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特開2024-89355ロタキサン化合物、及びそれを用いたゴム組成物
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  • 特開-ロタキサン化合物、及びそれを用いたゴム組成物 図1
  • 特開-ロタキサン化合物、及びそれを用いたゴム組成物 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089355
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】ロタキサン化合物、及びそれを用いたゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C07D 323/00 20060101AFI20240626BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20240626BHJP
   C08L 5/16 20060101ALI20240626BHJP
   C07C 229/60 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
C07D323/00 CSP
C08L9/00
C08L5/16
C07C229/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204666
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 浩徳
(72)【発明者】
【氏名】高田 十志和
(72)【発明者】
【氏名】中薗 和子
【テーマコード(参考)】
4H006
4J002
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB48
4H006RA36
4H006RA54
4J002AB052
4J002AC021
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】ゴム組成物の破壊特性を向上させることができる、ロタキサン化合物、及びそれを用いたゴム組成物を提供する。
【解決手段】2個の環状分子と、2個の上記環状分子を貫通している鎖状分子とからなり、上記環状分子は、1個以上のニトリルオキシド基をそれぞれ有し、上記鎖状分子の両末端には、上記環状分子が脱離しないように封鎖基を有する、ロタキサン化合物とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2個の環状分子と、2個の前記環状分子を貫通している鎖状分子とからなり、
前記環状分子は、1個以上のニトリルオキシド基をそれぞれ有し、
前記鎖状分子の両末端には、前記環状分子が脱離しないように封鎖基を有する、ロタキサン化合物。
【請求項2】
前記環状分子が、クラウンエーテル環を有する、請求項1に記載のロタキサン化合物。
【請求項3】
2個の環状分子と、2個の前記環状分子を貫通している鎖状分子とからなり、
前記環状分子は、1個以上のニトリルオキシド基をそれぞれ有し、
前記鎖状分子の両末端には、前記環状分子が脱離しないように封鎖基を有する、ロタキサン化合物であって、下記一般式(1)で表される、ロタキサン化合物。
【化1】
式中、
環状エーテル構造である主環Aは、環構成酸素原子のうちの1~3個がNH、又はSに置き換えられてもよいクラウンエーテル環状分子を表し、
各Rは、同一または異なって、水素原子またはスペーサーを介していてもよい置換基を表し、
各主環Aは、同一または異なって、前記主環Aを構成し隣接する2個の炭素原子と、それらに結合する2個のRとが一緒になって形成した、芳香族環、複素芳香族環、飽和もしくは不飽和の炭化水素環、及び飽和もしくは部分不飽和のヘテロ環からなる群から選択される少なくとも1個の副環を有し、
前記副環は1個以上のニトリルオキシド基を有する置換基を有し、
nは、2~9の整数を表し、
鎖状構造である鎖Bは、封鎖基B及び封鎖基Bを末端に有し、封鎖基Bと封鎖基Bとはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【請求項4】
ジエン系ゴムと、請求項1又は3に記載のロタキサン化合物とを含有する、ゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロタキサン化合物、及びそれを用いたゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴム組成物の破壊強度を向上させる方法として、ロタキサン化合物を配合することが検討されている(特許文献1~3)。しかしながら、特許文献1~3で実際に使用されているロタキサン化合物は、1個の環状分子と、環状分子を貫通する1個の鎖状分子とからなるものであり、破壊強度について改善の余地があった。
【0003】
また、ロタキサン化合物としては、3個以上の環状分子と、環状分子を貫通する1個の鎖状分子とからなる、いわゆるポリロタキサン化合物も知られている。しかしながら、ポリロタキサン化合物は分子量が大きく、ゴム組成物には分散しにくいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-47722号公報
【特許文献2】特開2017-160164号公報
