(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089441
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/26 20160101AFI20240626BHJP
H02P 21/16 20160101ALI20240626BHJP
【FI】
H02P21/26
H02P21/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204802
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003115
【氏名又は名称】東洋電機製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100163511
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 啓太
(72)【発明者】
【氏名】高木 正志
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505DD05
5H505EE41
5H505FF01
5H505HB01
5H505JJ04
5H505JJ06
5H505JJ17
5H505JJ25
5H505LL18
5H505LL22
5H505LL34
5H505LL40
(57)【要約】
【課題】電動機6のトルク制御の高精度化を図る。
【解決手段】制御装置10は、電動機6に流れる電流ベクトルに基づいて、電動機6に直流電流を流す拾い上げ電圧指令を出力する拾い上げ制御部2と、電流ベクトルと、拾い上げ電圧指令と、電動機6の一次抵抗ノミナル値とに基づき、演算磁束ベクトルを出力する磁束演算器22と、同定時刻までの演算磁束ベクトルから、等間隔の3つの時点における演算磁束ベクトルを抽出する演算磁束抽出器24と、3つの時点における演算磁束ベクトルに基づき、磁束補正値と、相対磁束ベクトルと、3つの時点の時刻間隔とを出力する磁束補正演算器30と、磁束補正値と、相対磁束ベクトルとに基づき、磁束補正調整値を出力する調整器31と、電流ベクトルと、一次抵抗ノミナル値と、時刻間隔と、磁束補正調整値とに基づき、電動機6の一次抵抗を演算する一次抵抗演算器32と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機の制御装置であって、
前記電動機に流れる電流ベクトルを検出する電流検出器と、
前記電流ベクトルに基づいて、前記電動機に直流電流を流す拾い上げ電圧指令を出力する拾い上げ制御部と、
前記電流ベクトルと、前記拾い上げ電圧指令と、前記電動機の一次抵抗ノミナル値とに基づき、演算磁束ベクトルを出力する磁束演算器と、
同定時刻までの前記演算磁束ベクトルから、等間隔の3つの時点における演算磁束ベクトルを抽出する演算磁束抽出器と、
前記3つの時点における演算磁束ベクトルに基づき、磁束補正値と、相対磁束ベクトルと、前記3つの時点の時刻間隔とを出力する磁束補正演算器と、
前記磁束補正値と、前記相対磁束ベクトルとに基づき、磁束補正調整値を出力する調整器と、
前記電流ベクトルと、前記一次抵抗ノミナル値と、前記時刻間隔と、前記磁束補正調整値とに基づき、前記電動機の一次抵抗を演算する一次抵抗演算器と、を備える制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機のトルク制御を行う制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機のメンテナンス性の向上、および、電動機の小型・高出力化の観点より、速度センサが設けられていない(速度センサを用いない)電動機の制御装置(いわゆる、速度センサレス電動機制御装置)が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような制御装置で電動機のトルクを制御する際には一般に、電動機の速度(角速度)を推定する必要がある。
