(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089400
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】スラグ質量推定方法、スラグ質量推定装置、精錬システム、副原料の添加方法、溶銑の精錬方法及び溶鋼の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21C 5/28 20060101AFI20240626BHJP
C21C 5/46 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
C21C5/28 H
C21C5/46 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204741
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100195534
【弁理士】
【氏名又は名称】内海 一成
(72)【発明者】
【氏名】吉泉 瑛
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 新吾
(72)【発明者】
【氏名】加▲瀬▼ 寛人
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 太
【テーマコード(参考)】
4K070
【Fターム(参考)】
4K070AB02
4K070AB06
4K070AB11
4K070BA12
4K070BC11
4K070BE08
(57)【要約】
【課題】炉内に残留したスラグの質量を推定できるスラグ質量推定方法、スラグ質量推定装置及び精錬システム、並びに、スラグの質量の推定結果に基づいて効率的に溶鋼を製造できる副原料の添加方法、溶銑の精錬方法及び溶鋼の製造方法を提供する。
【解決手段】スラグ質量推定方法は、スラグ2の物性と鎮静挙動との関連性を特定する情報を取得する情報取得工程と、溶銑3の処理の操業条件からスラグ2の物性を決定する物性決定工程と、情報取得工程で取得した情報と、スラグ2の物性とに基づいてスラグ2の鎮静挙動を予測し、スラグ2の排滓後に残留したスラグ2の密度を推定する密度推定工程と、炉1の中のスラグ2の高さと炉体の体積とを計測することによって、残留したスラグ2の体積を推定する体積推定工程と、スラグ2の密度と体積とに基づいて、炉1の中に残留したスラグ2の質量を推定する質量推定工程とを含む。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶銑を処理する炉からスラグを排滓する工程において前記スラグの排滓後に前記炉の中に残留したスラグの質量を推定するスラグ質量推定方法であって、
前記スラグの物性と前記スラグの鎮静挙動との関連性を特定する情報を取得する情報取得工程と、
前記炉における前記溶銑の処理の操業条件から前記スラグの物性を決定する物性決定工程と、
前記情報取得工程で取得した情報と、前記物性決定工程で決定した前記スラグの物性とに基づいて前記スラグの鎮静挙動を予測し、前記スラグの排滓後に前記炉の中に残留したスラグの密度を推定する密度推定工程と、
前記炉の中のスラグの高さと前記炉の炉体の体積とを計測することによって、前記炉の中に残留したスラグの体積を推定する体積推定工程と、
前記密度推定工程で推定した前記スラグの密度と、前記体積推定工程で推定した前記スラグの体積とに基づいて、前記炉の中に残留したスラグの質量を推定する質量推定工程と
を含む、スラグ質量推定方法。
【請求項2】
前記情報取得工程は、前記スラグの物性と前記スラグの鎮静挙動との関連性を特定する情報として、前記スラグの物性に関する無次元数の相似条件を考慮して操業下での鎮静現象を再現した実験によって得られた、前記スラグの鎮静挙動のデータを取得するデータ取得工程を含み、
前記密度推定工程は、前記データ取得工程で取得した前記スラグの鎮静挙動のデータを関数近似することによって数式化する数式化工程と、前記数式化工程で得られた近似関数からフォーミング安定性を導出する安定性導出工程とを含む、
請求項1に記載のスラグ質量推定方法。
【請求項3】
前記物性決定工程は、前記炉の操業を制御するプロセスコンピュータのデータから前記炉の操業条件を抽出する操業条件抽出工程と、熱力学データベースと前記操業条件抽出工程で抽出した前記炉の操業条件とを用いて前記スラグの物性を推定するスラグ物性推定工程とを含む、請求項2に記載のスラグ質量推定方法。
【請求項4】
前記密度推定工程は、前記スラグ物性推定工程において推定した前記スラグの物性に関する無次元数を計算する無次元数計算工程と、前記安定性導出工程で導出した前記フォーミング安定性と前記無次元数計算工程で計算した無次元数とに基づいて前記炉の操業条件に対応する鎮静挙動を引き当てる鎮静挙動引当工程と、前記炉における吹錬が終了したときからの経過時間と前記鎮静挙動引当工程で引き当てた鎮静挙動とに基づいて前記スラグの嵩密度を決定する嵩密度決定工程とを含む、請求項3に記載のスラグ質量推定方法。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか一項に記載のスラグ質量推定方法を実行することによって推定した、炉の中に残留したスラグの質量に基づいて前記炉の中に副原料を添加する工程を含む、副原料の添加方法。
【請求項6】
請求項5に記載の副原料の添加方法を実行することによって副原料を添加した炉の中で吹錬を実行する工程を含む、溶銑の精錬方法。
【請求項7】
請求項6に記載の溶銑の精錬方法を実行することによって処理した溶銑を炉から流し出す工程を含む、溶鋼の製造方法。
【請求項8】