【特許文献3】特開2020-83856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、ゴム組成物の破壊強度を向上させることができる、ロタキサン化合物、及びそれを用いたゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] 2個の環状分子と、2個の上記環状分子を貫通している鎖状分子とからなり、上記環状分子は、1個以上のニトリルオキシド基をそれぞれ有し、上記鎖状分子の両末端には、上記環状分子が脱離しないように封鎖基を有する、ロタキサン化合物。
[2] 上記環状分子が、クラウンエーテル環を有する、[1]に記載のロタキサン化合物。
[3] 2個の環状分子と、2個の上記環状分子を貫通している鎖状分子とからなり、上記環状分子は、1個以上のニトリルオキシド基をそれぞれ有し、上記鎖状分子の両末端には、上記環状分子が脱離しないように封鎖基を有する、ロタキサン化合物であって、下記一般式(1)で表される、ロタキサン化合物。
【化1】
式中、
環状エーテル構造である主環Aは、環構成酸素原子のうちの1~3個がNH、又はSに置き換えられてもよいクラウンエーテル環状分子を表し、
各Rは、同一または異なって、水素原子またはスペーサーを介していてもよい置換基を表し、
各主環Aは、同一または異なって、上記主環Aを構成し隣接する2個の炭素原子と、それらに結合する2個のRとが一緒になって形成した、芳香族環、複素芳香族環、飽和もしくは不飽和の炭化水素環、及び飽和もしくは部分不飽和のヘテロ環からなる群から選択される少なくとも1個の副環を有し、
上記副環は1個以上のニトリルオキシド基を有する置換基を有し、
nは、2~9の整数を表し、
鎖状構造である鎖Bは、封鎖基B及び封鎖基Bを末端に有し、封鎖基Bと封鎖基Bとはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
[4] ジエン系ゴムと、[1]~[3]のいずれか1項に記載のロタキサン化合物とを含有する、ゴム組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明のロタキサン化合物によれば、破壊強度に優れたゴム組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係るロタキサン化合物とポリマーとの架橋構造を示す簡略図である。
図2】合成例で得られたロタキサン化合物について赤外分光法の測定を行い、得られたIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0010】
本明細書において、「化合物」(これは、「化合物」との明記がないものも包含する。)とは、特に記載がない限り、フリー体、塩、溶媒和物、又はイオン等の形態にあると解釈されることを排除されず、その形態は、技術常識に基づいて解釈され得る。塩を構成するアニオンの例は、過塩素酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、及びテトラフルオロホウ酸イオン等が挙げられる。
【0011】
本明細書中、室温は、10~40℃の範囲内の温度を意味する。
【0012】
本実施形態に係るロタキサン化合物は、2個の環状分子と、2個の上記環状分子を貫通している鎖状分子とからなり、上記環状分子は、1個以上のニトリルオキシド基をそれぞれ有し、上記鎖状分子の両末端には、上記環状分子が脱離しないように封鎖基を有するものである。本実施形態に係るロタキサン化合物は、当業者が通常ロタキサンについて理解する通り、上記環状分子と上記鎖状分子が共有結合を介することなく、空間的な結合で結ばれた分子である。
【0013】
本実施形態に係るロタキサン化合物は、少なくとも一つの不斉炭素原子を有する場合もあり得る。したがって、本実施形態に係るロタキサン化合物は、そのラセミ体のみならず、これらの化合物の光学活性体も包含する。さらに、本実施形態に係るロタキサン化合物が2個以上の不斉炭素原子を有する場合、立体異性を生じる場合がある。したがって、本実施形態に係るロタキサン化合物は、これらの化合物の立体異性体およびその混合物や単離されたものも包含する。
【0014】
本実施形態に係るロタキサン化合物は、互変異性体として存在する場合もあり得る。したがって、本実施形態に係るロタキサン化合物は、その化合物の互変異性体も包含する。
【0015】
また、本実施形態に係るロタキサン化合物のいずれか1つまたは2つ以上のHをH(D)に変換した重水素変換体も本実施形態に係るロタキサン化合物に包含される。
【0016】
(環状分子)
上記環状分子は、鎖状分子が貫通する環状構造(以下、主環ということもある。)を有し、1個以上のニトリルオキシド基を有するものであれば特に制限されない。1個の環状分子が有するニトリルオキシド基の数は1~6個であることが好ましく、1~2個であることがより好ましい。ニトリルオキシド基を有することにより、ポリマー鎖の有する不飽和結合と反応することができる。2個の環状分子がそれぞれポリマー鎖と反応して結合することで、架橋構造を形成することができる。
【0017】
上記環状分子は、ニトリルオキシド基以外の置換基を有するものであってもよく、例えば、アルキルチオ、メルカプト、アミノメチル、アミノ、ヒドロキシル、ヒドロキシメチル、カルボキシル、カルボキシメチル、ハロゲン、アルコキシ、アルコキシカルボニルアミノ(カルバメート)、カルバモイル、ビニル、アリル、エチニル、ホルミル、アクリレート、およびメタクリレート、エーテル等が挙げられる。エーテルの具体例としては、例えば、フェニル基、およびオキソ基からなる群より選択される1個以上の置換基を有していてもよいポリエーテル等が挙げられる。上記の置換基は、環状分子の環を構成する原子上に直接結合してもよいし、環を構成する原子上から伸びたスペーサーを介して結合していてもよい。スペーサーは、例えば、アルキレン鎖、-CO-NH-、-NH-CO-O-、-NH-CO-NH-、-CO-O-、-O-、-CO-、-CS-、-NH-、-NR-(式中、Rは、アルキル基等の置換基を表す。)、芳香族環、複素芳香族環、飽和もしくは部分不飽和の炭化水素環、および飽和もしくは部分不飽和のヘテロ環等からなる群より選択される構成単位を有することができる。
