(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089353
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20240626BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20240626BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20240626BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20240626BHJP
C30B 29/36 20060101ALI20240626BHJP
C30B 25/20 20060101ALI20240626BHJP
C23C 16/42 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
H01L29/78 658E
H01L29/78 653A
H01L29/78 652F
H01L29/78 652S
H01L29/78 652H
H01L29/78 652T
H01L21/205
C30B29/36 A
C30B25/20
C23C16/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204662
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 克己
(72)【発明者】
【氏名】荒内 琢士
【テーマコード(参考)】
4G077
4K030
5F045
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077BE08
4G077DB01
4G077EB01
4G077HA06
4K030AA06
4K030AA09
4K030AA20
4K030BA37
4K030BB02
4K030CA04
4K030CA12
4K030CA17
4K030FA10
4K030JA05
4K030LA12
5F045AA03
5F045AB06
5F045AC01
5F045AC13
5F045AC15
5F045BB02
5F045DP03
5F045EE17
(57)【要約】
【課題】ドーパント濃度が均一なSiC層を形成し得る技術を提供すること。
【解決手段】半導体装置の製造方法は、チャンバ(90)内に、Cを含む第1原料ガス、Siを含む第2原料ガス、及び、ドーパントガスを供給することによって、チャンバ内に配置された半導体基板(28b)上にエピタキシャル成長によってn型のSiC層(28a)を形成する第1工程と、チャンバ内に、第1原料ガス、第2原料ガス、及び、ドーパントガスを供給することによって、エピタキシャル成長によってSiC層の厚みを増加させる第2工程と、を備える。第2工程では第1工程よりも、第1原料ガスと第2原料ガスの総流量が高く、第2工程では第1工程よりも、第1原料ガスの流量を第2原料ガスの流量で除算した値である炭素供給比が低い。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置の製造方法であって、
チャンバ(90)内に、Cを含む第1原料ガス、Siを含む第2原料ガス、及び、ドーパントガスを供給することによって、前記チャンバ内に配置された半導体基板(28b)上にエピタキシャル成長によってn型のSiC層(28a)を形成する第1工程と、
前記チャンバ内に、前記第1原料ガス、前記第2原料ガス、及び、前記ドーパントガスを供給することによって、エピタキシャル成長によって前記SiC層の厚みを増加させる第2工程と、
を備え、
前記第2工程では前記第1工程よりも、前記第1原料ガスと前記第2原料ガスの総流量が高く、
前記第2工程では前記第1工程よりも、前記第1原料ガスの流量を前記第2原料ガスの流量で除算した値である炭素供給比が低い、製造方法。
【請求項2】
半導体装置の製造方法であって、
チャンバ(90)内に、Cを含む第1原料ガス、Siを含む第2原料ガス、ドーパントガス、及び、Clを含むCl系ガスを供給することによって、前記チャンバ内に配置された半導体基板(28b)上にエピタキシャル成長によってn型のSiC層(28a)を形成する第1工程と、
