝達されることにより排気ポート30cが開放されてデコンプ動作が行われるが、デコンプ体50から付与される外力が吸気バルブ35に伝達されることより吸気ポート30bが開放されてデコンプ動作が行われてもよい。
【0063】
また、デコンプ装置9が第1気筒7の減圧量に比べて第2気筒8の減圧量を大きくする方法は、内燃機関Eの圧縮行程において、第1気筒7の開放期間に比べて第2気筒8の開放期間を大きくするように、複数のバルブを駆動する方法に限定されない。例えばデコンプ装置9は、内燃機関Eの圧縮行程において、第1気筒7に対応して配置されるバルブのリフト量に比べて、第2気筒8に対応して配置されるバルブのリフト量を大きくするように、複数のバルブを駆動してもよい。
【0064】
ここで言うバルブのリフト量とは、言い換えると、例えばバルブ35,36によるポート30b,30cの開放量を指す。ポート30b,30cの開放量は、一定範囲内において、単位時間当たりのポート30b,30cを通過する気体の流量と比例する。デコンプ装置9は、例えば、カム42の外周面からのデコンプ体50の突出量を増大するようにデコンプ体50の突出位置P2を調整することで、バルブのリフト量を増大させることができる。
【0065】
また、デコンプ装置9が第1気筒7の減圧量に比べて第2気筒8の減圧量を大きくする方法としては、例えば、第2気筒8のポート30b,30cの開口径を第1気筒7のポート30b,30cの開口径よりも大きくする方法であってもよい。
【0066】
また内燃機関Eは、単一の気筒30を備えていてもよい。この場合、複数のデコンプ体50は、一対のカム42C,42Dのシャフト体41の軸回りの互いに異なる外周面の位置において、一対のカム42C,42Dの外周面より一対のカム42C,42Dの内方に退避可能に配置されていてもよい。これにより、内燃機関の回転始動時において、複数のデコンプ体50を異なるタイミングで動作させることで、クランクシャフト31を回転始動するために必要な力を得られ易くして、内燃機関Eの始動性を向上できる。以下、本実施形態の第1及び第2変形例について説明する。
【0067】
(第1変形例)
第1変形例に係る車両は、シリーズハイブリッド型車両である。この車両は、内燃機関Eの駆動力により発電する発電機Gと、発電機Gの出力により駆動される走行用の電動モータMと、電動モータMの出力により駆動される駆動輪DWとを備える。またこの車両は、発電機Gと電動モータMとに接続された蓄電池Bとを備える。蓄電池Bは、発電機G及び電動モータMの少なくともいずれかの出力により充電される。蓄電池Bは、走行中に電動モータMに対して電力を供給する。内燃機関Eは、第1実施形態と同様のデコンプ装置9を備える。
【0068】
第1変形例に係る車両においても、第1実施形態の車両1と同様の効果が得られる。また、内燃機関Eの駆動力により発電する発電機Gの出力により走行用の電動モータMを駆動し、電動モータMにより駆動輪DWが駆動される場合でも、内燃機関Eの始動性が向上されることで、車両を迅速に走行可能な状態に移行させることができる。また、人から付与される外力によってクランクシャフト31が回転始動される場合でも、同様の効果を得ることができる。
【0069】
(第2変形例)
第2変形例に係る車両は、第1実施形態の車両1において、更に制御装置14が、内燃機関Eの回転始動時と、内燃機関Eの回転始動後とで、第2気筒8内の燃焼状態を異ならせるように、第2気筒8内の燃焼状態を制御する。制御装置14は、一例として、内燃機関Eの回転始動時の第2気筒8内の燃焼状態を、内燃機関Eの回転始動後の第2気筒8内の燃焼状態に比べて穏やかになるように制御する。ここで言う「穏やかになるように制御する」ことには、例えば、第2気筒8内への燃料供給量を減らすように、フュエルインジェクターFを制御することが含まれる。また例えば、第2気筒8の吸気量を減らすように、電子制御スロットルTを制御することが含まれる。また例えば、第2気筒8の燃焼を停止するように、点火装置Iを制御することが含まれる。なお、内燃機関Eの回転始動後、制御装置14は、第1気筒7と第2気筒8との燃焼状態を同様に制御する。
