(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089413
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】鋼板の吊上方法及び吊上装置、並びに、鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B66C 1/08 20060101AFI20240626BHJP
【FI】
B66C1/08 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204762
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100195534
【弁理士】
【氏名又は名称】内海 一成
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】植松 健斗
【テーマコード(参考)】
3F004
【Fターム(参考)】
3F004EA03
3F004HB02
3F004HB05
(57)【要約】
【課題】薄い鋼板を安定に吊り上げることができる鋼板の吊上方法及び装置、並びに、鋼板の製造の作業効率を向上できる鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】磁極と電磁石コイルとを有するリフティングマグネットを用いて、積み重ねられた複数枚の鋼板の中から少なくとも1枚の鋼板を吊上対象として吊り上げる、鋼板の吊上方法は、磁極磁束密度が目標磁束密度になるように電磁石コイルに電圧を印加し、リフティングマグネットを上昇させることによって吊上対象を吊り上げる吊上工程を含む。鋼板の吊上方法は、磁極に吊上対象が吸着し、かつ、リフティングマグネットが上昇し始める前の状態における磁極磁束密度である第1磁束密度に対する、リフティングマグネットが上昇し始めた後の状態における磁極磁束密度である第2磁束密度の低下量が地切り検知閾値以上である場合に電磁石コイルに印加する電圧を増加させて吊上対象を保持する保持工程を含む。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁極と、前記磁極を励磁するための電圧を制御可能に構成される電磁石コイルとを有するリフティングマグネットを用いて、積み重ねられた複数枚の鋼板の中から少なくとも1枚の鋼板を吊上対象として吊り上げる、鋼板の吊上方法であって、
前記磁極の磁束密度が、前記磁極が前記吊上対象を吊り上げるために必要な目標磁束密度になるように、前記電磁石コイルに電圧を印加し、前記リフティングマグネットを上昇させることによって前記吊上対象を吊り上げる吊上工程と、
前記磁極に前記吊上対象が吸着し、かつ、前記リフティングマグネットが上昇し始める前の状態における前記磁極の磁束密度である第1磁束密度に対する、前記リフティングマグネットが上昇し始めた後の状態における前記磁極の磁束密度である第2磁束密度の低下量が地切り検知閾値以上である場合に前記電磁石コイルに印加する電圧を増加させて前記吊上対象を保持する保持工程と
を含む、鋼板の吊上方法。
【請求項2】
前記吊上工程において、前記第1磁束密度と前記目標磁束密度との差分が吊上げ制御閾値以下になるように前記電磁石コイルに印加する電圧を制御する、請求項1に記載の鋼板の吊上方法。
【請求項3】
前記鋼板を吊り上げた状態における前記磁極の磁束密度である第3磁束密度に基づいて前記リフティングマグネットに吸着させて吊り上げた鋼板の枚数を判定する判定工程を更に含む、請求項1に記載の鋼板の吊上方法。
【請求項4】
前記地切り検知閾値は、0.01以上かつ0.20T以下の範囲内の値である、請求項1から3までのいずれか一項に記載の鋼板の吊上方法。
【請求項5】
前記保持工程において、前記第1磁束密度に対する前記第2磁束密度の低下量が地切り検知閾値以上であると判定したときから待機時間が経過した後に前記電磁石コイルに印加する電圧を増加させて前記吊上対象を保持し、
前記待機時間は、0.1秒以上かつ2.0秒以下の範囲内の時間である、請求項1から3までのいずれか一項に記載の鋼板の吊上方法。
【請求項6】
前記吊上工程において、前記目標磁束密度を、前記吊上対象としての少なくとも1枚の鋼板のそれぞれの板厚及び飽和磁束密度と、前記磁極の寸法とに基づいて算出する、請求項1から3までのいずれか一項に記載の鋼板の吊上方法。
【請求項7】
積み重ねられた複数枚の鋼板の中から少なくとも1枚の鋼板を吊上対象として吊り上げる、鋼板の吊上装置であって、
磁極と、前記磁極を励磁するための電圧を制御可能に構成される電磁石コイルとを有するリフティングマグネットと、
前記電磁石コイルに電圧を印加する電圧印加装置と、
前記磁極の磁束密度を測定する磁束センサと、
前記磁極の磁束密度が、前記磁極が前記吊上対象を吊り上げるために必要な目標磁束密度になるように、前記電磁石コイルに印加する電圧を制御する制御装置と
を備え、
前記磁束センサは、前記磁極に前記吊上対象が吸着し、かつ、前記リフティングマグネットが上昇し始める前の状態における前記磁極の磁束密度を第1磁束密度として測定し、前記リフティングマグネットが上昇し始めた後の状態における前記磁極の磁束密度を第2磁束密度として測定し、
前記制御装置は、前記第1磁束密度に対する前記第2磁束密度の低下量が地切り検知閾値以上である場合に前記電磁石コイルに印加する電圧を増加させる、
鋼板の吊上装置。
【請求項8】
前記制御装置は、前記第1磁束密度と前記目標磁束密度との差分が吊上げ制御閾値以下になるように前記電磁石コイルに印加する電圧を制御する、請求項7に記載の鋼板の吊上装置。
【請求項9】
前記制御装置は、前記第2磁束密度に基づいて前記リフティングマグネットに吸着させて吊り上げた鋼板の枚数を判定する、請求項7に記載の鋼板の吊上装置。
【請求項10】
前記地切り検知閾値は、0.01以上かつ0.20T以下の範囲内の値である、請求項7から9までのいずれか一項に記載の鋼板の吊上装置。
【請求項11】
前記制御装置は、前記第1磁束密度に対する前記第2磁束密度の低下量が地切り検知閾値以上であると判定したときから待機時間が経過した後に前記電磁石コイルに印加する電圧を増加させ、