【0003】
図3は、速度センサを用いない、いわゆる速度センサレス電動機制御装置である従来の制御装置100Aの構成例を示す図である。
【0004】
図3に示すように、制御装置100Aは、トルク制御部1と、拾い上げ制御部2と、切替部3と、電力変換部4と、電流検出部5と、初期値推定部7と、同定用タイマ21と、磁束演算器22と、演算磁束メモリ23と、演算磁束抽出器24と、磁束補正演算器25と、一次抵抗演算器26とを備える。まず、トルク制御部1、拾い上げ制御部2、切替部3、電力変換部4、電流検出部5および初期値推定部7の動作について説明する。同定用タイマ21、磁束演算器22、演算磁束メモリ23、演算磁束抽出器24、磁束補正演算器25および一次抵抗演算器26の動作については後述する。
【0005】
電流検出部5は、電動機6に流れる電流ベクトルiを検出し、トルク制御部1、拾い上げ制御部2、初期値推定部7、磁束演算器22および一次抵抗演算器26に出力する。
【0006】
拾い上げ制御部2は、電流ベクトルiと、直流電流指令Iと、電流位相角指令θとが入力される。拾い上げ制御部2は、電流ベクトルiと、直流電流指令Iと、電流位相角指令θとに基づき、直流電流指令Iおよび電流位相角指令θに指示される直流電流を電動機6に流すための拾い上げ電圧指令v0を生成し、切替部3、初期値推定部7および磁束演算器22に出力する。
【0007】
初期値推定部7は、電流ベクトルiと、拾い上げ電圧指令v0と、電動機6の一次抵抗R1と、拾い上げ制御開始指令STとが入力される。初期値推定部7は、電流ベクトルiと、拾い上げ電圧指令v0と、電動機6の一次抵抗R1とに基づき、電動機6の初期速度ωm0および初期二次磁束φ20を演算し、トルク制御部1に出力する。
【0008】
トルク制御部1は、トルク制御開始指令SWと、電流ベクトルiと、初期速度ωm0と、初期二次磁束φ20とが入力される。トルク制御部1は、トルク制御開始指令SWがオンになると、初期速度ωm0および初期二次磁束φ20を初期値として、電流ベクトルiに基づき、電動機6のトルクを制御するトルク制御電圧指令V1を生成し、切替部3に出力する。なお、電動機6の電源が投入された時点では、トルク制御開始指令SWはオフの状態となっている。
【0009】
切替部3は、トルク制御開始指令SWと、拾い上げ電圧指令v0と、トルク制御電圧指令V1とが入力される。切替部3は、トルク制御開始指令SWがオンになるまでは、拾い上げ電圧指令v0を電圧指令V*として電力変換部4に出力し、トルク制御開始指令SWがオンになると、トルク制御電圧指令V1を電圧指令V*として電力変換部4に出力する。
【0010】
電力変換部4は、電圧指令V*を増幅して電動機6に電力を供給する。
【0011】
上述した構成により、トルク制御開始指令SWがオンになるまでは、拾い上げ制御部2と初期値推定部7とにより、電動機6の初期速度ωm0および初期二次磁束φ20が推定される。トルク制御開始指令SWがオンになると、トルク制御開始指令SWがオンになった時点の初期速度ωm0および初期二次磁束φ20を初期値として、電動機6のトルク制御が行われる。トルク制御開始指令SWがオンになるタイミングは、拾い上げ制御実施時間、初期速度ωm0および初期二次磁束φ20の状態などに基づいて決定される。
【0012】
上述したように、初期対推定部7は、電流ベクトルiと、拾い上げ電圧指令v0とに基づき電動機6の初期速度ωm0および初期二次磁束φ20を推定する。
図4は、初期値推定部7の構成例を示す図である。
【0013】
図4に示すように、初期値推定部7は、実磁束推定部9と、実磁束メモリ10と、実磁束抽出部11と、初期速度推定部12と、初期磁束推定部13と、演算用タイマ14とを備える。
【0014】