【0070】
第2変形例に係る車両においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。また、第2気筒8内の燃焼状態を制御する制御装置14を用いることで、例えば、内燃機関Eの回転始動時において、第2気筒8での燃料の燃焼が停止されたり、第2気筒8への燃料供給が停止されたり、第2気筒8での燃焼規模が回転始動後のものに比べて縮小される。これにより、内燃機関Eの燃料消費量を節約できると共に、第2気筒8内の未燃ガスが外部に流出するのを抑制又は回避できる。以下、第2実施形態について、第1実施形態との差異を中心に説明する。
【0071】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る車両の内燃機関Eは、第1気筒7と第2気筒8とに対応して配置された同数のデコンプ体50を有するデコンプ装置9を備える。デコンプ装置9は、一対のカムが取り付けられた筒体であるカムシャフトと、カムシャフトの内部に挿通され、前記カムシャフトの軸回りに前記カムシャフトと個別に回転自在に軸支されて、デコンプ体50をシフトさせるための外力を複数のデコンプ体50に付与するデコンプシャフトとを有する。
【0072】
第2実施形態のデコンプ装置9は、一対のカムとして、第2カム42Bと第3カム42Cとが取り付けられた第2カムシャフト40を有する。またデコンプ装置9は、一例として、第2カム42Bに対応して配置されたデコンプ体50Bと、第3カム42Cに対応して配置されたデコンプ体50Cとを有する。第2カムシャフト40は、一対のカムの間に位置してデコンプシャフト43を回転自在に軸支するシャフト支持部40aを有する(
図5参照)。第2実施形態のデコンプ装置9では、一例として、デコンプ体50Dは省略されている。第2実施形態のシャフト支持部40aは、第1実施形態のものと同様の構成を有する。
【0073】
第2実施形態の内燃機関Eによれば、シャフト支持部40aにより、デコンプ体50B、50Cの近傍でデコンプシャフト43が適切に支持される。これにより、デコンプ体50がバルブリフター45から受ける反力等の外力により、第2カムシャフト40の内部でデコンプシャフト43が撓むのが抑制される。よって、デコンプシャフト43が安定して第2カムシャフト40に支持される。そのため、デコンプシャフト43から付与される外力をデコンプ体50に適切に伝達でき、デコンプ体50を基準位置P1と突出位置P2との間で精度よく移動させることができる。これにより、デコンプ体50の突出量が不足するのを防止でき、正確なデコンプ動作が実現される。従って、内燃機関Eの回転始動時において、デコンプ動作が適切に行われないことで内燃機関Eの圧縮抵抗の低減が不足するのを防止できる。その結果、内燃機関Eの回転始動性が向上される。以下、第2実施形態の変形例である第3変形例について説明する。
【0074】
(第3変形例)
第3変形例に係る車両の内燃機関Eは、単一の気筒30を備える。この内燃機関Eが備えるデコンプ装置9は、一対のカムとして、第3カム42Cと第4カム43Dとが取り付けられた第2カムシャフト40を有する。第2カムシャフト40は、これらの一対のカムの間に位置してデコンプシャフト43を回転自在に軸支するシャフト支持部40aを有する。即ち、本変形例のシャフト支持部は、第3カム42Cと第4カム43Dとの間に対応して配置されている。
【0075】
以上の構成を有する第3変形例の車両においても、第2実施形態と同様の効果が奏される。即ち、デコンプ体50がバルブリフター45から受ける反力等の外力により、第2カムシャフト40の内部でデコンプシャフト43が撓むのが抑制されるため、デコンプシャフト43から付与される外力をデコンプ体50に適切に伝達できる。これにより、正確なデコンプ動作が実現される。