【0018】
主環を構成し隣接する2個の炭素原子と、それらに結合する2個の置換基とが一緒になって副環を形成するものであってもよく、このような副環としては、芳香族環、複素芳香族環、飽和もしくは不飽和の炭化水素環、または飽和もしくは部分不飽和のヘテロ環などが挙げられる。副環は主環と同様に上記置換基を有するものであってもよい。
【0019】
ニトリルオキシド基は、環状分子の主環を構成する原子上に直接又はスペーサーを介して結合するものであってもよく、副環を構成する原子上に直接又はスペーサーを介して結合するものであってもよく、主環または副環が有する上記置換基上に直接又はスペーサーを介して結合するものであってもよい。スペーサーは、例えば、アルキレン鎖、-CO-NH-、-NH-CO-O-、-NH-CO-NH-、-CO-O-、-O-、-CO-、-CS-、-NH-、-NR-(式中、Rは、アルキル基等の置換基を表す。)、芳香族環、複素芳香族環、飽和もしくは部分不飽和の炭化水素環、および飽和もしくは部分不飽和のヘテロ環等からなる群より選択される構成単位を有することができる。
【0020】
環状分子の具体例としては、シクロデキストリン、クラウンエーテル、シクロファン、カリックスアレーン、ククルビットウリル、ピラーアレーンなどが挙げられる。これらのうち、クラウンエーテルが好ましく使用される。ここで、クラウンエーテルは、環構成酸素原子のうちの1~3個がNH、又はSに置き換えられていてもよい、クラウンエーテルを包含するものであり、好適な例としては、ジベンゾ-24-クラウン-8、24-クラウン-8、ベンゾ-24-クラウン-8、ビス(ビナフチル)-28-クラウン-8、ビス(ビフェニル)-28-クラウン-8、ジシクロヘキシル-24-クラウン-8、ベンゾ/ビナフチル-24-クラウン-8、及びベンゾ-21-クラウン-7を包含する。
【0021】
環状分子の分子量としては、特に限定されないが、200~1500であることが好ましく、250~1000であることがより好ましく、300~850であることがさらに好ましい。ここで、環状分子の分子量は、核磁気共鳴(NMR)、赤外分光法(IR)、質量分析(MS)などの測定結果を基に、化学構造を特定して求めることができる。
【0022】
(鎖状分子)
上記鎖状分子は、一般的なロタキサン化合物と同様に、上記主環の内径よりも大きい外径を有する封鎖基の2個を、上記環状分子の主環の内径より小さい外径を有するリンカーが連結している分子構造を有する。
【0023】
リンカーの鎖長は、ロタキサン化合物の運動性が失われない限り、特に限定されないが、例えば、その主鎖が、例えば、1~500個、好ましくは5~100個、より好ましくは10~50個の原子から構成されるものとすることができる。また、当該リンカーは、ロタキサン化合物の運動性が失われない限り、置換基を有していてもよい。置換基の具体例としては、例えば、アミノメチル、アミノ、ヒドロキシル、ヒドロキシメチル、カルボキシル、カルボキシメチル、ハロゲン、アルコキシ、アルコキシカルボニルアミノ(カルバメート)、カルバモイル、ビニル、アリル、エチニル、ホルミル、アクリレート、およびメタクリレート、エーテル等が挙げられる。エーテルの具体例としては、例えば、フェニル基、およびオキソ基からなる群より選択される1個以上の置換基を有していてもよいポリエーテル等が挙げられる。
【0024】
リンカーとしては、例えば、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアクリレート、又はポリカーボネート等のポリマー、或いはこれらをベースとするポリマーで構成され得る。
【0025】
リンカーは、1個以上のアンモニウム部(例えば、二級アンモニウム(-N-))を有するものであってもよいが、ロタキサン化合物の運動性を向上させる観点からこれらは、三級アンモニウム、アミド、ウレア、カルバメート等へ変換されたものであることが好ましい。より好ましくは、アンモニウム部が二級アンモニウムであってアセチル化されているものであり、すなわち、リンカーは、1個以上のアセトアミド部(-N(CHCO)-)を有するものであることがより好ましい。
【0026】
リンカーは、例えば、1個以上のアセトアミド部(-N(CHCO)-)を有し、かつ、アルキレン鎖、-CO-NH-、-NH-CO-O-、-NH-CO-NH-、-CO-O-、-O-、-CO-、-S-、-CS-、-NH-、及び-NR-(当該式中、Rは、アルキル基等の置換基を表す。)等からなる群より選択される構成単位を有することができる。
【0027】
上記鎖状分子の分子量は、特に限定されないが、100~5000であることが好ましく、250~3000であることがより好ましく、500~1500であることがさらに好ましい。ここで、鎖状分子の分子量は、核磁気共鳴(NMR)、赤外分光法(IR)、質量分析(MS)などの測定結果を基に、化学構造を特定して求めることができる。
【0028】