実磁束推定部9は、電流ベクトルiと、拾い上げ電圧指令v0と、電動機6の一次抵抗R1とが入力される。実磁束推定部9は、電流ベクトルiと、拾い上げ電圧指令v0と、電動機6の一次抵抗R1とに基づき、式(A)より電動機6の実磁束推定ベクトルφ2rを演算し、実磁束メモリ10に出力する。
【0015】
【0016】
ここで、L1は電動機6の一次自己インダクタンスであり、L2は電動機6の二次自己インダクタンスであり、Mは電動機6の相互インダクタンスである。
【0017】
演算用タイマ14は、拾い上げ制御開始指令STが入力される。演算用タイマ14は、拾い上げ制御開始指令STのエッジで0クリアされるタイマカウンタであり、拾い上げ時刻t0を、実磁束メモリ10、実磁束抽出部11、初期速度推定部12および初期磁束推定部13に出力する。
【0018】
実磁束メモリ10は、実磁束推定ベクトルφ2rと、拾い上げ時刻t0とが入力される。実磁束メモリ10は、時刻0から拾い上げ時刻t0までの区間における、時々刻々と変化する実磁束推定ベクトルφ2rを記憶する。
【0019】
実磁束抽出部11は、実磁束メモリ10から、時刻t0から拾い上げ時刻t0までの区間における任意の3つの時点t00,t01,t02の実磁束推定ベクトルであるφ(t00),φ(t01),φ(t02)を抽出し、初期速度推定部12に出力する。
【0020】
初期速度推定部12は、拾い上げ時刻t0と、時点t00,t01,t02の実磁束推定ベクトルφ(t00),φ(t01),φ(t02)とが入力され、初期速度ωm0を演算する。具体的には、初期速度推定部12は最初に、3つの実磁束推定ベクトルφ(t00),φ(t01),φ(t02)それぞれの終点を通る円の中心Rを式(B)~式(E)より求める。
【0021】
【0022】
ここで、ベクトルF1は、実磁束推定ベクトルφ(t00)の終点から見た実磁束推定ベクトルφ(t01)の終点を示すベクトルである。ベクトルF2は、実磁束推定ベクトルφ(t00)の終点から見た実磁束推定ベクトルφ(t02)の終点を示すベクトルである。また、(F1A,F1B),(F2A,F2B),(RA,RB)はそれぞれ、ベクトルF1,F2,Rの各成分である。
【0023】
次に、初期速度推定部12は、円の中心Rから見た、実磁束推定ベクトルφ(t00)と実磁束推定ベクトルφ(t02)との間の角度θCを式(F)より求める。
【0024】
【0025】
式(F)において、「×」はベクトルの外積を示し、「・」はベクトルの内積を示す。
【0026】
時刻t00から時刻t02まで(例えば、数十ミリ秒)の電動機6に回転速度はほぼ一定とみなすことができる。そのため、初期速度推定部12は、式(G)より、初期速度ωm0を推定することができる。
【0027】
【0028】
初期速度推定部12は、推定した初期速度ωm0を、トルク制御部1(
図2においては不図示)および初期磁束推定部13に出力する。
【0029】
初期磁束推定部13は、拾い上げ時刻t0と、初期速度ωm0と、電流ベクトルiとが入力される。初期磁束推定部13は、式(H)より、初期二次磁束φ20を求める。
【0030】
【0031】
式(H)において、「j」は虚数単位である。T2は、電動機6の二次時定数であって電動機6の二次抵抗R2を用いて、L2/R2より算出される。φxxは、拾い上げ制御開始時の残留磁束である。なお、式(H)の第2項は、ベクトルRに対する実磁束推定ベクトルφ2rの相対ベクトルとして求めることもできる。
【0032】
上述した構成では、以下に示すように改良の余地がある。
【0033】
電動機6の温度の変動などにより一次抵抗R1に誤差が発生している場合、式(A)の積分項により、当該誤差が実磁束推定器9の出力値である実磁束推定ベクトルφ2rに積算されていく。その結果、実磁束抽出器11の出力である実磁束推定ベクトルφ(t00),φ(t01),φ(t02)に誤差が生じる。実磁束推定ベクトルφ(t00),φ(t01),φ(t02)に誤差が生じると、実磁束推定ベクトルφ(t00),φ(t01),φ(t02)に基づいて式(B)~式(H)により推定される初期速度ωm0および初期二次磁束φ20にも同様に、誤差が生じる。