前記チャンバ内に、前記第1原料ガス、前記第2原料ガス、前記ドーパントガス、及び、前記Cl系ガスを供給することによって、エピタキシャル成長によって前記SiC層の厚みを増加させる第2工程と、
を備え、
前記第2工程では前記第1工程よりも、前記第1原料ガスと前記第2原料ガスの総流量が高く、
前記第2工程では前記第1工程よりも、前記Cl系ガスの流量を前記第2原料ガスの流量で除算した値である塩素供給比が高い、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、SiC層をエピタキシャル成長させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、SiC層をエピタキシャル成長させる技術が開示されている。この技術では、まず、SiC基板上に、第1成長速度でSiC層をエピタキシャル成長させる。次に、エピタキシャル成長により、第1成長速度よりも高い第2成長速度でSiC層の厚みを増加させる。工程条件が安定しない成長の初期では、低速の第1成長速度でSiC層を成長させることで、欠陥の発生を抑制する。また、工程条件が安定した後は、高速の第2成長速度でSiC層を成長させることで、効率的にSiC層を成長させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Siを含む原料ガスはCを含む原料ガスよりも分解しやすい。このため、エピタキシャル成長中に、Siを含む原料ガスの分解がCを含む原料ガスの分解よりも早く進行する。したがって、チャンバ内に存在する分解済みのC原子と分解済みのSi原子の数の比率であるC/Si比(より詳細には、分解済みのC原子数を分解済みのSi原子数で除算した値)は、エピタキシャル成長の初期において低く、エピタキシャル成長中に上昇する。C/Si比が低いと成長するSiC層中にドーパントが取り込まれ易く、C/Si比が高いと成長するSiC層中にドーパントが取り込まれ難い。したがって、特許文献1の技術では、エピタキシャル成長の初期ではドーパント濃度が高いSiC層が成長し、その後、ドーパント濃度が低いSiC層が成長する。このように、特許文献1の技術では、SiC層中におけるドーパント濃度を均一化することが困難であった。本明細書では、ドーパント濃度が均一なSiC層を形成し得る技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する第1の製造方法は、第1工程と第2工程を有する。前記第1工程では、チャンバ(90)内に、Cを含む第1原料ガス、Siを含む第2原料ガス、及び、ドーパントガスを供給することによって、前記チャンバ内に配置された半導体基板(28b)上にエピタキシャル成長によってn型のSiC層(28a)を形成する。前記第2工程では、前記チャンバ内に、前記第1原料ガス、前記第2原料ガス、及び、前記ドーパントガスを供給することによって、エピタキシャル成長によって前記SiC層の厚みを増加させる。前記第2工程では前記第1工程よりも、前記第1原料ガスと前記第2原料ガスの総流量が高く、前記第2工程では前記第1工程よりも、前記第1原料ガスの流量を前記第2原料ガスの流量で除算した値である炭素供給比が低い。
【0006】
上記の構成によると、第2工程では第1工程よりも炭素供給比が低い。すなわち、エピタキシャル成長の初期である第1工程(すなわち、第1原料ガスが分解し難い第1工程)では炭素供給比が高い。また、その後の第2工程(すなわち、第1原料ガスが分解し易い第2工程)では炭素供給比が低い。このため、SiC層の成長中にC/Si比の上昇を抑制できる。したがって、ドーパント濃度が均一なSiC層を形成することができる。
【0007】
本明細書が開示する第2の製造方法は、第1工程と第2工程を有する。前記第1工程では、チャンバ(90)内に、Cを含む第1原料ガス、Siを含む第2原料ガス、ドーパントガス、及び、Clを含むCl系ガスを供給することによって、前記チャンバ内に配置された半導体基板(28b)上にエピタキシャル成長によってn型のSiC層(28a)を形成する。前記第2工程では、前記チャンバ内に、前記第1原料ガス、前記第2原料ガス、前記ドーパントガス、及び、前記Cl系ガスを供給することによって、エピタキシャル成長によって前記SiC層の厚みを増加させる。前記第2工程では前記第1工程よりも、前記第1原料ガスと前記第2原料ガスの総流量が高い。前記第2工程では前記第1工程よりも、前記Cl系ガスの流量を前記第2原料ガスの流量で除算した値である塩素供給比が高い。