前記待機時間は、0.1秒以上かつ2.0秒以下の範囲内の時間である、請求項7から9までのいずれか一項に記載の鋼板の吊上装置。
【請求項12】
前記制御装置は、前記目標磁束密度を、前記吊上対象としての少なくとも1枚の鋼板のそれぞれの板厚及び飽和磁束密度と、前記磁極の寸法とに基づいて算出する、請求項7から9までのいずれか一項に記載の鋼板の吊上装置。
【請求項13】
請求項7から9までのいずれか一項に記載の鋼板の吊上装置を用いて少なくとも1枚の鋼板を吊上対象として吊り上げて搬送する工程を含む鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼板の吊上方法及び吊上装置、並びに、吊り上げた鋼板を搬送する工程を含む鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所の厚板工場は、大きく分けて、塊状の鋼板を所望の厚みまで圧延する圧延設備(圧延工程)と、出荷サイズへの切り出し、端部のバリ取り、表面疵の手入れ、又は、内部疵の検査等を行う精整設備(精整工程)と、出荷待ちの鋼板を保管する製品倉庫とを含む。精整工程の仕掛り品の鋼板、又は、製品倉庫で出荷待ちの鋼板は、置き場所の制約上、数枚~十数枚積み重ねた状態で保管されている。積み重ねた状態で保管されている鋼板は、配置替え又は出荷の際に、クレーンに取り付けた電磁石式のリフティングマグネットを使用して移動対象の1枚~数枚の鋼板を吊り上げることによって移動される。
【0003】
所定枚数の鋼板を吊り上げて移動するために、リフティングマグネットのコイルに印加する電流と吸着している鋼板の合計の厚さとの関係に基づいてコイルに印加する電流を制御する方法(特許文献1)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法において、磁束の浸透深さを変化させるために、コイルの電流を制御することによって出力磁束量が制御される。ここで、製鉄所の厚板工場で一般に用いられているリフティングマグネットのコイルは、100mm以上の板厚の大きな鋼板を吊上げるために、大量の磁束を鋼板に印加できるように設計されている。そのようなコイルによって板厚10mm以下の薄い鋼板を1枚だけ吊り上げる場合、コイルへの印加電圧を非常に小さくして磁束密度を制御する必要がある。
【0006】
しかしながら、薄い鋼板を吊り上げる場合、鋼板のたわみ等によってコイルと鋼板との間に隙間が生じることがある。コイルと鋼板との間の隙間は、鋼板に印加される磁束を減少させ、鋼板の吸着力を低下させ、鋼板の落下を引き起こすことがある。薄い鋼板を安定して吊り上げることが求められる。また、鋼板の落下の頻度を少なくすることによる、鋼板の生産効率の向上が求められる。
【0007】
本開示は、上記事実に鑑み、薄い鋼板を安定に吊り上げることができる鋼板の吊上方法及び装置、並びに、鋼板の製造の作業効率を向上できる鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本開示の一実施形態に係る鋼板の吊上方法は、磁極と、前記磁極を励磁するための電圧を制御可能に構成される電磁石コイルとを有するリフティングマグネットを用いて、積み重ねられた複数枚の鋼板の中から少なくとも1枚の鋼板を吊上対象として吊り上げる、鋼板の吊上方法であって、
前記磁極の磁束密度が、前記磁極が前記吊上対象を吊り上げるために必要な目標磁束密度になるように、前記電磁石コイルに電圧を印加し、前記リフティングマグネットを上昇させることによって前記吊上対象を吊り上げる吊上工程と、
前記磁極に前記吊上対象が吸着し、かつ、前記リフティングマグネットが上昇し始める前の状態における前記磁極の磁束密度である第1磁束密度に対する、前記リフティングマグネットが上昇し始めた後の状態における前記磁極の磁束密度である第2磁束密度の低下量が地切り検知閾値以上である場合に前記電磁石コイルに印加する電圧を増加させて前記吊上対象を保持する保持工程と
を含む。
【0009】
(2)本開示の一実施形態として、上記(1)の前記吊上工程において、前記第1磁束密度と前記目標磁束密度との差分が吊上げ制御閾値以下になるように前記電磁石コイルに印加する電圧が制御されてよい。
【0010】
(3)本開示の一実施形態として、鋼板の吊上方法は、上記(1)又は(2)において、前記鋼板を吊り上げた状態における前記磁極の磁束密度である第3磁束密度に基づいて前記リフティングマグネットに吸着させて吊り上げた鋼板の枚数を判定する判定工程を更に含んでよい。
【0011】
(4)本開示の一実施形態として、上記(1)から(3)までのいずれか1つにおいて、前記地切り検知閾値は、0.01以上かつ0.20T以下の範囲内の値であってよい。
【0012】
(5)本開示の一実施形態として、上記(1)から(4)までのいずれか1つの前記保持工程において、前記第1磁束密度に対する前記第2磁束密度の低下量が地切り検知閾値以上であると判定したときから待機時間が経過した後に前記電磁石コイルに印加する電圧を増加させて前記吊上対象を保持してよい。前記待機時間は、0.1秒以上かつ2.0秒以下の範囲内の時間であってよい。
【0013】
(6)本開示の一実施形態として、上記(1)から(5)までのいずれか1つの前記吊上工程において、前記目標磁束密度が、前記吊上対象としての少なくとも1枚の鋼板のそれぞれの板厚及び飽和磁束密度と、前記磁極の寸法とに基づいて算出されてよい。
【0014】
(7)本開示の一実施形態に係る鋼板の吊上装置は、積み重ねられた複数枚の鋼板の中から少なくとも1枚の鋼板を吊上対象として吊り上げる、鋼板の吊上装置であって、
磁極と、前記磁極を励磁するための電圧を制御可能に構成される電磁石コイルとを有するリフティングマグネットと、
前記電磁石コイルに電圧を印加する電圧印加装置と、
前記磁極の磁束密度を測定する磁束センサと、
前記磁極の磁束密度が、前記磁極が前記吊上対象を吊り上げるために必要な目標磁束密度になるように、前記電磁石コイルに印加する電圧を制御する制御装置と
を備え、