【0034】
このように電動機6の一次抵抗R1に誤差が生じる場合、初期値推定部7が推定する初期速度ωm0および初期二次磁束φ20に誤差が生じ、トルク制御部1に入力される初期値に誤差が存在するために、電動機6のトルク制御の精度が必ずしも十分でない場合があった。
【0035】
そこで、従来の制御装置100Aにおいては、磁束演算器22と、演算磁束メモリ23と、演算磁束抽出器24と、磁束補正演算器25と、一次抵抗演算器26とを用いて、式(A)における一次抵抗R1を演算する。以下、各部の動作について
図3を参照して説明する。
【0036】
同定用タイマ21は、拾い上げ制御開始指令STのエッジで0クリアされるタイマカウンタであり、同定時刻txを、演算磁束メモリ23および演算磁束抽出器24に出力する。
【0037】
磁束演算器22は、電流ベクトルiと、拾い上げ電圧指令v0と、一次抵抗ノミナル値R1Cとが入力される。磁束演算器22は、拾い上げ電圧指令v0と、一次抵抗ノミナル値R1Cとに基づき、式(I)により演算磁束ベクトルφ2sを演算する。
【0038】
【0039】
磁束演算器22は、演算した演算磁束ベクトルφ2sを演算磁束メモリ23に出力する。
【0040】
演算磁束メモリ23は、時刻0から同定時刻txまでの区間における、時々刻々変化する演算磁束ベクトルφ2sを記憶する。
【0041】
演算磁束抽出部24は、時刻0から同定時刻txまでの区間における、等間隔の3つの時点tx0,tx1,tx2における演算磁束ベクトルφsである演算磁束ベクトルφs(tx0),φs(tx1),φs(tx2)を演算磁束メモリ23から抽出し、磁束補正演算器25に出力する。なお、演算磁束ベクトルφs(tx0),φs(tx1),φs(tx2)を抽出する時刻間隔をtxsとすると、以下の式(J)が成り立つ。
txs=tx1-tx0=tx2-tx1 式(J)
【0042】
磁束補正演算器25は、演算磁束ベクトルφs(tx0),φs(tx1),φs(tx2)が入力される。磁束補正演算器25は、磁束補正値φsDと、時刻間隔txsとを一次抵抗演算器26に出力する。以下では、磁束補正演算器25の動作について、より詳細に説明する。
【0043】
式(K)に示すように、一次抵抗ノミナル値R1Cが真値である一次抵抗R1から誤差ΔRだけずれていたと仮定する。
R1=R1C+ΔR 式(K)
【0044】
式(I)の一次抵抗ノミナル値R1Cに式(K)を代入すると、電流ベクトルiは一定なので、式(I)は、式(A)を用いて、以下の式(L)で表される。
φ2s=φ2r+ΔR・i・t 式(L)
【0045】
式(L)において、tは演算磁束ベクトルφ2sの演算時間である。また、L2≒Mとした。
【0046】
次に、式(M)、式(N)より、相対磁束FS1,FS2を演算する。
FS1=φr(tx1)-φr(tx0)
=φs(tx1)-φs(tx0)-txs*ΔR*i 式(M)
FS2=φr(tx2)-φr(tx0)
=φs(tx2)-φs(tx0)-2*txs*ΔR*i 式(N)
【0047】
ここで、磁束補正値φsDを式(M1)とする。
φsD=2*txs*ΔR*i 式(M1)
【0048】
式(M1)を用いると、式(M)、式(N)はそれぞれ、以下の式(M2)、式(N2)となる。
FS1=φr(tx1)-φr(tx0)
=φs(tx1)-φs(tx0)-φsD/2 式(M2)
FS2=φr(tx2)-φr(tx0)
=φs(tx2)-φs(tx0)-φsD 式(N2)
【0049】
式(M2)、式(N2)を用いて、式(0)よりE0を計算する。
E0=(FS1-FS2)・(FS1-FS2)-FS1・FS1
=E0A+E0B*φsD 式(0)
【0050】
なお、φr(tx0),φr(tx1),φr(tx2)は、時刻tx0,tx1,tx2での実磁束ベクトルφ2rである。また、E0A,E0Bは、E0を磁束補正値φsDについてまとめた場合の各係数である。