請求項1から4までのいずれか一項に記載のスラグ質量推定方法を実行するプロセッサを備える、スラグ質量推定装置。
【請求項9】
請求項8に記載のスラグ質量推定装置と、溶銑を処理する精錬装置とを備える、精錬システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、精錬フォーミングスラグの鎮静挙動を推定するために、転炉での脱珪又は脱燐等の吹錬処理後においてCOガスを含有してフォーミングしたスラグの鎮静に伴うスラグの嵩密度を推定する推定方法、推定装置及び精錬システムに関する。また、本開示は、スラグの嵩密度の推定方法を用いた副原料の添加方法、溶銑の精錬方法、及び、溶鋼の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、溶銑の予備処理技術が進み、転炉型精錬炉を用いた様々な溶銑の予備処理方法が開発されている。例えば、特許文献1に、転炉を用いて脱珪、脱燐及び脱炭処理をする際に、前チャージの脱炭スラグを排滓することなく、次チャージの溶銑を転炉に装入し、溶銑中の珪素(Si)が0.2%以下になった時点で炉内スラグの一部を排出し、引き続き脱燐及び脱炭処理を行う方法が開示されている。
【0003】
上述したようにスラグを排滓する精錬手法において、スラグのフォーミングによるスラグ体積の増加は、排滓量を確保する上で重要である。ここで、スラグのフォーミングは、溶銑中の炭素(C)とスラグ中の酸化鉄(FeO)との反応によって発生した一酸化炭素(CO)がスラグ中にトラップされることで発生する。
【0004】
スラグ排滓工程の後に引き続き精錬が実施される場合、炉内に残留したスラグの質量に応じて、副原料の添加量が決定される。炉内に残留したスラグの質量の算出結果と実際のスラグの質量との間に乖離が発生することによって副原料の投入が過多になる場合、コスト又は熱損失の増加が発生する。逆に副原料の投入が過小になる場合、燐などの成分外れが発生する。したがって、コストミニマムを実現するために、排滓工程後に炉内に残留したスラグの質量を正確に推定することが必要である。
【0005】
従来、炉内残留スラグ質量推定は、オペレータが目視で排滓状況を確認する方法等を用いて実施されてきた。しかしながら、排滓中にスラグの鎮静現象が発生することによってスラグの体積が時々刻々と変化する。したがって、炉内に残留するスラグの質量をオペレータが推定することは非常に困難である。特に実際の操業において、スラグの組成、温度又は吹錬条件などの違いによって鎮静挙動のばらつきが発生しやすい。鎮静挙動のばらつきによって、炉内に残留したスラグの質量を正確に推定することがさらに困難になる。
【0006】
これを解決すべく、計測データから炉内に残留したスラグの質量を推定する方法が提案されている。例えば、特許文献2において、転炉の最終傾動角から炉内に残留したスラグの質量を推定する方法が示されている。また、特許文献3において、排滓前にスラグの高さを連続計測することによって、排滓後のスラグの密度及び炉内に残留したスラグの質量を推定する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-323420号公報
【特許文献2】特開2007-308773号公報
【特許文献3】国際公開第2020/129887号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、転炉からスラグを排滓する工程において、排滓後のスラグの質量の予測は、次工程において副原料として投入する石灰量を決定するために非常に重要である。従来、特許文献2に示されるように転炉の最終傾動角から炉内に残留したスラグの質量を推定する方法、又は、特許文献3に示されるように排滓前にスラグの高さの履歴から排滓後のスラグの密度及び炉内に残留したスラグの質量を推定する方法が提案されている。
【0009】
しかし、特許文献2の方法において、スラグの嵩密度が一定であることが仮定されていることによって、鎮静途中のスラグの質量を推定の対象とすることができない。また、特許文献3の方法において、鎮静挙動の影響が考慮されるものの、チャージごとにスラグの高さを一定時間連続的に計測する必要がある。スラグの高さの計測のタイムロスによって生産性が低下するおそれがある。
【0010】
上述したように、実際の操業条件において、操業条件の違いによって鎮静挙動にばらつきが発生する。鎮静挙動のばらつきによって、排滓後のスラグの嵩密度及び炉内に残留したスラグの質量の推定は困難である。操業条件に基づいてスラグ鎮静挙動の影響を簡易に予測し、炉内に残留したスラグの質量の推定精度の向上が求められる。また、炉内に残留したスラグの質量の推定精度の向上によって、次工程において投入する石灰量の削減、熱損失の低減、又は成分外れの防止を実現することが求められる。
【0011】
本開示は、炉内に残留したスラグの質量を推定できるスラグ質量推定方法、スラグ質量推定装置及び精錬システム、並びに、スラグの質量の推定結果に基づいて効率的に溶鋼を製造できる副原料の添加方法、溶銑の精錬方法及び溶鋼の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の一実施形態に係るスラグ質量推定方法は、
溶銑を処理する炉からスラグを排滓する工程において前記スラグの排滓後に前記炉の中に残留したスラグの質量を推定するスラグ質量推定方法であって、
前記スラグの物性と前記スラグの鎮静挙動との関連性を特定する情報を取得する情報取得工程と、
前記炉における前記溶銑の処理の操業条件から前記スラグの物性を決定する物性決定工程と、
前記情報取得工程で取得した情報と、前記物性決定工程で決定した前記スラグの物性とに基づいて前記スラグの鎮静挙動を予測し、前記スラグの排滓後に前記炉の中に残留したスラグの密度を推定する密度推定工程と、