【0008】
塩素(Cl)を含むCl系ガスをチャンバ内に供給すると、チャンバ内でシリコンの液滴が生成され難くなる。したがって、チャンバ内に供給されるCl系ガスの流量が増えると、チャンバ内に存在する分解済みのSi原子(すなわち、反応性のシリコン材料)が増加する。上記の構成によると、第2工程では第1工程よりも塩素供給比が高い。すなわち、エピタキシャル成長の初期である第1工程では塩素供給比が低い。また、その後の第2工程では塩素供給比が高い。したがって、塩素供給比が低い第1工程(すなわち、第1原料ガスが分解し難い第1工程)では、チャンバ内でシリコンの液滴が生成され易くなり、チャンバ内の反応性のシリコン材料が減少する。その後の塩素供給比が高い第2工程(すなわち、第1原料ガスが分解し易い第2工程)では、チャンバ内でのシリコンの液滴が生成され難くなり、チャンバ内の反応性のシリコン材料が増加する。このため、SiC層の成長中にC/Si比の上昇を抑制できる。したがって、ドーパント濃度が均一なSiC層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1の半導体装置の断面図の模式的な図である。
【
図2】実施例1の半導体装置の製造工程を説明するための図である。
【
図3】エピタキシャル成長のための装置の概略図である。
【
図4】実施例1の半導体装置の製造工程を説明するための図である。
【
図5】比較例の製造方法における各ガスの供給タイミング及び供給量を示すグラフである。
【
図6】比較例の製造方法で形成した第1ドリフト領域中の窒素濃度の分布を示すグラフである。
【
図7】実施例1の製造方法における各ガスの供給タイミング及び供給量を示すグラフである。
【
図8】実施例1の製造方法で形成した第1ドリフト領域中の窒素濃度の分布を示すグラフである。
【
図9】実施例2の製造方法における各ガスの供給タイミング及び供給量を示すグラフである。
【
図10】実施例3の製造方法における各ガスの供給タイミング及び供給量を示すグラフである。
【
図11】実施例4の半導体装置の断面斜視図の模式的な図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施例1)
図1に示される本実施例の半導体装置10は、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)である。すなわち、半導体装置10はスイッチング素子である。半導体装置10は、半導体基板12を有している。半導体基板12は、炭化シリコン(SiC)によって構成されている。半導体基板12の上面12aには、ソース電極80が配置されている。半導体基板12の下面12bには、ドレイン電極84が配置されている。
【0011】
半導体基板12の上面12aには、複数のトレンチ34が形成されている。
図1に示されるように、複数のトレンチ34は、紙面左右方向に間隔をあけて配置されている。各トレンチ34内には、ゲート絶縁膜38とゲート電極40とが形成されている。ゲート絶縁膜38は、例えば酸化シリコンにより構成されており、トレンチ34の内面を覆っている。ゲート電極40は、ゲート絶縁膜38によって半導体基板12から絶縁されている。ゲート電極40の上面は、層間絶縁層36によって覆われている。ゲート電極40は、層間絶縁層36によってソース電極80から絶縁されている。
【0012】
半導体基板12は、ソース領域22、コンタクト領域24、ボディ領域26、ドリフト領域28、及びドレイン領域30を有している。各領域22,24,26,28,30は、SiCによって構成されている。
【0013】
ソース領域22は、半導体基板12中に複数個形成されている。各ソース領域22は、n型領域である。各ソース領域22は、半導体基板12の上面12aに露出している。各ソース領域22は、ソース電極80に対してオーミック接触している。各ソース領域22は、トレンチ34の上端部でゲート絶縁膜38に接している。
【0014】