前記磁束センサは、前記磁極に前記吊上対象が吸着し、かつ、前記リフティングマグネットが上昇し始める前の状態における前記磁極の磁束密度を第1磁束密度として測定し、前記リフティングマグネットが上昇し始めた後の状態における前記磁極の磁束密度を第2磁束密度として測定し、
前記制御装置は、前記第1磁束密度に対する前記第2磁束密度の低下量が地切り検知閾値以上である場合に前記電磁石コイルに印加する電圧を増加させる。
【0015】
(8)本開示の一実施形態として、上記(7)において、前記制御装置は、前記第1磁束密度と前記目標磁束密度との差分が吊上げ制御閾値以下になるように前記電磁石コイルに印加する電圧を制御してよい。
【0016】
(9)本開示の一実施形態として、上記(7)又は(8)において、前記制御装置は、前記第2磁束密度に基づいて前記リフティングマグネットに吸着させて吊り上げた鋼板の枚数を判定してよい。
【0017】
(10)本開示の一実施形態として、上記(7)から(9)までのいずれか1つにおいて、前記地切り検知閾値は、0.01以上かつ0.20T以下の範囲内の値であってよい。
【0018】
(11)本開示の一実施形態として、上記(7)から(10)までのいずれか1つにおいて、前記制御装置は、前記第1磁束密度に対する前記第2磁束密度の低下量が地切り検知閾値以上であると判定したときから待機時間が経過した後に前記電磁石コイルに印加する電圧を増加させてよい。前記待機時間は、0.1秒以上かつ2.0秒以下の範囲内の時間であってよい。
【0019】
(12)本開示の一実施形態として、上記(7)から(11)までのいずれか1つにおいて、前記制御装置は、前記目標磁束密度を、前記吊上対象としての少なくとも1枚の鋼板のそれぞれの板厚及び飽和磁束密度と、前記磁極の寸法とに基づいて算出してよい。
【0020】
(13)本開示の一実施形態として、鋼板の製造方法は、上記(7)から(12)までのいずれか1つの鋼板の吊上装置を用いて少なくとも1枚の鋼板を吊上対象として吊り上げて搬送する工程を含む。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、薄い鋼板を安定に吊り上げることができる鋼板の吊上装置及び吊上方法、並びに、鋼板の生産効率を向上できる鋼板の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本開示に係る鋼板の吊上装置の構成例を示すブロック図である。
【
図2】リフティングマグネットの構成例を示す断面図である。
【
図3】リフティングマグネットで鋼板を吊り上げるときの落下のメカニズムを説明する模式図である。
【
図4】複数枚の鋼板をリフティングマグネットで吸着するときの各鋼板における磁束の大きさを説明する断面図である。
【
図5】本開示に係る鋼板の吊上方法の手順例を示すフローチャートである。
【
図6】本開示に係る吊上方法によって鋼板を吊り上げるときの磁束密度の変化を示すグラフである。
【
図7】比較例に係る吊上方法によって鋼板を吊り上げるときの磁束密度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示に係る鋼板の吊上装置、鋼板の吊上方法、及び、鋼板の製造方法の実施形態が図面に基づいて説明される。各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下の実施形態は、本開示の技術的思想を具体化するための装置又は方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本開示の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0024】
(実施形態)
以下説明する本開示の一実施形態に係る鋼板の吊上装置10(
図1参照)は、吊上対象20(
図3参照)である鋼板をリフティングマグネット1(
図1等参照)で吸着する。鋼板の吊上装置10は、クレーン8(
図1参照)でリフティングマグネット1を上昇させることによってリフティングマグネット1に吸着した鋼板を吊り上げる。以下、本実施形態に係る鋼板の吊上装置10の構成例及び動作例が説明される。
【0025】
<鋼板の吊上装置10の構成例>
図1に示されるように、本開示の一実施形態に係る鋼板の吊上装置10は、リフティングマグネット1と、制御装置5と、電圧印加装置6と、クレーン8とを備える。クレーン8は、リフティングマグネット1を保持し、リフティングマグネット1を昇降させたり横行させたりするように構成される。クレーン8は、ワイヤの巻き上げによってリフティングマグネット1を上昇させるように構成されてよい。
【0026】
<<リフティングマグネット1>>
リフティングマグネット1は、
図1及び
図2に示されるように、電磁石コイル2と、磁極3と、ヨーク7とを備える。リフティングマグネット1は、
図2に例示される、電磁石コイル2と磁極3とヨーク7とを組み合わせたユニットを複数個備えてもよい。
【0027】
電磁石コイル2は、例えばエナメル銅線を多数回巻き回して絶縁処理したリング状の励磁用コイルとして構成されてよい。電磁石コイル2において銅線が巻き回されている部分の直径は、百mm~数百mmであってよい。電磁石コイル2に対して後述する電圧印加装置6から電圧が印加されることによって、印加された電圧に応じた電流が銅線に流れる。銅線に流れる電流によって磁束が発生する。電磁石コイル2に印加される電圧が大きいほど、銅線に流れる電流が大きくなり、電磁石コイル2で発生する磁束が大きくなる。電圧印加装置6がオフの状態で電圧を印加しない場合、電磁石コイル2は磁束を発生させない。つまり、電磁石コイル2は、オンの状態とオフの状態とのいずれかの状態に制御可能に構成される。また、電磁石コイル2は、印加される電圧の大きさによって発生させる磁束の大きさを制御可能に構成される。
【0028】