前記炉の中のスラグの高さと前記炉の炉体の体積とを計測することによって、前記炉の中に残留したスラグの体積を推定する体積推定工程と、
前記密度推定工程で推定した前記スラグの密度と、前記体積推定工程で推定した前記スラグの体積とに基づいて、前記炉の中に残留したスラグの質量を推定する質量推定工程と
を含む。
【0013】
本開示の一実施形態に係る副原料の添加方法は、上記スラグ質量推定方法を実行することによって推定した、炉の中に残留したスラグの質量に基づいて前記炉の中に副原料を添加する工程を含む。
【0014】
本開示の一実施形態に係る溶銑の精錬方法は、上記副原料の添加方法を実行することによって副原料を添加した炉の中で吹錬を実行する工程を含む。
【0015】
本開示の一実施形態に係る溶鋼の製造方法は、上記溶銑の精錬方法を実行することによって処理した溶銑を炉から流し出す工程を含む。
【0016】
本開示の一実施形態に係るスラグ質量推定装置は、上記スラグ質量推定方法を実行するプロセッサを備える。
【0017】
本開示の一実施形態に係る精錬システムは、上記スラグ質量推定装置と、溶銑を処理する精錬装置とを備える。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、炉内に残留したスラグの質量を推定できるスラグ質量推定方法、スラグ質量推定装置及び精錬システム、並びに、スラグの質量の推定結果に基づいて効率的に溶鋼を製造できる副原料の添加方法、溶銑の精錬方法及び溶鋼の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本開示に係る精錬システムの構成例を示すブロック図である。
【
図2】精錬炉においてスラグをフォーミングする処理の一例を示す断面図である。
【
図3】精錬炉においてスラグを排滓する処理の一例を示す断面図である。
【
図4】スラグの泡沫高さの経時変化の一例を示す断面図である。
【
図5】スラグの泡沫高さの経時変化の一例を示すグラフである。
【
図6】スラグ密度の経時変化の一例を示すグラフである。
【
図7】本開示に係る情報処理方法の手順例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示に係る精錬システム100(
図1等参照)、推定装置50(
図1等参照)、及び推定方法の実施形態が図面に基づいて説明される。各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下の実施形態は、本開示の技術的思想を具体化するための装置又は方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本開示の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0021】
本開示に係る精錬システム100、推定装置50、及び推定方法によれば、あらかじめ予備実験等でスラグの物性とスラグの鎮静挙動との関連性が調査される。スラグの物性とスラグの鎮静挙動との関連性に基づいて操業における鎮静挙動を予測することによって、スラグの嵩密度及び炉内に残留したスラグの質量が高精度で推定される。
【0022】
(精錬システム100の構成例)
図1に示されるように、一実施形態に係る精錬システム100は、推定装置50と、精錬装置40とを備える。
【0023】
<精錬装置40>
精錬装置40は、
図2に例示されるように、精錬炉1と上吹きランス42とを備える。本実施形態において、精錬炉1は、転炉型であるとする。精錬炉1は、転炉型に限られず他の種々の態様であってよい。精錬炉1は、単に炉とも称される。また、本実施形態に係る精錬装置40は、精錬炉1の中に収容した溶銑3に対して脱珪処理を実行するように構成されるとする。精錬装置40は、脱珪処理に限られず脱燐処理等の他の種々の処理を実行できるように構成されてよい。
【0024】
精錬装置40において、精錬炉1の中の溶銑3に対して脱珪処理が実行される。脱珪処理において、溶銑3に対して上吹きランス42から酸素含有ガスが供給される。上吹きランス42から供給された酸素含有ガスと溶銑3の中の珪素(Si)とが反応することによって、スラグ2が生成される。スラグ2は、脱珪スラグとも称される。スラグ2の密度が溶銑3の密度より低いことによって、スラグ2は、溶銑3の上方に浮く。
【0025】
上吹きランス42から供給された酸素含有ガスと溶銑3の中の炭素とが反応することによって、一酸化炭素(CO)ガスが発生する。スラグ2は、COガス気泡を内包することによって泡状になる。スラグ2の見かけ上の体積は、COガス気泡を内包することによって数倍以上に増大する。このような状態は、フォーミング状態とも称される。
【0026】
精錬装置40は、
図3に例示されるように、精錬炉1の傾動角度を制御することによって、溶銑3を精錬炉1から流出させずに、スラグ2の少なくとも一部を精錬炉1から排出できる。スラグ2を排出する処理は、排滓処理とも称される。
【0027】
精錬装置40は、精錬炉1に副原料を投入する投入装置を更に備えてよい。副原料は、例えば、石灰等を含んでよい。投入装置は、精錬炉1に投入する副原料の種類又は量を制御するように構成されてよい。
【0028】
精錬装置40は、上吹きランス42から供給するガスの流量、精錬炉1に投入する添加物の種類若しくは量、又は、精錬炉1の傾動角度等を制御するプロセスコンピュータを備えてよい。プロセスコンピュータは、例えばCPU(Central Processing Unit)又はGPU(Graphics Processing Unit)等を備えてよい。プロセスコンピュータは、例えば半導体メモリ又は電磁記録媒体等の記憶デバイスを備えてよい。プロセスコンピュータは、推定装置50等の他の装置と通信する通信インタフェースを備えてよい。