【0076】
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施形態及び変形例を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略等を行った実施形態にも適用可能である。また、前記実施形態及び前記変形例で説明した各構成要素を組み合わせて新たな実施形態とすることも可能である。例えば、1つの実施形態中の一部の構成を他の構成に適用してもよく、実施形態中の一部の構成は、その実施形態中の他の構成から分離して任意に抽出可能である。また、添付図面及び詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、前記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれる。
【0077】
(開示項目)
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態の開示である。
【0078】
[項目1]
クランクシャフトと、
第1気筒と第2気筒と、
回転始動時において、前記第1気筒と前記第2気筒とを回転始動後よりも減圧し、且つ、前記第1気筒の減圧量に比べて前記第2気筒の減圧量を大きくするデコンプ装置と、を備える内燃機関。
【0079】
上記構成によれば、内燃機関の回転始動時において、デコンプ装置が第1気筒と第2気筒との両方を回転始動後よりも減圧する。これにより、単一の気筒のみを回転始動後よりも減圧する場合に比べて、内燃機関の回転始動時の圧縮抵抗を縮小できる。また、第2気筒に比べて減圧量が小さい第1気筒では、第2気筒に比べて燃焼時の爆発力を高められる。これにより、クランクシャフトを回転させるために必要な力を生み出し易くできる。言い換えると、第1気筒に比べて減圧量が大きい第2気筒では、クランクシャフトを回転させるために必要な力が少ない。このため第2気筒では、第1気筒に比べて、減圧量を更に増大できる。よって、圧縮抵抗の低減効果を高めることができる。これにより、内燃機関の回転始動時において、クランクシャフトの回転させるために必要な力が得られると共に、圧縮抵抗の更なる低減を図れる。
【0080】
[項目2]
前記第1気筒と前記第2気筒との燃焼室を外部に対して開放及び遮断する複数のバルブを備え、
前記デコンプ装置は、前記内燃機関の圧縮行程において、前記第1気筒の開放期間に比べて、前記第2気筒の開放期間を大きくするように、前記複数のバルブを駆動する、項目1に記載の内燃機関。
【0081】
上記構成によれば、内燃機関の回転始動時において、デコンプ装置が複数のバルブを駆動することにより、第1気筒の減圧量に比べて、第2気筒の減圧量を増大できる。また、デコンプ装置が内燃機関の圧縮行程において、第1及び第2気筒の開放期間を異ならせることで、第1気筒の減圧量に比べて第2気筒の減圧量を増大するため、内燃機関の圧縮行程以外の行程への影響を抑えて、第2気筒の減圧量の増大を図ることができる。
【0082】
[項目3]
前記第1気筒と前記第2気筒との燃焼室を外部に対して開放及び遮断する複数のバルブと、
所定の軸回りに回転されて前記複数のバルブに駆動力を与える複数のカムと、を備え、
前記デコンプ装置は、
前記第1気筒と前記第2気筒とに個別に対応して配置され、前記複数のカムの内方に位置する基準位置と、前記基準位置から前記複数のカムの外周面より外方に向けて突出する突出位置との間でシフト可能に構成された複数のデコンプ体と、
前記クランクシャフトの回転数に応じて、前記複数のデコンプ体を前記基準位置と前記突出位置との間でシフトさせるシフターと、を有する、項目1又は2に記載の内燃機関。
【0083】