電磁石コイル2の内側に磁極3が配置されている。磁極3は、電磁石コイル2の磁心として機能する。磁極3の直径は、Dで表されるとする。電磁石コイル2は、磁極3を励磁する。言い換えれば、電磁石コイル2は、磁極3を励磁するための電圧を制御可能に構成される。ヨーク7は、磁極3の上端側及び電磁石コイル2の外側に配置されている。電磁石コイル2は、ヨーク7の内側で磁極3を軸として巻き回されているとする。つまり、電磁石コイル2は、磁極3とヨーク7との間で巻き回されているとする。電磁石コイル2が巻き回されている軸の方向に見たときに、電磁石コイル2とヨーク7とは、磁極3を中心とする同心円状に配置されてよい。電磁石コイル2が巻き回されている軸の方向に見たときの磁極3、電磁石コイル2及びヨーク7の形状は、円形状、矩形状、又は、他の種々の形状であってよい。ヨーク7は、断面がU字状になるように構成されるとする。ヨーク7は、磁極3と合わせた断面がE字状になるように構成されるとする。磁極3及びヨーク7は、断面において、電磁石コイル2よりも突出しており、突出している部分の先端で鋼板を吸着する。
【0029】
磁極3及びヨーク7は、軟鋼等の軟磁性材料を含んで構成されてよい。磁極3及びヨーク7の一部又は全部が一体の部材として構成されてよい。磁極3及びヨーク7は、それぞれ別体の部材として構成され、組み合わされてもよい。磁極3とヨーク7との間において電磁石コイル2を固定するために、例えば樹脂等の非磁性材料が充填されてよい。
【0030】
リフティングマグネット1は、磁束センサ4を更に備える。磁束センサ4は、磁極3に設置されており、磁極3を通過する磁束の磁束密度を測定する。磁極3を通過する磁束の磁束密度は、磁極磁束密度とも称される。磁極磁束密度は、電磁石コイル2で生じた磁束の量と、電磁石コイル2が巻き回されている軸の方向を法線とする断面における磁極3の断面積とに基づいて定まる。
【0031】
磁束センサ4は、例えば、サーチコイル又はホール素子等を含んで構成されてよい。本実施形態において、磁束センサ4は、サーチコイルで構成されているとする。磁束センサ4の設置位置は、磁極磁束密度を測定できる位置であれば特に限定されない。本実施形態において、磁束センサ4は、磁極3の外周下端に設置されているとする。複数個の磁束センサ4が磁極3の異なる位置に設置されてもよい。
【0032】
<<電圧印加装置6>>
電圧印加装置6は、電磁石コイル2に電流を流すように電圧を印加する。電圧印加装置6は、電圧を制御可能な電圧源として構成されてよい。電圧印加装置6は、電流を制御可能な電流源で置き換えられてもよい。
【0033】
<<制御装置5>>
制御装置5は、
図1に示されるように電圧印加装置6と接続され、電圧印加装置6が電磁石コイル2に印加する電圧の大きさを制御する。制御装置5は、磁束センサ4による磁極磁束密度の測定値を取得する。制御装置5は、クレーン8と接続されて、クレーン8によるリフティングマグネット1の昇降を制御可能に構成されてもよい。
【0034】
制御装置5は、例えばCPU(Central Processing Unit)又はGPU(Graphics Processing Unit)等の少なくとも1つのプロセッサを含んで構成されてよい。制御装置5は、1つのプロセッサで構成されてよいし、複数のプロセッサで構成されてよい。制御装置5を構成するプロセッサは、後述する記憶部に格納されたプログラムを読み込んで実行することによって、鋼板の吊上装置10の機能を実現してよい。
【0035】
制御装置5は、記憶部を備えてよい。記憶部は、各種の情報又はデータ等を格納する。記憶部は、例えば制御装置5において実行されるプログラム、又は、制御装置5において実行される処理で用いられるデータ若しくは処理の結果等を格納してよい。また、記憶部は、制御装置5のワークメモリとして機能してよい。記憶部は、例えば半導体メモリ等を含んで構成されてよいがこれに限定されない。例えば、記憶部は、制御装置5として用いられるプロセッサの内部メモリとして構成されてもよいし、制御装置5からアクセス可能なハードディスクドライブ(HDD)として構成されてもよい。記憶部は、非一時的な読み取り可能媒体として構成されてもよい。記憶部は、制御装置5と一体に構成されてもよいし、制御装置5と別体として構成されてもよい。
【0036】
制御装置5は、通信部を備えてよい。通信部は、有線又は無線によって他の装置と通信するための通信インタフェースを含んで構成されてよい。通信インタフェースは、ネットワークを介して他の装置と通信可能に構成されてよい。通信部は、他の装置との間でデータを入出力する入出力ポートを含んで構成されてよい。通信部は、プロセスコンピュータ又は上位システムに対して、必要なデータ及び信号を送受信する。通信部は、有線通信規格に基づいて通信してよいし、無線通信規格に基づいて通信してもよい。例えば無線通信規格は3G、4G及び5G等のセルラーフォンの通信規格を含んでよい。また、例えば無線通信規格は、IEEE802.11及びBluetooth(登録商標)等を含んでよい。通信部は、これらの通信規格の1つ又は複数をサポートしてよい。通信部は、これらの例に限られず、種々の規格に基づいて他の装置と通信したりデータを入出力したりしてよい。通信部は、制御装置5と一体に構成されてもよいし、制御装置5と別体として構成されてもよい。
【0037】
制御装置5は、鋼板の吊上装置10を用いる作業者から情報又はデータ等の入力を受け付ける入力デバイスを含んで構成されてよい。入力デバイスは、例えば、タッチパネル若しくはタッチセンサ、又はマウス等のポインティングデバイスを含んで構成されてよい。入力デバイスは、物理キーを含んで構成されてもよい。入力デバイスは、マイク等の音声入力デバイスを含んで構成されてもよい。制御装置5は、外部の入力デバイスに接続可能に構成されてよい。制御装置5は、外部の入力デバイスに入力された情報又はデータを、外部の入力デバイスから取得可能に構成されてよい。
【0038】
制御装置5は、作業者に対して情報又はデータ等を出力する出力デバイスを含んで構成されてよい。出力デバイスは、例えば、画像又は文字若しくは図形等の視覚情報を出力する表示デバイスを含んでよい。表示デバイスは、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ若しくは無機ELディスプレイ、又は、PDP(Plasma Display Panel)等を含んで構成されてよい。表示デバイスは、これらのディスプレイに限られず、他の種々の方式のディスプレイを含んで構成されてよい。表示デバイスは、LED(Light Emitting Diode)又はLD(Laser Diode)等の発光デバイスを含んで構成されてよい。表示デバイスは、他の種々のデバイスを含んで構成されてよい。出力デバイスは、例えば、音声等の聴覚情報を出力するスピーカ等の音声出力デバイスを含んでよい。出力デバイスは、これらの例に限られず、他の種々のデバイスを含んでよい。制御装置5は、外部の出力デバイスに接続可能に構成されてよい。制御装置5は、情報又はデータを、外部の出力デバイスに対して出力可能に構成されてよい。