コンタクト領域24は、半導体基板12中に複数個形成されている。各コンタクト領域24は、p型領域である。各コンタクト領域24は、ソース領域22に隣接する位置で半導体基板12の上面12aに露出している。各コンタクト領域24は、ソース電極80にオーミック接触している。
【0015】
ボディ領域26は、p型領域である。ボディ領域26は、各コンタクト領域24よりも低いp型ドーパント濃度を有している。ボディ領域26は、ソース領域22及びコンタクト領域24に対して下側から接している。ボディ領域26は、ソース領域22の下側でゲート絶縁膜38に接している。
【0016】
ドリフト領域28は、n型領域である。ドリフト領域28は、ボディ領域26に対して下側から接している。ドリフト領域28は、ボディ領域26によってソース領域22から分離されている。ドリフト領域28は、ボディ領域26の下側でゲート絶縁膜38に接している。ドリフト領域28は、第1ドリフト領域28aと第2ドリフト領域28bとを有している。第1ドリフト領域28aのn型ドーパント濃度は、第2ドリフト領域28bのn型ドーパント濃度よりも高い。
【0017】
第1ドリフト領域28aは、ボディ領域26に対して下側から接している。第2ドリフト領域28bは、第1ドリフト領域28aに対して下側から接している。
【0018】
ドレイン領域30は、n型領域である。ドレイン領域30のn型ドーパント濃度は、第1ドリフト領域28aのn型ドーパント濃度よりも高い。ドレイン領域30は、第2ドリフト領域28bに対して下側から接している。ドレイン領域30は、半導体基板12の下面12bに露出している。ドレイン領域30は、ドレイン電極84に対してオーミック接触している。
【0019】
次に、半導体装置10の動作について説明する。ドレイン電極84には、ソース電極80よりも高い電位が印加される。ゲート電極40にゲート閾値以上の電位を印加すると、ゲート絶縁膜38近傍のボディ領域26にチャネルが形成される。すると、ソース電極80から、ソース領域22、ボディ領域26内のチャネル、ドリフト領域28及びドレイン領域30を経由して、ドレイン電極84に向かって電子が流れる。すなわち、半導体装置10がターンオンする。また、ゲート電極40の電位をゲート閾値よりも低い電位まで低下させると、チャネルが消失し、電子の流れが停止して、半導体装置10がターンオフする。
【0020】
続いて、
図2~
図4を参照して、半導体装置10の製造方法を説明する。なお、
図2及び
図4は、
図1に対応する断面を示している。半導体装置10は、ドレイン領域30によって構成された半導体基板12(すなわち加工前の半導体基板12)から製造される。まず、ドレイン領域30の上に、第2ドリフト領域28bをエピタキシャル成長させる。
【0021】
具体的には、
図3に示されるように、ドレイン領域30によって構成された半導体基板12をチャンバ90内に配置する。半導体基板12は、チャンバ90内で加熱される。そして、チャンバ90内に、シランガス(SiH
4)とプロパンガス(C
3H
8)とドーピングガス(N
2)と塩素ガス(HCl)とを供給する。
図3に示されるように、シランガスと塩素ガスは、流路92aを通ってキャリアガス(H
2)とともにチャンバ90内へ供給される。プロパンガスは、流路92bを通ってキャリアガスとともにチャンバ90内へ供給される。ドーピングガスは、流路92cを通ってキャリアガスとともにチャンバ90内へ供給される。チャンバ90内におけるシランガスの流量は、シランガス供給源と流路92aの間に設けられた流量調整弁94aによって制御される。チャンバ90内における塩素ガスの流量は、塩素ガス供給源と流路92aの間に設けられた流量調整弁92dによって制御される。チャンバ90内におけるプロパンガスの流量は、プロパンガス供給源と流路92bの間に設けられた流量調整弁94bによって制御される。チャンバ90内におけるドーピングガスの流量は、ドーピングガス供給源と流路92cの間に設けられた流量調整弁94cによって制御される。
【0022】
ここでは、シランガス、プロパンガス、ドーピングガス、塩素ガスをチャンバ90内へ供給することで、
図2に示されるように、ドレイン領域30の上に第2ドリフト領域28bをエピタキシャル成長させる。塩素ガスは、第2ドリフト領域28bを高速でエピタキシャル成長させるためにチャンバ内に供給される。
【0023】