上記構成によれば、クランクシャフトの回転数に応じて、デコンプ体のカムの外周面より外方に向けて突出する突出量を変化させることができる。これにより、内燃機関の回転始動時において、内燃機関の回転始動後に比べて、バルブの開放時間を延長できる。また、内燃機関の回転始動時における第1気筒と第2気筒との減圧量を、第1気筒と第2気筒とに個別に対応して配置されたデコンプ体により調整し易くできる。
【0084】
[項目4]
前記複数のデコンプ体のうち、前記第2気筒に対応して配置されたデコンプ体の数が、前記複数のデコンプ体のうち、前記第1気筒に対応して配置されたデコンプ体の数よりも多い、項目3に記載の内燃機関。
【0085】
上記構成によれば、内燃機関の回転始動時において、第2気筒に対応して配置されたカムとデコンプ体とを含む複合体を、第1気筒に対応して配置されたカムとデコンプ体とを含む複合体よりも大型化できる。これにより、第1気筒に比べて第2気筒の減圧量を増大し易くできる。
【0086】
[項目5]
前記複数のカムは、前記第2気筒に対応して配置された一対のカムを含み、
前記複数のデコンプ体は、前記一対のカムに対応して配置された一対のデコンプ体を含む、項目3又は4に記載の内燃機関。
【0087】
上記構成によれば、例えば、単一のカムに対応して複数のデコンプ体を配置した場合に比べて、カムに対応してデコンプ体を配置し易くできる。これにより、例えばカムの内部にデコンプ体を収容し易くできる。その結果、内燃機関の組立を容易化できる。
【0088】
[項目6]
前記一対のデコンプ体は、前記一対のカムの互いに異なる外周面の位置において、前記一対のカムの前記外周面より前記一対のカムの内方に退避可能に配置されている、項目5に記載の内燃機関。
【0089】
上記構成によれば、一対のカムの外周面より一対のカムの内方に退避可能に配置された一対のデコンプ体を用いて、異なるタイミングで、第2気筒に対応して配置されたバルブを動作させることができる。これにより、内燃機関の回転始動時において、第2気筒全体でのバルブの開放期間を増大できる。また、例えば単一のカムの外周面より一対のカムの内方に退避可能に一対のデコンプ体を配置した場合に比べ、カムとデコンプ体とを含む複合体の外形が、カムのみの外形に比べて変化するのを抑制できる。よって、内燃機関を製造し易くできる。
【0090】
[項目7]
前記複数のデコンプ体は、同一構造を有する、項目3~6のいずれか1項に記載の内燃機関。
【0091】
上記構成によれば、内燃機関の部品を共通化できる。よって、部品の種類を低減することにより、内燃機関の製造コストの低減を図れる。
【0092】
[項目8]
全ての前記デコンプ体と、前記全ての前記デコンプ体に対応する全ての前記複数のカムと、が取り付けられた単一のカムシャフトを備える、項目3~7のいずれか1項に記載の内燃機関。
【0093】
上記構成によれば、複数のデコンプ体を配置するカムが取り付けられたカムシャフトを集約できる。これにより、複数のデコンプ体を基準位置と突出位置との間でシフトさせるシフターの構成を容易に共通化できる。よって、例えば、少なくとも2つ以上のデコンプ体が複数のカムシャフトに個別に対応して配置される場合に比べ、内燃機関の構造を簡素化できる。
【0094】
[項目9]
前記デコンプ装置は、
前記複数のカムが取り付けられた筒体であるカムシャフトと、
前記カムシャフトの内部に挿通され、前記カムシャフトの軸回りに前記カムシャフトと個別に回転自在に軸支されて、前記デコンプ体をシフトさせるための外力を前記複数のデコンプ体に付与するデコンプシャフトと、を有し、
前記カムシャフトは、前記複数のカムのうち、隣接する2つのカムの間に位置して前記デコンプシャフトを回転自在に軸支するシャフト支持部を有する、項目3~8のいずれか1項に記載の内燃機関。
【0095】