【0039】
<鋼板の吊上装置10の動作例>
本実施形態に係る鋼板の吊上装置10は、積み重ねられた複数の鋼板の中から少なくとも1枚の鋼板をリフティングマグネット1で吸着してクレーン8でリフティングマグネット1を上昇させることによって鋼板を吊り上げる。
【0040】
リフティングマグネット1に吸着されている鋼板を吊り上げる場合、吊り上げられる鋼板のうちリフティングマグネット1に吸着されている部分に作用する力と、リフティングマグネット1に吸着されていない部分に作用する力との間に差異が生じる。
図3に例示されるように、吊上対象20とする鋼板は、地切りされたときに鋼板の弾性に起因して変形し得る。鋼板は、地切りされたときに変形した後、弾性によって振動し得る(
図3の(1))。鋼板の変形又は振動によって、リフティングマグネット1と吊上対象20の鋼板との間に隙間が発生し得る(
図3の(2))。リフティングマグネット1と吊上対象20の鋼板との間の隙間によって磁気抵抗が増大し、磁極磁束密度が低下する。磁極磁束密度が低下することによって、リフティングマグネット1が鋼板を吸着する力が弱まり、吊上対象20とする鋼板の少なくとも一部が落下し得る(
図3の(3))。
【0041】
そこで、制御装置5は、鋼板を吊り上げるときの鋼板の吸着の安定性を高めるように、リフティングマグネット1の電磁石コイル2に印加する電圧を制御する。以下、リフティングマグネット1で鋼板を吸着して吊り上げる際の制御装置5の動作例が説明される。
【0042】
<<吸着する鋼板の量の制御>>
制御装置5は、電磁石コイル2に印加する電圧を制御することによってリフティングマグネット1によって吸着する鋼板の枚数を制御できる。鋼板を吸着して吊り上げ始めるまでの工程は、吊上工程とも称される。
【0043】
リフティングマグネット1が鋼板を吸着した場合、磁極3とヨーク7と吸着した鋼板とを通り、電磁石コイル2に鎖交するように磁束が通過する磁気回路が形成される。吸着した鋼板の量が多くなるほど、磁気回路の磁気抵抗が低下し、磁気回路を通過する磁束の量が多くなる。制御装置5は、磁気回路を通過する磁束の量、すなわち磁極3を通過する磁束の磁束密度に基づいて、吸着した鋼板の量を算出できる。制御装置5は、磁束センサ4から磁極磁束密度の測定値を取得し、磁極磁束密度の測定値に基づいて、吸着した鋼板の量を算出してよい。制御装置5は、吸着した鋼板の量を、複数枚の鋼板の厚みの合計として算出してよい。各鋼板の厚みが同一又は略同一である場合、制御装置5は、吸着した鋼板の量を、鋼板の枚数として算出してよい。
【0044】
制御装置5は、吸着する鋼板の枚数、又は、吸着する鋼板の合計の厚さを作業者が指定する情報を取得してよい。制御装置5は、指定された量の鋼板をリフティングマグネット1で吸着するために必要な磁極磁束密度の目標値を算出する。磁極磁束密度の目標値は、目標磁束密度とも称される。目標磁束密度は、Brと表されるとする。
【0045】
リフティングマグネット1が吸着する鋼板の合計の厚さは、鋼板に対して磁束が浸透する深さ(磁束浸透深さ)によって定まる。リフティングマグネット1は、磁束浸透深さを制御することによって吸着する鋼板の枚数を制御できる。制御装置5は、磁極磁束密度と磁束浸透深さとの関係に基づいて、目標磁束密度を決定してよい。
【0046】
制御装置5は、磁極磁束密度が目標磁束密度になるように電圧印加装置6を制御することによって、指定された量の鋼板をリフティングマグネット1で吸着する。制御装置5は、吊上対象20とする鋼板の板厚及び鋼板の飽和磁束密度に基づいて目標磁束密度を算出してよい。制御装置5は、磁極3の直径と磁束センサ4で測定した磁極磁束密度とに基づいて、磁極磁束密度が目標磁束密度になるように電磁石コイル2に印加する電圧をフィードバック制御することによって、吊り上げる鋼板の枚数を自動制御できる。
【0047】
具体的に、制御装置5は、リフティングマグネット1の磁極3の直径(D)、すなわち磁極3の寸法と、吊上対象20とするn枚の鋼板のそれぞれの板厚(t
1~t
n)と、各鋼板の飽和磁束密度(Bs
1~Bs
n)とに基づいて目標磁束密度を以下の式(1)で算出してよい。
【数1】
【0048】
ここで、磁極3の目標磁束密度は以下の理論により導かれる。
図4において白抜き矢印で示されるように、リフティングマグネット1で生じた磁束は、磁極3の直下の領域141において、吊上対象20とする鋼板の上面から流入し、領域141の側面から流出する。電磁石コイル2に近い側からk番目の鋼板における磁束の流出量(Φ
k)は、側面積πD・t
kと飽和磁束密度Bs
kとに基づいて、Φ
k=πD・Bs
k・t
kで算出される。
【0049】
そうすると、電磁石コイル2に近い側からn枚の鋼板を吊上対象20とする場合、n番目の鋼板に磁束を通過させるための目標となる磁束(Φr)は、以下の式(2)で算出される。
【数2】
【0050】
さらに、磁極3の断面積(A)がA=πD
2/4で表されることを用いて、磁極3の目標磁束密度(Br)は、以下の式(3)で算出される。
【数3】
【0051】
制御装置5は、磁束センサ4で測定した磁極3の磁極磁束密度を取得し、磁極磁束密度と目標磁束密度との差分を算出する。ここで、鋼板を吸着するために調整中の磁極磁束密度は、第1磁束密度とも称され、Ba1で表されるとする。制御装置5は、差分を|Ba1-Br|で算出できる。制御装置5は、差分が吊上げ制御閾値以下になるか判定する。吊上げ制御閾値は、B1で表されるとする。制御装置5は、差分が吊上げ制御閾値より大きい場合、つまり|Ba1-Br|>B1である場合、差分が吊上げ制御閾値以下になるように、電圧印加装置6をフィードバック制御して電磁石コイル2に印加する電圧を調整する。制御装置5は、差分が吊上げ制御閾値以下になった場合、つまり|Ba1-Br|≦B1になった場合、クレーン8によってリフティングマグネット1の上昇を開始してよい。