第2ドリフト領域28bが形成された後に、第2ドリフト領域28bの上に、第1ドリフト領域28aをエピタキシャル成長させる。第2ドリフト領域28bの上に第1ドリフト領域28aをエピタキシャル成長させる工程における各ガスの供給タイミング及び供給量については後述する。
【0024】
その後、半導体基板12内に、ボディ領域26、ソース領域22、及びコンタクト領域24を形成する。ボディ領域26、ソース領域22、及びコンタクト領域24は、例えば、エピタキシャル成長、イオン注入によって形成することができる。
【0025】
次に、
図4に示されるように、半導体基板12の上面12aを選択的にエッチングすることによって、複数のトレンチ34を形成する。ここでは、トレンチ34が、ソース領域22及びボディ領域26を貫通して、ドリフト領域28(特に第1ドリフト領域28a)に達するように、各トレンチ34を形成する。
【0026】
次に、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)、スパッタリング等の技術を用いて、層間絶縁層36、ゲート絶縁膜38、ゲート電極40、ソース電極80、及びドレイン電極84が形成されて、
図1に示される半導体装置10が完成する。
【0027】
次に、
図5から
図8を参照して、第2ドリフト領域28bの上に第1ドリフト領域28aをエピタキシャル成長させる工程における各ガスの供給タイミング及び供給量について説明する。
【0028】
まず、比較例の製造方法について説明する。
図5のグラフは、比較例の製造方法における各ガスの供給タイミング及び供給量を示している。
図6のグラフは、比較例の製造方法で形成した第1ドリフト領域28a中の窒素濃度(すなわち、n型ドーパント濃度)の分布を示している。
図6のグラフは、第1ドリフト領域28aの厚さ方向における窒素濃度の分布を示している。
図6において、位置Aは成長開始時の位置であり、位置Bは成長終了時の位置である。
【0029】
図5に示されるように、比較例の製造方法では、まず、時刻t1において、プロパンガス、シランガス、ドーピングガス、及び塩素ガスをチャンバ90内に供給する。時刻t1から時刻t2までの間は、各ガスの流量を連続的に増加させながら、チャンバ90内に各ガスを供給する。すなわち、ドリフト領域28aをエピタキシャル成長させる際に、初めは低速でエピタキシャル成長させ、徐々に成長速度を上昇させている。成長条件が安定しない成長初期においては、低速でエピタキシャル成長を行うことで、欠陥が少ない第1ドリフト領域28a(すなわち、SiC)を形成できる。ここでは、プロパンガス、シランガス、ドーピングガス、及び塩素ガスを同じ比率で増加させる。すなわち、ここでは、プロパンガス、シランガス、ドーピングガス、及び塩素ガスの比率を変化させないで、これらのガスの流量を増加させる。時刻t2以降は、各ガスの流量を高い値で一定に制御する。したがって、時刻t1から時刻t2以降にかけて、炭素供給比(すなわち、プロパンガスの流量をシランガスの流量で除算した値)が変化しない。時刻t2以降は、各ガスの流量が高いので、高い成長速度でドリフト領域28aをエピタキシャル成長させることができる。エピタキシャル成長を開始してから一定時間が経過した後は、成長条件が安定するので、高い成長速度でドリフト領域28aをエピタキシャル成長させても結晶欠陥が少ないドリフト領域28aを形成できる。このように、成長初期においては低速でエピタキシャル成長を行い、一定時間経過後は高速でエピタキシャル成長を行うことで、結晶欠陥が少ないドリフト領域28aを効率的に形成することができる。
【0030】
チャンバ90内に供給されたプロパンガスとシランガスとは、チャンバ90内で分解される。プロパンガスが分解されることにより、反応性の炭素材料(すなわち分解済みのC原子)がチャンバ90内に生成される。シランガスが分解されることにより、反応性のシリコン材料(すなわち分解済みのSi原子)がチャンバ90内に生成される。以下では、チャンバ内に存在する反応性の炭素材料と反応性のシリコン材料の比を、C/Si比という。すなわち、C/Si比は、反応性の炭素材料のモル数を反応性のシリコン材料のモル数で除算した値である。シランガスの結合エネルギーは、プロパンガスの結合エネルギーよりも低い。すなわち、シランガスは、プロパンガスと比較して分解しやすい。このため、プロパンガスとシランガスとを一定の供給比でチャンバ90内に供給すると、エピタキシャル成長の初期においてC/Si比が低く、その後、時間が経過するとC/Si比は上昇する。