上記封鎖基は、上述のように鎖状分子の両末端に配置されて、上記鎖状分子の上記環状分子からの脱離を防止できる程度に嵩高い基である限り、特に限定されず、例えば、それぞれ置換されていてもよい単環または多環の芳香族基、複素芳香族環、飽和もしくは部分不飽和の炭化水素環、飽和もしくは部分不飽和のヘテロ環、またはこれらを有する非環式基(例えば、アルキル基)であることができる。例えば、置換基を有する単環基は、tert-ブチル基のような嵩高い置換基を1個以上有する単環であることができる。嵩高い基の具体例としては、例えば、1個以上の炭素数1~6のアルキルで置換されていてもよいアリール(例、3,5-ジ-tert-ブチルフェニル、3,5-ジメチルフェニル、2,6-ジメチルフェニル、3,5-ジニトロフェニル、4-tert-ブチルフェニル、2,4,6-トリメチルフェニル、tert-ブチル、トリチル、ナフチル、アントラセニル)等が挙げられる。
【0029】
ロタキサン化合物の分子量としては、特に限定されないが、500~10000であることが好ましく、1000~5000であることがより好ましく、1500~3000であることがさらに好ましい。ここで、ロタキサン化合物の分子量は、核磁気共鳴(NMR)、赤外分光法(IR)、質量分析(MS)などの測定結果を基に、化学構造を特定して求めることができる。
【0030】
好ましい一実施形態に係るロタキサン化合物は、下記一般式(1)で表すものとすることができる。
【化2】
式中、
環状エーテル構造である主環Aは、環構成酸素原子のうちの1~3個がNH、又はSに置き換えられてもよいクラウンエーテル環状分子を表し、
各Rは、同一または異なって、水素原子またはスペーサーを介していてもよい置換基を表し、
各主環Aは、同一または異なって、上記主環Aを構成し隣接する2個の炭素原子と、それらに結合する2個のRとが一緒になって形成した、芳香族環、複素芳香族環、飽和もしくは不飽和の炭化水素環、及び飽和もしくは部分不飽和のヘテロ環からなる群から選択される少なくとも1個の副環を有し、
上記副環は1個以上のニトリルオキシド基を有する置換基を有し、
nは、2~9の整数を表し、
鎖状構造である鎖Bは、封鎖基B及び封鎖基Bを末端に有し、封鎖基Bと封鎖基Bとはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0031】
一般式(1)において、nは2~9の整数を表し、好ましくは、2~7の整数を表し、より好ましくは2~4の整数を表す。すなわち、環状分子は、環構成酸素原子のうちの1~3個がNH、又はSに置き換えられてもよいクラウンエーテル環状分子であって、21~42員のクラウンエーテル環状分子であり、21~36員のクラウンエーテル環状分子であることが好ましく、21~27員のクラウンエーテル環状分子であることがより好ましい。
【0032】
一般式(1)において、Rは同一または異なって、水素原子またはスペーサーを介していてもよい置換基を表す。置換基としては、アルキルチオ、メルカプト、アミノメチル、アミノ、ヒドロキシル、ヒドロキシメチル、カルボキシル、カルボキシメチル、ハロゲン、アルコキシ、アルコキシカルボニルアミノ(カルバメート)、カルバモイル、ビニル、アリル、エチニル、ホルミル、アクリレート、およびメタクリレート、エーテル等が挙げられる。エーテルの具体例としては、例えば、フェニル基、およびオキソ基からなる群より選択される1個以上の置換基を有していてもよいポリエーテル等が挙げられる。上記の置換基は、環状分子の環を構成する原子上に直接結合してもよいし、環を構成する原子上から伸びたスペーサーを介して結合していてもよい。スペーサーは、例えば、アルキレン鎖、-CO-NH-、-NH-CO-O-、-NH-CO-NH-、-CO-O-、-O-、-CO-、-CS-、-NH-、-NR-(式中、Rは、アルキル基等の置換基を表す。)、芳香族環、複素芳香族環、飽和もしくは部分不飽和の炭化水素環、および飽和もしくは部分不飽和のヘテロ環等からなる群より選択される構成単位を有することができる。
【0033】
また、上記主環Aは、主環Aを構成し隣接する2個の炭素原子と、それらに結合する2個のRとが一緒になって形成した、芳香族環、複素芳香族環、飽和もしくは不飽和の炭化水素環、及び飽和もしくは部分不飽和のヘテロ環からなる群から選択される少なくとも1個の副環を有する。このような副環としては、ベンゼン環であることが好ましい。
【0034】
上記副環は1個以上のニトリルオキシド基を有する置換基を有し、このような置換基としては、式:-A-CN[式中、Aは、1個以上の置換基を有していてもよい炭化水素部を表す]で表されるものとすることができ、スペーサーを介して上記副環に結合するものであってもよい。スペーサーは、例えば、アルキレン鎖、-CO-NH-、-NH-CO-O-、-NH-CO-NH-、-CO-O-、-O-、-CO-、-CS-、-NH-、-NR-(式中、Rは、アルキル基等の置換基を表す。)、芳香族環、複素芳香族環、飽和もしくは部分不飽和の炭化水素環、および飽和もしくは部分不飽和のヘテロ環等からなる群より選択される構成単位を有することができる。
【0035】
上記式におけるAは、好ましくは、
(1)アルキル基(好ましくは炭素数1~12、より好ましくは炭素数2~6のアルキル基[例、t-ブチル基])、及びアリール基(例、フェニル、ナフチル)からなる群より選択される1個以上(例、1個、2個)の置換基で置換されていてもよい炭素数1~6(好ましくは炭素数1)のアルカン(例、メタン、エタン)、又は
(2)1個以上(例、1個、2個、3個、4個、5個)の置換基(例、炭素数1~4のアルコキシ基[例、メトキシ基、エトキシ基])で置換されていてもよい芳香族炭素環(例、ベンゼン環、ナフタレン環)である。熱安定性の観点から好ましくは、Aは、1個以上(例、1個、2個)のアリール基(例、フェニル、ナフチル)で置換されていてもよい炭素数1~6のアルカンである。
【0036】