【0051】
ここで、式(H)において、拾い上げ時刻t0を二次時定数T2に対して十分小さくすると、実磁束ベクトルφ2rは円を描くとみなすことができるので、ベクトルφr(tx0),φr(tx1),φr(tx2)は同一円上に位置する。さらに、ベクトルφr(tx0),φr(tx1),φr(tx2)は等間隔(txs間隔)で抽出したものである。そのため、ベクトルφr(tx0)とベクトルφr(tx1)との位相差と、ベクトルφr(tx1)とベクトルφr(tx2)との位相差とが等しいので、E0の値は常に0である。磁束補正値φsDは式(O)にE0=0を代入して整理した、以下の式(P)で求めることができる。
φsD=-E0A/E0B 式(P)
【0052】
磁束補正演算器25は、磁束補正値φsDと、式(J)により求めた時刻間隔txsとを一次抵抗演算器26に出力する。
【0053】
一次抵抗演算器26は、磁束補正値φsDと、時刻間隔txsと、電流ベクトルiと、一次抵抗ノミナル値R1Cとが入力される。一次抵抗演算器26は、磁束補正値φsDと、時刻間隔txsと、電流ベクトルiと、一次抵抗ノミナル値R1Cとに基づき、上述した式(M1)および式(K)により、一次抵抗R1を演算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0054】
【特許文献1】特開2001-211689号公報
【特許文献2】特開2001-211697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0055】
従来の制御装置100Aにおいては、式(P)を用いて磁束補正値φsDを求め、磁束補正値φsDから一次抵抗R1の誤差ΔRを求めている。ここで、誤差ΔRを求める過程で、実磁束ベクトルφ2rは円を描くと仮定した。しかしながら、実際には、式(H)によると、実磁束ベクトルφ2rの回転半径は二次時定数T2で減衰している。そのため、式(P)により求めた磁束補正値φsDには、回転半径の減衰の影響のために誤差が生じる。その結果、算出された一次抵抗R1に誤差が残り、初期値推定部7が推定する初期速度ωm0および初期二次磁束φ20にも誤差が生じる。
【0056】
初期速度ωm0および初期二次磁束φ20に誤差が生じると、トルク制御部1による制御の初期値に誤差が含まれるため、電動機6のトルク制御を必ずしも高精度に行うことができない場合があった。
【0057】
上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、電動機のトルク制御の精度向上を図ることができる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0058】
上記課題を解決するため、本発明に係る制御装置は、電動機の制御装置であって、前記電動機に流れる電流ベクトルを検出する電流検出器と、前記電流ベクトルに基づいて、前記電動機に直流電流を流す拾い上げ電圧指令を出力する拾い上げ制御部と、前記電流ベクトルと、前記拾い上げ電圧指令と、前記電動機の一次抵抗ノミナル値とに基づき、演算磁束ベクトルを出力する磁束演算器と、同定時刻までの前記演算磁束ベクトルから、等間隔の3つの時点における演算磁束ベクトルを抽出する演算磁束抽出器と、前記3つの時点における演算磁束ベクトルに基づき、磁束補正値と、相対磁束ベクトルと、前記3つの時点の時刻間隔とを出力する磁束補正演算器と、前記磁束補正値と、前記相対磁束ベクトルとに基づき、磁束補正調整値を出力する調整器と、前記電流ベクトルと、前記一次抵抗ノミナル値と、前記時刻間隔と、前記磁束補正調整値とに基づき、前記電動機の一次抵抗を演算する一次抵抗演算器と、を備える。
【発明の効果】
【0059】