【0052】
比較例として、リフティングマグネットを作業者が手動で制御する場合、磁束浸透深さを高精度に制御して、最初から所定枚数の鋼板を吸着させて吊り上げるように操作することが難しい。このため、最初に所定枚数よりも多い枚数の鋼板を吸着させて吊り上げた後で、余分に吸着した鋼板をリフティングマグネットの電流調整によって落とすことによって吸着枚数を調整する方法が行われている。しかし、鋼板を多めに吸着した後で余分な鋼板を落とす方法において、吸着した鋼板の枚数の調整が何度もやり直される必要がある。作業者の技量によって作業が成功するまでの回数が異なる。つまり、作業効率が作業者の技量に依存する。
【0053】
比較例に対して、本実施形態に係る鋼板の吊上装置10によれば、鋼板の吊り上げを自動制御できることによって、作業効率が作業者の技量に依存しないように高められる。
【0054】
<<鋼板を吊り上げるときの制御>>
上述したように、吊上対象20とする鋼板が地切りされるときに、鋼板の変形又は振動によって鋼板が落下し得る。そこで、本実施形態に係る鋼板の吊上装置10において、制御装置5は、吊上対象20とする鋼板を安定に吊り上げることができるように、鋼板が地切りされたときの磁極磁束密度の低下量に基づいて、鋼板を吊り上げるときの磁極磁束密度を制御する。鋼板を吊り上げ始めた後の工程は、保持工程とも称される。
【0055】
具体的に、制御装置5は、リフティングマグネット1が上昇して吊上対象20である鋼板が地切りされるときの磁極3の磁極磁束密度の低下量を算出する。ここで、リフティングマグネット1が上昇し始める前の磁極磁束密度はBa1で表される。リフティングマグネット1が上昇し始めた後の磁極磁束密度は、第2磁束密度とも称され、Ba2で表されるとする。磁極磁束密度の低下量は、Ba1-Ba2で表される。制御装置5は、磁極磁束密度の低下量が地切り検知閾値以上か判定する。地切り検知閾値は、B2で表されるとする。制御装置5は、磁極磁束密度の低下量が地切り検知閾値未満である場合、つまりBa1-Ba2<B2である場合、電圧印加装置6から電磁石コイル2に印加する電圧を変更しなくてよい。制御装置5は、磁極磁束密度の低下量が地切り検知閾値以上である場合、つまりBa1-Ba2≧B2である場合、電磁石コイル2に印加する電圧を高めるように電圧印加装置6を制御する。このようにすることで、鋼板が地切りされるときに落下しにくくなる。
【0056】
制御装置5は、磁極磁束密度の低下量が地切り検知閾値以上であると判定した後、待機時間経過後に電磁石コイル2に印加する電圧を高めるように電圧印加装置6を制御してよい。電磁石コイル2に印加する電圧を高めるまでの時間が短すぎる場合、吊り上げようとする鋼板の枚数よりも多い枚数の鋼板が吸着されることがある。待機時間は、例えば0.1秒を下限として設定されてよい。待機時間は、0.2秒を下限として設定されてもよい。逆に、電磁石コイル2に印加する電圧を高めるまでの時間が長すぎる場合、吊り上げようとする鋼板の少なくとも一部が落下することがある。待機時間は、例えば2.0秒を上限として設定されてよい。待機時間は、1.0秒を上限として設定されてもよい。待機時間の下限又は上限は、例示した値に限られず適宜定められてよい。適宜設定された待機時間が経過した後に電磁石コイル2に印加する電圧を高めることによって、指定された枚数の鋼板の吊り上げに成功する可能性が高まる。
【0057】
地切り検知閾値は適宜設定されてよい。しかし、地切り検知閾値が小さすぎる場合、鋼板の落下の可能性が低いにもかかわらず電磁石コイル2に印加する電圧が高められることによって、吊り上げようとする鋼板の枚数よりも多い枚数の鋼板が吸着されることがある。逆に、地切り検知閾値が大きすぎる場合、鋼板の落下の可能性が見逃され、鋼板がそのまま落下することがある。地切り検知閾値は、例えば0.01T(テスラ)を下限として設定されてよい。地切り検知閾値は、例えば0.02Tを下限として設定されてもよい。地切り検知閾値は、0.2Tを上限として設定されてよい。地切り検知閾値は、0.1Tを上限として設定されてもよい。地切り検知閾値の下限又は上限は、例示した値に限られず適宜定められてよい。磁極磁束密度の低下量が適宜設定された地切り検知閾値以上である場合に電磁石コイル2に印加する電圧を高めることによって、指定された枚数の鋼板の吊り上げに成功する可能性が高まる。
【0058】
<<吊り上げた鋼板の枚数の判定>>
制御装置5は、鋼板が地切りされた後、磁極3の磁極磁束密度の測定値に基づいて吊り上げた鋼板の枚数を判定する。制御装置5は、クレーン8によるリフティングマグネット1の上昇が完了した後で、吊り上げた鋼板の枚数を判定してよい。この工程は、判定工程とも称される。
【0059】
具体的に、制御装置5は、鋼板を吊り上げた状態における磁極磁束密度の測定値を磁束センサ4から取得する。鋼板を吊り上げた状態における磁極磁束密度は、第3磁束密度とも称され、Ba3で表されるとする。制御装置5は、鋼板を吊り上げた状態における磁極磁束密度と、目標磁束密度との差分を算出する。制御装置5は、差分を|Ba3-Br|で算出できる。制御装置5は、差分が吊上げ制御閾値以下になっているか判定する。制御装置5は、差分が吊上げ制御閾値以下である場合、つまり|Ba3-Br|≦B1である場合、吊り上げた鋼板の枚数が指定された枚数であると判定し、そのまま鋼板を搬送する。
【0060】
制御装置5は、差分が吊上げ制御閾値より大きい場合、つまり|Ba3-Br|>B1である場合、吊り上げた鋼板の枚数が指定された枚数に対して過剰又は不足であると判定する。制御装置5は、吊り上げた鋼板の枚数が過剰又は不足であると判定した場合、リフティングマグネット1を下降させて鋼板を下し、目標磁束密度を変更して鋼板の吊り上げをやり直す。制御装置5は、目標磁束密度の変更量を、Ba3-Brの値に基づいて決定してよい。制御装置5は、目標磁束密度を、元の値から、Ba3-Brの値を差し引くことによって変更してよい。制御装置5は、目標磁束密度を、元の値から、Ba3-Brの値に所定係数を乗じた値を差し引くことによって変更してよい。所定係数は1未満の値であってもよいし1より大きい値であってもよい。