【0031】
また、エピタキシャル成長によって形成されるSiC層(例えば第1ドリフト領域28a)のドーパント濃度は、チャンバ内のC/Si比に依存する。具体的には、n型ドーパントの窒素(N)は、Cと配位する形でSiC中に取り込まれる。このため、チャンバ内のC/Si比が低いほど(すなわちガス中の反応性の炭素材料の量が少ないほど)、n型ドーパントはSiC中に取り込まれ易くなる。すなわち、C/Si比が低いほど、エピタキシャル成長で形成されるSiC中におけるn型ドーパント濃度が高くなる。
【0032】
したがって、
図6のグラフに示されるように、第1ドリフト領域28aのうちでエピタキシャル成長の初期(すなわちC/Si比が低い期間)に形成される部分では、n型ドーパント濃度が高くなる。第1ドリフト領域28aのうちでエピタキシャル成長の後期(すなわちC/Si比が高い値で安定している期間)に形成される部分では、n型ドーパント濃度が低い値で安定する。
【0033】
このように、比較例では、エピタキシャル成長の初期において、第1ドリフト領域28a中にn型ドーパント濃度が高い部分が形成される。すなわち、第1ドリフト領域28aの、第2ドリフト領域28bの上面の近傍において、n型ドーパント濃度が高い部分が形成される。このように第1ドリフト領域28a中におけるn型ドーパント濃度が高い部分が存在すると、半導体装置10の耐圧低下、半導体装置10におけるリーク電流の増加などが生じ得る。
【0034】
次に、実施例1の製造方法について説明する。
図7のグラフに示されるように、実施例1でも、時刻t1から時刻t2までの間は、プロパンガス、シランガス、ドーピングガス、及び塩素ガスの流量を連続的に増加させ、時刻t2以降は各ガスの流量を高い値で一定に制御する。このため、時刻t2以降は、時刻t1から時刻t2までの間よりも、プロパンガスとシランガスの総流量が高い。したがって、時刻t1から時刻t2の間では低速でドリフト領域28aが成長し、時刻t2以降は高速でドリフト領域28aが成長する(すなわち、ドリフト領域28aの厚みが増加する)。したがって、結晶欠陥が少ないドリフト領域28aを効率的に形成することができる。また、実施例1の製造方法では、時刻t1と時刻t2の間において、プロパンガスの流量の増加率が、シランガス、ドーピングガス、及び塩素ガスの流量の増加率よりも低い。したがって、時刻t1において炭素供給比が最も高く、時刻t1から時刻t2にかけて炭素供給比が低下する。時刻t2以降は、炭素供給比が低い値に維持される。なお、実施例1では、シランガス、ドーピングガス、及び塩素ガスの流量の比率は一定である。
【0035】
以上に説明したように、実施例1の製造方法では、時刻t1から時刻t2の間は炭素供給比が高く、時刻t2以降は炭素供給比が低い。したがって、シランガスが分解し易い成長初期においてC/Si比の低下を抑制することができる。このため、エピタキシャル成長中において、C/Si比の変動を抑制することができる。例えば、C/Si比を略一定にすることができる。この結果、
図8のグラフに示されるように、第1ドリフト領域28a中におけるn型ドーパント濃度を均一化することができる。この結果、耐圧が高く、リーク電流が生じ難い半導体装置10を製造できる。
【0036】
なお、本実施例のプロパンガス、シランガスが、それぞれ、「第1原料ガス」、「第2原料ガス」の一例である。
【0037】
時刻t1から時刻t2の間のエピタキシャル成長は、第1工程の一例である。時刻t2以降のエピタキシャル成長は、第2工程の一例である。なお、上述した各実施例では、時刻t1から時刻t2の間に各ガスの流量が徐々に増加したが、時刻t1から時刻t2の間に各ガスの流量が一定であってもよい。第2工程では第1工程よりも第1原料ガスと第2原料ガスの総流量が高い、及び、第2工程では第1工程よりも炭素供給比が低い、という条件が満たされていれば、第1工程及び第2工程における各ガスの流量はどのような値であってもよい。
【0038】
(実施例2)
続いて、
図9を参照して、実施例2を説明する。