【0029】
<推定装置50>
推定装置50は、精錬炉1からスラグ2を排滓した後に精錬炉1の中に残留するスラグ2の質量を推定する。推定装置50は、スラグ質量推定装置とも称される。推定装置50は、プロセッサ52と、記憶部54と、インタフェース56とを備える。
【0030】
プロセッサ52は、推定装置50の種々の機能を制御及び管理するために、例えばCPU又はGPU等を含んで構成されてよい。プロセッサ52は、記憶部54に格納されたプログラムを読み込んで実行することによって、推定装置50の機能を実現してよい。
【0031】
記憶部54は、推定装置50で用いる各種の情報又はデータ等を格納する。記憶部54は、例えばプロセッサ52において実行されるプログラム、又は、プロセッサ52において実行される処理で用いられるデータ若しくは処理の結果等を格納してよい。記憶部54は、プロセッサ52のワークメモリとして機能してよい。記憶部54は、例えば半導体メモリ等を含んで構成されてよいがこれに限定されない。記憶部54は、例えば、プロセッサ52の内部メモリとして構成されてもよいし、プロセッサ52からアクセス可能なハードディスクドライブ(HDD)等の電磁記録媒体として構成されてもよい。記憶部54は、非一時的な読み取り可能媒体として構成されてもよい。記憶部54は、プロセッサ52と一体に構成されてもよいし、プロセッサ52と別体として構成されてもよい。
【0032】
インタフェース56は、有線又は無線によって精錬装置40等の他の装置と通信するための通信インタフェースを含んで構成されてよい。通信インタフェースは、ネットワークを介して他の装置と通信可能に構成されてよい。インタフェース56は、他の装置との間でデータを入出力する入出力ポートを含んで構成されてよい。インタフェース56は、プロセスコンピュータ又は上位システムに対して、必要なデータ及び信号を送受信する。インタフェース56は、有線通信規格に基づいて通信してよいし、無線通信規格に基づいて通信してもよい。例えば無線通信規格は3G、4G及び5G等のセルラーフォンの通信規格を含んでよい。また、例えば無線通信規格は、IEEE802.11及びBluetooth(登録商標)等を含んでよい。インタフェース56は、これらの通信規格の1つ又は複数をサポートしてよい。インタフェース56は、これらの例に限られず、種々の規格に基づいて他の装置と通信したりデータを入出力したりしてよい。
【0033】
インタフェース56は、プロセッサ52から取得した情報を出力するように構成されてよい。インタフェース56は、直接又は外部装置等を介して、文字、図形、又は画像等の視覚情報を出力することによってユーザに情報を通知してよい。インタフェース56は、表示デバイスを備えてもよいし、表示デバイスと有線又は無線で接続されてもよい。表示デバイスは、例えば液晶ディスプレイ等の種々のディスプレイを含んでよい。インタフェース56は、直接又は外部装置等を介して、音声等の聴覚情報を出力することによってユーザに情報を通知してもよい。インタフェース56は、スピーカ等の音声出力デバイスを備えてもよいし、音声出力デバイスと有線又は無線で接続されてもよい。インタフェース56は、振動デバイスを備えてもよい。インタフェース56は、視覚情報、聴覚情報又は触覚情報だけでなく、直接又は外部装置等を介して、ユーザが他の感覚で知覚できる情報を出力することによってユーザに情報を通知してもよい。
【0034】
インタフェース56は、ユーザからの入力を受け付ける入力デバイスを含んでもよい。入力デバイスは、例えば、キーボード又は物理キーを含んでもよいし、タッチパネル若しくはタッチセンサ又はマウス等のポインティングデバイスを含んでもよい。入力デバイスは、これらの例に限られず、他の種々のデバイスを含んでもよい。
【0035】
(精錬システム100の動作例)
以下、本実施形態に係る精錬システム100において、精錬装置40が精錬炉1からスラグ2を排滓した後に精錬炉1に残留するスラグ2の質量を、推定装置50によって推定する動作例が説明される。
【0036】
<スラグ2の質量を推定する基本手順例>
推定装置50のプロセッサ52は、情報取得工程(A)として、スラグ2の物性とスラグ2の鎮静挙動との関連性を特定する情報を取得する。スラグ2の物性は、例えば、スラグ2の粘度、固相率又は表面張力を含んでよい。スラグ2の物性は、スラグ2とともに発生するCOガスの発生速度を含んでよい。スラグ2の鎮静挙動は、スラグ2がフォーミング状態になったときにスラグ2に内包されるCOガスが抜けてスラグ2の体積が減少していく挙動である。スラグ2の鎮静挙動は、スラグ2の体積が減少するときの経過時間と体積との関係によって特定されてよい。
【0037】
スラグ2の鎮静挙動は、
図4に例示されるように、精錬炉1の中でフォーミング状態になったスラグ2の精錬炉1の炉底11からの高さの経時変化として表されてよい。吹錬が終わった状態におけるスラグ2の湯面21までの高さはH1で表されるとする。時間の経過とともにスラグ2の高さが減少する。所定時間経過後のスラグ2の湯面22までの高さはH2で表されるとする。
【0038】
スラグ2の鎮静挙動は、例えば
図5のグラフに示されるように、吹錬が終わったときからの経過時間とスラグ2の高さとの関係として表されてよい。
図5のグラフにおいて、横軸は吹錬が終わったときからの経過時間を表す。縦軸はフォーミング状態になったスラグ2の高さを表す。フォーミング状態になったスラグ2の高さは、スラグ2の泡沫高さとも称される。
図5のグラフの丸印(○)でプロットされている点は、経過時間ごとのスラグ2の泡沫高さの測定値を表す。
図5のグラフの実線は、スラグ2の泡沫高さの測定値を近似した指数関数等の関数を表す。