【0061】
<<フローチャートの例>>
制御装置5は、
図5に例示されるフローチャートの手順を含む鋼板の吊上方法を実行してよい。鋼板の吊上方法は、制御装置5に含まれるプロセッサに実行させる鋼板の吊上プログラムとして実現されてもよい。鋼板の吊上プログラムは、非一時的なコンピュータ読み取り可能な媒体に格納されてよい。
【0062】
制御装置5は、吊り上げるように指定された鋼板の枚数に応じた目標磁束密度(Br)を設定する(ステップS1)。制御装置5は、目標磁束密度に基づいて電磁石コイル2に印加する電圧(コイル電圧)を決定し、電圧印加装置6を制御してコイル電圧を電磁石コイル2に印加する(ステップS2)。制御装置5は、磁束センサ4によって磁極磁束密度(Ba1)を測定する(ステップS3)。
【0063】
制御装置5は、磁極磁束密度と目標磁束密度との差分が吊上げ制御閾値以下であるか判定する(ステップS4)。つまり、制御装置5は、|Ba1-Br|≦B1となっているか判定する。制御装置5は、差分が吊上げ制御閾値以下となっていない場合(ステップS4:NO)、つまり差分が吊上げ制御閾値より大きくなっている場合、ステップS2の手順に戻り、コイル電圧を決定し直す。
【0064】
制御装置5は、差分が吊上げ制御閾値以下となっている場合(ステップS4:YES)、吊り上げるように指定された枚数の鋼板を吸着していると判定してクレーン8によってリフティングマグネット1を上昇させる(ステップS5)。制御装置5は、磁束センサ4によって、リフティングマグネット1が上昇し始めた後における磁極磁束密度(Ba2)を測定する(ステップS6)。
【0065】
制御装置5は、リフティングマグネット1の上昇を開始する前の磁極磁束密度に対するリフティングマグネット1の上昇を開始した後の磁極磁束密度の低下量を算出し、低下量が地切り検知閾値以上になったか判定する(ステップS7)。つまり、制御装置5は、Ba1-Ba2≧B2となったか判定する。制御装置5は、リフティングマグネット1の上昇を完了するまで磁極磁束密度の低下量が地切り検知閾値以上にならなかった場合(ステップS7:NO)、つまり磁極磁束密度の低下量が地切り検知閾値未満である場合、ステップS9の手順に進む。
【0066】
制御装置5は、リフティングマグネット1の上昇中に磁極磁束密度の低下量が地切り検知閾値以上になった場合(ステップS7:YES)、電圧印加装置6を制御してコイル電圧を増加させる(ステップS8)。制御装置5は、リフティングマグネット1の上昇が完了した状態における磁極磁束密度(Ba3)を測定する(ステップS9)。
【0067】
制御装置5は、リフティングマグネット1の上昇が完了した状態における磁極磁束密度と目標磁束密度との差分が吊上げ制御閾値以下であるか判定する(ステップS10)。つまり、制御装置5は、|Ba3-Br|≦B1となっているか判定する。制御装置5は、差分が吊上げ制御閾値以下となっている場合(ステップS10:YES)、吊り上げるように指定された枚数の鋼板を吸着して吊り上げを完了したと判定して
図5のフローチャートの手順の実行を終了する。制御装置5は、クレーン8によってリフティングマグネット1を横行させて鋼板を搬送してよい。
【0068】
制御装置5は、差分が吊上げ制御閾値以下となっていない場合(ステップS10:NO)、つまり差分が吊上げ制御閾値より大きくなっている場合、目標磁束密度を調整する(ステップS11)。制御装置5は、鋼板を下して吸着を解除した後でステップS2の手順に戻り、ステップS11の手順で調整した目標磁束密度でコイル電圧を印加する手順からやり直す。
【0069】
<鋼板の製造方法>
鋼板の吊上装置10は、鋼板の製造における鋼板の搬送工程で用いられてよい。一実施形態として、上述してきた実施形態に係る鋼板の吊上装置10を用いて少なくとも1枚の鋼板を吊上対象20として吊り上げて搬送する工程を含む鋼板の製造方法が実施されてよい。
【0070】
<小括>
以上述べてきたように、制御装置5は、電磁石コイル2に印加する電圧をフィードバック制御することによって、吊り上げる鋼板の枚数を自動制御しつつ、鋼板を安定に吊り上げることができる。このようにすることで、吊り上げる鋼板の枚数が高精度で制御される。吊り上げる鋼板の枚数が高精度で制御されることによって、吊り上げ作業のやり直し回数が低減する。その結果、鋼板を吊り上げて搬送する作業の効率が高められる。また、鋼板の生産効率が高められる。
【0071】
(実施例)
以下、本開示の一実施形態に係る鋼板の吊上装置10の実施例が説明される。
【0072】
<吊り上げ枚数の制御の試験>
本開示の一実施形態に係る鋼板の吊上装置10による鋼板の吊り上げ枚数の制御の精度を評価するために、以下の試験が実行された。試験で用いられたリフティングマグネット1において、磁極3の直径は150mmとされた。ヨーク7の外径は350mmとされた。ヨーク7の厚さは20mmとされた。電磁石コイル2の高さ(巻き軸に沿った方向の長さ)は150mmとされた。試験は、飽和磁束密度が1.5TであるSS400(Structural Steel)と称される鋼板を吊上対象20として実行された。吊上対象20とする鋼板の板厚は4.5mmとされた。吊り上げる枚数は、1枚から6枚までとされた。吊上げ制御閾値(B1)は、0.1Tに設定された。地切り検知閾値(B2)は、0.1Tに設定された。目標磁束密度の変更量は、0.1Tに設定された。待機時間は0.2秒に設定された。目標磁束密度は0.1×吊り上げ枚数(T)とされた。
【0073】
上述した条件における試験結果が表1及び
図6に示される。
【0074】
【0075】
表1に示されるように、目標磁束密度に対して、磁極磁束密度の実績値をもとに印加電圧を制御することによって、吊り上げ枚数が1枚から6枚までのいずれの条件においても吊り上げ枚数が正確に制御された。また、
図6に示されるように、吊り枚数を1枚としたときの磁極磁束密度は、リフティングマグネット1の上昇開始時に0.1T低下したものの、コイル電圧の増加によって上昇した。その結果、吊り枚数を1枚としたときでも鋼板が落下せずに安定に吊り上げられた。