上記構成によれば、デコンプ体の動作中において、前記複数のカムのうち、隣接する2つのカムの間に位置するシャフト支持部により、デコンプ体の近傍でデコンプシャフトが適切に支持される。これにより、デコンプ体が外部から受ける外力によりデコンプシャフトが撓むのが抑制される。そのため、デコンプシャフトから付与される外力をデコンプ体に適切に伝達できる。これにより正確なデコンプ動作が実現される。従って、内燃機関の回転始動時において、デコンプ動作が適切に行われないことで内燃機関Eの圧縮抵抗の低減が不足するのを防止できる。
【0096】
[項目10]
前記内燃機関の回転始動時と、前記内燃機関の回転始動後とで、前記第2気筒内の燃焼状態を異ならせるように、前記燃焼状態を制御する制御装置を更に備える、項目1~9のいずれか1項に記載の内燃機関。
【0097】
上記構成によれば、第2気筒内の燃焼状態を制御する制御装置を用いることで、例えば、内燃機関の回転始動時において、第2気筒での燃料の燃焼が停止されたり、第2気筒への燃料供給が停止されたり、第2気筒での燃焼規模が回転始動後のものに比べて縮小される。これにより、内燃機関の燃料消費量を節約できると共に、第2気筒内の未燃ガスが外部に流出するのを抑制又は回避できる。
【0098】
[項目11]
前記クランクシャフトの駆動力により発電し、且つ、前記内燃機関の回転始動時に前記クランクシャフトを回転させる始動モータを更に備える、項目1~10のいずれか1項に記載の内燃機関。
【0099】
ここで始動モータとしては、例えばISGモータを利用できる。このような始動モータは、発電機能を有しないモータに比べて変速構造が異なる。このため始動モータは、発電機能を優先させた場合には始動トルクが小さい場合がある。これに対して上記構成によれば、内燃機関の回転始動時において、クランクシャフトの回転させるために必要な力が得られると共に、圧縮抵抗の更なる低減を図れるので、前記始動モータの始動トルクが小さい場合でも、クランクシャフトを速やかに回転できる。よって、複数の気筒を有する内燃機関の始動性を向上できる。
【0100】
[項目12]
クランクシャフトと、
気筒と、
前記気筒の燃焼室を外部に対して開放及び遮断する複数のバルブと、
回転始動時において、前記気筒を回転始動後よりも減圧するデコンプ装置と、
所定の軸回りに回転されて前記複数のバルブに駆動力を与える一対のカムと、を備え、
前記デコンプ装置は、
前記気筒に対応して配置され、前記一対のカムの内方に位置する基準位置と、前記基準位置から前記一対のカムの外周面より外方に向けて突出する突出位置との間でシフト可能に構成された複数のデコンプ体を有し、
前記複数のデコンプ体は、前記一対のカムの互いに異なる外周面の位置において、前記一対のカムの前記外周面より前記一対のカムの内方に退避可能に配置されている、内燃機関。
【0101】
上記構成によれば、内燃機関の回転始動時において、デコンプ装置の複数のデコンプ体を異なるタイミングで動作させることで、クランクシャフトを回転始動するために必要な力を得易くできる。また、内燃機関の回転始動時における圧縮抵抗の更なる低減を図り易くできる。これにより、内燃機関の始動性を向上できる。
【0102】
[項目13]
前記デコンプ装置は、
前記一対のカムが取り付けられた筒体であるカムシャフトと、
前記カムシャフトの内部に挿通され、前記カムシャフトの軸回りに前記カムシャフトと個別に回転自在に軸支されて、前記デコンプ体をシフトさせるための外力を前記複数のデコンプ体に付与するデコンプシャフトと、を有し、
前記カムシャフトは、前記一対のカムの間に位置して前記デコンプシャフトを回転自在に軸支するシャフト支持部を有する、項目12に記載の内燃機関。
【0103】
上記構成によれば、デコンプ体の動作中において、一対のカムの間に位置するシャフト支持部により、デコンプ体の近傍でデコンプシャフトが適切に支持される。これにより、デコンプ体が外部から受ける外力によりデコンプシャフトが撓むのが抑制される。そのため、デコンプシャフトから付与される外力をデコンプ体に適切に伝達できる。これにより正確なデコンプ動作が実現される。従って、内燃機関の回転始動時において、デコンプ動作が適切に行われないことで内燃機関Eの圧縮抵抗の低減が不足するのを防止できる。