【0039】
プロセッサ52は、スラグ2の物性とスラグ2の鎮静挙動との関連性を特定する情報として、実際の精錬炉1の中における泡沫高さの経時変化のデータを取得してもよい。しかし、実際の精錬炉1の中における泡沫高さの経時変化を測定することは難しい。そこで、プロセッサ52は、スラグ2の物性とスラグ2の鎮静挙動との関連性を特定する情報として、例えば吹錬直後の精錬炉1の内部状態を再現するような予備実験を実施することによって取得されたデータを取得してよい。予備実験は、スラグ2の粘度又は固相率等の物性がスラグ2の鎮静挙動に及ぼす影響を調査するために、スラグ2の物性を模擬した水溶液を用いて実施されてよい。
【0040】
予備実験において、スラグ2の物性を模擬した水溶液にガスが吹き付けられる。ガスの吹き付けによって泡立てられてフォーミング状態になった水溶液の体積の経時変化が測定される。フォーミング状態になった水溶液の体積として、フォーミング状態になった水溶液の高さが測定されてよい。フォーミング状態になった水溶液の高さは、水溶液の泡沫高さとも称される。水溶液の泡沫高さの経時変化の測定結果は、水溶液によって物性が模擬されているスラグ2が精錬炉1の中でフォーミング状態になった場合のスラグ2の泡沫高さの経時変化を表す。
【0041】
スラグ2の物性は、物性を特定する種々のパラメータの値の組み合わせによって特定される。予備実験は、スラグ2の物性を特定するパラメータの値の複数の組み合わせのそれぞれを模擬する水溶液を用いて実施されてよい。つまり、予備実験は、異なる物性を呈するスラグ2のそれぞれを模擬する水溶液を用いて実施されてよい。予備実験によって、異なる物性を呈するスラグ2の泡沫高さの経時変化のデータが、異なる物性を呈するスラグ2のそれぞれを模擬する水溶液の泡沫高さの経時変化の測定値として取得される。プロセッサ52は、スラグ2の物性とスラグ2の鎮静挙動との関連性を特定する情報として、スラグ2の物性を特定するパラメータの値の組み合わせと、そのスラグ2の物性を模擬する水溶液の泡沫高さの経時変化の測定値とを関連づけた情報を取得してよい。
【0042】
スラグ2の物性を特定するパラメータの値の組み合わせと、そのスラグ2の物性を模擬する水溶液の泡沫高さの経時変化の測定値とを関連づけた情報は、あらかじめデータベースとして準備されてよい。データベースは、推定装置50の記憶部54に格納されてよいし外部の記憶装置に格納されてもよい。プロセッサ52は、データベースから、スラグ2の物性とスラグ2の鎮静挙動との関連性を特定する情報を取得してよい。
【0043】
プロセッサ52は、物性決定工程(B)として、精錬炉1において溶銑3を処理するときの操業条件に基づいてスラグ2の物性を決定する。操業条件は、溶銑3に含まれる珪素(Si)等の不純物の量、溶銑3に副原料として投入する石灰の量、又は、スラグ2の推定温度等を含んでよい。操業条件は、例えば、精錬炉1内の溶銑3の量、スラグ2の持越量(スラグ2の排滓後のスラグ2の残留量)、スラグ2のフォーミング高さの推定値、又は、酸化鉄(FeO)の推定量等を含んでもよい。プロセッサ52は、熱力学データベース等に更に基づいて、スラグ2の粘度、固相率又は表面張力等の、スラグ2の鎮静挙動に影響を及ぼすスラグ2の物性を導出してもよい。
【0044】
プロセッサ52は、密度推定工程(C)として、情報取得工程(A)で取得した情報と、物性決定工程(B)で決定したスラグ2の物性とに基づいてスラグ2の鎮静挙動を予測し、スラグ2の排滓後に精錬炉1の中に残留したスラグ2の密度を推定する。
【0045】
具体的に、プロセッサ52は、情報取得工程(A)において取得した、スラグ2の物性とスラグ2の鎮静挙動との関連性を特定する情報から、スラグ2の物性を模擬した水溶液の泡沫高さの経時変化の測定データを引き当てて、スラグ2の鎮静挙動の予測データとして取得する。
【0046】
また、プロセッサ52は、スラグ2の鎮静挙動の予測データに基づいて、スラグ2の排滓が終了したときのスラグ2の嵩密度を推定する。スラグ2の嵩密度は、フォーミング状態になったスラグ2に内包されるCOガスが時間の経過とともに抜けてスラグ2の泡沫高さが減少することによって、時間の経過とともに増加する。スラグ2の嵩密度は、例えば
図6のグラフに示されるように時間の経過とともに増加する。
図6のグラフにおいて、横軸は吹錬が終わった後の経過時間を表す。縦軸は各時刻におけるスラグ2の嵩密度を表す。吹錬が終わってからスラグ2の排滓が終了するまでの経過時間はT0で表されるとする。プロセッサ52は、
図6のグラフにおいて経過時間がT0であるときのスラグ2の嵩密度を、スラグ2の排滓が終了したときのスラグ2の嵩密度として推定する。
【0047】
プロセッサ52は、体積推定工程(D)として、精錬炉1の中のスラグ2の高さと、精錬炉1の炉体の体積とを計測することによって、精錬炉1の中に残留したスラグ2の体積を推定する。プロセッサ52は、スラグ2の排滓のために傾斜していた精錬炉1の姿勢を元に戻した状態におけるスラグ2の高さの測定値を取得してよい。プロセッサ52は、スラグ2の高さの測定値と精錬炉1の炉体の体積とに基づいて精錬炉1の中に残留しているスラグ2の体積を推定してよい。
【0048】
プロセッサ52は、質量推定工程(E)として、密度推定工程(C)で推定したスラグ2の密度と、体積推定工程(D)で推定した、排滓後に精錬炉1の中に残留したスラグ2の体積とに基づいて、精錬炉1の中に残留したスラグ2の質量を推定する。
【0049】
<<フローチャートの例>>
推定装置50のプロセッサ52は、
図7に例示されるフローチャートの手順を含むスラグ質量推定方法を実行してよい。スラグ質量推定方法は、プロセッサ52に実行させるスラグ質量推定プログラムとして実現されてもよい。スラグ質量推定プログラムは、非一時的なコンピュータ読み取り可能な媒体に格納されてよい。