本発明に係る制御装置によれば、電動機のトルク制御の精度向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1】本発明の一実施形態に係る制御装置の構成例を示す図である。
【
図2】
図1に示す調整器の動作を説明するための図である。
【
図4】
図1及び
図3に示す初期値推定部の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
【0062】
図1は、本発明の一実施形態に係る制御装置10の構成例を示す図である。本実施形態に係る制御装置10は、速度センサを用いずに電動機6のトルク制御を行う、いわゆる速度センサレス電動機制御装置である。
図1において、
図3と同様の構成には同じ符号を付し、説明を省略する。
【0063】
図1に示す制御装置100は、トルク制御部1と、拾い上げ制御部2と、切替部3と、電力変換部4と、電流検出部5と、初期値推定部7と、同定用タイマ21と、磁束演算器22と、演算磁束メモリ23と、演算磁束抽出器24と、磁束補正演算器30と、調整器31と、一次抵抗演算器32とを備える。
図1に示す制御装置100は、
図3に示す制御装置100Aと比較して、磁束補正演算器25を磁束補正演算器30に変更した点と、調整器31を追加した点と、一次抵抗演算器26を一次抵抗演算器32に変更した点とが異なる。
【0064】
磁束補正演算器30は、演算磁束ベクトルφs(tx0),φs(tx1),φs(tx2)が入力される。磁束補正演算器30は、磁束補正演算器25と同様にして、磁束補正値φsおよび時刻間隔txsを求める。また、磁束補正演算器30は、演算磁束ベクトルφs(tx0),φs(tx1),φs(tx2)に基づき、式(Q)、式(R)により、相対磁束ベクトルφss1,φss2を演算する。相対磁束ベクトルφss1は、演算磁束ベクトルφs(tx0)の終点から見た演算磁束ベクトルφs(tx1)の終点を示すベクトルである。また、相対磁束ベクトルφss2は、演算磁束ベクトルφs(tx0)の終点から見た演算磁束ベクトルφs(tx2)の終点を示すベクトルである。
φss1=φs(tx1)-φs(tx0) 式(Q)
φss2=φs(tx2)-φs(tx0) 式(R)
【0065】
磁束補正演算器30は、磁束補正値φsDと、相対磁束ベクトルφss1,φss2と、を調整器31に出力し、時刻間隔txsを一次抵抗演算器32に出力する。
【0066】
調整器31は、磁束補正値φsと、相対磁束ベクトルφss1,φss2とが入力される。調整器31は、磁束補正値φsと、相対磁束ベクトルφss1,φss2とに基づき、式(S)~式(X)により、磁束補正調整値φsEを演算する。具体的には、調整器31はまず、式(S)と式(T)により、一次抵抗誤差補正相対磁束ベクトルFSM,FSEを演算する。
FSM=φss1-φsD/2 式(S)
FSE=φss2-φsD 式(T)
【0067】
原点(0,0)、FSM、FSEの3点を通る円の中心をFRとし、調整値をφsGとして、調整器31は、以下の式(U)~式(V1)よりE0_Tを計算する。
FSM_T=e-txs/T2*(FSM-FR)+FR 式(U)
FSE_T=e-2*txs/T2*(FSE-FR)+FR 式(V)
FSM_T2=FSM_T-φsG/2 式(U1)
FSE_T2=FSE_T-φsG 式(V1)
E0_T=(FSE_T-FSM_T)・(FSE_T-FSM_T)
-FSM_T・FSM_T
=E0A_T+E0B_T*φsG 式(W)
【0068】
E0_T=0として調整値φsGを演算し、調整器31は、以下の式(X)により、磁束補正調整値φsEを演算する。
φsE=φsD-φsG 式(X)
【0069】
以下では、
図2を参照して、式(S)~式(X)について説明する。
【0070】
図2において、一点鎖線で示す円は、点R(実二次磁束の収束点)を中心とする円である。また、
図2において、φs()は、一次抵抗R1による誤差を含む演算二次磁束を示す。φr()は実二次磁束を示し、一点鎖線で示す、Rを中心とする円の半径が時定数T2で減衰した点である。