上記式:-A-CNで表される置換基とスペーサーの組み合わせの具体例としては、例えば、次の式(2)~(5)のようなものが挙げられる。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【0037】
(ロタキサン化合物の製造方法)
本実施形態に係るロタキサン化合物は、Threading-Capping法等の公知の方法や、文献記載の方法(例えば、オレオサイエンス 第5巻第5号、2005年、209頁)またはこれに準じた方法により、製造することができる。
【0038】
本実施形態に係るロタキサン化合物およびその中間体は、有機合成化学で常用される精製法、例えば、中和、ろ過、抽出、洗浄、乾燥、濃縮、再結晶、各種クロマトグラフィー等に付して単離精製することができる。また、各中間体においては、特に精製することなく次の反応に供することも可能である。
【0039】
光学活性な出発原料や中間体を用いることにより、あるいは最終品のラセミ体を光学分割することにより、本実施形態に係るロタキサン化合物の光学活性体を製造することができる。光学分割の方法としては、光学活性カラムを用いた物理的な分離方法、分別結晶化法等の化学的な分離方法が挙げられる。本実施形態に係るロタキサン化合物のジアステレオマーは、例えば、分別結晶化法によって製造される。
【0040】
本実施形態に係るゴム組成物は、ジエン系ゴムを含有するものであり、ジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム、またはこれらの末端や主鎖の一部を変性した変性ゴムなどが挙げられ、好ましくは、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴムである。
【0041】
NRを含有する場合のゴム成分中の含有量は、例えば1~100質量%、5~95質量%、10~90質量%、1~20質量%、5~30質量%、10~40質量%、20~50質量%、30~60質量%、40~70質量%、50~80質量%、60~90質量%、70~100質量%、または80~100質量%の範囲が挙げられる。
【0042】
BRを含有する場合のゴム成分中の含有量は、例えば1~100質量%、5~95質量%、10~90質量%、1~20質量%、5~30質量%、10~40質量%、20~50質量%、30~60質量%、40~70質量%、50~80質量%、60~90質量%、70~100質量%、または80~100質量%の範囲が挙げられる。
【0043】
SBRを含有する場合のゴム成分中の含有量は、例えば1~100質量%、5~95質量%、10~90質量%、1~20質量%、5~30質量%、10~40質量%、20~50質量%、30~60質量%、40~70質量%、50~80質量%、60~90質量%、70~100質量%、または80~100質量%の範囲が挙げられる。
【0044】
本実施形態に係るゴム組成物は、ジエン系ゴムと上記ロタキサン化合物を含有するものであり、架橋することで図1に示すような架橋構造が得られる。このような架橋構造を有することで優れた破壊強度が得られる。そのメカニズムは定かではないが、次のように推測できる。すなわち、ポリマー1と2個の環状分子2とがニトリルオキシド基を介して結合し、ゴム伸長時にロタキサンの環状分子2と鎖状分子3との間にすべりが生じる(以下、滑車効果ともいう)。この滑車効果により、小さな応力でもゴムがよく伸びるため、ゴム組成物の柔軟性が向上し、破壊強度が向上するものと考えられる。なお、鎖状分子3の両末端には封鎖基4があるため、環状分子2と鎖状分子3との間にすべりが生じても、環状分子が鎖状分子3から脱離することはなく、滑車効果が維持される。
【0045】
本実施形態に係るゴム組成物において、ロタキサン化合物の含有量は、特に限定されず、ロタキサン化合物の分子量により適宜変更することができるが、例えば、ジエン系ゴム100質量部に対して、1~200質量部であってもよく、2~160質量部であってもよく、5~140質量部であってもよく、10~120質量部であってもよく、20~100質量部であってもよい。
【0046】
本実施形態に係るゴム組成物には、通常のゴム工業で使用されている、補強性充填剤、プロセスオイル、酸化亜鉛、ステアリン酸、軟化剤、可塑剤、ワックス、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤などの配合薬品類を通常の範囲内で適宜配合することができる。
【0047】
本実施形態に係るゴム組成物は、通常用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練して作製することができる。すなわち、第1工程で、ゴム成分に対し、ロタキサンとともに、加硫剤及び加硫促進剤を除く他の添加剤を添加混合し、得られた混合物に、最終工程で加硫剤及び加硫促進剤を添加し、混合してゴム組成物を調製することができる。
【0048】
このようにして得られるゴム組成物は、乗用車用、トラックやバスの大型タイヤなど、各種用途・サイズの空気入りタイヤのトレッドやサイドウォールなどに適用することができる。ゴム組成物は、常法に従い、例えば、押出加工によって所定の形状に成形され、他の部品と組み合わせた後、例えば130~190℃で加硫成形することにより、空気入りタイヤを製造することができる。
【0049】
本実施形態に係る空気入りタイヤの種類としては、特に限定されず、上述の通り、乗用車用タイヤ、トラックやバスなどに用いられる重荷重用タイヤなどの各種のタイヤが挙げられる。
【実施例0050】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、例中、「%」や比率の記載については、特に限定のない限り物質量(モル)基準を意味する。