【0104】
[項目14]
項目1~13のいずれか1項に記載の前記内燃機関である、走行用の第1駆動源と、
前記第1駆動源とは別の走行用の第2駆動源と、を備え、
前記第2駆動源による走行中に、前記第1駆動源が始動可能に構成されている、車両。
【0105】
上記構成によれば、複数の気筒を有する内燃機関である第1駆動源と、第1駆動源とは別の走行用の第2駆動源を備える車両において、第2駆動源による走行中の第1駆動源の始動性が向上される。このため、第2駆動源による走行中に第1駆動源の始動を早めることができる。その結果、第2駆動源による走行中に、第2駆動源による走行モードから第1駆動源による走行モードに切り替えた際に、内燃機関の回転数が十分上昇していないことで車両の搭乗者が感じ取る走行フィーリングが低下するのを防止できる。
【0106】
[項目15]
クランクシャフトと、
第1気筒と第2気筒と、
回転始動時において、前記第1気筒と前記第2気筒とを始動後よりも減圧し、且つ、前記第1気筒の減圧量に比べて前記第2気筒の減圧量を大きくするデコンプ装置と、を有する内燃機関を備え、
前記クランクシャフトの回転により始動する、車両。
【0107】
上記構成によれば、車両が備える内燃機関において、クランクシャフトを回転させるために必要な力が得られると共に、圧縮抵抗の更なる低減を図れる。このため、例えば車両をスムーズに発車させることができる。
[項目16]
前記内燃機関の駆動力により発電する発電機と、
前記発電機の出力により駆動される走行用の電動モータと、
前記発電機と前記電動モータとに接続された蓄電池と、
前記電動モータの出力により駆動される駆動輪と、を備える、項目12又は13に記載の車両。
【0108】
上記構成によれば、内燃機関の駆動力で発電する発電機の出力により走行用の電動モータを駆動し、当該電動モータにより駆動輪が駆動される場合でも、内燃機関の始動性が向上されることで、車両を迅速に走行可能な状態に移行させることができる。
【0109】
[項目17]
クランクシャフトと、
第1気筒と第2気筒と、
前記第1気筒と前記第2気筒との燃焼室を外部に対して開放及び遮断する複数のバルブと、
前記クランクシャフトの回転駆動力が伝達されて軸回りに回転するカムシャフトを含み且つ吸気行程及び排気行程の少なくともいずれかにおいて前記複数のバルブを動作させる動弁装置と、
回転始動時において、前記第1気筒と前記第2気筒とを回転始動後よりも減圧するデコンプ装置と、を備え、
前記デコンプ装置は、
前記第1気筒と前記第2気筒とに個別に対応して設けられ、前記複数のカムの内方に位置する基準位置と、前記基準位置から前記複数のカムの外周面より外方に向けて突出する突出位置との間でシフト可能に構成された複数のデコンプ体と、
前記クランクシャフトの回転数に応じて、前記複数のデコンプ体を前記基準位置と前記突出位置との間でシフトさせるシフターと、を有し、
前記少なくとも1つのバルブが、前記少なくとも1つのデコンプ体から伝達される外力により開放されることにより、前記第1気筒の減圧量に比べて前記第2気筒の減圧量を大きくさせるように構成されている、内燃機関。
【符号の説明】
【0110】
DW 駆動輪
E 内燃機関
G 発電機(始動モータ)
M 電動モータ
P1 基準位置
P2 突出位置
1 車両
3 第1駆動源
4 第2駆動源
7 第1気筒
8 第2気筒
9 デコンプ装置
14 制御装置
30 気筒
31 クランクシャフト
36 排気バルブ(バルブ)
40 カムシャフト(第2カムシャフト)
40a シャフト支持部
42、42Y カム
42C、42D 一対のカム
43 デコンプシャフト
50 デコンプ体
50C、50D 一対のデコンプ体
51 シフター