【0071】
演算二次磁束φsに基づき、式(K)~式(P)より、磁束補正演算器30により求められる磁束補正値φsDは、以下の式(Y)で表すことができる。
φsD=2*txs*ΔR*i+φsT 式(Y)
【0072】
ここで、φsTは「実磁束推定ベクトルφ2rの回転半径が二次時定数T2で減衰している」ことを考慮した誤差分である。
【0073】
また、式(S)、式(T)より、一次抵抗誤差ΔRが含まれておらず、半径も実磁束とほぼ同じである円(
図2においては、二点鎖線で示す円)が得られる。この円は、点FRを中心とし、座標基準点(φs(tx0))、FSMおよびおよびFSEの3点を通る円である。また、式(U)、式(V)より、実二次磁束φr()と同等の動きを実現したFSM_T,FSE_Tが得られる。FSM_T,FSE_Tは、二点鎖線で示す、点FRを中心とする円の半径が二次時定数T2で減衰した点である。
【0074】
式(U1)~式(W)は、磁束補正値φsDを演算する式(M2)~式(O)と相似であるため、式(U1)~式(W)より、調整値φsGが求められる。式(U1)~式(W)より求められた調整値φsGは、「実磁束推定ベクトルφ2rの回転半径が二次時定数T2で減衰している」ことによる誤差分φsTと考えることができる。これより、式(Z)が得られる。
φsE=φsD-φsG≒φsD-φsT=2*txs*ΔR*i 式(Z)
【0075】
図1を再び参照すると、調整器31は、式(Z)により演算した磁束補正調整値φsEを一次抵抗演算器32に出力する。
【0076】
一次抵抗演算器32は、電流ベクトルiと、一次抵抗ノミナル値R1Cと、時刻間隔txsと、磁束補正調整値φsEとが入力される。一次抵抗演算器32は、一次抵抗ノミナル値R1Cと、時刻間隔txsと、磁束補正調整値φsEとに基づき、式(Z)および式(K)により一次抵抗R1を演算し、初期値推定部7に出力する。
【0077】
このように本実施形態によれば、制御装置100は、磁束補正演算器30と、調整器31と、一次抵抗演算器32とを備える。磁束補正演算器30は、等間隔の3つの時点(tx0,tx1,tx2)における演算磁束ベクトルφs(tx0),φs(tx1),φs(tx2)に基づき、磁束補正値φsDと、相対磁束ベクトルφss1,φss2と、時刻間隔txsとを出力する。調整器31は、時刻補正値φsDと、相対磁束ベクトルφss1,φss2とに基づき、磁束補正調整値φsEを出力する。一次抵抗演算器32は、電流ベクトルiと、一次抵抗ノミナル値R1Cと、時刻間隔txsと、磁束補正調整値φsEとに基づき、電動機6の一次抵抗R1を演算する。
【0078】
式(S)~式(X)を参照して説明したように、磁束補正値φsDを相対磁束ベクトルφss1,φss2に基づき調整することで、実磁束推定ベクトルφ2rの回転半径が時定数T2で減衰していることを考慮した磁束補正調整値φsEを求めることができる。そして、磁束補正調整値φsEを用いて一次抵抗R1を演算することで、回転半径の減衰の影響を考慮した一次抵抗R1を算出することができる。その結果、電動機6のトルク制御の精度向上を図ることができる。
【0079】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨および範囲内で、多くの変更および置換が可能であることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0080】
100,100A 制御装置
1 トルク制御部
2 拾い上げ制御部
3 切替部
4 電力変換部
5 電流検出器
6 電動機
7 初期値推定部
9 実磁束推定部
10 実磁束メモリ
11 実磁束抽出部
12 初期速度推定部
13 初期磁束推定部
21 同定用タイマ
22 磁束演算器
23 演算磁束メモリ
24 演算磁束抽出器
25,30 磁束補正演算器
26,32 一次抵抗演算器
31 調整器