【0051】
<環状分子の合成例>
【化7】
ナスフラスコにN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)100mL、カテコール5.5g(50mmol)、2-[2-(2-クロロエトキシ)エトキシ]エタノール25.3g(150mmol)、炭酸カリウム20.7g(150mmol)を加え、窒素雰囲気下にした後、90℃で24時間攪拌した。反応終了後、水を反応液に加え、酢酸エチルで3回抽出し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて脱水して、ろ過した後、減圧濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチルとメタノールの混合液(酢酸エチル/メタノール=4/1))で精製することで目的化合物7.3g(収率39%)が得られた。
【0052】
【化8】
ナスフラスコにジクロロメタン63mL、前工程で得られた化合物7.3g(19.5mmol)、パラトルエンスルホニルクロライド11.9g(62.4mmol)、トリエチルアミン11.8g(117mmol)、ジメチルアミノピリジン0.24g(2.0mmol)を加え、窒素雰囲気下にした後、室温で24時間攪拌した。反応終了後、水を反応液に加え、ジクロロメタンで3回抽出し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて脱水して、ろ過した後、減圧濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチルとヘキサンの混合液(酢酸エチル/ヘキサン=1/1)を使用した後、酢酸エチルを使用)で精製することで目的化合物9.1g(収率68%)が得られた。
【0053】
【化9】
ナスフラスコにテトラヒドロフラン(THF)433mL、前工程で得られた化合物9.1g(13.3mmol)、1,3-ジヒドロキシベンズアルデヒド1.8g(13.3mmol)、炭酸セシウム8.7g(26.6mmol)を加え、窒素雰囲気下にした後、60℃で48時間攪拌した。反応終了後、エバポレータにて溶媒を留去した。その後、水を反応液に加え、酢酸エチルで3回抽出し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて脱水して、ろ過した後、減圧濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル)で精製することで目的化合物3.2g(収率51%)が得られた。
【0054】
【化10】
ナスフラスコにメタノール52mL、前工程で得られた化合物3.2g(6.8mmol)、水素化ホウ素ナトリウム1.3g(33.9mmol)を加え、窒素雰囲気下にした後、室温で16時間攪拌した。反応終了後、水を反応液に加え、クロロホルムで3回抽出し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて脱水して、ろ過した後、減圧濃縮することで粗生成物3.4g(粗収率104%)が得られた。
【0055】
【化11】
ナスフラスコにジクロロメタン36mL、前工程で得られた粗生成物3.4g、ピリジン2.8g(35.5mmol)、塩化チオニル3.4g(28.4mmol)を加え、窒素雰囲気下にした後、室温で3時間攪拌した。反応終了後、水を反応液に加え、ジクロロメタンで3回抽出し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて脱水して、ろ過した後、減圧濃縮した。得られた粗生成物を少量のジクロロメタンに溶解し、攪拌中の冷したヘキサンに滴下することで目的化合物2.7g(収率78%)が得られた。
【0056】
【化12】
ナスフラスコにアセトニトリル50mL、前工程で得られた化合物2.3g(5mmol)、2-ヒドロキシ-1-ナフトアルデヒド0.95g(5.5mmol)、炭酸カリウム3.5g(25mmol)を加え、窒素雰囲気下にした後、90℃で5日間攪拌した。反応終了後、エバポレータにて溶媒を留去した。その後、水を反応液に加え、クロロホルムで3回抽出し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて脱水して、ろ過した後、減圧濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルムとメタノールの混合液(クロロホルム/メタノール=20/1))で精製し、乾燥後に再度アセトンに溶解して再び乾燥することで目的化合物2.2g(収率70%)が得られた。得られた目的化合物について、核磁気共鳴スペクトル分析装置(Bulker社、商品名「AVANCE III HD400」)を使用し、NMRの測定を以下の測定条件で行った。測定結果は以下のとおりである。
[測定条件]
モード:シングルパルス
観測用パルス:30°パルス
繰り返し時間:15秒
積算回数:32回
[測定結果]
1H NMR(400 MHz, 298 K, CDCl3) δ = 10.94(s, 1H), 9.28(d, J = 8,6 Hz, 1H),8.03 (d, J = 9.1 Hz, 1H), 7.77 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 7.65-7.59 (m, 1H),7.45-7.40(m, 1H), 7.33 (d, 9.2 Hz, 1H), 7.00-6.82(m, 7H), 5.24(s, 2H),4.20-4.10(m, 8H), 3.97-3.89(m, 8H), 3.87-3.80(m, 8H).