【0076】
比較例として、鋼板を吊り上げるときに磁極磁束密度の低下量を測定しない場合における鋼板の吊り上げ枚数の制御の精度が評価された。比較例の試験結果が表2及び
図7に示される。
【0077】
【0078】
表2に示されるように、吊り上げ枚数が2枚から6枚までの条件において吊り上げ枚数が正確に制御された。しかし、吊り上げ枚数が1枚の条件において吊り上げが失敗した。
図7に示されるように、磁極磁束密度がリフティングマグネット1の上昇開始時に低下したことによって、鋼板がそのまま落下した。
【0079】
<地切り検知閾値の設定範囲の試験>
上述したように、地切り検知閾値は、0.01Tを下限として設定されてよい。地切り検知閾値は、0.2Tを上限として設定されてよい。また、地切り検知閾値は、さらに狭い範囲として0.02Tを下限とし、0.1Tを上限として設定されてよい。これらの地切り検知閾値の設定の妥当性を確認するために、上述した比較例において吊り上げが失敗した、吊り上げ枚数が1枚の場合において、地切り検知閾値を種々の値に設定した条件で10回吊り上げる試験が実行された。試験結果が表3に示される。なお、表3において、地切り検知閾値が0.01Tから0.2Tまでの範囲の結果が太線の枠で囲まれている。
【0080】
【0081】
表3に示されるように、地切り検知閾値を0.005Tに設定した場合、上述した比較例において吊り上げが失敗した、吊り枚数が1枚の場合における吊り上げ成功回数は1回だけであった。つまり成功率が10%しかなかった。一方で、地切り検知閾値を0.01Tに設定した場合、吊り上げ成功回数は5回に増加した。つまり成功率が50%に上昇した。したがって、地切り検知閾値が0.01Tを下限として設定されることによって、鋼板を1枚だけ吊り上げる場合においても鋼板の吊り上げ枚数が高精度で制御される。
【0082】
また、地切り検知閾値を0.25Tに設定した場合、上述した比較例において吊り上げが失敗した、吊り枚数が1枚の場合における吊り上げ成功回数は1回だけであった。つまり成功率が10%しかなかった。一方で、地切り検知閾値を0.2Tに設定した場合、吊り上げ成功回数は6回に増加した。つまり成功率が60%に上昇した。したがって、地切り検知閾値が0.2Tを上限として設定されることによって、鋼板を1枚だけ吊り上げる場合においても鋼板の吊り上げ枚数が高精度で制御される。
【0083】
また、地切り検知閾値を0.02Tに設定した場合、地切り検知閾値を0.01Tに設定した場合よりも成功回数が増えた。また、地切り検知閾値を0.1Tに設定した場合、地切り検知閾値を0.2Tに設定した場合よりも成功回数が増えた。したがって、地切り検知閾値がさらに狭い範囲として0.02Tを下限とし、0.1Tを上限として設定されることによって、鋼板を1枚だけ吊り上げる場合においても鋼板の吊り上げ枚数がより一層高精度で制御される。
【0084】
<待機時間の設定範囲の試験>
上述したように、待機時間は、0.1秒を下限として設定されてよい。待機時間は、2秒を上限として設定されてよい。また、待機時間は、さらに狭い範囲として0.2秒を下限とし、1秒を上限として設定されてよい。これらの待機時間の設定の妥当性を確認するために、上述した比較例において吊り上げが失敗した、吊り上げ枚数が1枚の場合において、待機時間を種々の値に設定した条件で10回吊り上げる試験が実行された。試験結果が表4に示される。なお、表4において、待機時間が0.1秒から2秒までの範囲の結果が太線の枠で囲まれている。
【0085】
【0086】
表4に示されるように、待機時間を0.05秒に設定した場合、上述した比較例において吊り上げが失敗した、吊り枚数が1枚の場合における吊り上げ成功回数は1回だけであった。つまり成功率が10%しかなかった。一方で、待機時間を0.1秒に設定した場合、吊り上げ成功回数は6回に増加した。つまり成功率が60%に上昇した。したがって、待機時間が0.1秒を下限として設定されることによって、鋼板を1枚だけ吊り上げる場合においても鋼板の吊り上げ枚数が高精度で制御される。
【0087】
また、待機時間を2.5秒に設定した場合、上述した比較例において吊り上げが失敗した、吊り枚数が1枚の場合における吊り上げ成功回数は2回だけであった。つまり成功率が20%しかなかった。一方で、待機時間を2秒に設定した場合、吊り上げ成功回数は5回に増加した。つまり成功率が50%に上昇した。したがって、待機時間が2秒を上限として設定されることによって、鋼板を1枚だけ吊り上げる場合においても鋼板の吊り上げ枚数が高精度で制御される。
【0088】
また、待機時間を0.2秒に設定した場合、待機時間を0.1秒に設定した場合よりも成功回数が増えた。また、待機時間を1秒に設定した場合、待機時間を2秒に設定した場合よりも成功回数が増えた。したがって、待機時間がさらに狭い範囲として0.2秒を下限とし、1秒を上限として設定されることによって、鋼板を1枚だけ吊り上げる場合においても鋼板の吊り上げ枚数がより一層高精度で制御される。
【0089】
本開示の実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は改変を行うことが可能であることに注意されたい。従って、これらの変形又は改変は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部又は各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部又はステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。本開示に係る実施形態は装置が備えるプロセッサにより実行されるプログラム又はプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものである。本開示の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【符号の説明】
【0090】
10 鋼板の吊上装置(5:制御装置、6:電圧印加装置、8:クレーン)
1 リフティングマグネット(2:電磁石コイル、3:磁極、4:磁束センサ、7:ヨーク)
20 吊上対象(141:領域)