図9に示されるように、実施例2では、時刻t1から時刻t2までの間は、プロパンガス、シランガス、ドーピングガス、及び塩素ガスの流量を各ガスの流量を段階的に増加させ、時刻t2以降は各ガスの流量を高い値で一定に制御する。このため、時刻t2以降は、時刻t1から時刻t2までの間よりも、プロパンガスとシランガスの総流量が高い。したがって、時刻t1から時刻t2の間では低速でドリフト領域28aが成長し、時刻t2以降は高速でドリフト領域28aが成長する(すなわち、ドリフト領域28aの厚みが増加する)。したがって、結晶欠陥が少ないドリフト領域28aを効率的に形成することができる。また、実施例2の製造方法では、時刻t1と時刻t2の間において、プロパンガスの流量の増加率が、シランガス、ドーピングガス、及び塩素ガスの流量の増加率よりも低い。したがって、時刻t1において炭素供給比が最も高く、時刻t1から時刻t2にかけて炭素供給比が低下する。時刻t2以降は、炭素供給比が低い値に維持される。なお、実施例2では、シランガス、ドーピングガス、及び塩素ガスの流量の比率は一定である。実施例2の構成でも、実施例1と同様に、第1ドリフト領域28a中におけるn型ドーパント濃度を均一化することができる。この結果、耐圧が高く、リーク電流が生じ難い半導体装置10を製造できる。
(実施例3)
続いて、
図10を参照して、実施例3を説明する。
図10に示されるように、実施例3でも、時刻t1から時刻t2までの間は、プロパンガス、シランガス、ドーピングガス、及び塩素ガスの流量を連続的に増加させ、時刻t2以降は各ガスの流量を高い値で一定に制御する。したがって、時刻t1から時刻t2の間では低速でドリフト領域28aが成長し、時刻t2以降は高速でドリフト領域28aが成長する(すなわち、ドリフト領域28aの厚みが増加する)。したがって、結晶欠陥が少ないドリフト領域28aを効率的に形成することができる。また、実施例3の製造方法では、時刻t1と時刻t2の間において、塩素ガスの流量の増加率が、シランガス、プロパンガス、及びドーピングガスの流量の増加率よりも高い。したがって、時刻t1において塩素供給比(すなわち、塩素ガスの流量をシランガスの流量で除算した値)が最も低く、時刻t1から時刻t2にかけて塩素供給比が増加する。時刻t2以降は、塩素供給比が高い値に維持される。なお、実施例3では、シランガス、プロパンガス、及びドーピングガスの流量の比率は一定である。
【0039】
塩素ガスをチャンバ90内に供給すると、チャンバ90内でシリコンの液滴が生成され難くなる。このため、チャンバ90内に供給される塩素ガスの流量が増えると、チャンバ90内に存在する分解済みのSi原子(すなわち、反応性のシリコン材料)が増加する。したがって、塩素供給比が高いとC/Si比が低くなり易く、塩素供給比が低いとC/Si比が高くなり易い。上述したように、実施例3の製造方法では、時刻t1から時刻t2の間は塩素供給比が低く、時刻t2以降は塩素供給比が高い。したがって、シランガスが分解し易い成長初期においてC/Si比の低下を抑制することができる。このため、エピタキシャル成長中において、C/Si比の変動を抑制することができる。例えば、C/Si比を略一定にすることができる。この結果、第1ドリフト領域28a中におけるn型ドーパント濃度を均一化することができる。この結果、耐圧が高く、リーク電流が生じ難い半導体装置10を製造できる。
【0040】
なお、塩素ガスが、「Cl系ガス」の一例である。
【0041】
時刻t1から時刻t2の間のエピタキシャル成長は、第1工程の一例である。時刻t2以降のエピタキシャル成長は、第2工程の一例である。なお、上述した各実施例では、時刻t1から時刻t2の間に各ガスの流量が徐々に増加したが、時刻t1から時刻t2の間に各ガスの流量が一定であってもよい。第2工程では第1工程よりも第1原料ガスと第2原料ガスの総流量が高い、及び、第2工程では第1工程よりも塩素供給比が高い、という条件が満たされていれば、第1工程及び第2工程における各ガスの流量はどのような値であってもよい。
【0042】
(実施例4)
続いて、