【0057】
<鎖状分子の合成例>
【化13】
ナスフラスコにテトラヒドロフラン(THF)100mL、1,6-ジアミノヘキサン1.2g(10mmol)、テレフタルアルデヒド酸メチル3.3g(20mmol)を加え、窒素雰囲気下にした後、室温で6時間攪拌した。反応終了後、エバポレータにて溶媒を留去し、減圧濃縮した。得られた粗生成物を精製することなく次の反応に用いた。
【0058】
【化14】
ナスフラスコにテトラヒドロフラン(THF)200mL、前工程で得られた粗生成物4.5g(10mmol)、リチウムアルミニウムハイドライド(LAH)2.3g(60mmol)を加え、窒素雰囲気下にした後、室温で18時間攪拌した。反応終了後、飽和酒石酸カリウムナトリウム水溶液を反応液に加え、溶液が白くなるまで攪拌した。その後、酢酸エチルで3回抽出し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて脱水して、ろ過した後、減圧濃縮することで粗生成物3.0g(粗収率84%)が得られた。
【0059】
【化15】
ナスフラスコにメタノール23mL、前工程で得られた粗生成物3.0g(8.4mmol)を加え、氷浴で冷却しながら30分間攪拌した。攪拌中の冷却溶液に、濃塩酸を滴下し、固体が析出しなくなったのを確認した後、ろ過してろ物を回収することで粗生成物1.4g(粗収率39%)が得られた。
【0060】
【化16】
ナスフラスコに前工程で得られた粗生成物1.4g(3.3mmol)を加え、固体が溶解するギリギリの量の水を加えた。その水溶液を氷浴で30分間攪拌して溶液を冷却した。攪拌中の冷却溶液に、飽和ヘキサフルオロりん酸アンモニウム水溶液を滴下し、固体が析出しなくなったのを確認した後、ろ過してろ物を回収し、真空乾燥することで粗生成物1.8g(収率83%)が得られた。得られた粗生成物について、核磁気共鳴スペクトル分析装置(Bulker社、商品名「AVANCE III HD400」)を使用し、NMRの測定を以下の測定条件で行った。測定結果は以下のとおりである。
[測定条件]
モード:シングルパルス
観測用パルス:30°パルス
繰り返し時間:15秒
積算回数:32回
[測定結果]
1H NMR(400 MHz, 298 K, DMSO-d6) δ = 8.62(br, 4H), 7.42(d, J = 8,3 Hz, 4H), 7.83 (d, J= 8.3 Hz, 4H), 5.27 (t, J = 5.5 Hz, 2H), 4.52 (d, J = 5.5 Hz, 4H), 4.12(br,4H), 2.88 (br, 4H), 1.58 (br, 4H), 1.29 (br, 4H).