【0050】
プロセッサ52は、情報取得工程(A)として、スラグ2の物性とスラグ2の鎮静挙動との関連性を特定する情報として、予備実験の結果を取得する(ステップS1)。プロセッサ52は、物性決定工程(B)として、質量を推定する対象とするスラグ2の物性を導出する(ステップS2)。プロセッサ52は、密度推定工程(C)として、精錬炉1からのスラグ2の排滓後のスラグ2の嵩密度を推定する(ステップS3)。プロセッサ52は、体積推定工程(D)として、スラグ2の排滓後に精錬炉1の中に残留したスラグ2の体積を推定する(ステップS4)。プロセッサ52は、質量推定工程(E)として、精錬炉1の中に残留したスラグ2の質量を推定する(ステップS5)。プロセッサ52は、ステップS5の手順の実行後、
図7のフローチャートの手順の実行を終了する。
【0051】
<<小括>>
推定装置50は、上述してきた基本手順例を実行することによって、吹錬直後から排滓を完了するまでの間のスラグ2の状態を測定しなくても、スラグ2の排滓後に精錬炉1の中に残留したスラグ2の質量を推定できる。スラグ2の状態を測定せずにスラグ2の質量を推定できることによって、測定のための処理の中断が避けられる。その結果、作業効率が向上する。
【0052】
精錬システム100において、精錬装置40は、精錬炉1の中に残留したスラグ2の質量の推定結果に基づいて、精錬の次の段階の処理において添加する副原料の量を決定できる。精錬炉1の中に残留したスラグ2の質量が高精度で推定されることによって、次の段階の処理で必要な副原料の量が高精度に推定される。副原料の量が高精度に推定されることによって、副原料が精錬炉1の中で余剰にならない。つまり、投入する副原料の量が適切な量に抑えられる。その結果、投入する副原料の量が削減される。また、副原料の量が高精度に推定されることによって、精錬の処理における熱損失が低減する。また、副原料の量が高精度に推定されることによって、精錬した溶銑3の成分が目標から外れにくくなる。つまり、製造する溶銑3の品質が向上する。
【0053】
<情報取得工程の動作例>
情報取得工程(A)は、データ取得工程(F)と、数式化工程(G)と、安定性導出工程(H)とを含んでよい。プロセッサ52は、データ取得工程(F)として、スラグ2の物性とスラグ2の鎮静挙動との関連性を特定する情報として、スラグ2の物性に関する無次元数の相似条件を考慮して操業下での鎮静現象を再現した実験によって得られた、スラグ2の鎮静挙動のデータを取得する。プロセッサ52は、数式化工程(G)として、データ取得工程(F)で取得したスラグ2の鎮静挙動のデータを関数近似することによって数式化する。プロセッサ52は、安定性導出工程(H)として、数式化工程(G)で得られた近似関数からフォーミング安定性を導出する。
【0054】
データ取得工程(F)に関して、スラグ2の物性とスラグ2の鎮静挙動との関連性をあらかじめ調査するための具体的手法は限定されない。例えば水溶液を用いてスラグ2の鎮静挙動を模擬したコールドモデル実験を実施することによって、スラグ2の物性とスラグ2の鎮静挙動との関連性が調査されてよい。
【0055】
コールドモデル実験においてスラグ物性の影響を再現するため、泡の安定性に関する無次元数である、下記の式(1)で表されるモートン数Mo、又は、スラグ2の中の粒子析出の影響を表す無次元数である、下記の式(2)で表される固相率Φsの少なくとも一方がスラグ2の物性と一致するように水溶液の物性が調整される。
【0056】
【0057】
式(1)において、μは液体の粘度[Pa・s]である。gは重力加速度[m/s2]である。ρは液体の密度[kg/m3]である。σは液体の表面張力[N/m]である。式(2)において、Vsは固液共存体に含まれる固相体積[m3]である。Vlは固液共存体に含まれる液体体積[m3]である。
【0058】
上述の式(1)又は(2)に基づいて調整した水溶液がガス吹きによって泡立てられる。ガス発生を停止させたときから泡立てられた水溶液において鎮静現象が再現される。この時の水溶液の泡沫高さの時間変化が記録される。本実験において、実機で想定されるスラグ2の物性を特定するパラメータの値及び溶銑3に吹き付けられるガス速度の値の複数の組み合わせについて実験が行われてよい。複数の組み合わせについて実験が行われることによって、様々な操業条件におけるスラグ2の鎮静挙動のデータが取得される。
【0059】
数式化工程(G)及び安定性導出工程(H)に関して、スラグ2の鎮静挙動(スラグ2が鎮静する時のスラグ2の泡沫高さの時間変化)を数式化するために用いる関数は限定されない。例えば、以下の式(3)として示される式が近似関数として用いられてよい。
【0060】
【0061】
式(3)において、v(t)は現在時刻を0秒としたときのt秒後(-∞<t<0)の時刻における発生ガス速度[m/s]である。τはフォーミング安定性を表す時定数[s-1]である。h∞はスラグ2が完全に鎮静した時のスラグ2の高さ(スラグ2の液相高さ)である。ここで、発生ガス速度v(t)は実験条件で特定されることによって既知である。フォーミング高さhの時間変化は、あらかじめ測定されている。v(t)とhの時間変化とに基づいて、フォーミング安定性を表す時定数τが導出される。
【0062】
<物性決定工程の動作例>
物性決定工程(B)は、操業条件抽出工程(I)とスラグ物性推定工程(J)とを含んでよい。プロセッサ52は、操業条件抽出工程(I)として、精錬炉1の操業を制御するプロセスコンピュータのデータから精錬炉1の操業条件を抽出する。プロセッサ52は、スラグ物性推定工程(J)として、熱力学データベースと、操業条件抽出工程(I)で抽出した精錬炉1の操業条件とを用いてスラグ2の物性を推定する。