図11を参照して、実施例4を説明する。実施例4の半導体装置100では、第1ドリフト領域28aと第2ドリフト領域28bが、スーパージャンクション構造を備える。実施例4の半導体装置100の他の構成は実施例1の半導体装置10と同様である。第1ドリフト領域28a内では、複数のn型カラム150と複数のp型カラム152が横方向に交互に繰り返し設けられている。第2ドリフト領域28b内では、複数のn型カラム160と複数のp型カラム162が横方向に交互に繰り返し設けられている。p型カラム152が伸びる方向とp型カラム162が伸びる方向は交差している。p型カラム162はp型カラム152を介してボディ領域126に接続されている。
【0043】
実施例4の半導体装置100の製造方法では、まず、実施例1と同様にして、n型の第2ドリフト領域28bをエピタキシャル成長により形成する。次に、第2ドリフト領域28bにp型ドーパントを選択的に注入することにより、p型カラム162を形成する。第2ドリフト領域28bのうちp型カラム162が形成されなかった領域が、n型カラム160となる。次に、実施例1(又は実施例2又は実施例3)と同様にして、第2ドリフト領域28b上に第1ドリフト領域28aを成長させる。したがって、n型ドーパント濃度が均一な第1ドリフト領域28aが形成される。次に、第1ドリフト領域28aにp型ドーパントを選択的に注入することにより、p型カラム152を形成する。第1ドリフト領域28aのうちp型カラム152が形成されなかった領域が、n型カラム150となる。
【0044】
第1ドリフト領域28aは、p型カラム152内のp型ドーパント量とn型カラム150内のn型ドーパント量とがバランスするように形成されている。仮に、第1ドリフト領域28aのエピタキシャル成長時に
図6のようにn型ドーパントの濃度が高い部分が形成されてしまうと、n型カラム150とp型カラム152との間でドーパントのバランスさせることが困難となる。この場合、半導体装置100の耐圧が低くなる。一方、実施例4の製造方法では、第1ドリフト領域28aのn型ドーパントの濃度を均一化することができる。したがって、n型カラム150とp型カラム152との間でドーパントのバランスさせることが可能であり、高い耐圧を有する半導体装置100を製造できる。
【0045】
以下に、本明細書に開示の製造方法の構成を列記する。
(構成1)
半導体装置の製造方法であって、
チャンバ(90)内に、Cを含む第1原料ガス、Siを含む第2原料ガス、及び、ドーパントガスを供給することによって、前記チャンバ内に配置された半導体基板(28b)上にエピタキシャル成長によってn型のSiC層(28a)を形成する第1工程と、
前記チャンバ内に、前記第1原料ガス、前記第2原料ガス、及び、前記ドーパントガスを供給することによって、エピタキシャル成長によって前記SiC層の厚みを増加させる第2工程と、
を備え、
前記第2工程では前記第1工程よりも、前記第1原料ガスと前記第2原料ガスの総流量が高く、
前記第2工程では前記第1工程よりも、前記第1原料ガスの流量を前記第2原料ガスの流量で除算した値である炭素供給比が低い、製造方法。
(構成2)
半導体装置の製造方法であって、
チャンバ(90)内に、Cを含む第1原料ガス、Siを含む第2原料ガス、ドーパントガス、及び、Clを含むCl系ガスを供給することによって、前記チャンバ内に配置された半導体基板(28b)上にエピタキシャル成長によってn型のSiC層(28a)を形成する第1工程と、
前記チャンバ内に、前記第1原料ガス、前記第2原料ガス、前記ドーパントガス、及び、前記Cl系ガスを供給することによって、エピタキシャル成長によって前記SiC層の厚みを増加させる第2工程と、
を備え、
前記第2工程では前記第1工程よりも、前記第1原料ガスと前記第2原料ガスの総流量が高く、
前記第2工程では前記第1工程よりも、前記Cl系ガスの流量を前記第2原料ガスの流量で除算した値である塩素供給比が高い、製造方法。
【0046】
以上、本明細書が開示する技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独で、あるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0047】
10:半導体装置、12:半導体基板、22:ソース領域、24:コンタクト領域、26:ボディ領域、28:ドリフト領域、28a:第1ドリフト領域、28b:第2ドリフト領域、30:ドレイン領域、34:トレンチ、36:層間絶縁層、38:ゲート絶縁膜、40:ゲート電極、80:ソース電極、84:ドレイン電極