【0061】
<ロタキサン化合物の合成例>
【化17】
ナスフラスコにジクロロメタン4mL、アセトニトリル1mL、前工程で得られた環状分子2.0g(3.2mmol)、鎖状分子1.0g(1.5mmol)を加え、攪拌、超音波により全ての化合物を溶解した。その水溶液に3,5-ジメチルフェニルイソシアネート、ジブチルすずラウレート(DBTDL)を加え、窒素雰囲気下にした後、室温で5時間攪拌した。反応終了後、メタノールを過剰量加えてイソシアネートを失活させ、溶媒をエバポレータにて溶媒を留去し、減圧濃縮した。得られた粗生成物を精製することなく次の工程に用いた。
【0062】
【化18】
ナスフラスコにテトラヒドロフラン(THF)15mL、前工程で得られた粗生成物3.3g(1.5mmol)、無水酢酸3.1g(30mmol)、トリエチルアミン3.0g(30mmol)を加え、窒素雰囲気下にした後、40℃で96時間攪拌した。反応終了後、エバポレータにて溶媒を留去した。その後、酢酸エチルを反応液に加え、飽和塩化アンモニウム水溶液で1回、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で1回洗浄し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて脱水して、ろ過した後、減圧濃縮した。得られた粗生成物を分取GPC(溶媒:クロロホルム)で精製することで目的化合物1.9g(収率63%)が得られた。
【0063】
【化19】
ナスフラスコにテトラヒドロフラン(THF)9mL、水1mL、前工程で得られたロタキサン化合物1.9g(0.95mmol)、酢酸ナトリウム0.17g(0.19mmol)、ヒドロキシルアミン塩酸塩0.13g(0.19mmol)を加え、窒素雰囲気下にした後、室温で5時間攪拌した。反応終了後、水を反応液に加え、クロロホルムで3回抽出し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて脱水して、ろ過した後、減圧濃縮することで粗生成物1.8g(粗収率93%)が得られた。
【0064】
【化20】
ナスフラスコにジクロロメタン9mL、前工程で得られたロタキサン化合物1.8g(0.9mmol)、N-クロロスクシンイミド0.36g(2.7mmol)、トリエチルアミン0.27g(2.7mmol)を加え、窒素雰囲気下にした後、室温で3時間攪拌した。反応終了後、水を反応液に加え、クロロホルムで3回抽出し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて脱水して、ろ過した後、減圧濃縮することで粗生成物1.7g(粗収率93%、組成式:C11613226)が得られた。得られた粗生成物について、サイズ排除クロマトグラフ装置(Thermo fisher scientific製、商品名「Ultimate3000」)と、イオントラップ型質量分析装置(Thermo fisher scientific製、商品名「Exactive Plus EMR」)とが連結された分析装置を使用し、エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)を以下の条件で行った。測定結果は以下のとおりである。
[測定条件]
カラム:Agilent製 OrigoPore(30.0×7.5mm、粒径6.0μm、排除限界分子量4500)を直列に2本連結
溶離液:THF(0.70mL/min)
メイクアップ液:メタノール/水=1/1、10mM酢酸アンモニウム含有(0.06mL/min)
注入量:40μL
測定時間:40min
カラムオーブン温度:40°C
質量範囲:m/z 400~6000
イオン化法:ESI(Positive)
[測定結果]
HR-ESI-MS; m/z [M+H]+ :calc.:2025.9264,found: 2025.9156
【0065】
また、得られた粗生成物について、フーリエ変換赤外分光装置(Thermo fisher scientific製、商品名「Nicolet iS50 FT-IR」)を使用し、赤外分光法(IR)の測定を行った。図2の赤外線吸収スペクトルに示すように、1639cm-1にアミド基に基づく吸収が認められ、2290cm-1にニトリルオキシド基に基づく吸収が認められた。なお、赤外分光法の測定は以下の測定条件により測定した。
[測定条件]
スキャン回数:32回
分解能:4cm-1
測定方法:ATR
分光結晶:Ge
検出器:DTGS KBr
ビームスプリッタ:KBr
【0066】
<ゴム組成物の作製>
シャーレにSBR1.0gを入れ、クロロホルム20mLに浸漬して24時間放置した。架橋剤(0.16mmol)を少量のクロロホルムに溶解し、得られたゴム溶液に加えた。ゴム溶液を30分間攪拌した後、一晩放置して溶媒を気化させ、オーブンを用いて100℃の温度で16時間加熱することでゴムフィルムを得た。なお、表1に示した配合量は質量基準を意味する。
【0067】
表1中の各成分の詳細は以下の通りである。
【0068】
・SBR:JSR(株)製「SL563」
・架橋剤1:Polym.J.2014,46,609-616に記載の合成方法に準拠して合成した式(6)で表される非ロタキサン化合物
【化21】
・架橋剤2:上記合成例で得られたロタキサン化合物
【0069】
得られた各ゴムフィルムについて、引張試験を行い、切断時引裂強さと切断時伸びを評価した。評価方法は次の通りである。
【0070】
・切断時引裂強さ:厚さ0.5mmの7号ダンベル形状のサンプルを作製し、JIS K6251に基づいて引張試験を行い、切断時引裂強さを測定した。比較例1の切断時引裂強さを100とした指数で示した。
【0071】
・切断時伸び:厚さ0.3mmの7号ダンベル形状のサンプルを作製し、JIS K6251に基づいて引張試験を行い、切断時伸びを測定した。比較例1の切断時伸びを100とした指数で示した。
【0072】
【表1】
【0073】
結果は、表1に示す通りであり、ロタキサン化合物を配合した実施例1では、非ロタキサン化合物を用いた比較例1と比較して、大幅に切断時引裂強さと切断時伸びが向上した。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のロタキサン化合物は、ゴム組成物に配合することができ、このロタキサン化合物を用いたゴム組成物は、乗用車、ライトトラック・バス等の各種タイヤに用いることができる。
【符号の説明】
【0075】
1・・・ポリマー、2・・・環状分子、3・・・鎖状分子、4・・・封鎖基
図1
図2