【0063】
操業条件抽出工程(I)に関して、スラグ2物性の導出に必要となる操業条件が抽出される。例えば、スラグ2の粘性、固相率、表面張力の導出に必要となる溶銑3の量、スラグ2の持越量(排滓後のスラグ2の残留量)、副原料投入量、又は、スラグ2の推定温度等が抽出されてよい。また、発生ガス速度の導出に必要となる吹錬終了直後の推定フォーミング高さ又は酸化鉄(FeO)の推定量等が抽出されてよい。
【0064】
スラグ物性推定工程(J)に関して、スラグ2の粘度又は固相率はFactSage等の熱力学データベースから取得されてよい。表面張力はButlerのモデル式に基づいて算出されてよい。また、COガス発生速度v(t)は、例えば以下の式(4)として表されてよい。
【0065】
【0066】
式(4)において、VCOは吹錬終了直前におけるCOガス発生速度[m/s]である。T0は吹錬終了からの経過時間[s]である。τCOは吹錬終了後のCOガス発生速度の減衰係数[s-1]である。
【0067】
操業中のCOガス発生速度VCO及び吹錬終了後のCOガス発生速度減衰係数τCOをリアルタイムで計測したり計算したりすることは困難である。したがって、これらの値は、過去の操業実績から解析的に導出されてよい。そして、解析的に導出された値は、COガス発生速度v(t)と酸化鉄(FeO)の推定量との間に相関があると仮定して紐づけられてよい。
【0068】
まず、式(4)で仮定したCOガス発生速度v(t)におけるフォーミング高さh(T0)、及び、フォーミングしたスラグ2が含有する気相割合を表す気相率Φ(T0)は、以下の式(5)及び式(6)で表される。
【0069】
【0070】
すなわち、吹錬終了からT0秒経過したときのフォーミング高さh(t0)及び気相率Φ(T0)は、COガス発生速度VCO、フォーミング安定性を表す時定数τ、及び、吹錬終了後のCOガス発生速度の減衰係数τCOの関数として表される。式(5)及び式(6)の中に含まれる変数のうち、VCOは吹錬直後(T0=0秒)におけるフォーミング高さに基づいて推定される。τは安定性導出工程(H)において既知である。したがって、未知変数はΦ(T0)及びτCOのみとなる。気相率Φ(T0)については、以下の式(7)によって推定される。
【0071】
【0072】
式(7)において、ρairは空気の密度[kg/m3]である。ρslagは純固液状態スラグの密度[kg/m3]である。ここで、吹錬終了からT0秒経過したときのスラグ2の嵩密度ρ(T0)は、操業実績に基づいて推定される。例えば、スラグ2の排滓開始時のスラグ2の嵩密度は、副原料投入量から推定したスラグ2の質量を、精錬炉1の傾動角に基づいて推定したスラグ2の体積で割ることによって導出される。
【0073】
最後に、式(5)~(7)及び吹錬終了からT0秒経過したときの推定スラグ密度ρ(T0)を連立させることによって、減衰係数τCOが導出される。一連の作業を複数チャージに対して実施することによって、酸化鉄(FeO)の推定量とCOガス発生速度VCO及び減衰係数τCOとの相関が得られる。オンラインでは、酸化鉄(FeO)の推定量に対応するCOガス発生速度VCO及び減衰係数τCOを引き当てることによって、COガス発生速度を推定する方法が採用されてよい。
【0074】
<密度推定工程の動作例>
密度推定工程(C)は、無次元数計算工程(K)と、鎮静挙動引当工程(L)と、嵩密度決定工程(M)とを含んでよい。プロセッサ52は、無次元数計算工程(K)として、スラグ物性推定工程(J)において推定したスラグ2の物性に関する無次元数を計算する。プロセッサ52は、鎮静挙動引当工程(L)として、安定性導出工程(H)で導出したフォーミング安定性と無次元数計算工程(K)で計算した無次元数とに基づいて精錬炉1の操業条件に対応する鎮静挙動を引き当てる。プロセッサ52は、嵩密度決定工程(M)として、精錬炉1における吹錬が終了したときからの経過時間と鎮静挙動引当工程(L)で引き当てた鎮静挙動とに基づいてスラグ2の嵩密度を決定する。
【0075】
無次元数計算工程(K)に関して、スラグ物性推定工程(J)で算出したスラグ2の物性値を上述した式(1)及び式(2)に代入することによって、モートン数Mo及び固相率Φsが導出される。
【0076】
鎮静挙動引当工程(L)に関して、無次元数計算工程(K)で導出したモートン数Mo及び固相率Φsに対応するフォーミング安定性を表す時定数τが引き当てられる。
【0077】
嵩密度決定工程(M)に関して、上述した式(6)を用いて、排滓終了後(吹錬終了からT0秒経過したとき)に精錬炉1の中に残留したスラグ2の気相率Φ(T0)が計算される。その後、以下の式(8)を用いて精錬炉1の中に残留したスラグ2の嵩密度が推定される。
【0078】
【0079】
<体積推定工程の動作例>
体積推定工程(D)は、スラグ高さ計測工程(N)とスラグ体積推定工程(O)とを含んでよい。スラグ高さ計測工程(N)に関して、例えばマイクロ波を用いた方法によって、排滓終了後における炉底11からスラグ2の湯面21又は22(
図4参照)までの高さが測定される。スラグ体積推定工程(O)に関して、以下の式(9)を用いて排滓終了後において精錬炉1の中に残留したスラグ2の体積V
slagが算出される。
【0080】
【0081】
式(9)において、S(h)は炉底11からの高さがhである時の精錬炉1の炉体の断面積[m2]である。Vmetalは挿入した溶銑の体積[m3]である。
【0082】
<質量推定工程の動作例>
質量推定工程(E)に関して、嵩密度決定工程(M)で算出された排滓終了後において精錬炉1の中に残留したスラグ密度ρ(T0)、及び、スラグ体積推定工程(O)で算出されたスラグ2の体積Vslagに基づいて、以下の式(10)を用いて精錬炉1の中に残留したスラグ質量Mslagが推定される。
【0083】
【0084】
(実施例)
本開示に係る発明者らが行った実施例が以下に説明される。実施例において、以下のパラメータで特定されるチャージ(精錬の対象とする不純物入りの溶銑3)の精錬処理の排滓終了後(吹錬終了から300秒経過時)におけるスラグ2の嵩密度及び体積から精錬炉1の中に残留したスラグ2の質量が推定される。
・塩基度C/S:1.8
・スラグ2に含まれる酸化鉄(FeO)の推定量:30%
・スラグ推定温度:1400℃
【0085】
発明者らは、上述した操業条件におけるスラグ2の物性を室温で再現するために、純水に対してグリセロール及びガラスビーズを添加した水溶液を調製し、調製した水溶液をガス吹きによって泡立て、ガス発生を停止させることで鎮静現象を再現した。この時の水溶液の泡沫高さの時間変化を測定したデータは、
図5のグラフにおいて丸印(○)でプロットとした点として表された。また、プロットした点を近似した曲線は、上述した式(3)のグラフに対応する。この近似曲線に基づいて、時定数τの値が130秒で算出された。
【0086】
スラグ2に含まれる酸化鉄(FeO)の推定量が40%である場合のCOガス発生速度VCO及び吹錬終了後のCOガス発生速度減衰係数τCOの値は、別のチャージにおける結果に基づいて、あらかじめ見積もられている。これらの値とフォーミング安定性を表す時定数τとを上述した式(5)に代入することによって、スラグ2の高さの時刻歴h(T0)が得られた。
【0087】
スラグ2の高さの時刻歴h(T
0)、及び、上述した式(6)及び式(8)によって、
図6のグラフとして示されるような、スラグ2の嵩密度の時刻歴ρ(T
0)が得られた。その後、T
0に吹錬終了から排滓終了後までの経過時間300秒を代入することによって、排滓終了後のスラグ2の嵩密度ρ(T
0)の値が246kg/m
3であると推定された。
【0088】
上述したように推定された排滓終了後のスラグ2の嵩密度ρ(T0)とマイクロ波を用いた方法によって推定した排滓終了後において精錬炉1の中に残留したスラグ2の体積Vslag=20m3を、上述した式(10)に代入することによって、精錬炉1の中に残留したスラグ2の質量Mslagの値が4.9トンであると算出された。
【0089】
ここで、比較例として、排滓終了後のスラグ2の嵩密度ρ(T0)が吹錬終了直後のスラグ2の嵩密度(ρ=100kg/m3)と等しいと仮定して精錬炉1の中に残留したスラグ2の質量が推定された。比較例における残留スラグ質量の推定値は、2.0トンであった。一方で、スラグ2を排滓する先の転滓台車の秤量値から導出した精錬炉1の中に残留したスラグ2の質量の値は、6.0トンであった。つまり、本実施例における残留スラグ質量の推定値は、比較例における残留スラグ質量の推定値よりも、実際の残留スラグ質量の値に近い。以上のことから、鎮静挙動を考慮したスラグ質量推定方法を実行することによって、精錬炉1の中に残留したスラグ2の質量の推定精度が向上していることが分かる。
【0090】
以上述べてきたように、本開示に係るスラグ質量推定方法によれば、排滓終了後に精錬炉1の中に残留したスラグ2の質量が高精度で、かつ、簡易に推定される。
【0091】
(他の実施形態)
上述してきたスラグ質量推定方法を実行することによって、精錬炉1の中に残留したスラグ2の質量が推定される。精錬装置40のプロセスコンピュータは、推定した残留スラグ質量に基づいて精錬炉1の中に投入する副原料の量を制御してよい。精錬システム100又は精錬装置40のプロセスコンピュータは、精錬炉1の中に残留したスラグ2の質量に基づいて精錬炉1の中に副原料を添加する工程を含む、副原料の添加方法を実行してよい。
【0092】
精錬装置40のプロセスコンピュータは、上述した副原料の添加方法を実行することによって副原料を添加した精錬炉1の中で吹錬を実行してよい。精錬システム100又は精錬装置40のプロセスコンピュータは、上述した副原料の添加方法を実行することによって副原料を添加した精錬炉1の中で吹錬を実行する工程を含む、精錬方法を実行してよい。
【0093】
精錬装置40のプロセスコンピュータは、上述した精錬方法を実行することによって処理した溶銑3を精錬炉1から流し出すことによって、溶鋼を製造してよい。精錬システム100又は精錬装置40のプロセスコンピュータは、上述した精錬方法を実行することによって精錬した溶銑3を流し出す工程を含む、溶鋼の製造方法を実行してよい。
【0094】
本開示の実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は改変を行うことが可能であることに注意されたい。従って、これらの変形又は改変は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部又は各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部又はステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。本開示に係る実施形態は装置が備えるプロセッサにより実行されるプログラム又はプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものである。本開示の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【符号の説明】
【0095】
100 精錬システム
40 精錬装置(1:精錬炉、11:炉底、2:スラグ、21:吹錬直後のスラグの湯面、22:所定時間経過後のスラグの湯面、3:溶銑、42:上吹きランス)
50 推定装置(52:プロセッサ、54:記憶部、56:インタフェース)